特許第6853859号(P6853859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6853859含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6853859
(24)【登録日】2021年3月16日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/04 20060101AFI20210322BHJP
【FI】
   C08B15/04
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-156195(P2019-156195)
(22)【出願日】2019年8月28日
(62)【分割の表示】特願2015-20422(P2015-20422)の分割
【原出願日】2015年2月4日
(65)【公開番号】特開2019-199622(P2019-199622A)
(43)【公開日】2019年11月21日
【審査請求日】2019年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】曽根 篤
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 明
【審査官】 三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−168573(JP,A)
【文献】 特開2010−202856(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/137140(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/086616(WO,A1)
【文献】 特開2006−160842(JP,A)
【文献】 特開2012−126787(JP,A)
【文献】 特開2012−001626(JP,A)
【文献】 特開2009−209217(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/114987(WO,A1)
【文献】 特開2011−207939(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/077354(WO,A1)
【文献】 磯貝明,TEMPO酸化セルロースナノファイバーの調製と特性解析,東京大学農学部演習林報告,2011年,Vol.126,p.1-43
【文献】 実験医学, (2006), Vol. 24, No. 8, p. 171-178
【文献】 Hayaka Fukuzumi, et al.,Thermal stabilization of TEMPO-oxidized cellulose,Polymer Degradation and Stability,2010年,Vol.95,p.1502-1508
【文献】 磯貝明,TEMPO酸化セルロースナノファイバー,高分子,2009年,58巻,p.90-91
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 15/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナトリウムである第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを、濃度0.005質量%以上0.1質量%以下で溶媒に分散させた状態で、強酸と接触させ、塩の形で含まれる前記第1の金属のイオンを水素原子に置換する工程と、
前記第1の金属のイオンを水素原子に置換した酸化セルロースナノファイバーを、濃度0.005質量%以上0.1質量%以下で溶媒に分散させた状態で、アルミニウム、カルシウム、鉄、コバルト、銅、亜鉛および銀よりなる群から選択される少なくとも1種である第2の金属の塩と接触させ、前記第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーを得る工程と、
を含む、数平均繊維径が2nm以上100nm以下である含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液の製造方法。
【請求項2】
前記酸化セルロースナノファイバーがカルボキシル化セルロースナノファイバーである、請求項1に記載の含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液の製造方法。
【請求項3】
前記含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維長が50nm以上2000nm以下である、請求項1または2に記載の含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液の製造方法。
【請求項4】
前記含金属酸化セルロースナノファイバーの平均重合度が100以上2000以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒が水である、請求項1〜のいずれか1項に記載の含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含金属酸化セルロースナノファイバー分散液および含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、天然セルロースをN−オキシル化合物などの酸化触媒の存在下で酸化させた後、得られた酸化セルロースに対して機械的な分散処理を施すことで、水などの分散媒中に直径数ナノメートルの高結晶性極細繊維(酸化セルロースナノファイバー)が分散されてなる分散液を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この製造方法により得られる酸化セルロースナノファイバー分散液は、分散媒中で1本1本の酸化セルロースナノファイバーが分離されており、複合材料などの種々の用途への応用展開が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−1728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、酸化セルロースナノファイバーを複合材料などの種々の用途に応用する際には、用途に応じて酸化セルロースナノファイバーの性能を更に向上させることが肝要である。
【0005】
そのため、酸化セルロースナノファイバーの応用展開に際しては、酸化セルロースナノファイバーの分散性を維持しつつ酸化セルロースナノファイバーに所望の特性を付与する技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、分散性を維持しつつ酸化セルロースナノファイバーに所望の特性を付与する技術を提供することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、上記従来の酸化セルロースナノファイバー分散液の製造方法では、酸化触媒の存在下で天然セルロースを酸化する際に共酸化剤として次亜塩素酸ナトリウムおよび臭化ナトリウムを使用しているため、得られる分散液中の酸化セルロースナノファイバーは、セルロースの構成単位であるβ−グルコース単位の6位の1級水酸基がカルボン酸ナトリウム塩(カルボキシル基のナトリウム塩)に酸化されていることに着目した。更に、本発明者らは、酸化セルロースナノファイバーのカルボン酸ナトリウム塩基のナトリウムイオン部分をナトリウム以外の金属のイオンで置換し、ナトリウム以外の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーとすることにより、酸化セルロースナノファイバーに所望の特性を付与することに新たに着想した。そこで、本発明者らは更に検討を重ね、分散媒中に分散させた状態の酸化セルロースナノファイバーに対してナトリウム以外の金属を含む塩を接触させることにより、ナトリウム以外の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーが良好に分散した分散液を得ることができることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の含金属酸化セルロースナノファイバー分散液は、分散媒と、ナトリウム以外の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーとを含み、前記含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維径が100nm以下であることを特徴とする。
このように、数平均繊維径が100nm以下であり、且つ、ナトリウム以外の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーを含む分散液は、分散性に優れており、且つ、塩の形で含有される金属の種類を適宜選択することにより含金属酸化セルロースナノファイバーに所望の特性を付与することができる。従って、当該分散液を複合材料の形成などに使用すれば、配合量が少量であっても複合材料に所望の特性を発揮させることができる。
【0008】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液の第一の製造方法は、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、前記第1の金属以外の第2の金属の塩と接触させ、前記第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーを得る工程を含み、数平均繊維径が100nm以下である含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液を製造することを特徴とする。
このように、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、第2の金属の塩と接触させれば、第2の金属を塩の形で含有し、且つ、数平均繊維径が100nm以下である含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液を容易に製造することができる。
【0009】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液の第二の製造方法は、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、強酸と接触させ、塩の形で含まれる前記第1の金属のイオンを水素原子に置換する工程と、前記第1の金属のイオンを水素原子に置換した酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、前記第1の金属以外の第2の金属の塩と接触させ、前記第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーを得る工程とを含み、数平均繊維径が100nm以下である含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液を製造することを特徴とする。
このように、第1の金属のイオンを水素原子に置換した酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、第2の金属の塩と接触させれば、第1の金属の置換反応を効率的に進行させることができる。従って、第2の金属を塩の形で含有し、且つ、数平均繊維径が100nm以下である含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液を効果的に製造することができる。
【0010】
なお、本発明において、含金属酸化セルロースナノファイバーの「数平均繊維径」は、原子間力顕微鏡を使用して含金属酸化セルロースナノファイバー5本以上について繊維径を測定し、測定した繊維径の個数平均を算出することにより求めることができる。具体的には、含金属酸化セルロースナノファイバーの「数平均繊維径」は、例えば本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて求めることができる。
【0011】
ここで、本発明においては、前記酸化セルロースナノファイバーがカルボキシル化セルロースナノファイバーであり、含金属酸化セルロースナノファイバーが、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーであることが好ましい。
カルボキシル化セルロースナノファイバーを用いて製造した含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーは、分散性に優れており、配合量が少量であっても複合材料などに所望の特性を十分に発揮させることができるからである。
【0012】
また、本発明においては、前記含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維長が50nm以上2000nm以下であることが好ましい。含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維長が50nm以上2000nm以下であれば、分散性を確保しつつ複合材料などに十分に高い機械的強度を付与することができるからである。
なお、本発明において、含金属酸化セルロースナノファイバーの「数平均繊維長」は、原子間力顕微鏡を使用して含金属酸化セルロースナノファイバー5本以上について繊維長を測定し、測定した繊維長の個数平均を算出することにより求めることができる。具体的には、含金属酸化セルロースナノファイバーの「数平均繊維長」は、例えば本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて求めることができる。
【0013】
更に、本発明においては、含金属酸化セルロースナノファイバーの平均重合度が100以上2000以下であることが好ましい。含金属酸化セルロースナノファイバーの平均重合度が100以上2000以下であれば、分散性を確保しつつ複合材料などに十分に高い機械的強度を付与することができるからである。
なお、本発明において、含金属酸化セルロースナノファイバーの「平均重合度」は、粘度法を用いて求めることができる。
【0014】
また、本発明の含金属酸化セルロースナノファイバー分散液においては、前記ナトリウム以外の金属が、長周期表における第2族〜第14族かつ第3周期〜第6周期の金属から選択される少なくとも1種であることが好ましく、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、錫、バリウムおよび鉛よりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、アルミニウム、カルシウム、鉄、コバルト、銅、亜鉛および銀よりなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
更に、本発明の分散液の製造方法においては、前記第1の金属がナトリウムであり、且つ、前記第2の金属が、長周期表における第2族〜第14族かつ第3周期〜第6周期の金属から選択される少なくとも1種であることが好ましく、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、錫、バリウムおよび鉛よりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、アルミニウム、カルシウム、鉄、コバルト、銅、亜鉛および銀よりなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。
これらの金属を使用すれば、含金属酸化セルロースナノファイバーに所望の特性を容易に付与することができるからである。
【0015】
また、本発明の含金属酸化セルロースナノファイバー分散液においては、前記分散媒が水であることが好ましい。
更に、本発明の分散液の製造方法においては、前記溶媒が水であることが好ましい。
分散媒または溶媒として水を使用すれば、分散液中で含金属酸化セルロースナノファイバーを良好に分散させることができるからである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、分散性に優れ、且つ、種々の用途に応用可能な含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液の製造方法は、例えば本発明の含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の製造に用いることができる。そして、本発明の含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液の製造方法を用いて調製された含金属酸化セルロースナノファイバー分散液は、複合材料の形成などの種々の用途に好適に用いられる。そこで、以下、本発明の含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液の製造方法、および、当該製造方法を用いて製造し得る、本発明の含金属酸化セルロースナノファイバー分散液について順次説明する。
【0018】
(含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液の製造方法)
本発明の製造方法は、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを原料として用い、下記の(i)または(ii)の方法を使用して酸化セルロースナノファイバーの第1の金属のイオンを第2の金属のイオンで置換することにより、第2の金属を塩の形で含有し、且つ、数平均繊維径が100nm以下である含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液を製造することを特徴とする。
(i)第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、第1の金属以外の第2の金属の塩と接触させる方法(第一の製造方法)。
(ii)第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、強酸と接触させ、塩の形で含まれる第1の金属のイオンを水素原子に置換し、その後、第1の金属のイオンを水素原子に置換した酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、第1の金属以外の第2の金属の塩と接触させる方法(第二の製造方法)。
【0019】
<第一の製造方法>
ここで、第一の製造方法では、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、第1の金属以外の第2の金属の塩と接触させ、酸化セルロースナノファイバーの第1の金属のイオンの少なくとも一部、好ましくは全部を、第2の金属のイオンで置換する(金属置換工程)。その後、任意に、金属置換工程で得られた、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーを、洗浄し(洗浄工程)、更に分散媒中で分散させることにより(分散工程)、第2の金属を塩の形で含有し、且つ、数平均繊維径が100nm以下である含金属酸化セルロースナノファイバーが分散媒中に分散してなる含金属酸化セルロースナノファイバー分散液を得る。
【0020】
[金属置換工程]
そして、金属置換工程において、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーとしては、セルロースを酸化して得られ、且つ、第1の金属を塩の形で含有するものであれば、例えば国際公開第2011/074301号に開示されているもの等、任意の酸化セルロースナノファイバーを使用することができる。中でも、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーとしては、第1の金属を塩の形で含有するカルボキシル化セルロースナノファイバーを用いることが好ましい。カルボキシル化セルロースナノファイバーを使用すれば、分散性に優れる含金属酸化セルロースナノファイバー分散液を得ることができるからである。
【0021】
ここで、第1の金属を塩の形で含有するカルボキシル化セルロースナノファイバーとしては、特に限定されることなく、セルロースの構成単位であるβ−グルコース単位の6位の1級水酸基を選択的に酸化したカルボキシル化セルロースナノファイバーを挙げることができる。そして、β−グルコース単位の6位の1級水酸基を選択的に酸化する方法としては、例えば以下に説明するTEMPO触媒酸化法等のN−オキシル化合物を酸化触媒として用いた酸化法が挙げられる。
【0022】
TEMPO触媒酸化法では、天然セルロースを原料として用い、水系溶媒中においてTEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル)またはその誘導体を酸化触媒として酸化剤を作用させることにより天然セルロースを酸化させる。そして、酸化処理後の天然セルロースを、任意に洗浄した後に水などの水系媒体に分散させることにより、数平均繊維径が例えば100nm以下、好ましくは10nm以下であり、且つ、カルボン酸塩型の基を有するセルロースナノファイバー(カルボキシル化セルロースナノファイバー)の水分散液を得る。
【0023】
ここで、原料として使用する天然セルロースとしては、植物、動物、バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースを用いることができる。具体的には、天然セルロースとしては、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプやバガスパルプ等の非木材系パルプ、バクテリアセルロース、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロースなどを例示することができる。
なお、酸化反応の効率を高めてカルボキシル化セルロースナノファイバーの生産性を高める観点からは、単離、精製された天然セルロースには、叩解等の表面積を拡大する処理を施してもよい。また、天然セルロースは、単離、精製の後、未乾燥状態で保存したものを用いることが好ましい。未乾燥状態で保存することで、ミクロフィブリルの集束体を膨潤しやすい状態に保持することができるので、酸化反応の効率を高めるとともに、繊維径の細いカルボキシル化セルロースナノファイバーを得やすくなる。
【0024】
酸化触媒として使用するTEMPOまたはその誘導体としては、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)および4位の炭素に各種の官能基を有するTEMPO誘導体を用いることができる。TEMPO誘導体としては、4−アセトアミドTEMPO、4−カルボキシTEMPO、4−フォスフォノオキシTEMPOなどを挙げることができる。特に、TEMPOまたは4−アセトアミドTEMPOを酸化触媒として使用した場合には、優れた反応速度が得られる。
【0025】
酸化剤としては、次亜ハロゲン酸またはその塩(次亜塩素酸またはその塩、次亜臭素酸またはその塩、次亜ヨウ素酸またはその塩など)、亜ハロゲン酸またはその塩(亜塩素酸またはその塩、亜臭素酸またはその塩、亜ヨウ素酸またはその塩など)、過ハロゲン酸またはその塩(過塩素酸またはその塩、過ヨウ素酸またはその塩など)、ハロゲン(塩素、臭素、ヨウ素など)、ハロゲン酸化物(ClO、ClO2、Cl26、BrO2、Br37など)、窒素酸化物(NO、NO2、N23など)、過酸(過酸化水素、過酢酸、過硫酸、過安息香酸など)が含まれる。これらの酸化剤は単独または2種以上の組み合わせで使用することができる。また、ラッカーゼなどの酸化酵素と組み合わせて用いてもよい。
【0026】
さらに、酸化剤の種類によっては、臭化物やヨウ化物を組み合わせ、共酸化剤として用いてもよい。例えば、アンモニウム塩(臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム)、臭化またはヨウ化アルカリ金属、臭化またはヨウ化アルカリ土類金属を用いることができる。これらの臭化物およびヨウ化物は、単独または2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0027】
なお、TEMPO触媒酸化法において酸化剤として金属塩を用いた場合には、通常、当該金属塩を構成する金属がカルボキシル化セルロースナノファイバー中に塩の形で含有されることとなる。即ち、金属塩を構成する金属が第1の金属となる。
【0028】
ここで、上述した中でも、酸化反応速度を向上させる観点からは、酸化剤としては、ナトリウム塩を用いることが好ましく、次亜塩素酸ナトリウムを用いることがより好ましく、次亜塩素酸ナトリウムおよび臭化ナトリウムの共酸化剤を用いることが特に好ましい。そして、酸化剤としてナトリウム塩を使用した場合には、通常、第1の金属としてナトリウムを塩の形で含有するカルボキシル化セルロースナノファイバーが得られる。
【0029】
なお、酸化処理の条件および方法は、特に限定されることなく、TEMPO触媒酸化法において用いられる公知の条件および方法を採用することができる。また、酸化処理では、β−グルコース単位の6位の1級水酸基が、アルデヒド基を経てカルボキシル基まで酸化されるが、カルボキシル化セルロースナノファイバーを原料として用いて得られる含金属酸化セルロースナノファイバーに所望の特性を十分に付与する観点からは、カルボキシル基まで酸化される割合は、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることが更に好ましい。
【0030】
また、酸化処理後のカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散させる際に用いる分散装置(解繊装置)としては、種々のものを使用することができる。具体的には、例えば、家庭用ミキサー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、二軸混練り装置、石臼等の解繊装置を用いることができる。これらのほかにも、家庭用や工業生産用に汎用的に用いられる解繊装置を用いることもできる。中でも、各種ホモジナイザーや各種レファイナーのような強力で叩解能力のある解繊装置を用いると、より効率的に繊維径の細いカルボキシル化セルロースナノファイバーの分散液が得られる。
なお、酸化処理後のカルボキシル化セルロースナノファイバーは、水洗と固液分離とを繰り返して純度を高めてから分散させることが好ましい。また、分散処理後の分散液中に未解繊成分が残存している場合には、遠心分離などを用いて未解繊成分を除去することが好ましい。
【0031】
そして、金属置換工程において、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーと第2の金属の塩との接触による金属イオンの置換は、上述したTEMPO触媒酸化法などにより得られた酸化セルロースナノファイバーの分散液に対し、第2の金属の塩の溶液または固体を添加し、得られた混合物を撹拌することにより行うことができる。
【0032】
ここで、第2の金属の塩は、得られる含金属酸化セルロースナノファイバーに付与したい特性に応じた金属の塩とすることができる。具体的には、第2の金属の塩は、例えば第1の金属がナトリウムの場合(即ち、酸化剤としてナトリウム塩を使用した場合)には、特に限定されることなく、好ましくは長周期表における第2族〜第14族かつ第3周期〜第6周期の金属から選択される少なくとも1種の塩、より好ましくはマグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、錫、バリウムおよび鉛よりなる群から選択される少なくとも1種の塩、更に好ましくはアルミニウム、カルシウム、鉄、コバルト、銅、亜鉛および銀よりなる群から選択される少なくとも1種の塩とすることができる。
【0033】
また、酸化セルロースナノファイバーの分散液に添加する第2の金属の塩の形態は、特に限定されず、ハロゲン化物、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの任意の形態とすることができる。中でも、金属イオンの置換効率を向上させる観点からは、第2の金属の塩は弱酸塩であることが好ましく、酢酸塩であることがより好ましい。
【0034】
更に、酸化セルロースナノファイバーを良好に分散させた状態で金属置換を行う観点からは、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーの分散液は水分散液であることが好ましい。また、分散液中の酸化セルロースナノファイバーの濃度は、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることが更に好ましく、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることが更に好ましい。酸化セルロースナノファイバーの濃度が低すぎる場合、反応効率および生産性が悪化するからである。また、酸化セルロースナノファイバーの濃度が高すぎる場合、分散液の粘度が高くなって均一な撹拌が困難になるからである。
【0035】
そして、酸化セルロースナノファイバーと第2の金属の塩との混合物を撹拌する時間は、金属イオンの置換に十分な時間、例えば1時間以上10時間以下とすることができる。また、混合物を撹拌する際の温度は、例えば10℃以上50℃以下とすることができる。
【0036】
なお、上述した金属置換工程では、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーと第2の金属の塩とを液中で接触させた際に、酸化セルロースナノファイバーがゲル化することがある。しかし、そのような場合においても、任意に洗浄工程を実施した後に分散工程を実施すれば、得られた酸化セルロースナノファイバーを再び良好に分散させ、数平均繊維径が100nm以下の含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液を得ることができる。
【0037】
[洗浄工程]
金属置換工程の後に任意に実施される洗浄工程では、例えば遠心分離と、上澄み液を洗浄液で置換する操作との繰り返し、或いは、ろ過および多量の洗浄液での洗浄等の公知の洗浄方法を用いて金属置換後の酸化セルロースナノファイバーを洗浄する。
【0038】
ここで、洗浄液としては、水などの任意の洗浄液を使用することができるが、金属置換工程で得られた酸化セルロースナノファイバーの金属置換効率を更に高める観点からは、最初に第2の金属の塩の水溶液を洗浄液として用いて洗浄を実施した後に、水を洗浄液として用いて洗浄を実施することが好ましい。
【0039】
[分散工程]
分散工程では、第2の金属を塩の形で含有するゲル化した酸化セルロースナノファイバーを、家庭用ミキサー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、二軸混練り装置、石臼等の既知の分散装置(解繊装置)を用いて分散させる。そして、必要に応じて遠心分離などを用いて未解繊成分を除去して、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液を得る。
【0040】
そして、上述のようにして得られた分散液では、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーが、数平均繊維径が100nm以下、好ましくは2nm以上10nm以下となるレベルで高度に分散する。従って、当該分散液を使用すれば、使用量が少量であっても複合材料などに所望の特性を良好に付与することができる。
【0041】
なお、上述のようにして得られる、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーは、数平均繊維長が50nm以上2000nm以下であることが好ましく、70nm以上1500nm以下であることがより好ましく、100nm以上1000nm以下であることが更に好ましい。数平均繊維長が50nm以上であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーおよび含金属酸化セルロースナノファイバーを含む複合材料の機械的強度を十分に高めることができるので、含金属酸化セルロースナノファイバーの集合体または複合材料を用いて形成した成形品に十分に高い機械的強度を付与することができるからである。また、数平均繊維長が2000nm以下であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーの分散性を確保し、分散液を十分に高濃度化することができるからである。
なお、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維長は、例えば、原料として使用する天然セルロースの数平均繊維長や酸化処理条件、酸化処理後のカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散(解繊)させる条件、金属置換工程後に第2の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを分散(解繊)させる条件を変更することにより調整することができる。具体的には、分散処理(解繊処理)の時間を長くすれば、或いは、分散処理(解繊処理)時に負荷するエネルギーを大きくすれば、数平均繊維長を短くすることができる。
【0042】
また、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーは、平均重合度(セルロース分子中に含まれるグルコース単位の数の平均値)が100以上2000以下であることが好ましく、300以上1500以下であることがより好ましく、500以上1000以下であることが更に好ましい。平均重合度が100以上であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーおよび含金属酸化セルロースナノファイバーを含む複合材料の機械的強度を十分に高めることができるので、含金属酸化セルロースナノファイバーの集合体または複合材料を用いて形成した成形品に十分に高い機械的強度を付与することができるからである。また、平均重合度が2000以下であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーの分散性を確保し、分散液を十分に高濃度化することができるからである。
なお、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーの平均重合度は、例えば、原料として使用する天然セルロースの平均重合度や酸化処理条件、酸化処理後のカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散(解繊)させる条件、金属置換工程後に第2の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを分散(解繊)させる条件などを変更することにより調整することができる。
【0043】
<第二の製造方法>
第二の製造方法では、最初に、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、強酸と接触させ、酸化セルロースナノファイバーの第1の金属のイオンの少なくとも一部、好ましくは全部を、水素原子に置換する(水素置換工程)。次に、任意に、水素置換工程で得られた酸化セルロースナノファイバーを、洗浄し(第一の洗浄工程)、更に分散媒中で分散させる(第一の分散工程)。その後、第1の金属のイオンを水素原子に置換した酸化セルロースナノファイバーを、溶媒に分散させた状態で、第1の金属以外の第2の金属の塩と接触させ、水素置換工程で導入された水素原子および水素原子で置換されなかった第1の金属のイオンの少なくとも一部、好ましくは全部を、第2の金属のイオンで置換する(金属置換工程)。その後、任意に、金属置換工程で得られた、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーを、洗浄し(第二の洗浄工程)、更に分散媒中で分散させることにより(第二の分散工程)、第2の金属を塩の形で含有し、且つ、数平均繊維径が100nm以下である含金属酸化セルロースナノファイバーが分散媒中に分散してなる含金属酸化セルロースナノファイバー分散液を得る。
なお、この第二の製造方法では、水素置換工程を経てから金属置換工程を実施しているので、上述した第一の製造方法(第1の金属を第2の金属で直接置換する方法)と比較し、第1の金属が第2の金属で置換される割合を高めることができる。
【0044】
[水素置換工程]
ここで、水素置換工程において、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーとしては、上述した第一の製造方法と同様の酸化セルロースナノファイバーを用いることができる。
【0045】
そして、水素置換工程において、第1の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーと強酸との接触による第1の金属のイオンと水素原子との置換は、TEMPO触媒酸化法などにより得られた酸化セルロースナノファイバーの分散液に対し、強酸の溶液を添加し、得られた混合物を撹拌することにより行うことができる。
【0046】
ここで、強酸としては、第1の金属のイオンを水素原子で置換する(即ち、酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基をカルボン酸型に置換する)ことが可能なものであれば特に限定されることなく、塩酸、硫酸、硝酸などを用いることができるが、中でも塩酸を用いることが好ましい。
【0047】
そして、酸化セルロースナノファイバーと強酸との混合物を撹拌する時間は、金属イオンと水素原子との置換に十分な時間、例えば10分間以上5時間以下とすることができる。また、混合物を撹拌する際の温度は、例えば10℃以上50℃以下とすることができる。
【0048】
[第一の洗浄工程]
水素置換工程の後に任意に実施される第一の洗浄工程では、例えば遠心分離と、上澄み液を洗浄液で置換する操作との繰り返し、或いは、ろ過および多量の洗浄液での洗浄等の公知の洗浄方法を用いて水素置換後の酸化セルロースナノファイバーを洗浄し、強酸を除去する。このように、第一の洗浄工程を実施すれば、強酸を除去し、後述する金属置換工程においてカルボン酸型のカルボキシル基が残存するのを抑制することができる。その結果、金属置換工程において、水素置換工程で導入された水素原子および水素原子で置換されなかった第1の金属のイオンを第2の金属のイオンで十分に置換することができる。
【0049】
ここで、第一の洗浄工程で使用する洗浄液としては、水などの任意の洗浄液を使用することができるが、酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基をカルボン酸型に置換する効率を更に高める観点からは、最初に強酸の溶液を洗浄液として用いて洗浄を実施した後に、水を洗浄液として用いて洗浄を実施することが好ましい。
【0050】
[第一の分散工程]
第一の分散工程では、カルボキシル基がカルボン酸型に置換された酸化セルロースナノファイバーを、水などの分散媒中に分散させて、第1の金属のイオンが水素原子で置換された酸化セルロースナノファイバーの分散液を得る。なお、第一の分散工程では、カルボキシル基がカルボン酸型に置換された酸化セルロースナノファイバーは、既知の分散装置(解繊装置)等を用いて分散媒中に完全に分散させる必要はない。
【0051】
[金属置換工程]
第二の製造方法の金属置換工程は、第1の金属のイオンを水素原子に置換した酸化セルロースナノファイバーと第2の金属の塩とを接触させること以外は、前述した第一の製造方法の金属置換工程と同様にして実施することができる。そして、第二の製造方法の金属置換工程の好適な態様も、第一の製造方法の金属置換工程の好適な態様と同様である。
【0052】
[第二の洗浄工程および第二の分散工程]
また、第二の製造方法における第二の洗浄工程および第二の分散工程も、前述した第一の製造方法の洗浄工程および分散工程と同様にして実施することができる。更に、第二の製造方法の第二の洗浄工程および第二の分散工程の好適な態様も、第一の製造方法の洗浄工程および分散工程の好適な態様と同様である。
【0053】
そして、上述のようにして得られた分散液では、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーが、数平均繊維径が100nm以下、好ましくは2nm以上10nm以下となるレベルで高度に分散する。従って、当該分散液を使用すれば、使用量が少量であっても複合材料などに所望の特性を良好に付与することができる。
【0054】
なお、上述のようにして得られる、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーは、数平均繊維長が50nm以上2000nm以下であることが好ましく、70nm以上1500nm以下であることがより好ましく、100nm以上1000nm以下であることが更に好ましい。数平均繊維長が50nm以上であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーおよび含金属酸化セルロースナノファイバーを含む複合材料の機械的強度を十分に高めることができるので、含金属酸化セルロースナノファイバーの集合体または複合材料を用いて形成した成形品に十分に高い機械的強度を付与することができるからである。また、数平均繊維長が2000nm以下であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーの分散性を確保し、分散液を十分に高濃度化することができるからである。
なお、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維長は、例えば、原料として使用する天然セルロースの数平均繊維長や酸化処理条件、酸化処理後のカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散(解繊)させる条件、金属置換工程後に第2の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを分散(解繊)させる条件を変更することにより調整することができる。具体的には、分散処理(解繊処理)の時間を長くすれば、或いは、分散処理(解繊処理)時に負荷するエネルギーを大きくすれば、数平均繊維長を短くすることができる。
【0055】
また、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーは、平均重合度(セルロース分子中に含まれるグルコース単位の数の平均値)が100以上2000以下であることが好ましく、300以上1500以下であることがより好ましく、500以上1000以下であることが更に好ましい。平均重合度が100以上であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーおよび含金属酸化セルロースナノファイバーを含む複合材料の機械的強度を十分に高めることができるので、含金属酸化セルロースナノファイバーの集合体または複合材料を用いて形成した成形品に十分に高い機械的強度を付与することができるからである。また、平均重合度が2000以下であれば、含金属酸化セルロースナノファイバーの分散性を確保し、分散液を十分に高濃度化することができるからである。
なお、第2の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーの平均重合度は、例えば、原料として使用する天然セルロースの平均重合度や酸化処理条件、酸化処理後のカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散(解繊)させる条件、金属置換工程後に第2の金属を塩の形で含有する酸化セルロースナノファイバーを分散(解繊)させる条件などを変更することにより調整することができる。
【0056】
(含金属酸化セルロースナノファイバー分散液)
上述した製造方法を用いて製造される含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液は、例えば、水などの分散媒と、ナトリウム以外の金属を塩の形で含有する含金属酸化セルロースナノファイバーとを含んでいる。そして、分散液中において、含金属酸化セルロースナノファイバーは、数平均繊維径が100nm以下、好ましくは2nm以上10nm以下となるレベルで高度に分散している。
【0057】
ここで、ナトリウム以外の金属としては、特に限定されることなく、長周期表における第2族〜第14族かつ第3周期〜第6周期の金属から選択される少なくとも1種、好ましくはマグネシウム、アルミニウム、カルシウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、錫、バリウムおよび鉛よりなる群から選択される少なくとも1種、より好ましくはアルミニウム、カルシウム、鉄、コバルト、銅、亜鉛および銀よりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0058】
そして、前述したように、分散液中の含金属酸化セルロースナノファイバーは、数平均繊維長が50nm以上2000nm以下であることが好ましく、70nm以上1500nm以下であることがより好ましく、100nm以上1000nm以下であることが更に好ましい。
【0059】
また、分散液中の含金属酸化セルロースナノファイバーは、平均重合度が100以上2000以下であることが好ましく、300以上1500以下であることがより好ましく、500以上1000以下であることが更に好ましい。
【0060】
そして、含金属酸化セルロースナノファイバー分散液は、例えば、そのまま乾燥させて含金属酸化セルロースナノファイバーよりなる機能性膜(含金属酸化セルロースナノファイバーの集合体)を形成する際に用いることができる。また、含金属酸化セルロースナノファイバー分散液は、ポリマー等と混合して複合材料としてから各種成形品の製造に用いることもできる。更に、含金属酸化セルロースナノファイバー分散液は、紙、繊維および成形品などに対し、塗工、スプレーまたは含浸等の手法を用いて含金属酸化セルロースナノファイバーを分散性を保ったまま付着させる際にも用いることもできる。そして、含金属酸化セルロースナノファイバー分散液を用いて形成された機能性膜や成形品、並びに、含金属酸化セルロースナノファイバーを付着させた紙、繊維および成形品等は、含金属酸化セルロースナノファイバーが含有する金属の種類に応じた性能を発揮し得る。
【実施例】
【0061】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
なお、実施例において、酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基量、並びに、含金属酸化セルロースナノファイバーの数平均繊維径、数平均繊維長、重合度および金属量は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
【0062】
<カルボキシル基量>
乾燥重量を精秤した酸化セルロースナノファイバーのパルプ試料から酸化セルロースナノファイバーの濃度が0.5〜1質量%の分散液を60mL調製した。次に、0.1Mの塩酸によって分散液のpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、pHが11になるまでの電気伝導度の変化を観測した。そして、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下式を用いて酸化セルロースナノファイバー中のカルボキシル基量を算出した。
カルボキシル基量(mmol/g)={V(mL)×0.05}/パルプ試料の質量(g)
<数平均繊維径>
含金属酸化セルロースナノファイバー分散液を希釈して含金属酸化セルロースナノファイバーの濃度が0.0001質量%の分散液を調製した。その後、得られた分散液をマイカ上に滴下し、乾燥させて観察試料とした。そして、原子間力顕微鏡(Dimension FastScan AFM、BRUKER社製、Tapping mode)を使用して観察試料を観察し、含金属酸化セルロースナノファイバーが確認できる画像において、含金属酸化セルロースナノファイバー5本以上の繊維径を測定し、平均値を算出した。
<数平均繊維長>
含金属酸化セルロースナノファイバー分散液を希釈して含金属酸化セルロースナノファイバーの濃度が0.0001質量%の分散液を調製した。その後、得られた分散液をマイカ上に滴下し、乾燥させて観察試料とした。そして、原子間力顕微鏡(Dimension FastScan AFM、BRUKER社製、Tapping mode)を使用して観察試料を観察し、含金属酸化セルロースナノファイバーが確認できる画像において、含金属酸化セルロースナノファイバー5本以上の繊維長を測定し、平均値を算出した。
<重合度>
調製した含金属酸化セルロースナノファイバーを水素化ホウ素ナトリウムで還元し、分子中に残存しているアルデヒド基をアルコールに還元した。その後、還元処理を施した含金属酸化セルロースナノファイバーを0.5Mの銅エチレンジアミン溶液に溶解させ、粘度法にて重合度を求めた。具体的には、「Isogai, A., Mutoh, N., Onabe, F., Usuda, M., “Viscosity measurements of cellulose/SO2-amine-dimethylsulfoxide solution”, Sen’i Gakkaishi, 45, 299-306 (1989).」に準拠して、重合度を求めた。
なお、水素化ホウ素ナトリウムを用いた還元処理は、アルデヒド基が残存していた場合に銅エチレンジアミン溶液への溶解過程でベータ脱離反応が起こって分子量が低下するのを防止するために行ったものである。
<金属量>
ICP−AES法により、含金属酸化セルロースナノファイバー中の金属を定性および定量した。なお、測定にはSPS5100(SIIナノテクノロジー製)を用いた。また、イオンクロマトグラフ法により、各イオンの量を定量した。なお、測定には、DX500(DIONEX製)を用いた。
そして、各測定結果から、酸化セルロースナノファイバーのカルボキシル基と塩を形成している金属の量を求めた。
【0063】
(実施例1)
<酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
乾燥重量で1g相当分の針葉樹漂白クラフトパルプと、共酸化剤としての5mmolの次亜塩素酸ナトリウムおよび0.1g(1mmol)の臭化ナトリウムと、酸化触媒としての0.016g(1mmol)のTEMPOとを100mLの水に分散させ、室温で4時間穏やかに攪拌し、TEMPO触媒酸化法により針葉樹漂白クラフトパルプを酸化処理した。そして、得られた酸化パルプを蒸留水で洗浄し、TEMPO触媒酸化パルプ(酸化セルロース)を得た。なお、得られたTEMPO触媒酸化パルプのカルボキシル基量は、1.4mmol/gであった。
その後、未乾燥のTEMPO触媒酸化パルプに蒸留水を加え、固形分濃度0.1%の分散液を調製した。そして、分散液に、ホモジナイザー(マイクロテック・ニチオン製、ヒスコトロン)を使用して7.5×1000rpmで2分間、超音波ホモジナイザー(nissei製、Ultrasonic Generator)を使用し、容器の周りを氷で冷やしながら、V−LEVEL4、TIP26Dで4分間の解繊処理を施すことで、酸化セルロースナノファイバーとしてカルボキシル化セルロースナノファイバーを含む水分散液を得た。そして、カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液から、遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用して遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により未解繊成分を取り除き、透明な液体である濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1を得た。なお、カルボキシル化セルロースナノファイバーは、共酸化剤由来のナトリウム(第1の金属)を塩の形で含有していた。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
50gのカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1を撹拌し、そこへ第2の金属の塩の水溶液として濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液18gを加え、室温で3時間撹拌を継続した(金属置換工程)。
その後、酢酸銅(II)水溶液の添加によりゲル化したカルボキシル化セルロースナノファイバーを遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用して遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により回収し、回収したカルボキシル化セルロースナノファイバーを濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液および多量の蒸留水で順次洗浄した(洗浄工程)。
次に、50mLの蒸留水を加え、超音波ホモジナイザー(nissei製、Ultrasonic Generator)を使用し、容器の周りを氷で冷やしながら、V−LEVEL4、TIP26Dで超音波処理(2分間)を行い、金属置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散させた。その後、遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用して遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により未解繊成分を取り除き、透明な液体である濃度0.1%の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た(分散工程)。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の評価>
クロスニコルの状態に配した2枚の偏光板の間に得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を配置し、反対側から光を当てつつ偏光板の間で水分散液を揺らすと、複屈折が観測された。これにより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーが水中で良好に分散していることが確認された。なお、複屈折と分散性との関係については、国際公開第2009/069641号等に開示されている。
また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの数平均繊維径は3.13nmであり、数平均繊維長は550nmであった。これより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーはミクロフィブリルレベルで水中に分散していることが確認できた。また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均重合度は600であった。
更に、ICP−AES法による測定の結果、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーには、銅(Cu)がカルボキシル化セルロースナノファイバーのカルボキシル基のモル量の1/2の割合で存在しており、ナトリウムの量は1質量ppm以下であることが分かった。また、イオンクロマトグラフ法によるイオン量の定量の結果、酢酸イオン量が0.5質量ppm以下であることが分かった。そして、これらの結果より、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシル化セルロースナノファイバーのナトリウムイオンが銅イオンで置換されており、カルボキシル基2つに対して1個の銅イオンが結合していると推察される。
【0064】
(実施例2)
<酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例1と同様にして濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1を得た。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
金属置換工程において濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液18gに替えて濃度0.1%の酢酸コバルト(II)水溶液19gを使用し、洗浄工程において濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液に替えて濃度0.1%の酢酸コバルト(II)水溶液を使用した以外は実施例1と同様にして、濃度0.1%の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の評価>
クロスニコルの状態に配した2枚の偏光板の間に得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を配置し、反対側から光を当てつつ偏光板の間で水分散液を揺らすと、複屈折が観測された。これにより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーが水中で良好に分散していることが確認された。
また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの数平均繊維径は3.15nmであり、数平均繊維長は560nmであった。これより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーはミクロフィブリルレベルで水中に分散していることが確認できた。また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均重合度は650であった。
更に、ICP−AES法による測定の結果、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーには、コバルト(Co)がカルボキシル化セルロースナノファイバーのカルボキシル基のモル量の1/2の割合で存在しており、ナトリウムの量は1質量ppm以下であることが分かった。また、イオンクロマトグラフ法によるイオン量の定量の結果、酢酸イオン量が0.5質量ppm以下であることが分かった。そして、これらの結果より、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシル化セルロースナノファイバーのナトリウムイオンがコバルトイオンで置換されており、カルボキシル基2つに対して1個のコバルトイオンが結合していると推察される。
【0065】
(実施例3)
<酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例1と同様にして濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1を得た。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
金属置換工程において濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液18gに替えて濃度0.1%の塩化アルミニウム(III)六水和物水溶液26gを使用し、洗浄工程において濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液に替えて濃度0.1%の塩化アルミニウム(III)六水和物水溶液を使用した以外は実施例1と同様にして、濃度0.1%の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の評価>
クロスニコルの状態に配した2枚の偏光板の間に得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を配置し、反対側から光を当てつつ偏光板の間で水分散液を揺らすと、複屈折が観測された。これにより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーが水中で良好に分散していることが確認された。
また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの数平均繊維径は3.14nmであり、数平均繊維長は500nmであった。これより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーはミクロフィブリルレベルで水中に分散していることが確認できた。また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均重合度は550であった。
更に、ICP−AES法による測定の結果、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーには、アルミニウム(Al)がカルボキシル化セルロースナノファイバーのカルボキシル基のモル量の1/3の割合で存在しており、ナトリウムの量は1質量ppm以下であることが分かった。また、イオンクロマトグラフ法によるイオン量の定量の結果、塩化物イオン量が0.1質量ppm以下であることが分かった。そして、これらの結果より、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシル化セルロースナノファイバーのナトリウムイオンがアルミニウムイオンで置換されており、カルボキシル基3つに対して1個のアルミニウムイオンが結合していると推察される。
【0066】
(実施例4)
<酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例1と同様にして濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1を得た。
<水素置換した酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
100mLのカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1に対し、攪拌下で1Mの塩酸1mLを加えてpHを1に調整した。そして、60分間攪拌を継続した(水素置換工程)。
その後、塩酸の添加によりゲル化したカルボキシル化セルロースナノファイバーを遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用して遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により回収し、回収したカルボキシル化セルロースナノファイバーを1Mの塩酸および多量の蒸留水で順次洗浄した(第一の洗浄工程)。
次に、100mLの蒸留水を加え、水素置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバーが分散した濃度0.1%の水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1を得た(第一の分散工程)。なお、水素置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバーの表面のカルボキシル基は、Biomacromolecules (2011年,第12巻,第518-522ページ)に従いFT−IR(日本分光製、FT/IR−6100)で測定したところ、90%以上がカルボン酸型に置換されていた。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
50gの水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1(濃度0.1%)を撹拌し、そこへ第2の金属の塩の水溶液として濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液18gを加え、室温で3時間撹拌を継続した(金属置換工程)。
その後、酢酸銅(II)水溶液の添加によりゲル化したカルボキシル化セルロースナノファイバーを遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用して遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により回収し、回収したカルボキシル化セルロースナノファイバーを濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液および多量の蒸留水で順次洗浄した(第二の洗浄工程)。
次に、50mLの蒸留水を加え、超音波ホモジナイザー(nissei製、Ultrasonic Generator)を使用し、容器の周りを氷で冷やしながら、V−LEVEL4、TIP26Dで超音波処理(2分間)を行い、金属置換されたカルボキシル化セルロースナノファイバーを分散させた。その後、遠心分離機(SAKUMA製、M201-1VD、アングルローター50F-8AL)を使用して遠心分離(12000G(120×100rpm/g)、10分間、12℃)により未解繊成分を取り除き、透明な液体である濃度0.1%の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た(第二の分散工程)。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の評価>
クロスニコルの状態に配した2枚の偏光板の間に得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を配置し、反対側から光を当てつつ偏光板の間で水分散液を揺らすと、複屈折が観測された。これにより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーが水中で良好に分散していることが確認された。
また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの数平均繊維径は3.13nmであり、数平均繊維長は530nmであった。これより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーはミクロフィブリルレベルで水中に分散していることが確認できた。また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均重合度は580であった。
更に、ICP−AES法による測定の結果、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーには、銅(Cu)がカルボキシル化セルロースナノファイバーのカルボキシル基のモル量の1/2の割合で存在しており、ナトリウムの量は1質量ppm以下であることが分かった。また、イオンクロマトグラフ法によるイオン量の定量の結果、酢酸イオン量が0.5質量ppm以下、塩素イオン量が0.1質量ppm以下であることが分かった。そして、これらの結果より、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシル化セルロースナノファイバーのナトリウムイオンが銅イオンで置換されており、カルボキシル基2つに対して1個の銅イオンが結合していると推察される。
【0067】
(実施例5)
<酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例4と同様にして濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1を得た。
<水素置換した酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例4と同様にして濃度0.1%の水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1を得た。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
金属置換工程において濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液18gに替えて濃度0.1%の酢酸亜鉛(II)水溶液19.5gを使用し、第二の洗浄工程において濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液に替えて濃度0.1%の酢酸亜鉛(II)水溶液を使用した以外は実施例4と同様にして、濃度0.1%の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の評価>
クロスニコルの状態に配した2枚の偏光板の間に得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を配置し、反対側から光を当てつつ偏光板の間で水分散液を揺らすと、複屈折が観測された。これにより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーが水中で良好に分散していることが確認された。
また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの数平均繊維径は3.15nmであり、数平均繊維長は520nmであった。これより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーはミクロフィブリルレベルで水中に分散していることが確認できた。また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均重合度は560であった。
更に、ICP−AES法による測定の結果、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーには、亜鉛(Zn)がカルボキシル化セルロースナノファイバーのカルボキシル基のモル量の1/2の割合で存在しており、ナトリウムの量は1質量ppm以下であることが分かった。また、イオンクロマトグラフ法によるイオン量の定量の結果、酢酸イオン量が0.5質量ppm以下、塩素イオン量が0.1質量ppm以下であることが分かった。そして、これらの結果より、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシル化セルロースナノファイバーのナトリウムイオンが亜鉛イオンで置換されており、カルボキシル基2つに対して1個の亜鉛イオンが結合していると推察される。
【0068】
(実施例6)
<酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例4と同様にして濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1を得た。
<水素置換した酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例4と同様にして濃度0.1%の水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1を得た。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
金属置換工程において濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液18gに替えて濃度0.1%の酢酸コバルト(II)水溶液19gを使用し、第二の洗浄工程において濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液に替えて濃度0.1%の酢酸コバルト(II)水溶液を使用した以外は実施例4と同様にして、濃度0.1%の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の評価>
クロスニコルの状態に配した2枚の偏光板の間に得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を配置し、反対側から光を当てつつ偏光板の間で水分散液を揺らすと、複屈折が観測された。これにより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーが水中で良好に分散していることが確認された。
また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの数平均繊維径は3.15nmであり、数平均繊維長は550nmであった。これより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーはミクロフィブリルレベルで水中に分散していることが確認できた。また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均重合度は600であった。
更に、ICP−AES法による測定の結果、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーには、コバルト(Co)がカルボキシル化セルロースナノファイバーのカルボキシル基のモル量の1/2の割合で存在しており、ナトリウムの量は1質量ppm以下であることが分かった。また、イオンクロマトグラフ法によるイオン量の定量の結果、酢酸イオン量が0.5質量ppm以下、塩素イオン量が0.1質量ppm以下であることが分かった。そして、これらの結果より、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシル化セルロースナノファイバーのナトリウムイオンがコバルトイオンで置換されており、カルボキシル基2つに対して1個のコバルトイオンが結合していると推察される。
【0069】
(実施例7)
<酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例4と同様にして濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1を得た。
<水素置換した酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例4と同様にして濃度0.1%の水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1を得た。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
金属置換工程において濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液18gに替えて濃度0.1%の酢酸カルシウム(II)一水和物水溶液19gを使用し、第二の洗浄工程において濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液に替えて濃度0.1%の酢酸カルシウム(II)一水和物水溶液を使用した以外は実施例4と同様にして、濃度0.1%の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の評価>
クロスニコルの状態に配した2枚の偏光板の間に得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を配置し、反対側から光を当てつつ偏光板の間で水分散液を揺らすと、複屈折が観測された。これにより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーが水中で良好に分散していることが確認された。
また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの数平均繊維径は3.14nmであり、数平均繊維長は550nmであった。これより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーはミクロフィブリルレベルで水中に分散していることが確認できた。また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均重合度は600であった。
更に、ICP−AES法による測定の結果、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーには、カルシウム(Ca)がカルボキシル化セルロースナノファイバーのカルボキシル基のモル量の1/2の割合で存在しており、ナトリウムの量は1質量ppm以下であることが分かった。また、イオンクロマトグラフ法によるイオン量の定量の結果、酢酸イオン量が0.5質量ppm以下、塩素イオン量が0.1質量ppm以下であることが分かった。そして、これらの結果より、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシル化セルロースナノファイバーのナトリウムイオンがカルシウムイオンで置換されており、カルボキシル基2つに対して1個のカルシウムイオンが結合していると推察される。
【0070】
(実施例8)
<酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例4と同様にして濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1を得た。
<水素置換した酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例4と同様にして濃度0.1%の水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1を得た。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
金属置換工程において濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液18gに替えて濃度0.1%の酢酸銀(I)水溶液18gを使用し、第二の洗浄工程において濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液に替えて濃度0.1%の酢酸銀(I)水溶液を使用した以外は実施例4と同様にして、濃度0.1%の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の評価>
クロスニコルの状態に配した2枚の偏光板の間に得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を配置し、反対側から光を当てつつ偏光板の間で水分散液を揺らすと、複屈折が観測された。これにより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーが水中で良好に分散していることが確認された。
また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの数平均繊維径は3.13nmであり、数平均繊維長は540nmであった。これより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーはミクロフィブリルレベルで水中に分散していることが確認できた。また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均重合度は590であった。
更に、ICP−AES法による測定の結果、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーには、銀(Ag)がカルボキシル化セルロースナノファイバーのカルボキシル基のモル量と等しい割合で存在しており、ナトリウムの量は1質量ppm以下であることが分かった。また、イオンクロマトグラフ法によるイオン量の定量の結果、酢酸イオン量が0.5質量ppm以下、塩素イオン量が0.1質量ppm以下であることが分かった。そして、これらの結果より、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシル化セルロースナノファイバーのナトリウムイオンが銀イオンで置換されており、カルボキシル基1つに対して1個の銀イオンが結合していると推察される。
【0071】
(実施例9)
<酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例4と同様にして濃度0.1%のカルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1を得た。
<水素置換した酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
実施例4と同様にして濃度0.1%の水素置換カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液1を得た。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の調製>
金属置換工程において濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液18gに替えて濃度0.1%の塩化アルミニウム(III)六水和物水溶液26gを使用し、第二の洗浄工程において濃度0.1%の酢酸銅(II)水溶液に替えて濃度0.1%の塩化アルミニウム(III)六水和物水溶液を使用した以外は実施例4と同様にして、濃度0.1%の含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を得た。
<含金属酸化セルロースナノファイバー分散液の評価>
クロスニコルの状態に配した2枚の偏光板の間に得られた含金属カルボキシル化セルロースナノファイバー水分散液を配置し、反対側から光を当てつつ偏光板の間で水分散液を揺らすと、複屈折が観測された。これにより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーが水中で良好に分散していることが確認された。
また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの数平均繊維径は3.15nmであり、数平均繊維長は490nmであった。これより、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーはミクロフィブリルレベルで水中に分散していることが確認できた。また、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーの平均重合度は530であった。
更に、ICP−AES法による測定の結果、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーには、アルミニウム(Al)がカルボキシル化セルロースナノファイバーのカルボキシル基のモル量の1/3の割合で存在しており、ナトリウムの量は1質量ppm以下であることが分かった。また、イオンクロマトグラフ法によるイオン量の定量の結果、酢酸イオン量が0.5質量ppm以下、塩素イオン量が0.1質量ppm以下であることが分かった。そして、これらの結果より、含金属カルボキシル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシル化セルロースナノファイバーのナトリウムイオンがアルミニウムイオンで置換されており、カルボキシル基3つに対して1個のアルミニウムイオンが結合していると推察される。
【0072】
実施例1〜9より、本発明の製造方法によれば、分散性に優れ、且つ、種々の用途に応用可能な含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、分散性に優れ、且つ、種々の用途に応用可能な含金属酸化セルロースナノファイバーの分散液を提供することができる。