(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6865428
(24)【登録日】2021年4月8日
(45)【発行日】2021年4月28日
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブゴム複合材料
(51)【国際特許分類】
C01B 32/158 20170101AFI20210419BHJP
B82B 1/00 20060101ALI20210419BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20210419BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20210419BHJP
【FI】
C01B32/158
B82B1/00ZNM
B82Y30/00
C08K3/04
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-209082(P2016-209082)
(22)【出願日】2016年10月25日
(65)【公開番号】特開2018-70391(P2018-70391A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】阿多 誠介
(72)【発明者】
【氏名】畠 賢治
(72)【発明者】
【氏名】友納 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 健郎
(72)【発明者】
【氏名】小松 正明
(72)【発明者】
【氏名】金指 安奈
【審査官】
中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−273741(JP,A)
【文献】
特開2005−161599(JP,A)
【文献】
特開2004−034744(JP,A)
【文献】
特公昭56−006083(JP,B1)
【文献】
特開昭57−014035(JP,A)
【文献】
成形加工シンポジア'16,2016年10月19日,pp. 42-43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
B29C 43/00−43/58;48/00−48/96
B82B 1/00
B82Y 30/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブをゴムの内部に配置して構成されるカーボンナノチューブゴム複合材料の製造方法であって、
押し出ししたカーボンナノチューブゴム複合材料のシートを押し出し方向に対して直角方向に長くなるように切り出し、長辺が上面及び下面に来るように、円柱状に丸めて又は短冊状に並べて、押し込み成形し、
前記カーボンナノチューブは、圧縮方向に対して平行に配向してなることを特徴とするカーボンナノチューブゴム複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブゴム複合材料の断面に偏光レーザを照射して得られるラマンシフトの圧縮方向に対して水平方向の強度(IG//)と、前記圧縮方向に対して垂直方向の強度(IG⊥)との比が1.5以上であることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブゴム複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブとゴムの複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムは、弾性やバリ特性に優れた材料であるため工業用途、民生品、スポーツ用品等に広く用いられている。一方で、ゴムは、薬品、紫外線等にさらされると劣化し、弾性やバリ特性を失うことが知られている。
【0003】
熱によるゴムの劣化は、熱ラジカルを介在した酸化劣化であることから、耐熱性の向上にはラジカル捕捉能を有する材料の添加が有効である。しかし、既存のラジカル補足材には高温領域での機能低下、均一分散の難しさなどの課題があった。フラーレンやカーボンナノチューブ等のナノ炭素材量は、高いラジカル捕捉能を有することが知られている。そのためカーボンナノチューブ(以下、CNTとも称する。)とゴムとを複合化することにより飛躍的に耐熱性が向上することが知られている。しかし、CNTとゴムとの複合材料には、圧縮永久ひずみが悪いとの課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、従来のCNTとゴムとの複合材料による圧縮永久ひずみと永久ひずみを改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態によると、カーボンナノチューブをゴムの内部に配置して構成されるカーボンナノチューブゴム複合材料であって、前記カーボンナノチューブは、圧縮方向に対して平行に配向してなるCNTゴム複合材料が提供される。
【0006】
前記カーボンナノチューブゴム複合材料において、前記CNTゴム複合材料の断面に偏光レーザを照射して得られるラマンシフトの圧縮方向に対して水平方向の強度(I
G//)と、前記圧縮方向に対して垂直方向の強度(I
G⊥)との比が1.5以上であってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、成形条件を制御し、ゴム中でのCNTの配向を制御することによって、従来のCNTとゴムとの複合材料による圧縮永久ひずみを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】(A)は従来法における金型900を示す模式図であり、(B)は本発明の一実施形態に係る金型100を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施例に係るCNTゴム複合材料の作製方法及び比較例のCNTゴム複合材料の作製方法を示す模式図である。
【
図3】本発明の一実施例及び比較例のCNTゴム複合材料特性を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明に係るカーボンナノチューブゴム複合材料について説明する。なお、本発明のカーボンナノチューブゴム複合材料は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び後述する実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0010】
従来のカーボンナノチューブゴム複合材料(以下、CNTゴム複合材料とも称する。)において、弾性率や分子構造の視点からの耐熱性が向上するのもかかわらず、永久ひずみが低い理由は、CNTの緻密な三次元ネットワーク構造が弾性回復、および弾性余効回復を阻害しているためである。
【0011】
そこで、CNTに強いせん断力を加えてCNTの繊維長を短くすることにより、弾性回復阻害効果が低減することを本発明者らは見出した。本発明者らは、CNTの三次元ネットワーク構造の分散強度を向上させることにより、永久ひずみが低減できることを見出した。
【0012】
しかし、CNTの繊維長を短くすることは、CNTの長所を失わせるものである。そこで、本発明においては、CNTの繊維長を保ったまま、弾性、弾性余効回復阻害効果を低減する方法を検討した。
【0013】
二本ロールで練りだししたCNTゴムシート中のCNTは、シート中で押し出し方向(Mechanical direction, MD)に対して配向して存在している。従来は、このシートを円形に切り出し、
図1(A)に示した金型900を用いて、切り出したCNTシートを積層することにより、永久ひずみ試料片を作成する。試料片において切り出したCNTの三次元ネットワーク構造は、圧縮方向に対して直角に構成される。そのため、CNTゴム複合材料に対して応力を印加し、圧縮すると、CNT繊維同士が絡まり合い、応力を除去すると弾性回復を阻害する。すなわち、CNTを圧縮方向に対して平行に配向させることにより、CNTの繊維長を保持したまま、永久ひずみを改善することが予測される。
【0014】
そこで、金型の形状を工夫することにより、CNTの配向状態を制御することを試みた。本発明に係る金型100の模式図を
図1に示す。押し出ししたCNTゴム複合材料のシートを押し出し方向に対して直角方向(Transverse Direction, TD)に長くなるように切り出し、円柱状に丸めて押し込み成形することにより、CNTを圧縮方向に対して垂直に配向した状態で成形することが可能になる。これにより永久ひずみは既存法に比べて20pt(230℃、7日)以上改善することができる。この結果は、横型の改善した金型100を用いることにより、CNTは、CNTの圧縮方向に対して並行に配向させることができ、それによって永久ひずみが低減できる。また、一実施形態において、CNTゴム複合材料のシートを円柱状に丸めて成形する例を示したが、本発明はこれ限定されず、短冊状に並べて成形してもよい。
【0015】
また、Oリングの成形においては、TD方向に切り出したCNTゴム複合材料のシートを立てて設置し、これを成形することでOリングの圧縮方向に対してもCNTが垂直に配向した構造を構築することが可能である。
【0016】
CNTゴム複合材料を圧縮する場合において、CNTを圧縮方向に対して平行に配列させたほうが圧縮永久ひずみは低減する。CNTが圧縮方向に垂直に配列していた場合、アスペクト比が100万にも及ぶCNT同士がお互いに近接し、場合によってはCNT同士に物理的な接点が生じる。この物理的な接点は、化学架橋における化学架橋点と同様の機能を果たすため、CNTゴム複合材料の弾性回復、弾性余効回復を阻害する。そのため、圧縮永久ひずみの値は大きくなる。
【0017】
一方で、CNTが圧縮方向に平行に配列している場合、CNTは圧縮に対してお互いに近接することなく圧縮されるため、弾性回復、弾性余効回復を阻害しない。さらに、CNTが圧縮された場合、CNTはエントロピー的に不利な状況になるため、エントロピー弾性を示し、元の形状に復帰しようとする。この結果、圧縮力を除いた際に、試料は元の形状に戻りやすくなり、結果的に永久圧縮ひずみも小さな値になる。
【0018】
CNTゴム複合材料の耐熱性が悪い要因として、CNTの緻密なネットワークの弾性回復、及び弾性余効による回復を阻害していることが示唆される。本発明においては、CNTのネットワークの弾性回復を阻害しないように、弾性回復方向にCNTを配向する技術を確立した。
【実施例】
【0019】
(実施例1)
CNTとしてスーパーグロース法に合成した長尺の単層CNTを用いた。ゴムは、パーオキサイド架橋型のフッ素ゴム(FKM)を用いた。CNTはメチルイソブチルケトン(MIBK)を溶媒としてジェットミルにより分散処理を行なった。CNT/MIBK溶液にFKMを添加し、CNTゴム複合材料のCNTの添加量が1重量%となるように、CNT/FKM/MIBK溶液を調製した。CNT/FKM/MIBK溶液をパットにキャストし、MIBKを除去することにより、CNT/FKMのマスターバッチを作成した。
図2は、本実施例に係るCNTゴム複合材料の作製方法を示す模式図である。マスターバッチを二本ロールで練りながら、架橋剤(パーヘキサ25B)、架橋開始材(TAIC)を加え、フルコンパンドを作成した。最後に押し出しした方向に対してTD方向に長辺を持つようにシートを切り出し、これを長辺が上面、下面に来るように丸めて金型に詰め(
図2中、「渦巻きTD」の図)、プレス機でプレス成形(170℃、20分)、及びオーブン架橋処理(180℃、4時間)し、円柱状の実施例1に係るCNTゴム複合材料を作成した。
【0020】
(実施例2)
実施例2として、CNTゴム複合材料のCNTの添加量が0.5重量%となるようにCNT/FKM/MIBK溶液を調製したこと以外は、実施例1と同様に、円柱状のCNTゴム複合材料を作成した。
【0021】
(実施例3)
実施例1のCNTゴム複合材料を用い、形態がOリングとなるように、成形した。
【0022】
(比較例1)
実施例1のCNTゴム複合材料を用い、切り出しがMD方向となるように(
図2中、「渦巻きMD」の図)、円柱状に成形した。
【0023】
(比較例2)
実施例1のCNT/FKM/MIBK溶液を用い、実施例1と同様に、CNTゴム複合材料のシートを作製した。得られたシートを円形に切り出し、
図1(A)に示した従来の金型を用いて円形部材を積層させ、円柱状に成形した(
図2中、「円盤TD(従来法)」の図)。
【0024】
(CNTの配向性評価)
実施例1〜3及び比較例1〜2のCNTゴム複合材料を試料として、ラマン分光を用いて配向性を確認した。ラマン分光はラマン分光測定装置(サーモエレクトロン社)を用いて、レーザ波長532nmの偏光レーザを照射して、積算回数10回で測定を行った。レーザは光路に偏光子を導入することにより直線偏光化させた。試料はギロチンカッター、その他CNTのモルフォロジーをなるべく変化させないような手法で切断し、断面を露出させた。得られたラマンシフトから、試料の断面に対して、試料を圧縮する方向に平行なGバンド強度I
G//と、試料を圧縮する方向に対して垂直方向のGバンド強度I
G⊥との比I
G///I
G⊥を算出した。測定結果を
図3に示す。CNTは繊維軸方向のほうが、繊維軸に対して垂直方向に比べてラマン強度が強く出る。したがって、I
G///I
G⊥が大きくなれば、CNTが圧縮方向に対して水平方向(平行)に配向していることを意味している。実施例1〜3のCNTゴム複合材料では、CNTが圧縮方向に対して平行に配向していることが明らかとなった。
【0025】
(ひずみ試験)
実施例1〜3及び比較例1〜2のCNTゴム複合材料を試料として、ひずみ試験を行った。ひずみ試験は、JIS K6262に基づいて評価した。温度は230℃、7日とし、圧縮率は25%で一定とした。測定結果を
図3に示す。実施例1〜3のCNTゴム複合材料は、比較例1〜2のCNTゴム複合材料に比して、永久ひずみが有意に小さいことが明らかとなった。
【符号の説明】
【0026】
100:金型、900:金型