【文献】
Li, Q. K. et al.,Serum Fucosylated Prostate-specific Antigen (PSA) Improves the Differentiation of Aggressive from Non-aggressive Prostate Cancers,Theranostics,2015年 1月 1日,Vol.5, No.3,pp.267-276
【文献】
JAYAPALAN, J. J. et al.,Urine of patients with early prostate cancer contains lower levels of light chain fragments of inter-alpha-trypsin inhibitor and saposin B but increased expression of an inter-alpha trypsin inhibitor heavy chain 4 fragment,Electrophoresis,2013年 4月20日,Vol.34, No.11,pp.1663-1669
【文献】
JANKOVIC, M.M. et al.,Gylcosylation of urinary prostate-specific antigen in benign hyperplasia and cancer: assessment by lectin-binding patterns,CLINICAL BIOCHEMISTRY,2005年 1月,Vol.38, No.1,pp.58-65
【文献】
KOSANOVIC, M.M. et al.,Sialylation and fucosylation of cancer-associated prostate specific antigen,JOURNAL OF BUON,2005年,Vol.10, No.2,pp.247-250
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
前立腺は、男性の膀胱の真下に尿道を取り囲むように存在する生殖器である。前立腺に発生する癌は、近年、増加している。罹患数やPSA検診数も増加傾向にあり、2015年の統計では患者数が男性では第一位である。
【0003】
前立腺特異抗原(Prostate Specific Antigen、以下、「PSA」という)は、前立腺に特異的に存在する抗原である。PSAには、プロテアーゼインヒビターであるα1−アンチキモトリプシン(ACT)と結合して複合体を形成したコンプレックスPSA(prostate specific antigen−α1−antichymotripsin complex 、以下「PSA−ACT」ともいう)と、遊離型PSAとがある。PSAは、本明細書において、コンプレックスPSA及び遊離型PSAの合計を意味する。また、遊離型PSAを「fPSA」又は「フリーPSA」と呼ぶ。
【0004】
健常なヒトの血中PSA検査値(以下、血中PSA値という)は、加齢とともに上昇するが、一般に、4ng/mL未満とされる。4ng/mL以上の異常高値が測定された場合は、前立腺癌が疑われ、泌尿器科医が前立腺癌を早期発見するきっかけとなる。
【0005】
PSA検査によってPSA異常値を示した前立腺癌が疑われる群は、確定診断を行うために、前立腺の生検を行う対象(検査陽性)となる。この生検法は、前立腺癌の悪性度や重症度(病期又は進行度)を示すリスク分類を得るための指標を提供する。リスク分類は、血中PSA値、グリソンスコア、及び病期分類(TNM分類)の3つの因子を組み合わせて総合的に判別される。
【0006】
グリソンスコア(以下、GSともいう)とは、前立腺針生検で採取した組織を顕微鏡で検査した際に、癌の悪性度を判断する指標である。癌の組織学形態を組織の状況と浸潤の状況からG1〜G5のパターンに分類したものを基本とする(前立腺癌取扱い規約第4版)。パターンG1やG2では判断が困難なため、G3〜G5を使って評価する。以下の通りである。
グリソンパターン
G3:明瞭な管腔を有する独立腺管よりなる。既存の非腫瘍性腺管の間に浸潤する。
G4:癒合腺管、篩状腺管、hypernehromatoid、不明瞭な腺管形成を示すもの
G5:充実性増殖、索状配列、弧在性増殖、面疱状壊死を示すもの
【0007】
最も多い病変である優勢病変のパターン判定(G○)と2番目に多い病変である随伴病変のパターン判定(G△)をそれぞれ行い、その数値の合計をグリソンスコアとする(GS=G○+G△)。グリソンスコアが高いほど、癌の悪性度が高い。グリソンスコアと前立腺癌の悪性度との関係は、具体的には、以下のとおりである。
グリソンスコア
GS6:比較的進行の遅い高分化型の前立腺癌
GS7:悪性度が中等度の前立腺癌
GS8以上:悪性度の高い低分化の前立腺癌
【0008】
グリソンスコアは、一般的に、GS6〜GS9の間で表されることが多い。GS6(=G3+G3)が最も低いスコアである。GS6の癌は、転移せず、何も治療せずに経過観察で様子をみるActive surveillance法を取っても、外科的手術や放射線治療による予後と変わらない。GS6を癌と呼ぶ必要はないという議論も存在する。米国では、GS6患者の半分程度がActive surveillance治療法により処置されている。日本では、GS6の癌に対しても外科的手術や放射線治療が行われている。
【0009】
TNM分類とは、病期分類を示す国際規格である。TNM分類の区分と病期の関係を、表1に示す。
【表1】
【0010】
GS7以上の前立腺癌は、進行し、また転移するため、外科的手術、放射線、ホルモン療法等の治療を早期に行う必要がある高リスク群である。米国では、PSA検診は、GS6の進行しない癌も同様に検出してしまうため、推奨されておらず、日本でも厚生労働省の「がん検診の適切な方法とその評価法の確立に関する研究」班がPSA検診は、早期診断には有用であるが、死亡率を減少させる効果は証明されていないため、公的な費用で行う住民検診として実施することは勧められないと結論づけている。低リスク群に対しては経過観察による予後は、外科的手術、放射線、ホルモン療法等の治療と比べて同等であるため、今後は、血中PSA値が高くGS7以上であるならば、癌の治療を行なうという流れになると予測される。
【0011】
現在の診療アルゴリズムでは、血中PSA検査で異常高値が測定された場合、グリソンスコアやTNM分類に関する情報を得るために、前立腺の生検が必須となる。生検は、前立腺針を用いて前立腺癌が疑われる領域から組織を採取し、採取された組織や細胞を病理組織学的検査にかける診断方法である。
【0012】
血中PSA検査は、治療の必要ない前立腺癌(GS6)を検査陽性と判断してしまう。血中PSA値は、加齢、前立腺の炎症、及び前立腺肥大症によっても上昇する。血中PSA値が10ng/mL以上では、前立腺癌の確率は50%である。血中PSA値が4〜10ng/mLにある場合、前立腺癌の確率は30%に低下する。血中PSA値が基準値異常の患者を生検した場合、前立腺癌細胞の検出とGS7〜9に基づく前立腺癌の可能性が指摘される割合は30%程度である。残りの70%は、癌細胞非検出や、GS6以下の手術の必要のない前立腺癌である。健康診断や人間ドックで血中PSA値が高いと指摘されても、前立腺癌であるとは限らず、現在の技術では前立腺癌の見極めは非常に難しい。
【0013】
侵襲性の高い生検は、被験者にとって大きな負担となる。被験者に侵襲性の少ない簡易な生理検査方法の開発が望ましい。さらに、その検査方法には、グリソンスコアと相関を持ち、生検を行なう前にグリソンスコアを予見できることが望まれる。
【0014】
PSA糖鎖の癌性変化を報告した非特許文献1には、正常PSAには2本鎖のアスパラギン結合型糖鎖(N−グリカン)がほとんど含まれず、ハイブリッドタイプや高マンノースタイプが主体であるのに対して、前立腺癌由来のPSAには末端にシアル酸がα2−3 で結合した分岐N−グリカンが多いことが記載されている。
【0015】
非特許文献2には、血中PSA検査値が4〜10ng/mLであった前立腺癌又は前立腺肥大症患者の血中fPSAをα1−2フコースに親和性を有するUEA−1レクチンを用いたELLAにより測定したところ、前立腺癌の患者のfPSAは、前立腺肥大症の患者に比べて有意に高いフコシル化が検出されたことが報告されている。
【0016】
特許文献1には、フコースα1−2ガラクトース残基と親和性のあるレクチンと、PSAを含む可能性のある試料とを接触させ、前記レクチンに親和性のあるPSAの量を判定することを特徴とする、PSAの分析方法が開示されている。特許文献1の方法によれば、前立腺癌患者の血液から採取された検体はα1−2フコシル化PSAが増大するという知見に基づいて、前立腺癌と前立腺肥大症とを鑑別できるとされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、血中PSA検査による前立腺癌のスクリーニングにおいて、血中PSA値が、通常、4ng/mL以上と測定されたために前立腺癌が疑われた被験者や患者に対して、前立腺の生検実施前に生検の必要性等の有用な情報を提供する方法を提供することにある。さらに、血中PSA値が、4ng/mL以上20ng/mL未満、特に4ng/mL以上10ng/mL以下と測定されたために前立腺癌であるか否か判別し難い患者や被験者(グレーゾーン)に対して、生検実施の必要性を判断する指標を提供する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者等は、上記課題を鋭意検討したところ、α1→6フコース糖鎖に結合するレクチンを尿中のPSAという特定の対象に作用させると、意外にも、PSA−レクチン複合体の検出レべルが前立腺癌の悪性度の進行に従って低下することを発見した。この知見に基づけば上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0021】
すなわち、本発明は、前立腺癌が疑われるヒトから採取された尿からなる検体に含まれるPSAに、α1→6フコース糖鎖に結合するレクチンを作用させることを含む高リスク前立腺癌の検出方法であって、前記レクチンが、以下の特性:
(1)下記構造式:
【化1】
〔式中、Gal、GlcNAc、Man、及びFucは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、マンノース、及びフコースを意味する〕
を有するα1→6フコース糖鎖No.405に対して結合定数1.0×10
4M
−1以上(25℃において)を有する、
を持つことを特徴とする、前記高リスク前立腺癌の検出方法を提供する。α1→6フコース糖鎖No.405の構造は、
図1に示される。上記(1)の特性を有するレクチンを、「フコースα1→6親和性レクチン」ということがある。
【0022】
「前立腺癌が疑われるヒト」とは、本明細書において、血中PSA値が健常者よりも異常に高い数値を示す者を意味する。「血中PSA値」は、血液を用いた汎用の測定方法に従って測定されるPSA−ACTとfPSAとの合計(トータルPSA)を意味する。「高リスク前立腺癌」は、進行性前立腺癌を意味する。より、具体的には、例えばグリソンスコアを評価した場合に、グリソンスコアが7以上となる者を意味する。
【0023】
非特許文献1〜2や特許文献1に開示の方法は、α1→6フコースの結合したPSAを検出していない点で本発明の検出方法と明確に異なる。また、本発明の方法の検査対象は、「尿中のPSA」であることが重要である。従来技術の方法は、尿中のPSAを対象としたものでもない。
【0024】
本発明の検出方法では、例えば前記レクチンとPSAとの反応によるシグナルが、グリソンスコア6の者から得られているシグナル(参照値)と比べて低い場合に、前記ヒトでの高リスク前立腺癌が示唆される。
【0025】
前記検体の第一候補は、血中PSA値が4ng/mL以上のヒトの尿である。血中PSA値が4ng/mL以上の検体は、前立腺癌の発症が疑われる。
【0026】
前記検体の第二候補は、血中PSA値が20ng/mL未満のヒトの尿である。上記範囲の血中PSA値を有する患者は、前立腺の生検の検査陽性となるが、前立腺癌でない可能性の高いグレーゾーンの患者である。
【0027】
前記PSAは、遊離型PSA(fPSA)であることが好ましい。
【0028】
前記レクチンは、さらに、以下の特性:
(2)下記構造式:
【化2】
〔式中、GlcNAc、及びManは、それぞれ、N−アセチルグルコサミン、及びマンノースを意味する〕
を有するα1→6フコースを含まない糖鎖No.003、及び下記構造式:
【化3】
〔式中、Gal、GlcNAc、Fuc、及びNeu5Acは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、フコース、及びN−アセチルノイラミン酸を意味する〕
を有するα1→6フコースを含まない糖脂質系糖鎖No.909に対して結合定数1.0×10
4M
−1以下(25℃において)を有する、
を持つことが好ましい。前記糖鎖No.003の構造は
図1に示され、前記糖鎖No.909の構造は
図2に示される。(1)に加えて(2)の特性を兼ね備えるレクチンは、(1)のみの特性を有するレクチンよりも、特異的にα1→6フコース糖鎖と結合する。上記(1)及び(2)の特性を有するレクチンを、以下、「フコースα1→6特異的レクチン」ということがある。
【0029】
前記フコースα1→6特異的レクチンは、さらに、以下の特性:
(3)前記糖鎖No.405の非還元末端にシアル酸を有するα1→6フコース糖鎖に対して親和性を有する、
を持つことが好ましい。
【0030】
前記フコースα1→6特異的レクチンは、さらに、以下の特性:
(4)α1→6フコースの結合したN結合型の一本鎖、二本鎖、三本鎖及び/又は四本鎖の糖鎖に対して結合定数(25℃において)1.0×10
4M
−1以上を有する、
を持つことが好ましい。
【0031】
前記(1)の特性を有するフコースα1→6親和性レクチンとしては、例えばヒイロチャワンタケレクチン、麹菌レクチン、レンズマメレクチン、エンドウマメレクチン、スギタケレクチン、ツチスギタケレクチン、サケツバタケレクチン、クリタケレクチン、コムラサキシメジレクチン、及びベニテングタケレクチンである。
【0032】
前記(1)に加えて、前記(2)の特性を有するフコースα1→6特異的レクチンは、例えばモエギタケ科、キシメジ科、テングタケ科又はタコウキン科に属する担子菌から抽出することができる。具体的には、前記(1)及び(2)の特性を有するフコースα1→6特異的レクチンは、例えばスギタケレクチン、ツチスギタケレクチン、サケツバタケレクチン、クリタケレクチン、コムラサキシメジレクチン、及びベニテングタケレクチンである。
【0033】
前記レクチンは、標識されていることが好ましい。
【0034】
本発明の検出方法は、前記レクチンと一種以上のレクチン又は抗体を用いて、PSAを検出することが好ましい。さらに、前記レクチンと抗PSA抗体とを用いたアッセイにより、PSAを検出することが好ましい。
【0035】
前記抗PSA抗体が抗遊離型PSA抗体(抗fPSA抗体)であり、そして前記PSAが遊離型PSA(fPSA)であることが好ましい。
【0036】
本発明はまた、PSAからなる高リスク前立腺癌診断用バイオマーカーであって、前記PSAが、以下の特性:
(1)下記構造式:
【化4】
〔式中、Gal、GlcNAc、Man、及びFucは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、マンノース、及びフコースを意味する〕
を有するα1→6フコース糖鎖No.405に対して結合定数1.0×10
4M
−1以上(25℃において)で示される親和性を有する
を持ったα1→6フコース糖鎖に結合するレクチンで識別可能であることを特徴とする、前記高リスク前立腺癌診断用バイオマーカーを提供する。このバイオマーカーは、血中PSA値が高いために前立腺癌が疑われるヒトにおいて、前立腺癌の可能性が高いほど、尿中PSA−レクチン複合体としての検出レベルが下がるという特徴を有する。
【0037】
本発明は、また、PSAからなる高リスク前立腺癌診断用バイオマーカーであって、前記PSAが、
以下の特性:
(1)下記構造式:
【化5】
〔式中、Gal、GlcNAc、Man、及びFucは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、マンノース、及びフコースを意味する〕
を有するα1→6フコース糖鎖No.405に対して結合定数1.0×10
4M
−1以上(25℃において)で示される親和性を有する、及び
(2)下記構造式:
【化6】
〔式中、GlcNAc、及びManは、それぞれ、N−アセチルグルコサミン、及びマンノースを意味する〕
を有するα1→6フコースを含まない糖鎖No.003、及び下記構造式:
【化7】
〔式中、Gal、GlcNAc、Fuc、及びNeu5Acは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、フコース、及びN−アセチルノイラミン酸を意味する〕
を有するα1→6フコースを含まない糖脂質系糖鎖No.909に対して結合定数1.0×10
4M
−1以下(25℃において)を有する、
を持ったα1→6フコース糖鎖に結合するレクチンで識別可能であることを特徴とする、前記高リスク前立腺癌診断用バイオマーカーを提供する。このバイオマーカーは、血中PSA値が高いために前立腺癌が疑われるヒトにおいて、前立腺癌の可能性が高いほど、尿中PSA−レクチン複合体としての検出レベルが下がるという特徴を有する。
【0038】
前記PSAは、前立腺癌が疑われるヒトから採取された尿からなる検体であることが望ましい。
【0039】
本発明は、また、以下の特性:
(1)下記構造式:
【化8】
〔式中、Gal、GlcNAc、Man、及びFucは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、マンノース、及びフコースを意味する〕
を有するα1→6フコース糖鎖No.405に対して結合定数1.0×10
4M
−1以上(25℃において)で示される親和性を有する、
を持ったα1→6フコース糖鎖に結合するレクチンを含む高リスク前立腺癌検出用診断薬であって、
前立腺癌が疑われるヒトから採取された尿からなる検体に含まれるPSAと前記レクチンと反応させることを特徴とする、前記高リスク前立腺癌検出用診断薬を提供する。
【0040】
本発明は、また、以下の特性:
(1)下記構造式:
【化9】
〔式中、Gal、GlcNAc、Man、及びFucは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、マンノース、及びフコースを意味する〕
を有するα1→6フコース糖鎖No.405に対して結合定数1.0×10
4M
−1以上(25℃において)を有する、及び
(2)下記構造式:
【化10】
〔式中、GlcNAc、及びManは、それぞれ、N−アセチルグルコサミン、及びマンノースを意味する〕
を有するα1→6フコースを含まない糖鎖No.003、及び下記構造式:
【化11】
〔式中、Gal、GlcNAc、Fuc、及びNeu5Acは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、フコース、及びN−アセチルノイラミン酸を意味する〕
を有するα1→6フコースを含まない糖脂質系糖鎖No.909に対して結合定数1.0×10
4M
−1以下(25℃において)を有する、
を持ったα1→6フコース糖鎖に結合するレクチンを含む高リスク前立腺癌検出用診断薬であって、
前立腺癌が疑われるヒトから採取された尿からなる検体に含まれるPSAと前記レクチンと反応させることを特徴とする、前記ハイリスク前立腺癌検出用診断薬を提供する。
【0041】
本明細書において、「診断薬」という用語は、前記診断薬を含むキットの形態を含む意味で使用される。前立腺癌検出用診断薬は、さらに、抗PSA抗体を含むことが好ましい。
【0042】
高リスク前立腺癌検出用診断薬は、さらに、抗PSA抗体を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0043】
血中PSA値が高いために前立腺癌が疑われるヒトにおいて、前立腺癌のリスク度(悪性度)が高いほど、尿中PSA−レクチン複合体の検出レベルが低下する。尿中PSA−レクチン複合体を検出する本発明の検出方法によれば、前立腺癌を高い確度で検出可能である。これは、後述の比較例に示されるように、抗fPSA抗体を用いても、高リスク前立腺癌を検出可能でないことと対称的である。
【0044】
従来は、生検によりグリソンスコアを評価して、治療すべき患者を選抜していた。本発明の検出方法は、非侵襲性でありながら、本来治療すべき患者を適切に検出することを可能とする。本発明の方法は、また、検査陽性の患者に対して前立腺の生検実施に先立ち、前立腺癌有無について有用な情報を提供することも可能である。
【0045】
従来のPSA検査は、血中PSA値の測定が基本である。PSAは、血中にng/mLという極微量レベルでしか存在しないため、前立腺癌の検出精度が低くなりやすい。また、血中PSA値は前立腺肥大症や前立腺炎症等によっても上昇する点でも、検出精度が低い。また、血中PSA値の評価では、悪性度の高い前立腺癌と悪性度の低い前立腺癌を区別することが困難である。一方、本発明の検出方法は、尿中PSAを検査対象とする。尿中には、PSAがμg/mLオーダーで多量に存在し、その90%以上がfPSAである。尿中PSAを検出する本発明の検出方法の測定精度は、血中PSA検査よりも格段に高くなる。
【0046】
血中PSA値がグレーゾーンの患者にとっては、前記検出レベルの高低が生検実施の必要性を判断する指標となる。また、血中PSA値が基準値より明らかに高い患者にとっては、前記検出レベルの高低が悪性度の判別の指標となる。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に、本発明の実施の形態をより詳細に説明する。本発明の高リスク前立腺癌の検出方法は、前立腺癌が疑われるヒトから採取された尿からなる検体に含まれるPSAにα1→6フコース糖鎖に結合するレクチンを作用させることを含む。
【0049】
本発明の検出方法の対象の第一候補は、PSA検査で血中PSA値が4ng/mL以上のヒトである。通常、血中PSA値が4ng/mL以上であると、前立腺癌が疑われ、検査陽性となる。検査陽性の患者には、GS6のように治療の必要のない患者や、GS7〜8のように癌が進行した患者が含まれる。このようなヒトの尿中PSAを本発明の方法によって測定すると、前立腺癌の進行度に従って、PSA−レクチン複合体の検出レベルが低下する。本発明の方法は、検出レベルに基づいて、生検を必要とするか判断する材料や患者の癌の悪性度に関する情報を提供可能である。特に、本発明の方法は、検査陽性の患者に対して前立腺の生検実施に先立ち、前立腺癌有無について有用な情報を提供可能である。
【0050】
本発明の検出方法の対象の第二候補は、特に血中PSA値が4ng/mL以上により検査陽性と診断され、血中PSA値が20ng/mL未満の患者である。このレベルの血中PSA値を有する患者は、検査陽性であっても、前立腺癌でない可能性が高く、もしくは前立腺癌であってもGS6で治療不要である可能性が高い。本発明の方法は、このような患者が生検を必要とするか判断する材料を提供可能である。
【0051】
本発明の検出方法が測定するPSAは、好ましくはfPSAである。血中PSAは、約80%がPSA−ACTであり、約20%がfPSAである。血中PSA値は、PSA−ACTとfPSAの合計(トータルPSA)を測定したものである。一方、尿中PSAは、90%以上がfPSAである。血中PSA検査は、大半を占めるPSA−ACTの挙動を調べるのに対して、本発明は、主要なfPSAの挙動を調べる点で、両者は明確に相違する。また、ヒトから採血した検体中のPSA−ACT+fPSA、PSA−ACT又はfPSAにα1→6フコース糖鎖に結合するレクチンを作用させても、血清不純物によってノイズが高いなどの問題がある。
【0052】
本発明の第一の対象への検出方法に使用するフコースα1→6親和性レクチンは、α1→6フコース糖鎖に対して結合する(すなわち、親和性を有する)レクチンである。
【0053】
このようなフコースα1→6親和性レクチンは、以下の特性:
(1)下記構造式:
【化12】
〔式中、Gal、GlcNAc、Man、及びFucは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、マンノース、及びフコースを意味する〕
を有するα1→6フコース糖鎖No.405に対して結合定数1.0×10
4M
−1以上(25℃において)で示される親和性を有する、
で定義される。α1→6フコースオリゴ糖及び非α1→6フコースオリゴ糖の構造図を
図1及び2に示す。
図1及び2において、Gal、GlcNAc、Glc、GalNAc、Man、Fuc、Neu5Ac、Neu5Gc、及びXylは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、グルコース、N−アセチルガラクトサミン、マンノース、フコース、N−アセチルノイラミン酸、N−グリコリルノイラミン酸、及びキシロースを意味する。
【0054】
前記フコースα1→6親和性レクチンの例としては、ヒイロチャワンタケレクチン(AAL)、麹菌レクチン(AOL)、レンズマメレクチン(LCL)、エンドウマメレクチン(PSL)、スギタケレクチン(PhoSL)、ツチスギタケレクチン(PTL)、サケツバタケレクチン(SRL)、クリタケレクチン(NSL)、コムラサキシメジレクチン(LSL)、ベニテングタケレクチン(AML)等が挙げられる。
【0055】
本発明の検出方法の対象の第一又は第二の候補には、グレーゾーンのリスク群が含まれる。グレーゾーンの候補を対象とする場合、使用するレクチンは、α1→6フコース糖鎖に対して高い親和性を有するだけでなく、特異的にα1→6フコース糖鎖と結合するレクチン(フコースα1→6特異的レクチン)であることが好ましい。
【0056】
上記フコースα1→6特異的レクチンは、(1)α1→6フコース糖鎖に対する結合定数の下限と、(2)α1→6フコースを含まない糖鎖及びα1→6フコースを含まない糖脂質系糖鎖に対する結合定数の上限によって定義可能である。より具体的には、α1→6フコース特異的レクチンは、以下の特性:
(1)下記構造式:
【化13】
〔式中、Gal、GlcNAc、Man、及びFucは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、マンノース、及びフコースを意味する〕
を有するα1→6フコース糖鎖No.405に対して結合定数1.0×10
4M
−1以上(25℃において)で示される親和性を有する、及び
(2)下記構造式:
【化14】
〔式中、GlcNAc、及びManは、それぞれ、N−アセチルグルコサミン、及びマンノースを意味する〕
を有するα1→6フコースを含まない糖鎖No.003、及び下記構造式:
【化15】
〔式中、Gal、GlcNAc、Fuc、及びNeu5Acは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、フコース、及びN−アセチルノイラミン酸を意味する〕
を有するα1→6フコースを含まない糖脂質系糖鎖No.909に対して結合定数1.0×10
4M
−1以下(25℃において)である
で定義される。
【0057】
前記結合定数は、本明細書において、例えばフロンタルアフィニティクロマトグラフィー(FAC法)を用い、分析温度25℃において測定される数値を意味する。FAC法の詳細は、例えば、本出願人の出願した特許文献2に記載されている。
【0058】
前記レクチンのα1→6フコース糖鎖No.405に対する結合定数(25℃において)は、好ましくは5.0×10
4M
−1以上、より好ましくは1.0×10
5M
−1以上、さらに好ましくは2.0×10
5M
−1以上である。
【0059】
前記α1→6フコースを含まない糖鎖No.003及びα1→6フコースを含まない糖脂質系糖鎖No.909に対する結合定数(25℃において)は、通常、1.0×10
3M
−1以下であり、好ましくは1.0×10
2M
−1以下、特に好ましくは0であることを意味する。
【0060】
前記フコースα1→6特異的レクチンは、さらに糖鎖No.405の非還元末端にシアル酸を有するα1→6フコース糖鎖に対しても高い親和性を有してもよい。高い親和性とは、結合定数(25℃において)が、好ましくは1.0×10
4M
−1以上、より好ましくは5.0×10
4M
−1以上、さらに好ましくは1.0×10
5M
−1以上を意味する。一方、従来のレクチンは、非還元末端にシアル酸を有するα1→6フコース糖鎖に対して親和性が低いものもある。ここで低い親和性とは、結合定数(25℃において)が1.0×10
3M
−1以下を意味する。
【0061】
前記フコースα1→6特異的レクチンは、さらにα1→6フコースの結合したN結合型の一本鎖、二本鎖、三本鎖及び/又は四本鎖の糖鎖に対する結合定数(25℃において)が、好ましくは1.0×10
4M
−1以上、より好ましくは5.0×10
4M
−1以上、さらに好ましくは1.0×10
5M
−1以上で示される親和性を有する。
【0062】
前記フコースα1→6特異的レクチンのSDS電気泳動法による分子量は、通常、4,000〜40,000であり、好ましくは4,000〜20,000である。ここで、SDS電気泳動法による分子量は、例えばLaemmiの方法(Nature,227巻,680頁,1976年)に準じて測定されるものである。前記レクチンは、サブユニットが、通常、2〜10個、好ましくは2〜6個、さらに好ましくは2〜3個結合したものでもよい。
【0063】
天然物から取得するフコースα1→6特異的レクチンを概説する。上記天然物は、例えば担子菌、子嚢菌等のキノコである。モエギタケ科、キシメジ科、タコウキン科及びテングタケ科は、担子菌に属している。モエギタケ科としては、スギタケ、ツチスギタケ、サケツバタケ、クリタケ、ヌメリスギタケモドキ、ヌメリスギタケ等が挙げられる。キシメジ科としては、コムラサキシメジ等が挙げられる。タコウキン科としては、シロハカワラタケ、ツヤウチワタケ等が挙げられる。テングタケ科としては、ベニテングタケ等が挙げられる。
【0064】
これらの担子菌又は子嚢菌のうち、フコースα1→6特異的レクチンのα1→6フコース糖鎖認識特異性とレクチンの回収効率の観点から、モエギタケ科、キシメジ科又はテングタケ科が特に好ましい。特に好ましくは、スギタケレクチン(PhoSL)、ツチスギタケレクチン(PTL)、サケツバタケレクチン(SRL)、クリタケレクチン(NSL)、コムラサキシメジレクチン(LSL)、及びベニテングタケレクチン(AML)である。表2に、PhoSL、SRL、LSL及びNSLのアミノ酸配列を示す。
【0066】
配列番号1に示すPhoSLは、スギタケから抽出することのできるレクチンである。配列番号1の第10及び17番目のXaaは、任意のアミノ酸残基であってよいが、好ましくはCysである。第20、23、27、33、35及び39番目のXaaは、それぞれ、Tyr/Ser、Phe/Tyr、Arg/Lys/Asn、Asp/Gly/Ser、Asn/Ala、及び、Thr/Glnである。
【0067】
配列番号2に示すSRLは、サケツバタケから抽出することのできるレクチンである。配列番号2の第10及び17番目のXaaは、任意のアミノ酸残基であってよいが、好ましくはCysである。第4、7、9、13、20、27、29、33、34及び39番目のXaaは、それぞれ、Pro/Gly、Glu/Lys、Val/Asp、Asn/Asp/Glu、His/Ser、Lys/His、Val/Ile、Gly/Asn/Ser、Ala/Thr、及び、Arg/Thrである。
【0068】
配列番号3に示すLSLは、コムラサキシメジから抽出することのできるレクチンである。配列番号3の第10及び17番目のXaaは、任意のアミノ酸残基であってよいが、好ましくはCysである。第1、4、7、8、9、13、16、20、22、25、27、31及び34番目のXaaは、それぞれ、Ala/Gln、Pro/Lys、Ala/Ser、Met/Ile/Val、Tyr/Thr、Asp/Asn、Lys/Glu、Ala/Asn、Val/Asp/Asn、Asp/Asn、Arg/His/Asn、Gln/Arg、及び、Thr/Valである。
【0069】
配列番号4に示すNSLは、クリタケから抽出することのできるレクチンである。配列番号4の第10及び17番目のXaaは、任意のアミノ酸残基であってよいが、好ましくはCysである。第13、14及び16番目のXaaは、それぞれ、Asp/Thr、Ser/Ala、及び、Gln/Lysである。
【0070】
配列番号5に示すNSLもまた、クリタケから抽出することのできるレクチンである。配列番号5の第10及び18番目のXaaは、任意のアミノ酸残基であってよいが、好ましくはCysである。第14、15及び17番目のXaaは、それぞれ、Asp/Thr、Ser/Ala、及び、Gln/Lysである。なお、配列番号5は、配列番号4のペプチド中に1個のAsnが挿入され、さらに、C末端に複数のアミノ酸が付加した変異体ともいえる。
【0071】
フコースα1→6特異的レクチンは、(a)配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチドの他に、(b)配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸が欠失、挿入又は置換され、かつ、配列番号1〜5のいずれかに示すアミノ酸配列を有するタンパク質又はペプチドと機能的に同等なタンパク質又はペプチドであってもよい。
【0072】
ここで、「機能的に同等」とは、α1→6フコース糖鎖No.405に対して結合定数(25℃において)が1.0×10
4M
−1以上であり、好ましくは5.0×10
4M
−1以上であり、より好ましくは1.0×10
5M
−1以上、さらに好ましくは2.0×10
5M
−1以上で示される親和性を有することを意味する。配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチドの変異体の一例が、配列番号5に示すアミノ酸配列からなるタンパク質又はペプチドである。
【0073】
フコースα1→6特異的レクチンは、天然物から抽出及び/又は精製することができる。天然物由来のフコースα1→6特異的レクチンの入手方法は、本出願人の出願した特許文献2、及び本出願人の投稿した非特許文献3に詳細に記載されている。なお、特許文献2に記載のツチスギタケレクチン(PTL)をスギタケレクチン(PhoSL)と読み替える。
【0074】
具体的には、水系媒体を抽出溶媒として用いて、担子菌及び/又は子嚢菌の水系媒体抽出物を得る工程を含む。これらの担子菌及び/又は子嚢菌の使用部位は、子実体であることが好ましい。この前記抽出物から、SDS電気泳動法による分子量が、通常、4,000〜40,000、好ましくは4,000〜20,000、及びα1→6フコース糖鎖に対する結合定数(25℃において)が、通常、1.0×10
4M
−1以上、好ましくは5.0×10
4M
−1以上、より好ましくは1.0×10
5M
−1以上、さらに好ましくは2.0×10
5M
−1以上で示される親和性を有するレクチンを得る。
【0075】
フコースα1→6特異的レクチンは、また、上記天然物からの抽出の他に、天然由来のレクチンのアミノ酸配列に基づいて化学合成されたペプチドやタンパク質であってもよい。さらに、化学合成のペプチドやタンパク質は、天然由来のレクチンのアミノ酸配列中の1又は数個のアミノ酸がリジン及び/又はアルギニンで置換されかつ糖結合活性を有するペプチドであってもよい。その合成方法は、本出願人の出願した特許文献3に詳細に記載されている。
【0076】
フコースα1→6特異的レクチンは、また、上記天然物からの抽出の他に、天然由来のレクチンのアミノ酸配列をコードする核酸を用いて天然由来とは異なる公知の宿主内で人工的に発現させたリコンビナントであってもよい。リコンビナントの発現方法は、特許文献4に詳細に記載されている。
【0077】
フコースα1→6親和性レクチンであるAAL、AOL、LCL及びPSLの各種糖鎖(
図1〜2)に対する結合定数(25℃において)を、表3〜6に示す。α1→6フコース特異的レクチンであるPhoSL、SRL、NSL及びLSLの各種糖鎖に対する結合定数(25℃において)もまた、表3〜6に示す。
【0082】
フコースα1→6親和性レクチンのうち、AAL及びAOLは、フコースα1→6糖鎖(糖鎖No.015、201−203、401−418)に結合する一方、フコースα1→6を含まない糖脂質系糖鎖(糖鎖No.718、722、723、727、909、910、933)とも結合する。LCL及びPSLは、フコースα1→6糖鎖に結合するものの、α1→6フコースを含まない糖鎖(糖鎖No.003、005−014)にも結合する。一方、PhoSL等のフコースα1→6特異的レクチンは、フコースα1→6糖鎖に確実に結合し、かつ、α1→6フコースを含まない糖鎖に全く結合しない。しかも、その結合定数(25℃において)は、従来のレクチンよりも大きい(結合定数が1.0×10
4M
−1以上)。さらに、フコースα1→6特異的レクチンは、フコースα1→6糖鎖にシアル酸が付加されていても、結合定数が下がらない(糖鎖No.601、602)。また、フコースα1→6特異的レクチンは、フコースα1→6糖鎖の三本鎖(糖鎖No.407−413)や四本鎖(糖鎖No.418)にも強く結合する。
【0083】
本発明の検出方法は、具体的には、以下のステップ:
(A)前立腺癌が疑われるヒトから採取された尿中のPSAに前記α1→6フコース糖鎖に結合するレクチンと反応させ、PSA−レクチン複合体を得る、及び
(B)前記PSA−レクチン複合体を適宜の手段で検出する
を含む。
【0084】
上記ステップ(A)で得られたPSA−レクチン複合体をステップ(B)で検出するために、前記レクチンは、予め標識手段が組み込まれていることが好ましい。前記標識手段としては、特に制限なく、公知の標識化方法を適用することができ、例えば、放射性同位元素による標識化、標識化合物の結合等を挙げることができる。前記放射性同位元素としては、例えば
14C、
3H及び
32Pが挙げられる。また、前記レクチンと結合する抗レクチン抗体を用いて検出してもよい。
【0085】
前記標識化合物としては、例えば酵素標識(西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等)、ビオチン標識、ジゴキシゲニン標識、蛍光標識(フロオレッセインイソチアシアナート、CyDye(登録商標)、4−アミノ安息香酸エチル(ABEE)、アミノピリジン、アロフィコシアニン、フィコエリスリン等)等を挙げることができる。これらの標識化合物は、常法によりレクチンと結合することができる。特に、ビオチン標識は、感度が高い点で好ましい。
【0086】
上記方法において、前記レクチンと反応したα1→6フコース糖鎖を検出する手段は、特に制限されない。検出手段として、例えば、ELISA(直接吸着法、サンドウィッチ法、及び競合法)、レクチンアフィニティクロマトグラフィー、レクチン染色、レクチンチップ、フローサイトメトリー(FACS)法、凝集法、表面プラズモン共鳴法(例えば、Biacore(登録商標)システム)、電気泳動、ビーズ等を使用可能である。いくつかの代表的な検出方法を、以下に概説する。
【0087】
直接吸着ELISA法では、検体(尿)をプレートに添加して固定化する。次いで、ビオチン標識した前記レクチンを添加して、PSAと前記レクチンとを反応させる。2次標識化合物としてHRP(ホースラディッシュパーオキシダーゼ)標識ストレプトアビジン溶液を添加して、ビオチンとストレプトアビジンとを反応させる。次いで、HRP用発色基質を加えて発色させ、発色強度を吸光光度計で測定する。予め、既知の濃度の糖鎖を含む標準試料によって検量線を作成しておけば、糖鎖の定量化も可能である。
【0088】
サンドイッチELISA法では、PSAと親和性を有する一種以上のレクチンや抗体(例えば抗fPSA抗体)又はその断片をプレートに添加し固定化してから、検体(尿)を添加する。抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体のいずれでもよい。次いで、ビオチン標識した前記レクチンを添加して、尿中のPSAと当該レクチンとを反応させる。この反応により、PSAと当該レクチンとの複合体が生成される。2次標識化合物としてHRP標識ストレプトアビジン溶液を添加して、ビオチンとストレプトアビジンとを反応させる。次いで、HRP用発色基質を加えて発色させ、発色強度を吸光光度計で測定する。予め、既知の濃度の標準試料によって検量線を作成しておけば、α1→6フコース糖鎖の定量化も可能である。
【0089】
レクチンアフィニティクロマトグラフィーは、担体に固定化されたレクチンが糖鎖と特異的に結合する性質を利用したアフィニティクロマトグラフィーである。HPLCと組み合わせることでハイスループットを期待することができる。
【0090】
レクチンの固定化担体としては、アガロース、デキストラン、セルロース、スターチ、ポリアクリルアミド等のゲル材が一般的である。これらには、市販のものを特に制限なく使用でき、例えばセファロース4Bやセファロース6B(共にGEヘルスケアバイオサイエンス社製)が挙げられる。レクチンクロマトグラフィーに用いるカラムとしては、マイクロプレートやナノウエルにレクチンを固定化したものも含まれる。
【0091】
固定化するレクチンの濃度は、通常、0.001〜100mg/mL、好ましくは0.01〜20mg/mLである。担体がアガロースゲルの場合、それをCNBr等で活性化してからレクチンとカップリングさせる。活性化スペーサーを導入したゲルにレクチンを固定化してもよい。さらには、ホルミル基を導入したゲルにレクチンを固定化してからNaCNBH
3で還元してもよい。また、NHS−セファロース(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)のような市販の活性化ゲルを使用してもよい。
【0092】
検体(尿)をカラムに供与した後、洗浄の目的で緩衝液を流す。あるいは、緩衝液中に検体をカラムに供与する。緩衝液の一例は、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グリシン緩衝液等であり、モル濃度が、通常、5〜500mM、好ましくは10〜500mMであり、pHが、通常、4.0〜10.0、好ましくは6.0〜9.0である。また、NaCl含量が、通常、0〜0.5M、好ましくは0.1〜0.2Mであり、CaCl
2、MgCl
2又はMnCl
2含量が、通常、0〜10mM、好ましくは0〜5mMの緩衝液である。
【0093】
アフィニティカラムの洗浄後、糖鎖の溶出は、糖鎖を有効に溶出できる中性の非変性緩衝液中で、塩化ナトリウム、ハプテン糖等の脱着剤を用いて行われる。この緩衝液は、上記と同様であってもよい。脱着剤の濃度は、好ましくは、1〜500mM、特に好ましくは10〜200mMである。
【0094】
ステップ(B)において、尿中のPSAとレクチンとの複合体によるシグナル(反応値)を、グリソンスコア6以下、好ましくは6の患者で得られているシグナル(参照値)と比較することにより、高リスク前立腺癌の発症の有無や、発症の場合の悪性度を評価する。
【0095】
尿中PSAとレクチンとの複合体によるシグナル(反応値)のレベルは、レクチンの種類と尿中PSA濃度に依存する。そこで、PSA標準品(濃度既知)を用いて、PSA濃度とシグナル値との関係を表す検量線を作成することにより、シグナルを規格化することができる。各レクチンにおいて、抗fPSA抗体によるfPSA濃度10ng/mLに対応する反応値を10Uとする。
【0096】
血中PSA値が4ng/mL以上(検査陽性)である患者から採取した尿中PSAと前記フコースα1→6親和性レクチンとの反応値が、通常、197Uより低い場合、当該患者は、前立腺癌を発症している可能性が高い。逆に、前記反応値が、197U以上であれば、前記患者は前立腺肥大症又は前立腺炎症、若しくは精査・治療を要さない前立腺癌(GS6)に基づく血中PSA値の上昇であると予測される。
【0097】
血中PSA値が4ng/mL以上(検査陽性)であるが、20ng/mL未満、特に4ng/mL以上10ng/mL以下であるグレーゾーンの患者から採取した尿中PSAと前記フコースα1→6親和性レクチンとの反応値が、通常、197Uより低い場合、当該患者は、前立腺癌を発症している可能性が高い。逆に、前記反応値が、197U以上であれば、前記患者は前立腺肥大症又は前立腺炎症、若しくは精査・治療を要さない前立腺癌(GS6)であると予測される。
【0098】
血中PSA値が4ng/mL以上(検査陽性)である患者から採取した尿中PSAと前記フコースα1→6特異的レクチンとの反応値が、通常、27Uより低い場合、当該患者は、前立腺癌を発症している可能性が高い。逆に、前記反応値が、27U以上であれば、前記患者は前立腺肥大症又は前立腺炎症、若しくは精査・治療を要さない前立腺癌(GS6)に基づく血中PSA値の上昇であると予測される。
【0099】
血中PSA値が4ng/mL以上(検査陽性)であるが、20ng/mL未満、特に4ng/mL以上10ng/mL以下であるグレーゾーンの患者から採取した尿中PSAと前記フコースα1→6特異的レクチンとの反応値が、通常、28Uより低い場合、当該患者は、前立腺癌を発症している可能性が高い。逆に、前記反応値が、28U以上であれば、前記患者は前立腺肥大症又は前立腺炎症、若しくは精査・治療を要さない前立腺癌(GS6)であると予測される。
【0100】
本発明は、また、PSAからなる高リスク前立腺癌診断用バイオマーカーであって、前記PSAが、
以下の特性:
(1)下記構造式:
【化16】
〔式中、Gal、GlcNAc、Man、及びFucは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、マンノース、及びフコースを意味する〕
を有するα1→6フコース糖鎖No.405に対して結合定数1.0×10
4M
−1以上(25℃において)で示される親和性を有する、
であるα1→6フコース糖鎖に結合するレクチン(フコースα1→6親和性レクチン)で識別可能であることを特徴とする、前記高リスク前立腺癌診断用バイオマーカーを提供する。前記PSAは前立腺癌が疑われるヒトから採取された尿からなる検体に含まれることが好ましい。本発明のバイオマーカーは、前立腺癌の可能性が高いほど、PSA−レクチンからなる複合体の低い検出レベルを示す。
【0101】
本発明は、また、PSAからなる高リスク前立腺癌診断用バイオマーカーであって、前記PSAが、
以下の特性:
(1)下記構造式:
【化17】
〔式中、Gal、GlcNAc、Man、及びFucは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、マンノース、及びフコースを意味する〕
を有するα1→6フコース糖鎖No.405に対して結合定数1.0×10
4M
−1以上(25℃において)で示される親和性を有する、及び
(2)下記構造式:
【化18】
〔式中、GlcNAc、及びManは、それぞれ、N−アセチルグルコサミン、及びマンノースを意味する〕
を有するα1→6フコースを含まない糖鎖No.003、及び下記構造式:
【化19】
〔式中、Gal、GlcNAc、Fuc、及びNeu5Acは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、フコース、及びN−アセチルノイラミン酸を意味する〕
を有するα1→6フコースを含まない糖脂質系糖鎖No.909に対して結合定数1.0×10
4M
−1以下(25℃において)を有する、
を持ったα1→6フコース糖鎖に結合するレクチン(フコースα1→6特異的レクチン)で識別可能であることを特徴とする、前記高リスク前立腺癌診断用バイオマーカーを提供する。前記PSAは前立腺癌が疑われるヒトから採取された尿からなる検体に含まれることが好ましい。本発明のバイオマーカーは、前立腺癌の可能性が高いほど、PSA−レクチンからなる複合体の低い検出レベルを示す。
【0102】
本発明は、また、以下の特性:
(1)下記構造式:
【化20】
〔式中、Gal、GlcNAc、Man、及びFucは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、マンノース、及びフコースを意味する〕
を有するα1→6フコース糖鎖No.405に対して結合定数1.0×10
4M
−1以上(25℃において)で示される親和性を有する、
であるα1→6フコース糖鎖に結合するレクチン(フコースα1→6親和性レクチン)を含む前立腺癌検出用診断薬であって、
前立腺癌が疑われるヒトから採取された尿からなる検体に含まれるPSAと前記レクチンと反応させることを特徴とする、前記高リスク前立腺癌検出用診断薬を提供する。
【0103】
本発明は、また、以下の特性:
(1)下記構造式:
【化21】
〔式中、Gal、GlcNAc、Man、及びFucは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、マンノース、及びフコースを意味する〕
を有するα1→6フコース糖鎖No.405に対して結合定数1.0×10
4M
−1以上(25℃において)で示される親和性を有する、及び
(2)下記構造式:
【化22】
〔式中、GlcNAc、及びManは、それぞれ、N−アセチルグルコサミン、及びマンノースを意味する〕
を有するα1→6フコースを含まない糖鎖No.003、及び下記構造式:
【化23】
〔式中、Gal、GlcNAc、Fuc、及びNeu5Acは、それぞれ、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、フコース、及びN−アセチルノイラミン酸を意味する〕
を有するα1→6フコースを含まない糖脂質系糖鎖No.909に対して結合定数1.0×10
4M
−1以下(25℃において)を有する、
を持ったα1→6フコース糖鎖に結合するレクチン(フコースα1→6特異的レクチン)を含む前立腺癌検出用診断薬であって、
前立腺癌が疑われるヒトから採取された尿からなる検体に含まれるPSAと前記レクチンと反応させることを特徴とする、前記高リスク前立腺癌検出用診断薬を提供する。
【0104】
前記診断薬は、適宜、各種の標識化合物、緩衝液、プレート、ビーズ、反応停止液等の検出キットに汎用のものを含んでもよい。該診断薬は、尿から取得した検体中に含まれるPSAを抽出するための試薬(例えば、抗PSA抗体や抗fPSA抗体又はその断片や類縁体)を含むことが好ましい。
【実施例】
【0105】
以下に、本発明の実施例を示して、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1、比較例1〜3]
1.試料の準備
本発明の検出方法に使用する試薬を、以下の手順で用意した。
(1)固相化用抗fPSA抗体
固相化用抗fPSA抗体として、抗fPSA抗体は、abcam社から購入し、非特許文献3に記載の方法に従って、抗体の糖鎖除去をしたものを使用した。
(2)標準品
検量線を作成するため、fPSA(標準品)をR&D System社から入手した。
(3)検出用抗fPSA抗体
ビオチン標識抗fPSA抗体はR&D System社から入手した。
(4)検出用レクチン
本発明の方法に用いるフコースα1→6特異的レクチンとして、スギタケからスギタケレクチン(PhoSL、配列番号1)を非特許文献3に記載の方法に従って精製した。このスギタケレクチンを量り取り、0.1M 炭酸水素ナトリウム溶液を加え溶解した(濃度5mg/mL)。ジメチルスルホキシドに溶解したビオチン化試薬を、レクチン溶液に加えて反応させた。限外ろ過(3K)を用いて反応液を水に対して溶媒置換した。この液を凍結乾燥してビオチン標識PhoSLを得た。また、フコースα1→6親和性レクチンとして、ビオチン標識ヒイロチャワンタケレクチン(ビオチン標識AAL、株式会社J−オイルミルズ社製)を用意した。
(5)使用する試薬等
(5−1)リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)
リン酸水素二ナトリウム5.75g、リン酸二水素カリウム1.0g、塩化カリウム1.0g、及び塩化ナトリウム40.0gを水5Lに溶解して、PBSを得た。
(5−2)3% ウシ血清アルブミン(BSA)/PBS
ウシ血清アルブミン(BSA、シグマ・アルドリッチ社製)3gを100mLのPBSに溶解して、濃度3%のBSAのPBS溶液(以下、3%BSA/PBSという)を得た。
(5−3)1% ウシ血清アルブミン(BSA)/PBS
ウシ血清アルブミン(BSA、シグマ・アルドリッチ社製)1gを100mLのPBSに溶解して、濃度1%のBSAのPBS溶液(以下、1%BSA/PBSという)を得た。
(6)被験者試料
被験者試料として、大阪大学医学部付属病院で前立腺癌患者にインフォームドコンセントを行なった後、収集された尿を使用した。各検体には、患者の血中PSA値及びグリソンスコアの情報が付記されていた。被験者試料の内容を表7に示す。
【0106】
【表7】
【0107】
Negativeとは、血中PSA値が高かったが、前立腺の生検で前立腺癌が見つからなかった群である。しかし、Negativeであっても、生検の感度の問題から、5%〜30%の確率で前立腺癌が含まれていると予想される。
【0108】
2.サンドイッチELISAの手順
(1)抗体固定化
糖鎖除去した抗fPSA抗体をPBSで1μg/mLに希釈した。この希釈液50μLを、ELISAプレートの各ウェルに添加し、37℃で12時間放置後、添加液を廃棄した。
(2)洗浄
0.1% Tween20(製品名:ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ナカライ社製)添加PBS 250μLを各ウェルに添加した後、添加液を廃棄した。この操作を合計3回繰り返した。
(3)ブロッキング
3% BSA/PBS 200μLを各ウェルに添加して、37℃で1時間放置後、添加液を廃棄した。
(4)洗浄
0.1% Twee20添加PBS 250μLを各ウェルに添加し、添加液を廃棄した。この操作を合計3回繰り返した。
(5)抗原抗体反応
被験者の尿50μL、各ウェルに添加し、室温で1時間放置後、添加液を廃棄した。
(6)洗浄
0.1% Tween20添加PBS 250μLを各ウェルに添加した後、添加液を廃棄した。この操作を合計3回繰り返した。
(7)抗fPSA抗体はたはレクチンの反応
PBSで濃度1μg/mLに希釈されたビオチン標識抗fPSA抗体を50μL、各ウェルに添加して、4℃で30分間放置後、添加液を廃棄した。同様に、1%BSA/PBS溶液で濃度1μg/mLに希釈されたビオチン標識PhoSL又はビオチン標識AALを50μL、各ウェルに添加して、4℃で30分間放置後、添加液を廃棄した。
(8)洗浄
0.1% Twee20添加PBS 250μLを各ウェルに添加し、添加液を廃棄した。この操作を合計3回繰り返した。
(9)HRP標識ストレプトアビジン反応
西洋ワサビペルオキジダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジン溶液(ベクター社製、濃度1μg/mL 1%BSA/PBS)を50μL、ウェルに添加し、室温で1時間放置後、添加液を廃棄した。
(10)洗浄
0.1% Twee20添加PBS 250μLを各ウェルに添加し、添加液を廃棄した。この操作を合計3回繰り返した。
(11)発色反応
HRP用発色基質(製品名:TMB、KPL社製)を50μL、各ウェルに添加し、室温で15分間放置した。
(12)反応停止
1M 硫酸を50μL添加し、反応を停止させた。
(13)吸光度測定
プレートリーダーを用いて波長450nm及び630nmの吸光度(Ab)を測定し、Ab
450からAb
630を引いた値を反応値(Ab
450−630)として求めた。
【0109】
ユニットの算出を以下のようにおこなった。被験者の尿に変えて、標準品(fPSA)をPBSで0〜40ng/mlになるように調製し、ビオチン標識抗fPSA抗体でのシグナル(反応値)をプロットした検量線を作成した。
当該検量線で、fPSA濃度10ng/mLに対応する反応値(Ab
450−630)を算出した。fPSA濃度10ng/mLに対応するビオチン標識抗fPSA抗体の反応値(Ab
450−630)を10Uとした。ビオチン標識PhoSL又はビオチン標識AALで検出した場合は、上記10Uと同じ反応値(Ab
450−630)を10Uとした。
【0110】
Negative及びGS6群、並びにGS7〜9群の二群における尿中fPSAのPhoSL反応値、尿中fPSAのAAL反応値、及び尿中fPSAの抗fPSA抗体の反応値、並びに血中PSA値(PSA検査値)を、表8に示す。
【0111】
尿中fPSAとPhoSL又はAALとの反応性とグリソンスコアとの関係を、さらに検討した。グリソンスコアに基づく群分けと各群の測定人数、PhoSL及びAAL反応値を表8に示す。比較のため、尿中fPSAと抗fPSA抗体との反応値(比較例1)及び血中PSA値(比較例2)を併記する。
【0112】
【表8】
【0113】
表8において、血中PSA値は、グリソンスコアの上昇に伴い上昇する傾向があるものの、あまり有意ではない。尿中fPSAと抗fPSA抗体との反応値は、グリソンスコアの上昇に伴い低下する傾向があるものの、あまり有意ではない。一方、PhoSL及びAAL反応値は、グリソンスコアの上昇に伴い有意に低下する傾向を有する。特に、PhoSL反応値は、明確に低下することが明らかとなった。
【0114】
実施例1及び2のレクチン反応値を規格化すると、PhoSL又はAALの反応値が27U又は197Uである規格値以上であれば、グリソンスコアが低いことが予知される。よって、グレーゾーンのリスク群の患者の場合、レクチン反応値が規格値以上であれば、生検を行なわくてもよいことが示唆される。一方、レクチン反応値が規格値より低ければ、グリソンスコアが高いことが予知される。グレーゾーンのリスク群の患者の場合、レクチン反応値が規格値より低ければ、グリソンスコアが高く、詳細な診断のために前立腺の生検実施の必要性が示唆される。
【0115】
上記結果から、ROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)を作成した。その結果を
図3に示す。
【0116】
ROC曲線から得られたAUC(ROC曲線下面積)を表9に示す。AUCは、0.5〜1.0の値を取り、1.0に近いほど、予測能・診断能が高い。
【0117】
【表9】
ROC曲線の結果から、実施例1のPhoSLと実施例2のAALが、比較例1の抗fPSA抗体と比べて前立腺癌検出の特異度が高く、特にPhoSLの特異度が高いことがわかった。
【0118】
[実施例3〜4、比較例3〜4]
実施例1及び2、並びに比較例1及び2の結果を、血中PSA値が20ng/mL未満(以下、「<20ng/mL」と記載する)の被験者に限定して整理した。Negative及びGS6群、並びにGS7〜9群の二群(ただし血中PSA値<20ng/mL)における尿中fPSAのPhoSL反応値(実施例3)、尿中fPSAのAAL反応値(実施例4)、及び尿中fPSAの抗fPSA抗体反応値(比較例3)、並びに血中PSA値(比較例4)を、表10に示す。
【0119】
血中PSA値が陽性、かつ<20ng/mLの群に限定して、尿中fPSAとPhoSL又はAALとの反応性と、グリソンスコアとの関係を詳細に検討した。グリソンスコアにおける群分けと各群の対象人数、PhoSL及びAAL反応値を表10に示す。比較のため、各群の抗fPSA抗体反応値及び血中PSA値も表10に示す。
【0120】
【表10】
【0121】
表10において、比較例4の血中PSA値とグリソンスコアとの間には、相関関係が見つからなかった。比較例3の抗fPSA抗体反応値は、グリソンスコアが上昇するにつれて低下しているものの、有意差は見られない。一方、実施例3のPhoSL反応値及び実施例4のAAL反応値は、グリソンスコアの上昇に伴い有意に低下している。よって、検体を、血中PSA値が4ng/mL以上(生検の検査陽性)、かつ20ng/mL未満のグレーゾーン群に限定した場合にも、尿中PSAをα1→6フコース糖鎖に結合するレクチンで検出することが有効である。
【0122】
PhoSL反応値とAAL反応値とを比べると、PhoSL反応値の方がAAL反応値よりも明確に区別できる。PhoSLのようなフコースα1→6特異的レクチンは、血中PSA値で<20ng/mLのグレーゾーン群に最も有効であるといえる。
【0123】
実施例3及び4のレクチン反応値を規格化すると、PhoSL又はAALの反応値が28U又は197Uである規格値以上であれば、グリソンスコアが低いことが予知される。よって、グレーゾーンのリスク群の患者の場合、レクチン反応値が規格値以上であれば、生検を行なわなくてもよいことが示唆される。一方、レクチン反応値が規格値より低ければ、グリソンスコアが高いことが予知される。グレーゾーンのリスク群の患者の場合、レクチン反応値が規格値より低ければ、グリソンスコアが高く、詳細な診断のために前立腺の生検実施の必要性が示唆される。
【0124】
血中PSA値を20ng/mL未満の群に限定した場合、PhoSL(実施例3)及びAAL(実施例4)では、GS7〜9群の反応値が、Negative及びGS6群よりも低くなることがわかった。抗fPSA抗体(比較例3)及び血中PSA(比較例4)では、そのような差は見られなかった。このことから、血中PSA値が4ng/mL以上20ng/mL未満のリスク群(グレーゾーンの患者)に対しては、尿中fPSAに対するPhoSL又はAALの反応性を測定することで、前立腺の生検実施の必要性を判断する指標とすることができる。
【0125】
上記結果に基づいて、ROC曲線を作成した。その結果を
図4に示す。また、ROC曲線から得られたAUC(ROC曲線下面積)を表11に示す。
【表11】
【0126】
表11のAUCから、前立腺癌検出の特異度は、実施例3の尿中fPSAとPhoSLとの反応値で最も高いことがわかる。
【0127】
AUCに関して、実施例1と比較例2との差分(表9)と、実施例3と比較例4との差分(表11)とを比べると、表11の差分の方が大きい。このことから、PhoSLのようなフコースα1→6特異的レクチンは、血中PSA値<20ng/mLのグレーゾーンの患者に最も有効であるといえる。