(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記負極活物質層が、結着剤として、アクリル酸アルカリ金属中和物およびメタクリル酸アルカリ金属中和物からなる群より選択される少なくとも1種のエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物とビニルアルコールとの共重合体を含む、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
前記負極活物質層の厚みをT[μm]とすると、前記負極活物質層に含まれる前記結着剤の全量(100質量%)に対して、前記集電体側から厚みT/2[μm]の領域に存在する前記結着剤の含有量が25〜50質量%、前記負極活物質層表面側から厚みT/2[μm]の領域に存在する前記結着剤の含有量が50〜75質量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
前記無機化合物が、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、タルク、ベントナイト、ゼオライト、カオリン、マイカ、モンモリロナイト及びガラスからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
前記高分子基材が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、及びエチレン−プロピレン共重合体からなる群より選ばれた少なくとも1種の高分子の基材である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
前記負極活物質層が導電助剤を含み、該層に含まれる前記負極活物質、前記結着剤及び前記導電助剤の合計量(100質量%)に対して、前記結着剤の含有量が0.5〜15質量%、前記導電助剤の含有量が5質量%以下である請求項1〜8のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
前記正極活物質層が導電助剤を含み、該層に含まれる前記正極活物質、前記結着剤及び前記導電助剤の合計量(100質量%)に対して、前記結着剤の含有量が0.5〜30質量%、前記導電助剤の含有量が0.1〜30質量%である請求項1〜9のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るリチウムイオン二次電池及びこれを用いた電気機器の実施形態について説明する。
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極活物質層を有する正極と、負極活物質層を有する負極とを、非水電解液を含浸したセパレータを介して備え(好ましくは、当該正極と負極とを当該セパレータを介して積層または巻回した密閉電池であり)、前記正極と前記負極がそれぞれ、活物質(負極活物質又は正極活物質)が結着剤により集電体上に担持されてなる電極であり、前記負極活物質層が、結着剤として、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を含む。さらに、正極活物質層は、結着剤として、公知のリチウムイオン二次電池電極用結着剤(例えばPVDFなど)を含んでもよいし、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を含んでもよい。負極に含まれる当該共重合体と、正極に含まれる当該共重合体とは、同一であっても異なっていてもよい。
【0017】
なお、特に制限はされないが、電極(前記負極及び前記正極)は、集電体(特に板又は箔状の材料からなる集電体)の片面又は両面に活物質が結着剤により担持されてなることが好ましい。この場合、電極は、集電体と活物質層の2層構造、若しくは集電体を活物質層で挟んだ構造(サンドイッチ構造)をとる。また、電極の形状としても特に制限はされず、上記構造を備える範囲において、不定形状を含む種々の形状をとることができる。例えば、平板、巻回(特に円筒)形状を好ましくとることができる。
【0018】
本発明において、活物質層は、集電体上に積層されており、より詳しくは、活物質と、結着剤と、必要に応じてさらに導電助剤を含む層である。積層は、例えば、活物質と、結着剤と、必要に応じてさらに導電助剤を含む混合物(電極用合剤)を塗工することで形成することができる。また、セパレータは、高分子基材に無機化合物を含んでなるもの、又は、融点若しくはガラス転移温度が140℃以上の高分子からなるものである。
【0019】
このような構造のリチウムイオン二次電池は、短絡したとしても、瞬間的に完全放電することがなく、電池温度の上昇を抑制することが可能である。
【0020】
機械的要因による内部短絡とは、釘刺し、異物混入、圧壊などにより、正極と負極が接触することによる短絡を意味する。なお、ここでの接触には、釘や異物等を介して電気的に正極と負極が接続されることも包含される。
【0021】
以下、各電極材料要素について詳述する。
(結着剤)
結着剤は、活物質同士、あるいは活物質と集電体とを結着するために用いられる。例えば、活物質及び結着剤を含む電極用合剤(スラリー状である場合、特に電極スラリーとよぶ)を調製し、集電体上に当該電極用合剤を塗布し、乾燥させることで、良好な活物質層を形成することができる。
【0022】
一般的にはリチウムイオン二次電池電極作製のための結着剤として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やスチレンブタジエンラバー(SBR)などが使用されている。本発明においては、負極の結着剤として少なくともビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を用いる。正極においては、公知の結着剤(例えばPVDF)を用いてもよいし、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を好ましく用いることもできる。本発明の結着剤は、電極(正極及び負極)の活物質をコーティングし、電池性能の低下なしに電極内の短絡を防ぐ物質として機能していると考えられる。
【0023】
ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体は、例えば、ビニルエステルとエチレン性不飽和カルボン酸エステルとを共重合させて得られた共重合体を、アルカリ金属を含むアルカリの存在下、水性有機溶媒と水の混合溶媒中でケン化することによって得ることができる。すなわち、ビニルアルコール自体は不安定であるため直接モノマーとして使用することはできないが、ビニルエステルをモノマーとして使用して得られた重合体をケン化することにより、生成された重合体は結果としてビニルアルコールをモノマーとして重合させた態様となる。
【0024】
前記ビニルエステルとしては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられるが、ケン化反応が進行しやすいことから酢酸ビニルが好ましい。これらのビニルエステルは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
前記エチレン性不飽和カルボン酸エステルとしては、例えばアクリル酸またはメタクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、n−プロピルエステル、iso−プロピルエステル、n−ブチルエステル、t−ブチルエステルなどが挙げられ、ケン化反応が進行しやすいことからアクリル酸メチル、メタクリル酸メチルが好ましい。これらのエチレン性不飽和カルボン酸エステルは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
また、必要に応じてビニルエステル及びエチレン性不飽和カルボン酸エステルと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体や架橋剤を更に共重合することも可能である。また、当該共重合体以外にも、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)あるいはポリビニルアルコール(PVA)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)のような他の共重合体等も併せて使用することが可能である。
【0027】
本実施形態におけるケン化反応の一例として、酢酸ビニル/アクリル酸メチル共重合体が水酸化カリウム(KOH)により100%ケン化されたときのケン化反応を以下に示す。
【0029】
なお、上に示すように本実施形態に係るビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体は、ビニルエステルとエチレン性不飽和カルボン酸エステルをランダム共重合させて、モノマー由来のエステル部分をケン化させた物質であり、モノマー同士の結合はC−C共有結合である。(以下、ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物と記載する場合がある。また、ここでの「/」はランダム共重合していることを示す。)
【0030】
本実施形態のビニルエステルとエチレン性不飽和カルボン酸エステルとの共重合体においては、ビニルエステルとエチレン性不飽和カルボン酸エステルのモル比は、9:1〜1:9が好ましく、8:2〜2:8がより好ましい。9:1〜1:9の範囲を逸脱するとケン化後得られる重合体は、結着剤としての保持力が不足するおそれがある。
【0031】
したがって、得られるビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との前記共重合体において、その共重合組成比(ビニルアルコール:エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物)はモル比で9:1〜1:9が好ましく、8:2〜2:8がより好ましい。
【0032】
エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物としては、アクリル酸アルカリ金属中和物及びメタクリル酸アルカリ金属中和物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。また、エチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物のアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等が例示できるが、好ましくはカリウム及びナトリウムである。特に好ましいエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物は、アクリル酸ナトリウム中和物、アクリル酸カリウム中和物、メタクリル酸ナトリウム中和物、及びメタクリル酸カリウム中和物からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0033】
ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体の前駆体であるビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体は、粉末状で共重合体が得られる観点から、重合触媒を含む分散剤水溶液中にビニルエステルおよびエチレン性不飽和カルボン酸エステルを主体とする単量体を懸濁させた状態で重合させて重合体粒子とする懸濁重合法により得られたものが好ましい。
【0034】
前記重合触媒としては、例えばベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシドなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物が挙げられ、とりわけラウリルパーオキシドが好ましい。
【0035】
重合触媒の添加量は、単量体の総質量に対して、0.01〜5質量%が好ましく、0.05〜3質量%がより好ましく、0.1〜3質量%がさらに好ましい。0.01質量%未満では、重合反応が完結しない場合があり、5質量%を超えると最終的に得られるビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体の結着効果が十分でない場合がある。
【0036】
重合を行わせる際の前記分散剤は、使用する単量体の種類、量などにより適当な物質を選択すればよいが、具体的にはポリビニルアルコール(部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール)、ポリ(メタ)アクリル酸およびその塩、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの水溶性高分子;リン酸カルシウム、珪酸マグネシウムなどの水不溶性無機化合物などが挙げられる。これらの分散剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
分散剤の使用量は、使用する単量体の種類などにもよるが、単量体の総質量に対して、0.01〜10質量%が好ましく、0.05〜5質量%がより好ましい。
【0038】
さらに、前記分散剤の界面活性効果などを調整するため、アルカリ金属、アルカリ土類金属などの水溶性塩を添加することもできる。例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化リチウム、無水硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三ナトリウム及びリン酸三カリウムなどが挙げられ、これらの水溶性塩は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
水溶性塩の使用量は、使用する分散剤の種類、量などにもよるが、分散剤水溶液の質量に対して通常0.01〜10質量%である。
【0040】
単量体を重合させる温度は、重合触媒の10時間半減期温度に対して−20〜+20℃が好ましく、−10〜+10℃がより好ましい。例えば、ラウリルパーオキシドの10時間半減期温度は約62℃である。
【0041】
10時間半減期温度に対して−20℃未満では、重合反応が完結しない場合があり、+20℃を超えると、得られるビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体の結着効果が十分でない場合がある。
【0042】
単量体を重合させる時間は、使用する重合触媒の種類、量、重合温度などにもよるが、通常数時間〜数十時間である。
【0043】
重合反応終了後、共重合体は遠心分離、濾過などの方法により分離され、含水ケーキ状で得られる。得られた含水ケーキ状の共重合体はそのまま、もしくは必要に応じて乾燥し、ケン化反応に使用することができる。
【0044】
本明細書における重合体の数平均分子量は、溶媒としてDMFを用いGFCカラム(例えばShodex社製、OHpak)を備えた分子量測定装置にて求めた値である。このような分子量測定装置としては、例えばウォーターズ社製2695、RI検出器2414が挙げられる。
【0045】
ケン化前の共重合体の数平均分子量は、10,000〜10,000,000が好ましく、50,000〜5,000,000がより好ましい。ケン化前の共重合体の数平均分子量を10,000〜10,000,000の範囲内にすることで、結着剤としての結着力がより向上する傾向がある。従って、電極用合剤がスラリーであっても、スラリーの厚塗りが容易になる。
【0046】
ケン化反応は、例えば、アルカリ金属を含むアルカリの存在下、水性有機溶媒のみ、又は水性有機溶媒と水との混合溶媒中で実施することができる。前記ケン化反応に使用するアルカリ金属を含むアルカリとしては、公知のものを使用することができるが、アルカリ金属水酸化物が好ましく、反応性が高いという観点より、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが特に好ましい。
【0047】
前記アルカリの量は、単量体の総モル数に対して60〜140モル%が好ましく、80〜120モル%がより好ましい。60モル%より少ないアルカリ量ではケン化が不十分となる場合があり、140モル%を超えて使用してもそれ以上の効果が得られず経済的でない。
【0048】
前記ケン化反応には、水性有機溶媒のみ、又は水性有機溶媒と水との混合溶媒を用いることが好ましい。当該水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノールなどの低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;およびこれらの混合物などが挙げられるが、なかでも低級アルコール類が好ましく、優れた結着効果と機械的せん断に対して優れた耐性を有するビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体が得られることから、特にメタノールおよびエタノールが好ましい。
【0049】
前記水性有機溶媒と水との混合溶媒における水性有機溶媒と水の質量比(水性有機溶媒:水)は、2:8〜10:0が好ましく、3:7〜8:2がより好ましい。2:8〜10:0の範囲を逸脱する場合、ケン化前の共重合体の溶媒親和性またはケン化後の共重合体の溶媒親和性が不足し、充分にケン化反応を進行させることができないおそれがある。水性有機溶媒が2:8の比率より少ない場合、結着剤としての結着力が低下するだけでなく、ケン化反応の際に著しく増粘するため工業的にビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物を得ることが難しくなる。
【0050】
ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体をケン化させる温度は、単量体のモル比にもよるが、20〜80℃が好ましく、20〜60℃がより好ましい。20℃より低い温度でケン化させた場合、ケン化反応が完結しないおそれがあり、80℃を超える温度の場合、アルカリによる分子量低下などの副反応が生じるおそれがある。
【0051】
ケン化反応の時間は、使用するアルカリの種類、量などにより異なるが、通常数時間程度で反応は終了する。
【0052】
ケン化反応が終了した時点で通常、ペースト又はスラリー状の共重合体ケン化物の分散体となる。遠心分離、濾過など従来公知の方法により固液分離し、メタノールなどの低級アルコールなどでよく洗浄して得られた含液共重合体ケン化物を乾燥することにより、球状単一粒子または球状粒子が凝集した凝集粒子として共重合体ケン化物、すなわちビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を得ることができる。
【0053】
前記ケン化反応以降において、塩酸、硫酸、燐酸、硝酸などの無機酸;ギ酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸などの有機酸等の酸を用いて共重合体ケン化物を酸処理した後に、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化フランシウムなど任意のアルカリ金属を用いて、異種の(つまり、アルカリ金属が異なる)、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物の共重合体を得ることもできる。
【0054】
含液共重合体ケン化物を乾燥する条件は、通常、常圧もしくは減圧下、30〜120℃の温度で乾燥することが好ましい。
【0055】
乾燥時間は、乾燥時の圧力、温度にもよるが通常数時間〜数十時間である。
【0056】
ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体の体積平均粒子径は、1μm以上200μm以下であることが好ましく、10μm以上100μm以下であることがより好ましい。1μm未満では結着効果が十分でなく、200μmを超えると水系増粘液が不均一になり結着効果が低下する場合がある。なお、共重合体の体積平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、SALD−7100)に回分セル(同社製、SALD−BC)を設置し、分散溶媒に2−プロパノールまたはメタノールを用い測定した値である。
【0057】
含液共重合体ケン化物を乾燥し、得られた共重合体ケン化物の体積平均粒子径が200μmを超える場合は、メカニカルミリング処理などの従来公知の粉砕方法にて粉砕することにより、体積平均粒子径を1μm以上200μm以下に調整することができる。
【0058】
メカニカルミリング処理とは、衝撃・引張り・摩擦・圧縮・せん断等の外力を、得られた共重合体ケン化物に与える方法で、そのための装置としては、転動ミル、振動ミル、遊星ミル、揺動ミル、水平ミル、アトライターミル、ジェットミル、擂潰機、ホモジナイザー、フルイダイザー、ペイントシェイカー、ミキサー等が挙げられる。例えば、遊星ミルは、共重合体ケン化物とボールとを共に容器に入れ、自転と公転をさせることによって生じる力学的エネルギーにより、共重合体ケン化物粉末を粉砕又は混合させるものである。この方法によれば、ナノオーダーまで粉砕されることが知られている。
【0059】
ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体の結着剤における増粘効果としては、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を1質量%含む水溶液の粘度が50mPa・s〜10000mPa・sであることが好ましく、50〜5000mPa・sであることがより好ましい。前記粘度が50mPa・s未満であると、作製したスラリー状電極用合剤の粘度が低くなり過ぎて集電体へ塗工する際に合剤が広がってしまい塗工が困難となることや、合剤中の活物質や導電助剤の分散性が悪くなるおそれがある。一方、前記粘度が10000mPa・sを超えると、作製した合剤の粘度が高過ぎて集電体に薄く均一に塗工することが困難となる場合がある。
【0060】
なお、前記1質量%水溶液の粘度は、BROOKFIELD製回転粘度計(型式DV−I+)、スピンドルNo.5、50rpm(液温25℃)にて測定した値である。
【0061】
ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体は、結着力と結着持続性に優れるリチウムイオン二次電池電極用結着剤として機能し得る。その理由としては、限定的な解釈を望むものではないが、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体は、集電体と活物質および活物質同士を強固に結着し、充放電の繰り返しに起因する活物質の体積変化によって集電体から電極用合剤が剥離したり、活物質が脱落したりすることがないような結着持続性を有することで、活物質の容量を低下させることがないためであると考えられる。
【0062】
本実施形態のリチウムイオン二次電池電極用合剤(好ましくは電極スラリー)には、結着剤として、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体とは異なる他の水系結着剤等を加えてもよい。この場合の他の水系結着剤等の含有量は、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体と他の水系結着剤等との合計質量に対して80質量%未満であることが好ましい。すなわち、電極用合剤に含まれる全結着剤におけるビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体の含有割合は、20質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0063】
他の水系結着剤等の材料としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル樹脂、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ポリイミド(PI)、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、等の材料を1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
上記の他の水系結着剤等のうち、アクリル樹脂、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミドが好適に用いられ、アクリル樹脂が特に好適に用いられる。
【0065】
(正極活物質)
正極活物質としては、本技術分野で使用される正極活物質が使用できる。例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO
4)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO
4)、ピロリン酸鉄(Li
2FeP
2O
7)、コバルト酸リチウム複合酸化物(LiCoO
2)、スピネル型マンガン酸リチウム複合酸化物(LiMn
2O
4)、マンガン酸リチウム複合酸化物(LiMnO
2)、ニッケル酸リチウム複合酸化物(LiNiO
2)、ニオブ酸リチウム複合酸化物(LiNbO
2)、鉄酸リチウム複合酸化物(LiFeO
2)、マグネシウム酸リチウム複合酸化物(LiMgO
2)、カルシウム酸リチウム複合酸化物(LiCaO
2)、銅酸リチウム複合酸化物(LiCuO
2)、亜鉛酸リチウム複合酸化物(LiZnO
2)、モリブデン酸リチウム複合酸化物(LiMoO
2)、タンタル酸リチウム複合酸化物(LiTaO
2)、タングステン酸リチウム複合酸化物(LiWO
2)、リチウム−ニッケル−コバルト−アルミニウム複合酸化物(LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2)、リチウム−ニッケル−コバルト−マンガン複合酸化物(LiNi
xCo
yMn
1−x−yO
2 ここで0<x<1,0<y<1,x+y<1)、Li過剰系ニッケル−コバルト−マンガン複合酸化物、酸化マンガンニッケル(LiNi
0.5Mn
1.5O
4)、酸化マンガン(MnO
2)、バナジウム系酸化物、硫黄系酸化物、シリケート系酸化物、等が好適に使用される。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
(負極活物質)
負極活物質としては、特に限定はなく、リチウムイオンを吸蔵放出可能な材料を用いることができる。例えば、Li、Na、C(例えば黒鉛等)、Mg、Al、Si、P、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、W、Pb及びBiよりなる群から選ばれた少なくとも1種以上の元素、これらの元素を用いた合金、酸化物、カルコゲン化物又はハロゲン化物等を挙げることができる。このような材料であれば、単体、合金、化合物、固溶体のいずれであってもよい。なお、負極活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0067】
なかでも、放電プラトーの領域が0〜1V(対リチウム電位)の範囲内に観測でき、サイクル寿命特性の観点から、Cがより好ましい。Cには、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボンなどの炭素材料があげられる。
【0068】
また、これらの炭素材料と、他のリチウムを可逆的に吸蔵・放出することが可能な材料とを、混合または複合化した材料であってもよい。具体的には、グラファイトとSiを複合化したケイ素含有材料や、ハードカーボンとSnを複合化したスズ含有材料を含む複合活物質等に用いると、より好ましく本実施形態の効果を発揮させることができる。
【0069】
(導電助剤)
導電助剤は、電子導電性を有していれば、特に限定されることはないが、炭素粉末が好ましい。炭素粉末としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、黒鉛、カーボンファイバー、カーボンチューブ、グラフェン、非晶質炭素、ハードカーボン、ソフトカーボン、グラッシーカーボン、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ(CNT)等の炭素材料が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。これらの中でも導電性向上の観点から、カーボンナノファイバーおよびカーボンナノチューブが好ましく、カーボンナノチューブがより好ましい。導電助剤としてカーボンナノチューブを使用する場合、その含有量については、特に限定的ではないが、例えば、導電助剤全体の30〜100質量%が好ましく、40〜100質量%がより好ましい。カーボンナノチューブの含有量が30質量%未満では電極活物質と集電体の間に十分な導電経路が確保されず、特に高速充放電において十分な導電経路を形成することができない場合があるため好ましくない。なお、カーボンナノファイバーとは、太さが数nm〜数百nmの繊維状材料を言う。中空構造を有するものを特にカーボンナノチューブと言い、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブなどの種類がある。これらは気相成長法、アーク放電法、レーザー蒸発法などの種々方法により製造されるがその方法は問わない。
【0070】
(分散助剤)
前記電極用合剤には、さらに必要に応じて分散助剤が含まれていてもよい。分散助剤が含まれることにより合剤中での活物質や導電助剤の分散性が好ましく高まる。分散助剤としては、pH7以上13以下の水溶液に可溶な、分子量が100,000以下の有機酸が好ましい。これらの有機酸の中でも、カルボキシル基と、ヒドロキシ基、アミノ基またはイミノ基の少なくとも1つを含んでいることが好ましい。特に限定されるものではないが、具体例として、乳酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グリコール酸、タルトロン酸、グルクロン酸、フミン酸などのカルボキシル基とヒドロキシ基とを有する化合物類;グリシン、アラニン、フェニルアラニン、4−アミノ酪酸、ロイシン、イソロイシン、リシン、などのカルボキシル基とアミノ基とを有する化合物類;グルタミン酸、アスパラギン酸などの複数のカルボキシル基とアミノ基とを有する化合物類;プロリン、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン、ピペコリン酸などのカルボキシル基とイミノ基とを有する化合物類;グルタミン、アスパラギン、システイン、ヒスチジン、トリプトファンなどのカルボキシル基とヒドロキシ基及びアミノ基以外の官能基とを有する化合物類が挙げられる。これらの中でも、入手のしやすさの観点から、グルクロン酸、フミン酸、グリシン、アスパラギン酸、グルタミン酸が好ましい。
【0071】
前記分散助剤の特徴として、水分散のリチウムイオン二次電池電極用スラリーは、活物質由来の水酸化リチウム、結着剤由来のアルカリ成分などの影響によりスラリーがpH7以上となることがあるため、当該分散助剤はpH7以上の水溶液に溶けることが重要である。
【0072】
当該分散助剤の分子量としては、水溶性であることの観点から、分子量100,000以下であることが好ましい。分子量が100,000を超えると、分子の疎水性が強くなり、スラリーの均一性が損なわれるおそれがある。
【0073】
<電極>
電極は、本技術分野で使用される手法を用いて作製することができる。例えば、電極用合剤を、集電体上に備えさせることにより、作製することができる。より具体的には、例えば当該電極用合剤を集電体上に塗布(及び必要に応じて乾燥)させることにより作製することができる。さらに、プレス機(例えばロールプレス機)により、合剤の塗膜を集電体に密着接合させてもよい。この場合、当該電極は、集電体上に当該合剤層(当該合剤を含む層)を備える、ということもできる。電極は、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するための部材である。充放電に伴って電極中の活物質の酸化反応や還元反応が起こる。負極は、充電時にリチウムイオンを吸蔵あるいはリチウム化し、放電時は、リチウムを放出あるいは脱リチウム化する反応が起こる電極である。正極は、充電時にリチウムイオンを放出あるいは脱リチウム化し、放電時には、リチウムを吸蔵あるいはリチウム化する反応が起こる電極である。
【0074】
(集電体)
負極の集電体は、電子伝導性を有し、保持した負極活物質に通電し得る材料であれば特に限定されない。例えば、C、Cu、Ni、Fe、V、Nb、Ti、Cr、Mo、Ru、Rh、Ta、W、Os、Ir、Pt、Au、AI等の導電性物質、これら導電性物質の2種類以上を含有する合金(例えば、ステンレス鋼)を使用し得る。あるいは、導電性物質に異なる導電性物質をめっきしたもの(例えばFeにCuをめっきしたもの)であってもよい。電気伝導性が高く、電解液中の安定性と耐酸化性がよい観点から、集電体としては、Cu、Ni、ステンレス鋼等が好ましく、さらに材料コストの観点からCu、Niが好ましい。
【0075】
また、正極の集電体は、電子伝導性を有し、保持した正極材料に通電し得る材料であれば特に限定されない。例えば、C、Ti、Cr、Mo、Ru、Rh、Ta、W、Os、Ir、Pt、Au、Al等の導電性物質、これら導電性物質の2種類以上を含有する合金(例えば、ステンレス鋼)を使用し得る。電気伝導性が高く、電解液中の安定性と耐酸化性がよい観点から、集電体としてはC、Al、ステンレス鋼等が好ましく、さらに材料コストの観点からAlが好ましい。
【0076】
特に制限されないが、集電体の形状は、板又は箔状のものが好ましく、上記材料からなる板又は箔が好ましく例示できる。
【0077】
(負極)
負極は、例えば、負極活物質と、結着剤、水および必要に応じて添加される導電助剤や分散助剤とを混合したもの(負極用合剤)、好ましくはスラリー化したもの(負極用スラリー)、を集電体に塗付し、仮乾燥させた後、熱処理を行うことで得ることができる。
【0078】
スラリーの作製時における結着剤は、あらかじめ水に溶かして用いてもよいし、活物質、導電助剤、結着剤、分散助剤の粉末をあらかじめ混合し、その後に水を加え混合してもよい。
【0079】
水は、結着剤を溶解し、活物質や導電助剤を分散させる媒体として用いられる。スラリーは、活物質や導電助剤の分散性を高めるため、分散助剤を添加することが好ましい。
【0080】
スラリーの固形分(負極活物質、結着剤、並びに必要に応じて添加される導電助剤や分散助剤)の濃度は、特に限定されないが、例えば、スラリー中の固形分の合計を100質量%とした場合、20質量%以上80質量%以下が好ましく、30質量%以上70質量%以下がより好ましい。上記の固形分濃度のスラリーであれば、取り扱いが容易であり、電極乾燥時に電極活物質層にクラックが発生しにくい。
【0081】
電極乾燥は、スラリー内の溶媒が揮発除去できる方法であれば特に限定されないが、例えば、大気中50〜300℃の温度雰囲気下で熱処理を行う方法を挙げることができる。乾燥方法には、自然乾燥、温風乾燥、加熱乾燥等、遠赤外線放射乾燥などがあり、どの方法を用いてもよい。
【0082】
前記負極活物質層内に分布している結着剤量を100質量%とし、集電体表面から活物質層表面までの距離をTとする場合、単位厚み当たりの結着剤量が、集電体表面からT/2までの領域(負極活物質層において集電体表面に近い領域)で25〜50質量%であり、活物質層表面からT/2までの領域(負極活物質層において活物質層表面に近い領域)で50〜75質量%であることが好ましい。負極活物質層において、集電体表面からT/2までの領域の結着剤量が、25質量%以上であると、活物質層が集電体から特に剥離しにくくなる傾向がある。また、50質量%以下であると、電極表面の電子導電性が特に低くなり、短絡時の発熱が大きくなり難い傾向がある。さらには、集電体表面からT/2までの領域で30〜50質量%であり、活物質層表面からT/2までの領域(負極活物質層において活物質層表面に近い領域)で50〜70質量%であることが好ましい。
【0083】
このような負極活物質層の中でも、特に結着剤濃度勾配構造を有するものが好ましい。70℃以上の温風で乾燥することで、負極活物質層の断面においての結着剤濃度が、集電体側から活物質層表面に向かって、(好ましくは連続的に)増加する濃度勾配がある負極を得られうる。このような結着剤濃度勾配構造を有する負極であれば、電極表面の電子導電性がより低くなり、よって二次電池短絡時の発熱が好ましく少なくなる。
【0084】
なお、電極活物質層内に分布している結着剤量は、電界放出形電子線マイクロアナライザ(FE−EPMA)法により測定する。
【0085】
負極活物質層は、厚み20〜300μmの範囲内で形成されることが好ましい。厚みが20μm以上である場合は、電極容量密度が大きくなることに加えて、短絡時における電池の温度上昇が特に抑制される傾向がある。厚みが300μm以下の場合は、電気抵抗率が高くならず、充放電に時間がかからず、また、体積変化が大きくなりづらいため、寿命特性が好ましくなり、十分な電池性能が好ましく発揮され得る。
【0086】
導電助剤の含有量については、活物質、導電助剤および結着剤の合計質量に対して、5質量%以下(すなわち0質量%を超え5質量%以下)が好ましく、0.01〜5質量%程度が好ましく、0.1〜4質量%程度がより好ましく、0.5〜3質量%がさらに好ましい。つまり、導電助剤は必要に応じて含有されるが、その量は5%以下であることが好ましい。導電助剤の含有量が5質量%を超えると、電池短絡時の電池の温度上昇が高くなる傾向がある。また、活物質の割合が相対的に減少するため電池の充放電時に高容量が得られにくいこと、カーボンが水を弾くため均一分散することが難しいため活物質の凝集を招くこと、活物質と比較して導電助剤の大きさが小さいため、導電助剤の含有量が多くなると活物質及び伝導助剤全体としての表面積が大きくなり、従って使用する結着剤の量が増えること、などの点で比較的好ましくない。
【0087】
結着剤の含有量についても、特に限定的ではないが、例えば、負極活物質、導電助剤および結着剤の合計質量に対して、0.5質量%以上15質量%以下であることが好ましく、1質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以上5質量%以下であることが更に好ましい。結着剤が多すぎると、電極のインピーダンスが大きくなりすぎて、入出力特性に欠ける傾向がある。また、活物質の割合が相対的に減少するため、電池の充放電時に高容量が得られにくくなる傾向がある。逆に、結着剤が少なすぎると、電極の電子導電性が高くなるが、短絡時に急激に発熱しやすくなる傾向がある。また、結着力不十分によるサイクル寿命特性、スラリーの粘性不足による凝集が生じやすくなる傾向がある。
【0088】
分散助剤の含有量については、負極活物質、結着剤、導電助剤の合計質量に対して、0.01質量%以上であれば、活物質分散液調製時において活物質等を効率よくかつ効果的に微分散することができる。なお、微分散性および分散安定性を維持するためには、その含有量は5.0質量%以下で十分である。
【0089】
(正極)
正極は、例えば、正極活物質と、結着剤、溶媒および必要に応じて添加される導電助剤、分散助剤とを混合したもの(正極用合剤)、好ましくはスラリー化したもの(正極用スラリー)、を集電体に塗付し、仮乾燥させた後、熱処理を行うことで得ることができる。
【0090】
結着剤は、リチウムイオン二次電池正極作製のための結着剤として公知のものを使用できる。耐酸化性の観点から、PVDF、PTFE等が好ましく例示できる。また、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を好ましく用いることができる。結着剤を溶解し、活物質や導電助剤を分散させる媒体として水を使用することができる。結着剤の耐電解液膨潤性の観点から、結着剤としてビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を用いることが好ましい。
【0091】
スラリーの作製は、例えば負極におけるスラリー作製と同様に行うことができる。
【0092】
スラリーの固形分(正極活物質、結着剤、並びに必要に応じて添加される導電助剤、及び分散助剤)は、特に限定されないが、例えば、スラリー中の固形分の合計を100質量%とした場合、20質量%以上80質量%以下が好ましく、30質量%以上70質量%以下がより好ましい。上記の固形分濃度のスラリーであれば、取り扱いが容易であり、電極乾燥時での電極活物質層にクラックが発生しにくくすることができる。
【0093】
電極乾燥は、スラリー内の溶媒が揮発除去できる方法であれば特に限定されないが、例えば、大気中50〜300℃の温度雰囲気下で熱処理を行う方法を挙げることができる。乾燥方法には、自然乾燥、温風乾燥、遠赤外線放射乾燥などがあり、どの方法を用いても何ら問題ない。
【0094】
遠赤外線放射により乾燥することで、正極活物質層の断面においての結着剤濃度にムラを生じにくくできる。正極においては、結着剤の濃度勾配はなくてもよい。正極では、結着剤の濃度勾配によって短絡時の発熱に大きな変化はみられない。
【0095】
導電助剤の含有量については、正極活物質、導電助剤および結着剤の合計質量に対して、0.1〜30質量%程度が好ましく、0.5〜20質量%程度がより好ましく、1〜10質量%がさらに好ましい。つまり、導電助剤は30質量%以下で、少なくとも0.1質量%以上含有されることが好ましい。導電助剤の含有量が30質量%を超えると、活物質の割合が相対的に減少するため電池の充放電時に高容量が得られにくいこと、カーボンが水を弾くため均一分散することが難しいため活物質の凝集を招くこと、活物質と比較して小さいため表面積が大きくなり使用する結着剤の量が増えることなどの点で好ましくない。0.1質量%以上含有することで、電池の入出力特性が好ましく改善される。
【0096】
結着剤の含有量は、特に限定的ではないが、例えば、正極活物質、導電助剤および結着剤合計質量に対して、0.5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、1質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以上10質量%以下であることが更に好ましい。結着剤が多すぎると、電極のインピーダンスが大きくなりすぎて、入出力特性に欠ける傾向がある。また、活物質の割合が相対的に減少するため、電池の充放電時に高容量が得られにくくなる。逆に、少なすぎると、結着力不十分によるサイクル寿命特性、スラリーの粘性不足による凝集が生じやすくなる。
【0097】
分散助剤の含有量については、活物質、結着剤、導電助剤の合計質量に対して、0.01質量%以上であれば、活物質分散液調製時において活物質等を効率よくかつ効果的に微分散することができる。なお、微分散性および分散安定性を維持するためには、その含有量は5.0質量%以下で十分である。
【0098】
<リチウムイオン二次電池>
このようにして得た電極(正極又は負極)は、セパレータを介して対極(負極又は正極)と接合され、電解液内に浸漬した状態で密閉化され、二次電池となる。
【0099】
以下、電池部材要素について詳述する。
(セパレータ)
上記のとおり、短絡時に発熱量を小さくする目的から、負極の結着剤として、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体が使用されるが、それでも短絡時には瞬間的に電池の温度が上昇する場合もあり得る。電池の規模にもよるが、例えば市販のポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂からなる微多孔膜をセパレータとして用いた場合には、釘が刺さるなどの過酷状態では、メルトダウン(溶融)し、電池の熱暴走を引き起こすおそれがある。負極の結着剤としてビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を使用し、且つ、セパレータとして高分子基材に無機化合物を含んでなるセパレータ、又は融点若しくはガラス転移温度が140℃以上の高分子からなるセパレータを用いることで、二次電池短絡時における発熱が好ましく抑制される。
【0100】
また、セパレータは、リチウムイオン二次電池の使用環境に耐えうる材料で、耐熱性を有するセパレータ(耐熱性セパレータ)であることが好ましい。耐熱性セパレータは、具体的には、140℃で10分静置しても溶融しないセパレータであり、好ましくは160℃で10分、より好ましくは180℃で10分静置しても溶融しないセパレータが好ましい。
【0101】
本発明に用いられるセパレータは、完全溶融しないように耐熱処理されたセパレータが好ましく、中でも高分子基材に無機化合物を含んでなるセパレータ(高分子基材を無機化合物でコーティングまたは高分子基材に対して無機化合物を充填してなるもの;無機化合物コーティング又は充填高分子基材)であることが好ましい。
【0102】
無機化合物としては、例えば無機酸化物が挙げられ、中でも金属酸化物が好ましい。またその他にも、例えば金属窒化物、硫酸塩、粘土鉱物、ガラス(好ましくはガラス繊維)等が挙げられる。無機酸化物(特に金属酸化物)としては、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン等;金属窒化物としては、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等;硫酸塩として、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム等;粘土鉱物として、タルク、ベントナイト、ゼオライト、カオリン、マイカ、モンモリロナイト等が挙げられる。なかでも、無機酸化物が好ましく、金属酸化物がより好ましい。これら無機化合物は、単独で使用又は2種以上を併用することが可能である。
【0103】
本発明に用いられる当該セパレータはさまざまな方法で製造できる。例えば、無機化合物(好ましくは無機フィラー)等を含む溶液を高分子基材の少なくとも一方又は両方に塗布し乾燥する方法が挙げられる。この場合、当該溶液を調製する方法としては、塗布工程に必要な溶液特性または分散性が保てる方法であれば特に限定されない。例えば、ボールミル、ビーズミル、ホモジナイザー、高速衝撃ミル、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌等が挙げられる。また、塗布方法も、特に限定されない。例えば、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、バーコート法、グラビアコート法等が挙げられる。目的とする厚みや溶液のハンドリング性を考え、最適な方法で行う。また、基材に塗布した溶液から溶媒を除去する方法としては、加熱乾燥による方法や溶媒置換による方法等が挙げられるが、これも生成するセパレータ特性の低下を引き起こさない方法であれば、特に限定されない。
【0104】
セパレータの形状は、例えば微多孔膜、織布、不織布、圧粉体が挙げられ、このうち、出力特性とセパレータの強度が高いという観点から微多孔膜状、不織布形状が好ましい。
【0105】
セパレータの基材としては、電解液に対する耐性があれば特に限定されないが、短絡時の局所的な発熱で、メルトダウンしない耐熱性の高分子基材を含んでいることが好ましい。
【0106】
セパレータの高分子基材としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレン−プロピレン共重合体(PE/PP)等の材料(樹脂)が好ましい。
【0107】
また、本発明に用いられるセパレータとしては、具体的には、PET不織布に無機酸化物をコーティングしたNanoBaseX(三菱製紙社製)、ポリエチレン基材にメタ系アラミドをコーティングしたリエルソート(帝人社製)、ポリオレフィン基材とアラミド耐熱層を組み合わせたペルヴィオ(住友化学社製)、などが好ましく例示できる。
【0108】
さらにまた、本発明に用いられるセパレータとして、融点若しくはガラス転移温度が140℃以上(好ましくは140℃より高く、より好ましくは145℃以上、さらに好ましくは150℃以上)の高分子からなるセパレータも好ましい。特に、融点が140℃以上(好ましくは140℃より高く、より好ましくは145℃以上、さらに好ましくは150℃以上)の高分子からなるセパレータが好ましい。
【0109】
融点若しくはガラス転移温度が140℃以上の高分子(これらを両方有する場合には融点が140℃以上の高分子が好ましい)としては、例えば、アラミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル(ポリフェニレンオキシド)、ポリベンズイミダゾール、ポリアリレート、ポリアセタール、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリエステル、ポリエチレンナフタレート、エチレン−シクロオレフィン共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0110】
(電解液)
本発明のリチウムイオン二次電池の電解質は、固体電解質やイオン性液体であってもよく、電解質と溶媒を混合した電解液であることが好ましい。
【0111】
電解質は、リチウムイオンを含有する必要があることから、その電解質塩としては、リチウムイオン二次電池で用いられるものであれば特に限定されないが、リチウム塩が好適である。このリチウム塩としては、具体的には、ヘキサフルオロリン酸リチウム、過塩素酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム及びトリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウムからなる群より選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0112】
上記電解質の溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、γ−ブチロラクトン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドよりなる群から選択される少なくとも1種を用いることができ、特に、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物、プロピレンカーボネート、又はγ−ブチロラクトンが好適である。なお、上記エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合物の混合比は、エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートともに10〜90体積%の範囲で任意に調整することができる。
【0113】
電解液の添加剤として、ビニレンカーボネート(VC)を含むことが好ましい。VCが添加されることで短絡時の発熱量を低くすることができる。電解液におけるVCの含有量としては、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜2質量%がより好ましく、0.75〜1.5質量%がさらに好ましい。
【0114】
<電気機器>
本願発明のリチウムイオン二次電池は、安全性が良好であることから、様々な電気機器(電気を使用する乗り物を含む)の電源として利用することができる。
【0115】
電気機器としては、例えば、エアコン、洗濯機、テレビ、冷蔵庫、パソコン、タブレット、スマートフォン、パソコンキーボード、モニター、プリンター、マウス、ハードディスク、パソコン周辺機器、アイロン、衣類乾燥機、トランシーバー、送風機、音楽レコーダー、音楽プレーヤー、オーブン、レンジ、温風ヒーター、カーナビ、懐中電灯、加湿器、携帯カラオケ機、空気清浄器、ゲーム機、血圧計、コーヒーミル、コーヒーメーカー、こたつ、こけし、コピー機、ディスクチェンジャー、ラジオ、シェーバー、ジューサー、シュレッダー、浄水器、照明器具、食器乾燥機、炊飯器、ズボンプレッサー、掃除機、体重計、電気カーペット、電気ポット、電子辞書、電子手帳、電磁調理器、電卓、電動カート、電動車椅子、電動工具、電動歯ブラシ、あんか、時計、インターホン、エアサーキュレーター、電撃殺虫器、ホットプレート、トースター、給湯器、粉砕機、はんだごて、ビデオカメラ、ビデオデッキ、ファクシミリ、布団乾燥機、ミキサー、ミシン、もちつき機、冷水器、電子楽器、オートバイ、おもちゃ類、芝刈り機、自転車、自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、鉄道、船、飛行機、非常用蓄電池などが挙げられる。
【実施例】
【0116】
以下に、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されない。なお、本実施例における「部」及び「%」は、特記しない限り質量基準である。実施例及び比較例中の評価は、以下の条件にて行った。
【0117】
結着剤の作製
(製造例1)ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体の合成
撹拌機、温度計、N
2ガス導入管、還流冷却機および滴下ロートを備えた容量2Lの反応槽に、水768g、及び無水硫酸ナトリウム12gを仕込み、N
2ガスを吹き込んで系内を脱酸素した。続いて、部分ケン化ポリビニルアルコール(ケン化度88%)1g及びラウリルパーオキシド1gを仕込み、内温が60℃となるまで昇温した後、ここにアクリル酸メチル104g(1.209mol)および酢酸ビニル155g(1.802mol)を滴下ロートにより4時間かけて滴下した。その後、内温65℃で2時間保持し反応させた。その後、固形分を濾別することにより、酢酸ビニル/アクリル酸メチル共重合体288g(10.4%含水)を得た。得られた重合体について、DMFに溶解させた後メンブレンフィルター(ADVANTEC社製:孔径0.45μm)にてろ過を実施し、GFCカラム(Shodex社製、OHpak)を備えた分子量測定装置(ウォーターズ社製、2695、RI検出器2414)により分子量を測定、算出したところ、数平均分子量は18.8万であった。
【0118】
(製造例2)ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体の合成
製造例1と同様の反応槽に、メタノール450g、水420g、水酸化ナトリウム132g(3.3mol)および製造例1で得られた共重合体(10.4%含水)288gを仕込み、30℃で3時間攪拌し、ケン化反応を行った。ケン化反応終了後、得られた共重合体ケン化物をメタノールで洗浄および濾過し、70℃で6時間乾燥させ、酢酸ビニル/アクリル酸メチル共重合体ケン化物(ビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体)193gを得た。酢酸ビニル/アクリル酸メチル共重合体ケン化物(ビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体)の体積平均粒子径は180μmであった。なお、体積平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製、SALD−7100)により測定した。
【0119】
(製造例3)ビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体の粉砕
製造例2で得たビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体193gを、ジェットミル(日本ニューマチック工業社製、LJ)により粉砕し、微粉末状のビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体173gを得た。得られた共重合体の粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、SALD−7100)により測定したところ、46μmであった。得られた共重合体の1質量%水溶液の粘度は1650mPa・s、ビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムの共重合組成比はモル比で約6:4であった。前記1質量%水溶液の粘度は、BROOKFIELD製回転粘度計(型式DV−I+)を用いて、スピンドルNo.5、50rpm(液温25℃)の条件で測定した。
【0120】
正極の作製
(製造例4−1)NCM(ニッケル・マンガン・コバルト)正極の作製
正極活物質(LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2:戸田工業株式会社製)90質量部、結着剤として製造例3で得られたビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体6質量部、導電剤としてカーボンナノチューブ(昭和電工社製、VGCF)2質量部、ケッチェンブラック(ライオン社製、ECP−300JD)2質量部、及び水100質量部を混合してスラリー状の正極合剤を調製した。
【0121】
得られた合剤を厚さ20μmのアルミニウム箔(福田金属社製)上に塗布し、その直後、80℃にて仮乾燥し、さらにプレス工程を経て、アルミニウム箔と塗膜とを密着接合させた。次に、加熱処理(減圧中、140℃、12時間)を行うことによって正極を作製した。当該正極における正極活物質層の厚みは100μmであり、重量は19mg/cm
2であった。
【0122】
(製造例4−2)NCM(ニッケル・マンガン・コバルト)正極の作製
正極活物質(LiNiCoMnO
2:住友大阪セメント株式会社製)90質量部、結着剤としてPVDF6質量部、導電剤としてカーボンナノチューブ(昭和電工社製、VGCF)2質量部、ケッチェンブラック(ライオン社製、ECP−300JD)2質量部、水100質量部を混合してスラリー状の正極合剤を調製した。
【0123】
得られた合剤を厚さ20μmのアルミニウム箔(福田金属社製)上に塗布し、その直後、80℃にて仮乾燥し、さらにプレス工程を経て、アルミニウム箔と塗膜とを密着接合させた。次に、加熱処理(減圧中、140℃、12時間)を行うことによって正極を作製した。当該正極における正極活物質層の厚みは100μmであり、重量は19mg/cm
2であった。
【0124】
負極の作製
(製造例5)グラファイト負極の作製
負極活物質としてグラファイト(日立化成社製、MAG)93質量部、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック)2質量部、気相成長炭素繊維(昭和電工社製、VGCF−H)1質量部、結着剤として製造例3で得られたビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体4質量部及び水100質量部を混合し、スラリー状の負極合剤を調製した。
【0125】
得られた合剤を厚さ20μmの電解銅箔(福田金属社製)上に塗布し、その直後、80℃にて仮乾燥し、さらにプレス工程を経て、電解銅箔と塗膜とを密着接合させた。次に、加熱処理(減圧中、140℃、12時間)を行うことによって負極を作製した。当該負極における負極活物質層の厚みは67μmであり、重量は10mg/cm
2であった。
【0126】
電池の組立
(実施例1)リチウムイオン二次電池の作製
製造例4−1で作製した正極、製造例5で作製した負極、PET(ポリエチレンテレフタレート)不織布に無機酸化物(SiO
2)をコーティングしたセパレータ(SEPARION(登録商標)、EVONIK社製)及び、電解液を具備した、1.0−1.2Ahの容量を有する捲回式のアルミラミネートセル型のリチウムイオン電池を作製した。なお、前記電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比1:1で混合した溶媒に、LiPF
6を1mol/Lの濃度で溶解させ、さらに電解液用添加剤としてビニレンカーボネート(VC)1質量部(EC、DEC及びLiPF
6の合計量100質量部に対して)を添加した溶液である。
【0127】
(実施例2〜5、比較例1、2)
実施例1において、SEPARION(登録商標)に代えて、表1に示したセパレータを用いたこと以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン電池を作製した。なお、実施例1〜5で用いたセパレータは、いずれも、高分子基材(ポリマー層)に無機酸化物がコーティング(無機コート層)されたもの(実施例1〜3、5)、又は、融点若しくはガラス転移温度が140℃以上の高分子からなるもの(実施例4)、である。
【0128】
(比較例3)
製造例5において、製造例3で得られたビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体に代えて、結着剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC、ダイセル社製#2260)2質量部、及びスチレンブタジエンラバー(SBR、JSR社製TRD2001)2質量部を用いたこと以外は同様にして、負極を作製した。この負極を用いたこと以外は比較例1と同様にして、リチウムイオン電池を作製した。
【0129】
(比較例4)
比較例3において、セパレータとして、PET(ポリエチレンテレフタレート)不織布に無機酸化物(SiO
2)をコーティングしたセパレータ(SEPARION(登録商標)、EVONIK社製)を用いたこと以外は同様にして、リチウムイオン電池を作製した。
【0130】
(比較例5)
製造例5において、製造例3で得られたビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体に代えて、結着剤としてポリビニリデンフルオライド(PVDF、クレハ社製#9200)4質量部を用いたこと以外は同様にして負極を作製した。この負極を用いたこと以外は比較例1と同様にして、リチウムイオン電池を作製した。
【0131】
(比較例6)
比較例5において、セパレータとして、PET(ポリエチレンテレフタレート)不織布に無機酸化物(SiO
2)をコーティングしたセパレータ(SEPARION(登録商標)、EVONIK社製)を用いたこと以外は同様にして、リチウムイオン電池を作製した。
【0132】
(実施例6)
製造例5において、グラファイトの使用量を96質量部、製造例3で得られたビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体の使用量を1質量部に変更したこと以外は同様にして負極を作製した。この負極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン電池を作製した。
【0133】
(実施例7)
製造例5において、グラファイトの使用量を85質量部、製造例3で得られたビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体の使用量を12質量部に変更したこと以外は同様にして負極を作製した。この負極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン電池を作製した。
【0134】
(実施例8)
製造例5において、電極の仮乾燥温度を100℃にしたこと以外は同様にして負極を作製した。この負極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン電池を作製した。
【0135】
(実施例9)
製造例5において、電極の仮乾燥温度を45℃にしたこと以外は同様にして負極を作製した。得られた負極を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン電池を作製した。
【0136】
(実施例10)
製造例4−1で作製した正極の代わりに、製造例4−2で作製した正極を用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン電池を作製した。
【0137】
<安全性評価(釘刺し試験)>
安全性評価を行う前に、実施例1〜10、比較例1〜6で得られた電池に対し、以下の条件にてエージング処理を行った。なお、測定は、NR600(キーエンス製:データ収集速度0.01ms、0.1msのCSVファイル)にて行った。
【0138】
測定条件:0.1C−0.1C(充電−放電)CC−CC
カットオフ電位:2.5−4.2V
※30℃環境下、5サイクルの充放電サイクルを行い、100%充電状態にて完了
【0139】
エージング処理後の電池に対して、安全性評価として、強制的に電池内部で短絡を発生させる釘刺し試験を行った。大気雰囲気下、25℃の防爆恒温槽中にて鉄丸釘(長さ65mm、φ3mm:温度計内蔵)を降下速度1mm/秒にて電池中央部に突き刺し、貫通させた。突き刺しおよび貫通の操作は、まず、釘を試作電池上で5秒停止させ、次いで電池を貫通させて、電池貫通後10分維持することによって実施した。内部短絡を起こした場合、短絡部に短絡電流が流れジュール熱が発生し、電池が熱暴走を起こす可能性がある。釘刺し試験によると、釘刺し時の電池電圧の変化から短絡状態を推測でき、セル内部温度の変化から短絡状態の推測や電池内部の熱安定性を評価することができる。電圧変化が少なく、最高到達温度が低いものが、短絡時にも異常発熱を起こすことの少ない、より安全性に優れた電池であるといえる。
【0140】
以下、表1〜4において、釘刺し試験時の電池の最大到達内部温度(℃)、釘刺し10分後の電圧(V)を示す。なお、表1〜4においては、釘刺し前の電圧(V)を左側に、釘刺し10分後の電圧(V)を右側に示す。また、最大到達内部温度が400℃以上となり完全短絡したもの(0V)を×、300℃以上となったが電圧変化が±1.0V以内であったものを○、300℃より低く電圧変化も±1.0V以内であったものを◎として評価した(表1〜5)。なお、表中、PEはポリエチレンを、PPはポリプロピレンを、PE/PPはエチレン―プロピレン共重合体を、それぞれ示す。
【0141】
【表1】
【0142】
【表2】
【0143】
【表3】
【0144】
【表4】
【0145】
表1と表2によれば、一般的なセパレータとして使用されるPE微多孔膜とPE/PP微多孔膜を使用した比較例1、2、3、5の電池は、結着剤の種類に関わらず、完全短絡し、内部温度は500℃近くまで上昇した。また、無機コートしたセパレータと結着剤としてPVDF、CMC/SBRを使用した比較例4、6の電池は、完全短絡を起こした。一方、特定のセパレータ(無機コートしたセパレータ、又は融点若しくはガラス転移温度が140℃以上の高分子からなるセパレータ)と結着剤としてビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体を使用した実施例1〜5電池は電圧変化が小さく、低い最高到達温度を示し、より優れた電池の安全性を示した。
【0146】
表3によれば、実施例6、7の結果よりビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体の結着剤量は少なくとも1質量部以上12質量部以下の範囲でも熱暴走を抑制する効果があることが確認された。また、実施例8及び9の結果より、電極の仮乾燥温度は高めの方が好ましいことが示唆された。
【0147】
表4によれば、負極の結着剤としてビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体を用いていれば、正極の結着剤は従来から用いられている結着剤(PVDF)を用いたとしても、電圧変化が小さく、低い最高到達温度を示し、より優れた電池の安全性を示すことが確認された。
【0148】
<結着剤の濃度分布>
結着剤の濃度分布の評価を、電界放出形電子線マイクロアナライザ(FE−EPMA)法により行った。この評価における結着剤としては、下記実施例11、12及び比較例9、10の記載から分かるように、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体、CMC/SBR、PVDFを用いた。SBR系接着剤にはOs染色をした。CP加工法にてそれぞれの断面を作製し、JXA−8500F(日本電子製)にて、元素カラーマッピングにより、各試料の電極断面における元素(当該共重合体はNa、CMC/SBRはOs、PVDFはF(フッ素))の分布状態を観察した。なお、濃度分布を数値化するため、電極全体に分布している結着剤量を100質量%として、特定の面積における結着剤量を求めた。表5において、集電体表面から活物質層表面までの距離をTとし、集電体からT/2までの領域を下層、活物質層表面からT/2までの領域を上層とした際のそれぞれの領域における結着剤量を示す。
【0149】
なお、同様に実施例8で作製した負極についても結着剤の濃度分布を同様にして調べたところ、上層及び下層の結着剤割合(質量%)は55:45であった。
【0150】
<電極の剥離試験>
電極の剥離強度を評価するため、製造例5で作製した負極電極表面にセロハンテープ(JISZ6050準拠)を接着させ、180度剥離試験(JIS K6854−2準拠)を行い、電解銅箔と負極活物質層との剥離強度を評価した。
【0151】
(実施例11)
製造例5で作製した負極に対し、FE−EPMAの測定と剥離試験を行った。結果を表5に示す。
【0152】
(実施例12)
製造例5において、電極の仮乾燥温度を45℃にしたこと以外は同様にして負極を作製した。得られた負極を用いたこと以外は実施例11と同様にしてFE−EPMAの測定と剥離試験を行った。結果を表5に示す。
【0153】
(比較例9)
製造例5において、結着剤として製造例3で得られたビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体に代えて、カルボキシメチルセルロース(CMC、ダイセル社製、#2260)2質量部、及びスチレンブタジエンラバー(SBR、JSR社製、TRD2001)2質量部を用いたこと以外は同様にして負極を作製した。この負極を用いたこと以外は実施例11と同様にしてFE−EPMAの測定と剥離試験を行った。結果を表5に示す。
【0154】
(比較例10)
製造例5において、結着剤として製造例3で得られたビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体に代えてポリビニリデンフルオライド(PVDF、クレハ社製、#9200)4質量部を用いたこと以外は同様にして、負極を作製した。この負極を用いたこと以外は実施例11と同様にしてFE−EPMAの測定と剥離試験を行った。結果を表5に示す。
【0155】
【表5】
【0156】
表5から、電極中の結着剤(ビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムの共重合体、CMC/SBR、又はPVDF)の分布は、それぞれ結着剤の種類や仮乾燥温度を調整することによって適宜設定することができることが分かった。
【0157】
また、表5より、ビニルアルコールとアクリル酸ナトリウムとの共重合体は、CMC/SBRやPVDFと比較して電極の剥離強度が高いことがわかった。なお、実施例11及び12では十分な剥離強度が得られた一方、比較例9及び10では剥離強度が十分ではないと考えられた。