(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電波を放射する複数のアンテナ素子を同一平面内に備え、前記同一平面に平行であって、前記同一平面との距離が、前記電波の自由空間内の波長に比べて無視できるほど短い位置に位置する平面内に前記電波を反射する地導体板を備える平面型フェーズドアレーアンテナと、
それぞれ、前記同一平面に平行な平板状の誘電体であって、前記アンテナ素子のブロードサイド方向に位置する誘電体である複数の誘電体板と、
を備え、
複数の前記誘電体板の厚さは、それぞれ前記電波の前記誘電体における物質内波長の1/4に略同一であって、
複数の前記誘電体板の前記アンテナ素子に対向するそれぞれの面と、前記アンテナ素子を備える面との距離は、互いに異なりかつ前記電波の自由空間内の波長の1/2の自然数倍に略同一である、
フェーズドアレーアンテナシステム。
電波を放射する複数のアンテナ素子を同一平面内に備え、前記同一平面に平行であって、前記同一平面との距離が、前記電波の自由空間内の波長に比べて無視できるほど短い位置に位置する平面内に前記電波を反射する地導体板、および前記同一平面と前記地導体板を備える平面とに挟まれた空間に前記同一平面に平行な平板状の誘電体層を備える平面型フェーズドアレーアンテナと、
前記同一平面に平行な平板状の誘電体であって、前記アンテナ素子のブロードサイド方向に位置する誘電体である誘電体板と、
を備え、
前記誘電体板の厚さは、前記電波の前記誘電体における物質内波長の1/4に略同一であって、
前記誘電体板の前記アンテナ素子に対向する面と、前記アンテナ素子を備える面との距離が、前記電波の自由空間内の波長の1/2に略同一であり、
前記各アンテナ素子の中心点と、前記各アンテナ素子に最近接の前記誘電体層の周上の箇所との間の距離を余白Hとして、Hは、前記電波の自由空間内の波長の3/4に略同一である、
フェーズドアレーアンテナシステム。
電波を放射する複数のアンテナ素子を同一平面内に備え、前記同一平面に平行であって、前記同一平面との距離が、前記電波の自由空間内の波長に比べて無視できるほど短い位置に位置する平面内に前記電波を反射する地導体板を備える平面型フェーズドアレーアンテナと、
前記同一平面に平行な平板状の誘電体であって、前記アンテナ素子のブロードサイド方向に位置する誘電体である誘電体板と、
前記誘電体板を挟んで前記平面型フェーズドアレーアンテナの反対側に位置する負のメニスカスレンズと、
を備え、
前記誘電体板の厚さは、前記電波の前記誘電体における物質内波長の1/4に略同一であって、
前記誘電体板の前記アンテナ素子に対向する面と、前記アンテナ素子を備える面との距離が、前記電波の自由空間内の波長の1/2に略同一である、
フェーズドアレーアンテナシステム。
【背景技術】
【0002】
多くの国で9GHz程度の広い帯域が利用可能な60GHz帯を用いた無線通信は、免許不要無線通信用周波数帯として、非圧縮映像伝送やマルチギガビット無線LAN(Local Area Network)への利用が活発化している。こうした周波数帯における通信モジュールはベースバンド部分がシステムオンパッケージとなっており、RF(Radio Frequency)回路とフェーズドアレーアンテナとがシステムオンパッケージとなった通信モジュールが主流である。今後、60GHz帯に限らず、ミリ波帯の無線通信モジュールにおいても同様の構成となることが予想される。
【0003】
高周波数帯は波長が短いため、マイクロ波帯と比べて小さい開口面のアンテナで幅の狭い電波を作ることができる。このような電波の幅(ビーム幅)を狭めることを狭ビーム化という。狭ビーム化により、同じ周波数帯を用いて複数の通信を行う並列伝送や、高密度で端末を配置して同時に通信を行うことが可能となるため、ミリ波を用いた通信の利点は、広帯域が利用可能であるだけにとどまらず、さらに大きくなる。
【0004】
ミリ波通信モジュールが持つビーム幅よりさらにビーム幅を狭くする狭ビーム化を行い、上記の並列伝送や高密度通信を行うためには、モジュールの外側に集光レンズを外付けして使用することが想定される。既製のミリ波通信モジュールは、フェーズドアレーアンテナにより電波の方向を電子的に変える機能(ビームステアリング機能)を具備している。しかしながら、このようなモジュールのアンテナ部分に集光レンズを外付けした構成でステアリングを実施しようとすると、アンテナの位置を物理的に切り替えるしか方法は無い。そのため、集光レンズによる狭ビーム化は、ミリ波通信モジュールへの外付けには適さない場合が多い。
【0005】
図15は、フェーズドアレーアンテナ部分のアンテナ指向性が正面に設定されている場合に、凸レンズを用いて狭ビーム化する従来の方法を説明する説明図である。凸レンズの焦点距離にフェーズドアレーアンテナ部分があると、凸レンズを透過した電波は平面波となり、ビーム幅が狭くなる。その結果、アンテナ利得がアップする。ビーム幅と利得とはレンズのサイズに依存する。レンズが大きいほど、アンテナの開口面サイズが大きくなるため、電波は狭くなりアンテナ利得は大きくなる。なお、
図15における点線は、フェーズドアレーアンテナ部分から発射された電波の光線を示す。
【0006】
次にフェーズドアレーアンテナ部分をビームステアリングする方法を説明する。
図16は、凸レンズを用いて狭ビーム化する従来の方法によって狭ビーム化され、さらに、左方向にステアリングされた状態の電波の光線を示す。凸レンズを透過した光線に注目すると、電波の中心軸が左方向にシフトしただけで、電波の方向は正面のままになることがわかる。
このように,フェーズドアレーアンテナに集光型レンズを適用した場合には、フェーズドアレーアンテナが持つビームステアリングの機能が機能しないことがわかる。
【0007】
このような集光型レンズを使用して狭ビーム化をしながらビームステアリングを行うには、例えば、レンズの焦点距離上の平面内で使用するアンテナ素子の位置を変えるしかない(非特許文献1参照)。非特許文献1では、
図17に示すように、アンテナ素子を複数設けて、使用するアンテナを切り替えることでビームステアリングを実現している。しかしながら、アンテナの切り替えを必要とせずに、狭ビーム化とビームステアリングとを両立することが望まれている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100の構成の具体例を示す図である。
フェーズドアレーアンテナシステム100は、平面型フェーズドアレーアンテナ1及び誘電体板2を備える。平面型フェーズドアレーアンテナ1は、所定の方向に電波を放射する。誘電体板2は、平面型フェーズドアレーアンテナ1が放射した電波の一部を反射し、一部を透過させる。フェーズドアレーアンテナシステム100は、平面型フェーズドアレーアンテナ1及び誘電体板2の間で生じる電波の多重反射によって、狭ビーム化された電波を放射する。
【0017】
平面型フェーズドアレーアンテナ1は、誘電体板2に向けて電波を放射するアンテナ素子を同一平面内に複数備える2次元平面状のフェーズドアレーアンテナである。ユーザは、一般のフェーズドアレーアンテナと同様に、各アンテナ素子に印加する電圧又は電流の位相をアンテナ素子ごとに違う位相にすることで、平面型フェーズドアレーアンテナ1が放射する電波の方向を変えることができる。アンテナ素子は、例えば、マイクロストリップアンテナである。以下、平面型フェーズドアレーアンテナ1が放射する電波を放射電波という。平面型フェーズドアレーアンテナ1が放射電波を放射する方向は、ブロードサイド方向である。平面型フェーズドアレーアンテナ1は平板に略同一の形状である。以下、平面型フェーズドアレーアンテナ1の中心と誘電体板2の中心とを結ぶ軸をZ軸とし、平面型フェーズドアレーアンテナ1から誘電体板2を見る方向をZ軸の正方向とする。平面型フェーズドアレーアンテナ1は、平板に略同一の形状であり、Z軸に垂直なXY面に平行に配置される。
【0018】
誘電体板2は、平面型フェーズドアレーアンテナ1からZ軸方向に距離Sだけ隔ててXY面に平行に配置された平板状の誘電体である。すなわち、誘電体板2と平面型フェーズドアレーアンテナ1とは、平行である。距離Sは、放射電波の自由空間中の波長の1/2の長さに略同一である。誘電体板2のZ軸方向の厚さtは、誘電体板2における放射電波の波長λd(すなわち、いわゆる物質内波長)の1/4の長さに略同一である。より具体的には、誘電体板2の比誘電率をεとし、放射電波の自由空間中の波長をλ0として、誘電体板2の比透磁率が1である場合には、誘電体板2の厚さtは、λd/4=(λ0/(ε^(1/2)))/4に略同一である。なお、εは1より大きな正の値である。以下、説明の簡単のため、誘電体板2の比透磁率は1であると仮定する。
【0019】
図2は、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100の断面の具体例を示す図である。
【0020】
平面型フェーズドアレーアンテナ1は、誘電体層11、パッチ素子12及び地導体板13を備える。誘電体層11は、XY面に平行な平板状の誘電体である。誘電体層11の厚さは、誘電体層11内及び自由空間内の放射電波の波長に比べて無視できるほど薄い厚さである。誘電体層11は、電波との相互作用の強さが0に略同一である。
【0021】
パッチ素子12は、アンテナ素子であって、誘電体層11のZ軸に垂直な一方の面上に位置する。パッチ素子12は、誘電体板2に対向する位置に位置する。パッチ素子12のZ軸方向の厚さは、パッチ素子12内及び自由空間内の放射電波の波長に比べて無視できるほど薄い厚さである。パッチ素子12は、放射電波をZ軸正方向の空間に向けて放射する。以例えば、パッチ素子12は、放射電波をZ軸正方向に略平行に放射する。以下、説明の簡単のため、パッチ素子12は、放射電波をZ軸正方向に略平行に放射すると仮定する。パッチ素子12がZ軸正方向に略平行に放射電波を放射するため、放射電波は、誘電体板2に略垂直に入射する。
【0022】
地導体板13は、誘電体層11のZ軸に垂直な他方の面上に位置する。地導体板13のZ軸方向の厚さは、地導体板13内及び自由空間内の放射電波の波長に比べて無視できるほど薄い厚さである。地導体板13は、伝導体であって、放射電波に対する透過率が0%に略同一であり、所定の反射率で放射電波を反射する。地導体板13の反射率は100%に略同一であることが望ましい。以下、説明の簡単のため地導体板13の反射率は100%であると仮定する。
【0023】
ここで、誘電体板2の厚さtが、物質内波長λdの1/4に略同一であることによって生じる効果について説明する。
【0024】
誘電体板2に入射した放射電波は、誘電体板2の厚さtによらず、一部が誘電体板2の下面において反射(この反射は固定端反射である)され、一部が誘電体板2の内部を伝搬する。なお、誘電体板2の下面は、誘電体板2の面のうちパッチ素子12に対抗する面である。
図2においては、誘電体板2の下面は、誘電体板2のZ軸に垂直な面のうち負方向の面である。誘電体板2の内部を伝搬する放射電波も、誘電体板2の上面において一部が反射(この反射は自由端反射である)され、一部が誘電体板2を透過する。なお、誘電体板2の上面とは、誘電体板2の面のうち誘電体板2の下面に平行であって、誘電体板2の反対側に位置する面である。
図2において、誘電体板2の上面は、誘電体板2のZ軸に垂直な面のうち正方向の面である。
【0025】
以下、パッチ素子12から放射され、誘電体板2の下面に入射し、誘電体板2の下面において反射された後、パッチ素子12に入射する放射電波を放射電波R1という。
以下、パッチ素子12から放射され、誘電体板2の内部を伝搬して誘電体板2の上面に入射し、誘電体板2の上面において反射された後、パッチ素子12に入射する放射電波を放射電波R2という。
【0026】
放射電波R1と放射電波R2とは、放射電波R2が誘電体板2の内部を伝搬するために、光路長が異なる。放射電波R1と放射電波R2との光路長の差は、それぞれの電波が誘電体板2の内部を伝搬するかしないかによって生じるため、2εtである。
また、上記したように、誘電体板2の上面における反射は自由端反射であり、下面における反射は固定端反射である。そのため、t=λd/4である場合、放射電波R1と放射電波R2との、誘電体板2からパッチ素子12まで伝搬する経路における位相は同相になる。
【0027】
仮に、放射電波R1と放射電波R2との、誘電体板2からパッチ素子12まで伝搬する経路における位相が逆位相であった場合、放射電波R1と放射電波R2とは互いに打ち消しあう。これは、パッチ素子12が電波を放射できないことを意味する。また、放射電波R1と放射電波R2との、誘電体板2からパッチ素子12まで伝搬する経路における位相が、逆位相ではないものの同位相ではない場合、同位相と比較して、放射電波R1と放射電波R2との間のコヒーレント性が下がる。
【0028】
一般に、コヒーレント性が高いほど、レーザー光のように強く狭ビーム化された電波が生成される。そのため、このように、誘電体板2の厚さt=λd/4である第1の実施形態におけるフェーズドアレーアンテナシステム100は、放射する電波を強く狭ビーム化することができる。
【0029】
また、放射電波R1と放射電波R2とのコヒーレント性が高い場合、放射電波R1と放射電波R2とは同じ電波とみなしてよい。このことは、フェーズドアレーアンテナシステム100において生じる電波の解析に際して、解析者は誘電体板2の上面による反射と下面による反射とをそれぞれ区別する必要はないことを意味する。そのため、解析に際して、解析者は誘電体板2を厚さのない薄膜(以下「等価反射膜」という。)に近似することができる。等価反射膜は、誘電体板2の下面と同じ位置に位置し、入射する電波の一部を反射し、一部を透過させる厚さのない膜である。
【0030】
図3は、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100が奏する効果を説明するための等価モデルの具体例を示す図である。以下、フェーズドアレーアンテナシステム100が奏する効果を説明するための等価モデルをシステム等価モデルという。
【0031】
まず、システム等価モデルにおけるパッチ素子12について説明する。
図3に示す等価波源を表す点は、パッチ素子12の等価モデルである。上述したように、パッチ素子12は、Z軸正方向に略平行に放射電波を放射する。そのため、第1の実施形態におけるフェーズドアレーアンテナシステム100において、X軸方向及びY軸方向への電波の伝搬距離はZ軸方向への伝搬距離に比べて無視できるほどである。また、上述したように、パッチ素子12の厚さは、パッチ素子12内及び自由空間内の放射電波の波長に比べて無視できるほど薄い。このことは、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100における電波の解析にあたって、パッチ素子12の大きさは無視してもよいことを意味する。
このように、システム等価モデルにおけるパッチ素子12は、大きさを無視してよい。そのため、システム等価モデルにおいてパッチ素子12の等価モデルは、
図3に示すように、大きさのない点として表現される。なお、等価波源は、パッチ素子12の中心位置と同じ位置に位置する。
【0032】
次に、システム等価モデルにおける地導体板13について説明する。システム等価モデルにおける地導体板13は、等価波源が位置するXY面である。すなわち、システム等価モデルにおける等価波源が位置するXY面は、地導体板13と同様に、Z軸正方向から入射した電波を100%反射する。以下、システム等価モデルにおけるXY面を等価導体板という。
【0033】
システム等価モデルに、誘電体層11は存在しない。なぜなら、誘電体層11の厚さは、パッチ素子12内及び自由空間内の放射電波の波長に比べて無視できるほど薄く、電波との相互作用の強さが0に略同一であるためである。
【0034】
システム等価モデルにおいて、誘電体板2は、等価反射膜である。
システム等価モデルにおいて、等価反射膜と等価波源との距離は距離Sである。
このようなシステム等価モデルによって、フェーズドアレーアンテナシステム100が奏する効果は説明可能である。
【0035】
次に、
図4及び
図5によって、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100による狭ビーム化について説明する。
【0036】
なお、以下
図4において、簡単のため、放射電波の伝搬の様子をいくつかのステップに分けて、ステップごとに説明するが、実際の物理現象においては、全てのステップが略同一の時間内に起きる。
【0037】
図4は、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100においてパッチ素子12が放射する放射電波の伝搬の様子を説明する説明図である。
【0038】
等価波源がZ軸正方向に向けて放射電波を放射する。以下、説明の簡単のため、等価波源がZ軸正方向に向けて放射電波を放射した時点を時点t0という。等価波源が放射した放射電波は、等価反射膜上の地点P0に入射する。等価反射膜の地点P0に入射した放射電波の一部は、反射される。等価反射膜の地点P0において反射された放射電波は、等価導体板に入射する。等価導体板に入射した放射電波は、反射される。等価導体板によって反射された放射電波は、等価反射膜に再度入射する。地点P1は、
図4において、放射電波が再度、等価反射膜に入射する地点である。以下、放射電波が等価反射膜に二回目に入射した時点を時点t1という。時点t0から時点t1までの間に放射電波が伝搬した距離は、3Sである。
なお、図において、地点P0及び地点P1は、説明の簡単のため有限の距離があるかのように描いているが、実際には、地点P0と地点P1との距離は0に略同一である。また、同様に、仮想波源のX軸方向又はY軸方向の位置は、等価波源のX軸方向又はY軸方向の位置に略同一である。
【0039】
ここまで、放射電波が等価反射膜によって1回反射される場合について説明してきたが、N回反射される場合についても、同様である。
具体的には、放射電波が等価反射膜によってN回(Nは1以上の整数)反射される場合、このような放射電波が時点t
0から時点t
Nまでの間に伝搬する距離は、N×2S+S=(2N+1)Sである。t
Nは、等価反射膜によってN回反射する放射電波が(N+1)回目に透過反射膜に到達する時点である。以下、放射電波が(N+1)回目に入射した等価反射膜の地点を地点P
Nという。なお、地点P
0〜地点P
Nの各地点間の距離は0に略同一である。
【0040】
ここで、仮想波源及び仮想電波という概念について説明する。仮想波源とは、等価反射膜からZ軸負方向にSの整数倍である所定の距離だけ離れた位置に位置する仮想的な波源であって、Z軸正方向に向けて仮想電波を放射する仮想的な波源である。仮想電波は、放射電波と同じ周波数を有し、時点t
0において放射電波と同じ位相で放射され、誘電体板2及び地導体板13によって反射及び吸収されない仮想的な電波である。
【0041】
仮想波源及び仮想電波は、実体があるものではなく、フェーズドアレーアンテナシステム100における放射電波の複雑な多重反射が奏する効果を説明するための仮想的な概念である。
図4は、N=1の場合における仮想波源と仮想電波とを示している。
図4における仮想波源は、等価反射膜からZ軸負方向に3Sだけ離れた位置に位置する仮想波源である。
【0042】
以下、等価反射膜からZ軸負方向に距離(2N+1)Sだけ離れた位置に位置する仮想波源を第N仮想波源という。以下、第N仮想波源が放射する仮想電波を第N仮想電波という。
図4における仮想波源と等価波源との位置関係と同様に、第N仮想波源のX軸方向又はY軸方向の位置は、等価波源のX軸方向又はY軸方向の位置に略同一である。
【0043】
このような仮想波源及び仮想電流を用いると、時点t
N以降の放射電波の周波数、位相及び波数ベクトルは第N仮想電波と同等であることが説明される。
【0044】
なぜならば、放射電波と仮想電波とは、同じ周波数であり、時点t
0において同じ位相で等価波源又は仮想波源から放射され、時点t
0から時点t
Nまでの伝搬距離が同じであり、地点P
Nに同じ方向から入射するからである。
【0045】
そのため、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100における放射電波の多重反射によって生じる効果は、等価反射膜において生じる反射の回数に応じた仮想波源によって説明可能である。
【0046】
具体的には、仮想波源の概念を用いてフェーズドアレーアンテナシステム100をモデル化したシステム等価モデルによって、フェーズドアレーアンテナシステム100の奏する効果は説明可能である。
【0047】
図5は、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100が実現する狭ビーム化をシステム等価モデルによって説明する説明図である。
【0048】
フェーズドアレーアンテナシステム100において、原理的には、放射電波は、誘電体板2によって無限回反射される。このことは、無限個の仮想波源が存在することと等価である。そのため、システム等価モデルにおいて、仮想波源はZ軸負方向に無限個存在する。システム等価モデルにおいて、無限個の各仮想波源は、2Sの距離をごとにZ軸負方向に向かって配置される。
【0049】
ここで、Sが波長の1/2であることについて考える。Sが波長の1/2であるため、放射電波及び仮想電波の位相は、等価反射面において同位相である。そのため、放射電波及び仮想電波は互いに強め合い、コヒーレント性の高い電波が生成される。
【0050】
このように波源を波長間隔で周期的に一軸方向に配置したアンテナシステムは、一般に、エンドファイアアレーという。エンドファイアアレーは、狭いビームの電波を生成するアンテナシステムである。
【0051】
第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100は、実体のある波源の代わりに仮想的な波源を、波長間隔で周期的に一軸方向に配置した仮想的なエンドファイアアレーであるといえる。そのため、このように構成された第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100は、平面型フェーズドアレーアンテナ1と誘電体板2とを波長の1/2だけ隔てて備えるため、エンドファイアアレーと同様に、電波の狭ビーム化を実現することができる。なお、
図5において、狭ビーム電波は、フェーズドアレーアンテナシステム100によって狭ビーム化された電波である。
【0052】
図6は、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100によるビームステアリングについて説明する説明図である。ここまで、説明の簡単のため、パッチ素子12は、放射電波をZ軸正方向に略平行に放射すると仮定してきた。フェーズドアレーアンテナシステム100が電波のビームステアリングをする場合には、パッチ素子12は、Z軸と角度をなす方向に放射電波を放射する。そのため、
図6においては、パッチ素子12は、放射電波をZ軸正方向に略平行に放射するだけではなく、Z軸と角度をなす方向にも放射電波を放射すると仮定する。
【0053】
まず、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100によるビームステアリングについて説明する。ビームステアリング時には、平面型フェーズドアレーアンテナ1は、Z軸方向に平行ではなく、Z軸と角度をなす方向に放射電波を放射する。以下、平面型フェーズドアレーアンテナ1が放射電波を放射する方向がZ軸となす角をθとする。この場合、放射電波の方向が角度θの方向であるため、フェーズドアレーアンテナシステム100が放射する電波も角度θの方向に放射される。このようにして、フェーズドアレーアンテナシステム100は、ビームステアリングを実現することができる。
【0054】
次に、平面型フェーズドアレーアンテナ1が、角度θの方向に放射電波を放射する場合であっても、狭ビーム化が実現されることを説明する。平面型フェーズドアレーアンテナ1が、Z軸方向に平行ではない方向に放射電波を放射する場合であっても、角度θが所定の範囲内である場合には、放射電波の伝搬経路は
図3によって説明した伝搬経路に近似することができる。そのため、平面型フェーズドアレーアンテナ1が所定の角度範囲内の角度θの方向に放射電波を放射する場合には、フェーズドアレーアンテナシステム100は電波を狭ビーム化することができる。
【0055】
このように、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100によって、
図6に示すようなビームステアリングされた電波が狭ビーム化された状態で放射される。
図6において、狭ステアード電波は、狭ビーム化され、ビームステアリングされた電波である。
【0056】
以下、
図7及び
図8によって、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100によるビームステアリングのシミュレーション結果を示す。
【0057】
図7は、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100によるビームステアリングの具体的なシミュレーションの条件を説明する図である。シミュレーションは、誘電体板の比誘電率が10.2であって、S=15mmであって、誘電体板の厚さt=3mmの元で実施された。また、シミュレーションにおいて、パッチ素子12は、一軸方向に等間隔に4つ配置されていた。隣接するパッチ素子12の中心点同士の距離は、0.5波長に略同一である。
【0058】
図8は、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100によるビームステアリングの具体的なシミュレーション結果を示す図である。なお、シミュレーションにおける電波の周波数は、10GHzである。
【0059】
図8(a)は、ステアリングされた電波の放射パターンを示す。
図8(b)は、ステアリングされていない電波の放射パターンを示す。
図8(a)及び(b)は、いずれも、誘電体板2が存在する場合には、誘電体板2が存在しない場合よりも狭ビーム化された電波を放射することを示す。
図8は、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100において、16°程度のビームステアリングが実現されることを示す。また、
図8は、ビームステアリングされた電波が狭ビーム化されていることを示す。
【0060】
このように構成された第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100は、平面型フェーズドアレーアンテナ1と、平面型フェーズドアレーアンテナ1との距離が自由空間における電波の波長の1/2に略同一である位置に、自由空間における波長の1/4に略同一の厚さの誘電体板2とを備える。そのため、仮想的なエンドファイアアレーを実現することができ、従来のアンテナシステムよりも簡易な構成によって狭ビーム化とビームステアリングとを両立することができる。
【0061】
なお、パッチ素子12はどのように放射電波を放射してもよい。パッチ素子12は、例えば、交流電源によって励振されることで、放射電波を放射してもよい。
【0062】
(第2の実施形態)
図9は、第2の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100aの構成の具体例を示す図である。
第2の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100aは、一つではなく、複数の誘電体板2を一軸方向に備える点で第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100と異なる。
以下、第2の実施形態における誘電体板2を、誘電体板2aという。第2の実施形態における誘電体板2aは、Z軸方向に、所定の間隔で順番に配置される。以下、誘電体板2aをそれぞれ区別する場合、誘電体板2a−m(mは1以上の整数)という。
【0063】
誘電体板2a−mは、平面型フェーズドアレーアンテナ1からZ軸正方向に距離m×Sだけ隔ててXY面に平行に配置された平板状の誘電体である。すなわち、誘電体板2a−mと平面型フェーズドアレーアンテナ1とは、平行である。誘電体板2aの比誘電率及び比透磁率と、誘電体板2aのZ軸方向の厚さとは、第1の実施形態と同様である。
【0064】
第2の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100aは、複数の誘電体板2aを備える。そのため、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100よりも電波が反射される伝搬経路が増える。そのため、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100よりもさらに強く電波を狭ビーム化することができる。
【0065】
図10は、第2の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100aが放射する電波の放射パターンをシミュレーションした結果を示す図である。
図10は、平面型フェーズドアレーアンテナ1が2×6つのアンテナ素子を備え、周波数9GHzの電波を放射する場合の結果を示す。
【0066】
図10(a)は、誘電体板2aが無い場合と、1つの場合との結果を示す。
図10(b)は、誘電体板2aが1つの場合と、2つの場合との結果を示す。
図10は、誘電体板2aが無い場合は、電力半値角が27°であることを示す。
図10は、誘電体板2aが1つの場合は、電力半値角が20°であることを示す。
図10は、誘電体板2aが2つの場合は、電力半値角が17°であることを示す。
このように、誘電体板2aの数が増えるほど、第2の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100aが放射する電波は狭ビーム化される。
【0067】
このように構成された第2の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100aは、平面型フェーズドアレーアンテナ1と、複数の誘電体板2aとを備える。そのため、電波が反射される伝搬経路を増やすことができ、第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100よりもさらに狭ビーム化を実現することができる。
【0068】
(第3の実施形態)
図11は、第3の実施形態におけるフェーズドアレーアンテナシステム100bの構成の具体例を示す図である。
フェーズドアレーアンテナシステム100bは、平面型フェーズドアレーアンテナ1bと、誘電体板2a−1及び2a−2とを備える。
以下、
図1、
図2又は
図9と同様の機能を有するものは同じ符号を付すことで説明を省略する。
【0069】
平面型フェーズドアレーアンテナ1bは、誘電体層11と、複数のパッチ素子12と、地導体板13とを備える。
【0070】
図12は、第3の実施形態における平面型フェーズドアレーアンテナ1bの構成の具体例を示す上面図である。
誘電体層11は、XY面内において長辺が長さL
S、短辺が長さW
Sの長方形形状である。以下、簡単のため、誘電体層11の長辺はX軸に平行とし、短辺はY軸に平行であると仮定する。パッチ素子12は、XY面内において1辺L
dの正方形形状である。L
dは、放射電波の自由空間中の波長の1/4に略同一であり、放射電波の自由空間中の波長の1/4以上の長さである。
【0071】
各パッチ素子12の一辺は、誘電体層11の一辺に平行である。複数のパッチ素子12は、誘電体層11の各辺に平行に行列状に位置する。各パッチ素子12の中心間距離は、所定の長さdである。長さdは、放射電波の自由空間中の波長の1/2に略同一である。
各パッチ素子12の中心点と、各パッチ素子12に最近接の誘電体層11の一辺との間の距離Hは、以下の式(1)及び式(2)を満たす。
【0074】
V
Wは、誘電体層11の短辺に平行な軸方向のパッチ素子12の数である。V
Lは、誘電体層11の長辺に平行な軸方向のパッチ素子12の数である。
図12において、V
Wは、2であり、V
Lは、6である。
距離Hは、誘電体層11の余白の長さを反映した長さである。簡単のため、以下、距離Hを余白Hという。
【0075】
図13は、第3の実施形態における距離Hと利得との周波数依存性を示す具体的なシミュレーション結果を示す図である。
図13は、L
s=135mmの条件の元で行われたシミュレーション結果である。
図13におけるλ
sは、周波数がシミュレーションにおける中心周波数である電波の自由空間における波長である。シミュレーションにおける中心周波数は、10GHzである。
【0076】
図13に示すシミュレーション結果は、余白Hが、(2/4)×λ
sである場合と、余白Hが(3/4)×λ
sである場合と、余白Hが、(4/4)×λ
sである場合と、余白Hが、(5/4)×λ
sである場合とについて、利得と周波数との関係を示す。
【0077】
図13に示すシミュレーション結果は、余白Hが(3/4)×λ
sの場合に、余白Hが(4/4)×λ
sである場合と、余白Hが(5/4)×λsである場合よりも周波数の変化に対する利得の変動幅が小さくなることを示す。また、
図13に示すシミュレーション結果は、例えば、余白Hを(2/4)×λ
sのように、(3/4)×λ
sよりも小さくした場合、観測している周波数範囲の中での全体的な利得の低下も起きないことを示す。
図13図13そのため、
図13のシミュレーション結果は、余白Hを(3/4)×λ
sにしたフェーズドアレーアンテナシステム100bが、狭ビーム化を実現するために最適であることを示す。余白Hが(3/4)×λ
sよりも小さい場合には、開口面サイズが十分に得られず利得が減少する。また、余白Hが(3/4)×λ
sよりも大きい場合には、帯域が狭くなるとともに、利得の低い極小値が現れる。この原因は、誘電体層11に共振モードが立つためである。
【0078】
誘電体層11の形状及びパッチ素子12の形状は必ずしも四角形でなくてもよい。また、余白Hは、必ずしも、形状が四角形の誘電体層11の一辺と、パッチ素子12の中心点との距離でなくてもよい。余白Hは、パッチ素子12の中心点と、誘電体層11の周上の、パッチ素子12の中心点に最近接の箇所との距離であれば、どのような距離であってもよい。
誘電体層11の形状及びパッチ素子12の形状は、例えば、円形であってもよい。このような場合、余白Hは、パッチ素子12の中心点と誘電体層11の円周とを結ぶ最短の距離である。
【0079】
(第4の実施形態)
図14は、第4の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100cの構成の具体例を示す図である。
第4の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100cは、負メニスカスレンズ3を備える点で第1の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100と異なる。
負メニスカスレンズ3は、負のメニスカスレンズである。負メニスカスレンズ3は、誘電体板2を挟んで平面型フェーズドアレーアンテナ1の反対側に位置する。負メニスカスレンズ3は、ステアリングされた電波である狭ステアード電波のZ軸となす角を大きくする。なお、
図14において、Z軸は、ビームステアードされておらず、狭ビーム化はされた電波が伝搬する方向に平行である。
【0080】
このように構成された、第4の実施形態のフェーズドアレーアンテナシステム100cは、フェーズドアレーアンテナシステム100、100a及び100bよりも、ステアリング範囲を増大することができる。なお、ステアリング範囲を増大するとは、ビームステアードされた電波とビームステアードされていない電波とのなす角を広げることである。
【0081】
図4〜
図5において説明したように、フェーズドアレーアンテナシステム100、100a及び100bは、従来のアンテナシステムとは異なる動作原理によって、狭ビーム化を実現する。また、
図6において説明したように、フェーズドアレーアンテナシステム100、100a及び100bはビームステアリングも実現する。しかしながら、フェーズドアレーアンテナシステム100、100a及び100bでは、電波が狭ビーム化されるため、電波が狭ビーム化されればされるほど、ステアリング範囲が狭くなるという問題がある。第4の実施形態におけるフェーズドアレーアンテナシステム100cは、負メニスカスレンズ3を備えるため、ステアリング範囲を広げることができ、ステアリング範囲が狭くなるという問題を解決することができる。
【0082】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。