【文献】
KIMURA N., et al.,"ACCESSION: AB649140 [GI: 803436461], DEFINITION: Uncultured bacterium DNA, clone: N43.",NCBI Sequence Revision History [online], 04 APR 2015 uploaded, NCBI,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/803436461?sat=3&satkey=26991678
【文献】
NASUNO E., et al., "A high-throughput screening for novel quorum sensing autoinducers from metagenomic libraries",日本微生物生態学会講演要旨集, 2010.11.23, vol.26th, p. 67 (1A-13)
【文献】
J. Nat. Prod.,2008年,vol.71, no.7,pp.1275-1279
【文献】
NASUNO E., et al., "A high-throughput screening for novel quorum sensing autoinducers from metagenomic libraries",日本微生物生態学会講演要旨集, 2011.11.23, vol.26th, p. 67 (1A-13)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記式(IV)で示すイサチン化合物と前記式(V)で示すイサチン酸化合物とが、インジゴをジメチルスルホキシド中で温度60〜140℃に加熱して得られたものである、請求項5記載の新規インドロキナゾリン型化合物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(1)新規IQ型化合物
本発明の新規IQ型化合物は、下記式(I)で示される。
【0028】
【化3】
式中、R
1,R
2,R
3,R
4,R
5,R
6,R
7,R
8は、それぞれ同一でも異なっていてもよい水素原子(−H)、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、アミノ基(−NH
2)、ハロゲン原子、アルキル基(−R)、アルキルアミノ基(−NRR’)、アルコキシ基(−OR)、アシル基(−COR)、カルボン酸誘導体(−COOR、−CONRR’)、もしくはアルキルシリル基(−SiRR’R”)である。前記R、R’およびR”は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、不飽和結合および/または置換基を含んでいてもよい炭素数1〜22、好ましくは炭素数1〜18、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8の直鎖または分岐を有していてもよいアルキル基である。前記置換基としては、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、カルボン酸誘導体(−COOR、−CONHR、ただしRは炭素数1〜5のアルキル基である。)、ハロゲン原子、アミノ基(−NRR’、ただし、RおよびR’は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である)がある。また、R
1〜R
4の内いずれか2つ、および/またはR
5〜R
8の内いずれか2つは、炭素原子および/または炭素以外の原子を含んで互いに結合して環構造を形成していてもよい。環構造としては、炭素数3〜12のシクロアルカン、ビシクロアルカン、不飽和結合を含むベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、チッソ、イオウ、酸素などのヘテロ原子を含む複素環であってもよい。
また、R
9,R
10は、それぞれ同一でも異なっていてもよい、水素原子(−H)、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、アミノ基(−NH
2)、アルキル基(−R)、アルキルアミノ基(−NRR’)、アルコキシ基(−OR)、アシル基(−COR)、カルボン酸誘導体(−COOR、−CONRR’)であり、前記R、およびR’は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、不飽和結合および/または置換基を含んでいてもよい炭素数1〜22、好ましくは炭素数1〜18、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8の直鎖または分岐を有していてもよいアルキル基である。前記置換基としては、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、カルボン酸誘導体(−COOR、−CONHR、ただしRは炭素数1〜5のアルキル基である)、ハロゲン原子、アミノ基(−NRR’、ただし、RおよびR’は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である)がある。
また、R
11は、水素原子(−H)、アルキル基(−R)、アシル基(−COR)、またはアルキルシリル基(−SiRR’R”)であり、前記R、R’およびR”は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、不飽和結合および/または置換基を含んでいてもよい炭素数1〜22、好ましくは炭素数1〜18、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8の直鎖または分岐を有していてもよいアルキル基である。前記置換基としては、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、カルボン酸誘導体(−COOR、−CONHR、ただしRは炭素数1〜5のアルキル基である)、ハロゲン原子、アミノ基(−NRR’、ただし、RおよびR’は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である)がある。
好ましくは、R
1,R
2,R
3,R
4,R
5,R
6,R
7,R
8、R
9,R
10,およびR
11が、水素原子である下記式(II)に示す化合物である。
【0030】
後記する実施例に示すように、上記式(II)で示される化合物の発見は、メタゲノム解析によって検出された遺伝子に由来する。この遺伝子は、AHLレセプター遺伝子(LuxR)、AHL合成酵素遺伝子のプロモーター(LuxI)および緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を含むpJBA132プラスミドを有する大腸菌を微生物センサーとして使用し、GFPの発現によって検出された。GFPの発現は、LuxRによって生産されたAHLレセプターとAI化合物との結合が前提である。したがって、上記微生物センサーで検出された化合物の構造は、AHL化合物の構造に類似すると推定された。しかしながら驚いたことに、前記遺伝子がコードするタンパク質は、インドロキナゾリン骨格を含む式(II)で示す新規IQ型化合物の合成酵素であった。この合成酵素によって生産される新規IQ型化合物は、従来公知のAHL化合物である3−オキソヘキサノイル−ホモセリンラクトン(3-oxohexanoyl-homoserine lactone)と比較して2倍以上の発光強度を有し、高いAI活性を有することが示された。AIによって制御されるQS機構では、AI生合成遺伝子もターゲット遺伝子であり、その転写がAI自身によって活性化される。新規IQ型化合物は上記発光強度が高く、かつ新規IQ型化合物の微生物による生産効率にも優れる。
【0031】
新規IQ型化合物は、グラム陰性菌に対するAIとして作用する。したがって、従来のAHL化合物と同様にQS機構を制御し、バイオフィルム形成の制御、哺乳類に対する育毛効果や創傷治療などのAIとして使用することができる。しかも、後記する実施例に示すように、新規IQ型化合物は、微生物分解耐性に優れることも判明した。このため、発酵食品製造や環境浄化などの微生物環境下で長期に亘りQS機構を制御することができる。従来、インドロキナゾリン骨格を有するAIは知られていない。したがって、QS機構を解析するための試薬として、またはAI拮抗薬の開発のための研究試薬としても使用することができる。このように、新規IQ型化合物は、AI活性を利用して、医薬、研究用、化成品開発、研究試薬、食品製造、プロバイオティクスの分野で使用することができる。なお、含窒素複素環化合物であるインドロキナゾリンが、心筋様細胞への分化促進作用があるとの報告がある。心筋細胞自体は再生できないが、インドロキナゾリンによって万能細胞が分化できれば心筋細胞を再生させることができ、重度な心疾患患者の治療の糸口となることが期待されている。新規IQ型化合物もインドロキナゾリン骨格を有するため、このような医薬原料として使用することができる。更に、新規IQ型化合物は黄色化合物であり、染料やその前駆体として使用することもできる。
【0032】
(2)新規IQ型化合物の化学的製造方法
新規IQ型化合物は、イサチンを原料として化学的に合成することができる。また、イサチンは、インドールやインジゴから製造することができる。便宜のため、
図1にインドールからの合成経路の一例を記載する。インドール(1)は酸化(工程A)によりインドキシル(2)となり、インドキシル(2)の酸化(工程B)によりインジゴ(3)となる。インジゴ(3)は酸化(工程C)によりイサチン(4)を生成し、イサチン(4)を加水分解(工程D)するとイサチン酸(5)が生成される。イサチン(4)とイサチン酸(5)とを脱水縮合(工程E)するとインドロキナゾリン骨格を有する前駆体(6)が形成され、これにアンモニアを加えてアミノ化(工程F)すると上記(II)で示す新規IQ型化合物となる。
【0033】
工程A〜工程Cの空気酸化反応はわずかで副生成物も多い。そこで、イサチン(4)を原料として新規IQ型化合物を化学的に合成することが好ましい。イサチン(4)溶液に、例えば水酸化ナトリウムなどのアルカリを加えて加水分解してイサチン酸(5)を生成し、これに濃アンモニア溶液を加えると、上記式(II)に示す新規IQ型化合物を製造することができる。この反応は、温度10〜50℃が好ましく、より好ましくは室温(温度25±7℃)である。なお、濃アンモニアとは濃度20〜30w/w%のアンモニア溶液を意味する。
【0034】
なお、イサチン(4)の加水分解(工程D)によってイサチン酸(5)が生成されるため、イサチン酸(5)を反応系に添加することなく、イサチン(4)を原料として上記式(II)で示す新規IQ型化合物が製造できる。工程Dの加水分解は、アンモニアや水酸化ナトリウム、水酸化カリウムその他のアルカリの添加によって室温で進行する。イサチン(4)にアンモニアを添加すると、イサチン(4)の一部がイサチン酸(5)となり、イサチン(4)とイサチン酸(5)とが脱水縮合(工程E)して前駆体(6)を形成し、かつ前駆体(6)がアミノ化(工程F)し、上記式(II)に示す新規IQ型化合物が製造される。このことは、イサチン(4)にアンモニアを添加すると、温度10〜50℃、例えば室温(温度25±7℃)で上記式(II)に示す新規IQ型化合物が製造できることを意味する。
【0035】
また、イサチン酸(5)を温度60℃以上に加熱するとアンモニアが離脱する可能性がある(工程G)。この離脱したアンモニアが反応系に含まれる場合には、イサチン(4)やイサチン酸(5)に別途アンモニアを添加することなく、上記(II)で示す新規IQ型化合物を製造することができる。
【0036】
更に、インジゴ(3)をジメチルスルホキシド(DMSO)中で温度60〜140℃、好ましくは60〜120℃、特には80〜90℃で12時間〜10日間、好ましくは1〜8日間で加熱しても、上記式(II)で示す新規IQ型化合物が製造できることが判明した。インジゴ(3)、イサチン(4)、イサチン酸(5)はいずれも窒素含有化合物であり、DMSO中でアンモニアを遊離する可能性がある。また、上記したようにイサチン酸(5)の加熱によってもアンモニアが離脱する。結果として反応系にアンモニアが混在するため、別個にアンモニアを添加することなく、上記式(II)で示す新規IQ型化合物が製造できる。
【0037】
イサチン(4)やイサチン酸(5)に代えてこれらの誘導体を使用した場合も工程E〜工程Fが進行し、上記式(II)以外の新規IQ型化合物を製造することができる。すなわち、下記式(IV)で示すイサチン化合物と下記式(V)で示すイサチン酸化合物とを脱水縮合して脱水縮合物を得て、前記脱水縮合物に下記式(VI)で示すアミン化合物を添加する工程を経ることで、上記式(I)に示す新規IQ型化合物を製造することができる。
【0038】
【化5】
式中、R
1,R
2,R
3,R
4は、それぞれ同一でも異なっていてもよい水素原子(−H)、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、アミノ基(−NH
2)、ハロゲン原子、アルキル基(−R)、アルキルアミノ基(−NRR’)、アルコキシ基(−OR)、アシル基(−COR)、カルボン酸誘導体(−COOR、−CONRR’)、もしくはアルキルシリル基(−SiRR’R”)である。前記R、R’およびR”は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、不飽和結合および/または置換基を含んでいてもよい炭素数1〜22、好ましくは炭素数1〜18、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8の直鎖または分岐を有していてもよいアルキル基である。前記置換基としては、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、カルボン酸誘導体(−COOR、−CONHR、ただしRは炭素数1〜5のアルキル基である。)、ハロゲン原子、アミノ基(−NRR’、ただし、RおよびR’は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である)がある。また、R
1〜R
4の内いずれか2つは、炭素原子および/または炭素以外の原子を含んで互いに結合して環構造を形成していてもよい。環構造としては、炭素数3〜12のシクロアルカン、ビシクロアルカン、不飽和結合を含むベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、チッソ、イオウ、酸素などのヘテロ原子を含む複素環であってもよい。
R
9,R
10は、それぞれ同一でも異なっていてもよい、水素原子(−H)、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、アミノ基(−NH
2)、アルキル基(−R)、アルキルアミノ基(−NRR’)、アルコキシ基(−OR)、アシル基(−COR)、カルボン酸誘導体(−COOR、−CONRR’)であり、前記R、およびR’は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、不飽和結合および/または置換基を含んでいてもよい炭素数1〜22、好ましくは炭素数1〜18、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8の直鎖または分岐を有していてもよいアルキル基である。前記置換基としては、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、カルボン酸誘導体(−COOR、−CONHR、ただしRは炭素数1〜5のアルキル基である)、ハロゲン原子、アミノ基(−NRR’、ただし、RおよびR’は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である)がある。
【0039】
合成反応に使用する式(IV)で示すイサチン化合物と式(V)で示すイサチン酸化合物とは、R
1〜R
4で示す基が、それぞれ同一でもよく異なっていてもよい。例えば、式(IV)で示すイサチン化合物において、R
1,R
2,R
4が水素原子、R
3がメトキシ基であるイサチン化合物と、式(V)で示すR
1,R
2,R
3が水素原子、R
4がアミノ基であるイサチン酸化合物とを反応させることができる。例えば、5−メトキシイサチン溶液に水酸化ナトリウムなどのアルカリを加えて加水分解し、5−メトキシイサチン酸とする。これに4−アミノイサチンおよび濃アンモニア溶液を加えると、上記式(I)のR
7がメトキシ基およびR
4がアミノ基の新規IQ型化合物を合成することができる。なお、イサチンは加水分解により対応するイサチン酸を生成するため、原料として2分子の上記式(IV)で示すイサチン化合物を使用して式(V)で示すイサチン酸化合物を生成させ、これを用いて新規IQ型化合物を合成することもできる。
【0040】
また、
図1の工程Fで使用するアンモニアに代えて、上記式(VI)で示すアミン化合物(NHR
9R
10)を使用すれば、R
9、R
10が水素原子以外の新規IQ型化合物を合成することもできる。アンモニア以外のアミン化合物を使用する場合、
図1で示すインドロキナゾリン骨格を有する前駆体(6)のカルボン酸をジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)や1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)等の脱水縮合剤で活性化すると、円滑にアミン化合物とのアミド化反応が進行する。すなわち、予め調製した前記インドロキナゾリン骨格を有する前駆体(6)や、R
1〜R
8が上記式(I)で示すR
1〜R
8である前駆体(6)をジクロロメタンに溶解し、室温下で当モル量のDCCおよびHOBtを加え撹拌し、アンモニア以外の式(VI)で示すアミン化合物(NHR
9R
10)を当モル量添加し、撹拌することで、R
9、R
10が水素原子以外の新規IQ型化合物を製造することができる。
【0041】
なお、R
11が水素原子以外の新規IQ型化合物は、予めR
11が水素原子の新規IQ型化合物を得た後、R
11を修飾することで合成することができる。例えば、R
11がアシル基である新規IQ型化合物を合成する場合は、予め調製したR
11が水素原子である新規IQ型化合物をジクロロメタンなどの溶媒に溶解し、触媒量のN,N−ジメチル−4−アミノピリジンを添加し、そこに対応する酸塩化物あるいは酸無水物を加え撹拌する。これにより、R
11がアシル基である新規IQ型化合物を製造することができる。なお、R
1〜R
8、R
9、R
10のいずれかが反応性の置換基である場合は、予め保護しておけばよい。
【0042】
また、R
11がシリル基の新規IQ型化合物を合成する場合は、予め調製したR
11が水素原子である新規IQ型化合物をジメチルホルムアミドなどの溶媒に溶解し、触媒量のN,N−ジメチル−4−アミノピリジンを添加し、そこに対応するシリルクロライドを加え撹拌する。これにより、R
11がシリル基である新規IQ型化合物を製造することができる。なお、R
1〜R
8、R
9、R
10のいずれかが反応性の置換基である場合は、予め保護しておけばよい。
【0043】
また、R
11がアルキル基の新規IQ型化合物を合成する場合は、予め調製したR
11が水素原子である新規IQ型化合物をジメチルホルムアミドなどの溶媒に溶解し、当モル量の水素化ナトリウムを加え、そこに対応するハロゲン化アルキルを加え撹拌する。これにより、R
11がアルキル基である新規IQ型化合物を製造することができる。なお、R
1〜R
8、R
9、R
10のいずれかが反応性の置換基である場合は、予め保護しておけばよい。
【0044】
上記したように、イサチン酸(5)はアルカリ条件でイサチン(4)から生成され、同様に、上記式(IV)で示すイサチン化合物からも式(V)で示すイサチン酸化合物が生成される。従って、式(IV)で示すイサチン化合物の使用により、式(V)で示すイサチン酸化合物を添加することなく、式(IV)で示すイサチン化合物と式(V)で示すイサチン酸化合物との混合物が得られる。したがって、本発明において、「式(IV)で示すイサチン化合物と式(V)で示すイサチン酸化合物と」とは、式(IV)で示すイサチン化合物と式(V)で示すイサチン酸化合物と使用する場合の他、式(V)で示すイサチン酸化合物を添加することなく、式(IV)で示すイサチン化合物のみを使用する場合を含むものとする。
【0045】
上記に加え、公知化合物である下記(III)に示すメチルイソトイド(methylisatoid)を原料とし、メトキシ基に代えてアミノ基を導入して、前記式(II)に示す化合物を調製することもできる。
【0047】
(3)新規IQ型化合物の微生物による生合成
式(II)で示す新規IQ型化合物は、インドールやインドール誘導体の酸化酵素(以下、単にインドール類酸化酵素と称する。)をコードする核酸を含むベクターで形質転換された形質転換体から生合成することができる。
図1に示すように、新規IQ型化合物は、インドールを酸化条件下に制御して生成されるイサチン(4)とイサチン酸(5)との脱水縮合(工程E)、および脱水縮合物(6)のアミノ化(工程F)によって生成される。したがって、インドールの第3位を酸化できるインドール類酸化酵素は、新規IQ型化合物合成酵素となる。インドールは、微生物内でトリプトファンの分解産物として生産されるため、インドール類酸化酵素を発現しうる微生物を使用すれば、新規IQ型化合物を生合成することができる。このような微生物として、インドール類酸化酵素遺伝子を含むベクターで形質転換された形質転換体を使用することができる。なお、インドール誘導体とは、インドールのベンゼン環の水素原子が上記式(I)で示すR
1〜R
4であるインドール化合物を意味する。
【0048】
新規IQ型化合物合成酵素として、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる酵素タンパク質を好適に使用することができる。配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、新規IQ型化合物の合成能のある酵素活性を有するタンパク質であってもよい。ここで、「1若しくは数個」というとき、1〜85個、好ましくは1〜64個、より好ましくは1〜42個を表す。また、新規IQ型化合物の合成能を有することを条件に、配列番号1に示す新規IQ型化合物合成酵素の一部の配列であってもよく、例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%のホモロジーを有するアミノ酸配列のタンパク質であってもよい。新規IQ型化合物の合成能を有するため、これらタンパク質を新規IQ型化合物合成酵素と称する。
【0049】
インドール類酸化酵素は、新規IQ型化合物合成酵素として使用することができる。このような酵素として、上記の他に、海洋環境サンプル由来のMG79−12(配列番号2)、MG79−15(配列番号3)、MG79−16(配列番号4)、MG79−20(配列番号5)、MG92−5(配列番号6)、MG92−6(配列番号7)、昆虫共生菌由来のMoxY(配列番号8)などがある。なお、新規IQ型化合物を合成できることを条件に、上記したインドール類酸化酵素に限定されない。
【0050】
(4)新規IQ型化合物合成酵素をコードする核酸(qssA)
新規IQ型化合物合成酵素として、メタゲノム解析およびAI活性を検出する微生物センサーによって見出された配列番号1に示す新規IQ型化合物合成酵素がある。この新規IQ型化合物合成酵素をQssAと称し、QssAをコードする核酸として配列番号9で示される遺伝子があり、これをqssAと称する。また、上記式(I)で示す新規IQ型化合物の合成活性を有するタンパク質をコードすることを条件に、配列番号9に示される塩基配列の相補的な配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列や、配列番号9に示される塩基配列と少なくとも90%、好ましくは95%の同一性を有する塩基配列に示されるいずれかの塩基配列であってもよい。ここで、ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、高い相同性(identity90%以上)を有するDNAがハイブリダイズする条件をいう。このような「ストリンジェントな条件」としては、例えば、2×SSC、0.1%SDS及び50%ホルムアミドの溶液中で25℃にて加温した後、0.1×SSC、0.1%SDSの溶液中で68℃にて洗浄する条件をいう。ただし、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素があり、これら要素を適宜選択することで同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0051】
(5)遺伝子qssAの調製方法
遺伝子qssAは、活性汚泥環境に含まれる微生物に由来するメタゲノムライブラリーを用いて調製される。活性汚泥から複合微生物の由来のDNAを抽出し、約40kbのDNA画分を分取する。これらDNAをそれぞれフォスミド(Fosmid)ベクターなどに導入し、このベクターを大腸菌(Escherichia coli)などの宿主に導入して各DNAのクローンからなるメタゲノムライブラリーを構築する。これを適当な微生物センサーを使用してAI活性を有する大腸菌クローンを選択する。微生物センサーとしては、例えば、AHLレセプター遺伝子(LuxR)、AHL合成酵素遺伝子のプロモーター(LuxI)および緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を含むプラスミドが導入された大腸菌などを使用することができる。メタゲノムライブラリーのクローンが、新規IQ型化合物合成酵素を発現してAI活性を有するとGFPの緑色蛍光を発するから、AI活性を有するクローンを検出することができる。緑色蛍光を発したクローンに含まれる約40kbのDNAの中からAI活性を有する遺伝子配列を特定するには、このクローンの変異体を用いればよい。このような変異体として、例えば、緑色蛍光を発したクローンのDNAの任意の位置にトランスポゾンを導入した複数の変異体群を調製する。これらを前記微生物センサーで培養し、緑色蛍光を発しないクローンを検出する。このクローンのトランスポゾン導入位置は、新規IQ型化合物合成酵素の遺伝子領域と推定することができる。このようにして検出された遺伝子領域の一つがqssAである。上記によって検出されたqssAは、適当なプライマーを使用し、PCR等の公知の方法で増幅することができる。
【0052】
(6)海洋環境サンプル由来インドール類酸化酵素遺伝子の調製方法
前記MG79−12(配列番号2)、MG79−15(配列番号3)、MG79−16(配列番号4)、MG79−20(配列番号5)、MG92−5(配列番号6)、MG92−6(配列番号7)をコードする遺伝子は、それぞれ配列番号13(MG79−12のDNA配列)、配列番号14(MG79−15のDNA配列)、配列番号15(MG79−16のDNA配列)、配列番号16(MG79−20のDNA配列)、配列番号17(MG92−5のDNA配列)、配列番号18(MG92−6のDNA配列)で示すことができる。これらは、海洋環境あるいは海洋無脊椎動物に含まれる微生物に由来するメタゲノムライブラリーを用いて、インジゴ生産能を指標に調製することができる。
【0053】
例えば、海水、海底堆積物、干潟砂泥、海綿やホヤ等の海洋底生無脊椎動物から複合微生物の由来のDNAを抽出し、約40kbのDNA画分を分取する。これらDNAを、遺伝子qssAの調製方法と同様に、それぞれフォスミドベクターなどに導入し、このベクターを大腸菌などの宿主に導入して、各DNAのクローンからなるメタゲノムライブラリーを構築する。ついで、これをインドール酸化活性を指標に選択する。具体的にはコロニーが濃青色を呈するインジゴの生産能を指標とする。濃青色を示したクローンに含まれる約40kbのDNAの中からインドール酸化に関する遺伝子配列を特定するには、以下の方法を用いる。フォスミドDNAを制限酵素Sau3AIで3kb程度にランダムに断片化した後、プラスミドにサブクローニングし、インジゴ生産能を有するサブクローンを選択する。インジゴ生産サブクローンに組み込まれたDNAの配列を決定し、遺伝子領域を推定する。上記によって検出された遺伝子は、適当なプライマーを使用し、PCR等の公知の方法で増幅することができる。なお、最終的にPCR増幅で作成したクローンは、前記遺伝子qssAの調製の際にAI活性物質の検出に使用した微生物センサーを用いて、AI活性物質の生産を確認することができる。
【0054】
(7)新規IQ型化合物合成酵素産生能を有する形質転換体
適当なベクターにqssAを連結することで、新規IQ型化合物合成酵素遺伝子発現ベクター(以下、単に組換えベクターと称する。)を調製することができる。QssAは新規IQ型化合物合成酵素であり、インドール類酸化酵素である。したがって、新規IQ型化合物を合成し得ることを条件に、他のインドール類酸化酵素をコードする核酸をqssAと同様に使用し、組換えベクターを調製することができる。このようなインドール類酸化酵素の遺伝子として、前記MG79−12(配列番号2)、MG79−15(配列番号3)、MG79−16(配列番号4)、MG79−20(配列番号5)、MG92−5(配列番号6)、MG92−6(配列番号7)をコードする遺伝子は、それぞれ配列番号13(MG79−12のDNA配列)、配列番号14(MG79−15のDNA配列)、配列番号15(MG79−16のDNA配列)、配列番号16(MG79−20のDNA配列)、配列番号17(MG92−5のDNA配列)、配列番号18(MG92−6のDNA配列)がある。ベクターとしては、プラスミド、コスミド、バクテリオファージなど宿主中で複製可能なものであれば特に限定されない。宿主は、組換えベクターが機能するものであれば特に限定されず、大腸菌、放線菌なども使用することができる。なお、ベクター中に導入する遺伝子の方向及び順序は、遺伝子が発現され、および発現されたタンパク質が新規IQ型化合物合成酵素として機能できればよく、任意に配列及び選択することができる。
【0055】
形質転換体は、上記組換えベクターを宿主に導入し、形質転換することで調製できる。形質転換体を調製する際に組換えベクターを宿主に導入する方法として、従来公知のエレクトロポレーション法、プロトプラスト法、塩化カルシウム法(スフェロプラスト法)などの手法を用いることができる。また、形質転換体の作製に際し、使用するベクター、宿主、高発現を誘導する誘導基質、プロモーター、オペレーター、エンハンサーなどを適宜選択し、使用することができる。一般には、新規IQ型化合物合成酵素遺伝子を発現プラスミドベクターに組み込み、大腸菌に導入するが、これに限定されない。
【0056】
(8)新規IQ型化合物合成酵素の調製方法
新規IQ型化合物合成酵素は、上記形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清、培養菌体、又は菌体の破砕物のいずれも意味するものである。培養は、組換えベクターを導入した宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。放線菌や細菌等の微生物を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、微生物の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。例えば、形質転換体が大腸菌である場合、当研究分野で通常用いる栄養培地で培養し、必要に応じてlacプロモーター誘導剤であるIPTG(Isopropyl-β-D-1-thiogalactopyranoside)などの誘導物質を加え、大腸菌が増殖できる栄養培地中での酵素の高発現を行うことができる。通常の培養条件では、適宜、抗生物質を加えたLB培地(1.0%ペプトン、0.5%乾燥酵母エキス、1.0%NaClから成る)で37℃、8〜12時間前培養し、この十分増殖した菌体を種菌として、新しいLB培地に容量比1〜5%植菌、37℃、2〜4時間本培養し、IPTGを加え、さらに30℃で2〜4時間培養する。他の形質転換体の場合も、それぞれの宿主細胞用に適した培地で培養する。形質転換体を懸濁培養する場合には、懸濁液の濃度は、600nmの濁度で1〜2が好適であり、必要に応じて増減できる。
【0057】
形質転換体が新規IQ型化合物合成酵素を生成する場合、培養液中に新規IQ型化合物も含まれる。よって、当該化合物のAI活性を確認することで、形質転換体が新規IQ型化合物合成酵素を生産の有無を確認することができる。当該酵素の生産を確認した後、培養液から新規IQ型化合物合成酵素を抽出する。新規IQ型化合物合成酵素が菌体外に生産される場合には、培養液から菌体を除去し、新規IQ型化合物合成酵素を抽出する。一方、新規IQ型化合物合成酵素が菌体内に生産される場合には、菌体を破砕することにより新規IQ型化合物合成酵素を抽出する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独でまたは適宜組み合わせて用い、新規IQ型化合物合成酵素を単離する。
【0058】
(9)形質転換体による新規IQ型化合物の調製
新規IQ型化合物は、インドールを基質として新規IQ型化合物合成酵素によって生成する。新規IQ型化合物合成酵素がインドールを酸化すると微生物内でイサチンおよびイサチン酸が生成し、これらの脱水縮合し、および13位の水酸基がアミノ基と置換して、新規IQ型化合物が生成する。インドールは、微生物内でトリプトファンの分解によって生成するから、培養液中にトリプトファンが含まれるとインドールが生成される。なお、
図1に示すように、インドロキナゾリン骨格を有する前駆体(6)は、アミノ化(工程F)して上記式(II)に示す新規IQ型化合物を生成するため、アンモニアが供給される必要がある。しかしながら、後記する実施例に示すように、上記形質転換体を培養すると培養液にアンモニアを供給することなく直接培養液中に上記式(II)に示す新規IQ型化合物が生成される。
【0059】
新規IQ型化合物は、上記形質転換体の培養菌体、若しくは培養上清又は酵素反応液から、有機溶媒等を用いて抽出する。新規IQ型化合物を精製するためには、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィーなどを単独又は組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)新規IQ型化合物合成酵素遺伝子の調製
排水処理に利用する活性汚泥から複合微生物由来のDNAを抽出し、ゲル電気泳動で40kb程度のサイズのDNAを分取した。ベクターとしてフォスミド(Fosmid)ベクターpCC1Fosを使用し、大腸菌(Escherichia coli)EPI300株を宿主として、前記分画したDNAのクローンからなるメタゲノムライブラリーを構築した。これを抗生物質(クロラムフェニコール)を添加したLB(Luria-bertani)液体培地で培養し、AHLレセプター遺伝子(LuxR)、AHL合成酵素遺伝子のプロモーター(LuxI)および緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を含むpJBA132プラスミドを有する大腸菌を微生物センサーとして使用し、前記微生物センサーがGFPの蛍光を発するクローンを得た。これをメタゲノムクローンN43株と称する。
【0062】
次いで、メタゲノムクローンN43株に含まれるメタゲノムDNAにコードされる遺伝子の中から、新規IQ型化合物合成酵素遺伝子を特定した。具体的には、メタゲノムクローンN43株のメタゲノムDNAへ配列番号10で示すトランスポゾンをランダムに挿入したメタゲノムクローンN43株の複数の変異体を作製した。トランスポゾンを利用した変異体の調製は、EPICENTRE社製,EZ−Tn5TM<KAN−2>Tnp Transposome
TM Kitを利用した。これら変異体について、上記微生物センサーを使用し、GFPの蛍光を発しないクローンを得た。このクローンのメタゲノムDNAの塩基配列決定によってトランスポゾンが挿入した遺伝子を特定し、この遺伝子を新規IQ型化合物合成酵素遺伝子とした。この遺伝子をqssAと称し、その配列を配列番号9に示す。
【0063】
(実施例2)新規IQ型化合物合成酵素遺伝子による形質転換体の調製
上記実施例1で単離した新規IQ型化合物合成酵素遺伝子qssA(配列番号9)をPCRにより増幅した。PCRに用いたプライマーセットの配列は、次の通りである。
Fwd:5’- GGAATTCCATATGAACATCAGAAAGAACCCT TTA-3’(配列番号11)
Rvs:5’- CGGGATCCTTAGTCGCGTTCGCCCTCGTTGTAT-3’(配列番号12)
PCRはフォスミドDNAであるpN43を鋳型とし、ExTaq DNA polymerase(タカラバイオ社製)を利用して、以下の反応条件で行った。最初、94℃で30秒間加熱し、それから94℃で10秒、55℃で30秒、72℃で1分間を30回繰り返した。PCR反応はサーマルサイクラー(タカラバイオ社製)を使用した。PCR産物はQIAquick PCR purification kit(250)(キアゲン社製)で精製し、pT7 Blue T−ベクター(Novagen社製)へ導入し、このようにして構築したプラスミドベクターで、大腸菌(Escherichia coli DH5alpha)を形質転換し、50μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天平板培地に植菌し、形質転換体を得た。
【0064】
(実施例3)新規IQ型化合物の発酵的調製
実施例2で得た形質転換体を50μg/mlのアンピシリンを含む10mlのLB培地に植菌し、37℃で1晩振盪して前培養した。前培養した形質転換体を1Lの50μg/mlのアンピシリンと0.1mMのIPTGを含むLB培地に植菌し、37℃でさらに24時間培養した。培養液500ml容量の遠心チューブに入れ8,000rpmで5分遠心分離し上清を得た。これを合計160L分調製した。
【0065】
(実施例4)新規IQ型化合物の単離
前記実施例3で得た上清1.6Lあたり酢酸エチル0.6Lで3回抽出した。酢酸エチル抽出物を20%メタノールに溶解し、逆相クロマトグラフィー(ナカライテスク製「Cosmosil 75C18−PREP」)を用い、含水メタノールを溶出液として化合物の分離を行った。実施例1で使用した微生物センサーによってAI活性が確認された活性画分をゲルろ過クロマトグラフィー(GE・ヘルスケア製「Sephadex LH−20」)に供し、メタノールを溶出液として化合物を分離した。次いで、得られた活性画分をゲルろ過クロマトグラフィー(GE・ヘルスケア製、「Sephadex LH−20」)に供し、50%含水メタノールを溶出液として化合物を分離した。得られた活性画分を下記条件1、条件2、および条件3の逆相高速液体クロマトグラムにより分画し、新規IQ型化合物を得た。
【0066】
逆相高速液体クロマトグラムの条件は以下のとおりである。
条件1:
カラム:Shodex GS−320 HQ(昭和電工製、内径7.6mm、長さ30cm)、
溶出条件:60%から100%メタノール(0.2v/v%酢酸)、
流速:0.6mL/min、
解析時間:40分、
検出波長:254nm、
保持時間:33〜35min
【0067】
条件2:
カラム:Cosmosil πNAP(ナカライテスク製、内径10mm、長さ25cm)
溶出条件:10%から100%メタノール(0.2v/v%酢酸)、
流速:2mL/min、
解析時間:30分、
検出波長:254nm、
保持時間:22〜24min
【0068】
条件3:
カラム:Cosmosil 5C18−MS−II(ナカライテスク製、内径10mm、長さ25cm)、
溶出条件:20%から100%メタノール(0.2v/v%酢酸)、
流速:2mL/min、
解析時間:40分、
検出波長:254nm、
保持時間:17.5min
【0069】
(実施例5)新規IQ型化合物の化学的合成−1
インジゴのジメチルスルホキシド(DMSO)溶液(1mg/mL)63Lを80℃で3〜7日間保温した。これに2倍量の水を加え、C18担体(ナカライテスク製、「Cosmosil 75C18−PREP」)を用いて固相抽出を行った。吸着画分をメタノールで溶出して濃縮し、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー(GE・ヘルスケア製、「Sephadex LH−20」)に供し、50%含水メタノールを溶離液として、実施例1で使用した微生物センサーによってAI活性を有する画分を分取した。得られた活性画分をヘキサン‐酢酸エチル混合溶媒(1:3)を溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィー(和光純薬製、「Wakogel−C200E」)に供した。次いで、得られた活性画分を、下記の条件1および条件2の高速液体クロマトグラフィーで精製し、新規IQ型化合物を得た。
【0070】
高速液体クロマトグラムの条件は以下の通りである。
条件1:
カラム:Cosmosil πNAP(ナカライテスク製、内径10mm、長さ25cm)
溶出条件:30%から90%メタノール(0.2v/v%酢酸)、
流速:2mL/min、
解析時間:40分、
検出波長:254nm、453nm、
保持時間:27.5min
【0071】
条件2:
カラム:Develosil C30−UG5(野村化学製、内径10mm、長さ25cm)
溶出条件:25%から65%メタノール、
流速:2mL/min、
解析時間:40分、
検出波長:254nm、453nm、
保持時間:17.5min
【0072】
(実施例6)新規IQ型化合物の化学的合成−2
イサチン20gを2Lの水に懸濁し、28%アンモニア水溶液30mLを加えて、室温で3時間反応させた。イサチンが完全に反応し、暗赤色の溶液となったら、酢酸30mLを加えて中和し、C18担体(ナカライテスク製、「Cosmosil 75C18−PREP」)を用いて固相抽出を行った。その後、実施例5と同様に操作して、新規IQ型化合物を得た。
【0073】
(実施例7)新規IQ型化合物の化学的合成−3
イサチン3gを30mLの水に懸濁し、1N水酸化ナトリウム水溶液を200μL加えて、室温で30分反応した。イサチンが完全に反応し、暗赤色の溶液となったら、酢酸1mLを加えて中和した。その中に、別途イサチン3gを30mLのメタノールに溶解したものを加えて、室温で一晩静置した。上記混合溶液に28%アンモニア水溶液を3mL加えて、さらに室温で24時間静置した。その後、酢酸3mLを加えた後、エバポレーターで20mL程度まで濃縮し、C18担体(ナカライテスク製、「Cosmosil 75C18−PREP」)を用いて固相抽出を行った。その後、実施例5と同様に操作して、新規IQ型化合物を得た。
【0074】
(実施例8)新規IQ型化合物の構造決定
実施例5で得た新規IQ型化合物について、核磁気共鳴装置(NMR)(JEOL RESONANCE製、「JNM−ECZS 400」)を用い、DMSO(d−6)中で核磁気共鳴スペクトルを得た。
1H−NMRの結果を
図2および表1に、
13C−NMRの結果を
図3および表1に示す。なお、表1の下部に当該化合物の基本骨格と位置番号とを示す。また、高分解能ESI−TOF質量分析装置(ESI−TOF−MS)(AB SCIEX製、「TripleTOF 5600+」)を用いて質量分析を行い、その分子式をC
16H
11N
3O
3と決定した。結果を
図4に示す。新規IQ型化合物の化学合成経路、NMRの結果、質量分析の結果から、公知化合物であるメチルイソトイドと類似の構造を有することが推定された。そこで、メチルイソトイドのNMRなどを参照し、その他、各種2次元NMRを測定(結果不図示)し、最終的に実施例5で得た新規IQ型化合物の構造は、6-oxo-12-hydroxy-6,12-dihydroindolo[2,1-b]quinazoline-12-carboxamideと同定した。
【0075】
【表1】
【0076】
【化7】
【0077】
なお、実施例6および実施例7で得た化合物も、実施例5で得た化合物と同じ6-oxo-12-hydroxy-6,12-dihydroindolo[2,1-b]quinazoline-12-carboxamideであることを確認した。
【0078】
(実施例9)
実施例4で形質転換体の発酵により調製した新規IQ型化合物について、LC−MS分析を行った。結果を
図5(A)に示す。その他、HPLC、TLC分析の結果(結果不図示)より、実施例4で得た化合物と実施例5で得た新規IQ型化合物とは同一構造であることを確認した。なお、実施例5で得た新規IQ型化合物について、LC−MS分析を行った結果を
図5(B)に示す。
【0079】
(実施例10)海洋環境由来の新規IQ型化合物合成酵素遺伝子の調製
海水、海底堆積物、干潟砂泥、海綿やホヤ等の海洋底生無脊椎動物から複合微生物由来のDNAを抽出し、ゲル電気泳動で40kb程度のサイズのDNAを分取した。ベクターとしてフォスミド(Fosmid)ベクターpCC1Fosを使用し、大腸菌(Escherichia coli)EPI300株を宿主として、前記分画したDNAのクローンからなるメタゲノムライブラリーを構築した。フォスミドDNAを制限酵素Sau3AIで3kb程度にランダムに断片化後、プラスミドにサブクローニングし、コロニーが濃青色を呈するインジゴ生産能を有するサブクローンを選択した。次いで、インジゴ生産サブクローンに組み込まれたDNAの配列を決定し、遺伝子領域を特定した。これにより、MG79−12の塩基配列(配列番号13)、MG79−15の塩基配列(配列番号14)、MG79−16の塩基配列(配列番号15)、MG79−20の塩基配列(配列番号16)、MG92−5の塩基配列(配列番号17)、MG92−6の塩基配列(配列番号18)で示されるインドール類酸化酵素の遺伝子を調製した。これら遺伝子は、インジゴ産生クローンに由来し、いずれもインジゴを生産しうる遺伝子である。
【0080】
(実施例11)
実施例1で使用したメタゲノムライブラリーのクローンに代えて、実施例10で調製したMG79−12の塩基配列(配列番号13)、MG79−15の塩基配列(配列番号14)、MG79−16の塩基配列(配列番号15)、MG79−20の塩基配列(配列番号16)、MG92−5の塩基配列(配列番号17)、MG92−6の塩基配列(配列番号18)で示されるインドール類酸化酵素の遺伝子をプラスミドベクターに導入し、大腸菌(Escherichia coli)NEB−10β株を宿主として各インドール類酸化酵素のクローンを調製した。これを、実施例1と同様に微生物センサーと培養し、ex:485nm、em:538nmで蛍光強度を測定してAI活性を評価した。QssA、MG79−15、MG79−16、MG79−20、MG92−5、MG92−6およびプラスミドのAI活性の結果を
図6に示す。
図6に示すように、QssA以外のインドール類酸化酵素によっても、AI活性が観察された。なお、図示しないが、MG79−12にもAI活性が認められた。
【0081】
(実施例12)
実施例5で得た新規IQ型化合物を滅菌水に1.0mg/mlの濃度で仕込み、化合物濃度0.1ng/ml、1ng/ml、10ng/ml、100ng/ml、1μg/mlの希釈液を調製した。実施例1で使用した微生物センサーを培養液と共に9倍量添加し、30℃、12時間培養し、培養後の発光強度を480nmで測定した。また、比較のため、新規IQ型化合物に代えてAHL化合物である3−オキソヘキサノイル−ホモセリンラクトン(3-oxo-hexanoyl-homoserine lactone)を使用し、同様に操作して発光強度を480nmで測定した。結果を
図7に示す。
図7に示すように、新規IQ型化合物は、終濃度10ng/mlおよび100ng/mlにて、AHL化合物より2倍の発光強度を有した。
【0082】
(実施例13)
海洋微生物であるビブリオ・ハーベイ(Vibrio harveri)の培養液に実施例5で得た新規IQ型化合物を終濃度0.1、1、10、100および1000ng/mlとなるように添加し、バイオフィルム形成能を評価した。比較のため新規IQ型化合物に代えてAHL化合物である3−オキソヘキサノイル−ホモセリンラクトンを使用し、同様に処理した。培養は、25℃、24時間、静置により行った。培養後、染色および脱染し、595nmにて吸光度を測定した。結果を
図8に示す。なお、
図8において0ng/mlは、新規IQ型化合物を添加しなかった結果である。
図8に示すように、新規IQ型化合物はAHL化合物(3−オキソヘキサノイル−ホモセリンラクトン)と同様に、バイオフィルム形成能を発揮した。
【0083】
(実施例14)
バチルス・セレウス(Bacillus cereus)培養液に、実施例5で得た新規IQ型化合物を終濃度1μg/mlとなるように添加し、30℃で12時間培養し、培養後、12,000rpmで5分間遠心分離し、上清について実施例1で使用した微生物センサーにより発光強度を480nmで測定した。また、比較のため、新規IQ型化合物に代えてAHL化合物(3−オキソヘキサノイル−ホモセリンラクトン)を使用し、同様に操作した。微生物センサー、バチルス・セレウス、新規IQ型化合物およびAHL化合物単独での結果と併せて
図9に示す。新規IQ型化合物は、バチルス・セレウスと培養した後も新規IQ型化合物単独の場合と同様の高い発光強度を示し、バチルス・セレウスによる分解に高い耐性を有することが示された。
【0084】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【0085】
本発明は2016年12月27日に出願された日本国特許出願2016−252554号に基づく。本明細書中に日本国特許出願2016−252554号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。