IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧 ▶ 愛知製鋼株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-磁気センサ及び生体磁気計測装置 図1
  • 特開-磁気センサ及び生体磁気計測装置 図2
  • 特開-磁気センサ及び生体磁気計測装置 図3
  • 特開-磁気センサ及び生体磁気計測装置 図4
  • 特開-磁気センサ及び生体磁気計測装置 図5
  • 特開-磁気センサ及び生体磁気計測装置 図6
  • 特開-磁気センサ及び生体磁気計測装置 図7
  • 特開-磁気センサ及び生体磁気計測装置 図8
  • 特開-磁気センサ及び生体磁気計測装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022100055
(43)【公開日】2022-07-05
(54)【発明の名称】磁気センサ及び生体磁気計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20220628BHJP
   A61B 5/05 20210101ALI20220628BHJP
【FI】
G01R33/02 D
A61B5/05 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214191
(22)【出願日】2020-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】秋田 一平
(72)【発明者】
【氏名】山本 道治
(72)【発明者】
【氏名】青山 均
(72)【発明者】
【氏名】河野 剛健
【テーマコード(参考)】
2G017
4C127
【Fターム(参考)】
2G017AA01
2G017AD44
2G017BA05
2G017BA08
4C127AA10
4C127FF01
4C127KK07
(57)【要約】
【課題】環境変化や製造ばらつきがある場合であっても、コストを増加させることなく同期検波のための最適なサンプリングタイミングを自動補正することが可能であり、かつ検出精度にすぐれた磁気センサ及び生体磁気計測装置を提供する。
【解決手段】外部磁界の作用により電磁気特性が変化する感磁体と、前記外部磁界に比例して誘起電圧が得られるように配置されるコイルと、前記コイルで発生する前記誘起電圧をサンプリングし、サンプリング電圧を得るサンプラと、前記サンプリング電圧に基づいて、前記感磁体を駆動する感磁体クロックの立ち上がりタイミングと、前記サンプラを駆動するサンプラクロックの立ち上がりタイミングとを相対的に調整する自動補正回路とを備えることを特徴とする磁気センサ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部磁界の作用により電磁気特性が変化する感磁体と、
前記外部磁界に比例した誘起電圧が得られるように配置されるコイルと、
前記コイルで発生する前記誘起電圧をサンプリングし、サンプリング電圧を得るサンプラと、
前記サンプリング電圧に基づいて、前記感磁体を駆動する感磁体クロックの立ち上がりタイミングと、前記サンプラを駆動するサンプラクロックの立ち上がりタイミングとを相対的に調整する自動補正回路とを備え、
前記自動補正回路は、前記感磁体クロックが立ち上がってから所定期間の前記サンプリング電圧の変位を観測することで、前記サンプリング電圧が最初にピークとなるまでの遅延時間を検出し、前記感磁体クロックとサンプラクロックの立ち上がりタイミングを、前記遅延時間に相当する時間だけ前後にずらして設定する
ことを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記自動補正回路は、複数の縦続接続された遅延素子を有する遅延同期回路と、
前記サンプリング電圧が入力される度に、前記遅延同期回路中の複数の前記遅延素子の出力の中からいずれか1つを選択する選択信号Dctrlを出力し、前記コイルで発生する前記誘起電圧がピークとなるタイミングで出力される前記選択信号Dctrlを記録するロジック回路と、
前記遅延同期回路中の複数の前記遅延素子それぞれの出力のうち、前記選択信号Dctrlに応じていずれか1つを選択し、前記サンプラクロックを生成するマルチプレクサと、
前記感磁体クロックを生成するクロック生成回路とを備える
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記サンプリング電圧に基づいて、前記コイルで発生する前記誘起電圧がピークとなるタイミングの情報を有するピークサンプリング状態情報を出力する検出回路を更に備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記検出回路は、アナログ-デジタル変換回路を備え、
前記アナログ-デジタル変換回路は前記サンプリング電圧を前記ピークサンプリング状態情報に変換する
ことを特徴とする請求項3に記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記検出回路は、比較器を備え、
前記比較器は、所定の閾値に基づいて二値化された情報を前記ピークサンプリング状態情報として出力する
ことを特徴とする請求項3に記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記コイルに定電流源回路が接続されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の磁気センサ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の磁気センサと、
前記磁気センサからの出力信号を用いて生体が発する磁気を測定する生体磁気計測部と、
を備えることを特徴とする生体磁気計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサ及び生体磁気計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気インピーダンス素子による磁気センサは、外部磁界強度検出のために包絡線検波が必要である。外部磁界強度検出は高速に行う必要があるので、一般的にピークサンプリングによる同期検波が使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、パルス通電電流で周回方向に励磁される高透磁率磁性体ヘッドと、高透磁率磁性体ヘッドの周回方向に巻回されたコイルと、コイルの誘起電圧の第1パルスを検出する電子スイッチとを有する磁気インピーダンス効果マイクロ磁気センサを開示している。
【0004】
特許文献2は、外部磁界の作用により電磁気特性が変化する感磁体と、感磁体に通電電流を供給する駆動回路と、感磁体の周囲に巻回した検出コイルと、検出コイルに誘起する電圧の大きさである誘起電圧値を計測するサンプルホールド回路とを有する磁気センサを開示している。特許文献2のサンプルホールド回路は、駆動回路による通電電流の遮断に同期して誘起電圧値を計測するように構成している。
【0005】
特許文献3は、零磁歪となる軟磁性合金のアモルファスからなる感磁ワイヤと感磁ワイヤの周囲に絶縁物を介して検出コイルを有し、感磁ワイヤに高周波電流を印加することで、外部磁場に応じて検出コイルより発生する電圧を検出するマグネトインピーダンス素子と、マグネトインピーダンス素子に高周波電流を供給する電流供給装置と、検出コイルからの出力を信号処理する信号処理回路を有するマグネトインピーダンスセンサを開示している。
【0006】
特許文献4は、基板上に導電性を有する磁界検出用磁性ワイヤとそれに巻回したコイルと磁性ワイヤ通電用の電極2個とコイル電圧検出用の電極2個を設置した磁界検出素子および前記磁性ワイヤにパルス電流を流す手段と前記パルス電流を流した時に生じるコイル電圧を検知する信号処理回路と前記コイル電圧を外部磁界Hに変換する手段とからなる超高感度マイクロ磁気センサを開示している。
【0007】
特許文献5は、アモルファスワイヤにパルス電流あるいは高周波電流を通電するとともに、アモルファスワイヤに巻回した検出コイルに誘起する外部磁場に対応する大きさの交流減衰振動電圧を出力する磁気インピーダンス素子からなる磁気インピーダンスセンサを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3645116号公報
【特許文献2】特許第3801194号公報
【特許文献3】特許第4655247号公報
【特許文献4】特許第6506466号公報
【特許文献5】特許第5924503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1~4に記載の磁気センサは、磁気インピーダンス素子を駆動してからピークサンプリングを行うまでの時間の調整はCMOSインバータやRC回路等による素子定数調整に基づく遅延回路で行われていた。そのため、環境変化や製造ばらつきによりピークサンプリングのタイミングがずれ、磁気センサの感度(V/T)ばらつきが生じてしまう問題があった。
【0010】
特許文献1及び5のように、強負帰還(磁気フィードバック)を大きなループ利得を以って適用することで、磁気センサの感度(V/T)ばらつきを抑えられる可能性がある。
【0011】
一方、ピークサンプリングのタイミング誤差に起因する感度低下は、当該ループ利得も低減させることになり、利得変動やノイズ特性劣化などが生じるので、強負帰還を施す場合においても適切なタイミング調整を行う必要がある。しかしながら、製造した磁気センサ毎に上記の遅延量をRC時定数などにより個別に調整(トリミング)を行った場合、劇的なコスト増加を招く可能性がある。加えて、特許文献1及び5のように、強負帰還を施す場合でも、経時的な環境変化による感度変動を十分に抑えることはできない。
【0012】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、環境変化や製造ばらつきがある場合であっても、コストを増加させることなく同期検波のための最適なサンプリングタイミングを自動補正することが可能であり、かつ検出精度にすぐれた磁気センサ及び生体磁気計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供している。
(1)本発明に係る磁気センサの一様態は、
外部磁界の作用により電磁気特性が変化する感磁体と、
前記外部磁界に比例した誘起電圧が得られるように配置されるコイルと、
前記コイルで発生する前記誘起電圧をサンプリングし、サンプリング電圧を得るサンプラと、
前記サンプリング電圧に基づいて、前記感磁体を駆動する感磁体クロックの立ち上がりタイミングと、前記サンプラを駆動するサンプラクロックの立ち上がりタイミングとを相対的に調整する自動補正回路とを備え、
前記自動補正回路は、前記感磁体クロックが立ち上がってから所定期間の前記サンプリング電圧の変位を観測することで、前記サンプリング電圧が最初にピークとなるまでの遅延時間を検出し、前記感磁体クロックとサンプラクロックの立ち上がりタイミングを、前記遅延時間に相当する時間だけ前後にずらして設定することを特徴とする。
【0014】
(2)前記自動補正回路は、複数の縦続接続された遅延素子を有する遅延同期回路と、
前記サンプリング電圧が入力される度に、前記遅延同期回路中の複数の前記遅延素子の出力の中からいずれか1つを選択する選択信号Dctrlを出力し、前記コイルで発生する前記誘起電圧がピークとなるタイミングで出力される前記選択信号Dctrlを記録するロジック回路と、
前記遅延同期回路中の複数の前記遅延素子それぞれの出力のうち、前記選択信号Dctrlに応じていずれか1つを選択し、前記サンプラクロックを生成するマルチプレクサと、
前記感磁体クロックを生成するクロック生成回路とを備えることを特徴とする(1)に記載の磁気センサ。
【0015】
(3)前記自動補正回路は、前記サンプリング電圧に基づいて、前記コイルで発生する前記誘起電圧がピークとなるタイミングの情報を有するピークサンプリング状態情報を出力する検出回路を更に備えることを特徴とする(1)又は(2)に記載の磁気センサ。
【0016】
(4)前記検出回路は、アナログ-デジタル変換回路を備え、
前記アナログ-デジタル変換回路は前記サンプリング電圧を前記ピークサンプリング状態情報に変換することを特徴とする(3)に記載の磁気センサ。
【0017】
(5)前記検出回路は、比較器を備え、
前記比較器は、所定の閾値に基づいて二値化された情報を前記ピークサンプリング状態情報として出力することを特徴とする(3)に記載の磁気センサ。
【0018】
(6)前記コイルに定電流源回路が接続されていることを特徴とする(1)~(5)のいずれか一項に記載の磁気センサ。
【0019】
(7)本発明に係る生体磁気計測装置の一様態は、(1)~(6)のいずれか一項に記載の磁気センサと、
前記磁気センサからの出力信号を用いて生体が発する磁気を測定する生体磁気計測部と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、環境変化や製造ばらつきがある場合であっても、コストを増加させることなく同期検波のための最適なサンプリングタイミングを自動補正することが可能であり、かつ検出精度にすぐれた磁気センサ及び生体磁気計測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第一実施形態に係る磁気センサの模式図及び自動補正時の動作例を示す図である。
図2図1の磁気センサの自動補正回路の詳細及び自動補正時の動作例を示す図である。
図3図2の磁気センサの検出回路の詳細を示す図である。
図4】本発明の第一実施形態に係る磁気センサの自動補正時のフローチャート示す図である。
図5】本発明の第二実施形態に係る磁気センサの模式図である。
図6】本発明の第二実施形態に係る磁気センサの自動補正時のフローチャート示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る磁気センサの変形例を示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る磁気センサの他の変形例を示す図である。
図9】本発明の実施形態に係る生体磁気計測装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
「磁気センサ」
<第一実施形態>
まず、本発明の第一実施形態に係る磁気センサ10を図面に基づいて説明する。なお、同一の構成の場合は同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0023】
図1に示すように、本発明の第一実施形態に係る磁気センサ10は、感磁体20と、コイル30と、サンプラ40と、増幅回路50(AMP)と、検出回路60と、自動補正回路70と、定電流源回路80とを備えることを特徴とする。
【0024】
コイル30は、外部磁界に比例して誘起電圧Viが得られるように配置されている。誘起電圧Viをピークサンプリングするために、サンプラ40がコイル30に接続されている。サンプラ40は増幅回路50を経由して、検出回路60に接続されている。検出回路60は、磁気センサ10のセンシング結果を表示するための出力信号OUT及びコイル30で発生する誘起電圧Viがピークとなるタイミングの情報を有するピークサンプリング状態情報PSを出力する。自動補正回路70にピークサンプリング状態情報PSと外部クロックCLKとが入力される。自動補正回路70は、外部クロックCLKに同期し、感磁体20を駆動するための感磁体クロックSMIと、同じく外部クロックCLKに同期し、サンプラ40を駆動するサンプラクロックSMPLとを生成する。
【0025】
(自動補正回路)
図2に示すように、本発明の第一実施形態に係る磁気センサ10において、自動補正回路70は、ロジック回路71と、遅延同期回路72(DLL)と、マルチプレクサ73と、クロック生成回路74とを備える。
【0026】
自動補正回路70は、サンプラ40で検出されるサンプリング電圧に基づいて、感磁体20を駆動する感磁体クロックSMIの立ち上がりタイミングと、サンプラ40を駆動するサンプラクロックSMPLの立ち上がりタイミングとを相対的に調整する。
また、感磁体クロックSMIが立ち上がってから所定期間のサンプリング電圧の変位を観測することで、サンプリング電圧が最初にピークとなるまでの遅延時間を検出する。そして、自動補正回路70は、感磁体クロックSMIとサンプラクロックSMPLの立ち上がりタイミングを、上述の遅延時間に相当する時間だけ前後にずらして設定する。
【0027】
遅延同期回路72は、複数の縦続接続された遅延素子721を有する。外部クロックCLKが入力される遅延同期回路72は、複数の縦続接続された遅延素子721によって外部クロックCLKに対して異なる遅延量を有する信号を出力する。
ロジック回路71は、検出回路60と、マルチプレクサ73とに接続される。ロジック回路71は、検出回路60からピークサンプリング状態情報PSが入力される度に、複数の遅延素子721の出力の中からいずれか1つを選択する選択信号Dctrlをマルチプレクサ73に出力し、サンプラクロックSMPLの出力タイミングを変化させる。ロジック回路71は、ピークサンプリング状態情報PSを監視し、コイル30で発生する誘起電圧がピークとなるタイミングで出力される選択信号Dctrlを記録する。
マルチプレクサ73は、遅延素子721それぞれの出力のうち、選択信号Dctrlに応じていずれか1つを選択し、サンプラクロックSMPLを生成する。サンプラクロックSMPLはパルス電流や高周波電流であってもよい。
【0028】
クロック生成回路74は、クロックgen741と駆動回路742とを備える。外部クロックCLKが入力されるクロックgen741は、駆動回路742を駆動して外部クロックCLKに同期する感磁体クロックSMIを生成する。感磁体クロックSMIはパルス電流や高周波電流であってもよい。クロックgen741に入力される外部クロックCLKは、上述の遅延同期回路72に入力される外部クロックCLKと同じである。
【0029】
(検出回路)
図3に示すように、本発明の第一実施形態に係る磁気センサ10において、検出回路60は、アナログ-デジタル変換回路61(ADC)を備える。アナログ-デジタル変換回路61は、増幅回路50によって増幅されたサンプリング電圧をピークサンプリング状態情報PSに変換する。
【0030】
センシング動作時に磁気センサ10としてデジタル出力が求められる場合は、前述のアナログ-デジタル変換回路61を、デジタル出力信号OUTを出力する回路として流用してもよい。これにより、検出回路60として別途回路を追加する必要がなく、磁気センサ10のコストを増加させることなく、検出精度を更に向上させることができる。
【0031】
(感磁体)
図1~3に示すように、感磁体20は、自動補正回路70のクロック生成回路74に接続されている。クロック生成回路74で生成される感磁体クロックSMIによって、感磁体20に電流が流れる。これにより、感磁体20のインダクタンスのみではなく電気抵抗も同時に変化する磁気インピーダンス効果(MI効果)が発生する。
【0032】
感磁体20は、外部磁界の作用により電磁気特性が変化する。感磁体20として、磁気インピーダンス素子(MI素子)が挙げられる。感磁体20を構成する材料は軟磁気特性を有すれば特に限定されないが、例えば、Co-Mn-Si-B系やFe-Si系等の公知の合金系からなるアモルファス合金が挙げられる。
【0033】
(コイル)
図1~3に示すように、コイル30は、感磁体20を介して生じた外部磁界に比例して誘起電圧Vが得られるように配置されている。コイル30は、感磁体20に近接(巻回)して配置されることが好ましい。これにより、感磁体20を介して生じた外部磁界に比例する誘起電圧Vが得られやすくなる。コイル30は、既知のものを使用することができ、例えば導線で構成されてもよい。
【0034】
(サンプラ)
図1~3に示すように、サンプラ40は、スイッチ41とコイル30に並列に接続されるコンデンサー42を備える。サンプラ40は、コイル30で発生する誘起電圧Viをサンプリングし、サンプリング電圧を得る。スイッチ41は自動補正回路70が生成するサンプラクロックSMPLによって駆動される。スイッチ41及びコンデンサー42は既知のものを使用することができる。
【0035】
(定電流源回路)
図1~3に示すように、定電流源回路80はコイル30に接続されている。定電流源回路80は、基準電圧回路81(VREF)と抵抗82とを備える。定電流源回路80は、自動補正期間中に感磁体20に一定の直流磁界を与えるための定電流を与えるよう動作する。また、通常動作時は出力信号OUTに比例した電流をコイル30に流すことで強負帰還を実現するよう再構成される。
【0036】
自動補正時において、コイル30に電流を流して外部磁界よりも大きな一定磁界を発生させることで、外部磁界強度に関係のない一定の強い磁界が感磁体20に印加されることになる。これにより、外部磁界強度の影響を最小にすることができる。その結果、自動補正中(選択信号Dctrlを掃引中)の感度(誘起電圧Vの振幅)を最大化し、より正確な検出と補正が可能となる。
【0037】
(変形例)
図7及び8に示すように、本発明の係る磁気センサ10において、定電流源回路80を強負帰還に再構成することで、感磁体20、サンプラ40及び検出回路60で抵抗82を共有してもよい。図8に示すように、通常のセンシング時において、基準電圧回路81の接続を出力信号OUTやデジタル-アナログ変換器(DAC)の出力に切り替えれば、感磁体20、サンプラ40及び検出回路60で抵抗82を共有することができる。これにより、抵抗素子面積を節約することができ、磁気センサ10のコストを更に低下させることができる。定電流源回路80は定電流源であってもよい。また、定電流源回路80において、強負帰還(抵抗のパス)を使用せず、開ループのものであってもよい。
【0038】
(増幅回路)
図1~3に示すように、増幅回路50(AMP)は、サンプラ40と検出回路60との間に接続されている。増幅回路50はサンプラ40によりサンプリングされたサンプリング電圧を増幅するので、検出回路60の検出精度を向上させることができる。また、自動補正中に、回路の強負帰還構成が解除される開ループの状態で、増幅回路50の出力を検出回路60に直結させることによって、増幅回路50を検出回路60の前置増幅器として再利用してもよい。これにより、コスト増加なしに検出回路60の精度を更に向上させることができる。
【0039】
(自動補正手法)
本発明の第一実施形態に係る磁気センサ10の自動補正手法を説明する。
図2に示すように、自動補正時において、まず感磁体クロックSMIで感磁体20に駆動電流を通電する。これにより、コイル30では、感磁体20に流れる駆動電流によって生じる磁界に比例する誘起電圧Vが得られる。この時、コイル30で生じる誘起電圧Viの大きさが最大になるタイミングは、感磁体20に流れる電流によって生じる磁界の大きさが最大になるタイミングよりもΔtoptだけ遅延する。
【0040】
誘起電圧Vはサンプラ40でサンプリング電圧としてサンプリングされ、増幅回路50を経由して、検出回路60に入力される。検出回路60のアナログ-デジタル変換回路61は、増幅回路50を経由して入力されるサンプリング電圧をピークサンプリング状態情報PSに変換して出力する。自動補正回路70にはピークサンプリング状態情報PSと外部クロックCLKとが入力される。そして、自動補正回路70はピークサンプリング状態情報PSに基づき遅延量Δtoptを、探索、決定及び保持する。そして、決定された遅延量Δtoptに基づいて、外部クロックに同期する感磁体クロックSMIと、同じく外部クロックに同期し、かつサンプラ40がコイル30に発生する誘起電圧ViのピークをサンプリングできるようなサンプラクロックSMPLとを生成する。
【0041】
図2に示すように、自動補正回路70が前述の構成である場合、自動補正中において、ロジック回路71は、選択信号Dctrlを順次探索し、サンプラ40で誘起電圧Vのピークがサンプリングされたかどうかを判定する。そして、ロジック回路71は、最適な遅延素子721の出力を選択する選択信号Dctrlの値を保持するよう動作する。
【0042】
具体的には、図2及び図4に示すように、本発明の第一実施形態に係る磁気センサ10のロジック回路71は、自動補正中において、選択信号DctrlをサンプラクロックSMPLが最小遅延量となるような値(選択信号Dctrl)から掃引を開始する。ここで、最小遅延量とは、感磁体クロックSMIの立ち上がりタイミング(t)に対する、サンプラクロックSMPLによって駆動されるサンプラ40が誘起電圧Vをサンプリングするタイミング(t)の遅延量が最小となることを意味する。なお、感磁体クロックSMIが高周波である場合、tは、感磁体クロックSMIの立ち上がり初めて最初にピークとなるタイミングである。
【0043】
そして、ロジック回路71は、順次選択信号Dctrlを単調増加させることでサンプラクロックSMPLの遅延量Δtoptを外部クロックCLKに同期して掃引する。外部クロックCLKの周期毎にピークサンプリング状態情報PSの絶対値(つまり、|出力信号OUT|)が、1クロック前のピークサンプリング状態情報PSの絶対値以上である場合、ロジック回路71は、選択信号Dctrlを単調増加してサンプルタイミングの掃引を継続する。そして、外部クロックの周期毎にピークサンプリング状態情報PSの絶対値が減少に転じたタイミング(選択信号Dctrl)の1クロック前に設定した選択信号Dctrln-1を保持してサンプルタイミングの掃引を終了する。この時、選択信号Dctrln-1と選択信号Dctrlとの差に対応した時間差が最適な遅延量Δtoptとなる。
ここで、遅延量Δtoptとは、感磁体クロックSMIの立ち上がりタイミング(t)に対する、感磁体クロックSMIの立ち上がりによって前記コイルに発生する前記誘起電圧のピークのタイミング(t)の遅延量を意味する。
【0044】
これにより、外部磁界によって発生する誘起電圧Viのピークをサンプリングするための最適な遅延量Δtoptを自動で探索することができる。その結果、磁気センサ10のコストを増加させることなく検出精度を向上させることができる。また、遅延同期回路72を用いることにより、複数の遅延素子721の遅延段1つ当たりの遅延量を環境の経時変化に関わらず精度良く固定できる。そのため、安定的に最適な遅延量Δtoptを保持することができる。
【0045】
通常のセンシング時で前述の最適な遅延量Δtoptを使用して、感磁体クロックSMIに同期し、かつサンプラ40がコイル30で発生する誘起電圧のピークをサンプリングできるサンプラクロックSMPLを生成するように強負帰還制御する。これにより、磁気センサ10の精度を高めることができる。
【0046】
検出回路60は、自動補正中において、ピークサンプリング状態情報PSを出力し、センシング動作時において、ピークサンプリング状態情報PSを送るための接続を解除し、検出回路60からデジタル出力信号OUTを得るよう動作してもよい。また、センシング動作時に磁気センサ10としてデジタル出力が求められる場合は、前述のアナログ-デジタル変換回路61を、デジタル出力信号OUTを出力する回路として流用してもよい。これにより、検出回路60として別途回路を追加する必要がなく、磁気センサ10のコストを増加させることなく検出精度を更に向上させることができる。
【0047】
(効果)
ピークサンプリング時のコイル30両端に生じるリンギングの共振周波数は、コイル30とそれに並列に存在するサンプリング用の並列容量及び実装上の寄生容量の積で決まる。そのため、リンギングの共振周波数はデバイス毎でのばらつきはあるが、製作時にほぼ一意に決まり、温度などの環境変化にほとんど影響されないという特徴がある。
【0048】
そのため、本発明の第一実施形態に係る磁気センサ10によれば、デバイス製作後に、感磁体クロックSMIの立ち上がりのタイミングと感磁体クロックの立ち上がりによってコイル30で発生する誘起電圧Vのピークのタイミングとの遅延量Δtoptを決定し、記憶することで常に最適なピークサンプリングを行うことができる。その結果、製造ばらつき、環境変化及びデバイスの経時劣化等に起因するサンプラクロックSMPLのズレを防ぐことができる。遅延量Δtoptは環境変化及びデバイスの経時劣化の影響をほとんど受けないので手動調整を省略することができる。従って、環境変化や製造ばらつきがある場合であっても、コストを増加させることなく同期検波のための最適なサンプリングタイミングを自動補正することが可能となる。これにより、手動で補正する手間を削減でき、かつ磁気センサ10の精度を向上させることができる。
【0049】
以上のことから、本発明の第一実施形態に係る磁気センサ10によれば、環境変化や製造ばらつきがある場合であっても、コストを増加させることなく同期検波のための最適なサンプリングタイミングを自動補正することが可能であり、かつ優れた検出精度を有する。
【0050】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態に係る磁気センサ11及びその自動補正手法を図面に基づいて説明する。なお、前述の実施形態と同一の構成の場合は、同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0051】
(検出回路)
図5に示すように、本発明の第二実施形態に係る磁気センサ11で、検出回路60aは、比較器61aを備え、比較器61aは所定の閾値に基づいて二値化された情報をピークサンプリング状態情報PSとして出力する。例えば、比較器61aは特定のサンプリング電圧Aを閾値として、サンプリング電圧Aよりも電圧が高い場合と低い場合との二値化された信号をピークサンプリング状態情報PSとして出力してもよい。本発明の第二実施形態に係る磁気センサ11で、出力信号OUTは増幅回路50で増幅されるサンプリング電圧と同じであってもよい。
【0052】
図5に示すように、磁気センサ11にアナログ出力が求められる場合、比較器61aを追加すればよい。これにより、検出回路60aとしてアナログ-デジタル変換器を別途設ける必要が無いので、消費電力及びコストを一層低下させることができる。
【0053】
本発明の第二実施形態に係る磁気センサ11において、検出回路60a以外の構成は第二実施形態と同様の構成である。
【0054】
(自動補正手法)
図6に示すように、自動補正中において、ロジック回路71は選択信号DctrlをサンプラクロックSMPLが最小遅延量となるような値からサンプルタイミングの掃引を開始する。この時、比較器61aはサンプラクロックSMPLが最小遅延量となるような値(選択信号Dctrl)の時にサンプラ40でサンプリングされるサンプリング電圧を閾値として設定する。そして、ロジック回路71は、順次選択信号Dctrlを単調増加することでサンプラクロックSMPLの遅延量Δtoptを外部クロックに同期してサンプルタイミングを掃引する。外部クロックの周期毎にピークサンプリング状態情報PSの隣あう2値が反転(比較器の極性反転)したタイミング(選択信号Dctrl)の選択信号Dctrlの1/2のタイミングに最も近い選択信号を選択信号Dctrlとして保持してサンプルタイミングの掃引を終了する。この時、選択信号Dctrlの1/2のタイミングに最も近い選択信号と選択信号Dctrlとの差が遅延量Δtoptとなる。
【0055】
これにより、誘起電圧Vのピークをサンプリングするための最適な遅延量Δtoptを自動で探索することができる。その結果、磁気センサ11のコストを増加させることなく検出精度を向上させることができる。また、遅延同期回路72を用いることにより、複数の遅延素子721の遅延段1つ当たりの遅延量を環境の経時変化に関わらず精度良く固定できる。そのため、安定的に最適な遅延量Δtoptを保持することができる。
【0056】
通常のセンシング時で前述の最適な遅延量Δtoptを使用して、感磁体クロックSMIに同期し、かつサンプラ40がコイル30で発生する誘起電圧のピークをサンプリングできるサンプラクロックSMPLが生成される。一方、図7のように出力信号OUTに比例した電流をコイル30に流すよう接続することで、ループ利得を最大限保持した上で強負帰還を実現することができる。これにより、磁気センサ11の精度をさらに高めることができる。
【0057】
「生体磁気計測装置」
本発明の実施形態に係る生体磁気計測装置について説明する。
【0058】
図9に示すように、本発明の実施形態に係る生体磁気計測装置100は、上述の実施形態に記載の磁気センサと、磁気センサからの出力信号を用いて生体が発する磁気を測定する生体磁気計測部と、を備える。本発明の実施形態に係る生体磁気計測装置100は、N個(チャネル)の前述の磁気センサ、制御装置及び信号処理装置を備えてもよい。制御装置によりNチャネル同時計測、その後の信号処理装置における処理を通じて、脳磁計測、心磁計測、筋磁計測生等の生体磁場計測を行うことができる。生体磁気計測装置100は、磁気センサを含むプローブ(アレイ)とデータ取得システムとが対になった構成であってもよい。また、プローブとデータ取得システムとの接続は、有線、無線及びその組み合わせであってもよい。
【0059】
これにより、安定動作可能な高分解能(ピコテスラレベル)の生体磁気計測装置を小型かつ低消費電力に実現できる。そのため、従来の生体磁気計測向けの磁気センサヘッド(SQUID等)を用いる必要が無く、大幅な小型化及び低コスト化を実現することができる。
【0060】
生体磁気計測装置100の例として、特に限定されないが、MEG(Magnetoencephalography)、MNG(Magnetoneurography)、MCG(Magnetocardiography)、MMG(Magnetomyography)、生体埋込脳活動計測等が挙げられる。
【0061】
明細書の全体において、ある部分がある構成要素を「有する」や「備える」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含むことができるということを意味する。
【0062】
また、明細書に記載の「…部」の用語は、少なくとも1つの機能や動作を処理する単位を意味し、これは、ハードウェアまたはソフトウェアとして具現されてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで具現されてもよい。
【0063】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
以上のことから、本発明によれば、環境変化や製造ばらつきがある場合であっても、低コストで同期検波のための最適なサンプリングタイミングを自動補正することが可能な、磁気センサ及び生体磁気計測装置を提供することができるので、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0065】
10、11 磁気センサ
20 感磁体
30 コイル
40 サンプラ
41 スイッチ
42 コンデンサー
50 増幅回路
60、60a 検出回路
61 アナログ-デジタル変換回路
61a 比較器
70 自動補正回路
71 ロジック回路
72 遅延同期回路
721 遅延素子
73 マルチプレクサ
74 クロック生成回路
741 クロックgen
742 駆動回路
80 定電流源回路
81 基準電圧回路
82 抵抗
83 デジタル-アナログ変換回路
100 生体磁気計測装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9