(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022109306
(43)【公開日】2022-07-27
(54)【発明の名称】ダイヤモンド製膜用下地基板及びそれを用いたダイヤモンド基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/04 20060101AFI20220720BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20220720BHJP
C23C 16/27 20060101ALI20220720BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20220720BHJP
C30B 25/02 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
C30B29/04 P
C23C14/06 N
C23C16/27
C30B25/18
C30B25/02 P
C30B29/04 A
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078513
(22)【出願日】2022-05-12
(62)【分割の表示】P 2017019159の分割
【原出願日】2017-02-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】野口 仁
(72)【発明者】
【氏名】牧野 俊晴
(72)【発明者】
【氏名】小倉 政彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宙光
(72)【発明者】
【氏名】川島 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】山崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】徳田 規夫
(57)【要約】
【課題】転位欠陥等を含めて各種欠陥の低減に有効なダイヤモンド基板の製造方法及びそれに用いる下地基板の提供を目的とする。
【解決手段】化学気相成長法にてダイヤモンド膜を製膜するための下地基板であって、前記下地基板はシリコン基板の上に形成した中間膜と、前記中間膜の上に形成した表面膜とからなる複層構造であり、前記表面膜は、イリジウムからなり、前記中間膜は、単結晶酸化マグネシウム(MgO),単結晶チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3),α-(Al
2O
3)及びイットリア安定化ジルコニア(YSZ)から選択されるいずれかであり、前記下地基板の表面膜は、結晶面方位{100}に対して結晶軸方向<110>に2~15°のオフ角を有し、かつ結晶面との直交軸廻りのずれであるオフ方向のずれが±15°以内であり、前記オフ角は前記シリコン基板又は中間膜に形成してあってもよいことを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相成長法にてダイヤモンド膜を製膜するための下地基板であって、
前記下地基板はシリコン基板の上に形成した中間膜と、前記中間膜の上に形成した表面膜とからなる複層構造であり、
前記表面膜は、イリジウムからなり、
前記中間膜は、単結晶酸化マグネシウム(MgO),単結晶チタン酸ストロンチウム(SrTiO3),α-(Al2O3)及びイットリア安定化ジルコニア(YSZ)から選択されるいずれかであり、
前記下地基板の表面膜は、結晶面方位{100}に対して結晶軸方向<110>に2~15°のオフ角を有し、かつ結晶面との直交軸廻りのずれであるオフ方向のずれが±15°以内であり、前記オフ角は前記シリコン基板又は中間膜に形成してあってもよいことを特徴とするダイヤモンド製膜用下地基板。
【請求項2】
化学気相成長法にてダイヤモンド膜を製膜するための下地基板であって、
前記下地基板はシリコン基板の上に形成した中間膜と、前記中間膜の上に形成した表面膜とからなる複層構造であり、
前記表面膜は、イリジウムからなり、
前記中間膜は単結晶酸化マグネシウム(MgO),単結晶チタン酸ストロンチウム(SrTiO3),α-(Al2O3)及びイットリア安定化ジルコニア(YSZ)から選択されるいずれかであり、
前記下地基板の表面膜は、結晶面方位{111}に対して結晶軸方向<-1-1 2>に2~15°のオフ角を有し、かつ結晶面との直交軸廻りのずれであるオフ方向のずれが±15°以内であり、前記オフ角は前記シリコン基板又は中間膜に形成してあってもよいことを特徴とするダイヤモンド製膜用下地基板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のダイヤモンド製膜用下地基板の上にダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させることを特徴とするダイヤモンド基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイヤモンド基板の製造方法に関し、特にそれに用いる下地基板に係る。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、室温で5.47eVという広いバンドギャップを持ち、ワイドバンドギャップ半導体として知られている。
半導体の中でも、ダイヤモンドは、絶縁破壊電界強度が10MV/cmと非常に高く、高電圧動作が可能である。
また、既知の物質として最高の熱伝導率を有していることから、放熱性にも優れる。
さらに、キャリア移動度や飽和ドリフト速度が非常に大きいため、高速デバイスとして適している。
そのため、ダイヤモンドは、高周波・大電力デバイスとしての性能を示すJohnson性能指数を、炭化ケイ素や窒化ガリウムといった半導体と比較しても最も高い値を示し、究極の半導体と言われている。
このように、ダイヤモンドは、半導体材料としての実用化が期待されており、大面積かつ高品質なダイヤモンド基板の供給が望まれている。
しかしながら、いまだに十分な品質のダイヤモンド基板は得られていない。
【0003】
現在、ダイヤモンド基板として用いられているものに、高温高圧合成(HPHT)法によって合成されたIb型のダイヤモンドがある。
しかしながら、このIb型のダイヤモンドは、窒素不純物を多く含み、また、最大で8mmほどの大きさしか得られないため、実用性は高くない。
非特許文献1では、HPHT法により合成されたダイヤモンドを基板として用いて、ショットキーダイオードを作製している。
しかしながら、ここでのダイヤモンド基板には転位欠陥等が多く、実際に電極を形成して作動を試みても、電極付近や電流パスにキラー欠陥が存在するために、動作不良となることが報告されている。
【0004】
非特許文献2には、HPHT基板上にダイヤモンドをホモエピタキシャル成長させる際に3°以上のオフ角を付けることで異常成長核の抑制ができた旨の報告があるが、転位欠陥の低減に効果があるか否かは不明である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H.Umezawa et al.,Diamond Relat.Mater.,18,1196(2009)
【非特許文献2】S.Ohmagari,NEW DIAMOND118(2015)11.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、転位欠陥等を含めて各種欠陥の低減に有効なダイヤモンド基板の製造方法及びそれに用いる下地基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るダイヤモンド製膜用下地基板は、化学気相成長法にてダイヤモンド膜を製膜するための下地基板であって、前記下地基板の表面は所定の結晶面方位に対してオフ角が付けられていることを特徴とする。
ここで、前記下地基板の表面は、結晶面方位{100}に対して結晶軸方向<110>にオフ角が付けられていてもよい。
また、前記下地基板の表面は、結晶面方位{111}に対して結晶軸方向<-1-1 2>にオフ角が付けられていてもよい。
【0008】
本発明において、オフ角は2~15°の範囲が好ましい。
例えば、上記結晶面方位{100}に対して、結晶軸方向<110>にオフ角を付ける場合には、その結晶軸方向<110>に2~15°のオフ角を有している。
また、この場合にオフ方向のずれ(結晶面との直交軸廻りのずれ)は、±15°以内が好ましい。
【0009】
本発明に用いる下地基板は、化学気相成長法によりダイヤモンド膜(ダイヤモンド基板)を製膜するためのものであり、下地の表面にオフ角が付けられていれば、前記下地基板の表面は、ダイヤモンド,イリジウム,ロジウム,パラジウム及び白金のいずれかでよい。
ここで、下地基板のダイヤモンドにはHPHT法により合成されたダイヤモンドも含まれる。
下地基板の表面がダイヤモンドにオフ角が付けられていれば、ホモエピタキシャル成長になり、下地基板の表面がダイヤモンド以外であればヘテロエピタキシャル成長になる。
下地表面を構成する異種材料としては、ダイヤモンドと同様に立方晶であり、ダイヤモンドとの格子不整合が小さく、さらに炭素と反応して炭化物を形成しない材料が好ましい。
これらの条件を満たす材料としては、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pb)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)などの白金族が主に挙げられる。
ここで、ダイヤモンドの格子定数は3.57Åであり、Rh(格子定数3.72Å)との格子不整合は4.2%、Ir(格子定数3.84Å)との格子不整合は7.6%、Pt(格子定数3.92Å)との格子不整合は9.8%である。
ダイヤモンドと下地表面を構成する異種材料との格子不整合は10%以下であることが好ましい。
また、その中でも最も融点が高く、ダイヤモンド成長中のプラズマや高温環境下における安定性の観点からは、Irが好ましい。
【0010】
本発明において、前記下地基板は、前記表面を形成する表面膜を積層した複層構造であってよい。
例えば、前記複層構造は、MgO基板の上に表面膜を形成してあってよい。
また例えば、前記複層構造は、シリコン基板の上に単層又は多層からなる中間膜を形成し、当該中間膜の上に上記表面膜を形成してあってよい。
この場合に複層構造に製膜する過程において、いずれかの層にオフ角を付けることで表面膜にオフ角が形成されていればよい。
【0011】
例えば、シリコン(Si)基板の上に、単結晶酸化マグネシウム(MgO)、単結晶チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、α-(Al2O3)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)から選択される材料からなる中間層が設けられ、さらに、この中間層の上にイリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)から選択される材料からなる表層が設けられた下地基板が例として挙げられる。
また、シリコン(Si)基板と中間層との間には、金(Au)、白金(Pt)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、シリコン(Si)、酸化シリコン(SiO2)から選択される材料からなる層を一層以上介在させてもよい。
下地基板の表面にダイヤモンド膜をヘテロエピタキシャル成長させる場合には、必要に応じて表面膜の上に、バイアス処理によりダイヤモンドの核を形成してもよい。
【0012】
本発明に係る化学気相成長法は、マイクロ波プラズマCVD、直流プラズマCVD、熱フィラメントCVD、アーク放電プラズマジェットCVD等が例として挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る下地基板を用いると、化学気相成長法にてヒロック、異常成長粒子、転位欠陥等が少なく、低応力な、高品質ダイヤモンド膜を得ることができる。
また、ダイヤモンド膜を製膜後に、下地基板を取り除くことで高品質のダイヤモンド自立基板が得られる。
本発明に係るダイヤモンド基板を電子・磁気デバイスに用いれば、高性能デバイスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
下地基板の断面を
図1に示すようにまず、直径10.0mm、厚さ1.0mm、表面が(100)面で、結晶軸[011]方向にオフ角が0°のものと、オフ角4°及び8°となる両面研磨された単結晶シリコン(Si)基板3を準備した。
準備した単結晶シリコン基板3の片面に、電子ビーム蒸着によって単結晶MgOからなる中間膜2を形成した。
このとき、真空中、基板温度900℃の条件とし、単結晶MgO(中間膜)が1μmになるまでエピタキシャル成長させた。
さらに、この単結晶MgOからなる中間膜上に、Irからなる表面膜1を形成した。
Ir表面膜1の形成には、直径6インチ(150mm)、厚さ5.0mm、純度99.9%以上のIrをターゲットとした高周波(RF)マグネトリンスパッタ法(13.56MHz)を用いた。
単結晶MgO層が形成された基板を800℃に加熱し、ベースプレッシャーが6×10
-7Torr(約8.0×10
-5Pa)以下になったのを確認した後、Arガスを10sccm導入した。
排気系に通じるバルブの開口度を調節したプレッシャーを5×10
-2Torr(約6.7Pa)とした後、RF電力1000Wを入力して15分間製膜を行った。
得られたIr層は、厚さ0.7μmであった。
このようにして得られた、単結晶シリコン基板上に単結晶MgO層、Ir層を積層させたものは、単結晶シリコン基板に付けられたオフ角にならって、ヘテロエピタキシャル成長するので、このシリコン基板にオフ角を有するものは、表面が(100)面で結晶軸[011]方向に4°及び8°のオフ角を有する。
なお、オフ角は最初のシリコン基板やその上に形成した中間膜等、どの段階で形成してもよい。
例えば、下地基板表面をオフ角無しで仕上げた後、
図3に模式的に示すように最終的に結晶軸[011]方向に4°及び8°のオフ角を付けたものを研磨等により製作してもよい。
次に、ダイヤモンドの核形成のために前処理(バイアス処理)を行った。
Ir層側を上にして下地基板を15mm直径で平板型の電極上にセットした。
ベースプレッシャーが1×10
-6Torr(約1.3×10
-4Pa)以下になったのを確認した後、水素希釈メタン(CH
4/(CH
4+H
2)=5.0vol.%)を500sccm導入した。
排気系に通じるバルブの開口度を調整してプレッシャーを100Torr(約1.3×10
4Pa)とした後、基板側電極に負電圧を印加して90秒間プラズマにさらして、下地表面をバイアス処理した。
【0016】
上記にて製作したオフ角0°,4°,8°の各下地基板に、直流プラズマCVD法によってダイヤモンド10をヘテロエピタキシャル成長させた。
バイアス処理を行った下地基板を、直流プラズマCVD装置のチャンバー内にセットし、ロータリーポンプで10-3Torr(約1.3×10-1Pa)以下のベースプレッシャーまで排気した後、原料ガスである水素希釈メタン(CH4/(CH4+H2)=5.0vol.%)を1000sccm導入した。
排気系に通じるバルブの開口度を調節してチャンバー内のプレッシャーを110Torr(約1.5×104Pa)にした後、2.0Aの直流電流を流して製膜を行った。
製膜中の下地基板の温度をパイロメーターで測定したところ、950℃であった。
【0017】
得られたダイヤモンド膜をX線回折測定(入射X線波長1.54Å)したところ、ダイヤモンド(004)帰属の2θ=119.5°における回折強度ピークのロッキングカーブ半値幅は、720arcsec(約0.2°)であった。
【0018】
上記で得られたダイヤモンド膜の光学顕微鏡による観察写真を
図4に示す。
オフ角0°の
図4(a)は、多くのヒロックが発生していたのに対して、オフ角4°,オフ角8°のものは、
図4(b),(c)に示すように一方向にステップが流れたステップバンチング形態を示し、ヒロック,異常成長粒子の発生が認められなかった。
【0019】
次にエッチピット密度について評価した。
ダイヤモンド膜の表面をマイクロ波プラズマCVD装置(Astex Model AX6350)を用いて、2200W,水素ガス500sccm,110Torr条件下,1時間、プラズマ処理をした。
上記にて処理した表面をSEM観察した結果を
図6に示す。
オフ角0°の(a)は、エッチピット密度(EPD):1×10
8cm
-2,オフ角4°の(b)は、EPD:5×10
7cm
-2,オフ角8°のEPD:3×10
7cm
-2であった。
図5にダイヤモンド膜の膜厚と、EPDとの関係を調査した結果のグラフを示す。
下地基板の表面にオフ角を付けることで、ヒロック,異常成長粒子の発生を抑えることができるとともに、転位欠陥(EPD)を減らすことができることが明らかになった。
特にオフ角0°では、ヒロック,異常成長粒子の発生が多く、厚膜にできなかったのに対して、オフ角8°では、約1mm膜厚の厚膜においてEPDを二桁程度、減らすことができた。
【0020】
図2に示すように、単結晶のMgO,YSZ,SrTiO
3,α-アルミナ(Al
2O
3)の基板3aの表面にオフ角を付け、表面膜としてRh,Pd,Ir,Ptの表面膜1を形成してもよい。
オフ角を付けたMgO基板の上に、上記実施例と同様にIr層からなる表面膜を形成し、その上にダイヤモンド膜を形成したところ、オフ角を付けることで転位欠陥が減ることが確認できた。
【符号の説明】
【0021】
1 表面膜
2 中間膜
3 基板
10 ダイヤモンド膜