(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022128804
(43)【公開日】2022-09-05
(54)【発明の名称】ジャガイモシロシストセンチュウ防除剤
(51)【国際特許分類】
A01N 43/40 20060101AFI20220829BHJP
A01P 5/00 20060101ALI20220829BHJP
A01N 43/18 20060101ALI20220829BHJP
A01N 43/08 20060101ALI20220829BHJP
A01N 43/10 20060101ALI20220829BHJP
A01N 43/80 20060101ALI20220829BHJP
A01N 43/38 20060101ALI20220829BHJP
A01M 1/00 20060101ALI20220829BHJP
【FI】
A01N43/40 101Q
A01P5/00
A01N43/18 B
A01N43/08 H
A01N43/10 H
A01N43/80 102
A01N43/38
A01M1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021027228
(22)【出願日】2021-02-24
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち先導プロジェクト)」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】串田 篤彦
(72)【発明者】
【氏名】坂田 至
(72)【発明者】
【氏名】谷野 圭持
(72)【発明者】
【氏名】加藤 港介
(72)【発明者】
【氏名】板橋 拓也
(72)【発明者】
【氏名】金澤 潤
(72)【発明者】
【氏名】池田 祐人
(72)【発明者】
【氏名】北山 卓
(72)【発明者】
【氏名】小泉 聡
(72)【発明者】
【氏名】大沢 陽子
(72)【発明者】
【氏名】井上 勉
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121CC29
2B121CC31
2B121EA26
2B121FA15
2B121FA16
4H011AC01
4H011BB08
4H011BB09
4H011BB10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】工業的に容易に入手可能な、ジャガイモシロシストセンチュウ卵に対するふ化促進物質、これを用いた防除剤、および防除方法を提供する。
【解決手段】下記式(I)で表される化合物を有効成分として含有する、ジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
[式中、Arは、置換若しくは無置換のフェニル基等;R
1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基等;R
2は、水素原子、または置換若しくは無置換のC1~6アルキル基;部分構造の-Y-X-は、*-N(Rb)-C(=X
1)-**で表される基等;X
1は、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子;Rbは水素原子等;ここで、*は2つのR
1を有する炭素原子との結合位置を示し;**はZとの結合位置を示し;Zは、置換若しくは無置換のメチレン基、または置換若しくは無置換のジメチレン基を示す]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物、その立体異性体、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有するジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
【化1】
[式中、
Arは、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
R
1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
R
2は、水素原子、または置換若しくは無置換のC1~6アルキル基を示し;
部分構造の-Y-X-は、*-CH
2-C(=X
1)-**で表される基、*-O-C(=X
1)-**で表される基、*-S-C(=X
1)-**で表される基、*-N(R
b)-C(=X
1)-**で表される基、または*-NH-SO
2-**で表される基を示し;
ここで、*は2つのR
1を有する炭素原子との結合位置を示し、**はZとの結合位置を示し;
X
1は、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子を示し;
R
bは、水素原子、水酸基、R
b1-C(=O)-で表される基、R
b1O-C(=O)-で表される基、R
b1NH-C(=O)-で表される基、またはR
b1
2N-C(=O)-で表される基を示し;
R
b1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
Zは、置換若しくは無置換のメチレン基、または置換若しくは無置換のジメチレン基を示し;
Zが、置換のメチレン基である場合、R
2とメチレン基上の置換基は一緒になって、単結合、またはメチレン基を形成してもよい。]
【請求項2】
式(I)中のZが、置換若しくは無置換のメチレン基である、請求項1に記載のジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
【請求項3】
式(I)中のZが、置換若しくは無置換のジメチレン基である、請求項1に記載のジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
【請求項4】
式(I)中の部分構造の-Y-X-が、*-O-C(=X1)-**で表される基、*-S-C(=X1)-**で表される基、または*-N(Rb)-C(=X1)-**で表される基である、請求項1に記載のジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
【請求項5】
式(I)中の部分構造の-Y-X-が、*-CH2-C(=X1)-**で表される基である、請求項1に記載のジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
【請求項6】
式(I)中の部分構造の-Y-X-が、*-NH-SO2-**で表される基である、請求項1に記載のジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
【請求項7】
式(I)中の部分構造の-Y-X-が、*-O-C(=O)-**で表される基、*-O-C(=S)-**で表される基、*-S-C(=O)-**で表される基、*-NH-C(=O)-**で表される基、*-N(OH)-C(=O)-**で表される基、または*-NH-C(=S)-**で表される基である、請求項2に記載のジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
【請求項8】
式(I)中の部分構造の-Y-X-が、*-O-C(=O)-**で表される基、*-S-C(=O)-**で表される基、または*-NH-C(=O)-**で表される基である、請求項2に記載のジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
【請求項9】
下記式(I)で表される化合物、その立体異性体及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有するジャガイモシロシストセンチュウ卵のふ化促進剤。
【化2】
[式中、
Arは、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
R
1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
R
2は、水素原子、または置換若しくは無置換のC1~6アルキル基を示し;
部分構造の-Y-X-は、*-CH
2-C(=X
1)-**で表される基、*-O-C(=X
1)-**で表される基、*-S-C(=X
1)-**で表される基、*-N(R
b)-C(=X
1)-**で表される基、または*-NH-SO
2-**で表される基を示し;
ここで、*は2つのR
1を有する炭素原子との結合位置を示し、**はZとの結合位置を示し;
X
1は、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子を示し;
R
bは、水素原子、水酸基、R
b1-C(=O)-で表される基、R
b1O-C(=O)-で表される基、R
b1NH-C(=O)-で表される基、またはR
b1
2N-C(=O)-で表される基を示し;
R
b1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
Zは、置換若しくは無置換のメチレン基、または置換若しくは無置換のジメチレン基を示し;
Zが、置換のメチレン基である場合、R
2とメチレン基上の置換基は一緒になって、単結合、またはメチレン基を形成してもよい。]
【請求項10】
ジャガイモシロシストセンチュウを防除する方法であって、請求項1~9のいずれかに記載の防除剤またはふ化促進剤を、ジャガイモシロシストセンチュウが生息する畑土壌に施用する工程を含む、ジャガイモシロシストセンチュウを防除する方法。
【請求項11】
下記式(I-a)で表される化合物、その立体異性体またはそれらの塩。
【化3】
[式中、
Arは、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基、を示し;
R
1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
R
2は、水素原子、または置換若しくは無置換のC1~6アルキル基を示し;
部分構造の-Y
a-X
a-は、*-O-C(=X
1a)-**で表される基、*-S-C(=X
1a)-**で表される基、または*-NH-C(=X
1a)-**で表される基を示し;
ここで、*は2つのR
1を有する炭素原子との結合位置を示し、**はZ
aとの結合位置を示し;
X
1aは、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子を示し;
Z
aは、置換若しくは無置換のジメチレン基を示す。]
【請求項12】
下記式(I-b)で表される化合物、その立体異性体またはそれらの塩。
【化4】
[式中、
Arは、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基、を示し;
R
1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
R
2は、水素原子、または置換若しくは無置換のC1~6アルキル基を示し;
部分構造の-Y
b-X
b-は、*-O-C(=S)-**で表される基、*-S-C(=O)-**で表される基、または*-NH-SO
2-**で表される基を示し;
ここで、*は2つのR
1を有する炭素原子との結合位置を示し、**はZ
bとの結合位置を示し;
Z
bは、置換若しくは無置換のメチレン基を示す。]
【請求項13】
下記式(I-c)で表される化合物、その立体異性体またはそれらの塩。
【化5】
[式中、
Arは、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基、を示し;
R
1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
X
1は、酸素原子または硫黄原子を示す。]
【請求項14】
比旋光度が(-)である5,5-ジメチル-4-フェニル-2-ピロリジノン、比旋光度が(-)である5,5-ジメチル-4-(4-メチルフェニル)-2-ピロリジノン、比旋光度が(-)である5,5-ジメチル-4-(4-クロロフェニル)-2-ピロリジノン、または比旋光度が(-)である4-(4-クロロフェニル)-3,3-ジメチルイソチアゾリジン-1,1-ジオキシドのいずれか1以上を有効成分として含有するジャガイモシロシストセンチュウのふ化促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャガイモシロシストセンチュウ防除剤に関する。具体的には、ジャガイモシロシストセンチュウ卵のふ化を誘引する効果を有するラクトン、ラクタム類を用いて、自殺的ふ化を誘発し、ジャガイモシロシストセンチュウの密度低減を可能とする、ジャガイモシロシストセンチュウ防除剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ジャガイモに寄生するシストセンチュウ類、特にジャガイモシロシストセンチュウ(Globodera pallida)(以下「Gp」と言うことがある。)は、ジャガイモの世界的な主要害虫である。Gpはジャガイモの根に寄生して収穫量を減少させることによって、毎年多額の損失を引き起こしている。
Gpの卵は、シストと呼ばれる殻の中に100~400個密集して内蔵・保護され、低温や乾燥に対して高度の耐性を有する。そのためシスト中の卵はふ化しなければ十数年間の長期にわたって土壌中で生存し続ける。圃場にジャガイモが植えられると、ジャガイモの根から分泌される特定の化学物質(ふ化促進物質)に鋭敏に反応して卵は一斉に孵化し、孵化したGpの幼虫はシストから抜け出てジャガイモの根に寄生して被害を発生させる。
根から養分を吸収して肥大・成長したGpの雌は自らの体内に産卵して一生を終え、ジャガイモの根に付着したままシストに変化する。シストはジャガイモの収穫時に根から離れて土壌中に残る。土壌中にシストを残したまま、次のジャガイモを植えると、そのジャガイモも被害を受けることになる。
【0003】
Gpの防除法としては、(1)農薬の施用、(2)ナス科捕獲作物(トマトやハリナスビなど)の栽培や(3)抵抗性ジャガイモの栽培、がある。
(1)Gpの密度低減に有効性が確認されている農薬は1,3-ジクロロプロペンを主成分とするD-D剤であるが、D-D剤は劇物に指定され刺激性と毒性があるため、土壌や周辺環境、作業者の健康への悪影響が懸念されている。本剤は有害なシストセンチュウだけでなく、土壌中の様々なセンチュウ、微小生物を無作為に殺すため、特に生物環境への影響は甚大である。
(2)ナス科捕獲作物はその根からふ化促進物質を分泌するので、畑土壌中のGpシストに含まれる卵がふ化し、幼虫が根に侵入・寄生するが、ナス科捕獲作物からはGpの成育に十分な栄養を摂取することができずにそのほとんどが成虫に至る前に死滅する。これによって畑土壌中のGp密度が減少する。但し、ナス科捕獲作物の栽培期間中はその畑で商品価値のある作物が栽培できなくなる。
(3)Gp抵抗性ジャガイモは、一般的なジャガイモと同じようにその根からふ化促進物質を分泌するが、その抵抗性により寄生した幼虫の成育を阻害し、その多くを死亡させる。このため、Gpシストに汚染された圃場でGp抵抗性ジャガイモを栽培すれば、(2)と同じようにGp密度は減少し、この場合はジャガイモも収穫できる。但し、ジャガイモに高度な抵抗性を付与するには複数の抵抗性遺伝子を集積させる必要があるため、多くの時間と手間がかかる。このため、利用できるGp抵抗性ジャガイモの品種はごく僅かしかなく、適宜に好ましい品質のジャガイモ品種が栽培できない。また、ジャガイモのGp抵抗性はいずれ打破され、打破系統のGpが顕在化することが確認されていることから、その活用には慎重さが求められる。
したがって、(1)~(3)のいずれの方法にも問題がある。
【0004】
(4)天然物由来のふ化促進物質をジャガイモが栽培されていない時期にGp汚染圃場に散布することにより、Gp卵をふ化させ、餓死させることによって防除する方法が提案されている。天然物由来のふ化促進物質として、ソラノエクレピンA(Solanoeclepin A)が知られている(特許文献1)。ソラノエクレピンAは、ジャガイモの水耕栽培液から単離されたトリシクロデカン構造を有する化合物である。構造は不明であるが、ジャガイモまたはトマトの根の浸出物から単離したふ化促進物質も知られている(特許文献2)。前記のような天然物由来のふ化促進物質を、ナス科植物の根、または、それから作出したカルスや毛状根等からも得ることが可能である。しかし、いずれの方法によっても得られるふ化促進物質は僅かであり、実用化のための必要量確保が困難である。このため、天然物由来のふ化促進物質による実用的なGpの防除方法は開発されていない。
(5)非天然物や無機物のGp卵のふ化促進物質が報告されている(非特許文献1)。具体的には、ピクロロン酸、メタバナジン酸ナトリウム、オルトバナジウム酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウムが天然のふ化促進物質に対して、それぞれ約30、70、60、30%のふ化活性を発現することを開示している。しかし、これらのふ化促進物質は、ふ化活性が不十分であったり、有害物質であったりすることから実用化は困難である。
(6)天然物由来と非天然物由来のふ化促進物質を混合して使用する方法(特許文献3)も提案されている。具合的には、4-ヒドロキシベンジルアルコールとジャガイモ根浸出物(PRD)の混合物のGp卵のふ化率が60%(コントロールは10%)であることを開示している。しかし、ふ化活性が不十分であり、実用化には問題がある。
【0005】
ところで、(化合物1)5,5-ジメチル-4-フェニル-2-ピロリジノン(CAS:20894-20-6)、(化合物2)5,5-ジメチル-4-(4-メチルフェニル)-2-ピロリジノン(CAS:1477653-30-7)、(化合物3)5,5-ジメチル-4-(4-クロロフェニル)-2-ピロリジノン(CAS:36263-12-4)、(化合物4)5,5-ジメチル-4-(4-ブロモフェニル)-2-ピロリジノン(CAS:2423033-43-4)、(化合物5)1-ヒドロキシ-5,5-ジメチル-4-フェニル-2-ピロリジノン(CAS:22307-02-4)などの4-アリール-2-ピロリジノン類が、文献公知化合物として存在する(非特許文献2、3)。
また、(化合物6)5,5-ジメチル-4-(4-メトキシフェニル)-2-ピロリジノン(CAS:1493722-32-9)、(化合物7)5,5-ジメチル-4-(4-トリフルオロメチルフェニル)-2-ピロリジノン(CAS:1467865-26-4)、(化合物8)5,5-ジメチル-4-(4-フルオロフェニル)-2-ピロリジノン(CAS:1495515-81-5)、(化合物9)5,5-ジメチル-4-(3-メチルフェニル)-2-ピロリジノン(CAS:1480195-09-2)、(化合物10)5,5-ジメチル-4-(2-メチルフェニル)-2-ピロリジノン(CAS:1466249-92-2)、(化合物11)5,5-ジメチル-4-(2,5-ジメチル-フェニル)-2-ピロリジノン(CAS:1469103-51-2)、(化合物12)5,5-ジメチル-4-(3,4-ジフルオロ-フェニル)-2-ピロリジノン(CAS:1472745-56-4)、(化合物13)5,5-ジメチル-4-(3,4,5-トリフルオロ-フェニル)-2-ピロリジノン(CAS:1484547-30-9)、(化合物14)5,5-ジメチル-4-(2,4-ジメチル-フェニル)-2-ピロリジノン(CAS:1488690-56-7)などが市販されている。
(化合物15)3,5,5-トリメチル-4-フェニル-2-ピロリジノン(CAS:2003396-63-0)は、CASレジストリに登録される化合物である。
これらの4-アリール-2-ピロリジノン類の生理作用は不明である。
【0006】
(化合物16)5,5-ジメチル-4-フェニルピロリジン-2-チオン(CAS:35418-39-4)も文献公知化合物として存在する。その生理作用は不明である(非特許文献4)。
【0007】
(化合物17)5,5-ジメチル-4-フェニルジヒドロフラン-2(3H)-オン(CAS:13133-96-5)、(化合物18)5,5-ジメチル-4-(p-トリル)ジヒドロフラン-2(3H)-オン(CAS:63507-01-7)、(化合物19)4-(4-フルオロフェニル)-5,5-ジメチルジヒドロフラン-2(3H)-オン(CAS:245487-39-2)、(化合物20)5,5-ジメチル-4-(o-トリル)ジヒドロフラン-2(3H)-オン(CAS:73689-82-4)などの4-アリール-ジヒドロフラン-2(3H)-オン類が、文献公知化合物として存在する(非特許文献5~7)。
化合物17については、血管拡張剤、鎮痙剤のひとつパパベリン様の活性があることや(非特許文献6)、炎症阻害剤(Inflammation Inhibitor)であること(非特許文献7)が述べられている。
(化合物21)3,3-ジメチル-4-フェニル-シクロペンタノン(CAS:22273-76-3)が文献公知化合物として存在する(非特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO93/02083A1
【特許文献2】WO99/59414
【特許文献3】WO2019/032549A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of Nematology, Volume: 33, Issue: 4, Pages: 195-202, 2001
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society, Volume: 142, Issue: 19, Pages: 8672-8681, 2020
【非特許文献3】Australian Journal of Chemistry, Volume: 41, Issue: 1, Pages: 37-47, 1988
【非特許文献4】Australian Journal of Chemistry, Volume: 26, Issue: 10, Pages: 2177-82, 1973
【非特許文献5】Journal of the American Chemical Society, Volume: 121, Issue: 33, Pages: 7708-7709, 1999
【非特許文献6】Praktikates Akademias Athenon, Volume Date: 1982, Volume: 57, Pages: 515-28, 1983
【非特許文献7】European Journal of Medicinal Chemistry, Volume: 12, Issue: 1, Pages: 9-11, 1977
【非特許文献8】Tetrahedron Letters, Issue: 9, Pages: 749-52, 1969
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
Gpの防除方法に関する先行技術において、(1)の農薬による方法は環境破壊や、耕地環境、水産資源等へ悪影響が及ぶことに対する懸念が大きく、ジャガイモの主要輸出国では使用が限定あるいは規制されている。(2)のナス科捕獲作物を栽培する方法は、商業的なデメリットがあり、(3)のGp抵抗性ジャガイモ品種の栽培は、打破系統顕在化の懸念があるため連続的な作付けは避けなければならない。(4)~(6)のふ化促進物質を土壌に施用してGp卵の自殺的ふ化を促して殺減する方法は、天然物由来のふ化促進物質を用いればふ化活性は高く効果は高いがふ化促進物質の量が確保できず、非天然物由来や無機物のふ化促進物質ではふ化活性が乏しく効果は期待できず、いずれも実用化は程遠い。
【0011】
しかし、ふ化促進物質によってGpを防除する方法は、直接的な殺生物活性はないうえ、Gpだけに作用し、他の生物に対して悪影響が想定されないことから、環境保全、散布者の安全性確保等の面で極めて秀でている。また、ジャガイモが栽培されない輪作期間中であれば、処理時期を自由に選べ、生産活動を邪魔しない利点がある。
したがって、本発明の課題は、工業的に容易に入手可能な、Gp卵に対するふ化促進物質、これを用いた防除剤、および防除方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
式(I)の化合物が、公知の非天然物由来や無機物のふ化促進物質と比較してGp卵に対して極めて高いふ化促進作用を発現することが認められた。すなわち、本発明は以下の形態を包含する。
〔1〕 下記式(I)で表される化合物、その立体異性体及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有するジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
【0013】
【0014】
[式中、
Arは、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
R1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
R2は、水素原子、または置換若しくは無置換のC1~6アルキル基を示し;
部分構造の-Y-X-は、*-CH2-C(=X1)-**で表される基、*-O-C(=X1)-**で表される基、*-S-C(=X1)-**で表される基、*-N(Rb)-C(=X1)-**で表される基、または*-NH-SO2-**で表される基を示し;
ここで、*は2つのR1を有する炭素原子との結合位置を示し、**はZとの結合位置を示し;
X1は、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子を示し;
Rbは、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、Rb1-C(=O)-で表される基、Rb1O-C(=O)-で表される基、Rb1NH-C(=O)-で表される基、またはRb1
2N-C(=O)-で表される基を示し;
Rb1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
Zは、置換若しくは無置換のメチレン基、または置換若しくは無置換のジメチレン基を示し;
Zが、置換のメチレン基である場合、R2とメチレン基上の置換基は一緒になって、単結合、またはメチレン基を形成してもよい。]
【0015】
〔2〕 式(I)中のZが、置換若しくは無置換のメチレン基である、〔1〕に記載のジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
〔3〕 式(I)中のZが、置換若しくは無置換のジメチレン基である、〔1〕に記載のジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
〔4〕 式(I)中の部分構造の-Y-X-が、*-O-C(=X1)-**で表される基、*-S-C(=X1)-**で表される基、または*-N(Rb)-C(=X1)-**で表される基である、〔1〕に記載のジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
〔5〕 式(I)中の部分構造の-Y-X-が、*-CH2-C(=X1)-**で表される基である、〔1〕に記載のジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
〔6〕 式(I)中の部分構造の-Y-X-が、*-NH-SO2-**で表される基である、〔1〕に記載のジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
〔7〕 式(I)中の部分構造の-Y-X-が、*-O-C(=O)-**で表される基、*-O-C(=S)-**で表される基、*-S-C(=O)-**で表される基、*-NH-C(=O)-**で表される基、*-N(OH)-C(=O)-**で表される基、または*-NH-C(=S)-**で表される基である、〔2〕に記載のジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
〔8〕 式(I)中の部分構造の-Y-X-が、*-O-C(=O)-**で表される基、*-S-C(=O)-**で表される基、または*-NH-C(=O)-**で表される基である、〔2〕に記載のジャガイモシロシストセンチュウ防除剤。
【0016】
〔9〕 下記式(I)で表される化合物、その立体異性体及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有するジャガイモシロシストセンチュウ卵のふ化促進剤。
【0017】
【0018】
[式中、
Arは、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
R1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
R2は、水素原子、または置換若しくは無置換のC1~6アルキル基を示し;
部分構造の-Y-X-は、*-CH2-C(=X1)-**で表される基、*-O-C(=X1)-**で表される基、*-S-C(=X1)-**で表される基、*-N(Rb)-C(=X1)-**で表される基、または*-NH-SO2-**で表される基を示し;
ここで、*は2つのR1を有する炭素原子との結合位置を示し、**はZとの結合位置を示し;
X1は、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子を示し;
Rbは、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、Rb1-C(=O)-で表される基、Rb1O-C(=O)-で表される基、Rb1NH-C(=O)-で表される基、またはRb1
2N-C(=O)-で表される基を示し;
Rb1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
Zは、置換若しくは無置換のメチレン基、または置換若しくは無置換のジメチレン基を示し;
Zが、置換のメチレン基である場合、R2とメチレン基上の置換基は一緒になって、単結合、またはメチレン基を形成してもよい。]
〔10〕 ジャガイモシロシストセンチュウを防除する方法であって、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の防除剤またはふ化促進剤を、ジャガイモシロシストセンチュウが生息する畑土壌に施用する工程を含む、ジャガイモシロシストセンチュウを防除する方法。
【0019】
〔11〕 下記式(I-a)で表される化合物、その立体異性体またはそれらの塩。
【0020】
【0021】
[式中、
Arは、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基、を示し;
R1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
R2は、水素原子、または置換若しくは無置換のC1~6アルキル基を示し;
部分構造の-Ya-Xa-は、*-O-C(=X1a)-**で表される基、*-S-C(=X1a)-**で表される基、または*-NH-C(=X1a)-**で表される基を示し;
ここで、*は2つのR1を有する炭素原子との結合位置を示し、**はZaとの結合位置を示し;
X1aは、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子を示し;
Zaは、置換若しくは無置換のジメチレン基を示す。]
【0022】
〔12〕 下記式(I-b)で表される化合物、その立体異性体またはそれらの塩。
【0023】
【0024】
[式中、
Arは、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基、を示し;
R1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
R2は、水素原子、または置換若しくは無置換のC1~6アルキル基を示し;
部分構造の-Yb-Xb-は、*-O-C(=S)-**で表される基、*-S-C(=O)-**で表される基、または*-NH-SO2-**で表される基を示し;
ここで、*は2つのR1を有する炭素原子との結合位置を示し、**はZbとの結合位置を示し;
Zbは、置換若しくは無置換のメチレン基を示す。]
【0025】
〔13〕 下記式(I-c)で表される化合物、その立体異性体またはそれらの塩。
【0026】
【0027】
[式中、
Arは、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基、を示し;
R1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
X1は、酸素原子または硫黄原子を示す。]
【0028】
〔14〕 比旋光度が(-)である5,5-ジメチル-4-フェニル-2-ピロリジノン、比旋光度が(-)である5,5-ジメチル-4-(4-メチルフェニル)-2-ピロリジノン、比旋光度が(-)である5,5-ジメチル-4-(4-クロロフェニル)-2-ピロリジノン、または比旋光度が(-)である4-(4-クロロフェニル)-3,3-ジメチルイソチアゾリジン-1,1-ジオキシドのいずれか1以上を有効成分として含有するジャガイモシロシストセンチュウのふ化促進剤。
【発明の効果】
【0029】
本発明の防除剤またはふ化促進剤は、ジャガイモの最重要害虫であるGpの環境保全的防除を実現し、ジャガイモの生産性の大幅な向上に寄与するのみならず、生産するジャガイモ品種の制約の緩和にも大きく寄与する。従って、最終的に、農業の分野で品質及び収量の向上に貢献するものである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
〔式(I)で表される化合物、その立体異性体またはそれらの塩〕
本発明の形態のひとつは、下記の式(I)で表される化合物、その立体異性体及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有するジャガイモシロシストセンチュウ防除剤である。
この式(I)で表される化合物(化合物(I)ということがある。)、その立体異性体、またはそれらの塩は、Gp卵のふ化を促進する物質である。
すなわち、本発明の形態のひとつは、下記の式(I)で表される化合物、その立体異性体及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有するジャガイモシロシストセンチュウ卵のふ化促進剤である。
化合物(I)は、Gpシスト内卵に接触することで、Gp卵をふ化させることができる。Gpシストの周囲に栄養源となるジャガイモが存在しない状況で、化合物(I)をGpシストに接触させて人工的にGp卵をふ化させることができれば、ふ化したGpを飢餓状態に追い込み死滅させることできる。
【0031】
【0032】
式中、Arは、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
R1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
R2は、水素原子、または置換若しくは無置換のC1~6アルキル基を示し;
部分構造の-Y-X-は、*-CH2-C(=X1)-**で表される基、*-O-C(=X1)-**で表される基、*-S-C(=X1)-**で表される基、*-N(Rb)-C(=X1)-**で表される基、または*-NH-SO2-**で表される基を示し;
ここで、*は2つのR1を有する炭素原子との結合位置を示し、**はZとの結合位置を示し;
X1は、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子を示し;
Rbは、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、Rb1-C(=O)-で表される基、 Rb1O-C(=O)-で表される基、Rb1NH-C(=O)-で表される基、またはRb1
2N-C(=O)-で表される基を示し;
Rb1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
Zは、置換若しくは無置換のメチレン基、または置換若しくは無置換のジメチレン基を示し;
Zが、置換のメチレン基である場合、R2とメチレン基上の置換基は一緒になって、単結合、またはメチレン基を形成してもよい。
【0033】
化合物(I)には、水和物、各種溶媒和物、結晶多形等も含まれる。また、化合物(I)は、不斉炭素基づく立体異性体や、ジアステレオマーが存在し得る。このような異性体の光学活性体、および光学活性体の混合物は全て本発明の技術的範囲に包含される。
また、それらの塩も本発明に包含される。塩の詳細は後述する。
【0034】
本明細書において使われる「無置換(unsubstituted)」の用語は、母核となる基のみであることを意味する。「置換」との記載がなく母核となる基の名称のみで記載しているときは、別段の断りがない限り「無置換」の意味である。
一方、「置換(substituted)」の用語は、母核となる基のいずれかの水素原子が、母核と同一または異なる構造の基(置換基)で置換されていることを意味する。従って、「置換基」は、母核となる基に結合した他の基である。置換基は1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。2つ以上の置換基は同じでもよいし、異なってもよい。
「C1~6」などの用語は、母核となる基の炭素原子数が1~6個などであることを表している。この炭素原子数には、置換基の中にある炭素原子の数を含まない。例えば、置換基としてエトキシ基を有するブチル基は、C2アルコキシC4アルキル基に分類する。
【0035】
「置換基」は化学的に許容され、本発明の効果を有する限りにおいて特に制限されない。以下に「置換基」となり得る基を例示する。
メチル基、エチル基、n-プロピル基、I-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、I-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などのC1~6アルキル基;
ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基(アリル基)、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、1-メチル-2-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基などのC2~6アルケニル基;
エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基などのC2~6アルキニル基;
【0036】
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC3~6シクロアルキル基;
フェニル基、ナフチル基;
ベンジル基、フェネチル基などのフェニルC1~6アルキル基;
3~6員ヘテロシクリル基;
3~6員へテロシクリルC1~6アルキル基;
【0037】
水酸基;
メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、I-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、I-ブトキシ基、t-ブトキシ基などのC1~6アルコキシ基;
ビニルオキシ基、アリルオキシ基、プロペニルオキシ基、ブテニルオキシ基などのC2~6アルケニルオキシ基;
エチニルオキシ基、プロパルギルオキシ基などのC2~6アルキニルオキシ基;
フェノキシ基、ナフトキシ基;
ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基;
チアゾリルオキシ基、ピリジルオキシ基などの5~6員ヘテロアリールオキシ基;
チアゾリルメチルオキシ基、ピリジルメチルオキシ基などの5~6員ヘテロアリールC1~6アルキルオキシ基;
【0038】
ホルミル基;
アセチル基、プロピオニル基などのC1~6アルキルカルボニル基;
ホルミルオキシ基;
アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基などのC1~6アルキルカルボニルオキシ基;
ベンゾイル基;
メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、I-プロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基などのC1~6アルコキシカルボニル基;
メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n-プロポキシカルボニルオキシ基、I-プロポキシカルボニルオキシ基、n-ブトキシカルボニルオキシ基、t-ブトキシカルボニルオキシ基などのC1~6アルコキシカルボニルオキシ基;
カルボキシル基;
【0039】
フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、イオド基などのハロゲノ基;
クロロメチル基、クロロエチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、1,2-ジクロロ-n-プロピル基、1-フルオロ-n-ブチル基などのC1~6ハロアルキル基;
2-クロロ-1-プロペニル基、2-フルオロ-1-ブテニル基などのC2~6ハロアルケニル基;
4,4-ジクロロ-1-ブチニル基、4-フルオロ-1-ペンチニル基、5-ブロモ-2-ペンチニル基などのC2~6ハロアルキニル基;
ジフルオロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基、2,3-ジクロロブトキシ基などのC1~6ハロアルコキシ基;
2-クロロプロペニルオキシ基、3-ブロモブテニルオキシ基などのC2~6ハロアルケニルオキシ基;
クロロアセチル基、トリフルオロアセチル基、トリクロロアセチル基などのC1~6ハロアルキルカルボニル基;
【0040】
アミノ基;
メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基などのC1~6アルキル置換アミノ基;
アニリノ基、ナフチルアミノ基;
ベンジルアミノ基、フェネチルアミノ基などのフェニルC1~6アルキルアミノ基;
ホルミルアミノ基;
アセチルアミノ基、プロパノイルアミノ基、ブチリルアミノ基、I-プロピルカルボニルアミノ基などのC1~6アルキルカルボニルアミノ基;
メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、n-プロポキシカルボニルアミノ基、I-プロポキシカルボニルアミノ基などのC1~6アルコキシカルボニルアミノ基;
アミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、N-フェニル-N-メチルアミノカルボニル基などの無置換若しくは置換基を有するアミノカルボニル基;
アミノカルボニルオキシ基;
エチルアミノカルボニルオキシ基、ジメチルアミノカルボニルオキシ基などのC1~6アルキル置換アミノカルボニルオキシ基;
【0041】
メルカプト基;
メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、I-プロピルチオ基、n-ブチルチオ基、I-ブチルチオ基、s-ブチルチオ基、t-ブチルチオ基などのC1~6アルキルチオ基;
トリフルオロメチルチオ基、2,2,2-トリフルオロエチルチオ基などのC1~6ハロアルキルチオ基;
【0042】
メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、t-ブチルスルフィニル基などのC1~6アルキルスルフィニル基;
トリフルオロメチルスルフィニル基、2,2,2-トリフルオロエチルスルフィニル基などのC1~6ハロアルキルスルフィニル基;
メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、t-ブチルスルホニル基などのC1~6アルキルスルホニル基;
トリフルオロメチルスルホニル基、2,2,2-トリフルオロエチルスルホニル基などのC1~6ハロアルキルスルホニル基;
フェニルスルホニル基;
チアゾリルスルホニル基、ピリジルスルホニル基などの5~6員ヘテロアリールスルホニル基;
【0043】
ペンタフルオロスルファニル基;
シアノ基;ニトロ基;
【0044】
また、これらの「置換基」は、前記置換基中のいずれかの水素原子が、異なる構造の基で置換されていてもよい。その場合の「置換基」としては、C1~6アルキル基、C1~6ハロアルキル基、C1~6アルコキシ基、C1~6ハロアルコキシ基、ハロゲノ基、シアノ基、ニトロ基などを挙げることができる。
【0045】
また、上記の「3~6員ヘテロシクリル基」とは、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群から選ばれる1~4個のヘテロ原子を環の構成原子として含む、3員環、4員環、5員環または6員環の基をいう。ヘテロシクリル基は、単環および多環のいずれであってもよい。多環ヘテロシクリル基は、少なくとも一つの環がヘテロ環であれば、残りの環が飽和脂環、不飽和脂環または芳香環のいずれであってもよい。「3~6員ヘテロシクリル基」としては、3~6員飽和ヘテロシクリル基、5~6員不飽和ヘテロシクリル基、5~6員ヘテロアリール基などを挙げることができる。
【0046】
3~6員飽和ヘテロシクリル基としては、アジリジニル基、エポキシ基、アゼチジニル基、ピロリジニル基、テトラヒドロフラニル基、ジオキソラニル基、テトラヒドロピラニル基、ピペリジル基、ピペラジニル基、モルホリニル基、ジオキサニル基などを挙げることができる。
5~6員不飽和ヘテロシクリル基としては、ピロリニル基、ジヒドロフラニル基、イミダゾリニル基、ピラゾリニル基、オキサゾリニル基、イソオキサゾリニル基、チアゾリニル基、イソチアゾリニル基、ジヒドロピラニル基、ジヒドロオキサジニル基などを挙げることができる。
【0047】
5員ヘテロアリール基としては、ピロリル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、トリアゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、テトラゾリル基などを挙げることができる。
6員ヘテロアリール基としては、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基などを挙げることができる。
【0048】
〔Ar〕
Arは、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示す。
Arにおける「フェニル基」、または「ナフチル基」上の置換基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、イオド基などのハロゲノ基;メチル基、エチル基、n-プロピル基、I-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、I-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などのC1~6アルキル基;クロロメチル基、クロロエチル基、トリフルオロメチル基、1,2-ジクロロ-n-プロピル基、1-フルオロ-n-ブチル基などのC1~6ハロアルキル基;水酸基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、I-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、I-ブトキシ基、t-ブトキシ基などのC1~6アルコキシ基;2-クロロ-n-プロポキシ基、2,3-ジクロロブトキシ基、トリフルオロメトキシ基などのC1~6ハロアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基などのC6~10アリール基;4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基、4-クロロフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基、4-トリフルオロメトキシフェニル基などの、C1~6アルキル基、C1~6アルコキシ基、ハロゲノ基、C1~6ハロアルキル基、またはC1~6ハロアルコキシ基で置換されたC6~10アリール基;ピロリル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、トリアゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、テトラゾリル基など5員環のヘテロアリール基;C1~6アルキル基、C1~6アルコキシ基、ハロゲノ基、C1~6ハロアルキル基、またはC1~6ハロアルコキシ基で置換された5員環のヘテロアリール基;ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基などの6員環のヘテロアリール基;C1~6アルキル基、C1~6アルコキシ基、ハロゲノ基、C1~6ハロアルキル基、またはC1~6ハロアルコキシ基で置換された6員環のヘテロアリール基;またはシアノ基が好ましい。
【0049】
〔R1〕
R1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示す。
【0050】
R1における「C1~6アルキル基」としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、I-プロピル基、I-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、I-ペンチル基、ネオペンチル基、2-メチルブチル基、I-ヘキシル基などを挙げることができる。
R1における「C2~6アルケニル基」としては、ビニル基、1-プロペニル基などを挙げることができる。
R1における「C2~6アルキニル基」としては、エチニル基、1-プロピニル基などを挙げることができる。
【0051】
R1における「C1~6アルキル基」、「C2~6アルケニル基」、または「C2~6アルキニル基」上の置換基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、イオド基などのハロゲノ基;水酸基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、I-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、I-ブトキシ基、t-ブトキシ基などのC1~6アルコキシ基;2-クロロ-n-プロポキシ基、2,3-ジクロロブトキシ基、トリフルオロメトキシ基などのC1~6ハロアルコキシ基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC3~6シクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基;4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基、4-クロロフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基、4-トリフルオロメトキシフェニル基などの、C1~6アルキル基、C1~6アルコキシ基、ハロゲノ基、C1~6ハロアルキル基、またはC1~6ハロアルコキシ基で置換されたフェニル基;ピロリル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、トリアゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、テトラゾリル基など5員環のヘテロアリール基;C1~6アルキル基、C1~6アルコキシ基、ハロゲノ基、C1~6ハロアルキル基、またはC1~6ハロアルコキシ基で置換された5員環のヘテロアリール基;ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基などの6員環のヘテロアリール基;C1~6アルキル基、C1~6アルコキシ基、ハロゲノ基、C1~6ハロアルキル基、またはC1~6ハロアルコキシ基で置換された6員環のヘテロアリール基;またはシアノ基が好ましい。
【0052】
R1における「C3~6シクロアルキル基」としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などを挙げることができる。
【0053】
R1における「C3~6シクロアルキル基」、「フェニル基」、または「ナフチル基」上の置換基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、イオド基などのハロゲノ基;メチル基、エチル基、n-プロピル基、I-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、I-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などのC1~6アルキル基;クロロメチル基、クロロエチル基、トリフルオロメチル基、1,2-ジクロロ-n-プロピル基、1-フルオロ-n-ブチル基などのC1~6ハロアルキル基;水酸基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、I-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、I-ブトキシ基、t-ブトキシ基などのC1~6アルコキシ基;2-クロロ-n-プロポキシ基、2,3-ジクロロブトキシ基、トリフルオロメトキシ基などのC1~6ハロアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基などのC6~10アリール基;4-メチルフェニル基、4-メトキシフェニル基、4-クロロフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基、4-トリフルオロメトキシフェニル基などの、C1~6アルキル基、C1~6アルコキシ基、ハロゲノ基、C1~6ハロアルキル基、またはC1~6ハロアルコキシ基で置換されたC6~10アリール基;ピロリル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、トリアゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、テトラゾリル基など5員環のヘテロアリール基;C1~6アルキル基、C1~6アルコキシ基、ハロゲノ基、C1~6ハロアルキル基、またはC1~6ハロアルコキシ基で置換された5員環のヘテロアリール基;ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基などの6員環のヘテロアリール基;C1~6アルキル基、C1~6アルコキシ基、ハロゲノ基、C1~6ハロアルキル基、またはC1~6ハロアルコキシ基で置換された6員環のヘテロアリール基;またはシアノ基が好ましい。
【0054】
本発明においては、R1は、「置換若しくは無置換のC1~6アルキル基」であることが好ましく、特にメチル基であることが好ましい。
【0055】
〔R2〕
R2は、水素原子、または置換若しくは無置換のC1~6アルキル基を示す。
R2における「置換若しくは無置換のC1~6アルキル基」の具体例は、R1において例示したものと同じものを挙げることができる。
本発明においては、R2は、水素原子が好ましい。
【0056】
〔-Y-X-〕
部分構造の-Y-X-は、*-CH2-C(=X1)-**で表される基、*-O-C(=X1)-**で表される基、*-S-C(=X1)-**で表される基、*-N(Rb)-C(=X1)-**で表される基、または*-NH-SO2-**で表される基を示す。
ここで、*は2つのR1を有する炭素原子との結合位置を示し、**はZとの結合位置を示し;X1は、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子を示し;Rbは、水素原子、水酸基、Rb1-C(=O)-で表される基、Rb1O-C(=O)-で表される基、Rb1NH-C(=O)-で表される基、またはRb1
2N-C(=O)-で表される基を示す。
Rb1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示す。
【0057】
Rb1における「置換若しくは無置換のC1~6アルキル基」、「置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基」、「置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基」、「置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基」、「置換若しくは無置換のフェニル基」、または「置換若しくは無置換のナフチル基」の具体例は、R1において例示したものと同じものを挙げることができる。
【0058】
Rbにおける「Rb1-C(=O)-で表される基」としては、アセチル基、ベンゾイル基などを挙げることができる。
Rbにおける「Rb1O-C(=O)-で表される基」としては、メトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基などを挙げることができる。
Rbにおける「Rb1NH-C(=O)-で表される基」としては、メチルアミノカルボニル基、I-プロピルアミノカルボニル基などを挙げることができる。
Rbにおける「Rb1
2N-C(=O)-で表される基」としては、ジメチルアミノカルボニル基、ジエチルアミノカルボニル基などを挙げることができる。
本発明においては、Rbは、水素原子または水酸基が好ましい。
【0059】
〔Z〕
Zは、置換若しくは無置換のメチレン基、または置換若しくは無置換のジメチレン基を示し、Zが、置換のメチレン基である場合、R2とメチレン基上の置換基は一緒になって、単結合、またはメチレン基を形成してもよい。
【0060】
Zにおける「メチレン基」、または「ジメチレン基」上の置換基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、I-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、I-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などのC1~6アルキル基;クロロメチル基、クロロエチル基、トリフルオロメチル基、1,2-ジクロロ-n-プロピル基、1-フルオロ-n-ブチル基などのC1~6ハロアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、I-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、I-ブトキシ基、t-ブトキシ基などのC1~6アルコキシ基;2-クロロ-n-プロポキシ基、2,3-ジクロロブトキシ基、トリフルオロメトキシ基などのC1~6ハロアルコキシ基;またはシアノ基が好ましい。
【0061】
Zが、置換のメチレン基である場合にR2とメチレン基上の置換基が一緒になってメチレン基を形成した化合物としては、下記式(I-c’)で表される化合物を挙げることができる。
【0062】
【0063】
式中、Ar、R1、および-Y-X-は、式(I)中のそれらと同様の定義を示す。
【0064】
Zが、置換のメチレン基である場合にR2とメチレン基上の置換基が一緒になって単結合を形成した化合物としては、下記式(I-d’)で表される化合物を挙げることができる。
【0065】
【0066】
式中、Ar、R1、および-Y-X-は、式(I)中のそれらと同様の定義を示す。
RZは、水素原子、C1~6アルキル基、C1~6ハロアルキル基、C1~6アルコキシ基、C1~6ハロアルコキシ基、またはシアノ基を示す。
【0067】
〔式(I-a)で表される化合物、その立体異性体またはそれらの塩〕
本発明の形態のひとつは、 下記式(I-a)で表される化合物、その立体異性体またはそれらの塩である。
【0068】
【0069】
式中、Arは、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基、を示し;
R1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
R2は、水素原子、または置換若しくは無置換のC1~6アルキル基を示し;
部分構造の-Ya-Xa-は、*-O-C(=X1a)-**で表される基、*-S-C(=X1a)-**で表される基、または*-NH-C(=X1a)-**で表される基を示し;
ここで、*は2つのR1を有する炭素原子との結合位置を示し、**はZaとの結合位置を示し;
X1aは、それぞれ独立に、酸素原子または硫黄原子を示し;
Zaは、置換若しくは無置換のジメチレン基を示す。
【0070】
式中、Ar、R1、およびR2は、式(I)中のそれらと同様の定義を示す。
Zaにおける「ジメチレン基」上の置換基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、I-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、I-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などのC1~6アルキル基;クロロメチル基、クロロエチル基、トリフルオロメチル基、1,2-ジクロロ-n-プロピル基、1-フルオロ-n-ブチル基などのC1~6ハロアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、I-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、I-ブトキシ基、t-ブトキシ基などのC1~6アルコキシ基;2-クロロ-n-プロポキシ基、2,3-ジクロロブトキシ基、トリフルオロメトキシ基などのC1~6ハロアルコキシ基;またはシアノ基が好ましい。
【0071】
〔式(I-b)で表される化合物、その立体異性体またはそれらの塩〕
本発明の形態のひとつは、 下記式(I-b)で表される化合物、その立体異性体またはそれらの塩である。
【0072】
【0073】
式中、Arは、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基、を示し;
R1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
R2は、水素原子、または置換若しくは無置換のC1~6アルキル基を示し;
部分構造の-Yb-Xb-は、*-O-C(=S)-**で表される基、*-S-C(=O)-**で表される基、または*-NH-SO2-**で表される基を示し;
ここで、*は2つのR1を有する炭素原子との結合位置を示し、**はZbとの結合位置を示し;
Zbは、置換若しくは無置換のメチレン基を示す。
【0074】
式中、Ar、R1、およびR2は、式(I)中のそれらと同様の定義を示す。
Zbにおける「メチレン基」上の置換基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、I-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、I-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などのC1~6アルキル基;クロロメチル基、クロロエチル基、トリフルオロメチル基、1,2-ジクロロ-n-プロピル基、1-フルオロ-n-ブチル基などのC1~6ハロアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、I-プロポキシ基、n-ブトキシ基、s-ブトキシ基、I-ブトキシ基、t-ブトキシ基などのC1~6アルコキシ基;2-クロロ-n-プロポキシ基、2,3-ジクロロブトキシ基、トリフルオロメトキシ基などのC1~6ハロアルコキシ基;またはシアノ基が好ましい。
【0075】
〔式(I-c)で表される化合物、その立体異性体またはそれらの塩〕
本発明の形態のひとつは、下記式(I-c)で表される化合物、その立体異性体またはそれらの塩である。
【0076】
【0077】
式中、Arは、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基、を示し;
R1は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換のC1~6アルキル基、置換若しくは無置換のC2~6アルケニル基、置換若しくは無置換のC2~6アルキニル基、置換若しくは無置換のC3~6シクロアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、または置換若しくは無置換のナフチル基を示し;
X1は、酸素原子または硫黄原子を示す。
【0078】
式中、Ar、およびR1は、式(I)中のそれらと同様の定義を示す。
【0079】
〔化合物(I)の製造方法〕
化合物(I)の製造方法は、限定されない。例えば、本発明の化合物(I)は、以下に示す反応スキーム、実施例などに記載したような公知の反応を利用することにより得ることができる。
【0080】
(反応スキーム1-1)
式(I-b)で表される化合物の内で、以下に示す式(I-b-1)の化合物の調製方法の概略を以下の反応スキーム1-1に示す。
【0081】
【0082】
式(I-b-1)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。式(IM-1)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。Rは、低級アルキル基を示す。
式(IM-1)の化合物中のニトロ基を、酸性条件下、亜鉛を用いて還元し、加熱するなどにより環化させることで、式(I-b-1)の化合物を調製できる。
【0083】
(反応スキーム1-2)
式(IM-1)の化合物の調製方法の概略を、以下の反応スキーム1-2に示す。
【0084】
【0085】
式(IM-2)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。Rは、低級アルキル基を示す。式(IM-3)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。
式(IM-1)の化合物は、適当な有機塩基の存在下、式(IM-3)のニトロアルカンと式(IM-2)の桂皮酸エステル類とのマイケル付加反応を行うことで調製できる。
【0086】
(反応スキーム2-1)
式(I-a)で表される化合物の内で、以下に示す式(I-a-1)の化合物の調整方法の概略を、以下の反応スキーム2-1に示す。
【0087】
【0088】
式(I-a-1)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。式(IM-4)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。Rは、低級アルキル基を示す。
式(IM-4)の」化合物中のニトロ基を、酸性条件下、亜鉛を用いて還元し、加熱するなどにより環化させることで、式(I-a-1)の化合物を調製できる。
【0089】
(反応スキーム2-2)
式(IM-4)の化合物の調製方法の概略を、以下の反応スキーム2-2に示す。
【0090】
【0091】
式(IM-5)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。式(IM-6)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。R’は、低級アルキル基を示す。式(IM-7)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。
式(IM-6)の化合物は、式(IM-7)のアルデヒドにウィッティヒ反応を行うことで調製できる。ホスホニウム塩には(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリドを用いることが好ましい。
式(IM-6)の化合物中のエノ-ルエーテルを加水分解することで、式(IM-5)のアルデヒドを調整できる。このアルデヒドを酸化しカルボン酸へと誘導し、最後にエステル化することで、式(IM-4)の化合物を調製できる。酸化の条件は、官能基選択性が高いクラウス-ピニック酸化を用いることが好ましい。
【0092】
(反応スキーム2-3)
式[IM-7]の化合物の調製方法の概略を、以下の反応スキーム2-3に示す。
【0093】
【0094】
式(IM-8)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。
式(IM-7)の化合物は、適当な有機塩基の存在下、式(IM-3)のニトロアルカンと式(IM-8)のシンナミルアルデヒド類とのマイケル付加反応を行うことで調製できる。
【0095】
(反応スキーム3-1)
式(I-a)で表される化合物の内で、以下に示す式(I-a-2)の化合物の調製方法の概略を、以下の反応スキーム3-1に示す。
【0096】
【0097】
式(I-a-2)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。式(IM-9)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。Rは、低級アルキル基を示す。
式(I-a-2)の化合物は、パラジウム錯体存在下、式(IM-9)の化合物とトリメチルアルミニウムを反応させることで、調製できる。
ここにおいて、パラジウム錯体は、式(IM-9)中の硫黄とシアノ基の間に酸化的にふ化する。トリメチルアルミニウムがメチル基をパラジウムに渡すことで、式(IM-9)の化合物は、アルキルチオアルミニウムになる。パラジウムは、還元的脱離でアセトニトリルを放出して触媒として再生される。
生じたアルキルチオアルミニウムが分子内のエステルと反応することで、式(I-a-2)の化合物となる。
【0098】
(反応スキーム3-2)
式(IM-9)の化合物の調製方法の概略を、以下の反応スキーム3-2に示す。
【0099】
【0100】
式(IM-10)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。Rは、低級アルキル基を示す。
式(IM-9)の化合物は、式(IM-10)のオレフィンに対し、Fe(III)/NaBH4を介した、チオシナート化を行うことで調製することができる。
この場合、Organic Letters, Volume 14, Issue 6, Pages 1428-1431, 2012に記載の方法を参考にすることができる。
【0101】
(反応スキーム3-3)
式(IM-10)の化合物の調製方法の概略を、以下の反応スキーム3-3に示す。
【0102】
【0103】
式(IM-11)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。式(IM-12)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。式(IM-13)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。Tsはトシル基を示す。
式(IM-12)の化合物は、式(IM-13)の化合物にシアノ化を行うことで調製できる。脱離基としてはトシルオキシ基などが好ましい。
シアノ基に対し、DIBAL還元を行いイミンとし、生じたイミンを加水分解することで式(IM-11)のアルデヒドを調製することができる。このアルデヒドを酸化しカルボン酸へと誘導し、最後にエステル化することで、式(IM-10)の化合物を調製できる。酸化の条件は、官能基選択性が高いクラウス-ピニック酸化を用いることが好ましい。
【0104】
(反応スキーム3-4)
式(IM-13)の化合物の調製方法の概略を、以下の反応スキーム3-4に示す。
【0105】
【0106】
式(IM-14)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。Rは、低級アルキル基を示す。式(IM-14)の化合物中のエステル部分はDIBAL還元などで水酸基とし、TsClなどを反応させて式(IM-13)の化合物を調製できる。
【0107】
(反応スキーム3-5)
式(IM-14)の化合物の調製方法の概略を、以下の反応スキーム3-5に示す。
【0108】
【0109】
式(IM-15)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。式(IM-16)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。Rは、低級アルキル基を示す。
式〔IM-14〕の化合物は、MeC(OR)3などのオルト酢酸エステル(Rは低級アルキル基を示す。)を用いて、式(IM-15)のアリルアルコールに対し、ジョンソン-クライゼン転位を行うことで調製できる。
式(IM-15)の化合物は、式(IM-16)の桂皮酸エステル類に対し、DIBAL還元を行うことで調製できる。
【0110】
(反応スキーム4)
式(I-b)で表される化合物の内で、以下に示す式(I-b-3)の化合物の調製方法の概略を、以下の反応スキーム4に示す。
【0111】
【0112】
式(I-b-2)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。式(I-b-3)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。
式(I-b-3)の化合物は、式(I-b-2)の化合物にローソン試薬を反応させることで調製できる。
【0113】
(反応スキーム5)
式(I-b)で表される化合物の内で、以下に示す式(I-b-4)の化合物の調製方法の概略を、以下の反応スキーム5に示す。
【0114】
【0115】
式(I-b-4)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。
式(I-b-4)のチオラクトンは、式(I-b-3)のチオノラクトンを、ルイス酸を触媒に異性化することで調製することができる。この場合、Tetrahedron Letters, Volume 47, Issue 34, Pages 6067-6070, 2006に記載の方法を参考にすることができる。
【0116】
(反応スキーム6-1)
式(I-b)で表される化合物の内で、以下に示す式(I-b-5)の化合物の調製方法の概略を、以下の反応スキーム6-1に示す。
【0117】
【0118】
式(I-b-5)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。式(IM-17)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。式(IM-18)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。
式(IM-18)の化合物中のニトロ基を、酸性条件下亜鉛を用いて還元し、式(IM-17)の化合物として、さらに加熱などにより環化させることで、式(I-b-5)の化合物を調製できる。
【0119】
(反応スキーム6-2)
式(IM-18)の化合物の調製方法の概略を、以下の反応スキーム6-2に示す。
【0120】
【0121】
式(IM-19)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。
式(IM-18)の化合物は、適当な有機塩基の存在下、式(IM-3)のニトロアルカンと式(IM-19)の化合物との付加反応を行うことで調製できる。
【0122】
(反応スキーム6-3)
式(IM-19)の化合物の調製方法の概略を、以下の反応スキーム6-3に示す。
【0123】
【0124】
式(IM-20)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。式(IM-21)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。
式(IM-21)の芳香族ビニルに対し、DMF溶媒中で塩化スルホニルと反応させて式(IM-20)の化合物として、有機塩基などの存在下フェノールと反応させることで調製できる。
【0125】
(反応スキーム7-1)
式(I-c)で表される化合物の内で、以下に示す式(I-c-1)の化合物の調製方法の概略を、以下の反応スキーム7-1に示す。
【0126】
【0127】
式(IM-22)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。式(IM-23)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。
式(IM-23)の化合物のメチロール部分をクロム酸酸化などによりカルボン酸とし、適当な脱水剤の存在下環化することIM-23)、式(IM-22)の化合物を調製できる。
さらに、脱保護を行うことで、式(I-c-1)の化合物を調製できる。
【0128】
(反応スキーム7-2)
式(IM-23)の化合物の調製方法の概略を、以下の反応スキーム7-2に示す。
【0129】
【0130】
式(IM-24)中の記号は、式(I)中のそれらと同様の意味を示す。式(IM-25)中のArは、式(I)中のそれと同様の意味を示す。
チタンテトライソプロポキシドなどの有機チタン化合物存在下、グリニャール試薬と式(IM-25)の化合物を反応させることで、式(IM-24)の化合物を調製することができる。スキーム中で、グリニャール試薬をR1MgXで表した。R1は、式(I)中のそれと同様の意味を示し、Xはハロゲノ基を示す。
式(IM-23)の化合物は、式(IM-24)の化合物を二炭酸ジ-t-ブチル(Boc2O)などを用いてBoc保護することで調製できる。
【0131】
(反応スキーム7-3)
式(IM-25)の化合物の調製方法の概略を、以下の反応スキーム7-3に示す。
【0132】
【0133】
式(IM-26)中のArは、式(I)中のそれと同様の意味を示す。
式(IM-25)の化合物は、式(IM-26)のアリールアセトニトリルとエピクロロヒドリンを、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドなどの金属アミド類の存在下、カップリング反応を行うことで調製できる。
【0134】
〔塩〕
化合物(I)及びその立体異性体の塩は、農園芸学的に許容される塩であれば、特に制限されない。例えば、塩酸、硫酸などの無機酸の塩;酢酸、乳酸などの有機酸の塩;リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の塩;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属の塩;鉄、銅などの遷移金属の塩;トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、ヒドラジンなどの有機塩基の塩;アンモニアなどを挙げることができる。化合物(I)及びその立体異性体の塩は、化合物(I)及びその立体異性体から公知の手法によって得ることができる。
【0135】
以下の表1に示す化合物は、公知の化合物であり、公知の方法により製造することができる。または購入し使用することもできる。表中には各化合物のCAS番号も記した。
【0136】
【0137】
〔ジャガイモシロシストセンチュウ防除剤〕
本発明の形態のひとつは、上記の式(I)で表される化合物、その立体異性体及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1つを有効成分として含有するジャガイモシロシストセンチュウ防除剤である。
【0138】
本発明の防除剤は、化合物(I)、その立体異性体及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1つのみからなるものであってもよいし、農薬として一般にとり得る剤形、例えば、水和剤、粒剤、粉剤、乳剤、水溶剤、懸濁剤、フロアブル等に製剤化したものであってもよい。
【0139】
製剤化に当たって公知の添加剤または担体を用いることができる。
すなわち、本発明の態様のひとつは、農芸化学的に許容できる固体担体、および/または液体担体を含む、防除剤である。
固体の剤形を目的とする場合は、大豆粉、小麦粉等の植物性粉末、珪藻土、燐灰石、石こう、タルク、ベントナイト、パイロフィライト、クレイ等の鉱物性微粉末、安息香酸ソーダ、尿素、芒硝等の有機及び無機化合物などの固体担体を用いることができる。
液体の剤形を目的とする場合は、ケロシン、キシレン及びソルベントナフサ等の石油留分、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アルコール、アセトン、トリクロルエチレン、メチルイソブチルケトン、鉱物油、植物油、水などの液体担体を用いることができる。
【0140】
製剤化において、必要に応じて、界面活性剤を添加することができる。界面活性剤としては、ポリオキシエチレンが付加したアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンが付加したアルキルエーテル、ポリオキシエチレンが付加した高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンが付加したソルビタン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンが付加したトリスチリルフェニルエーテル等の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンが付加したアルキルフェニルエーテルの硫酸エステル塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩、リグニンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩のホルムアルデヒド縮合物、イソブチレン-無水マレイン酸の共重合体等を挙げることができる。
【0141】
本発明の防除剤は、剤形に応じて、有効成分濃度を適宜設定することができる。例えば、水和剤における有効成分濃度は、好ましくは5~90重量%、より好ましくは10~85重量%である。乳剤における有効成分濃度は、好ましくは3~70重量%、より好ましくは5~60重量%である。粒剤における有効成分濃度は、好ましくは0.01~50重量%、より好ましくは0.05~40重量%である。
【0142】
このようにして得られた水和剤若しくは乳剤は水で所定の濃度に希釈して懸濁液或いは乳濁液として、粒剤はそのまま土壌に散布処理もしくは混和処理することができる。本発明の防除剤を圃場に適用するに当たっては1ヘクタール当たり有効成分0.1g以上の適当量を施用することができる。
【0143】
〔ジャガイモシロシストセンチュウ防除剤の施用方法〕
本発明の防除剤は、ジャガイモの栽培を行っていない時期に、ジャガイモシロシストセンチュウが生息する畑土壌に施用するものである。
本発明の防除剤は、その有効成分がGp卵のふ化を促進する物質であることを特徴とする。そのため、本発明の防除剤を適用することで、Gp卵をふ化させることができる。ジャガイモの栽培を行っていない時期、すなわち、栄養源となるジャガイモが存在しない状況で、本発明の防除剤を施用し人工的にGp卵をふ化させることで、ふ化したGpを飢餓状態に追い込み死滅させることが可能となる。
本発明の防除剤は、Gp卵をふ化させることができるが、Gp卵のふ化に適した春から秋の間に施用することが好ましい。この期間において輪作作物の栽培前後に本発明の防除剤を施用することが好ましい。
【0144】
このようにジャガイモを栽培する前に、栽培する土壌中のGpを駆除することで、ジャガイモの安定した収穫が可能となる。
すなわち、本発明の形態のひとつは、ジャガイモシロシストセンチュウを防除する方法であって、本発明の防除剤または本発明のふ化促進剤を、ジャガイモを栽培する前にジャガイモを栽培する土壌に施用する工程を含む、ジャガイモシロシストセンチュウを防除する方法である。
【0145】
Gpのシストは、土壌中深さ0~20cmのところに分布する傾向にある。そこに分布するGpのシストに、本発明の防除剤を接触させるためには、一般的な土壌処理方法を用いればよい。土壌混和、土壌注入、土壌灌注などの処理方法を用いればよい。
例えば、液状の製剤であればそれを所定の濃度まで希釈して散布液とし、圃場全体にスプレーヤー散布し、ロータリー混和すればよい。粒剤であればブロードキャスタ(fertilizer spreader)により散布し、ロータリー混和すればよい。
【実施例0146】
〔化合物(I)の製造実施例〕
〔製造実施例1〕
6,6-ジメチル-5-(p-トリル)ピペリジン-2-オン(化合物A-3)の合成
〔工程1〕
【0147】
【0148】
4-メチルシンナムアルデヒド(98.89g)、ジクロロメタン(2.5L)、2-ニトロプロパン(122.32g)およびジエチルアミン(100.27g)の混合物を室温で一晩攪拌した。
得られた混合物に1N塩酸を加え、ジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。上記式で示される中間体1を収率95.9%で150.54g得た。
得られた中間体1の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 399.78MHz): δ=952(s, 1H, CHO), 7.26-7.05 (m, 4H, ArH), 3.97-3.94 (m, 1H, -C(Ar)H-), 3.07-2.65(m, 2H, -CH2-), 2.32 (s, 3H, ArCH3), 1.57 (s, 3H, -CH3), 1.47s (s, 3H, -CH3).
〔工程2〕
【0149】
【0150】
(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド(10.28g)およびTHF(100ml)の混合物に氷冷下でカリウムtert-ブトキシド(3.14g)を添加し、30分攪拌した。中間体1(4.71g)を添加し、さらに30分攪拌した。
室温に昇温し、4.5時間攪拌した。得られた混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)に付し、上記式で示される中間体2を収率80.9%で4.26g得た。
〔工程3〕
【0151】
【0152】
中間体2(4.26g)およびTHF(30ml)の混合物に、氷冷下で4N塩酸を添加した。室温に昇温後1.5時間攪拌した。
得られた混合物に水を加え、ジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた濃縮残渣に亜塩素酸ナトリウム(5.86g)、リン酸水素ナトリウム(5.05g)、アミレン(11.36g)、tert-ブチルアルコール(50ml)および水(16ml)を加え、室温で一晩攪拌した。
得られた混合物に水を加え、ジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。濃縮残渣にメタノール(80ml)を加え、室温でトリメチルシリルジアゾメタン10%ヘキサン溶液(55.5g)を滴下した。
得られた混合物を室温で1.5時間攪拌し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)に付し、上記式で示される中間体3を収率57.0%で2.58g得た。
得られた中間体3の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 399.78MHz): δ=7.20(d, 2H, J = 8.4 Hz, ArH), 7.06 (d,2H, J = 8.4 Hz, ArH),3.60 (s, 3H, -COOCH3), 3.33-3.29 (m, 1H, -C(Ar)H-), 2.33 (s, 3H, ArCH3),2.14-1.84 (m, 4H, -CH2CH2-), 1.60 (s, 3H, -CH3), 1.43s (s, 3H, -CH3).
〔工程4〕
【0153】
【0154】
中間体3(2.58g)、酢酸(50ml)および亜鉛(12.02g)の混合物を60℃で一晩攪拌した。
得られた混合物を室温まで放冷し、セライトろ過した。得られたろ液に水を加え、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=9:1)に付し、化合物A-3を収率40.5%で0.81g得た。
【0155】
〔製造実施例2〕
5-(4-クロロフェニル)-6,6-ジメチルテトラヒドロ-2H-チオピラン-2-オン(化合物A-6)の合成
〔工程1〕
【0156】
【0157】
ethyl (E)-3-(4-chlorophenyl)-2-methylacrylate(4.63mg)およびTHF(9.7ml)の混合物に、-78℃でDIBAL-Hの1.03Mヘキサン溶液(4.7ml)を添加した。0℃に昇温後、1時間攪拌した。
得られた混合物に飽和酒石酸カリウムナトリウム水溶液を加え、室温で1時間攪拌後、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。
濃縮残渣にトルエン(9.7ml)、オルト酢酸トリエチル(3.5ml)およびプロピオン酸(14.5μl)を加え、還流下で一晩攪拌した。
室温に冷却後、水を加えジエチルエーテルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=98:2)に付し、上記式で示される中間体4を収率82.0%で400.2mg得た。
得られた中間体4の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 500.16MHz): δ=7.26(d, 2H, J = 6.3 Hz, ArH), 7.16 (d, 2H, J = 8.1 Hz, ArH), 4.89 (s, 2H, =CH2),4.09-4.02 (m, 2H, -COOCH2-), 3.76 (t, 1H, J = 8.0 Hz, -(Ar)CH-), 2.84 (dd, 1H,J = 7.5 Hz, 15.5 Hz, -CH2COO-), 2.69 (dd, 1H, J = 8.1 Hz, 14.9 Hz, -CH2COO-),1.60 (s, 3H, -CH3), 1.17 (t, 3H, J = 7.4 Hz, -COOCH2CH3).
〔工程2〕
【0158】
【0159】
中間体4(199.3mg)およびジクロロメタン(3.9ml)の混合物に-78℃でDIBAL-Hの1.03Mヘキサン溶液(1.91ml)を添加した。0℃に昇温後、30分攪拌した。
得 られた混合物に飽和酒石酸カリウムナトリウム水溶液を加え、室温で1時間攪拌後、ジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=8:2)に付し、上記式で示される中間体5を定量的に165.8mg得た。
得られた中間体5の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 500.16MHz): δ=7.27(d, 2H, J = 8.6 Hz, ArH), 7.16 (d, 2H, J = 8.6 Hz, ArH), 4.94 (s, 1H, =CH2),4.87 (s, 1H, =CH2), 3.63 (td, 1H, J = 6.3 Hz, 10.4 Hz, -CH2-), 3.56 (t, 1H, J =6.3 Hz, 10.4 Hz, - CH2-), 3.41 (t, 1H, J = 8.0 Hz, -CH2O-), 2.13 (qd, 1H, J =6.9 Hz, 13.8 Hz, -(Ar)CH-), 1.96-1.88 (m, 1H, -CH2-), 1.57 (s, 3H, -CH3).
〔工程3〕
【0160】
【0161】
中間体5(165.8mg)、ジクロロメタン(3.9ml)、トリエチルアミン(285μl)、トシルクロリド(195.5mg)および4-ジメチルアミノピリジン(4.8mg)の混合物を室温で一晩攪拌した。
得られた混合物に飽和重曹水を加え、ジクロロエタンで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン: 酢酸エチル=95:5)に付し、上記式で示される中間体6を収率93.0%で269.1mg得た。
得られた中間体6の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 500.16MHz): δ=7.74(d, 2H, J = 8.1 Hz, -SO2ArH), 7.33 (d, 2H, J = 8.0 Hz, -ArH), 7.19 (d, 2H, J =8.1 Hz, ArH), 7.01 (d, 2H, J = 8.6 Hz, -SO2ArH), 4.84 (s, 1H=CH2), 4.81 (s, 1H,=CH2), 4.01 (td, 1H, J = 5.7 Hz, 9.8 Hz, -CH2-), 3.86-3.82 (m, 1H, -CH2-), 3.29(t, 1H, J = 8.1 Hz, -(Ar)CH-), 2.46 (s, 3H, -ArCH3), 2.23 (qd, 1H, J = 6.9 Hz,14.3 Hz, -CH2-), 1.99-1.92 (m, 1H, -CH2-), 1.50 (s, 3H, -CH3).
〔工程4〕
【0162】
【0163】
中間体6(168.2mg)、ジメチルスルホキシド(0.92ml)およびシアン化ナトリウム(113mg)の混合物を75℃で1時間攪拌した。
得られた混合物を室温まで放冷し、飽和重曹水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=95:5)に付し、上記式で示される中間体7を定量的に105.3mg得た。
得られた中間体7の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 500.16MHz): δ=7.30(d, 2H, J = 8.6 Hz, ArH), 7.15 (d, 2H, J = 8.0 Hz, ArH), 4.94 (s, 2H, =CH2),3.32 (t, 1H, J = 8.0 Hz, -(Ar)CH-), 2.33-2.27 (m, 1H, -CH2-), 2.24-2.16 (m, 2H,-CH2-), 2.04-1.97 (m, 1H, -CH2-), 1.57 (s, 3H, -CH3).
〔工程5〕
【0164】
【0165】
中間体7(105.3mg)およびジクロロメタン(2.3ml)の混合物に-78℃でDIBAL-Hの1.03Mヘキサン溶液(895μl)を添加した。0℃に昇温後、30分攪拌した。
得られた混合物に10%酒石酸水溶液を加え、室温で1時間攪拌後、ジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を飽和重曹水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。
得られた残渣に亜塩素酸ナトリウム(208.5mg)、リン酸水素ナトリウム(179.8mg)、アミレン(497μl)、tert-ブチルアルコール(1.73ml)および水(576μl)を加え、室温で30分攪拌した。
得られた混合物に水を加え、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。
濃縮残渣にメタノール(2.3ml)を加え、室温でトリメチルシリルジアゾメタン10%ヘキサン溶液(1.15ml)を滴下した。
得られた混合物を室温で30分攪拌し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=98:2)に付し、上記式で示される中間体8を収率91%で106.1mg得た。
得られた中間体8の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 500.16MHz): δ=7.27(d, 2H, J = 8.6 Hz, ArH), 7.14 (d, 2H, J = 8.6 Hz, ArH), 4.92 (s, 1H, =CH2),4.88 (s, 1H, =CH2), 3.65 (s, 3H-COOCH3), 3.18 (t, 1H, J = 7.5 Hz, -(Ar)CH-),2.30-2.21 (m, 2H, -CH2-), 2.18-2.11 (m, 1H, -CH2-), 2.05-1.97 (m, 1H, -CH2-),1.55 (s, 3H, -CH3).
〔工程6〕
【0166】
【0167】
シュウ酸鉄(III)六水和物(491.1mg)および水(8.5ml)の混合物に氷冷下でチオシアン酸カリウム(197.3mg)、エタノール(8.1ml)、中間体8(51.3mg)および水素化ホウ素ナトリウム(49.1mg)を添加し、アルゴン雰囲気下で1.5時間攪拌した。
得られた混合物にアンモニア水を加え、ジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=8:2)に付し、上記式で示される中間体9を収率64.0%で40.0mg得た。
得られた中間体9の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 500.16MHz): δ=7.33(d, 2H, J = 8.0 Hz, ArH), 7.16 (d, 2H, J = 8.6 Hz, ArH), 3.63 (s, 3H, -COOCH3),2.91-2.88 (m, 1H, -(Ar)CH-), 2.40-2.33 (m, 1H, -CH2-), 2.13-2.03 (m, 3H,-CH2CH2-), 1.51 (s, 3H, -CH3), 1.48 (s, 3H, -CH3).
〔工程7〕
【0168】
【0169】
中間体9(7.6mg)、ベンゼン(240μl)、トリメチルアルミニウム2Mトルエン溶液(24.4μl)、ビス(トリ-tert-ブチルホスフィン)パラジウム(0)(2.5mg)の混合物をアルゴン雰囲気下、室温で30分攪拌した。
得られた混合物に飽和炭酸水素ナトリウム水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:10)に付し、化合物A-6を収率53.0%で3.3mg得た。
【0170】
〔製造実施例3〕
5,5-ジメチル-4-(p-トリル)ジヒドロフラン-2(3H)-チオン(化合物B-2)の合成
【0171】
【0172】
化合物18(0.23g)、トルエン(10ml)およびローソン試薬(0.89g)の混合物を還流下で一晩攪拌した。
得られた混合物を室温まで放冷し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)に付し、化合物B-2を収率81.9%で0.19g得た。
【0173】
〔製造実施例4〕
5,5-ジメチル-4-(p-トリル)ジヒドロチオフェン-2(3H)-オン(化合物B-6)の合成
【0174】
【0175】
化合物B-2(0.19g)、1,2-ジクロロエタン(9mL)および1M二塩化エチルアルミニウムヘキサン溶液(1.4mL)の混合物を70℃で一晩攪拌した。
得られた混合物を室温まで放冷し、ジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=95:5)に付し、化合物B-6を収率50.5%で0.10g得た。
【0176】
〔製造実施例5〕
4-(4-クロロフェニル)-3,3-ジメチルイソチアゾリジン-1,1-ジオキシド(化合物B-12)の合成
〔工程1〕
【0177】
【0178】
DMF(12.8ml)に氷冷下で塩化スルフリル(13.4ml)を加えた。室温で30分攪拌後、4-クロロ-スチレン(11.50g)を加えた。得られた混合物を90℃で3時間攪拌した。
得られた混合物を室温まで放冷し、水を加え、ジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。
得られた濃縮残渣にジクロロメタン(300ml)およびトリエチルアミン(12.6g)を加え、氷冷下でフェノール(8.21g)を加えた。得られた混合物を室温で一晩攪拌した。
飽和食塩水を加え、ジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)に付し、上記式で示される中間体10を収率44.7%で10.94g得た。
得られた中間体10の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 399.78MHz): δ=7.50-7.24(m, 10H, ArH, -CH=CH-), 6.84 (d, 2H, J = 15.6 Hz, -CH=CH-).
〔工程2〕
【0179】
【0180】
中間体10(10.94g)、アセトニトリル(100ml)、2-ニトロプロパン(4.96g)およびDBU(8.48g)の混合物を室温で一晩攪拌した。
1N塩酸を加え、ジエチルエーテルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)に付し、上記式で示される中間体11を収率66.2%で9.43g得た。
得られた中間体11の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 399.78MHz): δ=7.36-7.26(m, 5H, ArH), 7.18-7.15 (m, 2H, ArH), 6.99-6.97 (m, 2H, ArH), 3.96-3.74 (m, 3H,-C(Ar)HCH2-), 1.58 (s, 6H, -CH3).
〔工程3〕
【0181】
【0182】
中間体11(1.15g)、酢酸(15ml)および亜鉛(3.92g)の混合物を50℃で一晩攪拌した。得られた混合物を室温まで放冷し、セライトろ過した。得られたろ液に水を加え、酢酸エチルで抽出した。
得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=8:2)に付し、上記式で示される中間体12を収率39.5%で0.42g得た。
得られた中間体12の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 399.78MHz): δ=7.33-7.22(m, 7H, ArH), 7.00-6.97 (m, 2H, ArH), 4.12-4.08 (m, 1H, -CH2-), 3.77-3.75 (m,1H, -CH2-), 3.24-3.20 (m, 1H, -C(Ar)H-), 1.15 (s, 3H, -CH3), 1.03 (s, 3H, -CH3).
〔工程3〕
【0183】
【0184】
中間体12(0.42g)およびトルエン(6.0ml)の混合物を還流下で一晩攪拌した。
得られた混合物を室温まで放冷し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=5:5)に付し、化合物B-12を収率79.4%で0.21g得た。
【0185】
〔製造実施例6〕
4,4-ジメチル-5-フェニル-3-アザビシクロ[3.1.0]ヘキサン-2-オン(化合物C-1)の合成
〔工程1〕
【0186】
【0187】
1.9M NaHMDS/THF溶液(39.5ml)にTHF(10ml)を加え、-10℃に冷却した。この溶液に、シアン化ベンジル(3.51g)およびTHF(45ml)の混合溶液を滴下し、-10℃で10分撹拌した。得られた混合物にエピクロロヒドリン(2.54ml)を加え、室温で一晩撹拌した。
得られた混合物に4Mジオキサン塩酸(30ml)を添加し室温で1.5時間撹拌した後、ジエチルエーテルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。
得られた濃縮残渣にTHF(50ml)、3MMeMgCl/THF溶液(32ml)を順次加え、混合物を加熱還流下30分撹拌した。得られた混合物を室温まで放冷した後、オルトチタン酸テトライソプロピル(8.18ml)を滴下し、室温で3日間撹拌した。
得られた混合物に氷冷下、飽和塩化アンモニウム水溶液及び2N塩酸を添加し、セライトろ過した。ろ液を酢酸エチルで洗浄した後、得られた水層に飽和重曹水を加えて塩基性にした。水層を酢酸エチルで抽出し、有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。
得られた濃縮残渣にジクロメタン(25ml)および二炭酸ジ-tert-ブチル(2.60g)を加え、室温で一晩撹拌した。
得られた混合物を減圧下で濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)に付し、上記式で示される中間体13を収率12.3%で1.13g得た。
得られた中間体13の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 399.78MHz): δ=7.35-7.19(m, 5H, ArH), 5.41-5.35 (m, 1H, -NH-), 4.31 (s, 1H, -OH), 4.11-3.77 (m, 2H,-CH2-), 1.48 (s, 3H, -CH3), 1.46 (s, 9H, -(CH3)3), 1.29 (s, 3H, -CH3),1.28-1.24 (m, 1H, -CH2-), 1.15-1.11 (m, 1H, -CH2-), 0.77-0.65 (m, 1H, -C(C)H-).
〔工程2〕
【0188】
【0189】
中間体13(1.13g)、DMF(30ml)、モレキュラーシーブス4A(4g)および二クロム酸ピリジニウム(4.18g)の混合物を室温で一晩攪拌した。
得られた混合物を氷冷し、セライトろ過した。得られたろ液に水及び2N塩酸を加え、ジエチルエーテルで抽出した。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)に付し、上記式で示される中間体14を収率81.6%で0.91g得た。
得られた中間体14の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 399.78MHz): δ=7.35-7.31(m, 5H, ArH), 2.25 (dd, 1H, -COC(C)H-), 1.60 (s, 3H, -CH3), 1.53 (s, 9H,-(CH3)3), 1.36-1.30 (m, 2H, -CH2-), 1.25 (s, 3H, -CH3).
〔工程3〕
【0190】
【0191】
中間体14(0.50g)、ジクロロメタン(7ml)および4Mジオキサン塩酸(3.32ml)の混合物を室温で3時間攪拌した。
得られた混合物に氷冷下で飽和重曹水を加え、ジクロロメタンで抽出した。得られた有機層を減圧下で濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)に付し、化合物C-1を収率95.2%で0.32g得た。
【0192】
前記の製造実施例の化合物および同様の方法で製造した化合物(I)の一例を第2表~第5表に示す。併せて物性値として融点も示す。
【0193】
【0194】
【0195】
【0196】
【0197】
第2表~第5表に記載した化合物のうち、融点の欄に*を付した化合物は、非晶または粘性オイルの性状を有する化合物であった。その1H-NMRデータを以下に示す。
化合物番号A-1:1H-NMR(CDCl3 ,500.16MHz): δ=7.32-7.21(m, 5H, ArH), 5.64 (brs, 1H, -NH-), 2.87-2.84 (m, 1H,-C(Ar)H-), 2.60-1.91 (m, 4H, -CH2CH2-), 1.20 (s, 3H, -CH3), 1.08 (s, 3H, -CH3).
化合物番号A-3:1H-NMR(CDCl3 ,399.78MHz): δ=7.26-7.08 (m, 4H, ArH), 5.61(brs, 1H, -NH-), 2.84-2.80 (m, 1H,-C(Ar)H-), 2.60-1.87 (m, 4H, -CH2CH2-), 2.31(s ,3H, ArCH3), 1.19 (s, 3H, -CH3),1.07 (s, 3H, -CH3).
化合物番号A-4:1H-NMR(CDCl3 ,500.16MHz): δ=7.99 (d, 2H, J = 8.1Hz, ArH), 7.30 (d, 2H, J = 8.1Hz, ArH), 5.79(brs, 1H, -NH-), 3.92 (s, 3H, -COOCH3), 2.94-2.91 (m, 1H, -C(Ar)H-), 2.61-1.92(m, 4H, -CH2CH2-), 1.21 (s, 3H, -CH3), 1.08 (s, 3H, -CH3).
化合物番号A-5:1H-NMR(CDCl3 ,500.16MHz): δ=7.33-7.28 (m, 3H, ArH), 7.22-7.20 (m, 2H, ArH), 3.15-3.13 (m, 1H,-C(Ar)H-), 2.85-2.10 (m, 4H, -CH2CH2-), 1.39 (s, 3H, -CH3), 1.32 (s, 3H, -CH3).
化合物番号A-6:1H-NMR(CDCl3 ,500.16MHz): δ=7.32-7.31 (d, 2H, J = 8.6 Hz, ArH), 7.16-7.14 (d, 2H, J = 8.0 Hz,ArH), 3.14 (dd, 1H, J = 1.7 Hz, 12.0 Hz, -C(Ar)H-), 2.86-2.81 (m, 1H,-CH2CH2-), 2.74 (ddd, 1H, J = 5.8 Hz, 12.1 Hz, 17.8 Hz, -CH2CH2-), 2.58-2.49(m, 1H, -CH2CH2-), 2.10-2.05 (m, 1H, -CH2CH2-), 2.85-2.06 (m, 4H, -CH2CH2-),1.36 (s, 3H, -CH3), 1.30(s, 3H, -CH3).
化合物番号A-7:1H-NMR(CDCl3 ,500.16MHz): δ=7.13 (d, 2H, J = 8.1Hz, ArH), 7.09 (d, 2H, J = 8.0 Hz, ArH),3.11-3.09 (m, 1H, -C(Ar)H-), 2.85-2.06 (m, 4H, -CH2CH2-), 2.34(s, 3H, ArCH3),1.37(s, 3H, -CH3), 1.30 (s, 3H, -CH3).
化合物番号B-1:1H-NMR(CDCl3 ,500.16MHz): δ=7.37-7.18 (m, 5H, ArH), 3.55-3.49 (m, 3H, -C(Ar)HCH2-), 1.64 (s, 3H,-CH3), 1.12 (s, 3H, -CH3).
化合物番号B-2:1H-NMR(CDCl3 ,500.16MHz): δ=7.17-7.07 (m, 4H, ArH), 3.50-3.48 (m, 3H, -C(Ar)HCH2-), 2.35 (s, 3H,ArCH3), 1.62 (s, 3H, -CH3), 1.12 (s, 3H, -CH3).
化合物番号B-3:1H-NMR(CDCl3 ,500.16MHz): δ=7.26-6.94 (m, 3H, ArH), 3.79-3.39 (m, 3H, -C(Ar)HCH2-), 2.30 (s, 3H,-ArCH3), 2.28 (s, 3H, -ArCH3), 1.64 (s, 3H, -CH3), 1.16 (s, 3H, -CH3).
化合物番号B-4:1H-NMR(CDCl3 ,500.16MHz): δ=7.36-7.22 (m, 5H, ArH), 3.63-2.87 (m, 3H, -C(Ar)HCH2-), 1.57 (s, 3H,-CH3), 1.31 (s, 3H, -CH3).
化合物番号B-5:1H-NMR(CDCl3 ,500.16MHz): δ=7.49 (d, 2H, J = 8.6 Hz, ArH), 7.13 (d, 2H, J = 8.6 Hz, ArH),3.58-2.87 (m, 3H, -C(Ar)HCH2-), 1.55 (s, 3H, -CH3), 1.29 (s, 3H, -CH3).
化合物番号B-9:1H-NMR(CDCl3 ,500.16MHz): δ=7.39-7.24 (m, 5H, ArH), 4.26 (brs, 1H, -NH-), 3.79-3.53 (m, 3H,-C(Ar)HCH2-), 1.40 (s, 3H, -CH3), 1.11 (s, 3H, -CH3).
化合物番号B-10:1H-NMR(CDCl3 ,500.16MHz): δ=7.52-7.12 (m, 4H, ArH), 4.20 (brs, 1H, -NH-), 3.75-3.54 (m, 3H,-C(Ar)HCH2-), 1.40 (s, 3H, -CH3), 1.11 (s, 3H, -CH3).
化合物番号B-12:1H-NMR(CDCl3 ,500.16MHz): δ=7.37-7.18 (m, 4H, ArH), 4.27 (brs, 1H, -NH-), 3.74-3.55 (m, 3H,-C(Ar)HCH2-), 1.40 (s, 3H, -CH3), 1.10 (s, 3H, -CH3).
化合物番号C-1:1H-NMR(CDCl3 , 399.78MHz): δ=7.35-7.28 (m, 5H, ArH), 5.06 (s, 1H, -NH-), 2.20-2.16 (m, 1H,-COCH-), 1.38 (s, 3H, -CH3), 1.35-1.33 (dd, 1H, -CH2-), 1.28-1.25 (dd, 1H,-CH2-), 1.08 (s, 3H, -CH3).
化合物番号D-2:1H-NMR(CDCl3 ,399.78MHz): δ=7.06-7.01 (m, 3H, ArH), 3.77-3.73 (m, 1H, -C(Ar)H-), 3.04-2.81 (m,2H, -CH2-), 2.32 (s ,3H, ArCH3), 2.30 (s ,3H, ArCH3), 1.54 (s, 3H, -CH3), 1.09(s, 3H, -CH3).
化合物番号D-4:1H-NMR(CDCl3 ,399.78MHz): δ=6.94 (s, 1H, ArH), 6.81 (s, 1H, ArH), 3.45-3.41 (m, 1H, -C(Ar)H-),3.02-2.82 (m, 2H, -CH2-), 2.32 (s ,6H, ArCH3), 1.54 (s, 3H, -CH3), 1.06 (s, 3H,-CH3).
化合物番号D-5:1H-NMR(CDCl3 ,399.78MHz): δ=7.20-7.12 (m, 4H, ArH), 3.51-3.47 (m, 1H, -C(Ar)H-), 3.03-2.83 (m,2H, -CH2-), 2.65 (q, 2H, J = 7.6 Hz, 15.6 Hz, -ArCH2- ), 1.54 (s, 3H, -CH3) ,1.23 (t, 3H, J = 7.2 Hz, -CH2CH3), 1.05 (s, 3H, -CH3).
化合物番号D-19:1H-NMR(CDCl3 ,399.78MHz): δ=7.09 (s, 1H, ArH), 7.05-7.00 (m, 2H, ArH), 6.41 (brs, 1H, -NH-),5.86 (d, 1H, J = 2Hz, =CH-), 2.50 (s ,3H, ArCH3), 2.24 (s ,3H, ArCH3), 1.41 (s,6H, -CH3).
【0198】
〔光学活性な化合物の製造方法〕
以下に示す光学活性な化合物番号2の化合物(化合物番号2(-)と記す。)についても製造した。化学式中の*は鏡像異性体過剰化合物であることを示す。
【0199】
【0200】
化合物2(-)の比旋光度は(-)であった。詳しくは、「比旋光度[α](365nm、25℃)=-98.8(c1.057、ジクロロメタン)」であった。融点は、154-155℃であった。鏡像体過剰率は99.8%eeであった。
その製造方法を以下に示す。
【0201】
〔製造実施例7〕
(-)-5,5-ジメチル-4-(4-メチルフェニル)-2-ピロリジノン(化合物2(-))の合成
〔工程1〕
【0202】
【0203】
ethyl (E)-3-(p-tolyl)acrylate(118.59g)、アセトニトリル(300ml)、2-ニトロプロパン(140.24mL)及びDBU(232.60mL)の混合物を室温で一晩攪拌した。
1N塩酸を加え、ジエチルエーテルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=95:5)に付し、上記式で示される中間体15を収率86.3%で150.35g得た。
得られた中間体15の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 399.78MHz): δ=7.12-7.07(m, 4H, ArH), 4.02-3.90 (m, 2H, -COOCH2-), 3.88-3.84 (m, 1H, -C(Ar)H-),2.89-2.60 (m, 2H, - CH2COO-), 2.31 (s, 3H, -ArCH3),1.57 (s, 3H, -CH3), 1.48 (s, 3H, -CH3), 1.05 (t, 3H, J = 6.8 Hz, -CH2CH3).
〔工程2〕
【0204】
【0205】
中間体15(5.58g)、メタノール(20ml)、及び水酸化カリウム(1.68g)の混合物を室温で一晩攪拌した。
得られた混合物に水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。得られた水層に、濃塩酸を加え、ジクロロエタンで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮し、上記式で示される中間体16を収率74.6%で3.75g得た。
得られた中間体16の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 399.78MHz): δ=7.12-7.05(m, 4H, ArH), 3.83-3.79 (m, 1H, -C(Ar)H-), 2.91-2.61 (m, 2H, - CH2COO-), 2.31(s, 3H, -ArCH3), 1.54 (s, 3H, -CH3), 1.45 (s, 3H, -CH3).
〔工程3〕
【0206】
【0207】
中間体16(2.51g)、ジクロロメタン(200ml)、(S)-1-(naphthalen-2-yl)ethan-1-amine(2.10g)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(3.83g)及び4-ジメチルアミノピリジン(0.37g)の混合物を室温で一晩攪拌した。
得られた混合物に水を加え、ジクロロエタンで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)に付し、上記式で示される中間体17-1を収率94.6%で1.91g、中間体17-2を収率91.1%で1.84g得た。
得られた中間体17-1の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 399.78MHz): δ=7.80-7.73 (m, 3H, ArH), 7.53 (s, 1H,ArH), 7.49-7.43 (m, 2H, ArH), 7.19-7.17 (m, 1H, ArH), 7.13-7.06 (m, 4H, ArH),5.48 (brd, 1H, J = 7.6 Hz, -NH-), 5.09-5.02 (m, 1H, -C*(Me)H-), 3.78-3.74 (m,1H, -C(Ar)H-), 2.71-2.62 (m, 2H, - CH2CO-), 2.32 (s, 3H, -ArCH3), 1.55 (s, 3H, -CH3), 1.52 (s, 3H, -CH3), 1.28-1.23 (m, 3H,C*-CH3).
得られた中間体17-2の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 399.78MHz): δ=7.78-7.75 (m, 1H, ArH), 7.69-7.66 (m,1H, ArH), 7.61 (d, 1H, J = 8 Hz, ArH), 7.47-7.41 (m, 2H, ArH), 7.38 (s, 1H,ArH), 7.05-7.01 (m, 4H, ArH), 6.89-6.86 (m, 1H, ArH), 5.48 (brd, 1H, J = 8.4Hz, -NH-), 5.13-5.05 (m, 1H, -C*(Me)H-), 3.79-3.75 (m, 1H, -C(Ar)H-), 2.72-2.61(m, 2H, - CH2CO-), 2.27 (s, 3H, -ArCH3), 1.55 (s, 3H,-CH3), 1.54 (s, 3H, -CH3), 1.44-1.42 (m, 3H, C*-CH3).
〔工程4〕
【0208】
【0209】
中間体17-1(1.90g)、酢酸(15ml)、無水酢酸(30ml)及び亜硝酸ナトリウム(3.24g)の混合物を室温で一晩攪拌した。
得られた混合物に重曹水を加え、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣にTHF(30mL)、水(15mL)及び水酸化リチウム(0.22g)を加え、室温で一晩攪拌した。
得られた混合物に水を加え、ジエチルエーテルで抽出した。得られた水層に、濃塩酸を加え、ジクロロエタンで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮し、上記式で示される中間体16-1を収率63.6%で0.75g得た。
〔工程5〕
【0210】
【0211】
中間体16-1(0.75g)、ジエチルエーテル(12ml)、メタノール(3ml)の混合物に、氷冷下でトリメチルシリルジアゾメタン10%ヘキサン溶液(3.0ml)を加えた。室温に昇温後、1時間攪拌した。
得られた混合物に酢酸を加え、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)に付し、上記式で示される中間体18-1を収率88.4%で0.70g得た。
得られた中間体18-1の1H-NMRデータを以下に示す。
1H-NMR(CDCl3 , 399.78MHz): δ=7.12-7.07(m, 4H, ArH), 3.88-3.85 (m, 1H, -C(Ar)H-), 3.51 (s, 3H,-COOCH3), 2.91-2.61 (m, 2H, - CH2COO-), 2.31 (s, 3H, -ArCH3), 1.56 (s, 3H,-CH3), 1.47 (s, 3H, -CH3).
〔工程6〕
【0212】
【0213】
中間体18-1(0.70g)、エタノール(12mL)、飽和塩化アンモニウム水溶液(3ml)および亜鉛(1.46g)の混合物を還流下で一晩攪拌した。
得られた混合物を室温まで放冷し、セライトろ過した。得られたろ液に水を加え、酢酸エチルで抽出した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:メタノール=9:1)に付し、化合物2(-)(99.8%ee)を収率76.7%で0.43g得た。
【0214】
同様に以下に示す光学活性な化合物番号1の化合物(化合物番号1(-)と記す。)についても製造した。化学式中の*は鏡像異性体過剰化合物であることを示す。
【0215】
【0216】
化合物1(-)の比旋光度は(-)であった。詳しくは、「比旋光度[α](365nm、25℃)=-110.4(c1.087、ジクロロメタン)」であった。融点は、119-121℃であった。鏡像体過剰率は99.7%eeであった。
【0217】
同様に以下に示す光学活性な化合物番号3の化合物(化合物番号3(-)と記す。)についても製造した。化学式中の*は鏡像異性体過剰化合物であることを示す。
【0218】
【0219】
化合物3(-)の比旋光度は(-)であった。詳しくは、「比旋光度[α](365nm、25℃)=-86.3(c1.629、ジクロロメタン)」であった。融点は、174-175℃であった。鏡像体過剰率は99.2%eeであった。
【0220】
以下に示す光学活性な化合物番号B-12の化合物(化合物番号B-12(-)と記す。)についても製造した。化学式中の*は鏡像異性体過剰化合物であることを示す。
【0221】
【0222】
この化合物は、キラル分離用カラムを用いて、分取精製を行うことで製造した。
化合物B-12(-)の比旋光度は(-)であった。詳しくは、「比旋光度[α](365nm、25℃)=-53.88(c1.629、ジクロロメタン)」であった。鏡像体過剰率は99.9%eeであった。
【0223】
分取の条件を以下に示す。分取用の試料は、化合物B-12に2-プロパノールを加え、濃度20mg/mLの溶液を作成し、これにさらにn-ヘプタンを加え濃度10mg/mLの溶液とすることで調製した。
(分取条件)
Column:CHIRALARTCellulose-C(5μm) 250x30mm I.D.
Eluent:n-heptane/2-propanol(50/50)
Flow rate:21.3 mL/min
Temperature:ambient
Detection:UV at 230nm
Load:330 mg (10mg/mL)
System:LC-Forte/R(YMC)
【0224】
上記の製造方法を参考に、比旋光度が(+)の化合物も製造した。それぞれの物性データを以下に示す。
化合物番号1(+):(+)-5,5-ジメチル-4-フェニル-2-ピロリジノン
「比旋光度[α](365nm、25℃)=+110.2(c1.375、ジクロロメタン)」であった。融点は、120-121℃であった。鏡像体過剰率は99.7%eeであった。
化合物番号2(+):(+)-5,5-ジメチル-4-(4-メチルフェニル)-2-ピロリジノン
「比旋光度[α](365nm、25℃)=+94.2(c1.143、ジクロロメタン)」であった。融点は、154-155℃であった。鏡像体過剰率は98.8%eeであった。
化合物番号3(+):(+)-5,5-ジメチル-4-(4-クロロフェニル)-2-ピロリジノン
「比旋光度[α](365nm、25℃)=+86.3(c0.792、ジクロロメタン)」であった。融点は、174-175℃であった。鏡像体過剰率は99.6%eeであった。
化合物番号B-12(+):(+)-4-(4-クロロフェニル)-3,3-ジメチルイソチアゾリジン-1,1-ジオキシド
「比旋光度[α](365nm、25℃)=+56.09(c0.792、ジクロロメタン)」であった。融点は、179-180℃であった。鏡像体過剰率は99.9%eeであった。
【0225】
〔製剤例〕
本発明の防除剤に関する製剤例を若干示すが、化合物(I)(有効成分)、添加物及び添加割合は、本実施例にのみ限定されることなく、広い範囲で変更可能である。製剤実施例中の部は重量部を示す。
(製剤実施例1)水和剤
化合物(I) 20部
ホワイトカーボン 20部
ケイソウ土 52部
アルキル硫酸ソーダ 8部
以上を均一に混合、微細に粉砕して、有効成分20%の水和剤を得る。
(製剤実施例2)乳剤
化合物(I) 20部
キシレン 55部
ジメチルホルムアミド 15部
ポリオキシエチレンフェニルエーテル 10部
以上を混合、溶解して有効成分20%の乳剤を得る。
(製剤実施例3)粒剤
化合物(I) 5部
タルク 40部
クレイ 38部
ベントナイト 10部
アルキル硫酸ソーダ 7部
以上を均一に混合して微細に粉砕後、直径0.5~1.0mmの粒状に造粒して有効成分5%の粒剤を得る。
(製剤実施例4)液剤
化合物(I) 10部
ジメチルスルホキシド 75部
ポリオキシエチレンアルキルエーテル 5部
ポリオキシエチレン高級脂肪酸エーテル 10部
以上を混合、溶解して有効成分10%の液剤を得る。
【0226】
〔生物試験例〕
(試験例1)ジャガイモシロシストセンチュウ卵に対するふ化促進効果評価試験(液浸試験)
(1)供試薬液の調製
ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20)を0.05%(v/v)含有する水溶液に対し、所定量の化合物(I)を溶解させて、化合物(I)の100ppm溶液を調製した。
化合物(I)の100ppm溶液を、さらに0.05%(v/v)Tween20水溶液で希釈し、化合物(I)の濃度が2ppmの供試薬液を調製した。
(2)試験方法
前年以前に温室で増殖させたジャガイモシロシストセンチュウのシストを集め、蒸留水に浸漬して16℃で約2週間保温した後、シストをメスで破砕して卵を取り出し、卵懸濁液を得た。1mLあたり約600卵の密度になるように調製した後、Tween20を0.05%(v/v)濃度になるように加えた。この卵懸濁液を容量13.5mLのスクリューキャップガラスバイアル(内径2.1cm、高さ4.8cm)に1mL入れ、化合物(I)の濃度が2ppmの供試薬液を1mLずつ加え、蓋をして16℃で保温した。
約2週間後に1mLを取りだし、実体顕微鏡下でふ化幼虫数と未ふ化卵数を計数した。各化合物につき2反復を設置し、平均ふ化率を算出した。
(3)試験結果
試験結果を以下の表6に示す。
【0227】
【0228】
(4)光学活性な化合物についての試験結果
化合物(I)のうちで、光学活性な化合物についての試験結果を以下の表7に示す。なお、いくつかの化合物については、さらに低濃度まで試験を行った。
【0229】
【0230】
(試験例2)ジャガイモシロシストセンチュウに対する密度低減試験(ポット試験)
(1)供試薬液の調製
化合物(I)20mgをジメチルスルホキシド1mLに溶解したあと、0.1%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート水溶液199mLを加えて化合物(I)の濃度が100ppmの供試薬液を得た。また、これを蒸留水で10倍に希釈し、10ppmの供試薬液を調製した。
(2)試験方法
ジャガイモシロシストセンチュウが発生する畑から土壌を採取し、卵密度を次のように調査した。乾燥させた土壌100gからふるい分けシスト流し法によってシストを分離・破砕し、実体顕微鏡下で卵数を計数した。これを初期密度とした。
採取した畑土壌800mLに100ppmまたは10ppmに調製した供試薬液32mLを加えてよく攪拌し、10.5cmロングポット(上径10.5cm、高さ22.5cm)に詰め、植物を無栽培の状態で温室に置き30日間管理した。各ポットには6~7日おきに蒸留水を26mLずつ灌水した。
30日後に土壌をアルミバットにあけて風乾し、乾燥土壌100gから上記と同様にシストを分離して残卵数を計数した(処理後密度)。各化合物について1濃度あたり3ポットを設置し、初期密度とそれぞれの処理後密度から平均密度低下率を算出した。
(3)試験結果
化合物番号2、3、4、5、12、18、A-3、およびD-15の化合物について本試験を行った。化合物による処理を行わなかったポットを無処理区とした。
試験結果を以下の表8に示す。
【0231】
【0232】
(試験例3)ジャガイモシロシストセンチュウに対する密度低減試験(圃場小区画試験)
(1)供試薬液の調製
製剤実施例4を参考に、化合物番号2の化合物の10%液剤を調製した。この10%液剤を蒸留水で希釈し、300ppm、30ppm、および3ppm濃度の供試薬液を調製した。
(2)試験方法
ジャガイモシロシストセンチュウが発生する畑に小区画を設置し、化合物製剤を処理して線虫密度低減効果を調査した。小区画は、幅25cmの塩化ビニル製の板を筒状に丸めて直径30cmの円筒を作製し、それを深さ20cmまで埋め込むことによって設置した。これを圃場内に多数設置し、初期密度調査用の土壌を採取した後、各濃度の供試薬液を1平方メートルあたり5または1Lの割合で散布し(70.7mL/枠)、移植ごてで混合した(深さ約15cm)。これによって薬剤投下量が異なる4種の処理区を設け、それぞれの薬剤投下量は、10aあたり1500、300、30、3gである。
約80日後に枠内の土壌を採取し、土壌中の線虫卵密度は以下のように調査した。乾燥させた土壌100gからふるい分けシスト流し法によってシストを分離し、メスで破砕して卵を取り出し、蒸留水に懸濁させて一定量を取り出し、実体顕微鏡下で卵数を計数した。
各濃度につき4区画ずつ設置し、それぞれ初期密度と処理後密度から平均密度低下率を算出した。
(3)試験結果
当該化合物(化合物番号2)処理により、土壌中のGp密度は大きく低下した。薬剤投下量ごとのGp密度低下率は以下の通りであった。10a当たり30g以上の投下量ではGp密度を80%以上低下させ、密度低減に卓効を示した。
投下量1500g/10a:98.4%
300g/10a:94.4%
30g/10a:88.8%
3g/10a:65.6%
0g/10a(無処理):9.0%(いずれも4区平均)
【0233】
化合物(I)の中から無作為に選択したものが、上記のような効果を奏することから、化合物(I)は、例示しきれなかった化合物を含め、高いGp防除効果を奏する化合物であることが理解できる。