(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022135129
(43)【公開日】2022-09-15
(54)【発明の名称】複合タングステン酸化物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 41/00 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
C01G41/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021034738
(22)【出願日】2021-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中倉 修平
(72)【発明者】
【氏名】荻 崇
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC08
4G048AD04
4G048AE05
(57)【要約】
【課題】導入コストの低い設備を用いることができ、かつ工程数の少ない複合タングステン酸化物粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】一般式M
xW
yO
z(0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表わされる複合タングステン酸化物粒子の製造方法であり、
被処理物である、タングステン源となるW源原料粉末と、M元素源となるM元素源原料粉末との混合原料粉末を含むエアロゾルを形成するエアロゾル形成工程と、
前記エアロゾルをキャリアガスで搬送しながら、500℃以上1150℃以下で熱処理する熱処理工程と、を有し、
前記キャリアガスが不活性ガスと、0.5体積%以上5体積%以下のH
2を含む混合ガスである複合タングステン酸化物粒子の製造方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式MxWyOz(但し、M元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表わされる複合タングステン酸化物粒子の製造方法であり、
被処理物である、タングステン源となるW源原料粉末と、M元素源となるM元素源原料粉末との混合原料粉末を含むエアロゾルを形成するエアロゾル形成工程と、
前記エアロゾルをキャリアガスで搬送しながら、500℃以上1150℃以下で熱処理する熱処理工程と、を有し、
前記キャリアガスが不活性ガスと、0.5体積%以上5体積%以下のH2を含む混合ガスである複合タングステン酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記M元素がCsである請求項1に記載の複合タングステン酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
前記キャリアガスが、ArとH2の混合ガスである請求項1または請求項2に記載の複合タングステン酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
前記キャリアガスの流量を8L/min以上20L/min以下とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複合タングステン酸化物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合タングステン酸化物粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
良好な可視光透過率を有し透明性を保ちながら日射透過率を低下させる近赤外線遮蔽技術として、これまでさまざまな技術が提案されてきた。なかでも、無機物である導電性微粒子を用いた近赤外線遮蔽技術は、その他の技術と比較して近赤外線遮蔽特性に優れ、低コストである上、電波透過性が有り、さらに耐候性が高い等のメリットがある。
【0003】
例えば特許文献1には、赤外線遮蔽材料微粒子が媒体中に分散してなる赤外線遮蔽材料微粒子分散体であって、前記赤外線遮蔽材料微粒子は、一般式MxWyOz(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子を含有することを特徴とする赤外線遮蔽材料微粒子分散体や、該赤外線遮蔽微粒子の製造方法等に関する技術が開示されている。特許文献1には、薄膜状の赤外線遮蔽材料微粒子分散体である赤外線遮蔽膜を製造した例等も開示されている。
【0004】
特許文献1によれば、太陽光線、特に近赤外線領域の光をより効率良く遮蔽し、同時に可視光領域の透過率を保持する等、優れた光学特性を有する赤外線遮蔽材料微粒子分散体を作製することが可能となるとされている。このため、特許文献1に開示された赤外線遮蔽粒子分散体を窓ガラス等の各種用途に適用することが検討されている。
【0005】
そして、近赤外線遮蔽材料として有用な複合タングステン酸化物粒子の製造方法について、各種検討がなされている。
【0006】
例えば、特許文献1の発明者は、非特許文献1において、固相法によるCs0.32WO3ナノ粒子の合成方法を提案している。しかしながら、非特許文献1に開示された合成方法では粒子径が大きく、ナノ粒子化するには粉砕プロセスが必要であった。このため、プロセスの工程数が増える可能性があった。
【0007】
非特許文献2には水熱合成法によるCsxWO3の合成方法が開示されている。しかしながら、水熱合成法では数十時間以上の合成時間を必要とする。また、水熱合成法は、後処理工程などの工程数が多い問題もある。
【0008】
非特許文献3には、誘導結合熱プラズマ技術に基づく合成方法が開示されている。しかしながら、係る合成方法は誘導結合熱プラズマの装置を導入する必要があり、コストが高くなっていた。
【0009】
特許文献2には化学式KxCsyWOzで表わされるカリウム・セシウム・タングステンブロンズ固溶体粒子調合のためのプロセスであって、式中、x+y≦1および2≦z≦3であり、前記プロセスは適切なタングステン・ソースをカリウム塩およびセシウム塩と混ぜ合わせて粉末混合物を形成し、還元雰囲気下でプラズマトーチに粉末混合物を露出することを含み、好ましくは還元雰囲気が水素/希ガス混合物から成るシースガスによって供給される、プロセスが開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献2についてもプラズマを用いる必要があり、プラズマ装置導入のためにコストが高くなっていた。また、特許文献2に開示された製造方法によれば、金属タングステンが不純物として混入することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2005/037932号
【特許文献2】特表2012-532822号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Takeda Hiromitsu, and Kenji Adachi, "Near infrared absorption of tungsten oxide nanoparticle dispersions." Journal of the American Ceramic Society,2007 , Vol.90, Issue 12, P.4059-4061
【非特許文献2】Guo Chongshen, et al., "Novel synthesis of homogenous CsxWO3 nanorods with excellent NIR shielding properties by a water controlled-release solvothermal process." Journal of Materials Chemistry,2010, Vol.20, Issue38, P.8227-8229.
【非特許文献3】Mamak Marc, et al., "Thermal plasma synthesis of tungsten bronze nanoparticles for near infra-red absorption applications." Journal of Materials Chemistry, 2010, Vol.20, Issue44, P.9855-9857.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
既述の様に複合タングステン酸化物粒子は、近赤外線遮蔽材料として有用である。そして、低コストで、かつ少ない工程で製造することができる複合タングステン酸化物粒子の製造方法が求められている。
【0014】
しかしながら、従来開示された複合タングステン酸化物粒子の製造方法は、上述のように特殊な高コストの装置の導入を要したり、多くの工程を要したりする等の問題があった。
【0015】
上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では、導入コストの低い設備を用いることができ、かつ工程数の少ない複合タングステン酸化物粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一側面では、一般式MxWyOz(但し、M元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表わされる複合タングステン酸化物粒子の製造方法であり、
被処理物である、タングステン源となるW源原料粉末と、M元素源となるM元素源原料粉末との混合原料粉末を含むエアロゾルを形成するエアロゾル形成工程と、
前記エアロゾルをキャリアガスで搬送しながら、500℃以上1150℃以下で熱処理する熱処理工程と、を有し、
前記キャリアガスが不活性ガスと、0.5体積%以上5体積%以下のH2を含む混合ガスである複合タングステン酸化物粒子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一側面では導入コストの低い設備を用いることができ、かつ工程数の少ない複合タングステン酸化物粒子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る複合タングステン酸化物粒子の製造方法に好適に用いることができる複合材料製造装置の模式図である。
【
図2】
図2は、実施例1における反応部の配管内の温度プロファイルである。
【
図3】
図3は、混合原料粉末、および実施例、比較例で得られた複合タングステン酸化物粒子のXRD回折図形である。
【
図4】
図4は、実施例2で得られた複合タングステン酸化物粒子のXRD回折図形である。
【
図5】
図5は、実施例2で得られた複合タングステン酸化物粒子のTEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係る複合タングステン酸化物粒子の製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0020】
以下、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法の一構成例について説明する。
【0021】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法は、一般式MxWyOzで表わされる複合タングステン酸化物粒子の製造方法に関し、以下のエアロゾル形成工程と、熱処理工程とを有することができる。
【0022】
なお、上記一般式中のM元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素とすることができる。また、Wはタングステン、Oは酸素を表し、x、y、zはそれぞれ、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0を満たすことが好ましい。
【0023】
エアロゾル形成工程は、被処理物である、タングステン源となるW源原料粉末と、M元素源となるM元素源原料粉末との混合原料粉末を含むエアロゾルを形成できる。
【0024】
熱処理工程は、エアロゾル形成工程で形成したエアロゾルをキャリアガスで搬送しながら、500℃以上1150℃以下で熱処理できる。
【0025】
熱処理工程で用いる上記キャリアガスとしては、不活性ガスと、0.5体積%以上5体積%以下のH2を含む混合ガスを用いることができる。
(1)複合タングステン酸化物粒子について
ここでまず、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法で製造する複合タングステン酸化物粒子について説明する。
(組成について)
複合タングステン酸化物粒子に含まれる複合タングステン酸化物は、上述のように一般式MxWyOzで表記される。式中のM元素、W、O、およびx、y、zについては既述のため、ここでは説明を省略する。
【0026】
複合タングステン酸化物は、例えば正方晶、立方晶、および六方晶のいずれかの、タングステンブロンズ型の結晶構造をとることができる。本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法で得られる複合タングステン酸化物粒子に含まれる複合タングステン酸化物の結晶構造は特に限定されず、正方晶、立方晶、六方晶から選択された1種類以上の結晶構造を有することができる。
【0027】
ただし、複合タングステン酸化物が六方晶の結晶構造を有する場合、複合タングステン酸化物粒子の可視光線領域の光の透過率、および近赤外線領域の光の吸収が特に向上する。このため、複合タングステン酸化物粒子は、六方晶の結晶構造の複合タングステン酸化物を含むことが好ましい。
【0028】
そして、M元素にCs、Rb、K、Tl、Ba、Inから選択された1種類以上の元素を用いると六方晶を形成し易くなる。このため、M元素はCs、Rb、K、Tl、Ba、Inから選択された1種類以上を含むことが好ましい。特に、M元素はCsを含むことがより好ましく、M元素がCsであることがさらに好ましい。
【0029】
ここで、複合タングステン酸化物が六方晶の結晶構造を有する場合のM元素の配置の仕方を説明する。
【0030】
Wと、6つのOと、を単位として形成される8面体、すなわち頂点にO原子を配し、中央部にW原子を配した8面体が、6個集合することでO原子より構成される六角形の空隙(トンネル)が形成される。そして、当該空隙中に、M元素が配置されて1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有するとき、M元素の添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、さらに好ましくは0.33である。z/y=3の時、x/yの値が0.33となることで、M元素が六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0031】
同様に、z/y=3の時、立方晶、正方晶のそれぞれの複合タングステン酸化物にも構造に由来したM元素の添加量の上限があり、1モルのタングステンに対するM元素の最大添加量は、立方晶の場合は1モルであり、正方晶の場合は0.5モル程度である。なお、正方晶の場合の1モルのタングステンに対するM元素の最大添加量は、M元素の種類により変化するが、工業的に製造が容易なのは、上述のように0.5モル程度である。但し、これらの構造は、単純に規定することが困難であり、当該範囲は特に基本的な範囲を示した例であることから、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0032】
また、M元素は極微量でも添加することで、複合タングステン酸化物内に自由電子が生成され、目的とする赤外線吸収効果を得ることができる。このため、x/yは、0.001≦x/y≦1を満たすことが好ましい。
【0033】
また、複合タングステン酸化物は、三酸化タングステン(WO3)にM元素を添加した組成を有している。そして、三酸化タングステンでは有効な自由電子を含まないため、1モルのタングステンに対する酸素の割合を3未満としないと赤外線吸収効果を発揮することはできない。しかしながら、複合タングステン酸化物では、M元素を添加することで自由電子を生じ、赤外線吸収効果を得ることができる。このため、1モルのタングステンに対する酸素の割合は3以下とすることができる。ただし、WO2の結晶相は可視光線領域の光について吸収や散乱を生じさせ、近赤外線領域の光の吸収を低下させる恐れがある。このため、WO2の生成を抑制する観点から、1モルのタングステンに対する酸素の割合は2より大きくすることが好ましい。
【0034】
従って、上述のように2.2≦z/y≦3.0を満たすことが好ましい。
(粒子径について)
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により製造する複合タングステン酸化物粒子の粒子径は特に限定されず、使用目的等に応じて選定することができる。
【0035】
例えば透明性を保持することが要求される用途に使用する場合は、800nm以下の粒子径を有していることが好ましい。これは、粒子径が800nm以下の粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を高く保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に可視光線領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。
【0036】
係る粒子による散乱の低減を重視するとき、粒子径は200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0037】
これは、粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長400nm~780nmの可視光線領域の光の散乱が低減される結果、赤外線遮蔽膜が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できるからである。そして、粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に比例して低減するため、粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。さらに粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、粒子径が小さい方が好ましい。
【0038】
このため、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により製造する複合タングステン酸化物粒子の粒子径は、用いる用途に応じて選択することができる。例えば上述のように可視光線領域の視認性を高く保持することが求められる場合には、粒子径は800nm以下とすることが好ましく、200nm以下とすることがより好ましく、100nm以下とすることがさらに好ましい。本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により製造する複合タングステン酸化物粒子の粒子径の下限値は特に限定されないが、例えば1nm以上とすることができる。
【0039】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により得られる複合タングステン酸化物粒子の粒子径は、該粒子を例えばSEMやTEMで観察し、該粒子に外接する最小の外接円を描いた場合の直径とすることができる。
【0040】
なお、例えば後述するエアロゾル形成工程において形成するエアロゾルのサイズや熱処理工程における熱処理温度等を調整することで、得られる複合タングステン酸化物粒子の粒子径を選択することができる。
【0041】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により得られた複合タングステン酸化物粒子を含有する赤外線遮蔽材料は近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。
(2)複合タングステン酸化物粒子の製造方法について
次に、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法について具体的に説明する。
【0042】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法は混合原料粉末をエアロゾル化し、還元雰囲気のキャリアガスで搬送しながら加熱することで粉末が昇華、凝縮、析出反応を経て複合タングステン酸化物粒子を得る粉末供給型熱分解法である。
【0043】
そこで、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法は、タングステン源となるW源原料粉末とM元素源となるM元素源原料粉末とを混合した混合原料粉末をエアロゾル化するエアロゾル形成工程を有することができる。そして、前記エアロゾルをキャリアガスで供給し500℃以上1150℃以下で熱処理する熱処理工程を有することができる。
【0044】
以下、各工程について説明する。
(エアロゾル形成工程)
エアロゾル形成工程では、被処理物である、タングステン源となるW源原料粉末とM元素源となるM元素源原料粉末とを混合した混合原料粉末からエアロゾルを形成する。なお、タングステン源となる、M元素源となるとは、それぞれタングステンを供給できる、M元素を供給できるということを意味している。
【0045】
エアロゾル形成工程は混合原料粉末の分散状態を形成し、気流中に供給することができる装置であればよく、具体的な手段は特に限定されない。例えば本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法で用いることができる複合材料製造装置に備えられるエアロゾル形成部は、回転するブラシや撹拌翼等の撹拌部と、撹拌部に混合粉末原料を送りだすピストンやスクリューフィーダ等を含む粉末供給部とで構成できる。粉末供給部から供給された混合原料粉末は、撹拌部で粉末を構成する粒子に分散され、各粒子をキャリアガスに送り出すことで混合原料粉末からエアロゾルを生成できる。撹拌部は、混合原料粉末を粒子に分散できるように、ブラシや、撹拌翼の回転速度を選択でき、高速で回転させることが好ましい。
【0046】
特に粒子同士の凝集の少ないエアロゾルを安定して形成できることから、上記撹拌部には回転するブラシを好適に用いることができ、粉末供給部にはリザーバに装填された混合原料粉末をピストンにより撹拌部に供給する構成を好適に用いることができる。
【0047】
このようなエアロゾル形成部は、リザーバに装填された粉末の輸送速度、例えばピストンの移動速度によりエアロゾル中における粉末濃度が変化する。
【0048】
タングステン源としては特に限定されず、タングステンの塩等を用いることができ、例えばH2WO4や、パラタングステン酸アンモニウムを好ましく用いることができる。
【0049】
H2WO4は、タングステン以外の元素が、H(水素)、O(酸素)であり、タングステン以外の元素は後述する熱処理工程において系外に排出される。このため、タングステン源となるW源原料粉末としてH2WO4を用いることで、不純物の混入を抑制した複合タングステン酸化物粒子を得ることができるため好ましく用いることができる。
【0050】
M元素源原料粉末としては、例えばM元素を含む塩の粉末を用いることができる。M元素を含む塩の種類は特に限定されないが、例えばM元素の炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、水酸化物等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0051】
例えば、M元素がセシウムの場合についても、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、水酸化物等から選択された1種類以上を用いることができるが、炭酸塩を特に好適に用いることができる。
【0052】
なお、得られる複合タングステン酸化物中の1モルのタングステンに対する、M元素の割合、すなわちドープ量は、原料混合粉末を形成する際のW源原料粉末と、M元素源原料粉末との混合割合により決まる。このため、上記ドープ量は、例えばW源原料粉末の量と、M元素源原料粉末の量との調整により制御できる。
【0053】
混合原料粉末は、W源原料粉末とM元素源原料粉末とを、物理的に混合した混合原料粉末でもよく、W源原料粉末とM元素源原料粉末とを水などの溶媒に溶解することで溶液化し、混合した後、溶液の溶媒を乾燥などで除去して得られる混合原料粉末でも良い。得られる複合タングステン酸化物粒子の組成のバラつきを特に抑制することが求められる場合等には、W源原料粉末とM元素源原料粉末とを溶液化して混合した後、溶液の溶媒を乾燥などで除去して得られる混合原料粉末が好ましい場合がある。
【0054】
エアロゾル形成工程で分散させる混合原料粉末の粒子のサイズは特に限定されないが、粒子の直径は100μm以下であることが好ましく、10μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。粒子の直径を100μm以下とすることで、粒子の内部までより確実に昇華させられることが可能となる。混合原料粉末の粒子の直径は、既述の複合タングステン酸化物粒子の粒子径と同様に測定できる。
【0055】
エアロゾル形成工程で形成したエアロゾルは、例えばキャリアガスにより搬送し、熱処理工程に供することができる。
(熱処理工程)
熱処理工程では被処理物を500℃以上1150℃以下で熱処理する。
【0056】
被処理物であるW源原料粉末とM元素源原料粉末とを含む原料混合粉末は、500℃以上1150℃以下に加熱される過程で蒸発し、全て原子レベルに分解されると考えられる。その後、クラスターを形成し、複合タングステン酸化物としての凝縮過程を経て複合タングステン酸化物粒子が形成されると考えられる。上記熱処理温度は、より好ましくは、900℃以上1150℃以下で、さらに好ましくは1000℃以上1150℃以下である。
【0057】
そして、W源原料粉末や、M元素源原料粉末の分解の過程や、さらに高温の温度でタングステンとM元素とが反応して、複合タングステン酸化物が形成されていると考察される。このため、W源原料粉末や、M元素源原料粉末の分解を十分に進行させ、複合タングステン酸化物への不純物の混入を抑制するため、熱処理工程ではW源原料粉末や、M元素源原料粉末の分解温度以上で熱処理を行うことが好ましい。そして、W源原料粉末や、M元素源原料粉末の分解は通常500℃以下で生じると考えられる。このため、熱処理工程では、被処理物であるエアロゾルを500℃以上で熱処理できる。
【0058】
本発明の発明者らの検討によれば、熱処理温度は、得られる複合タングステン酸化物粒子の粒子径にも影響する。そして、本発明の発明者らのさらなる検討によれば、熱処理温度が上がるにつれて、得られる複合タングステン酸化物粒子の粒子径が小さくなる傾向がみられる。
【0059】
これは、熱処理温度が高くなると、生成した複合タングステン酸化物粒子の昇華に熱エネルギーが使われ、昇華により粒子が弾けて微細な粒子径の粒子が得られるためと推認される。
【0060】
このため、特に微細なナノ粒子である複合タングステン酸化物粒子を得るためには、熱処理温度は900℃以上であることがより好ましく、1000℃以上とすることがさらに好ましい。すなわち、特に微細なナノ粒子を得ることを目的とする場合、熱処理工程では被処理物を900℃以上で熱処理することがより好ましく、1000℃以上で熱処理することがさらに好ましい。
【0061】
熱処理工程において、温度の上限は、1150℃以下である。1150℃を超えた温度で熱処理すると金属のWやCs6W11O36などの異相が発生することがあるためである。
【0062】
エアロゾルは、キャリアガスにより電気炉等に搬送され、上述の熱処理工程を実施できる。このため、例えばキャリアガスの流量等を制御することにより、熱処理工程の時間を調整することができる。
【0063】
熱処理工程に要する時間は特に限定されるものではなく、任意に選定することができる。
【0064】
既述の様に、被処理物であるW源原料粉末とM元素源原料粉末とを含む原料混合粉末は、熱処理温度に加熱される過程で蒸発し、全て原子レベルに分解される。その後、クラスターを形成し、複合タングステン酸化物としての凝縮過程を経て複合タングステン酸化物が形成される。
【0065】
熱処理工程で用いるキャリアガスは、不活性ガスと0.5体積%以上5体積%以下のH2を含む混合ガスである。そして、キャリアガスは、1体積%以上5体積%以下のH2を含むことが好ましく、2体積%以上4体積%以下のH2を含むことがより好ましい。また、キャリアガスの不活性ガスは特に限定されず、希ガス(貴ガス)や、窒素ガスから選択された1種類以上を用いることができる。上記不活性ガスは特にArが望ましい。このため、キャリアガスはArとH2の混合ガスであることが好ましい。
【0066】
キャリアガスが0.5体積%以上5体積%以下のH2を含むことで、異相の少ない複合タングステン酸化物粒子を得やすくなる。H2の含有率が5体積%を超えると、還元が進み金属Wが析出する場合がある。既述のように六方晶の複合タングステン酸化物粒子は、可視光線領域の光の透過率や、近赤外線領域の光の吸収を高める観点から好適に用いることができる。そして、特にキャリアガス中のH2の含有割合を0.5体積%以上とすることで六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物粒子が得やすくなるため、既述のようにキャリアガス中のH2の含有割合を0.5体積%以上とすることが好ましい。
【0067】
キャリアガスの流量は、後述する複合材料製造装置のエアロゾル形成部において、エアロゾルを形成し、維持できる流量であれば良く、複合タングステン酸化物粒子の製造に用いる複合材料製造装置の大きさ等により適宜調整できる。
【0068】
例えばキャリアガスの流量は8L/min以上20L/min以下であることが好ましい。キャリアガスの流量を8L/min以上とすることで、混合原料粉末をより確実にエアロゾルとし、その形態を維持できるからである。また、熱処理工程における熱処理時間を十分に確保する観点から、キャリアガスの流量は20L/min以下とすることが好ましい。
(3)複合材料製造装置
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法に好適に用いることができる複合材料製造装置の構成例について以下に説明する。
【0069】
図1は、複合材料製造装置10を模式的に示した図である。
【0070】
複合材料製造装置10は、エアロゾル形成部11と、輸送部21と、反応部31と、回収部41とを有することができる。
(エアロゾル形成部)
エアロゾル形成部11は、エアロゾル発生管12と、撹拌部14と、混合原料粉末を撹拌部14に供給する粉末供給部16とを備えることができる。
【0071】
エアロゾル発生管12は管状で撹拌部14と繋がる開口部13を備える。撹拌部14は、回転するブラシ15を備える。開口部13でブラシ15は、エアロゾル発生管12に露出するように配されている。また、ブラシ15の代わりに撹拌翼を用いても良い。
【0072】
粉末供給部16は、混合原料粉末を格納する原料リザーバ17と、撹拌部14に混合原料粉末を送り出すピストン18とを有することができる。ピストン18の移動速度により混合原料粉末の供給速度を制御できる。ピストン18の代わりに公知のスクリューフィーダ等を用いることもできる。
【0073】
さらに、エアロゾル発生管12は、外部から供給されるキャリアガスの流量を制御するレギュレータ19を接続し、複合材料製造装置10にキャリアガスを供給する機能も備えることもできる。
(輸送部)
輸送部21は、エアロゾル形成部11と、反応部31との間に設けることができる。具体的には、エアロゾル発生管12について、キャリアガスの下流側で輸送部21に接続し、輸送部21は配管32に接続できる。輸送部21により、エアロゾル発生管12から配管32へエアロゾルを供給できる。
(反応部)
反応部31では、既述の熱処理工程を実施することができる。このため、反応部31は、例えば
図1に示したように耐熱性の配管32と、該配管32を加熱するヒーター33とを有することができる。
【0074】
配管32としては、例えばセラミック製の配管を用いることができる。不純物の混入を避ける観点から純度の高いAl2O3製の炉心管を用いるのが好ましい。炉心管のコストを下げる場合はムライトなどを用いることもできる。
【0075】
反応部31の長さは特に限定されるものではなく、熱処理工程の所定の温度まで加熱することができ、熱処理工程の時間を十分に確保できるように選択することが好ましい。
【0076】
反応部31の配管32の長さL32は、所定の温度まで加熱し、熱処理工程の時間を十分に確保する観点から1m以上であることが好ましい。配管32の長さL32の上限は特に限定されないが、過度に長くすると多くのキャリアガスを要することになり、また装置のサイズも大きくなることから、5m以下であることが好ましい。
【0077】
また、配管32の直径D32についても特に限定されないが、生産性の観点から1cm以上であることが好ましい。配管32の直径D32の上限値は特に限定さないが、その中心部と、壁面部との温度差が過度に大きくならないように選択することが好ましく、配管32の直径D32は例えば20cm以下であることが好ましい。
【0078】
なお、配管32の直径D32とは、配管32の内径を意味する。
【0079】
反応部31の配管32は、その長手方向に沿って温度勾配を有するのが通常である。そこで、例えば、反応部入口32A側の温度が低く、反応部出口32Bに向かって温度が上昇するように構成できる。
【0080】
このため、反応部出口32B近傍に温度が500℃以上となる温度領域を形成できるように、各種条件を設定することが好ましい。
【0081】
また、特に既述の熱処理工程において被処理物を1000℃以上の温度で熱処理する場合には、反応部出口32B近傍に温度が1000℃以上となる温度領域を形成できるように、各種条件を設定することが好ましい。また、熱処理工程において、例えば1000℃以上の温度での熱処理時間を1秒以上とする場合、反応部31内の1000℃以上となる温度領域を、被処理物が通過する時間が1秒以上となるように、各種条件を設定することが好ましい。具体的には例えば、配管32内の温度分布を予め測定しておき、キャリアガスの供給速度等を調整することが好ましい。
【0082】
ただし上記形態に限定されず、配管32の長手方向に沿った温度勾配を形成せず、配管32の長手方向の温度をほぼ均一にし、所定の温度以上の温度領域を形成できるように各種条件を設定してもよい。
【0083】
回収部41では、反応部31で生成した複合タングステン酸化物粒子を回収することができる。回収部41の構成は特に限定されるものではなく、製造する複合タングステン酸化物粒子の粒子径等に応じて選択することができる。回収部41としては、例えば各種フィルター42を用いることができる。もしくは、静電型捕集器を用いることができる。
回収部41の上流には圧力の調整弁51を、回収部41の下流にはポンプ52をそれぞれ設けることができる。
【0084】
複合材料製造装置10の内部は密閉され、レギュレータ19からエアロゾル形成部11にガスが流入し、回収部41から流出するようにガス流が構成されていることが好ましい。
【0085】
以上に説明した本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法によれば、エアロゾル形成部や、ヒーター等の導入コストの低い設備を用いることができ、工程数も少なくすることができ、これにより容易に複合タングステン酸化物粒子を製造できる。
【実施例0086】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)評価方法について
(1-1)粉末X線回折
以下の実施例、比較例で得られた複合タングステン酸化物粒子について、粉末X線回折装置(Bruker社製 型式:D2 PHASER)を用い、粉末X線回折パターン(XRDパターン)の測定を行った。なお、線源としてはCuKα線を用い、管電圧40kV、管電流30mAとして粉末X線回折パターンの測定を行った。
(1-2)TEM像観察
得られた複合タングステン酸化物粒子について、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope 日本電子株式会社製 型式:JEM-2011)を用いて観察を行った。観察は印加電圧を200kVとして行った。
(2)実施例、比較例について
[実施例1]
図1に示した複合材料製造装置10を用いて、複合タングステン酸化物粒子として、Cs
0.32WO
3粒子の製造を行い、評価を行った。以下、具体的な条件について説明する。
【0087】
図1に示した複合材料製造装置10は、エアロゾル形成部11と、輸送部21と、反応部31と、回収部41とを有しており、エアロゾル形成部11と、輸送部21と、反応部31と、回収部41とは配管により接続されている。
【0088】
エアロゾル形成部11は、エアロゾル発生管12と撹拌部14と混合原料粉末を撹拌部14に供給する粉末供給部16を備える。エアロゾル発生管12は管状で撹拌部14と繋がる開口部13を備える。撹拌部14は、回転するブラシ15を備える。開口部13でブラシ15は、エアロゾル発生管12に露出するように配されている。
【0089】
粉末供給部16は、混合原料粉末を格納する原料リザーバ17、撹拌部に混合原料粉末を送り出すピストン18で構成される。
【0090】
さらに、エアロゾル発生管12は、図示しないキャリアガスタンクから供給されるキャリアガスの流量を制御するレギュレータ19が接続されていて、複合材料製造装置10にキャリアガスを供給する機能も備える。
【0091】
まず、W源原料粉末として、H2WO4で表される酸化タングステンの粉末を準備した。
【0092】
また、M元素源原料粉末として、炭酸セシウム(シグマアルドリッチ社製)を準備した。炭酸セシウムは水に溶解し、水溶液として用いた。
【0093】
そして、Cs2CO3水溶液とH2WO4粉末とを物質量の比でCs/W=0.33となるように混合した後、100℃で12時間乾燥し、混合原料粉末を得た。混合原料粉末をSEMで確認したところ、1μm以上2μm以下の粒子径の粉末であった。
(エアロゾル形成工程)
エアロゾル形成部11において、1000回転/分以上で高速に回転するブラシ15に対して、粉末供給部16から2g/時間の供給速度で混合原料粉末を押し出した。ブラシ15によりキャリアガス中に分散された混合原料粉末はエアロゾルとなる。エアロゾルは、輸送部21を介して、反応部31に搬送される。すなわち、エアロゾル形成工程で形成されたエアロゾルは熱処理工程へと供給されることになる。
【0094】
キャリアガスの流量は混合原料粉末を十分に分散させるため9.6L/minとした。
【0095】
キャリアガスとしては、アルゴンガスと水素ガスとの混合ガスを用いた。なお、製造する複合タングステン酸化物粒子に酸素欠損を導入するために、3体積%の水素ガスを含有する、3%H2/Arガスを用いた。
【0096】
反応部31は、セラミック製の配管32を備えており、該配管32としては、長さL32が1m、直径D32が13mmの円筒形状の管を用いた。なお、直径D32は、配管32の内径を意味する。
【0097】
反応部31は、ヒーター33の温度を1000℃に設定した。
図2に反応部31内の温度プロファイルを示す。横軸の位置は反応部出口32Bからの距離を示し、配管32の中心軸に沿って測定した温度プロファイルとなる。キャリアガスの導入により、炉体で加熱された高温度領域が吐出方向側、すなわち反応部出口側にシフトした。この高温度領域から、反応部出口側に位置する温度の低い低温度領域に向かう温度変化領域で複合タングステン酸化物粒子の析出、凝縮反応が進行したと推察される。
【0098】
回収部41には、フィルター42としてバグフィルターを配置し、反応部31で熱処理工程を終え、形成された複合タングステン酸化物粒子を回収できるように構成した。
【0099】
以上の条件により、複合タングステン酸化物粒子の製造を行った。
【0100】
実施例1では、反応部31における炉体温度を1000℃に設定した。すなわち、熱処理工程において、供給されたエアロゾルは、1000℃まで昇温され、1000℃で熱処理を行った。なお、1000℃以上での熱処理時間は0.8秒間であった。
【0101】
回収部41で回収された複合タングステン酸化物粒子について評価を行った。
[実施例2]
反応部における炉体温度を1100℃に設定した以外は実施例1と同様にして複合タングステン酸化物粒子の製造を行った。
【0102】
すなわち、実施例2において、熱処理工程に供給されたエアロゾルは、1100℃まで昇温され、1100℃で熱処理を行った。なお、1100℃以上での熱処理時間は0.8秒間であった。
[比較例1、比較例2]
反応部における炉体温度を1200℃(比較例1)、1300℃(比較例2)に設定した以外は実施例1と同様にして複合タングステン酸化物粒子の製造を行った。
【0103】
すなわち、比較例1、比較例2において、熱処理工程に供給されたエアロゾルは、1200℃(比較例1)、1300℃(比較例2)まで昇温され、1200℃(比較例1)、1300℃(比較例2)で熱処理を行った。
[まとめ]
以上の実施例1、実施例2、比較例1、比較例2で得られた複合タングステン酸化物粒子のXRDパターンを
図3に示す。
図3に示したように、XRDパターンから、得られた複合タングステン酸化物粒子は、実施例1、実施例2では、ほぼ単相のCs
0.32WO
3結晶であることを確認した。一方、比較例1、比較例2では、炉体温度を1200℃、1300℃と高温化したことから還元の影響が強くなり、W相の割合が増加した。
【0104】
図4に、実施例2のXRDパターンを分けて示す。
図4中、併せて粉末X線回折パターンのデータベースのデータも示している。実施例2の場合、
図4に示されるようにCs
0.32WO
3相のほかに若干のCs
8.5W
15O
48相、Cs
6W
11O
36相、Cs
4W
11O
35相が確認された。
【0105】
図5(A)、
図5(B)に、実施例2で得られた複合タングステン酸化物粒子のTEM像を示す。
【0106】
図5(A)、
図5(B)に示すように、TEM像においても、600nm以下のサブミクロンサイズの粉末と、数十nmサイズのナノ粒子が得られていることを確認できた。
【0107】
以上の結果から、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法によれば、エアロゾル形成部や、ヒーター等の導入コストの低い設備を用いて複合タングステン酸化物粒子を製造でき、工程数も抑制できることを確認できた。