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特開2022-136954半導体ナノ粒子の製造方法及び発光デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022136954
(43)【公開日】2022-09-21
(54)【発明の名称】半導体ナノ粒子の製造方法及び発光デバイス
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20220913BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20220913BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20220913BHJP
   C09K 11/88 20060101ALI20220913BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20220913BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220913BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20220913BHJP
【FI】
C09K11/08 A ZNM
C09K11/08 G
C09K11/64
C09K11/62
C09K11/88
B82Y20/00
B82Y40/00
H01L33/50
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021136452
(22)【出願日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2021036602
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【弁理士】
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】鳥本 司
(72)【発明者】
【氏名】亀山 達矢
(72)【発明者】
【氏名】宮前 千恵
(72)【発明者】
【氏名】桑畑 進
(72)【発明者】
【氏名】上松 太郎
(72)【発明者】
【氏名】久保 朋也
【テーマコード(参考)】
4H001
5F142
【Fターム(参考)】
4H001CA01
4H001CA02
4H001CC07
4H001CC09
4H001CF01
4H001XA13
4H001XA16
4H001XA29
4H001XA31
4H001XA34
4H001XA47
4H001XA49
4H001XA52
4H001XA79
4H001XA81
4H001XB11
5F142DA02
5F142DA22
5F142DA23
5F142DA46
5F142DA48
5F142DA64
5F142DA72
5F142DA73
5F142GA12
5F142GA14
5F142HA01
(57)【要約】
【課題】バンド端発光が可能で、発光効率に優れる半導体ナノ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】半導体ナノ粒子の製造方法は、第1半導体ナノ粒子を準備することと、第1半導体ナノ粒子、Ga-S結合を有する第1化合物、Gaを含みSを含まない第2化合物及び有機溶剤を含む混合物を熱処理して第2半導体ナノ粒子を得ることと、を含む。第1半導体ナノ粒子は、元素M、元素M及び元素Zを含む半導体を含み、元素Mが、Ag、Cu、Au及びアルカリ金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であって、少なくともAgを含み、元素Mが、Al、Ga、In及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であって、In及びGaの少なくとも一方を含み、元素Zが、S、Se及びTeからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素M、元素M及び元素Zを含む半導体を含み、前記元素Mが、Ag、Cu、Au及びアルカリ金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であって、少なくともAgを含み、前記元素Mが、Al、Ga、In及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であって、In及びGaの少なくとも一方を含み、前記元素Zが、S、Se及びTeからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む第1半導体ナノ粒子を準備することと、
前記第1半導体ナノ粒子、Ga-S結合を有する第1化合物、Gaを含みSを含まない第2化合物及び有機溶剤を含む混合物を熱処理して第2半導体ナノ粒子を得ることと、を含む半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第1半導体ナノ粒子は、組成中の前記元素Mの総含有率が10モル%以上30モル%以下、前記元素Mの総含有率が15モル%以上35モル%以下、前記元素Zの総含有率が35モル%以上55モル%以下である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記混合物の熱処理は、200℃以上の温度で行われる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記混合物は、前記第1化合物に対する前記第2化合物の含有モル比が1以上10以下である請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理において、前記混合物にハロゲン化合物を添加することを含む請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記混合物は、ハロゲン化合物をさらに含む請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の製造方法で得られる第2半導体ナノ粒子を含む光変換部材と、半導体発光素子とを備える発光デバイス。
【請求項8】
前記半導体発光素子は、LEDチップである請求項7に記載の発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体ナノ粒子の製造方法及び発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体粒子はその粒径が例えば10nm以下になると、量子サイズ効果を発現することが知られており、そのようなナノ粒子は量子ドット(半導体量子ドットとも呼ばれる)と呼ばれる。量子サイズ効果とは、バルク粒子では連続とみなされる価電子帯と伝導帯のそれぞれのバンドが、粒径をナノサイズとしたときに離散的となり、粒径に応じてバンドギャップエネルギーが変化する現象を指す。
【0003】
量子ドットは、光を吸収して、そのバンドギャップエネルギーに対応する光に波長変換可能であるため、量子ドットの発光を利用した白色発光デバイスが提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。またバンド端発光が可能で低毒性の組成とし得る半導体ナノ粒子及びその製造方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-212862号公報
【特許文献2】特開2010-177656号公報
【特許文献3】特開2018-044142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バンド端発光を示す量子ドットとして、発光効率により優れる半導体ナノ粒子が求められている。本開示の一態様は、バンド端発光が可能で、発光効率に優れる半導体ナノ粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様は、第1半導体ナノ粒子(以下、「コア」ともいう)を準備することと、第1半導体ナノ粒子、Ga-S結合を有する第1化合物、Gaを含みSを含まない第2化合物及び有機溶剤を含む混合物を熱処理して第2半導体ナノ粒子(以下、「コアシェル型半導体ナノ粒子」ともいう)を得ることと、を含む半導体ナノ粒子の製造方法である。第1半導体ナノ粒子は、元素M、元素M及び元素Zを含む半導体を含み、元素Mが、Ag、Cu、Au及びアルカリ金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であって、少なくともAgを含み、元素Mが、Al、Ga、In及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であって、In及びGaの少なくとも一方を含み、元素Zが、S、Se及びTeからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む。
【0007】
第2態様は、半導体ナノ粒子の製造方法で得られる第2半導体ナノ粒子を含む光変換部材と、半導体発光素子とを備える発光デバイスである。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、バンド端発光が可能で、発光効率に優れる半導体ナノ粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1半導体ナノ粒子のX線回折パターンを示す図である。
図2】実施例1、比較例1および比較例2に係る半導体ナノ粒子の吸収スペクトルを示す図である。
図3】実施例1、比較例1および比較例2に係る半導体ナノ粒子の発光スペクトルを示す図である。
図4】実施例2から4に係る半導体ナノ粒子の吸収スペクトルを示す図である。
図5】実施例2から4に係る半導体ナノ粒子の発光スペクトルを示す図である。
図6】実施例5から7に係る半導体ナノ粒子の吸収スペクトルを示す図である。
図7】実施例5から7に係る半導体ナノ粒子の発光スペクトルを示す図である。
図8】実施例8に係る半導体ナノ粒子の吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図である。
図9】実施例8に係る半導体ナノ粒子の吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。さらに本明細書に記載される数値範囲の上限及び下限は、当該数値を任意に選択して組み合わせることが可能である。本明細書において、光の波長範囲と単色光の色名との関係等は、JIS Z8110に従う。発光スペクトルにおける半値幅は、最大発光強度に対して発光強度が50%となる発光スペクトルの波長幅(半値全幅;FWHM)を意味する。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、半導体ナノ粒子の製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示す半導体ナノ粒子の製造方法に限定されない。
【0011】
半導体ナノ粒子の製造方法
半導体ナノ粒子の製造方法は、第1半導体ナノ粒子を準備する第1工程と、第1半導体ナノ粒子、Ga-S結合を有する第1化合物、Gaを含みSを含まない第2化合物及び有機溶剤を含む混合物を熱処理して第2半導体ナノ粒子を得る第2工程と、を含む。第1半導体ナノ粒子(コア)は、元素M、元素M及び元素Zを含む第一半導体を含み、元素Mが、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)及びアルカリ金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であって、少なくともAgを含み、元素Mが、アルミニウム(Al)、Ga、インジウム(In)及びタリウム(Tl)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であって、In及びGaの少なくとも一方を含み、元素Zが、S、セレン(Se)及びテルル(Te)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む組成を有する。
【0012】
この製造方法では、例えば、準備される第1半導体ナノ粒子、ガリウム(Ga)-硫黄(S)結合を有する第1化合物、Gaを含みSを含まない第2化合物及び有機溶剤を含む混合物を熱処理することにより、第1半導体ナノ粒子の表面上に元素Mを実質的に含まず、ガリウムと硫黄を含む付着物(以下、「シェル」ともいう)が形成された第2半導体ナノ粒子、もしくは第1半導体ナノ粒子内部の表面近傍に元素Mを実質的に含まず、ガリウムと硫黄を含む半導体層(以下、「シェル」ともいう)が形成された第2半導体ナノ粒子として半導体ナノ粒子を得ることができる。第1半導体ナノ粒子の表面に形成される付着物は、第1半導体ナノ粒子を被覆していてよい。また、得られる半導体ナノ粒子は、例えばコアシェル型半導体ナノ粒子であってよい。ここで「実質的に含まず」とは、元素M以外の元素に対する元素Mの割合が、例えば、10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。
【0013】
半導体ナノ粒子の製造方法においては、例えば、第1半導体ナノ粒子の表面に付着物を形成する際に、付着物形成材料としてGa-S結合を有する第1化合物とGaを含みSを含まない第2化合物とを用いることで、発光効率に優れる半導体ナノ粒子を生成することができる。これは例えば、Ga-S結合を有する第1化合物によって、付着物となる半導体を第1半導体ナノ粒子の表面近傍で効率的に生成することができ、また、第2化合物を併用することで、第1化合物だけでは不足するGaを効率的に供給することができるためと考えることができる。
【0014】
第1工程
第1工程では、元素M、元素M及び元素Zを含む半導体を含む第1半導体ナノ粒子を準備する。第1半導体ナノ粒子は、市販の半導体ナノ粒子から適宜選択して準備してもよく、所望の組成を有する半導体ナノ粒子を製造して準備してもよい。
【0015】
第1半導体ナノ粒子を構成する元素Mは、Agを含み、Cu、Au及びアルカリ金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含んでいてもよい。元素Mにおけるアルカリ金属には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)等が含まれる。アルカリ金属は、Agと同じく1価の陽イオンとなり得るため、半導体ナノ粒子の組成におけるAgの一部を置換することができる。特にLiはAgとイオン半径が同程度であり、好ましく用いられる。半導体ナノ粒子の組成において、例えば、Agの一部がアルカリ金属に置換されることで、例えば、バンドギャップが広がって発光ピーク波長が短波長側にシフトする。元素Mは、In及びGaの少なくとも一方を含み、Al及びTlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含んでいてもよい。元素Zは、S、Se及びTeからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含み、少なくともSを含んでいてよい。
【0016】
第1半導体ナノ粒子は、その組成中の元素Mの総含有率が、例えば10モル%以上30モル%以下であってよく、好ましくは、15モル%以上25モル%以下である。第1半導体ナノ粒子の組成中の元素Mの総含有率は、例えば、15モル%以上35モル%以下であり、好ましくは、20モル%以上30モル%以下である。第1半導体ナノ粒子の組成中の元素Zの総含有率は、例えば、35モル%以上55モル%以下であり、好ましくは、40モル%以上55モル%以下である。
【0017】
第1半導体ナノ粒子が元素MとしてInとGaとを含む場合、組成におけるInとGaの原子数の和に対するInの原子数の比(In/(In+Ga))は、例えば、0.01以上1.0未満であり、好ましくは0.1以上0.99以下である。また、第1半導体ナノ粒子の組成における元素M(例えばInとGa)の総原子数に対する元素M(例えばAg)の総原子数の比(M/M)は、例えば、0.3以上1.2以下であり、好ましくは0.5以上1.1以下である。第1半導体ナノ粒子の組成における元素M(例えばAg)及び元素M(例えばInとGa)の原子数の総和に対する元素Z(例えばS)の総原子数の比(Z/(M+M))は、例えば、0.8以上1.5以下であり、好ましくは0.9以上1.2以下である。
【0018】
第1半導体ナノ粒子の組成は、例えば、エネルギー分散型X線分析法(EDX)、蛍光X線分析法(XRF)、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法等によって同定される。Ag/(In+Ga)、S/(Ag+In+Ga)等の組成比はこれらの方法のいずれかで同定される組成に基づいて算出される。
【0019】
第1半導体ナノ粒子の組成において、元素MはAgに加えてCu及びAuの少なくとも一方の元素を含んでいてもよいが、実質的にAgから構成されることが好ましい。ここで「実質的に」とは、Agに対するAg以外の元素の割合が、例えば、10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。
【0020】
第1半導体ナノ粒子の組成が、元素Mとしてアルカリ金属を含む場合、第1半導体ナノ粒子の組成中のアルカリ金属の含有率は、例えば、30モル%未満であり、好ましくは、1モル%以上25モル%以下である。また、第1半導体ナノ粒子の組成におけるAgの原子数及びアルカリ金属(M)の原子数の合計に対するアルカリ金属(M)の原子数の比(M/(Ag+M))は、例えば、1未満であり、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.4以下、更に好ましくは0.2以下である。またその比は、例えば、0より大きく、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上である。アルカリ金属はLi及びNaの少なくとも一方を含むことが好ましく、実質的にLiであることが好ましい。ここで「実質的に」とは、Liに対するLi以外のアルカリ金属の割合が、例えば、10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。また、アルカリ金属は、実質的にNaであってもよい。ここで「実質的に」とは、Naに対するNa以外のアルカリ金属の割合が、例えば、10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。
【0021】
第1半導体ナノ粒子の組成において、元素MはIn及びGaの少なくとも一方に加えて、Al及びTlの少なくとも一方の元素を含んでいてもよく、実質的にIn及びGaの少なくとも一方から構成されていてもよい。ここで「実質的に」とは、In及びGaに対するIn又はGa以外の元素の割合が、例えば、10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。
【0022】
第1半導体ナノ粒子の組成において、元素ZはSを含んでいてよい。元素ZはSに加えてSe及びTeの少なくとも一方の元素を含んでいてもよく、実質的にSから構成されていてもよい。ここで「実質的に」とは、Sに対するS以外の元素の割合が、例えば、10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。
【0023】
第1半導体ナノ粒子は、実質的にAg、In及びGaの少なくとも一方、並びにSのみから構成されていてもよい。ここで「実質的に」という用語は、不純物の混入等に起因して不可避的にAg、In、Ga及びS以外の元素が含まれることを考慮して使用している。
【0024】
第1半導体ナノ粒子の結晶構造は、正方晶、六方晶及び斜方晶からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいてよい。例えば、Ag、In及びSを含み、かつその結晶構造が正方晶、六方晶、又は斜方晶である半導体ナノ粒子は、一般的には、AgInSの組成式で表されるものとして、文献等において紹介されている。本実施形態に係る第1半導体ナノ粒子は、例えば、第13族元素であるInの一部を同じく第13族元素であるGaで置換したものと考えることができる。第1半導体ナノ粒子の組成は例えば、Ag-In-Ga-S等で表されてもよい。
【0025】
なお、Ag-In-Ga-Sなどの組成式で表される半導体ナノ粒子であって、六方晶の結晶構造を有するものはウルツ鉱型であり、正方晶の結晶構造を有する半導体はカルコパイライト型である。結晶構造は、例えば、X線回折(XRD)分析により得られるXRDパターンを測定することによって同定される。具体的には、半導体ナノ粒子から得られたXRDパターンを、AgInSの組成式で表される半導体ナノ粒子と仮定して既知のXRDパターン、又は結晶構造パラメータからシミュレーションを行って求めたXRDパターンと比較する。既知のパターン及びシミュレーションのパターンの中に、半導体ナノ粒子のパターンと一致するものがあれば、当該半導体ナノ粒子の結晶構造は、その一致した既知又はシミュレーションのパターンの結晶構造であるといえる。
【0026】
第1半導体ナノ粒子の集合体においては、異なる結晶構造の第1半導体ナノ粒子が一部混在していてもよい。その場合、XRDパターンにおいては、複数の結晶構造に由来するピークが観察される。
【0027】
第1半導体ナノ粒子は、例えば、50nm以下の平均粒径を有してよい。第1半導体ナノ粒子の平均粒径は、例えば、20nm以下、10nm以下又は10nm未満であってよい。第1半導体ナノ粒子の平均粒径が50nm以下であると量子サイズ効果が得られ易く、バンド端発光が得られ易い傾向がある。また第1半導体ナノ粒子の平均粒径の下限は例えば、1nmである。
【0028】
第1半導体ナノ粒子の粒径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影されたTEM像から求めることができる。具体的には、ある粒子についてTEM像で観察される粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分であって、当該粒子の内部を通過する線分のうち、最も長い線分の長さをその粒子の粒径とする。
【0029】
ただし、粒子がロッド形状を有するものである場合には、短軸の長さを粒径とみなす。ここで、ロッド形状の粒子とは、TEM像において短軸と短軸に直交する長軸とを有し、短軸の長さに対する長軸の長さの比が1.2より大きいものを指す。ロッド形状の粒子は、TEM像で、例えば、長方形状を含む四角形状、楕円形状、又は多角形状等として観察される。ロッド形状の長軸に直交する面である断面の形状は、例えば、円、楕円、又は多角形であってよい。具体的にはロッド状の形状の粒子について、長軸の長さは、楕円形状の場合には、粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、最も長い線分の長さを指し、長方形状又は多角形状の場合、外周を規定する辺の中で最も長い辺に平行であり、かつ粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、最も長い線分の長さを指す。短軸の長さは、外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、前記長軸の長さを規定する線分に直交し、かつ最も長さの長い線分の長さを指す。
【0030】
第1半導体ナノ粒子の平均粒径は、50,000倍以上150,000倍以下のTEM像で観察される、すべての計測可能な粒子について粒径を測定し、それらの粒径の算術平均とする。ここで、計測可能な粒子は、TEM像において粒子全体が観察できるものである。したがって、TEM像において、その一部が撮像範囲に含まれておらず、切れているような粒子は計測可能なものではない。1つのTEM像に含まれる計測可能な粒子数が100以上である場合には、そのTEM像を用いて平均粒径を求める。一方、1つのTEM像に含まれる計測可能な粒子の数が100未満の場合には、撮像場所を変更して、TEM像をさらに取得し、2以上のTEM像に含まれる100以上の計測可能な粒子について粒径を測定して平均粒径を求める。
【0031】
第1半導体ナノ粒子は、バンド端発光が可能であってよい。第1半導体ナノ粒子は、200nm以上500nm未満の範囲内にある波長の光を照射することにより、500nm以上650nm以下の範囲に発光ピーク波長を有して発光してよい。第1半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおける半値幅は、250meV以下であり、好ましくは200meV以下、より好ましくは150meV以下である。この半値幅の下限値は例えば30meV以上である。半値幅が250meV以下であるとは、発光ピーク波長が600nmの場合には半値幅が73nm以下であり、発光ピーク波長が700nmの場合には半値幅が100nm以下であり、発光ピーク波長が800nmの場合には半値幅が130nm以下であることを意味し、半導体ナノ粒子がバンド端発光することを意味する。
【0032】
第1半導体ナノ粒子は、バンド端発光とともに、他の発光、例えば欠陥発光を与えるものであってよい。欠陥発光は一般に発光寿命が長く、またブロードなスペクトルを有し、バンド端発光よりも長波長側にそのピークを有する。バンド端発光と欠陥発光がともに得られる場合、バンド端発光の強度が欠陥発光の強度よりも大きいことが好ましい。
【0033】
第1半導体ナノ粒子のバンド端発光は、第1半導体ナノ粒子の形状及び平均粒径の少なくとも一方、特に平均粒径を変化させることによって、その発光ピーク波長を変化させることができる。例えば、第1半導体ナノ粒子の平均粒径をより小さくすれば、量子サイズ効果により、バンドギャップエネルギーがより大きくなり、バンド端発光の発光ピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。
【0034】
また第1半導体ナノ粒子のバンド端発光は、第1半導体ナノ粒子の組成を変化させることによって、その発光ピーク波長を変化させることができる。例えば、組成におけるInとGaの原子数の和に対するGaの原子数の比であるGa比(Ga/(In+Ga))を大きくすることでバンド端発光の発光ピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。また、例えば、アルカリ金属としてLi等を選択し、組成におけるAgとアルカリ金属(M)の原子数の和に対するアルカリ金属(M)の原子数の比であるM比(M/(Ag+M))を大きくすることでバンド端発光の発光ピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。また、例えば、組成におけるSの一部をSeで置換し、SとSeの原子数の和に対するSの原子数の比であるS比(S/(S+Se))を大きくすることでバンド端発光の発光ピーク波長を短波長側にシフトさせることができる。
【0035】
第1半導体ナノ粒子は、その吸収スペクトルがエキシトンピークを示してよい。エキシトンピークは、励起子生成により得られるピークであり、これが吸収スペクトルにおいて発現しているということは、粒径の分布が小さく、結晶欠陥の少ないバンド端発光に適した粒子から第1半導体ナノ粒子群が構成されていることを意味する。また、エキシトンピークが急峻になるほど、粒径がそろった結晶欠陥の少ない粒子が第1半導体ナノ粒子の集合体により多く含まれていることを意味する。したがって、エキシトンピークが急峻であると、発光の半値幅は狭くなり、発光効率が向上すると予想される。第1半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいて、エキシトンピークは、例えば、350nm以上900nm以下の範囲内で観察される。
【0036】
第1半導体ナノ粒子は、ストークスシフトにより吸収スペクトルのエキシトンピークより長波長側に発光ピーク波長を有して発光してよい。第1半導体ナノ粒子の吸収スペクトルがエキシトンピークを示す場合、エキシトンピークと発光ピーク波長のエネルギー差は、例えば、300meV以下である。
【0037】
第1半導体ナノ粒子は例えば、元素MとしてAgと、元素MとしてIn及びGaの少なくとも一方と、元素ZとしてSとを含む半導体ナノ粒子であってよい。また第1半導体ナノ粒子は例えば、以下の式(1)で表される組成を有する半導体ナノ粒子であってよい。
(q+3)/2 (1)
ここで、0.2<q≦1.2である。
【0038】
第1半導体ナノ粒子は、例えば、特開2018-141141号公報、国際公開2019/160094号公報、国際公開2020/162622号公報に記載の方法でも得られるが、以下のような製造方法で製造することができる。例えば、第1の製造方法は、元素Mを含む塩と、元素Mを含む塩と、元素Zの供給源と、有機溶剤とを含む第1の原料混合物を得る原料準備工程と、第1の原料混合物を熱処理して第1半導体ナノ粒子を得る熱処理工程とを含んでいてよい。また第2の製造方法は、元素Mを含む塩と、元素Mを含む塩と、有機溶剤とを含む第2の原料混合物を得る原料準備工程と、第2の原料混合物を所定の温度に加熱する昇温工程と、昇温された第2の原料混合物に元素Zの供給源を添加して第1半導体ナノ粒子を得る添加工程とを含んでいてよい。
【0039】
第1の製造方法においては、元素Mを含む塩と、元素Mを含む塩と、元素Zの供給源とを一度に有機溶剤に投入して第1の原料混合物を調製し、これを熱処理することで第1半導体ナノ粒子を製造してもよい。この方法によれば、簡便な操作によりワンポットで再現性よく第1半導体ナノ粒子を合成できる。また、有機溶剤と元素Mを含む塩とを反応させて錯体を形成し、次に、有機溶剤と元素Mを含む塩とを反応させて錯体を形成するとともに、これらの錯体と元素Zの供給源とを反応させ、得られた反応物を結晶成長させる方法で第1半導体ナノ粒子を製造してもよい。この場合、熱処理は元素Zの供給源と反応させる段階にて実施してよい。
【0040】
元素Mを含む塩及び元素Mを含む塩はそれぞれ、有機酸塩又は無機酸塩のいずれであってもよい。具体的には、無機酸塩としては、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、スルホン酸塩等を挙げることができる。また有機酸塩としては、ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸、アセチルアセトナート塩等を挙げることができる。元素Mを含む塩及び元素Mを含む塩は、好ましくはこれらからなる群から選択される少なくとも一種であり、有機溶剤への溶解度が高く、反応がより均一に進行することから、より好ましくは酢酸塩、アセチルアセトナート塩等の有機酸塩である。
【0041】
第1の原料混合物は、アルカリ金属塩をさらに含んでいてもよい。アルカリ金属(以下、Mと記すことがある)としては、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)等が挙げられ、イオン半径がAgに近い点でLi及びNaの少なくとも一方を含むことが好ましい。アルカリ金属塩としては、有機酸塩及び無機酸塩が挙げられる。具体的には、無機酸塩としては、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、及びスルホン酸塩等が挙げられ、有機酸塩としては、酢酸塩、アセチルアセトナート塩等が挙げられる。中でも有機溶剤への溶解度が高い点から有機酸塩が好ましい。
【0042】
元素Zの供給源のうちSの供給源としては、例えば、硫黄単体及び含硫化合物を挙げることができる。含硫化合物としては、具体的には、2,4-ペンタンジチオンなどのβ-ジチオン類;1,2-ビス(トリフルオロメチル)エチレン-1,2-ジチオールなどのジチオール類;ジエチルジチオカルバミド酸塩等のジアルキルジチオカルバミド酸塩;チオ尿素、モノアルキルチオ尿素、1,3-ジアルキルチオ尿素、1,1-ジアルキルチオ尿素、1,1,3-トリアルキルチオ尿素、1,1,3,3-テトラアルキルチオ尿素等の炭素数1から18のアルキル基を有するアルキルチオ尿素などが挙げられる。
【0043】
Se供給源としては、例えば、セレン単体;セレノ尿素、セレノアセトアミド、アルキルセレノール等の含Se化合物などを挙げることができる。Te供給源としては、例えば、テルル単体、Te-ホスフィン錯体、アルキルテルロールなどを挙げることができる。
【0044】
有機溶剤としては、例えば、炭素数4から20の炭化水素基を有するアミン、例えば炭素数4から20のアルキルアミンもしくはアルケニルアミン、炭素数4から20の炭化水素基を有するチオール、例えば炭素数4から20のアルキルチオールもしくはアルケニルチオール、炭素数4から20の炭化水素基を有するホスフィン、例えば炭素数4から20のアルキルホスフィンもしくはアルケニルホスフィン等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの有機溶剤は、例えば、最終的には、得られる半導体ナノ粒子を表面修飾してもよい。有機溶剤は2種以上を組み合わせて使用してよく、例えば炭素数4から20の炭化水素基を有するチオールから選択される少なくとも1種と、炭素数4から20の炭化水素基を有するアミンから選択される少なくとも1種とを組み合わせた混合溶剤を使用してよい。これらの有機溶剤は他の有機溶剤と混合して用いてもよい。有機溶剤が前記チオールと前記アミンとを含む場合、アミンに対するチオールの含有体積比(チオール/アミン)は、例えば、0より大きく1以下であり、好ましくは0.007以上0.2以下である。
【0045】
第1の原料混合物は、元素Mを含む塩の少なくとも1種と、元素Mを含む塩の少なくとも1種と、元素Zの供給源の少なくとも1種とを、これらが互いに反応することなく含んでいてもよく、これらから形成される錯体として含んでいてもよい。また、第1の原料混合物は、元素Mを含む塩から形成されるM錯体、元素Mを含む塩から形成されるM錯体、元素Zの供給源から形成される錯体等を含むものであってもよい。錯体形成は、例えば、適当な有機溶剤中で、元素Mを含む塩と、元素Mを含む塩と、元素Zの供給源とを混合することで実施される。また、混合の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、例えばアルゴン雰囲気、窒素雰囲気等であってもよい。不活性ガス雰囲気とすることで、酸化物の副生を、低減又は防止することができる。ここで、不活性ガス雰囲気における不活性ガスの含有率は、例えば90体積%以上であってよく、好ましくは98体積%以上であってよい。
【0046】
第1の原料混合物では、その組成として含まれる元素Mの原子数の合計に対する元素Mの原子数の合計の比(M/M)が、例えば、0.1以上2.5以下であり、好ましくは0.2以上2.0以下、より好ましくは0.3以上1.5以下である。また、第1の原料混合物の組成では、In及びGaの原子数の合計に対するInの原子数の比(In/(In+Ga))が、例えば、0.1以上1.0以下であり、好ましくは0.25以上0.99以下である。更に、第1の原料混合物の組成では、元素Zの原子数の合計に対する元素Mの原子数の合計の比(M/Z)が、例えば、0.27以上1.0以下であり、好ましくは0.35以上0.5以下である。第1の原料混合物がアルカリ金属塩を含む場合、元素Mとアルカリ金属の総原子数に対するアルカリ金属の原子数の比(M/(M+M))は、例えば、1未満であってよく、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下、0.5以下、0.4以下又は0.2以下である。またその比は、例えば、0より大きくてよく、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上である。
【0047】
第1の製造方法における熱処理工程は、第1の原料混合物を所定の温度で熱処理する1段階の熱処理工程であっても、第1温度で熱処理した後、第1温度よりも高い第2温度で熱処理する2段階の熱処理工程であってもよい。熱処理を2段階で実施することにより、例えば、より良好な再現性で、バンド端発光の強度が比較的高い半導体ナノ粒子を製造することができる。ここで、第1温度での熱処理と第2温度での熱処理とは、連続して行ってもよく、第1温度での熱処理後に降温し、次いで第2温度に昇温して熱処理してもよい。
【0048】
第1の原料混合物の熱処理を1段階の熱処理工程で行う場合、熱処理温度は、例えば180℃以上であってよく、好ましくは200℃以上又は260℃以上である。また、熱処理温度は、例えば370℃以下であってよく、好ましくは350℃以下又は320℃以下である。熱処理の時間は、例えば、1分以上であってよく、好ましくは5分以上、より好ましくは7分以上である。また、熱処理の時間は、例えば、120分以下であってよく、好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下又は20分以下である。
【0049】
また、第1の原料混合物の熱処理を2段階の熱処理工程で行う場合、第1温度は、例えば30℃以上であってよく、好ましくは100℃以上である。また、第1温度は、例えば200℃以下であってよく、好ましくは180℃以下である。第1温度での熱処理の時間は、例えば、1分以上であってよく、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上である。また、第1温度での熱処理の時間は、例えば、120分以下であってよく、好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下である。
【0050】
第2温度は、例えば180℃以上であってよく、好ましくは200℃以上である。また、第2温度は、例えば370℃以下であってよく、好ましくは350℃以下である。第2温度での熱処理の時間は、例えば、1分以上であってよく、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上である。また、第2温度での熱処理の時間は、例えば、120分以下であってよく、好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下である。
【0051】
なお、熱処理の時間は、所定温度に到達した時点を熱処理の開始時間とし、降温又は昇温のための操作を行った時点をその所定温度における熱処理の終了時点とする。また所定の温度に到達するまでの昇温速度は、例えば、1℃/分以上100℃/分以下、又は1℃/分以上50℃/分以下である。また、熱処理後における降温速度は、例えば1℃/分以上100℃/分以下であり、必要に応じて冷却してもよく、熱源を停止して放冷するだけでもよい。
【0052】
熱処理工程における雰囲気は、アルゴン等の希ガス雰囲気、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気下で熱処理することで、酸化物の副生及び得られた半導体ナノ粒子表面の酸化を、低減ないしは防止することができる。
【0053】
第2の製造方法における準備工程では、元素Mを含む塩の少なくとも1種と、元素Mを含む塩の少なくとも1種と、有機溶剤とを含み、必要に応じてアルカリ金属塩を含む第2の原料混合物を準備する。第2の原料混合物は、元素Mを含む塩と、元素Mを含む塩とを有機溶剤と混合することで調製できる。また第2の原料混合物は元素Mを含む塩又は元素Mを含む塩を有機溶剤と混合し、次いで残りの成分を混合して調製してもよい。得られる第2の原料混合物は、昇温された状態で未溶解物のない溶液状態であってよい。また、混合の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、例えばアルゴン雰囲気、窒素雰囲気等であってもよい。不活性ガス雰囲気とすることで、酸化物の副生を、低減又は防止することができる。また、第2の原料混合物は、アルカリ金属塩をさらに含んでいてもよい。
【0054】
第2の製造方法に用いられる元素Mを含む塩、元素Mを含む塩、アルカリ金属塩、及び有機溶剤は第1の製造方法に用いられるそれらと同様である。
【0055】
第2の原料混合物は、元素Mを含む塩の少なくとも1種と、元素Mを含む塩の少なくとも1種とを、これらが互いに反応することなく含んでいてもよく、これらから形成される錯体として含んでいてもよい。また、第2の原料混合物は、元素Mを含む塩から形成されるM錯体、元素Mを含む塩から形成されるM錯体等を含むものであってもよい。錯体形成は、例えば、適当な有機溶剤中で、元素Mを含む塩と、元素Mを含む塩とを混合することで実施される。
【0056】
第2の原料混合物では、その組成として含まれる元素Mの原子数の合計に対する元素Mの原子数の合計の比(M/M)が、例えば、0.1以上2.5以下であり、好ましくは0.2以上2.0以下、より好ましくは0.3以上1.5以下である。また、第2の原料混合物の組成では、In及びGaの原子数の合計に対するInの原子数の比(In/(In+Ga))が、例えば、0.1以上1.0以下であり、好ましくは0.25以上0.99以下である。第2の原料混合物がアルカリ金属塩を含む場合、元素Mとアルカリ金属の総原子数に対するアルカリ金属の原子数の比(M/(M+M))は、例えば、1未満であってよく、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下、0.5以下、0.4以下又は0.2以下である。またその比は、例えば、0より大きくてよく、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上である。
【0057】
第2の製造方法における昇温工程では、準備した第2の原料混合物を例えば、120℃以上300℃以下の範囲にある温度に昇温する。昇温によって到達する温度は、好ましくは125℃以上、より好ましくは130℃以上、更に好ましくは135℃以上であり、また好ましくは175℃以下、より好ましくは160℃以下、更に好ましくは150℃以下である。昇温速度は、例えば1℃/分以上50℃/分以下であり、好ましくは10℃/分以上50℃/分以下である。
【0058】
第2の原料混合物の昇温工程における雰囲気は、不活性ガス雰囲気、例えばアルゴン雰囲気、窒素雰囲気等が好ましい。不活性ガス雰囲気とすることで、酸化物の副生を、低減又は防止することができる。
【0059】
第2の製造方法における添加工程では、所定の温度に昇温された第2の原料混合物に、所定の温度を維持しながら、元素Zの供給源を混合物中の元素Mの原子数に対する元素Zの原子数の比の増加率が、例えば、10/分以下となるように徐々に添加する。混合物中の元素Mの原子数に対する元素Zの原子数の比(Z/M比)の増加率は、例えば、ある時点におけるZ/M比をその単位時間後におけるZ/M比から差し引き、単位時間を分換算した値で除して算出される。単位時間は例えば、1秒から1分の間で任意に選択される。第2の原料混合物中の元素Mの原子数に対する元素Zの原子数の比の増加率は、生成する粒子の成長制御の点より、好ましくは0.0001/分以上2/分以下であり、より好ましくは0.0001/分以上1/分以下であり、さらに好ましくは0.001/分以上0.2/分以下であり、特に好ましくは0.001/分以上0.1/分以下である。また、好ましくは0.0002/分以上2/分以下であり、より好ましくは0.002/分以上0.2/分以下である。
【0060】
元素Zの供給源の総添加量は、最終的に得られる混合物中の元素Mの原子数に対する元素Zの原子数の比が0.1以上5.0以下となる量であり、好ましくは1.0以上2.5以下となる量である。元素Zの供給源の添加に要する所用時間は、例えば、1分間以上であればよく、好ましくは5分間以上、より好ましくは15分間以上、更に好ましくは20分間以上であり、また好ましくは120分間以下、より好ましくは60分間以下、更に好ましくは40分間以下である。
【0061】
元素Zの供給源の総添加量が、混合物中の元素Mの原子数に対する元素Zの原子数の比が0.1以上2.5以下となる量の場合、Z/M比の増加率は、例えば、0.0001/分以上1/分以下であり、好ましくは0.001/分以上0.1/分以下である。また、元素Zの供給源の総添加量が、混合物中の元素Mの原子数に対する元素Zの原子数の比が2.5を越えて5.0以下となる量の場合、Z/M比の増加率は、例えば、0.0002/分以上2/分以下であり、好ましくは0.002/分以上0.2/分以下である。
【0062】
元素Zの供給源の添加は、単位時間当たりの添加量が所要時間にわたって略同一になるように行ってよい。すなわち、元素Zの供給源の総添加量を、所要時間を単位時間で除した数で除して得られる単位量を単位時間当たりの添加量として添加してよい。単位時間は、例えば、1秒間、5秒間、10秒間、30秒間又は1分間とすることができる。元素Zの供給源は、連続的に添加されてもよく、段階的に添加されてもよい。また元素Zの供給源は、例えば、不活性ガス雰囲気下で混合物に添加されてよい。
【0063】
元素Zの供給源としては、第1の製造方法に用いられる元素Zの供給源と同様である。特に第2の製造方法においては、Sの供給源として、有機溶剤に溶解可能な含硫化合物が好ましく、溶解性と反応性の観点から、アルキルチオ尿素が好ましく用いられ、1,3-アルキルチオ尿素がより好ましく用いられる。アルキルチオ尿素のアルキル基は、炭素数が1から12であることが好ましく、1から8がより好ましく、1から6がより好ましく、1から4がより好ましく、1から3がさらに好ましい。アルキルチオ尿素が複数のアルキル基を有する場合、それらは同一でも異なっていてもよい。
【0064】
元素Zの供給源は、元素Zの単体、又は元素Zを含む化合物を有機溶剤に分散又は溶解した溶液として昇温された第2の原料混合物に添加されてよい。元素Zの供給源が元素Zを含む化合物の溶液であることで、添加工程における元素Zの供給源の単位時間当たりの添加量を容易に制御することができ、粒度分布のより狭い第1半導体ナノ粒子を効率的に製造することができる。
【0065】
元素Zの供給源となる元素Zを含む化合物を溶解する有機溶剤としては、上述した有機溶剤と同様のものを例示することができ、例えば、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有するアミンを用いることができる。
【0066】
元素Zの供給源が元素Zを含む化合物の溶液の場合、元素Zを含む化合物の濃度は、例えば1mmol/L以上500mmol/L以下であり、好ましくは10mmol/L以上50mmol/L以下である。
【0067】
第2の製造方法は、元素Zの供給源の添加が終了した後の混合物を120℃以上300℃以下の範囲にある温度で熱処理する熱処理工程をさらに含んでいてもよい。熱処理の温度は、混合物が昇温された温度と同一であってもよく、異なっていてもよい。熱処理の温度は、量子収率の点から、例えば120℃以上300℃以下であり、好ましくは125℃以上175℃以下、より好ましくは130℃以上160℃以下、更に好ましくは135℃以上150℃以下である。
【0068】
熱処理の時間は、第1半導体ナノ粒子の量子収率の点から、例えば3秒以上であり、好ましくは5分間以上、10分間以上、又は20分間以上である。熱処理時間の上限については特に限定はないが、例えば、60分以下とすることができる。熱処理する時間は所定の温度に到達した時点(例えば140℃の場合は140℃に到達した時間)を熱処理の開始時間とし、降温のための操作を行う時点を熱処理の終了時間とする。
【0069】
熱処理の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、例えば、アルゴン雰囲気又は窒素雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気とすることで、酸化物の副生及び得られた第1半導体ナノ粒子表面の酸化を、低減ないしは防止することができる。
【0070】
第2の製造方法は、上述の工程に続いて第1半導体ナノ粒子を含む分散液の温度を降温する冷却工程を有していてもよい。冷却工程は、降温のための操作を行った時点を開始とし、50℃以下まで冷却された時点を終了とする。
【0071】
冷却工程は、未反応のAg塩からの硫化銀の生成を抑制する点から、降温速度が50℃/分以上である期間を含んでいてもよい。例えば、降温のための操作を行った後、降温が開始した時点において50℃/分以上とすることができる。
【0072】
冷却工程の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、例えば、アルゴン雰囲気又は窒素雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気とすることで、酸化物の副生及び得られた第1半導体ナノ粒子表面の酸化を、低減ないしは防止することができる。
【0073】
第1の製造方法又は第2の製造方法は、得られる第1半導体ナノ粒子を分散液から分離する分離工程を更に含んでいてもよく、必要に応じて、さらに精製工程を含んでいてよい。分離工程では、例えば、第1半導体ナノ粒子を含む分散液を遠心分離に付して、第1半導体ナノ粒子を含む上澄み液を取り出してよい。精製工程では、例えば、分離工程で得られる上澄み液に、アルコール等の適当な有機溶剤を添加して遠心分離に付し、第1半導体ナノ粒子を沈殿物として取り出してよい。なお、上澄み液から有機溶剤を揮発させることによっても、第1半導体ナノ粒子を取り出すことができる。取り出した沈殿物は、例えば、真空脱気、もしくは自然乾燥、または真空脱気と自然乾燥との組み合わせにより、乾燥させてよい。自然乾燥は、例えば、大気中に常温常圧にて放置することにより実施してよく、その場合、20時間以上、例えば、30時間程度放置してよい。また、取り出した沈殿物は、適当な有機溶剤に分散させてよい。
【0074】
第1の製造方法又は第2の製造方法では、アルコール等の有機溶剤の添加と遠心分離による精製工程を必要に応じて複数回実施してよい。精製に用いるアルコールとして、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール等の炭素数1から4の低級アルコールを用いてよい。沈殿物を有機溶剤に分散させる場合、有機溶剤として、クロロホルム等のハロゲン系溶剤、トルエン、シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、オクタン等の炭化水素系溶剤等を用いてよい。
【0075】
第2工程
半導体ナノ粒子の製造方法における第2工程では、準備した第1半導体ナノ粒子、Ga-S結合を有する第1化合物、Gaを含みSを含まない第2化合物及び有機溶剤を含む混合物(以下、第3の原料混合物ともいう)を熱処理して第2半導体ナノ粒子を得る。第2工程は、準備した第1半導体ナノ粒子、Ga-S結合を有する第1化合物、Gaを含みSを含まない第2化合物及び有機溶剤を含む第3の原料混合物を得る混合工程と、得られた第3の原料混合物を熱処理して第2半導体ナノ粒子を得る熱処理工程とを含んでいてよい。
【0076】
混合工程
混合工程では、準備される第1半導体ナノ粒子、Ga-S結合を有する第1化合物、Gaを含みSを含まない第2化合物及び有機溶剤を混合して第3の原料混合物を得る。第3の原料混合物は、準備される第1半導体ナノ粒子と、第1化合物と、第2化合物とを有機溶剤中で混合することで得られてもよい。有機溶剤としては、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種とすることができ、あるいは、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種とすることができ、これらの混合物であってもよい。
【0077】
準備される第1半導体ナノ粒子は分散液として第3の原料混合物を構成してもよい。第1半導体ナノ粒子が分散した液体においては、散乱光が生じないため、分散液は一般に透明(有色又は無色)のものとして得られる。第1半導体ナノ粒子を分散させる溶媒は、第1半導体ナノ粒子を作製するときと同様、任意の有機溶剤とすることができる。例えば、有機溶剤は、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種とすることができ、あるいは、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種とすることができ、あるいは炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物から選ばれる少なくとも1種と炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1種との組み合わせとすることができる。含窒素化合物の具体例としてはオレイルアミン、n-テトラデシルアミン、ドデカンチオール等が挙げられる。
【0078】
第1半導体ナノ粒子の分散液は、分散液に占める粒子の濃度が、例えば、5.0×10-8モル/リットル以上5.0×10-4モル/リットル以下、特に1.0×10-7モル/リットル以上5.0×10-5モル/リットル以下となるように調製してよい。分散液に占める粒子の割合が5.0×10-8モル/リットル以上であると貧溶媒による凝集・沈澱プロセスによる生成物の回収が容易になる傾向がある。また5.0×10-4モル/リットル以下であると第1半導体ナノ粒子を構成する材料のオストワルド熟成、衝突による融合が抑制され、粒径分布が広くなることを抑制できる傾向がある。
【0079】
第1化合物は、Ga-S結合を有する化合物である。Ga-S結合は、共有結合、イオン結合、配位結合等のいずれであってもよい。第1化合物としては、例えば含硫黄化合物のGa塩が挙げられ、Gaの有機酸塩、無機酸塩、有機金属化合物等であってよい。含硫黄化合物として具体的には、チオカルバミン酸、ジチオカルバミン酸、チオ炭酸エステル、ジチオ炭酸エステル(キサントゲン酸)、トリチオ炭酸エステル、チオカルボン酸、ジチオカルボン酸及びそれらの誘導体等を挙げることができる。中でも比較的低温で分解することからキサントゲン酸及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。含硫黄化合物の具体例は、上記と同様である。Ga-S結合を有する化合物の具体例としては、トリスジメチルジチオカルバミン酸ガリウム、トリスジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(Ga(DDTC))、クロロビスジエチルジチオカルバミン酸ガリウム、エチルキサントゲン酸ガリウム(Ga(EX))等を挙げることができる。第1混合物は、Ga-S結合を有する化合物を1種単独で含んでいてもよく、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0080】
第2化合物は、Gaを含みSを含まない化合物である。第2化合物は、例えばGaの有機酸塩、無機酸塩、有機金属化合物等であってよい。第2化合物の具体例としては、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、スルホン酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、アセチルアセトナート塩等の有機酸塩が挙げられ、有機溶剤への溶解度が高く、反応がより均一に進行することから、好ましくは酢酸塩、アセチルアセトナート塩等の有機酸塩、又は塩酸塩である。
【0081】
第2化合物はGaを含み、実質的にSを含まない化合物であってもよい。ここで「実質的に」という用語は、不純物の混入等に起因して不可避的にSが含まれることを考慮して使用している。具体的に実質的にSを含まないとは、第2化合物中のSの含有率が、例えば10モル%以下であり、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下であることを意味する。
【0082】
第3の原料混合物における第1化合物及び第2化合物の仕込み量は、分散液中に存在する第1半導体ナノ粒子に所望の厚さの付着物又は半導体層が形成されるように、分散液に含まれる第1半導体ナノ粒子の量を考慮して選択してよい。例えば、第1半導体ナノ粒子の粒子としての物質量10nmolに対して、Ga及びSから成る化学量論組成の半導体化合物が0.1μmol以上10mmol以下、特に5μmol以上1mmol以下生成されるように、第1化合物及び第2化合物の仕込み量を決定してよい。ただし、粒子としての物質量というのは、第1半導体ナノ粒子1つを巨大な分子と見なしたときのモル量であり、分散液に含まれる第1半導体ナノ粒子の粒子数を、アボガドロ数(NA=6.022×1023)で除した値に等しい。
【0083】
第3の原料混合物における第1半導体ナノ粒子の物質量に対する第1化合物の含有量は、第1半導体ナノ粒子の粒子数(モル)に対するSのモル比として、例えば5.3×10以上であってよく、好ましくは5.3×10以上であってよく、また例えば8.5×10以下であってよく、好ましくは4.3×10以下であってよい。また、第3の原料混合物における第2化合物の含有モル比は、第1化合物の含有モル数に対してGa基準で、例えば1以上10以下であってよく、好ましくは2以上8以下、より好ましくは2以上6以下であってよい。
【0084】
第3の原料混合物における有機溶剤としては、アミン類、チオール類、ホスフィン類等の第1工程における有機溶剤と同様のものを挙げることができる。有機溶剤は、例えば、最終的には、得られる第2半導体ナノ粒子を表面修飾してもよい。有機溶剤は2種以上を組み合わせて使用してよく、例えば炭素数4から20の炭化水素基を有するチオール類から選択される少なくとも1種と、炭素数4から20の炭化水素基を有するアミン類から選択される少なくとも1種とを組み合わせた混合溶剤を使用してよい。また、2種以上のアミン類を組み合わせて使用してもよい。さらに、これらの有機溶剤は他の有機溶剤(例えば、ハロゲン系溶剤)と混合して用いてもよい。
【0085】
ハロゲン化合物
第3の原料混合物は、ハロゲン化合物をさらに含んでいてもよい。第3の原料混合物がハロゲン化合物を含むことで、発光効率がより向上する場合がある。これは例えば、ハロゲン化合物から生成するハロゲンイオンによって、溶媒への溶解性が良好なハロゲン化ガリウムが生成し、これによって付着物又は半導体層を形成する第2半導体の格子欠陥等が修復されて、原子配列が整った付着物又は半導体層が形成されるためと考えることができる。
【0086】
ハロゲン化合物としては、ハロゲン原子を含む有機化合物及びハロゲン原子を含む無機化合物が挙げられる。ハロゲン化合物が含むハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、好ましくは塩素原子または臭素原子である。ハロゲン化合物が含むハロゲン原子は1種単独でも、2種以上の組み合わせであってもよい。また、第3の原料混合物が含むハロゲン化合物は1種単独でも、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0087】
ハロゲン原子を含む有機化合物としては、例えば、ハロゲン化炭化水素、ハロゲン化テトラアルキルアンモニウム等が挙げられる。ハロゲン原子を含む有機化合物の炭素数は、例えば、1以上20以下であってよく、好ましくは1以上12以下または1以上6以下であってよい。ハロゲン化炭化水素の具体例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ブロモホルム、ヘキサクロロベンゼン、クロロベンゼン等を挙げることができる。ハロゲン化テトラアルキルアンモニウムの具体例としては、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等を挙げることができる。
【0088】
ハロゲン原子を含む無機化合物としては、例えば、ハロゲン化水素、金属ハロゲン化物等が挙げられる。ハロゲン化水素には、塩化水素及び臭化水素が含まれる。金属ハロゲン化物には、塩化ガリウム等が含まれる。
【0089】
第3の原料混合物が、ハロゲン化合物を含む場合、その含有量は、第3の原料混合物に対して、例えば0.1質量%以上1.0質量%以下であってよく、好ましくは0.15質量%以上0.3質量%以下であってよい。また、第3の原料混合物に含まれる第1半導体ナノ粒子の粒子数に対する比が、例えば3000以上50000以下であってよく、好ましくは4500以上9000以下であってよい。
【0090】
熱処理工程
熱処理工程では、第3の原料混合物を熱処理してGa及びSを含む半導体(以下、「第2半導体」ともいう)を第1半導体ナノ粒子の表面に析出させて、第2半導体ナノ粒子を得る。半導体ナノ粒子の製造方法における熱処理工程の一態様では、例えば、第3の原料混合物を所定の温度で熱処理して、第2半導体の層を第1半導体ナノ粒子の表面に形成して第2半導体ナノ粒子を得る(ヒーティングアップ法)。具体的には、第3の原料混合物を徐々に昇温して、そのピーク温度が200℃以上310℃以下となるようにし、ピーク温度で所定の時間保持した後、徐々に降温させるやり方で加熱してよい。昇温速度は例えば1℃/分以上50℃/分以下としてよいが、第2半導体の層が無い状態で熱処理され続けることによって生じる第1半導体ナノ粒子の変質を最小限に留めるため200℃までは50℃/分以上100℃/分以下が好ましい。また、200℃以上にさらに昇温したい場合は、それ以降は1℃/分以上5℃/分以下とすることが好ましい。降温速度は、例えば1℃/分以上50℃/分以下としてよい。ピーク温度が200℃以上であると、第2半導体生成のための化学反応が十分に進行する等の理由により、第2半導体の層(例えば、シェル)の形成が十分に行われる傾向がある。ピーク温度が310℃以下であると、半導体ナノ粒子に変質が生じることが抑制され、良好なバンド端発光が得られる傾向がある。ピーク温度を保持する時間は、例えば1分間以上300分間以下、特に10分間以上120分間以下とすることができる。ピーク温度の保持時間は、ピーク温度との関係で選択され、ピーク温度がより低い場合には保持時間をより長くし、ピーク温度がより高い場合には保持時間をより短くすると、良好な第2半導体の層が形成されやすい。
【0091】
半導体ナノ粒子の製造方法における熱処理工程の別の態様は、第1温度で熱処理した後、第1温度よりも高い第2温度で熱処理する2段階の熱処理工程であってもよい。熱処理を2段階で実施することにより、例えば、より良好な再現性で、バンド端発光の強度が高い半導体ナノ粒子を製造することができる。ここで、第1温度での熱処理と第2温度での熱処理とは、連続して行ってもよく、第1温度での熱処理後に降温し、次いで第2温度に昇温して熱処理してもよい。
【0092】
第3の原料混合物の熱処理を2段階の熱処理工程で行う場合、第1温度は、例えば30℃以上であってよく、好ましくは100℃以上である。また、第1温度は、例えば200℃以下であってよく、好ましくは180℃以下である。第1温度での熱処理の時間は、例えば、1分以上であってよく、好ましくは5分以上、より好ましくは7分以上である。また、第1温度での熱処理の時間は、例えば、120分以下であってよく、好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下又は20分以下である。
【0093】
第2温度は、例えば180℃以上であってよく、好ましくは200℃以上である。また、第2温度は、例えば350℃以下であってよく、好ましくは330℃以下又は310℃以下である。第2温度での熱処理の時間は、例えば、1分以上であってよく、好ましくは5分以上、より好ましくは10分以上又は20分以上である。また、第2温度での熱処理の時間は、例えば、120分以下であってよく、好ましくは90分以下、より好ましくは60分以下又は40分以下である。
【0094】
半導体ナノ粒子の製造方法における熱処理工程の別の態様は、第1半導体ナノ粒子を含む分散液を昇温して、そのピーク温度が200℃以上310℃以下となるようにし、ピーク温度に達してから、ピーク温度を保持した状態で、予め第1化合物及び第2化合物を、有機溶剤に分散又は溶解させた混合液を少量ずつ加え、その後、降温させる方法で、第2半導体の層を形成してよい(スローインジェクション法)。この場合、第1半導体ナノ粒子を含む分散液と混合液が混合されて第3の原料混合物が得られた直後に熱処理が開始される。第1化合物及び第2化合物を含む混合液は、0.1mL/時間以上10mL/時間以下、特に1mL/時間以上5mL/時間以下の速度で添加してよい。ピーク温度は、混合液の添加を終了した後も必要に応じて保持してよい。
【0095】
ピーク温度が200℃以上であると、第2半導体生成のための化学反応が十分に進行する等の理由により、第2半導体の層(例えば、シェル)の形成が十分に行われる傾向がある。ピーク温度が310℃以下であると、半導体ナノ粒子に変質が生じることが抑制され、良好なバンド端発光が得られる傾向がある。ピーク温度を保持する時間は、第1化合物及び第2化合物を含む混合液の添加が開始されてからトータルで1分間以上300分間以下、特に10分間以上120分間以下とすることができる。ピーク温度の保持時間は、ピーク温度との関係で選択され、ピーク温度がより低い場合には保持時間をより長くし、ピーク温度がより高い場合には保持時間をより短くすると、良好な第2半導体の層が形成されやすい。昇温速度及び降温速度は特に限定されず、降温は、例えばピーク温度で所定時間保持した後、加熱源(例えば電気ヒーター)による加熱を停止して放冷することにより実施してよい。
【0096】
なお、熱処理工程における熱処理の時間は、所定の温度に到達した時点を熱処理の開始時間とし、降温又は昇温のための操作を行った時点をその所定温度における熱処理の終了時点とする。また所定の温度に到達するまでの昇温速度は、例えば、1℃/分以上100℃/分以下、又は1℃/分以上50℃/分以下である。また、熱処理後における降温速度は、例えば1℃/分以上100℃/分以下であり、必要に応じて冷却してもよく、熱源を停止して放冷するだけでもよい。
【0097】
熱処理の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、例えば、アルゴン雰囲気又は窒素雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気とすることで、酸化物の副生を、低減ないしは防止することができる。
【0098】
熱処理工程は、加熱中の第3の原料混合物にハロゲン化合物を添加する添加工程をさらに含んでいてもよい。ハロゲン化合物を添加することで、発光効率がより向上する場合がある。添加するハロゲン化合物の詳細及びその添加量については既述の通りである。ハロゲン化合物を添加する温度は、例えば、30℃以上330℃以下であってよく、好ましくは200℃以上310℃以下であってよい。
【0099】
第2工程は、熱処理工程終了後に得られた第2半導体ナノ粒子に、ハロゲン化合物を接触させる接触工程をさらに含んでいてもよい。第2半導体ナノ粒子にハロゲン化合物を接触させることで、発光効率がより向上する場合がある。接触させるハロゲン化合物の詳細及び接触に供する量については既述の通りである。第2半導体ナノ粒子とハロゲン化合物との接触は、第3の原料混合物の熱処理物とハロゲン化合物とを混合することで実施することができる。接触の温度は例えば80℃以上330℃以下であってよく、好ましくは180℃以上260℃以下であってよい。接触の時間は例えば10分以上12時間以下であってよい。
【0100】
このようにして、第2半導体ナノ粒子(例えば、コアシェル構造を有するコアシェル型半導体ナノ粒子)として半導体ナノ粒子が形成される。得られた半導体ナノ粒子は、分散液から分離してよく、必要に応じて、さらに精製及び乾燥してよい。分離、精製及び乾燥の方法は、先に第1半導体ナノ粒子に関連して説明したとおりであるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0101】
半導体ナノ粒子の製造方法は、熱処理工程で得られる第2半導体ナノ粒子に表面修飾剤を配置する修飾工程をさらに含んでいてもよい。修飾工程は、例えば、熱処理工程で得られる第2半導体ナノ粒子と表面修飾剤とを接触させることを含んでいてよく、熱処理工程で得られる第2半導体ナノ粒子と酸化数が負のリン(P)を含む特定修飾剤とを接触させることを含んでいてよい。これにより、より優れた量子収率でバンド端発光を示す半導体ナノ粒子が製造される。
【0102】
特定修飾剤は、第15族元素として負の酸化数を有するPを含む。Pの酸化数は、Pに水素原子又は炭化水素基が1つ結合することで-1となり、酸素原子が単結合で1つ結合することで+1となり、Pの置換状態で変化する。例えば、トリアルキルホスフィン及びトリアリールホスフィンにおけるPの酸化数は-3であり、トリアルキルホスフィンオキシド及びトリアリールホスフィンオキシドでは-1となる。
【0103】
特定修飾剤は、負の酸化数を有するPに加えて、他の第15族元素を含んでいてもよい。他の第15族元素としては、N、As、Sb等を挙げることができる。
【0104】
特定修飾剤は、例えば、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含リン化合物であってよい。炭素数4以上20以下の炭化水素基としては、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、オクチル基、エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などの直鎖又は分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基;オレイル基などの直鎖又は分岐鎖状の不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基;ベンジル基、ナフチルメチル基などのアリールアルキル基などが挙げられ、このうち飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。特定修飾剤が、複数の炭化水素基を有する場合、それらは同一であっても、異なっていてもよい。
【0105】
特定修飾剤として具体的には、トリブチルホスフィン、トリイソブチルホスフィン、トリペンチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリス(エチルヘキシル)ホスフィン、トリデシルホスフィン、トリドデシルホスフィン、トリテトラデシルホスフィン、トリヘキサデシルホスフィン、トリオクタデシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンオキシド、トリイソブチルホスフィンオキシド、トリペンチルホスフィンオキシド、トリヘキシルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、トリス(エチルヘキシル)ホスフィンオキシド、トリデシルホスフィンオキシド、トリドデシルホスフィンオキシド、トリテトラデシルホスフィンオキシド、トリヘキサデシルホスフィンオキシド、トリオクタデシルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0106】
第2半導体ナノ粒子と特定修飾剤との接触は、例えば、第2半導体ナノ粒子の分散液と特定修飾剤とを混合することで行うことができる。また第2半導体ナノ粒子を、液状の特定修飾剤と混合して行ってもよい。特定修飾剤には、その溶液を用いてもよい。第2半導体ナノ粒子の分散液は、第2半導体ナノ粒子と適当な有機溶剤とを混合することで得られる。分散に用いる有機溶剤としては、例えばクロロホルム等のハロゲン溶剤;トルエン等の芳香族炭化水素溶剤;シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶剤などを挙げることができる。第2半導体ナノ粒子の分散液における物質量の濃度は、例えば、1×10-7mol/L以上1×10-3mol/L以下であり、好ましくは1×10-6mol/L以上1×10-4mol/L以下である。
【0107】
特定修飾剤の第2半導体ナノ粒子に対する使用量は、例えば、モル比で1倍以上50,000倍以下である。また、第2半導体ナノ粒子の分散液における物質量の濃度が1.0×10-7mol/L以上1.0×10-3mol/L以下である第2半導体ナノ粒子の分散液を用いる場合、分散液と特定修飾剤とを体積比で1:1000から1000:1で混合してもよい。
【0108】
第2半導体ナノ粒子と特定修飾剤との接触時の温度は、例えば、-100℃以上100℃以下又は30℃以上75℃以下である。接触時間は特定修飾剤の使用量、分散液の濃度等に応じて適宜選択すればよい。接触時間は、例えば、1分以上、好ましくは1時間以上であり、100時間以下、好ましくは48時間以下である。接触時の雰囲気は、例えば、窒素ガス、希ガス等の不活性ガス雰囲気である。
【0109】
発光デバイス
発光デバイスは、光変換部材及び半導体発光素子を備え、光変換部材に上記において説明した製造方法で得られる半導体ナノ粒子(例えば、コアシェル型半導体ナノ粒子)を含むものである。この発光デバイスによれば、例えば、半導体発光素子からの発光の一部を、半導体ナノ粒子が吸収してより長波長の光が発せられる。そして、半導体ナノ粒子からの光と半導体発光素子からの発光の残部とが混合され、その混合光を発光デバイスの発光として利用できる。
【0110】
上記の製造方法で得られる半導体ナノ粒子は、その製造方法に起因して発光効率に優れる。上記の製造方法で製造される半導体ナノ粒子では、従来の製造方法で得られるコアシェル型半導体ナノ粒子に比べて、例えば、表面の半導体層(例えば、シェル)における格子欠陥等の発生が抑制されて発光効率が向上すると考えられる。表面の半導体層の結晶構造については、例えば、X線回折等の手法で調べることが考えられる。しかしながら、表面の半導体層における格子欠陥等の有無は、結晶構造上の微差に過ぎず、その分析は技術的に困難であると考えられる。したがって、表面の半導体層における結晶構造の詳細な態様を具体的に明らかにすることは、現時点では、技術的に不可能であるか、およそ実際的であるとはいえない。
【0111】
具体的には、半導体発光素子としてピーク波長が400nm以上490nm以下程度の青紫色光又は青色光を発するものを用い、半導体ナノ粒子として青色光を吸収して黄色光を発光するものを用いれば、白色光を発光する発光デバイスを得ることができる。あるいは、半導体ナノ粒子として、青色光を吸収して緑色光を発光するものと、青色光を吸収して赤色光を発光するものの2種類を用いても、白色発光デバイスを得ることができる。
【0112】
あるいは、ピーク波長が400nm以下の紫外線を発光する半導体発光素子を用い、紫外線を吸収して青色光、緑色光、赤色光をそれぞれ発光する、三種類の半導体ナノ粒子を用いる場合でも、白色発光デバイスを得ることができる。この場合、発光素子から発せられる紫外線が外部に漏れないように、発光素子からの光をすべて半導体ナノ粒子に吸収させて変換させることが望ましい。
【0113】
あるいはまた、ピーク波長が490nm以上510nm以下程度の青緑色光を発するものを用い、半導体ナノ粒子として上記の青緑色光を吸収して赤色光を発するものを用いれば、白色光を発光するデバイスを得ることができる。
【0114】
あるいはまた、半導体発光素子として可視光を発光するものを用い、例えば波長700nm以上780nm以下の赤色光を発光するものを用いる。半導体ナノ粒子として、可視光を吸収して近赤外線を発光するものを用いれば、近赤外線を発光する発光デバイスを得ることもできる。
【0115】
半導体ナノ粒子は、他の半導体量子ドットと組み合わせて用いてよく、あるいは他の量子ドットではない蛍光体(例えば、有機蛍光体又は無機蛍光体)と組み合わせて用いてよい。他の半導体量子ドットは、例えば、背景技術の欄で説明した二元系の半導体量子ドットである。量子ドットではない蛍光体として、アルミニウムガーネット系等のガーネット系蛍光体を用いることができる。ガーネット系蛍光体としては、セリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体、セリウムで賦活されたルテチウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体が挙げられる。他にユウロピウム及び/又はクロムで賦活された窒素含有アルミノ珪酸カルシウム系蛍光体、ユウロピウムで賦活されたシリケート系蛍光体、β-SiAlON系蛍光体、CASN系又はSCASN系等の窒化物系蛍光体、LnSi11系又はLnSiAlON系等の希土類窒化物系蛍光体、BaSi:Eu系又はBaSi12:Eu系等の酸窒化物系蛍光体、CaS系、SrGa系、ZnS系等の硫化物系蛍光体、クロロシリケート系蛍光体、SrLiAl:Eu蛍光体、SrMgSiN:Eu蛍光体、マンガンで賦活されたフッ化物錯体蛍光体としてのK(Si,Al)F:Mn蛍光体などを用いることができる。蛍光体の組成を表す式中、カンマ(,)で区切られて記載されている複数の元素は、これらの複数の元素のうち少なくとも1種の元素を組成中に含有することを意味する。また、蛍光体の組成を表す式中、コロン(:)の前は母体結晶を表し、コロン(:)の後は賦活元素を表す。
【0116】
発光デバイスにおいて、半導体ナノ粒子を含む光変換部材は、例えばシート又は板状部材であってよく、あるいは三次元的な形状を有する部材であってよい。三次元的な形状を有する部材の例は、表面実装型の発光ダイオードにおいて、パッケージに形成された凹部の底面に半導体発光素子が配置されているときに、発光素子を封止するために凹部に樹脂が充填されて形成された封止部材である。
【0117】
又は、光変換部材の別の例は、平面基板上に半導体発光素子が配置されている場合にあっては、前記半導体発光素子の上面及び側面を略均一な厚みで取り囲むように形成された樹脂部材である。あるいはまた、光変換部材のさらに別の例は、半導体発光素子の周囲にその上端が半導体発光素子と同一平面を構成するように反射材を含む樹脂部材が充填されている場合にあっては、前記半導体発光素子及び前記反射材を含む樹脂部材の上部に、所定の厚みで平板状に形成された樹脂部材である。
【0118】
光変換部材は半導体発光素子に接してよく、あるいは半導体発光素子から離れて設けられていてよい。具体的には、光変換部材は、半導体発光素子から離れて配置される、ペレット状部材、シート状部材、板状部材又は棒状部材であってよく、あるいは半導体発光素子に接して設けられる部材、例えば、封止部材、コーティング部材(モールド部材とは別に設けられる発光素子を覆う部材)又はモールド部材(例えば、レンズ形状を有する部材を含む)であってよい。
【0119】
また、発光デバイスにおいて、異なる波長の発光を示す2種類以上の半導体ナノ粒子を用いる場合には、1つの光変換部材内で前記2種類以上の半導体ナノ粒子が混合されていてもよいし、あるいは1種類の半導体ナノ粒子のみを含む光変換部材を2つ以上組み合わせて用いてもよい。この場合、2種類以上の光変換部材は積層構造を成してもよいし、平面上にドット状ないしストライプ状のパターンとして配置されていてもよい。
【0120】
半導体発光素子としてはLEDチップが挙げられる。LEDチップは、GaN、GaAs、InGaN、AlInGaP、GaP、SiC、及びZnO等から成る群より選択される1種又は2種以上から成る半導体層を備えたものであってよい。青紫色光、青色光、又は紫外線を発光する半導体発光素子は、例えば、組成がInAlGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y<1)で表わされるGaN系化合物を半導体層として備えたものである。
【0121】
本実施形態の発光デバイスは、光源として液晶表示装置に組み込まれることが好ましい。半導体ナノ粒子によるバンド端発光は発光寿命の短いものであるため、これを用いた発光デバイスは、比較的速い応答速度が要求される液晶表示装置の光源に適している。また、本実施形態の半導体ナノ粒子は、バンド端発光として半値幅の小さい発光ピークを示し得る。したがって、発光デバイスにおいて:青色半導体発光素子によりピーク波長が420nm以上490nm以下の範囲内にある青色光を得るようにし、半導体ナノ粒子により、ピーク波長が510nm以上550nm以下、好ましくは530nm以上540nm以下の範囲内にある緑色光、及びピーク波長が600nm以上680nm以下、好ましくは630nm以上650nm以下の範囲内にある赤色光を得るようにする;又は発光デバイスにおいて、半導体発光素子によりピーク波長400nm以下の紫外光を得るようにし、半導体ナノ粒子によりピーク波長が430nm以上470nm以下、好ましくは440nm以上460nm以下の範囲内にある青色光、ピーク波長が510nm以上550nm以下、好ましくは530nm以上540nm以下の範囲内にある緑色光、及びピーク波長が600nm以上680nm以下、好ましくは630nm以上650nm以下の範囲内にある赤色光を得るようにすることによって、濃いカラーフィルターを用いることなく、色再現性の良い液晶表示装置が得られる。発光デバイスは、例えば、直下型のバックライトとして、又はエッジ型のバックライトとして用いられる。
【0122】
あるいは、半導体ナノ粒子を含む、樹脂もしくはガラス等からなるシート、板状部材、又はロッドが、発光デバイスとは独立した光変換部材として液晶表示装置に組み込まれていてよい。
【実施例0123】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0124】
実施例1
第1半導体ナノ粒子の合成
反応容器中にて、酢酸銀(AgOAc)400μmolと、酢酸インジウム(In(OAc))400μmolと、を蒸留精製したオレイルアミン(OLA)8mLと混合し、ドデカンチオール(1.25mmol、300μL)を添加してA液とした。これとは別に、1,3-ジメチルチオ尿素0.8mmolをオレイルアミン2mLに溶解してB液とした。A液を脱気してアルゴン雰囲気に置換し、140℃まで加熱した。その後、A液にB液を30分かけて滴下した(混合物中のAgの原子数に対するSの原子数の比の増加率0.067/分)。滴下終了後、液温を140℃のまま30分間保持した。続いて室温まで放冷し、遠心分離によって粗大粒子を除去した後、上澄みにメタノールを加えて第1半導体ナノ粒子を沈殿させ、遠心分離によって回収した。回収した固体をオレイルアミン2mLに分散させた。
【0125】
得られた第1半導体ナノ粒子についてX線回折(XRD)パターンを測定し、正方晶(カルコパイライト型)のAgInS及び斜方晶のAgInSと比較した。測定したXRDパターンを図1に示す。XRDパターンより、得られた第1半導体ナノ粒子の結晶構造は、斜方晶にみられる48°付近のピークが観察されなかったため、実質的に正方晶のAgInSとほぼ同じ構造であることを確認できた。なお、XRDパターンは、リガク社製の粉末X線回折装置(商品名SmartLab)を用いて測定した。
【0126】
また、得られた第1半導体ナノ粒子の形状を、透過型電子顕微鏡(TEM、(株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名H-7650)を用いて観察するとともに、その平均粒径を8万倍から20万倍のTEM像から測定した。ここでは、TEMグリッドとして、商品名ハイレゾカーボンHRC-C10 STEM Cu100Pグリッド(応研商事(株))を用いた。得られた粒子の形状は、球状もしくは多角形状と考えられる。平均粒径は、3か所以上のTEM像を選択し、これらに含まれているナノ粒子のうち、計測可能なものをすべて、すなわち、画像の端において粒子の像が切れているようなものを除くすべての粒子について、粒径を測定し、その算術平均を求める方法で求めた。実施例及び後述する比較例の両方において、3以上のTEM像を用いて、合計100点以上のナノ粒子の粒径を測定した。第1半導体ナノ粒子の平均粒径は4.68nm、標準偏差は0.36nmであった。
【0127】
続いて得られた第1半導体ナノ粒子に含まれるインジウムの物質量をICP発光分光(島津製作所、ICPS-7510)測定により求めたところ、43.5μmolであった。平均粒径が4.68nmである場合の第1半導体ナノ粒子の体積は、球状とした場合に53.67nmと算出される。また、正方晶である場合の硫化銀インジウム結晶の単位格子体積は0.38nm(格子定数0.528nm、0.5828nm、1.119nm)と算出されることから、第1半導体ナノ粒子の体積を単位格子体積にて除することにより第1半導体ナノ粒子1個の中に141個の単位格子が含まれていることが算出された。次に正方晶である場合の硫化銀インジウム結晶の1個の単位格子には4個のインジウム原子が含まれているため、ナノ粒子1個あたりには564個のインジウム原子が含まれていることが算出された。インジウムの物質量をナノ粒子1個あたりのインジウム原子数で除することにより半導体ナノ粒子の、ナノ粒子としての物質量は、77.1nmolであると算出された。
【0128】
半導体ナノ粒子(コアシェル型半導体ナノ粒子)の合成
ジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(Ga(DDTC))20μmol、ガリウムアセチルアセトナート(Ga(acac))80μmol、オレイルアミン7mlを測り取り、次いで上記で合成した第1半導体ナノ粒子のオレイルアミン分散液を、ナノ粒子濃度で30nmol相当分加えた。得られた溶液を100℃程度で脱気してアルゴン雰囲気に置換した後、230℃に達するまで急速昇温し(昇温速度約60℃/分)、230℃以降は2℃/分の速度でさらに280℃まで昇温し、280℃にて2分間熱処理した後放冷した。続いて120℃まで下がった段階で真空脱気操作を1分間行い、次いでArを導入してさらに80℃まで放冷し、ヘキサン、エタノールを加えた。室温まで放冷した後、遠心分離を行い、上澄み溶液のみを採取し、得られた上澄み溶液にメタノールを加え、遠心分離を行い、半導体ナノ粒子の沈殿物を得た。
【0129】
吸収、発光スペクトル及び量子収率の測定
半導体ナノ粒子の吸収、発光スペクトルを測定した。結果を表1に示す。吸収スペクトルを図2に、発光スペクトルを図3に示す。なお、吸収スペクトルは、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光製、商品名V-670)を用いて、波長範囲を350nmから850nmとして測定した。発光スペクトルは、分光蛍光光度計(日本分光製、商品名FP-8600)を用いて、量子収率については、蛍光スペクトル測定装置PMA-12(浜松ホトニクス社製)に積分球を取り付けた装置を用いて、室温(25℃)で、励起波長450nmで行い、350nmから1100nmの波長範囲で測定し、470nmから900nmの波長範囲より計算した。
【0130】
図2に示すように、半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいては500nm付近にわずかながらショルダーが見られ、580nm付近以降はほぼ吸収がないことを確認できたことから、400nmから580nm付近にエキシトンピークがあることが推測される。また、図3に示すように半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおいては572nm付近に半値幅が約39nmであるバンド端発光が観察され、バンド端発光の量子収率は21%であり、バンド端発光成分の純度は53%であった。
【0131】
比較例1
半導体ナノ粒子の合成
ガリウムアセチルアセトナート(Ga(acac))100μmol、1,3-ジメチルチオ尿素100μmolを測り取り、蒸留精製したオレイルアミン8mLに加え、次いで実施例1と同様にして合成した第1半導体ナノ粒子のオレイルアミン分散液を、ナノ粒子濃度で30nmol相当分加えた。得られた溶液を60℃程度で脱気してアルゴン雰囲気に置換した後、230℃に達するまで急速昇温し(昇温速度約60℃/分)、230℃以降は2℃/分の速度でさらに280℃まで昇温し、280℃にて30分間熱処理した。続いて室温まで放冷し、メタノールを加えて半導体粒子を沈殿させ、洗浄を行った後、得られた半導体ナノ粒子をクロロホルムに分散させた。
【0132】
吸収、発光スペクトル及び量子収率の測定
実施例1と同様にして半導体ナノ粒子の吸収、発光スペクトルを測定した。結果を表1に示す。図2には、実施例1の半導体ナノ粒子の最大吸光度で規格化した相対吸光度の吸光スペクトルを示し、図3には、実施例1の半導体ナノ粒子の最大発光強度で規格化した相対発光強度の発光スペクトルを示す。図2に示すように、半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいては500nm付近にわずかながらショルダーが見られ、580nm付近以降はほぼ吸収がないことを確認できたことから、400nmから580nm付近にエキシトンピークがあることが推測される。また、図3に示すように半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおいては579nm付近に半値幅が約41nmであるバンド端発光が観察され、バンド端発光の量子収率は15%であり、バンド端発光成分の純度は42%であった。
【0133】
比較例2
半導体ナノ粒子の合成
ジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(Ga(DDTC))100μmol、テトラデシルアミン7gを測り取り、次いで実施例1と同様にして合成した第1半導体ナノ粒子のオレイルアミン分散液を、ナノ粒子濃度で30nmol相当分加えた。得られた溶液を60℃程度で脱気してアルゴン雰囲気に置換した後、230℃に達するまで急速昇温し(昇温速度約60℃/分)、230℃以降は2℃/分の速度でさらに280℃まで昇温し、280℃にて2分間熱処理した後放冷した。続いて120℃まで下がった段階で真空脱気操作を1分間行い、次いでArを導入してさらに80℃まで放冷し、ヘキサン、エタノールを加えた。室温まで放冷した後、遠心分離を行い、上澄み溶液のみを採取し、得られた上澄み溶液にメタノールを加え、遠心分離を行い、半導体ナノ粒子の沈殿物を得た。
【0134】
吸収、発光スペクトル及び量子収率の測定
実施例1と同様にして半導体ナノ粒子の吸収、発光スペクトルを測定した。結果を表1に示す。図2には、実施例1の半導体ナノ粒子の最大吸光度で規格化した相対吸光度の吸光スペクトルを示し、図3には、実施例1の半導体ナノ粒子の最大発光強度で規格化した相対発光強度の発光スペクトルを示す。図2に示すように、半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいては500nm付近にわずかながらショルダーが見られ、580nm付近以降はほぼ吸収がないことを確認できたことから、400nmから580nm付近にエキシトンピークがあることが推測される。また、図3に示すように半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおいては577nm付近に半値幅が約33nmであるバンド端発光が観察され、バンド端発光の量子収率は9%であり、バンド端発光成分の純度は79%であった。
【0135】
実施例1で得られた半導体ナノ粒子は、比較例1および2と比べてバンド端発光量子収率が高くなることを確認した。
【0136】
実施例2
半導体ナノ粒子の合成
ジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(Ga(DDTC))20μmol、ガリウムアセチルアセトナート(Ga(acac))80μmol、テトラデシルアミン7gを測り取り、次いで実施例1と同様にして合成した第1半導体ナノ粒子のオレイルアミン分散液を、ナノ粒子濃度で30nmol相当分加えた。得られた溶液を60℃程度で脱気してアルゴン雰囲気に置換した後、ハロゲン化合物としてクロロホルム40μmolを注入し、230℃に達するまで急速昇温し(昇温速度約60℃/分)、230℃以降は2℃/分の速度でさらに280℃まで昇温し、280℃にて2分間熱処理した後放冷した。続いて120℃まで下がった段階で真空脱気操作を1分間行い、次いでArを導入してさらに80℃まで放冷し、ヘキサン、エタノールを加えた。室温まで放冷した後、遠心分離を行い、上澄み溶液のみを採取し、得られた上澄み溶液にメタノールを加え、遠心分離を行い、半導体ナノ粒子の沈殿物を得た。
【0137】
吸収、発光スペクトル及び量子収率の測定
実施例1と同様にして半導体ナノ粒子の吸収、発光スペクトルを測定した。結果を表1に示す。図4に示すように、半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいては500nm付近にわずかながらショルダーが見られ、580nm付近以降はほぼ吸収がないことを確認できたことから、400nmから580nm付近にエキシトンピークがあることが推測される。また、図5に示すように半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおいては566nm付近に半値幅が約34nmであるバンド端発光が観察され、バンド端発光の量子収率は68%であり、バンド端発光成分の純度は100%であった。
【0138】
実施例3
半導体ナノ粒子の合成
ジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(Ga(DDTC))20μmol、ガリウムアセチルアセトナート(Ga(acac))80μmol、塩化水素水溶液30μl(塩化水素として340μmol)、オレイルアミン7mlを測り取り、次いで実施例1と同様にして合成した第1半導体ナノ粒子のオレイルアミン分散液を、ナノ粒子濃度で30nmol相当分加えた。得られた溶液を100℃程度で脱気してアルゴン雰囲気に置換した後、230℃に達するまで急速昇温し(昇温速度約60℃/分)、230℃以降は2℃/分の速度でさらに260℃まで昇温し、260℃にて10分間熱処理した後放冷した。続いて120℃まで下がった段階で真空脱気操作を1分間行い、次いでArを導入して室温まで放冷した後、遠心分離を行い、上澄み溶液のみを採取し、得られた上澄み溶液にメタノールを加え、遠心分離を行い、半導体ナノ粒子の沈殿物を得た。
【0139】
吸収、発光スペクトル及び量子収率の測定
実施例1と同様にして半導体ナノ粒子の吸収、発光スペクトルを測定した。結果を表1に示す。図4には、実施例2の半導体ナノ粒子の最大吸光度で規格化した相対吸光度の吸光スペクトルを示し、図5には、実施例2の半導体ナノ粒子の最大発光強度で規格化した相対発光強度の発光スペクトルを示す。図4に示すように、半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいては500nm付近にわずかながらショルダーが見られ、580nm付近以降はほぼ吸収がないことを確認できたことから、400nmから580nm付近にエキシトンピークがあることが推測される。また、図5に示すように半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおいては573nm付近に半値幅が約40nmであるバンド端発光が観察され、バンド端発光の量子収率は75%であり、バンド端発光成分の純度は69%であった。
【0140】
実施例4
半導体ナノ粒子の合成
ジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(Ga(DDTC))20μmol、ガリウムアセチルアセトナート(Ga(acac))80μmol、塩化水素水溶液30μl(塩化水素として340μmol)、オレイルアミン7mlを測り取り、次いで実施例1と同様にして合成した第1半導体ナノ粒子のオレイルアミン分散液を、ナノ粒子濃度で30nmol相当分加えた。得られた溶液を100℃程度で脱気してアルゴン雰囲気に置換した後、230℃に達するまで急速昇温し(昇温速度約60℃/分)、230℃以降は2℃/分の速度でさらに280℃まで昇温し、280℃にて1分間熱処理した後放冷した。続いて120℃まで下がった段階で真空脱気操作を1分間行い、次いでArを導入して室温まで放冷した後、遠心分離を行い、上澄み溶液のみを採取し、得られた上澄み溶液にメタノールを加え、遠心分離を行い、半導体ナノ粒子の沈殿物を得た。
【0141】
吸収、発光スペクトル及び量子収率の測定
実施例1と同様にして半導体ナノ粒子の吸収、発光スペクトルを測定した。結果を表1に示す。図4には、実施例2の半導体ナノ粒子の最大吸光度で規格化した相対吸光度の吸光スペクトルを示し、図5には、実施例2の半導体ナノ粒子の最大発光強度で規格化した相対発光強度の発光スペクトルを示す。図4に示すように、半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいては500nm付近にわずかながらショルダーが見られ、580nm付近以降はほぼ吸収がないことを確認できたことから、400nmから580nm付近にエキシトンピークがあることが推測される。また、図5に示すように半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおいては576nm付近に半値幅が約37nmであるバンド端発光が観察され、バンド端発光の量子収率は76%であり、バンド端発光成分の純度は75%であった。
【0142】
実施例5
半導体ナノ粒子の合成
ジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(Ga(DDTC))20μmol、ガリウムアセチルアセトナート(Ga(acac))80μmol、臭化水素水溶液30μl(臭化水素として260μmol)、オレイルアミン7mlを測り取り、次いで実施例1と同様にして合成した第1半導体ナノ粒子のオレイルアミン分散液を、ナノ粒子濃度で30nmol相当分加えた。得られた溶液を100℃程度で脱気してアルゴン雰囲気に置換した後、230℃に達するまで急速昇温し(昇温速度約60℃/分)、230℃以降は2℃/分の速度でさらに280℃まで昇温し、280℃にて2分間熱処理した後放冷した。続いて120℃まで下がった段階で真空脱気操作を1分間行い、次いでArを導入して室温まで放冷した後、遠心分離を行い、上澄み溶液のみを採取し、得られた上澄み溶液にメタノールを加え、遠心分離を行い、半導体ナノ粒子の沈殿物を得た。
【0143】
吸収、発光スペクトル及び量子収率の測定
実施例1と同様にして半導体ナノ粒子の吸収、発光スペクトルを測定した。結果を表1に示す。図6に示すように、半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいては500nm付近にわずかながらショルダーが見られ、580nm付近以降はほぼ吸収がないことを確認できたことから、400nmから580nm付近にエキシトンピークがあることが推測される。また、図7に示すように半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおいては571nm付近に半値幅が約44nmであるバンド端発光が観察され、バンド端発光の量子収率は59%であり、バンド端発光成分の純度は73%であった。
【0144】
実施例6
半導体ナノ粒子の合成
ジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(Ga(DDTC))20μmol、ガリウムアセチルアセトナート(Ga(acac))80μmol、臭化水素水溶液60μl(臭化水素として520μmol)、オレイルアミン7mlを測り取り、次いで実施例1と同様にして合成した第1半導体ナノ粒子のオレイルアミン分散液を、ナノ粒子濃度で30nmol相当分加えた。得られた溶液を100℃程度で脱気してアルゴン雰囲気に置換した後、230℃に達するまで急速昇温し(昇温速度約60℃/分)、230℃以降は2℃/分の速度でさらに280℃まで昇温し、280℃にて2分間熱処理した後放冷した。続いて120℃まで下がった段階で真空脱気操作を1分間行い、次いでArを導入して室温まで放冷した後、遠心分離を行い、上澄み溶液のみを採取し、得られた上澄み溶液にメタノールを加え、遠心分離を行い、半導体ナノ粒子の沈殿物を得た。
【0145】
吸収、発光スペクトル及び量子収率の測定
実施例1と同様にして半導体ナノ粒子の吸収、発光スペクトルを測定した。結果を表1に示す。図6には、実施例5の半導体ナノ粒子の最大吸光度で規格化した相対吸光度の吸光スペクトルを示し、図7には、実施例5の半導体ナノ粒子の最大発光強度で規格化した相対発光強度の発光スペクトルを示す。図6に示すように、半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいては500nm付近にわずかながらショルダーが見られ、580nm付近以降はほぼ吸収がないことを確認できたことから、400nmから580nm付近にエキシトンピークがあることが推測される。また、図7に示すように半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおいては570nm付近に半値幅が約44nmであるバンド端発光が観察され、バンド端発光の量子収率は64%であり、バンド端発光成分の純度は78%であった。
【0146】
実施例7
半導体ナノ粒子の合成
ジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(Ga(DDTC))20μmol、ガリウムアセチルアセトナート(Ga(acac))80μmol、臭化水素水溶液90μl(臭化水素として770μmol)、オレイルアミン7mlを測り取り、次いで実施例1と同様にして合成した第1半導体ナノ粒子のオレイルアミン分散液を、ナノ粒子濃度で30nmol相当分加えた。得られた溶液を100℃程度で脱気してアルゴン雰囲気に置換した後、230℃に達するまで急速昇温し(昇温速度約60℃/分)、230℃以降は2℃/分の速度でさらに280℃まで昇温し、280℃にて2分間熱処理した後放冷した。続いて120℃まで下がった段階で真空脱気操作を1分間行い、次いでArを導入して室温まで放冷した後、遠心分離を行い、上澄み溶液のみを採取し、得られた上澄み溶液にメタノールを加え、遠心分離を行い、半導体ナノ粒子の沈殿物を得た。
【0147】
吸収、発光スペクトル及び量子収率の測定
実施例1と同様にして半導体ナノ粒子の吸収、発光スペクトルを測定した。結果を表1に示す。図6には、実施例5の半導体ナノ粒子の最大吸光度で規格化した相対吸光度の吸光スペクトルを示し、図7には、実施例5の半導体ナノ粒子の最大発光強度で規格化した相対発光強度の発光スペクトルを示す。図6に示すように、半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいては500nm付近にわずかながらショルダーが見られ、580nm付近以降はほぼ吸収がないことを確認できたことから、400nmから580nm付近にエキシトンピークがあることが推測される。また、図7に示すように半導体ナノ粒子の発光スペクトルにおいては569nm付近に半値幅が約43nmであるバンド端発光が観察され、バンド端発光の量子収率は57%であり、バンド端発光成分の純度は77%であった。
【0148】
【表1】
【0149】
実施例2から7で得られた半導体ナノ粒子は、比較例1および2と比べてバンド端発光量子収率が高くなることを確認した。また、実施例1と比べてもバンド端発光量子収率が高くなっていることから、半導体ナノ粒子合成時にハロゲン化合物を用いることによりバンド端発光量子収率が高くなることを確認できた。
【0150】
実施例8
第1半導体ナノ粒子の合成
0.1402mmolの酢酸銀(AgOAc)、0.06mmolの酢酸ナトリウム(NaOAc)、0.06mmolの酢酸インジウム(In(OAc))、0.24mmolのアセチルアセトナートガリウム(Ga(acac))および硫黄源として0.55mmolの硫黄単体を、0.25mLの1-ドデカンチオールと2.75mLのオレイルアミンの混合液に投入して分散させた。分散液を、撹拌子とともに試験管に入れ、窒素置換を行った後、窒素雰囲気下で、試験管内の内容物を撹拌しながら、第1段階の熱処理として150℃で10分、第2段階の熱処理として300℃で10分の熱処理を実施した。熱処理後、得られた懸濁液を放冷した後、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、得られた上澄みについてメンブランフィルター(細孔径:0.2μm)でろ過し分散液を取り出した。続いて分散液にメタノールを加えて、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、得られた沈殿にエタノールを加えて遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、第1半導体ナノ粒子を沈殿させた。沈殿物をクロロホルムに分散させて第1半導体ナノ粒子の分散液を得た。
【0151】
半導体ナノ粒子(コアシェル型半導体ナノ粒子)の合成
上記で得られた第1半導体ナノ粒子の分散液のうち、ナノ粒子としての物質量(粒子数)で1.0×10-5mmolを量りとり、試験管内で溶媒を蒸発させた後、3mLのオレイルアミンに分散させた。次いでこのオレイルアミン分散液を窒素雰囲気下で300℃に加熱したところで、8×10-5molのジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(Ga(DDTC))と8×10-5molの塩化ガリウム(GaCl)を含む6mLのオレイルアミン溶液を3mL/時間の速度にて滴下した後、さらに300℃で30分間加熱した。加熱源から取り出し常温まで放冷し、遠心分離(半径150mm、4000rpm、5分間)し、上澄み部分と沈殿部分とに分けた。その後、分けた上澄み液と沈殿部分のそれぞれにメタノールを加えて、遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、得られた沈殿にエタノールを加えて遠心分離(半径146mm、4000rpm、5分間)に付し、半導体ナノ粒子を沈殿させた。沈殿物をクロロホルムに分散させて半導体ナノ粒子分散液を得た。上澄みから取り出された半導体ナノ粒子の平均粒径を測定したところ、5nmであり、第1半導体ナノ粒子の平均粒径との差からシェルの厚さはそれぞれ平均で約0.5nmであった。沈殿から取り出された半導体ナノ粒子の平均粒径を測定したところ、7.1nmであり、第1半導体ナノ粒子コアの平均粒径との差からシェルの厚さはそれぞれ平均で約1.55nmであった。
【0152】
吸収、発光スペクトル及び量子収率の測定
得られた半導体ナノ粒子について、吸収および発光スペクトルを測定した。吸収スペクトルは、ダイオードアレイ式分光光度計(アジレントテクノロジー社製、商品名Agilent 8453A)を用いて、波長を190nm以上1100nm以下として測定した。発光スペクトルは、マルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス社製、商品名PMA11)を用いて、励起波長365nmにて測定した。実施例8の上澄みから回収された半導体ナノ粒子の発光スペクトルおよび吸収スペクトルを図8に、沈殿から回収された半導体ナノ粒子の発光スペクトルおよび吸収スペクトルを図9示す。
【0153】
【表2】
【0154】
実施例8で得られた半導体ナノ粒子は、比較例1および2と比べてバンド端発光量子収率が高くなることを確認した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9