(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022144073
(43)【公開日】2022-10-03
(54)【発明の名称】熱電変換層を有する積層体とその製造方法、及び発電モジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 35/32 20060101AFI20220926BHJP
H01L 35/22 20060101ALI20220926BHJP
H01L 35/34 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
H01L35/32 A
H01L35/22
H01L35/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021044919
(22)【出願日】2021-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 良次
(72)【発明者】
【氏名】前田 真一
(72)【発明者】
【氏名】伊左治 忠之
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生体安全性の高い材料から製造でき、柔軟性や薄型の熱電変換モジュールを実現できる熱電変換素子を提供及び複雑なプロセスを必要とせず、自立性を有する熱電変換素子を製造できる方法を提供する。
【解決手段】熱電変換素子は、第1の導電性基板1、第1の導電性基板の上側に設けられた熱電変換酸化物層2、熱電変換酸化物層の上側に設けられた第2の導電性基板3、をこの順で積層してなる。第2の導電性基板の外周は、熱電変換酸化物層の外周上又は外周よりも内側に形成される、熱電変換素子であって、各層の面積に関して[第1の導電性基板の面積]≧[熱電変換酸化物層の面積]≧[第2の導電性基板の面積]、かつ、[第1の導電性基板の面積]>[第2の導電性基板の面積]の関係が成立し、各層の厚さに関して[熱電変換酸化物層の厚さ]:〈[第1の導電性基板の厚さ]+[第2の導電性基板の厚さ]〉=1:1~1:10の関係が成立する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導電性基板、
第1の導電性基板の上側に設けられた熱電変換酸化物層、
熱電変換酸化物層の上側に設けられた第2の導電性基板、をこの順で積層してなり、
前記第2の導電性基板の外周は、前記熱電変換酸化物層の外周上又は外周よりも内側に形成される、熱電変換素子であって、
前記各層の面積に関して[第1の導電性基板の面積]≧[熱電変換酸化物層の面積]≧[第2の導電性基板の面積]、かつ、[第1の導電性基板の面積]>[第2の導電性基板の面積]の関係が成立し、
前記各層の厚さに関して[熱電変換酸化物層の厚さ]:〈[第1の導電性基板の厚さ]+[第2の導電性基板の厚さ]〉=1:1~1:10の関係が成立することを特徴とする、熱電変換素子。
【請求項2】
第1の導電性基板と熱電変換酸化物層との間に第1の導電性ペースト層が形成されてなり、熱電変換酸化物層と第2の導電性基板との間に第2の導電性ペースト層が形成されてなる、
請求項1に記載の熱電変換素子。
【請求項3】
前記熱電変換酸化物層は、0.5mm2~20mm2の面積を有する、
請求項1又は請求項2に記載の熱電変換素子。
【請求項4】
前記熱電変換酸化物層が、
一般式(1):
CaMn1-xM1
xOy (1)
(式中、M1は、Nb、Ta、Mo及びWからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、x、yは、0≦x≦0.1、2.8≦y≦3.2を満たす数である。)
で表されるペロブスカイト型カルシウムマンガン系酸化物を含む酸化物複合体からなるn型熱電変換層、又は、
一般式(2)もしくは一般式(3):
Ca3-pBipCo4Oq (2)
(式中、p、qは、0≦p≦1、8.5≦q≦10を満たす数である。)
Bi2Sr2-rCarCo2Ot (3)
(式中、r、tは、0.0≦r≦2.0、8.5≦t≦10を満たす数である。)
で表されるコバルト系酸化物を含む酸化物複合体からなるp型熱電変換層
である、
請求項1乃至請求項3のうちいずれか一項に記載の熱電変換素子。
【請求項5】
熱電変換素子の製造方法であって、
第1の導電性基板上に導電性ペーストを塗布し、焼成し、第1の導電性ペースト層を形成する工程、
該第1の導電性ペースト層上に、熱電変換酸化物層形成組成物を塗布し、被膜を形成する工程、
該被膜を300℃以上にて焼成し、熱電変換酸化物層を形成する工程、
別途、第2の導電性基板上に導電性ペーストを塗布し、乾燥し、第2の導電性ペースト層を形成する工程、
前記第1の導電性基板と前記前記第2の導電性基板を、熱電変換酸化物層と第2の導電性ペースト層が対向するように重ね、これを積層方向に300℃以上にて加圧プレスする工程、
とを含む、熱電変換素子の製造方法。
【請求項6】
熱電変換素子の製造方法であって、
第1の導電性基板上に導電性ペーストを塗布し、焼成し、第1の導電性ペースト層を形成する工程、
該第1の導電性ペースト層上に、熱電変換酸化物層形成組成物を塗布し、被膜を形成する工程、
該被膜を300℃以上にて焼成し、熱電変換酸化物層1を形成する工程、
別途、第2の導電性基板上に導電性ペーストを塗布し、焼成し、第2の導電性ペースト層を形成する工程、
該導第2の導電性ペースト層上に、熱電変換酸化物層形成組成物を塗布し、被膜を形成する工程、
該被膜を300℃以上にて焼成し、熱電変換酸化物層2を形成する工程、
前記第1の導電性基板と前記第2の導電性基板を、熱電変換酸化物層1と熱電変換酸化物層2が対向するように重ね、これを積層方向に300℃以上にて加圧プレスする工程、
とを含む、熱電変換素子の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載された熱電変換素子を複数個用い、p型熱電変換層を備えるp型熱電変換素子の未接合の端部を、n型熱電変換層を備えるn型熱電変換素子の未接合の端部に基板上で接続する方法で、複数の熱電変換素子を直列に接続してなる熱電発電モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換層を有する積層体及びその製造方法に関し、また該積層体を用いた発電モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エネルギーの有効利用手段の一つとして、ゼーベック効果やベルチェ効果などの熱電効果を有する熱電変換モジュールにより、熱エネルギーと電気エネルギーを直接相互変換するシステムが実用化されている。
近年、ウェアラブル・フレキシブルデバイス用の電源として、こうした熱電変換モジュールが注目され、熱電変換性能の向上のみならず、より環境・人体に対して安全性の高い材料の採用、柔軟性や伸縮性といったモジュールの屈曲性向上、そしてモジュールの薄型化への要求がある。
【0003】
例えば、樹脂薄膜基板上の実装ランド(兼接続電極)に微小な熱電素子チップを高密度に実装し、実装ランド間で基板の屈曲性を担保することでフレキシブル性を持たせた熱電変換モジュールが開示されている(特許文献1)。
また剥離層(犠牲層)を用いて熱電変換材料のチップを製造しこれを用いた熱電変換モジュールの提案がある(特許文献2)。
一方、薄膜化を可能とする塗布プロセスにより形成された熱電変換層を熱電変換素子として、熱電変換材料粉末に結着材を混合しペースト化したものを電極上面に薄膜状に硬化させた熱電変換素子が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-267316号公報
【特許文献2】国際公開第2020/045379号
【特許文献3】特開2008-270410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2は、実施例で熱電変換材料として使用されたビスマス-テルル系熱電半導体材料が使用されているが、該熱電半導体材料は、毒性や希少性が問題視されるテルル(Te)を構成元素として含む。加えて、特許文献1に開示された熱電変換モジュールは排水パイプへの取り付けを図ったものとみられ、熱電素子チップ自体が比較的厚く、ウェアラブルを想定した用途では生体安全性の高い材料を用いることや、さらなる薄膜化が望まれる。また特許文献2は、その製造過程において、熱電変換モジュール自体には不必要な剥離層の形成を要し、製造工程が煩雑化する。
特許文献3は、熱電変換材料として酸化物熱電半導体材料を用いている。しかし酸化物熱電半導体材料は、上記のビスマス-テルル系熱電半導体材料などの金属系材料と比べて脆く、自立性を有する熱電素子チップを得ることが難しい。そのため特許文献3では、熱電変換モジュールの基板上の電極の上に、酸化物熱電半導体材料を含む薄膜を形成した態様としており、該薄膜自体には自立性がなく取り扱い性に劣る。
【0006】
本発明は、生体安全性の高い材料から製造でき、柔軟性や薄型の熱電変換モジュールを実現できる、熱電変換素子を提供すること、また複雑なプロセスを必要とせず、自立性を有する熱電変換素子を製造できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記の課題を解決するべく鋭意検討し、熱電変換材料として安全性の高い熱電変換酸化物材料を用い、かつ該材料の課題とされた脆さを克服した熱電変換素子を提供できる製造方法を見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、第1観点として、
第1の導電性基板、
第1の導電性基板の上側に設けられた熱電変換酸化物層、
熱電変換酸化物層の上側に設けられた第2の導電性基板、をこの順で積層してなり、
前記第2の導電性基板の外周は、前記熱電変換酸化物層の外周上又は外周よりも内側に形成される、熱電変換素子であって、
前記各層の面積に関して[第1の導電性基板の面積]≧[熱電変換酸化物層の面積]≧[第2の導電性基板の面積]、かつ、[第1の導電性基板の面積]>[第2の導電性基板の面積]の関係が成立し、
前記各層の厚さに関して[熱電変換酸化物層の厚さ]:〈[第1の導電性基板の厚さ]+[第2の導電性基板の厚さ]〉=1:1~1:10の関係が成立することを特徴とする、熱電変換素子に関する。
第2観点として、第1の導電性基板と熱電変換酸化物層との間に第1の導電性ペースト層が形成されてなり、熱電変換酸化物層と第2の導電性基板との間に第2の導電性ペースト層が形成されてなる、第1観点に記載の熱電変換素子に関する。
第3観点として、前記熱電変換酸化物層は、0.5mm2~20mm2の面積を有する、第1観点又は第2観点に記載の熱電変換素子に関する。
第4観点として、前記熱電変換酸化物層が、
一般式(1):
CaMn1-xM1
xOy (1)
(式中、M1は、Nb、Ta、Mo及びWからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、x、yは、0≦x≦0.1、2.8≦y≦3.2を満たす数である。)
で表されるペロブスカイト型カルシウムマンガン系酸化物を含む酸化物複合体からなるn型熱電変換層、又は、
一般式(2)もしくは一般式(3):
Ca3-pBipCo4Oq (2)
(式中、p、qは、0≦p≦1、8.5≦q≦10を満たす数である。)
Bi2Sr2-rCarCo2Ot (3)
(式中、r、tは、0.0≦r≦2.0、8.5≦t≦10を満たす数である。)
で表されるコバルト系酸化物を含む酸化物複合体からなるp型熱電変換層
である、
第1観点乃至第3観点のうちいずれか一項に記載の熱電変換素子に関する。
第5観点として、熱電変換素子の製造方法であって、
第1の導電性基板上に導電性ペーストを塗布し、焼成し、第1の導電性ペースト層を形成する工程、
該第1の導電性ペースト層上に、熱電変換酸化物層形成組成物を塗布し、被膜を形成する工程、
該被膜を300℃以上にて焼成し、熱電変換酸化物層を形成する工程、
別途、第2の導電性基板上に導電性ペーストを塗布し、乾燥し、第2の導電性ペースト層を形成する工程、
前記第1の導電性基板と前記前記第2の導電性基板を、熱電変換酸化物層と第2の導電性ペースト層が対向するように重ね、これを積層方向に300℃以上にて加圧プレスする工程、
とを含む、熱電変換素子の製造方法に関する。
第6観点として、熱電変換素子の製造方法であって、
第1の導電性基板上に導電性ペーストを塗布し、焼成し、第1の導電性ペースト層を形成する工程、
該第1の導電性ペースト層上に、熱電変換酸化物層形成組成物を塗布し、被膜を形成する工程、
該被膜を300℃以上にて焼成し、熱電変換酸化物層1を形成する工程、
別途、第2の導電性基板上に導電性ペーストを塗布し、焼成し、第2の導電性ペースト層を形成する工程、
該導第2の導電性ペースト層上に、熱電変換酸化物層形成組成物を塗布し、被膜を形成する工程、
該被膜を300℃以上にて焼成し、熱電変換酸化物層2を形成する工程、
前記第1の導電性基板と前記第2の導電性基板を、熱電変換酸化物層1と熱電変換酸化物層2が対向するように重ね、これを積層方向に300℃以上にて加圧プレスする工程、
とを含む、熱電変換素子の製造方法に関する。
第7観点として、第4観点に記載された熱電変換素子を複数個用い、p型熱電変換層を備えるp型熱電変換素子の未接合の端部を、n型熱電変換層を備えるn型熱電変換素子の未接合の端部に基板上で接続する方法で、複数の熱電変換素子を直列に接続してなる熱電発電モジュール。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、柔軟性や薄型の熱電変換モジュールを実現でき、生体安全性の高い材料を使用した熱電変換素子を提供することができる。また本発明によれば、複雑なプロセスを必要とせず、自立性を有する熱電変換素子を製造できる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は本発明の熱電変換素子の一態様(a)及び(b)を示す図であり、断面図((a-1)、(b-1))及び上面図((a-2)、(b-2))を示す。
【
図2】
図2は実施例3で作製した熱電変換モジュールの製造手順を示す上面図を示す。
【
図3】
図3は実施例3で作製した熱電発電モジュールの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[熱電変換素子]
本発明の熱電変換素子(熱電変換層を有する積層体)は、第1の導電性基板、第1の導電性基板の上側に設けられた熱電変換酸化物層、熱電変換酸化物層の上側に設けられた第2の導電性基板、をこの順で積層してなり、前記第2の導電性基板の外周は、前記熱電変換酸化物層の外周上又は外周よりも内側に形成される、熱電変換素子である。
【0012】
本発明の熱電変換素子は、前記各層の面積に関して[第1の導電性基板の面積]≧[熱電変換酸化物層の面積]≧[第2の導電性基板の面積]、かつ、[第1の導電性基板の面積]>[第2の導電性基板の面積]の関係が成立する。
なお上記の積層構成を有する熱電変換素子において、第1の導電性基板と第2の導電性基板が接触する(導通する)と、熱電変換素子としての機能を成さないため、このような接触態様は事実上含まれない。こうした接触態様を避けるため、通常、前記第2の導電性基板の外周は、前記熱電変換酸化物層の外周上又は外周よりも内側に形成され得る、すなわち、前記第2の導電性基板は、前記熱電変換酸化物層の内部から外部に延在して配置される。また前記熱電変換酸化物層の外周は、前記第2の導電性基板の外周上又は外周よりも内側に形成され得るものとなる。
例えば好適な態様として[第1の導電性基板の面積]≧[熱電変換酸化物層の面積]>[第2の導電性基板の面積]の関係が成立する。すなわち
図1(a)に例示するように、
断面からみたとき(
図1(a-1))に第1の導電性基板1と熱電酸化物層2と第2の導電性基板3は、紙面上側になるにつれてよりその大きさが小さくなり、上部からみたとき(
図1(a-2))、熱電変換酸化物層2からはみ出さずに第2の導電性基板3が設けられた構成を有してなる。
【0013】
本発明の熱電変換素子は、該素子より組み立てた熱電変換モジュールのフレキシビリティ向上の観点から、その面積サイズは可能な限り小さいことが好ましい。
例えば、上記熱電変換酸化物層が0.5mm2~20mm2の大きさの素子とすることができ、好ましくは上記熱電変換酸化物層を1mm2~10mm2、例えば2mm2~5mm2の大きさとすることができる。
【0014】
また本発明の熱電変換素子は、前記各層の厚さに関して[熱電変換酸化物層の厚さ]:〈[第1の導電性基板の厚さ]+[第2の導電性基板の厚さ]〉=1:1~1:10の関係が成立する。
これまで提案された熱電変換素子は、熱電変換効率の観点から、通常、熱電変換層が上下両側の導電性基板と比べて比較的厚いものが多い。
本発明の熱電変換素子(積層体)においては、該素子より組み立てた熱電変換モジュールのフレキシビリティ向上の観点から、ただし熱電変換素子自体の自立性や熱電変換能を損なわない範囲において、熱電変換素子全体の厚さは可能な限り薄いことが望ましい。
例えば熱電変換素子全体が厚い場合、該素子が設けられた熱電変換モジュールを曲面に曲げたとき、該素子が曲面の内側に設けられている場合には素子と素子が接触する可能性があり、また該素子が曲面の外側に設けられている場合には素子と素子を連結する上部(曲面の外側)電極が引き伸ばされ切断する虞がある。
但し、本発明の熱電変換素子において、第1の導電性基板及び第2の導電性基板の厚さが薄すぎる場合、熱電変換酸化物層は後述するように酸化物を焼結して得られる比較的脆い層であるため、素子の自立性が保てなくなる虞があるので注意を要する。一方、第1の導電性基板及び第2の導電性基板を厚くしすぎると、熱電変換モジュールが過剰に熱を帯びたり、該モジュールの取扱い性が悪くなったり、コストの増加につながる虞がある。
これらを鑑み、本発明の熱電変換素子にあっては、熱電変換層の厚さを、その外側に位置する導電性基板の厚さとほぼ同等か、むしろ薄いものとなるように、すなわち上述の関係が成立するように構成する。好ましい態様において、本発明の熱電変換素子は、[熱電変換酸化物層の厚さ]:〈[第1の導電性基板の厚さ]+[第2の導電性基板の厚さ]〉=1:2~1:5の関係を満たすものとすることができる。
【0015】
本発明の熱電変換素子において、積層体を構成する各層の厚さは上述の事項を鑑み適宜設定できるが、例えば熱電変換層の厚さを50μm~200μmの範囲とすることができ、また熱電変換素子全体の厚さを100μm~2.2mmの範囲とすることができる。
【0016】
好ましい態様において、第1の導電性基板と熱電変換酸化物層との間に第1の導電性ペースト層が、熱電変換酸化物層と第2の導電性基板との間に第2の導電性ペースト層が設けられる。
これら導電性ペースト層を設けることにより、熱電変換層と導電性基板との間に良好な導電性を付与できるとともに、導電性ペースト層がアンカーの役割を果たし、導電性基板と熱電変換酸化物層との接合性(結着性)を向上させることができる。
またこれら導電性ペースト層は、その面積に関して、[第1の導電性基板の面積]≧[第1の導電性ペースト層]≧[熱電変換酸化物層の面積]≧[第2の導電性ペースト層]≧[第2の導電性基板の面積]の関係が成立する。好ましくは[第1の導電性基板の面積]≧[第1の導電性ペースト層]≧[熱電変換酸化物層の面積]>[第2の導電性ペースト層]≧[第2の導電性基板の面積]の関係が成立する(
図1(b)参照)。すなわち
図1(b)に例示するように、断面からみたとき(
図1(b-1))に第1の導電性基板1
、第1の導電性ペースト層4、熱電酸化物層2、第2の導電性ペースト層5、第2の導電性基板3は、紙面上側(第2の導電性基板3)になるにつれてよりその大きさが小さくなり、上部からみたとき(
図1(n-2))、熱電変換酸化物層2からはみ出さずに第2の導電性基板3が設けられた構成を有してなる。
また導電性ペースト層は、アンカー効果を発揮できる厚さを有し、一方で素子全体の厚さの増加を妨げないことが望ましく、例えばその厚みは1μm~50μm程度とすることができる。
【0017】
[第1の導電性基板、第2の導電性基板]
上記導電性基板(第1、第2)は、十分な電気伝導性を有する材料からなるものであれば特に限定されないが、熱電変換モジュールからの出力を高めるために電気抵抗率が低い基板であればより好ましい。例えば、シート状の導電性金属からなる基板、導電性セラミックス基板、導電性金属被覆を形成した絶縁性セラミックス基板等を用いることができる。
これらの中でも、熱電変換モジュールのフレキシビリティの観点、すなわち熱電変換素子自体をより薄くし、基板自体に屈曲性を有し、割れにくいという観点から、シート状の導電性金属を導電性基板材料として好ましく用いることができる。
【0018】
上記導電性金属としては、熱電変換モジュールの使用温度において、酸化及び熔融の生じない金属であればよく、例えば、銀、金、白金、パラジウム等の貴金属、これらの貴金属を30質量%程度以上、好ましくは70質量%程度以上含む貴金属合金、また銅、鉄、チタン、アルミニウム等の卑金属などを用いることができる。
上記シート状の導電性金属の具体例としては、銅箔、銀箔、金箔、鉄箔などが挙げられる。
中でも、価格、電気抵抗率、熱伝導度等の観点から銀箔(銀製シート)が好適に用いられ、例えば厚さが50μm~1mm程度の銀箔を好ましく用いることができる。
【0019】
[熱電変換酸化物層]
本発明において、熱電変換酸化物層を構成する材料は、後述する熱電変換酸化物層形成組成物に分散し、これを塗布して層形成可能であれば、熱電変換材料として既知の酸化物を用いることができる。別の観点からは、100℃におけるゼーベック係数が-50μV/K以上であるマンガン系酸化物やコバルト系酸化物が熱電変換材料であるとも言え、これら既知の酸化物を出発原料として使用することができる。
また上記熱電変換酸化物層において、上記酸化物の結晶性は限定されない。熱電変換層として良い特性を得るためには結晶である方が好ましいが、例えば、出発原料がアモルファスであったとしても、熱電変換酸化物層形成組成物を基板に塗布した後、結晶化のために焼成することで良好な特性の熱電変換酸化物層を得ることができる。
また、出発原料として、例えばマンガン系酸化物やコバルト系酸化物にその製造過程で残存するカーボン成分が含まれている場合でも、後述する焼成によってカーボン成分を分解することができれば、熱電特性の良好な熱電変換酸化物層を得ることができる。
また、同じようにマンガン系酸化物やコバルト系酸化物の酸素原子は、塗布後の焼成工程で導入することも可能であるため、酸素原子の含有量が化学量論比より少ないマンガン系酸化物やコバルト系酸化物を出発原料として用いることもできる。
つまり、後述するように、本発明の熱電変換酸化物層形成組成物を基板に塗布した後、適切な焼成処理によって熱電変換層として十分な特性が得ることが可能であれば、出発原料としての酸化物は十分な熱電変換特性を有さなくてもよい。
上記熱電変換層は、後述する一般式(1)で表されるペロブスカイト型カルシウムマンガン系酸化物を含む酸化物複合体からなるn型熱電変換層、又は下記一般式(2)もしくは(3)で表されるコバルト系酸化物を含む酸化物複合体からなるp型熱電変換層とすることができる。
【0020】
<ペロブスカイト型カルシウムマンガン系酸化物>
CaMn
1-xM
1
xO
y (1)
(式中、M
1は、Nb、Ta、Mo及びWからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、x、yは、0≦x≦0.1、2.8≦y≦3.2を満たす数である。)
一般式(1)で表される特に好ましいペロブスカイト型カルシウムマンガン系酸化物を表1に示す。
【表1】
【0021】
<コバルト系酸化物>
Ca
3-pBi
pCo
4O
q (2)
(式中、p、qは、0≦p≦1、8.5≦q≦10を満たす数である。)
Bi
2Sr
2-rCa
rCo
2O
t (3)
(式中、r、tは、0.0≦r≦2.0、8.5≦t≦10を満たす数である。)
一般式(2)又は式(3)で表される特に好ましいコバルト系酸化物を表2に示す。
【表2】
【0022】
[導電性ペースト層]
導電性ペースト層は導電性ペーストから形成した層である。
導電性ペースト層は、熱電変換層を導電性基板に接合させるための接合剤としての役割を果たし、銀、金、白金、パラジウム等の貴金属の一種又は二種以上の混合物を含む導電性金属を含む導電性ペーストから形成される。
上記導電性金属は、通常、粉末状として導電性ペーストに配合される。金属粉末の粒径については特に限定されないが、通常、粒度分布による50%平均粒径が0.05~50μm程度の範囲を有する粒径を有する粉末を用いることができる。
【0023】
[熱電変換素子の製造方法]
本発明の熱電変換素子、例えば導電性ペースト層を含む態様の熱電変換素子は、下記(1-1)~(1-5)工程より製造することができる。なお導電性ペースト層を含まない態様の場合、(1-1)及び(1-4)工程を省き、(1-2)工程の第1の導電性ペースト層を第1の導電性基板に、(1-5)工程の第2の導電性ペースト層を第2の導電性基板に読み替えればよい。
(1-1)第1の導電性基板上に導電性ペーストを塗布し、焼成し、第1の導電性ペースト層を形成する工程、
(1-2)該第1の導電性ペースト層上に、熱電変換酸化物層形成組成物を塗布し、被膜を形成する工程、
(1-3)該被膜を300℃以上にて焼成し、熱電変換酸化物層を形成する工程、
(1-4)別途、第2の導電性基板上に導電性ペーストを塗布し、乾燥し、第2の導電性ペースト層を形成する工程、
(1-5)前記第1の導電性基板と前記前記第2の導電性基板を、熱電変換酸化物層と第2の導電性ペースト層が対向するように重ね、これを積層方向に300℃以上にて加圧プレスする工程。
【0024】
また別の態様において、導電性ペースト層を含む本発明の熱電変換素子は、下記(2-1)~(2-7)工程より製造することができる。なお導電性ペースト層を含まない態様の場合、(2-1)及び(2-4)工程を省き、(2-2)工程の第1の導電性ペースト層を第1の導電性基板に、(2-5)工程の第2の導電性ペースト層を第2の導電性基板に読み替えればよい。
(2-1)第1の導電性基板上に導電性ペーストを塗布し、焼成し、第1の導電性ペースト層を形成する工程、
(2-2)該第1の導電性ペースト層上に、熱電変換酸化物層形成組成物を塗布し、被膜を形成する工程、
(2-3)該被膜を300℃以上にて焼成し、熱電変換酸化物層1を形成する工程、
(2-4)別途、第2の導電性基板上に導電性ペーストを塗布し、焼成し、第2の導電性ペースト層を形成する工程、
(2-5)該第2の導電性ペースト層上に、熱電変換酸化物層形成組成物を塗布し、被膜を形成する工程、
(2-6)該被膜を300℃以上にて焼成し、熱電変換酸化物層2を形成する工程、
(2-7)前記第1の導電性基板と前記前記第2の導電性基板を、熱電変換酸化物層1と熱電変換酸化物層2が対向するように重ね、これを積層方向に300℃以上にて加圧プレスする工程。
上記(2-1)~(2-3)工程、(2-4)~(2-6)工程は、前記(1-1)~(1-3)工程に倣い、(2-7)工程は前記(1-5)工程に倣い、実施することができる。
【0025】
(1-1)第1の導電性基板上に導電性ペーストを塗布し、焼成し、第1の導電性ペースト層を形成する工程:
本工程では、まず前記導電性基板上に、前記導電性ペーストをスクリーン印刷法等により塗布する。
塗布後、例えば100℃前後にて導電性ペーストに含まれる溶媒等を乾燥して、その後必要に応じて焼成する。焼成温度は特に限定されないが、例えば500~900℃程度の温度にて焼成することにより、導電性基板との接合を強固とし、また後述する熱電変換酸化物層に対してアンカー効果を担う層とすることができる。
【0026】
(1-2)該第1の導電性ペースト層上に、熱電変換酸化物層形成組成物を塗布し、被膜を形成する工程、
本工程で用いられる熱電変換酸化物層形成組成物は、前述の熱電変換材料、すなわち、ペロブスカイト型カルシウムマンガン系酸化物、又は、コバルト系酸化物と、分散媒とを含む。該熱電変換層形成組成物の調製方法は特に限定されず、反応(混合)容器に上記酸化物や分散媒等を適量添加し混合し、必要に応じて湿式粉砕やボールミル処理等を行ってもよい。
該組成物には、必要に応じて、例えば酸化物の分散性及び塗布性を改善する目的でエチルセルロース等の多糖類を、また導電補助剤として導電性ペースト等を含んでいてもよい。
【0027】
なお本発明において、上記酸化物(ペロブスカイト型カルシウムマンガン系酸化物、コバルト系酸化物)を分散媒に分散させるためには、該酸化物は粒子状であることが望ましく、その平均粒子径が1nm乃至100μm程度の酸化物を用いることにより、均一な分散液(熱電変換酸化物層形成組成物)が容易に調製できるため好ましい。なお粒子径が1
nm以下では粒子同士が凝集して分散しにくくなり、100μm以上では分散性が悪くなるのみならず、均一な熱電変換酸化物層が形成できない虞がある。分散液(組成物)の塗布性、熱電変換酸化物層の熱電特性等の観点から、該平均粒子径は好ましくは5μm以下であり、より好ましくは1μm以下である。ここで平均粒子径は、粒度分布による50%平均粒径として求められる。
なお、出発原料としての前記酸化物の平均粒子径は、1nm以上であればよく、仮に出発原料の粒子径が100μm以上であっても、分散媒等と混合した後、湿式粉砕やボールミル処理等によって粒子を粉砕することで分散媒に分散可能な粒子径の酸化物を得ればよい。
【0028】
上記分散媒としては、有機溶媒又は、絶縁性を有する水が好ましく用いられる。有機溶媒としては、例えば、テルピネオール(主成分はα-テルピネオール)、フェノキシエタノール等のアルコール、クロロホルム等の脂肪族ハロゲン系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性の極性溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、テトラメチルベンゼン、ピリジン等の芳香族系溶媒、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケントン等のケトン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、t-ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル系溶媒、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカンなどの炭化水素系溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒のうち、1種を単独で用いたり、2種以上を組み合わせて用いたりすることができる。
【0029】
上記熱電変換酸化物層形成組成物において、上記酸化物(ペロブスカイト型カルシウムマンガン系酸化物、コバルト系酸化物)の配合量(質量%)は、例えば0.1~90質量%とすることができる。酸化物の濃度が高すぎると該組成物は流動性を持たず、塗布法による熱電変換酸化物層を得ることが難しくなる。一方、固形分濃度が低すぎると該組成物は均一な膜が得られない。
上記導電補助剤として前述の導電性ペーストを配合する場合、その配合量は、上記熱電変換酸化物層形成組成物に対して、10~30質量%とすることができる。
【0030】
上記組成物を導電性ペースト層上(又は導電性基板上)に塗布し被膜を得る方法・装置は特に限定されない。例えば、スピンコート、ブレードコート、バーコート、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、ディップコート、スクリーン印刷等の塗布方法が使用され、これら方法に既知の装置を用いることができる。
【0031】
(1-3)該被膜を300℃以上にて焼成し、熱電変換酸化物層を形成する工程
本工程では、前記工程で得られた被膜を焼成して前記酸化物(ペロブスカイト型カルシウムマンガン系酸化物、コバルト系酸化物)を焼結させ、熱電変換酸化物層を得る。
上記被膜の焼成は、分散媒や多糖類等の熱電特性に関与しない成分や、例えばカーボン成分等の熱電特性に悪影響を与え得る成分を除去・分解する、前記酸化物の結晶化させる、また前記酸化物を焼結させるといった目的にて、該目的に叶う温度・時間にて実施され得、例えば酸化雰囲気中、300℃以上にて実施することができる。但し、焼成温度が高すぎるとペロブスカイト型カルシウムマンガン系酸化物やコバルト系酸化物が相転移して熱電特性が変化するため、焼成温度の上限は前記酸化物の相転移温度によって制限される。例えば、ペロブスカイト型カルシウムマンガン系酸化物としてCaMn0.98Mo0.02O3を使用する場合は、1300℃以上の焼成で熱電特性が変化するため、焼成温度は1300℃以下が好ましく、またコバルト系酸化物としてCa3Co4O9を使用する場合は、860℃に相転移温度を有するので、焼成温度は850℃以下が好ましい。
焼成は、オーブン等による加熱焼成の他、紫外線、可視光、フラッシュ光等の光照射を使用した光焼成(光焼結)にて行うことができる。また、加熱焼成と光焼成とを併用する
こともできる。
【0032】
(1-4)別途、第2の導電性基板上に導電性ペーストを塗布し、乾燥し、第2の導電性ペースト層を形成する工程
本工程は、導電性基板上に導電性ペーストを塗布し乾燥した後、焼成を実施しない以外は、前述の(1-1)工程と同様に実施できる。
【0033】
(1-5)前記第1の導電性基板と前記前記第2の導電性基板を、熱電変換酸化物層と第2の導電性ペースト層が対向するように重ね、これを積層方向に300℃以上にて加圧プレスする工程
本工程は、(1-1)~(1-3)工程にて得られた基板(第1の導電性基板-第1の導電性ペースト層-熱電変換酸化物層)と(1-4)工程で得られた基板(第2の導電性基板-第2の導電性ペースト層)を、これらの導電性基板が外側を向き、熱電変換酸化物層と第2の導電性ペースト層が対向するように重ねた後、これを積層方向(接合面に垂直方向)に加圧プレスする工程である。加圧プレス後、熱電変換酸化物層と第2の導電性ペースト層が接合して、積層体である熱電変換素子が得られる。
加圧プレスは、熱電変換層や導電性基板等が破損や変形しない程度の圧力にて、例えば1~20MPaにて、温度500~1000℃程度にて実施できる。
【0034】
なお本発明の製造方法によれば、第1の導電性基板の上にほぼ同等サイズの第1の導電性ペースト層、熱電変換酸化物層を形成し、一方、第1の導電性基板のサイズに比べて、第2の導電性基板のサイズを小さいもの(例えば第1の導電性基板の1/3~1/10のサイズ)を採用し、これらを対向させる際、(第1の導電性基板上の)熱電変換酸化物層の上に、複数の(第2の導電性ペースト層が形成された)第2の導電性基板を、適度な間隔を開けて配置させることができる。そして加圧プレスした後、1の第2の導電性基板と別の第2の導電性基板との間に露出してなる熱電変換酸化物層部分を積層方向(熱電変換酸化物層-第1の導電性ペースト層-第1の導電性基板)を切断することにより、複数の熱電変換素子を得ることが可能になる。
【0035】
本発明の熱電変換素子は、熱電変換酸化物層としてペロブスカイト型カルシウムマンガン系酸化物を含む酸化物複合体からなるn型熱電変換層を備える素子(以下、n型熱電変換素子)と、コバルト系酸化物を含む酸化物複合体からなるp型熱電変換層を備える素子(以下、p型熱電変換素子)とを、温度差方向と並列に配置し、これらn型/p型熱電変換素子の上下の接続配線によって複数の熱電変換素子を電気的に直列に接続し、直列接続の終端からリード線等を引き出すことにより、熱電変換モジュール(熱電発電モジュールともいう)を作成することができる。
【実施例0036】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に記載するが、本発明は以下の記述によって限定されるものではない。
【0037】
[Ca2.7Bi0.3Co4O9粉末の製造]
本実施例で用いたCa2.7Bi0.3Co4O9粉末は特開2003-246678号公報を参考にして、以下のように合成した。
まず、炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化ビスマス(Bi2O3)及び酸化コバルト(Co3O4)を化学量論比(Ca:Bi:Co=2.7:0.3:4)となるように秤量し、乳鉢で混合した。次いで、混合した試料をアルミナるつぼに入れ、空気中で800℃、10時間焼成し、得られた焼成物をめのう乳鉢と乳棒を用いて十分に混合し粉体を得た。この粉体を直径20mm、厚さ2~10mm程度の円盤状に加圧成形して成形体を得た。アルミナボートに金シートを敷き、その上に該成形体をのせて、空気中で880℃、
20時間焼成し、焼結体を得た。次いで、得られた焼結体を、めのう乳鉢と乳棒を用い粉砕して、さらに目開き38μmの金属篩を用いて、金属篩を通過したCa2.7Bi0.3Co4O9粉末を得た。
【0038】
[CaMn0.98Mo0.02O3粉末の製造]
本実施例で用いたCaMn0.98Mo0.02O3粉末は特開2009-117449号公報に開示の内容を参考にして、以下のように合成した。
まず、炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化マンガン(Mn2O3)、及び酸化モリブデン(MoO3)を化学量論比(Ca:Mn:Mo=1:0.98:0.02)になるよう秤量し、乳鉢で混合した。次いで、混合した試料をアルミナるつぼに入れ、空気中で1000℃、15時間仮焼し、仮焼後の生成物を乳鉢で粉砕・混合し粉体を得た。得られた粉体を直径20mm、厚さ2~10mm程度の円盤状に加圧成形して成形体を得た。アルミナボートに金シートを敷き、その上に該成形体をのせて、空気中で1250℃、12時間焼成する操作を2回繰り返すことによって、焼結体である単相のCaMn0.98Mo0.02O3を作製した。次いで、得られた焼結体を、めのう乳鉢と乳棒を用い粉砕して、さらに目開き38μmの金属篩を用いて、金属篩を通過したCaMn0.98Mo0.02O3粉末を得た。
【0039】
本実施例で使用したCa3Co4O9粉末は、(株)マウンテック製Macsorb HM model-1208により測定したとき、BET比表面積が70m2/gであるCa3Co4O9を使用した。
【0040】
[調製例1:熱電変換層形成液1の調製(1)]
Ca2.7Bi0.3Co4O9粉末(8g、100質量部)とCa3Co4O9粉末(2g、25質量部)とα-テルピネオール(8g、100質量部)をボトルに入れ、自転公転ミキサー((株)シンキー製、あわとり練太郎)を用いて2,000rpm、4分の条件で10回繰り返して混合し、熱電変換層形成液1(組成物C)を得た。
【0041】
[調製例2:熱電変換層形成液2の調製(2)]
CaMn0.98Mo0.02O3粉末(8g、100質量部)と銀ペースト(田中貴金属工業(株)製、製品名:MH-108A-10)(2g、25質量部)とα-テルピネオール(8g、100質量部)をボトルに入れ、自転公転ミキサー((株)シンキー製、あわとり練太郎)を用いて2,000rpm、4分の条件で10回繰り返して混合し、熱電変換層形成液2(組成物M)を得た。
【0042】
[実施例1:熱電変換素子1(p型熱電変換素子)の作製(1)]
銀箔1(厚さ50μm、大きさ20mm×20mm)の上に、銀ペースト(田中貴金属工業(株)製、製品名:MH-108A-10)をスクリーン印刷により塗布し、860℃にて焼成して銀ペースト層1を得た後、その上に熱電変換層形成液1(組成物C)を液厚200μmで塗布し、850℃にて焼成し、熱電変換層を得た。
別途、64枚の銀箔2(厚さ100μm、大きさ2mm×2mm)の上に銀ペースト(田中貴金属工業(株)製、製品名:MH-108A-10)をスクリーン印刷により塗布し、100℃で乾燥し、銀ペースト層2を得た。
次に、これら64枚の銀箔2を縦、横0.5mmの等間隔の隙間を設けてそれぞれ縦横8枚ずつになるよう配列し、銀箔1の熱電変換層と銀箔2の銀ペースト層2が対向するように重ね、これを積層方向に950℃にて加圧プレス(30kgf/cm2)した。熱電変換層は銀ペースト層2を介して銀箔2と強く接合し、一枚の薄片状の積層体を得た。
最後に、該積層体において、縦横8枚ずつ並べた銀箔2と銀箔2の隙間(0.5mm)に切断刃を通し、1片あたり約2.1~2.2mm×2.1~2.2mmサイズの小片切断し、銀箔1-銀ペースト層1-熱電変換層-銀ペースト層2-銀箔2の積層構成を有し
、二枚の銀箔の大きさが異なる(面積:銀箔1>銀箔2)熱電変換素子1(64個)を得た。得られた熱電変換素子1に割れや剥がれは見られなかった。
【0043】
[実施例2:熱電変換素子2(n型熱電変換素子)の作製(2)]
熱電変換層形成液1(組成物C)の代わりに、熱電変換層形成液2(組成物M)を用いた以外は、実施例1と同様の手順にて熱電変換素子2を作成した。熱電変換素子2に割れや剥がれは見られなかった。
【0044】
[比較例1]
銀箔H1(厚さ200μm、大きさ20mm×20mm)の上に、銀ペースト(田中貴金属工業(株)製、製品名:MH-108A-10)をスクリーン印刷により塗布し、860℃にて焼成して銀ペースト層H1-1を得た後、その上に熱電変換層形成液1(組成物C)を液厚200μmで塗布し、850℃にて焼成し、熱電変換層H1-1を得た。
別途、銀箔H2(厚さ200μm、大きさ20mm×20mm)の上に、銀ペースト(田中貴金属工業(株)製、製品名:MH-108A-10)をスクリーン印刷により塗布し、860℃にて焼成して銀ペースト層H1-2を得た後、その上に熱電変換層形成液1(組成物C)を液厚200μmで塗布し、850℃にて焼成し、熱電変換層H1-2を得た。
銀箔1と銀箔2を、熱電変換層H1-1と熱電変換層H1-2が対向するように重ね、450℃で加熱し、有機成分を除去した後、積層方向に930℃にて加圧プレス(30kgf/cm2)した。熱電変換層H1-1と熱電変換層H1-2は強く接合し、一枚の薄片状の積層体を得た。
最後に、該積層体を切断機を用いて2.0mm×2.0mmサイズの小片に切断しようとしたところ、刃を当てた側の銀箔が切断の衝撃によって熱電変換層から剥がれ、積層体を維持した小片の素子を得ることはできなかった。
【0045】
[比較例2]
PETシート(厚さ220μm、大きさ4mm×7mm)の上に銀ペースト(田中貴金属工業(株)製、製品名:MH-108A-10)をスクリーン印刷により塗布し、100℃にて乾燥して銀ペースト層H2-1を得た後、その上に熱電変換層形成液1(組成物C)を液厚200μmで塗布し、850℃にて焼成し、熱電変換層H2を得た。
次に、該熱電変換層の上に、銀ペースト(田中貴金属工業(株)製、製品名:MH-108A-10)をスクリーン印刷(条件)により塗布し、100℃にて乾燥し、銀ペースト層H2-2を得た。
最後に、このシートを積層方向に950℃にて加圧プレス(30kgf/cm2)した。プレス後、熱電変換層H2の両面に銀の膜が形成された薄片が得られたが、持ち上げると崩壊し、自立性を有する素子を得るには至らなかった。
【0046】
[抵抗値の測定]
上述の手順にて得られた熱電変換素子1と熱電変換素子2について、抵抗値を測定した結果、いずれも約0.8Ωを示した。
なお、抵抗値の測定は直流四端子法により行った。銀箔1及び銀箔2の表面に白金線を銀ペーストを用いて接続し、それぞれの白金線に電流計と電圧計に接続し、1mA又は10mAで通電してその際の電圧を計算し、電流(横軸)-電圧(縦軸)直線の傾きを電気抵抗とした。
【0047】
[実施例3 熱電変換モジュール(熱電発電モジュール)の作製]
実施例1で得られた熱電変換素子1(p型熱電変換素子)と実施例2で得られた熱電変換素子2(n型熱電変換素子)を用いて、熱電変換モジュールを作製した。
まず、片面に粘着層を有する34mm×38mm角、厚さ65μmのカプトン(ポリイ
ミド)フィルム上に、2mm×5mm、厚さ100μmの銀シート1を1.5mmの隙間を開け、50枚を配列し、粘着性を用い固定した(
図2(A))。
各銀シート1の両端から2mm程度内側まで、導電性の銀ペースト(ダイボンディングペースト、商品名:DBC130SD)を塗布した。銀ペースト上に実施例1の熱電変換素子1(図中、p型素子)と実施例2の熱電変換素子2(図中、n型素子)を1枚ずつ交互に合計で50枚ずつ乗せて、180℃、20分間、空気中で加熱し、銀ペーストを固化した。この時、各熱電変換素子の面積の大きい銀箔1側を銀ペーストと接着した(
図2(B))。
次に、各熱電変換素子の面積の小さい銀箔2上に、銀箔からはみ出ないよう導電性の銀ペースト(ダイボンディングペースト、商品名:DBC130SD)を塗布した。その上に長さ5mm、幅1mm、厚さ100μmの銀シート2を、前記の銀シート1で接続されていない、隣接の熱電変換素子1と熱電変換素子2とを接続するように載置した。こうして50対の熱電変換素子を直列に接続し、両末端の熱電変換素子には、長さ80mmの銀シート3を接続し、電力の取り出し線とした(
図2(C))。
最後に、ホットプレートを用いて180℃で20分間、空気中で加熱し、銀ペーストを固化して、50対のp型熱電変換素子-n型熱電変換素子で構成される熱電変換モジュールを作製した。
図3に得られた熱電変換モジュールの断面図を示す。得られた熱電変換モジュールは柔軟性があった。
【0048】
上記熱電変換モジュールの発電出力を、四端子法により測定した。一対の端子は、直流電流計に接続し、外部負荷を変動させながら該熱電変換モジュールが出力する電流を計測した。それと同時に、電圧計に接続したもう一対の端子で電圧を計測した。
熱電変換モジュールのカプトン側の面をホットプレートで加熱し、反対面に伝熱性で、電気絶縁性のフィルムを乗せ、その上にアルミニウム製の放熱フィンを乗せて熱電変換素子に温度差をつけた。熱電変換モジュールの取り出し線(
図2(C)及び
図3:銀シート3)に外部抵抗を接続し、その値を変化させながら電圧と電流を計測し、電圧×電流から最大発電出力を得た。表3にホットプレートの表面温度と、発電出力の結果を示した。
【0049】
【0050】
表3に示すように、本発明の熱電変換素子(p型熱電変換素子、n型熱電変換素子)を用いて作製した熱電変換モジュールは熱電変換能を有し、熱エネルギー量(ホットプレートの表面温度)の増加に応じて最大発電出力が増加したことが確認された。