(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022147847
(43)【公開日】2022-10-06
(54)【発明の名称】多孔質吸音材の設計方法及び設計装置
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20220929BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20220929BHJP
【FI】
G06F17/50 604A
G06F17/50 612H
G06F17/50 638
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021049288
(22)【出願日】2021-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】501241645
【氏名又は名称】学校法人 工学院大学
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 崇史
【テーマコード(参考)】
5B046
5B146
【Fターム(参考)】
5B046FA06
5B046GA01
5B046HA05
5B046JA01
5B146AA10
5B146DC01
5B146DG02
5B146DJ07
5B146EA08
(57)【要約】
【課題】多孔質吸音材の微視構造を直接設計する。
【解決手段】設計装置10の特性演算部18は、値が設定された設計変数を用いて均質化特性及び均質化質量密度を求め、均質化特性及び体積制約条件からマクロスケールにおける構造特性を演算する。また、設計感度演算部24は、均質化特性及び均質化質量密度に基づいてマクロスケール及びミクロスケールの各々における目的関数の設計感度を演算し、更新部26は、数理的な最適化アルゴリズムを用いて設計変数の値を更新し、評価部20が目的関数の演算値を評価する。これにより、診断装置10では、多孔質吸音材の微視構造及び巨視構造を直接設計できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設計する多孔質吸音材の体積の制約条件が設定されることで、
前記多孔質吸音材のミクロスケールにおける設計変数の値が更新された場合に更新された値を適用し、値が更新される前は予め設定された初期値を適用し、該設計変数を用いてミクロスケールにおける境界値問題を解くことでマクロスケールにおける均質化特性を求め、
前記均質化特性及び前記制約条件からマクロスケールにおける前記多孔質吸音材の性能指標を同定できると共に、目的関数を導出できる構造特性を取得した後、
値が更新された前記設計変数が用いられて取得された前記構造特性から導出された前記目的関数の演算値が、値の更新前の前記設計変数が用いられて取得された前記構造特性から導出された前記目的関数の演算値に収束しているか否かを評価し、
前記目的関数の演算値が収束したと評価されない場合に、前記構造特性及び前記均質化特性に基づいてマクロスケールにおける前記目的関数の前記設計変数に対する設計感度と、ミクロスケールにおける前記目的関数の前記設計変数に対する設計感度を求め、
前記マクロスケールにおける設計感度及び前記ミクロスケールにおける設計感度から数理的な最適化アルゴリズムを用いて前記設計変数の値を更新し、
前記目的関数の演算値が収束したと評価された場合に、前記値が更新された前記設計変数の前記均質化特性を前記設計する多孔質吸音材に適用する多孔質吸音材の設計方法。
【請求項2】
前記マクロスケールにおける均質化特性は、均質化マクロ特性としての流体相の等価密度ρfc
ki、流体相の等価体積弾性率Kf、流体相の均質化連成係数テンソルκH
ij、固体相の均質化弾性テンソルθs,pq、流体相の静水圧下における均質化体積ひずみ率θf、及び流体相の均質化透水率テンソルdk
iを含む請求項1に記載の多孔質吸音材の設計方法。
【請求項3】
前記マクロスケールにおける前記目的関数は、マクロスケールにおいて、弾性体、音場、及び多孔質体の連成系に拡張した目的関数である請求項1又は請求項2に記載の多孔質吸音材の設計方法。
【請求項4】
前記ミクロスケールにおける前記目的関数は、ミクロスケールにおける均質化弾性テンソルCH、固体相と液体相との間の連成係数Θs、相対速度の特性関数のミクロスケールの単位領域における体積平均d、及び温度の特性関数の前記単位領域における体積平均hを含む請求項1から請求項3の何れか1項に記載の多孔質吸音材の設計方法。
【請求項5】
設計する多孔質吸音材の体積の制約条件を受け付ける受付手段と、
前記設計する多孔質吸音材のミクロスケールにおける設計変数の初期値を設定する設定手段と、
前記設計変数について、値が更新される前は前記設定手段により設定された値を適用し、値が更新された後は更新された値を適用し、該設計変数を用いてミクロスケールにおける境界値問題を解くことでマクロスケールにおける均質化特性を求め、前記均質化特性及び前記制約条件からマクロスケールにおける前記多孔質吸音材の性能指標を同定できると共に、目的関数を導出できる構造特性を取得する第1演算部と、
値が更新された前記設計変数が用いられて取得された前記構造特性から導出された前記目的関数の演算値が、値の更新前の前記設計変数が用いられて取得された前記構造特性から導出された前記目的関数の演算値に収束しているか否かを評価する評価部と、
前記目的関数の演算値が収束したと評価されない場合に、前記構造特性及び前記均質化特性に基づいてマクロスケールにおける前記目的関数の前記設計変数に対する設計感度と、ミクロスケールにおける前記目的関数の前記設計変数に対する設計感度を求める第2演算部と、
前記マクロスケールにおける設計感度及び前記ミクロスケールにおける設計感度から数理的な最適化アルゴリズムを用いて前記設計変数の値を更新する更新部と、
前記目的関数の演算値が収束したと評価された場合に、前記設計する多孔質吸音材に対して前記値が更新された前記設計変数の前記均質化特性及び前記構造特性の少なくとも一方を出力する出力部と、
を含む多孔質吸音材の設計装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡系吸音材や繊維系吸音材などの多孔質吸音材の設計方法及び設計装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両の内部や建物の内部などの各種の空間には、多孔質吸音材が用いられており、これらの空間は、多孔質吸音材により内部の静粛性が図られて高い快適性が得られる。多孔質吸音材の代表的な性能指標には吸音率があり、多孔質吸音材は、所望の吸音率等が得られるように構造の確認や構造設計が行われる。
【0003】
ここから、特許文献1には、数理モデルとしてビオ(Biot)モデルを用い、多孔質材料の音響性能を計算する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、多孔質吸音材の微視構造を設計する手法としては、Biotパラメータを均質化法により数値実験により同定し、Biotモデル(Biot's Model)を用いる手法が考えられる。この手法では、多孔質吸音材の微視構造に対して空孔径などをパラメータとしたモデルを複数作成し、複数のモデルの各々に対して均質化法を用いて流体相の等価密度などのマクロ特性を算出する。次に、Biotモデルにおいて、均質化法を用いて得られたマクロ特性と一致するようにBiotパラメータを同定し、微視構造パラメータとBiotパラメータとを関連付ける。これにより、Biotモデルにおいて、微視構造のパラメータの設計変更による吸音率などの音響特性などを算出可能になる。
【0006】
一方、吸音率などの特性(性能指標)が所望の特性となる多孔質吸音材の微視構造を直接的に設計する要求がある。しかし、Biotモデルを用いる手法では、遺伝的アルゴリズムなどの探索的設計手法を用いて、所望の音響特性を有する微視構造を設計する。このためBiotモデルを用いる手法では、既存の微視構造の設計変更はできても、微視構造の形や寸法などの形態を直接設計することができず、独立的な微視構造を設計することはできない。
【0007】
本発明は、上記事実を鑑みて成されたものであり、所望の特性(性能指標)の多孔質吸音材を直接設計できる多孔質吸音材の設計方法及び設計装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の態様の多孔質吸音材の設計方法は、設計する多孔質吸音材の体積の制約条件が設定されることで、前記多孔質吸音材のミクロスケールにおける設計変数の値が更新された場合に更新された値を適用し、値が更新される前は予め設定された初期値を適用し、該設計変数を用いてミクロスケールにおける境界値問題を解くことでマクロスケールにおける均質化特性を求め、前記均質化特性及び前記制約条件からマクロスケールにおける前記多孔質吸音材の性能指標を同定できると共に、目的関数を導出できる構造特性を取得した後、値が更新された前記設計変数が用いられて取得された前記構造特性から導出された前記目的関数の演算値が、値の更新前の前記設計変数が用いられて取得された前記構造特性から導出された前記目的関数の演算値に収束しているか否かを評価し、前記目的関数の演算値が収束したと評価されない場合に、前記構造特性及び前記均質化特性に基づいてマクロスケールにおける前記目的関数の前記設計変数に対する設計感度と、ミクロスケールにおける前記目的関数の前記設計変数に対する設計感度を求め、前記マクロスケールにおける設計感度及び前記ミクロスケールにおける設計感度から数理的な最適化アルゴリズムを用いて前記設計変数の値を更新し、前記目的関数の演算値が収束したと評価された場合に、前記値が更新された前記設計変数の前記均質化特性を前記設計する多孔質吸音材に適用する。
【0009】
第2の態様の多孔質吸音材の設計方法は、第1の態様において、前記マクロスケールにおける均質化特性は、均質化マクロ特性としての流体相の等価密度ρfc
ki、流体相の等価体積弾性率Kf、流体相の均質化連成係数テンソルκH
ij、固体相の均質化弾性テンソルθs,pq、流体相の静水圧下における均質化体積ひずみ率θf、及び流体相の均質化透水率テンソルdk
iを含む。
【0010】
第3の態様の多孔質吸音材の設計方法は、第1又は第2の態様において、前記マクロスケールにおける前記目的関数は、マクロスケールにおいて、弾性体、音場、及び多孔質体の連成系に拡張した目的関数である。
【0011】
第4の態様の多孔質吸音材の設計方法は、第1から第3の何れか1の態様において、前記ミクロスケールにおける前記目的関数は、ミクロスケールにおける均質化弾性テンソルCH、固体相と液体相との間の連成係数Θs、相対速度の特性関数のミクロスケールの単位領域における体積平均d、及び温度の特性関数の前記単位領域における体積平均hを含む。
【0012】
本発明の態様の多孔質吸音材の設計装置は、設計する多孔質吸音材の体積の制約条件を受け付ける受付手段と、前記設計する多孔質吸音材のミクロスケールにおける設計変数の初期値を設定する設定手段と、前記設計変数について、値が更新される前は前記設定手段により設定された値を適用し、値が更新された後は更新された値を適用し、該設計変数を用いてミクロスケールにおける境界値問題を解くことでマクロスケールにおける均質化特性を求め、前記均質化特性及び前記制約条件からマクロスケールにおける前記多孔質吸音材の性能指標を同定できると共に、目的関数を導出できる構造特性を取得する第1演算部と、値が更新された前記設計変数が用いられて取得された前記構造特性から導出された前記目的関数の演算値が、値の更新前の前記設計変数が用いられて取得された前記構造特性から導出された前記目的関数の演算値に収束しているか否かを評価する評価部と、前記目的関数の演算値が収束したと評価されない場合に、前記構造特性及び前記均質化特性に基づいてマクロスケールにおける前記目的関数の前記設計変数に対する設計感度と、ミクロスケールにおける前記目的関数の前記設計変数に対する設計感度を求める第2演算部と、
前記マクロスケールにおける設計感度及び前記ミクロスケールにおける設計感度から数理的な最適化アルゴリズムを用いて前記設計変数の値を更新する更新部と、前記目的関数の演算値が収束したと評価された場合に、前記設計する多孔質吸音材に対して前記値が更新された前記設計変数の前記均質化特性及び前記構造特性の少なくとも一方を出力する出力部と、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の態様では、均質化法及びトポロジー最適化手法を用いることで、多孔質吸音材のマクロスケールにおけるモデル(微視構造)の形態を直接設計する。また、本態様においては、トポロジー最適化手法における密度法を用い、微視構造において定義された設計変数に対し、マクロスケールにおいて定義された構造特性から得られる目的関数の設計感度を求め、数理的な最適化アルゴリズムを用いることで設計変数を更新する。
【0014】
本発明の態様では、多孔質吸音材を設計するための設計変数を最適化できる。これにより、本発明の態様では、既存の構造に影響されない独立的な多孔質吸音材の微視構造を直接設計できる。また、本発明の態様では、独立的な微視構造が周期的に配列された多孔質吸音材のマクロスケールのモデル(巨視構造)を直接設計できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る設計装置の機能ブロック図である。
【
図2】設計装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】多孔質吸音材の概略構造の一例を示す模式図である。
【
図4】多孔質吸音材の設計処理の概略を示す流れ図である。
【
図5】設計装置における設計処理の概略を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態では、多孔質吸音材を設計対象としている。多孔質吸音材(多孔質吸音体)の特徴的な性能指標には、吸音率などがあり、多孔質吸音材では、吸音率などの性能指標が微視構造に依存していることが知られている。本実施形態では、性能指標が最適化された多孔質吸音材の微視構造を直接設計することで、性能指標が最適化された多孔質吸音材を設計する。
【0017】
図1には、本実施形態に係る多孔質吸音材の設計装置としての設計装置10が機能ブロック図にて示され、
図2には、設計装置10の概略構成がブロック図にて示されている。また、
図3には、多孔質吸音材の概略構成が模式図にて示され、
図4には、本実施形態における設計処理が流れ図にて示されている。
【0018】
一般的な多孔性吸音材は、基材となる固体相と、数μmから数百μmの径の流路からなる流体相とが混在した構造を成している。また、多孔質吸音材には、ウレタン樹脂などの発泡系吸音材や、流体相の体積分率が100%に近いグラスウールなどの繊維系吸音材がある。本実施形態では、設計対象の多孔質吸音材として発泡系吸音材のみならず繊維系吸音材も含んでいる。
【0019】
図3に示すように、多孔質吸音材(マクロスケール)は、ミクロスケールのモデルとしての微視構造により形成されている。多孔質吸音材のマクロスケールのモデル(巨視構造)は、微視構造が周期的に配列されて形成されているものとする。これにより、本実施形態では、多孔質吸音材に適用できるように拡張された均質化法により、巨視構造における吸音率等の多孔質吸音材の性能指標に影響する微視構造を直接計算する。
【0020】
また、本実施形態では、基本的な構造変更が可能となるトポロジー最適化手法を多孔質吸音材の微視構造設計に適用することで、性能指標が最適化された微視構造を直接計算によって設計する。すなわち、本実施形態では、均質化法及びトポロジー最適化手法を用いて微視構造の形態(トポロジー:topology)を直接設計する。微視構造におけるトポロジーには、形及び寸法が含まれ、本実施形態では、最適化した微視構造の形及び寸法を設計することを含む。
【0021】
また、トポロジー最適化においては、密度法を適用し、微視構造において定義された設計変数に対し、マクロスケール及びミクロスケールにおいて定義される目的関数の設計感度を求め、数理的な最適化アルゴリズムを用いて設計変数を更新することで微視構造の形態を最適化できる設計変数を求める。
【0022】
図2に示すように、設計装置10は、CPU(Central Processing Unit)12A、ROM(Read Only Memory)12B、RAM(Random Access Memory)12C、ストレージ12D、通信インタフェース12E、表示部12F及び操作部12Gの構成を有し、各構成がバス12Hを介して相互に通信(データ交換)可能に接続された一般的構成のマイクロコンピュータ(図示省略)を備えている。
【0023】
RAM12Cは、作業領域として用いられ、RAM12Cには、一時的にプログラムやデータが記憶される。ストレージ12Dは、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)などにより構成される。ROM12B及びストレージ12Dには、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データが格納される。
【0024】
通信インタフェース12Eは、サーバ、印刷機等の他の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。操作部12Gは、マウス等のポインティングデバイス、及びキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。また、表示部12Fは、例えば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部12Fは、タッチパネル方式を採用して、操作部12Gの機能が含まれてもよい。
【0025】
設計装置10では、CPU12AがROM12B及びストレージ12Dに記憶された各種プログラムを読み出して、RAM12Cに展開しながら実行することで、各種プログラムに応じた機能が実現される。設計装置10では、ROM12B及びストレージ12Dに多孔質吸音材の構造設計のための多孔質吸音材の設計プログラムが記憶されており、設計装置10は、CPU12AがROM12B及びストレージ12Dから多孔質吸音材の設計プログラムを読み出して実行することで、多孔質吸音材の設計装置としての機能が実現される。設計プログラムは、通信インタフェースが用いられて接続されるネットワークを介して取得されてもよく、通信プログラムが記憶された記憶媒体が設計装置10に装着されることで、記憶媒体から読み込まれて取得されてもよい。
【0026】
図1に示すように、設計装置10は、受付手段としての受付部14、設定手段としての初期値設定部16、第1演算部としての特性演算部18、評価部20、及び出力部22を備える。また、設計装置10は、第2演算部を構成する設計感度演算部24、及び更新部26を備えている。受付部14は、表示部12F及び操作部12Gによって実現され、出力部22は、通信インタフェース12Eや表示部12F等によって実現される。また、設計装置10では、CPU12Aが所定のプログラムを実行することで初期値設定部16、特性演算部18、評価部20、設計感度演算部24及び更新部26の各機能が実現される。
【0027】
また、設計装置10では、特性演算部18、評価部20、出力部22、設計感度演算部24、及び更新部26が協働して以下に説明する各機能が実現されるように動作する。
【0028】
本実施形態において、設計装置10は、均質化法とトポロジー最適化手法とを用い、微視構造の形態(トポロジー:topology)を直接設計する。また、設計装置10は、トポロジー最適化における密度法を用い、微視構造において定義される設計変数に対し、マクロスケール及びミクロスケールにおいて定義される目的関数の設計感度を求める。また、設計装置10では、設計感度に基づき数理的な最適化アルゴリズムを用いて微視構造の形態が最適化されるように設計変数を更新する。さらに、設計装置10では、更新された設計変数が用いられて演算されることで吸音率等の多孔質吸音材の性能指標を最適化する。
【0029】
本実施形態において適用する均質化法は、多孔質吸音材に適用できるように拡張されている(例えば、Yamamoto, T., et al.,A generalized macroscopic model for sound-absorbing poroelastic media using a Homogenization method. Computer Methods in Applied Mechanics and Engineering,Vol.200.(2011),pp.251-264.参照)。本実施形態では、多孔質吸音材に適用できるように拡張された均質化法を適用する。
【0030】
図3に示すように、均質化法においては、周期的な微視構造を有する多孔質吸音材を想定する。均質化法において多孔質吸音材のミクロスケールにおける方程式は、固体相について線形弾性体の平衡式・構成式・変位-ひずみ関係式とし、流体相の流れ場について微小変位を仮定したナビエ-ストーク(Navier-Stokes)の方程式とする。
【0031】
また、温度場は、熱力学の第一法則にしたがうものとし、固体相の比熱が流体相の比熱に比して十分大きく平衡状態での温度を保持すると仮定し、流体相のみ温度変動するものと想定する。質量保存則及び状態方程式も支配方程式として考慮し、また、固体相と流体相の境界において速度、垂直応力、及び温度の連続条件を課す。漸近展開した解を仮定し、ミクロスケールにおける支配方程式に代入すると、ミクロスケールにおける境界値問題を得ることができる。これらを解いて得られた解を体積平均することで、マクロスケールにおける均質化特性を得ることができる。また、ミクロスケールにおける支配方程式を平均化することで、マクロスケールにおける固体相及び流体相の支配方程式をそれぞれ導出することができ、各々の支配方程式を解くことで吸音率αや透過損失(音響透過損失)TLなどの音響的性能(性能指標)を求めることができ。
【0032】
(多孔質吸音材のミクロスケールにおける基礎支配方程式)
多孔質吸音材のミクロスケールにおける支配方程式は、固体相が等方性の線形弾性体、流体相が圧縮性の粘性係数μfの粘性流体で構成されているものとする。固体相の支配方程式は、固体相の変位をus
i、質量密度をρs、弾性テンソルをcs
ijkl、応力をσs
ij、及びひずみをεs
klとし、角振動数をωとすると、(1)式で表される。
【0033】
なお、以下の説明において数式中の太文字はマトリックスを示すが、説明においては、数式中のマトリックスの太文字表記を省略するか「Bold」を付記する(例えば、太字の「Y」は、「BoldY」)。また、式中の上付き「*」は、共役複素数を示し、上付き「T」は転置行列を示し、「I(BoldI)」は単位行列を示す。
【0034】
【0035】
また、流体相の速度をνf
i、質量密度をρf、応力をσf
ij、ひずみをεf
ij、及び音圧(流体相の圧力ともいう)をpfとし、速度振動が微小であり速度νfiの二乗の項が無視できるとする。これにより、流体相の流れ場に関する支配方程式は、(2)式に示すように、線形化されたナビエ-ストークスの方程式で表される。なお、jは虚数単位、δijはクロネッカー(Kronecker)のデルタとしている。
【0036】
【0037】
固体相の比熱は、流体相の比熱に比して十分大きく、平衡状態での温度Tfを維持すると仮定すると、温度場は流体相のみを考慮すればよい。ここから、流体相について、温度変動をτf、熱流速qf
iとし、定積比熱をCf
ν、気体定数をR、及び熱伝導率テンソルをκf
ijとする。これにより、支配方程式は、熱力学の第一法則より(3)式で表すことができる。
【0038】
また、大気圧をPf、質量密度をρf、質量密度ρfの変動をδfとすると、流体相に関する質量保存則及び状態方程式は、それぞれ(4)式で表すことができる。
さらに、固体相と流体相との境界Γsfにおける境界条件は、速度νf
i、境界垂直方向の応力σf
ij、及び温度の連続性から(5)式に表される。なお、ns
iは境界Γsfに立てた固体相の領域外向きの単位法線ベクトル、nf
iは境界Γsfに立てた流体相の領域外向きの単位法線ベクトルとしている。
【0039】
【0040】
(漸近展開)
一方、微視構造が周期的であると仮定し、
図3に示すように、微視構造の単位領域(ユニットセル)をY、ユニットセルYの大きさ(代表長さ)をlとする。また、マクロスケールの代表長さLを多孔質体(多孔質吸音材)における波長とし、ミクロスケールとマクロスケールの代表長さの比をε(=l/L)とする。さらに、マクロスケールにおける空間変数をχ、ミクロスケールにおける空間変数をy(=χ/ε、但し、代表長さの比εは1より極めて小さい)とする。
【0041】
これにより、Gilbertら(Gilbert and Mikelic、2000)やClopeau(Clopeau et al.、2001)がTwo-Scale収束論を適用して数学的に明らかにしているように、多孔質体の問題においても、漸近展開形の解が成り立つ。ここから、状態量としての固体相の変位us
i、流体相の速度νf
i、流体相の圧力(音圧)pf、流体相の温度変動τf、流体相の質量密度ρfの変動(質量密度変動)δfに対して(6)式~(10)式に示す漸近展開形の解(Sanchez-Palencia、1980)を仮定する。なお、(6)式~(10)式の各々において、右辺における全ての項は、ミクロスケールにおける空間変数yについて周期的(Y-periodic)である。
【0042】
【0043】
(境界値問題)
次に、上記漸近展開形の解((6)式~(10)式)を支配方程式である(1)式~(5)式に代入し、境界値問題の項において代表長さの比εのオーダーで整理する。
【0044】
固体相の代表長さの比ε-1のオーダーの関係式にガラーキン(Galerkin)法を適用すると、固体相の変位yに関する周期的(Y-periodic)な特性関数χkl
i(y)について、重み関数δus
iの境界値問題を得ることができる((11)式参照)。
また、剛性変位を除くため(a)式の条件のもとで(11)式を解くと、特性関数χkl
i(y)を求めることができる。
【0045】
【0046】
代表長さの比ε0のオーダーにおける流体相の固体相に対する相対速度wf(0)
i((b)式参照)を考え、(c)式を用いた置き換えを行う。これにより、代表長さの比ε-1のオーダーの関係式((11)式)より、流体相の流れ場に関して、δwf
i及びδpfの各々を重み関数とするミクロスケールにおける境界値問題を得ることができる((12)式参照)。
【0047】
【0048】
なお、ζk
i(y)は相対速度に関する周期的な特徴関数とし、πk(y)は圧力に関する周期的な特徴関数としている。また、固体相と流体相との境界Γsfにおいて相対速度に関する周期的な特徴関数ζk
i(y)=0である。また、一定圧力の成分を除くために、(d)式の条件を付加して解くことで、相対速度に関する周期的な特徴関数ζk
i(y)、及び圧力に関する周期的な特徴関数πk(y)を求めることができる。
【0049】
これにより、代表長さの比ε0のオーダーにおける流体相の温度τf(0)についての関係式により、δτfを重み関数とする境界値問題を得ることができる((13)式参照)。なお、ζ(y)は温度に関する周期的な特性関数であり、温度に関する周期的な特性関数ζ(y)は、固体相と流体相との境界Γsfにおいて温度変動がゼロの条件を満たす(特性関数ζ(y)=0)。
【0050】
【0051】
(均質化法により得られるマクロ特性)
一方、境界値問題を解くことで得られた特性関数χkl
i(y)をユニットセルYにおいて体積平均をとることで、均質化特性としてのミクロスケールにおける固体相に関する均質化マクロ特性である均質化弾性テンソルcH
ijklは、(14)式により求めることができる。│Y│は、多孔質体のユニットセルYの体積としており、ユニットセルYの体積│Y│は、設計対象とする多孔質吸音材の制約条件(体積制約条件)によって定まる。
【0052】
また、ユニットセルY中の流体相Yfにおいて、相対速度に関する周期的な特性関数ζk
i(y)の平均体積をとる。これにより、均質化特性としてのマクロスケールにおける流体相に関する均質化マクロ特性である等価密度ρfc
kiは(15)式から求めることができる。ただし、│Yf│は、ユニットセルY中の流体相Yfの体積、〈 〉Yfは流体相Yfの体積平均としている。
【0053】
さらに、均質化特性としてのマクロスケールにおける流体相に関する均質化マクロ特性である等価体積弾性率Kfは、ユニットセルY中の流体相Yfにおいて、温度に関する周期的な特性関数ζ(y)の体積平均をとることで、(16)式により得られる。
【0054】
【0055】
(マクロスケールの支配方程式)
このようにして得られた均質化マクロ特性を用いることで、マクロスケールにおける固体相の支配方程式((17)式参照)、及び流体相の支配方程式((18)式参照)の各々を導出できる。
【0056】
【0057】
ここで、Ψf(0)はポテンシャル関数でありpf(0)=-jωΨf(0)と定義され、σ
s(0)
ijは流体相との連成を考慮しない場合の固体相の応力、φは空孔率、〈ρ〉は多孔質体の平均質量密度であり、〈ρ〉=(1-φ)ρs+φρfである。
これにより、マクロスケールにおける固体相に関する均質化マクロ特性としては、多孔質体流体相の均質化連成係数テンソルkH
ijが(19)式で表され、多孔質体固体相の均質化弾性テンソルθs,pqが(20)式で表される。また、マクロスケールにおける流体相に関する均質化マクロ特性としては、多孔質体流体相の静水圧下における均質化体積ひずみθfが(21)式により表され、多孔質体流体相の均質化透水率テンソルdk
iが(22)式で表される。
【0058】
【0059】
そして、上記均質化マクロ特性は、マトリックスで表現すると、(23)式及び(24)で表される。なお、K
sは多孔質体固体相の質量マトリックス、U
sは多孔質体固体相の変位ベクトル、M
sは多孔質体固体相の剛性マトリックス、C
sfは多孔質体固体相・多孔質体流体相間の連成マトリックス、Ψ
fは多孔質体流体相の速度ポテンシャルマトリックス、F
sは多孔質体固体相の入力ベクトルを表す。また、BoldK
fは多孔質体流体相の剛性マトリックス、M
fは多孔質体流体相の質量マトリックス、F
fは多孔質体流体相の入力マトリックスを表す。
【数11】
【0060】
また、多孔質体固体相の質量マトリックスMsは(26)式で表すことができ、多孔質体固体相の剛性マトリックスMsは(25)式で表すことができる。また、多孔質体流体相の質量マトリックスMfは(28)式で表すことができ、多孔質体流体相の剛性マトリックスKsは(27)式で表すことができる。さらに、多孔質体固体相・流体相間の連成マトリックスCsfは(30)式で表すことができ、多孔質体固体相・流体相間の連成マトリックスの転置マトリックスCsfTは(29)式で表される。
【0061】
なお、マクロスケールにおいて、Bsは固体相の変位-ひずみ関係マトリックス、Dsは多孔質体固体相における動剛性マトリックス、Nsは多孔質体固体相の変位内挿マトリックス、Bfは流体相の変位-ひずみ関係マトリックス、Nfは多孔質体流体相の変位内挿マトリックス、Tsは多孔質体固体相の温度テンソル、Θsは多孔質体固体相の均質化体積ひずみテンソル(連成係数)を示す。また、φは流体相の空孔率、dは多孔質体流体相の均質化透水率テンソルを示す。
【0062】
【0063】
これにより、巨視構造における吸音率などの特性指標を特定できる構造特性としての固体相の質量マトリックスKs、固体相の剛性マトリックスMs、流体相の質量マトリックスBoldKf、流体相の剛性マトリックスMf、固体相・流体相の連成マトリックスの転置マトリックスCsfT、及び固体相・流体相の連成マトリックスCsf等が得られる。
【0064】
一方、本実施形態では、トポロジー最適化における密度法を用い、微視構造において定義された設計変数に対し、マクロスケールにおいて定義された吸音率などの目的関数の設計感度を求める。また、本実施形態では、数理的な最適化アルゴリズムを用いて、微視構造の形態を最適化するように、設計変数を更新する。
【0065】
(散逸エネルギー)
多孔質体材料内部における散逸エネルギーの和は、正の実数値であることから、散逸エネルギーの最大化においては、その負値を最小化することを考える。この際、散逸エネルギーの和はマクロスケールで定義し、設計変数μiはミクロスケールで定義する。設計変数μは、ミクロスケール、すなわちユニットセルY(ユニットセルモデル)において連続変数とした特性関数μ(y)(0≦μ(y)≦1)として表す。特性関数μ(y)は、ミクロスケールモデルにおいて定義した設計変数μi(0≦μ(y)≦1)で離散的に表現するものとする。
【0066】
ミクロスケールモデルにおける位置、節点数、及び要素数は、それぞれy、nd、neとし、マクロスケールモデルにおける位置、節点数、及び要素数は、それぞれ、χ、Nd、Neとする。設計対象とする多孔質吸音材について定める設計条件としての体積(又は質量)制約条件のもと、マクロスケールにおける多孔質体材料内部での散逸エネルギー和の負値最小化問題を考える。
【0067】
目的関数gは(31)式で表すことができ、目的関数gには吸音率や透過損失などの多孔質吸材の特性を示す性能指標が適用される。なお、Xpは、マクロスケールにおける多孔質体の未知物理ベクトルを示し、Dpは、マクロスケールにおける多孔質体の動剛性マトリックスを示す。また、Dqは、マクロスケールにおける動剛性マトリックスをDとした際、多孔質体の動剛性マトリックスDpを動剛性マトリックスDに拡大した動剛性マトリックスを示す。
【0068】
【0069】
(マクロスケールの設計感度)
マクロスケールにおいては、弾性体(e)、音場(a)、多孔質材(s,f)の連成系が対象であるとする。また、マクロスケールにおいて、Meを弾性体の質量マトリックス、Keを弾性体の剛性マトリックス、Maを音場の質量マトリックス、Kaを音場の剛性マトリックス、Ceaを弾性体・音場間の連成マトリックス、Ceaを多孔質材・音場間の連成マトリックスとする。また、Xをマクロスケールにおける未知物理ベクトル、Fを入力マトリックス、Feを音場の入力マトリックス、Ueを弾性体の変位マトリックス、Ψaを音場の速度ポテンシャルマトリックスとする。これにより、マクロスケールにおける系全体の支配方程式は(32)式で表される。
【0070】
また、Beを弾性体の変位-ひずみ関係マトリックス、Deを弾性体の動剛性マトリックス、Baを音場の変位-ひずみ関係マトリックス、Neを弾性体の音圧内挿マトリックス、Naを音場の変位内挿マトリックスとする。これにより、弾性体の質量マトリックスMe、弾性体の剛性マトリックスKe、音場の質量マトリックスMa、音場の剛性マトリックスKa、弾性体・音場間の連成マトリックスCea、及び多孔質材・音場間の連成マトリックスCeaは、各々(33)式~(35)式で表される。
【0071】
【0072】
また、マクロスケールモデル全体の系と次元とを合わせるために動剛性マトリックスDqを(36)式とする。また、BoldYをマクロスケールの随伴変数とし、随伴変数BoldYと支配方程式との積を目的関数gに付加すると、拡張した目的関数gextは、(37)式にできる。
また、拡張した目的関数gextについて、設計変数μiに対する感度は、(38)式により求めることができる。
【0073】
【0074】
したがって、随伴方程式((39)式参照)を満たす随伴変数BoldYを用いると、拡張した目的関数gextの設計変数μiに対するマクロスケールにおける設計感度は(40)式により求めることができる。
【0075】
【0076】
(ミクロスケールの設計感度)
・均質化弾性テンソル
単位ひずみ入力に対する変位χの特性関数χkl
pは、(41)式に示す境界値問題の解として得られる。
また、固体相を構成する材料自体の弾性テンソルCs=cs
ijklをとすると、ミクロスケールにおいて、固体相の剛性マトリックスKs、固体相の変位ベクトルUs、固体相の単位ひずみ入力ベクトルFsは、各々(42)式で表され、固体相の均質化テンソル(均質化弾性テンソル)CHは、(43)式で表される。なお、Bsはミクロスケールにおける固体相の変位-ひずみ関係マトリックスを示す。
【0077】
【0078】
ここで、固体相の均質化弾性テンソルCHに固体相の変位ベクトルUsに対応する周期的な随伴変数マトリックス(随伴変位ベクトル)Vsと支配方程式との積を加えると、ミクロスケールにおける固体相の均質化弾性テンソルCHは(44)式にできる。
このため、固体相の均質化弾性テンソルCHのミクロスケールにおける設計変数μiに対する設計感度は、(45)式となる。これにより、随伴方程式は(46)式となり、自己随伴となることが分かる。
【0079】
【0080】
したがって、支配方程式の解(固体相の変位ベクトル)Usを用いて固体相の均質化弾性テンソルCHのミクロスケールにおける設計変数μiに対する設計感度は、(47)式で求めることができる。
【0081】
【0082】
・連成係数
ミクロスケールにおける固体相と流体相との間の連成係数Θs=[θs,pq]は、L=[111000]を用いて(48)式で表される。
また、境界ΓがC1級の滑らかさを持つ場合には、固体相に関する均質化マクロ特性kH
ijがkH
ij=θs,ijとなることから、連成係数Θsのミクロスケールにおける設計変数μiに対する設計感度を考える。ミクロスケールの支配方程式は均質化弾性テンソルCHを求める場合と同様であり、随伴変数マトリックスVsと支配方程式との積を加えると、(49)式にできる。
【0083】
【0084】
これにより、連成係数Θsのミクロスケールにおける設計変数μiに対する設計感度は(50)式となる。
したがって、随伴方程式は(51)式となり非自己随伴となることが分かる。また、この随伴方程式の解(随伴変数マトリックス)Vsを用いると、連成係数の転置マトリックスΘT
sのミクロスケールにおける設計変数μiにおける設計感度は(52)式により求めることができる。
【0085】
【0086】
・等価密度
ミクロスケールにおいて相対速度の特性関数ζk
i(y)及び圧力の特性関数πk(y)は、(53)式の境界値問題の解として得られる。また、速度の内挿関数をNw、圧力の内挿関数をNpとし、Np0=[1/8 1/8・・・1/8]とすると、ミクロスケールにおける流体相の速度に関する質量マトリックスMr、流体相の速度に関する質量マトリックスKr、流体相の速度と圧力に関する連成マトリックスCr、流体相の安定化マトリックスGr、流体相の単位相対速度ベクトルFrは各々(54)式~(58)式により得られる。なお、Zrは流体相の速度・圧力に関する動剛性マトリックスとしている。また、Nwは流体相の速度内挿マトリックス、Bwは流体相の速度-ひずみ関係マトリックス、Bdは流体相の圧力-ひずみ関係マトリックス、Npは流体相の圧力内挿マトリックスとしている。
【0087】
【0088】
相対速度の特性関数ζk
i(y)のユニットセルYにおける体積平均d(多孔質体流体相の均質化透水率テンソルに対応)は、(59)式で表される。流体相の速度・圧力ベクトルXrに対する周期的な随伴変数を(流体相の速度・圧力随伴ベクトル)Yrとして、支配方程式の積を加えると、多孔質体流体相の均質化相対速度テンソルqは(60)式に書き直すことができる。
このため、流体相の均質化速度テンソルqのミクロスケールにおける設計変数μiに対する設計感度は、(e)式より、(61)式にできる。これにより、随伴方程式は(62)式となり、自己随伴問題であることが分かる。
【0089】
【0090】
したがって、支配方程式の解Xrを用いることで、相対速度の特性関数ξk
i(y)のユニットセルYにおける体積平均dのミクロスケールにおける設計変数μiに対する設計感度は(63)式で求められる。
【0091】
【0092】
・等価体積弾性率
温度の特性関数ζ(y)は、(64)式の境界値問題の解として得られる。
ここで、温度の内挿関数(流体相の温度内挿マトリックス)をNbすると、流体相の温度に関する質量マトリックスMb、流体相の温度に関する剛性マトリックスKb、及び流体相の単位温度勾配ベクトルFbは(65)式で表される。なお、Bpは流体相の圧力-圧力勾配関係マトリックス、Dbは温度動剛性マトリックスを示す。
【0093】
【0094】
温度の内挿関数ζ(y)のユニットセルYにおける体積平均hは(66)式で表され、流体相の等価体積弾性率Kfは(67)式で求められる。
また、流体相の等価コンプライアンス(φ/Kf)の負値-φ/Kfのミクロスケールにおける設計変数μiに対する設計感度は、比熱比γ=const.、大気圧P0=const.とすると(68)式のように書くことができる。
【0095】
【0096】
体積平均hに支配方程式の解(流体相の温度ベクトル)Xbに対応する周期的な随伴変数(流体相の温度随伴ベクトル)Ybと支配方程式との積を加えて(69)式とすると、体積平均hのミクロスケールにおける設計変数μiに対する設計感度は、前記(e)式より(70)式のとなる。これにより、随伴方程式は(71)式となり、自己随伴問題であることが分かる。
【0097】
【0098】
したがって、支配方程式の解(流体相の温度ベクトル)Xbを用いることで、温度の特性関数ζ(y)のユニットセルYにおける体積平均hのミクロスケールにおける設計変数μiに対する設計感度は(72)式により求めることができる。
【0099】
【0100】
(材料表現)
一方、ミクロスケールのユニットセルYのモデルにおける特性関数μ(y)による材料特性の表現は、(73)式~(79)式のように表すことができる。なお、Es(μ(y))は固体相のヤング率、νs(μ(y))は固体相のポアソン比、μf(μ(y))は流体相の圧縮性の粘性係数、κf(μ(y))は流体相の熱伝導率、Cf
p(μ(y))は流体相の定圧比熱、ρs(μ(y))は固体相の質量密度、ρf(μ(y))は流体相の質量密度を表す。
【0101】
【0102】
ここから、(73)式~(79)式を用いることで、設計変数μi(特性関数μ(y))から均質化マクロ特性を演算できる。
【0103】
次に、本実施形態の作用として、設計装置10における多孔質吸音材の設計処理を説明する。
【0104】
設計装置10では、ストレージ12Dに設計変数μi(特性関数μ(y))を用いた材料表現のための演算式((73)式~(79)式)、均質化マクロ特性等を求めるための演算式((14)式~(16)式)、及び均質化マクロ特性から構造特性を求めるための演算式((25)式~(30)式)等が予め記憶されている。また、ストレージ12Dには、目的関数gを求めるための演算式((31)式)が記憶されていると共に、各種の設計感度を演算するための演算式((47)式、(52)式、(63)式、(70)式)が記憶されている。さらに、ストレージ12Dには、これらの演算式に関連する演算式が記憶されている。
【0105】
設計装置10では、受付部14において、設計対象の多孔質吸音材についての制約条件としての体積制約条件を受け付ける。なお、制約条件としては、少なくとも設計する多孔質吸音材における単位体積や単位質量などのユニットセルYの大きさ(サイズ))を設定できるものであればよい。
【0106】
また、設計装置10の初期値設定部16では、設計するユニットセルYに対する設計変数μi〈特性関数μ(y))について初期値を設定する。特性演算部18では、最初に、初期値として設定された設計変数μiについて、多孔質吸音材に適用できるように拡張した均質化法に基づき、有限要素法を用いて境界値問題を解き、均質化特性(均質化マクロ特性)及び均質化質量密度を演算する。また、特性演算部18では、有限要素法を用いて均質化マクロ特性からマクロスケールにおける多孔質吸音材の構造を特定するための構造特性を導出する。
【0107】
設計感度演算部24は、特性演算部18において演算に適用した設計変数μi(特性関数μ(y))に対する目的汎関数とする目的関数g(又は拡張した目的関数gext)のミクロスケール及びマクロスケールの各々における設計感度を演算する。更新部26は、数理的な最適化アルゴリズムとしてのMMA(Method of Moving Asymptotes)を適用し、各設計感度の最適化(散逸エネルギーの最適化)が図られるように設計変数μiを更新する。
【0108】
一方、評価部20は、設計変数μiから得られる構造特性を評価する。この際、評価部20は、特性関数μ(y)に対する目的汎関数(目的関数g)を演算し、今回の演算値と前回の演算値を比較することで、目的汎関数の演算値が収束しているか否かを評価(判定)する。設計装置10では、目的汎関数の演算値が収束するまで、設計変数μiの更新を繰り返す。また、設計装置10では、評価部20において目的汎関数の演算値が収束していると評価することで、出力部22が、対応する設計変数μiによって特定される均質化マクロ特性(及び構造特性)を出力する。
【0109】
図5には、設計装置10における設計処理の概略が流れ図にして示されている。
図5に示すように、設計装置10では、設計する多孔質吸音材についての設計の制約条件(設計条件)としての体積(又は質量)制約条件が入力されて設計処理の開始が指示されると、最初のステップ100が実行される。設計装置10の初期値設定部16では、ステップ100において設計変数μ
i(特性関数μ(y))について、初期値を設定する。初期値には、予め設定された値(0≦μ(y)≦1の範囲の値、例えば、特性関数μ(y)=0.5)が適用される。また、初期値設定部16では、受付部14において受け付けた体積(又は質量)制約条件を設定する。
【0110】
体積制約条件は、ミクロスケールにおけるユニットセルYの体積│Y│を特定し得る条件(例えば、ユニットセルYの大きさlを特定し得る条件)が含まれる。体積制約条件は、設計する多孔質吸音材が発泡系吸音材である場合、例えば、微視構造としてケルビン(Kelvin)セルが参照されて設定でき、設計する多孔質吸音材が繊維系吸音材である場合、繊維系吸音材に対向する微視構造が参照されて設定できる。
【0111】
次のステップ102では、特性演算部18が均質化法を適用したミクロスケールのモデル(微視構造)における境界値問題を汎用の数値解析手法の一例である有限要素法を用いて解き、均質化特性(均質化マクロ特性)及び均質化質量密度を演算する。具体的には、固体相に関する均質化マクロ特性としての均質化弾性テンソルcH
ijkl((14)式参照)、流体相に関する均質化マクロ特性としての等価体積弾性率Kf((16)参照)を求める。また、流体相に関する均質化マクロ特性としての均質化連成係数テンソルκH
ij((19)式参照)、固体相に関する均質化マクロ特性としての均質化弾性テンソルθs,pq((20)式参照)、流体相に関する均質化マクロ特性としての均質化体積ひずみθf((21)式参照)、及び流体相に関する均質化マクロ特性としての均質化透水率テンソルdk
i((22)式参照)の各々を求める。
【0112】
また、ステップ102では、特性演算部18が有限要素法を適用し、マクロスケールにおける境界値問題を解き、均質化マクロ特性をからマクロスケールにおける構造を特定するための構造特性を導出する。この際、特性演算部18では、設計対象とする多孔質吸音材について入力された体積制約条件を適用し、目的関数gを導出可能とする均質化マクロ特性としての固体相の質量マトリックスKs、固体相の剛性マトリックスMs、流体相の質量マトリックスBoldKf、流体相の剛性マトリックスMf、固体相・流体相の連成マトリックスの転置マトリックスCsfT、及び固体相・流体相の連成マトリックスCsf等を導出する。
【0113】
ステップ104では、評価部20が目的汎関数としての目的関数gを演算し、ステップ106において評価部20が演算値が収束しているか否かを確認する(評価する)。この際、評価部20では、前回の演算値と今回の演算値を対比し、演算値が収束しているか否かの評価(判定)を行う。
【0114】
ここで、評価部20は、特性関数μ(y)の初期値に対する目的関数gの演算値を評価できないため、ステップ106において否定判定する。また、評価部20は、値が更新された特性関数μ(y)においても目的汎関数の演算値が収束していなければ、ステップ106において否定判定する。これにより、設計装置10では、ステップ108に移行する。
【0115】
このステップ108では、設計感度演算部24が随伴変数法(Adjoint Variable Method :AVM)により導出される支配方程式を解くことで、ミクロスケールにおける設計変数μiに対する設計感度を演算する((47)、(52)式、(62)式及び(71)式等参照)。これにより、設計装置10では、ミクロスケールにおける均質化弾性テンソルCH、固体相と液体相との間の連成係数Θs、相対速度の特性関数のミクロスケールの単位領域における体積平均d、及び温度の特性関数の前記単位領域における体積平均hが演算される。
【0116】
また、設計感度演算部24では。ステップ110において随伴変数法により導出された支配方程式を解くことで、マクロスケールにおける設計変数μiに対する設計感度を演算する。これにより、設計装置10では、マクロスケールにおける目的関数として、マクロスケールにおいて、弾性体、音場、及び多孔質体の連成系に拡張した目的関数gextが演算される。
【0117】
随伴変数法においては、直接微分法のように設計変数μiと同数の方程式を解く必要がなく,制約条件の中から有効なものの数だけの方程式を解けばよい。このため、随伴変数法を適用することで、設計装置10では、演算負荷の軽減を図ることができる。
【0118】
次に、ステップ112では、更新部26が設計変数μiを更新する。この際、更新部26では、数理的な最適化アルゴリズムとして一般的であるMMA(Method of Moving Asymptotes、Svanberg、1987)を適用し、設計変数μiの値を更新する。
【0119】
設計装置10では、設計変数μiの値が更新されると、ステップ102に戻り、値を更新した設計変数μiを用いた演算処理が行われ、更新した設計変数μiに対応する均質化マクロ特性を求める。
【0120】
ここで、設計装置10(評価部20)では、更新した設計変数μiに対応する目的汎関数の演算値が、前回(更新前)の設計変数μiに対応する目的関数の演算値に対して値の変化が小さい(差が予め設定した範囲内〉場合、設計変数μiが収束していると評価する。評価部20は、目的関数gの演算値が収束していると評価(判定)すると、ステップ106において肯定判定して処理を終了する。これにより、設計装置10では、収束していると評価した設計変数μiに対応する均質化マクロ特性及び構造特性の少なくとも一方を多孔質吸音材の設計のための情報として出力できる。
【0121】
このように、設計装置10では、設計する多孔質吸音材についての体積制約条件に基づいて最適な設計変数μiを得ることができる。これにより、設計装置10では、設計する多孔質吸音材の微視構造を得ることができ、この微視構造から巨視構造を同定できる均質化特性としての均質化マクロ特性を得ることができる。また、設計装置10では、均質化マクロ特性から多孔質吸音材の性能指標を同定できる構造特性を得ることができる。
【0122】
また、設計装置10では、均質化特性及び均質化質量密度を用い、ミクロスケールの設計感度及びマクロスケールの設計感度を演算し、演算した設計感度から数理的な最適化アルゴリズムであるMMAを用いて設計変数の値を更新する。これにより、設計装置10では、多孔質吸音材の微視構造を直接設計でき、多孔質吸音材を直接設計できる。また、設計装置10では、既存の微視構造に影響されない独立的な微視構造が得られると共に、この微視構造が周期的に配列された多孔質吸音材の巨視構造を直接設計できる。
【0123】
また、Biotパラメータを用いた微視構造の設計においては、複数の微視構造を用い、微視構造の各々からBiotパラメータを求める必要があるが、設計装置10では、数値演算によって直接的に設計できるので、多孔質吸音材の設計作業の作業性を向上できる。
【0124】
また、設計装置10では、均質化マクロ特性として、流体相の等価密度ρfc
ki、流体相の等価体積弾性率Kf、流体相の均質化連成係数テンソルκH
ij、固体相の均質化弾性テンソルθs,pq、流体相の静水圧下における均質化体積ひずみ率θf、及び流体相の均質化透水率テンソルdk
iを導出する。これにより、設計装置10では、効果的に微視構造を得ることができると共に、多孔質吸音材の構造特性を効果的に得ることができる。
【0125】
また、設計装置10では、構造特性として、固体相の質量マトリックスKs、固体相の剛性マトリックスMs、流体相の質量マトリックスBoldKf、流体相の剛性マトリックスMf、固体相・流体相の連成マトリックスの転置マトリックスCsfT、及び固体相・流体相の連成マトリックスCsfを導出する。これにより、設計装置10では、設計する多孔質吸音材の吸音率や透過損失などの性能指標を効果的に得ることができると共に、目的関数(目的汎関数)を効率的に導出できる。
【符号の説明】
【0126】
10 設計装置
14 受付部(受付手段)
16 初期値設定部
18 特性演算部(第1演算部)
20 評価部
24 設計感度演算部(第2演算部)
26 更新部(第2演算部)