(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150299
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】イソプレノイド類産生能を有する遺伝子改変微生物およびこれを用いたイソプレノイド類製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20220929BHJP
C12P 5/02 20060101ALI20220929BHJP
C12N 15/61 20060101ALN20220929BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20220929BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20220929BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20220929BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20220929BHJP
C12N 9/88 20060101ALN20220929BHJP
C12N 9/90 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P5/02
C12N15/61
C12N15/53
C12N15/60
C12N15/54
C12N9/10
C12N9/88
C12N9/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052847
(22)【出願日】2021-03-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2016年度~2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発 高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】中島 信孝
(72)【発明者】
【氏名】湯村 秀一
(72)【発明者】
【氏名】阪本 剛
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD02
4B050KK08
4B050KK09
4B050LL05
4B064AB04
4B064AC02
4B064AC09
4B064AC12
4B064AC16
4B064AD05
4B064CA02
4B064CA19
4B064CD09
4B064CD10
4B064CD19
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BD36
4B065BD37
4B065BD38
4B065CA03
4B065CA05
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】微生物を宿主としてバイオイソプレンを生産するための技術の提供。
【解決手段】非改変体に比較して低減されたホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)活性と、非改変体に比較して増強された1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸シンターゼ(Dxs)活性、イソペンチル二リン酸イソメラーゼ(Idi)活性、およびイソプレンシンターゼ(IspS)活性を有し、さらに、非改変体に比較して増強された1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸レダクトイソメラーゼ(Dxr)活性、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)活性および/または1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)活性、フェレドキシン/フラボドキシン(petF/fldA)活性、およびフェレドキシン/フラボドキシン-NADPレダクターゼ(petH/fpr)活性を有する、イソプレノイド類産生能を有する遺伝子改変微生物を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非改変体に比較して低減されたホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)活性と、
非改変体に比較して増強された1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸シンターゼ(Dxs)活性、イソペンチル二リン酸イソメラーゼ(Idi)活性、およびイソプレンシンターゼ(IspS)活性を有し、さらに、
非改変体に比較して増強された1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸レダクトイソメラーゼ(Dxr)活性、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)活性および/または1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)活性、フェレドキシン/フラボドキシン(PetF/FldA)活性、およびフェレドキシン/フラボドキシン-NADPレダクターゼ(PetH/Fpr)活性を有する、
イソプレノイド類産生能を有する遺伝子改変微生物。
【請求項2】
非改変体に比較して低減されたグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GapA)活性を有する、請求項1に記載の遺伝子改変微生物。
【請求項3】
非改変体に比較して低減されたクエン酸シンターゼ(GltA)活性を有する、請求項2に記載の遺伝子改変微生物。
【請求項4】
サーモシネココッカス・エロンゲイタス(Thermosynechococcus elongatus)由来の、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)遺伝子および/または1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)遺伝子、フェレドキシン/フラボドキシン(PetF/FldA)遺伝子、およびフェレドキシン/フラボドキシン-NADPレダクターゼ(PetH/Fpr)遺伝子を発現する、請求項1-3のいずれか一項に記載の遺伝子改変微生物。
【請求項5】
大腸菌である、請求項1-4のいずれか一項に記載の遺伝子改変微生物。
【請求項6】
前記イソプレノイド類が、イソプレンである、請求項1-5のいずれか一項に記載の遺伝子改変微生物。
【請求項7】
水性媒体中でイソプレノイド類産生能を有する遺伝子改変微生物と有機原料とを接触させる工程を含む、イソプレノイド類の製造方法であって、
前記遺伝子改変微生物が、請求項1-5のいずれか一項に記載の遺伝子改変微生物である、製造方法。
【請求項8】
前記有機原料が、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、グルコース、ラクトース、マルトース、トレハノース、セロビオース、スクロース、デンプン、デキストリン、セルロース、ヘミセルロース、グリセロールおよび/またはマンニトールを含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記イソプレノイド類が、イソプレンである、請求項7または8の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を用いた化合物生産に関する。特に、遺伝子組換え技術を利用して、微生物にイソプレノイド類化合物を生産させることに関する。
【背景技術】
【0002】
イソプレンは、イソプレノイド類と呼ばれる化合物群の一種である。イソプレンの工業上の用途として、合成ゴムの原料、接着剤、エラストマー、化粧品素材、および生薬有効成分などがある。現状では95%以上が合成ゴムの生産に使われている。
【0003】
現在、工業上利用されるイソプレンのほとんどは化石燃料由来で、年100万トンの市場があり、その規模はますます増大している。しかし、化石燃料からの石油・有機化学的手法によるイソプレン生産は環境負荷が大きく、今後の持続発展可能な社会の構築のため、生物学的手法による生産への転換が期待されている。
【0004】
生物学的手法、特に微生物を宿主とする手法によるイソプレン生産(以下、バイオイソプレン生産と呼ぶ)は、過去に例が多くある(非特許文献1参照)。イソプレンを含むイソプレノイド類は、生物にとって重要な化合物であり、ほとんどの生物が生合成する経路を保持しているが、イソプレノイド類のうちどの化合物を生産しているかは、生物種によって異なる。イソプレンは、現状では一部の例外を除き植物でのみその生合成経路が確認されている。これは、イソプレン合成の直接の前駆体であるジメチルアリル二リン酸(DMAPP)からイソプレンを合成する、イソプレン合成酵素(イソプレンシンターゼ:IspS)が植物でのみ確認されているからである。
【0005】
バイオイソプレン生産のための生合成経路は、大きく2通りに分けられる。メチルエリスリトールリン酸(MEP)経路とメバロン酸(MVA)経路である。
【0006】
大腸菌をはじめとする多くの細菌は、MEP経路のみを天然に保持しており、それによってDMAPPを生産し、さらにその下流の各種イソプレノイド類を生産している。よって、前述のispS遺伝子を遺伝子組換え技術によって植物から移入し機能させれば、大腸菌などでバイオイソプレンを生産することが可能になる。
【0007】
MVA経路は、天然の細菌の多くは保持しないが、他種生物から経路遺伝子を全て移入し機能させることで、バイオイソプレンを生産せしめることが出来る。これまでのバイオイソプレン生産例では、MVA経路を用いたものが多いが、これは、MVA経路の酵素群の方が遺伝子組換え体として取り扱いやすいからだとされている(非特許文献1参照)。しかし、MEP経路を用いた生産の方が、最大理論収量も上であるし、細胞内酸化還元バランスの観点からも優れているとされている(非特許文献2参照)。そうであるにもかかわらず、MEP経路の酵素群は基礎的な研究が立ち遅れていること、さらに遺伝子組換えでは取り扱いが繊細な、鉄・硫黄クラスターを含む酵素が複数関与していることから、利用例は少数である。
【0008】
大腸菌を宿主とする、MEP経路のみを利用したバイオイソプレン生産例では、バッチ法では最大221 mg/Lの生産量が報告されている(非特許文献3参照)。
また、一例として、大腸菌由来のMEP経路遺伝子である1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸シンターゼ遺伝子(Ec_dxs、以下「Ec_」は大腸菌K12株由来の遺伝子につける接頭辞とする)とイソペンチル二リン酸イソメラーゼ遺伝子(Ec_idi)、およびPopulus alba由来のispSを過剰発現させた大腸菌では、MEP経路の第一段階反応を触媒するDxs活性を漸次増大させると、それに伴ってMEP経路のフラックスが増大するが、中間代謝物であるMEcPP(2-C-メチル-D-エリスリトール 2,4-シクロ二リン酸)が多く蓄積するようになり、結果としてイソプレン生産量はあまり増大しないことが報告されている(非特許文献4参照)。これは、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)の反応がMEP経路の律速段階となっていることを強く示唆する。また、Ec_ispGと1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ遺伝子(Ec_ispH)だけを大腸菌で過剰発現しても、イソプレンの生産性は改善されない可能性をも示唆する。
【0009】
別の一例では、Ec_dxs、Ec_dxr(1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸レダクトイソメラーゼ遺伝子)、Ec_ispG、Ec_fldA(フラボドキシン)遺伝子、および異種生物に由来するmvk(メバロン酸キナーゼ遺伝子)、pmk(ホスホメバロン酸キナーゼ遺伝子)、mvd(ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ遺伝子)、Ec_idi遺伝子、および植物由来のispS遺伝子、およびThermosynechococcus elongatus由来ispG(Te_ispG)、同由来petF(フェレドキシン遺伝子:Te_petF)、同由来petH(フェレドキシン-NADPレダクターゼ:Te_petH)遺伝子、およびAnabaena sp.由来ispH遺伝子を過剰発現させた大腸菌を用いることで、イソプレン生産性が向上することが報告されている(特許文献1参照)。なお、上記mvk, pmk, mvdの各遺伝子はMVA経路遺伝子である。
【0010】
別の一例では、Ec_dxs、Ec_ispG、Ec_idi遺伝子、および植物由来のispS遺伝子を過剰発現させた大腸菌において、ホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)遺伝子の破壊を行い、Entner-Doudoroff経路で主としてグルコースを代謝させることで、イソプレン生産性が向上することが記載されている(非特許文献3参照)。
【0011】
別の一例では、MEP経路とMVA経路を組み合わせて利用すると相乗効果により、バイオイソプレンの生産性が増大することが知られている(非特許文献5参照)。
【0012】
別の一例では、異種生物に由来するMVA経路の遺伝子群と、ムクナ(Mucuna bracteata)由来のispS遺伝子(Mb_ispS)またはその高活性型変異体遺伝子(Mb_ispS*)を、pgi遺伝子を破壊した大腸菌に移入して、バイオイソプレンの生産を実施している(特許文献2参照)。
【0013】
別の一例では、Kcat値(ターンオーバー数、分子活性値)の高いRhizobium radiobacter由来dxs遺伝子(Rr_dxs)をクローニングし、それを同細菌で人為的に過剰発現させ、ユビキノン10の生産量を増大させた例がある(非特許文献6参照)。なお、ユビキノン10はその生合成にイソプレノイド類化合物を必要とするものである。
【0014】
別の一例では、例外的にイソプレンを天然に生産する細菌であるBacillus sp. N16-5株を宿主として用いて、当該細菌株由来のispHの配列や発現量を調節することで、イソプレン生産量を増大させることに成功している(非特許文献7参照)。これは、この株のispH遺伝子産物が、例外的に、HMBPP((E)-4-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブテニル二リン酸)からDMAPPを介さずに直接イソプレンを合成する活性を保持しているからだと考えられている。
【0015】
別の一例では、イソプレノイド類の一種であるprotoilludeneを大腸菌で生産するにあたって、protoilludene合成経路遺伝子に加えて、Ec_dxr、Ec_ispDEFGH、Ec_idi、Ec_fldA、およびEc_fpr(フラボドキシン-NADPレダクターゼ遺伝子)を過剰発現させると、その生産が最大化することが報告されている(非特許文献8参照)。
【0016】
別の一例では、MVA経路の第一反応ステップと競合するEc_gltA(クエン酸シンターゼ遺伝子)の発現を人為的に減少させることで、MVA経路を介したイソプレン生産性が向上することを報告している(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2012-088462号
【特許文献2】国際公開第2015-076392号
【特許文献3】米国特許第8975051公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】"Engineering microbes for isoprene production", Metabolic Engineering, Volume 38, November 2016, Pages 125-138
【非特許文献2】"Handbook of Hydrocarbon and Lipid Microbiology", Springer-Verlag Berlin Heidelberg 2010 HYPERLINK
【非特許文献3】"Combination of Entner-Doudoroff Pathway with MEP Increases Isoprene Production in Engineered Escherichia coli", PLoS One, 2013, 8:e83290
【非特許文献4】"Investigation of the methylerythritol 4-phosphate pathway for microbial terpenoid production through metabolic control analysis", Microbial Cell Factories, 2019, 18:192
【非特許文献5】"Synergy between methylerythritol phosphate pathway and mevalonate pathway for isoprene production in Escherichia coli", Metabolic Engineering, Volume 37, September 2016, Pages 79-91,
【非特許文献6】"Cloning and characterization of the dxs gene, encoding 1-deoxy-d-xylulose 5-phosphate synthase from Agrobacterium tumefaciens, and its overexpression in Agrobacterium tumefaciens", Journal of Biotechnology, Volume 128, Issue 3, 20 February 2007, Pages 555-566
【非特許文献7】"Two unexpected promiscuous activities of the iron-sulfur protein IspH in production of isoprene and isoamylene", Microbial Cell Factories, 2016, 15:79
【非特許文献8】" Enhanced performance of the methylerythritol phosphate pathway by manipulation of redox reactions relevant to IspC, IspG, and IspH", Journal of Biotechnology, Volume 248, 20 April 2017, Pages 1-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、微生物を宿主としてバイオイソプレンを生産するための技術を提供することを目的とする。特に、微生物の中でも最も扱いやすい大腸菌を宿主として、MEP経路およびその下流の生合成経路を操作してバイオイソプレンを生産することである。実用化に向けたバイオイソプレン生産では、生産性の点で、まだ改善する余地が残っている。特に上述のように、MEP経路を用いる生産方法は大きな改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題解決のため、本発明は、以下の[1]-[13]を提供する。
[1] 非改変体に比較して低減されたホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)活性と、
非改変体に比較して増強された1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸シンターゼ(Dxs)活性、イソペンチル二リン酸イソメラーゼ(Idi)活性、およびイソプレンシンターゼ(IspS)活性を有し、さらに、
非改変体に比較して増強された1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸レダクトイソメラーゼ(Dxr)活性、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)活性および/または1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)活性、フェレドキシン/フラボドキシン(PetF/FldA)活性、およびフェレドキシン/フラボドキシン-NADPレダクターゼ(PetH/Fpr)活性を有する、
イソプレノイド類産生能を有する遺伝子改変微生物。
[2] 非改変体に比較して低減されたグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GapA)活性を有する、[1]の遺伝子改変微生物。
[3] 非改変体に比較して低減されたクエン酸シンターゼ(GltA)活性を有する、[2]の遺伝子改変微生物。
[4] Thermosynechococcus elongatus由来の、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)遺伝子および/または1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)遺伝子、フェレドキシン/フラボドキシン(PetF/FldA)遺伝子、およびフェレドキシン/フラボドキシン-NADPレダクターゼ(PetH/Fpr)遺伝子を発現する、[1]-[3]のいずれかの遺伝子改変微生物。
[5] 大腸菌である、[1]-[4]のいずれかの遺伝子改変微生物。
[6] 前記イソプレノイド類が、イソプレンである、[1]-[5]のいずれかの遺伝子改変微生物。
【0021】
[7] 水性媒体中でイソプレノイド類産生能を有する遺伝子改変微生物と有機原料とを接触させる工程を含む、イソプレノイド類の製造方法であって、
前記遺伝子改変微生物が、
非改変体に比較して低減されたホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)活性と、
非改変体に比較して増強された1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸シンターゼ(Dxs)活性、イソペンチル二リン酸イソメラーゼ(Idi)活性、およびイソプレンシンターゼ(IspS)活性を有し、さらに、
非改変体に比較して増強された1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸レダクトイソメラーゼ(Dxr)活性、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)活性および/または1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)活性、フェレドキシン/フラボドキシン(PetF/FldA)活性、およびフェレドキシン/フラボドキシン-NADPレダクターゼ(PetH/Fpr)活性を有する、
製造方法。
[8] 前記遺伝子改変微生物が、非改変体に比較して低減されたグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GapA)活性を有する、[7]の製造方法。
[9] 前記遺伝子改変微生物が、非改変体に比較して低減されたクエン酸シンターゼ(GltA)活性を有する、[8]の製造方法。
[10] 前記遺伝子改変微生物が、Thermosynechococcus elongatus由来の、1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)遺伝子および/または1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)遺伝子、フェレドキシン/フラボドキシン(PetF/FldA)遺伝子、およびフェレドキシン/フラボドキシン-NADPレダクターゼ(PetH/Fpr)遺伝子を発現する、[7]-[9]のいずれかの製造方法。
[11] 前記遺伝子改変微生物が、大腸菌である、[7]-[10]のいずれかの製造方法。
[12] 前記イソプレノイド類が、イソプレンである、[7]-[11]のいずれかの製造方法。
[13] 前記有機原料が、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、グルコース、ラクトース、マルトース、トレハノース、セロビオース、スクロース、デンプン、デキストリン、セルロース、ヘミセルロース、グリセロールおよび/またはマンニトールを含む、[7]-[12]のいずれかの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、微生物を宿主としたバイオイソプレンの大量生産が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】イソプレンの生産実験結果を示す。用いたプラスミドの構造が上部に図示してある。
【
図2】イソプレンの生産実験結果を示す。用いたプラスミドの構造が上部に図示してある。
【
図3】イソプレンの生産実験結果を示す。用いたプラスミドの構造が上部に図示してある。
【
図4】イソプレンの生産実験結果を示す。用いたプラスミドの構造が上部に図示してある。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0025】
[遺伝子改変微生物]
本開示に係る遺伝子改変微生物は以下の特徴を備える。
(1)非改変体に比較して低減されたホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)活性を有する。
(2)非改変体に比較して増強された1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸シンターゼ(Dxs)活性を有する。
(3)非改変体に比較して増強されたイソペンチル二リン酸イソメラーゼ(Idi)活性を有する。
(4)非改変体に比較して増強されたイソプレンシンターゼ(IspS)活性を有する。
(5)非改変体に比較して増強された1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸レダクトイソメラーゼ(Dxr)活性を有する。
(6)非改変体に比較して増強された1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)活性および/または1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)活性を有する。
(7)非改変体に比較して増強されたフェレドキシン/フラボドキシン(PetF/FldA)活性を有する。
(8)非改変体に比較して増強されたフェレドキシン/フラボドキシン-NADPレダクターゼ(PetH/Fpr)活性を有する。
(9)イソプレノイド類産生能を有する。
さらに、本開示に係る遺伝子改変微生物は以下の特徴を備えていることが好ましい。
(10)非改変体に比較して低減されたグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GapA)活性を有する。
(11)非改変体に比較して低減されたクエン酸シンターゼ(GltA)活性を有する。
【0026】
本開示に係る遺伝子改変微生物は、細菌では大腸菌、コリネ型細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌およびシュードモナス(Pseudomonas)属細菌などであってよい。
また、本開示に係る遺伝子改変微生物は、酵母ではSaccharomyces属、Candida属、Shizosaccharomyces属、Pichia属、糸状菌ではAspergillus属などであってもよい。
本開示に係る遺伝子改変微生物は、上記(1)-(9)の特徴を具備する限り限定されないが、特に大腸菌を用いることが簡便であり、遺伝子改変ツールが充実しているため、好ましい。
【0027】
遺伝子改変微生物の作製は、従来公知の遺伝子工学的手法を用いて行うことができる。
目的の酵素について非改変体に比較して低減された活性を有する遺伝子改変微生物の作製は、例えば、微生物の染色体上の酵素をコードする核酸を破壊する手法、酵素をコードする核酸をより微弱なプロモーターに置換する手法、酵素をコードする核酸のプロモーターやシャインダルガーノ(SD)配列等の発現調節配列を発現量が低下するように改変する手法、アンチセンスRNAを発現させて標的mRNAへのリボソーム結合を阻害することにより翻訳を抑制する手法、CRISPR Interferenceにより転写を抑制する手法、酵素をコードする核酸に変異を導入することによって酵素1分子当たりの活性を低下させる手法などによって行うことができる。
目的の酵素について非改変体に比較して増強された活性を有する遺伝子改変微生物の作製は、例えば、酵素をコードする核酸をベクターに導入し、該ベクター系で微生物を形質転換する手法、酵素をコードする核酸を含む発現カセットを微生物の染色体に導入する手法、酵素をコードする核酸をより強力なプロモーターに置換する手法、酵素をコードする核酸のプロモーターやシャインダルガーノ(SD)配列等の発現調節配列を発現量が増加するように改変する手法、酵素をコードする核酸に変異を導入することによって酵素1分子当たりの活性を増加させる手法などによって行うことができる。
【0028】
[メチルエリスリトールリン酸(MEP)経路・メバロン酸(MVA)経路]
MEP経路は、イソペンテニル二リン酸(IPP)およびジメチルアリル二リン酸(DMAPP)の生合成経路である。MEP経路には、上流から順に以下の遺伝子が関与する。
1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸シンターゼ(Dxs)
1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸レダクトイソメラーゼ(Dxr)
2-C-メチル-D-エリスリトール 4-リン酸シチジルトランスフェラーゼ(IspD)
4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトールキナーゼ(IspE)
2-C-メチル-D-エリスリトール 2,4-シクロ二リン酸シンターゼ(IspF)
1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)
1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)
イソペンチル二リン酸イソメラーゼ(Idi)
【0029】
MVA経路は、イソペンテニル二リン酸(IPP)の生合成経路である。MVA経路には、上流から順に以下の遺伝子が関与する。
アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ(MvaE)
3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAシンターゼ(MvaS)
3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAレダクターゼ(MvaE)
メバロン酸キナーゼ(MVK)
ホスホメバロン酸キナーゼ(PMK)活性
ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(MVD)活性
なお、MvaEは、アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ活性と3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAレダクターゼ活性の双方の活性を有する。以下、「MvaE活性」と表記した場合は、両方の酵素活性を指すこととする。
【0030】
[Pgi遺伝子]
本開示に係る遺伝子改変微生物は、非改変体に比較して低減されたPgi活性を有する。
Pgiは、グルコース-6-リン酸をフルクトース-6-リン酸に変換する酵素である。
本開示において、「非改変体」とは、天然の微生物であるが、本開示に係る遺伝子改変が施されていない微生物であれば他の遺伝子改変を有する微生物であってもよいものとする。
「非改変体に比較して低減された活性」とは、単位量あたりの遺伝子改変微生物またはそれが発現する酵素によって触媒される反応の単位時間あたりの生成物の量が、非改変体またはそれが発現する酵素に比して少ないことを意味し、例えば10%以上、20%以上、好ましくは30%以上、40%以上、より好ましくは50%以上、60%以上、さらに好ましくは70%以上、80%以上、最も好ましくは90%以上、95%以上、特に好ましくは99%以上、99.5%以上少ない。「非改変体に比較して低減された活性」には、遺伝子の欠失により酵素活性が0である場合も含まれる。
酵素活性の測定は、目的とする酵素と該酵素が触媒する反応の反応基質とを用いて、該反応が進行可能な条件下で当該反応を行い、反応基質からの生成する反応生成物の量を測定することによって行うことができる。
【0031】
[MEP経路遺伝子]
本開示に係る遺伝子改変微生物は、MEP経路において、非改変体に比較して増強されたDxs活性と、Idi活性と、IspS活性と、Dxr活性と、IspG活性またはIspH活性と、を有する。より好ましくは、本開示に係る遺伝子改変微生物は、非改変体に比較して増強されたDxs活性と、Idi活性と、IspS活性と、Dxr活性と、IspH活性およびIspG活性と、を有する。
「非改変体に比較して増強された活性」とは、単位量あたりの遺伝子改変微生物またはそれが発現する酵素によって触媒される反応の単位時間あたりの生成物の量が、非改変体またはそれが発現する酵素に比して多いことを意味し、例えば50%以上、60%以上、好ましくは70%以上、80%以上、より好ましくは80%以上、90%以上、さらに好ましくは100%以上、150%以上、最も好ましくは200%以上、300%以上、特に好ましくは400%以上、500%以上多い。
【0032】
dxs遺伝子が導入される場合、当該遺伝子はリゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)由来のもの(Rr_dxs)が好適に採用される。
ispG遺伝子およびispH遺伝子が導入される場合、当該遺伝子はサーモシネココッカス・エロンゲイタス(Thermosynechococcus elongatus)由来のもの(Te_ispGH)が好適に採用される。
ispS遺伝子が導入される場合、当該遺伝子はムクナ(Mucuna bracteata)由来のもの(Mb_ispS)またはその高活性型変異体遺伝子(Mb_ispS*)が好適に採用される。
【0033】
[IspG反応およびIspH反応の電子伝達に関わる遺伝子]
本開示に係る遺伝子改変微生物は、非改変体に比較して増強されたPetF/FldA活性およびPetH/Fpr活性を有する。
MEP経路におけるIspGおよびIspHは鉄―硫黄クラスターを含む酵素であり、フェレドキシンまたはフラボドキシンを介して電子伝達されることでそれぞれ還元反応が進行する。PetF/FldA活性の改変により、IspG活性および/またはIspH活性を効率よく増強させることでき、イソプレノイド類の産生量の向上が期待できる。
フェレドキシン/フラボドキシン-NADP+レダクターゼは、IspGおよび/またはIspHの酵素反応の進行に伴って、還元型から酸化型となったフェレドキシンおよび/またはフラボドキシンを再び還元型に戻すことができる。PetH/Fpr活性の改変により、IspG活性および/またはIspH活性を効率よく増強させることでき、イソプレノイド類の産生量の向上が期待できる。
【0034】
petF/fldA遺伝子およびpetH/fpr遺伝子が導入される場合、当該遺伝子はThermosynechococcus elongatus由来のもの(Te_petF, T_petH)が好適に採用される。
【0035】
本開示に係る遺伝子改変微生物は、好ましくは、非改変体に比較して低減されたグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GapA)活性を有する。
GapAは、グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素で、グリセルアルデヒド-3-リン酸をグリセリン酸1,3-2リン酸に変換する反応を触媒する。
【0036】
[gltA遺伝子]
本開示に係る遺伝子改変微生物は、好ましくは、非改変体に比較して低減されたGltA活性を有する。
GltAは、アセチルCoAとオキサロ酢酸からクエン酸を合成する反応を触媒するクエン酸シンターゼである。
【0037】
[イソプレノイド類の製造方法]
本開示に係る遺伝子改変微生物は、顕著なイソプレノイド類産生能を有する。したがって、本開示に係る遺伝子改変微生物は、水性媒体中で有機原料と接触させることでイソプレノイド類を製造するために利用できる。
【0038】
本開示に係るイソプレノイド類製造方法において、イソプレノイド類は、イソプレン、アルテミシニン、ファルネセン、ファルネソール、タキソール、アモルファジエン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、タキサジエン、リコペン、レボピマラジエン、プレノール、イソプレノール、ゲラニオール、リモネン、メントール、アルファトコフェロール、などであってよく、特にはイソプレンである。
【0039】
本開示に係るイソプレノイド類製造方法において、有機原料は、再生可能資源であるバイオマスとでき、特に限定されないが、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、グルコース、ラクトース、マルトース、トレハノース、セロビオース、スクロース、デンプン、デキストリン、セルロース、ヘミセルロース、グリセロール、マンニトールなどであってよい。このうちグルコースおよび/またはスクロースが好ましい。
【0040】
遺伝子改変微生物は、培養液をそのまま用いるか、または、該培養液から遠心分離等の集菌操作によって得られる菌体またはその処理物等を用いることができる。菌体処理物としては、微生物の菌体をアクリルアミド、カラギーナン等で固定化した固定化菌体、菌体破砕物、その遠心分離上清、またはその上清を部分精製した無細胞抽出物、並びにこれらから酵素を抽出した粗酵素または精製酵素等が挙げられる。
【0041】
遺伝子改変微生物と有機原料と接触させる工程は、適当な水性媒体中で行えばよい。水性媒体は、例えば、微生物を培養するための培地であってもよいし、リン酸緩衝液等の緩衝液であってもよい。水性媒体は、窒素源、無機塩などを含む水溶液であることが好ましい。ここで、窒素源としては、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物等が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩等が用いられる。また、ビオチン、チアミン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの微生物の生育を促進する因子を必要に応じて添加する。また、反応時の発泡を抑えるために、反応液には市販の消泡剤を適量添加しておくことが好ましい。
【0042】
工程の時間や温度、pH、遺伝子改変微生物および有機原料の添加量は、特に制限されず、適宜調整され得る。
温度は、用いる微生物の種類に応じて、その活性が最も有効に発揮される範囲に調整されることが好ましい。具体的には、大腸菌を用いる場合には、通常20-45℃の範囲、好ましくは25-37℃である。酵母を用いる場合には、通常20-45℃の範囲、好ましくは27-40℃である。
時間は、通常1~168時間とされ、好ましくは3~120時間であり、より好ましくは6~72時間である。
pH条件も、用いる微生物の種類に応じて、その活性が最も有効に発揮される範囲に調整されることが好ましい。具体的には、大腸菌を用いる場合には、通常pH4.5~9.0の範囲、好ましくはpH5.5~8.0である。酵母を用いる場合には、通常pH2.5~8.5の範囲、好ましくはpH3.5~7.5である。
遺伝子改変微生物の添加量は、湿菌体重量として、通常1~700g/L、好ましくは10~500g/L、より好ましくは20~400g/Lである。
有機原料の使用濃度は、そこに含まれる糖質の濃度で、水性媒体に対して、通常0.1-10%(W/V)、好ましくは0.2-5%(W/V)である。また、イソプレン生産の進行に伴う有機原料の減少にあわせて、有機原料を追加で添加してもよい。
【実施例0043】
[実施例1:プラスミドDNAの作成と大腸菌株の作成]
大腸菌の培養、遺伝子組換え操作等は、本発明者らの論文および特許(Nakashima and Tamura, 2004 Biotechnol Bioeng 86:136-、Nakashima and Tamura, 2004 Appl Environ Microbiol 70:5557-、Nakashima et al., 2006 Nucleic Acids Res 34:e138、Nakashima and Tamura, 2009 Nucleic Acids Res 37:e103、特許第3793812号、特許3944577号)に基づいて行った。
DNA断片の切断は、New England Biolab社あるいはニッポンジーン社の制限酵素を用いて行い、切断後はアガロースゲル電気泳動で分離し、必要なDNA断片のみを回収した。
ゲルからのDNA断片回収はpromega社のWizard SV Gel and PCR Clean-Up Systemで行い、サブクローニングの際のライゲーション反応は、タカラバイオ株式会社のDNA Ligation Kit <Mighty Mix>を用いた。
ライゲーション後の形質転換にはECOS コンピテントE. coli DH5α大腸菌(株式会社ニッポンジーン製)を用い、当該メーカー推奨の方法に従った。
PCR反応は東洋紡社製のKOD FX neo polymeraseかKOD ONE polymeraseを用いた。
合成オリゴヌクレオチドは北海道システムサイエンス社にその合成を委託した。
遺伝子の人工合成は、ユーロフィン社またはgenscript社に委託した。
大腸菌の培養は、特に断りがない限り、LB(10 g/L Difco Bacto Tryptone、5 g/L Difco Yeast Extract、5 g/L 塩化ナトリウム)を用いて、37℃で行った。寒天培地による培養の場合、寒天濃度は18 g/Lで、90 mm直径の丸形プラスチックシャーレに入れたものを用いた。M9培地の組成は、17 g/L Na2HPO4-12H2O, 3 g/L KH2PO4, 0.5 g/L NaCl, 1 g/L NH4Cl, 0.49 g/L MgSO4-7H2O, 0.015 g/L CaCl2-2H2O, 0.0083 g/L FeSO4-7H2O, 0.01 g/L チアミン塩酸塩, 0.01 g/L ピリドキシン塩酸塩, 10 g/L グルコースである。M9Y培地は、M9培地に2 g/L Difco Yeast Extractを添加したものである。また、プラスミドを保持する大腸菌を培養する場合は、対応する抗生物質を加えて行った。抗生物質の終濃度は、アンピシリンは50 mg/L、カルベニシリンは50 mg/L、クロラムフェニコールは34 mg/L(原液は99.5%エタノールを溶媒として34 g/Lの濃度で作成)、カナマイシンは50 mg/Lである。LBおよびのM9Y培地での培養の場合は、アンピシリンを用い、M9培地での培養ではカルベニシリンを用いた。グルコースを培養液に加える場合は、300 g/Lの水溶液をザルトリウス社製ミニザルトフィルター0.22 μM(商品コード16534K)で滅菌したもの作成しておき、それを適宜希釈した。
【0044】
PCR反応のための鋳型となるゲノムDNAには、野生型大腸菌K12-MG1655株(F- lambda- ilvG- rfb-50 rph-1)由来のものを用いた。当該ゲノムDNAの調製方法を以下述べる。
5 mLの培養液にて培養した当該株を500 μLのSETバッファー(75 mM 塩化ナトリウム、25 mM EDTA (pH8.0)、20 mM Tris-HCl (pH7.5))に懸濁した。そこに、5 μLのリゾチーム溶液(100 g/L)を加え、37℃で30分インキュベートした。そして、14 μLのプロテアーゼK溶液(20 g/L)と60 μLの硫酸ドデシルナトリウム溶液(100 g/L)を加え、よく混合した後55℃で2時間インキュベートした。その後、200 μLの塩化ナトリウム溶液(5 M)と500 μLのPhenol/Chloroform/Isoamyl alcohol (25:24:1)溶液(株式会社ニッポンジーン社製)を加え、20分間室温で回転撹拌した。試料を遠心分離し、700 μLの上清をとった。これをエタノール沈殿後、自然乾燥させ、50 μLの水に溶解した。
【0045】
[プラスミドpHN4272]
Rr_dxs、Ec_idi、Mb_ispS*を、trcプロモーター(Ptrc)によってIPTG(Isopropyl β-D-1-thiogalactopyranoside)誘導的に発現するプラスミドであるpHN4272を作成するために、以下の操作を行った。
pTrc99aプラスミド(Amersham Biosciences社製)をNsiIとNcoIで切断し精製したDNA断片(trcプロモーター配列とlacIq遺伝子配列を含む断片)を、pHN540uプラスミド(Nakashima et al., Nucleic Acids Res. 2006 34:e138)のPstI-NcoI部位にサブクローニングした。このプラスミドをpHN1238とする。pHN1238はtrcプロモーター配列とlacIq遺伝子配列をもつため、trcプロモーター下流の遺伝子をIPTG誘導的に発現させることができる。また、当該プラスミドの形質転換マーカーはクロラムフェニコールで、プラスミドの自律複製起点(ori)としてpACYC184(株式会社ニッポンジーン製)由来のものを持つ。
次いで、Rr_dxs遺伝子の配列を持つDNA断片を得るために、sSN8221(aaatcatgaccggaatgccacagaccccattg:配列番号1)とsSN1671(ccctatagtgagtcgtattaatttc:配列番号2)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、pYS067プラスミド(配列番号3)を鋳型としてPCR反応を行った。なお、pYS067は、pCOLADuet-1(Novagen社製)に人工合成したDNA断片をサブクローニングしたものである。得られたDNA断片の末端をBspHIとHindIIIで処理し、精製した。この断片を、pHN1238のNcoI-HindIII部位にサブクローニングした。このtrcプロモーター下流にRr_dxs遺伝子の配列を持つプラスミドをpHN4213とする。
Ec_idi遺伝子の配列を持つDNA断片を得るために、sSN8335(aaagaattcagaattacatgtgagaaattatgcaaacgg:配列番号4)とsSN8336(aaatctagacctaggtctcgagttatttaagctgggtaaatgcagataatcgttttc:配列番号5)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、MG1655ゲノムDNAを鋳型としてPCR反応を行った。得られたDNA断片の末端をEcoRIとXbaIで処理し、精製した。この断片を、pHN4213のEcoRI-SpeI部位にサブクローニングした。このtrcプロモーター下流にRr_dxsとEc_idiの配列を連続して(人工的なオペロンとして)持つプラスミドをpHN4214とする。
Mb_ispS*遺伝子の配列を持つDNA断片を得るために、sSN8343(aaagtcgactaaaagaggagaaatcattaatgtcc:配列番号6)とsSN8255(agaggccccaaggggttatgctag:配列番号7)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、pYS067を鋳型としてPCR反応を行った。得られたDNA断片の末端をSalIとAvrIIで処理し、精製した。この断片を、pHN4214のXhoI-AvrII部位にサブクローニングした。このtrcプロモーター下流にRr_dxs、Ec_idi、Mb_ispS*の配列を連続して(人工的なオペロンとして)持つプラスミドをpHN4233とする。
発現用のプラスミドを構築するために、pTrc99aからlacIqとtrcプロモーター配列を含むDNA断片をNsiIとNcoIで切り出し、その断片をpHN1257(Nakashima and Tamura, Nucleic Acids Res 2009 37:e103)のNsiI-NcoI部位にサブクローニングした。完成したプラスミドをpHN1387とした。このプラスミドはlacIqとtrcプロモーター配列以外に、カナマイシン耐性遺伝子とpSC101H ori(Nakashima and Tamura, Nucleic Acids Res. 2009 37:e103)の配列を持つ。
pHN4233からtrcプロモーター、Rr_dxs、Ec_idi、Mb_ispS*、およびlacIqの一部の配列を含むDNA断片をApaIとAvrIIで切り出し、その断片をpHN1387のApaI-SpeI部位にサブクローニングした。完成したプラスミドをpHN4272とした。
【0046】
[プラスミドpHN4312]
pHN4272のRr_dxs、Ec_idi、Mb_ispS*の下流に、Ec_dxr遺伝子配列を追加したプラスミド(pHN4312)を構築するために、以下の操作を行った。
Ec_dxr遺伝子の配列を持つDNA断片を得るために、sSN8339(aaactcgagaaaagaggagaaatactagatgaagcaactcaccattctgggctcgaccg:配列番号8)とsSN8228(aaaactagtcagcttgcgagacgcatcacctcttttc:配列番号9)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、MG1655ゲノムDNAを鋳型としてPCR反応を行った。得られたDNA断片の末端をXhoIとSpeIで処理し、精製した。この断片を、pHN4233のXhoI-AvrII部位にサブクローニングした。完成したプラスミドをpHN4239とした。
Ec_dxr遺伝子の配列を持つDNA断片を得るために、sSN8341(catacatgtccgccgtttcaagccagttc)とsSN8352(aaagtcgactcagcttgcgagacgcatcacctcttttc)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、pHN4239を鋳型としてPCR反応を行った。得られたDNA断片の末端をBsrGIとSalIで処理し、精製した。この断片を、pHN4272のBsrGI-XhoI部位にサブクローニングした。完成したプラスミドをpHN4312とした。
【0047】
[プラスミドpHN4231]
pHN4312にIPTG誘導性のT5lacプロモーター(PT5lac)、および当該プロモーター下流にTe_ispG、Te_ispH、Te_petF、Te_petHを人工オペロンとして導入するために、以下の操作を行った。
まずpHN4239のXbaI部位にT5lacプロモーター配列等を人工合成した断片をサブクローニングした。完成したプラスミドをpHN4239T5onlyとした。その全配列を配列番号10に記す。
T5lacプロモーター等の配列を持つDNA断片を得るために、sSN1002(tttgtacagatcaattcgcgctaactcacattaattg:配列番号11)とsSN8401R(aaactgcaggcttctcaaatgcctgaggtttcagc:配列番号12)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、pHN4239T5onlyを鋳型としてPCR反応を行った。得られたDNA断片をApaIとPstIで処理し、T5lacプロモーター配列を含む断片を精製した。この断片を、pHN4312のApaI-NsiI部位にサブクローニングした。完成したプラスミドをpHN4315とした。
pHN1238プラスミドのNcoI-BamHI部位に、Te_ispG、Te_ispH、Te_petF、Te_petHの配列を持つ人工合成したDNA断片をサブクローニングした。これをpHN1238Tesynとした。その全配列を配列番号13に記す。
pHN1238TesynからTe_ispG、Te_ispH、Te_petF、Te_petHの配列を含むDNA断片をNcoIとSpeIで切り出し、その断片をpHN4315のBspHI-AvrII部位にサブクローニングした。完成したプラスミドをpHN4319とした。このプラスミドは、lacIq、trcプロモーター、Rr_dxs、Ec_idi、Mb_ispS*、Ec_dxr、T5lacプロモーター、Te_ispG、Te_ispH、Te_petF、Te_petH、カナマイシン耐性遺伝子、pSC101H oriの配列を持つ。
pHN4231を作成するために以下の操作を行った。プラスミドの自律複製に必要なori配列とクロラムフェニコール耐性マーカー配列を持つDNA断片を得るために、sSN8116(ggtctgtttcctgtgtgaaattg:配列番号14)とsSN1020(ctactagttttggcggatgagagaagattt:配列番号15)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、pHN1238プラスミドを鋳型としてPCR反応を行った。得られたDNA断片の一方の末端をSpeIで処理し、精製した。これを断片Aとする。一方、Ec_ispGとEc_ispHの配列を持つDNA断片を得るために、sSN8250(atgcataaccaggctccaattcaac:配列番号16)とsSN8255(agaggccccaaggggttatgctag:配列番号17)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、pYS089プラスミド(配列番号18)を鋳型としてPCR反応を行った。なお、pYS089は、pCDFDuet-1プラスミド(Novagen社製)に人工合成したDNA断片をサブクローニングしたものである。また、PCRに先立って、sSN8250はT4 DNA kinaseによりその5'末端をリン酸化しておいた。得られたDNA断片の一方の末端をAvrIIで処理し、精製した。これを断片Bとする。断片AとBをDNA Ligation Kit <Mighty Mix>により連結し、プラスミドpHN4231を得た。pHN4231は、pACYC184由来のori、クロラムフェニコール耐性遺伝子、trcプロモーター、Ec_ispG、Ec_ispH、lacIqの配列を持つ。
【0048】
[プラスミドpHN4317]
pHN4317を作成するために以下の操作を行った。
pYS078(配列番号19)からEc_fldA、Ec_fprの配列を含むDNA断片をXhoIで切り出し、その断片をpHN4231のXhoI部位にサブクローニングした。pYS078は、pCDFDuet-1プラスミド(Novagen社製)に人工合成したDNA断片をサブクローニングしたものである。また、このサブクローニングでは、trcプロモーターから3'方向に向かって、Ec_ispG、Ec_ispH、Ec_fldA、Ec_fprに位置するようにクローニングされたプラスミドを選別した。この完成したプラスミドをpHN4317とした。
【0049】
[プラスミドpHN1238Tesyn, pHN1238-Zm1syn, pHN1238-Zm2syn, pHN1238-Sasyn]
様々な生物種に由来するIspG、IspH、fdxあるいはfldA、fprをコードする遺伝子配列を人工合成し、pHN1238のNcoI-BamHI部位にそれぞれサブクローニングした。
Zymomonas mobilis由来の当該遺伝子群は、Zm_ispG、Zm_ispH、Zm_fld、Zm_fprのセット、またはZm_ispG、Zm_ispH、Zm_fdx、Zm_fprの遺伝子セットである。2セット作成したのは、Zm_ispGHに電子を供給する酵素群が解明されておらず、Z. mobilis ZM4株ゲノムの配列上に存在する当該酵素の配列候補を検索したところ、Zm_fldとZm_fdxが見いだされたため、双方を同時に試験する必要があるためである。プラスミドはそれぞれpHN1238-Zm1synとpHN1238-Zm2synであり、DNA配列がそれぞれ配列番号20,21に示してある。
Salipaludibacillus agaradhaerens由来の当該遺伝子群は、Sa_ispG、Sa_ispH、Sa_fdx、Sa_fprであり、プラスミド(pHN1238-Sasyn)のDNA配列は配列番号22に示してある。
S. agaradhaerens由来の当該遺伝子群は、Bacillus sp. N16-5株(上述)の当該遺伝子群の配列の詳細がispHを除いて不明であったため、Bacillus sp. N16-5株のispHと最も相同性の高いispH遺伝子を持つ生物種をblast検索で見出し、利用したものである。
なお、T. elongatusについては、上述したpHN1238Tesynが当該遺伝子群をもつプラスミドである。
【0050】
[MG1655_Dpgi株]
MG1655株のゲノムにおいてEc_pgi遺伝子を破壊した株(MG1655_Dpgi)は、特開2014-209872号公報に記載している。
【0051】
[MG1655_Dpgi_tetgapA株]
大腸菌ゲノム上のEc_gapAの発現を制御するために、以下の操作を行った。
Ec_gapAの上流配列(Ec_yeaCの一部とEc_msrBのすべてを含む)、tetR遺伝子(特開2014-209872)、homプロモーター(特開2014-209872)、テトラサイクリン/ドキシサイクリン誘導プロモーター(Ptet、特開2014-209872)およびEc_gapAのコーディング配列の一部を含む配列を人工合成し、pHN1234(Nakashima and Tamura, J Biosci Bioeng 2012 114:38-)のPstI-NcoI部位にサブクローニングした。当該プラスミド、pHN4314のDNA配列を配列番号23に示す。pHN4314は、温度感受性のpSC101由来ori、クロラムフェニコール耐性遺伝子、およびBacillus subtilis由来sacB遺伝子も持ち、MG1655株ゲノム上のEc_gapA遺伝子プロモーター配列をテトラサイクリン/ドキシサイクリン誘導プロモーター配列に置換することができるものである。その具体的手法は、中島らの論文に記載されている通りである(Nakashima and Miyazaki, Int J Mol Sci 2014 15:2773-)。これによって、MG1655_Dpgi株のゲノムにおいて、Ec_gapAプロモーターの置換を行った株(MG1655_Dpgi_tetgapA)を構築した。なお、Ec_gapAは、大腸菌の生育に必須な遺伝子であって、ゲノムからの完全な除去は困難であることが知られており(Nakashima et al., Appl Environ Microbiol 2014 80:564-)、その代替として、上記のようなテトラサイクリン/ドキシサイクリンによって発現を人為的に調節できる株を構築した。
【0052】
[プラスミドpHN2066, pHN4325]
pHN666(Nakashima et al., 2006 Nucleic Acids Res 34:e138)はアンチセンスRNAを構成的に発現するための元となるプラスミドである。組み込んである構成的プロモーターはconプロモーター(Pcon)である。このプラスミドに、Ec_aceEおよびEc_gltAのmRNAに対するアンチセンスRNAを発現させるためのDNA配列を導入するために、以下の操作を行った。
Ec_aceE遺伝子の一部配列を持つDNA断片を得るために、sSN1218(ggctcgagaaaactcaacgttattagatag:配列番号24)とsS1219(tcccatggagccagtcgcgagtttcgat:配列番号25)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、MG1655ゲノムDNAを鋳型としてPCR反応を行った。得られたDNA断片の末端をNcoIとXhoIで処理し、精製した。この断片を、pHN666のNcoI-XhoI部位にサブクローニングした。構成的プロモーター下流にaceEのアンチセンス配列を持つこのプラスミドをpHN2066とした。
Ec_gltA遺伝子の一部配列を持つDNA断片を得るために、sSN1267(gtctcgaggcaaatttaagttccggcagtc:配列番号26)とsS1268(acccatggttcaacagctgtatccccgttg:配列番号27)の2つのオリゴヌクレオチドプライマーを作成し、MG1655ゲノムDNAを鋳型としてPCR反応を行った。得られたDNA断片の末端をNcoIとXhoIで処理し、精製した。この断片を、pHN666のNcoI-XhoI部位にサブクローニングした。構成的プロモーター下流にEc_gltAのアンチセンス配列を持つこのプラスミドをpHN4325とした。
【0053】
[実施例2:イソプレンの生産実験]
15 mL容量のプラスチック製遠沈管に1 mL培地を入れたものを用意し、そこに各プラスミドで形質転換した大腸菌MG1655_Dpgi株を、寒天培地のコロニーから植菌した。これを30℃で一晩振盪培養した後、20 μL分を分取し、50 mL容量バッフル付き三角フラスコにM9Y培地10 mLを入れたものに混合した。これを30℃で一晩振盪培養した後、この培養液の600 nmでの光学濃度(OD600:Optical density at 600 nm)を吸光光度計にて測定し、OD600が0.6になるようにM9Y培地で希釈した培養液10 mL分を、新規の50 mL容量バッフル付き三角フラスコに入れた。さらにそこに、1 M IPTG水溶液を、IPTG終濃度が0.5 mMになるように添加した後、30℃で4時間振盪培養した。次いで、大腸菌細胞をアングルロータ式遠心分離機にて、5000 g、5分の条件でペレット状に沈殿させ、上澄みである培養液を捨て、ペレットを1 mLのM9培地で懸濁した。さらに、ここに1 M IPTG水溶液を終濃度が0.5 mMになるように添加した後、全量をヘッドスペースクリンプバイアル瓶(島津ジーエルシー社製、製品番号20-09-0297-1、ラウンデッドボトム20 mL)に移し、イソプレンが揮発、散逸しないように密栓した。密栓には、ゴム栓(日電理化硝子社製、製品番号0717041211、凍結乾燥用Bタイプ大)、バイアル瓶用アルミキャップ(島津ジーエルシー社製、製品番号20-ACB、ヘッドスペースサンプラHS-20バイアル瓶用)、20 mm electronic crimper(島津ジーエルシー社製、モデル番号GLC-20AC)を用いた。ただし上記培養方法において、MG1655_Dpgi_tetgapA株を培養する際は、初回のIPTG添加の直前までは、常にドキシサイクリン 20 μg/L(ストック原液は20 mg/Lで溶媒は99.5%エタノール)を添加して培養した。これは、Ec_gapAが生育に必須な遺伝子であるための措置ある。密栓後、バイアル瓶を30℃で20時間振盪培養した。
次いで、バイアル瓶内のイソプレンを気液平衡にするために、50℃で20分静置した後、気相25 μLをガスタイトシリンジ(ハミルトン社製、製品番号1702NPT5 22sゲージ 容量25 μL)によって吸引した。当該気相を、ガスクロマトグラフィー質量分析器(島津製作所社製、GCMS-TQ8040 NX)に全量注入し、イソプレン量を定量した。ガスクロマトグラフィー部では、ジーエルサイエンス社製カラムTC-70(内径0.25 mm、長さ30 m)を用いた。用いたキャリアガスはヘリウムである。ガスクロマトグラフィー質量分析器の設定は、試料気化室温度220℃、カラムオーブン温度80℃一定、スプリットレス注入、圧力100 kPa、線速度44.5 cm/秒一定制御、質量分析部インターフェース温度80℃、イオン源温度200℃、Scan測定モード、測定質量範囲(m/z)60から70、分析時間3分とした。1.175から1.180分程度に出現するイソプレンのピークで定量した。イソプレン標準液として、和光純薬工業社製の和光一級イソプレンを用い、適量をM9培地に混合したものをガスクロマトグラフィー質量分析器に供することで検量線を作成した。
【0054】
イソプレンの生産量の測定結果を
図1-4に示す。
Ec_dxrは過剰発現させるとイソプレンの生産量が低下することもあったが(
図1)、Ec_ispGH、Ec_fldAおよびEc_fprと同時に発現させた時は、生産性は高かった(
図2)。
【0055】
また、種々のispGH、フェレドキシン/フラボドキシン遺伝子、フェレドキシン/フラボドキシン-NADPHレダクターゼ遺伝子を過剰発現させたところ、Te_ispGH、Te_petF、Te_petHを用いると最も生産性が高いことが判明した(
図2)。
【0056】
さらに、MG1655_Dpgi株よりもMG1655_Dpgi_tetgapA株を用いてEc_gapAの発現を抑制した時の方が、生産性が高かった(
図3)。Ec_gapAの発現抑制に加えて、Ec_gltA mRNAに結合してその機能を阻害する(サイレンシングする)アンチセンスRNAを構成的に発現させると、より生産性が増大した(
図4)。