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特開2022-150327イソプレン産生能を有する遺伝子改変微生物およびこれを用いたイソプレン製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022150327
(43)【公開日】2022-10-07
(54)【発明の名称】イソプレン産生能を有する遺伝子改変微生物およびこれを用いたイソプレン製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20220929BHJP
   C12P 5/02 20060101ALI20220929BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
C12N1/21
C12P5/02
C12N15/09 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021052892
(22)【出願日】2021-03-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2016年度~2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発 高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】湯村 秀一
(72)【発明者】
【氏名】阪本 剛
(72)【発明者】
【氏名】中島 信孝
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AB04
4B064CA02
4B064CA19
4B064CA21
4B064CB14
4B064CB22
4B064CC24
4B064CD04
4B064CE10
4B064DA16
4B065AA01X
4B065AA15X
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AA41X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC03
4B065CA03
4B065CA54
(57)【要約】
【課題】再生可能資源であるバイオマスからイソプレンを製造するための技術の提供。
【解決手段】メチルエリスリトールリン酸(MEP)経路とメバロン酸(MVA)経路とを有し、非改変体に比較して低減されたホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)活性と、非改変体に比較して増強されたイソプレンシンターゼ(IspS)活性と、非改変体に比較して増強された1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)活性および/または1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)活性と、を有する、イソプレン産生能を有する遺伝子改変微生物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルエリスリトールリン酸(MEP)経路とメバロン酸(MVA)経路とを有し、
非改変体に比較して低減されたホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)活性と、
非改変体に比較して増強されたイソプレンシンターゼ(IspS)活性と、
非改変体に比較して増強された1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)活性および/または1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)活性と、を有する、
イソプレン産生能を有する遺伝子改変微生物。
【請求項2】
1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸シンターゼ(Dxs)活性、1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸レダクトイソメラーゼ(Dxr)活性、およびイソペンチル二リン酸イソメラーゼ(Idi)活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変体に比して増強されている、請求項1に記載の遺伝子改変微生物。
【請求項3】
クエン酸シンターゼ(GltA)活性が非改変株に比して低減されている、請求項1または2に記載の遺伝子改変微生物。
【請求項4】
2-C-メチル-D-エリスリトール 4-リン酸シチジルトランスフェラーゼ(IspD)活性、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトールキナーゼ(IspE)活性、および2-C-メチル-D-エリスリトール 2,4-シクロ二リン酸シンターゼ(IspF)活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株に比して増強されている、請求項1-3のいずれか一項に記載の遺伝子改変微生物。
【請求項5】
アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ(MvaE)活性、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAシンターゼ(MvaS)活性、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAレダクターゼ(MvaE)活性、メバロン酸キナーゼ(MVK)活性、ホスホメバロン酸キナーゼ(PMK)活性、およびジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(MVD)活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株に比して増強されている、請求項1-4のいずれか一項に記載の遺伝子改変微生物。
【請求項6】
大腸菌、コリネ型細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌およびシュードモナス(Pseudomonas)属細菌からなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1-5のいずれか一項に記載の遺伝子改変微生物。
【請求項7】
水性媒体中でイソプレン産生能を有する遺伝子改変微生物と有機原料とを接触させる工程を含む、イソプレンの製造方法であって、
前記遺伝子改変微生物が、
メチルエリスリトールリン酸(MEP)経路とメバロン酸(MVA)経路とを有し、
非改変体に比較して低減されたホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)活性と、
非改変体に比較して増強されたイソプレンシンターゼ(IspS)活性と、
非改変体に比較して増強された1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)活性および/または1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)活性と、を有する、
製造方法。
【請求項8】
前記有機原料が、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、グルコース、ラクトース、マルトース、トレハノース、セロビオース、スクロース、デンプン、デキストリン、セルロース、ヘミセルロース、グリセロールおよび/またはマンニトールを含む、請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソプレン産生能を有する遺伝子改変微生物およびこれを用いたイソプレン製造方法に関する。より詳しくは、再生可能資源であるバイオマスからイソプレンを製造するための遺伝子改変微生物等に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイソプレンゴム(IR)は、タイヤの重要な原料でもある天然ゴムの代替材料として注目されている。ポリイソプレンゴム(IR)の原料となるイソプレンモノマー(以下、単に「イソプレン」と称する)は、ナフサのクラッキングにより得られるC5留分から抽出されている。しかし、資源保護および環境保全の観点から、非石油資源、特に再生可能資源であるバイオマスからイソプレンを製造する技術が望まれている。
【0003】
本発明に関連して、例えば、非特許文献1では、1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸シンターゼ(Dxs)遺伝子、イソペンチル二リン酸イソメラーゼ(Idi)遺伝子およびイソプレンシンターゼ(IspS)遺伝子を過剰発現させた大腸菌を用いたイソプレンの製造方法が提案されている。
非特許文献1は、同製造方法において、メチルエリスリトールリン酸(MEP)経路内の1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)による反応がイソプレン生産の律速となっていることを示唆している。一方で、IspG遺伝子と、MEP経路内でIspGの下流に位置する1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)遺伝子と、を単純に過剰発現させるのみでは、IspGによる反応における律速は解除されず、イソプレン生産量は増加しないことが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】"Investigation of the methylerythritol 4-phosphate pathway for microbial terpenoid production through metabolic control analysis", Microbial Cell Factories, 2019, 18:192
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、再生可能資源であるバイオマスからイソプレンを製造するための技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題解決のため、本発明は、以下の[1]-[13]を提供する。
[1]メチルエリスリトールリン酸(MEP)経路とメバロン酸(MVA)経路とを有し、
非改変体に比較して低減されたホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)活性と、
非改変体に比較して増強されたイソプレンシンターゼ(IspS)活性と、
非改変体に比較して増強された1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)活性および/または1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)活性と、を有する、
イソプレン産生能を有する遺伝子改変微生物。
[2] 1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸シンターゼ(Dxs)活性、1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸レダクトイソメラーゼ(Dxr)活性、およびイソペンチル二リン酸イソメラーゼ(Idi)活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変体に比して増強されている、[1]の遺伝子改変微生物。
[3] クエン酸シンターゼ(GltA)活性が非改変株に比して低減されている、[1]または[2]の遺伝子改変微生物。
[4] 2-C-メチル-D-エリスリトール 4-リン酸シチジルトランスフェラーゼ(IspD)活性、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトールキナーゼ(IspE)活性、および2-C-メチル-D-エリスリトール 2,4-シクロ二リン酸シンターゼ(IspF)活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株に比して増強されている、[1]-[3]のいずれかの遺伝子改変微生物。
[5] アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ(MvaE)活性、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAシンターゼ(MvaS)活性、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAレダクターゼ(MvaE)活性、メバロン酸キナーゼ(MVK)活性、ホスホメバロン酸キナーゼ(PMK)活性、およびジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(MVD)活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株に比して増強されている、[1]-[4]のいずれかの遺伝子改変微生物。
[6] 大腸菌、コリネ型細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌およびシュードモナス(Pseudomonas)属細菌からなる群より選ばれる少なくとも1つである、[1]-[5]のいずれかの遺伝子改変微生物。
【0007】
[7] 水性媒体中でイソプレン産生能を有する遺伝子改変微生物と有機原料とを接触させる工程を含む、イソプレンの製造方法であって、
前記遺伝子改変微生物が、
メチルエリスリトールリン酸(MEP)経路とメバロン酸(MVA)経路とを有し、
非改変体に比較して低減されたホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)活性と、
非改変体に比較して増強されたイソプレンシンターゼ(IspS)活性と、
非改変体に比較して増強された1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)活性および/または1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)活性と、を有する、
製造方法。
[8] 前記有機原料が、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、グルコース、ラクトース、マルトース、トレハノース、セロビオース、スクロース、デンプン、デキストリン、セルロース、ヘミセルロース、グリセロールおよび/またはマンニトールを含み、好ましくはグルコースおよび/またはスクロースを含む、[7]の製造方法。
[9] 前記遺伝子改変微生物が、1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸シンターゼ(Dxs)活性、1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸レダクトイソメラーゼ(Dxr)活性、およびイソペンチル二リン酸イソメラーゼ(Idi)活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変体に比して増強されている、[7]または[8]の製造方法。
[10] 前記遺伝子改変微生物が、クエン酸シンターゼ(GltA)活性が非改変株に比して低減されている、[7]-[9]のいずれかの製造方法。
[11] 前記遺伝子改変微生物が、2-C-メチル-D-エリスリトール 4-リン酸シチジルトランスフェラーゼ(IspD)活性、4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトールキナーゼ(IspE)活性、および2-C-メチル-D-エリスリトール 2,4-シクロ二リン酸シンターゼ(IspF)活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株に比して増強されている、[7]-[10]のいずれかの製造方法。
[12] 前記遺伝子改変微生物が、アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ(MvaE)活性、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAシンターゼ(MvaS)活性、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAレダクターゼ(MvaE)活性、メバロン酸キナーゼ(MVK)活性、ホスホメバロン酸キナーゼ(PMK)活性、およびジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(MVD)活性からなる群より選ばれる少なくとも1種類以上の酵素活性が非改変株に比して増強されている、[7]-[11]のいずれかの製造方法。
[13] 前記遺伝子改変微生物が、大腸菌、コリネ型細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌およびシュードモナス(Pseudomonas)属細菌からなる群より選ばれる少なくとも1つである、[7]-[12]のいずれかの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、再生可能資源であるバイオマスからイソプレンを製造するための技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0010】
[遺伝子改変微生物]
本開示に係る遺伝子改変微生物は以下の特徴を備える。
(1)メチルエリスリトールリン酸(MEP)経路とメバロン酸(MVA)経路とを有する。
(2)非改変体に比較して低減されたホスホグルコースイソメラーゼ(Pgi)活性を有する。
(3)非改変体に比較して増強されたイソプレンシンターゼ(IspS)活性を有する。
(4)非改変体に比較して増強された1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)活性および/または1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)活性を有する。
(5)イソプレン産生能を有する。
【0011】
本開示に係る遺伝子改変微生物は、細菌では大腸菌、コリネ型細菌、バチルス(Bacillus)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌およびシュードモナス(Pseudomonas)属細菌などであってよい。
また、本開示に係る遺伝子改変微生物は、酵母ではSaccharomyces属、Candida属、Shizosaccharomyces属、Pichia属、糸状菌ではAspergillus属などであってもよい。
本開示に係る遺伝子改変微生物は、上記(1)-(5)の特徴を具備する限り限定されないが、特に大腸菌を用いることが簡便であり、遺伝子改変ツールが充実しているため、好ましい。
【0012】
遺伝子改変微生物の作製は、従来公知の遺伝子工学的手法を用いて行うことができる。
目的の酵素について非改変体に比較して低減された活性を有する遺伝子改変微生物の作製は、例えば、微生物の染色体上の酵素をコードする核酸を破壊する手法、酵素をコードする核酸をより微弱なプロモーターに置換する手法、酵素をコードする核酸のプロモーターやシャインダルガーノ(SD)配列等の発現調節配列を発現量が低下するように改変する手法、アンチセンスRNAを発現させて標的mRNAへのリボソーム結合を阻害することにより翻訳を抑制する手法、CRISPR Interferenceにより転写を抑制する手法、酵素をコードする核酸に変異を導入することによって酵素1分子当たりの活性を低下させる手法などによって行うことができる。
目的の酵素について非改変体に比較して増強された活性を有する遺伝子改変微生物の作製は、例えば、酵素をコードする核酸をベクターに導入し、該ベクター系で微生物を形質転換する手法、酵素をコードする核酸を含む発現カセットを微生物の染色体に導入する手法、酵素をコードする核酸をより強力なプロモーターに置換する手法、酵素をコードする核酸のプロモーターやシャインダルガーノ(SD)配列等の発現調節配列を発現量が増加するように改変する手法、酵素をコードする核酸に変異を導入することによって酵素1分子当たりの活性を増加させる手法などによって行うことができる。
【0013】
[メチルエリスリトールリン酸(MEP)経路・メバロン酸(MVA)経路]
MEP経路は、イソペンテニル二リン酸(IPP)およびジメチルアリル二リン酸(DMAPP)の生合成経路である。MEP経路には、上流から順に以下の遺伝子が関与する。
1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸シンターゼ(Dxs)
1-デオキシ-D-キシルロース 5-リン酸レダクトイソメラーゼ(Dxr)
2-C-メチル-D-エリスリトール 4-リン酸シチジルトランスフェラーゼ(IspD)
4-ジホスホシチジル-2-C-メチル-D-エリスリトールキナーゼ(IspE)
2-C-メチル-D-エリスリトール 2,4-シクロ二リン酸シンターゼ(IspF)
1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸シンターゼ(IspG)
1-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブテニル 4-二リン酸レダクターゼ(IspH)
イソペンチル二リン酸イソメラーゼ(Idi)
【0014】
MVA経路は、イソペンテニル二リン酸(IPP)の生合成経路である。MVA経路には、上流から順に以下の遺伝子が関与する。
アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ(MvaE)
3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAシンターゼ(MvaS)
3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAレダクターゼ(MvaE)
メバロン酸キナーゼ(MVK)
ホスホメバロン酸キナーゼ(PMK)活性
ジホスホメバロン酸デカルボキシラーゼ(MVD)活性
なお、MvaEは、アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ活性と3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAレダクターゼ活性の双方の活性を有する。以下、「MvaE活性」と表記した場合は、両方の酵素活性を指すこととする。
【0015】
本開示に係る遺伝子改変微生物において、MEP経路およびMVA経路は、遺伝子改変前に天然に備わっているものであってよく、遺伝子改変により新たに形質導入されたものであってもよい。例外は存するが、MEP経路は多くの原核生物および植物(葉緑体)が有し、MVA経路は多くの真核生物および植物(細胞質)が有する。
【0016】
[Pgi遺伝子]
本開示に係る遺伝子改変微生物は、非改変体に比較して低減されたPgi活性を有する。
Pgiは、グルコース-6-リン酸をフルクトース-6-リン酸に変換する酵素である。
本発明において、「非改変体」とは、天然の微生物であるが、本開示に係る遺伝子改変が施されていない微生物であれば他の遺伝子改変を有する微生物であってもよいものとする。
「非改変体に比較して低減された活性」とは、単位量あたりの遺伝子改変微生物またはそれが発現する酵素によって触媒される反応の単位時間あたりの生成物の量が、非改変体またはそれが発現する酵素に比して少ないことを意味し、例えば10%以上、20%以上、好ましくは30%以上、40%以上、より好ましくは50%以上、60%以上、さらに好ましくは70%以上、80%以上、最も好ましくは90%以上、95%以上、特に好ましくは99%以上、99.5%以上少ない。「非改変体に比較して低減された活性」には、遺伝子の欠失により酵素活性が0である場合も含まれる。
酵素活性の測定は、目的とする酵素と該酵素が触媒する反応の反応基質とを用いて、該反応が進行可能な条件下で当該反応を行い、反応基質からの生成する反応生成物の量を測定することによって行うことができる。
【0017】
[MEP経路遺伝子]
本開示に係る遺伝子改変微生物は、MEP経路において、非改変体に比較して増強されたIspS活性と、IspH活性またはIspG活性と、を有する。より好ましくは、本開示に係る遺伝子改変微生物は、非改変体に比較して増強されたIspS活性と、IspH活性およびIspG活性と、を有する。
「非改変体に比較して増強された活性」とは、単位量あたりの遺伝子改変微生物またはそれが発現する酵素によって触媒される反応の単位時間あたりの生成物の量が、非改変体またはそれが発現する酵素に比して多いことを意味し、例えば50%以上、60%以上、好ましくは70%以上、80%以上、より好ましくは80%以上、90%以上、さらに好ましくは100%以上、150%以上、最も好ましくは200%以上、300%以上、特に好ましくは400%以上、500%以上多い。
【0018】
また、本開示に係る遺伝子改変微生物は、MEP経路において、好ましくは、非改変体に比較して増強されたDxs活性、Dxr活性、および/またはIdi活性をさらに有する。より好ましくは、本開示に係る遺伝子改変微生物は、非改変体に比較して増強されたDxs活性、Dxr活性、およびIdi活性を有する。
【0019】
本開示に係る遺伝子改変微生物は、MEP経路において、より好ましくは、非改変体に比較して増強されたIspD活性、IspE活性、および/またはIspF活性をさらに有するものとできる。
【0020】
[MVA経路遺伝子]
本開示に係る遺伝子改変微生物は、MVA経路において、非改変体に比較して増強されたMvaE活性、MvaS活性、MVK活性、PMK活性、および/またはMVD活性を有する。より好ましくは、本開示に係る遺伝子改変微生物は、非改変体に比較して増強されたMvaE活性、MvaS活性、MVK活性、PMK活性、およびMVD活性を有する。
【0021】
[GltA遺伝子]
本開示に係る遺伝子改変微生物は、好ましくは、非改変体に比較して低減されたGltA活性を有する。
GltAは、アセチルCoAとオキサロ酢酸からクエン酸を合成する酵素である。
【0022】
上述したMEP経路遺伝子およびMVA経路遺伝子には、微生物の種類に応じて、当該微生物由来の遺伝子を用いてもよいし、あるいは異種由来の遺伝子を用いてもよい。
例えば、IspS遺伝子には、Mucuna bracteate由来の遺伝子(塩基配列を配列番14の577-2232番目に示す)を用いることができる。
IspH遺伝子には、Escherichia coli由来の遺伝子(塩基配列を配列番号18の4-954番目に示す)を用いることができる。
IspG遺伝子には、Escherichia coli由来の遺伝子(塩基配列を配列番号17の4-1122番目に示す)を用いることができる。
Dxs遺伝子には、Rhizobium radiobacter由来の遺伝子(塩基配列を配列番号13の3-1922番目に示す)を用いることができる。
Dxr遺伝子には、Escherichia coli由来の遺伝子(塩基配列を配列番号13の1947-3143番目に示す)を用いることができる。
Idi遺伝子には、Escherichia coli由来の遺伝子(塩基配列を配列番14の4-552番目に示す)を用いることができる。
MvaE遺伝子には、Enterococcus gallinarum由来の遺伝子(塩基配列を配列番15の3-2450番目に示す)を用いることができる。
MvaS遺伝子には、Enterococcus gallinarum由来の遺伝子(塩基配列を配列番15の2474-3628番目に示す)を用いることができる。
MVK遺伝子には、Methanococcoides burtonii由来の遺伝子(塩基配列を配列番16の4-915番目に示す)を用いることができる。
PMK遺伝子には、Saccharomyces cerevisiae由来の遺伝子(塩基配列を配列番16の939-2294番目に示す)を用いることができる。
MVD遺伝子には、Saccharomyces cerevisiae由来の遺伝子(塩基配列を配列番16の2316-3506番目に示す)を用いることができる。
なお、MvaE遺伝子がコードする酵素は、アセチル-CoAアセチルトランスフェラーゼ活性と3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoAレダクターゼ活性の双方の活性を有するが、MvaE遺伝子に替えて、それぞれの活性を単独で有する酵素をコードする遺伝子を別々に用いてもよい。
CRISPR Interferenceにより大腸菌においてGltA遺伝子の転写を抑制するためのガイドRNAには、PAM配列に隣接したEscherichia coli由来の遺伝子の部分配列(塩基配列を配列番20の6315-6334番目に示す)を用いることができる。
【0023】
各遺伝子の塩基配列は、上記の塩基配列に限定されず、塩基配列によってコードされるアミノ酸配列からなる酵素がその活性を維持する限りにおいて上記の塩基配列に数個あるいは数個の塩基が欠失、挿入、置換および/または付加された塩基配列であってもよい。
【0024】
[IspG反応およびIspH反応の電子伝達に関わる遺伝子]
本開示に係る遺伝子改変微生物は、フェレドキシンおよび/またはフラボドキシンの発現量が非改変株と比較して増加するように改変されていることが好ましい。
MEP経路におけるIspGおよびIspHは鉄―硫黄クラスターを含む酵素であり、フェレドキシンまたはフラボドキシンを介して電子伝達されることでそれぞれ還元反応が進行する。したがって、当該改変により、IspG活性および/またはIspH活性を効率よく増強させることでき、イソプレンの産生量の向上が期待できる。
【0025】
また、本開示に係る遺伝子改変微生物は、さらに、フェレドキシン/フラボドキシン-NADP+レダクターゼ活性が非改変株と比較して増強するように改変されていることが好ましい。
フェレドキシン/フラボドキシン-NADP+レダクターゼは、IspGおよび/またはIspHの酵素反応の進行に伴って、還元型から酸化型となったフェレドキシンおよび/またはフラボドキシンを再び還元型に戻すことができる。当該改変により、IspG活性および/またはIspH活性を効率よく増強させることでき、イソプレンの産生量の向上が期待できる。
【0026】
[イソプレンの製造方法]
本開示に係る遺伝子改変微生物は、顕著なイソプレン産生能を有する。したがって、本開示に係る遺伝子改変微生物は、水性媒体中で有機原料と接触させることでイソプレンを製造するために利用できる。
【0027】
本開示に係るイソプレン製造方法において、有機原料は、再生可能資源であるバイオマスとでき、特に限定されないが、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、グルコース、ラクトース、マルトース、トレハノース、セロビオース、スクロース、デンプン、デキストリン、セルロース、ヘミセルロース、グリセロール、マンニトールなどであってよい。このうちグルコースおよび/またはスクロースが好ましい。
【0028】
遺伝子改変微生物は、培養液をそのまま用いるか、または、該培養液から遠心分離等の集菌操作によって得られる菌体またはその処理物等を用いることができる。菌体処理物としては、微生物の菌体をアクリルアミド、カラギーナン等で固定化した固定化菌体、菌体破砕物、その遠心分離上清、またはその上清を部分精製した無細胞抽出物、並びにこれらから酵素を抽出した粗酵素または精製酵素等が挙げられる。
【0029】
遺伝子改変微生物と有機原料と接触させる工程は、適当な水性媒体中で行えばよい。水性媒体は、例えば、微生物を培養するための培地であってもよいし、リン酸緩衝液等の緩衝液であってもよい。水性媒体は、窒素源、無機塩などを含む水溶液であることが好ましい。ここで、窒素源としては、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素、大豆加水分解物、カゼイン分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーなどの各種の有機、無機の窒素化合物等が挙げられる。無機塩としては各種リン酸塩、硫酸塩、マグネシウム、カリウム、マンガン、鉄、亜鉛等の金属塩等が用いられる。また、ビオチン、チアミン、パントテン酸、イノシトール、ニコチン酸等のビタミン類、ヌクレオチド、アミノ酸などの微生物の生育を促進する因子を必要に応じて添加する。また、反応時の発泡を抑えるために、反応液には市販の消泡剤を適量添加しておくことが好ましい。
【0030】
工程の時間や温度、pH、遺伝子改変微生物および有機原料の添加量は、特に制限されず、適宜調整され得る。
温度は、用いる微生物の種類に応じて、その活性が最も有効に発揮される範囲に調整されることが好ましい。具体的には、大腸菌を用いる場合には、通常20-45℃の範囲、好ましくは25-37℃である。酵母を用いる場合には、通常20-45℃の範囲、好ましくは27-40℃である。
時間は、通常1~168時間とされ、好ましくは3~120時間であり、より好ましくは6~72時間である。
pH条件も、用いる微生物の種類に応じて、その活性が最も有効に発揮される範囲に調整されることが好ましい。具体的には、大腸菌を用いる場合には、通常pH4.5~9.0の範囲、好ましくはpH5.5~8.0である。酵母を用いる場合には、通常pH2.5~8.5の範囲、好ましくはpH3.5~7.5である。
遺伝子改変微生物の添加量は、湿菌体重量として、通常1~700g/L、好ましくは10~500g/L、より好ましくは20~400g/Lである。
有機原料の使用濃度は、そこに含まれる糖質の濃度で、水性媒体に対して、通常0.1-10%(W/V)、好ましくは0.2-5%(W/V)である。また、イソプレン生産の進行に伴う有機原料の減少にあわせて、有機原料を追加で添加してもよい。
【実施例0031】
[実施例1]
大腸菌HMS174(DE3)株について、pgi遺伝子の破壊、dxs遺伝子、dxr遺伝子、ispG遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子、mvaE遺伝子、mvaS遺伝子、MVK遺伝子、PMK遺伝子およびMVD遺伝子の発現増強を行った(表1参照)。
【0032】
(A)lambda red発現プラスミドの構築
プラスミドの自律複製に必要な配列とアンピシリン耐性マーカー配列を持つDNA断片を得るために、sSN1012およびsSN1013プライマー(配列番号1および配列番号2)を用い、pHN1009プラスミド(Nakashima et al.,Nucleic Acids Res.(2006)34:e138)を鋳型としてPCR反応を行った。得られたDNA断片の一方の末端を制限酵素NsiIで処理し、精製した。
一方、ドキシサイクリン誘導プロモーター配列とそのプロモーターの発現制御タンパク質の配列の配列を得るために、sSN1175およびsSN1011プライマー(配列番号3および配列番号4)を用い、pHN1271プラスミド(特開2014-209872)を鋳型としてPCR反応を行った。また、PCRに先立って、sSN1011はT4 DNA kinaseによりその5‘末端をリン酸化しておいた。得られたDNA断片の一方の末端を制限酵素PstIで処理し、精製した。
これらのDNA断片をT4 DNA ligaseにより連結し、プラスミドpHN1340を得た。pHN1340は、pBR322由来の自律複製起点、アンピシリン耐性遺伝子、ドキシサイクリン誘導プロモーター、ドキシサイクリン誘導プロモーターの発現制御タンパク質(TetR)の配列を持つ。
【0033】
lambda redに由来するgam-bet-exo遺伝子の配列を持つDNA断片を得るために、sSNredNおよびsSN1099プライマー(配列番号5および配列番号6)を用い、pKD46プラスミド(CGSGより入手:https://cgsc.biology.yale.edu/Site.php?ID=64672)を鋳型としてPCR反応を行った。得られたDNA断片の末端を制限酵素NcoIおよびXhoIで処理し、精製した。この断片を、pHN1092(特開2013-005764)の制限酵素サイトNcoIおよびXhoIへ挿入し、プラスミドpHN1102を得た。さらに、このpHN1102を制限酵素NcoIおよびSpeIで切断し、精製したDNA断片(lambda redに由来するgam-bet-exo遺伝子を含む)を、pHN1340の制限酵素サイトNcoIおよびSpeIへ挿入し、プラスミドpHN1755を得た。
【0034】
一方、アラビノース誘導プロモーター配列、アラビノース誘導プロモーターの発現制御タンパク質(AraC)、トキシンMazの配列を持つDNA断片を得るために、sSN1583およびsSN1482プライマー(配列番号7および配列番号8)を用い、pHN1629プラスミド(特開2013-005764)を鋳型としてPCR反応を行った。得られたDNA断片の末端を制限酵素NheIおよびSpeIで処理し、精製した。この断片を、pHN1755の制限酵素サイトNheIへ挿入し、プラスミドpHN1757を得た。このpHN1757は、pBR322由来の自律複製起点、アンピシリン耐性遺伝子、ドキシサイクリン誘導プロモーター、ドキシサイクリン誘導プロモーターの発現制御タンパク質(TetR)、ドキシサイクリン誘導プロモーターの下流にgam-bet-exo遺伝子、アラビノース誘導プロモーター配列、アラビノース誘導プロモーターの発現制御タンパク質(AraC)、アラビノース誘導プロモーターの下流にmazFを持つ。gam-bet-exo遺伝子は、recA遺伝子を欠く大腸菌株に相同組み換え能を付与することができ、mazFは、プラスミドのキュアリングに用いることができる。
【0035】
(B)pgi破壊プラスミドの構築
pgi遺伝子の一部とpgi遺伝子の上流配列を含むDNA断片を得るために、sSN1593およびsSN1684プライマー(配列番号9および配列番号10)を用い、大腸菌MG1655株のゲノムDNAを鋳型としてPCR反応を行った。得られたDNA断片の末端を制限酵素PstIおよびSpeIで処理し、精製した。この断片を、pHN1234(特開2014-209872)の制限酵素サイトPstIおよびXbaIへ挿入し、プラスミドpHN1892を得た。pgi遺伝子の一部とpgi遺伝子の下流配列を含むDNA断片を得るために、sSN1682R2およびsSN1683Rプライマー(配列番号11および配列番号12)を用い、大腸菌MG1655株のゲノムDNAを鋳型としてPCR反応を行った。得られたDNA断片の末端を制限酵素NsiIおよびPciIで処理し、精製した。この断片を、pHN1892の制限酵素サイトNsiIおよびNcoIへ挿入し、プラスミドpHN1922を得た。このpHN1922はsacB遺伝子、pSC101由来の温度感受性自律複製起点、クロラムフェニコール耐性遺伝子、pgi遺伝子の一部とpgi遺伝子の上流および下流配列を持つ。
【0036】
(C)pgi破壊株の作製
大腸菌HMS174(DE3)株のpgi遺伝子の破壊は、文献(Nakashima and Miyazaki,Int J Mol Sci.2014 15:2773-2793)に記載の方法に従って行った。大腸菌HMS174(DE3)株を実施例1(A)および(B)にて構築したプラスミドpHN1757およびpHN1922で形質転換し、相同組み換えに必要なgam-bet-exo遺伝子を発現させるために、LB培地には20ng/mLのドキシサイクリン塩酸塩を常に加えて遺伝子破壊の操作を行った。また、遺伝子破壊完了後、pHN1757のキュアリングのために、0.02%濃度のL-アラビノースを含んだLB培地で37度にて培養した。得られたpgi遺伝子破壊株をHMS174(DE3)/Δpgiとした。
【0037】
(D)dxs、dxr、idi、ispS増強プラスミドの構築
リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)由来dxs遺伝子、およびエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来dxr遺伝子を、5’末端側に制限酵素BspHI、3’末端側に制限酵素BamHIの認識配列を付与して合成した(配列番号13)。合成したDNAは、大腸菌用発現ベクターpCOLADuet-1(Novagen)の制限酵素サイトNcoIおよびBamHIへ挿入し、T7プロモーター下流に連結した。構築したプラスミドはpCOLA_PT7-dxs-dxrと名付けた。
【0038】
エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来idi遺伝子、およびムクナ(Mucuna bracteate)由来ispS遺伝子を、5’末端側に制限酵素NdeI、3’末端側に制限酵素BglIIの認識配列を付与して合成した(配列番号14)。ispS遺伝子は、葉緑体移行シグナルを切断し、大腸菌で効率的に発現させるためにコドンの最適化を行い、さらに、481番目のリジンをグルタミン酸に変異させた配列を設計した。合成したDNAは、上記にて構築したpCOLA_PT7-dxs-dxrの制限酵素サイトNdeIおよびBglIIへ挿入し、T7プロモーター下流に連結した。構築したプラスミドはpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispSと名付けた。
【0039】
(E)mvaE、mvaS、MVK、PMK、MVD増強プラスミドの構築
エンテロコッカス・ガリナラム(Enterococcus gallinarum)由来mvaE遺伝子、およびmvaS遺伝子を、5’末端側に制限酵素NcoI、3’末端側に制限酵素BamHIの認識配列を付与して合成した(配列番号15)。mvaE遺伝子、およびmvaS遺伝子は、大腸菌で効率的に発現させるためにコドンを最適化した配列を設計した。合成したDNAは、大腸菌用発現ベクターpACYCDuet-1(Novagen)の制限酵素サイトNcoIおよびBamHIへ挿入し、T7プロモーター下流に連結した。構築したプラスミドはpACYC_PT7-mvaE-mvaSと名付けた。
【0040】
メタノコッコイド・ブルトニィ(Methanococcoides burtonii)由来MVK遺伝子、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来PMK遺伝子、およびMVD遺伝子を、5’末端側に制限酵素NdeI、3’末端側に制限酵素BglIIの認識配列を付与して合成した(配列番号16)。MVK遺伝子、PMK遺伝子、およびMVD遺伝子は、大腸菌で効率的に発現させるためにコドンを最適化した配列を設計した。合成したDNAは、上記にて構築したpACYC_PT7-mvaE-mvaSの制限酵素サイトNdeIおよびBglIIへ挿入し、T7プロモーター下流に連結した。構築したプラスミドはpACYC_PT7-mvaE-mvaS_PT7-MVK-PMK-MVDと名付けた。
【0041】
(F)ispG増強プラスミドの構築
エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来ispG遺伝子を、5’末端側に制限酵素NdeI、3’末端側に制限酵素XhoIの認識配列を付与して合成した(配列番号17)。合成したDNAは、大腸菌用発現ベクターpCDFDuet-1(Novagen)の制限酵素サイトNdeIおよびXhoIへ挿入し、T7プロモーター下流に連結した。構築したプラスミドはpCDF_PT7-ispGと名付けた。
【0042】
(G)pgi破壊、dxs、dxr、ispG、idi、ispS、mvaE、mvaS、MVK、PMK、MVD増強株の作製
実施例1(C)にて作製したHMS174(DE3)/Δpgi株を実施例1(D)、(E)、および(F)にて構築したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS、pACYC_PT7-mvaE-mvaS_PT7-MVK-PMK-MVD、およびpCDF_PT7-ispGで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/Δpgi/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS/pACYC_PT7-mvaE-mvaS_PT7-MVK-PMK-MVD/pCDF_PT7-ispGとした。
【0043】
【表1】
【0044】
[実施例2]
大腸菌HMS174(DE3)株について、pgi遺伝子の破壊、dxs遺伝子、dxr遺伝子、ispH遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子、mvaE遺伝子、mvaS遺伝子、MVK遺伝子、PMK遺伝子およびMVD遺伝子の発現増強を行った(表1参照)。
【0045】
(A)ispH増強プラスミドの構築
エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来ispH遺伝子を、5’末端側に制限酵素NdeI、3’末端側に制限酵素XhoIの認識配列を付与して合成した(配列番号18)。合成したDNAは、大腸菌用発現ベクターpCDFDuet-1(Novagen)の制限酵素サイトNdeIおよびXhoIへ挿入し、T7プロモーター下流に連結した。構築したプラスミドはpCDF_PT7-ispHと名付けた。
【0046】
(B)pgi破壊、dxs、dxr、ispH、idi、ispS、mvaE、mvaS、MVK、PMK、MVD増強株の作製
実施例1(C)にて作製したHMS174(DE3)/Δpgi株を実施例1(D)、(E)、および実施例2(A)にて構築したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS、pACYC_PT7-mvaE-mvaS_PT7-MVK-PMK-MVD、およびpCDF_PT7-ispHで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/Δpgi/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS/pACYC_PT7-mvaE-mvaS_PT7-MVK-PMK-MVD/pCDF_PT7-ispHとした。
【0047】
[実施例3]
大腸菌HMS174(DE3)株について、pgi遺伝子の破壊、dxs遺伝子、dxr遺伝子、ispG遺伝子、ispH遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子、mvaE遺伝子、mvaS遺伝子、MVK遺伝子、PMK遺伝子およびMVD遺伝子の発現増強を行った(表1参照)。
【0048】
(A)ispG、ispH増強プラスミドの構築
エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来ispG遺伝子、およびispH遺伝子を、5’末端側に制限酵素NdeI、3’末端側に制限酵素XhoIの認識配列を付与して合成した(配列番号19)。合成したDNAは、大腸菌用発現ベクターpCDFDuet-1(Novagen)の制限酵素サイトNdeIおよびXhoIへ挿入し、T7プロモーター下流に連結した。構築したプラスミドはpCDF_PT7-ispG-ispHと名付けた。
【0049】
(B)pgi破壊、dxs、dxr、ispG、ispH、idi、ispS、mvaE、mvaS、MVK、PMK、MVD増強株の作製
実施例1(C)にて作製したHMS174(DE3)/Δpgi株を実施例1(D)、(E)、および実施例3(A)にて構築したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS、pACYC_PT7-mvaE-mvaS_PT7-MVK-PMK-MVD、およびpCDF_PT7-ispG-ispHで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/Δpgi/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS/pACYC_PT7-mvaE-mvaS_PT7-MVK-PMK-MVD/pCDF_PT7-ispG-ispHとした。
【0050】
[実施例4]
大腸菌HMS174(DE3)株について、pgi遺伝子の破壊、dxs遺伝子、dxr遺伝子、ispG遺伝子、ispH遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子、mvaE遺伝子、mvaS遺伝子、MVK遺伝子、PMK遺伝子およびMVD遺伝子の発現増強、GltA遺伝子の発現低減を行った(表1参照)。
【0051】
(A)GltA低減プラスミドの構築
ラムノース誘導プロモーターに連結させたストレプトコッカス・パイオジェン(Streptococcus pyogenes)由来Cas9遺伝子、および構成的プロモーターJ23119に連結させたエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)由来gltA遺伝子を標的としたガイドRNA配列を、5’末端側に制限酵素PstI
、3’末端側に制限酵素SpeIの認識配列を付与して合成した(配列番号20)。なお
、Cas9遺伝子は、ヌクレアーゼ活性を消失させるために、10番目のアスパラギン酸をアラニン、840番目のヒスチジンをアラニンに変異させた配列(dCas9)を設計した。合成したDNAは、大腸菌用発現ベクターpRK2(配列番号21)の制限酵素サイトPstIおよびSpeIへ挿入した。構築したプラスミドはpRK2_Prha-dC
as9_PJ23119-gRNA-gltAと名付けた。
【0052】
(B)pgi破壊、dxs、dxr、ispG、ispH、idi、ispS、mvaE、mvaS、MVK、PMK、MVD増強、GltA低減株の作製
実施例3(B)にて作製したHMS174(DE3)/Δpgi/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS/pACYC_PT7-mvaE-mvaS_PT7-MVK-PMK-MVD/pCDF_PT7-ispG-ispH株を、実施例4(A)にて構築したプラスミドpRK2_Prha-dCas9_PJ23119-gRNA-gltAで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/Δpgi/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS/pACYC_PT7-mvaE-mvaS_PT7-MVK-PMK-MVD/pCDF_PT7-ispG-ispH/pRK2_Prha-dCas9_PJ23119-gRNA-gltAとした。
【0053】
[比較例1]
大腸菌HMS174(DE3)株について、dxs遺伝子、dxr遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子の発現増強を行った(表1参照)。
【0054】
大腸菌HMS174(DE3)株(Novagen)を実施例1(D)にて構築したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispSで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispSとした。
【0055】
[比較例2]
大腸菌HMS174(DE3)株について、dxs遺伝子、dxr遺伝子、ispG遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子の発現増強を行った(表1参照)。
【0056】
大腸菌HMS174(DE3)株(Novagen)を実施例1(D)、および(F)にて構築したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS、およびpCDF_PT7-ispGで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS/pCDF_PT7-ispGとした。
【0057】
[比較例3]
大腸菌HMS174(DE3)株について、dxs遺伝子、dxr遺伝子、ispH遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子の発現増強を行った(表1参照)。
【0058】
大腸菌HMS174(DE3)株(Novagen)を実施例1(D)、および実施例2(A)にて構築したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS、およびpCDF_PT7-ispHで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS/pCDF_PT7-ispHとした。
【0059】
[比較例4]
大腸菌HMS174(DE3)株について、dxs遺伝子、dxr遺伝子、ispG遺伝子、ispH遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子の発現増強を行った(表1参照)。
【0060】
大腸菌HMS174(DE3)株(Novagen)を実施例1(D)、および実施例3(A)にて構築したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS、およびpCDF_PT7-ispG-ispHで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS/pCDF_PT7-ispG-ispHとした。
【0061】
[比較例5]
大腸菌HMS174(DE3)株について、pgi遺伝子の破壊、dxs遺伝子、dxr遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子の発現増強を行った(表1参照)。
【0062】
実施例1(C)にて作製したHMS174(DE3)/Δpgi株を実施例1(D)にて構築したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispSで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/Δpgi/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispSとした。
【0063】
[比較例6]
大腸菌HMS174(DE3)株について、pgi遺伝子の破壊、dxs遺伝子、dxr遺伝子、ispG遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子の発現増強を行った(表1参照)。
【0064】
実施例1(C)にて作製したHMS174(DE3)/Δpgi株を実施例1(D)、および(F)にて構築したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS、およびpCDF_PT7-ispGで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/Δpgi/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS/pCDF_PT7-ispGとした。
【0065】
[比較例7]
大腸菌HMS174(DE3)株について、pgi遺伝子の破壊、dxs遺伝子、dxr遺伝子、ispH遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子の発現増強を行った(表1参照)。
【0066】
実施例1(C)にて作製したHMS174(DE3)/Δpgi株を実施例1(D)、および実施例2(A)にて構築したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS、およびpCDF_PT7-ispHで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/Δpgi/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS/pCDF_PT7-ispHとした。
【0067】
[比較例8]
大腸菌HMS174(DE3)株について、pgi遺伝子の破壊、dxs遺伝子、dxr遺伝子、ispG遺伝子、ispH遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子の発現増強を行った(表1参照)。
【0068】
実施例1(C)にて作製したHMS174(DE3)/Δpgi株を実施例1(D)、および実施例3(A)にて構築したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS、およびpCDF_PT7-ispG-ispHで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/Δpgi/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS/pCDF_PT7-ispG-ispHとした。
【0069】
[比較例9]
大腸菌HMS174(DE3)株について、dxs遺伝子、dxr遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子、mvaE遺伝子、mvaS遺伝子、MVK遺伝子、PMK遺伝子およびMVD遺伝子の発現増強を行った(表1参照)。
【0070】
大腸菌HMS174(DE3)株(Novagen)を実施例1(D)、(E)、および実施例3(A)にて構築したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS、およびpACYC_PT7-mvaE-mvaS_PT7-MVK-PMK-MVDで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS/pACYC_PT7-mvaE-mvaS_PT7-MVK-PMK-MVDとした。
【0071】
[比較例10]
大腸菌HMS174(DE3)株について、dxs遺伝子、dxr遺伝子、ispG遺伝子、ispH遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子、mvaE遺伝子、mvaS遺伝子、MVK遺伝子、PMK遺伝子およびMVD遺伝子の発現増強を行った(表1参照)。
【0072】
大腸菌HMS174(DE3)株(Novagen)を実施例1(D)、(E)、および実施例3(A)にて構築したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS、pACYC_PT7-mvaE-mvaS_PT7-MVK-PMK-MVD、およびpCDF_PT7-ispG-ispHで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS/pACYC_PT7-mvaE-mvaS_PT7-MVK-PMK-MVD/pCDF_PT7-ispG-ispHとした。
【0073】
[比較例11]
大腸菌HMS174(DE3)株について、pgi遺伝子の破壊、dxs遺伝子、dxr遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子、mvaE遺伝子、mvaS遺伝子、MVK遺伝子、PMK遺伝子およびMVD遺伝子の発現増強を行った(表1参照)。
【0074】
実施例1(C)にて作製したHMS174(DE3)/Δpgi株を実施例1(D)、および(E)にて構築したプラスミドpCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS、およびpACYC_PT7-mvaE-mvaS_PT7-MVK-PMK-MVDで形質転換し、得られた株をHMS174(DE3)/Δpgi/pCOLA_PT7-dxs-dxr_PT7-idi-ispS/pACYC_PT7-mvaE-mvaS_PT7-MVK-PMK-MVDとした。
【0075】
[試験例]
実施例1-3および比較例1-11にて作製した遺伝子改変株について、イソプレン生産評価を行った。
【0076】
各遺伝子改変株を50μg/mL カナマイシン、34μg/mL クロラムフェニコール、50μg/mL スペクチノマイシン、および50μg/mL アプラマイシン(抗生物質は使用する菌株によって適切な組み合わせを選択する)を含むLB培地(16g/L Bacto-trypton、10g/L Yeast extract、5g/L NaCl)にて一晩培養した。50mLフラスコに0.5%グルコース、50μg/mL カナマイシン、34μg/mL クロラムフェニコール、50μg/mL スペクチノマイシン、および50μg/mL アプラマイシン(dCas9遺伝子の発現を誘導する菌株を使用する場合はさらに1mM L-ラムノース)を含むM9+YE培地(6g/L Na2HPO4、3g/L KH2PO4、0.5g/L NaCl、1g/L NH4Cl、2mM MgSO4・7H2O、0.1mM CaCl2・2H2O、10mg/L チアミン塩酸塩、8.3mg/L FeSO4・7H2O、5g/L Yeast extract)を10mL添加し、上記LB培地での培養液を1/40希釈となるよう植菌、180rpm、30℃で16時間振とう培養を行った。50mLフラスコに0.5%グルコース、50μg/mL カナマイシン、34μg/mL クロラムフェニコール、50μg/mL スペクチノマイシン、および0.5mM IPTGを含むM9+YE培地を20mL添加し、上記M9+YE培地での培養液をOD600=0.6となるよう植菌、180rpm、30℃で4時間振とう培養を行った。
【0077】
得られた培養液を3000×g、5分の遠心分離により集菌し、0.5%グルコース、50μg/mL カナマイシン、34μg/mL クロラムフェニコール、50μg/mL スペクチノマイシン、50μg/mL アプラマイシン、および0.5mM IPTG(dCas9遺伝子の発現を誘導する菌株を使用する場合はさらに1mM L-ラムノース)を含むM9培地(6g/L Na2HPO4、3g/L KH2PO4、0.5g/L NaCl、1g/L NH4Cl、2mM MgSO4・7H2O、0.1mM CaCl2・2H2O、10mg/L チアミン塩酸塩、8.3mg/L FeSO4・7H2O)にOD600=12となるように懸濁した。20mLヘッドスペースバイアル(島津ジーエルシー)に菌体懸濁液を1mL添加し、ブチルゴムセプタム付きキャップ(島津ジーエルシー)にて密栓後、180rpm、30℃で19時間振とう培養を行った。培養終了後、バイアルのヘッドスペース中のイソプレン濃度をGC-MS(島津製作所:GCMS-TQ8040NX)により測定した。また、培養液中の残存グルコース濃度をグルコースアナライザー(王子計測機器:BF-5)により測定した。イソプレン生成量、残存グルコース濃度、およびイソプレンの対消費糖収率を表2に示す。
【0078】
なお、GC-MS(島津製作所:GCMS-TQ8040NX)におけるイソプレン濃度の測定は、以下に示した分析条件にて行った。
ガスクロマトグラフィー部においてジーエルサイエンス社製カラムTC-70(内径0.25mm、長さ30m)を用い、キャリアガスにはヘリウムを用いた。ガスクロマトグラフィー質量分析器の設定は、試料気化室温度220℃、カラムオーブン温度80℃一定、スプリットレス注入、圧力100 kPa、線速度44.5 cm/秒一定制御、質量分析部インターフェース温度80℃、イオン源温度200℃、Scan測定モード、測定質量範囲(m/z)60から70、分析時間3分とした。1.175から1.180分程度に出現するイソプレンのピークで定量した。イソプレン標準液として、和光純薬工業社製の和光一級イソプレンを用い、適量をM9培地に混合したものをガスクロマトグラフィー質量分析器に供することで検量線を作成した。
【0079】
【表2】
【0080】
dxs遺伝子、dxr遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子を発現増強した遺伝子改変株(比較例1)のイソプレン産生量は26.4mg/Lであった。さらにispG遺伝子の発現増強を行った場合(比較例2)、ispH遺伝子の発現増強を行った場合(比較例3)、およびispG遺伝子とispH遺伝子の両者の発現増強を行った場合(比較例4)、イソプレン産生量はそれぞれ1.4mg/L、1.7mg/L、1.6mg/Lであり、比較例1に対して増加せず、逆に減少した。
この結果は、dxs遺伝子、idi遺伝子およびispS遺伝子を過剰発現させた大腸菌において、ispG遺伝子とispH遺伝子とを過剰発現させてもイソプレン生産量は増加しないことを報告した非特許文献1にも合致するものである。
【0081】
dxs遺伝子、dxr遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子の発現増強(比較例1参照)に加えて、pgi遺伝子の破壊と、ispG遺伝子および/またはispH遺伝子の発現増強、ならびにMVA経路の遺伝子の発現増強を行った遺伝子改変株(実施例1-3)ではイソプレン生産量の顕著な増加がみられた。
pgi遺伝子の破壊と、ispG遺伝子の発現増強およびMVA経路の遺伝子の発現増強を行った遺伝子改変株(実施例1)のイソプレン産生量は87.4mg/Lであった。
pgi遺伝子の破壊と、ispH遺伝子の発現増強およびMVA経路の遺伝子の発現増強を行った遺伝子改変株(実施例2)のイソプレン産生量は185.6mg/Lであった。
pgi遺伝子の破壊と、ispG遺伝子およびispH遺伝子の発現増強、ならびにMVA経路の遺伝子の発現増強を行った遺伝子改変株(実施例3)のイソプレン産生量は211.7mg/Lであった。
【0082】
dxs遺伝子、dxr遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子の発現増強(比較例1参照)に加えて、MVA経路の遺伝子の発現増強を行わずにpgi遺伝子の破壊のみを行った場合には、イソプレン産生量はほとんど増加しなかった(比較例5)。さらに、dxs遺伝子、dxr遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子の発現増強に加えて、MVA経路の遺伝子の発現増強を行わずにpgi遺伝子の破壊のみを行った場合(比較例5参照)において、ispG遺伝子および/またはispH遺伝子の発現増強を行うと、イソプレン産生量は逆に減少した(比較例6-8)。
また、dxs遺伝子、dxr遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子の発現増強(比較例1参照)に加えて、pgi遺伝子の破壊を行わずにMVA経路の遺伝子の発現増強を行った場合にも、イソプレン産生量は比較的軽度にとどまった(比較例9,10)。
さらに、上述のとおり、比較例1-4ではispG遺伝子および/またはispH遺伝子の発現増強によるイソプレン生産の向上はみられなかった。
これら比較例1-10の結果から、実施例1-3でみられた顕著なイソプレン産生量の増加は、pgi遺伝子の破壊と、MVA経路の遺伝子の発現増強と、ispG遺伝子および/またはispH遺伝子の発現増強と、が相乗的に機能してもたらされた効果であるといえ、全く予想外のものであった。
【0083】
比較例2、3、および4のイソプレン対消費糖収率はそれぞれ比較例1の0.052倍、0.064倍、0.060倍と大幅に低下した。
以上の結果より、MVA経路を導入せず、Dxs、およびDxr増強を行い、MEP経路にてイソプレンを生産した場合、IspGやIspH増強を行ってもイソプレン対消費糖収率は低下することが明らかとなった。
比較例6、7、および8のイソプレン対消費糖収率はそれぞれ比較例5の0.053倍、0.082倍、0.076倍と大幅に低下した。
以上の結果より、Pgi破壊株において、MVA経路を導入せず、Dxs、およびDxr増強を行い、MEP経路にてイソプレンを生産した場合においても、上記と同様の傾向となり、IspGやIspH増強を行ってもイソプレン対消費糖収率は大幅に低下することが明らかとなった。
さらに、比較例10のイソプレン対消費糖収率はそれぞれ比較例9の1.03倍とほぼ同等であった。
以上の結果より、MVA経路を導入し、Dxs、およびDxr増強を行い、MEP経路にてイソプレンを生産した場合、IspG、およびIspH増強を行ってもイソプレン対消費糖収率はほとんど変化しないことが明らかとなった。
しかし、実施例1、2、および3のイソプレン対消費糖収率はそれぞれ比較例11の1.5倍、2.3倍、2.4倍と大幅に向上した。
以上の結果より、Pgi破壊株において、MVA経路を導入し、Dxs、およびDxr増強を行い、MEP経路にてイソプレンを生産した場合は、IspGやIspH増強を行うことでイソプレン対消費糖収率が大幅に向上することが明らかとなった。
【0084】
pgi遺伝子の破壊と、dxs遺伝子、dxr遺伝子、idi遺伝子、ispS遺伝子、ispG遺伝子およびispH遺伝子の発現増強、ならびにMVA経路の遺伝子の発現増強(実施例3参照)に加えて、gltA遺伝子の発現低減を行った遺伝子改変株(実施例4)ではイソプレン生産量のさらなる増加がみられ、イソプレン産生量は481.8mg/Lであった。実施例4のイソプレン対消費糖収率はそれぞれ比較例11の3.8倍と大幅に向上した。
【配列表フリーテキスト】
【0085】
配列番号1:sSN1012プライマーの塩基配列
配列番号2:sSN1013プライマーの塩基配列
配列番号3:sSN1175プライマーの塩基配列
配列番号4:sSN1011プライマーの塩基配列
配列番号5:sSNredNプライマーの塩基配列
配列番号6:sSN1099プライマーの塩基配列
配列番号7:sSN1583プライマーの塩基配列
配列番号8:sSN1482プライマーの塩基配列
配列番号9:sSN1593プライマーの塩基配列
配列番号10:sSN1684プライマーの塩基配列
配列番号11:sSN1682R2プライマーの塩基配列
配列番号12:sSN1683Rプライマーの塩基配列
配列番号13:Rhizobium radiobacter由来dxs遺伝子およびEscherichia coli由来dxr遺伝子の塩基配列(5’末端側に制限酵素BspHIの認識配列、3’末端側に制限酵素BamHIの認識配列を含む)
配列番号14:Escherichia coli由来idi遺伝子およびMucuna bracteate由来ispS遺伝子の塩基配列(5’末端側に制限酵素NdeIの認識配列、3’末端側に制限酵素BglIIの認識配列を含む)
配列番号15:Enterococcus gallinarum由来mvaE遺伝子およびmvaS遺伝子の塩基配列(5’末端側に制限酵素NcoIの認識配列、3’末端側に制限酵素BamHIの認識配列を含む)
配列番号16:Methanococcoides burtonii由来MVK遺伝子、Saccharomyces cerevisiae由来PMK遺伝子およびMVD遺伝子の塩基配列(5’末端側に制限酵素NdeIの認識配列、3’末端側に制限酵素BglIIの認識配列を含む)
配列番号17:Escherichia coli由来ispG遺伝子の塩基配列(5’末端側に制限酵素NdeIの認識配列、3’末端側に制限酵素XhoIの認識配列を含む)
配列番号18:Escherichia coli由来ispH遺伝子の塩基配列(5’末端側に制限酵素NdeIの認識配列、3’末端側に制限酵素XhoIの認識配列を含む)
配列番号19:Escherichia coli由来ispG遺伝子およびispH遺伝子の塩基配列(5’末端側に制限酵素NdeIの認識配列、3’末端側に制限酵素XhoIの認識配列を含む)
配列番号20:ラムノース誘導プロモーターに連結させたStreptococcus pyogenes由来Cas9遺伝子、および構成的プロモーターJ23119に連結させたEscherichia coli由来gltA遺伝子を標的としたガイドRNAの塩基配列(5’末端側に制限酵素PstIの認識配列、3’末端側に制限酵素SpeIの認識配列を含む)
配列番号21:大腸菌用発現ベクターpRK2の配列
【配列表】
2022150327000001.app