(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022164229
(43)【公開日】2022-10-27
(54)【発明の名称】亜鉛カルバメート錯体、亜鉛カルバメート錯体の製造方法及び該亜鉛カルバメート錯体を触媒とするカルバメート化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 271/02 20060101AFI20221020BHJP
C07C 53/08 20060101ALI20221020BHJP
C07D 471/04 20060101ALI20221020BHJP
C07F 3/06 20060101ALN20221020BHJP
【FI】
C07C271/02
C07C53/08
C07D471/04 112T
C07F3/06 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021069585
(22)【出願日】2021-04-16
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 和弘
(72)【発明者】
【氏名】深谷 訓久
(72)【発明者】
【氏名】崔 準哲
(72)【発明者】
【氏名】内田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】重安 真治
(72)【発明者】
【氏名】羽村 敏
(72)【発明者】
【氏名】松本 清児
【テーマコード(参考)】
4C065
4H006
4H048
【Fターム(参考)】
4C065AA19
4C065BB09
4C065CC01
4C065DD02
4C065EE02
4C065HH01
4C065JJ01
4C065KK01
4C065LL01
4C065PP03
4H006AA01
4H006AB40
4H006BS10
4H048AA01
4H048AB40
4H048VA20
4H048VA32
4H048VB10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新規な亜鉛カルバメート錯体、その製造方法、及びカルバメート化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】具体的には、例えば下記構造式で表される亜鉛カルバメート錯体が示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)又は(1’)で表される亜鉛カルバメート錯体。
【化1】
(式(1)中、R
1は、それぞれ独立して、水素原子又は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基であり;R
2は置換若しくは無置換のm価の炭化水素基であり;mは1又は2であり;Xはアニオン性配位子であり;LはL型配位子であり、前記L型配位子は単座配位子、二座配位子、三座配位子、四座配位子、又は六座配位子であり;nは前記L型配位子の数であって、1以上4以下の整数であり、nが2以上の場合、複数のLは同一でも異なっていてもよい。
式(1’)中、R
1、X、L及びnは、それぞれ、式(1)中のR
1、X、L及びnと同義であり;R
22は置換若しくは無置換の2価の炭化水素基であり;R
3は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基である。)
【請求項2】
前記式(1)又は(1’)において、R1が水素原子である、請求項1に記載の亜鉛カルバメート錯体。
【請求項3】
前記式(1)又は(1’)において、Xがスルホネート配位子又はカルボキシレート配位子である、請求項1又は2に記載の亜鉛カルバメート錯体。
【請求項4】
前記式(1)又は(1’)において、Lがアミン配位子又はホスフィン配位子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の亜鉛カルバメート錯体。
【請求項5】
前記式(1)又は(1’)において、Lが二座配位のアミン配位子である、請求項4に記載の亜鉛カルバメート錯体。
【請求項6】
前記式(1)又は(1’)において、前記二座配位のアミン配位子が1,10-フェナントロリン又は2,2’-ビピリジルである、請求項5に記載の亜鉛カルバメート錯体。
【請求項7】
一般式(A)又は(A’)で表されるアミン化合物と、一般式(B)で表される亜鉛化合物と、L型配位子と、二酸化炭素と、を反応させる反応工程含む、一般式(1)又は(1’)で表される亜鉛カルバメート錯体の製造方法。
【化2】
(式(A)中、R
1は、それぞれ独立して、水素原子又は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基であり;R
2は置換若しくは無置換のm価の炭化水素基であり;mは1又は2である。
式(B)中、X及びYはアニオン性配位子である。
式(1)中、R
1、R
2及びmは、それぞれ、式(A)中のR
1、R
2及びmと同義であり;Xは、式(B)中のXと同義であり;LはL型配位子であり、前記L型配位子は単座配位子、二座配位子、三座配位子、四座配位子、又は六座配位子であり;nは前記L型配位子の数であって、1以上4以下の整数であり、nが2以上の場合、複数のLは同一でも異なっていてもよい。
式(A’)中、R
1は、式(A)中のR
1と同義であり;R
22は置換若しくは無置換の2価の炭化水素基であり;R
3は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基である。
式(1’)中、R
1、R
22及びR
3は、それぞれ、式(A’)中のR
1、R
22及びR
3と同義であり;Xは、式(B)中のXと同義であり;L及びnは、それぞれ、式(1)中のL及びnと同義である。)
【請求項8】
前記一般式(A)又は(A’)で表されるアミン化合物が、アニリン若しくはアニリン誘導体、4-アミノピリジン、1-アミノヘキサン及びシクロヘキシルアミンから選ばれるモノアミン化合物;又は、4,4’-メチレンジアニリン、2,4-トリレンジアミン及び1,6-ヘキシルジアミン並びにこれらの誘導体から選ばれるジアミン化合物若しくはこれらジアミン化合物の一方のアミノ基が式(C)で表されるウレタン構造を有する基に変換された化合物;である、請求項7に記載の亜鉛カルバメート錯体の製造方法。
【化3】
(式中、R
3は式(A’)中のR
3と同義であり、*は結合部位を示す。)
【請求項9】
前記一般式(B)で表される亜鉛化合物が、ZnCl2、ZnBr2、Zn(OTf)2又はZn(OAc)2である、請求項7又は8に記載の亜鉛カルバメート錯体の製造方法。
【請求項10】
前記式(1)又は(1’)において、Lがアミン配位子又はホスフィン配位子である、請
求項7~9のいずれか1項に記載の亜鉛カルバメート錯体の製造方法。
【請求項11】
前記式(1)又は(1’)において、Lが二座配位のアミン配位子である、請求項10に記載の亜鉛カルバメート錯体の製造方法。
【請求項12】
前記式(1)又は(1’)において、前記二座配位のアミン配位子が1,10-フェナントロリン又は2,2’-ビピリジルである、請求項11に記載の亜鉛カルバメート錯体の製造方法。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか1項に記載の亜鉛カルバメート錯体又は請求項7~12のいずれか1項に記載の亜鉛カルバメート錯体の製造方法により得られた亜鉛カルバメート錯体を触媒として、アミン化合物(D)と、アルコキシシラン(E)と、二酸化炭素と、を反応させてカルバメート化合物(F)を生成するカルバメート生成工程を含む、カルバメート化合物の製造方法。
【請求項14】
前記アルコキシシラン(E)が、テトラアルコキシシランである、請求項13に記載のカルバメートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛カルバメート錯体、亜鉛カルバメート錯体の製造方法及び該亜鉛カルバメート錯体を触媒とするカルバメート化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カルバメート化合物はポリウレタン原料等として有用な化合物である。
本発明者らは、安価で豊富かつ低毒性の二酸化炭素とテトラアルキルシリケート(TROS)からカルバメート化合物を合成する技術を開発してきた(非特許文献1参照。)。
非特許文献2には、亜鉛アミドを含む金属有機構造体(MOF)に二酸化炭素を吸着させることで、以下に示す基礎単位からなる亜鉛カルバメート錯体の集合体を合成した例が報告されている。
【化1】
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ChemSusChem 2017, 10, 1501-1508.
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 10526-10538.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規な亜鉛カルバメート錯体、亜鉛カルバメート錯体の製造方法及びカルバメート化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アミン化合物、亜鉛化合物、L型配位子及び二酸化炭素を反応させることで、新規な亜鉛カルバメート錯体が生成することを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の具体的態様等を提供する。
【0006】
[1]
一般式(1)又は(1’)で表される亜鉛カルバメート錯体。
【化2】
(式(1)中、R
1は、それぞれ独立して、水素原子又は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基であり;R
2は置換若しくは無置換のm価の炭化水素基であり;mは1又は2であり;Xはアニオン性配位子であり;LはL型配位子であり、前記L型配位子は単座配位子、二座配位子、三座配位子、四座配位子、又は六座配位子であり;nは前記L型配位子の数であって、1以上4以下の整数であり、nが2以上の場合、複数のLは同一でも異なっていてもよい。
式(1’)中、R
1、X、L及びnは、それぞれ、式(1)中のR
1、X、L及びnと同義であり;R
22は置換若しくは無置換の2価の炭化水素基であり;R
3は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基である。)
[2]
前記式(1)又は(1’)において、R
1が水素原子である、[1]に記載の亜鉛カルバメート錯体。
[3]
前記式(1)又は(1’)において、Xがスルホネート配位子又はカルボキシレート配位子である、[1]又は[2]に記載の亜鉛カルバメート錯体。
[4]
前記式(1)又は(1’)において、Lがアミン配位子又はホスフィン配位子である、[1]~[3]のいずれかに記載の亜鉛カルバメート錯体。
[5]
前記式(1)又は(1’)において、Lが二座配位のアミン配位子である、[4]に記載の亜鉛カルバメート錯体。
[6]
前記式(1)又は(1’)において、前記二座配位のアミン配位子が1,10-フェナントロリン又は2,2’-ビピリジルである、[5]に記載の亜鉛カルバメート錯体。
[7]
一般式(A)又は(A’)で表されるアミン化合物と、一般式(B)で表される亜鉛化合物と、L型配位子と、二酸化炭素と、を反応させる反応工程含む、一般式(1)又は(1’)で表される亜鉛カルバメート錯体の製造方法。
【化3】
(式(A)中、R
1は、それぞれ独立して、水素原子又は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基であり;R
2は置換若しくは無置換のm価の炭化水素基であり;mは1又は2である。
式(B)中、X及びYはアニオン性配位子である。
式(1)中、R
1、R
2及びmは、それぞれ、式(A)中のR
1、R
2及びmと同義であり;Xは、式(B)中のXと同義であり;LはL型配位子であり、前記L型配位子は単座配位子、二座配位子、三座配位子、四座配位子、又は六座配位子であり;nは前記L型配位子の数であって、1以上4以下の整数であり、nが2以上の場合、複数のLは同一でも異なっていてもよい。
式(A’)中、R
1は、式(A)中のR
1と同義であり;R
22は置換若しくは無置換の2価の炭化水素基であり;R
3は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基である。
式(1’)中、R
1、R
22及びR
3は、それぞれ、式(A’)中のR
1、R
22及びR
3と同義であり;Xは、式(B)中のXと同義であり;L及びnは、それぞれ、式(1)中のL及びnと同義である。)
[8]
前記一般式(A)又は(A’)で表されるアミン化合物が、アニリン若しくはアニリン誘導体、4-アミノピリジン、1-アミノヘキサン及びシクロヘキシルアミンから選ばれるモノアミン化合物;又は、4,4’-メチレンジアニリン、2,4-トリレンジアミン及び1,6-ヘキシルジアミン並びにこれらの誘導体から選ばれるジアミン化合物若しくはこれらジアミン化合物の一方のアミノ基が式(C)で表されるウレタン構造を有する基に変換された化合物;である、[7]に記載の亜鉛カルバメート錯体の製造方法。
【化4】
(式中、R
3は式(A’)中のR
3と同義であり、*は結合部位を示す。)
[9]
前記一般式(B)で表される亜鉛化合物が、ZnCl
2、ZnBr
2、Zn(OTf)
2又はZn(OAc)
2である、[7]又は[8]に記載の亜鉛カルバメート錯体の製造方法。
[10]
前記式(1)又は(1’)において、Lがアミン配位子又はホスフィン配位子である、[
7]~[9]のいずれかに記載の亜鉛カルバメート錯体の製造方法。
[11]
前記式(1)又は(1’)において、Lが二座配位のアミン配位子である、[10]に記載の亜鉛カルバメート錯体の製造方法。
[12]
前記式(1)又は(1’)において、前記二座配位のアミン配位子が1,10-フェナントロリン又は2,2’-ビピリジルである、[11]に記載の亜鉛カルバメート錯体の製造方法。
[13]
[1]~[6]のいずれかに記載の亜鉛カルバメート錯体又は[7]~[12]のいずれかに記載の亜鉛カルバメート錯体の製造方法により得られた亜鉛カルバメート錯体を触媒として、アミン化合物(D)と、アルコキシシラン(E)と、二酸化炭素と、を反応させてカルバメート化合物(F)を生成するカルバメート生成工程を含む、カルバメート化合物の製造方法。
[14]
前記アルコキシシラン(E)が、テトラアルコキシシランである、[13]に記載のカルバメートの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、亜鉛カルバメート錯体、亜鉛カルバメート錯体の製造方法及び該亜鉛カルバメート錯体を触媒とするカルバメート化合物の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の詳細を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【0009】
1.亜鉛カルバメート錯体
本発明の一態様に係る亜鉛カルバメート錯体は、一般式(1)又は(1’)で表される亜鉛カルバメート錯体である。
【化5】
(式(1)中、R
1は、それぞれ独立して、水素原子又は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基であり;R
2は置換若しくは無置換のm価の炭化水素基であり;mは1又は2であり;Xはアニオン性配位子であり;LはL型配位子であり、前記L型配位子は単座配位子、二座配位子、三座配位子、四座配位子、又は六座配位子であり;nは前記L型配位子の数であって、1以上4以下の整数であり、nが2以上の場合、複数のLは同一でも異なっていてもよい。
式(1’)中、R
1、X、L及びnは、それぞれ、式(1)中のR
1、X、L及びnと同義であり;R
22は置換若しくは無置換の2価の炭化水素基であり;R
3は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基である。)
本発明者らは、アミン化合物、亜鉛化合物、L型配位子及び二酸化炭素を反応させるこ
とで、新規な亜鉛カルバメート錯体が生成することを見出した。本発明者らは、非特許文献1で報告したカルバメート合成反応において、触媒反応の中間体として亜鉛カルバメート錯体を想定していたが、亜鉛カルバメート錯体そのものの合成及び単離は初めてである。本発明者らは、さらに、一般式(1)又は(1’)で表される亜鉛カルバメート錯体がカルバメート化合物合成の触媒として作用するという知見を得て、本発明を完成させた。
類似の亜鉛カルバメート錯体の合成の報告は非特許文献2の一件のみであるところ、非特許文献2には、特殊なジアミンを用いた亜鉛カルバメート錯体の合成例が報告されているのみであり、また、合成したいずれの亜鉛カルバメート錯体についても、カルバメート化合物合成の触媒などとしての利用について言及されていない。
以下、一般式(1)又は(1’)で表される亜鉛カルバメート錯体について詳細に説明する。
【0010】
(R1)
前記式(1)又は(1’)において、R1は、それぞれ独立して、水素原子又は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基である。本明細書において、「炭化水素基」とは、直鎖状の飽和炭化水素基に限られず、炭素-炭素不飽和結合を有していてもよいし、分岐構造を有していてもよいし、環状構造を有していてもよい。
R1の炭素数は特に限定されないが、通常1以上であり、また、通常30以下、好ましくは24以下、より好ましくは20以下である。
R1で表される無置換の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基であってもよいし、芳香族炭化水素基であってもよい。
脂肪族炭化水素基としては、例えば、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-ドコシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、2-メチルアリル基、1-ペプチニル基、1-ヘキセニル基、1-ヘプテニル基、1-オクテニル基、2-メチル-1-プロペニル基等のアルケニル基;プロパルギル基等のアルキニル基;が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、1-トリフェニレニル基、2-トリフェニレニル基が挙げられる。
R1で表される炭化水素基が置換基を有する場合、前記置換基としては、例えば、重水素原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基等の炭素数3~4のシクロアルキル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等の炭素数6~10の芳香族炭化水素基;フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等のハロゲノ基;アルコキシ基、カルボキシ基、カルボニル基及び水酸基等の含酸素官能基;シアノ基等の含窒素官能基;アルキルチオ基等の含硫黄官能基;アミド基、イミド基、ウレア基、ウレタン構造を含む基、イソシアヌル構造を含む基、ニトロ基、ニトロソ基、シアネート基、イソシアネート基、モルホリノ基等の酸素原子及び窒素原子を含む官能基;フラニル基等の含酸素複素環基、チエニル基等の含硫黄複素環基、ピロリル基、ピリジル基等の含窒素複素環等の複素環基;が挙げられる。
R1で表される炭化水素基が置換基を有する場合、R1としては、例えば、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基等のアルキル置換フェニル基
;2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基等のアルコキシ置換フェニル基;2-クロロフェニル基、3-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基、2-ブロモフェニル基、3-ブロモフェニル基、4-ブロモフェニル基等のハロゲン置換フェニル基;4-ニトロフェニル基、2-ニトロフェニル基等のニトロ置換フェニル基;ベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基等のアラルキル基;シクロヘキシルメチル基等のシクロアルキルアルキル基;フルフリル基等の含酸素複素環を有する炭化水素基;チエニルメチル基等の含硫黄複素環を有する炭化水素基;ピリジルメチル基等の含窒素複素環を有する炭化水素基等を好ましく挙げることができる。
なお、炭化水素基が分岐したアルキル基の場合は、主鎖の炭素数を炭化水素基の炭素数とする。また、炭化水素基が置換基を有する場合、前記炭素数は、置換基の炭素数と炭化水素基の炭素数との合計の炭素数を意味する。
R1としては、亜鉛カルバメート錯体の有用性の点から水素原子又は置換若しくは無置換の炭素数1~24の炭化水素基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
m=2の場合、2つのR1は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0011】
(R2、m)
前記式(1)又は(1’)において、R2は置換若しくは無置換のm価の炭化水素基であり、mは1又は2である。
R2の炭素数は特に限定されないが、通常1以上であり、また、通常30以下、好ましくは24以下、より好ましくは20以下である。
m=1の場合、R2で表される無置換の炭化水素基としては、R1で例示した1価の炭化水素基が挙げられる。
m=2の場合、R2で表される無置換の炭化水素基としては、例えば、メチレン基;エチレン基;炭素数3以上の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキレン基;又は炭素数6以上のアリーレン基等が挙げられる。具体的には、メチレン基、エチレン基、テトラメチルエチレン基、n-プロピレン基(トリメチレン基)、1-メチルプロピレン基、1,1-ジメチルプロピレン基、2-メチルプロピレン基、1,2-ジメチルプロピレン基、2,2-ジメチルプロピレン基、1,1,2-トリメチルプロピレン基、1,1,3-トリメチルプロピレン基、n-ブチレン基(テトラメチレン基)、2-メチル-1,4-ブチレン基、3-メチル-1,4-ブチレン基、2,2-ジメチル-1,4-ブチレン基、2,3-ジメチル-1,4-ブチレン基、2,2,3-トリメチル-1,4-ブチレン基、n-ペンチレン基(ペンタメチレン基)、n-ヘキサニレン基(ヘキサメチレン基)等の鎖状炭化水素基;1,4-シクロへキシレン基等の脂環式炭化水素基、ベンゼン環から水素原子を2つ除いた1,4-フェニレン基、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基;キシレンのベンゼン環から水素原子を2つ除いたジメチルフェニレン基(キシリル基)、トルエンのベンゼン環から水素原子を2つ除いたメチルフェニレン基(トリレン基)、ナフタレンから水素原子を2つ除いたナフタニレン基などの芳香族炭化水素基、1,4-フェニレンビス(メチレン)基、1,4-フェニレンビス(エチレン)基、ビフェニルの2つのベンゼン環から水素原子を1つずつ除いた基、ジフェニルメタンの2つのベンゼン環から水素原子を1つずつ除いた基等の脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基からなる2価の基;フルオレン環等の多環芳香族炭化水素から水素原子を2つ除いた2価の基;が挙げられる。
R2で表される炭化水素基が置換基を有する場合の置換基としては、R1で表される炭化水素基の置換基として例示したものが挙げられる。
R2としては、原料の入手の容易さの点から、好ましくは、置換若しくは無置換の、炭素数1~24の1価若しくは2価の炭化水素基であり、より好ましくは、置換若しくは無置換の炭素数1~24のアルキル基;置換若しくは無置換の炭素3~24のシクロアルキル基;置換若しくは無置換の炭素数1~24のアルキレン基;置換若しくは無置換の、炭
素数6~24の1価若しくは2価の芳香族炭化水素基;置換若しくは無置換の炭素数7~24のアラルキル基;又は置換若しくは無置換の含窒素複素環等の複素環基;置換若しくは無置換のフェニレン基;脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基からなる炭素数7~24の2価の基;であり、さらに好ましくは、置換若しくは無置換の炭素数1~12のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数3~12のシクロアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数1~12のアルキレン基、置換若しくは無置換のフェニル基、置換若しくは無置換のフェニレン基、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基からなる炭素数7~24の2価の基、置換若しくは無置換のピリジル基である。置換基としては、得られる錯体の有用性から、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シアノ基、ハロゲノ基、又はニトロ基が好ましい。また、置換フェニル基としては、2-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基等のアルキル置換フェニル基;4-メトキシフェニル基、2-メトキシフェニル基等のアルコキシ置換フェニル基;2-クロロフェニル基、4-クロロフェニル基、2,4-ジクロロフェニル基等のハロゲン置換フェニル基、4-ニトロフェニル基、2-ニトロフェニル基等のニトロ置換フェニル基;が好ましい。
【0012】
(R22)
前記式(1’)において、R22は置換若しくは無置換の2価の炭化水素基である。R22の具体例としてはR2で例示した2価の炭化水素基が挙げられる。また、好ましい態様は、m=2の場合のR2と同様である。
【0013】
(R3)
前記式(1’)において、R3は、置換若しくは無置換の炭化水素基である。
R3の具体例としてはR1で例示した1価の炭化水素基が挙げられる。R3としては、好ましくは置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基であり、より好ましくは置換若しくは無置換の炭素数1~24の脂肪族炭化水素基であり、更に好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基である。
【0014】
(X)
前記式(1)において、Xはアニオン性配位子である。
アニオン性配位子としては特に限定されないが、好ましくは、ハロゲン配位子、スルホネート配位子、カルボキシレート配位子が挙げられ、より好ましくはスルホネート配位子又はカルボキシレート配位子であり、更に好ましくはトリフラート配位子又はアセテート配位子であり、特に好ましくはアセテート配位子である。
ハロゲン配位子としては、例えば、フルオライド配位子、クロライド配位子、ブロマイド配位子、ヨード配位子が挙げられる。
スルホネート配位子としては、例えば、SO3(Ra)-で表される配位子(Raはハロゲノ基、置換若しくは非置換の炭素数6~18の芳香族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数1~6のアルキル基)が挙げられる。入手の容易さの観点から、トリフラート配位子、1,1,1-トリフルオロエタンスルホネート配位子、ノナフルオロブタンスルホネート配位子等のフルオロアルキルスルホネート配位子;トシラート配位子、ベンゼンスルホネート配位子、4-フルオロベンゼンスルホネート配位子、1,2,3,4,5-ペンタフルオロベンゼンスルホネート配位子等のアリールスルホネート配位子;又は、メシラート配位子、ブタンスルホネート配位子等のアルキルスルホネート配位子;が好ましく、トリフラート配位子がより好ましい。
カルボキシレート配位子としては、例えば、RbCO2
-ので表される配位子(Rbは、水素原子、置換若しくは非置換の炭素数6~18の芳香族炭化水素基、置換若しくは非置換の炭素数1~6のアルキル基)。が挙げられる。中でも、入手の容易さの観点から、ホルメート配位子(OCOH)、アセテート配位子(OCOMe)、プロピオネート配位子(OCOEt)、ブチレート配位子(OCOPr)等が好ましく、アセテート配位子がより好ましい。
【0015】
(L、n)
前記式(1)において、LはL型配位子であり、前記L型配位子は単座配位子、二座配位子、三座配位子、四座配位子、又は六座配位子であり、nは前記L型配位子の数であって、1以上4以下の整数であり、nが2以上の場合、複数のLは同一でも異なっていてもよい。
L型配位子としては特に限定されないが、アミン配位子又はホスフィン配位子であることが好ましく、触媒活性が高くなり、反応収率が向上するという観点から、二座配位のアミン配位子であることが好ましい。
アミン配位子としては、例えば、アニリン、トルイジン、アニシジン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の単座配位のアミン配位子;テトラメチルエチレンジアミン、1,10-フェナントロリン、2,2’-ビピリジル等の二座配位のアミン配位子;N,N,N’,N'',N''-ペンタメチルジエチレントリアミン等の三座配位のアミン配位子;トリス[2-(ジメチルアミノ)エチル]アミン(Me6TREN)、トリス(2-ピコリル)アミン、N,N’-ビス(2-ピリジルメチル)-1,2-エチレンジアミン(bispicen)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン(cyclam)等の四座配位のアミン配位子;N,N’-ジ酢酸エチル-N,N’-ビス(2-ピリジルメチル)-1,2-エチレンジアミン(debpn)、エチレンジアミン四酢酸、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン(TPEN)等の六座配位のアミン配位子;ポリエチレンイミン;等が挙げられる。中でも、1,10-フェナントロリン又は2,2’-ビピリジルが好ましい。
ホスフィン配位子としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリ-tert-ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリエトキシホスフィン、トリ(p-トリル)ホスフィン、トリ(o-トリル)ホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリ(2-フリル)ホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフルオロボラート、トリ-tert-ブチルホスホニウムテトラフェニルボラート、トリ(t-ブチル)ホスフィン(P(t-Bu)3)・CF3SO3H、2-(ジ-t-ブチルホスフィノ)ビフェニル(JohnPhos)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(Xphos)、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル(BINAP)、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(DPPF)、1,1’-ビス(ジ-t-ブチルホスフィノ)フェロセン(DtBPF)、N,N-ジメチル-1-[2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチルアミン、1-[2-(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル]エチルメチルエーテル、4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9ジメチルキサンテン(Xantphos)、4,6-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェノキサジン(NIXantphos)、ビス[2-(ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル(DPEphos)、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンが挙げられる。
nは前記L型配位子の数であって、1以上4以下の整数であり、好ましくは1又は2である。
【0016】
一般式(1)又は(1’)で表される亜鉛カルバメート錯体の具体例としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【化6】
【0017】
上記の一般式(1)又は(1’)で表される亜鉛カルバメート錯体の製造方法としては特に限定されないが、アミン化合物R2(NHR1)m又はR2(N(CO2R3)R1)(NHR1)、亜鉛化合物ZnXY、及びL型配位子Lから誘導されることが好ましく、次に説明する亜鉛カルバメート錯体の製造方法により好適に製造することができる。
【0018】
2.亜鉛カルバメート錯体の製造方法
本発明の一態様に係る亜鉛カルバメート錯体の製造方法は、一般式(A)又は(A’)で表されるアミン化合物と、一般式(B)で表される亜鉛化合物と、L型配位子と、二酸化炭素と、を反応させる反応工程含む、一般式(1)又は(1’)で表される亜鉛カルバメート錯体を製造する方法である。
【化7】
(式(A)中、R
1は、それぞれ独立して、水素原子又は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基であり;R
2は置換若しくは無置換のm価の炭化水素基であり;mは1又は2である。
式(B)中、X及びYはアニオン性配位子である。
式(1)中、R
1、R
2及びmは、それぞれ、式(A)中のR
1、R
2及びmと同義であり;Xは、式(B)中のXと同義であり;LはL型配位子であり、前記L型配位子は単座配位子、二座配位子、三座配位子、四座配位子、又は六座配位子であり;nは前記L型配位子の数であって、1以上4以下の整数であり、nが2以上の場合、複数のLは同一でも異なっていてもよい。
式(A’)中、R
1は、式(A)中のR
1と同義であり;R
22は置換若しくは無置換の2価の炭化水素基であり;R
3は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基である。
式(1’)中、R
1、R
22及びR
3は、それぞれ、式(A’)中のR
1、R
22及びR
3と同義であり;Xは、式(B)中のXと同義であり;L及びnは、それぞれ、式(1)中のL及びnと同義である。)
【0019】
(一般式(A)又は(A’)で表されるアミン化合物)
R
2(NHR
1)
m (A)
式(A)において、R
1は、それぞれ独立して、水素原子又は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基であり;R
2は置換若しくは無置換のm価の炭化水素基であり;mは1又は2である。
R
2(N(CO
2R
3)R
1)(NHR
1) (A’)
式(A’)において、R
1は、式(A)中のR
1と同義であり;R
22は置換若しくは無置換の2価の炭化水素基であり;R
3は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基である。
一般式(A)又は(A’)におけるR
1の詳細は、上述の「1.亜鉛カルバメート錯体」の項の「一般式(1)で表される亜鉛カルバメート錯体」のR
1の説明が適用される。
一般式(A)におけるR
2の詳細は、上述の「1.亜鉛カルバメート錯体」の項の「一般式(1)で表される亜鉛カルバメート錯体」のR
2の説明が適用される。
一般式(A’)におけるR
22及びR
3の詳細は、それぞれ、上述の「1.亜鉛カルバメート錯体」の項の「一般式(1)で表される亜鉛カルバメート錯体」のR
22及びR
3の説明が適用される。
前記一般式(A)で表されるアミン化合物としては、モノアミン化合物であってもよいし、ジアミン化合物であってもよい。一般式(A’)で表されるアミン化合物は、ジアミ
ン化合物の一方のアミノ基が式(C)で表されるウレタン構造を有する基に変換された化合物である。
【化8】
(式中、R
3は式(A’)中のR
3と同義であり、*は結合部位を示す。)
式(C)において、R
3は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基であり、R
3の具体例としてはR
1で例示した1価の炭化水素基が挙げられる。R
3としては、好ましくは置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基であり、より好ましくは置換若しくは無置換の炭素数1~24の脂肪族炭化水素基であり、更に好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基である。
【0020】
モノアミン化合物としては、例えば、アニリン若しくはアニリン誘導体、4-アミノピリジン、1-アミノヘキサン及びシクロヘキシルアミンを好ましく挙げられる。アニリン誘導体としては、例えば、o-アニシジン、m-アニシジン、p-アニシジン、4-ビニルアニリン、4-ニトロアニリン、4-ブロモアニリン、4-フルオロアニリン、4-シアノアニリン、4-シアノアニリン、p-トルイジン、4-クロロアニリン、4-ブロモアニリン又は4-フルオロアニリンが好ましく挙げられる。
ジアミン化合物としては、例えば、4,4’-メチレンジアニリン、2,4-トリレンジアミン及び1,6-ヘキシルジアミン並びにこれらの誘導体が好ましく挙げられる。また、これらジアミン化合物若しくはジアミン化合物誘導体の一方のアミノ基が上記式(C)で表されるウレタン構造を有する基に変換された、一般式(A’)に包含される化合物も好ましい。
アミン化合物の使用量(仕込み量)は、特に限定されないが、亜鉛化合物1当量に対して、通常1当量以上、好ましくは1.5当量以上、より好ましくは2.5当量以上、さらに好ましくは3当量以上であり、通常20当量以下、好ましくは15当量以下、より好ましくは10当量以下で用いることができる。
【0021】
(一般式(B)で表される亜鉛化合物)
ZnXY (B)
式(B)において、X及びYは、亜鉛イオン(Zn2+)のカウンターアニオンとなり得るアニオン性配位子であり、同一でも異なっていてもよい。
式(B)におけるX及びYの詳細は、上述の「1.亜鉛カルバメート錯体」の項の「一般式(1)で表される亜鉛カルバメート錯体」のXの説明が適用される。
亜鉛化合物の入手の容易さの観点から、XとYは同一であることが好ましい。
前記一般式(B)で表される亜鉛化合物としては、例えば、ZnCl2、ZnBr2、Zn(OTf)2又はZn(OAc)2が好ましく挙げられる。
【0022】
(L型配位子)
Lで表されるL型配位子は、単座配位子、二座配位子、三座配位子、四座配位子、又は六座配位子である。L型配位子の具体例としては、上述の「1.亜鉛カルバメート錯体」の項の「一般式(1)で表される亜鉛カルバメート錯体」のL型配位子の説明において例示した配位子が挙げられ、好ましい態様も同様である。
L型配位子の使用量(仕込み量)は、特に限定されないが、亜鉛化合物1当量に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1.0当量以上、より好ましくは2.0当量以上、さらに好ましくは3.0当量以上であり、通常20当量以下、好ましくは10当量以下、より好ましくは5当量以下で用いることができる。
【0023】
(二酸化炭素)
反応工程は、亜鉛カルバメート錯体の原料として二酸化炭素(ガス)を用いる。反応工程で用いる二酸化炭素は、工業ガスとして調製されたものだけでなく、工場や発電所等からの排出ガスから分離回収したものも用いることができる。なお、反応系においては、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、二酸化炭素以外のガス、例えば、N2、Ar等の不活性ガスが含まれていてもよい。
【0024】
(溶媒)
反応工程は溶媒を使用してもよいし、使用しなくてもよいが、反応溶媒を使用することが好ましい。反応溶媒を使用することで、反応混合物中への二酸化炭素の溶解量が増加して、反応系中の二酸化炭素の濃度が高くなり、反応が進行しやすくなって亜鉛カルバメート錯体の収率が向上すると考えられる。
反応溶媒の種類は特に限定されないが、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセリン等のアルコール;ブタン、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ピリジン等の複素環式芳香族化合物;酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル、2-シアノピリジン等のニトリル;アセトン、イソプロピルケトン等のケトン;等を挙げることができる。中でも、好ましくはアセトニトリルである。溶媒は1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
溶媒の使用量は、特に限定されないが、亜鉛化合物1当量に対して、通常1当量以上、好ましくは1.5当量以上、より好ましくは2.5当量以上、さらに好ましくは4当量以上であり、通常20当量以下、好ましくは、15当量以下、より好ましくは10当量以下で用いることができる。
【0025】
(充填圧力)
二酸化炭素ガスの充填圧力は特に限定されないが、通常0.1MPa以上、好ましくは1.0MPa以上、より好ましくは1.0MPa以上、さらに好ましくは3.0MPa以上、また、通常10.0MPa以下、好ましくは5.0MPa以下である。充填圧力がこの範囲であると、亜鉛カルバメート錯体を効率良く製造できる。なお、本明細書において、「充填圧力」とは、反応開始時点での反応器内の二酸化炭素の圧力(25℃)を意味する。
【0026】
(反応温度)
反応温度は特に限定されないが、高いほうが亜鉛カルバメート錯体の収率が高い傾向があり、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上であり、通常250℃以下、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃以下である。反応温度がこの範囲であると、亜鉛カルバメート錯体を効率良く製造できる。
【0027】
(反応時間)
反応時間は特に限定されず、反応温度、触媒量、反応スケール等によって適宜調整すればよい。通常30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、また、通常120時間以下、好ましくは100時間以下、より好ましくは80時間以下である。本明細書において、「反応時間」は、反応器内の温度が所定の反応温度に到達してか
ら、当該所定の反応温度で維持する時間とする。
【0028】
(反応容器)
反応容器は、亜鉛カルバメート錯体に対して安定な材質から形成されていれば特に限定されず、連続プロセス又はバッチプロセスに応じて適宜選択される。本発明の一実施形態においては、連続プロセスとしてもよいし、バッチプロセスとしてもよい。バッチプロセスの場合、好ましくは密閉型の反応容器(密閉反応容器)であり、より好ましくはアミン化合物、亜鉛化合物及び配位子、必要に応じて溶媒の混合物の体積に対し10倍~100倍の体積を有する密閉型の耐圧性容器であり、より好ましくはステンレス製のオートクレーブである。
【0029】
(操作手順)
まず、原料のアミン化合物、亜鉛化合物及び配位子を反応容器に加える。この際、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。反応容器にアミン化合物、亜鉛化合物及び配位子を加えた後、反応器内を原料の二酸化炭素で満たし、二酸化炭素雰囲気とする。溶媒を用いる場合は、二酸化炭素を反応器に導入する前に、反応容器に加えればよく、アミン化合物等と同時に反応器に加えてもよい。反応中、反応容器内には本発明の効果を著しく損なわない範囲において、窒素、アルゴン等の不活性ガス等が含まれていてもよい。また、反応中、攪拌することが好ましく、例えば、磁気撹拌子を用いることができる。反応後は、冷却し、残存するガスを排出してから、反応生成物を回収する。
【0030】
(その他工程)
本実施形態に係る亜鉛カルバメート錯体の製造方法においては、上記反応工程の他、任意の工程を含んでいてもよい。任意の工程としては、亜鉛カルバメート錯体の純度を高めるための精製工程が挙げられる。精製工程においては、ろ過、吸着、カラムクロマトグラフィー、蒸留等の有機合成分野で通常行われる精製方法を採用することができる。具体的には、例えば、得られた固体を窒素雰囲気下で濾過し、ジエチルエーテル等で洗浄、真空乾燥する方法が挙げられる。
【0031】
3.亜鉛カルバメート錯体を触媒とするカルバメート化合物の製造方法
上記の亜鉛カルバメート錯体を触媒として、アミン化合物(D)と、アルコキシシラン化合物(E)と、二酸化炭素と、を反応させてカルバメート化合物(F)を生成するカルバメート生成工程を含む、カルバメート化合物の製造方法も本発明の一態様である。
本実施態様に用いられるアミン化合物(D)及びアルコキシシラン化合物(E)は特に限定されず、目的とするカルバメート化合物(F)に応じて適宜選択される。
【0032】
本発明の一実施形態に係るカルバメート化合物の製造方法としては、上記の亜鉛カルバメート錯体を触媒として、式(D1)又は(D1’)で表されるアミン化合物と、式(E1)で表されるアルコキシシラン化合物と、二酸化炭素と、を反応させて式(F1)又は(F1’)で表されるカルバメート化合物を生成するカルバメート生成工程を含む方法が好ましく挙げられる。
【化9】
(式(D1)中、R
4はそれぞれ独立して水素原子又は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基であり;R
5は置換若しくは無置換のm’価の炭化水素基であり;m’は1又は2である。
式(E1)中、R
6はそれぞれ独立して置換若しくは無置換の炭化水素基であり;R
7はそれぞれ独立して置換若しくは無置換の炭化水素基であり;n’は1~4の整数である。ただしn’が2以上の場合、2つのR
6が互いに連結して環を形成していてもよい。また、n’が3以下の場合、R
6とR
7が連結して環を形成していてもよい。
式(F1)中、R
4、R
5及びm’は、それぞれ、式(D1)中のR
4、R
5及びm’と同義であり;R
6は、式(E1)中のR
6と同義である。
式(D1’)中、R
4は、式(D1)中のR
4と同義であり;R
55は置換若しくは無置換の2価の炭化水素基であり;R
8は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基である。
式(F1’)中、R
4、R
55及びR
8は、それぞれ、式(D1’)中のR
4、R
55及びR
8と同義であり;R
6は、式(E1)中のR
6と同義である。)
【0033】
(アミン化合物(D))
本実施形態に用いられる「アミン化合物」は、アミノ基を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、式(D1)又は(D1’)で表されるアミン化合物が好ましく挙げられる。
R
5(NHR
4)
m (D1)
式(D1)において、R
4は水素原子又は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基であり、R
5は置換若しくは無置換のm’価の炭化水素基であり、m’は1又は2である。
R
55(N(CO
2R
8)R
4)(NHR
4) (D1’)
式(D1’)において、R
4は、式(D1)中のR
4と同義であり;R
55は置換若しくは無置換の2価の炭化水素基であり;R
8は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基である。
一般式(D1)又は(D1’)におけるR
4の詳細は、上述の「1.亜鉛カルバメート錯体」の項の「一般式(1)で表される亜鉛カルバメート錯体」のR
1の説明が適用される。
一般式(D1)におけるR
5の詳細は、上述の「1.亜鉛カルバメート錯体」の項の「一般式(1)で表される亜鉛カルバメート錯体」のR
2の説明が適用される。
一般式(D1’)におけるR
55及びR
8の詳細は、それぞれ、上述の「1.亜鉛カルバメート錯体」の項の「一般式(1)で表される亜鉛カルバメート錯体」のR
22及びR
3の説明が適用される。
前記一般式(D1)で表されるアミン化合物としては、モノアミン化合物であってもよいし、ジアミン化合物であってもよい。一般式(D1’)で表されるアミン化合物は、ジアミン化合物の一方のアミノ基が式(C’)で表されるウレタン構造を有する基に変換された化合物である。
【化10】
(式中、R
8は式(D1’)中のR
3と同義であり、*は結合部位を示す。)
式(C’)において、R
8は置換若しくは無置換の1価の炭化水素基であり、R
8の具体例としてはR
1で例示した1価の炭化水素基が挙げられる。R
8としては、好ましくは置換若しくは無置換の脂肪族炭化水素基であり、より好ましくは置換若しくは無置換の炭素数1~24の脂肪族炭化水素基であり、更に好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、又はn-ブチル基である。
カルバメート化合物の収率向上、単離精製の観点から、R
4及びR
5は、それぞれ亜鉛カルバメート錯体のR
1及びR
2と同一の基であることが好ましい。
前記一般式(D1)で表されるアミン化合物としては、モノアミン化合物であってもよいし、ジアミン化合物であってもよい。
モノアミン化合物としては、例えば、アニリン若しくはアニリン誘導体、4-アミノピリジン、1-アミノヘキサン及びシクロヘキシルアミンを好ましく挙げられる。アニリン誘導体としては特に限定されないが、好ましくは、o-アニシジン、m-アニシジン、p-アニシジン、4-ビニルアニリン、4-ニトロアニリン、4-ブロモアニリン、4-フルオロアニリン、4-シアノアニリン、4-シアノアニリン、p-トルイジン、4-クロロアニリン、4-ブロモアニリン又は4-フルオロアニリンが挙げられる。
ジアミン化合物としては、4,4’-メチレンジアニリン、2,4-トリレンジアミン及び1,6-ヘキシルジアミン並びにこれらの誘導体が好ましく挙げられる。また、これらジアミン化合物若しくはジアミン化合物誘導体の一方のアミノ基が上記式(C’)で表されるウレタン構造を有する基に変換された、一般式(D1’)に包含される化合物も好ましい。
【0034】
(アルコキシシラン化合物(E))
本実施形態において、「アルコキシシラン化合物」とは、アルコキシシラン及びその誘導体を意味する。アルコキシシラン化合物の具体的種類は特に限定されず、目的とするカルバメート化合物に応じて適宜選択することができる。例えば、式(E1)で表されるアルコキシシラン化合物が好ましく挙げられる。
(R7)4-n’Si(OR6)n’・・・(E1)
(式(E1)中、R6はそれぞれ独立して置換若しくは無置換の炭化水素基であり;R7はそれぞれ独立して置換若しくは無置換の炭化水素基であり;n’は1~4の整数である。ただしn’が2以上の場合、2つのR6が互いに連結して環を形成していてもよい。また、n’が3以下の場合、R6とR7が連結して環を形成していてもよい。)
【0035】
(R6)
式(E1)中、R6はそれぞれ独立して、無置換もしくは置換基を有する1価の炭化水素基を表す。
R6の炭素数は特に限定されないが、通常1以上であり、また、通常30以下、好ましくは24以下、より好ましくは20以下である。
R6で表される無置換の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、n-ドコシル基等のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキ
シル基等のシクロアルキル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-フェナントリル基、2-フェナントリル基、3-フェナントリル基、4-フェナントリル基、9-フェナントリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、4-ピレニル基、1-トリフェニレニル基、2-トリフェニレニル基等の芳香族炭化水素基;等が挙げられる。
R6で表される炭化水素基が置換基を有する場合、前記置換基としては、例えば、重水素原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基等の炭素数3~4のシクロアルキル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等の炭素数6~10の芳香族炭化水素基;フラニル基等の含酸素複素環基、チエニル基等の含硫黄複素環基、ピロリル基、ピリジル基等の含窒素複素環等の複素環基;フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等のハロゲノ基;イソシアネート基;シアノ基;アミノ基;アミド基;ニトロ基;が挙げられる。したがって、R6で表される炭化水素基が置換基を有する場合、R6としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基等のアラルキル基;シクロヘキシルメチル基等のシクロアルキルアルキル基;フルフリル基等の含酸素複素環を有する炭化水素基;チエニルメチル基等の含硫黄複素環を有する炭化水素基;ピリジルメチル基等の含窒素複素環を有する炭化水素基;等を好ましく挙げることができ、特に好ましくは、ベンジル基、フェネチル基である。
R6としては、アルコキシシランと二酸化炭素との反応効率の点から、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基又はn-ブチル基が特に好ましい。
【0036】
(R7)
式(E1)中、R7はそれぞれ独立して、無置換もしくは置換基を有するm’価の炭化水素基を表す。
R7の炭素数は特に限定されないが、通常1以上であり、また、通常30以下、好ましくは24以下、より好ましくは20以下である。
R7で表される無置換の炭化水素基としては、R6で例示した1価の炭化水素基が挙げられる。入手容易性、安定性の観点から、好ましくは、メチル基、エチル基、ビニル基、アリル基、フェニル基が挙げられる。
また、R7で表される炭化水素基が置換基を有する場合の置換基としては、R6で表される炭化水素基の置換基として例示したものが挙げられる。中でも、好ましくは、イソシアネート基またはシアノ基である。
【0037】
(n’)
式(E1)中、n’は1~4の整数であり、反応効率、カルバメート化合物の安定性の観点から、好ましくは2以上であり、より好ましくは3又は4であり、更に好ましくは4である。
【0038】
式(E1)で表されるアルコキシシラン類としては、具体的には、メトキシトリメチルシラン、メトキシトリエチルシラン、メトキシトリプロピルシラン、メトキシトリイソブチルシラン、メトキシトリオクチルシラン、メトキシトリヘキサデシルシラン、メトキシトリビニルシラン、メトキシトリフェニルシラン、フェニルメトキシジメチルシラン、フェニルメトキシジエチルシラン、エトキシトリメチルシラン、エトキシトリエチルシラン、エトキシトリプロピルシラン、エトキシトリイソブチルシラン、エトキシトリオクチルシラン、エトキシトリフェニルシラン、エトキシトリビニルシラン、エトキシトリアリルシラン、エトキシジエチルフェニルシラン、フェニルエトキシジプロピルシラン、プロポキシトリメチルシラン、プロポキシトリエチルシラン、プロポキシトリプロピルシラン、フェニルプロポキシジメチルシラン、フェニルプロポキシジエチルシラン、フェニルプロポキシジプロピルシラン等のモノアルコキシシラン;ジメトキシジメチルシラン、ジメト
キシジエチルシラン、ジメトキシジプロピルシラン、フェニルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、ジエトキシジプロピルシラン、ジエトキシメチルフェニルシラン、ジエトキシエチルフェニルシラン、ジエトキシフェニルプロピルシラン、ジプロポキシジメチルシラン、ジプロポキシジエチルシラン、ジプロポキシジプロピルシラン、フェニルジプロポキシメチルシラン、フェニルジプロポキシエチルシラン、フェニルジプロポキシプロピルシラン、ジブトキシジメチルシラン、ジブトキシジエチルシラン、フェニルジメトキシエチルシラン等のジアルコキシシラン;トリメトキシメチルシラン、トリメトキシエチルシラン、トリメトキシプロピルシラン、トリメトキシイソブチルシラン、トリメトキシオクチルシラン、トリメトキシヘキサデシルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシエチルシラン、トリエトキシプロピルシラン、トリエトキシイソブチルシラン、トリエトキシオクチルシラン、トリメトキシビニルシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリエトキシフェニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリエトキシアリルシラン、トリプロポキシメチルシラン、トリプロポキシエチルシラン、トリプロポキシプロピルシラン、トリプロポキシフェニルシラン、2-シアノエチルトリエトキシシラン、3-(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート等のトリアルコキシシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)シラン等のテトラアルコキシシランが挙げられる。
【0039】
アルコキシシラン化合物としては、入手容易性、高い反応性の観点から、好ましくは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリエトキシアリルシラン、2-シアノエチルトリエトキシシラン、3-(トリエトキシシリル)プロピルイソシアネート、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン又は1,6-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサンであり、より好ましくは、より好ましくは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、トリメトキシメチルシラン又はジメトキシジメチルシラン、であり、さらに好ましくは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン又はテトラブトキシシランである。
アルコキシシランは、市販品を使用してもよいし、合成して使用してもよい。
アルコキシシランの使用量(仕込み量)は、特に限定されないが、アミン化合物1当量に対して、通常1当量以上、好ましくは1.5当量以上、より好ましくは2.5当量以上、さらに好ましくは3当量以上であり、通常20当量以下、好ましくは15当量以下、より好ましくは10当量以下で用いることができる。
【0040】
(L型配位子)
本実施形態においては、L型配位子を添加してカルバメート生成工程を行うことが好ましい。
L型配位子としては、亜鉛カルバメート錯体を構成する配位子と同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
L型配位子としては、具体的には、上述の「1.亜鉛カルバメート錯体」の項の「一般式(1)で表される亜鉛カルバメート錯体」のL型配位子の説明において例示した配位子が挙げられ、好ましい態様も同様である。
配位子の使用量(仕込み量)は、特に限定されないが、亜鉛カルバメート錯体1当量に対して、通常0.5当量以上、好ましくは1.0当量以上、より好ましくは2.0当量以上であり、通常20当量以下、好ましくは、10当量以下、より好ましくは5当量以下で用いることができる。
【0041】
(亜鉛カルバメート錯体)
上述の「1.亜鉛カルバメート錯体」で説明した亜鉛カルバメート錯体、又は「2.亜鉛カルバメート錯体の製造方法」で説明した製造方法により得られた亜鉛カルバメート錯体をカルバメート生成工程の触媒として用いることができる。
カルバメート生成工程における前記亜鉛カルバメート錯体の使用量が、前記アミン化合物(D)の使用量の0.01mmol%以上が好ましく、0.1mmol%以上がより好ましく、1.0mmol%以上がより好ましく、10.0mol%未満が好ましく、5.0mol%以下がより好ましく、3.0mol%以下がさらに好ましい。
【0042】
(式(F1)で表されるカルバメート化合物)
式(F1)で表される化合物において、R4及びR5は式(D1)で表されるアミン化合物に由来し、R6は式(E1)で表されるアルコキシシラン化合物に由来する。
式(F1)で表されるカルバメート化合物としては、例えば、以下の化合物が挙げられる。
【0043】
【0044】
(溶媒)
カルバメート生成工程は溶媒を使用してもよいし、使用しなくてもよい。より温和な条件下でのカルバメート生成を達成する観点、例えば二酸化炭素ガスの充填圧力の低減、反応温度の低温化、反応時間の短縮等を可能にせしめる観点からは、溶媒を使用しないことが好ましい。なお、「溶媒を使用しない」とは、反応試薬とは別途の溶媒を使用しないことを意味し、例えばアルコキシシランのような反応基質を溶媒として用いる場合は、溶媒を使用しない条件であるものとする。また、「無溶媒」も「溶媒を使用しない」と同様の
意味で用いる。
反応溶媒の種類は特に限定されないが、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、アリルアルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセリン等のアルコール;ブタン、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ピリジン等の複素環式芳香族化合物;酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル、2-シアノピリジン等のニトリル;アセトン、イソプロピルケトン等のケトン;等を挙げることができる。中でも、好ましくはアセトニトリルである。溶媒は1種を用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
溶媒の使用量は、特に限定されないが、アミン化合物1当量に対して、通常1当量以上、好ましくは1.5当量以上、より好ましくは2.5当量以上、さらに好ましくは4当量以上であり、通常20当量以下、好ましくは、15当量以下、より好ましくは10当量以下で用いることができる。
【0045】
(充填圧力)
カルバメート生成工程において、二酸化炭素ガスの充填圧力は特に限定されないが、通常0.05MPa、好ましくは0.1MPa以上、また、通常10.0MPa以下、好ましくは5.0MPa以下である。充填圧力がこの範囲であると、カルバメート化合物を効率良く製造できる。上述した充填圧力の範囲の中でも、無溶媒条件下では、より低い圧力領域で速やかに反応が進行する傾向がある。
【0046】
(反応温度)
カルバメート生成工程の反応温度は特に限定されず、アミン化合物の種類、アルコキシシランの種類、溶媒の有無等にもよるが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは140℃以上であり、通常250℃以下、好ましくは230℃以下、より好ましくは200℃以下である。反応温度がこの範囲であると、カルバメート化合物を効率良く製造できる。上述した反応温度の範囲の中でも、無溶媒条件下では、より低い温度領域で速やかに反応が進行する傾向がある。
【0047】
(反応時間)
カルバメート生成工程の反応時間は特に限定されず、反応温度、触媒量、反応スケール等によって適宜調整すればよい。通常30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、また、通常120時間以下、好ましくは100時間以下、より好ましくは80時間以下である。上述した反応時間の範囲の中でも、無溶媒条件下では、より短時間で反応が完了する傾向がある。
【0048】
(反応容器)
反応容器は、カルバメート化合物に対して安定な材質から形成されていれば特に限定されず、連続プロセス又はバッチプロセスに応じて適宜選択される。本発明の一実施形態においては、連続プロセスとしてもよいし、バッチプロセスとしてもよい。バッチプロセスの場合、好ましくは密閉型の反応容器(密閉反応容器)であり、より好ましくはアミン化合物、アルコキシシラン化合物、亜鉛カルバメート錯体及び、必要に応じて溶媒の混合物の体積に対し10倍~100倍の体積を有する密閉型の耐圧性容器であり、より好ましくはステンレス製のオートクレーブである。
【0049】
(操作手順)
まず、原料のアミン化合物及びアルコキシシラン化合物、並びに触媒として亜鉛カルバメート錯体を反応容器に加える。この際、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。反応容器にアミン化合物及びアルコキシシラン化合物を加えた後、反応器内を原料の二酸化炭素で満たし、二酸化炭素雰囲気とする。溶媒を用いる場合は、二酸化炭素を反応器に導入する前に、反応容器に加えればよく、アミン化合物等と同時に反応器に加えてもよい。反応中、反応容器内には本発明の効果を著しく損なわない範囲において、窒素、アルゴン等の不活性ガス等が含まれていてもよい。また、反応中、攪拌することが好ましく、例えば、磁気撹拌子を用いることができる。反応後は、冷却し、残存するガスを排出してから、反応生成物を回収する。
【0050】
(その他工程)
本実施形態に係るカルバメート化合物の製造方法においては、上記カルバメート生成工程の他、任意の工程を含んでいてもよい。任意の工程としては、カルバメート化合物の純度を高めるための精製工程が挙げられる。精製工程においては、ろ過、吸着、カラムクロマトグラフィー、蒸留等の有機合成分野で通常行われる精製方法を採用することができる。具体的には、例えば、得られた固体を窒素雰囲気下で濾過し、ジエチルエーテル等で洗浄、真空乾燥する方法が挙げられる。
【実施例0051】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0052】
[実施例1-1]
10mLのステンレス製オートクレーブに、アニリン(373mg,4.0mmol)、酢酸亜鉛(184mg,1.0mmol)、1,10-フェナントロリン(180mg,1.0mmol)、アセトニトリル(3mL)を入れ、CO2(3.0MPa)を充填した後、150℃で3時間加熱した。その後、1時間かけて放熱した後、窒素雰囲気下で得られた固体を濾過、ジエチルエーテル(5.0mL)で洗浄、真空乾燥することで、収率45%(198mg)で亜鉛カルバメート錯体1を得た。化合物の構造は単結晶X線構造解析と1H NMRスペクトルにより決定した。亜鉛カルバメート錯体1の構造と1H
NMRの結果を以下に示す。また、亜鉛カルバメート錯体1の単結晶X線結晶構造解析の結果(ORTEP図および主な結晶データ)を示す。
【0053】
【化12】
NMR data of 1:
1H NMR (400 MHz, DMSO-d
6, 300 K): δ 9.11 (s, 2H, phen), 8.87 (d,
2J
HH= 7 Hz, 2H, phen), 8.52 (s, 1H, NH), 8.25 (s, 2H, phen), 8.09 (s, 2H, phen), 7.39 (d,
2J
HH= 8 Hz, 2H, o-Ph), 7.09 (t,
2J
HH = 8 Hz, 2H, m-Ph), 6.74 (t,
2J
HH
= 8 Hz, 1H, p-Ph), 1.79 (s, 3H, OC(=O)CH
3).
【0054】
【0055】
[実施例1-2]
10mLのステンレス製オートクレーブに、p-トルイジン(429mg,4.0mmol)、酢酸亜鉛(184mg,1.0mmol)、1,10-フェナントロリン(180mg,1.0mmol)、アセトニトリル(3mL)を入れ、CO2(3.0MPa)を充填した後、150℃で3時間加熱した。その後、1時間かけて放熱した後、窒素雰囲気下で得られた固体を濾過、ジエチルエーテル(5.0mL)で洗浄、真空乾燥した。1H NMRにより亜鉛カルバメート錯体2の生成を確認した。亜鉛カルバメート錯体2の構造と1H NMRの結果を以下に示す。
【0056】
【化14】
NMR data of 2:
1H NMR (400 MHz, DMSO-d
6, 300 K): δ 9.11 (s, 2H, phen), 8.88 (d,
2J
HH= 7 Hz, 2H, phen), 8.42 (s, 1H, NH), 8.26 (s, 2H, phen), 8.10 (s, 2H, phen), 7.27 (d,
2J
HH= 8 Hz, 2H, Ar), 6.89 (d,
2J
HH= 8 Hz, 2H, Ar), 2.15 (s, 3H, Ar-CH
3), 1.78 (s, 3H, OC(=O)CH
3).
【0057】
[実施例1-3]
p-トルイジンを4-クロロアニリンに変更した以外は、実施例1-2と同様にして反応を行った。1H NMRにより亜鉛カルバメート錯体3の生成を確認した。亜鉛カルバメート錯体3の構造と1H NMRの結果を以下に示す。
【0058】
【化15】
NMR data of 3:
1H NMR (400 MHz, DMSO-d
6, 300 K): δ 9.09 (s, 2H, phen), 8.90 (d,
2J
HH= 7 Hz, 2H, phen), 8.64 (s, 1H, NH), 8.26 (s, 2H, phen), 8.16-8.03 (m, 2H, phen), 7.41 (d,
2J
HH= 8 Hz, 2H, Ar), 7.12 (d,
2J
HH= 8 Hz, 2H, Ar), 1.77 (s, 3H, OC(=O)CH
3).
【0059】
[実施例1-4]
p-トルイジンを4-メトキシアニリンに変更した以外は、実施例1-2と同様にして反応を行った。1H NMRにより亜鉛カルバメート錯体4の生成を確認した。亜鉛カルバメート錯体4の構造と1H NMRの結果を以下に示す。
【0060】
【化16】
NMR data of 4:
1H NMR (400 MHz, DMSO-d
6, 300 K): δ 9.10 (d,
2J
HH = 5 Hz, 2H, phen), 8.88 (dd,
2J
HH= 8 and 1 Hz, 2H, phen), 8.38 (s, 1H, NH), 8.24 (s, 2H, phen), 8.11 (dd,
2J
HH = 8 and 5 Hz, 2H, phen), 7.30 (d,
2J
HH= 8 Hz, 2H, Ar), 6.70 (d,
2J
HH= 8 Hz, 2H, Ar), 3.64 (s, 3H, OCH
3), 1.78 (s, 3H, OC(=O)CH
3).
【0061】
[実施例1-5]
p-トルイジンをシクロヘキシルアミンに変更した以外は、実施例1-2と同様にして反応を行った。1H NMRにより亜鉛カルバメート錯体5の生成を確認した。亜鉛カルバメート錯体5の構造と1H NMRの結果を以下に示す。
【0062】
【化17】
NMR data of 5:
1H NMR (400 MHz, DMSO-d
6, 300 K): δ 9.07 (d,
2J
HH = 4 Hz, 2H, phen), 8.88 (d,
2J
HH= 8 Hz, 2H, phen), 8.25 (s, 2H, phen), 8.09 (dd,
2J
HH = 8 and 4 Hz, 2H, phen), 6.27 (s, 1H, NH), 2.73-3.64 (m, 1H, N-CH), 1.78 (s, 3H, OC(=O)C
H
3), 1.75-1.45 (m, 6H, CH
2), 1.75-1.45 (m, 6H, CH
2), 1.23-0.90 (m, 5H, CH
2).
【0063】
実施例1-1~1-5より、種々のアミン化合物、酢酸亜鉛、1,10-フェナントロリン、及び二酸化炭素を反応させることで、新規な亜鉛カルバメート錯体を合成し、安定な化合物として単離できることが確認された。
【0064】
[実施例2-1]
10mLのステンレス製オートクレーブに、アニリン(93mg,1.0mmol)、亜鉛カルバメート錯体1(8.8mg,0.020mmol)、Si(OMe)4(304mg,2.0mmol)、及びアセトニトリル(3mL)を入れ、CO2(3.0MPa)を充填した後、140℃で24時間加熱し、N-フェニルカルバミン酸メチルエステルを収率98%で得た。収率はメシチレン(50mg)を内部標準として用いた1H NMRによって決定した。
【0065】
【0066】
[実施例2-2]
10mLのステンレス製オートクレーブに、アニリン(47mg,0.50mmol)、亜鉛カルバメート錯体1(4.4mg,0.010mmol)、及びSi(OMe)4(1522mg,10.0mmol)を入れ、CO2(0.1MPa)を充填した後、140℃で4時間加熱し、N-フェニルカルバミン酸メチルエステルを収率90%で得た。収率はメシチレン(50mg)を内部標準として用いた1H NMRによって決定した。
【0067】
【0068】
また、実施例2-1及び2-2より、得られた亜鉛カルバメート錯体を触媒として用いることにより、アニリン、テトラメトキシシシラン、及び二酸化炭素から85%を超える高収率でN-フェニルカルバミン酸メチルエステルを効率よく製造できることが確認され
た。また、無溶媒条件下でカルバメート生成工程を行った実施例2-2では、アセトニトリル溶媒を用いた実施例2-1よりも、二酸化炭素ガスの充填圧力及び反応温度が低く、反応時間が短いにもかかわらず、90%という高収率でN-フェニルカルバミン酸メチルエステルが得られることがわかった。
本発明によれば、アミン化合物、亜鉛化合物及び二酸化炭素ガスを原料として亜鉛カルバメート錯体を製造することができる。亜鉛カルバメート錯体は二酸化炭素ガス、アミン、TROSと亜鉛触媒を用いたカルバメート合成の重要中間体である。また、亜鉛カルバメート錯体自体も上記カルバメート合成の触媒となる。カルバメートは熱分解によってポリウレタン原料であるイソシアネート類に変換可能であり、安価で豊富かつ低毒性の二酸化炭素ガスと再生再利用可能なTROSを原料とした新たなポリウレタン原料合成法として有用である。