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特開2022-179616窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合ツール部材、摩擦攪拌接合装置、およびそれを用いた摩擦攪拌接合方法
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  • 特開-窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合ツール部材、摩擦攪拌接合装置、およびそれを用いた摩擦攪拌接合方法 図1
  • 特開-窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合ツール部材、摩擦攪拌接合装置、およびそれを用いた摩擦攪拌接合方法 図2
  • 特開-窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合ツール部材、摩擦攪拌接合装置、およびそれを用いた摩擦攪拌接合方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022179616
(43)【公開日】2022-12-02
(54)【発明の名称】窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合ツール部材、摩擦攪拌接合装置、およびそれを用いた摩擦攪拌接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20221125BHJP
   C04B 35/596 20060101ALI20221125BHJP
【FI】
B23K20/12 344
C04B35/596
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022160934
(22)【出願日】2022-10-05
(62)【分割の表示】P 2018533012の分割
【原出願日】2017-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2016156383
(32)【優先日】2016-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
(72)【発明者】
【氏名】船木 開
(72)【発明者】
【氏名】池田 功
(72)【発明者】
【氏名】阿部 豊
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅礼
(57)【要約】
【課題】耐酸化性に優れた窒化珪素焼結体から成る摩擦攪拌接合用接合ツール部材を提供すること。
【解決手段】窒化珪素焼結体から成る摩擦攪拌接合用ツール部材であって、上記窒化珪素焼結体は窒化珪素以外の添加成分を15質量%以下含有すると共に、上記添加成分としてランタノイド元素から選択される少なくとも1種と、Mg、Ti、Hf、Moから選択される少なくとも1種とを含有することを特徴とする。また、添加成分として、Al、Si、Cから選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。上記構成によれば、耐久性が高い摩擦攪拌接合用接合ツール部材を提供できる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化珪素焼結体から成る摩擦攪拌接合用ツール部材であって、
前記窒化珪素焼結体は窒化珪素以外の添加成分を含有すると共に、前記添加成分はランタノイド元素から選択される少なくとも1種を金属単体換算で1~10質量%含有し、
前記窒化珪素焼結体にβ-窒化珪素結晶粒子とα-サイアロン結晶粒子との両方が存在し、
ランタノイド元素-Hf-O結晶化合物、ランタノイド元素-Al-O結晶化合物、ランタノイド元素-Hf-Al-O結晶化合物、のいずれか1種が主体となる粒界相を有し、
前記窒化珪素焼結体のビッカース硬度は、1590HV以上である、
ことを特徴とする窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用ツール部材。
【請求項2】
前記ランタノイド元素は、Yb、Er、Lu、Ceから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用ツール部材。
【請求項3】
Mg、Ti、Hf、Moから選択される少なくとも1種は、金属単体換算で0.1~5質量%含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用ツール部材。
【請求項4】
Al、Si、Cから選択される1種または2種以上を、金属単体換算で0.1~10質量%、含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用ツール部材。
【請求項5】
前記窒化珪素焼結体の組織の単位面積5μm×5μmについて、個々の粒界相のランタノイド元素の濃度分布をTEM分析により分析したとき、個々の粒界相のランタノイド元素濃度のばらつきが平均値に対して±20%以内であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用ツール部材。
【請求項6】
前記窒化珪素焼結体の粒界相の最大径が1μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用ツール部材。
【請求項7】
前記窒化珪素焼結体の粒界相のアスペクト比が1.5以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用ツール部材。
【請求項8】
前記窒化珪素焼結体は大気中1200℃で100時間保持した後の酸化増量が表面積1cm当り10×10-5wt%/cm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用ツール部材。
【請求項9】
前記窒化珪素焼結体の摩擦面の表面粗さRaが5μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用ツール部材。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用ツール部材を搭載したことを特徴とする摩擦攪拌接合装置。
【請求項11】
2以上の被接合材を重ね合わせ、摩擦攪拌接合用ツールを回転速度300rpm以上で回転させながら被接合材に押し当てることを特徴とする請求項10に記載の摩擦攪拌接合装置を用いた摩擦攪拌接合方法。
【請求項12】
前記被接合材が、鉄鋼であることを特徴とする請求項11に記載の摩擦攪拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
後述する実施形態は、窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合ツール部材、摩擦攪拌接合装置、およびそれを用いた摩擦攪拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)は、プローブと呼ばれる接合ツール部材を高速回転させながら部材に押し付け、摩擦熱を利用して複数の部材を一体化させる接合方法である。摩擦熱により部材(母材)を軟化させ、プローブの回転力によって接合部周辺を塑性流動させて複数の部材(母材と相手材)を一体化させることができる。このため、摩擦攪拌接合は、固相接合の一種であるといえる。
【0003】
摩擦攪拌接合は、固相接合であるため接合部への入熱が少ないため、接合対象の軟化や歪の程度が少ない。また、接合ろう材を使用しないことから、コストダウンが期待される。摩擦攪拌接合に用いる接合ツール部材は、高速回転に耐えうる耐摩耗性と、摩擦熱に耐えうる耐熱性が求められる。
【0004】
従来の接合ツール部材として特開2011-98842号公報(特許文献1)に窒化珪素焼結体を使った部材が開示されている。特許文献1の窒化珪素焼結体は、cBN(立方晶窒化ホウ素)、SiC(炭化けい素)、TiN(窒化チタン)を20vol%と大量に含有した部材であった。
【0005】
特許文献1の窒化珪素焼結体から成る接合ツール部材は一定の耐摩耗性の改善がみられるものの、更なる改善が要請されていた。特許文献1のように、cBN(立方晶窒化ホウ素)、SiC(炭化けい素)、TiN(窒化チタン)を20vol%と大量に添加した焼結体では、難焼結性となることで緻密な焼結体が得られず窒化珪素焼結体の耐摩耗性が不十分であることが判明した。
【0006】
一方、国際公開番号WO2016/047376号公報(特許文献2)は、焼結助剤量を15質量%以下にした窒化珪素焼結体から成る摩擦攪拌接合用ツール部材が開発されていることが記載されている。焼結助剤を所定の組合せとすることにより、焼結助剤量を低減することができている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-98842号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2016/047376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2ではビッカース硬度と破壊靭性値とを両立させた窒化珪素焼結体が開示されている。これにより、摩擦攪拌接合用ツール部材として性能を向上させている。しかしながら、長期寿命の観点では、必ずしも満足できるものではなかった。この原因を究明した結果、焼結助剤にイットリウム(Y)を使うことにより、耐酸化性が低下することが判明した。本発明が解決しようとする課題は、耐酸化性に優れた窒化珪素焼結体から成る摩擦攪拌接合用接合ツール部材を提供するものである。このような接合ツール部材であれば、酸化による劣化を防止することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材は、窒化珪素焼結体から成る摩擦攪拌接合用ツール部材であって、上記窒化珪素焼結体は窒化珪素以外の添加成分を15質量%以下含有すると共に、添加成分はランタノイド元素から選ばれる1種または2種以上と、Mg、Ti、Hf、Moから選ばれる1種または2種以上を具備することを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】円柱型の摩擦攪拌接合用接合ツール部材を例示する斜視図である。
図2】突起型の摩擦攪拌接合用接合ツール部材を例示する側面図である。
図3】球型の摩擦攪拌接合用接合ツール部材を例示する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態に係る窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用接合ツール部材は、窒化珪素焼結体からなる摩擦攪拌接合用接合ツール部材であって、上記窒化珪素焼結体は窒化珪素以外の添加成分を15質量%以下含有すると共に、添加成分としてランタノイド元素から選択される少なくとも1種と、Mg、Ti、Hf、Moから選択される少なくとも1種を含有することを特徴とするものである。
【0012】
窒化珪素焼結体は添加成分を15質量%以下含有するものである。添加成分とは、窒化珪素以外の成分を示す。窒化珪素焼結体では、窒化珪素以外の添加成分とは焼結助剤成分を示す。焼結助剤成分は粒界相を構成するものである。添加成分が15質量%を超えて多いと粒界相が過度に多くなる。窒化珪素焼結体は、細長いβ-窒化珪素結晶粒子が複雑にからみあった構造をとっている。焼結助剤成分が多くなると窒化珪素結晶粒子が複雑にからみあった構造をとれない部分ができてしまうため望ましくない。
【0013】
また、添加成分量は3質量%以上12.5質量%以下が好ましい。さらに添加成分量は5質量%以上12.5質量%以下が好ましい。添加成分量が3質量%未満では、粒界相が過少となり窒化珪素焼結体の密度が低下するおそれがある。添加成分量を3質量%以上にしておけば、焼結体の相対密度を95%以上にし易くなる。また、添加成分量を5質量%以上にすることにより、焼結体の相対密度を98%以上にし易くなる。
【0014】
また、添加成分としてランタノイド元素から選択される少なくとも1種と、Mg、Ti、Hf、Moから選択される少なくとも1種とを含有することを特徴とするものである。
【0015】
上記ランタノイド元素の具体例は、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、Lu(ルテチウム)、である。このランタノイド元素は、Y(イットリウム)よりも耐酸化性が良好な粒界相を形成できる元素である。
【0016】
また、ランタノイド元素の中では、Yb、Er、Lu、Ceから選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの元素は、高温環境下での耐酸化性に優れている。摩擦攪拌接合は、接合条件によってはツール部材が800℃以上の高温環境下に置かれる。高温環境下での耐酸化性を向上させることにより、長期寿命を改善することができる。
【0017】
また、ランタノイド元素の含有量は、金属単体換算で1~10質量%の範囲内が好ましい。ランタノイド元素の含有量が1質量%未満では、耐酸化性の向上が小さい。また、10質量%を超えて多いと、粒界相が過多になり、焼結体としての強度が低下する恐れがある。
【0018】
また、Mg、Ti、Hf、Moから選択される元素を少なくとも1種を含有するものとする。Mg(マグネシウム)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Mo(モリブデン)を構成元素として含有していれば、その存在形態は限定されるものではない。例えば、酸化物(複合酸化物を含む)、窒化物(複合窒化物を含む)、酸窒化物(複合酸窒化物を含む)、炭化物(複合炭化物を含む)などが挙げられる。これらの元素は、ランタノイド元素と複合化合物を形成して粒界相を強化することができる。また、窒化物、酸化物、炭化物として存在することにより、粒界相の高硬度化を図ることができる。
【0019】
Mg、Ti、Hf、Moから選択される元素は、焼結性を向上させる元素である。焼結性を向上させることにより、緻密化された窒化珪素焼結体を得ることが可能となる。また、これらの元素は粒界相を強化する成分となる。また、Mg、Ti、Hf、Moから選択される元素の含有量は、金属単体換算で0.1~5質量%の範囲内であることが好ましい。含有量が0.1質量%未満では、添加の効果が小さい。一方、含有量が5質量%を越えて多いと偏析の原因となる恐れがある。偏析物が多くなると耐摩耗性が低下する。
【0020】
また、添加成分として、Al、Si、Cから選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。Al、Si、Cから選択される元素は、粒界相を強化する成分となる。粒界相の強化は焼結体の高硬度化につながる。焼結助剤として添加する場合は、酸化物(複合酸化物を含む)、窒化物(複合窒化物を含む)、酸窒化物(複合酸窒化物を含む)、炭化物(複合炭化物を含む)などが挙げられる。また、ランタノイド元素、Mg、Ti、Hf、Moから選択される元素との複合化合物であってもよい。
【0021】
また、Al、Si、Cから選択される少なくとも1種の元素の含有量は、金属単体換算したときに、0.1~10質量%の範囲であることが好ましい。含有量が0.1質量%未満では添加の効果が不十分であり、10質量%を超えて多いと粒界相が過多になる。Al、Siはランタノイド元素、Mg、Hfと複合酸化物(酸窒化物含む)を形成する成分である。この複合酸化物は結晶化合物にすることができ、粒界相の更なる高硬度化を図ることができる。
【0022】
また、Cは、Ti、Hf、Mo、Siと炭化物(複合炭化物、酸炭化物、炭窒化物を含む)を形成し易い元素である。これら炭化物は、結晶化合物となる。これにより、粒界相を強化することができ、更なる高硬度化を達成することができる。
【0023】
上記添加成分は、焼結助剤として、合計が15質量%以下になるように添加することが好ましい。焼結助剤として添加するとき、酸化物(複合酸化物を含む)、窒化物(複合窒化物を含む)、炭化物(複合炭化物を含む)が好ましい。
【0024】
ランタノイド元素の場合、ランタノイド酸化物が好ましい。YbはYb、ErはEr、LuはLu、CeはCeOとなる。
【0025】
Mg成分を添加するときは、MgO、MgO・Alスピネルが好ましい。Ti、Hf、Moから選択される元素は、酸化物、窒化物、炭化物の少なくとも1種で添加できる。TiはTiO(酸化チタン)として添加することが好ましい。TiO(酸化チタン)は焼結工程にてTiN(窒化チタン)に変化することにより、粒界相を強化することができる。また、HfはHfO(酸化ハフニウム)として添加することが好ましい。HfO(酸化ハフニウム)はランタノイド元素と反応して結晶化合物を形成することにより、粒界相を強化することができる。また、MoはMoC(炭化モリブデン)として添加することが好ましい。MoCはそのまま粒界相を強化する成分となる。また、MoCは潤滑性が良いため、耐摩耗性の向上に特に有効である。
【0026】
また、Al元素の場合、酸化アルミニウム(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、MgO・Alスピネルが好ましい。MgO・Alスピネルであれば、AlとMgの両方を一度に添加することができる。また、Si元素の場合、酸化けい素(SiO)、炭化けい素(SiC)が好ましい。また、C元素に関しては、炭化けい素(SiC)、炭化チタン(TiC)、炭窒化チタン(TiCN)として添加することが好ましい。
【0027】
焼結助剤成分として、上記組合せから選択することにより、焼結性が向上し、窒化珪素結晶粒子の粗大化を防止し、β-窒化珪素結晶粒子が複雑にからみあった結晶組織を形成することができる。また、ランタノイド元素を使うことにより、焼結体の耐酸化性を向上させることができる。
【0028】
また、粒界相の最大径が1μm以下であることが好ましい。また、単位面積5μm×5μmをTEM分析により、個々の粒界相のランタノイド元素の濃度分布を分析したとき、個々の粒界相のランタノイド元素濃度のばらつきが平均値に対して±20%以内であることが好ましい。
【0029】
粒界相の最大径およびランタノイド元素濃度のばらつきの測定は、TEM(透過型電子顕微鏡)の元素マッピングにて実施するものとする。すなわち、窒化珪素焼結体の任意の断面をTEM観察する。厚さを30μm程度に加工した試料を用意する。試料表面にカーボンを蒸着したものを測定用試料とする。また、TEMは加速電圧を200kVとする。また、EDS(エネルギー分散型X線分光器)と組合わせて、カラーマッピング分析する。また、FE-SEM(電界放出型高分解能分析電子顕微鏡)により、粒界相の組成分析は可能である。FE-SEMの加速電圧も200kVのものを使用するものとする。
【0030】
TEMにより単位面積5μm×5μm内のランタノイド元素をカラーマッピングする。個々のランタノイド元素領域の最も長い対角線を最大径とする。単位面積5μm×5μmに存在するランタノイド元素領域の最大径がいずれも1μm以下であることが好ましい。ランタノイド元素領域の最大径が1μm以下であるということは、粒界相の最大径が1μm以下であることを示すものである。また、粒界相の最大径は1μm以下、さらには0.8μm以下が好ましい。粒界相の最大径を1μm以下とすることにより、摩擦係数の向上につながる。
【0031】
また、ランタノイド元素をカラーマッピングすると、ランタノイド元素濃度に応じた色の濃さでマッピングされる。単位面積5μm×5μmに存在する全てのランタノイド元素領域の濃度の平均値を求める。この平均値に対し、個々のランタノイド元素濃度ばらつきが±20%以内になっている。濃度に合わせたカラーマッピング機能(ランタノイド元素濃度に合わせた色の濃淡)を使うことにより、濃度ばらつきを測定することが出来る。個々の粒界相においてランタノイド元素の濃度ばらつきが小さいということは、粒界相組成が均質であることを示している。
【0032】
また、ランタノイド元素以外の添加元素をカラーマッピングしたとき、ランタノイド元素が存在する場所に他の元素も検出される。例えば、焼結助剤として、ランタノイド化合物とHf化合物を添加したとき、ランタノイド元素とHfが同じ場所にマッピングされる。また、焼結助剤として、ランタノイド元素とAl化合物を添加したとき、ランタノイド元素とAlが同じ場所にマッピングされる。
【0033】
ランタノイド元素は他の添加元素と結晶化合物を形成し易い。前述のようにランタノイド元素の濃度ばらつきが小さいということは粒界相に存在する結晶化合物の組成が近似していることになる。イットリウムに比べて、ランタノイド元素は結晶化合物を形成し易い。
【0034】
また、ランタノイド元素化合物は、Hf化合物やAl化合物と結晶化合物を形成し易い成分である。焼結助剤として、ランタノイド元素化合物とHf化合物を添加したとき、ランタノイド元素-Hf-O結晶化合物が主体となる。また、ランタノイド元素とAl化合物を添加したとき、ランタノイド元素-Al-O結晶化合物が主体となる。また、ランタノイド元素化合物、Hf化合物およびAl化合物を添加したとき、ランタノイド元素-Hf-Al-O結晶化合物が主体となる。
【0035】
ランタノイド元素は、HfまたはAlが反応して形成される結晶化合物の融点が近似しているため、組成ずれの小さな結晶化合物が形成されるためである。このため、価数の近い結晶化合物が形成される。この結果、組成ずれの小さな粒界相を形成することができる。ランタノイド元素の中でも、Yb、Er、Lu、Ceが特にこのような現象が見られる。言い換えれば、ランタノイド元素として、Yb、Er、Lu、Ceから選ばれる少なくとも1種を使うことが好ましいものである。
【0036】
それに対し、イットリウムは、価数の異なる結晶化合物が形成され易い。また、イットリウムとHf、Alを添加すると、Y-Hf-Al-O結晶とY-Al-O結晶が共存した粒界相となるが、両結晶の反応温度が異なるため、焼結体内の成分分布のばらつきに応じた粒界相となってしまう。このため、組成ばらつきが大きな粒界相となってしまう。なお、FE-SEM(電界放出型高分解能分析電子顕微鏡)により、粒界相の組成分析は可能である。
【0037】
粒界相の組成ばらつきを低減することにより、強度や耐酸化性の部分的なばらつきを低減することができる。これにより、長寿命化を実現することができる。
【0038】
また、α-サイアロン結晶粒子が存在することが好ましい。β-窒化珪素結晶粒子とα-サイアロン結晶粒子との両方を存在させることにより、β-窒化珪素結晶粒子同士の隙間にα-サイアロン結晶粒子が入り込んだ構造となる。このような構造とすることにより、粒界相の最大径を1μm以下にすることができる。
【0039】
また、粒界相のアスペクト比を1.5以下にすることができる。粒界相のアスペクト比は前述のカラーマッピングを用いて測定する。カラーマッピングに写る粒界相の最も長い対角線を長径とする。長径の中心から直角に伸ばした対角線を短径とする。長径/短径=アスペクト比とする。個々の粒界相のアスペクト比が1.5以下であることが好ましい。
粒界相の最大径を1μm以下にした上でアスペクト比を1.5以下にすることができる。これにより、高速回転に強い粒界相とすることができる。
【0040】
β-窒化珪素結晶粒子およびα-サイアロン結晶粒子の存在はXRDで分析可能である。XRDの測定条件は、Cuターゲット(Cu-Kα)を使用し、管電圧を40kV、管電流を40mA、スキャンスピードを2.0°/min、スリット(RS)を0.15mm、走査範囲(2θ)は10°~60°にて行うものとする。なお、走査範囲(2θ)は10°~60°を含んでいれば、範囲を広げて行っても良いものとする。
【0041】
窒化珪素焼結体の任意の断面をXRD観察する。測定する断面はRa1μm以下の研磨面とする。β-窒化珪素結晶粒子が存在すると、33.6±0.3°および36.1±0.3°にピークが検出される。また、α-サイアロン結晶粒子が存在すると、29.6±0.3°および31.0±0.3°にピークが検出される。
【0042】
また、β-窒化珪素結晶粒子とα-サイアロン結晶粒子を共存させることにより、摩擦係数を向上させることができる。
【0043】
また、製造工程において添加する焼結助剤の組合せとしては、次に示す組合せが好ましい。
【0044】
また、第一の組合せとしては、ランタノイド酸化物を0.2~5質量%、MgO・Alスピネルを0.5~5質量%、AlNを2~6質量%、HfOを0.5~3質量%、MoCを0.1~3質量%、添加するものである。第一の組合せは、添加成分として、ランタノイド元素、Mg、Al、Hf、Mo、Cの6種類を添加するものである。
【0045】
また、第二の組合せとしては、ランタノイド酸化物を2~7質量%、AlNを3~7質量%、HfOを0.5~4質量%、添加するものである。これにより、添加成分をランタノイド、Al、Hfの3種とするものである。
【0046】
また、第三の組合せとしては、ランタノイド酸化物を1~10質量%、Alを1~5質量%、AlNを1~5質量%、TiOを0.1~3質量%、添加するものである。これにより、添加成分をランタノイド、Al、Tiの3種としたものである。
【0047】
また、上記第一ないし第三の組合せにおいて、焼結助剤成分の含有量の上限は合計で15質量%以下とする。
【0048】
上記第一ないし第三の組合せは、いずれもランタノイド元素に好ましい添加成分を組合せた例である。
【0049】
第一の組合せおよび第二の組合せは、Alを添加する組合せを使用していないことである。Alとして添加すると、Al12、Al、AlROのいずれかが形成され易い(Rはランタノイド元素)。また、Al12はYAG相当、AlはYAM相当、AlROはYAL相当、である。これらの結晶は高温での耐久性が悪い。Alとして添加しないことにより、Al12、Al、AlROが形成され難くすることができる。
【0050】
これらの点から評価すると、第三の組合せよりも第一の組合せおよび第二の組合せが好ましい。また、第一の組合せよりも第二の組合せが好ましい。
【0051】
また、Al化合物をAlN(窒化アルミニウム)として添加することにより、価数の異なる粒界相が形成されることを防止することができる。これにより、ランタノイド元素-Hf-O結晶化合物、ランタノイド元素-Al-O結晶化合物、ランタノイド元素-Hf-Al-O結晶化合物、のいずれか1種が主体となる粒界相を形成することが出来る。
【0052】
また、Al化合物をAlNとして添加することにより、β-窒化珪素結晶粒子とα-サイアロン結晶粒子とが共存した組織を形成し易くなる。
【0053】
摩擦攪拌接合用接合ツール部材は、摩擦面の温度が800℃以上の高温状態になる。耐熱性が低下すると接合ツール部材の耐久性が低下する。ランタノイド元素による耐酸化性強化と、焼結助剤の組合せによる熱に強い粒界相形成との相乗効果を得ることができる。
【0054】
以上のような窒化珪素焼結体は大気中において、温度1200℃で100時間保持した後の酸化増量は表面積1cmあたり10×10-5wt%/cm以下とすることができる。また、前述のAl12、Al、AlROのいずれも形成されないようにすることにより、酸化増量を表面積1cmあたり1×10-5wt%/cm以下とすることができる。これにより、長期寿命の優れたツール部材を提供することができる。
【0055】
また、上記添加成分は焼結助剤としての役割も優れている。そのため、アスペクト比が2以上であるβ型窒化珪素結晶粒子の割合を60%以上と高くすることができる。なお、アスペクト比が2以上である割合は、以下の手順で求める。すなわち、窒化珪素焼結体の任意の断面をSEM観察して拡大写真(3000倍以上)を撮影する。拡大写真に写る窒化珪素結晶粒子の長径と短径とを測定し、アスペクト比を求める。単位面積50μm×50μm当りにおける、アスペクト比が2以上の窒化珪素結晶粒子の面積比(%)を求めるものとする。
【0056】
また、摩擦攪拌接合装置は、被接合材の接合時間を短縮し、かつ生産効率を上げるために、接合ツール部材(プローブ)を回転速度300rpm以上に回転させ、押込荷重9.8kN以上で使用することが望ましい。また、摩擦熱により摩擦面の温度が800℃以上の高温環境になる。このためプローブには、耐熱性と耐磨耗性とが要求される。このような窒化珪素焼結体製接合ツール部材には、高いビッカース硬度および破壊靭性値が要求される。
【0057】
そのため、窒化珪素焼結体のビッカース硬度が1400以上であることが好ましい。また、窒化珪素焼結体の破壊靭性値が6.0MPa・m1/2以上であることが好ましい。さらに、ビッカース硬度は1450以上であり、破壊靭性値は6.5MPa・m1/2以上であることが好ましい。また、3点曲げ強度は900MPa以上であり、1000MPa以上であることが好ましい。
【0058】
上記のような窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用接合ツール部材は耐熱性および耐熱性が優れている。このため、接合ツール部材の回転速度を300rpm以上、さらには800rpm以上とすることができる。また、押込荷重は9.8kN以上、さらには20kN以上と高くすることができる。このため、摩擦面の温度が800℃以上と過酷な使用環境下でも優れた耐久性を示す。なお、実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材は、回転速度が300rpm未満であり、押込荷重が9.8KN未満の条件で使用しても良いものである。
【0059】
また、接合ツール部材の形状は特に限定されるものではないが、代表的な形状を図1図2図3に示す。図中、符号1は窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用接合ツール部材であり、2は摩擦面であり、3はショルダー部である。
【0060】
図1は円柱型接合ツール部材1を示す。円柱の平坦面が摩擦面2である。図2は突起型接合ツール部材1aを示す。突起型接合ツール部材1aは、円柱状の土台部5上に円柱状の突起部4が一体化した形状である。また、突起部4の平坦面が摩擦面2となる。実施形態に係る接合ツール部材としては土台部5と突起部4が窒化珪素焼結体となる。土台部5の表面がショルダー部3となる。図3は球型接合ツール部材1bである。球型接合ツール部材1bでは、球の外周面が摩擦面2となる。
【0061】
また、摩擦面2は表面粗さRaが5μm以下であることが好ましい。摩擦面2は、摩擦攪拌接合において、接合部材に押圧しながら高速回転される。このため、接合部材(母材)の押圧面との密着性が必要である。密着性が低いと、摩擦熱が相手部材(母材と接合される部材)に伝導され難くなる。また、表面粗さRaは3μm以下、さらには2.5μm以下が好ましい。また、Raが5μmを超えて大きいと密着性が低下するだけでなく、凹凸が過大になり、耐摩耗性が低下するおそれがある。また、表面粗さRaの下限値は特に限定されるものではないが0.01μm以上が好ましい。Raが0.01μm未満と小さいと摩擦面2と接合部材との密着性は向上するものの、摩擦面2の攪拌力が低下する。摩擦面の攪拌力とは、接合部材を塑性変形(塑性流動)させる力のことである。攪拌力が不十分であると、接合部材同士の接合力が低下する。また、接合部材の塑性変形に時間が掛かり、接合時間が長くなる恐れがある。このため、表面粗さRaは0.01~5μm、さらには0.05~2.5μmが好ましい。
【0062】
また、摩擦面2の最大断面高さRtが20μm以下であることが好ましい。Rtが20μmを超えて大きいと凹凸が過大になり、摩擦面2の耐久性が低下する。接合ツール部材は、高速回転しながら押圧される部材である。表面粗さRaは算術平均粗さである。平均値として平坦な面であったとしても、微小領域で大きな凹凸が存在するとそこが破壊起点となってしまう。そのため、最大断面高さRtは20μm以下、さらには15μm以下が好ましい。また、Rtの下限値は特に限定されるものではないが、0.04μm以上が好ましい。Rtが0.04未満であると、表面凹凸が過小となり、摩擦面の攪拌力が低下する。このため、Rtは0.04~20μm、さらには0.04~15μmが好ましい。
【0063】
また、表面粗さRa、最大断面高さRtの測定はJIS-B-0601に準じて実施するものとする。また、カットオフ長さは0.8mmで実施するものとする。
【0064】
また、図2に示したような突起型接合ツール部材1aの場合、ショルダー部3の表面粗さRaは10μm以下、最大断面高さRtは60μm以下であることが好ましい。ショルダー部3は土台部5において摩擦面2が設けられている側の面である。突起型接合ツール部材1aの場合、摩擦攪拌接合を行うと摩擦面2が設けられた突起部4が接合部材にめり込んでいく。突起部4が深くめり込んでいくと、ショルダー部3が接合部材に接触することになる。ショルダー部3が接合部材に接触することにより、攪拌力を高め、塑性流動を起こし易くする。このため、ショルダー部3表面のRa、Rtを所定の範囲とすることにより、耐磨耗性と攪拌力との向上を図ることができる。また、ショルダー部3表面のRa、Rtは内側から外側(または外側から内側)に向けて測定針(表面粗さ計の測定針)を動かして測定することが好ましい。
【0065】
または、表面研磨加工により表面粗さを制御する場合、研磨加工方向と垂直な方向に測定針を動かして測定することが好ましい。窒化珪素焼結体は高硬度材料であるため、研磨加工はダイヤモンド砥石などを使用した研磨となる。例えば、ダイヤモンド砥石を高速回転させながらの研磨工程としては、ラップ加工、ポリッシュ加工が挙げられる。砥石の回転方向に沿って研磨されると研磨加工面は、砥石の回転方向に沿って研磨跡ができる。このため、研磨方向と垂直方向の表面粗さが大きくなる。研磨加工方向と垂直な方向に測定針を動かして測定した上で、ショルダー部のRa、Rtを制御することにより、耐磨耗性と攪拌力との向上をさらに図ることができる。
【0066】
また、突起型接合ツール部材1aの回転方向と、ショルダー部3の研磨向上を合わせておくことも有効である。
【0067】
また、接合ツール部材のサイズは任意であるが、摩擦面2の直径が1mm以上のものが好ましい。なお、球型プローブ1bの場合は直径1mm以上となる。実施形態に係るプローブは窒化珪素焼結体から成るため、摩擦面2は1mm以上50mm以下が好ましい。さらに2mm以上25mm以下が好ましい。この範囲であれば摩擦面の表面粗さRaを5μm以下に研磨加工し易い。
【0068】
以上のような実施形態に係る窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用接合ツール部材を用いた摩擦攪拌接合装置は、プローブの耐久性が優れているため装置として高信頼性および長寿命化が達成できる。特に、回転速度が300rpm以上、押込荷重が9.8kN以上と高くなっても優れた信頼性を示す。このため、摩擦面の温度300℃以上の使用環境となっても優れた耐久性を示す。また、接合時間が短くても十分な接合強度が得られる。
【0069】
また、摩擦攪拌接合(FSW)としては、点接合、線接合のいずれにも適用できる。また、摩擦攪拌を利用した摩擦攪拌プロセス(FSP)に適用しても良い。言い換えると、実施形態では摩擦攪拌接合(FSW)の中に摩擦攪拌接合プロセス(FSP)が含まれるものとする。
【0070】
次に、窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用接合ツール部材の製造方法について説明する。
【0071】
実施形態に係る窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用接合ツール部材は上記構成を有していれば、その製造方法は特に限定されるものではないが、効率的に得るための方法として次の方法が挙げられる。
【0072】
まず、窒化珪素粉末を用意する。窒化珪素粉末は、平均粒径が2μm以下であるα型窒化珪素粉末が好ましい。このような窒化珪素粉末を使用することにより、焼結工程でα型がβ型になることにより、 β型窒化珪素結晶粒子が複雑にからみあった構造を実現することができる。また、窒化珪素粉末中の不純物酸素量は2質量%以下が好ましい。
【0073】
次に、添加成分である焼結助剤粉末を用意する。焼結助剤粉末は、ランタノイド元素と、Mg,Ti,Hf,Moから選択される少なくとも1種の成分とする。また、必要に応じ、Al、Si、Cから選択される少なくとも1種の成分を添加する。
【0074】
添加する形態としては酸化物粉末(複合酸化物を含む)、窒化物粉末(複合窒化物を含む)、炭化物粉末(複合炭化物を含む)、炭窒化物(複合炭窒化物を含む)から選択される少なくとも1種となる。また、その合計量は15質量%以下となるように調整する。また、焼結助剤粉末の平均粒径は3μm以下が好ましい。
【0075】
焼結助剤粉末の好ましい組合せは、前述の第一ないし第三の組合せとなる。
【0076】
次に、窒化珪素粉末および焼結助剤粉末を混合した後、ボールミルで混合し、原料粉末を調製する。次に、原料粉末に有機バインダを添加し、成型する工程を実施する。成型工程は、目的とするプローブ形状を有する金型を用いることが好ましい。また、成型工程に関しては、金型成型やCIP(冷間静水圧加圧法)などを用いても良い。
【0077】
次に、成型工程で得られた成形体を脱脂する。脱脂工程は、窒素中で温度400~800℃に加熱して実施することが好ましい。
【0078】
次に、脱脂工程で得られた脱脂体を焼結する。焼結工程は、温度1600℃以上で行うものとする。焼結工程は、不活性雰囲気中または真空中が好ましい。不活性雰囲気としては、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気が挙げられる。また、焼結工程は、常圧焼結、加圧焼結、HIP(熱間静水圧加圧法)が挙げられる。また、複数種類の焼結方法を組合せてもよい。
【0079】
また、焼結温度の上限は特に限定されるものではないが、1800℃以下が好ましい。1800℃を超えた温度でも焼結は可能である。一方、焼結温度を1600~1800℃の範囲内にすることにより、焼結助剤同士の反応を均質にすることができる。これにより、組成ずれの小さい粒界相を形成することができる。また、焼結温度が低い方が焼結助剤同士の反応を均質化できる。このため、焼結温度は1600~1800℃、さらには1600~1700℃の範囲内が好ましい。特に、一次焼結を1600~1800℃、さらには1600~1700℃の範囲内で行うことが好ましい。一次焼結とは脱脂体を焼結する工程である。一次焼結工程で作製した焼結体をもう一度焼結する工程を二次焼結と呼ぶ。摩擦攪拌接合用ツール部材の製造では二次焼結はHIPで行うことが好ましい。HIP焼結により、粒界相の最大径が小さく、緻密な焼結体を得ることができる。
【0080】
得られた焼結体に対し、必要に応じ、摩擦面に相当する部位を研磨加工するものとする。研磨加工により、摩擦面の表面粗さRaを5μm以下にするものとする。研磨加工はダイヤモンド砥石を用いた研磨加工であることが好ましい。また、突起型接合ツール部材の場合は、必要に応じ、ショルダー部の表面研磨加工を行うものとする。また、摩擦面やショルダー部以外の部分に関しても、必要に応じ、研磨加工を施すものとする。
【0081】
また、研磨加工による表面粗さRa、最大断面高さRtの制御は、研磨加工条件を変えることにより実施することができる。例えば、ダイヤモンド砥石の番手を変えながら複数回、研磨工程を実施する方法が挙げられる。
【0082】
(実施例)
(実施例1~6および比較例1~2)
窒化珪素粉末として平均粒径が1μmであるα型粉末を用意した。次に、焼結助剤粉末として表1に示すものを用意した。
【0083】
【表1】
【0084】
上記窒化珪素粉末と焼結助剤粉末とを混合して各原料粉末を調製した。次に、各原料粉末をボールミルで混合した後、有機バインダを2質量%混合した。その後、CIP成形して、ロッド状の成形体を作製した。その後、図2に示したような突起型にグリーン加工した。
【0085】
次に突起型の成形体に対して、温度1600~1800℃×5時間で、窒素雰囲気中で常圧焼結した。その後、温度1700℃×2時間で、HIP焼結を行った。突起型プローブの形状は、図2に示す通りであり、土台部5は直径20mm×厚さ20mmであり、突起部4が直径10mm×厚さ5mmとした。
【0086】
得られた焼結体に対し、α-サイアロン結晶粒子の有無、粒界相の最大径、ランタノイド元素の組成ずれ20%以下、を調査した。
【0087】
α-サイアロン結晶粒子の有無はXRDで分析した。XRDの測定条件は、Cuターゲット(Cu-Kα)を使用し、管電圧を40kV、管電流を40mA、スキャンスピードを2.0°/min、スリット(RS)を0.15mm、走査範囲(2θ)は10°~60°にて行った。また、窒化珪素焼結体の任意の断面を表面粗さRa1μm以下に研磨した研磨面をXRD観察した。α-サイアロン結晶粒子が存在すると、29.6±0.3°および31.0±0.3°にピークが検出される。これらのピークが検出されたものをα-サイアロン結晶粒子「有り」、検出されなかったものを「無し」と表示した。
【0088】
また、粒界相の最大径およびランタノイド元素の組成ずれ20%以下に関してはTEM分析およびEDS分析により行った。TEM分析は窒化珪素焼結体の任意の断面から切り出した試料(厚さ30μm)の表面にカーボン被膜を設けたものを測定用試料とした。任意の断面において単位面積5μm×5μmのランタノイド元素のカラーマッピングを行った。倍率2000倍以上の拡大写真を用いた。単位面積5μm×5μmに写る個々のランタノイド元素領域の最も長い対角線を最大径とし、単位面積中に写る最も長い値を粒界相の最大径として示した。また、ランタノイド元素のカラーマッピング機能を使って単位面積5μm×5μm中にランタノイド元素濃度のずれが20%を超えた粒界相の有無を調べた。ランタノイド元素の組成ずれが20%以下のものを「○」、組成ずれが20%を超えたものを「×」とした。また、比較例1~2はランタノイド元素の代わりにイットリウム元素について分析した。
【0089】
また、前述のカラーマッピング画像を用いて、個々の粒界相のアスペクト比を求めた。アスペクト比は個々の粒界相の最も長い対角線を長径、その中心を垂直に延ばした対角線を短径とした。長径/短径=アスペクト比とした。
【0090】
その結果を下記表2に示す。
【表2】
【0091】
表2に示す結果から明らかなように、各実施例に係る窒化珪素焼結体には、α-サイアロン結晶粒子が存在した。また、33.6±0.3°および36.1±0.3°にピークが検出されたため、β-窒化珪素結晶粒子が共存していることも判明した。また、粒界相の最大径は1μm以下であった。また、組成ずれも20%以内であった。
【0092】
また、ランタノイド元素以外のマッピングを行ったところ、Hf(ハフニウム)、Al(アルミニウム)、O(酸素)がランタノイド元素と同じ場所に検出されており、個々の粒界相はランタノイド元素-Hf-Al-O結晶化合物が主体であることが確認された。
【0093】
また、各実施例に係る窒化珪素焼結体は、いずれも粒界相のアスペクト比が1.5以下であった。それに対し、比較例のものはアスペクト比が2.4以上の箇所が観察された。
【0094】
次に、得られた焼結体の摩擦面2に相当する部位に対し、ダイヤモンド砥石を使用して研磨加工を実施した。研磨加工後の表面粗さRaは2μmとした。また、摩擦面2の最大断面高さRtは8μmであった。
【0095】
また、各実施例および比較例についてはショルダー部3についても研磨加工を実施した。その結果、ショルダー部3の表面粗さRaは5μmであり、最大断面高さRtは13μmであった。
【0096】
なお、それぞれRa、Rtの測定はJIS-B-0601に準じて、カットオフ長さ0.8mmで実施した。また、ショルダー部3の表面粗さは内側から外側に向けて測定針を動かしながらRa、Rtを測定した。
このような方法により、各実施例および比較例に係る窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用ツール部材を作製した。
【0097】
次に、各実施例および比較例に係る窒化珪素焼結体製摩擦攪拌接合用ツール部材について、ビッカース硬度、破壊靭性値、3点曲げ強度、酸化増量、摩擦係数を測定した。ビッカース硬度はJIS-R1610に準拠して測定し、破壊靭性値はJIS-R-1607に準拠して測定した。また、破壊靭性値はIF法に基づいて新原の式で求めた。また、酸化増量は、窒化珪素焼結体を大気中1200℃で100時間保持した後の酸化増量を表面積1cm当りに換算した重量とした。
【0098】
また、摩擦係数の測定は、先端が球形のピンを平板上にて往復摺動させることで測定した。試験条件は、往復摺動速度を20mm/sec、室温、大気中、無潤滑とした。なお、ピンの球面の表面粗さRaは0.1μm、平板の表面粗さRaは0.3μmとした。なお、平板の表面は、摺動方向と直角に研削加工し、表面粗さは、摺動方向を測定した。また、ピンと平板は同材質で形成したものである。例えば、実施例1は実施例1の窒化珪素焼結体を用いて、ピンと平板を形成したものである。
【0099】
その測定結果を下記表3に示す。
【表3】
【0100】
各実施例に係る窒化珪素焼結体は、ビッカース硬度、破壊靭性、耐酸化性、摩擦係数のいずれについても優れた特性を示した。酸化増量は、いずれも10×10-5wt%/cm以下であった。
【0101】
また、摩擦係数は0.6以上であった。摩擦係数はμ=F/P、Fは摩擦力、μは摩擦係数、Pは荷重、であらわされる。摩擦係数が小さい方が滑らかな表面であることを示す。摩擦係数が0.6以上であるということは比較例よりも摩擦力が高いことを示す。摩擦力が高いことは摩擦攪拌力の向上につながる。
【0102】
次に各実施例および比較例に係る接合ツール部材に関して耐久性試験を実施した。耐久性試験としては、冷間圧延鋼板(厚さ1.0mm)と冷間圧延鋼板(厚さ1.0mm)とを摩擦攪拌接合することにより実施した。摩擦攪拌接合装置に、各実施例および比較例に係る接合ツール部材をセットして、2000サイクルの耐久性試験を行った。接合工程は、表3に示した回転速度(rpm)にて4秒間、接合ツール部材を押圧して接合する作業を1サイクルとした。
【0103】
接合ツール材としての耐久試験の合否は、上記2000サイクル目に摩擦攪拌接合された冷間圧延鋼板の引張せん断試験を実施し、JIS-Z-3140で規定するA級の引張強度(kN)が得られたものを合格とした。
【0104】
また、押圧条件を表4に示すように変えて耐久性試験を行った。その試験結果を下記表5に示す。
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
上記表5に示す結果から明らかなように、各実施例に係る接合ツール部材は、いずれも優れた耐久性を示した。また、比較例2との比較でも明らかなように、ビッカース硬度、破壊靭性値が高くても焼結助剤成分量が15質量%を超えて過多であると、摩擦攪拌接合用接合ツール部材としては耐久性が低下することが判明した。これは、耐酸化性および摩擦係数の向上が利いたためである。
【0108】
(実施例7~11)
実施例3の接合ツール部材に対し、表6に示す表面粗さとなるように表面研磨加工を実施した。表面粗さの測定方法は実施例3と同様である。
【0109】
【表6】
【0110】
各実施例7~11に係る接合用ツール部材に対して、実施例3と同一条件で耐久性試験を実施し摩擦撹拌接合部の引張強度を測定した。その測定結果を下記表7に示す。
【0111】
【表7】
【0112】
上記表7に示す結果から明らかなように、摩擦面の表面粗さRaが5μm以下、Rtが20μm以下、ショルダー部の表面粗さRa10μm以下、Rt60μm以下である各実施例6~10は優れた耐久性を示すことが判明した。
【0113】
また、表面粗さが大きな実施例11は、試験条件が厳しくなると不合格であった。これはツール部材表面の耐久性が低下したために攪拌力が低下したためである。このように、窒化珪素焼結体における焼結助剤量の制御のみならず、表面粗さの制御を組合せることにより、接合用ツール部材の性能が向上することが判明した。
【0114】
次に、摩擦攪拌接合用ツール部材の長期寿命について測定した。実施例1~11および比較例1~2に係るツール部材に関して、試験条件1(回転速度1000rpm、接合時間4秒)にて5000サイクル後の接合強度を測定した。
【0115】
その測定結果を下記表8に示す。
【表8】
【0116】
上記表8に示す結果から明らかなように、各実施例に係るツール部材は、長期寿命に優れていた。これは窒化珪素焼結体の耐酸化性および摩擦係数を向上させているためである。
【0117】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0118】
1…(円柱型)摩擦攪拌接合用接合ツール部材
1a…(突起型)摩擦攪拌接合用接合ツール部材
1b…(球型)摩擦攪拌接合用接合ツール部材
2…摩擦面
3…ショルダー部
4…突起部
5…土台部
図1
図2
図3