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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022182198
(43)【公開日】2022-12-08
(54)【発明の名称】リザバー及び情報処理システム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/822 20060101AFI20221201BHJP
   G06N 7/08 20060101ALI20221201BHJP
   G06G 7/60 20060101ALI20221201BHJP
【FI】
H01L27/04 C
H01L27/04 U
G06N7/08
G06G7/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021089632
(22)【出願日】2021-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木下 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】高 相圭
(72)【発明者】
【氏名】秋永 広幸
(72)【発明者】
【氏名】島 久
(72)【発明者】
【氏名】内藤 泰久
【テーマコード(参考)】
5F038
【Fターム(参考)】
5F038AC15
5F038AC20
5F038DF04
5F038DF05
(57)【要約】
【課題】電気二重層を利用してリザバーコンピューティングを実現する。
【解決手段】リザバーR1は、複数の電極E1,E2,E3,E4,E5と、複数の電極E1,E2,E3,E4,E5に接する部材であって、かつイオンを含む部材であるイオン部材と、を備えている。リザバーR1の複数の電極E1,E2,E3,E4,E5の各々とイオン部材との間の界面には電気二重層が形成される。複数の電極E1,E2,E3,E4,E5のうちの少なくとも1つの電極に入力電気信号が入力された場合、複数の電極E1,E2,E3,E4,E5のうちの少なくとも1つの電極から、電気二重層の影響を受けた出力電気信号が出力される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リザバーコンピューティングに使用されるリザバーであって、
複数の電極と、
前記複数の電極に接する部材であって、かつイオンを含む部材であるイオン部材と、を備え、
前記複数の電極の各々と前記イオン部材との間には電気二重層が形成され、
前記複数の電極のうちの少なくとも1つの電極に入力電気信号が入力された場合、前記複数の電極のうちの少なくとも1つの電極から前記電気二重層の影響を受けた出力電気信号が出力される、
リザバー。
【請求項2】
前記電極に入力される入力電気信号の絶対値は、前記電極の標準電極電位よりも小さい値であり、かつ前記イオン部材が酸化還元反応を起こす電位窓の電位の下限の絶対値及び上限の絶対値のうち、小さい方の絶対値よりも小さい値であり、
前記入力電気信号が前記電極へ入力されることにより、前記電気二重層が形成される、
請求項1に記載のリザバー。
【請求項3】
前記イオン部材は、イオン液体である、
請求項1又は請求項2に記載のリザバー。
【請求項4】
前記イオン部材は、イオン液体を染み込ませた多孔質材料である、
請求項1又は請求項2に記載のリザバー。
【請求項5】
前記電気二重層は、前記複数の電極の各々と前記イオン部材との間に予め形成されている、
請求項1に記載のリザバー。
【請求項6】
請求項1~請求項4の何れか1項に記載のリザバーと情報処理装置とを含む情報処理システムであって、
前記情報処理装置は、学習用の入力電気信号に対する学習用の出力電気信号と学習用の入力電気信号に対する正解値との組み合わせである学習用データに基づき予め学習された学習済みモデルへ、前記電気二重層の影響を受けた出力電気信号を入力することにより、前記電極へ入力された入力電気信号に対する分離結果を取得する、
情報処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術は、リザバー及び情報処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リザバーコンピューティング(Reservoir Computing)が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。リザバーコンピューティングでは、物理系のダイナミクスを利用することにより情報処理を実行する。リザバーコンピューティングにおいて、スピン系、量子系といった様々な物理系を利用する技術が知られている(例えば、特許文献1~9を参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数の第1電極及び第2電極と、複数の電極に当接する本体部材とを含むリザバーが開示されている。このリザバーは、複数の電極のうちの一部の電極を入力電極とし、入力電極以外の複数の電極のうち、少なくとも一部の複数の電極を出力電極とする。このリザバーの本体部材は、入力電極に電気信号が入力されることにより電気化学反応を生じ、本体部材に生じた電気化学反応の影響を受けた電気信号が出力電極から出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-60830号公報
【特許文献2】特開2021-036395号公報
【特許文献3】特開2020-204888号公報
【特許文献4】特開2019-134100号公報
【特許文献5】国際公開2017/131081号公報
【特許文献6】特許6819847号公報
【特許文献7】特開2020-042845号公報
【特許文献8】特許6625281号公報
【特許文献9】特開2021-047530号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gouhei Tanaka, et al.、“Recent advances in physical reservoir computing: A review”、[online]、[令和3年5月11日検索]、インターネット<URL:https://reader.elsevier.com/reader/sd/pii/S0893608019300784?token=54F2A3175581042F877A6D41310B7CCCEF4EC75F6F04C7C2A02555EF2EAE78B2FAF2B58E50F7D27F8F8F6747CA9F1041>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示されているように、リザバーコンピューティング用のリザバーには、非線形変換性(以下、非線形性ともいう)と短期記憶特性(以下、記憶性ともいう)とが要求される。非線形性と記憶性があればリザバーコンピューティングが可能な物理的なシステムを構築可能であることから、上記特許文献1~9に開示されているように、様々な物質及び物理現象をリザバーとして用いられている。なお、上記特許文献1~9で開示されている物理系とは異なる物理系をリザバーへ適用することも可能である。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電気二重層を利用してリザバーコンピューティングを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第一態様は、リザバーコンピューティングに使用されるリザバーであって、複数の電極と、前記複数の電極に接する部材であって、かつイオンを含む部材であるイオン部材と、を備え、前記複数の電極の各々と前記イオン部材との間には電気二重層が形成され、前記複数の電極のうちの少なくとも1つの電極に入力電気信号が入力された場合、前記複数の電極のうちの少なくとも1つの電極から前記電気二重層の影響を受けた出力電気信号が出力される、リザバーである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電気二重層を利用してリザバーコンピューティングを実現することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】リザバーの概要を説明するための図である。
図2】電気二重層を説明するための図である。
図3】電気二重層を説明するための図である。
図4】実施形態に係る情報処理システムの概略構成を示す図である。
図5】第1実施形態のリザバーの構成例を示す図である。
図6】実施形態に係る情報処理装置を構成するコンピュータ20のハードウェア構成を示すブロック図である。
図7】第2実施形態のリザバーの構成例を示す図である。
図8】実施例を説明するための図である。
図9】実施例を説明するための図である。
図10】実施例を説明するための図である。
図11】実施例を説明するための図である。
図12】実施例を説明するための図である。
図13】実施例を説明するための図である。
図14】実施例を説明するための図である。
図15】実施例を説明するための図である。
図16】実施例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一又は等価な構成要素及び部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0012】
<第1実施形態>
【0013】
図1に、リザバーコンピューティングにおけるリザバーを説明するための図を示す。図1に示されるように、リザバーコンピューティングでは、再帰型ニューラルネットワークのうちの隠れ層Hをリザバーとして用いる。このリザバーは、様々な物理系によって実現される。例えば、上記特許文献1~9に開示されているように、リザバーをスピン系や量子系で実現することも可能である。なお、ある物理系をリザバーとして採用しようとする場合には、上述したように、その物理系が非線形性と記憶性とを有している必要がある。
また、リザバーコンピューティングでは、図1に示される再帰型ニューラルネットワークのうち、リザバーである隠れ層Hと出力層OUTとの間の重みパラメータは機械学習処理によって生成される。これにより、ある入力信号を図1に示されるモデルへ入力した場合には、その入力信号が入力層INへ入力され、その入力信号が隠れ層Hであるリザバーによって非線形変換され、リザバーから出力された信号が隠れ層Hと出力層OUTとの間の重みパラメータによって線形変換され、出力信号として出力層OUTから出力される。これにより、例えば、識別が困難な2つの入力信号の差異がリザバーによって拡大され、結果として出力層OUTから出力される2つの出力信号の間には大きな差異が生じ、その2つの入力信号の識別が容易となる。
【0014】
本実施形態では、電気二重層を物理系のリザバーとして用いる。図2に、電気二重層を説明するための図を示す。図2に示されるように、2つの電極とイオン液体とによって対象物Tを構成した場合を考える。イオン液体は、陽イオン及び陰イオンを含む液体である。この場合、図2に示されるように、対象物Tに対して電圧が印加される前の状態においては、イオン液体に含まれる陽イオン及び陰イオンは散在している状態である。一方、対象物Tに対して正の電圧が印加された場合、陰イオンは電圧Vが印加されている側の電極へ引き寄せられ、陽イオンは接地電極であるGND側の電極へ引き寄せられる。これにより、電極とイオンとの間の界面に電気二重層が形成される。この電気二重層は、厚さが非常に薄いコンデンサとみなすこともできる。この場合の電極とイオンとの間の距離は約1nmであるため、この電気二重層コンデンサは大容量となる。さらに、一対の電極は、近隣の電極対が構成する電気二重層コンデンサと容量的に結合している。
【0015】
図3に、対象物Tに電圧を印加した後、電圧の印加を停止した場合の電流値の経過を説明するための図を示す。図3に示されるように、電圧印加が開始された後の充電過程では電流値は増加する。そして、図3に示されるように、電圧印加が停止された後の放電過程では電流値は減少する。これらの充電過程及び放電過程は、図3に示されるように、非線形性を有していることがわかる。さらに、充電過程及び放電過程では、対象物Tの電極の電位が、現在印加されている電圧だけでなく、過去に印加された電圧に依存して変化しているため、記憶性を有していることがわかる。なお、出力信号には、入力信号の時間的相関及び電気二重層コンデンサ間の空間的相関が含まれる。出力信号には入力信号の時間的な履歴が反映されている。
【0016】
このため、対象物Tに発生する電気二重層はリザバーの要件を満たしている。そこで、本実施形態では電気二重層をリザバーとして用いることにより、リザバーコンピューティングを実現する。
【0017】
以下、具体的に説明する。
(情報処理システム10の構成)
【0018】
図4は、実施形態に係る情報処理システム10の概略構成を示す図である。情報処理システム10は、リザバーR1と情報処理装置12とを備えている。
【0019】
(リザバーR1)
図5(a)に示されるように、第1実施形態のリザバーR1は、複数の電極E1,E2,E3,E4,E5と、イオン部材の一例であるイオン液体ILと、基体の一例であるS基板Baとを備えている。イオン部材は、複数の電極E1,E2,E3,E4,E5に接する部材であって、かつイオンを含む部材である。なお、図中のコンデンサの回路記号は電極間の静電容量を表したものであり、実際にコンデンサを接続するという意味ではない。第1実施形態では、イオン部材がイオン液体ILである場合を例に説明する。図5(a)に示される複数の電極E1,E2,E3,E4,E5のうち、少なくとも1つの電極は接地電極である。なお、イオン液体としては、例えば、特許第6195155号公報に開示されているような各種のイオン液体を用いることができる。
【0020】
なお、図5(a)におけるAB断面を図5(b)に示す。図5(b)に示されるように、電極の下部にはビアViaと配線Wとが形成されている。
【0021】
(情報処理装置12)
情報処理装置12は、機能的には、図4に示されるように、データ記憶部14と、制御部16とを備えている。
【0022】
データ記憶部14には、上記図1に示される再帰型ニューラルネットワークのうちの、隠れ層Hであるリザバーと出力層OUTとの間の学習済み重みパラメータが格納されている。この学習済み重みパラメータは、学習用の入力電気信号に対する学習用の出力電気信号と、学習用の入力電気信号に対する正解値との組み合わせである学習用データに基づき予め生成される。なお、この学習済み重みパラメータを含む学習済みモデルによって、データの分類等がなされる。
【0023】
制御部16は、入力電気信号をリザバーR1の電極へ入力する。また、制御部16は、リザバーR1から出力される出力電気信号を取得する。そして、制御部16は、リザバーR1から出力された出力電気信号と、データ記憶部14に格納された学習済み重みパラメータとに基づいて、出力電気信号が何れのカテゴリに属するのかを判定する。具体的には、制御部16は、出力電気信号と学習済み重みパラメータとの重み付け和を計算する。そして、制御部16は、その重み付け和が、例えば、0~0.5の範囲である場合には、出力電気信号はカテゴリAに属すると判定する。一方、制御部16は、その重み付け和が、0.5~1.0の範囲である場合には、出力電気信号はカテゴリBに属すると判定する。これにより、その出力電気信号に対応する入力電気信号が、何れのカテゴリであるのかが判別される。
【0024】
図6は、情報処理装置12を構成するコンピュータ20のハードウェア構成を示すブロック図である。図6に示されるように、コンピュータ20は、CPU(Central Processing Unit)21、ROM(Read Only Memory)22、RAM(Random Access Memory)23、ストレージ24、入力部25、表示部26及び通信インタフェース(I/F)27を有する。各構成は、バス29を介して相互に通信可能に接続されている。
【0025】
CPU21は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU21は、ROM22又はストレージ24からプログラムを読み出し、RAM23を作業領域としてプログラムを実行する。CPU21は、ROM22又はストレージ24に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM22又はストレージ24には、入力装置より入力された情報を処理する各種プログラムが格納されている。
【0026】
ROM22は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM23は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ24は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0027】
入力部25は、マウス等のポインティングデバイス、及びキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0028】
表示部26は、例えば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部26は、タッチパネル方式を採用して、入力部25として機能しても良い。
【0029】
通信I/F27は、入力装置等の他の機器と通信するためのインタフェースであり、例えば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。
【0030】
次に、情報処理システム10の作用について説明する。
【0031】
情報処理装置12の制御部16は、分類対象のデータを受け付けると、そのデータを入力電気信号へと変換する。
【0032】
ここで、制御部16は電極に入力される入力電気信号を調整する機能を持つものである。例えば、入力電気信号が電圧である場合、その絶対値は、電極の標準電極電位よりも小さく、かつイオン部材が酸化還元反応を起こす電位窓の電位の下限の絶対値及び上限の絶対値のうち、小さい方の絶対値よりも小さい値となるように調整されると好ましい。例えば、電極の標準電極電位が1[V]であり、イオン部材の電位窓が-2[V]~0.5[V]であった場合、入力電気信号の絶対値は0.5[V]よりも小さい値となるように調整されると好ましい。または、例えば、電極の標準電極電位が-0.5[V]であり、イオン部材の電位窓が-2[V]~1[V]であった場合、入力電気信号の絶対値は0.5[V]よりも小さい値となるように調整されると好ましい。
【0033】
電極に入力される入力電気信号が、電極の標準電極電位以上である場合、酸化還元反応が生じることにより電極が溶解する。電極が溶解してしまうと、リザバーとしての機能が劣化し、例えば、同一信号が入力された場合に出力が異なるといった事態が発生する。イオン部材の電位窓を超える電圧が入力された場合も同様である。
【0034】
これに対し、本実施形態では、制御部16が、分類対象のデータを電極の標準電極電位よりも低い電圧を有する電気信号であって、かつイオン部材の酸化還元反応が生じる電位窓よりも小さい電気信号へと変換し、その電気信号を入力電気信号とする。これにより、電極が溶解せず、酸化還元反応を伴わずにリザバーからの出力を得ることができるため、リザバーを繰り返し利用した場合であってもリザバーの劣化を抑制することができる。具体的には、リザバーの劣化により、同一信号が入力された場合に出力が異なるといった事態の発生を抑制することができる。
【0035】
制御部16は、リザバーR1が有する1以上の電極へ入力電気信号を入力するように制御する。ここで、制御部16は、1つの電極へ入力電気信号を入力してもよいし、複数の電極へ入力電気信号を入力するようにしてもよい。
【0036】
リザバーR1の電極へ入力電気信号が入力されると、電極間に電気二重層が形成される。具体的には、複数の電極にイオン溶液が接していることにより、複数の電極間に電気二重層コンデンサが形成される。そして、制御部16は、複数の電極E1,E2,E3,E4,E5のうちの少なくとも1つの電極から、電気二重層の影響を受けた出力電気信号を取得する。
【0037】
そして、制御部16は、リザバーR1から出力された出力電気信号と、データ記憶部14に格納された学習済み重みパラメータとに基づいて、例えば、重み付け和を計算する。そして、制御部16は、その重み付け和に基づいて、出力電気信号が何れのカテゴリに属するのかを判定する。
【0038】
例えば、分類対象のデータが画像データである場合には、その画像に写る対象物を表すカテゴリ(例えば、対象物が何であるのか)が判定される。また、例えば、分類対象のデータが時系列データである場合には、そのデータが異常であるのか正常であるのかを表すカテゴリが判定される。
【0039】
以上のように、第1実施形態のリザバーは、リザバーコンピューティングに使用されるリザバーであって、複数の電極と、複数の電極に接する部材であって、かつイオンを含む部材であるイオン部材の一例であるイオン液体と、を備える。リザバーの複数の電極のうちの少なくとも1つの電極に入力電気信号が入力されることにより、複数の電極間に電気二重層が形成され、複数の電極のうちの少なくとも1つの電極から、電気二重層の影響を受けた出力電気信号が出力される。これにより、電気二重層を利用してリザバーコンピューティングを実現することができる。
【0040】
また、本実施形態によれば、簡易な構成によってリザバーを実現することができる。具体的には、図5に示したように、電極とイオン液体とによってリザバーを構成することができる。この時、外部との電気的な接触は入出力に用いるノードのみ保証されていればよい。
【0041】
さらに、本実施形態によれば、分類対象のデータを電極の標準電極電位よりも低い電圧を有する電気信号へと変換し、その電気信号を入力電気信号であって、かつイオン部材の酸化還元反応が生じる電位窓よりも小さい電気信号とする。これにより、電極が溶解せず、酸化還元反応を伴わずにリザバーからの出力を得ることができるため、リザバーを繰り返し利用した場合であってもリザバーの劣化を抑制することができる。具体的には、リザバーの劣化により、同一信号が入力された場合に出力が異なるといった事態の発生を抑制することができる。
【0042】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。第2実施形態のリザバーは、イオン部材がイオン液体を染み込ませた多孔質材料である点が、第1実施形態と異なる。
【0043】
複数の電極間に電気二重層を形成させるためには、イオン部材は必ずしもイオン液体でなくてもよく、イオンを含む部材が複数の電極に接していればよい。
【0044】
そのため、第2実施形態のリザバーは、イオン部材として、イオン液体を染み込ませた多孔質材料を備える。なお、多孔質材料は、イオン液体を構成する分子と同等サイズの細孔を有している。
【0045】
図7に、第2実施形態のリザバーR2を示す。図7に示されるように、第2実施形態のリザバーR2は、複数の電極E1,E2,E3,E4,E5と、イオン部材の一例である多孔質材料Mと、を備えている。なお、図中のコンデンサの回路記号は電極間の静電容量を表したものであり、実際にコンデンサを接続するという意味ではない。多孔質材料Mは、どのようなものであってもよいが、例えば、金属有機構造体(MOF:Metal-Organic Frameworks)、ゼオライト、ポーラスアルミナ、及びLow-k材料等が挙げられる。なお、金属有機構造体としては、例えば、国際公開第2017/126664号公報に開示されている金属有機構造体を利用することもできる。金属有機構造体等のナノ多孔質材料にイオン液体を染み込ませることにより、イオン液体の分子と多孔質材料との間の相互作用によって、より非線形性の高い出力電気信号が得られることが期待される。
【0046】
なお、第2実施形態の他の構成及び作用については、第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
【0047】
以上のように、第2実施形態では、イオン部材の一例である、イオン液体を染み込ませた多孔質材料が複数の電極と接している。これにより、電気二重層を利用してリザバーコンピューティングを実現することができる。
【実施例0048】
次に実施例について説明する。本実施例では、図8に示されるようなリザバーR1と、図9に示されるようなリザバーR2とを評価した。なお、リザバーR1は第1実施形態に相当し、リザバーR2は第2実施形態に相当する。
【0049】
(電気二重層の電気応答について)
はじめに、図10に、リザバーR1のうちの一つの電極に入力電気信号として電圧を入力し、出力電気信号として電流を取り出した場合の結果を示す。図10の点線は入力電気信号である電圧を表し、実線が出力電気信号である電流を表す。図10に示されるように、入力電気信号に応じた出力電気信号が得られていることが分かる。なお、図10に示されるように、入力電気信号の電圧値が1.2[V]付近である場合に「1」、入力電気信号の電圧値が0[V]付近である場合に「0」とする。図10(a)は電気信号「1001」を入力した場合であり、図10(b)は電気信号「1011」を入力した場合である。
【0050】
図10(a)(b)に示されるように、電気信号「1001」が入力された場合の出力電気信号である電流値(図10(a)の破線の丸印)と、電気信号「1011」が入力された場合の出力電気信号である電流値(図10(b)の破線の丸印)とは異なっていることがわかる。このため、電気二重層をレザバーとして利用することにより、入力電気信号を分離することができることがわかる。
【0051】
(時定数の制御について)
次に、リザバーの時定数の制御について説明する。図11に、時定数の制御を説明するための図を示す。図11に示されるように、入力電気信号として電圧値(図11の破線)がリザバーの電極へ入力され、出力電気信号としての電流値(図11の実線)が出力される場合、電流値がその最大値から1/e低下するまでに要する時間を時定数τとする。この時定数τは、本リザバーのイオン溶液の粘度を調整することにより制御可能となる。
【0052】
図12に、イオン溶液の粘度を変化させた場合の時定数τの測定結果を示す。図12の[TFSI]はBis(trifluoromethanesulfonyl)imideを表し、[emim]は1-Ethyl-3-methylimidazoliumを表し、[bmim]は1-Butyl-3-methylimidazoliumを表し、[hmim]は1-Hexyl-3-methylimidazoliumを表し、[omim]は1-Methyl-3-n-octylimidazoliumを表す。
【0053】
図12に示されるように、イオン溶液の粘度によって時定数τの値は異なっていることがわかる。このため、リザバーのイオン溶液の粘度を調整することにより、時定数τを制御することができることがわかる。
【0054】
なお、時定数τの制御方法として、イオン液体の粘性を利用することに加えて、多孔体との相互作用を利用することも考えられる。
【0055】
(画像分類について)
次に、本リザバーを用いた画像分類のシミュレーション結果を示す。本実施例では、リザバーを用いずに画像分類した場合と、リザバーを用いて画像分類をした場合とについて実験を行う。
【0056】
図13は、リザバーを用いない画像分類を説明するための図である。図13に示されている画像には数字が写っている。本実施例では、MINST画像分類タスクにおける画像を用いて、画像に何の数字が写っているのかを判別する問題を利用した。
【0057】
具体的には、図13に示されているように、まず、元の画像(28pixels×28pixels)を圧縮した圧縮画像(20pixels×20pixels)を生成する。そして、その圧縮画像を二値化したものを400×1次元のベクトルとし、画像分類モデルModel1へ入力する。なお、この画像分類モデルModel1は、入力信号を線形分離するモデルであり、画像分類モデルModel1の丸印がノードを示し、丸印をつなぐ線がエッジを示す。エッジには重みが付与されており、入力データの値と重みとの重み付け和が、最終的に出力される。なお、重みを生成する際の学習用データ数は300であり、テストデータ数は50である。
【0058】
図14は、リザバーを用いた画像分類を説明するための図である。
【0059】
具体的には、図14に示されているように、まず、元の画像(28pixels×28pixels)を圧縮した圧縮画像(20pixels×20pixels)を生成する。そして、その圧縮画像を100×4のベクトルへ分解し二値化する。そして、図14に示されているように、100×4次元のベクトルのピクセルパターンをパルス列へと変換する。図14の例では、4×4次元のピクセルパターンが4つの入力電気信号へと変換されている。ここでは4つの入力電気信号がリザバーへ入力され、4つの応答電流が得られている。このようにして100×1次元に変換された応答電流を画像分類モデルModel2へ入力することにより、画像を分類する。なお、図14に示されているリザバーは、等価回路モデルによって表されている。等価回路モデルにおけるR1,R2,R3,R4,R17,R18,R19,R20は抵抗を表し、それぞれの抵抗値は500[Ω]である。また、等価回路モデルにおけるC1,C2,C3,C4はコンデンサを表し、それぞれの静電容量は2[μF]である。
【0060】
図15に、リザバーを用いない画像分類(図15の実線)と、リザバーを用いた画像分類(図15の破線)との結果を示す。なお、図15のグラフの横軸のepochは学習回数に相当する。図15に示されるように、両社ともepoch数が増加するにつれて精度も増加するが、リザバーを用いた画像分類(図15の破線)は、最終的にはリザバーを用いない画像分類(図15の実線)よりも精度が高くなっていることがわかる。
【0061】
(リザバーの繰り返し利用による劣化について)
次に、本の繰り返し利用による劣化についての結果を示す。図16(a)は、リザバーを1回利用した場合の応答電流(図16の実線)の様子である。図16(b)は、リザバーを100回利用した場合の応答電流(図16の実線)の様子である。なお、リザバーを利用する際に電極に入力される入力電気信号は、電極の標準電極電位よりも低い電圧を有する電気信号である。図16(b)の応答電流と図16(a)の応答電流との間には、それほどの差異は確認されない。そのため、リザバーの劣化は抑制されていることがわかる。
【0062】
なお、上記実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した各処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、各処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0063】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0064】
例えば、上記実施形態のイオン部材はどのようなものであってもよい。
【0065】
例えば、上記実施形態では、電極に入力電気信号が入力されることにより電気二重層が形成される場合を例に説明したがこれに限定されるものではない。例えば、複数の電極の各々とイオン部材との間の界面には電気二重層が予め形成されていてもよい。この場合には、複数の電極のうちの少なくとも1つの電極に入力電気信号が入力された場合、複数の電極のうちの少なくとも1つの電極から電気二重層の影響を受けた出力電気信号が出力される。
【0066】
また、上記第1実施形態におけるイオン液体の粘性を変更することにより、出力電気信号の時定数(例えば、出力電気信号である電流値がその最大値から1/e低下するまでに要する時間を時定数τ)を制御するようにしてもよい。また、第2上記実施形態における、イオン液体と多孔質材料との間の相互作用を利用することにより、出力電気信号の時定数(例えば、出力電気信号である電流値がその最大値から1/e低下するまでに要する時間を時定数τ)を制御するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0067】
12 情報処理装置
14 データ記憶部
16 制御部
20 コンピュータ
R1 リザバー
R2 リザバー
図1
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