(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022191959
(43)【公開日】2022-12-28
(54)【発明の名称】ダイヤモンド基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/04 20060101AFI20221221BHJP
【FI】
C30B29/04 E
C30B29/04 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021100501
(22)【出願日】2021-06-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、「量子計測・センシング技術研究開発」のうち「固体量子センサの高度制御による革新的センサシステムの創出」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】野口 仁
(72)【発明者】
【氏名】牧野 俊晴
(72)【発明者】
【氏名】小倉 政彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宙光
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB02
4G077BA03
4G077DB07
4G077DB17
4G077DB19
4G077DB21
4G077ED05
4G077EF02
4G077GA03
4G077HA05
(57)【要約】
【課題】規定された条件でCVDすることで得られる高配向(111)ダイヤモンドベース基板上に同じく規定された条件でCVDすることで得られるNV軸が[111]配向、かつ高密度なNVCを有する、電子・磁気デバイスに適用可能なダイヤモンド結晶、およびその製造方法を安定して提供する。
【解決手段】マイクロ波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、またはアーク放電プラズマジェットCVD法により、下地基板上に水素希釈メタンを主原料ガスとして(111)配向ダイヤモンド結晶をエピタキシャル成長により製造する方法であって、成長速度を3.8μm/h未満とすることを特徴とするダイヤモンド基板の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、またはアーク放電プラズマジェットCVD法により、下地基板上に水素希釈メタンを主原料ガスとして(111)配向ダイヤモンド結晶をエピタキシャル成長により製造する方法であって、成長速度を3.8μm/h未満とすることを特徴とするダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項2】
前記(111)配向ダイヤモンド結晶をエピタキシャル成長により製造する方法において、前記下地基板上に水素希釈メタンを主原料ガスとし、ドーパントとして窒素ガスを添加しながら(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶を製造することを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項3】
前記マイクロ波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、またはアーク放電プラズマジェットCVD法による成長中の前記下地基板の温度を600℃から1050℃の範囲とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項4】
前記下地基板を、単結晶ダイヤモンド(111)の単層基板とすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項5】
前記下地基板が前記単結晶ダイヤモンド(111)であって、主表面が結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-12]方向またはその三回対称方向に、-8.0°以上-0.5°以下または+0.5°以上+8.0°以下の範囲でオフ角を有するものとすることを特徴とする請求項4に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項6】
前記単結晶ダイヤモンド(111)から成る前記下地基板を、高温高圧合成単結晶ダイヤモンド、ヘテロエピタキシャル単結晶ダイヤモンド、CVD合成ホモエピタキシャルダイヤモンド、およびこれらを組み合わせた単結晶ダイヤモンドとすることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項7】
前記下地基板を、下層基板と該下層基板上の中間層とから成る積層構造とすることを特徴する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項8】
前記中間層の最表面を、Ir、Rh、Pd、Pt、Cu、Ni、Fe、Cr、MnおよびTiから選択される金属層とすることを特徴とする請求項7に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項9】
前記下層基板を、単一のSi、MgO、Al2O3、SiO2、Si3N4、SiC、Ir、Rh、Pd、Pt、Cu、Ni、Fe、Cr、MnおよびTiからなる基板、または、Si、MgO、Al2O3、SiO2、Si3N4、SiC、Ir、Rh、Pd、Pt、Cu、Ni、Fe、Cr、MnおよびTiから選択される積層体とすることを特徴とする請求項7または請求項8に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項10】
前記下層基板が(111)面方位を主表面とするか、または前記下層基板と前記中間層との間に(111)面方位を主表面とする層を更に含むものとすることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか一項に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項11】
前記下層基板の前記(111)面方位の主表面が、結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-12]方向またはその三回対称方向に、-8.0°以上-0.5°以下または+0.5°以上+8.0°以下の範囲でオフ角を有するものとすることを特徴とする請求項10に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項12】
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載のダイヤモンド基板の製造方法において、前記下地基板上に形成するダイヤモンドの総厚を、80~2000μmとすることを特徴とするダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか一項に記載のダイヤモンド基板の製造方法において、CVDを行うチャンバーにはSi含有の部材を使用しないことを特徴とするダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項14】
前記CVDを行うチャンバーの覗き窓に、サファイアを用いることを特徴とする請求項13に記載のダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項15】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のダイヤモンド基板の製造方法により得られた前記(111)配向ダイヤモンド結晶を含む積層基板から、前記下地基板を除去して、(111)配向ダイヤモンド基板を得ることを特徴とするダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項16】
請求項7から請求項14のいずれか一項に記載のダイヤモンド基板の製造方法により得られた前記(111)配向ダイヤモンド結晶を含む積層基板から、前記下地基板、前記下層基板、または前記中間層と下層基板の両方を除去して、(111)配向ダイヤモンド基板を得ることを特徴とするダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項17】
請求項1から請求項16のいずれか一項に記載のダイヤモンド基板の製造方法により得られた、前記(111)配向ダイヤモンド結晶の表面を、平滑化することを特徴とするダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項18】
ダイヤモンド基板であって、X線回折装置で、極点法によって、X線発生部として対陰極Cuを用い、出力45kV 200mA、評価回折面(111)、回折角度2θ=43.9°、ステップ幅1°の条件での測定で、(111)面が基板主表面法線方向を向いている時の(111)面回折ピークが検出され、一方(001)面が基板主表面法線方向を向いている時の(111)面回折ピークが検出されないものであることを特徴とするダイヤモンド基板。
【請求項19】
前記ダイヤモンド基板を、X線回折装置で、Out-of-plane法によって、X線発生部として対陰極Cuを用い、出力45kV 200mA、評価回折面(111)、回折角度2θ=43.9°、ステップ幅0.001°の条件での測定で、ロッキングカーブ半値幅が、0.90°以下のものであることを特徴とする請求項18に記載のダイヤモンド基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド基板、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、室温で5.47eVという広いバンドギャップを持ち、ワイドバンドギャップ半導体として知られている。
ワイドバンドギャップ半導体の中でも、ダイヤモンドは、絶縁破壊電界強度が10MV/cmと非常に高く、高電圧動作が可能である。また、既知の物質として最高の熱伝導率を有していることから放熱性にも優れている。さらに、キャリア移動度や飽和ドリフト速度が非常に大きいため、高速デバイスとして適している。
そのため、ダイヤモンドは、高周波・大電力デバイスとしての性能を示すJohnson性能指数を、炭化ケイ素や窒化ガリウムといった半導体と比較しても最も高い値を示し、究極の半導体と言われている。
さらにダイヤモンドには、結晶中に存在する窒素-空孔センター(NVC)があり、室温で単一スピンを操作及び検出することが可能で、その状態を光検出磁気共鳴でイメージングできる特徴がある。この特徴を活かして、磁場、電場、温度、圧力などの高感度センサーとして幅広い分野での応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US2013/0143022A1
【特許文献2】特開2020-090408号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.Hatano et al., OYOBUTURI 85, 311 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、ダイヤモンドは、半導体材料や電子・磁気デバイス用材料としての実用化が期待されており、大面積かつ高品質なダイヤモンド基板の供給が望まれている。特に、重要度の高いNVCデバイス用途では、NV軸が高配向であることが必要で、そのためダイヤモンド表面はNV軸が[111]方向に揃う(111)結晶面であることが望ましい(非特許文献1)。
【0006】
また、例えば医療用のMRI分野への適用を考えると、磁気センサー部となるダイヤモンド基板が大口径であれば、より広い領域を効率良く測定できる装置が実現できる。また、製造コスト的にも有利である。
【0007】
特許文献1には、化学気相成長(CVD)法によるヘテロエピタキシャル成長で、ダイヤモンド(111)結晶を形成する技術について報告されている。しかしながら、仕上がったサイズや特性が充分なレベルにあるのか不明である。
【0008】
そこで我々は、電子・磁気デバイスに適用可能である大口径かつ高品質な単結晶ダイヤモンド(111)を有する積層基板、大口径単結晶ダイヤモンド(111)自立基板、前記積層基板の製造方法および自立基板の製造方法に関する発明を行った(特許文献2)。
【0009】
しかしながら、単結晶ダイヤモンド(111)を80μm厚以上に厚く形成したり、繰り返し結晶成長を行ったりしていると、結晶配向についての再現性に問題があることが判ってきた。
【0010】
例えば、ベース基板にヘテロダイヤモンド(111)を用いた場合でも、結晶成長途中で配向性が(001)に変わってしまうことがあった。ベースダイヤ層となるアンドープダイヤモンドであっても、NVC層となるNドープダイヤモンドであっても、配向性変化の問題が生じていた。
【0011】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、規定された条件でCVDすることで得られる高配向(111)ダイヤモンドベース基板上に同じく規定された条件でCVDすることで得られるNV軸が[111]配向、かつ高密度なNVCを有する、電子・磁気デバイスに適用可能なダイヤモンド結晶、およびその製造方法を安定して提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明では、マイクロ波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、またはアーク放電プラズマジェットCVD法により、下地基板上に水素希釈メタンを主原料ガスとして(111)配向ダイヤモンド結晶をエピタキシャル成長により製造する方法であって、成長速度を3.8μm/h未満とするダイヤモンド基板の製造方法を提供する。
【0013】
このようなダイヤモンド基板の製造方法であれば、規定された条件でCVDすることで得られる高配向(111)ダイヤモンドベース基板上に同じく規定された条件でCVDすることで得られるNV軸が[111]配向、かつ高密度なNVCを有する、電子・磁気デバイスに適用可能なダイヤモンド結晶、およびその製造方法を安定して提供できる。
【0014】
この時、前記(111)配向ダイヤモンド結晶をエピタキシャル成長により製造する方法において、前記下地基板上に水素希釈メタンを主原料ガスとし、ドーパントとして窒素ガスを添加しながら(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶を製造することができる。
【0015】
このようなダイヤモンド基板の製造方法であれば、得られるNV軸が[111]配向、かつ高密度なNVCを有する、電子・磁気デバイスに適用可能なダイヤモンド結晶、およびその製造方法をより安定して提供できる。
【0016】
この時、前記マイクロ波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、またはアーク放電プラズマジェットCVD法による成長中の前記下地基板の温度を600℃から1050℃の範囲とすることが好ましい。
【0017】
このような温度範囲であれば、アモルファスカーボンやグラファイトなどの非ダイヤモンド相が成長せず、成長速度が上がりすぎず、(111)成長が追従でき、(001)成長が優勢となってしまうことがないため好ましい。
【0018】
この時、前記下地基板を、単結晶ダイヤモンド(111)の単層基板とすることができる。
【0019】
このような下地基板であれば、より高品質なダイヤモンド基板を製造することができるため好ましい。
【0020】
この時、前記下地基板が前記単結晶ダイヤモンド(111)であって、主表面が結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-12]方向またはその三回対称方向に、-8.0°以上-0.5°以下または+0.5°以上+8.0°以下の範囲でオフ角を有するものとすることが好ましい。
【0021】
このような範囲でオフ角を有するものとすると、ステップフロー成長をし易く、ヒロック、異常成長粒子、転位欠陥等が少ない高品質単結晶ダイヤモンド層となるため好ましい。
【0022】
この時、前記単結晶ダイヤモンド(111)から成る前記下地基板を、高温高圧合成単結晶ダイヤモンド、ヘテロエピタキシャル単結晶ダイヤモンド、CVD合成ホモエピタキシャルダイヤモンド、およびこれらを組み合わせた単結晶ダイヤモンドとすることができる。
【0023】
このような下地基板であれば、さらに高品質なダイヤモンド基板を製造することができるため好ましい。
【0024】
また、本発明では、前記下地基板を、下層基板と該下層基板上の中間層とから成る積層構造とすることもできる。
【0025】
このような下地基板であれば、より一層高品質なダイヤモンド基板を製造することができるため好ましい。
【0026】
この時、前記中間層の最表面を、Ir、Rh、Pd、Pt、Cu、Ni、Fe、Cr、MnおよびTiから選択される金属層とすることができる。
【0027】
このような金属層を用いると、核形成処理(バイアス処理)した際にダイヤモンド核が高密度に成り易く、その上に単結晶ダイヤモンド層が形成され易くなるので好ましい。
【0028】
この時、前記下層基板を、単一のSi、MgO、Al2O3、SiO2、Si3N4、SiC、Ir、Rh、Pd、Pt、Cu、Ni、Fe、Cr、MnおよびTiからなる基板、または、Si、MgO、Al2O3、SiO2、Si3N4、SiC、Ir、Rh、Pd、Pt、Cu、Ni、Fe、Cr、MnおよびTiから選択される積層体とすることができる。
【0029】
これらの材料は、下地基板の主表面の結晶面方位(オフ角を含む)の設定が容易であり、比較的価格が安価であり、容易に入手できるものであるため好ましい。
【0030】
この時、前記下層基板が(111)面方位を主表面とするか、または前記下層基板と前記中間層との間に(111)面方位を主表面とする層を更に含むものとすることができる。
【0031】
このようなダイヤモンド基板の製造方法であれば、より効率的にエピタキシャル成長が可能となるため好ましい。
【0032】
この時、前記下層基板の前記(111)面方位の主表面が、結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-12]方向またはその三回対称方向に、-8.0°以上-0.5°以下または+0.5°以上+8.0°以下の範囲でオフ角を有するものとすることができる。
【0033】
このような範囲でオフ角を有するものとすると、ステップフロー成長をし易く、ヒロック、異常成長粒子、転位欠陥等が少ない高品質単結晶ダイヤモンド層となるため好ましい。
【0034】
また、本発明では、上記ダイヤモンド基板の製造方法において、前記下地基板上に形成するダイヤモンドの総厚を、80~2000μmとすることができる。
【0035】
このような総厚であれば、(111)高配向結晶が得やすいため好ましい。
【0036】
また、本発明では、上記ダイヤモンド基板の製造方法において、CVDを行うチャンバーにはSi含有の部材を使用しないことが好ましい。
【0037】
このようなダイヤモンド基板の製造方法であれば、ダイヤモンド結晶中にSiが混入しないため好ましい。
【0038】
この時、前記CVDを行うチャンバーの覗き窓に、サファイアを用いることが好ましい。
【0039】
このようなダイヤモンド基板の製造方法であっても、ダイヤモンド結晶中にSiが混入しないため好ましい。
【0040】
また、本発明では、上記ダイヤモンド基板の製造方法により得られた前記(111)配向ダイヤモンド結晶を含む積層基板から、前記下地基板を除去して、(111)配向ダイヤモンド基板を得ることができる。
【0041】
このようなダイヤモンド基板の製造方法であれば、自立構造のダイヤモンド基板とすることができ、実使用でのノイズの原因を減らすことができるため好ましい。
【0042】
また、本発明では、上記ダイヤモンド基板の製造方法により得られた前記(111)配向ダイヤモンド結晶を含む積層基板から、前記下地基板、前記下層基板、または前記中間層と下層基板の両方を除去して、(111)配向ダイヤモンド基板を得ることもできる。
【0043】
このようなダイヤモンド基板の製造方法であっても、自立構造のダイヤモンド基板とすることができ、実使用でのノイズの原因を減らすことができるため好ましい。
【0044】
また、本発明では、上記ダイヤモンド基板の製造方法により得られた、前記(111)配向ダイヤモンド結晶の表面を、平滑化することが好ましい。
【0045】
このようなダイヤモンド基板の製造方法であれば、電子・磁気デバイス用基板としてより好適なダイヤモンド基板となるため好ましい。
【0046】
また、本発明では、ダイヤモンド基板であって、X線回折装置で、極点法によって、X線発生部として対陰極Cuを用い、出力45kV 200mA、評価回折面(111)、回折角度2θ=43.9°、ステップ幅1°の条件での測定で、(111)面が基板主表面法線方向を向いている時の(111)面回折ピークが検出され、一方(001)面が基板主表面法線方向を向いている時の(111)面回折ピークが検出されないものであるダイヤモンド基板を提供する。
【0047】
このようなダイヤモンド基板であれば、規定された条件でCVDすることで得られる高配向(111)ダイヤモンドベース基板上に同じく規定された条件でCVDすることで得られるNV軸が[111]配向、かつ高密度なNVCを有する、電子・磁気デバイスに適用可能なダイヤモンド結晶からなる基板となる。
【0048】
この時、前記ダイヤモンド基板を、X線回折装置で、Out-of-plane法によって、X線発生部として対陰極Cuを用い、出力45kV 200mA、評価回折面(111)、回折角度2θ=43.9°、ステップ幅0.001°の条件での測定で、ロッキングカーブ半値幅が、0.90°以下のものであることが好ましい。
【0049】
このようなダイヤモンド基板であれば、より高品質なダイヤモンド結晶からなる基板とできる。
【発明の効果】
【0050】
以上のように、本発明のダイヤモンド基板の製造方法によれば、HPHT、ヘテロおよびホモエピタキシャルダイヤモンドのベース基板上に、高結晶性で、NV軸が[111]高配向、かつ高密度なNVCを有する、電子・磁気デバイスに適用可能なダイヤモンド基板を提供することが可能となる。
また、本発明のダイヤモンド基板によれば、高結晶性で、NV軸が[111]高配向、かつ高密度なNVCを有する、電子・磁気デバイスに適用可能なダイヤモンド基板となる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】本発明に係る単層基板の下地基板上に(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶を形成した例を示す図面である。
【
図2】本発明に係る積層構造の下地基板上に(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶を形成した例を示す図面である。
【
図3】本発明に係る積層構造の下地基板上に(111)配向ダイヤモンド結晶、(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶を形成した例を示す図面である。
【
図4】本発明に係る(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶/(111)配向ダイヤモンド結晶を残したダイヤモンド基板の例を示す図面である。
【
図6】実施例1の研磨済み窒素アンドープ単結晶(111)配向ダイヤモンド基板のXRD極点法の測定結果を示す図面である。
【
図7】実施例1の研磨済み窒素アンドープ単結晶(111)配向ダイヤモンド基板のXRD極点法の測定結果の立体表示の結果を示す図面である。
【
図8】実施例1の(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶の励起光波長532nmにおける蛍光スペクトルを示す図面である。
【
図9】EBSD法による分析結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
上述のように、電子・磁気デバイス用には、ダイヤモンド結晶が(111)高配向で、窒素ドープした場合のNV軸が[111]高配向、かつ高密度のNVCを有するダイヤモンド基板を安定して得ることが求められていた。
【0053】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、本発明のダイヤモンド基板の製造方法であれば、規定された条件でCVDすることで得られる高配向(111)ダイヤモンドベース基板上に同じく規定された条件でCVDすることで得られるNV軸が[111]配向、かつ高密度なNVCを有する、電子・磁気デバイスに適用可能なダイヤモンド結晶、およびその製造方法を安定して提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【0054】
即ち、本発明は、マイクロ波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、またはアーク放電プラズマジェットCVD法により、下地基板上に水素希釈メタンを主原料ガスとして(111)配向ダイヤモンド結晶をエピタキシャル成長により製造する方法であって、成長速度を3.8μm/h未満とするダイヤモンド基板の製造方法である。
【0055】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
以下、図面を参照して説明する。
【0057】
まず、本明細書で使用する用語について定義する。
本明細書では、主表面が(111)面である結晶層、結晶膜を、単に「(111)層」、「(111)膜」という。例えば、主表面が(111)面である単結晶ダイヤモンド層は「単結晶ダイヤモンド(111)層」という。
【0058】
また、オフ角の関係を
図5に示す。
図5には、主面が(111)面である基板の、[-1-12]方向とその三回対称方向である、[-12-1]、[2-1-1]方向とオフ角の概念図を示した。なお、本明細書では、
【0059】
(ダイヤモンド基板)
本発明では、ダイヤモンド基板であって、X線回折装置で、極点法によって、X線発生部として対陰極Cuを用い、出力45kV 200mA、評価回折面(111)、回折角度2θ=43.9°、ステップ幅1°の条件での測定で、(111)面が基板主表面法線方向を向いている時の(111)面回折ピークが検出され、一方(001)面が基板主表面法線方向を向いている時の(111)面回折ピークが検出されないものであるダイヤモンド基板を提供する。
【0060】
この時、前記ダイヤモンド基板を、X線回折装置で、Out-of-plane法によって、X線発生部として対陰極Cuを用い、出力45kV 200mA、評価回折面(111)、回折角度2θ=43.9°、ステップ幅0.001°の条件での測定で、ロッキングカーブ半値幅が、0.90°以下のものであることが好ましい。
【0061】
このようなNV軸が[111]高配向、かつ高密度なNVCを有する、高品質なダイヤモンド基板は、電子・磁気デバイスに適用可能であり、以下のような方法で製造することができる。
【0062】
(ダイヤモンド基板の製造方法)
本発明は、マイクロ波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、またはアーク放電プラズマジェットCVD法により、下地基板上に水素希釈メタンを主原料ガスとして(111)配向ダイヤモンド結晶をエピタキシャル成長により製造する方法であって、成長速度を3.8μm/h未満とするダイヤモンド基板の製造方法である。
【0063】
成長速度が3.8μm/h以上であると、(111)配向成長から(001)配向成長に結晶成長モードが変わってしまうため、所望の(111)高配向結晶が得られない。
逆に成長速度を3.8μm/h未満に抑えていれば、(111)配向を維持したまま成長が続き、所望の(111)高配向結晶を得ることができる。ただし、3.3μm/h以下とすると、より結晶成長が安定して好ましい。
【0064】
この時、前記(111)配向ダイヤモンド結晶をエピタキシャル成長により製造する方法において、前記下地基板上に水素希釈メタンを主原料ガスとし、ドーパントとして窒素ガスを添加しながら(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶を製造することができる。
【0065】
この時、前記マイクロ波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、熱フィラメントCVD法、またはアーク放電プラズマジェットCVD法による成長中の前記下地基板の温度を600℃から1050℃の範囲とすることが好ましい。
【0066】
600℃以上であれば、アモルファスカーボンやグラファイトなどの非ダイヤモンド相が成長せず、一方1050℃以下であれば、成長速度が上がりすぎず、(111)成長が追従でき、(001)成長が優勢となってしまうことがない。
【0067】
この時、前記下地基板を、単結晶ダイヤモンド(111)の単層基板とすることができる。
【0068】
図1に下地基板1上に(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶(NVC含有ダイヤモンド層)2を形成した基板を示す。
【0069】
この時、前記下地基板が前記単結晶ダイヤモンド(111)であって、主表面が結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-12]方向またはその三回対称方向に、-8.0°以上-0.5°以下または+0.5°以上+8.0°以下の範囲でオフ角を有するものとすることが好ましい。
【0070】
このような範囲でオフ角を有するものとすると、ステップフロー成長をし易く、ヒロック、異常成長粒子、転位欠陥等が少ない高品質単結晶ダイヤモンド層となる。
【0071】
この時、前記単結晶ダイヤモンド(111)から成る前記下地基板を、高温高圧合成単結晶ダイヤモンド、ヘテロエピタキシャル単結晶ダイヤモンド、CVD合成ホモエピタキシャルダイヤモンド、およびこれらを組み合わせた単結晶ダイヤモンドとすることができる。
【0072】
また、本発明では、前記下地基板を、下層基板と該下層基板上の中間層とから成る積層構造とすることもできる。
【0073】
図2に積層構造の下地基板(下層基板3、中間層4)上に(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶5を形成した基板を示す。
【0074】
中間層は、一層でも良いし、複数層の積層体でも良い。中間層の最表面は、Ir、Rh、Pd、Pt、Cu、Ni、Fe、Cr、MnおよびTiから選択される金属層とすることが好ましい。このような金属層を用いると、核形成処理(バイアス処理)した際にダイヤモンド核が高密度に成り易く、その上に単結晶ダイヤモンド層が形成され易くなるので好ましい。
【0075】
この時、前記下層基板を、単一のSi、MgO、Al2O3、SiO2、Si3N4、SiC、Ir、Rh、Pd、Pt、Cu、Ni、Fe、Cr、MnおよびTiからなる基板、または、Si、MgO、Al2O3、SiO2、Si3N4、SiC、Ir、Rh、Pd、Pt、Cu、Ni、Fe、Cr、MnおよびTiから選択される積層体とすることができる。
【0076】
これらの材料は、下地基板の主表面の結晶面方位(オフ角を含む)の設定が容易である。しかも、比較的価格が安価であり、容易に入手できるものである。
【0077】
当然、下地基板として、下層基板と中間層とが同一の材料から構成されるものも含まれる。なお、Ir、Rh、Pd、Pt、Cu、Ni、Fe、Cr、MnおよびTiの各単一材料からなる基板を下地基板として用いてもよい。
【0078】
この時、前記下層基板が(111)面方位を主表面とするか、または前記下層基板と前記中間層との間に(111)面方位を主表面とする層を更に含むものとすることができる。
【0079】
これであれば、エピタキシャル成長をより効率よく行うことが可能となる。
【0080】
この時、前記下層基板の前記(111)面方位の主表面が、結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-12]方向またはその三回対称方向に、-8.0°以上-0.5°以下または+0.5°以上+8.0°以下の範囲でオフ角を有するものとすることができる。
【0081】
このような範囲でオフ角を有するものとすると、ステップフロー成長をし易く、ヒロック、異常成長粒子、転位欠陥等が少ない高品質単結晶ダイヤモンド層とすることができる。
【0082】
オフ角が-0.5°より大きく+0.5より小さい範囲では、ステップ方向への成長が行われ難いため、良好な結晶が得られない。またオフ角が-8.0°より小さい範囲および+8.0°より大きい範囲では、長時間成長を行うと多結晶化してしまうため、良質な単結晶が得られない。
【0083】
また、本発明では、上記ダイヤモンド基板の製造方法において、前記下地基板上に形成するダイヤモンドの総厚を、80~2000μmとすることができる。
【0084】
このような総厚であれば、(111)高配向結晶が得やすい。
【0085】
80μm以上の厚みであれば、転位欠陥が少なく配向性が高い。一方、2000μm以下の厚みであれば、成長初期とプラズマに対する成長位置が同じであるため、基板温度の上昇、及び成長速度の上昇が起こらず、異常成長が多くなってしまうことがない。
【0086】
当該ダイヤモンド基板の製造を行う通常のCVD装置のチャンバー内壁はステンレス、ステージ類はステンレスおよびモリブデン、絶縁物類はSi3N4、SiC、Al2O3、BNなど、覗き窓はSiO2が使用されている。この様な通常のCVD装置で、ダイヤモンド製造を行うと、ダイヤモンド結晶中にSiが混入して、これは珪素-空孔センター(SiVC)を形成して、ダイヤモンド基板を電子・磁気センサーに使用する場合のノイズ源となる。
【0087】
そこで、本発明では、上記ダイヤモンド基板の製造方法において、CVDを行うチャンバーにはSi含有の部材を使用しないことが好ましい。
【0088】
特に、Si混入源と考えられるのはCVDを行うチャンバーの覗き窓である。従って、前記CVDを行うチャンバーの覗き窓に、サファイアを用いることが好ましい。
【0089】
また、本発明では、上記ダイヤモンド基板の製造方法により得られた前記(111)配向ダイヤモンド結晶を含む積層基板から、前記下地基板を除去して、(111)配向ダイヤモンド基板を得ることができる。
【0090】
また、本発明では、上記ダイヤモンド基板の製造方法により得られた前記(111)配向ダイヤモンド結晶を含む積層基板から、前記下地基板、前記下層基板、または前記中間層と下層基板の両方を除去して、(111)配向ダイヤモンド基板を得ることもできる。
【0091】
NVC含有部分の存在割合を大きくしたものでは、実使用でのノイズの原因を減らせるため、高感度な電子・磁気デバイスの実現が可能となる。
【0092】
図3には、積層構造の下地基板(下層基板3、中間層4)上に、(111)配向ダイヤモンド結晶6、更に(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶5の順で形成した場合のダイヤモンド基板を示す。
【0093】
図4には、下地基板部分を除去して、(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶5/(111)配向ダイヤモンド結晶6の自立構造基板とした場合を示す。
【0094】
また、本発明では、上記ダイヤモンド基板の製造方法により得られた、前記(111)配向ダイヤモンド結晶の表面を、平滑化することが好ましい。
【0095】
平滑化を行うには、機械的研磨、化学・機械的研磨、プラズマ処理、スパッタ処理、化学エッチング、などを行うと良い。
【実施例0096】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0097】
(実施例1)
下地基板として、直径20.0mm、厚さ1.0mm、主表面が(111)面で、結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-12]方向に+4°のオフ角を有する、片面研磨された単結晶MgO基板(以下、「単結晶MgO(111)基板」という)を用意した。
【0098】
次に、用意した単結晶MgO(111)基板の表面に、RFマグネトロンスパッタ法によって単結晶Ir膜の中間層を形成した。単結晶Ir膜の形成には、直径6インチ(150mm)、厚さ5.0mm、純度99.9%以上のIrをターゲットとした、高周波(RF)マグネトロンスパッタ法(13.56MHz)を用いた。
【0099】
下層基板である単結晶MgO(111)基板を800℃に加熱し、ベースプレッシャーが6×10-7Torr(約8.0×10-5Pa)以下になったのを確認した後、Arガスを50sccmで導入した。次に、排気系に通じるバルブの開口度を調節して圧力を3×10-1Torr(約39.9Pa)とした後、RF電力1000Wを入力して15分間成膜を行った。これにより、厚さ1.0μmの単結晶Ir膜が得られた。
【0100】
上述のようにして得られた、単結晶MgO(111)基板上に単結晶Ir膜を積層させたもの(Ir(111)膜/単結晶MgO(111)基板)は、単結晶MgO(111)基板に付けられたオフ角にならって、ヘテロエピタキシャル成長する。この単結晶Ir膜を、波長λ=1.54ÅのX線回折・Out-of-plane法で分析したところ、表面が(111)面で、結晶面方位(111)に対して、結晶軸[-1-12]方向に+4°のオフ角が付いていた。また、Ir(111)帰属の2θ=40.7°における回折ピークの半値幅(FWHM)が0.142°であった。この単結晶Ir膜を、以下、「Ir(111)膜」という。
【0101】
次に、ダイヤモンドの核形成を行うための前処理として、核形成処理(バイアス処理)を行った。処理室内の直径25mmの平板型電極上に、Ir(111)膜側を上にしてIr(111)膜/単結晶MgO(111)基板をセットした。ベースプレッシャーが1×10-6Torr(約1.3×10-4Pa)以下になったのを確認した後、水素希釈メタンガス(CH4/(CH4+H2)=5.0vol.%)を、処理室内に500sccmの流量で導入した。排気系に通じるバルブの開口度を調整して、圧力を100Torr(約1.3×104Pa)とした後、Ir(111)膜/単結晶MgO(111)基板側電極に負電圧を印加して90秒間プラズマにさらして、Ir(111)膜/単結晶MgO(111)基板のIr(111)膜表面をバイアス処理した。
【0102】
上述のようにして作製したIr(111)膜/単結晶MgO(111)基板上に、マイクロ波プラズマCVD法によって(111)配向ダイヤモンド結晶をヘテロエピタキシャル成長させた。バイアス処理を行ったIr(111)膜/単結晶MgO(111)基板を、マイクロ波プラズマCVD装置のチャンバー内にセットし、ベースプレッシャーが1×10-6Torr(約1.3×10-4Pa)以下になったのを確認した後、基板温度を860~970℃として原料であるメタンガス、水素ガスの混合ガスを、
メタンガス 3.0000vol.%、
水素ガス 97.0000vol.%、
の体積比で、チャンバー内に500sccmの流量で導入した。排気系に通じるバルブの開口度を調整して、チャンバー内のプレッシャーを110Torr(約1.5×104Pa)にした後、3500Wのマイクロ波を印加して99時間成膜を行うことで、厚さが約140μmに達するまで成膜を行った(成長速度1.4μm/h)。
【0103】
このようにして、Ir(111)膜/単結晶MgO(111)基板上に、(111)配向ダイヤモンド結晶をヘテロエピタキシャル成長させて、積層基板を得た。
【0104】
この後、Ir(111)膜/単結晶MgO(111)基板を除去して自立基板化を行った。まず、単結晶MgO(111)基板をエッチング除去した後、Ir(111)膜を研磨で除去した。その結果、直径20mm、(111)配向ダイヤモンド結晶140μmの自立基板((111)配向ダイヤモンド基板)が得られた。
【0105】
当該(111)配向ダイヤモンド基板の(111)配向ダイヤモンド結晶の表面をスカイフ研磨加工して平滑化し鏡面に仕上げた。(111)配向ダイヤモンド結晶の表面を、光学式表面粗さ計(ZYGO社 New View 5032)で,290μm×218μm領域を測定したところ、平均表面粗さRa=0.4(nm)であった(研磨済み窒素アンドープ単結晶(111)配向ダイヤモンド基板)。
【0106】
次に当該研磨済み窒素アンドープ単結晶(111)配向ダイヤモンド基板について、X線回折分析を行った。
分析には、X線回折(XRD)装置(RIGAKU SmartLab、X線波長λ=1.54Å)で、結晶最表面から結晶性を測定した。
【0107】
最初に、極点法で結晶配向を見た。ステージ上に試料表面を上向きにセットし、X線発生部として対陰極Cuを用い、出力45kV 200mA、試料を直径方向(α)及び周方向(β)に移動させながら、評価回折面(111)、回折角度2θ=43.9°についてステップ幅1°の条件で測定を行った。
【0108】
その結果、(111)面が基板主表面法線方向を向いている時の(111)面回折ピークが検出され、一方(001)面が基板主表面法線方向を向いている時の(111)面回折ピークが検出されないものであった。結果を
図6に示す。
【0109】
図6に示す通り、(111)面が基板主表面法線方向を向いている時の(111)面回折ピークが、α=0°、β=0°付近に観測された。また、(111)面が基板主表面側面方向を向いている時の(111)面回折ピークが、α=70.6°、βが120°間隔付近に観測された。
図7に
図6の結果の立体表示結果を示す。明らかに(111)配向の結晶であった。
【0110】
一方(001)面が基板主表面法線方向を向いている時の(111)面回折ピークは、α=54.7°、βが90°間隔で検出されるが、本発明の研磨済み窒素アンドープ単結晶(111)配向ダイヤモンド基板では検出されなかった。
【0111】
次に、前記と同一のXRD装置を用いて、Out-of-plane法で結晶配向を見た。X線発生部として対陰極Cuを用い、出力45kV 200mA、評価回折面(111)、回折角度2θ=43.9°、入射角度ω=23~29°、ステップ幅0.001°、走査速度1°/minの条件でロッキングカーブを取った結果、オフ角+5°、ロッキングカーブ半値幅は0.665°であった。
【0112】
従って、当該研磨済み窒素アンドープ単結晶(111)配向ダイヤモンド基板は、(111)高配向な結晶であった。このような基板を電子・磁気デバイスに適用すれば、高性能デバイスを得ることができる。
【0113】
更に、当該研磨済み窒素アンドープ単結晶(111)配向ダイヤモンド基板に対して、前述のマイクロ波プラズマCVD法によって、メタンガス、水素ガス、更に窒素ガスを添加した混合ガスを、
メタンガス 0.4000vol.%、
水素ガス 99.5995vol.%
窒素ガス 0.0005vol.%,
の体積比で、チャンバー内に500sccmの流量で導入した。マイクロ波電力3500W、プレッシャー110Torr(約1.5×104Pa)で、8時間圧力、マイクロ波電力は同一のままとした。基板温度を680℃にした後、当該条件で、5時間成膜を行うことで、窒素ドープ層((111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶)を厚さ約8μmに達するまで成膜を行った(成長速度1.6μm/h)。このようにして、(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶/研磨済み窒素アンドープ単結晶(111)配向ダイヤモンド積層基板を得た。
【0114】
最後に、仕上がった(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶/研磨済み窒素アンドープ単結晶(111)配向ダイヤモンド積層基板についてSIMS、PLの各分析を行った。
【0115】
二次イオン質量分析(SIMS)装置(CAMECA IMS-7f)で(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶/研磨済み窒素アンドープ単結晶(111)配向ダイヤモンド積層基板中の窒素濃度[N]を測定した。その結果、(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶/研磨済み窒素アンドープ単結晶(111)配向ダイヤモンド積層基板最表面から約8μmの深さにおける窒素濃度[N]は、[N]=6×1017atoms/cm3であった。
【0116】
次に、フォトルミネッセンス(PL)装置(日本分光 NRS-4500)で、励起光波長532nm、励起光強度0.02mW、積算時間1秒、積算回数3回、対物レンズ100倍、室温測定(約298K)の条件で測定した。その結果、NV-センター(NVC)光(波長637nm)の鋭いピークが見られた。その一方で、シリコン空孔センター光(波長738nm)は検出されなかった。結果を
図8に示す。
【0117】
従って、得られた(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶は、NV軸が[111]配向、かつNVCが高密度に形成された、(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶であった。当該(111)配向窒素ドープダイヤモンド結晶を、電子・磁気デバイスに適用すれば、高性能デバイスとなる。例えば高感度な磁気センサーを得ることができる。
【0118】
(実施例2)
基板温度を800~850℃、成膜時間を45時間、成長速度を0.7μm/hとした以外は、実施例1と同様に研磨済み窒素アンドープ単結晶(111)配向ダイヤモンド基板を作製した。
【0119】
(実施例3)
基板温度を860~1020℃、原料であるメタンガス、水素ガスの混合ガスを、
メタンガス 4.0000vol.%、
水素ガス 96.0000vol.%、
の体積比、成膜時間を100時間、成長速度を2.4μm/hとした以外は、実施例1と同様に研磨済み窒素アンドープ単結晶(111)配向ダイヤモンド基板を作製した。
【0120】
(比較例1)
実施例1と同様に作製したIr(111)膜/単結晶MgO(111)基板上に、マイクロ波プラズマCVD法によってダイヤモンド結晶をヘテロエピタキシャル成長させた。バイアス処理を行ったIr(111)膜/単結晶MgO(111)基板を、マイクロ波プラズマCVD装置のチャンバー内にセットし、ベースプレッシャーが1×10-6Torr(約1.3×10-4Pa)以下になったのを確認した後、基板温度を830~1090℃として原料であるメタンガス、水素ガスの混合ガスを、
メタンガス 3.0000vol.%、
水素ガス 97.0000vol.%、
の体積比で、チャンバー内に2000sccmの流量で導入した。排気系に通じるバルブの開口度を調整して、チャンバー内のプレッシャーを110Torr(約1.5×104Pa)にした後、3500Wのマイクロ波を印加して96時間成膜を行うことで、厚さが約500μmに達するまで成膜を行った(成長速度5.2μm/h)。
【0121】
このようにして、Ir(111)膜/単結晶MgO(111)基板上に、ダイヤモンド結晶をヘテロエピタキシャル成長させて、積層基板を得た。
【0122】
この後、Ir(111)膜/単結晶MgO(111)基板を除去して自立基板化を行った。まず、単結晶MgO(111)基板をエッチング除去した後、Ir(111)膜を研磨で除去した。その結果、直径20mm、アンドープ単結晶ダイヤモンド膜の自立基板(ダイヤモンド基板)が得られた。当該ダイヤモンド基板の表面をスカイフ研磨加工して鏡面に仕上げ、研磨済み窒素アンドープ単結晶ダイヤモンド基板を得た。
【0123】
次に当該研磨済み窒素アンドープ単結晶ダイヤモンド基板について、実施例1と同様に結晶方位を調べるため、X線回折分析を行った。更に、試料断面を電子線回折法の一種である電子後方散乱回折法(EBSD法)でも分析を行った。EBSD法による分析結果を
図9に示す。
【0124】
(比較例2)
基板温度を860~1060℃、原料であるメタンガス、水素ガスの混合ガスを、
メタンガス 6.0000vol.%、
水素ガス 94.0000vol.%、
の体積比で、チャンバー内に500sccmの流量で導入し、成膜時間を20時間、成長速度を3.9μm/hとした以外は、比較例1と同様に研磨済み窒素アンドープ単結晶ダイヤモンド基板を作製した。
【0125】
【0126】
図9から判るように、成長速度が3.8μm/h未満なら(111)配向であり、(001)配向にならなかった。
【0127】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。