(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022020451
(43)【公開日】2022-02-01
(54)【発明の名称】解析方法、解析装置及び解析プログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20220125BHJP
【FI】
G06F17/50 612H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020123952
(22)【出願日】2020-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】特許業務法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久野 伸晃
(72)【発明者】
【氏名】山田 渉
(72)【発明者】
【氏名】中村 光貴
(72)【発明者】
【氏名】淺井 裕介
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 泰司
(72)【発明者】
【氏名】日景 隆
(72)【発明者】
【氏名】山本 学
【テーマコード(参考)】
5B046
5B146
【Fターム(参考)】
5B046FA06
5B046HA05
5B046JA02
5B046JA10
5B046KA05
5B146DG02
5B146DJ04
5B146DJ07
5B146DL08
5B146EA08
5B146EC09
(57)【要約】
【課題】電磁界解析に必要な記憶容量を削減し、計算時間を短縮させることができる解析方法、解析装置及び解析プログラムを提供することを目的とする。
【解決手段】FDTD法を用いて電磁界解析を行う解析方法において、解析対象となる有限領域内から外部へ電磁界を放射させる開口部となる面領域を抽出する抽出工程と、面領域に対し、電界に関する波動方程式における反射を0とする吸収面領域を設定する領域設定工程と、ブロックごとに定められた媒質定数を記憶する記憶部が記憶している媒質定数、及び吸収面領域を用いてブロックごとに電磁界成分を計算する計算工程とを含むことを特徴とする。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FDTD法を用いて電磁界解析を行う解析方法において、
解析対象となる有限領域内から外部へ電磁界を放射させる開口部となる面領域を抽出する抽出工程と、
前記面領域に対し、電界に関する波動方程式における反射を0とする吸収面領域を設定する領域設定工程と、
ブロックごとに定められた媒質定数を記憶する記憶部が記憶している媒質定数、及び前記吸収面領域を用いてブロックごとに電磁界成分を計算する計算工程と
を含むことを特徴とする解析方法。
【請求項2】
前記領域設定工程では、
前記面領域に対し、前記波動方程式における反射がある反射面領域を前記吸収面領域に重ねて設定すること
を特徴とする請求項1に記載の解析方法。
【請求項3】
FDTD法を用いて電磁界解析を行う解析装置において、
ブロックごとに定められた媒質定数を記憶する記憶部と、
解析対象となる有限領域内から外部へ電磁界を放射させる開口部となる面領域を抽出する抽出部と、
前記面領域に対し、電界に関する波動方程式における反射を0とする吸収面領域を設定する領域設定部と、
前記記憶部が記憶している媒質定数、及び前記吸収面領域を用いてブロックごとに電磁界成分を計算する計算部と
を有することを特徴とする解析装置。
【請求項4】
前記領域設定部は、
前記面領域に対し、前記波動方程式における反射がある反射面領域を前記吸収面領域に重ねて設定すること
を特徴とする請求項3に記載の解析装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の解析装置の各部としてコンピュータを機能させるための解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析方法、解析装置及び解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムの高速化が進むにつれて、装置から発生する電磁界を適切に解析する必要性が高まっている。例えば、FDTD法(Finite-difference time-domain method)は、解析領域を多数のブロック(ボクセル)に分割し、解析領域内の波源により生じる電界と磁界をマクスウェル方程式に基づいて時間更新していく電磁界解析手法である。
【0003】
FDTD法では、電界と磁界の時間更新を行うときに、前時間ステップにおける電界と磁界、及びブロックごとの導電率や透磁率などの媒質定数を用いる。そのため、電磁界解析のための計算には、ブロック数に応じた電界、磁界、媒質定数を保持するためのメモリが必要である(例えば、特許文献1参照、非特許文献1参照)。
【0004】
また、解析領域の最外にある境界面は、吸収境界条件と呼ばれる電界及び磁界を吸収する層(主に完全整合層(PML:Perfectly Matched Layer)により終端される。これにより、解析領域内に設置されたアンテナなどの放射源から伝搬して境界に達した電磁波が、解析領域境界で反射されて再び解析領域内に戻ることを防ぎ、仮想的に無限空間(開境界)を再現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Robert L.Higdon, “Absorbing Boundary Conditions for Difference Approximations to the Multi-Dimensional Wave Equation.”, Mathematics of computation, American Mathematical Society, october 1986, volume 47, number 176, pp. 437-459
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
部屋又はオフィスルームなどの屋内において、内部に設置された無線器から放射される電波の伝搬特性評価を行う場合、ガラス材からなる窓や空隙部から屋外へ放射する電磁界を考慮する必要がある。このため、評価対象の部屋などを取り囲むように解析領域を拡張し、解析領域境界に吸収境界条件を設定する必要がある。
【0008】
この場合、拡張領域及び境界条件適用のためのボクセル数が増加し、解析計算を実行するために必要な主記憶メモリが増加してしまうとともに、当該拡張領域及び吸収境界条件におけるボクセルの電磁界計算に要する時間が増加してしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、電磁界解析に必要な記憶容量を削減し、計算時間を短縮させることができる解析方法、解析装置及び解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様にかかる解析方法は、FDTD法を用いて電磁界解析を行う解析方法において、解析対象となる有限領域内から外部へ電磁界を放射させる開口部となる面領域を抽出する抽出工程と、前記面領域に対し、電界に関する波動方程式における反射を0とする吸収面領域を設定する領域設定工程と、ブロックごとに定められた媒質定数を記憶する記憶部が記憶している媒質定数、及び前記吸収面領域を用いてブロックごとに電磁界成分を計算する計算工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様にかかる解析装置は、FDTD法を用いて電磁界解析を行う解析装置において、ブロックごとに定められた媒質定数を記憶する記憶部と、解析対象となる有限領域内から外部へ電磁界を放射させる開口部となる面領域を抽出する抽出部と、前記面領域に対し、電界に関する波動方程式における反射を0とする吸収面領域を設定する領域設定部と、前記記憶部が記憶している媒質定数、及び前記吸収面領域を用いてブロックごとに電磁界成分を計算する計算部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電磁界解析に必要な記憶容量を削減し、計算時間を短縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】屋内に電波の放射源がある場合におけるFDTD解析空間の比較例を示す図である。
【
図2】(a)は、拡張領域のない外部へ屋内領域から放射された電磁界の具体例を模式的に示す図である。(b)は、拡張領域を設けられた外部へ屋内領域から放射された電磁界の比較例としての具体例を模式的に示す図である。
【
図3】(a)は、FDTD解析空間の全体を例示する図である。(b)は、FDTD解析空間の開口部周辺を拡大して例示する図である。(c)は、FDTD解析空間の変形例における開口部周辺を拡大して例示する図である。
【
図4】一実施形態にかかる解析装置が有する機能を例示する機能ブロック図である。
【
図5】Yeeセル(Yee格子)を例示する図である。
【
図6】一実施形態にかかる解析装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図7】比較例の解析装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図8】一実施形態にかかる解析装置のハードウェア構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、FDTD法を用いた電磁界解析例を説明する。
図1は、屋内(室内)に電波の放射源がある場合におけるFDTD解析空間の比較例を示す図である。
図1に示すように、例えば部屋内の空間である屋内領域1には、電波を放射する無線通信装置などの放射源2があるとする。
【0015】
屋内領域1は、電磁界解析の解析対象となる有限領域である。屋内領域1には、解析モデルにおける例えば窓又は隙間(空隙部)などの電磁界を外部へ放射させる開口部3-1~3-3があるとする。放射源2は、例えばWi-Fi(登録商標)機器としてデバイス間の相互接続が認められた無線通信装置、又は5G(第5世代移動通信システム)に対応する携帯電話などの電波を放射する装置である。
【0016】
この場合、屋内領域1における電波の伝搬特性評価を行うために、屋内領域1を取り囲むように解析領域(解析対象となる有限領域)を拡張した拡張領域4と、拡張領域4の最外にある境界における吸収境界条件を設定する必要がある。
【0017】
図2は、屋内領域1から外部へ放射された電磁界(電波)の具体例を模式的に示す図である。
図2(a)は、拡張領域4のない外部へ屋内領域1から放射された電磁界の具体例を模式的に示す図である。
図2(b)は、拡張領域4を設けられた外部へ屋内領域1から放射された電磁界の比較例としての具体例を模式的に示す図である。
【0018】
図2(a)に示すように、屋内領域1内で放射された電磁界は、開口部3を通って屋内領域1の外へ放射される(破線内参照)。この場合、屋内領域1における電波の伝搬特性評価を行うためには、屋内領域1を取り囲むように解析領域を拡張した拡張領域4と、拡張領域4の最外にある境界における吸収境界条件が設定される(
図2(b)参照)。
【0019】
電波の部屋からの漏洩は、5Gの通信システムのように、使用する周波数が高くなればより顕著となる。なお、部屋の壁面からの電波の漏洩及び放射は無視できることとする。部屋の壁面は、当該壁面自体が金属製であったり、内部に金属製の構造物を有する場合が多いためである。
【0020】
このように、比較例のFDTD解析空間を用いて屋内領域1の電磁界解析を行う場合、屋外への漏洩電磁界成分を考慮するために、解析領域の拡張及び吸収境界条件の設定が必要である。
【0021】
しかし、漏洩電磁界成分が屋内に再侵入するような特別な場合を除き、屋外に伝搬する電波の開口部3を吸収領域に置き換えて計算しても、屋内領域1の電磁界解析を行うことは可能である。
【0022】
そこで、一実施形態にかかる解析装置10(
図4等を用いて後述)は、屋外に電波を伝搬させる開口部3を例えば2次元の吸収面領域に置き換えて取り扱うように構成されている。したがって、解析装置10は、解析対象となるボクセル数を大幅に減らすことが可能となり、同時に電磁界成分を計算すべきボクセル数を削減して、解析に要する計算時間を短縮させることができる。
【0023】
図3は、一実施形態にかかる解析装置10が電磁界解析を行う場合のFDTD解析空間を例示する図である。
図3(a)は、FDTD解析空間の全体を例示する図である。
図3(b)は、FDTD解析空間の開口部周辺を拡大して例示する図である。
図3(c)は、FDTD解析空間の変形例における開口部周辺を拡大して例示する図である。
【0024】
なお、
図3において、
図1に示した構成と実質的に同一の構成には、同一の符号が付してある。また、開口部3-1~3-3のように複数ある構成のいずれかを特定しない場合には、単に開口部3などと略記する。
【0025】
一実施形態にかかる解析装置10が電磁界解析を行う場合のFDTD解析空間においては、上述した拡張領域4、及び拡張領域4の最外にある境界における吸収境界条件の設定が不要である。
【0026】
ただし、解析装置10は、
図3(a)に示すように、上述した開口部3-1~3-3それぞれに対応する領域である面領域を抽出し、抽出した面領域に対して、電界に関する波動方程式(ヘルムホルツ方程式)における反射を0とする例えば2次元の吸収面領域5-1~5-3を置き換えとして設定する。そして、解析装置10は、ブロックごとに電磁界成分を計算して電磁界解析を行う。
【0027】
例えば、解析装置10は、
図3(b)に示したように、吸収面領域5において反射を0とする。
【0028】
また、解析装置10は、
図3(c)に示したように、反射がある反射面領域6-2,6-3などを吸収面領域5それぞれに重ねて設定し、窓のガラス材などによる反射を考慮した解析を行ってもよい。すなわち、解析装置10は、吸収面領域5を2層構造として設定し、一部の反射波を考慮してもよい。
【0029】
次に、一実施形態にかかる解析装置10の具体例について説明する。
図4は、一実施形態にかかる解析装置10が有する機能を例示する機能ブロック図である。
【0030】
図4に示すように、解析装置10は、記憶部11、パラメータ設定部12、配列初期化部13、配列データ読取部14、計算部15、抽出部16、領域設定部17、及び制御部18を有し、FDTD法を用いて電磁界解析を行う。
【0031】
記憶部11は、解析空間情報記憶部110及びボクセルモデル(ブロックモデル)記憶部112を有し、例えばバス100及びバス102を介してデータの読込み(書込み)及び読出しを可能にされたメモリ(主記憶装置)などによって構成されている。また、記憶部11は、計算部15、抽出部16、領域設定部17及び制御部18が処理した結果も記憶するようにされている。
【0032】
解析空間情報記憶部110は、上述した解析領域となる屋内領域1に関する情報を記憶する。例えば、解析空間情報記憶部110は、上述したブロック(ボクセル)それぞれの媒質定数をモデルごとに記憶する。ボクセルモデル記憶部112は、例えば1つ以上の解析モデルを記憶する。
【0033】
パラメータ設定部12は、解析を行うための屋内領域1に対する解析空間サイズ、ブロックサイズ、離散時間間隔の定義、解析モデル(アンテナや空間の条件等)の設定を行い、バス100を介して設定値を記憶部11に記憶させる。
【0034】
配列初期化部13は、解析を行うために必要なサイズの配列を、解析空間の電界及び磁界を算出するために確保し、バス100を介して記憶部11に記憶させる。
【0035】
配列データ読取部14は、算出に用いる配列データを読取り、バス100を介して記憶部11に記憶させる。
【0036】
計算部15は、電界成分計算部150、電界吸収境界条件計算部152、及び磁界成分計算部154を有する。
【0037】
電界成分計算部150は、解析空間情報記憶部110からブロックごとに媒質定数を読出し、ボクセルモデル記憶部112から読出したモデルごとに各ブロックに対する電界成分を計算し、バス102を介して計算結果を記憶部11に記憶させる。
【0038】
電界吸収境界条件計算部152は、屋内領域1における電界成分の吸収境界条件を算出し、電界成分計算部150が算出した電界成分に対して吸収境界条件を適用する計算を行い、バス102を介して計算結果を記憶部11に記憶させる。
【0039】
磁界成分計算部154は、解析空間情報記憶部110からブロックごとに媒質定数を読出し、ボクセルモデル記憶部112から読出したモデルごとに各ブロックに対する磁界成分を計算し、バス102を介して計算結果を記憶部11に記憶させる。
【0040】
抽出部16は、屋内領域1から外部へ電磁界を放射させる開口部3-1~3-3となる面領域を抽出し、抽出した面領域を、バス102を介して記憶部11に記憶させる。
【0041】
領域設定部17は、抽出部16が抽出した面領域に対し、電界に関する波動方程式における反射を0とする吸収面領域5-1~5-3を設定し、設定した吸収面領域5-1~5-3を、バス102を介して記憶部11に記憶させる。また、領域設定部17は、抽出部16が抽出した面領域に対し、波動方程式における反射がある上述の反射面領域6を吸収面領域5-1~5-3それぞれに重ねて設定してもよい。
【0042】
制御部18は、解析装置10を構成する各部を制御する。例えば、制御部18は、記憶部11が記憶している媒質定数、及び吸収面領域5-1~5-3を用いて、計算部15がブロックごとに電磁界成分を計算するように制御を行う。
【0043】
なお、解析装置10が備える計算部15は、以下のように吸収面領域5における電界を定式化する。例えば、計算部15は、下式(1)~(3)に示したように、電界に関する波動方程式(ヘルムホルツ方程式)を求める。
【0044】
【0045】
ここで、計算部15は、位相速度をvp(m/s)とし、Sx,Sy,Szを下式(4)~(6)のように示すと、上述した式を満たすためには、下式(7)の関係となる。
【0046】
【0047】
つまり、計算部15が定式化する吸収面領域5が満たすべき条件は、当該吸収面領域5が反射する電界成分を0(零)にすることによって実現される。例えば、x=0のyz平面において、x>0から伝搬してきた平面波Ey及びEzは、それぞれ下式(8),(9)を満たせばよい。
【0048】
【0049】
なお、吸収面領域5に入射される平面波の方向は未知であるため、例えば上式(8)における下式(10)により示される値を決定するためには、近似法が必要となる。
【0050】
【0051】
そこで、計算部15は、吸収面領域5に入射される平面波の電界に関して、空間と時間の進行に対する平均化(平均化法)に基づいて以下のような取り扱いを行うことにより、2次元の吸収面領域5において十分な吸収特性を実現する。
【0052】
ここで、計算部15は、FDTD解析における時間変更間隔を△tとし、nを整数とする。また、計算部15は、空間を離散化するYeeセル(Yee格子)を
図5に示したものとする。
【0053】
図5において、△x,△y及び△zは、x軸方向,y軸方向及びz軸方向のセル寸法を示す。また、セル上の離散化された座標及び離散時間で評価する任意関数uの表記を下式(11)に示すように簡単化する。
【0054】
【0055】
例えば、-x方向に伝搬する電波に対する吸収面領域5(yz面に設定し、x=0とする)の定式化について示す。-x方向に伝搬する電界成分Ey及びEzに適用される条件は、下式(12)によって表される。
【0056】
【0057】
電界成分Ezについても、電界成分Eyについての上式(12)と同様に、下式(13)によって算出可能である。
【0058】
【0059】
なお、xy面には、z軸インデックス(k=1・・・Nxにより表される位置と寸法)を用いる。xz面には、y軸インデックス(k=1・・・Nyにより表される位置と寸法)を用いる。yz面には、x軸インデックス(k=1・・・Nzにより表される位置と寸法)を用いる。また、y方向及びz方向に伝搬する電界成分に対する吸収面領域5についての定式化も同様に、算出可能である。
【0060】
このように、解析装置10は、計算部15が吸収面領域5の定式化を行うので、電界成分にのみ作用させ、十分な吸収特性を実現することができる。すなわち、計算部15は、従来のPMLなどを吸収境界条件として適用した場合のように電界と磁界の両成分に対する吸収条件の計算プロセスを行う必要がない。よって、解析装置10は、計算プロセスを半減化できるため解析実行に必要なリソース(主記憶メモリ及び計算時間)を削減することができる。
【0061】
次に、一実施形態にかかる解析装置10の動作例について説明する。
図6は、一実施形態にかかる解析装置10の動作例を示すフローチャートである。
【0062】
図6に示すように、解析装置10は、まず計算対象モデルを読み込む(S100)。そして、解析装置10は、屋外へ電波を放射する開口部3を抽出し、開口部3に対応する2次元の吸収面領域5を設定する(S102)。
【0063】
その後、解析装置10は、解析領域を決定し(S104)、解析領域の各材質に対応する媒質定数の割当てを行う(S106)。
【0064】
そして、解析装置10は、時間ステップの更新を行い(S108)、電界成分の計算を行って(S110)、電界成分に対する吸収境界条件を適用する計算を行う(S112)。
【0065】
次に、解析装置10は、磁界成分の計算を行い(S114)、電磁界成分計算が収束したか否かを判定する(S116)。解析装置10は、電磁界成分計算が収束していないと判定した場合(S116:No)にはS108の処理に戻り、電磁界成分計算が収束したと判定した場合(S116:Yes)には処理を終了する。
【0066】
このように、一実施形態にかかる解析装置10は、上述した拡張領域4(
図1)と、拡張領域4の最外にある境界における吸収境界条件を設定しない。
【0067】
つまり、解析装置10は、解析領域から外部へ電磁界を放射させる開口部となる面領域を抽出し、抽出した面領域に対して、電界に関する波動方程式における反射を0とする吸収面領域を設定するので、電磁界解析に必要な記憶容量を削減し、計算時間を短縮させることができる。
【0068】
次に、比較例の解析装置の動作例について説明する。
図7は、比較例の解析装置の動作例を示すフローチャートである。
【0069】
図7に示すように、比較例の解析装置は、まず計算対象モデルを読み込む(S100)。そして、比較例の解析装置は、屋外の拡張領域及び吸収境界条件の設定を伴う解析領域の決定を行い(S101)、解析領域の各材質に対応する媒質定数の割当てを行う(S106)。
【0070】
そして、比較例の解析装置は、時間ステップの更新を行い(S108)、電界成分の計算を行って(S110)、電界成分に対する吸収境界条件を適用する計算を行う(S112)。
【0071】
次に、比較例の解析装置は、磁界成分の計算を行い(S114)、磁界成分に対する吸収境界条件を適用する計算を行う(S115)。
【0072】
その後、比較例の解析装置は、電磁界成分計算が収束したか否かを判定する(S116)。比較例の解析装置は、電磁界成分計算が収束していないと判定した場合(S116:No)にはS108の処理に戻り、電磁界成分計算が収束したと判定した場合(S116:Yes)には処理を終了する。
【0073】
つまり、比較例の解析装置は、上述した拡張領域4(
図1)と、拡張領域4の最外にある境界における吸収境界条件を設定するので、電磁界解析に必要な記憶容量が増加してしまい、計算時間も長くなってしまう。
【0074】
なお、解析装置10が有する各機能は、それぞれ一部又は全部がハードウェアによって構成されてもよいし、CPU等のプロセッサが実行するプログラムとして構成されてもよい。
【0075】
すなわち、本発明にかかる解析装置10は、コンピュータとプログラムを用いて実現することができ、プログラムを記憶媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0076】
図8は、一実施形態にかかる解析装置10のハードウェア構成例を示す図である。
図8に示すように、解析装置10は、例えば入力部20、出力部21、通信部22、CPU23、メモリ24及びHDD25がバス26を介して接続され、コンピュータとしての機能を備える。また、解析装置10は、記憶媒体27との間でデータを入出力することができるようにされている。
【0077】
入力部20は、例えばキーボード及びマウス等である。出力部21は、例えばディスプレイなどの表示装置である。通信部22は、例えば有線及び無線のネットワークインターフェースである。
【0078】
CPU23は、解析装置10を構成する各部を制御し、上述した計算等を行う。メモリ24及びHDD25は、データ等を記憶する記憶部11を構成する。特に、メモリ24は、上述した計算に用いる各データを記憶する。記憶媒体27は、解析装置10が有する機能を実行させる解析プログラム等を記憶可能にされている。なお、解析装置10を構成するアーキテクチャは
図8に示した例に限定されない。
【0079】
以上述べた実施形態は、本発明の実施形態を例示的に示すものであって、限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様でも実施することができる。
【符号の説明】
【0080】
1・・・屋内領域、2・・・放射源、3-1~3-3・・・開口部、4・・・拡張領域、5-1~5-3・・・吸収面領域、6・・・反射面領域、10・・・解析装置、11・・・記憶部、12・・・パラメータ設定部、13・・・配列初期化部、14・・・配列データ読取部、15・・・計算部、16・・・抽出部、17・・・領域設定部、18・・・制御部、20・・・入力部、21・・・出力部、22・・・通信部、23・・・CPU、24・・・メモリ、25・・・HDD、26・・・バス、27・・・記憶媒体、110・・・解析空間情報記憶部、112・・・ボクセルモデル記憶部、150・・・電界成分計算部、152・・・電界吸収境界条件計算部、154・・・磁界成分計算部