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特開2022-38694耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素および経口組成物
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  • 特開-耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素および経口組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022038694
(43)【公開日】2022-03-10
(54)【発明の名称】耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素および経口組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20220303BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20220303BHJP
   A61K 38/46 20060101ALI20220303BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20220303BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220303BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20220303BHJP
   C12N 9/14 20060101ALI20220303BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20220303BHJP
【FI】
C12N15/55
A61K35/747 ZNA
A61K38/46
A61P3/06
A61P9/10
C12N15/31
C12N9/14
A23L33/135
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020143314
(22)【出願日】2020-08-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業ソロタイプ「微生物叢と宿主の相互作用・共生の理解と、それに基づく疾患発症のメカニズム解明」研究開発領域、「生活習慣病に関わる「未知腸内細菌-ウイルス-宿主」間相互作用メカニズムの解明」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504202472
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100111464
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 悦子
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100197701
【弁理士】
【氏名又は名称】長野 正
(72)【発明者】
【氏名】玉木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】草田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】有田 正規
【テーマコード(参考)】
4B018
4B050
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB04
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB09
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE04
4B018LE05
4B018MD86
4B018ME01
4B018ME04
4B050DD02
4B050LL01
4B050LL02
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084CA04
4C084DC22
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZA45
4C084ZC33
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087CA16
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA45
4C087ZC33
(57)【要約】
【課題】耐熱性に優れる胆汁酸塩加水分解酵素、および当該胆汁酸塩加水分解酵素等を含む経口組成物を提供する。
【解決手段】耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素は、ラクトバチルス・パラガッセリの生産物であって、温度50~90℃の範囲で至適温度の60%以上の胆汁酸塩加水分解酵素活性を有する。ラクトバチルス・パラガッセリに属するJCM5343株は耐熱性に優れ、プロバイオティクス乳酸菌として使用することができ、当該菌株を加熱処理した菌株、前記耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を含有する経口組成物を提供することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・パラガッセリ(Lactobacillus paragasseri)の生産物であって、
温度50~90℃の範囲で至適温度の60%以上の胆汁酸塩加水分解酵素活性を有する、耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素。
【請求項2】
前記ラクトバチルスが、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株(Lactobacillus paragasseri JCM5343株)である、請求項1記載の耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素。
【請求項3】
前記生産物が、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、または
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項1または請求項2記載の耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれかに記載の耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を含む、経口組成物。
【請求項5】
ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株を温度50~85℃で120分以下の条件で加熱処理した菌体を含む、経口組成物。
【請求項6】
前記経口組成物が、飲料、食品、栄養補助食品、経口医薬のいずれかである、請求項4または請求項5に記載の経口組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ラクトバチルス・パラガッセリ(Lactobacillus paragasseri)が生産する耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素、および前記耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素やラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株(Lactobacillus paragasseri JCM5343株)を加熱処理した後の菌株を含む経口組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の乳酸菌が胆汁酸塩加水分解酵素(Bile salt hydrolase)活性(以下、BSH活性と称する。)を有することは公知である(非特許文献1)。胆汁酸は、コラン酸を基本骨格とするステロイド化合物であり肝臓で合成され、24位のカルボキシル基にタウリンやグリシンがアミド結合した抱合胆汁酸として胆嚢に貯蔵され、十二指腸に分泌される。抱合胆汁酸は腸内細菌により代謝変換を受け、胆汁酸塩加水分解酵素によりアミド結合が加水分解され遊離胆汁酸を生成する。高いBSH活性を有するビフィズス菌が生育する大腸内では、ほぼすべてが遊離胆汁酸となる。非特許文献1では、遊離胆汁酸は疎水性が高く、胆汁酸の抗菌活性と疎水性とは正の相関があるため、BSH活性に優れる菌株が活躍する大腸にはきわめて抗菌活性の高い胆汁酸が存在するという。
【0003】
胆汁酸は腸内で脱抱合され、食餌性及び胆汁性コレステロール吸収を減少させ、血中LDL-コレステロールレベルの制御を改善する。特許文献1はプロバイオティック乳酸菌と脂質改変活性成分とを含む組成物を提案している。また、特許文献2は、高度なBSH活性を持つ細菌の改良された経口組成物であって、血清コレステロール、血清脂質、体脂肪または動脈硬化指数を低減し、およびアテローム性動脈硬化、心血管または脳血管疾患の予防および治療のための経口組成物等を提案する。
【0004】
ここに、宿主に対して有効な保健効果を示す乳酸菌はプロバイオティクス乳酸菌と称され、ビフィドバクテリウム属菌やラクトバチルス属菌等の乳酸菌がプロバイオティクス乳酸菌として注目されている。プロバイオティクスは、腸内フローラのバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与える生きた微生物と定義され、生きたままの状態で消化管内に到達する必要がある。しかしながら、消化管内に到達するには、温度、pH、酸素、浸透圧、胃酸や胆汁酸等のプロバイオティクス乳酸菌の生育阻害環境や生育阻害物質が存在する。プロバイオティクス乳酸菌を経口摂取すると、腸管内の胆汁酸による強い界面活性効果と細胞膜に直接作用する殺菌効果とによる影響を大きく受けるため、特許文献3では、胆汁酸耐性能及び浸透圧耐性能を有するプロバイオティクス乳酸菌として、ラクトバチルス・ガセリSBT10801(FERMP-18137)を選定している。
【0005】
なお、ガセリ菌という名で販売されている製品の中には、ANI(Average Nucleotide Identity)解析によって近縁のラクトバチルス・パラガッセリが含まれていることが判明し、非特許文献2ではラクトバチルス属での遺伝子解析を行っている。ラクトバチルス・パラガッセリのJCM5343株は、ProteinID=BBD48441.1で特定されるタンパク質(配列番号1)を生産すること、および当該タンパク質のコーディング領域のDNA配列(配列番号2)はアメリカ国立生物工学情報センターにより公表されている。しかしながら、ラクトバチルス・パラガッセリが生産するタンパク質の特性は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2019-520353号公報
【特許文献2】特表2012-525338号公報
【特許文献3】特開2002-335953号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】乳酸菌・ビフィズス菌による胆汁酸ストレス応答;Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria, Vol. 21, No. 2, p87-94, 2010
【非特許文献2】Tanizawa et al., ”Lactobacillus paragasseri sp. nov., a sister taxon of Lactobacillus gasseri, based on whole-genome sequence analyses”,Int J Syst Evol Microbiol 68:p3512-3517 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に示すように、BSH活性を有するプロバイオティクス乳酸菌はアテローム性動脈硬化等の予防および治療のための経口組成物となりうる。しかしながら、プロバイオティクス乳酸菌に限定されず、腸内環境でBSH活性を発揮できれば生菌に限定される必要はない。また、製剤や食品などの組成物に加工する際には、保存性を高めるために加熱処理などが必要な場合があり、耐熱性に優れかつBSH活性が高い耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素の開発が望まれる。
【0009】
一方、BSH活性に優れるプロバイオティクス乳酸菌が、耐熱性にも優れる場合は、予め加熱処理した場合でも、経口投与により生きたままの状態で消化管内に到達し、その活性を発揮することができる。そこで、耐熱性およびBSH活性に優れるプロバイオティクス乳酸菌を用いた食品等の経口組成物の開発が望まれる。
【0010】
上記現状に鑑み、本開示は耐熱性およびBSH活性に優れる胆汁酸塩加水分解酵素を提供することを目的とする。
【0011】
更に本開示は、上記耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を含む経口組成物、および耐熱性に優れるプロバイオティクス乳酸菌を含む経口組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示者等は、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株が生産するタンパク質について詳細に検討したところ、このタンパク質がBSH活性を有すること、温度37℃でBSH活性が最も高いこと、および温度50~90℃の高温度域でも37℃のBSH活性の60%以上の酵素活性を有することを見出した。また、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株を食品衛生法の加熱基準に従って加熱処理した後に培養したところ、加熱処理後でも生育が観察され、かつBSH活性を有することを見出し、本開示を完成させた。
【0013】
すなわち本開示は、ラクトバチルス・パラガッセリの生産物であって、
温度50~90℃の範囲で至適温度の60%以上のBSH活性を有する、耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を提供するものである。
【0014】
また本開示は、前記ラクトバチルスが、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株である、上記耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を提供するものである。
【0015】
また本開示は、前記生産物が、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、または
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とする、上記耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を提供するものである。
【0016】
また本開示は、上記耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を含む、経口組成物を提供するものである。
【0017】
また本開示は、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株を温度50~85℃で120分以下の条件で加熱処理した菌体を含む、経口組成物を提供するものである。
【0018】
また本開示は、上記経口組成物が、飲料、食品、栄養補助食品、経口医薬のいずれかである、上記経口組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、新規耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素、耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素またはラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株を温度50~85℃で120分以下の条件で加熱処理した菌体を含む経口組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1の結果を示す図であり、製造例1で得た胆汁酸塩加水分解酵素の、各種抱合胆汁際に対するBSH活性の結果を示す図である。
図2】実施例1の結果を示す図であり、Aは、製造例1で得た胆汁酸塩加水分解酵素のpH3~10でのBSH活性の測定結果であり、Bは、温度10~90℃でのBSH活性の測定結果である。
図3】実施例2の結果示す図であり、製造例1で得た胆汁酸塩加水分解酵素をバッファーに溶解した酵素液を55~100℃で加熱した後の、至適条件における活性を100%とした値を対照とした相対的BSH活性を示す図である。
図4】実施例3の結果を示す図であり、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株を培養した後に上清と菌体とに分離し、それぞれを培養した結果を示す。
図5】実施例4の結果を示す図であり、実施例3で使用したラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株の耐熱性を示すものである。上段は、各種加熱処理後のMRS寒天培地の培養結果を、下段はMRS+0.25%タウロデオキシコール酸培地の培養結果を示す。
図6】実施例4の結果を示す図であり、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株の培養液を85℃で加熱した際の加熱経過時間毎の生育状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示の第1は、ラクトバチルス・パラガッセリの生産物であって、温度50~90℃の範囲で至適温度の60%以上のBSH活性を有する、耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素である。前記したようにガセリ菌の名称で使用されている製品の中にはラクトバチルス・パラガッセリが含まれ、ラクトバチルス・パラガッセリはプロバイオティクス乳酸菌として使用できる可能性がある。
【0022】
(1)ラクトバチルス・パラガッセリ
本開示で使用できるラクトバチルス・パラガッセリとしては、耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を生産できるものであればよく、例えばラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株、ラクトバチルス・パラガッセリJCM1130株、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5344株、ラクトバチルス・パラガッセリK7株、ラクトバチルス・パラガッセリJV―V03株などがある。ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株は、耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を生産しうるとともに、後記するようにBSH活性に優れかつ菌株自体が耐熱性を有する点で好ましい。
【0023】
(2)耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素
本開示の耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素は、温度50~90℃の範囲で至適温度の60%以上のBSH活性を有することを特徴とする。本開示において「至適温度」とは、耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素がBSH活性を示す際の至適温度を意味する。通常25~40℃である。後記する実施例に示すように、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株が生産する胆汁酸塩加水分解酵素の至適温度は37℃である。酵素は加熱により失活することが一般的であるが、本開示の耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素は、温度50℃以上の環境でも至適温度の60%以上、好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上のBSH活性を有する。なお、本開示において「耐熱性」とは、温度50~90℃の範囲で至適温度の60%以上のBSH活性を発揮できればよく、生産物である酵素が加熱によって変形するか否かは問わない。熱処理後に変形しない場合は熱安定性を有するといえるが、変形を問わないため「耐熱性」とした。
【0024】
例えば、食品衛生法の規格基準では、生乳、血液、牛レバー、豚肉については「中心部の温度を63℃で30分間以上加熱するか、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌しなければならない」と規定されている。したがって、温度50~90℃の範囲で至適温度の60%以上のBSH活性を有すれば、本開示の耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を加えた食品等を加熱した後にもBSH活性を確保することができる。なお、本開示におけるBSH活性は、タウロデオキシコール酸を基質として後記する実施例に示す方法によるものとする。
【0025】
本開示における前記生産物は、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、または
(c)配列番号1に示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよい。好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上、より好ましくは92%以上、更に好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列である。配列番号1で示されるタンパク質がBSH活性を有することは知られておらず、更に耐熱性に優れることも全く知られていなかった。なお、アミノ酸配列の同一性を算出する方法としては、種々の方法が知られている。このような方法として、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)がある。
【0026】
(3)形質転換体を用いる上記生産物の製造
配列番号1に示されるアミノ酸配列を有する生産物の製造方法は、例えば、配列番号1で示すアミノ酸配列の少なくともコーディング領域の塩基配列を含み、必要に応じて更にシグナルペプチド部分の塩基配列を含む塩基配列を使用して製造することができる。このような塩基配列として配列番号2がある。また、配列番号2に示される塩基配列との相同性が80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上である塩基配列を使用してもよい。塩基配列の同一性を算出する方法としては、種々の方法が知られており、たとえばNCBIの相同性アルゴリズムAdvanced BLAST 2.1を使用して算出することができる。
【0027】
本開示の耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素をコードするDNAは、組換えベクターに接続した状態で形質転換することができる。このような組換えベクターとしては、プラスミドベクターやウイルスベクター等がある。このような組換えベクターは、当該技術分野において入手可能な公知のクローニングベクターや発現ベクターに、上記耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素をコードするDNAを適当な制限酵素およびリガーゼ、あるいは必要に応じてさらにリンカーもしくはアダプターDNAを用いて連結することにより調製することができる。宿主細胞のゲノムDNA中に当該DNAを導入する場合は、本開示の耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素をコードする遺伝子、宿主細胞で作動可能なプロモーター、及び形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子を少なくとも有し、宿主細胞に固有の遺伝子組換えシステムを利用するかまたはゲノムDNA中に遺伝子を挿入するために必要なエンドヌクレアーゼ遺伝子等と共に宿主細胞に導入し、所望のDNAが挿入された形質転換体を選抜すればよい。
【0028】
ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミドとして、例えばpCold、pBR322、pBR325、pUC18、pUC19、pET、pGEX、pMALなど、酵母由来プラスミドとして、例えばpSH19、pSH15などがある。宿主細胞として細菌を用いる場合、一般に発現ベクターはプロモーター領域およびターミネーター領域に加えて、宿主細胞内で自律複製し得る複製可能単位を含む。また、プロモーター領域は、プロモーターの近傍にオペレーターおよびShine-Dalgarno(SD)配列を包含する。
【0029】
本開示の耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素は、上記のようにして調製される耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素発現ベクターを含む形質転換体を培地中で培養し、得られる培養物から耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を回収することによって製造することができる。
【0030】
使用される培地は、宿主細胞の生育に必要な炭素源,無機窒素源もしくは有機窒素源を含み、従来技術に準じて当業者が任意に選択することができる。培養は当分野において知られている方法により行えばよい。宿主が大腸菌の場合、好ましい培地としてLB培地、M9培地、2×YT培地、TB培地等が例示される。培養は、必要により通気・撹拌をしながら、通常14~43℃で約3~72時間行うことができる。
【0031】
形質転換体を培養した後、培養液に含まれる菌体ペレットを回収する。耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素の回収、精製方法としては、通常使用される種々の分離技術を適宜組み合わせることにより行うことができる。例えば、培養液を遠心または濾過して培養上清(濾液)を得、該培養上清から、例えば、塩析、溶媒沈澱、透析、限外濾過、ゲル濾過、非変性PAGE、SDS-PAGE、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動などの公知の分離方法を適当に選択して行うことにより得ることができる。
【0032】
一方、菌体ペレットに耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素が含まれる場合は、培養物を遠心または濾過して菌体ペレットを集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、例えば超音波処理、リゾチーム処理、凍結融解、浸透圧ショック、および/または界面活性剤処理などにより、細胞およびオルガネラ膜を破砕した後、遠心分離や濾過などにより不溶物を除去して可溶性画分を得、該可溶性画分を、上記と同様の方法で処理することにより単離精製することができる。耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素にHisタグが付加されている場合には、Hisタグをレジンに吸着させる等して回収および精製を行うことができる。
【0033】
(4)ラクトバチルス・パラガッセリによる上記生産物の製造
上記(3)は、形質転換体を培養する方法で説明した。しかしながら形質転換体を使用せず、ラクトバチルス・パラガッセリを培養し、培養液または菌体内から上記生産物である耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を回収してもよい。ラクトバチルス・パラガッセリとしては、前記したラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株、ラクトバチルス・パラガッセリJCM1130株、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5344株、ラクトバチルス・パラガッセリK7株、ラクトバチルス・パラガッセリJV―V03株などがある。
【0034】
(5)ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343
後記する実施例に示すように、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株は耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を生産し、菌体内にそれを局在させることが判明した。しかも、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株の培養液を温度50~85℃で120分以下の条件で加熱処理した後にMRS寒天培地、およびタウロデオキシコール酸含有MRS培地で培養したところ、いずれの培地でもラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株が生育し、BSH活性を発揮することが判明した。すなわち、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株は、菌株自体が耐熱性を有し、菌体を熱処理した後にもBSH活性を維持することができる。これらの事実は従来まったく知られていなかった。
【0035】
ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株の培養は、乳酸菌の培養に一般的に使用されるMRS培地、LBS培地、GAM培地、BL培地などを使用し、温度25~45℃、嫌気条件下で静置培養で行うことができる。
【0036】
ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株から生産される胆汁酸塩加水分解酵素は、菌体内に局在する。したがって培養物を遠心または濾過して菌体ペレットを集め、これを例えば超音波処理して細胞およびオルガネラ膜を破砕した後、遠心分離や濾過などにより不溶物を除去するとともに可溶性画分を回収し、例えば、限外濾過、ゲル濾過、SDS-PAGEなどにより耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を精製し、および回収することができる。なお、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株から生産される胆汁酸塩加水分解酵素およびラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株の双方は耐熱性に優れる。したがって、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株の培養液や菌体内から耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を回収・精製する際に、いずれかの段階で加熱処理し他の宿主細胞由来夾雑タンパク質を熱変性させて分離してもよい。
【0037】
(6)耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素の剤型
耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素は、酵素を含む溶液として使用することができる。また耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を乾燥し、粉末化し、または賦形剤を添加して造粒物に調製することもできる。なお、乾燥は凍結乾燥の他、加熱乾燥であってもよい。
【0038】
(7)耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素の用途
本開示の耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素は、BSH活性を有する酵素試薬として使用することができる。また、胆汁酸塩を消化酵素として使用する生体においては、耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素の服用により大腸において抱合胆汁酸を抗菌活性の高い胆汁酸に変換させることができる。また、特許文献2に示すように、食餌性及び胆汁性コレステロール吸収を減少させ、血中LDL-コレステロールレベルの制御を改善しうるため、血清コレステロール、血清脂質、体脂肪または動脈硬化指数を低減し、およびアテローム性動脈硬化、心血管または脳血管疾患の予防および治療のために使用し、医薬などとして使用することができる。
【0039】
本開示の第2は、上記耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素、またはラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株を温度50~85℃で120分以下の条件で加熱処理した菌体、を含む経口組成物である。経口組成物は、例えば粉末、錠剤、またはカプセル剤の形態など、経口的に摂取しうる任意の形態であってもよく、粉末状、固形状、液状の食品材料と混合した流動体、スプレッド等の形態であってもよい。
【0040】
ここに、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株を温度50~85℃で120分以下の条件で加熱処理した菌体は、生菌であっても死菌であってもよい。後記する実施例に示すように、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株は、温度50~85℃で120分加熱してもコロニー形成能を有している。しかしながらこの条件で当該菌株がコロニー形成能を喪失する場合でも、菌体に含まれる耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素によってBSH活性が発揮されるからである。なお、生菌であれば、加熱処理後も、耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素を生産するプロバイオティクス乳酸菌として使用することができる。耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素によるBSH活性に基づく各種効果に加え、腸内でラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株が増殖することによって腸内細菌のバランスを整え、整腸効果も発揮することができる。プロバイオティクス細菌が病原性細菌よりも優勢であれば、制御されない病原性細菌の増殖が抑制され、健康な腸管微生物叢が形成される。なお、耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素は、それ自体で、血清コレステロールを低減する医薬などとして使用することができる。
【0041】
経口組成物としては、耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素または上記菌体を含み、その他、添加物として、水、牛乳、スポーツ飲料、果実飲料、野菜飲料などの溶媒;ビタミンA、ビタミンD、ビタミンEなどの脂溶性ビタミン、ビタミンC、ビタミンB類(B1、B2、B6、B12等)、パントテン酸、ビオチンなどの水溶性ビタミンなどのビタミン類;ナトリウム、マグネシウム、クロム、ヨウ素、鉄、マンガン、カルシウム、銅、フッ化物、カリウム、亜リン酸、モリブデン、セレン、亜鉛などのミネラル;アスコルビン酸、クエン酸、ローズマリー油、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンEリン酸塩、トコフェロール、ジ-アルファ-トコフェリルリン酸塩、トコトリエノール、アルファリポ酸、ジヒドロリポ酸、キサントフィル、ベータクリプトキサンチン、リコペン、ルテイン、ゼアキサンチン、アスタキサンチン、ベータ-カロテン、カロテン、混合カロテノイド、ポリフェノール、フラボノイドなどの酸化防止剤;ガラクト-オリゴ糖、グルコ-オリゴ糖、またはフルクト-オリゴ糖などのオリゴ糖、グルコース、ガラクトース、シュクロース、キシロースなどの糖類;メントール、ハッカ油などの矯味矯臭剤;ビタミンCなどの酸味料;デンプン、乳糖、結晶セルロースなどの賦形剤;デンプン、セルロース、炭酸塩、クロスポビドンなどの崩壊剤;食用油脂;ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤;ヒドロキシプロピルセルロースなどの結合剤等などのいずれか1以上を含む経口組成物である。このような経口組成物としては、例えば、飲料、食品、栄養補助食品、経口医薬などがある。また、本開示の経口組成物は、耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素や上記菌体を、例えば食物/飲料と混合して調製してもよい。
【0042】
なお、菌体が生菌である場合は、経口組成物には当該生菌の成長に好適な栄養素、pH調整剤などを含むことが好ましい。
【0043】
飲料としては、清涼飲料、乳飲料、乳発酵飲料、スポーツ飲料、果実飲料、野菜飲料などがある。食品としては、ヨーグルト、味噌、醤油、漬物、納豆、酢、チーズ、パンなどの発酵食品がある。栄養補助食品とは、栄養成分を補給し、特定の保健の用途に適する食品であり、サプリメントを含む。その形状は、丸剤、錠剤、カプセル、ペレット、粉末、液体などのいずれであってもよい。また、経口医薬としては、耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素の発揮によって予防、治療が期待しうる医薬であり、血清コレステロール予防・治療薬、血清脂質低減薬、アテローム性動脈硬化予防・治療薬、体重減少薬などがある。経口医薬の剤型としては、粉末、錠剤、カプセル剤、液剤などのいずれであってもよい。これら経口組成物は、腸管環境を介して少なくとも耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素の放出プロファイルを改変するための添加物をさらに含むことができる。あるいは、組成物は、食料品または食品添加物の形態であってもよい。
【0044】
ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株は胆汁酸塩含有培地でも生育するため、胆汁酸耐性能を有し、プロバイオティクス乳酸菌として使用することができる。したがって、従来のBSH活性を有するプロバイオティクス乳酸菌に代えてラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株を使用してプロバイオティクス乳酸菌含有飲料、食品および/または経口医薬として使用することができる。ラクトバチルス・カゼイと同様に胆汁酸耐性能に優れるため、便秘の予防・改善にも効果的である。
【0045】
本開示の耐熱性胆汁酸塩加水分解酵素やラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株は耐熱性に優れるため、飲料、食品、経口医薬の製造において加熱処理を行ってもBSH活性を維持しうる。このため、加熱処理という簡便かつ汎用な処理方法で食品の安全性を確保することができ、これにより製造工程を簡素化することができる。
【実施例0046】
以下、実施例により本開示をさらに具体的に説明する。但し、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0047】
(製造例1)
ラクトバチルス・パラガッセリ由来の胆汁酸塩加水分解酵素の遺伝子としてラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株ゲノムのlapBSH遺伝子領域(Locus tag=LpgJCM5343_07940)(配列番号2)を、下記の一対の遺伝子増幅プライマー(配列番号3、配列番号4)を使用し、定法に従ってPCR増幅した。なお、プライマーのForwardの下線はBamHI制限酵素サイトを示し、Reverseの下線はEcoRI制限酵素サイトを示す。
【0048】
lapBSH遺伝子増幅プライマー
Forward: 5’-CGGGATCCTGTACCTCAATTATTTATGATTCAAAC-3’ (配列番号3)
Reverse: 5’-CGGAATTCATTTTGATAGTTAATATGTTGCTTTTC-3’ (配列番号4)
【0049】
得られた遺伝子を、pCold II(TaKaRa社製)遺伝子発現用プラスミドベクターのマルチクローニングサイトに挿入した組換えプラスミドpCold-LapBSHを作製した。次いでこのプラスミドを、ヒートショック法によりEscherichia coli DH5αコンピテントセル(GMbiolab社製)に導入し形質転換した。E.coli形質転換体はアンピシリン耐性能、および下記一対のコロニーPCR用プライマー(配列番号5、配列番号6)を使用するコロニーPRC法により選抜し、プラスミドpCold-LapBSHを含むEscherichia coli DH5αを得た。
【0050】
コロニーPCR用プライマー
Forward: 5’-GTAAGGCAAGTCCCTTCAAGAG-3’ (配列番号5)
Reverse: 5’-GGCAGGGATCTTAGATTCTG-3’ (配列番号6)
【0051】
選抜陽性のEscherichia coli DH5αを10mLのLB培地に植菌し、37℃にて12時間振盪培養した。その後、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN社製)を用い、定法に従いプラスミドpCold-LapBSHの精製を行った。精製したプラスミドpCold-LapBSHの濃度と純度はNanoDropを用いた測定により算出した。
【0052】
次いで、取得したプラスミドpCold-LapBSHをEscherichia coli OrigamiTM2(DE3)コンピテントセル(Millipore社製)に導入し、形質転換体を得た。この形質転換体のシングルコロニーをアンピシリン含有LB培地に植菌し、37℃で一晩培養した。培養液を新たなアンピシリン含有LB培地に1%植菌し、OD600の値が0.5付近になるまで37℃で振盪培養した。本培養液を15℃で30分間静置した後、終濃度100μMのIPTGを添加し、15℃で24時間振盪培養した。この培養液をLapBSH培養液と称する。
【0053】
LapBSH培養液を遠心分離(8,000rpm、10分、4℃)し、菌体ペレットをLysis buffer(20mMTris-HCl、150mM NaCl、5%グリセロール、5mMイミダゾール)に懸濁した後、超音波破砕を行った。超音波破砕後の溶液を遠心分離(8,000rpm、10分、4℃)し、上清画分を可溶性画分として回収した。次いで、回収した可溶性画分をHis-select(登録商標) Nickelレジン(Sigma-Aldrich社製)に吸着させ、Wash buffer(20mM Tris-HCl、150mM NaCl、5%グリセロール、40mMイミダゾール)で洗浄した。洗浄後のレジンをElution buffer(20mM Tris-HCl、150mM NaCl、5%グリセロール、300mMイミダゾール)で溶出して胆汁酸塩加水分解酵素(LapBSH酵素)を獲得した。LapBSH酵素の濃度と純度はBCA protein assay kit(TaKaRa社製)およびSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果に基づいて算出した。
【0054】
(実施例1)
タウロコール酸、タウロデオキシコール酸、グリココール酸、グリコデオキシコール酸の4種の抱合型胆汁酸を基質として、製造例1で得たLapBSH酵素のBSH活性を測定した。
酵素活性測定は定法に倣い416nmの吸光度を測定し、各胆汁酸からBSH活性によって遊離したタウリンまたはグリシンを比色定量した。なお、LapBSH酵素に代えて緩衝液を使用したものを対照とした。結果を図1に示す。上記4種全ての抱合型胆汁酸において、対照群と比較してLapBSH酵素添加群で416nmの吸光度が増大した。これは、グリシン、タウリン量が増大したことを示すものであり、LapBSH酵素によって抱合型胆汁酸類のアミド結合の切断活性が触媒されたことを意味する。
【0055】
次に、LapBSH酵素の至適条件検討を行うため、タウロデオキシコール酸を基質としてpHを3~10の範囲でBSH活性を評価した。本酵素はpH6.0でBSH活性が最も高かった。pH6.0のBSH活性を100%として各pHの相対的BSH活性を評価し、その結果を図2Aに示す。pH3.0~7.0の範囲でpH6.0のBSH活性の80%以上の酵素活性を示した。
【0056】
また、タウロデオキシコール酸を基質として、温度10~90℃の範囲で至適温度を評価した。本酵素は温度37℃でBSH活性が最も高かった。温度37℃のBSH活性を100%として各温度の相対的BSH活性を評価し、その結果を図2Bに示す。温度50~90℃の高温度域においても温度37℃のBSH活性の80%以上の酵素活性を示した。
【0057】
(実施例2)
実施例1で使用したLapBSH酵素の耐熱性を評価した。LapBSH酵素をbuffer(20mM Tris,50mM NaCl,5%glycerol)に100μg/mLで溶解してLapBSH酵素液を得た。このLapBSH酵素液を5℃刻みで、55℃から100℃の範囲でそれぞれ2時間熱処理した。次に、熱処理した酵素を用いて37℃、pH6.0でタウロデオキシコール酸を基質としてBSH活性を評価した。対照として熱処理していないLapBSH酵素液を用いて前記至適条件でBSH活性を評価した。対照のBSH活性値を100%として、各熱処理温度のBSH活性を相対値として算出した。熱処理後のBSH活性の結果を図3に示す。85℃で熱処理したLapBSH酵素液は、熱処理なしのLapBSH酵素液の酵素活性に対して83%の残存活性を示した。実施例1で得たLapBSH酵素は、温度85℃の熱処理でもBSH活性を発揮する耐熱性を有することが判明した。
【0058】
(実施例3)
温度37℃、嫌気条件下で、MRS培地で培養したラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株(Difco社製)の培養液を遠心分離(8,000rpm,10min)により、上清画分とペレット画分に分けた。上清画分はさらに孔径0.22μmフィルターで3回処理し、菌体を完全に除去した。ペレット画分はPBSバッファーで懸濁した。それぞれの溶液を0.25%のタウロデオキシコール酸(TDCA)または0.25%のグリコデオキシコール酸(GDCA)を含むMRS寒天培地に塗布し、37℃で嫌気的に培養を行った。なお、培地の左側にペレット画分を、右側に上清画分を塗布した。結果を図4に示す。図4に示すように、培地左側のペレット画分において顕著なBSH活性が確認された。一方で、培地右側の上清画分ではBSH活性は確認されなかった。ペレット画分でBSH活性が高いという結果から、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株は細胞内にLapBSH酵素を局在させることが示唆された。
【0059】
(実施例4)
下記に従い、実施例3で使用したラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株の耐熱性を評価した。
食品衛生法にある「中心部の温度を63℃で30分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法」に倣い、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株の培養液を50℃で5時間、60℃で71分、63℃で30分、70℃で4分、75℃で57秒間加熱処理した。加熱処理後の培養液をMRS寒天培地、および0.25%のタウロデオキシコール酸を含むMRS+0.25%タウロデオキシコール酸培地に塗布し、37℃で嫌気的に培養した。結果を図5に示す。図5の上段はMRS寒天培地の培養結果を、下段はMRS+0.25%タウロデオキシコール酸培地の培養結果を示す。
図5上段に示すように、いずれの加熱処理後の培養液でもラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株の生育が確認された。また、図5下段に示すように、いずれの加熱条件でもBSH活性が確認された。よって、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株は耐熱性のBSHを保持する耐熱性のプロバイオティクス乳酸菌であることが明らかとなった。
【0060】
また、実施例2で使用したLapBSH酵素液の熱処理の耐熱温度が85℃であったため、ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株の培養液を85℃で加熱し、30分ごとにMRS培地に塗布し、コロニー形成能を評価した。結果を図6に示す。ラクトバチルス・パラガッセリJCM5343株は、85℃で120分間熱処理してもコロニー形成が確認された。一般的に乳酸菌は熱に弱く63℃30分間加熱で死滅することが知られていることから、本株は極めて高い耐熱性を有するプロバイオティクス乳酸菌であることが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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