(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022059981
(43)【公開日】2022-04-14
(54)【発明の名称】投与キット
(51)【国際特許分類】
A61M 39/08 20060101AFI20220407BHJP
A61M 39/10 20060101ALI20220407BHJP
【FI】
A61M39/08
A61M39/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020167930
(22)【出願日】2020-10-02
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若林 彰
(72)【発明者】
【氏名】原 玲子
(72)【発明者】
【氏名】中村 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】北橋 宗
(72)【発明者】
【氏名】川堀 真人
【テーマコード(参考)】
4C066
【Fターム(参考)】
4C066BB01
4C066CC08
4C066CC10
4C066DD08
4C066JJ04
4C066JJ10
4C066QQ78
(57)【要約】 (修正有)
【課題】従来よりも、細胞又は細胞構造体の沈殿による詰まりを低減させることにより、細胞懸濁液の生体への投与をスムーズに行うことが可能な投与キットを提供する。
【解決手段】投与キット5は、細胞又は細胞構造体3aを含む細胞懸濁液3を生体内に投与するために用いられる投与チューブ2であって、穿刺針1が取り付け可能な第1端2aと、シリンジを取り付け可能な第2端2bとを備え、1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液の全量を内部に保持可能な投与チューブと、1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液の全量と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞又は細胞構造体を含む細胞懸濁液を生体内に投与するために用いられる投与チューブであって、穿刺針が取り付け可能な第1端と、シリンジを取り付け可能な第2端とを備え、1回の治療で投与されるべき前記細胞懸濁液の全量を内部に保持可能な投与チューブと、前記1回の治療で投与されるべき前記細胞懸濁液の全量と、を含む投与キット。
【請求項2】
前記投与チューブに充填する前記細胞懸濁液を収容した容器を含む、請求項1に記載の投与キット。
【請求項3】
前記投与チューブの前記第2端に取り付け可能であり、かつ、前記細胞懸濁液を前記投与チューブ内に供給するために用いられる細胞懸濁液供給シリンジを備えた請求項1又は2に記載の投与キット。
【請求項4】
前記投与チューブの前記第2端に取り付け可能であり、かつ、前記細胞懸濁液を前記投与チューブ内に供給するために用いられる細胞懸濁液供給シリンジを備え、
細胞懸濁液供給シリンジには前記細胞懸濁液の全量が充填されている請求項1に記載の投与キット。
【請求項5】
前記細胞懸濁液の全量が、前記投与チューブに充填されている、請求項1に記載の投与キット。
【請求項6】
前記1回の治療で投与されるべき前記細胞懸濁液の全量を前記投与チューブに充填した後に、前記細胞懸濁液の投与を開始すべきことをユーザに指示するための取扱説明書を含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の投与キット。
【請求項7】
前記取扱説明書には、前記1回の治療で投与されるべき前記細胞懸濁液の全量が充填された細胞懸濁液供給シリンジから前記投与チューブに対する前記細胞懸濁液の供給を開始する前に、前記細胞懸濁液供給シリンジの中心軸周りに前記細胞懸濁液供給シリンジを複数回往復回転させる旨の第1指示と、前記細胞懸濁液供給シリンジ内の前記細胞懸濁液を均一に分散した状態とした後に、前記細胞懸濁液供給シリンジから前記投与チューブに対する前記細胞懸濁液の供給を開始することにより、前記細胞懸濁液の全量を前記投与チューブに充填する旨の第2指示とが記載されている、請求項6に記載の投与キット。
【請求項8】
前記取扱説明書には、前記細胞懸濁液を均一に分散した状態とした後、2秒以内に前記細胞懸濁液の全量を前記投与チューブに供給する第3指示が記載されている、請求項7に記載の投与キット。
【請求項9】
前記投与チューブは、容量が2mL以上である、請求項1から8のいずれか1項に記載の投与キット。
【請求項10】
前記投与チューブは、内径が1.0mm以上1.7mm以下である、請求項1から9のいずれか1項に記載の投与キット。
【請求項11】
前記投与チューブは、長さが3m以内である、請求項1から10のいずれか1項に記載の投与キット。
【請求項12】
前記投与チューブは、前記細胞懸濁液を収容可能な容積が、1回の治療で投与されるべき前記細胞懸濁液の全量分の体積よりも大きい、請求項1から11のいずれか1項に記載の投与キット。
【請求項13】
前記投与チューブは、前記第1端に前記穿刺針を取り付ける穿刺針取付部を備えている、請求項1から12のいずれか1項に記載の投与キット。
【請求項14】
前記投与チューブは、前記第2端にシリンジを取り付けるシリンジ取付部を備えている、請求項1から13のいずれか1項に記載の投与キット。
【請求項15】
前記シリンジ取付部は、前記シリンジを取り付け可能な複数の取付口と、前記投与チューブと前記取付口との間に配置され、前記投与チューブと前記複数の取付口との連通状態を切り換える切換弁とを含む請求項14に記載の投与キット。
【請求項16】
前記細胞懸濁液が前記細胞構造体を含み、前記細胞構造体が直径100μm以上である、請求項1から15のいずれか1項に記載の投与キット。
【請求項17】
前記細胞構造体の直径が100μm以上、500μm以下である、請求項16に記載の投与キット。
【請求項18】
前記細胞構造体が、生体親和性を有する高分子ブロックと、少なくとも一種類の細胞とを含み、複数個の前記細胞間の隙間に前記複数個の該高分子ブロックが配置されている構造体である、請求項16又は17に記載の投与キット。
【請求項19】
前記投与チューブの前記第2端に取り付け可能であり、かつ、前記投与チューブ内に充填された前記細胞懸濁液を押し出すための押出液を保持する押出液供給シリンジをさらに備えた、請求項1から18のいずれか1項に記載の投与キット。
【請求項20】
前記押出液供給シリンジから前記押出液を12mL/minの押し出し速度で押し出すための押出力が15N以下である、請求項19に記載の投与キット。
【請求項21】
前記投与チューブの前記第1端に取り付けられる穿刺針をさらに備えた、請求項1から20のいずれか1項に記載の投与キット。
【請求項22】
前記穿刺針は、前記細胞懸濁液の通路が内部に形成された、前後方向に沿った針本体と、前記針本体の前端部の外表面に形成された前記細胞懸濁液の導出口とを備えており、
前記穿刺針は、前記針本体の後端に前記投与チューブに接続される接続部であって、前記針本体の前記後端が挿入される本体挿入孔と、前記本体挿入孔と連通し、前記投与チューブの前記第1端が挿入されるチューブ挿入穴とを備えた接続部を備え、
前記チューブ挿入穴の、前記本体挿入孔と接続される先端側部分は、基端側から先端側に向かって内径が徐々に細くなる漏斗形状をしており、先端側から基端側に向かって開く前記漏斗形状の開き角は、120°以下である、請求項21に記載の投与キット。
【請求項23】
前記穿刺針は、前記針本体の前記通路の内径が0.5mm以上である、請求項22に記載の投与キット。
【請求項24】
前記穿刺針は、前記針本体の前記通路の内径が前記細胞懸濁液に含まれる前記細胞又は細胞構造体の直径の2倍以上である、請求項22又は23のいずれか1項に記載の投与キット。
【請求項25】
前記穿刺針は、前記導出口の開口面積が、前記針本体の前記通路の断面積以上である、請求項22から24のいずれか1項に記載の投与キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、投与キットに関する。
【背景技術】
【0002】
人や動物の治療のために、細胞を生体内に投与する細胞移植治療が知られており、細胞を生体内に投与するための投与キットの検討も進められている。例えば、特許文献1では、投与キットに相当する細胞注入デバイスが記載されている。特許文献1の細胞注入デバイスは、心疾患の細胞治療のために、心臓に細胞を注入(投与に相当する)するための細胞注入デバイスであり、生体組織に穿刺される注射針(穿刺針に相当する)と、注射針を先端に備えたチューブと、チューブの基端側に設けられたシリンジ接続部とを備えた構成が開示されている。特許文献1の細胞注入デバイスによれば、シリンジ接続部に、細胞を収容した細胞用シリンジを接続し、細胞用シリンジによって細胞をチューブ内に押し出すことにより、チューブを介して生体組織内に細胞を注入することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
細胞移植治療においては、細胞の他に、細胞構造体を生体内に投与する場合がある。ここで、細胞構造体とは、複数個の細胞と、複数個の生体親和性を有する高分子ブロックとが混合された構造体であり、複数個の細胞間の隙間に複数個の高分子ブロックが配置された構造を有する。細胞構造体は細胞よりもサイズが大きい。細胞又は細胞構造体を生体内に投与する場合には、人工髄液などの液体中に細胞又は細胞構造体を懸濁させた懸濁液(以下、細胞懸濁液という)の形態で投与される。
【0005】
このような細胞懸濁液を生体内に投与する手技において、穿刺針の穿刺から、投与すべき細胞懸濁液の全量を投与するまでの間に非常に時間がかかる場合がある。例えば、脳などに細胞懸濁液を投与する場合は、穿刺針の穿刺に慎重さが求められることに加えて、時間間隔を空けながら細胞懸濁液を少しずつ投与しなければならない場合がある。この場合は、細胞懸濁液の投与を開始してから、細胞懸濁液の全量の投与が完了するまでの間にかなりの時間を要する。そのため、次のような問題が生じる場合があった。
【0006】
すなわち、細胞懸濁液の投与の手技を行う場合は、まず、準備作業として、細胞又は細胞構造体を人工髄液などの液体中に分散させることにより細胞懸濁液を作製する。そして、作成した細胞懸濁液をシリンジ内に注入し、細胞懸濁液をシリンジ内に収容する。この状態で穿刺針をシリンジに接続する。こうした準備作業を終えた後、細胞懸濁液の投与の手技が開始される。
【0007】
細胞懸濁液の投与の手技は、上述のとおり、穿刺針を生体に穿刺する作業から開始され、穿刺針の穿刺後において、細胞懸濁液の生体内への投与が開始される。このように、細胞懸濁液をシリンジに収容した後、実際にシリンジ内の細胞懸濁液を生体に投与するまでに、穿刺針とシリンジとを接続する作業及び穿刺針を生体に穿刺する作業があるため、5分以上の時間がかかる場合がある。
【0008】
シリンジ内に細胞懸濁液を保持させた状態が長引くと、細胞懸濁液に分散されていた細胞又は細胞構造体が、シリンジ内で沈殿してしまうおそれがある。シリンジ内で細胞又は細胞構造体が沈殿してしまうと、細胞又は細胞構造体が、シリンジの先端、あるいは穿刺針など、シリンジの本体の内径よりも細径の部分で詰まってしまうおそれがあった。細胞又は細胞構造体の詰まりが生じると、細胞懸濁液の投与をスムーズに行えない。
【0009】
引用文献1においては、このような課題及びその解決策について開示も示唆もない。
【0010】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであって、従来よりも、細胞又は細胞構造体の沈殿による詰まりを低減させることにより、細胞懸濁液の生体への投与をスムーズに行うことが可能な投与キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の投与キットは、以下の態様を含む。
<1>
細胞又は細胞構造体を含む細胞懸濁液を生体内に投与するために用いられる投与チューブであって、穿刺針が取り付け可能な第1端と、シリンジを取り付け可能な第2端とを備え、1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液の全量を内部に保持可能な投与チューブと、1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液の全量と、を含む。
<2>
投与チューブに充填する細胞懸濁液を収容する容器を含む、<1>に記載の投与キット。
<3>
投与チューブの第2端に取り付け可能であり、かつ、細胞懸濁液を投与チューブ内に供給するために用いられる細胞懸濁液供給シリンジを備えた<1>又は<2>に記載の投与キット。
<4>
投与チューブの第2端に取り付け可能であり、かつ、細胞懸濁液を投与チューブ内に供給するために用いられる細胞懸濁液供給シリンジを備え、細胞懸濁液供給シリンジには細胞懸濁液の全量が充填されている<1>に記載の投与キット。
<5>
細胞懸濁液の全量が、投与チューブに充填されている、<1>に記載の投与キット。
<6>
1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液の全量を投与チューブに充填した後に、細胞懸濁液の投与を開始すべきことをユーザに指示するための取扱説明書を含む、<1>から<4>のいずれかに記載の投与キット。
<7>
取扱説明書には、1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液の全量が充填された細胞懸濁液供給シリンジから投与チューブに対する細胞懸濁液の供給を開始する前に、細胞懸濁液供給シリンジの中心軸周りに細胞懸濁液供給シリンジを複数回往復回転させる旨の第1指示と、細胞懸濁液供給シリンジ内の細胞懸濁液を均一に分散した状態とした後に、細胞懸濁液供給シリンジから投与チューブに対する細胞懸濁液の供給を開始することにより、細胞懸濁液の全量を投与チューブに充填する旨の第2指示とが記載されている、<6>に記載の投与キット。
<8>
取扱説明書には、細胞懸濁液を均一に分散した状態とした後、2秒以内に細胞懸濁液の全量を投与チューブに供給する第3指示が記載されている、<7>に記載の投与キット。
<9>
投与チューブは、容量が2mL以上である、<1>から<8>のいずれかに記載の投与キット。
<10>
投与チューブは、内径が1.0mm以上1.7mm以下である、<1>から<9>のいずれかに記載の投与キット。
<11>
投与チューブは、長さが3m以内である、<1>から<10>のいずれかに記載の投与キット。
<12>
投与チューブは、細胞懸濁液を収容可能な容積が、1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液の全量分の体積よりも大きい、<1>から<11>のいずれかに記載の投与キット。
<13>
投与チューブは、第1端に穿刺針を取り付ける穿刺針取付部を備えている、<1>から<12>のいずれかに記載の投与キット。
<14>
投与チューブは、第2端にシリンジを取り付けるシリンジ取付部を備えている、<1>から<13>のいずれかに記載の投与キット。
<15>
シリンジ取付部は、シリンジを取り付け可能な複数の取付口と、投与チューブと取付口との間に配置され、投与チューブと複数の取付口との連通状態を切り換える切換弁とを含む<14>に記載の投与キット。
<16>
細胞懸濁液が細胞構造体を含み、細胞構造体が直径100μm以上である、<1>から<15>のいずれかに記載の投与キット。
<17>
細胞構造体の直径が100μm以上、500μm以下である、<16>に記載の投与キット。
<18>
細胞構造体が、生体親和性を有する高分子ブロックと、少なくとも一種類の細胞とを含み、複数個の細胞間の隙間に複数個の高分子ブロックが配置されている構造体である、<16>又は<17>に記載の投与キット。
<19>
投与チューブの第2端に取り付け可能であり、かつ、投与チューブ内に充填された細胞懸濁液を押し出すための押出液を保持する押出液供給シリンジをさらに備えた、<1>から<18>のいずれかに記載の投与キット。
<20>
押出液供給シリンジから押出液を12mL/minの押し出し速度で押し出すための押出力が15N以下である、<19>に記載の投与キット。
<21>
投与チューブの第1端に取り付けられる穿刺針をさらに備えた、<1>から<20>のいずれかに記載の投与キット。
<22>
穿刺針は、細胞懸濁液の通路が内部に形成された、前後方向に沿った針本体と、針本体の前端部の外表面に形成された細胞懸濁液の導出口とを備えており、
穿刺針は、針本体の後端に投与チューブに接続される接続部であって、針本体の前記後端が挿入される本体挿入孔と、本体挿入孔と連通し、投与チューブの第1端が挿入されるチューブ挿入穴とを備えた接続部を備え、
チューブ挿入穴の、本体挿入穴と接続される先端側部分は、基端側から先端側に向かって内径が徐々に細くなる漏斗形状をしており、先端側から基端側に向かって開く漏斗形状の開き角は、120°以下である、<21>に記載の投与キット。
<23>
穿刺針は、針本体の通路の内径が0.5mm以上である、<22>に記載の投与キット。
<24>
穿刺針は、針本体の通路の内径が細胞懸濁液に含まれる細胞又は細胞構造体の直径の2倍以上である、<22>又は<23>のいずれかに記載の投与キット。
<25>
穿刺針は、導出口の開口面積が、針本体の通路の断面積以上である、<22>から<24>のいずれかに記載の投与キット。
【0012】
本開示の投与キットにおいて、穿刺針は、細胞懸濁液の通路が内部に形成された、前後方向に沿った針本体と、針本体の前端部の外表面に形成された細胞懸濁液の導出口と、を備えており、
針本体は、通路を備える単一管であり、
導出路が延びる方向と直交する導出路の断面の面積が、導出路の少なくとも一部において導出口に向かって滑らかに増加していると共に、導出路の延びる方向に関する各位置において、それより通路に近い位置における断面の面積以上であってもよい。
【0013】
本開示の投与キットにおいて、穿刺針は、ステンレス、アルミニウムなどの金属、セラミック又は不撓性の硬質樹脂からなることが好ましい。
【0014】
本開示の投与キットにおいて、穿刺針は、針本体の後端に投与チューブに接続される接続部を備え、接続部の先端と針本体部の先端との間の距離は、170mm~220mmの長さであり、針本体は、1.6mm以下の外径を有していてもよい。
【0015】
本開示の投与キットにおいて、穿刺針は、前端部の外表面が、滑らかに湾曲しつつ前方に向かって突出した前端面と、前端面と接続した円筒状の側面とを含んでいてもよい。
【0016】
本開示の投与キットにおいて、穿刺針は、導出口の前端が、通路の前端より後方に位置していると共に、前端面と側面の境界に位置しているか境界より後方に位置していてもよい。
【0017】
本開示の投与キットにおいて、穿刺針は、導出口が、前端面の背後に形成されていてもよい。
【0018】
本開示の投与キットにおいて、穿刺針は、前端部が円筒状の側面を有しており、
導出口の少なくとも一部が側面に形成されていてもよい。
【0019】
本開示の投与キットにおいて、穿刺針は、針本体の外表面が刺針時に生体に接触する表面であり、針本体の通路から外表面までの壁部が単一層からなることが好ましい。
【0020】
本開示の投与キットにおいて、穿刺針は、導出路が、通路に連接する円柱部と、導出口と円柱部とを接続する円錐台部とを備え、通路の内径は0.3mm~1.2mmであり、円柱部の内径は0.3mm~1.2mmであり、円錐台部の円錐角度は90°であってもよい。
【0021】
本開示の投与キットにおいて、穿刺針は、導出路が、導出口と円錐台部との間にさらに第2の円柱部を備え、導出口の内径と円錐台部の最大内径は1.2mm~1.6mmであってもよい。
【0022】
本開示の投与キットにおいて、穿刺針は、導出路が、通路と導出口との間に、通路側から導出口に向かって、第1の大きさの円錐台部または円柱部と、第1の大きさよりも大きい第2の大きさの円錐台部または円柱部とを備え、第1の大きさは0.3mm~1.2mm、第2の大きさは1.2mm~1.66mmであってもよい。
【0023】
本開示の投与キットにおいて、穿刺針は、導出路が、通路に連接する円錐台部と、導出口と円錐台部との間に設けられた円柱部とを備え、円柱部の内径は0.3mm~1.2mm、円錐台部の最大内径および導出口は1.2mm~1.6mmであってもよい。
【0024】
本開示の投与キットにおいて、穿刺針は、導出路が、通路側よりも導出口側が前方に位置するように、角度θが0°を超えて30°の範囲で傾斜して設けられており、通路側の内径は0.3mm~1.2mm、導出口の大きさは0.5mm~1.2mmであってもよい。
【0025】
本開示の投与キットにおいて、穿刺針は、シリンジから通路内に水を流入させた場合に、水の注入圧力が5Nまで噴流の発生を抑制することが好ましい。
【0026】
本開示の投与キットにおいては、細胞懸濁液の全量が、投与チューブに5分以上充填された状態であってもよい。
【0027】
本開示の投与キットにおいては、細胞懸濁液の全量が、投与チューブに10分以上充填された状態であってもよい。
【0028】
本開示の投与キットは、頭部注入用の投与キットであってもよい。
【0029】
本開示の投与キットは、脳治療用の投与キットであってもよい。
【発明の効果】
【0030】
本開示の投与キットによれば、従来よりも、細胞又は細胞構造体の沈殿による詰まりを低減することにより、細胞懸濁液の生体への投与をスムーズに行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】一実施形態の投与キットの概略構成図である。
【
図2】投与キットの使用方法の第1の説明図である。
【
図3】投与キットの使用方法の第2の説明図である。
【
図4】投与キットの使用方法の第3の説明図である。
【
図5】投与キットの使用方法の第4の説明図である。
【
図6】投与チューブ内の気泡の有無と細胞構造体の詰りの説明図である。
【
図7】設計変更例の投与キットの概略構成図である。
【
図9】穿刺針の部分断面を含んだ
図1の穿刺針の部分拡大図である。
【
図13】細胞懸濁液供給シリンジ中の細胞懸濁液の時間変化を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本開示の実施形態を詳細に説明する。本開示において、「約」とは、上下10%を含む値を意味する。
【0033】
「投与キット」
図1は、一実施形態の投与キット5を示す概略図である。本実施形態の投与キット5は、穿刺針1と、投与チューブ2と、1回の治療で投与されるべき量の細胞懸濁液3と、を含む。例えば、投与キット5は、メーカによって製造され、治療に用いられる医療用の消耗品として病院等の医療施設等に提供される。投与キット5は、細胞移植治療に用いられる。一例として、投与キット5は、脳梗塞等の治療のために、生体の脳の特定の部位に細胞移植を行うために使用される。投与キット5は、頭部注入用であってもよく、脳治療用であってもよい。
【0034】
穿刺針1は、細胞懸濁液3を中枢神経に注入するための穿刺針である。脳に細胞移植を行う場合は、穿刺針1は、定位脳手術装置100(
図5参照)に取り付けられて使用される。穿刺針1の詳細については後述する。
【0035】
投与チューブ2は、細胞又は細胞構造体3aを含む細胞懸濁液を生体内に投与するために用いられるチューブである。投与チューブ2は、可撓性を有している。投与チューブ2は、穿刺針1が取り付け可能な第1端2aと、シリンジを取り付け可能な第2端2bとを備える。投与チューブ2は、1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液3の全量を内部に保持可能な容量を有する。投与チューブ2は、投与チューブ2に細胞懸濁液3を供給するために用いられる後述の細胞懸濁液供給シリンジ6の内径に対して細径の内径を有する。
【0036】
投与チューブ2は内径が1.0mm以上1.7mm以下であることが好ましい。投与チューブ2は、1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液3の全量を保持できる容量を少なくとも有していればよい。ただし、1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液の全量分の体積よりも大きいことがより好ましい。投与チューブ2の容量は、例えば、2mL以上とすることができる。なお、投与チューブ2は、長さが3m以内であることが好ましい。
【0037】
本例において、投与チューブ2は、
図1に示すように本体がコイル状である。このようにコイル状に巻きまわされたチューブはスパイラルチューブとも呼ばれる。投与チューブ2の本体をコイル状とすると、容量を多くするために長尺化しても、全長をコンパクトにできるため、取り扱い性も良い。そのため、投与チューブ2は、本例のように本体がコイル状のスパイラルチューブであることが好ましい。このように投与チューブ2はスパイラルチューブであることが好ましいが、必ずしもスパイラルチューブでなくてもよく、コイル状ではないストレートな形態の一般の医療用輸液チューブでも良い。
【0038】
投与チューブ2の第1端2aは、穿刺針1を取り付けるための穿刺針取付部26が設けられており、第1端2aには穿刺針取付部26を介して穿刺針1が取り付けられる。また、投与チューブ2の第2端2bは、シリンジを取り付けるシリンジ取付部28が設けられており、第2端2bにはシリンジ取付部28を介してシリンジが取り付けられる。
【0039】
細胞懸濁液3は、人工髄液などの液体中に細胞又は細胞構造体3aを懸濁させた懸濁液である。細胞懸濁液3において、細胞又は細胞構造体3aが液体中に溶解しない状態で分散されている。細胞懸濁液3の詳細については後述する。本例では、細胞懸濁液3中には細胞構造体3aが含まれているものとして説明する。投与チューブ2に充填する細胞懸濁液3は容器4中に内包されている。すなわち、容器4は、例えばバイアルであり、1回の治療で投与されるべき量の細胞懸濁液3を収容する。
【0040】
ここで、「1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液の全量」とは、細胞移植治療の治療目的に応じて決められる細胞懸濁液3の量であり、穿刺針1を生体に穿刺してから、1度穿刺した穿刺針1を生体から引き抜くまでの間に投与されるべき細胞懸濁液3の全量をいう。投与チューブ2は、内部に細胞懸濁液3の全量を5分以上充填された状態であってもよく、10分以上充填された状態であってもよい。
【0041】
「細胞構造体」
細胞構造体3aは、生体親和性高分子ブロックと細胞とを複数個の細胞間の隙間に複数個の生体親和性高分子ブロックが配置された構造体である。ここで、生体親和性とは、生体に接触した際に、長期的かつ慢性的な炎症反応などのような顕著な有害反応を惹起しないことを意味する。本開示の技術において用いる生体親和性高分子は、生体に親和性を有するものであれば、生体内で分解されるか否かは特に限定されないが、生分解性高分子であることが好ましい。細胞構造体3aとしては、例えば、国際公開第2017/221879号に記載のものを用いることができる。
【0042】
(生体親和性高分子ブロック)
生体親和性分子ブロックは、生体親和性高分子からなる塊である。
【0043】
生体親和性高分子ブロックの形状は特に限定されるものではない。例えば、不定形、球状、粒子状(顆粒)、粉状、多孔質状、繊維状、紡錘状、扁平状およびシート状であり、好ましくは、不定形、球状、粒子状(顆粒)、粉状および多孔質状である。不定形とは、表面形状が均一でないもののことを示し、例えば、岩のような凹凸を有する物を示す。なお、上記の形状の例示はそれぞれ別個のものではなく、例えば、粒子状(顆粒)の下位概念の一例として不定形となる場合もある。上記生体親和性高分子ブロックが、生体親和性高分子の多孔質体を粉砕することにより得られる顆粒の形態であることが特に好ましい。
【0044】
生体親和性高分子ブロック一つの大きさが20μm以上200μm以下であることが好ましく、50μm以上120μm以下であることがより好ましい。
【0045】
生体親和性高分子は、架橋されているものでもよいし、架橋されていないものでもよいが、架橋されているものが好ましい。架橋されている生体親和性高分子を使用することにより、培地中で培養する際および生体に移植した際に瞬時に分解してしまうことを防ぐという効果が得られる。架橋法方としては、熱架橋、アルデヒド類(例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなど)による架橋、縮合剤(カルボジイミド、シアナミドなど)による架橋、酵素架橋、光架橋、紫外線架橋、疎水性相互作用、水素結合、およびイオン性相互作用などが特に限定されない。好ましくは熱架橋、紫外線架橋、または酵素架橋である。
【0046】
生体親和性高分子が、ゼラチン、コラーゲン、アテロコラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、プロネクチン、ラミニン、テネイシン、フィブリン、フィブロイン、エンタクチン、トロンボスポンジン、レトロネクチン(登録商標)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸コポリマー、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、コンドロイチン、セルロース、アガロース、カルボキシメチルセルロース、キチン、またはキトサンであることが好ましい。
【0047】
生体親和性高分子は、リコンビナントゼラチンであることが特に好ましい。リコンビナントゼラチンとは、遺伝子組み換え技術により作られたゼラチン類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドもしくは蛋白様物質を意味する。リコンビナントゼラチンとしては、以下の態様のものが好ましい。
【0048】
リコンビナントゼラチンは好ましくは、下記式1で示されるものである。
式1:A-[(Gly-X-Y)n]m-B
式中、Aは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示し、Bは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示し、n個のXはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、n個のYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、nは3~100の整数を示し、mは2~10の整数を示す。なお、n個のGly-X-Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0049】
リコンビナントゼラチンは、
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;または
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有する
アミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;
であることが特に好ましい。
【0050】
上記細胞構造体3aが、細胞1個当り0.0000001μg以上1μg以下の生体親和性高分子ブロックを含むことが好ましい。
【0051】
細胞構造体3aの厚さ又は直径は、50μm以上であることが好ましく、また、1mm以下であることが好ましい。細胞構造体3aの厚さ又は直径の範囲として、好ましくは、80μm以上800μm以下、より好ましくは100μm以上500μm以下である。本明細書中における「細胞構造体3aの厚さ又は直径」とは、以下のことを示すものとする。細胞構造体3a中のある一点Pを選択した際に、その点Pを通る直線の内で、細胞構造体3aの外殻からの距離が最短になるように細胞構造体3aを分断する線分の長さを線分Aとする。細胞構造体3a中でその線分Aが最長となる点Pを選択し、その際の線分Aの長さのことを「細胞構造体の厚さ又は直径」とする。すなわち、「細胞構造体の厚さ又は直径」は、細胞構造体3aの最大直径をいう。
【0052】
(細胞)
細胞は、その種類は特に限定されるものではなく、実際の治療目的に応じて、任意の細胞を使用することがきる。また、使用する細胞は1種でもよいし、複数種の細胞を組み合わせて用いてもよい。使用する細胞として、好ましくは、動物細胞であり、より好ましくは脊椎動物由来細胞、特に好ましくはヒト由来細胞である。脊椎動物由来細胞(特に、ヒト由来細胞)の種類は、万能細胞、体性幹細胞、前駆細胞、または成熟細胞の何れでもよく、特に好ましくは体性幹細胞である。
体性幹細胞としては、例えば、間葉系幹細胞(MSC)、造血幹細胞、羊膜細胞、臍帯血細胞、骨髄由来細胞(例えば、骨髄由来間MSC等)、心筋幹細胞、脂肪由来幹細胞、または神経幹細胞を使用することができる。前駆細胞および成熟細胞としては、例えば、皮膚、真皮、表皮、筋肉、心筋、神経、骨、軟骨、内皮、脳、上皮、心臓、腎臓、肝臓、膵臓、脾臓、口腔内、角膜、骨髄、臍帯血、羊膜、または毛に由来する細胞を使用することができる。ヒト由来細胞としては、例えば、ES細胞、iPS細胞、MSC、軟骨細胞、骨芽細胞、骨芽前駆細胞、間充織細胞、筋芽細胞、心筋細胞、心筋芽細胞、神経細胞、肝細胞、ベータ細胞、線維芽細胞、角膜内皮細胞、血管内皮細胞、角膜上皮細胞、羊膜細胞、臍帯血細胞、骨髄由来細胞、または造血幹細胞を使用することができる。また、細胞の由来は、自家細胞または他家細胞の何れでも構わない。上記の中でも、細胞としては、間葉系幹細胞を使用することが好ましい。間葉系幹細胞としては、脂肪由来間葉系幹細胞または骨髄由来間葉系幹細胞が好ましい。間葉系幹細胞の由来としては、ヒト由来または犬由来が好ましい。
【0053】
「投与キットの使用方法」
投与キット5の使用方法の一例を
図2~
図5を参照して説明する。投与キット5に加え、細胞懸濁液供給シリンジ6と、初期充填液及び押出液供給シリンジ7とを用意する(
図2及び
図3参照)。初期充填液及び押出液供給シリンジ7は、初期充填液及び押出液を供給するために用いられる。
【0054】
初期充填液は、細胞懸濁液供給時に穿刺針1及び投与チューブ2中に気泡がない状態とするために、細胞懸濁液3を投与チューブ2に供給する前に穿刺針1及び投与チューブ2中に充填される。
【0055】
押出液は、投与チューブ2中に充填された細胞懸濁液3を穿刺針1から押し出す際に用いられる。
【0056】
初期充填液及び押出液は、生理食塩水及び手術用の洗浄灌流液(人工髄液)等の生体に投与されても無害な液体である。初期充填液及び押出液としては同一の液体を用いることができる。また、初期充填液及び押出液は、細胞懸濁液3の懸濁用の液体と同一とすることができる。ここでは、初期充填液及び押出液として、同一の液体を用いることとする。また、便宜上、初期充填液及び押出液を総称して人工髄液8という。本例において、初期充填液及び押出液供給シリンジ7には人工髄液8が充填されている。
【0057】
容器4中の細胞懸濁液3を細胞懸濁液供給シリンジ6に充填しておく。すなわち、細胞懸濁液供給シリンジ6に、1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液3の全量を充填しておく。
【0058】
まず、
図2に示すように、投与チューブ2の第1端2aに穿刺針取付部26を介して穿刺針1を取り付け、第2端2bにシリンジ取付部28を介して初期充填液としての人工髄液8が充填された初期充填液及び押出液供給シリンジ7を取り付ける。初期充填液及び押出液供給シリンジ7から人工髄液8を投与チューブ2に供給することにより、穿刺針1と投与チューブ2内を人工髄液8で満たされ、気泡がない状態とする。
【0059】
その後、シリンジ取付部28から初期充填液及び押出液供給シリンジ7を取り外し、気泡が入らないように細胞懸濁液供給シリンジ6を取り付ける(
図3参照)。
【0060】
次に、
図3に示すように、細胞懸濁液供給シリンジ6を中心軸周りに往復回転させる動作を繰り返す。この往復回転を繰り返すことによって、細胞懸濁液供給シリンジ6内の細胞懸濁液3中の細胞構造体3aを均一に分散させた状態にした後、短時間の内に細胞懸濁液供給シリンジ6内の全量を投与チューブ2に供給する(
図4)。短時間とは2秒以下であることが好ましく、1秒以下であることがより好ましい。これにより、投与チューブ2には、1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液3の全量が充填された状態となる。細胞構造体3aを分散させるための往復回転は複数回行うことが好ましい。往復回転の回数は、好ましくは5回以上、さらに好ましくは10回以上である。なお、均一に分散した状態とは、細胞懸濁液中で、細胞や細胞構造体の沈殿がなく、液と混在している状態である。
【0061】
その後、投与チューブ2から細胞懸濁液供給シリンジ6を取り外し、
図5に示すように、初期充填液及び押出液供給シリンジ7を投与チューブ2の第2端2bにシリンジ取付部28を介して取り付ける。初期充填液及び押出液供給シリンジ7を投与チューブ2の第2端2bに取り付けた状態で、穿刺針1を生体の細胞懸濁液注入箇所へ穿刺する。
【0062】
より具体的には、
図5に示すように、細胞懸濁液3の生体102の脳への投与は、穿刺針1を定位脳手術装置100に取り付けた状態で行われる。定位脳手術装置100は、例えば、脳の特定の位置に幹細胞等の細胞を移植する場合、穿頭により頭蓋に穿孔が形成された患者の頭に取り付けられる。定位脳手術装置100は、穿刺針1の脳に対する挿入位置及び挿入方向を特定の位置及び方向に保持する装置である。穿刺針1は、定位脳手術装置100の可動部に取り付けられ、可動部によって保持された状態で、穿刺針1の挿入位置及び挿入方向が調整される。
【0063】
穿刺針1の脳への穿刺に際しては、穿刺針1を、定位脳手術装置に保持させつつ穿孔を通じて脳表面から脳内に挿入し、穿刺針1の先端を脳内の目的位置に到達させる。なお、脳への穿刺は慎重に行う必要があるため、先端を脳内の目的位置に到達させるまでに、一般に10分程度の時間を要する。投与チューブ2に細胞懸濁液3が充填された後、穿刺針1を生体に穿刺してその先端を目的位置に到達させるまでの間は、投与チューブ2は静置される。
【0064】
穿刺針1の先端を目的位置に到達させた後、初期充填液及び押出液供給シリンジ7を操作して押出液としての人工髄液8を投与チューブ2に供給する。投与チューブ2中の細胞懸濁液3がすべて人工髄液8と入れ替わるまで人工髄液8を投与チューブ2に供給する。投与チューブ2内の細胞懸濁液3は、初期充填液及び押出液供給シリンジ7から供給される人工髄液8に押し出されて、生体内に投与される。
【0065】
本開示の投与キット5は、1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液3の全量を内部に保持可能な投与チューブ2を備え、1回に投与すべき細胞懸濁液3の全量を投与チューブ2に充填することができる。投与チューブ2は、細胞懸濁液供給シリンジ6と比較して小さい内径を有しており、投与チューブ2中の細胞懸濁液3の細胞構造体3aが沈下しても、長さ方向において細胞構造体3aは略均一に分布した状態を維持できる。従来のように、投与チューブ2を備えず細胞懸濁液供給シリンジ6から直接穿刺針1に細胞懸濁液を供給する場合、あるいは、投与チューブ2が細胞懸濁液3の全量を保持できない長さである場合、穿刺のために一定時間静置させる細胞懸濁液供給シリンジ6内に細胞懸濁液3を少なくとも一部保持した状態となる。
【0066】
後述の実施例において詳細は述べるが、細胞懸濁液供給シリンジ6内においては、細胞懸濁液供給シリンジ6を動かして内部の細胞構造体3aを均一に分散させた状態から、細胞懸濁液供給シリンジ6を静止させた場合、細胞懸濁液供給シリンジ6を静止させた直後から細胞構造体3aの沈下が始まる。細胞懸濁液3内に細胞構造体3aが均一に分散した状態では、細胞懸濁液供給シリンジ6内において細胞懸濁液3の透明度は均一な状態である。しかし、細胞懸濁液供給シリンジ6を静止させた後5秒程度経過すると、細胞懸濁液3内の鉛直方向の上方においては、透明度が高くなり、細胞構造体3aが疎の状態になっている兆候を示す一方、鉛直方向の下方においては、透明度が低くなり、細胞構造体3aが密の状態になっている兆候を示しはじめる。こうした透明度の変化は目視で確認できる程度に進む。つまり、5秒程度経過した時点では、細胞構造体3aの沈下の進行が視認可能な程度に達する。そして、10秒程度経過すると、細胞懸濁液3内の鉛直方向の上方の透明度がさらに高くなり、鉛直方向の下方の透明度がさらに低下する。これは、より多くの細胞構造体3aが沈下した状態になっていることを示す。そして、20秒程度経過した時点で完全に沈下し、細胞懸濁液供給シリンジ6内の鉛直方向の下方部分に細胞構造体3aが沈殿した状態となる(
図13参照)。
【0067】
このように細胞構造体3aが沈殿した状態では細胞構造体3aが細胞懸濁液供給シリンジ6の出口で詰まり、細胞構造体3aが穿刺針1あるいは投与チューブ2に供給されないという不具合が生じる。これに対し、投与キット5は、1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液の全量を内部に保持可能な投与チューブ2を備える。これにより、細胞懸濁液供給シリンジ6内において細胞構造体3aが沈殿する前に、1回の治療で投与されるべき細胞構造体3aの全量を投与チューブ2に供給することができる。したがって、穿刺の間、細胞懸濁液供給シリンジ6内で細胞懸濁液3を保持する必要がないため、細胞懸濁液供給シリンジ6の出口で細胞構造体3aが詰まったり、細胞懸濁液供給シリンジ6内に残されたりする不具合の発生を抑制することができる。また、投与チューブ2の内径は細胞懸濁液供給シリンジ6の内径と比較して小さいので、細胞構造体3aが長さ方向に略均一に分布した状態で充填された後、投与チューブ2が静置されていても、細胞構造体3aが長さ方向に略均一に分布した状態を維持することができる。したがって、投与チューブ2から穿刺針1に注入する際においても細胞構造体3aが詰りを生じるのを抑制することができる。これにより、本例の投与キット5によれば、従来よりも、細胞構造体3aの沈殿による詰まりを低減させることにより、細胞懸濁液3の生体102への投与をスムーズに行うことが可能となる。本例では、細胞構造体3aを使用しているが、細胞構造体3aの代わりに細胞を使用してもよい。ただし、細胞よりも細胞構造体3aの方が、粒径が大きいため、細胞構造体3aの方が詰まりやすい。そのため、本例の投与キット5は、細胞構造体3aを使用する場合に特に有効である。
【0068】
投与チューブ2は内径が1.0mm以上であれば、ある程度の大きさ、例えば、直径が300μm程度以下の細胞構造体3aを詰まらせることなく通過させることが可能であり、となる。1.7mm以下である場合、投与チューブ2内において、同一の長さ位置に重畳する細胞構造体3aの個数が制限されるため、長さ方向における細胞構造体3aの分布をより均一化することができ、投与チューブ2内で長さ方向に均一に分布した状態を維持することができる。
【0069】
上記実施形態の投与キット5には穿刺針1が含まれているが、投与キット5は穿刺針1を含まず、細胞懸濁液供給シリンジ6及び初期充填液及び押出液供給シリンジ7と同様に、穿刺針1を別途に用意するようにしてもよい。すなわち、投与キット5は、少なくとも投与チューブ2と1回の治療で投与されるべき量の細胞懸濁液3を含んでいればよい。
【0070】
上記実施形態の投与キット5は、投与チューブ2に充填する細胞懸濁液3を収容する容器4として、バイアルを備えているが、容器4はアンプルであってもよい。または、チューブ内に細胞懸濁液を収容していてもよい。細胞懸濁液3を容器4に収容しておくことで、保管及び移動等の際の取り扱いが容易である。
【0071】
上記実施形態の投与キット5の使用方法において、投与キット5とは別に細胞懸濁液供給シリンジ6と、初期充填液及び押出液供給シリンジ7とを用意する形態について説明したが、投与キット中に細胞懸濁液供給シリンジ6と、初期充填液及び押出液供給シリンジ7の一方もしくは両方が含まれていてもよい。
【0072】
なお、細胞懸濁液3は容器4に収容されている形態に限らず、細胞懸濁液供給シリンジ6中に収容された状態で投与キット5に含まれていてもよい。すなわち、投与キット5は、細胞懸濁液3を収容した容器4に代えて、細胞懸濁液3を収容した細胞懸濁液供給シリンジ6を含んでいてもよい。容器4から細胞懸濁液3を細胞懸濁液供給シリンジ6に充填する必要がないため、異物の混入を防止でき、手間を省くことができる。
【0073】
さらには、細胞懸濁液3は投与チューブ2に収容された状態で投与キット5に含まれていてもよい。すなわち、投与キット5は、細胞懸濁液3を収容した容器4を備えることなく、細胞懸濁液3が充填された投与チューブ2を備えたものであってもよい。細胞懸濁液供給シリンジ6を用いて投与チューブ2に細胞懸濁液3を充填する必要がないため、細胞懸濁液供給シリンジ6内で細胞懸濁液3中の細胞構造体3aを均一に分散させる等の処理が不要となり、穿刺開始の時間を短縮することができる。
【0074】
また、初期充填液及び押出液供給シリンジ7の内径、投与チューブ2の内径及び穿刺針1の内径は、初期充填液及び押出液供給シリンジ7、投与チューブ2及び穿刺針1内を25℃の水で充填した場合に、押出液を12mL/minの押し出し速度で押し出すための押出力が15N以下であることが好ましく、10N以下であることがより好ましく、5N以下であることが更に好ましい。例えば、細胞構造体3aの平均直径が250μmである場合、初期充填液及び押出液供給シリンジ7の内径15.8mm、投与チューブ2の内径1.5mm、穿刺針1の内径1.1mmとすることで、上記押出力の条件を満たすことができる。押出力は、プッシュプルゲージを介してシリンジを押す事によって測定した値で定義する。
【0075】
上記に説明した使用方法において、投与チューブ2中に気泡がないように投与チューブ2中に人工髄液8を充填し、シリンジ交換の際に気泡が入り込まないようにするのは、以下の理由による。
【0076】
投与チューブ2中に気泡があると、投与チューブ2に供給した細胞構造体3aが投与チューブ2内において長さ方向に均一に分散した状態にならず、気泡の上流側の気泡に隣接する領域に細胞構造体3aが集まってしまう。
図6は、投与チューブ2中に気泡が無い場合(
図6A)と、ある場合(
図6B)の人工髄液供給後の人工髄液8の先端位置の状況を示す概念図である。
図6Bに示すように、気泡に隣接して細胞構造体3aが高濃度になった状態で、穿刺針1への入り口に到達した場合、穿刺針1への入り口で詰まってしまう場合がある。これを回避するため、細胞懸濁液3を投与チューブ2に供給する前に投与チューブ2中に気泡がない状態とし、初期充填液及び押出液供給シリンジ7を細胞懸濁液供給シリンジ6と交換する際にも気泡が入らないようにすることが好ましい。
【0077】
図7は設計変更例の投与キットの概略構成図である。
図7に示す投与キット5Aは、穿刺針1と、投与チューブ2と、1回の治療で投与されるべき量の細胞懸濁液3を内包した容器4と、細胞懸濁液供給シリンジ6と、初期充填液及び押出液供給シリンジ7と、取扱説明書9とを含む。
図1~
図4に示した投与キット5および使用方法で説明した要素には同一符号を付し詳細な説明は省略する。
【0078】
取扱説明書9は、1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液3の全量を投与チューブ2に充填した後に、細胞懸濁液3の投与を開始すべきことをユーザに指示するための指示書である。
【0079】
取扱説明書9には、少なくとも以下の2つの指示が記載されていることが好ましい。第1指示は、1回の治療で投与されるべき細胞懸濁液3の全量が充填された細胞懸濁液供給シリンジ6から投与チューブ2に対する細胞懸濁液3の供給を開始する前に、細胞懸濁液供給シリンジ6の中心軸周りに細胞懸濁液供給シリンジ6を複数回往復回転させる旨の指示である。第2指示は、細胞懸濁液供給シリンジ6内の細胞懸濁液3を均一に分散した状態とした後に、速やかに細胞懸濁液供給シリンジ6から投与チューブ2に対する細胞懸濁液3の供給を開始することにより、細胞懸濁液3の全量を投与チューブ2に充填する旨の指示である。
【0080】
取扱説明書9には、細胞懸濁液3を均一に分散した状態とした後、2秒以内に細胞懸濁液3の全量を投与チューブ2に供給する第3指示が記載されていてもよい。なお、細胞懸濁液3の全量を投与チューブ2に供給する時間は1秒以内が好ましいことが更に記載されていてもよい。
【0081】
上記の投与キット5の使用方法において説明した通り、細胞懸濁液供給シリンジ6内で細胞懸濁液3中の細胞構造体3aが沈殿した状態で細胞懸濁液供給シリンジ6から投与チューブ2に細胞懸濁液3を供給すると、シリンジ先端で細胞構造体3aが詰まり、投与チューブ2内に細胞懸濁液3を供給するのが難しくなる。取扱説明書9を備えることにより、ユーザは細胞構造体3aをシリンジ先端で詰まらせることなく、投与チューブ2に供給することができる。
【0082】
なお、取扱説明書9は、パンフレット形式のものに限らず、投与キット5Aの容器等に付与されたID番号、バーコードあるいはQRコード(登録商標)等からインターネット経由で取得可能な形態で投与キット5Aに含まれていてもよい。
【0083】
投与キット5、5Aにおいて、シリンジ取付部28は、シリンジを取り付ける取付口が
1つのみの構成であるが、シリンジ取付部28に代えて、シリンジを取り付け可能な複数の取付口35と、切換弁36とを含むシリンジ取付部34を備えてもよい(後記
図15参照)。切換弁36は投与チューブ2と取付口35との間に配置され、投与チューブ2と複数の取付口35との連通状態を切り換える。すなわち、切換弁36は、投与チューブ2と初期充填液及び押出液供給シリンジ7とが連通した状態と、投与チューブ2と細胞懸濁液供給シリンジ6とが連通した状態とを切り換える。このような切換弁36を備えれば、シリンジの取り付け取り換えが不要となる。そのため、投与チューブ2への細胞懸濁液3の充填などの穿刺前に行う処理を速やかに行うことができ、また、雑菌などの混入リスクを低減できる。
【0084】
「穿刺針」
穿刺針は、細胞懸濁液の通路が内部に形成された、前後方向に沿った針本体と、針本体の前端部の外表面に形成された細胞懸濁液の導出口とを備えており、針本体は、通路を備える単一管であり、導出路が延びる方向と直交する導出路の断面の面積が、導出路の少なくとも一部において導出口に向かって滑らかに増加していると共に、導出路の延びる方向に関する各位置において、それより通路に近い位置における断面の面積以上である。
【0085】
穿刺針は、導出路の断面の面積が、導出路の少なくとも一部において導出口に向かって滑らかに増加していてもよい。つまり、導出路の少なくとも一部が導出口に向かって広がっていてもよい。また、導出路の断面の面積が、導出路の延びる方向に関する各位置において、それより通路に近い位置における断面の面積以上であってもよい。言い換えれば、導出路の断面の面積は、導出口に向かって小さくなるようには変化しない。これにより、導出口から導出される物体が噴流を形成しにくくなる。また、針本体は物体の通路を備える単一管であるため、従来の2重管に比べて管の外径を小さくすることができるため、脳や中枢神経に対する負担が軽減される。針本体の外径は任意であり得る。例えば、針本体の外径は、2.0mm以下であり、好ましくは1.6mm以下であり、さらに好ましくは1.2mm以下である。したがって、中枢神経を損傷しにくい穿刺針が実現する。
【0086】
非限定的な別の実施形態では、従来の穿刺針において噴流が形成されるのは導出路が直線状に形成されているため、つまり、導出路の断面の面積が一定であるためと考えられた。理論の束縛されることを望まないが、本開示の、流動性のある物体を中枢神経に注入するための穿刺針は、導出路が延びる方向と直交する導出路の断面の面積が、導出路の少なくとも一部において導出口に向かって滑らかに増加していると共に、導出路の延びる方向に関する各位置において、それより通路に近い位置における断面の面積以上であることにより、噴流が予想外に抑制または消失させることができる。この効果は、物体の通路が内部に形成された、前後方向に沿った針本体と、針本体の前端部の外表面に形成された物体の導出口と、通路から導出口まで延びた物体の導出路と、を備える、本開示の穿刺針において、針本体は、物体の通路を備える単一管であることによっても強化される。
【0087】
前端部の外表面が、滑らかに湾曲しつつ前方に向かって突出した前端面と、前端面と接続した円筒状の側面とを含んでいることが好ましい。従来の穿刺針は、前端が先鋭に形成されていたり、前端面が平らに形成されていたりする。このような穿刺針を生体内に挿入すると、針が血管等の組織を損傷するリスクが高くなる。これに対し、上記構成によると、前端面が曲面状であるため、生体内への挿入の際、針が組織を損傷するおそれが低くなる。
【0088】
穿刺針は、導出口の前端が、通路の前端より後方に位置していると共に、前端面と側面の境界に位置しているか境界より前方に位置していることが好ましい。針本体内の通路において導出口より前方の部分に細胞や液体が留まって無駄になる場合がある。これに対し、上記構成によると、導出口の前端が、前端面と側面の境界又はそれより前方に配置されている。したがって、通路において、その前端から導出路までの部分が比較的短くなりやすい。このため、通路の前端から導出路までの部分に留まって無駄になる細胞や液体の量が比較的小さくなる。
【0089】
穿刺針は、導出口が、前端面の背後に形成されていることが好ましい。これによると、導出口が前方から見て前端面の背後に隠れることになる。したがって、穿刺針が前方に向かって生体内に挿入される際に、導出口に生体内の組織が侵入しにくい。
【0090】
穿刺針は、前端部が円筒状の側面を有しており、導出口の少なくとも一部が側面に形成されていることが好ましい。これによると、導出口の少なくとも一部が側面に形成されているので、穿刺針の挿入の際に導出口に生体内の組織が侵入しにくい。
【0091】
穿刺針は、針本体の外表面が穿刺時に生体に接触する表面であり、針本体の通路から外表面までの壁部が単一層からなることが好ましい。これによると、針本体の外径を抑えながらも通路の内径をなるべく大きく形成しやすい。通路の内径が大きくなるほど内部に細胞等が詰まりにくくなるので、通路の内径をなるべく大きくしやすいことは有効である。
【0092】
穿刺針は、シリンジから通路内に水を流入させた場合に、導出口から導出される水が噴流を形成するようにシリンジに掛ける力の最小値が1.5N以上、2.0N以上、2.3N以上、2.6N以上または3.0N以上であることが好ましい。これによると、従来と比べて噴流を形成しにくい穿刺針が実現する。この場合、導出口から導出される水が噴流を形成するようにシリンジに掛ける力の最大値は、6.0N、5.7N、5.4N、5.0Nであり得る。
【0093】
上記投与キット5(あるいは5A)に含まれる穿刺針1の一例について、具体的に
図81~
図10を参照しつつ説明する。穿刺針1は、
図8に示すように、一方向に沿って直線的に延びた針本体10と、針本体の後端部に固定されるシリンジが接続される接続部20とを備えている。投与チューブ2からは生体内に投与する細胞懸濁液が穿刺針1に供給される。
【0094】
以下、
図8~
図10に示すように、針本体10に沿った方向を前後方向という。前方は穿刺針1が生体内に挿入される方向であり、後方はその反対方向である。また、
図8、
図9及び
図10Aに示すように、前後方向と直交する一方向を上下方向とする。接続部20の内部には、
図9に示すように、投与チューブ2の第1端2aが挿入されるチューブ挿入穴21と、針本体10が挿入された本体挿入孔22とが形成されている。
【0095】
針本体10は、ステンレス、アルミニウム等の金属製、セラミックまたは不撓性の硬質樹脂(撓みの少ない)からなる円形筒状部材である。本開示では、円形とは厳密に円である必要はなく、医学的に許容される形状であればよく、略円例えば楕円状などでもよい。針本体10の材質を金属製や硬質樹脂など不撓性とすることで、所望の治療目標点まで正確に穿刺針を挿入することが可能となる。好ましくは、針本体は、安価で滅菌処理などを用意に行うことが可能なステンレス製である。
図9及び
図10Aに示すように、針本体10の内部には細胞が通過する通路11が形成されている。通路11は、前後方向に針本体10を貫通した貫通孔の内表面と、この貫通孔の前端の開口部を閉塞した金属製の閉塞部12の表面とによって画定されている。通路11は、針本体10の後端において後方に向かって開口しており、接続部20のチューブ挿入穴21と連通している。投与チューブ2から供給される細胞懸濁液は、チューブ挿入穴21を介して通路11へと注入される。通路11に注入された細胞は、チューブからの圧入によって通路11を通り、針本体10の前端部13へと向かう。本実施形態においては、針本体10は、従来の2重管ではなく、単一管からなる。つまり、穿刺針1は、インナーニードル及びアウターニードルの2重管構造を有する特許第5665027号に記載のような針とは異なる。したがって、針本体10の外径を抑えることが可能であって、それにより、患者の負担や中枢神経への損傷を軽減することが可能となる。また、本実施形態において、針本体10は、通路11から外表面までの壁部が途中で分断されておらず、単一層からなる。このようにすることで、通路11の内径をなるべく大きく形成することが可能となる。また、通路11の内径が大きくなるほど内部に細胞が詰まりにくくなる。細胞が通路11内に詰まると、上記の通り導出口15から導出される細胞及び液体が噴流を形成して脳内を損傷するおそれが高まる。したがって、上記の通り、単一管による針本体の外径の大きさを抑えつつ、単一層による通路11の内径をなるべく大きくしやすいことは、噴流の形成を避ける観点で有効である。
【0096】
通路11の内径は任意であり得る。例えば、内径は0.3mm~1.2mm、好ましくは0.5mm~1.2mmである。
【0097】
穿刺針の長さは任意であり得る。例えば、接続部20の先端20aと針本体10の先端10aとの間の距離は、150mm~230mm、好ましくは170mm~220mm、さらに好ましくは170mm~200mmである。
【0098】
針本体10の前端部13は、
図10A及び
図10Bに示すように、前方に向かって突出した外表面である前端面13aと、円筒状の外表面である側面13bとを有している。前端面13aは、滑らかに湾曲した半球形状を有しており、後端において側面13bと滑らかに接続している。
【0099】
前端部13には、
図10Bに示すように上方から見て円形の導出口15が形成されている。導出口15からは、投与チューブ2から通路11内に供給された細胞が導出される。導出口15の前端15aは、ちょうど、前端面13aと側面13bの境界Bに位置している。つまり、導出口15は、全体が側面13bの範囲内に形成され、前端面13aの背後に配置されることになる。したがって、前方から穿刺針1を見た際に、導出口15が前端面13aの背後に隠れて見えなくなる。
【0100】
前端部13内には、通路11から上方に向かって導出口15まで延びた細胞の導出路14が形成されている。導出路14は、ほぼ円錐台状の円錐台部14a及びほぼ円柱状の円柱部14bからなる。円柱部14bの下端は通路11と接続している。円柱部14bと通路11の接続位置は、通路11の前端より後方に離隔した位置である。円柱部14bの上端は円錐台部14aの下端と接続している。円錐台部14aの下端は、円柱部14bの上端と同じ形状、つまり、円柱部14bの内径と同じ大きさの内径の円形状を有している。円錐台部14aの上端は、前端部13の側面13bに開口した細胞の導出口15と接続している。
【0101】
導出路14はその断面が以下の特徴を有するように形成されている。なお、導出路14の断面とは、特に断りのない限り、導出路14が延びる方向と直交する断面、つまり、
図10の上下方向と直交する断面である。また、導出路14の断面は、
図10の一点鎖線Eで囲まれた範囲内において定義される。一点鎖線Eは、導出口15が形成された範囲及び通路11への導出路14の開口14cが形成された範囲を除いた範囲に対応する。円錐台部14aは、下端から上端に向かって断面の面積が滑らかに大きくなるように形成されている。また、円柱部14bは断面の面積が一定である。よって、円錐台部14a及び円柱部14bからなる導出路14は、上下方向に関するいずれの位置における断面の面積も、その位置より通路11に近い位置の断面の面積以上となっている。例えば、円錐台部14aにおける上下方向に関するいずれの位置の断面も、それより通路11側におけるいずれの位置の断面よりも面積が大きい。また、円柱部14bにおける上下方向に関するいずれの位置の断面も、それより通路11側におけるいずれの位置の断面とも面積が等しい。
【0102】
以上説明した本実施形態によると、穿刺針1の導出路14が下記の特徴を有している。第1に、導出路14の少なくとも一部(具体的には、円錐台部14a)において、導出口15に向かってその断面の面積が滑らかに増加している。つまり、導出路14の少なくとも一部が導出口15に向かって広がっている。第2に、導出路14の延びる方向に関するいずれの位置における導出路14の断面の面積も、その位置より通路11に近い位置の断面の面積以上である。言い換えれば、導出路14の断面の面積は、導出口15に向かって小さくなるようには変化しない。一方、仮に、導出路14の断面が位置によらず一定であったり、導出路14の途中のいずれかにおいて導出口15に向かって断面が小さくなるように(断面が絞られるように)導出路14が形成されていたりすると、導出口15から導出される細胞懸濁液が後述の実施例に示すように噴流を形成するおそれがある。特に、通路11の内部に細胞又は細胞構造体が詰まった場合等、シリンジにおいて細胞懸濁液を圧入する圧力を大きくする必要があるときに噴流が形成されるおそれが高まる。そして、導出口15から導出される細胞懸濁液が噴流を形成すると、噴流が脳に与える衝撃によって脳に損傷が発生するおそれが高まる。これに対し、穿刺針1の導出路14は、上記の通り第1及び第2の特徴を有している。このため、後述の実施例に示すように、穿刺針1は噴流を形成しにくい。よって、導出口15から導出された細胞懸濁液が脳に損傷を与えにくい。
【0103】
また、本実施形態においては、穿刺針1の前端部13が半球状の前端面13aを有している。一方、針の前端が先鋭に形成されていたり、前端面が平らに形成されていたりすると、脳内に針を挿入する際、針が血管等の組織を損傷するリスクが高くなる。これに対し、前端面13aが曲面状であるため、脳内への挿入の際、針が組織を損傷するおそれが低くなる。
【0104】
また、本実施形態においては、細胞の導出口15が前端部13の側面13bの範囲内に配置されている。したがって、導出口15は、針本体10を前方から見た際に前端面13aの背後に隠れて見えなくなる。仮に、導出口15が側面13bではなく前端面13aに形成されているとすると、導出口15が前方に向かって開口することになる。よって、穿刺針1を脳に挿入する際に脳の組織が導出口15に侵入する可能性が高まる。これに対し、上記の通り導出口15が側面13bの範囲内に配置されており、前端面13aの背後に隠れるので、組織が導出口15内に侵入するおそれが低くなる。
【0105】
また、本実施形態においては、導出口15の前端15aが前端面13aと側面13bの境界Bに位置している。仮に、導出口15の前端15aがこの位置より後方に配置されているとすると、通路11において前端から導出路14までの部分が長くなる。この部分まで到達した細胞は、導出口15から導出されることなく、当該部分に留まる可能性がある。したがって、この部分が長いと無駄になる細胞の量が大きくなるおそれがある。これに対し、上記の通り、導出口15の前端15aが前端面13aと側面13bの境界Bに位置しているので、通路11の前端から導出路14までの部分の長さが比較的小さくなっている。したがって、穿刺針を中枢神経に挿入する長さを可能な限り短くすることができるため、患者への負担および中枢神経の損傷を軽減することが可能である。また、無駄になる細胞の量が比較的小さくなりやすい。なお、通路11の前端から導出路14までの部分の長さをできるだけ小さくする観点によれば、閉塞部12の後端を可能な限り後方に位置させる、つまり、可能な限り導出路14に近づけることが好ましい。また、上記観点によれば、閉塞部12の後端を円柱部14bの前端と同じ位置とすることが最も好ましい。
【0106】
なお、
図10に示す実施形態においては、円錐台部14aの一方の傾斜面と他方の傾斜面との間の角度(円錐角度)は約90°であるが、この円錐角度は90°に限定されない。45°~150°の範囲が好ましく、70°~110°がより好ましく、85°~95°がさらに好ましく、88~92°がさらに好ましい。また、円柱部14bの内径は円柱部14bの内径以下で任意の大きさであり得る。例えば、円柱部14bの内径は、0.3mm~1.2mmである。また、導出口15の内径は針本体10の直径以下で任意の大きさであり得る。例えば、導出口15の内径は1.2mm~1.6mmである。
【0107】
本穿刺針1において、導出路14は上下方向に沿って設けられているが、上下方向に対して前方に角度θで傾斜した方向に沿って通路11から導出口15まで延びるように設けられていてもよい。上下方向に対する傾き角度θは任意であり得る。例えば、0°を超えて30°、好ましくは10°~20°である。なお、この場合、導出路の最小内径は0.3mm~1.2mm、導出口の内径は、0.3mm~1.2mmであることが好ましい。
【0108】
<穿刺針の設計変更例>
穿刺針の設計変更例を
図11に示す。本開示の投与キット5は、上記穿刺針1に代えて
図11に示す穿刺針1Cを備えてもよい。なお、
図11において、
図8から
図10に示した穿刺針1と同等の要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0109】
穿刺針1Cは、細胞懸濁液3の通路11が内部に形成された針本体10と、針本体10の基端側を保持する接続部20とを有する。接続部20は、投与チューブ2の第1端2aが取り付けられる。接続部20は、針本体10の基端側が挿入される本体挿入孔22と、投与チューブ2の第1端2aが挿入されるチューブ挿入穴21とを内部に備える。本体挿入孔22と、チューブ挿入穴21とは連通しており、投与チューブ2から排出された細胞懸濁液3は針本体10の通路11に供給される。穿刺針1Cは、針本体10の前端部13の外表面に細胞懸濁液3の導出口15を備えている
【0110】
図11に示すように、接続部20のチューブ挿入穴21の本体挿入孔22に連結する先端側部分21aは、基端側から先端側に向かって内径が徐々に細くなる漏斗形状をしている。すなわち、先端側部分21aは基端側から先端側に向かってテーパーがつけられた形状を有する。先端側から基端側に向かって開く漏斗形状の開き角α(
図11の断面図におけるテーパー面25の開き角)は、120°以下であることが好ましい。
【0111】
本穿刺針1Cは、チューブ挿入穴21の先端側部分21aが漏斗形状になっているので、スムーズに細胞構造体3aを針本体10の通路に導入することが可能となる。本体挿入孔22とチューブ挿入穴21との境界における両者の内径の差は小さいことが好ましく、両者の内径が一致していることが特に好ましい。本体挿入孔22とチューブ挿入穴21との境界における両者の内径の差が小さいほど、細胞構造体3aが留まるような段差が小さくなるため、細胞構造体3aが段差で引っ掛かって細胞構造体3aが詰まる現象が生じるのを抑制することができる。
【0112】
穿刺針1Cは、針本体10の通路11の直径が0.5mm以上であることが好ましい。直径0.5mm以上であれば、ある程度の大きさ、例えば、直径が300μm程度以下の細胞構造体3aが詰まるのをより効果的に抑制することができる。
【0113】
穿刺針1Cは、針本体10の通路の直径(針本体10の内径φ1)が細胞懸濁液に含まれる細胞又は細胞構造体3aの直径の2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましく、4倍以上であることが更に好ましい。針本体10の通路11の直径が細胞又は細胞構造体3aの直径の2倍以上であれば、細胞又は細胞構造体3aを通路内部で詰まらせることなく、細胞構造体3aを生体に投与することができる。穿刺針1Cは、針本体10の内径φ1が0.5mm以上であることが好ましく、0.8mm以上であることがより好ましく、1.0mm以上であることが更に好ましい。
【0114】
穿刺針1Cは、針本体10の外径が3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましく、1.5mm以下であることが更に好ましい。針本体10の外径を3mm以下とすることで、穿刺する生体の損傷を抑制することができる。
【0115】
穿刺針1Cは、導出口15の開口径φ3が、針本体10の通路11の直径φ1以上であることが好ましい。導出口15の開口径φ3が針本体10の通路11に示すように、針本体10の通路11の直径φ1以上であれば、細胞構造体3aをスムーズに通過させることができる。
【0116】
穿刺針1Cは、導出口15の開口面積が、針本体10の通路11の断面積以上であることが好ましい。導出口15の開口面積が針本体10の通路11の断面積以上であれば、細胞構造体3aをスムーズに通過させることができる。
【0117】
穿刺針1Cは、針本体10の長さが100mm以上であることが好ましい。例えば、定位脳手術において、脳の特定の位置に幹細胞等の細胞を移植するために好適である。患部が頭部表面から深い場所にあっても患部に細胞懸濁液を投与することができる。例えば、管長190mmは、定位脳手術装置を用いて細胞移植手術を行う際に好適な長さである。
【実施例0118】
以下、本開示の投与キットについて実施例および比較例を説明する。最初に、細胞構造体の作製方法について説明する。
【0119】
<細胞構造体の作製方法>
((コンビナントペプチド(リコンビナントゼラチン))
リコンビナントペプチド(リコンビナントゼラチン)として以下のCBE3を用意した(国際公開第2008/103041号に記載)。
CBE3:
分子量:51.6kDa
構造: GAP[(GXY)63]3G
アミノ酸数:571個
RGD配列:12個
イミノ酸含量:33%
ほぼ100%のアミノ酸がGXYの繰り返し構造である。CBE3のアミノ酸配列には、セリン、スレオニン、アスパラギン、チロシンおよびシステインは含まれていない。CBE3はERGD配列を有している。
等電点:9.34
GRAVY値:-0.682
1/IOB値:0.323
アミノ酸配列(配列表の配列番号1)(国際公開第2008/103041号の配列番号3と同じ。但し末尾のXは「P」に修正)
GAP(GAPGLQGAPGLQGMPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGAPGLQGMPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGKDGVRGLAGPIGPPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGKDGVRGLAGPIGPPGPAGAPGAPGLQGMPGERGAAGLPGPKGERGDAGPKGADGAPGKDGVRGLAGPP)3G
【0120】
(リコンビナントペプチド多孔質体の作製)
[PTFE厚・円筒形容器]
底面厚さ3mm、直径51mm、側面厚さ8mm、高さ25mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製円筒カップ状容器を用意した。円筒カップは曲面を側面としたとき、側面は8mmのPTFEで閉鎖されており、底面(平板の円形状)も3mmのPTFEで閉鎖されている。一方、上面は開放された形をしている。よって、円筒カップの内径は43mmになっている。
【0121】
[温度差の小さい凍結工程、および乾燥工程]
PTFE厚・円筒形容器にCBE3水溶液を流し込み、真空凍結乾燥機(TF5-85ATNNN:宝製作所)内で冷却棚板を用いて底面からCBE3水溶液を冷却した。この際CBE3水溶液の最終濃度4質量%、水溶液量4mLとした。棚板温度の設定は、-10℃になるまで冷却し、-10℃で1時間、その後-20℃で2時間、さらに-40℃で3時間、最後に-50℃で1時間凍結を行った。本凍結品はその後、棚板温度を-20℃設定に戻してから-20℃で24時間の真空乾燥を行い、24時間後にそのまま真空乾燥を続けた状態で棚板温度を20℃へ上昇させ、十分に真空度が下がる(1.9×105Pa)まで、さらに20℃で48時間の真空乾燥を実施した後に、真空凍結乾燥機から取り出した。上記によりCBE3多孔質体を得た。
【0122】
(生体親和性高分子ブロックの作製(多孔質体の粉砕と架橋))
上記の手順で得られたCBE3多孔質体をニューパワーミル(大阪ケミカル、ニューパワーミルPM-2005)で粉砕した。粉砕は、最大回転数で1分間×5回、計5分間の粉砕で行った。得られた粉砕物について、ステンレス製ふるいでサイズ分けし、53~106μm、の未架橋ブロックを得た。その後、減圧下160℃で熱架橋(48時間)を施して、生体親和性高分子ブロック(CBE3ブロック)を得た。
【0123】
(細胞構造体の作製)
ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC:Human Mesenchymal Stem Cells)を増殖培地(タカラバイオ:MSCGM BulletKit(商標))に懸濁し、そこに、上記の手順で得た生体親和性高分子ブロックを加えた。これにより、最終的に6.9×106cellsのhMSCと5.76mgの生体親和性高分子ブロックが23mLの増殖培地に懸濁された状態で、底面に複数の窪み部を有する直径90mmのディッシュ型培養容器に播種した。
CO2インキュベーターにて37℃で3日間静置したところ、hMSCと生体親和性高分子ブロックから成る直径250μm程度の球状として細胞構造体を複数個回収することができた。細胞構造体の個数を高速3D細胞スキャナー(Cell3iMager neo:SCREENホールディングス)を用いて測定した。90mmディッシュ8枚分を集め、約55000個の細胞構造体を得た。
【0124】
以下の実施例及び比較例においては、平均粒径250μm、約55000個の細胞構造体3aを含む3mL以下の細胞懸濁液3を脳内の患部に注入することを想定した。穿刺時間10分間、投与時間を3分間で、管長(針本体10の長さ)190mm、管外径(針本体10の外径φ2)1.5mmの穿刺針1を用いて45度の針姿勢で投与することを目標に設定した。なお、細胞構造体3aの平均粒径は、上述の高速3D細胞スキャナーを用いて細胞構造体3aの粒子径を測定し、求めた値とする。
【0125】
[比較例]
5mLシリンジ(テルモ社製5mL SS-05SZ)に上記の手順で得た細胞構造体約55000個とアートセレブ(脳脊髄手術用洗浄灌流液(大塚製薬))を混合し、細胞懸濁液3mLを作製した。これにより、3mLの細胞懸濁液が充填された細胞懸濁液供給シリンジを得た。
【0126】
比較例は投与チューブ2を備えない投与キットを用いた場合の例である。比較例の投与キットは、穿刺針1と、3mLの細胞懸濁液3を含む細胞懸濁液供給シリンジ6とを含む。
【0127】
穿刺針1として、
図12に示す穿刺針1Aを用いた。穿刺針1Aの針本体10の内径φ1は0.5mm、外径φ2は1.5mmであり、管長は190mmである。針本体10の細胞懸濁液の導出口15は、前端部13の側面に配置されており、その穴径φ3は、針本体10の内径φ1と同じ0.5mmである。
図12中の寸法の単位はmmである。なお、
図12において、
図8~11に示した穿刺針1と同等の要素には同一符号を付している。
【0128】
脳へ穿刺する際に、脳への損傷を抑制するためには、針本体10の外径φ2は細い方が望ましいので、外径は1.5mmとした。また、患部が頭部表面から深い場所にあっても患部に投与できる様にするために、管長を190mmとした。
【0129】
本投与キットを用いた細胞懸濁液の投与手順は以下の通りとした。
【0130】
穿刺針1Aに細胞懸濁液3が充填された細胞懸濁液供給シリンジ6を挿入した。細胞懸濁液供給シリンジ6及び穿刺針1Aが水平な状態で、細胞懸濁液供給シリンジ6及び穿刺針1Aを細胞懸濁液供給シリンジ6の中心軸まわりに往復回転を繰り返した。これによって、細胞懸濁液供給シリンジ6内の細胞懸濁液3は細胞構造体3aが均一に分散した状態になった。
【0131】
穿刺針1Aを、脳への投与を想定した姿勢である、水平から45°の姿勢にすみやかに移動し、直ちに細胞懸濁液供給シリンジ6から細胞懸濁液3を押し出した。細胞懸濁液3mLを1秒程度の短時間で押し出した場合には、細胞懸濁液3を穿刺針先端から押し出す事ができた。
【0132】
実際の治療においては、脳への穿刺時間として、約10分間が必要である。また、脳への投与には時間をかけて徐々に注入する必要があり、例えば3mLを3分間かけて徐々に注入する必要がある。
【0133】
図13に、シリンジ内の細胞懸濁液が均一に分散された状態で、針姿勢45°の条件で、細胞構造体が沈下していく状況を5秒毎に撮影した写真を示す。0秒とは、細胞懸濁液が均一に分散された直後の状態である。
図13に示すように、5秒後には、細胞懸濁液の一部、細胞懸濁液の上部1/4程度が透明となっていることが目視され、10秒後にはシリンジ内の細胞構造体は細胞懸濁液の1/2程度が透明化した。20秒後には細胞懸濁液中の細胞構造体が完全に沈下した。
【0134】
このように、シリンジ中で細胞構造体が均一に分散した状態の細胞懸濁液を、穿刺時間及び長時間の投与時間放置すると、シリンジ内の細胞構造体は沈殿してしまい、懸濁した状態を保つ事ができない。このように細胞懸濁液中の細胞構造体が沈殿した状態で細胞懸濁液供給シリンジ内の細胞構造体を押し出そうとしたところ、シリンジ先端あるいは穿刺針への入り口で細胞構造体が詰ってしまった。沈殿した細胞構造体には流動性が無いために、移動が抑制されて詰ってしまうと考えられる。
【0135】
[実施例1]
5mLシリンジ(テルモ社製5mL SS-05SZ)に上記の手順で得た細胞構造体約55000個とアートセレブ(脳脊髄手術用洗浄灌流液(大塚製薬))を混合し、細胞懸濁液2.4mLを作製した。これにより、2.4mLの細胞懸濁液4が充填された細胞懸濁液供給シリンジ6を得た。なお、アートセレブは以下の実施例において初期充填液及び押出液にも共通して用いられる液体であり、人工髄液8の一例である。以下において、人工髄液8はアートセレブを意味する。
【0136】
本例の投与キットは、穿刺針1、投与チューブ2、及び上記の細胞懸濁液3を充填した細胞懸濁液供給シリンジ6を含む。本例は
図2~
図5を参照して説明する。
図2~
図5を用いて説明した各要素と同等のものには同一の符号を付して説明する。また、本例において、穿刺針1として、
図12に示した穿刺針1Aを用いた。
図2~
図5の穿刺針1は穿刺針1Aとして説明する。
【0137】
初期充填液供給及び押出液供給シリンジとして用いる初期充填液及び押出液供給シリンジ(テルモ社製10mL SS-10LZ)7に10mLの人工髄液8を充填した。
【0138】
穿刺針としては、比較例と同様に
図12に示した穿刺針1Aを用いた。
投与チューブ2としては、内径1.1mm、長さ3mのスパイラルチューブ(TOP社製、X1-300S、容量2.5mL)を使用した。
【0139】
本投与キットを用いた細胞懸濁液の投与手順は以下の通りとした。
【0140】
まず、穿刺針1Aと投与チューブ2と初期充填液及び押出液供給シリンジ7を接続した(
図2参照)。
穿刺針1Aを水平から45度傾けた姿勢に保持した。初期充填液及び押出液供給シリンジ7から約5mLの人工髄液8を供給する事により、穿刺針1Aと投与チューブ2内が人工髄液8で満たされ、気泡が無い状態になった。投与チューブ2から初期充填液及び押出液供給シリンジ7を取り外し、細胞懸濁液供給シリンジ6を接続した(
図3参照)。
【0141】
次に、細胞懸濁液供給シリンジ6をシリンジ中心軸まわりに往復回転を繰り返す事によって、細胞懸濁液供給シリンジ6内の細胞懸濁液中の細胞構造体3aを均一に分散した状態にし、短時間(約1秒)に全量を投与チューブ2に供給した。この操作により、細胞懸濁液供給シリンジ6中の細胞懸濁液は、チューブの長さ方向に細胞構造体3aが均一に分散した状態となった(
図4参照)。
【0142】
次に、投与チューブ2から細胞懸濁液供給シリンジ6を取り外し、再び初期充填液及び押出液供給シリンジ7を接続した(
図5参照)。その後、脳への穿刺に要する時間として、10分間放置した。この10分間の放置中に、投与チューブ2内の細胞構造体3aは、ほとんど動くことがなく、投与チューブ2の長さ方向に均一に分散した状態を維持していた。
【0143】
次に、初期充填液及び押出液供給シリンジ7から0.2mLを約1秒で押し出した。この時の流速は約12mL/分(0.2×60/1=12)である。この時、投与チューブ2内の細胞構造体3aは、長さ方向に均一に分散した状態を維持したまま、投与チューブ2内を移動した、11秒間放置し、再び初期充填液及び押出液供給シリンジ7から0.2mLを約1秒で押し出した。この押し出し及び放置の操作を複数回繰り返した。
【0144】
上記の投与手順で細胞懸濁液3を穿刺針先端から押し出したところ、少なくとも押出開始後4回目までは、細胞構造体3aが事無く穿刺針先端から出すことができた。比較例のように、投与チューブ2を備えない場合には、10分放置した細胞懸濁液供給シリンジ6の先端には細胞構造体3aが沈殿してしまい、細胞懸濁液供給シリンジ6の先端で細胞構造体3aが詰ってしまったのに対し、本例のように投与チューブ2を用いることにより、詰りを抑制することができた。これは、投与チューブ内の細胞懸濁液中の細胞構造体3aは内部でほぼ均一に分布していたためと考えられる。但し、本例では、5回目の押出しで穿刺針1Aの入り口で細胞構造体3aが詰ってしまった。
【0145】
[実施例2]
実施例2の投与キットは、
図14に示すように、穿刺針1、投与チューブ2、及び細胞懸濁液3を充填した細胞懸濁液供給シリンジ6を含む。本例においても穿刺針1としては、
図12に示す穿刺針1Aを用いた。投与チューブ2及び細胞懸濁液3を充填した細胞懸濁液供給シリンジ6は実施例1と同様とした。さらに、初期充填液供給シリンジ(テルモ社製10mL SS-10LZ)7Aを1本と押出液供給シリンジ(テルモ社製1mL SS-01T)7Bを3本備えた。すなわち、実施例1において、初期充填供給と押出液供給を兼ねた初期充填液及び押出液供給シリンジを備えていたのに対し、初期充填供給シリンジと押出液供給シリンジを備えた点で実施例1と異なる。
【0146】
図14に示すように、押出液供給シリンジ7Bの内径は初期充填液供給シリンジ7Aと比較して小さい。このように内径の小さい押出液供給シリンジ7Bを用いることにより、細胞構造体細胞懸濁液の押し出しを、より高圧で行うことができる。シリンジ及び投与チューブ2で発生する圧力はその断面積に反比例する。容量1mLのシリンジの断面積は、容量10mLシリンジの断面積より小さいので、より高い圧力で押し出す事ができる。また、0.2mLずつ押し出す際のストロークが容量10mLのシリンジより長いので、短時間に素早く押し出しをする事が可能である。
【0147】
本投与キットを用いた細胞懸濁液の投与手順は以下の通りとした。
【0148】
まず、
図14に示すように、穿刺針1Aと投与チューブ2と初期充填液供給シリンジ7Aを接続した。
【0149】
穿刺針1Aを水平から約45度傾けた姿勢に保持した。初期充填液供給シリンジ7Aから5mLの人工髄液8を供給する事により、穿刺針1Aと投与チューブ2内が人工髄液8で満たされ、気泡が無い状態になった。
【0150】
次に、投与チューブ2から初期充填液供給シリンジ7Aを取り外し、細胞懸濁液供給シリンジ6を接続した。この際に接続部に気泡が入らないように注意した。
【0151】
次に、細胞懸濁液供給シリンジ6をシリンジ中心軸まわりに往復回転を繰り返す事によって、細胞懸濁液供給シリンジ6内の細胞懸濁液3中の細胞構造体3aを均一に分散した状態にし、短時間(約1秒)に全量を投与チューブ2に供給した。この操作により、細胞懸濁液供給シリンジ6中の細胞懸濁液3は、投与チューブ2の長さ方向に均一に分散した状態となった。
【0152】
次に、投与チューブ2から細胞懸濁液供給シリンジ6を取り外し、押出液供給シリンジ7Bを接続した。その後、脳への穿刺に要する時間として、10分間放置した。この10分間の放置中に、投与チューブ2内の細胞構造体3aは、ほとんど動くことがなく、投与チューブ2の長さ方向に均一に分散した状態を維持していた。
【0153】
次に、押出液供給シリンジ7Bから0.2mLを約0.5秒で押し出した。この時の流速は約24mL/分(0.2×60/0.5=24)である。この押し出しにより、投与チューブ2内の細胞構造体3aは、長さ方向に均一に分散した状態を維持したまま、チューブ2内を移動した。その後、約11.5秒間放置し、再び、押出液供給シリンジ7Bから0.2mLを約0.5秒で押し出した。この押し出し及び放置の操作を5回繰り返した。
【0154】
上記操作により空になった1本目の押出液供給シリンジ7Bを投与チューブ2から取り外し、2本目の押出液供給シリンジ7Bを取り付けた。1本目の押出液供給シリンジ7Bの場合と同様に、押し出し・放置の操作を5回繰り返した。そして、空になった2本目の押出液供給シリンジ7Bを投与チューブ2から取り外し、3本目の押出液供給シリンジ7Bで上記と同様に、押し出し及び放置の操作を5回繰り返した。
【0155】
以上の一連の操作で合計15回の押し出しを3分間で行い、合計3mLの押し出しを行った。結果、細胞構造体3aが詰まる事無く、ほぼ全量を穿刺針先端から出すことができた。すなわち、1回の治療で投与すべき細胞懸濁液の全量を詰まらせることなく投与可能であることが明らかになった。
【0156】
本例では、穿刺針1Aと投与チューブ2をあらかじめ人工髄液8で充填し、細胞懸濁液供給シリンジ6内の細胞懸濁液3が均一に分散している状態で、その全量を投与チューブ2に短時間に供給し、その後、内径の小さい押出液供給シリンジ7Bで高い圧力、かつ高速で押し出す事によって、細胞構造体3aの詰まりを防止することができた。
【0157】
[実施例3]
実施例3の投与キットは、
図15に示すように、穿刺針1、投与チューブ2、細胞懸濁液3を充填した細胞懸濁液供給シリンジ6、初期充填液及び押出液供給シリンジ7、および接続チューブ31を含む。本例においても、穿刺針1として
図12に示す穿刺針1Aを用いた。本例において、投与チューブ2の第2端2bのシリンジ取付部34は、シリンジ取付口35を2つと、切換弁(ニプロ社製 3W-RC)36とを備えている。
【0158】
シリンジ取付口35の1つには細胞懸濁液供給シリンジ6を取り付け、他の1つには接続チューブ31を介して初期充填液及び押出液供給シリンジ7を取り付けた。
【0159】
切換弁36は、投与チューブ2と細胞懸濁液供給シリンジ6とを連通する状態と、投与チューブ2と初期充填液及び押出液供給シリンジ7とを連通する状態とを切り替えることができる。
【0160】
接続チューブ31は、取付口35と初期充填液及び押出液供給シリンジとを接続するチューブであり、ニプロ社製 EX1-50NFH、容量0.5mLを用いた。
【0161】
本例の構成によれば、実施例1において、シリンジを取り換えることなく、切換弁36による切換えにより人工髄液供給と細胞懸濁液供給を切り替えることができる。
実施例1、2の構成と比較してシリンジの交換が不要であるため操作性が向上し、かつ、気泡や異物の混入リスクの低減効果が得られる。
【0162】
[実施例4]
実施例4の投与キットは、
図16に示すように、実施例3の投与キットにおいて、初期充填液及び押出液供給シリンジ7に代えて、初期充填液供給シリンジ(テルモ社製10mL SS-10LZ)7Aを1本と押出液供給シリンジ(テルモ社製1mL SS-01T)7Bを3本とを備えている。
【0163】
押出液供給時には、押出液供給シリンジ7Bを実施例2の場合と同様に付け替えた。それ以外は実施例2と同様の投与手順で操作したところ、実施例2と同様に詰まりの発生がなく、ほぼ全量を穿刺針1Aの先端から出すことができた。
【0164】
[実施例5]
実施例5の投与キットは、
図17に示すように、実施例4の投与キットにおいて、接続チューブ31にシリンジと取り付ける取付部44が、初期充填液供給シリンジ7Aと3本の押出液供給シリンジ7Bの取付口45を備え、いずれかのシリンジと接続チューブ31とを連通するように流路を切り替える第2切換弁(ビー・ブラウン社製16901C)46を3つ備えている。
【0165】
第2切換弁46を備えることにより、押出液供給シリンジ7Bの付け換え作業が不要となる。実施例4のように、押出液供給シリンジ7Bを付け替えた場合、その際に気泡及び雑菌などの異物の混入が無いように注意深い操作が必要であるが、付け換え作業がないため、気泡及び異物の混入のリスクなく、高い操作性を得ることができる。
【0166】
第2切換弁46に初期充填液供給シリンジ7Aと押出液供給シリンジ7Bを予め接続しておき、各々のシリンジを使用する時に、第2切換弁46を切り換えて使用した。本投与キットを用いた場合も実施例2同様に詰まりの発生がなく、ほぼ全量を穿刺針1Aの先端から出すことができた。
【0167】
実施例5のように、シリンジの付け替え作業を不要な構成では、気泡及び異物の混入のリスクなく安定的に投与が可能である。一方で、切換弁が複数必要となり構成が複雑となると共に、切換操作の確認作業が別途生じる。そこで、実施例3(
図15参照)のような単純な構成で、細胞懸濁液を確実に投与可能な投与条件について以下のように検討した。
【0168】
(投与条件の検討)
具体的には、実施例3の構成において、穿刺針1の針本体10の内径、接続部構造、投与チューブ2の内径及び長さを変更する事により、高い圧力を要さずに投与できる条件を検討した。
【0169】
評価1)穿刺針1の針本体10の内径
図12に示した穿刺針1Aと、
図19に示す穿刺針1Bとを用意した。
図19の穿刺針1Bについて、針1Aと同一の要素には同一符号を付している。穿刺針1Aの針本体10の内径φ1が0.5mmであり、導出口の穴径φ3が0.5mmであるのに対し、穿刺針1Bは針本体10の内径φ1が1.10mmであり、導出口の穴径φ3が1.1mmである。針本体10の内径及び導出口の穴径以外は、穿刺針1Aと穿刺針1Bと同一である。
【0170】
以下に示す方法によって、実施例3の構成で平均粒径250μmの細胞構造体3aを押し出す事ができる限界の細胞構造体濃度(個/mL)を得た。
初期充填液及び押出液供給シリンジ7に10mLの人工髄液8を充填した。
細胞構造体約X個と2.4mLの人工髄液8を混合し細胞懸濁液を作製した。この際、Xを変化させ、表1に示す通り、細胞懸濁液中の細胞構造体3aの濃度Yが異なる複数の細胞懸濁液を準備した。細胞構造体の個数がX個の時、細胞懸濁液の細胞構造体濃度Yは、
Y=X/2.4 (個/mL)
である。
【表1】
【0171】
以下の投与手順により、細胞懸濁液3を穿刺針1の先端から全て出すことができたかどうかの評価を行った。表1における細胞構造体濃度が低い水準から順次実施した。そして、細胞構造体全量が詰まらずに穿刺針1A端から出すことができた最大の濃度を限界濃度とした。
【0172】
投与手順は以下の通りとした。
【0173】
穿刺針1Aは45度の姿勢に保持した。切換弁36を、投与チューブ2と初期充填液及び押出液供給シリンジ7とが連通する状態に切り換え、初期充填液及び押出液供給シリンジ7から約5mLの人工髄液8を供給する事により、穿刺針1Aと投与チューブ2を人工髄液8で満たし、気泡が無い状態にした。
【0174】
次に、切換弁36を、投与チューブ2と細胞懸濁液供給シリンジ6が連通する状態に切り換えた。
【0175】
次に、細胞懸濁液供給シリンジ6をシリンジ中心軸まわりに往復回転を繰り返す事によって、細胞懸濁液供給シリンジ6内の細胞懸濁液3の細胞構造体3aを均一に分散した状態にし、短時間(約1秒)に全量を投与チューブ2に供給した。この操作により、細胞懸濁液供給シリンジ6中の細胞懸濁液は、投与チューブ2の長さ方向に均一に分散した状態となった。
【0176】
次に、切換弁36を、投与チューブ2と細胞懸濁液供給シリンジ6が接続する様に切り換え、脳への穿刺に要する時間として、10分間放置した。その後、初期充填液及び押出液供給シリンジ7から0.2mLの人工髄液8を約1秒で押し出した。この時、投与チューブ2内の細胞構造体3aは、長さ方向に均一に分散した状態を維持したまま、投与チューブ2内を移動した。その後、11秒間放置し、再び初期充填液及び押出液供給シリンジ7から0.2mLの人口髄液8を約1秒で押し出した。この押し出し及び放置の操作を合計15回繰り返した。押し出しに要した時間は約3分である。
【0177】
【0178】
針本体10の内径を大きくすると、限界濃度が大きくなるという結果が得られた。すなわち、針内径が大きい方が詰まりにくくなる事がわかった。針内径を大きくする事によって、細胞構造体3aが針本体10の入り口や針本体10の通路内でブロッキングしにくくなったためと考えられる。
【0179】
評価2)穿刺針1の接続部形状
穿刺針1の接続部20のチューブ挿入穴21の形状を変更して効果を確認した。
図18に示した穿刺針1Bと、
図19に示す穿刺針1Cとを用意した。いずれも針本体10の内径φ1は1.1mmである。
図19に示す穿刺針1Cは、接続部20のチューブ挿入穴21は先端側部分の形状が漏斗形状である。すなわち、チューブ挿入穴21の先端側部分にテーパー面25がつけられている。漏斗形状の開き角αが120°である。そして、先端側部分21aの最も針本体10側で針本体10の内径との差が0.1mmとなっている。これに対し、
図18に示す穿刺針1Bは、接続部20に漏斗形状の先端側部分21aを備えていない。
【0180】
上記と同様の評価方法で、穿刺針1B、1Cについての限界濃度を評価した。結果を表3に示す。挿入穴21の先端側部分21aにテーパーをつけることで、限界濃度が大きくなる、すなわち詰まりにくくなる事がわかった。針本体10への入り口となる挿入穴21の先端側部分21aにテーパーを設ける事により、細胞構造体3aが人工髄液8の水流によってスムーズに針本体内に流れる様になったためと考えられる。
【表3】
【0181】
評価3)投与チューブ内径
上記の穿刺針1Cを用いた場合について、内径が異なる投与チューブ2について効果を確認した。
投与チューブ2として、内径1.1mm、長さ3m、容量2.4mL(トップ社製)と、内径1.5mm、長さ1.5m、容量2.7mL(ビゴン社製 1159.65)を用意した。
評価1)と同じ評価方法で、2種類の投与チューブ2で限界濃度を評価した。
結果を表4に示す。
【表4】
【0182】
内径1.1mm、長さ3mの投与チューブ2より、内径1.5mm、長さ1.5mの投与チューブ2において、限界濃度が大きくなる、すなわち詰まりにくくなる事がわかった。
投与チューブ2をその内径を大きくし、長さを短くした事によって、押し出し時の投与チューブ2の圧力損失が低減され、結果として、投与チューブ2から針本体10への入り口付近の圧力が高くなり、より詰まりにくい条件になったためと考えられる。
【0183】
評価1~3の結果を表5にまとめて示す。
表5の限界濃度比は、検討の目標としていた濃度(55000個の細胞構造体を2.4mLの人工髄液8に懸濁した濃度、すなわち55000/2.4=22917個/mLに対する、濃度比である。
【表5】
【0184】
針本体10の内径(針内径)、針本体10の基端部に連通する挿入穴の形状、投与チューブの内径及び長さを変更する事により、目標に対して、濃度比約2.3倍の高濃度の細胞懸濁液を詰まる事無く安定的に穿刺針の先端から出すことができた。
【0185】
ここで、上記4水準の条件において、穿刺針1、投与チューブ2及び初期充填液及び押出液供給シリンジ7に25℃の水を充填し、0.2mLを1秒間で押し出すのに必要なシリンジ押力を測定した。シリンジ押力は、プッシュプルゲージを介してシリンジを押す事によって測定した。
【0186】
【0187】
高濃度の細胞懸濁液を詰まる事無く安定的に穿刺針の先端から出すことができた水準dは、0.2mLを1秒間で押し出すために必要な押し力も4.0(N)と小さく、押し出しの操作性も良好である事がわかった。
【0188】
[実施例6]
上記の投与条件検討における水準dの構成の投与キットを用いて、上記の評価時の条件を標準条件として、この標準条件に対して、より過酷な条件を設定し、細胞構造体3aが詰まることなく穿刺針先端から出す事ができるかどうかを評価した。なお、過酷条件として表7に示す条件を設定した。針姿勢の90°とは、針を鉛直方向に沿って維持した状態を意味する。押し出しパターンにおける12秒インターバル15回とは、1秒細胞懸濁液を押し出し、11秒放置する計12秒の動作を15回繰り返すことを意味する。表7における「説明」の項目は過酷条件についての説明である。
【表7】
【0189】
以下の条件は共通とした。
細胞構造体個数:55000個
押し出し:0.2mLを1秒間で押し出し
【0190】
上記の過酷条件結果、過酷条件x、y、zの評価を各々単独で実施した場合も、過酷3条件x、y、zを同時に実施した場合も、詰まることなく細胞構造体3aを穿刺針先端から出す事ができた。
【0191】
[実施例7]
上記の投与条件検討における水準dの構成の投与キットにおいて、針本体10の内径が0.8mmである穿刺針を用いて、標準条件にて投与可能かどうか評価した。本例の投与キットの構成は、実施例3と同様の構成(
図15)において、実施例3とは穿刺針と、投与チューブの条件が異なるものである。
標準条件による評価の結果、詰まることなく穿刺針先端からほぼすべての細胞構造体3aを出すことができた。
【0192】
以上の通り、細胞懸濁液供給シリンジ内で均一に懸濁した状態を長時間維持する事が困難であるために、細胞構造体3aを詰らせることなく、投与するのが難しいという問題があった。これに対し、実施例1~7のように、穿刺針と細胞懸濁液供給シリンジの間に、1回の治療で投与すべき細胞懸濁液3の全量を保持可能な投与チューブ2を設ける構成によって、細胞構造体3aを詰らせることなく、投与が可能であった。穿刺針1と投与チューブ2と細胞懸濁液供給シリンジ6を接続した状態で、細胞懸濁液供給シリンジ6をシリンジ中心軸まわりに往復回転を繰り返す事によって、シリンジ6内の細胞懸濁液3を均一に分散した状態にし、短時間(約1秒)に全量を投与チューブ2に供給する。その後、初期充填液及び押出液供給シリンジ7から押出液を断続的に供給する事によって、穿刺針先端からほぼ全量の細胞構造体3aを出すことができた。