(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022061489
(43)【公開日】2022-04-18
(54)【発明の名称】ポリアミンの検出方法および検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20220411BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20220411BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20220411BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20220411BHJP
C12Q 1/28 20060101ALI20220411BHJP
C12N 15/115 20100101ALN20220411BHJP
【FI】
G01N33/53 S ZNA
G01N33/50 G
G01N33/543 545A
C12Q1/68
C12Q1/28
C12N15/115 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163061
(22)【出願日】2021-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2020169181
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】520388826
【氏名又は名称】長峯 邦明
(71)【出願人】
【識別番号】520388837
【氏名又は名称】野村 綾子
(71)【出願人】
【識別番号】520388848
【氏名又は名称】時任 静士
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長峯 邦明
(72)【発明者】
【氏名】野村 綾子
(72)【発明者】
【氏名】時任 静士
(72)【発明者】
【氏名】池袋 一典
(72)【発明者】
【氏名】生田 昂
(72)【発明者】
【氏名】前橋 兼三
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 夕起
(72)【発明者】
【氏名】水上 潤二
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CB07
2G045DA19
2G045FB03
4B063QA01
4B063QQ03
4B063QQ85
4B063QR02
4B063QR32
4B063QS03
4B063QS32
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】ポリアミン等の微量のマーカー成分を迅速で簡便に調べることができる検査方法、また、ポリアミンの総量ではなく、特定のポリアミンの存在や量について選択的に分析する方法を提供する。
【解決手段】液体中に含まれるポリアミンの検出方法であって、前記ポリアミンをアプタマと接触した状態で検出し、前記検出を光学的及び電気的の少なくとも何れかの方式により行う、ポリアミンの検出方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中に含まれるポリアミンの検出方法であって、前記ポリアミンをアプタマと接触した状態で検出し、前記検出を光学的及び電気的の少なくとも何れかの方式により行う、ポリアミンの検出方法。
【請求項2】
前記ポリアミンが、スペルミン及びスペルミジンの少なくとも何れかを含有する、請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記液体が唾液である、請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記検出を、前記ポリアミンがポルフィリン化合物と接触した状態で行う、請求項1乃至3の何れか1項に記載の検出方法。
【請求項5】
前記ポルフィリン化合物がヘミンである、請求項4に記載の検出方法。
【請求項6】
前記検出を、ペルオキシダーゼ活性により吸光度が変化する物質の存在下で行う、請求項1乃至5の何れか1項に記載の検出方法。
【請求項7】
前記アプタマの塩基配列が、GTGGGTAGGNCGGGTTGGNN(前記Nは、独立して、A、C、G、T又は塩基なし)(配列番号1)であることを特徴とする、請求項1乃至6の何れか1項に記載の検出方法。
【請求項8】
液体中に含まれるポリアミンを検出するポリアミンの検出装置であって、検出装置にポリアミンを含む液体を導入する試料導入部と、前記液体中のポリアミンを検出する検出部とを備え、前記検出部でアプタマに接触した状態のポリアミンを、光学的及び電気的の少なくとも何れかの方式により検出する、ポリアミンの検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミンを短時間で簡便に検出する方法及びそのために使用する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、感染症や癌などの疾患に対して、その早期診断の重要性が増している。一般的に、疾患の診断は、被検者の細胞、血液、唾液、尿、涙などの検体を検査することにより行う。具体的には、例えば、唾液に含まれるポリアミンを用いることにより、特定がんのリスクを調べる方法などが開発されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の唾液中の微量のポリアミン等を調べる方法は、高価な高感度の質量分析装置(LC/MS)を用いて分析するため、検査費用が高額になり、また、測定や結果解析を行うために高い専門性や経験が求められる。そこで、ポリアミン等の微量のマーカー成分を迅速で簡便に調べることができる検査方法の開発が望まれている。また、ポリアミンの総量ではなく、特定のポリアミンの存在や量について選択的に分析する方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上述の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。この結果、ポリアミンをアプタマと接触した状態で検出することにより、検出感度を向上させることができることを見出し、本発明に到達した。即ち、本発明の要旨は、以下に示すとおりである。
本発明の第1の要旨は、液体中に含まれるポリアミンの検出方法であって、前記ポリアミンをアプタマと接触した状態で検出し、前記検出を光学的及び電気的の少なくとも何れかの方式により行う、ポリアミンの検出方法に存する。また、本発明の第2の要旨は、前記ポリアミンが、スペルミン及びスペルミジンの少なくとも何れかを含有する、第1の要旨に記載の検出方法に存する。本発明の第3の要旨は、前記液体が唾液である、第1または第2の要旨に記載の検出方法に存する。本発明の第4の要旨は、前記検出を、前記ポリアミンがポルフィリン化合物と接触した状態で行う、第1乃至3の何れか1つの要旨に記載の検出方法に存する。本発明の第5の要旨は、前記ポルフィリン化合物がヘミンである、第4の要旨に記載の検出方法に存する。本発明の第6の要旨は、前記検出を、ペルオキシダーゼ活性により吸光度が変化する物質の存在下で行う、第1乃至5の何れか1つの要旨に記載の検出方法に存する。
そして、本発明の第7の要旨は、前記アプタマの塩基配列が、GTGGGTAGGNCGGGTTGGNN(前記Nは、独立して、A、C、G、T又は塩基なし)(配列番号1)であることを特徴とする、第1乃至6の何れか1つの要旨に記載の検出方法に存する。
また、本発明の第8の要旨は、液体中に含まれるポリアミンを検出するポリアミンの検出装置であって、検出装置にポリアミンを含む液体を導入する試料導入部と、前記液体中のポリアミンを検出する検出部を備え、前記検出部でアプタマに接触した状態のポリアミンを、光学的方式及び電気的方式の少なくとも何れかの方式により検出する、ポリアミンの検出装置に存する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、ポリアミン等の微量のマーカー成分から、迅速で簡便に調べることができる検査方法、およびそのために使用する検査装置を提供することができる。また、特定のポリアミンの存在や量について選択的に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態で用いる延長ゲートトランジスタ型アプタセンサ(ボトムゲート構造)の一例を模式的に表す図である。
【
図2】本実施形態で用いるトランジスタ型アプタセンサ(トップゲート構造)の一例を模式的に表す図である。
【
図3】本実施形態で用いるトランジスタ型アプタセンサ(トップゲート構造)の別の一例を模式的に表す図である。
【
図4】実施例Bにおける吸光度の経時変化を示す図である。
【
図5】実施例C1におけるI-Vカーブのシフトを示す図である。
【
図6】実施例C2におけるI-Vカーブのシフトを示す図である。
【
図7】比較例CにおけるI-Vカーブのシフトを示す図である。
【
図10】実施例D2で得た画像の色の変化を示す図である。
【
図11】実施例D2で得た画像の色のグレーススケール平均輝度を示す図である。
【
図12】実施例D3の検出-2の結果(吸光度とメディセーフフィット(登録商標))の計測値の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。但し、以下の説明は、本発明の一例(代表例)であり、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
なお、本明細書において「~」で表される記載は、その前後に記載された数字を含む範囲を表すものとする。
【0009】
<ポリアミンの検出方法>
本発明のポリアミンの検出方法(以下、「本発明の検出方法」と言う場合がある。)は、液体中に含まれるポリアミンを、アプタマと接触した状態で検出する。ここで、ポリアミンの検出は、光学的及び電気的の少なくとも何れかの方式により行う。すなわち、本発明の検出方法は、ポリアミンを含む液体を準備する工程(以下、「試料準備工程」と言う場合がある。)およびこの液体中のポリアミンをアプタマと接触した状態で光学的及び電気的の少なくとも何れかの方式により検出する工程(以下、「検出工程」と言う場合がある。)を有する。
【0010】
<ポリアミン>
本発明の検出方法は、液体中に含まれるポリアミンを検出対象とする。ポリアミンは、生体中に存在する化合物であり、被検者の体調や病気への罹患などにより、生体中に存在する種類や量が変化することが知られている。特に、がん細胞のような増殖が活発な細胞においては、その濃度が高くなる場合があることが知られており、がん診断におけるマーカーとしても利用されている。ポリアミンとしては、スペルミン、スペルミジン、プトレスシン等が知られている。本発明の検出方法は、これらのポリアミンの検出に好適であり、特にスペルミン及びスペルミジンの検出に好適である。そこで、本発明の検出方法における検出対象のポリアミンは、スペルミン及びスペルミジンの少なくとも何れかを含有することが好ましい。また、本発明の検出方法が高感度であることから、検出対象のポリアミンは、唾液や血液等の体液や排泄物中に含まれるポリアミンが好ましく、唾液に含まれ
るポリアミンが特に好ましい。すなわち、本発明の検出方法における試料準備工程では、スペルミン及びスペルミジンの少なくとも何れかを含有する液体を準備することが好ましい。また、試料準備工程では、唾液や血液等の体液や排泄物を含む液体を準備することが好ましく、唾液を含む液体を準備することが特に好ましい。
【0011】
<アプタマとの接触>
本発明の検出方法は、ポリアミンをアプタマと接触した状態で検出する。ポリアミンをアプタマと接触させる方法は、ポリアミンを検出する際にアプタマと接触すれば、特に限定されない。好ましい具体例としては、検査対象の液体にポリアミンとアプタマの両方を含ませる方法、ポリアミンを検出する装置の検出部の、検査対象の液体と接する面の表面にアプタマを存在させる方法などが挙げられる。
また、ポリアミンに対するアプタマの量は、ポリアミンの検出感度がアプタマの存在により向上すれば限定されない。
【0012】
検査対象の液体にポリアミンとアプタマの両方を含ませる方法は特に限定されず、ポリアミンを含む液体にアプタマを添加しても、ポリアミンを含む液体とアプタマを含む液体を混合してもよい。
ポリアミンを検出する装置の検出部の、検査対象の液体と接する面の表面にアプタマを存在させる場合は、ポリアミンをこれに接触させる。この場合、ポリアミンを検出する際にアプタマと接触すれば、特に限定されない。
【0013】
ポリアミンの検出工程は、光学的及び電気的の少なくとも何れかの方式により行う。電気的方式で検出する場合、検出部が備える電極(例えば、ゲート電極等)等の表面にアプタマを固定させておいてもよい。ここで、アプタマは、電極に直接固定させてもよいし、後述するリンカーを介して固定させてもよい。また、アプタマは、必ずしも検出部に固定させずとも、検出対象の液体と接触した際に、該液体に接触できるように検出部内に存在させておいてもよい。
また、ポリアミンをアプタマと接触させる際は、ポリアミンを含む液体の全量をアプタマと接触させてもよいが、精度を向上させる観点から、滴下等により少量ずつ接触させることが好ましい。
【0014】
<検出工程(光学的方式)>
ポリアミンの検出工程を光学的方式で行う場合は、液体中のポリアミンをアプタマと接触した状態で光学的に検出できれば特に制限されない。検出工程を光学的方式で行う場合は、通常、ポリアミンとの接触により吸光度が変化する物質を用いることにより行うことができる。また、吸光度の変化についても公知の方法により測定することができ、例えば、特定波長の吸光度の変化を測定する方法等が挙げられる。この場合、検出工程は、通常、ポリアミンを含む液体に光を照射する工程、及びポリアミンを含む液体を通過した光を測定する工程を有する。なお、この特定波長は、吸光度が変化する物質とポリアミンの種類の組合せに応じて、適宜変化する波長とすればよいが、後述するヘミンを用いる場合、通常414nmにおける吸光度の変化を測定することにより、ポリアミンを検出することができる。
【0015】
ポリアミンの検出は、ポリアミンがポルフィリン化合物と接触した状態で行うことが好ましい。また、ポリアミンの検出は、ペルオキシダーゼ活性により吸光度が変化する物質の存在下で行うことが好ましい。これについては、以下のように推定される。アプタマとポルフィリン化合物が存在すると、アプタマとポルフィリン化合物との複合体が形成され、この複合体により、過酸化水素を還元することができる(ペルオキシダーゼ活性)。ここで、ポリアミンは、アプタマと相互作用することによりアプタマのG-quadruplex構造を安定化させることにより、ポルフィリン化合物と複合体を形成してペルオキ
シダーゼ活性が発現することを促す。そこで、この過酸化水素の還元反応を、この還元反応により吸光度が変化する物質(以下、「吸光度変化物質」と言う場合がある。)の存在下に行うことにより、ポリアミンを検出することができる。なお、この還元反応により蛍光を発する物質(以下、「蛍光発生物質」と言う場合がある。)、この還元反応により発光強度が変化する物質(以下、「発光変化物質」と言う場合がある。)を用いることにより、同様に、ポリアミンを検出することができる(以下、吸光度変化物質、蛍光発生物質、発光変化物質を纏めて「吸光度変化物質等」と言う場合がある。)。
【0016】
吸光度変化物質等は、過酸化水素の還元反応により吸光度が変化する物質であれば、特段制限されないが、具体的には、例えば、2,2’-アジノビス[3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸]ジアンモニウム塩(ABTS)、オルト-フェニレンジアミン2塩酸塩(OPD)、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)、OxiRed、Fe(CN)6
4-等を用いることができる。蛍光変化物質は、例えばAmpliteTM ADHP、Amplex Red等を用いることができる。
【0017】
ポルフィリン化合物としては、例えば、プロトポルフィリンIX、ヘム、ヘミン、亜鉛プロトポルフィリン、マグネシウムプロトポルフィリン、ヘマトポルフィリン、ベンゾポルフィリン、メタロポルフィリン、5-アミノレブリン酸、テキサフィリン、クロリン、プルプリン、バクテリオクロリン、フタロシアニン、ナフタロシアニン及びこれらの誘導体等が挙げられる。ポルフィリン化合物のサイズ、ポルフィリン化合物が有する芳香環の平面性、細胞透過性などから金属ポルフィリンが好ましく、嵩高くならない側鎖を有する金属ポルフィリンが更に好ましい。その理由としては、補欠分子族である金属ポルフィリンが、Gカルテット面を有するアプタマに配位した状態で、更に過酸化物を配位する空間が確保されやすく、ペルオキシダーゼ活性が発現しやすいことが考えられる。ポルフィリン化合物としては、へミンが特に好ましい。
【0018】
ポリアミンを吸光度変化物質等と接触させる方法は、検出工程で、ポリアミンを光学的方式で検出する際に接触していれば、特に限定されない。すなわち、上述のポリアミンをアプタマと接触させるときに同時に接触させてもよいし、先に吸光度変化物質等と接触させてからアプタマと接触させてもよいし、先にアプタマと接触させてから吸光度変化物質等と接触させてもよい。
ポリアミンに対する吸光度変化物質等の量は、過酸化水素の還元反応において吸光度を変化させられれば限定されない。
【0019】
<検出工程(電気的方式)>
ポリアミンの検出工程を電気的方式で行う場合は、検出工程において、液体中のポリアミンをアプタマと接触した状態で電気的に検出できれば特に制限されない。電気的方式での検出は、通常、電圧や電流等がポリアミンの存在により変化する液体について行う。ここで、電圧や電流等の変化についても、公知の方法により測定することができる。
ポリアミンの電気的方式での検出工程は、例えば、ポリアミンとの相互作用によりG-quadruplex構造が安定化したアプタマと、ポルフィリン化合物と、で作られる複合体が触媒する反応により、電荷の移動が生じる系などにより行うことができる。ここでアプタマは、電極とポルフィリン化合物との距離を小さくすることができると推定される。
また、ポリアミンの存在によって電気的特性が変化する別の系としては、後述するように、アンバイポーラ特性を有するナノカーボン等を電極に用いた系又は電極に積層させた系が挙げられる。ここで、ナノカーボンの種類は、アンバイポーラ特性を有していれば特段制限されないが、移動度の観点からグラフェンが好ましい。なお、ポリアミンをナノカーボンと接触させる方法は、ポリアミンを電気的方式で検出する際に接触していれば、特に限定されない。すなわち、上述のポリアミンをアプタマと接触させるときに同時に接触
させてもよいし、先にナノカーボンと接触させてからアプタマと接触させてもよいし、先にアプタマと接触させてからナノカーボンと接触させてもよい。
【0020】
<検出感度>
本発明の検出方法は、ポリアミンをアプタマと接触した状態で検出することにより、高感度に検出できる。具体的には、検出感度の下限が、通常1×10-6mol/dm3であり、1×10-7mol/dm3であってよく、1×10-9mol/dm3であってよく、1×10-10mol/dm3であってよい。また、一方で、その上限は、特段制限されないが、通常5×10-3mol/dm3であり、2×10-3mol/dm3であってもよく、1×10-3mol/dm3であってもよい。
【0021】
本発明の検出方法は、ポリアミンの種類に応じて適切なアプタマ等の組合せを選択することにより、各ポリアミンの種類ごとに検出することができる。また、本発明の検出方法は、光学的変化及び電気的変化の程度から、各ポリアミンの定量方法に適用することができる。なお、唾液に含まれるスペルミンやスペルミジン等のポリアミンの量は、通常1~10×10-6mol/dm3であり、尿に含まれるスペルミンやスペルミジン等のポリアミンの量は、通常1~10×10-8mol/dm3である。ここで、通常、唾液や尿中のポリアミンを分析する場合、唾液や尿に含まれるポリアミン以外の夾雑物などによる影響を除くために、通常、唾液や尿を10~100倍程度に希釈してから分析する。そこで、本発明の検出方法は、唾液や尿等を用いたガンの診断等に適用できると考えられる。
【0022】
<その他の工程>
本発明の検出方法は、上述の試料準備工程および検出工程以外の工程を有していてもよい。このようなその他の工程としては、上述の試料導入工程により装置内に導入された液体試料を保持する試料保持工程、試料保持工程で保持された液体試料に光を照射する照射工程及び液体試料を通過した光を測定する測定工程等が挙げられる。なお、この場合、上述の液体中のポリアミンを検出する検出工程が照射工程と測定工程を有していることになる。試料保持工程、照射工程、測定工程については、ポリアミンの検出装置が有する試料保持部、照射部、測定部として後述する。
【0023】
<ポリアミンの検出装置>
本発明のポリアミンの検出装置(以下、「本発明の検出装置」と言う場合がある。)は、液体中に含まれるポリアミンを、アプタマと接触した状態で検出することができる。本発明の検出装置は、検出装置にポリアミンを含む液体を導入する試料導入部と、液体中のポリアミンを検出する検出部とを備え、前記検出部でアプタマに接触した状態のポリアミンを、光学的及び電気的の少なくとも何れかの方式により検出することができる。以下、光学的方式の検出装置(以下、「本発明の光学的検出装置」と言う場合がある。)と電気的方式の検出装置(以下、「本発明の電気的検出装置」と言う場合がある。)の各々について説明する。
【0024】
<光学的検出装置>
本発明の光学的検出装置は、アプタマと接触した状態のポリアミンを光学的に検出できれば、特段制限されない。具体的には、例えば、上述の吸光度変化物質を用いる場合については、上述の試料導入部から装置内に導入された液体試料を保持する試料保持部、試料保持部に保持された液体試料に光を照射する照射部及び液体試料を通過した光を測定する測定部等を備える装置が挙げられる。なお、この場合、上述の液体中のポリアミンを検出する検出部が照射部と測定部を有していることになる。
【0025】
試料保持部は、液体試料を保持して、その光学的物性を測定することができれば、特段制限されない。具体的には、例えば、液体試料を保持する容器状でもよいし、また、板状
や凹み状でその上に液体試料を保持できる形状などもよい。なお、試料導入部に光を照射する場合は、試料導入部が試料保持部を兼ねていてもよい。また、液体試料が唾液である場合、例えば、被検者が検体保持部を口で咥え、そこに唾液を付着させる態様とすることもできる。
【0026】
本発明の光学的検出装置は、検出部でアプタマに接触した状態のポリアミンによる光学的物性を測定する。そこで、本発明の光学的検出装置は、ポリアミンとアプタマを含む液体を導入できる構造になっている試料導入部またはアプタマを導入できる構造になっている試料保持部の少なくとも何れかを備えていることが好ましい。
【0027】
照射部は、液体試料に光を照射することができれば、特段制限されない。照射光は、アプタマに接触した状態のポリアミンの存在により、吸光度が変化する波長の光を用いる。すなわち、吸光度変化物質、ポリアミンとアプタマの種類やその組合せ等に応じて、吸光度が変化する波長の光を照射できればよい。具体的には、例えば、吸光度変化物質としてABTSを用いる場合、414nmの波長を有する光を照射できることが好ましい。また、光源は、所望の波長の光を照射できれば特段制限されず、例えば、ハロゲンランプ、タングステンランプ、キセノンランプ、LED、レーザー等を用いることができる。
【0028】
測定部は、液体試料を通過した光を測定することができれば特段制限されない。そして、吸光度は、照射光強度と透過光強度との比から算出することができる。また、この吸光度の強度から液体試料中のポリアミンの量を定量することができる。
【0029】
<電気的検出装置>
本発明の電気的検出装置は、アプタマと接触した状態のポリアミンを電気的に検出できれば、特段制限されない。具体的には、例えば、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、これらの電極に挟持された半導体およびゲート絶縁層を有する装置などを好ましく用いることができる。ここで、ゲート電極は、上述の試料導入部から装置内に導入された液体試料と接触する構造になっていることが好ましい。また、ゲート絶縁層は、ソース電極、半導体及びドレイン電極と、ゲート電極との間に有することが好ましい。ゲート電極とは別に、液体試料に接触する参照電極を有することが好ましい。
【0030】
上述の電気的検出装置の場合、各部材の形状は、その部材としての機能を発現できれば特段制限はない。各部材の厚さについても、その部材としての機能を発現できれば特段制限はないが、電極は、0.01μm以上であることが好ましく、0.02μm以上であることが更に好ましく、また、一方で、2μm以下であることが好ましく、1μm以下であることが更に好ましい。
【0031】
また、検出部の検出対象の液体と接する面の表面にアプタマを存在させる場合、検出対象の液体と接する面の表面にアプタマを存在させることにより、ポリアミンの検出感度が向上すれば、アプタマは何れの部材に存在してもよい。また、検出対象の液体にポリアミンとアプタマの両方を含ませる場合は、検出部にアプタマが存在できる構造になっていればよい。
【0032】
アプタマは、ゲート電極に固定化されていることが好ましく、電極表面または電極中に層状で固定化されていることがより好ましい。層状に固定化する場合、アプタマを含む層は、1層でも、複数層設けてもよい。電極へのアプタマの固定化は、物理吸着法や化学結合法などにより行うことができる。また、アプタマは、バインダー等と共に固定化してもよい。アプタマを電極に存在させる場合、リンカーを介してもよい。リンカーの種類は、アプタマを電極に存在させることができれば特段制限されない。リンカーを用いる場合、後述するように、5’位または3’位に、アミノ基、アルキル連結アミノ基、6~8原子
スペーサービオチン分子、チオール基、ホスホチオエート等の末端修飾基を有するものが好ましい。
アプタマを層状に固定化する場合のアプタマ層の厚さは、アプタマ層の存在により、ポリアミンの検出感度が向上すれば特段制限されない。
アプタマ層の大きさ(面積)は、アプタマ層を設ける面の大きさや形状等に応じて適宜設定すればよい。
本発明の電気的検出装置(トランジスタ型アプタセンサ)の構造の具体例について、
図1~3を用いて説明する。
【0033】
<延長ゲートトランジスタ型アプタセンサ>
延長ゲートトランジスタ型アプタセンサは、
図1に示すように、アプタマ21、過酸化水素W、酸化還元物質(
図1では、還元物質Y)、ヘミン22を含有させた、ポリアミン23を含む試料溶液(
図1では唾液)18と接する延長ゲート電極19と参照電極20、作用電極の電圧の変化を入力するゲート電極15、半導体層12、ゲート絶縁層14、ソース電極11およびドレイン電極13を有するトランジスタとから構成され、ソース電極11とドレイン電極13との間の電流の変化を検出する。なお、
図1に示すように、任意に基板16や外装17を用いてもよい。また、後述するように、アプタマ21は、延長ゲート電極19上に層状に固定されていても、また混合層として固定されていてもよく、
図1では延長ゲート電極19中にアプタマ21が層状に存在する場合の態様を想定し、延長ゲート電極19中にアプタマ21が存在するような構成を示した。また、本明細書では、説明を容易にするために、
図1に示す「ゲート電極15」と「延長ゲート電極19」とを別の名称で呼称しているが、これらをまとめて「ゲート電極15」と扱ってもよい。なお、
図1におけるゲート電極15と延長ゲート電極19とを併せて簡易にした態様が、
図2の態様(トップゲート構造)となる。
【0034】
図1は、トランジスタ型アプタセンサの基本的な構成として、ボトムゲート型トランジスタを採用している。基板16の表面に延長ゲート電極19と参照電極20が形成され、延長ゲート電極19と参照電極20は測定溶液である試料溶液18と接する。延長ゲート電極19はトランジスタのゲート電極15と接続され、参照電極20はトランジスタのソース電極11と接続される。ゲート電極15上に、ゲート絶縁層14、その上にソース電極11およびドレイン電極13、それらの上に半導体層12を形成され、トランジスタを構成している。必要に応じて保護層が形成されていてもよい。
【0035】
参照電極20は、基準電位点(グランド)に接続され、試料溶液18を介して延長ゲート電極19が接続するゲート電極15にゲート電圧Vgが印加される。アプタマ21の触媒反応により還元物質Yが酸化され酸化物質Zとなり、それに伴い延長ゲート電極19の電位が変化すると、実効的にゲート電極15に印加される電圧が変化する。ソース電極11は基準電位点(グランド)に接続され、ドレイン電極13には動作電圧Vsdが供給される。これにより、トランジスタのゲート電極15に供給される電圧Vtgに対して、ソース電極11とドレイン電極13との間の電流の変化を、動作電圧Vsdに応じてダイナミックレンジを大きくして検出することが可能となる。
【0036】
基板16の材料としては、例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリイミド、ポリパラキシリレン(パリレン(登録商標))等の樹脂、紙、ガラス、シリコン等を用いることができる。
【0037】
ゲート電極15の材料としては、例えば、アルミニウム、銀、金、銅、白金、チタン、酸化インジウム錫(ITO)、poly(3,4-ethylenedioxythiophene) polystyrene sulfonate(PEDOT:PSS)等を用いることができる。
【0038】
ゲート絶縁層14の構成材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、自己組織化単分子膜(SAM)、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリジメチルシロキサン、ポリシルセスキオキサン、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標)AF)、サイトップ(登録商標)等を用いることができる。
【0039】
ソース電極11およびドレイン電極13の材料としては、アルミニウム、銀、金、銅、白金、チタン、ITO、PEDOT:PSS等の導電性高分子等を用いることができる。
【0040】
半導体層12の構成材料としては、例えば、化合物半導体、有機半導体、ナノカーボン等一般的な半導体を使用することが可能ではあるが、P型の場合は、ペンタセン、ジナフトチエノチオフェン、ベンゾチエノベンゾチオフェン(Cn-BTBT)、TIPSペンタセン、TES-ADT、ルブレン、P3HT、PBTTT等、N型の場合は、フラーレン等を用いることが好ましい。また、転写などが可能な比較的低温の工程で導入可能なGaAsやAlN、Si等の無機材料を用いることもできる。
【0041】
保護層の構成材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標)AF)、サイトップ(登録商標)、ポリパラキシリレン(パリレン(登録商標))等を用いることができる。
【0042】
トランジスタの製造方法としては、例えば、蒸着法、スパッタリング法等のドライプロセスでも、スピンコート、バーコート、スプレーコート等による塗布、スクリーン印刷、グラビアオフセット印刷、凸版反転印刷、インクジェット印刷等の各種印刷機による印刷でもよい。
【0043】
ゲート電極15と延長ゲート電極19は、一体に作製された延長ゲートの構成を示しているが、ゲート電極15と延長ゲート電極19を別体で作製してこれらを連結する構成としてもよい。一体に形成しない場合には、延長ゲート電極19の材料は限定されず、例えば、アルミニウム、銀、金、銅、白金、カーボン、チタン、ITO、PEDOT:PSS等を任意に選択して用いることができる。
【0044】
酸化還元物質としては、例えば、ABTS、OPD、TMB、Oxired、Fe(CN)6
4-等を単独、あるいは複数の組み合わせで用いることができる。あるいは、ヘミンが延長ゲート電極と直接反応してもよい。
【0045】
参照電極20は、安定した基準電位を示す電極であればよく、例えば標準水素電極、カロメル電極、銀/塩化銀電極、あるいはアルミニウム、銀、金、銅、白金、チタン等の金属電極、カーボン電極、ITO、PEDOT:PSS等の導電性高分子等の疑似参照電極でもよい。
【0046】
アプタマ21および酸化還元物質は、測定溶液中に溶解していてもよく、延長ゲート電極19上に固定されていてもよい。また、アプタマ21と酸化還元物質は、延長ゲート電極19上に層状に固定されていても、混合層として固定されていてもよい。
【0047】
延長ゲート電極19と参照電極20とは、外部抵抗で接続されてもよい。この場合、酸化還元物質の再生反応が自発的に進行するようになり、定常的なドレイン電流が得られるようになる。
【0048】
トランジスタの構造は、
図1のボトムゲート構造に限らず、
図2に示すトップゲート構
造も用いることができる。
図2に示すトップゲート構造とする場合、ゲート電極15と延長ゲート電極19とは同じ電極が担う。ゲート電極15表面の構造は、
図1に示したものと同様の構造を採用できる。なお、
図2は、トップゲート構造を有する検出部の断面図であり、
図1と同様に、ゲート電極15中にアプタマ21が層状に存在する場合の態様を想定し、ゲート電極15中にアプタマ21が存在するような構成を示す。
また、トランジスタ型アプタセンサにあっては、
図1に示す延長ゲート電極19の構造とすることで、延長ゲート電極19だけが測定溶液に接触する構造になり安定した動作ができるので好ましい。
【0049】
<トランジスタ型アプタセンサ(トップゲート構造)>
トランジスタ型アプタセンサ(トップゲート構造)の
図2とは別の態様について、
図3を用いて説明する。
図3のトランジスタ型アプタセンサは、基板G1上に、ソース電極G2とドレイン電極G3とゲート電極と半導体層G4が積層してなり、さらにその半導体層G4上に、アプタマを含むターゲット捕捉体G5が固定(修飾ともいう)されている。そのターゲット捕捉体G5に、液体試料を保持するための壁G6(以下で「プール」と称す場合がある)または液体試料を移送するためのカバーシート層G7が必要に応じて接してなる。その中にゲート電極に相当する参照電極G8が設置され、ゲート電圧Vtgを印加し、ターゲット捕捉体G5がデバイス長内に捕捉したターゲットの電荷、あるいは、アプタマでの触媒反応により発生した酸化還元反応の電荷、あるいは、ターゲットの捕捉によって生じるリンカーとアプタマ部分の分子内電荷分布、ダイポールモーメントの変化やターゲット分子における分子内電荷分布、ダイポールモーメント変化によるドーピング量と電荷の符合を、そのシフト量の大きさと、シフトのプラス側またはマイナス側で検出する。特に移動度が高く、アンバイポーラ特性を有するナノカーボン、例えば、グラフェン等が好ましい。
【0050】
基板G1は、絶縁性を有する基板であれば任意の素材で形成された基板を用いることができる。通常は、絶縁性基板又は絶縁された半導体基板を用いる。なお、本実施形態において絶縁性という場合には、特に断らない限り電気絶縁性のことを指し、絶縁体という場合には、特に断らない限り電気絶縁体のことを言う。また、センサとして用いる場合、感度を高めるためには、絶縁性基板、又は絶縁性基板を構成する素材(即ち、絶縁体)で表面を被覆することにより絶縁化した半導体基板であることが好ましい。
【0051】
絶縁性基板を形成する絶縁体材料としては、無機材料、有機材料のいずれでも構わない。無機材料としては、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、酸化チタン、弗化カルシウム等が挙げられる。有機材料としては、脂肪族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリパラキシレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリシロキサン、ポリビニルフェノール、ポリアラミド等が挙げられる。これらの絶縁体材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0052】
半導体基板は、通常、半導体で形成された基板である。半導体基板を形成する半導体の材料の具体例としては、シリコン、ガリウム砒素、窒化ガリウム、酸化亜鉛、インジウム燐、炭化シリコン等が挙げられる。これらの半導体の材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0053】
半導体基板を絶縁する方法は任意であるが、通常は、上述のような絶縁体で表面を被覆して絶縁することが好ましい。半導体基板の上に絶縁膜を形成して絶縁する場合、被覆に用いる絶縁体の具体例としては、上記の絶縁性基板を形成する絶縁体材料と同様のものが
挙げられる。
【0054】
電極の態様は、特段制限されないが、例えば、
図3に示す構成とする場合、第一の電極G2、及び第二の電極G3は、それぞれソース電極及びドレイン電極であり、第三の電極G8はゲート電極として機能する参照電極である。
【0055】
第一の電極(ソース電極)G2、第二の電極(ドレイン電極)G3に用いられる材料としては、例えば、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)などの導電性金属酸化物;白金、金、銀、アルミニウム、インジウム、クロム、チタン、パラジウム、などの金属やこれらの合金;カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェンなどのナノカーボン材料;導電性カーボンブラックなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの材料は単独で用いてもよいし、これらのうち複数の材料を積層または混合して用いてもよい。本発明の検出装置においては、接触する水溶液などへの安定性の観点から、第一の電極G2、第二の電極G3は、金、銀、白金、パラジウム、チタン、クロム、ナノカーボン材料から選ばれることが好ましい。
【0056】
各電極の幅や厚み、配置間隔等は任意に設計可能である。電極の幅は、通常1μm以上、1mm以下である。電極の厚みは、通常1nm以上、好ましくは0.01μm以上、更に好ましくは0.02μm以上であり、また、一方で、通常10mm以下、好ましくは2μm以下、更に好ましくは1μm以下がよい。第一の電極2と第二の電極3との間隔は、半導体の構造や移動度に応じて適宜、設計されうるが、通常1nm以上、10mm以下である。
【0057】
第三の電極(参照電極)G8は、ゲート電極に相当する。第三の電極G8は、前記生理食塩水などバッファー緩衝液中で安定な電圧を印加できるという観点から、上述の
図1における参照電極と同様としてよい。すなわち、標準水素電極、カロメル電極、銀/塩化銀電極、あるいはアルミニウム、銀、金、銅、白金、チタン等の金属電極、ITO、PEDOT:PSS等の導電性高分子等の疑似参照電極としてもよい。
【0058】
半導体層G4は、単体半導体、化合物半導体、有機半導体、ナノカーボン材料等の半導体成分から形成される。本発明の検出装置においては、塗布可能性という観点から、有機半導体やナノカーボン材料が好ましい。また、ナノカーボンの中でも、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)は、移動度が極めて高く、高安定性、インク等の塗布物質への移行等の観点から好ましい。さらに、膜内の特性の均一性が確保しやすいという観点から、グラフェンが好ましい。半導体層G4の膜厚は、特に制限はないが、通常0.2nm以上、100nm以下が好ましい。この範囲内にあることで、ターゲット認識分子とターゲット物質との相互作用による電気特性の変化を、十分に電気信号として取り出すことが可能となる。半導体層G4の膜厚は、公知の手法、例えば、二次イオン質量分析法(SIMS)や、AFM、エリプソメーターなどによって、測定することができる。
【0059】
半導体層G4の形成方法としては、例えば、抵抗加熱蒸着、電子線ビーム、スパッタリング、CVD、他の基板からの転写などの乾式法を用いることも可能であるが、製造コストや大面積への適合の観点から、塗布法などの湿式法を用いることが好ましい。塗布法は、半導体成分を塗布することにより半導体層G4を形成する工程を含む。塗布法としては、具体的には、スピンコート法、ブレードコート法、スリットダイコート法、スクリーン印刷法、バーコーター法、鋳型法、印刷転写法、浸漬引き上げ法、またはインクジェット法などが挙げられる。これらの方法から、塗膜厚みの制御や配向制御など、得ようとする塗膜の特性に応じて好ましい方法を選択できる。なお、形成した塗膜に対して、大気下、減圧下、または窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下や水素や水素の混合ガスなどの還元性ガス雰囲気下において、アニーリング処理を行ってもよい。
【0060】
半導体層G4は、前述のように、別途、ターゲット捕捉体G5が保持されていることが好ましい。ここで、ターゲット捕捉体G5は、検出対象となる検出対象物質を特異的に捕捉可能な物質のことを指す。すなわち、本発明の検出方法および検出装置においては、アプタマ、アプタマとポルフィリン化合物との複合体等が捕捉体に相当する。捕捉体は、疎水結合により半導体層G4に保持することができる。この場合、捕捉体にリンカーとして、例えば、NCS基を有する、ピレン、トリフェニレン、ベンゾアントラセン、ターフェニル等の芳香環を導入することもできる。特にピレンを有するものが安定に使用しやすい。かかる芳香環により、上述の疎水結合に加えて、π-π電子相互作用によりターゲット捕捉体G5を半導体層G4上に保持することも可能となる。
【0061】
なお、前記リンカーは、その、芳香環とターゲット捕捉体G5が置換するNCS基とが、ターゲット捕捉体G5の機能を発揮させるために適切な位置関係が保てるような空間をもたらすことが好ましく、そのリンカーの芳香環とNCS基は、置換あるいは無置換の直鎖アルキル基で連結されることが好ましい。かかる連結により、ターゲットが捕獲しにくいまたはターゲット捕捉体G5を反応場とする触媒反応が起こり難いような空間配置にならないようにすることが可能になると考えられる。なお、半導体層G4がSi半導体等無機半導体の場合には、ターゲット捕捉体G5は、ATS等のシランカップリング剤を用いて半導体表面に固定することができる。
【0062】
壁G6は、シリコンゴムシートを切り出して得たものを圧着してもよい。また、PDMFやシリコン樹脂を3Dプリンタなどで作製した型から型抜きしたものを圧着させたり、インクジェット塗布装置によりバンクを直接形成させたりすることは、デバイスの製造コストの観点からより好ましい。また、PDMFなどで形成した流路をもって壁G6を代替してもよい。
【0063】
カバーシート層G7は、例えば、ゼラチン、キトサン、コラーゲン、PVA、PVCなどの親水性の薄い膜や、P2VP、PNIPAAm、HEMA、CMC、PEI、PEG等を含むハイドロゲル膜やナノロッドを有する不織布などが用いられる。この層は、適宜架橋されていてもよい。この層は、滴下した検体溶液の離散を防止し、半導体層G4に効率よく接触させたりする目的、または、夾雑物を半導体層G4に到達しないように捕獲する目的等のために設けることができる。そこで、特に前者の目的には膜厚は薄いことが好ましい。高分子網目がある構造体中の分子の拡散係数Dは、例えば前記ハイドロゲルにおいて、水中での拡散係数D0に対し、D/D0∝φ-α等の関係が知られており、網目サイズφ、拡散分子と網目サイズの差αが多く、網目サイズが大きいほど拡散しやすく、拡散分子と高分子との相互作用が小さく、この層の膜厚を十分小さく設計することにより、水中並みの拡散速度が得られる可能性がある。この目的に好適な膜厚は、数nm~50nm、より好ましくは数nm~数十nmである。
【0064】
なお、ハイドロゲルは、光硬化性樹脂組成物、熱硬化性樹脂組成物等から調製することもできる。取扱いやすさの観点で、光硬化性樹脂組成物から調製されたものが好ましい。これらは、必要に応じて、増粘成分、架橋剤、極性溶媒、その他の成分をさらに含んでいてもよい。また、使用時には、この層は、検体溶液の希釈に使用する緩衝バッファー組成に近い水溶液で満たされていてもよい。また、前記層の代わりに、マイクロ流路を設けることも好ましい。
【0065】
<情報処理部および情報出力部>
本発明の検出装置は、更に、測定データ等の情報を処理する情報処理部や測定データ等の情報を出力する情報出力部を有していてもよい。
【0066】
<試料採取部>
本発明の検出装置は、試料溶液を採取する試料採取部を有していてもよい。試料採取部は、上述の試料導入部がその機能を兼ねていてもよい。また、試料採取部から試料導入部に試料を移せる構造としてもよい。試料採取部は、例えば、試料が体液の場合に、摂取物残渣やたんぱく質等の検出対象外の成分を除去する機能部を備えていてもよい。なお、このような試料採取部については、特表2019-502893号公報に記載された部位を採用することができる。
【0067】
<アプタマ>
アプタマは、検出対象のポリアミンの検出感度を向上させることができれば、その種類は限定されない。
アプタマ(以下、「Oligo」と言う場合がある。)は、標的の分子に対して特異的に結合する核酸分子である。アプタマは、ヌクレオチド残基をその構成単位とする。ヌクレオチド残基としては、例えば、リボヌクレオチド残基、デオキシリボヌクレオチド残基等が挙げられる。
【0068】
核酸分子は、例えば、リボヌクレオチド残基から構成されるRNAでもよく、デオキシリボヌクレオチド残基から構成されるDNAでもよく、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドの両方を含む核酸分子でもよい。核酸分子は、一本鎖核酸でもよいし、二本鎖核酸でもよい。一本鎖核酸としては、例えば、一本鎖RNA、一本鎖DNA等が挙げられる。二本鎖核酸としては、例えば、二本鎖RNA、二本鎖DNA、RNAとDNAとの二本鎖核酸等が挙げられる。核酸分子は、一本鎖核酸が好ましい。核酸分子において、各塩基は、例えば、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)およびウラシル(U)の天然塩基(非人工核酸)でもよいし、人工塩基(非天然塩基)でもよい。
【0069】
人工塩基は、例えば、修飾塩基および改変塩基等が挙げられる。人工塩基は、天然塩基(A、C、G、TまたはU)と同様の機能を有する塩基が好ましい。天然塩基と同様の機能を有する人工塩基としては、例えば、グアニン(G)に代えてシトシン(C)に結合可能な人工塩基、シトシン(C)に代えてグアニン(G)に結合可能な人工塩基、アデニン(A)に代えてチミン(T)またはウラシル(U)に結合可能な人工塩基、チミン(T)に代えてアデニン(A)に結合可能な人工塩基、ウラシル(U)に代えて、アデニン(A)に結合可能な人工塩基等が挙げられる。なお、本発明の検出方法および本発明の検出装置においては、A、G、C、Tおよび/またはUで表わされる塩基は、天然塩基である場合のみならず、各天然塩基と同様の機能を有する人工塩基も含む。
【0070】
修飾塩基は、例えば、メチル化塩基、フルオロ化塩基、アミノ化塩基、チオ化塩基等が挙げられる。修飾塩基の具体例としては、例えば、2’-フルオロウラシル、2’-アミノウラシル、2’-O-メチルウラシル、2-チオウラシル等が挙げられる。
本発明の検出方法および本発明の検出装置においては、合成上および安定性などの観点から、DNAアプタマ(A、T、C、G)が好ましく、Gカルテット面を有するG-quadruplexがより好ましい。また、立体的な変調を起こす可能性がある各種修飾を有さない系が好ましい。
【0071】
特に、高いペルオキシダーゼ活性を得るには、後述する補欠分子族とより安定な相互作用(配位)ができるアプタマ、具体的には、G-quadruplex構造をとるGカルテット面を有するアプタマと、そのアプタマにより安定(高速)にパーオキサイド付加物を生成できる可能性を有する金属錯体を有することが好ましい。
【0072】
G-quadruplex(グアニン四重鎖構造:G4)に関しては、テロメア部位中
のGリッチな配列が精力的に研究されている。その理由は、この配列がG-quadruplexと呼ばれる四重鎖DNA構造を形成できるということが明らかになってきたためである。G-quadruplexには、四本のDNA鎖の全ての5’から3’への方向が同じ方向を向いているパラレル型と呼ばれるものや、二本は同じ方向を向いているが残りの二本は反対方向を向いているアンチパラレル型と呼ばれるものなど複数のパターンが知られている。
【0073】
G-quadruplexは、
図1に示すような特徴を有している。すなわち、4つのG塩基がフーグスティーン型の水素結合を介してGカルテットと呼ばれる構造を形成し、さらにこのGカルテット面同士がπ-πスタッキング相互作用することによって構造を保持している。
図1は、検出対象として唾液を用いた場合の本発明の検出装置における検出部の一例を示す図(デバイスの断面図)であり、ボトムゲート構造を示す。
図1の左側は、検出部の構成を示し、右下側は、アプタマがポリアミンと相互作用することによりG-quadruplex構造が安定化することによって、ヘミンと複合体を形成してペルオキシダーゼ活性が発現することを表す図である。この複合体が過酸化水素による吸光度変化物質の酸化反応を触媒し、その結果、色が変化するため、この色の変化を吸光度として評価することにより、唾液中のポリアミンの量を光学的に検出することができる。また、この酸化還元反応及びこれに付随する反応により生じた電荷の変化を評価することにより、唾液中のポリアミンの量を評価することができる。
【0074】
かかるアプタマの配列は、GGGやGGなどのGを連続する部分の間にA、C、Tを配列することにより、Gの連続部位への適切な距離をもたらし、後述のペルオキシダーゼ活性を向上させることもできる。また、部分的に二重鎖となる部分が生じて(ループ)、その空間的位置によっては、目的となるペルオキシダーゼ活性を低下させる場合もあるため、アプタマの配列の中でGの連続する数と順番、G以外の配列をどのような配列を選択するかが検出感度に重要なポイントの一つとなる。従って、アプタマの分子量(塩基数)は、適切な範囲であることが好ましい。具体的には、6~30塩基が好ましく、特に光学的方式により検出を行う場合は、11~25塩基がより好ましい。電気的方式により検出を行う電気二重層を検出ゾーンとするトップゲート方式の場合は、半導体表面から近い方が、検出感度が高くなりやすく、特に6nm以内にあることが好ましいため、塩基数のみが異なる場合について比較すると、塩基数が少ない方が好ましい。
【0075】
G-quadruplexの構造形成にはG-カルテット面とG-カルテット面との間において金属イオンの配位が必要であり、KイオンやNaイオンなどが配位することが知られている。
【0076】
G-quadruplexには、種々の多芳香環化合物が配位することが知られている。特に、ヘムたんぱく質やヘム酵素等によるペルオキシダーゼ活性のメカニズムを利用できる観点から、そのペルオキシダーゼ活性に有利な、より平面性がよく、多環の分子全体のサイズがG-quadruplexのGカルテット面に効率よくπ-πスタッキングでき、中心金属にO2
2-パーオキサイドが付加したものから高原子価金属オキソ種が生成する補欠分子族が好ましい。例えば、中心金属としては、Fe2+、Ni2+、Cu2+、Co2+、Mn2+、Zn2+等が好ましく、それらが複数の価数下において、D4h構造とアキシャル位に配位を有するものが好ましい。例えば、サレンマンガン錯体やポルフィリン鉄錯体等などがあるが、その芳香環の平面性と多環分子全体のサイズ、さらに細胞透過性などから金属ポルフィリンが好ましく、できるだけ嵩高くならないような側鎖を選択することが好ましい。なぜならば、補欠分子族である金属錯体がG-quadruplexとの複合の結果、十分なペルオキシダーゼ活性を獲得するためには、Gカルテット面の構成物を配位し、さらに、過酸化物を配位するだけの上下のスペースが必要であるからである。ポルフィリン化合物としては、例えば、へミン等が挙げられる。
【0077】
電極等の検出部の部材にアプタマを固定する場合は、部材の感応基やリンカーと反応することができるように、5’位あるいは3’位に、アミノ基、アルキル連結アミノ基、6~8原子スペーサービオチン分子、チオール基、ホスホチオエート等の末端修飾基を有することが好ましい。
【0078】
<酸化反応の呈色>
コンジュゲートとして、標的物質に結合することによりG4DNAzymeがG4DNAzyme/ヘミン複合体を形成可能となるように、核酸、タンパク質若しくはペプチド又はリガンド化合物とG4DNAzymeとが結合しているコンジュゲートを用いることができる。ポルフィリン化合物とコンジュゲートとの接触は、好ましくは緩衝液中、20℃~30℃、静置又は撹拌条件下で、数分~数日間行われる。その後、必要に応じて、緩衝液中(pH7.5~8.5)、金属イオン存在下、90~98℃で1~10分間熱処理した後、20~30℃まで20~40分かけて冷却することにより、G4構造を形成させてもよい。ヘミンとの接触は、得られたサンプル接触済みコンジュゲートにヘミン溶液を添加し、20~30℃で20~60分静置することにより行うことができ、これによりDNA(G4DNAzyme)/ヘミン複合体を形成させることができる。形成したG4DNAzyme/ヘミン複合体の測定又は検出は、ヘミンの酸化作用を利用して行うことができる。
【0079】
G4DNAzyme/ヘミン複合体の検出は、例えば、G4DNAzyme/ヘミン複合体が結合している導電性電極の電位を利用して行うことができる。ヘミンは、電極上の電子を奪って還元状態となり、過酸化水素を還元して酸化状態に戻る。この際、
図1及び2に示すように、過酸化水素(H
2O
2)Wは、水(H
2O)Xへ還元される。例えば、微分パルスボルタンメトリにおいて、基準電極に対するピーク陰極電流が検出された場合、G4DNAzyme/ヘミン複合体が存在すると検出されたことを意味する。また、微分パルスボルタンメトリにおいて、基準電極に対するピーク陰極電流の強さは、G4DNAzyme/ヘミン複合体の存在量の指標とすることができる。すなわち、ピーク陰極電流の強さからG4DNAzyme/ヘミン複合体のレベルを測定することができる。
【0080】
G4DNAzyme/ヘミン複合体の検出は、G4DNAzyme/ヘミン複合体のペルオキシダーゼ活性を利用して行うこともできる。この方法では、反応処理後の溶液をペルオキシダーゼの基質と反応させて、当該基質の発色などを検出する。色素の発色が検出された場合、G4DNAzyme/ヘミン複合体の存在が検出されたことを意味する。また、色素の発色の強度は、G4DNAzyme/ヘミン複合体の存在量の指標とすることができる。すなわち、色素の発色の強度からG4DNAzyme/ヘミン複合体のレベルを測定することができる。当該基質の発色は、G4DNAzyme/ヘミンが存在することを意味し、発色の程度がG4DNAzyme/ヘミン存在量の指標となる。ペルオキシダーゼの基質は多数知られており、例えば、3,3’,5,5’-Tetramethylbenzidine(TMB)、3,3’-Diaminobendizine(DAB)、及びDAB10-Acetyl-3,7-dihydroxyphenoxazineなどの色素前駆体が知られている。
【0081】
光学的方式で検出を行う場合、前述のペルオキシダーゼ活性による過酸化水素の還元により呈色する色素前駆体の吸光度は、例えば、後述する実施例A1~A9とBでは、410nm、550nm、650nm近傍で増加する。この吸光度の変化は、スマートフォンなどのLEDバックライト光源に使われている450nmまたは650nmの発光バンドを光源として照射し、輝度や色調を色温度やRGBコード化するソフトを用いて数値化してもよいし、透過光をCMOSやフォトダイオードなどに受光させてその光の強度をモニターしてもよい。
また、電気的方式で検出を行う場合、例えば、特定の半導体や特定の電極などの基体の上にリンカーを介すなどしてアプタマを固定し、検体を滴下し、その中に含まれるスペルミンやスペルミジンにより生じる電荷を半導体の電界効果によって電流-電圧曲線のシフトによる、等電圧での電流変化などを検出することで検出を行うことができる。
【0082】
アプタマの塩基配列は、光学的検出にも電気的検出にも適用できることから、配列番号1で表される塩基配列であることが好ましい。
【0083】
<電気的検出に好適なアプタマ>
電気的検出には、塩基配列がGTGGGTAGGNCGGGTTGGNN(前記Nは、独立して、A、C、G、T又は塩基なし)(配列番号1)であるアプタマに加え、塩基配列がTTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGG(配列番号2)、GGGGACGTTGGCATGGGTGGCCGGGCCCTT(配列番号3)などのより自由度のある配列であるアプタマなども好ましい。これらのアプタマは、電気二重層を検出ゾーンとする電気的方式での検出に好適な空間配置を確保する傾向があると考えられる。
【0084】
<応用>
本発明の検出方法及び検出装置は、公知のバイオセンサーについて、検出時に検体がアプタマに接触できるようにすることにより行うこともできる。具体的には、例えば、公知の血糖値測定器を用いて実施することもできる。血液に、血液中のブドウ糖(グルコース)に反応する酵素を加えると、グルコースが酸化してグルコン酸になるときに電子が放出されて試薬中の「メディエーター」の電荷が変化するが、数秒経って電圧をかけると、電流が発生しメディエーターが元に戻る。血糖値測定器は、通常、この際の電流量からブドウ糖の量を算出する。そこで、ポリアミンの検出を電気的に行う場合に、この血糖値測定器の機構を利用することにより、ポリアミンを検出することが可能となる。また、市販の血糖値測定器において、上述のメディエーターの電荷変化を呈色する酸化還元色素の着色を光学的方式により検出することも可能である。更に、ここで、血液の代わりに唾液等を検体として、同様にポリアミンを検出することも可能となる。
【実施例0085】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により制限されるものではない。
【0086】
[ポリアミン]
スペルミン;ナカライテスク社製。
スペルミジン;ナカライテスク社製。
【0087】
[吸光度測定]
プレートリーダー((Multiskan Sky T,ThermoFisher Scientific社製)を用いて、吸光度を測定した。
【0088】
[実施例A1~A9]
[試料液の準備]
水に、NaH2PO4/Na2HPO4が合計10mmol/dm3、塩化カリウムが100mmol/dm3、塩化マグネシウムが2mmol/dm3、およびTriton
X-100(非イオン性界面活性剤)が0.003体積%となるように添加することにより、pH7.0の水溶液を調製した。
この水溶液に、表1に記載した各アプタマを加えた後(ウェル中で100μLにしたときに2μmol/dm3となる量)、95℃で10分間温浴により加熱した後、4℃の冷蔵庫で15分間冷却し、その後室温(25℃)で15分間静置することにより、アプタマ
水溶液を調製した。このアプタマ水溶液95μLを96ウェルプレートの1つのウェルに入れた。
スペルミンまたはスペルミジンを、10mmol/dm3のTris-HCl水溶液(pH7.0)を用いて、5mmol/dm3の水溶液(以下、両者を合わせて「ポリアミン水溶液」と言う場合がある。)を調製した。
【0089】
アプタマ水溶液を入れたウェルに、ポリアミン水溶液を2μL添加し、軽く振とうさせた後に室温(25℃)で30分間静置した。更にヘミン溶液(Dimethyl sulfoxideで100μmol/dm3に調製)を1μL添加後に軽く振とうし、室温(25℃)で10分間静置した。40mmol/dm3のABTS(2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸))水溶液(上述のpH7.0の水溶液を用いて調製)と60mmol/dm3のH2O2水溶液(上述のpH7.0の水溶液を用いて調製)を各々1μLずつ添加し、軽く振とう後、3分間静置することにより、ポリアミン及びアプタマ等を含有する試料液を準備した。
また、この試料液の準備で、ポリアミン水溶液の代わりに、10mmol/dm3のTris-HCl水溶液(pH7.0)を用いて調製したレファレンス液を準備した。
【0090】
[ポリアミンの検出]
プレートリーダー(Multiskan Sky T,ThermoFisher Scientific)を用いて、ウェル中の試料液およびレファレンス液の414nmにおける吸光度を計測した。表1に、各試料液におけるレファレンス液に対する吸光度変化を示す。
【0091】
【0092】
表1の結果より、アプタマを用いることにより、微量のポリアミンを光学的方式により検出できることが裏付けられた。
【0093】
[実施例B]
実施例A1~A9において、表1に記載されたアプタマの代わりにトロンビンアプタマ(塩基配列はGGTTGGTGTGGTTGG(配列番号13))を用いて、試料液の準備におけるウェルへのポリアミン水溶液添加のタイミングを以下のように変えた以外は同
様にして、継続して414nmの吸光度を計測した。具体的には、ABTS水溶液とH
2O
2水溶液を添加して3分間静置させ、414nmの吸光度が安定してきたタイミングで、スペルミン水溶液を2μL(吸光度測定時におけるスペルミン濃度で1mmol/dm
3)添加し、414nmにおける吸光度を経時変化を測定した。
また、ここで、比較実験として、実施例Cのスペルミン水溶液の代わりに、pH7.0の水溶液を2μL添加し、414nmにおける吸光度を経時変化を測定した。
測定結果を
図4に示す。この結果より、スペルミン水溶液添加により、吸光度が顕著に増加したことがわかる。すなわち、例えば、血液や唾液のような検体を添加するだけの簡便な操作により、ポリアミンの検出ができることが裏付けられた。
【0094】
[実施例C1~C4、比較例C]
[アプタマ]
telо24の末端をC6アミノ基で修飾したもの(C6アミノ基修飾telо24)を合成した。塩基配列は、5’-NH2-(CH2)6-TTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGG(配列番号2)-3’。塩基数は24。
7K16の末端をC6アミノ基で修飾したもの(C6アミノ基修飾7K16)を合成した。塩基配列は、5’-NH2-(CH2)6-GGGGACGTTGGCATGGGTGGCCGGGCCCTT(配列番号3)-3’。塩基数は30。
【0095】
[アプタマ含有液の調製]
各アプタマを、リン酸緩衝生理食塩水(10mmol/dm3のNaH2PO4/Na2HPO4、137mmol/dm3の塩化ナトリウム、pH7.2~7.4、(以下「PBS」と言う場合がある。))で希釈することにより、100nmol/dm3の濃度とした。90~95℃の温浴により5分間加熱後、1時間、室温(25℃)に冷ますことにより、アプタマ含有液を調製した。
【0096】
[トランジスタ型センサの製造]
図3に示す構造のトランジスタ型センサを製造した。
酸化シリコン膜(幅1cm×長さ2cm×厚さ285nm)上に、蒸着法でTi/Au膜(70nm)を成膜した後、フォトリソグラフィ法によりパターニングすることにより、ソース電極とドレイン電極を形成した。ここで、各電極は、長さ5mm×幅10μmとし、ソース電極とドレイン電極とのギャップは5μmとして、酸化シリコン膜上に、酸化シリコン膜の長さ方向に各電極の長さ方向が直交して等間隔に数十本設けることにより、シリコンウェハを作製した。
このシリコンウェハ上に、銅箔上にCVD法で合成したグラフェン単層結晶膜を転写した。このグラフェン膜をフォトリソグラフィ法によりパターニングすることにより、半導体層を形成させた。その後、Ar/H
2雰囲気下で、300℃で1時間アニールすることにより、グラフェン素子を製造した。
【0097】
厚さ5mmのシリコンゴムシートの中央部に四角い孔をあけ、バッファーを入れるプール用の壁を作製した。孔は、プールの容量が、1つのシリコンウェハ上に2つのプールを設置したい場合には、各々40~80マイクロリットルとなるようにあけた。グラフェン素子に、プール用の壁を、グラフェン部が中心にくるように設置することによりプールを作製した。
プール内に、10mmol/dm3のピレンスクシンイミジルエステルの2-メトキシエタノール溶液(リンカー)(1-Pyrenebutyric acid N-hydroxysuccinimide ester)を満たし、10分間静置した後、PBSによりプール内を4~5回リンスすることにより、リンカーの余剰分を洗い流した。なお、ポリアミン定量時のリンカー濃度は0.1μmol/dm3となった。
アプタマ含有液でプールを満たし、一晩、室温(25℃)で静置することにより、グラ
フェン上にリンカーを介してアプタマを修飾した。3~4回PBSで静かにリンスした。PBSで希釈した1mol/dm3のエタノールアミンを滴下し、10分間静置することにより、未反応のリンカーに対し、ブロッキング処理を行った。
プール内に、ゲート電極として、銀/塩化銀電極を装着できるようにすることにより、トランジスタ型センサを製造した。
【0098】
[試料液の調製]
スペルミンまたはスペルミジンをPBSに溶解することにより、表2~5に記載された各濃度のスペルミン溶液およびスペルミジン溶液を調製した。
【0099】
[ポリアミンの定量]
トランジスタ型センサのプールに、以下のように、スペルミジン溶液(実施例C1、C3)またはスペルミン溶液(実施例C2、C4)を濃度が低い液から一定量ずつ滴下しながら、電圧および電流を継続的に測定した。
【0100】
[実施例C1]
プール内にPBSを80μL満たした後、ゲート電極に相当する参照電極に電圧(ゲート電圧以下、Vtgとも称す)を0V~0.15Vの範囲で掃引し、ソース電極とドレイン電極間の電流の変化(Isdと称す)をメジャーユニット(Keysight社製B2912、N1294接続)を用いて測定した(伝達特性評価におけるI-Vカーブ)。ソース電極とドレイン電極間に印加した電圧は、0.05Vとした。
10nmol/dm3のスペルミジン溶液をプールに20μL滴下し(滴下後のスペルミジン濃度は2nmol/dm3)、15分待ってから、I-Vカーブを測定した。このプールに50nmol/dm3のスペルミジン溶液を20μL滴下し(滴下後のスペルミジン濃度は10nmol/dm3)、15分以上後にI-Vカーブを測定し、更に、このプールに500nmol/dm3のスペルミジン溶液を20μL滴下し(滴下後のスペルミジン濃度は80nmol/dm3)、15分後にI-Vカーブを測定した。そして、このプールに、1000nmol/dm3のスペルミジン溶液を20μL滴下して15分待ち、5000nmol/dm3のスペルミジン溶液を20μL滴下して15分待ち、5000nmol/dm3のスペルミジン溶液を20μL滴下して(滴下後のスペルミジン濃度は1156nmol/dm3)15分待ち、I-Vカーブを測定した。更に、このプールに50000nmol/dm3を40μL滴下し(滴下後のスペルミジン濃度は9297nmol/dm3)、I-Vカーブを測定した。ここで、滴下は、ゲート電極に相当する参照電極の直下に差し込むように静かに注入した。
【0101】
各スペルミジン濃度におけるI-Vカーブを
図5に示す。ポリアミンは、プラスに帯電している。そこで、Dirac Pointのマイナス側へのシフトにより、ポリアミンの存在について確認することができる。そこで、I-Vカーブから、ライトストーン社製のグラフ作成ソフト「Origin」を用いて、Dirac Pointにおける電圧のシフト量を算出した。具体的には、このパターンでは、各スペルミジン濃度におけるDirac Pointが印加電圧範囲内になく、全電圧掃引範囲において、各I-Vカーブが平行状態になった。I-VカーブのIdが50μAにおける印加ゲート電圧をDirac Pointとし、スペルミジン滴下前のI-VカーブのIdが50μAにおけるDirac Pointからのシフト量をDirac Pointにおけるシフト量とした。結果を表2に示す。
【0102】
【0103】
表2の結果より、C6アミノ基修飾telо24を用いることにより、スペルミジンを電気的方式により検出する際の感度が著しく向上し、0.002μmol/dm3という極めて微量のスペルミジンを検出できることが裏付けられた。また、スペルミジン濃度に応じて、Dirac Pointのシフト量の変化が大きくなっていたことから、本発明の検出方法および本発明の検出装置を、スペルミジンの定量法に適用できることが裏付けられた。
【0104】
[実施例C2]
実施例C1において、スペルミジン溶液の代わりに、スペルミン溶液を用いて、実施例C1と同様にして、各スペルミン濃度におけるI-Vカーブを測定した。結果を
図6に示す。このパターンでは、Dirac Pointが印加電圧範囲にあった。I-VカーブのIdが60μAにおける印加ゲート電圧をDirac Pointとし、スペルミン滴下前のI-VカーブのIdが60μAにおけるDirac Pointからのシフト量をDirac Pointにおけるシフト量とした。結果を表3に示す。
【0105】
【0106】
表3の結果より、C6アミノ基修飾telо24を用いることにより、スペルミンを電気的方式により検出する際の感度が著しく向上し、1.156μmol/dm3という微量のスペルミンを検出できることが裏付けられた。また、スペルミン濃度が1.156μmol/dm3から9.297μmol/dm3に増えるのに応じて、Dirac Pointのシフト量の変化が大きくなっていたことから、本発明の検出方法および本発明の
検出装置を、スペルミンの定量法に適用できることが裏付けられた。
また、表2と表3の結果の比較において、検出感度および定量感度がスペルミンよりスペルミジンで高かったことから、各々が極微量ずつ含まれている場合に、本発明の検出方法および本発明の検出装置によって、スペルミジンのみを選択的に検出、定量できることが裏付けられた。
【0107】
[実施例C3]
実施例C1において、アプタマとして、C6アミノ基修飾telо24の代わりに、C6アミノ基修飾7K16を用いて、実施例C1と同様にして、各スペルミジン濃度におけるI-Vカーブを測定した。このパターンでは、各スペルミジン濃度におけるDirac
Pointが印加電圧範囲内になく、全電圧掃引範囲において、各I-Vカーブが平行状態になった。I-VカーブのIdが56μAにおける印加ゲート電圧をDirac Pointとし、スペルミジン滴下前のI-VカーブのIdが56μAにおけるDirac
Pointからのシフト量をDirac Pointにおけるシフト量とした。結果を表4に示す。
【0108】
【0109】
表4の結果より、C6アミノ基修飾7K16を用いることにより、スペルミジンを電気的方式により検出する際の感度が著しく向上し、0.002μmol/dm3という極めて微量のスペルミンを検出できることが裏付けられた。また、スペルミジン濃度に応じて、Dirac Pointのシフト量の変化が大きくなっていたことから、本発明の検出方法および本発明の検出装置を定量法に適用できることが裏付けられた。
【0110】
[実施例C4]
実施例C3において、スペルミジン溶液の代わりに、スペルミン溶液を用いて、実施例C3と同様にして、各スペルミン濃度におけるI-Vカーブを測定した。
このパターンでは、各スペルミン濃度におけるDirac Pointが印加電圧範囲内になく、全電圧掃引範囲において、各I-Vカーブが平行状態になった。I-VカーブのIdが44μAにおける印加ゲート電圧をDirac Pointとし、スペルミン滴下前のI-VカーブのIdが44μAにおけるDirac Pointからのシフト量をDirac Pointにおけるシフト量とした。結果を表5に示す。
【0111】
【0112】
表5の結果より、C6アミノ基修飾7K16を用いることにより、スペルミンを電気的方式により検出する際の感度が著しく向上し、0.080μmol/dm3という極めて微量のスペルミンを検出できることが裏付けられた。また、スペルミン濃度が0.080μmol/dm3から9.297μmol/dm3に増えるのに応じて、Dirac Pointのシフト量の変化が大きくなっていたことから、本発明の検出方法および本発明の検出装置を定量法に適用できることが裏付けられた。
また、表4と表5の結果の比較において、検出感度および定量感度がスペルミンよりスペルミジンで高かったことから、各々が極微量ずつ含まれている場合に、本発明の検出方法および本発明の検出装置によって、スペルミジンのみを選択的に検出、定量できることが裏付けられた。
【0113】
[比較例C]
上述の実施例C1において、トランジスタ型センサを製造する際に、プールをアプタマ含有液の代わりにPBSで満たし、Vtgを-0.15V~0.05Vの範囲で掃引し、各スペルミン溶液の濃度を表6に記載した濃度とした以外は、実施例C1と同様にして、各スペルミン濃度におけるI-Vカーブを測定した。結果を
図7に示す。このパターンでは、Dirac Pointのマイナス側へのシフトが起こらなかった。結果を表6にまとめる。
【0114】
【0115】
このようにアプタマ含有液を用いなかった比較例Cでは、スペルミン溶液の添加によりDirac Pointがマイナス側にシフトしなかったのに対し、上述のとおり、アプタマ含有液を用いた実施例C2およびC4において、スペルミン溶液の添加により、Dirac Pointがマイナス側にシフトしていたことから、アプタマを用いることによ
り、スペルミンを電気的方式により検出する際の感度が著しく向上し、微量のスペルミンを検出できることが裏付けられた。また、アプタマを用いた場合に、スペルミン濃度が高くなるのに応じて、Dirac Pointのシフト量の変化が大きくなっていたことから、本発明の検出方法および本発明の検出装置を、スペルミンの定量法に適用できることが裏付けられた。
また、スペルミン溶液の添加により、Dirac Pointのマイナス側へのシフトが顕著に大きくなったことから、例えば、血液や唾液のような検体を添加するだけの簡便な操作により、ポリアミンの検出ができることが裏付けられた。
【0116】
[実施例D1](チップでのポリアミンの検出)
(1)溶液Aの調製
水に、NaH2PO4/Na2HPO4が合計10mmol/dm3、塩化カリウムが100mmol/dm3、塩化マグネシウムが2mmol/dm3、およびTriton
X-100(非イオン性界面活性剤)が0.003体積%となるように添加することにより、pH7.0の水溶液(以下、バッファーと称することがある。)を調製した。
このバッファーを用いて、アプタマPS2.M3の濃度4.2μM水溶液を実施例A4と同様にして調製した。また、上記バッファーを用いてグルコースオキシダーゼの濃度100units/μL水溶液を調製した。上記アプタマPS2.M3水溶液を47μL、2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)の濃度40mM水溶液を2μL、上記グルコースオキシダーゼ水溶液を1μL混合し、溶液Aを調製した。
【0117】
(2)溶液Bの調製
10mMスペルミン水溶液及び100μMヘミン溶液を実施例A4と同様にして調製した。また、上記バッファーを用いて1Mグルコース水溶液を調製した。10mMスペルミン水溶液を1μL、100μMヘミン溶液を1μL、1Mグルコース水溶液1μLを混合し、溶液Bを調製した。
【0118】
(3)検出
以下、
図8を用いて説明する。ポリエチレンナフタレート(帝人デュポン社製、Q51-A4)フィルムS1上に、カーボンペースト(十条ケミカル社製、JELCON CH-8)を用いて長さ20mm、幅5mmのカーボン電極パターンS2を、短辺同士が2mmの間隔で対向するように一対塗布し、120℃で15分間乾燥させた。そのカーボン電極パターンS2の一方に、銀/塩化銀インクを塗布し、80℃で10分間乾燥させ、インク塗布部S3を形成した。前記電極間に50μLの溶液Aを滴下し、室温で一晩乾燥させた(
図8のS5)。
2mm厚のシリコンゴムシートに直径6mmの貫通穴をあけ液溜め枠を形成し、前記電極間のA液塗布領域が中心にくるように上から乗せて設置した(
図8のS4)。この貫通穴に97μLの上記バッファーを滴下し、A液を溶解させ、電気化学アナライザー(BAS社製、ALS Electrochemical Analyzer Model 612E)を用いて、前記電極間の電位差の計測を開始した。測定5分後に、3μLの溶液Bを滴下し、前記電極間の電位差変化を測定し
図9を得た。
【0119】
以上の結果から、過酸化水素を、グルコースオキシダーゼとグルコースの反応により発生させ、その過酸化水素を、へミンとアプタマの反応により得られた還元力(ペルオキシダーゼ活性)で還元し、その還元反応をABTSの酸化還元反応により生じる電位差として検出できることが示された。本発明の一態様によれば、ポリアミンの検出がチップで可能となり、ポリアミンの濃度が電極の面積に寄らない電位差として検出できるため、検出装置の微小化・高感度化が可能となる。
【0120】
[実施例D2]
(1)溶液Cの調製
アプタマPS2.M2の濃度20μM水溶液を実施例A3と同様にして調製した。アプタマPS2.M2水溶液を98μL、40mMのABTS水溶液を2μL混合し、溶液Cを調製した。
【0121】
(2)溶液Dの調製
スペルミンまたはプトレスシンの各種濃度のTris-HCl水溶液及び100μMヘミン溶液を実施例A3と同様にして調製した。スペルミンまたはプトレスシン水溶液を1μL、100μMヘミン溶液を1μL、60mM過酸化水素水溶液を1μL混合し、溶液Dを調製した。
【0122】
(3)検出
直径6mmの円形に切断したchromatography paper(ワットマン社製、3001-861)に、溶液Cを5μLずつ合計30μL滴下し、室温で2時間乾燥させた。その後、溶液Dを5μLずつ合計10μL滴下し、10分後に色の変化をデジタルカメラ撮影し
図10を得た。撮影画像を、フリーソフトIrfabViewを用いてグレースケールに変換し、円内の平均輝度を求め、
図11を作成した。スペルミン濃度依存的に平均輝度が増加したが、コントロールとして用いたプトレスシンの濃度には応答しなかった。すなわち、吸光を利用すれば比色法によるスペルミンの検出が可能であることが示された。
【0123】
[実施例D3]
(1)PS2.Mアプタマ水溶液、及び、MO-10アプタマ水溶液の調製
実施例A1のPS2.Mアプタマ、新たに合成した配列GTGGGTAGGGGCGGGTTGG(配列番号14)から成るMO-10アプタマについて、実施例A1と同様にして、2.1μmol/dm3のPS2.Mアプタマ水溶液、及び、2.1μmol/dm3のMO-10アプタマ水溶液を調製した。
【0124】
(2)検出-1
アプタマPS2.M水溶液47.5μLを96ウェルプレートの一つのウェルに入れ、実施例A1と同様に調製した25mmol/dm3のスペルミジン水溶液2μLを滴下し10秒間振とうした。2分静置後、実施例A1と同様に調製したヘミン溶液を1μL滴下し、10秒間振とうし、2分間静置した後、実施例A1と同様に調製したABTS水溶液、過酸化水素水溶液をそれぞれ1μLずつ滴下し、10秒間振とう後10分後に、吸光度をプレートリーダー(アズワン製MPRA-100 測定波長405nm)で測定したところ(以上、PS2.Mアプタマースペルミジン検出液と称す)、0.979であった。
そのPS2.Mアプタマースペルミジン検出液を20μLピペットで吸い上げ、シャーレ上に滴下した。滴下した液滴を、市販のテルモ製血糖計メディセーフフィット(登録商標)で測定したところ、51mg/dlと表示された。
上記実施例におけるPS2.MアプタマをMO-10アプタマに代えた以外は全く同様にして得た、MO-10アプタマースペルミジン検出液の吸光度は0.535であり、その液滴をテルモ製血糖計メディセーフフィットで測定したところ、63mg/dlと表示された。
【0125】
スペルミジンの検出に際し、ヘミンとスペルミジンの組み合わせに対してアプタマの配列がより好ましいほどペルオキシダーゼ活性が強くなるため、それだけ多くの過酸化水素が還元され消失する。その還元量に応じて、より多くの着色性ABTS酸化物が生成するので、405-420nmの吸光度が増大する。
上記の通り、MO-10アプタマとPS2.Mアプタマの吸光度は、PS2.Mの方が
より高いため、ペルオキシダーゼ活性はPS2.Mの方が高く、過酸化水素の残存量(未反応分)はMO-10アプタマの方が多いと考えられる。
【0126】
(3)検出-2
実施例D1と同様のバッファー47.5μLに、上記過酸化水素水溶液1μLを滴下し混合して静置したもの、及びそれにさらに上記へミン溶液、ABTS水溶液を各1μLずつ混合したものについて、上記と同様に吸光度の測定を行ったところ、それぞれ0.02、0.045であった。また、テルモ血糖計メディセーフフィット(登録商標)で測定したところ、それぞれ117、110であった。
図12に、検出-2の結果(吸光度とメディセーフフィット(登録商標)の計測値の関係)を示す。
【0127】
図12に示すように、吸光度とメディセーフフィット(登録商標)の計測値との間に負の相関があることから、本発明の検出方法を特定の市販の血糖計に適用することが可能である。
テルモ製血糖計メディセーフフィット(登録商標)は、検査計に設けられた検査部において、検体内のグルコースを分解するためのグルコースオキシダーゼが設けてあり、グルコースの分解により発生する過酸化水素の量を分光学的に計測し、血糖値を表示するシステムである。かかる血糖計メディセーフフィット(登録商標)の仕組みを、残存過酸化水素量の計測に使用できることが確認された。
尚、市販のテルモ製血糖計は、赤と緑のLED光を有する測定器である。赤と緑の波長に対し、本発明のアプタマを用いた反応において、ABTSの還元による着色と、その着色に起因するエネルギー移動によるヘミンの吸収増感とがあり、赤と緑の光をそれぞれ吸収する。従って、赤と緑の光でモニターするのであれば、他の市販の血糖計を用いても、アプタマを用いた本発明のポリアミン検出方法における着色変化を追うことができると考えられる。ただし、緑の吸収帯はABTSの還元による着色の吸収端の波長域に該当するため、ABTSを用いる場合は、緑よりも短波長のLEDが好ましい。
【0128】
[実施例D4]
以下の実施例において、簡便で安定した過酸化水素の供給法を検討した。
配列GTGGGTGGGGCGGTTGGAT(配列番号15)を有するアプタマOligo347-9を合成し、PS2.Mアプタマをこのアプタマに変えた以外は実施例A1と同様に、アプタマ水溶液を調製した。また、ヘミン溶液、過酸化水素水溶液及びABTS水溶液を実施例D3と同様に用意した。へミン溶液、過酸化水素水溶液及びABTS水溶液各1μlをプレートリーダー用のウェル内で混合し、室温で乾固させた(乾固液C)。4日後、アプタマ水溶液47.5μlとスペルミジン水溶液2μlを混合し、前記乾固液Cに滴下、混合し、10秒間振とうしたが、無色のままであった。この無色の混合液をチップで吸い上げ、市販の0.5%過酸化水素除菌ウェットシート(HYPROX)上に滴下したところ、すぐに青く着色した。
以上の結果から、本発明によれば、経時保管可能なシート状の試薬部に検体を滴下して簡便に検査をすることが可能であり、また、本発明の方法において、過酸化水素供給源として、密封パックされた過酸化水素シートが使用可能であることが示された。
【0129】
[実施例D5]
実施例D1等のチップに用いるマトリックスの検討を実施した。
実施例D4において調製した溶液を用いた。ハイドロゲル(日産化学製アクアジョイント)ポリマーB(デンドリマー)に、へミン溶液、過酸化水素水溶液、ABTS水溶液を混合した後に、実施例D4において用いたアプタマ水溶液47.5μlとスペルミジン水溶液を2μl混合したところ、青色に着色した。一方、ポリマーBに代えてハイドロゲル(日産化学製アクアジョイント)ポリマーA(ケイ酸系)を用いて同様の操作を行ったと
ころ無色のままであった。以上のことから、ポリマーB(エチレングリコール両末端ゲル高分子)を本発明の方法において、マトリックスとして使用することができる。