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特開2022-76360形状記憶性高分子積層膜およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022076360
(43)【公開日】2022-05-19
(54)【発明の名称】形状記憶性高分子積層膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/08 20060101AFI20220512BHJP
   C08L 33/10 20060101ALI20220512BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20220512BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20220512BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
B32B27/08
C08L33/10
C08L33/14
B05D3/00 D
B32B27/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020186733
(22)【出願日】2020-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】手島 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】酒井 洸児
(72)【発明者】
【氏名】上野 祐子
(72)【発明者】
【氏名】樫村 吉晃
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼江 悠加
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
(72)【発明者】
【氏名】大崎 寿久
【テーマコード(参考)】
4D075
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4D075BB56Z
4D075BB60Z
4D075BB91X
4D075BB91Z
4D075CA03
4D075CA17
4D075CA38
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA06
4D075DB13
4D075DC30
4D075EA06
4D075EA07
4D075EB22
4D075EB24
4D075EB51
4D075EB53
4D075EB54
4D075EB56
4D075EC30
4D075EC51
4F100AG00
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AL01A
4F100AL01B
4F100BA02
4F100EH46
4F100EJ86
4F100GB66
4F100JA05A
4F100JA05B
4F100YY00A
4F100YY00B
4J002BG051
4J002BG072
4J002GF00
4J002GM00
4J002GT00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】積層膜の内部に複数の温度応答性の分布を有する形状記憶性高分子積層膜、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】異なる飽和蒸気圧を有する2種類の溶媒の混合溶媒に可溶な2種類のポリマの層からなり、一方のポリマの層6は形状記憶性第1のモノマーが含む側鎖を有する第1のポリマからなり、他方のポリマの層7は形状記憶性第2のモノマーが含む側鎖を有する第2のポリマからなり、両方のモノマーは2種類の溶媒のうち、一方の溶媒に可溶、第1のモノマーは他方の溶媒に可溶、第2のモノマーは他方の溶媒に不溶であり、第1と第2のモノマーからなる共重合体が混合溶液に可溶であり、2種類のポリマの層は、2種類の溶媒のうち、飽和蒸気圧の低い溶媒に可溶なモノマーの側鎖を有するポリマの層に、飽和蒸気圧の高い溶媒に可溶なモノマーの側鎖を有するポリマの層が積層されてなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる飽和蒸気圧を有する2種類の溶媒を混合した混合溶媒に可溶な2種類のポリマの層からなる形状記憶性高分子積層膜であって、
前記一方のポリマの層は、外部刺激に応答して形状記憶性を有する第1のモノマーが含む側鎖を有する第1のポリマからなり、前記他方のポリマの層は、外部刺激に応答して形状記憶性を有する第2のモノマーが含む側鎖を有する第2のポリマからなり、
前記第1のモノマーと前記第2のモノマーは前記2種類の溶媒のうち、一方の溶媒にいずれも可溶であり、
前記第1のモノマーは、前記混合溶媒を構成する2種類の溶媒のうち、他方の溶媒に可溶であり、前記第2のモノマーは、前記混合溶媒を構成する2種類の溶媒のうち、他方の溶媒に不溶であり、
前記第1のモノマーと前記第2のモノマーから構成される共重合体が前記混合溶液に可溶な共重合体であり、
前記2種類のポリマの層は、前記混合溶媒を構成する2種類の溶媒のうち、飽和蒸気圧の低い溶媒に可溶なモノマーの側鎖を有するポリマの層に、飽和蒸気圧の高い溶媒に可溶なモノマーの側鎖を有するポリマの層が積層されてなる形状記憶性高分子積層膜。
【請求項2】
前記2種類のポリマの層において、それらの厚み方向に前記モノマーの側鎖の官能基の差、ないし前記側鎖の官能基の勾配が形成された請求項1に記載の形状記憶性高分子積層膜。
【請求項3】
前記第1のモノマーと前記第2のモノマーが個々に異なるガラス転移点を有する請求項1または請求項2に記載の形状記憶性高分子積層膜。
【請求項4】
前記混合溶媒が水とエタノールの混合溶媒であり、前記第1のモノマーがメタクリル酸ブチルであり、前記第2のモノマーがヒドロキシエチルメタクリレートである請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の形状記憶性高分子積層膜。
【請求項5】
異なる飽和蒸気圧を有する2種類の溶媒を混合した混合溶媒を用いるとともに、
前記2種類の溶媒のうち、一方の溶媒に何れも可溶である第1のモノマーおよび第2のモノマーであって、前記混合溶媒を構成する2種類の溶媒のうち、他方の溶媒に可溶な第1のモノマーと、前記他方の溶媒に不溶な第2のモノマーから構成される共重合体であって、前記第1のモノマーと前記第2のモノマーがそれぞれ異なるガラス転移点を有し、それぞれ外部刺激に応答して形状記憶が可能な前記第1のモノマーと前記第2のモノマーを含む共重合体を用い、
前記共重合体が前記混合溶媒に溶解する性質を利用し、前記混合溶媒に前記共重合体を溶解して混合溶液を作製し、この混合溶液を基板上に塗布して混合溶液層を形成した後、前記混合溶液層を乾燥させ、飽和蒸気圧の異なる前記2種類の溶媒のうち、最初に蒸発する溶媒に可溶であって他の溶媒には不溶な前記第1のモノマーに含まれている側鎖を含む第1のポリマ層を前記基板上に形成後、乾燥作業を続行し、次に蒸発する溶媒に可溶であって他の溶媒には不溶な第2のモノマーに含まれている側鎖を含む第2のポリマ層を形成する形状記憶性高分子積層膜の製造方法。
【請求項6】
前記第1のポリマ層と前記第2のポリマ層を含む前記積層膜において、前記積層膜の厚み方向に堆積された前記ポリマ層にその厚み方向に前記側鎖の官能基の差、ないし前記側鎖の官能基の勾配を形成する請求項5に記載の形状記憶性高分子積層膜の製造方法。
【請求項7】
前記基板から前記積層膜を分離する請求項5または請求項6に記載の形状記憶性高分子積層膜の製造方法。
【請求項8】
前記混合溶媒が水とエタノールの混合溶媒であり、前記第1のモノマーがメタクリル酸ブチルであり、前記第2のモノマーがヒドロキシエチルメタクリレートである請求項5~請求項7のいずれか一項に記載の形状記憶性高分子積層膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形状記憶性高分子積層膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変形後に外部からの刺激を受けることで元の形状に回復する材料として、形状記憶材料の開発が盛んに行われている。特に形状記憶ポリマは、歯科材料剤やステント材料などの医療応用の観点から、生体毒性の低い合金やセラミックから成る既存の材料に代わる形状記憶材料として注目されている(非特許文献1参照)。
【0003】
さらに形状記憶ポリマは、合金やセラミックに比べて柔軟で安価、軽量、変形率が高いという複数のメリットを有する。現在形状記憶ポリマとして、ガラス転移温度を境に結晶性が変化する温度応答性ポリマの開発が進められ、結晶性高分子、ハイドロゲル、液晶性エラストマ、フォトクロミック高分子など様々な材料が報告されている(非特許文献2参照)。
【0004】
これらの材料を医療用デバイスとして組み込むためには、より微細な構造に加工する必要がある。例えば、同一の形状記憶ポリマ薄膜の内部に応答温度の異方性を形成できるようになると、外部の温度変化に対して複数種の変形などの応答が可能となり、より複雑なアクチュエータとしての機能の付与が可能になることが期待される。
ただし、溶媒に溶解された液性の高分子材料を、ナノマイクロメートル~マイクロメートルの微細な形状に加工することは、依然として技術的に困難であると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. Harper, G. Li,「A review of stimuli-responsive shape memory polymer composites」,Polymer, 2013, 54, 2199-2221.
【非特許文献2】W. Sokolowski, A. Metcalfe, S. Hayashi, L. Yahia, J. Raymond,「Medical applications of shape memory polymers」,Biomedical Materials, 2(2007), S23-S27.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
微細な構造を作製する手法の種類は、単純な回転塗布法による薄膜作製や、インクジェットによる吐出法、スタンプ法による高分子表面への微細構造の転写などに限られ、かつ、加工精度も低いという問題がある。特に、複数種類のポリマを段階的に単純に回転塗布しても、初めに硬化したポリマ薄膜の上に別のポリマを塗布する際、後続のポリマが溶解した溶媒に対し溶解性を示し、両者が混合してしまう問題がある。
そのため、形状記憶材料からなる薄膜-の積層構造の形成は難しく、同一の形状記憶材料からなるポリマ薄膜の内部に他の形状記憶材料を配置して応答温度の異方性を形成することは困難であると考えられる。
以上のような形状記憶ポリマの欠点を克服する方策として、サブミクロンスケールでの形状制御技術や正確な配置技術が求められている。
【0007】
本願発明は、上述の背景に鑑みなされたもので、積層膜の内部に複数の温度応答性の分布を有する形状記憶性高分子積層膜およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の形態は、異なる飽和蒸気圧を有する2種類の溶媒を混合した混合溶媒に可溶な2種類のポリマの層からなる形状記憶性高分子積層膜であって、前記一方のポリマの層は、外部刺激に応答して形状記憶性を有する第1のモノマーが含む側鎖を有する第1のポリマからなり、前記他方のポリマの層は、外部刺激に応答して形状記憶性を有する第2のモノマーが含む側鎖を有する第2のポリマからなり、前記第1のモノマーと前記第2のモノマーは前記2種類の溶媒のうち、一方の溶媒にいずれも可溶であり、前記第1のモノマーは、前記混合溶媒を構成する2種類の溶媒のうち、他方の溶媒に可溶であり、前記第2のモノマーは、前記混合溶媒を構成する2種類の溶媒のうち、他方の溶媒に不溶であり、前記第1のモノマーと前記第2のモノマーから構成される共重合体が前記混合溶液に可溶な共重合体であり、前記2種類のポリマの層は、前記混合溶媒を構成する2種類の溶媒のうち、飽和蒸気圧の低い溶媒に可溶なモノマーの側鎖を有するポリマの層に、飽和蒸気圧の高い溶媒に可溶なモノマーの側鎖を有するポリマの層が積層されてなる。
【0009】
本発明の他の形態は、異なる飽和蒸気圧を有する2種類の溶媒を混合した混合溶媒を用いるとともに、前記2種類の溶媒のうち、一方の溶媒に何れも可溶である第1のモノマーと第2のモノマーであって、前記混合溶媒を構成する2種類の溶媒のうち、他方の溶媒に可溶な第1のモノマーと、前記混合溶媒を構成する2種類の溶媒のうち、他方の溶媒に不溶な第2のモノマーから構成される共重合体であって、前記各モノマーがそれぞれ異なるガラス転移点を有し、それぞれ外部刺激に応答して形状記憶が可能な2種類の前記モノマーを含む共重合体を用い、前記共重合体が前記混合溶媒に溶解する性質を利用し、前記混合溶媒に前記共重合体を溶解して混合溶液を作製し、この混合溶液を基板上に塗布して混合溶液層を形成した後、前記混合溶液層を乾燥させ、飽和蒸気圧の異なる前記2種類の溶媒のうち、最初に蒸発する溶媒に可溶であって他の溶媒には不溶な第1のモノマーに含まれている側鎖を含む第1のポリマ層を前記基板上に形成後、乾燥作業を続行し、次に蒸発する溶媒に可溶であって他の溶媒には不溶な第2のモノマーに含まれている側鎖を含む第2のポリマ層を形成する形状記憶性高分子積層膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、積層膜の内部に複数の温度応答性の分布を有する形状記憶性高分子積層膜およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(a)は本発明に係る第1実施形態の形状記憶性高分子積層膜を示すもので、第1の高分子材料からなる層と第2の高分子材料からなる層の積層膜を示す断面図、図1(b)は本発明に係る第2実施形態の形状記憶性高分子積層膜を示すもので、繊維を敷き詰めた第1の高分子材料からなる層と繊維を敷き詰めた第2の高分子材料からなる層の積層膜を示す断面図である。
図2】本発明に係る形状記憶性高分子積層膜を製造する方法の一例について示すもので、図2(a)は基板上に混合溶液層を塗布した状態を示す説明図、図2(b)は基板上に混合溶液層を塗布し、部分的に乾燥させた状態を示す説明図、図2(c)は基板上に混合溶液層を塗布し、乾燥を進めた状態を示す説明図、図2(d)は基板上に混合溶液層を塗布した後、乾燥を終了させた状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1(a)は2種類の形状記憶性高分子薄膜層から構成される積層構造を有する本発明の第1実施形態に係る積層膜1の断面構造を示す。図1(a)に示す積層膜1は、第1の薄膜層2と第2の薄膜層3からなる。第1の薄膜層2と第2の薄膜層3は異なる温度応答性を持つが、2種類の高分子材料を重ね合わせた構造ではないため、各層が剥離することはない。
【0013】
図1(b)に示す断面構造を有する積層膜5は、本発明の第2実施形態に係る積層膜である。積層膜5は、第1の薄膜層6と第2の薄膜層7からなる。第1の薄膜層6は、一例として、薄膜層6の厚さの数分の一~数百分の一程度の外径を有する繊維体6aを密に敷き詰めた集合体構造からなる。第2の薄膜層7は、一例として、薄膜層7の厚さの数分の一~数百分の一程度の外径を有する繊維体7aを密に敷き詰めた集合体構造からなる。
【0014】
薄膜層2あるいは薄膜層6の厚みと幅をそれぞれHならびにWと定義することができる。また、薄膜層3あるいは薄膜層7の厚みと幅をそれぞれHならびにWと定義することができる。
薄膜層2あるいは薄膜層6の厚みHは特に限定されないが、50nm~3mmの範囲であることが望ましい。薄膜層3あるいは薄膜層7の厚みHは特に限定されないが、50nm~3mmの範囲であることが望ましい。
【0015】
薄膜層2あるいは薄膜層6の幅Wは、特に限定されないが、500nm~50mmの範囲であることが望ましい。薄膜層3あるいは薄膜層7の幅Wは、特に限定されないが、500nm~50mmの範囲であることが望ましい。
薄膜層2あるいは薄膜層6の形状はその種類に限定されないが、四角形を含む多角形、真円を含む楕円、網目構造、またそれらの組み合わせ等、が挙げられる。薄膜層3あるいは薄膜層7の形状はその種類に限定されないが、四角形を含む多角形、真円を含む楕円、網目構造、またそれらの組み合わせ等、が挙げられる。
【0016】
次に、図1(a)に示す構造と図1(b)に示す構造の両方において、後に詳述するように強固な基板表面で各薄膜層を作製することで、平坦な薄膜層2、3あるいは平坦な薄膜層6、7が得られる。さらに、基板と薄膜層2の間に犠牲層を挿入することで、薄膜層2、3あるいは薄膜層6、7の形成後に犠牲層を除去し、基板からの遊離を容易にすることが可能となる。
【0017】
図1(a)に示す積層膜1および図1(b)に示す積層膜5は、一例として、異なる飽和蒸気圧を有する2種類の溶媒を混合した混合溶媒に可溶な2種類のポリマからなる層の積層物からなる形状記憶性高分子積層膜である。
前記2種類以上のポリマは、個々に外部刺激に応答して形状記憶性を有するモノマーの重合物であり、前記2種類のモノマーのうち一方は、前記混合溶媒を構成する2種類の溶媒のうち、1つの溶媒に可溶であり、他の溶媒には不溶なモノマーであり、他方のモノマーは、2種類の溶媒のうち、1つの溶媒に不溶であり、他の溶媒には可溶なモノマーである。
【0018】
前記2種類のポリマの層の積層物は、混合溶媒を構成する2種類の溶媒のうち、飽和蒸気圧の低い溶媒に可溶なポリマの層に対し、飽和蒸気圧の高い溶媒に可溶なポリマの層が積層されている形状記憶性高分子積層膜である。
【0019】
以下に積層膜の製造方法に関連付けて積層膜の詳細構造についてより詳しく説明する。
図2に、複数種類の高分子材料を溶解するための溶媒として、異なる飽和蒸気圧を有する2種類の溶媒を混合したものを用いる第一の製造方法の手順を示す。
異なるガラス転移点(T)を有するモノマーとして、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とメタクリル酸ブチル(BMA)を用いることができる。HEMAは、Tが15~25℃、一方BMAはTが60~80℃の範囲にあるため、それぞれは異なる温度での温度応答性を示す。
【0020】
これら2種類のモノマー(BMAとHEMA)を例えばモル比で30:70、50:50、70:30のいずれかの割合で共重合したポリマーを用いることができる。
BMA(第1のモノマー)とHEMA(第2のモノマー)はともにエタノール溶媒には可溶である一方、HEMAは水に可溶であり、BMAは水に不溶である。そして、HEMAとBMAの共重合体が水とエタノールの混合溶媒に可溶であることに着目する。HEMAとBMAの共重合体を水とエタノールの混合溶媒に溶解した液体(混合溶液)を図2(a)に示すように基板10上に塗布法により塗布し、混合溶液層11として製膜する。
【0021】
このとき、基板10の種類は限定されないが、ガラス基板やシリコン基板などの表面粗さの少ない基板が望ましい。製膜された混合溶液層11を風乾などの乾燥方法により乾燥することにより、混合溶液層11の内のエタノールは水よりも飽和蒸気圧が低いので先に蒸発し始める。これにより、混合溶液層11において、エタノールの濃度が減少するとともに徐々にBMA(第1のモノマー)の側鎖が結晶化して白濁した固形の薄膜層が基板10上に形成される。
BMAは水に不溶であるので、エタノールが蒸発するにつれて混合溶液層11中の水の割合が増えることでBMAの側鎖が徐々に結晶化し、薄膜層12が形成される。この薄膜層12はBMA由来のブチル基が多い図2(b)に示す第1の薄膜層12となる。薄膜層12の生成に伴い混合溶液層11中のエタノール領域13の蒸発が徐々に進行する。
【0022】
その後、エタノールが蒸発し切った後に残存する溶媒としての水の蒸発が進行することで、水に溶解していたHEMA(第2のモノマー)の側鎖が結晶化して固形の薄膜層が析出する。この薄膜層はHEMA由来のヒドロキシエチル基が多い第2の薄膜層15となる。第2の薄膜層15の生成に伴い混合溶液層11中の水領域16の蒸発が進行する。水の蒸発が完全になされると、基板10上に第1の薄膜層12と第2の薄膜層15が積層した積層膜17が得られる。
いずれにしても、薄膜層12、15の高さ方向に対して各々BMAが多い層とHEMAが多い層の配向が可能となり、それぞれのモル比を変えることでサブミクロンスケールでの薄膜層12、15の厚みの制御が可能となる。
BMAとHEMAのモル比が30:70の場合、あるいは、70:30の場合は生成する薄膜は90℃の温水中で自由に伸縮し、その後25℃に急冷することで形状記憶性が発揮される。しかし、急冷後の材質は多少脆く、部分的に破断したり、割れ易い試料が一部見られるようになる。
【0023】
一方、BMAとHEMAのモル比が50:50の時は、同じく薄膜は90℃の温水中で自由に伸縮し、その後25℃に急冷することで形状記憶性が発揮される。この場合に生成する積層膜17は構造的に安定であり、繰り返し90℃の温水と25℃の冷水中で形状変化と形状記憶のサイクルを行うことが可能となる。従ってこれらの積層層17は、形状記憶性を有する高分子積層膜であり、耐久性に優れた高分子積層膜である。
このため、水とエタノールの混合溶媒を用い、第1と第2のモノマーとしてBMAとHEMAを選択してこれらを混合溶媒に溶解し、混合溶液層とした場合、この混合溶液層の塗膜を形成し、乾燥させることで、2層構造の積層膜を得ることができる。その場合、BMA(第1のモノマー)が多い薄膜層(第1のポリマ層)とHEMA(第2のモノマー)が多い薄膜層(第2のポリマ層)との積層膜であって、異なる温度に応じて個々に異なる形状規則性を発揮する積層膜17を得ることができる。
【0024】
本発明に係る形状記憶性高分子積層膜の製造方法として、pHに応答して水への溶解度が変化する2-ジメチルアミノエチルメタクリル酸(DMAEMA)とメタクリル酸ブチル(BMA)を共重合体として用いる方法を示す。
DMAEMAの側鎖はpHに応じて親疎水性が変化する。DMAEMAとBMAの共重合体を用いてDMAEMAの溶解が見られるpHの水溶液とエタノールの混合溶媒を用いて塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させることで2つの薄膜層を積層した形状記憶性積層膜を形成することができる。
これにより作製された形状記憶性高分子積層膜はpH3.0程度と低いpH環境では広がり、pH10.0程度と高いpH環境では縮む様子が得られる。従って形状記憶性を有する高分子積層膜を得ることができる。
【0025】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、本発明の具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【実施例0026】
「実施例1」
異なるガラス転移点(T)を有する試料として、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)とメタクリル酸ブチル(BMA)を用いた。
BMAとHEMAをモル比で30:70、50:50、70:30の割合で共重合したポリマをそれぞれ準備した。BMAとHEMAはともにエタノール溶媒には可溶である一方、HEMAは水に可溶であり、BMAは水に不溶である。
水とエタノールの混合溶媒に上述の共重合割合とした各共重合体を溶解して混合溶液を作製した。この混合溶液をガラス基板上に塗布して製膜し、混合溶液層を形成した。
18mm角のガラス基板に100μL~300μL程度の溶液を添加することで成膜を試みた。
水:エタノール=1:10の混合溶媒に合成したポリマーを3質量%溶液となるように溶解した。上記のように溶液を添加し、室温で乾燥させた。
【0027】
次に、この混合溶液層を風乾し、混合溶液層内のエタノールを先に蒸発させた。風乾作業は室温で静置する条件下で行った。また、乾燥速度を早めるために、真空デシケータ内に保管したり、ドライヤなどで空気の循環を良くすることも可能である。
エタノールが蒸発し、混合溶液層内のエタノール濃度が減少するともに徐々にBMAの側鎖が結晶化して白濁した固形の薄膜層(第1のポリマ層)が基板上に生成された。
その後、エタノールが蒸発した後に、残存する溶媒としての水が蒸発を開始する。水の蒸発に伴い、HEMAの側鎖が結晶化し、固形の薄膜層(第2のポリマ層)が第1のポリマの層の上に析出した。
BMAとHEMAをモル比で30:70とした場合に用いた混合溶液層から、18mm角のガラス基板に100μL~300μL程度の溶液を添加することで成膜を試みた場合、厚さ10~50μmの第1の薄膜層と厚さ50~90μmの第2の薄膜層を得ることができた。
BMAとHEMAをモル比で50:50とした場合に用いた混合溶液層から、厚さ30~70μmの第1の薄膜層と厚さ30~70μmの第2の薄膜層を得ることができた。
BMAとHEMAをモル比で70:30とした場合に用いた混合溶液層から、厚さ50~90μmの第1の薄膜層と厚さ10~50μmの第2の薄膜層を得ることができた。
【0028】
これらの薄膜層を得ることができたので、薄膜層の高さ方向に対してBMAが多い層とHEMAが多い層の配向が可能となった。
また、上述のモル比を変えることでサブミクロンスケールで各薄膜層の厚みの制御が可能であった。BMAとHEMAのモル比が30:70あるいは70:30の共重合体の場合、薄膜層は90℃の温水中で自由に伸縮し、その後25℃に急冷することで形状記憶性が発揮された。しかし、急冷後の薄膜層が脆く、部分的に破断したり、クラックを生じる現象が一部の試料に見られた。
【0029】
一方、BMAとHEMAのモル比が50%の共重合体の場合、同じく薄膜層は90℃の温水中で自由に伸縮し、その後25℃に急冷することで形状記憶性が発揮された。この試料は、構造的にも安定であり、10回~15回程度、90℃の温水と25℃の冷水中で形状変化と形状記憶のサイクルを行うことが可能となった。
BMAとHEMAのモル比30:70、70:30の試料は、形状は安定しているものの、外力を加えた際に脆く、崩れやすいため耐久性が低いと鑑みると、BMAとHEMAの共重合体を用いる場合、モル比でBMA:HEMA=40:60~60:40の範囲が望ましいと考えられる。
【符号の説明】
【0030】
1…積層膜、2…第1の薄膜層、3…第2の薄膜層、5…積層膜、6…第1の薄膜層(第1のポリマの層)、7…第2の薄膜層(第2のポリマの層)、10…基板、11…混合溶液層、12…第1の薄膜層(第1のポリマの層)、15…第2の薄膜層(第2のポリマの層)、17…積層膜。
図1
図2