(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022080772
(43)【公開日】2022-05-30
(54)【発明の名称】チオエステル誘導体及びその製造方法、並びに、ケトン誘導体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 327/22 20060101AFI20220523BHJP
C07C 67/28 20060101ALI20220523BHJP
C07C 69/157 20060101ALI20220523BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220523BHJP
A61K 33/42 20060101ALN20220523BHJP
A61P 31/14 20060101ALN20220523BHJP
【FI】
C07C327/22 CSP
C07C67/28
C07C69/157
C07B61/00 300
A61K33/42
A61P31/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020192041
(22)【出願日】2020-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】関 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】真島 和志
(72)【発明者】
【氏名】劒 隼人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】タルデ ジャリンダ バウサヘブ
【テーマコード(参考)】
4C086
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4C086AA04
4C086DA36
4C086MA70
4C086NA01
4C086ZB33
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB29
4H006AB84
4H006AC44
4H006BJ50
4H006BP10
4H006BR30
4H006BS10
4H006KA30
4H006KC12
4H006KD10
4H039CA62
4H039CL25
(57)【要約】
【課題】新たな化合物であるチオエステル誘導体及びケトン誘導体を提供すること、並びに、これらの化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】
一実施形態によると、下記式(II)で表されるチオエステル誘導体が提供される。
式(II)において、R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ、水酸基保護基を表す。R
4は、置換基を有していてもよい炭素数1以上20以下のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のアリール基、又は置換基を有していてもよい炭素数5以上20以下のアリールアルキル基を表す。Q
1は、水素原子又は水酸基保護基を表す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(II):
【化1】
[式中、
R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立して、水酸基保護基を表し、
R
4は、置換基を有していてもよい炭素数1以上20以下のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のアリール基、又は置換基を有していてもよい炭素数5以上20以下のアリールアルキル基を表し、
Q
1は、水素原子又は水酸基保護基を表す。]
で表されるチオエステル誘導体。
【請求項2】
下記式(I):
【化2】
[式中、
R
1、R
2、及びR
3は、それぞれ独立して、水酸基保護基を表す。]
で表されるラクトン誘導体(I)と、
下記式(1):
R
4-SH (1)
[式中、R
4は、置換基を有していてもよい炭素数1以上20以下のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のアリール基、又は置換基を有していてもよい炭素数5以上20以下のアリールアルキル基を表す。]
で表されるチオール誘導体(1)とを、
トリアルキルアルミニウム存在下で接触させることにより、下記式(II-i):
【化3】
[式中、
R
1、R
2、及びR
3は、式(I)のものと同義であり、
R
4は、式(1)のものと同義である。]
で表される水酸基含有化合物(II-i)を得ることと、
前記水酸基含有化合物(II-i)の水酸基を保護して、下記式(II-ii):
【化4】
[式中、
R
1、R
2、及びR
3は、式(I)のものと同義であり、
R
4は、式(1)のものと同義であり、
R
5は、水酸基保護基である。]
で表されるチオエステル誘導体(II-ii)を得ることを含む、チオエステル誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記ラクトン誘導体(I)と前記チオール誘導体(1)とを前記トリアルキルアルミニウム存在下で接触させて得られる混合物に、ブレンステッド酸を加えることを含み、
前記ブレンステッド酸の量を、1モルの前記ラクトン誘導体(I)に対して3モル以上30モル以下とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
下記式(IV):
【化5】
[式中、
R
1、R
2、R
3、及びR
5は、それぞれ独立して、水酸基保護基を表し、
Arは、置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3以上20以下のヘテロアリール基、置換基を有していてもよい炭素数5以上20以下のアリールアルキル基、又は、置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のヘテロアリールアルキル基を表す。]
で表されるケトン誘導体。
【請求項5】
請求項4に記載のケトン誘導体の製造方法であって、
下記式(II-ii):
【化6】
[式中、
R
1、R
2、R
3、及びR
5は、式(IV)のものと同義であり、
R
4は、置換基を有していてもよい炭素数1以上20以下のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のアリール基、又は置換基を有していてもよい炭素数5以上20以下のアリールアルキル基を表す。]
で表されるチオエステル誘導体(II-ii)と、
下記式(III-I):
【化7】
[式中、Arは、前記と同義であり、Xは、ハロゲン原子を表す。]
で表される化合物(III-I)、及び、
下記式(III-II):
【化8】
[式中、Arは、前記と同義である。]
で表される化合物(III-II)
からなる群から選択される少なくとも1種の有機亜鉛化合物とを、
ニッケル触媒及びパラジウム触媒から選択される1種以上の遷移金属触媒の存在下で反応させて、前記ケトン誘導体を得ることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオエステル誘導体及びその製造方法、並びに、ケトン誘導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記式(VI’)に表されるレムデシビル(Remdesivir)は、抗ウイルス薬として使用可能な化合物である。レムデシビルは、例えば、RSウイルス、コロナウイルス等の一本鎖RNAウイルスに対して抗ウイルス活性を示す。
【0003】
【0004】
特許文献1には、レムデシビル及びその中間体の製造方法が開示されている。特許文献1には、クロロトリメチルシラン(TMSCl)及びn-ブチルリチウム存在下、下記式(I’)で表されるラクトンと、下記式(Ar’)で表されるブロモピラゾールとを、-78℃で反応させることにより、下記式(V’)で表されるヒドロキシヌクレオシドが得られることが記載されている。このヒドロキシヌクレオシドは、レムデシビル合成のための中間体として使用できる。
【0005】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2012/012776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、新たな化合物であるチオエステル誘導体及びケトン誘導体を提供すること、並びに、これらの化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態によると、下記式(II)で表されるチオエステル誘導体が提供される。
【0009】
【0010】
式(II)において、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、水酸基保護基を表す。R4は、置換基を有していてもよい炭素数1以上20以下のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のアリール基、又は置換基を有していてもよい炭素数5以上20以下のアリールアルキル基を表す。Q1は、水素原子又は水酸基保護基を表す。
【0011】
他の実施形態によると、チオエステル誘導体の製造方法が提供される。この製造方法は、下記式(I):
【化4】
で表されるラクトン誘導体(I)と、下記式(1):
R
4-SH (1)
で表されるチオール(1)とを、トリアルキルアルミニウム存在下で接触させることにより、下記式(II-i):
【化5】
で表される水酸基含有化合物(II-i)を得ることと、水酸基含有化合物(II-i)の水酸基を保護して、下記式(II-ii):
【化6】
で表されるチオエステル誘導体(II-ii)を得ることとを含む。
【0012】
式(I)において、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、水酸基保護基を表す。
【0013】
式(1)において、R4は、置換基を有していてもよい炭素数1以上20以下のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のアリール基、又は置換基を有していてもよい炭素数5以上20以下のアリールアルキル基を表す。
【0014】
式(II-i)において、R1、R2、及びR3は、式(I)のものと同義である。R4は、式(1)のものと同義である。
【0015】
式(II-ii)において、R1、R2、及びR3は、式(I)のものと同義である。R4は、式(1)のものと同義である。R5は、水酸基保護基である。
【0016】
他の実施形態によると、下記式(IV)で表されるケトン誘導体が提供される。
【0017】
【0018】
式(IV)において、R1、R2、R3、及びR5は、それぞれ独立して、水酸基保護基を表す。Arは、置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3以上20以下のヘテロアリール基、置換基を有していてもよい炭素数5以上20以下のアリールアルキル基、又は、置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のヘテロアリールアルキル基を表す。
【0019】
他の実施形態によると、上記式(IV)で表されるケトン誘導体の製造方法が提供される。この製造方法は、下記式(II-ii):
【化8】
で表されるチオエステル誘導体(II-ii)と、下記式(III-I):
【化9】
で表される化合物(III-I)、及び、下記式(III-II):
【化10】
で表される化合物(III-II)からなる群から選択される少なくとも1種の有機亜鉛化合物とを、ニッケル触媒及びパラジウム触媒から選択される1種以上の遷移金属触媒の存在下で接触させて、ケトン誘導体を得ることを含む。
【0020】
式(II-ii)において、R1、R2、R3、及びR5は、式(IV)のものと同義である。R4は、置換基を有していてもよい炭素数1以上20以下のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のアリール基、又は置換基を有していてもよい炭素数5以上20以下のアリールアルキル基を表す。
【0021】
式(III-I)において、Arは、前記と同義である。Xは、ハロゲン原子を表す。
【0022】
式(III-II)において、Arは、前記と同義である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、新たな化合物であるチオエステル誘導体及びケトン誘導体、並びに、これらの化合物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者らは、鋭意研究した結果、レムデシビル合成のための中間体として使用可能な上記式(V’)で表される化合物を合成し得る、新たな経路を見出した。本発明は、この知見に基づくものである。
【0025】
すなわち、先ず、上記式(IV)に表されるケトン誘導体(以下、単にケトン誘導体とも称する)について、OR5のR5を除去し生じたヒドロキシル基がカルボキニル基へ付加して環化することにより、下記式(V)に表されるヘミアセタール誘導体が得られる。このヘミアセタール誘導体は、上記式(V’)で表される化合物を含む。
【0026】
【0027】
式(V)において、R1、R2、R3及びArは、式(IV)のものと同義である。
【0028】
式(IV)に表されるケトン誘導体は、例えば、ニッケル触媒及びパラジウム触媒から選択される1種以上の遷移金属触媒の存在下、上記式(II-ii)で表されるチオエステル誘導体と、上記式(III-I)で表される化合物、及び、上記式(III-II)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1種の有機亜鉛化合物とを接触させることにより得られる。この方法によると、例えば、0℃以上80℃以下の常温付近でケトン誘導体を得られるため、効率的にケトン誘導体を製造できる。また、この製造方法によると、-40℃以下の低温環境、あるいは、100℃を超える高温環境を実現する設備が不要であるため、低コストでケトン誘導体を製造できる。
【0029】
以下、式(II-ii)で表されるチオエステル誘導体を、単にチオエステル誘導体、あるいは、チオエステル誘導体(II-ii)とも称する。また、上記式(III-I)で表される化合物、及び、上記式(III-II)で表される化合物を、それぞれ、化合物(III-I)及び化合物(III-II)とも称する。
【0030】
このケトン誘導体の基質となるチオエステル誘導体は、例えば、上記式(I)で表されるラクトン誘導体と、上記式(1)で表されるチオールとを、トリアルキルアルミニウム存在下で接触させた後、得られた中間体である式(II-i)に示す化合物の水酸基を保護することにより得られる。このラクトン誘導体は、上記式(I’)で表される化合物を含む。すなわち、一実施形態に係る方法によると、ラクトン誘導体から、レムデシビル合成のための中間体として使用可能なケトン誘導体を得るための新たな合成経路が提供され得る。
【0031】
以下、上記式(I)で表されるラクトン誘導体を、ラクトン誘導体(I)とも称する。上記式(1)で表されるチオールを、単にチオール、あるいは、チオール(1)とも称する。式(II-i)に示す水酸基含有化合物を、水酸基含有化合物(II-i)とも称する。
【0032】
以下、本発明の実施形態の詳細について説明する。
【0033】
(チオエステル誘導体)
チオエステル誘導体は、下記式(II)で表される。このチオエステル誘導体(II)は、原薬合成のための中間体として使用し得る。
【0034】
【0035】
式(II)において、R1、R2、及びR3は、それぞれ独立して、水酸基保護基を表す。水酸基保護基としては、例えば、エステル型保護基、アリールアルキル型保護基、アルキル型保護基、アリールアルキルオキシアルキル型保護基、アルキルオキシアルキル型保護基、シリル型保護基、オキシカルボニル型保護基等が挙げられる。
【0036】
エステル型保護基としては、例えば、1個以上の置換基を有していてもよい炭素数1以上10以下のアルキルカルボニル基、1個以上の置換基を有していてもよい炭素数6以上10以下のアリールカルボニル基等が挙げられる。置換基は、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、炭素数1以上10以下、好ましくは炭素数1以上8以下、より好ましくは炭素数1以上6以下、より一層好ましくは炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上10以下、好ましくは炭素数1以上8以下、より好ましくは炭素数1以上6以下、より一層好ましくは炭素数1以上4以下のアルキルオキシ基、炭素数2以上11以下、好ましくは炭素数2以上9以下、より好ましくは炭素数2以上7以下、より一層好ましくは炭素数2以上5以下のアルキルオキシカルボニル基等から選択することができる。1個以上の置換基を有していてもよいアルキルカルボニル基としては、例えば、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、イソプロパノイル基、ピバロイル基等が挙げられる。1個以上の置換基を有していてもよいアリールカルボニル基としては、例えば、ベンゾイル基、4-ニトロベンゾイル基、4-メチルオキシベンゾイル基、4-メチルベンゾイル基、4-tert-ブチルベンゾイル基、4-フルオロベンゾイル基、4-クロロベンゾイル基、4-ブロモベンゾイル基、4-フェニルベンゾイル基、4-メチルオキシカルボニルベンゾイル基等が挙げられる。エステル型保護基は、好ましくは、炭素数1以上10以下のアルキルカルボニル基、より好ましくは、炭素数1以上5以下のアルキルカルボニル基、より一層好ましくは、アセチル基又はピバロイル基である。
【0037】
アリールアルキル型保護基としては、例えば、1個以上の置換基を有していてもよい炭素数7以上11以下のアリールアルキル基等が挙げられる。置換基の具体例は、エステル型保護基と同様である。1個以上の置換基を有していてもよい炭素数7以上11以下のアリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、1-フェニルエチル基、ジフェニルメチル基、1,1-ジフェニルエチル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0038】
アルキル型保護基としては、例えば、1個以上の置換基を有していてもよい炭素数1以上10以下のアルキル基等が挙げられる。置換基の具体例は、エステル型保護基と同様である。アルキル型保護基は、好ましくは、1個以上の置換基で置換されていてもよい炭素数1以上5以下のアルキル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基、tert-ブチル基等である。
【0039】
アリールアルキルオキシアルキル型保護基としては、例えば、1個以上の置換基を有していてもよい炭素数7以上11以下のアリールアルキルオキシメチル基、1個以上の置換基を有していてもよい炭素数7以上11以下のアリールアルキルオキシエチル基、1個以上の置換基を有していてもよい炭素数7以上11以下のアリールアルキルオキシプロピル基等のアリールアルキルオキシアルキル基が挙げられる。置換基の具体例は、エステル型保護基と同様である。アリールアルキルオキシアルキル型保護基は、例えば、1個以上の置換基を有していてもよいベンジルオキシメチル基、好ましくは、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチル基又はメチルオキシ基で置換されていてもよいベンジルオキシメチル基、より好ましくはベンジルオキシメチル基である。
【0040】
アルキルオキシアルキル型保護基としては、例えば、1個以上の置換基を有していてもよい炭素数1以上10以下のアルキルオキシメチル基、1個以上の置換基を有していてもよい炭素数1以上10以下のアルキルオキシエチル基、1個以上の置換基を有していてもよい炭素数1以上10以下のアルキルオキシプロピル基等のアルキルオキシアルキル基が挙げられる。置換基の具体例は、エステル型保護基と同様である。アルキルオキシアルキル型保護基は、好ましくは、1個以上の置換基を有していてもよい炭素数1以上10以下のアルキルオキシメチル基、より好ましくは、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、メチルオキシ基又はエチルオキシ基を有していてもよい炭素数1以上5以下のアルキルオキシメチル基、より一層好ましくは、メチルオキシメチル基である。
【0041】
シリル型保護基としては、例えば、1個以上の置換基を有していてもよい炭素数1以上10以下のアルキル基、1個以上の置換基を有していてもよい炭素数7以上10以下のアリールアルキル基及び1個以上の置換基を有していてもよい炭素数6以上10以下のアリール基から選択される官能基を有するシリル基が挙げられる。置換基の具体例は、エステル型保護基と同様である。シリル型保護基は、好ましくは、炭素数1以上10以下のアルキル基及び炭素数6以上10以下のアリール基から選択される官能基を有するシリル基、より好ましくは、炭素数1以上5以下のアルキル基及びフェニル基から選択される官能基を有するシリル基、より一層好ましくは、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基又はtert-ブチルジフェニルシリル基である。
【0042】
オキシカルボニル型保護基としては、例えば、1個以上の置換基を有していてもよい炭素数1以上10以下のアルキルオキシカルボニル基、1個以上の置換基を有していてもよい炭素数2以上10以下のアルケニルオキシカルボニル基、1個以上の置換基を有していてもよい炭素数7以上11以下のアリールアルキルオキシカルボニル基等が挙げられる。置換基の具体例は、エステル型保護基と同様である。オキシカルボニル型保護基は、好ましくは、炭素数1以上5以下のアルキルオキシカルボニル基、炭素数2以上5以下のアルケニルオキシカルボニル基又はベンジルオキシカルボニル基、より好ましくは、メチルオキシメチル基、アリルオキシカルボニル基又はベンジルオキシカルボニル基である。
【0043】
R4は、置換基を有していてもよい炭素数1以上20以下のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のアリール基、又は置換基を有していてもよい炭素数5以上20以下のアリールアルキル基を表す。アルキル基、アリール基、又はアリールアルキル基が有していてもよい置換基としては、例えば、炭素数1以上20以下、好ましくは炭素数1以上10以下、より好ましくは炭素数1以上8以下、より一層好ましくは炭素数1以上6以下、より一層好ましくは炭素数1以上4以下のアルキル基、炭素数1以上20以下、好ましくは炭素数1以上10以下、より好ましくは炭素数1以上8以下、より一層好ましくは炭素数1以上6以下、より一層好ましくは炭素数1以上4以下のアルコキシ基、及びハロゲノ基が挙げられる。アルキル基、アリール基、又はアリールアルキル基が有する置換基の数は、1つでもよく、2つ以上でもよい。また、アルキル基、アリール基、又はアリールアルキル基が有する置換基は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0044】
置換基を有していてもよい炭素数1以上20以下のアルキル基は、好ましくは置換基を有していてもよい炭素数1以上18以下のアルキル基、より好ましくは置換基を有していてもよい炭素数1以上16以下のアルキル基、より一層好ましくは置換基を有していてもよい炭素数1以上14以下のアルキル基である。
【0045】
置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のアリール基は、単環式又は多環式である。アリール基における環構成炭素原子の数は、例えば、5~18個、好ましくは5~14個、より好ましくは6~10個である。単環式のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0046】
置換基を有していてもよい炭素数5以上20以下のアリールアルキル基の炭素数は、例えば、7~15個、好ましくは7~11個である。アリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、及び2-フェネチル基が挙げられる。
【0047】
Q1は、水素原子又は水酸基保護基を表す。Q1が水素原子である場合、このチオエステル誘導体は(II)は、下記式(II-i)で表される水酸基含有化合物であり得る。
【0048】
【0049】
式(II-i)において、R1、R2、R3、及びR4は、式(II)のものと同義である。
【0050】
Q1が水酸基保護基である場合、このチオエステル誘導体(II)は、下記式(II-ii)で表されるチオエステル誘導体であり得る。
【0051】
【0052】
式(II-i)において、R1、R2、R3、及びR4は、式(II)のものと同義である。R5は、水酸基保護基を表す。水酸基保護基としては、R1、R2、及びR3と同様のものを用い得る。
【0053】
式(II)、(II-i)及び(II-ii)において、R1、R2、及びR3は、同一の水酸基保護基であることが好ましい。R1、R2、及びR3は、ベンジル基等のアリールアルキル基であることが好ましい。R5は、R1、R2、及びR3とは異なる種類の水酸基保護基であることが好ましい。式(II-ii)において、R5は、アセチル基等のアシル基であることが好ましい。R4は、アルキル基であることが好ましく、炭素数が8以上14以下のアルキル基であることがより好ましい。
【0054】
(チオエステル誘導体の製造方法)
チオエステル誘導体(II)は、例えば、以下の方法で得られる。下記式(I):
【化15】
で表されるラクトン誘導体(I)と、下記式(1):
R
4-SH (1)
で表されるチオール誘導体(1)とを、トリアルキルアルミニウム存在下で接触させることにより、上記式(II-i)で表される水酸基含有化合物(II-i)を得ることができる。また、この水酸基含有化合物(II-i)の水酸基を保護することにより、上記式(II-ii)で表されるチオエステル誘導体(II-ii)を得ることができる。
【0055】
式(I)において、R1、R2、及びR3は、式(II)におけるものと同義である。ラクトン誘導体(I)としては、市販のものを用いてもよく、公知の方法で合成したものを用いてもよい。
【0056】
式(1)において、R4は、式(II)におけるものと同義である。チオール(1)としては、市販のものを用いてもよく、公知の方法で合成したものを用いてもよい。チオールは、1-デカンチオール及び1-ドデカンチオールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0057】
チオール(1)の量は、例えば、1モルのラクトン誘導体(I)に対して0.5モル以上10モル以下であり、好ましくは、1モル以上5モル以下であり、より好ましくは、1モル以上2モル以下である。チオール(1)の物質量は、ラクトン誘導体(I)の物質量より多いことが好ましい。
【0058】
トリアルキルアルミニウムは、反応剤の役割を果たす。トリアルキルアルミニウムは、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、及びトリプロプルアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、トリメチルアルミニウムを含むことがより好ましい。
【0059】
トリアルキルアルミニウムの量は、例えば、1モルのラクトン誘導体(I)に対して1モル以上10モル以下であり、好ましくは、1モル以上5モル以下であり、より好ましくは、1モル以上3モル以下である。トリアルキルアルミニウムの物質量は、ラクトン誘導体(I)の物質量より多いことが好ましい。
【0060】
トリアルキルアルミニウムの量は、例えば、1モルのチオール(1)に対して1モル以上2モル以下であり、好ましくは、1モル以上1.5モル以下であり、より好ましくは、1モル以上1.1モル以下である。
【0061】
トリアルキルアルミニウム存在下でのラクトン誘導体(I)とチオール(1)との接触において、接触温度は、例えば、-30℃以上80℃以下とし、好ましくは、-10℃以上40℃以下とし、より好ましくは、-10℃以上10℃以下とする。接触時間は、例えば、30分以上120時間以下とし、好ましくは、1時間以上100時間以下とし、より好ましくは、30時間以上90時間以下とする。ラクトン誘導体(I)とチオール(1)とは、接触時間の間、上記の接触温度に保たれた状態で攪拌されることが好ましい。この反応は、アルゴン等の不活性雰囲気下で行われることが好ましい。
【0062】
ラクトン誘導体(I)とチオール(1)との接触は、第1反応溶媒存在下で行われることが好ましい。第1反応溶媒を用いる場合、以下の方法でラクトン誘導体(I)とチオール(1)とを接触させることが好ましい。先ず、ラクトン誘導体(I)、チオール(1)、及びトリアルキルアルミニウムを第1反応溶媒とそれぞれ混合して、ラクトン誘導体溶液、チオール溶液、及びトリアルキルアルミニウム溶液を調製する。次に、チオール溶液にトリアルキルアルミニウム溶液を、例えば、1分当たり0.1mL以上10mL以下の速度で加え、1分以上1時間以下にわたって攪拌する。攪拌後の混合液に、ラクトン誘導体溶液を1分当たり0.1mL以上10mL以下の速度で加え、20分以上3時間以下にわたって攪拌する。
【0063】
ラクトン誘導体溶液において、1gのラクトン誘導体(I)に対する第1反応溶媒の量は、1mL以上10mL以下であることが好ましい。チオール溶液において、1gのチオール(1)に対する第1反応溶媒の量は、1mL以上15mL以下であることが好ましい。トリアルキルアルミニウム溶液の濃度は、0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましい。
【0064】
第1反応溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチル-テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメチルオキシエタン、ジグライム、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、及びヘプタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。第1反応溶媒としては、好ましくは塩化メチレン、トルエン、ヘキサン又はそれらの混合溶媒、より好ましくは塩化メチレンを用いる。
【0065】
ラクトン誘導体(I)とチオール(1)との反応により得られた水酸基含有化合物(II-i)は、以下の方法で単離されることが好ましい。
【0066】
先ず、反応液に氷冷水等のクエンチ液を加えて、反応を停止させる。次に、クエンチ液添加後の反応液に、ブレンステッド酸を加えることが好ましい。これにより、水酸基含有化合物(II-i)が、環化してラクトン誘導体(I)の構造へと変化することを抑制できる。すなわち、5員環構造を有するラクトン誘導体(I)を基質として得られる水酸基含有化合物(II-i)は、6員環以上の環員数を有するラクトン誘導体を基質として得られる水酸基含有化合物と比較して、基質の構造へと変化し易いことを、本発明者らは見出している。このような問題に対して、反応液のpHを酸性にすることにより、水酸基含有化合物(II-i)の環化を抑制し、その収率が高められるという知見を得た。
【0067】
ブレンステッド酸の量は、1モルのラクトン誘導体(I)に対して、3モル以上であることが好ましく、5モル以上であることがより好ましい。ブレンステッド酸の量に上限値は特にないが、一例によると、30モル以下である。
【0068】
ブレンステッド酸としては、例えば、ハロゲン化水素、硫酸(H2SO4)、炭酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、及びリン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。ハロゲン化水素としては、例えば、フッ化水素(HF)、塩化水素(HCl)、臭化水素(HBr)、又はヨウ化水素(HI)を用いる。ブレンステッド酸は、塩化水素、臭化水素、及び硫酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。ブレンステッド酸を水に溶解させた酸性溶液を用いてもよい。
【0069】
ブレンステッド酸として1N塩酸を用いる場合、その量は、1gのラクトン誘導体(I)に対して、10mL以上30mL以下であることが好ましい。
【0070】
次に、ブレンステッド酸を加えた反応液を攪拌して、水層と有機層とに分離させる。有機層を抽出した後、水層に第1反応溶媒で挙げた溶媒と同様の種類の溶媒を加えて、有機層と水層とに再び分離させる。有機層を抽出し、先に抽出した有機層と合わせて総有機層を得る。総有機層を、水及び食塩水等で洗浄した後、硫酸ナトリウム等を用いて乾燥させて、水酸基含有化合物(II-i)の生成物を含む残渣を得る。
【0071】
水酸基含有化合物(II-i)の構造は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光分析により確認できる。
【0072】
次いで、このようにして得られた水酸基含有化合物(II-i)の水酸基を保護することにより、チオエステル誘導体(II-ii)が得られる。水酸基を保護する方法は、特に限定されず、公知の方法を用い得る。例えば、水酸基含有化合物(II-i)と保護基導入試薬とを酸又は塩基性試薬の存在下、不活性溶媒中で反応させて水酸基保護基R5を導入する方法が挙げられる。この反応は、アルゴン等の不活性雰囲気下で行われることが好ましい。
【0073】
保護基導入試薬は、R5の種類に応じて適宜決定することができるが、例えば、無水酢酸、無水ピバリン酸、アセチルクロリド、ピバロイルクロリド等のエステル型保護基導入剤;臭化ベンジル等のアリールアルキルエーテル型保護基導入剤;ヨードメタン等のアルキルエーテル型保護基導入剤;トリメチルシリルクロリド、トリイソプロピルシリルクロリド、tert-ブチルジメチルシリルクロリド、tert-ブチルジフェニルシリルクロリド等のシリル型保護基導入剤;ビス(tert-ブチルオキシカルボニルオキシ)オキシド等のオキシカルボニル型保護基導入剤等が挙げられるが、好ましくは無水酢酸、無水ピバリン酸、アセチルクロリド、ピバロイルクロリド等のエステル型保護基導入剤であり、より好ましくは無水酢酸である。
【0074】
酸性試薬としては、例えば、酢酸、臭化水素等の無機酸、p-トルエンスルホン酸、フタル酸等の有機酸等が挙げられる。塩基性試薬としては、特に限定されないが、トリエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、ジアザビシクロウンデセン(DBU)及びジエチルアニリン等の有機アミン等が挙げられるが、好ましくはトリエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)又はそれらの混合物である。
【0075】
酸性試薬の使用量は、特に限定されないが、ラクトン誘導体(I)1モルに対して、例えば、0.1~1000モル、好ましくは1~5モルである。また、塩基性試薬の使用量は、特に限定されないが、ラクトン誘導体(I)1モルに対して、例えば、0.001~10モル、好ましくは0.01~2モルである。
【0076】
使用される溶媒としては、好ましくは有機溶媒であり、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、THF、2-メチル-テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメチルオキシエタン、ジグライム、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の極性非プロトン性溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等の無極性溶媒又はそれらの組み合わせが挙げられるが、好ましくは塩化メチレン、トルエン又はそれらの混合溶媒である。
【0077】
使用される溶媒の量は、特に限定されないが、1gのラクトン誘導体(I)に対して、例えば、1~1000mL、好ましくは1~100mLである。
【0078】
反応温度は、特に限定されないが、通常-30~100℃、好ましくは-30~40℃、より好ましくは-10~40℃、より一層好ましくは0~30℃である。
【0079】
水酸基含有化合物(II-i)への水酸基保護基R5の導入により得られたチオエステル誘導体(II-ii)は、以下の方法で単離されることが好ましい。
【0080】
先ず、反応液に水等のクエンチ液を加えて、反応を停止させる。クエンチ液を加えた反応液を攪拌して、水層と有機層とに分離させる。有機層を抽出した後、水層に第1反応溶媒で挙げた溶媒と同様の種類の溶媒を加えて、有機層と水層とに再び分離させる。有機層を抽出し、先に抽出した有機層と合わせて総有機層を得る。総有機層を、水及び食塩水等で洗浄した後、硫酸ナトリウム等を用いて乾燥させて、チオエステル誘導体(II-ii)の生成物を含む残渣を得る。
【0081】
チオエステル誘導体(II-ii)の構造は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光分析により確認できる。
【0082】
(ケトン誘導体)
ケトン誘導体は、下記式(IV)で表される。このケトン誘導体(IV)は、原薬合成のための中間体として使用し得る。
【0083】
【0084】
式(IV)において、R1、R2、R3、及びR5は、それぞれ独立して、水酸基保護基を表す。R1、R2、R3、及びR5は、上記式(II)又は(II-ii)のものと同義であってもよい。
【0085】
Arは、置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3以上20以下のヘテロアリール基、置換基を有していてもよい炭素数5以上20以下のアリールアルキル基、又は、置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のヘテロアリールアルキル基を表す。
【0086】
置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のアリール基は、単環式又は多環式である。アリール基における環構成炭素原子の数は、例えば、5~18個、好ましくは5~14個、より好ましくは6~10個である。単環式のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0087】
置換基を有していてもよい炭素数3以上20以下のヘテロアリール基は、環構成原子として、炭素原子に加えて、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群から独立して選択される1個以上のヘテロ原子を含む。ヘテロアリール基は、単環式又は多環式である。ヘテロアリール基に含まれるヘテロ原子の数は、例えば、1~4個、好ましくは1~3個である。ヘテロアリール基の員数は、好ましくは5~14員、より好ましくは5~10員である。
【0088】
置換基を有していてもよい炭素数5以上20以下のアリールアルキル基の炭素数は、例えば、7~15個、好ましくは7~11個である。アリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、及び2-フェネチル基が挙げられる。
【0089】
置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のヘテロアリールアルキル基は、環構成原子として、炭素原子に加えて、酸素原子、硫黄原子及び窒素原子からなる群から独立して選択される1個以上のヘテロ原子を含む。ヘテロアリールアルキル基は、単環式又は多環式である。ヘテロアリールアルキル基に含まれるヘテロ原子の数は、例えば、1~4個、好ましくは1~3個である。ヘテロアリールアルキル基の員数は、好ましくは5~14員、より好ましくは5~10員である。
【0090】
置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3以上20以下のヘテロアリール基、置換基を有していてもよい炭素数5以上20以下のアリールアルキル基、又は、置換基を有していてもよい炭素数4以上20以下のヘテロアリールアルキル基は、下記置換基群から選ばれる1種以上の置換基を有していてもよい。
【0091】
置換基群は、ハロゲン原子、ニトリル基、ニトロ基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシ基、アルコキシ基、アリルオキシ基、アリールアルキルオキシ基、下記式(ii):
-(V10)b-(W10)c-(X10) (ii)
で表される置換基、ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基、及び保護基で保護されていてもよいアミノ基を含む。
【0092】
ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を意味する。
【0093】
ヒドロキシ基の保護基は、上述したものと同様のものを用い得る。
【0094】
アルコキシ基、アシルオキシ基、アリルオキシ基、及びアリールアルキルオキシ基は、-O-Rで表される。Rは、アルキル基、ハロアルキル基、アシル基、アリール基、ハロアリール基、又はアリールアルキル基を表す。アルコキシ基、アシルオキシ基、アリルオキシ基、及びアリールアルキルオキシ基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~8である。Rは、アシル基又はベンジル基であることが好ましく、アセチル基又はベンジル基であることがより好ましい。
【0095】
上記式(ii)において、V10は、アルキレン基、ハロアルキレン基、アリーレン基、ハロアリーレン基、ヘテロアリーレン基、ハロヘテロアリーレン基、エステル結合、エーテル結合、又は、カルボニル基である。アルキレン基又はハロアルキレン基の炭素数は、1~10であることが好ましく、1~8であることがより好ましい。アリーレン基、ハロアリーレン基、ヘテロアリーレン基、又はハロヘテロアリーレン基の炭素数は、4~14であることが好ましい。V10は、アルキレン基であることが好ましく、エチレン基であることがより好ましい。bは、0又は1である。
【0096】
上記式(ii)において、W10は、アルキレン基、ハロアルキレン基、アリーレン基、ハロアリーレン基、ヘテロアリーレン基、ハロヘテロアリーレン基、エステル結合、エーテル結合、又は、カルボニル基である。W10は、ヘテロアリーレン基であることが好ましく、硫黄原子をヘテロ原子として含む5員環のヘテロアリーレン基であることがより好ましい。cは、0又は1である。cは、1であることが好ましい。
【0097】
上記式(ii)において、X10は、水素原子、アルキル基、ハロアルキル基、アリール基、ハロアリール基、ヘテロアリール基、又は、ハロヘテロアリール基である。W10は、ハロアリール基又はヘテロアリール基であることが好ましく、フッ素原子を置換基として有する6員環のハロアリール基又は硫黄をヘテロ原子として含む多環式芳香族化合物であることがより好ましい。
【0098】
ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基の炭素数は、好ましくは1~10、より好ましくは1~8、より一層好ましくは1~6、より一層好ましくは1~4、より一層好ましくは1~3、より一層好ましくは1~2である。アルキル基が有し得るハロゲン原子の数は、好ましくは1~3、より好ましくは1~2、より一層好ましくは1である。
【0099】
アミノ基の保護基としては、カルバメート系、アシル系、アミド系、スルホンアミド系、フタロイル基等、何れの保護基を用いてもよい。カルバメート系の保護基の例には、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル基及びアリルオキシカルボニル基が挙げられる。アシル系の保護基の例には、アセチル基、ピバロイル基、及びベンゾイル基が挙げられる。アミド系の保護基の例には、トリフルオロアセチル基が挙げられる。スルホンアミド系の保護基の例には、p-トルエンスルホニル基、及び2-ニトロベンゼンスルホニル基が挙げられる。アミノ基の保護基は、アシル系又はアミド系の保護基であることが好ましい。アミノ基の保護基は、ピバロイル基又はトリフルオロアセチル基であることがより好ましい。
【0100】
Arは、下記式(iii)又は下記式(iv)で表されることが好ましい。
-(Y10)-(V10)b-(W10)c-(X10) (iii)
【0101】
【0102】
上記式(iii)において、Y10は、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいハロアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、置換基を有していてもよいハロアリーレン基、又は置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基、ハロヘテロアリーレン基である。Y10は、置換基を有するアリーレン基又は置換基を有するハロアリーレン基であることが好ましい。置換基としては、アルキル基又はハロゲノ基が挙げられる。Y10は、フルオロ基を有するフェニレン基、あるいは、メチル基を有するフェニレン基であることがより好ましい。アルキレン基又はハロアルキレン基の炭素数は、1~10であることが好ましく、1~8であることがより好ましい。アリーレン基、ハロアリーレン基、ヘテロアリーレン基、又はハロヘテロアリーレン基の炭素数は、4~14であることが好ましい。V10、W10、X10、b及びcは、それぞれ、式(ii)におけるものと同義である。
【0103】
上記式(iv)において、R41及びR42は、それぞれ、水素原子、又は、アミノ基の保護基である。アミノ基の保護基としては、上述したものを用い得る。R41及びR42は、互いに結合してフタロイル基等のアミノ基の保護基を形成していてもよい。Arが式(iv)の構造を有していると、レムデシビルの中間体として好適に使用できる。
【0104】
(ケトン誘導体の製造方法)
ケトン誘導体(IV)は、例えば、上記式(II-ii)に表されるチオエステル誘導体と、下記式(III-I)で表される化合物、及び、下記式(III-II)で表される化合からなる群から選択される少なくとも1種の有機亜鉛化合物とを、ニッケル触媒及びパラジウム触媒から選択される1種以上の遷移金属触媒の存在下で接触させることにより得られる。
【0105】
【0106】
式(III-I)において、Arは、前記と同義である。Xは、ハロゲン原子を表す。ハロゲン原子は、特に限定されないが、好ましくは塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子である。
【0107】
【0108】
式(III-II)において、Arは、前記と同義である。
【0109】
有機亜鉛化合物は、Ar基を化合物(II-ii)に導入する試薬として使用される。有機亜鉛化合物は、化合物(III-I)及び化合物(III-II)のいずれかを単独で使用してもよく、併用してもよい。化合物(III-I)及び化合物(III-II)を併用すると、下記式で表される平衡状態を好適に取り得る。
【0110】
【0111】
化合物(III-I)及び化合物(III-II)の有機亜鉛化合物は、市販品を使用してもよく、公知の手法に従い製造してもよい。
【0112】
一実施態様によれば、化合物(III-I)の有機亜鉛化合物は、グリニャール試薬ArMgXと、ハロゲン化亜鉛ZnX2とを有機溶媒中で反応させることにより製造される。
【0113】
化合物(III-I)の製造において、ハロゲン化亜鉛の使用量はグリニャール試薬1モルに対して、通常0.9~1.5モル程度、好ましくは1~1.2モル程度、より好ましくは1~1.1モル程度である。
【0114】
化合物(III-I)の製造に使用される有機溶媒としては、安定的な製造の観点から、好ましくはエーテル系溶媒であり、より好ましくは2-メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン等であり、より一層好ましくはテトラヒドロフランである。
【0115】
化合物(III-I)の製造における反応温度は、通常-50~50℃であり、好ましくは0~30℃である。
【0116】
化合物(III-I)は、リチウム塩(式中、Yは、ハロゲン原子である)との複合体として使用してもよい。前記化合物(III-I)のリチウム塩複合体は、下記式(III-Ia):
【化21】
[式中、X及びYは、それぞれ独立して、ハロゲン原子を表す。]
で表される。リチウム塩複合体(III-Ia)は、リチウム塩の存在下で化合物(III-I)の製造を実施することにより好適に得ることができる。リチウム塩複合体(III-Ia)は、化合物(III-I)のリチウム塩錯体であってもよい。
【0117】
リチウム塩複合体(III-Ia)を使用することは、有機亜鉛化合物の反応速度を向上させる上で好ましい。
【0118】
リチウム塩としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等が挙げられるが、好ましくは塩化リチウムである。したがって、有機亜鉛化合物のリチウム塩複合体(III-Ia)において、X及びYは、好ましくは塩素、臭素又はヨウ素であり、より好ましくは塩素又は臭素である。
【0119】
有機亜鉛化合物のリチウム塩複合体(III-Ia)は、市販品を使用してもよく、公知手法により製造してもよい。好ましい製造方法としては、ターボグリニャール試薬ArMgXa・LiY[式中、Arは前記と同義であり、Xaは、ハロゲン原子である。]と、ハロゲン化亜鉛ZnX2[式中、Xは、ハロゲン原子であり、Yと同一であっても異なっていてもよい。]とを有機溶媒中で反応させる方法が挙げられる。
【0120】
ターボグリニャール試薬は、不活性化ガス(窒素、アルゴン等)に置換した反応容器において、リチウム塩の存在下、マグネシウムとハロゲン有機化合物ArXa[式中、Ar及びXaは前記と同義である。]とを有機溶媒中で反応させることにより得ることができる。
【0121】
マグネシウムは、反応性向上の観点から、粉砕物、削り屑状物として使用することが好ましい。また、マグネシウムには、その反応性を向上する観点から、マグネシウム1当量に対して0.05~0.2当量程度の触媒量の水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL-H)等の還元剤を有機溶媒中で添加していてもよい。
【0122】
ターボグリニャール試薬の製造において、リチウム塩の使用量は、通常、マグネシウム1当量に対して、通常0.5~5.0当量程度、好ましくは0.5~3.0当量程度、より好ましくは0.5~2.0当量程度とすればよい。
【0123】
ターボグリニャール試薬の製造において、ハロゲン有機化合物ArXaの使用量は、マグネシウム1当量に対して、通常0.5~3.0当量程度、好ましくは0.5~2.0当量程度、より好ましくは0.5~1.5当量程度とすればよい。
【0124】
ターボグリニャール試薬の製造に使用される有機溶媒としては、安定的な製造の観点から、好ましくはエーテル系溶媒であり、より好ましくはジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等であり、より一層好ましくはテトラヒドロフランである。使用される溶媒の量は、ハロゲン有機化合物ArXaに対して通常1~1000倍の容量、好ましくは1~100倍の容量である。
【0125】
ターボグリニャール試薬の製造における反応温度は、通常-50~50℃であり、好ましくは-20~20℃である。
【0126】
また、反応時間は、通常0.5~5時間、好ましくは1~3時間である。
【0127】
なお、ターボグリニャール試薬ArMgXa・LiYは、Angew Chem.Int.Ed2006,45,2958等に記載の公知方法に従い、下記式:
【化22】
に示される通り、ノッシェル・ハウザー塩基TMPMgXa・LiY(TMPは2,2,6,6-テトラメチルピペリジン)と化合物Ar-Hとを反応させることにより製造してもよく、本発明にはかかる態様も包含される。
【0128】
有機亜鉛化合物のリチウム塩複合体は、ターボグリニャール試薬とハロゲン化亜鉛とを溶媒中で混合して製造することができる。ターボグリニャール試薬とハロゲン化亜鉛との反応は、ターボグリニャール試薬の製造と同様、エーテル系溶媒(テトラヒドロフラン等)中で実施することが好ましい。
【0129】
ターボグリニャール試薬とハロゲン化亜鉛との反応は、通常、-30~30℃程度の温度で行うことができる。
【0130】
また、反応時間は、通常0.1~1時間である。
【0131】
有機亜鉛化合物又はそのリチウム塩複合体の使用量は、チオエステル誘導体(II-ii)の量に応じ適宜設定することができる。有機亜鉛化合物の使用量は、チオエステル誘導体(II-ii)1モルに対して、例えば、1~5モル、好ましくは1~3モルとすることができる。
【0132】
有機亜鉛化合物又はそのリチウム塩複合体は、前記遷移触媒とチオエステル誘導体(II-ii)とを混合してから反応系に添加してもよく、前記遷移触媒と同時にチオエステル誘導体(II-ii)と混合してもよいが、前記遷移触媒とチオエステル誘導体(II-ii)とを混合してから反応系に添加することが好ましい。
【0133】
なお、ハロゲン化亜鉛ZnX2は、有機亜鉛化合物を活性化して収率を向上する観点から、有機亜鉛化合物又はそのリチウム塩複合体と共に反応系に添加してもよい。有機亜鉛化合物又はそのリチウム塩複合体と共に反応系に添加されるハロゲン化亜鉛の量は、通常、有機亜鉛化合物又はそのリチウム塩複合体1モルに対して、通常0.05~1.0モル程度、好ましくは0.05~0.3モル程度、より好ましくは0.05~0.2モル程度である。ハロゲン化亜鉛は、有機亜鉛化合物又はそのリチウム塩複合体と別々に反応系に添加してもよく、有機亜鉛化合物又はそのリチウム塩複合体と同時に添加してもよいが、ハロゲン化亜鉛と有機亜鉛化合物又はそのリチウム塩複合体とを予め混合した状態で反応系に添加することが好ましい。
【0134】
反応雰囲気は、前記遷移触媒の活性を考慮して、通常アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。また、加圧下でも、常圧下でもよいし、減圧下でもよい。
【0135】
ニッケル触媒は、例えば、ニッケル塩又は溶媒和物である。ニッケル塩に含まれるニッケル原子の価数は、通常2価である。ニッケル塩として例えば、ニッケル(II)ジクロリド、ニッケル(II)ジブロミド、ニッケル(II)ジフルオリド、ニッケル(II)ヨーダイド(NiI2)、ニッケル(II)スルフェート、ニッケル(II)カーボネート、ニッケル(II)ジメチルグリオキシム、ニッケル(II)ヒドロキシド、ニッケル(II)ヒドロキシアセテート、ニッケル(II)オキサレート、ニッケル(II)2-エチルヘキサノエート、ニッケル(II)アセテート、ニッケル(II)トリフルオロアセテード、ニッケル(II)トリフラート、ニッケル(II)アセチルアセトネート(Ni(acac)2)等が挙げられる。
【0136】
ニッケル触媒は、ニッケル錯体触媒であってもよい。ニッケル錯体触媒はニッケル原子及び該ニッケル原子にキレートする配位子を含んでなる。ニッケル錯体触媒は、反応収率の向上又は副生成物の低減の観点から有利に利用することができる。ニッケル錯体触媒におけるニッケル原子の価数は、好ましくは0価又は2価であり、より好ましくは2価である。ニッケル錯体触媒に含まれるニッケル原子は、例えば、反応系に添加されたニッケル塩又は溶媒和物に由来する。ニッケル触媒がニッケル錯体触媒である実施形態において、予め形成されたニッケル錯体触媒を反応系に添加してもよいし、反応系にニッケル塩又溶媒和物と配位子とを添加し、反応系中でニッケル錯体触媒を形成してもよい。反応系中でニッケル錯体触媒を形成する場合、配位子の量は、例えば、ニッケル塩1当量に対して、通常1~3当量程度、好ましくは1~2当量程度としてもよい。
【0137】
ニッケル錯体触媒に含まれる配位子は、ニッケル原子に配位結合で結合している分子又はイオンである。配位子は、単座配位子であってもよく、多座配位子であってもよい。単座配位子は、一座の配位子である。多座配位子は、二座以上の配位子である。二座配位子は、配位原子数が2個の配位子であり、三座配位子は、配位原子数が3個の配位子であり、四座配位子は、配位原子数が4個の配位子である。配位原子は、配位結合に直接かかわっている原子である。ニッケル錯体触媒において、配位子とニッケル原子との比は特に限定されないが、配位子が単座配位子である場合、ニッケル原子1個あたりの配位子の数は、通常2~4個であり、好ましくは2個である。また、配位子が多座配位子である場合、配位子1個あたり1個以上のニッケル原子が配位することが好ましい。配位子1個あたりのニッケル原子の数は、例えば、1~3個である。好ましい配位子は、ホスフィン配位子又は窒素配位子である。
【0138】
ホスフィン配位子は、配位原子としてリン原子を含有する配位子である。ホスフィン配位子は、単座配位子であってもよく、多座配位子であってもよいが、多座配位のホスフィン配位子であることが好ましい。
【0139】
ホスフィン配位子としては、例えば、トリメチルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン(PnBu3)、トリシクロペンチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン(PCy3)、トリオクチルホスフィン(P(Oct)3)、トリフェニルホスフィン(PPh3)等の単座配位のホスフィン;1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(dppf)、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン(dppe)、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン(dppb)、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン(dcype)、1,2-ビス(ジメチルホスフィノ)エタン(dmpe)、3,4-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)チオフェン(dcypt)、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン(dppp)、2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル(BINAP)等の二座配位の多座ホスフィン;ビス(2-ジフェニルホスフィノエチル)フェニルホスフィン、1,1,1-トリス(ジフェニルホスフィノメチル)エタン、1,1,1-トリス(ビス(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノメチル)エタン等の三座配位の多座ホスフィン;トリス(2-ジフェニルホスフィノエチル)ホスフィン等の四座配位の多座ホスフィンが挙げられるが、好ましくはトリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン、1,2-ビス(ジメチルホスフィノ)エタン又は3,4-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)チオフェン等の単座配位又は二座配位のホスフィンであり、より好ましくはトリフェニルホスフィン、1,2-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)エタン又は3,4-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)チオフェン等の二座配位のホスフィンであり、より一層好ましくは3,4-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)チオフェンである。
【0140】
ホスフィン配位子には、上記ホスフィン配位子の誘導体も包含される。ホスフィン配位子の誘導体化としては、例えば、1個以上の置換基の導入等が挙げられる。ホスフィン配位子に導入される1個以上の置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、アルキルオキシ基、アルキルオキシアルキル基、アリールオキシ基、アリールオキシアルキル基、ハロゲン原子、ジアルキル基、ニトロ基、オキシカルボニル基等が挙げられる。
【0141】
窒素配位子は、配位原子として窒素原子を含有する配位子である。窒素配位子は、通常、塩基性である。窒素配位子は、例えば、アミン系又はイミン系の多座配位子である。
【0142】
窒素配位子としては、例えば、2,2-ビピリジン(bpy)、4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジン(bmbpy)、4,4’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ビピリジン(BBBPY)、4,4’-ジ-(5-ノニル)-2,2’-ビピリジン、1,10-フェナントロリン、N-(n-プロピル)ピリジルメタンイミン、N-(n-オクチル)ピリジルメタンイミン、N、N、N‘、N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMDTA)等の二座配位の多座アミン;N、N、N’、N’’、N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDTA)、N-プロピル-N,N-ジ(2-ピリジルメチル)アミン等の三座配位の多座アミン;ヘキサメチルトリス(2-アミノエチル)アミン、N,N-ビス(2-ジメチルアミノエチル)-N,N’-ジメチルエチレンジアミン、2,5,9,12-テトラメチル-2,5,9,12-テトラアザテトラデカン、2,6,9,13-テトラメチル-2,6,9,13-テトラアザテトラデカン、4,11-ジメチル-1,4,8,11-テトラアザビシクロヘキサデカン、N’,N’’-ジメチル-N’,N’’-ビス((ピリジン-2-イル)メチル)エタン-1,2-ジアミン、トリス[(2-ピリジル)メチル]アミン、2,5,8,12-テトラメチル-2,5,8,12-テトラアザテトラデカン等の四座配位の多座アミン;N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’’,N’’’’-ヘプタメチルテトラエチレンテトラミン等の五座配位の多座アミン;N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン等の六座配位の多座アミン;ポリアミン、ポリエチレンイミン等の多座アミンが挙げられるが、好ましくは2,2-ビピリジン、4,4’-ジメチル-2,2’-ビピリジン、4,4’-ジ-tert-ブチル-2,2’-ビピリジン等のビピリジン基を有する二座配位の多座アミンである。
【0143】
窒素配位子には、上記窒素配位子の誘導体も包含される。窒素配位子の誘導体化としては、例えば、1個以上の置換基の導入等が挙げられる。窒素配位子に導入される1個以上の置換基としては、例えば、アルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、アルキルオキシ基、アルキルオキシアルキル基、アリールオキシ基、アリールオキシアルキル基、ハロゲン原子、ジアルキル基、ニトロ基、オキシカルボニル基等が挙げられる。
【0144】
ニッケル錯体触媒に含まれるその他の配位子としては、シクロオクタジエン(COD)、テトラヒドロフラン(thf)、ジメトキシエタン(dme)等が挙げられる。
【0145】
ニッケル触媒としては、例えば、ニッケル(0)シクロオクダジエン錯体(Ni(COD)2)、ニッケル(II)アセチルアセトナート、ニッケル(II)ジクロリド又はそのジメトキシエタン付加物、ニッケル(II)ジブロミド、ニッケル(II)ジクロリドビストリフェニルホスフィン錯体、ニッケル(II)ジブロミドビストリフェニルホスフィン錯体、ニッケル(II)ジクロリドトリ-n-ブチルホスフィン錯体、ニッケル(II)ジクロリド1,2-ジフェニルホスフィン錯体、ニッケル(II)ジクロリド1,3-ジフェニルホスフィノプロパン錯体、ビス(テトラヒドロフラン)ニッケル(II)ジクロリド錯体(NiCl2(thf)2)等の2価のニッケル触媒が挙げられるが、好ましくはニッケル(II)ジクロリド又はそのジメトキシエタン付加物、ニッケル(II)ジクロリド1,2-ジフェニルホスフィノエタン錯体、ニッケル(II)アセチルアセトナート又はビス(テトラヒドロフラン)ニッケル(II)ジクロリド錯体であり、より好ましくはニッケル(II)ジクロリド1,2-ジフェニルホスフィノエタン錯体、ニッケル(II)アセチルアセトナート又はビス(テトラヒドロフラン)ニッケル(II)ジクロリド錯体であり、より一層好ましくはビス(テトラヒドロフラン)ニッケル(II)ジクロリド錯体である。これらは単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。工程(a)において、ニッケル触媒を使用することは、反応を迅速に進行させる上で特に有利である。
【0146】
パラジウム触媒としては、例えば、パラジウム(II)ジクロリド、パラジウム(II)ジブロミド、パラジウム(II)ジクロリドビストリフェニルホスフィン錯体、パラジウム(0)テトラキストリフェニルホスフィン錯体、酢酸パラジウム(II)、酸化パラジウム(II)、パラジウム(0)、パラジウム(II)ジクロリド、パラジウム(II)ジブロミド、パラジウム(II)ジクロリドビストリフェニルホスフィン錯体、パラジウム(0)テトラキストリフェニルホスフィン錯体、酢酸パラジウム(II)、酸化パラジウム(II)等の0価又は2価のパラジウム触媒が挙げられるが、好ましくはパラジウム(0)テトラキストリフェニルホスフィン錯体、パラジウム(0)である。パラジウム触媒を使用することは、Ar基間のカップリング反応等により生じる副生成物の量を低減する上で有利である。
【0147】
遷移触媒は、均一触媒であってもよく、不均一触媒であってもよい。
【0148】
遷移金属触媒が均一触媒である場合、遷移金属触媒は、0価もしくは2価のニッケル錯体又は0価もしくは2価のパラジウム錯体であることが好ましい。ニッケル錯体としては、好ましくはニッケル(II)アセチルアセトナート、ニッケル(II)ジクロリドのジメトキシエタン付加物又はビス(テトラヒドロフラン)ニッケル(II)ジクロリド錯体である。また、パラジウム錯体としては、好ましくはパラジウム(0)テトラキストリフェニルホスフィン錯体又はビス(テトラヒドロフラン)ニッケル(II)ジクロリド錯体である。
【0149】
遷移金属触媒が不均一触媒である場合、遷移金属触媒は、ニッケル触媒及びパラジウム触媒から選択される1種以上の遷移金属触媒と、前記1種以上の遷移金属触媒を担持する担体とを有する担持触媒であることが好ましい。担持触媒は、反応混合物から遷移金属触媒を容易に分離する上で有利である。
【0150】
担持触媒が有する担体としては、例えば、活性炭、アルミナ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、ハイドロタルサイト、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、二酸化珪素、粘土、珪酸塩、ゼオライト、高分子マトリックス等が挙げられる。高分子マトリックスは、例えば、スチレン-ジビニルベンゼン樹脂又はフェノール-ホルムアルデヒド樹脂であってもよく、前記樹脂はキレート配位子(ホスフィン、1,10-フェナントロリン又は2,2’-ビピリジン等)が結合していてもよい。樹脂に結合する配位子はパラジウム触媒又はニッケル触媒との錯体を形成し、これら遷移触媒を不動化し、不均一触媒とすることができる。
【0151】
担持触媒における遷移金属触媒は、好ましくは0価又は2価のパラジウム触媒であり、より好ましくはパラジウム(0)である。また、担持触媒が有する遷移金属触媒がパラジウム触媒である場合、担持触媒における担体は、好ましくは活性炭、アルミナ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト及びハイドロタルサイト、酸化アルミニウム、二酸化チタン、二酸化ジルコニウムであり、より好ましくは活性炭である。特に好ましい担持触媒は,パラジウムを活性炭に担持させたPd/C触媒である。
【0152】
担持触媒における遷移金属触媒の量は、担持触媒の総重量に対して、例えば、0.05~10質量%、好ましくは0.1~7質量%、より好ましくは4~7質量%である。
【0153】
遷移金属触媒の使用量は、有機亜鉛化合物1モルに対して、通常0.001~2モル程度、好ましくは0.01~1モル程度である。
【0154】
使用される溶媒としては、好ましくは有機溶媒であり、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチル-テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、tert-ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、ジグライム、メチル-テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の極性非プロトン性溶媒;トルエン、塩化メチレン、ヘキサン、ヘプタン、キシレン、1,4-ジオキサン、ジブチルエーテル、メシチレン、p-シメン等の非極性溶媒又はそれらの組み合わせが挙げられるが、好ましくはTHF、2-メチル-THF、ジブチルエーテル、トルエン、DMF又はそれらの混合溶媒であり、より好ましくはTHFである。
【0155】
使用される溶媒の量は、特に限定されないが、例えば、1gのチオエステル誘導体(II-ii)に対して1mL~100mLの容量とすることができる。
【0156】
反応温度は、0~100℃程度で実施してもよいが、通常0~60℃、好ましくは0~50℃、より好ましくは10~50℃である。このようなマイルドな温度条件を採用してケトン誘導体(IV)を取得することは、温度管理に関連した設備コストを抑制して工業生産を実施する上で好ましい。
【0157】
また、遷移金属触媒がニッケル触媒である場合、反応温度は、好ましくは0~50℃、より好ましくは10~50℃、より好ましくは20~30℃であり、より一層好ましくは25℃程度である。また、遷移金属触媒がパラジウム触媒である場合、反応温度は、好ましくは45~90℃、より好ましくは45~80℃、より好ましくは50~70℃であり、より一層好ましくは60℃程度である。
【0158】
反応時間は、用いる基質の量、触媒の量、反応温度等に応じて適宜決定してよく、通常0.5~48時間、好ましくは1~24時間である。
【0159】
ケトン誘導体(IV)の構造は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光分析により確認できる。
【0160】
(環状エステル誘導体の製造)
環状エステル誘導体は、下記式(V)で表される。環状エステル誘導体(V)は、原薬合成のための中間体として使用できる。
【0161】
【0162】
式(V)において、R1、R2、R3及びArは、式(IV)のものと同義である。
【0163】
環状エステル誘導体(V)は、例えば、式(IV)に表されるケトン誘導体の水酸基保護基R5を除去し、ケトン誘導体を環化させることにより得られる。
【0164】
R5の除去方法は、水酸基保護基の種類に応じて、Peter G.M. Wuts著、「プロテクティブ・グループ・イン・オーガニック・シンセシス(“Protective Group in Organic Synthesis”)第5版」(JOHN WILEY&SONS出版)等に記載の公知の手法によって適宜選択できる。典型的な手法としては、ケトン誘導体(IV)と酸性試薬又は塩基性試薬とを不活性溶媒中で反応させてR5を除去する方法が挙げられる。
【0165】
酸性試薬としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、臭化水素等の無機酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸、p-トルエンスルホン酸、ギ酸、フタル酸等の有機酸が挙げられる。また、塩基性試薬としては、特に限定されないが、テトラ-n-ブチルアンモニウムフルオリド、アンモニウムフルオリド、アンモニウムバイフルオリド、フッ化水素酸等のフッ化物、炭酸カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチルオキシド、ナトリウムエチルオキシド、アンモニア水等が挙げられる。
【0166】
酸性試薬の使用量は、ケトン誘導体(IV)1モルに対して、例えば、0.1~1000モル、好ましくは1~5モルである。また、塩基性試薬の使用量は、ケトン誘導体(IV)1モルに対して通常0.001~10モル、好ましくは0.01~2モルである。
【0167】
使用される溶媒としては、好ましくは有機溶媒であり、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の極性プロトン性溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル、THF、2-メチル-テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメチルオキシエタン、ジグライム、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の極性非プロトン性溶媒:塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等の無極性溶媒又はそれらの組み合わせが挙げられるが、好ましくはメタノール、エタノール、イソプロパノール又はそれらの混合溶媒である。
【0168】
使用される溶媒の量は、1gのケトン誘導体(IV)に対して、例えば、1~1000mL、好ましくは1~100mLである。
【0169】
反応温度は、通常-30~100℃、好ましくは0~100℃、より好ましくは0~40℃、より一層好ましくは0~50℃である。
【実施例0170】
以下に実施例を挙げて、本発明を詳細に説明する。ただし、以下の実施例は具体例であって、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0171】
<実施例1>
(有機亜鉛化合物の調製)
以下の方法で、PhZnCl・LiClを調製した。
【0172】
【0173】
マグネチック撹拌子の入った30mLの乾燥シュレンク管に、450mg(2.0mmol、1当量)の無水臭化亜鉛(ZnBr2)と、85mg(2.00mmol、1当量)の無水塩化リチウムとを入れ、100℃のオイルバス内で真空乾燥させた。次に、このシュレンク管にアルゴンを注入した後、6mLのTHFを加えて10分間撹拌した。撹拌後、このシュレンク管にフェニルマグネシウムブロミド(PhMgBr)の量が2.0mmolとなるように2mLの1M PhMgBr溶液を加えた。1M PhMgBr溶液は、PhMgBrをTHFに溶解させることにより調製した。1M PhMgBr溶液を加えた後、室温で1時間にわたって撹拌し、得られた反応液にTHFを加えて、0.25M PhZnBr・LiCi溶液を調製した。
【0174】
(チオエステル誘導体の製造)
以下の方法で、下記ラクトン誘導体(Ia)から、水酸基含有誘導体(II-ia)を経てチオエステル誘導体(II-iia)を製造した。
【0175】
【0176】
20mLの無水ジクロロメタン中に、0.89g(5.1mmol)の1-デカンチオールを加えて1-デカンチオール溶液を調製した。トリメチルアルミニウムをヘキサンに溶解させて、2Mトリメチルアルミニウム溶液を調製した。2.09g(5mmol)のラクトン誘導体(Ia)を10mLの無水ジクロロメタンに溶解させてラクトン誘導体(Ia)溶液を調製した。
【0177】
0℃に冷却した1-デカンチオール溶液に、2.5mLの2Mトリメチルアルミニウム溶液(トリメチルアルミニウム:5mmol)を10分間かけて滴下し、20分間にわたって撹拌して混合液を得た。この混合液にラクトン誘導体(Ia)溶液を20分間かけてゆっくりと加え、2時間にわたって撹拌して反応液を得た。この反応液に30mLのジクロロメタンの加えた後、20mLの氷冷した水を収容した500mLビーカーにゆっくりと注ぎ入れた。ビーカーに入れた反応液を撹拌し、これに40mLの1N 塩酸をゆっくりと加えて、反応液を有機層と水層とに素早く分離させた。有機層を抽出した後、水層に氷冷した30mLのジクロロメタンを加えて有機層と水層とに分離させて、有機層を抽出した。この操作を更に2回繰り返した。すべての有機層を混合して総有機層を得た。総有機層を、水、食塩水の順で洗浄した後、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させて、残渣を得た。
【0178】
この残渣に、上記式(II-ia)で表される水酸基含有化合物が含まれることを核磁気共鳴(NMR)分光分析で確認した。
【0179】
次に、3g(5mmol)のこの残渣を、30mLの無水ジクロロメタンに溶解させて水酸基含有化合物(II-ia)溶液を調製した。アルゴン雰囲気下、0℃まで冷却したこの水酸基含有化合物(II-ia)溶液に、1.5mL(15.9mmol)の無水酢酸を加えた後、13mg(2mol%)の4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を加えて、5分間にわたって撹拌した。撹拌後の溶液に2.2mL(15mmol)のトリエチルアミンを加え、アルゴン雰囲気下、室温で6時間にわたって撹拌して、反応液を得た。この反応液に30mLの水を加えて反応を停止させ、反応液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出した後、水層に30mLのジクロロメタンを加えて有機層と水層とに分離させて、有機層を抽出した。この操作を更に2回繰り返した。すべての有機層を混合して総有機層を得た。総有機層を、30mLの水、30mLの食塩水の順で洗浄した後、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させて、残渣を得た。この残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して、透明液状のチオエステル誘導体(II-iia)を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおいては、酢酸エチルとヘキサンとの混合溶媒を用いた。混合溶媒の体積比は、酢酸エチル:ヘキサン=1:20~2:20とした。
【0180】
チオエステル誘導体(II-iia)の量は2.67gであり、ラクトン誘導体(I)からの収率は84%であった。チオエステル誘導体(II-iia)のNMR分光分析結果は下記のとおりであった。
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ=7.38-7.18(m,15H),5.31(dt,J=6.6,3.9Hz,1H),4.77(d,J=11.7Hz,1H),4.65-4.56(m,2H),4.53(d,J=4.4Hz,1H),4.50(d,J=5.2Hz,1H),4.40(d,J=12.1Hz,1H),4.24-4.16(m,2H),3.70(d,J=3.9Hz,2H),2.94-2.79(m,2H),1.98(s,3H),1.61-1.51(m,2H),1.38-1.19(m,14H),0.88(t,J=6.8Hz,3H)。
13C NMR(101MHz,CDCl3) δ=200.66,169.86,138.27,137.80,137.14,128.50,128.45,128.41,128.16,128.08,128.04,127.84,127.84,127.71,83.97,79.29,73.92,73.55,73.22,71.42,68.43,32.02,29.67,29.62,29.50,29.43,29.27,29.16,28.45,22.81,21.34,14.23。
HRMS:[M+H]+ C38H51O6S 計算値:635.3406;実測値:635.3403。
【0181】
(ケトン誘導体の製造)
以下の方法で、下記チオエステル誘導体(II-iia)から、ケトン誘導体(IVa)を製造した。
【0182】
【0183】
先ず、オーブンで乾燥させたシュレンク管を、アルゴン雰囲気下で冷却し、159mg(0.25mmol)のチオエステル誘導体(II-iia)と、5.4mgのPd/C触媒と、2mLのTHFとを加えた。Pd/C触媒において、Pdの占める割合は10質量%であり、Pdのモル量は0.005mmolとした。次に、3mL(0.75mmol)の0.25M PhZnBr・LiCi溶液を、シリンジを用いてシュレンク管に滴下し、40℃で48時間にわたって撹拌して反応液を得た。反応液を室温にまで冷却した後、1mLの水を加えて反応を停止させた。水を加えた反応液セライトろ過に供して、ろ液を得た。セライトを30mLの酢酸エチルで洗浄し、この洗浄液をろ液に加えて、混合液を得た。この混合液を水、食塩水の順に洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥させて残渣を得た。この残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して、ケトン誘導体(IVa)を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおいては、酢酸エチルとヘキサンとの混合溶媒を用いた。混合溶媒の体積比は、酢酸エチル:ヘキサン=1:20~2:20とした。
【0184】
ケトン誘導体(IVa)の量は113mgであり、その収率は84%であった。なお、未反応のチオエステル誘導体(II-iia)の量は15mgであり、9%であった。また、副生成物として18mgのビフェニルが得られた。ケトン誘導体(IVa)のNMR分光分析結果は下記のとおりであった。
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ=7.90-7.84(m,2H),7.52(t,J=7.4Hz,1H),7.36(t,J=7.8Hz,2H),7.31-7.25(m,10H),7.20-7.17(m,3H),6.98(dd,J=7.4,1.8Hz,2H),5.49(q,J=4.8Hz,1H),4.87(d,J=6.6Hz,1H),4.64(d,J=11.7Hz,1H),4.56-4.31(m,5H),4.20(dd,J=6.6,4.5Hz,1H),3.74(dd,J=5.0,1.9Hz,2H),1.96(s,3H)。
13C NMR(101MHz,CDCl3) δ=198.9,170.1,138.2,137.5,137.2,136.7,133.24,128.82,128.61,128.51,128.48,128.41,128.32,128.16,128.07,127.80,127.75,80.47,79.00,73.48,73.26,72.37,71.87,68.36,21.18。
HRMS:[M+H]+ C34H35O6 計算値:539.2434;実測値:539.2431。
【0185】
<実施例2>
(チオエステル誘導体の製造)
以下の方法で、下記ラクトン誘導体(Ia)から、水酸基含有誘導体(II-ib)を経てチオエステル誘導体(II-iib)を製造した。
【0186】
【0187】
10mLの無水ジクロロメタン中に、0.53g(2.6mmol)の1-ドデカンチオールを加えて1-デカンチオール溶液を調製した。トリメチルアルミニウムをヘキサンに溶解させて、2Mトリメチルアルミニウム溶液を調製した。1.05g(2.5mmol)のラクトン誘導体(Ia)を8mLの無水ジクロロメタンに溶解させてラクトン誘導体(Ia)溶液を調製した。
【0188】
0℃に冷却した1-ドデカンチオール溶液に、1.25mLの2Mトリメチルアルミニウム溶液(トリメチルアルミニウム:2.5mmol)を10分間かけて滴下し、20分間にわたって撹拌して混合液を得た。この混合液にラクトン誘導体(Ia)溶液を20分間かけてゆっくりと加え、2時間にわたって撹拌して反応液を得た。この反応液に30mLのジクロロメタンの加えた後、20mLの氷冷した水を収容した500mLビーカーにゆっくりと注ぎ入れた。ビーカーに入れた反応液を撹拌し、これに40mLの1N 塩酸をゆっくりと加えて、反応液を有機層と水層とに素早く分離させた。有機層を抽出した後、水層に氷冷した30mLのジクロロメタンを加えて有機層と水層とに分離させて、有機層を抽出した。この操作を更に2回繰り返した。すべての有機層を混合して総有機層を得た。総有機層を、水、食塩水の順で洗浄した後、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させて、残渣を得た。
【0189】
この残渣に、上記式(II-ib)で表される水酸基含有化合物が含まれることを核磁気共鳴(NMR)分光分析で確認した。
【0190】
次に、1.6g(2.5mmol)のこの残渣を、20mLの無水ジクロロメタンに溶解させて水酸基含有化合物(II-ib)溶液を調製した。アルゴン雰囲気下、0℃まで冷却したこの水酸基含有化合物(II-ib)溶液に、0.8mL(7.5mmol)の無水酢酸を加えた後、8mg(2mol%)の4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を加えて、5分間にわたって撹拌した。撹拌後の溶液に1.1mL(7.5mmol)のトリエチルアミンを加え、アルゴン雰囲気下、室温で6時間にわたって撹拌して、反応液を得た。この反応液に30mLの水を加えて反応を停止させ、反応液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出した後、水層に30mLのジクロロメタンを加えて有機層と水層とに分離させて、有機層を抽出した。この操作を更に2回繰り返した。すべての有機層を混合して総有機層を得た。総有機層を、30mLの水、30mLの食塩水の順で洗浄した後、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させて、残渣を得た。この残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して、透明液状のチオエステル誘導体(II-iib)を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおいては、酢酸エチルとヘキサンとの混合溶媒を用いた。混合溶媒の体積比は、酢酸エチル:ヘキサン=1:20~2:20とした。
【0191】
チオエステル誘導体(II-iib)の量は1.3gであり、ラクトン誘導体(I)からの収率は78%であった。チオエステル誘導体(II-iib)のNMR分光分析結果は下記のとおりであった。
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ=7.38-7.20(m,15H),5.31(dt,J=7.1,3.9Hz,1H),4.77(d,J=11.7Hz,1H),4.60(t,J=10.6Hz,2H),4.52(d,J=4.3Hz,1H),4.50(d,J=5.1Hz,1H),4.40(d,J=12.1Hz,1H),4.21-4.15(m,2H),3.70(d,J=3.8Hz,1H),2.93-2.89(m,2H),1.98(s,3H),1.60-1.52(m,2H),1.42-1.15(m,18H),0.88(t,J=6.7Hz,3H)。
13C NMR(101MHz,CDCl3) δ=200.66,169.86,138.26,137.79,137.14,128.50,128.45,128.40,128.16,128.08,128.04,127.83,127.70,83.95,79.27,73.91,73.53,73.21,71.41,68.41,32.05,29.77,29.76,29.72,29.62,29.50,29.47,29.27,29.16,28.45,22.81,21.33,14.23。
HRMS:[M+H]+ C40H55O6S 計算値:663.3719;実測値:663.371。
【0192】
(ケトン誘導体の製造)
以下の方法で、下記チオエステル誘導体(II-iib)から、ケトン誘導体(IVa)を製造した。
【0193】
【0194】
先ず、オーブンで乾燥させたシュレンク管を、アルゴン雰囲気下で冷却し、166mg(0.25mmol)のチオエステル誘導体(II-iib)と、5.4mgのPd/C触媒と、2mLのTHFとを加えた。Pd/C触媒において、Pdの占める割合は10質量%であり、Pdのモル量は0.005mmolとした。次に、2.5mL(0.625mmol)の実施例1と同様の方法で得られた0.25M PhZnBr・LiCi溶液を、シリンジを用いてシュレンク管に滴下し、40℃で48時間にわたって撹拌して反応液を得た。反応液を室温にまで冷却した後、1mLの水を加えて反応を停止させた。水を加えた反応液セライトろ過に供して、ろ液を得た。セライトを30mLの酢酸エチルで洗浄し、この洗浄液をろ液に加えて、混合液を得た。この混合液を水、食塩水の順に洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥させて残渣を得た。この残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して、ケトン誘導体(IVa)を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおいては、酢酸エチルとヘキサンとの混合溶媒を用いた。混合溶媒の体積比は、酢酸エチル:ヘキサン=1:20~2:20とした。
【0195】
ケトン誘導体(IVa)の量は109mgであり、その収率は81%であった。なお、未反応のチオエステル誘導体(II-iib)の量は19mgであり、12%であった。また、副生成物として11mgのビフェニルが得られた。ケトン誘導体(IVa)のNMR分光分析結果は下記のとおりであった。
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ=7.90-7.84(m,2H),7.52(t,J=7.4Hz,1H),7.36(t,J=7.8Hz,2H),7.31-7.25(m,10H),7.20-7.17(m,3H),6.98(dd,J=7.4,1.8Hz,2H),5.49(q,J=4.8Hz,1H),4.87(d,J=6.6Hz,1H),4.64(d,J=11.7Hz,1H),4.56-4.31(m,5H),4.20(dd,J=6.6,4.5Hz,1H),3.74(dd,J=5.0,1.9Hz,2H),1.96(s,3H)。
13C NMR(101MHz,CDCl3) δ=198.9,170.1,138.2,137.5,137.2,136.7,133.24,128.82,128.61,128.51,128.48,128.41,128.32,128.16,128.07,127.80,127.75,80.47,79.00,73.48,73.26,72.37,71.87,68.36,21.18。
HRMS:[M+H]+ C34H35O6 計算値:539.2434;実測値:539.2431。
【0196】
<実施例3>
(チオエステル誘導体の製造)
以下の方法で、下記ラクトン誘導体(Ia)から、水酸基含有誘導体(II-ib)を経てチオエステル誘導体(II-iib)を製造した。
【0197】
【0198】
20mLの無水ジクロロメタン中に、2.06g(10.2mmol)の1-ドデカンチオールを加えて1-デカンチオール溶液を調製した。トリメチルアルミニウムをヘキサンに溶解させて、2Mトリメチルアルミニウム溶液を調製した。4.19g(10mmol)のラクトン誘導体(Ia)を12mLの無水ジクロロメタンに溶解させてラクトン誘導体(Ia)溶液を調製した。
【0199】
0℃に冷却した1-ドデカンチオール溶液に、5mLの2Mトリメチルアルミニウム溶液(トリメチルアルミニウム:10mmol)を15分間かけて滴下し、20分間にわたって撹拌して混合液を得た。この混合液にラクトン誘導体(Ia)溶液を20分間かけてゆっくりと加え、2時間にわたって撹拌して反応液を得た。この反応液に30mLのジクロロメタンの加えた後、20mLの氷冷した水を収容した500mLビーカーにゆっくりと注ぎ入れた。ビーカーに入れた反応液を撹拌し、これに40mLの1N 塩酸をゆっくりと加えて、反応液を有機層と水層とに素早く分離させた。有機層を抽出した後、水層に氷冷した30mLのジクロロメタンを加えて有機層と水層とに分離させて、有機層を抽出した。この操作を更に2回繰り返した。すべての有機層を混合して総有機層を得た。総有機層を、水、食塩水の順で洗浄した後、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させて、残渣を得た。
【0200】
この残渣に、上記式(II-ib)で表される水酸基含有化合物が含まれることを核磁気共鳴(NMR)分光分析で確認した。
【0201】
次に、この残渣を、100mLの無水ジクロロメタンに溶解させて水酸基含有化合物(II-ib)溶液を調製した。アルゴン雰囲気下、0℃まで冷却したこの水酸基含有化合物(II-ib)溶液に、2.9mL(30mmol)の無水酢酸を加えた後、25mg(2mol%)の4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を加えて、5分間にわたって撹拌した。撹拌後の溶液に4.3mL(30mmol)のトリエチルアミンを加え、アルゴン雰囲気下、室温で6時間にわたって撹拌して、反応液を得た。この反応液に30mLの水を加えて反応を停止させ、反応液を有機層と水層とに分離させた。有機層を抽出した後、水層に30mLのジクロロメタンを加えて有機層と水層とに分離させて、有機層を抽出した。この操作を更に2回繰り返した。すべての有機層を混合して総有機層を得た。総有機層を、30mLの水、30mLの食塩水の順で洗浄した後、硫酸ナトリウムを用いて乾燥させて、残渣を得た。この残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して、透明液状のチオエステル誘導体(II-iib)を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおいては、酢酸エチルとヘキサンとの混合溶媒を用いた。混合溶媒の体積比は、酢酸エチル:ヘキサン=1:20~2:20とした。
【0202】
チオエステル誘導体(II-iib)の量は5.9gであり、ラクトン誘導体(Ia)からの収率は89%であった。チオエステル誘導体(II-iib)のNMR分光分析結果は下記のとおりであった。
1H NMR(400MHz,CDCl3) δ=7.38-7.20(m,15H),5.31(dt,J=7.1,3.9Hz,1H),4.77(d,J=11.7Hz,1H),4.60(t,J=10.6Hz,2H),4.52(d,J=4.3Hz,1H),4.50(d,J=5.1Hz,1H),4.40(d,J=12.1Hz,1H),4.21-4.15(m,2H),3.70(d,J=3.8Hz,1H),2.93-2.89(m,2H),1.98(s,3H),1.60-1.52(m,2H),1.42-1.15(m,18H),0.88(t,J=6.7Hz,3H)。
13C NMR(101MHz,CDCl3) δ=200.66,169.86,138.26,137.79,137.14,128.50,128.45,128.40,128.16,128.08,128.04,127.83,127.70,83.95,79.27,73.91,73.53,73.21,71.41,68.41,32.05,29.77,29.76,29.72,29.62,29.50,29.47,29.27,29.16,28.45,22.81,21.33,14.23。
HRMS:[M+H]+ C40H55O6S 計算値:663.3719;実測値:663.3710。