IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧 ▶ 株式会社アルバックの特許一覧

<>
  • 特開-不揮発性記憶素子及びその製造方法 図1
  • 特開-不揮発性記憶素子及びその製造方法 図2
  • 特開-不揮発性記憶素子及びその製造方法 図3
  • 特開-不揮発性記憶素子及びその製造方法 図4
  • 特開-不揮発性記憶素子及びその製造方法 図5
  • 特開-不揮発性記憶素子及びその製造方法 図6
  • 特開-不揮発性記憶素子及びその製造方法 図7
  • 特開-不揮発性記憶素子及びその製造方法 図8
  • 特開-不揮発性記憶素子及びその製造方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022089028
(43)【公開日】2022-06-15
(54)【発明の名称】不揮発性記憶素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 27/1159 20170101AFI20220608BHJP
   H01L 27/115 20170101ALI20220608BHJP
【FI】
H01L27/1159
H01L27/115
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020201236
(22)【出願日】2020-12-03
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100125298
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 伸
(72)【発明者】
【氏名】宮田 典幸
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 周太郎
(72)【発明者】
【氏名】住田 杏子
(72)【発明者】
【氏名】宮口 有典
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 一也
(72)【発明者】
【氏名】神保 武人
(72)【発明者】
【氏名】堀田 和正
(72)【発明者】
【氏名】増田 健
【テーマコード(参考)】
5F083
【Fターム(参考)】
5F083FR05
5F083FZ10
5F083JA02
5F083JA03
5F083JA04
5F083JA12
5F083JA38
5F083JA39
5F083JA40
5F083PR22
(57)【要約】
【課題】本発明は、優れた情報保持特性を有し高性能かつ実用的に量産可能な不揮発性記憶素子及びその製造方法を提供すること課題とする。
【解決手段】不揮発性記憶素子1は、異なる組成で形成される2つの絶縁層としてAl層4とSiO層6とが交互に複数配され、これらの各接合界面に前記絶縁層を構成する元素以外の金属元素Mと酸素との化学結合で形成される0.5分子層~2.0分子層のO-M-O層5が配される積層構造部を有し、外部電気刺激により前記O-M-O層5の近傍に誘起される界面ダイポールを変調させることにより情報が記憶されることを特徴とする。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる組成で形成される第1絶縁層と第2絶縁層とが交互に複数配され、前記第1絶縁層と前記第2絶縁層との各接合界面に前記第1絶縁層及び前記第2絶縁層を構成する元素以外の金属元素Mと酸素との化学結合で形成される0.5分子層~2.0分子層のO-M-O層が配される積層構造部を有し、外部電気刺激により前記O-M-O層近傍に誘起される界面ダイポールを変調させることにより情報が記憶される不揮発性記憶素子において、
前記第1絶縁層がアルミニウム酸化物で形成されるとともに前記第2絶縁層がシリコン酸化物で形成されることを特徴とする不揮発性記憶素子。
【請求項2】
第1絶縁層の厚みが2nm以下である請求項1に記載の不揮発性記憶素子。
【請求項3】
第2絶縁層の厚みが2nm以下である請求項1から2のいずれかに記載の不揮発性記憶素子。
【請求項4】
金属元素MがTiである請求項1から3のいずれかに記載の不揮発性記憶素子。
【請求項5】
界面ダイポールを変調可能なO-M-O層が6層以上とされる請求項1から4のいずれかに記載の不揮発性記憶素子。
【請求項6】
シリコン半導体基板と前記シリコン半導体基板の表面上に積層されるシリコン酸化物下地層とが配され、前記シリコン酸化物下地層上に積層構造部の第1絶縁層が積層される請求項1から5のいずれかに記載の不揮発性記憶素子。
【請求項7】
シリコン酸化物下地層上に積層される第1絶縁層側の面を底面として積層構造部の最表面が第2絶縁層とされ、前記最表面上にO-M-O層とアルミニウム酸化物金属電極下地層と金属電極とがこの順で積層される請求項6に記載の不揮発性記憶素子。
【請求項8】
シリコン半導体基板が第1導電型の半導体領域と一部が表面から露出される状態で互いに離間して配される第2導電型のソース領域及びドレイン領域とを有し、
金属電極に与える電気信号によりO-M-O層近傍に誘起される界面ダイポールの強度又は極性を変化させる請求項7に記載の不揮発性記憶素子。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の不揮発性記憶素子の製造方法であって、
第1絶縁層、O-M-O層及び第2絶縁層で構成される積層構造部の各構成層をALD法により堆積形成する堆積工程と、
前記堆積工程後に前記積層構造部を250℃以上の温度で加熱する後熱工程と、
を含むことを特徴とする不揮発性記憶素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム酸化物とシリコン酸化物との間に誘起される界面ダイポールの変調構造を有する不揮発性記憶素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末等の情報機器に組み込まれる情報記憶装置として、NAND型フラッシュメモリを用いた半導体ストレージ装置の市場が拡大している。前記NAND型フラッシュメモリは、高集積・大容量化及び不揮発性情報記憶を特徴とする素子であり、現在、主に微細加工及び三次元構造技術による大容量化及び高性能化の研究開発が進められている。
【0003】
前記微細加工は、動作原理上の物理的限界による加工限界に近付いており、また、前記三次元構造技術には課題が多く、前記NAND型フラッシュメモリの大容量化及び高性能化が今後も持続的に進むことを期待できない状況にある。特に、書き換え耐性が低く、更に読み出し・書き込み速度の遅さが前記NAND型フラッシュメモリの短所として挙げられている。
【0004】
これらの短所を克服するため、本発明者は、界面ダイポールの変調を利用した第1の不揮発性記憶素子を提案している(特許文献1参照)。この提案によれば、前記NANDフラッシュメモリ等におけるMOS構造及び構成材料に大幅な変更を加えることなく、前記NANDフラッシュメモリの性能を上回る高性能なメモリ動作が期待できる。
しかしながら、前記第1の不揮発性素子では、金属酸化層/半導体の界面構造を有し、前記半導体の表面に近接して前記界面ダイポールの変調動作を担う金属元素が配置されるため、トランジスタ構造を適用した場合、絶縁層/半導体構造における界面準位密度の増加に伴う電気特性の劣化が生じるおそれがある。
【0005】
そのため、本発明者は、前記第1の不揮発性記憶素子を改良した第2の不揮発性記憶素子を更に提案している(特許文献2参照)。前記第2の不揮発性記憶素子では、前記第1の不揮発性記憶素子における前記金属酸化層/半導体構造における前記界面ダイポールの変調動作に替え、異なる2つの絶縁層/絶縁層界面にO-M-O層(界面ダイポール変調層)を配し、前記O-M-O層近傍に誘起される前記界面ダイポールの強度又は極性を変化させることで、前記第1の不揮発性記憶素子の前記界面準位密度に纏わる問題を解消する。
具体的には、電子ビーム蒸着法によりHfO層(前記絶縁層)を堆積し、次いで、この層上に前記電子ビーム蒸着法により単分子層程度の前記O-M-O層を堆積し、次いで、前記電子ビーム蒸着法によりSiO層(前記絶縁層)を堆積し、次いで、450℃に加熱して前記HfO層及び前記SiO層中の欠陥を低減して、前記第2の不揮発性記憶素子における前記界面ダイポールの変調構造を形成する(特許文献2の実施例1,2参照)。なお、前記電子ビーム蒸着法は、精緻な膜が得られる一方で小面積で成膜を行う成膜方法である。
【0006】
しかしながら、その後の研究において、前記HfO層/前記O-M-O層/前記SiO層による前記界面ダイポールの変調構造による前記第2の不揮発性記憶素子には、次の2つの課題があることが明らかになってきた。
第1に、前記第2の不揮発性記憶素子の記憶情報の保持時間が短く、性能面での課題がある(非特許文献1参照)。
第2に、1度に大面積での成膜が可能なALD(Atomic Layer Deposition)法を用いた製造を行う際、前記ALD法で成膜後、400℃以上で後熱処理すると、耐熱性の低さによりメモリ特性が失われる課題がある(非特許文献2参照)。前記ALD法を用いた製造過程において、成膜後の高温熱処理は、目的とする膜を得るために必須の処理であることから、耐熱性の低さは、実用的な製造方法での量産化が困難であることを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6145756号公報
【特許文献2】特許第6472149号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】N. Miyata, Sci. Rep. 8, 8486 (2018)
【非特許文献2】S. Asanuma, K. Sumita, Y. Miyaguchi, K. Horita, T. Jimbo, K. Saito, and N. Miyata, AIP Adv. 10, 085114 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、優れた情報保持特性を有し高性能かつ実用的に量産可能な不揮発性記憶素子及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討を行い、次の知見を得た。
即ち、本発明者は、試行錯誤の末、前記HfO層/前記O-M-O層/前記SiO層による前記界面ダイポールの変調構造に替え、Al層/前記O-M-O層/前記SiO層による前記界面ダイポールの変調構造を形成したところ、前記ALD法による成膜後の高温加熱処理を行っても、前記界面ダイポールの変調構造によるメモリ特性が失われないことの知見を得た。また、得られた前記Al層/前記O-M-O層/前記SiO層による前記界面ダイポールの変調構造による前記不揮発性記憶素子の情報保持特性を検証してみたところ、驚くべきことに前記HfO層/前記O-M-O層/前記SiO層による前記界面ダイポールの変調構造と比較して記憶情報をより長く保持できることの知見を得た。
前記特許文献2では、異なる2つの前記絶縁層の一方の形成材料としてAlが挙げられているが、これら2つの前記絶縁層の形成材料の組み合わせを前記Al層/前記SiO層とすることについて、何らの検討もされておらず、また、前記Al層/前記SiO層とした場合の情報保持特性及び耐熱性について、何らの検討もされていない。
今般、得られた知見は、前記界面ダイポールの変調を利用した前記不揮発性記憶素子の実用化に向けて多大な貢献をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 異なる組成で形成される第1絶縁層と第2絶縁層とが交互に複数配され、前記第1絶縁層と前記第2絶縁層との各接合界面に前記第1絶縁層及び前記第2絶縁層を構成する元素以外の金属元素Mと酸素との化学結合で形成される0.5分子層~2.0分子層のO-M-O層が配される積層構造部を有し、外部電気刺激により前記O-M-O層近傍に誘起される界面ダイポールを変調させることにより情報が記憶される不揮発性記憶素子において、前記第1絶縁層がアルミニウム酸化物で形成されるとともに前記第2絶縁層がシリコン酸化物で形成されることを特徴とする不揮発性記憶素子。
<2> 第1絶縁層の厚みが2nm以下である前記<1>に記載の不揮発性記憶素子。
<3> 第2絶縁層の厚みが2nm以下である前記<1>から<2>のいずれかに記載の不揮発性記憶素子。
<4> 金属元素MがTiである前記<1>から<3>のいずれかに記載の不揮発性記憶素子。
<5> 界面ダイポールを変調可能なO-M-O層が6層以上とされる前記<1>から<4>のいずれかに記載の不揮発性記憶素子。
<6> シリコン半導体基板と前記シリコン半導体基板の表面上に積層されるシリコン酸化物下地層とが配され、前記シリコン酸化物下地層上に積層構造部の第1絶縁層が積層される前記<1>から<5>のいずれかに記載の不揮発性記憶素子。
<7> シリコン酸化物下地層上に積層される第1絶縁層側の面を底面として積層構造部の最表面が第2絶縁層とされ、前記最表面上にO-M-O層とアルミニウム酸化物下地層と金属電極とがこの順で積層される前記<6>に記載の不揮発性記憶素子。
<8> シリコン半導体基板が第1導電型の半導体領域と一部が表面から露出される状態で互いに離間して配される第2導電型のソース領域及びドレイン領域とを有し、金属電極に与える電気信号によりO-M-O層近傍に誘起される界面ダイポールの強度又は極性を変化させる前記<7>に記載の不揮発性記憶素子。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の不揮発性記憶素子の製造方法であって、第1絶縁層、O-M-O層及び第2絶縁層で構成される積層構造部の各構成層をALD法により堆積形成する堆積工程と、前記堆積工程後に前記積層構造部を250℃以上の温度で加熱する後熱工程と、を含むことを特徴とする不揮発性記憶素子の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、優れた情報保持特性を有し高性能かつ実用的に量産可能な不揮発性記憶素子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る不揮発性記憶素子の第1実施形態に係る断面構造図である。
図2】本発明に係る不揮発性記憶素子の第2実施形態に係る断面構造図である。
図3】実施例1に係る不揮発性記憶素子の容量-電圧特性(C-V特性)の測定結果を示す図である。
図4】比較例1に係る不揮発性記憶素子の容量-電圧特性(C-V特性)の測定結果を示す図である。
図5】実施例1に係る不揮発性記憶素子の情報保持特性の測定結果を示す図である。
図6】比較例4に係る不揮発性記憶素子の情報保持特性の測定結果を示す図である。
図7】実施例1~5に係る各不揮発性記憶素子のヒステリシス特性-熱処理温度特性を示す図である。
図8】比較例1~5に係る各不揮発性記憶素子のヒステリシス特性-熱処理温度特性を示す図である。
図9】ヒステリシス電圧のAl/SiO厚み依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る不揮発性記憶素子の第1実施形態に係る断面構造図である。
図1に示すように、第1実施形態に係る不揮発性記憶素子1は、シリコン半導体基板2、シリコン酸化物下地層3(以下、SiO下地層3)、第1絶縁層としてのアルミニウム酸化物層4(以下、Al層4)、O-M-O層5、第2絶縁層としてのシリコン酸化物層6(以下、SiO層6)、アルミニウム酸化物金属電極下地層7(以下、Al金属電極下地層7)及び金属電極8で構成される。
【0015】
異なる組成で形成されるAl層4及びSiO層6は、交互に複数(2つずつ)配され、これらの接合界面にAl層4及びSiO層6を構成する元素以外の金属元素Mと酸素との化学結合で形成されるO-M-O層5が配される。
本発明に係る前記不揮発性記憶素子は、異なる組成で形成される2つの絶縁層をAl層4とSiO層6とで構成することを技術の核とする。
このような構成とすることで、長時間の情報保持特性が得られるとともに、優れた耐熱性が得られる。優れた耐熱性は、前記ALD法による堆積後に行う高温での後熱処理に対する耐性を与え、ALD法を用いた前記不揮発性記憶素子の実用的な量産方法を提示可能とする。
【0016】
Al層4、O-M-O層5及びSiO層6で構成される積層構造部は、外部電気刺激によりO-M-O層5近傍に誘起される界面ダイポールの変調を可能とする。
前記界面ダイポールとは、Al層4とSiO層6との間のポテンシャル差を意味する。
誘電率の大きなアルミニウム酸化物(Al)が、正電荷を有するAl原子と負電荷を有するO原子とで小さなポテンシャル変動を生じさせる一方で、誘電率の小さなシリコン酸化物(SiO)は、正電荷のSi原子と負電荷のO原子とで大きなポテンシャル変動を生じさせる。その結果、Al層4とSiO層6との間に前記界面ダイポールが誘起される。
また、この際、Al層4とSiO層6とを交互に配することで、中間のSiOを共有する形でAl/SiOとSiO/Alとの2種類の対向する界面に2層のO-M-O層5が形成され、上下のAl間に生じるポテンシャル差をAl/SiO界面に1層のO-M-O層5を配する構成に比べて大きくすることができる。
前記界面ダイポールは、外部電気刺激により、前記接合界面近傍のO原子及びM原子の位置を変化させることで変調可能とされ、不揮発性記憶素子1では、外部電気刺激を制御することで、前記界面ダイポールの変調現象を利用した不揮発性の情報記憶動作を行う。
前記界面ダイポールの変調は、外部電気刺激を与えたときの容量-電圧特性におけるヒステリシス電圧として観測することができ、ヒステリシス電圧が大きい程、変調幅の大きな優れた情報記憶特性が得られる。
【0017】
Al層4の厚みとしては、大きなヒステリシス電圧を得る観点から、2nm以下であることが好ましく、1nm以下であることが特に好ましい。
また、SiO層6の厚みとしても、大きなヒステリシス電圧を得る観点から、2nm以下であることが好ましく、1nm以下であることが特に好ましい。
これらAl層4及びSiO層6の厚みの下限としては、特に制限はなく、単分子層の厚みとなる。
【0018】
O-M-O層5の厚みは、1分子層~2分子層の厚みであり、形成面への被覆率(1.0以下)を乗算して、0.5分子層~2.0分子層として前記接合界面に配される。
金属元素Mとしては、例えば、マグネシウム、チタン、ストロンチウム、イットリウム、ランタン、タンタル、ガリウム、アンチモンから選択される1つ以上の元素が挙げられるが、中でも、チタンが好ましい。
また、図1に示す例では、O-M-O層5が4層とされるが、前記界面ダイポールを変調可能なO-M-O層5の層数が多い程、大きなヒステリシス電圧が得られやすいことから、6層以上が好ましく、8層以上がより好ましく、12層以上が特に好ましい。なお、この層数の上限としては、要求性能や製造し易さの観点から20層程度である。
【0019】
Al層4、O-M-O層5及びSiO層6で構成される前記積層構造部の各構成層の形成方法としては、前記ALD法による堆積工程と、良膜化のための後熱処理として、前記堆積工程後に250℃以上の温度で加熱する後熱工程とを含む形成方法が好ましい。前記堆積工程及び前記後熱工程としては、公知のALD装置、加熱装置等により実施することができる。
前記ALD法は、1度に大面積での成膜を行うことが可能であることから、この形成方法によれば、不揮発性記憶素子1を実用的に量産することができる。
前記後熱工程における加熱温度としては、低くとも250℃あれば、特に制限はないが、より緻密な構造を得る観点から、350℃以上が好ましく、450℃以上が特に好ましい。なお、この加熱温度の上限としては、600℃程度である。
【0020】
不揮発性記憶素子1の例では、シリコン半導体基板2の表面上に積層されるSiO下地層3が配される。この構造は、公知のシリコン半導体基板の表層を熱酸化して形成することができ、界面準位密度が低い絶縁層/半導体構造が得られる。
【0021】
また、不揮発性記憶素子1の例では、SiO下地層3上に積層されるAl層4側の面を底面として前記積層構造部の最表面がSiO層6とされ、前記最表面上にO-M1-O層5とAl金属電極下地層7と金属電極8とがこの順で積層される。
前記積層構造部の前記最表面におけるSiO層6とAl金属電極下地層7との接合界面は、SiO層6とAl層4との接合界面と同様、O-M-O層5を備えることで、SiO/Alとの接合界面におけるO-M-O層5の近傍に前記界面ダイポールを誘起させることができ、この意味で、前記最表面におけるSiO層6、O-M-O層5及びAl金属電極下地層7の構造は、前記積層構造部と共通した役割を持つ。前記界面ダイポールを変調可能なO-M-O層5の層数との表現には、このSiO層6とAl金属電極下地層7との接合界面に配されるO-M-O層5も含まれる。
ただし、Al金属電極下地層7は、Al層4と異なり、金属電極8の下地層としての役割を持ち、厚みがAl層4から独立して設定される。
Al金属電極下地層7の厚みとしては、1nm~5nmが好ましく、前記厚みが1nm未満であるとこの層での変調動作が起こらないことがあり、5nmを超えると変調動作を得るのに高い電圧を要することがある。
なお、Al金属電極下地層7としては、Al層4と同じ形成方法で形成することができる。
また、金属電極8としては、イリジウム、金、アルミニウム、窒化チタン等の公知の電極材料を形成材料として、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法、スパッタ方等の公知の形成方法により形成することができる。
また、本発明に係る不揮発性記憶素子としては、不揮発性記憶素子1の例に代えて、SiO下地層3と、このSiO下地層3上に積層されるAl層4との間にO-M-O層5を備えた変形例として構成することもできる。この変形例に係るSiO下地層3と、Al層4との間のO-M-O層5も前記界面ダイポールを変調可能であり、前記界面ダイポールを変調可能なO-M-O層5の層数にカウントされると同時に大きなヒステリシス電圧を得るうえで有益である。この場合、SiO下地層3と、Al層4との間のO-M-O層5としては、他のO-M-O層5と同じ形成方法で形成することができる。
【0022】
このように構成される不揮発性記憶素子1では、金属電極8に電圧を加えると、電界の作用により前記各接合界面近傍の酸素原子及びM原子がわずかに移動し、静電ポテンシャル分布に変化が生じる。酸素原子及びM原子の移動がわずかであっても、前記界面ダイポール(ポテンシャル差)は、酸素原子及びM原子の位置(電荷分布)に敏感であり、静電ポテンシャル分布の変化は、大きなものとなる。また、金属電極8に逆方向電圧を加えると、酸素原子とM原子とが逆方向に移動し、元の静電ポテンシャル分布に戻る。
即ち、不揮発性記憶素子1は、金属電極8に対する電圧制御によって前記界面ダイポール(ポテンシャル差)の変調を制御し、不揮発性の情報記憶動作を行うことができる。
なお、不揮発性記憶素子1は、MOS(Metal-Oxide-Semiconductor)キャパシタの構造を持ち、容量-電圧特性(C-V特性)を測定すると、シリコン半導体基板2がp型半導体である場合に時計回り、n型半導体である場合に反時計回りのヒステリシス特性が確認される。このヒステリシス特性は、金属電極-絶縁膜-半導体で形成される一般的なMOSキャパシタがキャリア捕獲によって示す、p型半導体である場合に反時計回り、n型半導体である場合に時計回りのヒステリシス特性と逆の関係を持つ。
【0023】
(第2実施形態)
図2は、本発明に係る不揮発性記憶素子の第2実施形態に係る断面構造図である。
図2に示すように、第2実施形態に係る不揮発性記憶素子10は、シリコン半導体基板2に代えてシリコン半導体基板11上に第1実施形態に係る不揮発性記憶素子1におけるSiO下地層3、Al層4、O-M-O層5、SiO層6、Al金属電極下地層7及び金属電極8を配して構成される。これら、SiO下地層3、Al層4、O-M-O層5、SiO層6、Al金属電極下地層7及び金属電極8は、不揮発性記憶素子1と同様に形成することができる。
【0024】
シリコン半導体基板11は、p型(第1導電型)とされるとともに基板中にn型の半導体領域が形成され、p型(第1導電型)の半導体領域と、一部が表面から露出される状態で互いに離間して配されるn型(第2導電型)のソース領域12及びドレイン領域13とを有する。なお、図示の例と異なり、シリコン半導体基板11をn型としてもよく、この場合、p型のソース領域12及びドレイン領域13を形成する。
シリコン半導体基板11としては、p型、n型とも公知のものを用いることができ、また、シリコン半導体基板11に対するソース領域12及びドレイン領域13の形成方法としては、例えば、イオン注入法等の公知の形成方法が挙げられる。
【0025】
このように構成される不揮発性記憶素子10は、ソース(S)、ドレイン(D)及びゲート(G)の3端子型の電界効果トランジスタ構造を有する。
不揮発性記憶素子10の動作原理は、前記界面ダイポールの変調に基づく閾値変化を利用すること以外は、ゲート積層構造にトラップされる電荷による閾値変化を利用するフラッシュメモリとほぼ同じである。
即ち、金属電極8をゲート電極として、前記ゲート電極に与える電気信号によりO-M1-O層5近傍に誘起される前記界面ダイポールの強度又は極性を変化させて前記界面ダイポールに変調を与えることで情報を書き込み、また、与えられる前記界面ダイポールの変調に基づいて前記電界効果トランジスタ構造の閾値(例えば、フラットバンド電圧)に変化を与えたときにソース領域12-ドレイン領域13間の電流値が変化することを利用して情報を読み出す。
この際、不揮発性記憶素子10では、異なる組成で形成される2つの絶縁層がAl層4とSiO層6とで構成されるため、優れた情報保持特性を発揮する。
また、不揮発性記憶素子10は、その構成元素がシリコンデバイスとして一般的なもので、特別なプロセス技術が必要でないことから、既存の製造設備を利用して容易に製造することができる。加えて、1度に大面積での成膜が可能な前記ALD法を用いた製造方法により、実用的に量産することができる。
【実施例0026】
(実施例1~5)
図1に示す不揮発性記憶素子1の構造に準じて、次のように実施例1に係る不揮発性記憶素子を製造した。ただし、実施例1に係る不揮発性記憶素子は、Al層4、O-M-O層5、SiO層6及びO-M-O層5の繰り返し単位構造Aの形成を6度繰り返し、前記界面ダイポールを変調可能なO-M-O層5の層数を12層としている。
【0027】
先ず、表層が5nmの厚みで熱酸化されたp型シリコン半導体基板を用意し、これをシリコン半導体基板2及びSiO下地層3とした。
次に、枚葉式ALD装置を用いたALD法による形成方法により、SiO下地層3上に、厚みが1.5nmのAl層4と、厚みが0.14nmのTiO層(O-M-O層5)と、厚みが1.5nmのSiO層6と、同じく厚みが0.14nmのTiO層(O-M-O層5)とで構成される繰り返し単位構造Aの形成を6度繰り返してO-M-O層5を12層とし、最後に厚みが3.5nmのAl金属電極下地層7を形成して試料を形成した(堆積工程)。また、この試料を真空排気が可能な横型外熱式加熱炉に入れ、O/Ar(21体積%)の混合ガス雰囲気中において350℃の加熱温度で30分間の後熱処理を行った(後熱工程)。
次に、ステンシルマスクを用いた蒸着法によりAl金属電極下地層7上に厚みが50nmのイリジウム(Ir)層を蒸着して金属電極8を形成した。なお、前記イリジウム(Ir)層の蒸着は、電子ビーム蒸着装置を用いて行った。
以上により、実施例1に係る不揮発性記憶素子を製造した。
【0028】
また、前記後熱工程における加熱温度を350℃から250℃,300℃,400℃,450℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~5に係る各不揮発性記憶素子を製造した。
250℃の加熱温度で製造したものが実施例2、300℃の加熱温度で製造したものが実施例3、400℃の加熱温度で製造したものが実施例4、450℃の加熱温度で製造したものが実施例5に係る不揮発性記憶素子である。
【0029】
(比較例1~5)
前記ALD法による形成方法により、厚みが1.5nmのAl層4に代えて厚みが2.0nmのHfO層を形成し、厚みが1.5nmのSiO層6に代えて厚みが2.0nmのSiO層を形成し、繰り返し単位構造Aの形成を3度繰り返してO-M-O層5を6層とし、厚みが3.5nmのAl金属電極下地層7に代えて厚みが4.0nmのHfO層を形成したこと、前記後熱工程における加熱温度を350℃から450℃に変更したこと、厚みが50nmのイリジウム(Ir)層に代えて厚みが50nmの金(Au)層を抵抗加熱蒸着装置により形成して金属電極8としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る不揮発性記憶素子を製造した。
【0030】
また、前記後熱工程における加熱温度を450℃から250℃,300℃,350℃,400℃に変更したこと以外は、比較例1と同様にして、比較例2~5に係る各不揮発性記憶素子を製造した。
250℃の加熱温度で製造したものが比較例2、300℃の加熱温度で製造したものが比較例3、350℃の加熱温度で製造したものが比較例4、400℃の加熱温度で製造したものが比較例5に係る不揮発性記憶素子である。
【0031】
<容量-電圧特性(C-V特性)>
実施例1及び比較例1に係る各不揮発性記憶素子に対し、キーサイト・テクノロジー社製、E4980A(LCRメータ)を用いて、次のように容量-電圧特性(C-V特性)の測定試験を行った。
先ず、1MHzの高周波C-V測定を金属電極8に正電圧から負電圧までの負方向に掃引されるゲート電圧を与え、引き続き負電圧から正電圧までの正方向に掃引されるゲート電圧を再度与える方法(ダブルスイープ)により行い、容量-電圧特性(C-V特性)の測定結果を得た。
なお、ゲート電圧の設定は、実施例1に係る不揮発性記憶素子に対しては、負電圧及び正電圧をそれぞれ-11Vと+11Vとで設定し、比較例1に係る不揮発性記憶素子に対しては、実施例1に係る不揮発性記憶素子よりも総酸化膜厚が薄いため、負電圧及び正電圧をそれぞれ-7Vと+7Vとで低く設定した。
このような測定方法によれば、正負のゲート電圧印加によって起こるポテンシャル変化の大きさを評価することができる。
【0032】
実施例1に係る不揮発性記憶素子の容量-電圧特性(C-V特性)の測定結果を図3に示す。
図3に示すように、実施例1に係る不揮発性記憶素子では、時計回りのヒステリシス特性が確認される。この時計回りのヒステリシス特性は、前記界面ダイポール変調によるMOS閾値電圧(例えば、フラットバンド電圧)の変化が生じていることを意味する。
なお、前記界面ダイポールの変調によらない金属-絶縁体-半導体で形成される一般的なMOSキャパシタの構造では、p型半導体からの正孔注入により、反時計回りのヒステリシス特性となる。
【0033】
次に、比較例1に係る不揮発性記憶素子の容量-電圧特性(C-V特性)の測定結果を図4に示す。
図4に示すように、比較例1に係る不揮発性記憶素子では、反時計回りのヒステリシス特性が確認され、また、ヒステリシス電圧も小さいことが確認される。このことから、比較例1に係る不揮発性記憶素子では、前記界面ダイポール変調が生じていないと結論付けられる。
【0034】
<情報保持特性>
次に、実施例1及び比較例4に係る各不揮発性記憶素子に対し、C-V特性の測定試験と同じ装置を用いて、情報保持特性の測定試験を行った。
具体的には、正電圧及び負電圧のいずれかに固定してゲート電圧を印加した後に、0V付近で容量値の時間依存性を測定した。ただし、負電圧を印加した後に正電圧を印加する際は、可視光照射下で5kHzの低周波測定行った。この電圧印加条件は、シリコン半導体基板2に少数キャリアを生成して反転状態を形成して十分な電界を発生するために必要となる。
なお、比較例4は、実施例1と同様に350℃の加熱温度で後熱処理を行った試料に係る。
【0035】
実施例1に係る不揮発性記憶素子の情報保持特性の測定結果を図5に示す。
図5に示すように、実施例1に係る不揮発性記憶素子では、10万秒を超えても、十分な情報保持特性を有している。
次に、比較例4に係る不揮発性記憶素子の情報保持特性の測定結果を図6に示す。
図6に示すように、比較例4に係る不揮発性記憶素子では、10万秒を超えると、情報を保持できない。
以上から、異なる2つの絶縁層をHfO/SiOで形成するよりも、Al/SiOで形成する方が、より長く情報を保持することができると結論付けられる。
【0036】
<耐熱性>
次に、実施例1~5及び比較例1~5に係る各不揮発性記憶素子のヒステリシス特性-熱処理温度特性から耐熱性を評価する。
実施例1~5に係る各不揮発性記憶素子のヒステリシス特性-熱処理温度特性を図7に、比較例1~5に係る各不揮発性記憶素子のヒステリシス特性-熱処理温度特性を図8に、それぞれ示す。
なお、各図中の縦軸、ヒステリシス電圧(V)は、前記C-V特性の測定試験から見積もられるフラットバンド電圧の変化量であり、正値は、前記界面ダイポール変調に基づく時計回りのヒステリシス特性を持つことを意味し、負値は、前記界面ダイポール変調によらない反時計回りのヒステリシス特性を持つことを意味する。
【0037】
図7に示すように、先に検証を行った実施例1に係る不揮発性記憶素子(350℃の後熱処理)以外の実施例2~5に係る各不揮発性記憶素子(250℃、300℃、400℃、450℃の後熱処理)においても、ヒステリシス電圧(V)が正値であり、前記界面ダイポール変調に基づく時計回りのヒステリシス特性を持つ。特に、実施例5に係る不揮発性記憶素子(450℃の後熱処理)は、大きなヒステリシス電圧を有し、高性能のメモリ動作を可能とする。
一方、図8に示すように、先に検証を行った比較例1に係る不揮発性記憶素子(450℃の後熱処理)以外の比較例5に係る不揮発性記憶素子においても、ヒステリシス電圧(V)が負値であり、前記界面ダイポール変調が生じていないと結論付けられる。
前記後熱工程において、400℃以上の温度でALD成膜後の加熱を行うと、前記界面ダイポール変調に基づくメモリ特性が失われることは、非特許文献2においても指摘されており、今般の検証においても、同様の結果が得られた。
以上から、異なる2つの絶縁層をHfO/SiOで形成するよりも、Al/SiOで形成する方が、耐熱性に優れていると結論付けられる。
【0038】
(実施例6~9)
次に、Al層4及びSiO層6の好適な厚みについて検証する。
【0039】
Al層4の厚みを1.5nmから0.5nmに変更し、SiO層6の厚みを1.5nmから0.5nmに変更し、繰り返し単位構造Aの形成を4度繰り返してO-M-O層5を8層とし、前記後熱工程における加熱温度を350℃から400℃に変更し、厚みが50nmのイリジウム(Ir)層に代えて厚みが50nmのアルミニウム(Al)層を抵抗加熱蒸着装置により形成して金属電極8としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係る不揮発性記憶素子を製造した。
【0040】
また、Al層4及びSiO層6の厚みをそれぞれ1.0nm,2.0nm,3.0nmに変更したこと以外は、実施例6と同様にして、実施例7~9に係る各不揮発性記憶素子を製造した。
1.0nmの厚みで製造したものが実施例7、2.0nmの厚みで製造したものが実施例8、3.0nmの厚みで製造したものが実施例9に係る不揮発性記憶素子である。
【0041】
ヒステリシス特性-熱処理温度特性について説明したヒステリシス電圧を縦軸、Al層4及びSiO層6の厚みを横軸にとることで得られるヒステリシス電圧のAl/SiO厚み依存性を図9に示す。
図9に示すように、実施例6~9に係る各不揮発性記憶素子は、いずれもヒステリシス電圧が正値であり、前記界面ダイポール変調に基づく時計回りのヒステリシス特性を持つものの、Al層4及びSiO層6の厚みが厚くなるにつれて、ヒステリシス電圧が減少する傾向が確認され、厚みが3.0nmであると、ヒステリシス電圧がおよそ0.1V程度となる。
そのため、大きなヒステリシス電圧による高性能のメモリ動作を得る観点から、Al層4及びSiO層6の好適な厚みは、2.0nm以下であると結論付けられる。
【符号の説明】
【0042】
1,10 不揮発性記憶素子
2,11 シリコン半導体基板
3 SiO下地層
4 Al層(第1絶縁層)
5 O-M-O層
6 SiO層(第2絶縁層)
7 Al下地層
8 金属電極
12 ソース領域
13 ドレイン領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9