IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トクヤマの特許一覧 ▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧

特開2022-96487S体のアリルアシロキシ誘導体の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022096487
(43)【公開日】2022-06-29
(54)【発明の名称】S体のアリルアシロキシ誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 41/00 20060101AFI20220622BHJP
【FI】
C12P41/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020209614
(22)【出願日】2020-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】関 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】真島 和志
(72)【発明者】
【氏名】劒 隼人
(72)【発明者】
【氏名】スキヒリ アイマン
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AD61
4B064CA21
4B064CB28
4B064CD27
4B064DA16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】S体のアリルアシロキシ誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】リパーゼの存在下、下記式(I):

で表されるアリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I)と、下記式(II):

で表される化合物(II)とを接触させて、S体のアリルアシロキシ誘導体及び、R体のアリルアルコール誘導体を得る工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リパーゼの存在下、下記式(I):
【化1】
[式中、Rは、アルキル基、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアリール基、又は、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルキル基を表し、波線は、S配置及びR配置の混合状態を表す。]
で表されるアリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I)と、下記式(II):
【化2】
[式中、Rは、水素原子、アルキル基、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアリール基、又は、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルキル基を表し、Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アシル基、アロイル基、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアリール基、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルキル基、又は、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルケニル基を表す。]
で表される化合物(II)とを接触させて、下記式(III):
【化3】
[式中、R及びRは、前記と同義である。]
で表されるS体のアリルアシロキシ誘導体(III)及び下記式(IV):
【化4】
[式中、Rは、前記と同義である。]
で表されるR体のアリルアルコール誘導体(IV)を得る工程を含む、S体のアリルアシロキシ誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記アリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I) 1g当たりの前記リパーゼの使用量が、1~10000Uのオリーブ油分解活性を有する量である、請求項1に記載のS体のアリルアシロキシ誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記工程が、前記リパーゼと前記アリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I)と前記化合物(II)とを含む混合物を、10分間~3時間、攪拌することを含む、請求項1又は2に記載のS体のアリルアシロキシ誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、S体のアリルアシロキシ誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α-リポ酸は、強力な酸化作用を有し、糖尿病合併症治療薬、サプリメント等として有用な化合物である(例えば、非特許文献1~2)。炭素数8の化合物であるα-リポ酸の合成法の多くは、炭素数8未満の化合物を出発原料として、炭素-炭素結合形成反応を利用して合成する方法である。例えば、非特許文献3には、以下に示すように、1,3-プロパンジオールを出発原料として、炭素-炭素結合形成反応を含む多段階工程を経て、α-リポ酸を製造する方法について記載されている。
【0003】
【化1】
【0004】
しかしながら、従来のα-リポ酸の製造方法は、上記のように多段階工程を経る必要があるため、煩雑であり、製造コストも高くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Science 1951,114,93
【非特許文献2】Free Radical Biol. Med. 1999,27,309
【非特許文献3】Tetrahedron Asymmetry 2015,26,281
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、従来法より工程数の少ないα-リポ酸の製造方法を開発している。この方法では、以下に示すように、アリルアルコール誘導体である7-オクテン酸エステルを出発原料として使用して、5段階の反応を経て、α-リポ酸を製造することができる。なお、「Ph」はフェニル基、「Ac」はアセチル基、「1,4-BQ」は1,4-ベンゾキノン、「Et」はエチル基、「Ms」はメタンスルホニル基、「Lit」は公知文献(例えば、非特許文献3)に記載の方法を表す。
【0007】
【化2】
【0008】
従来法及び本発明者らが開発した方法では、アリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(例えば、ラセミ混合物)が原料として使用されるため、α-リポ酸はエナンチオマー混合物(例えば、ラセミ混合物)として得られる。したがって、光学活性体である(R)-α-リポ酸を得るためには、光学分割を行う必要がある。この点、S体のアリルアシロキシ誘導体を原料として使用すれば、光学分割を行わなくても、光学活性体である(R)-α-リポ酸を得ることができる。
【0009】
そこで、本発明は、S体のアリルアシロキシ誘導体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、リパーゼの存在下、下記式(I):
【化3】
[式中、Rは、アルキル基、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアリール基、又は、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルキル基を表し、波線は、S配置及びR配置の混合状態を表す。]
で表されるアリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I)と、下記式(II):
【化4】
[式中、Rは、水素原子、アルキル基、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアリール基、又は、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルキル基を表し、Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アシル基、アロイル基、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアリール基、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルキル基、又は、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルケニル基を表す。]
で表される化合物(II)とを接触させて、下記式(III):
【化5】
[式中、R及びRは、前記と同義である。]
で表されるS体のアリルアシロキシ誘導体(III)及び下記式(IV):
【化6】
[式中、Rは、前記と同義である。]
で表されるR体のアリルアルコール誘導体(IV)を得る工程を含む、S体のアリルアシロキシ誘導体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、S体のアリルアシロキシ誘導体の製造方法が提供される。S体のアリルアシロキシ誘導体を原料として使用すれば、光学分割を行わなくても、光学活性体である(R)-α-リポ酸を得ることができる。なお、(R)-α-リポ酸の構造式は以下の通りである。
【0012】
【化7】
【発明を実施するための形態】
【0013】
<用語の説明>
以下、本明細書で用いられる用語について説明する。以下の説明は、別段規定される場合を除き、本明細書を通じて適用される。
【0014】
アルキル基
アルキル基の炭素数は、例えば1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~8、より一層好ましくは1~6である。アルキル基の炭素数は、1~5、1~4又は1~3であってもよい。アルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0015】
アルケニル基
アルケニル基の炭素数は、例えば2~20、好ましくは2~10、より好ましくは2~8、より一層好ましくは2~6である。アルケニル基の炭素数は、2~5、2~4又は2~3であってもよい。アルケニル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0016】
アリール基
アリール基は、例えば、単環式又は多環式(例えば、二環式又は三環式)の芳香族炭化水素環基である。多環式の芳香族炭化水素環基において、複数の芳香族炭化水素環は別々に存在していてもよいし、縮合環を形成していてもよい。アリール基の炭素数は、例えば4~20、好ましくは6~20、より好ましくは6~14、より一層好ましくは6~10である。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル、テルフェニル等が挙げられる。
【0017】
アリール基は、1以上の置換基を芳香族炭化水素環上に有していてもよい。アリール基が芳香族炭化水素環上に有し得る置換基の数は、例えば1~4、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。置換基の数が2以上である場合、2以上の置換基は同一であってもよいし、異なっていてもよい。1以上の置換基は、それぞれ独立して、後述する置換基群αから選択することができる。
【0018】
アラルキル基
アラルキル基は、1以上のアリール基を有するアルキル基である。アルキル基及びアリール基に関する上記説明は、アラルキル基に含まれるアルキル基及びアリール基にも適用される。アラルキル基に含まれるアリール基の数は、例えば1~3、好ましくは1又は2、より好ましくは1である。アラルキル基の炭素数は、例えば7~32、好ましくは7~20、より好ましくは7~18、より一層好ましくは7~16である。アラルキル基の炭素数は、7~14、7~12又は7~10であってもよい。アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基、トリチル基、ビフェニルメチル基、テルフェニルメチル基等が挙げられる。
【0019】
アラルキル基は、1以上の置換基を芳香族炭化水素環上に有していてもよい。アラルキルが芳香族炭化水素環上に有し得る置換基の数は、例えば1~4、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。置換基の数が2以上である場合、2以上の置換基は同一であってもよいし、異なっていてもよい。1以上の置換基は、それぞれ独立して、後述する置換基群αから選択することができる。
【0020】
アラルケニル基
アラルケニル基は、1以上のアリール基を有するアルケニル基である。アルケニル基及びアリール基に関する上記説明は、アラルケニル基に含まれるアルケニル基及びアリール基にも適用される。アラルケニル基に含まれるアリール基の数は、例えば1~3、好ましくは1又は2、より好ましくは1である。アラルケニル基の炭素数は、例えば8~32、好ましくは8~20、より好ましくは8~18、より一層好ましくは8~16である。アラルケニル基の炭素数は、8~14、8~12又は8~10であってもよい。アラルケニル基としては、例えば、スチリル基、2-フェニル-1-プロペニル基、3-フェニル-2-プロペニル基、3-フェニル-2-ブテニル基、2-ナフチルエテニル基等が挙げられる。
【0021】
アラルケニル基は、1以上の置換基を芳香族炭化水素環上に有していてもよい。アラルケニル基が芳香族炭化水素環上に有し得る置換基の数は、例えば1~4、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。置換基の数が2以上である場合、2以上の置換基は同一であってもよいし、異なっていてもよい。1以上の置換基は、それぞれ独立して、後述する置換基群αから選択することができる。
【0022】
アシル基
アシル基は、式:-CO-Q[式中、Qは、アルキル基を表す。]で表される基である。アルキル基に関する上記説明は、Qで表されるアルキル基にも適用される。
【0023】
アロイル基
アロイル基は、式:-CO-Q[式中、Qは、アリール基を表す。]で表される基である。アリール基に関する上記説明は、Qで表されるアリール基にも適用される。
【0024】
置換基群α
置換基群αは、以下の置換基から構成される。
(α-1)ハロゲン原子
(α-2)ニトリル基
(α-3)ニトロ基
(α-4)ハロゲン原子を有していてもよいジアルキルアミノ基
(α-5)ハロゲン原子を有していてもよいアルキル基
(α-6)ハロゲン原子を有していてもよいアルコキシ基
(α-7)ハロゲン原子を有していてもよいアルキルカルボニルオキシ基
(α-8)ハロゲン原子を有していてもよいアルキルオキシカルボニル基
【0025】
(α-1)及び(α-4)~(α-8)において、ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選択される。
【0026】
(α-4)において、ジアルキルアミノ基は、式:-N(-Q)(-Q)[式中、Q及びQは、それぞれ独立して、アルキル基を表す。]で表される基である。Q及びQで表されるアルキル基の炭素数は、それぞれ、例えば1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~5、より一層好ましくは1~2である。Q及びQで表されるアルキル基は、それぞれ、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。Q及びQで表されるアルキル基は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。ジアルキルアミノ基が有し得るハロゲン原子の数は、例えば1~4、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。
【0027】
(α-5)において、アルキル基の炭素数は、例えば1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~5、より一層好ましくは1~2である。アルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。アルキル基が有し得るハロゲン原子の数は、例えば1~4、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。
【0028】
(α-6)において、アルコキシ基は、式:-O-Q[式中、Qは、アルキル基を表す。]で表される基である。Qで表されるアルキル基の炭素数は、例えば1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~5、より一層好ましくは1~2である。Qで表されるアルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。アルコキシ基が有し得るハロゲン原子の数は、例えば1~4、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。
【0029】
(α-7)において、アルキルカルボニルオキシ基は、式:-O-CO-Q[式中、Qは、アルキル基を表す。]で表される基である。Qで表されるアルキル基の炭素数は、例えば1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~5、より一層好ましくは1~2である。Qで表されるアルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。アルキルカルボニルオキシ基が有し得るハロゲン原子の数は、例えば1~4、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。
【0030】
(α-8)において、アルキルオキシカルボニル基は、式:-CO-O-Q[式中、Qは、アルキル基を表す。]で表される基である。Qで表されるアルキル基の炭素数は、例えば1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~5、より一層好ましくは1~2である。Qで表されるアルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。アルキルオキシカルボニル基が有し得るハロゲン原子の数は、例えば1~4、好ましくは1~3、より好ましくは1又は2である。
【0031】
<アリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I)>
アリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I)は、下記式(I)で表される。
【化8】
【0032】
式(I)において、Rは、アルキル基、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアリール基、又は、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルキル基を表し、好ましくは、アルキル基を表す。
【0033】
アルキル基、アリール基、アラルキル基及び置換基に関する上記説明は、Rにも適用される。
【0034】
で表されるアルキル基は、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基又はプロピル基であり、より一層好ましくは、メチル基又はエチル基である。
【0035】
で表される、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアリール基は、好ましくは、非置換のアリール基であり、より好ましくは、フェニル基である。
【0036】
で表される、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルキル基は、好ましくは、非置換のアラルキル基であり、より好ましくは、ベンジル基である。
【0037】
式(I)において、波線は、S配置及びR配置の混合状態を表す。
【0038】
アリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I)は、式(I)における波線がS配置であるS体と、式(I)における波線がR配置であるR体とを含む。アリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I)は、S体及びR体を等量含むエナンチオマー混合物(すなわち、ラセミ混合物)であってもよいし、S体及びR体の一方を過剰に含むエナンチオマー混合物であってもよい。
【0039】
S体を過剰に含むエナンチオマー混合物において、S体のエナンチオマー過剰率は、例えば30~100%ee、好ましくは50~100%ee、より好ましくは70~100%eeである。S体のエナンチオマー過剰率は、30~50%ee、30~70%ee又は50~70%eeであってもよい。S体のエナンチオマー過剰率は、下記式に基づいて算出することができ、エナンチオマー混合物に含まれるS体及びR体のモル量は、実施例に記載の方法に従って実施することができる。
S体のエナンチオマー過剰率=((エナンチオマー混合物に含まれるS体のモル量)-(エナンチオマー混合物に含まれるR体のモル量))/((エナンチオマー混合物に含まれるS体のモル量)+(エナンチオマー混合物に含まれるR体のモル量))×100
【0040】
R体を過剰に含む混合物において、R体のエナンチオマー過剰率は、例えば30~100%ee、好ましくは50~100%ee、より好ましくは70~100%eeである。R体のエナンチオマー過剰率は、30~50%ee、30~70%ee又は50~70%eeであってもよい。R体のエナンチオマー過剰率は、下記式に基づいて算出することができ、エナンチオマー混合物に含まれるS体及びR体のモル量は、実施例に記載の方法に従って実施することができる。
R体のエナンチオマー過剰率=((エナンチオマー混合物に含まれるR体のモル量)-(エナンチオマー混合物に含まれるS体のモル量))/((エナンチオマー混合物に含まれるR体のモル量)+(エナンチオマー混合物に含まれるS体のモル量))×100
【0041】
<化合物(II)>
化合物(II)は、下記式(II)で表される。化合物(II)は、アシル基供与体の役割を果たす。
【化9】
【0042】
式(II)において、Rは、水素原子、アルキル基、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアリール基、又は、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルキル基を表し、好ましくは、水素原子又はアルキル基を表し、より好ましくは、アルキル基を表す。
【0043】
アルキル基、アリール基、アラルキル基及び置換基に関する上記説明は、Rにも適用される。
【0044】
で表されるアルキル基は、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基又はプロピル基であり、より一層好ましくは、メチル基又はエチル基である。
【0045】
で表される、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアリール基は、好ましくは、非置換のアリール基であり、より好ましくは、フェニル基である。
【0046】
で表される、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルキル基は、好ましくは、非置換のアラルキル基であり、より好ましくは、ベンジル基である。
【0047】
式(II)において、Rは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アシル基、アロイル基、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアリール基、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルキル基、又は、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルケニル基を表し、好ましくは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアリール基、又は、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルケニル基を表し、より好ましくは、アルケニル基を表す。
【0048】
アルキル基、アルケニル基、アシル基、アロイル基、アリール基、アラルキル基、アラルケニル基及び置換基に関する上記説明は、Rにも適用される。
【0049】
で表されるアルキル基は、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基又はプロピル基であり、より一層好ましくは、メチル基又はエチル基である。
【0050】
で表されるアルケニル基は、好ましくは、ビニル基である。
【0051】
で表されるアシル基は、好ましくは、アセチル基である。
【0052】
で表されるアロイル基は、好ましくは、ベンゾイル基である。
【0053】
で表される、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアリール基は、好ましくは、非置換のアリール基であり、より好ましくは、フェニル基である。
【0054】
で表される、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルキル基は、好ましくは、非置換のアラルキル基であり、より好ましくは、ベンジル基である。
【0055】
で表される、置換基を芳香族炭化水素環上に有してもよいアラルケニル基は、好ましくは、非置換のアラルケニル基であり、より好ましくは、3-フェニル-2-プロペニル基(シンナミル基)である。
【0056】
化合物(II)としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、安息香酸等のカルボン酸;ギ酸メチル、ギ酸ビニル、ギ酸シンナミル、ギ酸フェニル、酢酸エチル、酢酸ビニル、酢酸シンナミル、酢酸フェニル、プロピオン酸ビニル、ブタン酸ビニル、ペンタン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル等のカルボン酸エステル;無水酪酸、無水吉草酸、無水安息香酸、無水コハク酸等のカルボン酸無水物等が挙げられるが、好ましくは、カルボン酸エステルであり、より好ましくは、カルボン酸ビニルエステルであり、より一層好ましくは、酢酸ビニルである。化合物(II)としてカルボン酸ビニルエステルを使用する場合、アシル化反応においてアセトアルデヒドが生じるが、生じたアセトアルデヒドは反応を阻害しないため、好適である。
【0057】
<S体のアリルアシロキシ誘導体(III)>
S体のアリルアシロキシ誘導体(III)は、下記式(III)で表される。S体のアリルアシロキシ誘導体(III)は、上述したように、α-リポ酸合成のための中間体として使用することができる。
【化10】
【0058】
式(III)におけるRは、式(I)におけるRと同義であり、式(III)におけるRは、式(II)におけるRと同義である。
【0059】
<R体のアリルアルコール誘導体(IV)>
R体のアリルアルコール誘導体(IV)は、下記式(IV)で表される。R体のアリルアルコール誘導体(IV)は、医薬品の合成中間体として使用することができる。また、公知の方法でR体のアリルアルコール誘導体(IV)をラセミ化させることにより、アリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I)が得られる。このエナンチオマー混合物(I)について、本発明の製造方法を適用することにより、S体のアリルアルコキシ誘導体(III)を得ることができる。
【化11】
【0060】
式(IV)におけるRは、式(I)におけるRと同義である。
【0061】
<本発明の製造方法>
本発明は、リパーゼの存在下、アリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I)と化合物(II)とを接触させて、S体のアリルアシロキシ誘導体(III)及びR体のアリルアルコール誘導体(IV)を得る工程を含む、アリルアシロキシ誘導体の製造方法に関する。
【0062】
リパーゼの存在下、アリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I)と化合物(II)とを接触させると、アリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I)のうちS体のアリルアルコール誘導体が選択的に化合物(II)と反応して、S体のアリルアシロキシ誘導体(III)が生成される。したがって、上記工程において、S体のアリルアシロキシ誘導体(III)及びR体のアリルアルコール誘導体(IV)が得られる。
【0063】
上記工程において、S体のアリルアシロキシ誘導体(III)とともに、対応するR体のアリルアシロキシ誘導体(式(III)において、くさび形が破線に置き換わっている化合物)が得られてもよい。すなわち、上記工程において、S体のアリルアシロキシ誘導体(III)と、対応するR体のアリルアシロキシ誘導体とのエナンチオマー混合物が得られてもよい。このエナンチオマー混合物において、S体のアリルアシロキシ誘導体(III)は過剰に存在する。S体のアリルアシロキシ誘導体(III)のエナンチオマー過剰率は、好ましくは60%ee以上であり、より好ましく70%ee以上であり、より一層好ましくは75%ee以上である。エナンチオマー混合物は、シリカゲルカラム精製等により、反応産物から単離することができる。S体のアリルアシロキシ誘導体(III)のエナンチオマー過剰率は、上記と同様に算出することができ、エナンチオマー混合物に含まれるS体及びR体のモル量は、実施例に記載の方法に従って実施することができる。
【0064】
上記工程において、R体のアリルアルコール誘導体(IV)とともに、対応するS体のアリルアルコール誘導体(式(IV)において、破線がくさび形に置き換わっている化合物)が得られてもよい。すなわち、上記工程において、R体のアリルアルコール誘導体(IV)と、対応するS体のアリルアルコール誘導体とのエナンチオマー混合物が得られてもよい。このエナンチオマー混合物において、R体のアリルアルコール誘導体(IV)は、過剰に存在する。R体のアリルアルコール誘導体(IV)のエナンチオマー過剰率は、好ましくは60%ee以上であり、より好ましくは65%ee以上であり、より一層好ましくは70%ee以上である。エナンチオマー混合物は、シリカゲルカラム精製等により、反応産物から単離することができる。R体のアリルアルコール誘導体(IV)のエナンチオマー過剰率は、上記と同様に算出することができ、エナンチオマー混合物に含まれるS体及びR体のモル量は、実施例に記載の方法に従って実施することができる。
【0065】
上記工程において、反応温度は、例えば10~80℃、好ましくは20~50℃であり、反応時間は、例えば0.1~48時間、好ましくは0.3~2時間である。
【0066】
上記工程において、リパーゼとアリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I)と化合物(II)とを含む混合物を攪拌することが好ましい。攪拌時間は、例えば10分以上であり、20分以上であることがより好ましく、30分以上であることがさらに好ましい。撹拌時間を長くすることにより、S体のアリルアシロキシ誘導体(III)の収率が高まる。撹拌時間の上限値は特に限定されないが、一例によると、40時間以下である。S体のアリルアシロキシ誘導体(III)の収率を高め、かつ、生産効率を向上させるという点からは、撹拌時間は40分以上180分(3時間)以下であることが好ましい。
【0067】
アリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I) 1モル当たりの化合物(II)の使用量は、例えば1~10モル、好ましくは1~5モルである。
【0068】
アリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I) 1g当たりのリパーゼの使用量は、例えば1~10000Uのオリーブ油分解活性を有する量であり、好ましくは10~2000Uのオリーブ油分解活性を有する量である。
【0069】
オリーブ油分解活性は、オリーブ油にリパーゼが作用するときにエステル結合の切断に伴って増加する脂肪酸の量を測定する脂肪消化力試験法(「医薬研究」11〔3〕(1980) p.505-506)に従って求めることができる。
【0070】
リパーゼとしては、例えば、微生物に由来するリパーゼ、動物又は植物の組織又は細胞に由来するリパーゼ等を使用することができるが、これらのうち、微生物に由来するリパーゼが好ましい。リパーゼは、常法に従って、微生物の菌体、動物又は植物の組織又は細胞等から得ることができる。
【0071】
リパーゼの起源となる微生物は、野生株であってもよいし、変異株であってもよいし、遺伝子組み換え等の遺伝子工学的手法により誘導されたものであってもよい。リパーゼの起源となる微生物としては、例えば、ペニシリウム(Penicillium)属微生物、ムコール(Mucor)属微生物、シュードモナス(Pseudomonas)属微生物、フミコラ(Humicola)属微生物、カンジダ(Candida)属微生物、セラチア(Serratia)属微生物等が挙げられる。より具体的には、ペニシリウム シクロピウム(Penicillium cyclopium)、ムコール ジャバニカス(Mucor javanicus)、ムコール ミエヘイ(Mucor miehei)、シュードモナス フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス セパシア(Pseudomonas cepasia)、フミコラ ラヌギノーサ(Humicola lanuginosa)、カンジダ シリンドラシア(Candida cylindracea)、カンジダ アンタークティカ(Candida antarctica)、セラチア マルセッセンス(Serratia marcescens)等が挙げられる。
【0072】
リパーゼは、例えば、精製酵素又は部分精製酵素(粗精製酵素)の形態で使用することができる。微生物由来のリパーゼである場合、微生物の菌体、培養物、それらの処理物(例えば、培養上清、菌体破砕物、菌体抽出物等)等の形態で使用してもよい。動物又は植物の組織又は細胞に由来するリパーゼである場合、組織又は細胞の抽出物等の形態で使用してもよい。
【0073】
リパーゼは、固定化酵素の形態で使用してもよい。固定化は、例えば、カラギーナンゲル、ポリアクリルアミド、アルギン酸ゲル、寒天ゲル、セライト、光架橋性樹脂等の担体を使用して、常法に従って実施することができる。
【0074】
リパーゼは、市販のリパーゼであってもよい。市販のリパーゼとしては、例えば、リパーゼG(天野製薬製,起源:ペニシリウム シクロピウム)、リパーゼM(天野製薬製,起源:ムコール ジャバニカス),リパーゼP(天野製薬製,起源:シュードモナス フルオレセンス)、リパーゼCE(天野製薬製,起源:フミコラ ラヌギノーサ)、ノボジーム388(ノボ社製,起源:ムコール ミエヘイ)、ノボジームIM(ノボ社製,起源:ムコール ミエヘイ)、ノボジーム435(ノボ社製,起源:カンジダ アンタークティカ)、リパーゼSP523(ノボ社製,起源:フミコラ sp.)、リパーゼSP524(ノボ社製,起源:ムコール ミエヘイ)、リパーゼSP525(ノボ社製,起源:カンジダ アンタークティカ)、リパーゼSP526(ノボ社製,起源:カンジダ アンタークティカ)等が挙げられるが、これらのうち、ノボジーム435が好ましい。
アリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I) 1g当たりのリパーゼの使用量は、例えば、0.01g以上1g以下であり、好ましくは、0.1g以上0.5g以下ある。
【0075】
上記工程において、反応溶媒を使用してもよいし、使用しなくてもよい。
【0076】
反応溶媒を使用する場合、1種の溶媒を単独で使用してもよいし、2種以上の溶媒を含む混合溶媒を使用してもよい。溶媒としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチル-テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。アリルアルコール誘導体のエナンチオマー混合物(I) 1g当たりの溶媒の使用量は、例えば0.5~100mL、好ましくは1~20mLである。
【0077】
上記工程において、反応溶媒を使用しないか、あるいは、ジイソプロピルエーテルを溶媒として使用することが好ましい。
【0078】
S体のアリルアシロキシ誘導体(III)(上記工程において、S体のアリルアシロキシ誘導体(III)とともに、対応するR体のアリルアシロキシ誘導体が得られる場合には、S体のアリルアシロキシ誘導体(III)と、対応するR体のアリルアシロキシ誘導体とのエナンチオマー混合物)は、シリカゲルカラム精製等により、反応産物から単離することができる。
【0079】
R体のアリルアルコール誘導体(IV)(上記工程において、R体のアリルアルコール誘導体(IV)とともに、対応するS体のアリルアルコール誘導体が得られる場合には、R体のアリルアルコール誘導体(IV)と、対応するS体のアリルアルコール誘導体とのエナンチオマー混合物)は、シリカゲルカラム精製等により、反応産物から単離することができる。
【0080】
S体のアリルアシロキシ誘導体(III)(上記工程において、S体のアリルアシロキシ誘導体(III)とともに、対応するR体のアリルアルコール誘導体が得られる場合には、S体のアリルアシロキシ誘導体(III)と、対応するR体のアリルアシロキシ誘導体とのエナンチオマー混合物)に対して、-O-CO-Rの加水分解処理を施してもよい。-O-CO-Rの加水分解処理により、-O-CO-Rは-OHに変換される。
【0081】
加水分解処理は、塩基を使用して行うことができる。塩基としては、例えば、アンモニア、ジメチルアミン、ジエチルアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等が挙げられるが、これらのうち、ナトリウムエトキシドが好ましい。S体のアリルアシロキシ誘導体(III)(上記工程において、S体のアリルアシロキシ誘導体(III)とともに、対応するR体のアリルアシロキシ誘導体が得られる場合には、S体のアリルアシロキシ誘導体(III)と、対応するR体のアリルアルコール誘導体とのエナンチオマー混合物) 1モル当たりの塩基の使用量は、例えば0.01~100モル、好ましくは0.1~10モルである。
【0082】
加水分解処理を行う際、反応温度は、例えば0~80℃、好ましくは10~50℃であり、反応時間は、例えば0.01~48時間、好ましくは0.1~5時間である。
【0083】
加水分解処理を行う際、反応溶媒を使用してもよいし、使用しなくてもよい。反応溶媒を使用する場合、1種の溶媒を単独で使用してもよいし、2種以上の溶媒を含む混合溶媒を使用してもよい。溶媒としては、例えば、水、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチル-テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン、メタノール、エタノール、IPA、ブタノール、t-ブタノール等が挙げられるが、これらのうち、エタノールが好ましい。S体のアリルアシロキシ誘導体(III)(上記工程において、S体のアリルアシロキシ誘導体(III)とともに、対応するR体のアリルアシロキシ誘導体が得られる場合には、S体のアリルアシロキシ誘導体(III)と、対応するR体のアリルアルコール誘導体とのエナンチオマー混合物) 1g当たりの溶媒の使用量は、例えば0.5~500mL、好ましくは1~100mLである。
【実施例0084】
〔実施例1〕ラセミ体アルコールの酵素分割
【化12】
【0085】
エチル6-ヒドロキシオクト-7-エノエートのラセミ混合物(90.5mg,0.485mmol)を、乾燥させた4mLバイアルに採取した。ノボジーム435(22.11mg,オリーブ油分解活性:>5000U/g)を、25℃、好気性環境下、上記バイアルに添加した後、酢酸ビニル(0.17mL,1.846mmol)を上記バイアルに添加した。上記バイアル中の混合物を、25℃で45分間、攪拌して反応させた。その後、溶媒としてジエチルエーテルを用いた濾過により、反応を停止させ、酵素を洗浄及び回収した。濾液を減圧濃縮して得られた粗生成物を、酢酸エチル(0%~25%)のヘキサン溶液を溶離液として用いた、シリカゲルによるフラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製した。これにより、(R)-エチル6-ヒドロキシオクト-7-エノエート(以下「R体アルコール」という。)(47mg,0.25mmol,収率:53%)及び(S)-エチル6-アセトキシオクト-7-エノエート(以下「S体アセテート」という。)(52mg,0.228mmol,収率:47%)が、それぞれ、無色オイル状物質として得られた。なお、R体アルコールは、対応するS体アルコールとのエナンチオマー混合物として、S体アセテートは、対応するR体アセテートとのエナンチオマー混合物として得られた。
【0086】
上記粗生成物に含まれるエチル6-アセトキシオクト-7-エノエート(S体及びR体の両方を含む)の量を、ガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所,GC-2014)を用いたガスクロマトグラフィー分析により測定し、出発原料であるエチル6-ヒドロキシオクト-7-エノエートのラセミ混合物のうち、エチル6-アセトキシオクト-7-エノエート(S体及びR体の両方を含む)に変換された割合(以下「変換率」という。)を算出した。ガスクロマトグラフィー分析では、上記粗生成物を、20分間オーブンで加熱し、温度を100℃から300℃まで徐々に上昇させた後、300℃で10分間維持した。ガスクロマトグラフの無極性カラム(Agilent J&W GC Columns DB-1 30m×0.25mm×25μm)にインジェクションされる容量は約5μLであった。エチル6-ヒドロキシオクト-7-エノエートの保持時間は6.98分、エチル6-アセトキシオクト-7-エノエートの保持時間は8.27分、内部標準として用いたメシチレン(0.05mmol,7μL)の保持時間は3.44分であった。
【0087】
R体アルコールと、対応するS体アルコールとのエナンチオマー混合物におけるR体アルコールのエナンチオマー過剰率、及び、S体アセテートと、対応するR体アセテートとのエナンチオマー混合物におけるS体アセテートのエナンチオマー過剰率を、NATURE PROTOCOLS,2007,Vol.2,pp.2451-2458に従って、モッシャー試薬(α-メトキシ-α-(トリフルオロメチル)フェニルアセチルクロリド,MTPA-Cl)を用いたモッシャー法により測定した。
【0088】
R体アルコールと、対応するS体アルコールとのエナンチオマー混合物におけるR体アルコールのエナンチオマー過剰率の測定方法は、次の通りである。R体アルコールと、対応するS体アルコールとのエナンチオマー混合物であるエチル6-ヒドロキシオクト-7-エノエート(11.9mg,0.0638mmol,1当量)のCHCl溶液(1mL)を、乾燥させた4mLバイアルに採取した。(S)-(+)-MTPA-Cl(23μL,0.121mmol,1.9当量)のCHCl溶液(1mL)を上記バイアルに添加した後、無水ピリジン(16μL,0.198mmol,3.1当量)を上記バイアルに添加した。上記バイアル中の混合物を、好気性雰囲気下、室温で2時間、攪拌して反応させた。完全な変換が達成された後、混合物を減圧濃縮した。残渣をCDClに溶解させ、NMR分析に供した。R体のエナンチオマー過剰率は、R体のMTPAエステルに対応するHaプロトンの積分によって計算し、S体のエナンチオマー過剰率は、S体のMTPAエステルに対応するHa’プロトンの積分によって計算した。R体のMTPAエステルの構造式及びS体のMTPAエステルの構造式を以下に示す。
【0089】
【化13】
【0090】
S体アセテートと、対応するR体アセテートとのエナンチオマー混合物におけるS体アセテートのエナンチオマー過剰率の測定方法は、次の通りである。後述する実施例6と同様にして、S体アセテートと、対応するR体アセテートとのエナンチオマー混合物から、エチル6-ヒドロキシオクト-7-エノエートを得た。得られたエチル6-ヒドロキシオクト-7-エノエートを、上記と同様にして、MTPAエステルに変換した後、NMR分析に供した。
【0091】
実施例1における変換率及びエナンチオマー過剰率を表1に示す。
【0092】
〔実施例2~5〕
上記バイアル中の混合物を攪拌して反応させる時間を45分間(実施例1)から60分間(実施例2)、120分間(実施例3)、180分(実施例4)又は36時間(実施例5)に変更した点を除き、実施例1と同様の操作を行った。実施例2~5における変換率及びエナンチオマー過剰率を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
得られた(R)-エチル6-ヒドロキシオクト-7-エノエートの分析結果は以下の通りである。なお、分析には、実施例3で得られた(R)-エチル6-ヒドロキシオクト-7-エノエート(エナンチオマー過剰率:93%ee)を使用した。
H NMR(400MHz,CDCl) δ 1.25(t,J=7.1Hz,3H),1.32-1.49(m,2H),1.49-1.60(m,2H),1.60-1.69(m,2H),1.69-1.82(m,1H),2.31(t,J=7.5Hz,2H),4.08-4.13(m,1H),4.13(q,J=7.1Hz,2H),5.12(ddd,J=10.4,1.4,1.3Hz,1H),5.22(ddd,J=17.2,1.4,1.3Hz,1H),5.86(ddd,J=17.2,10.4,6.2Hz,1H)。
13C NMR(101MHz,CDCl) δ 14.4,24.9,25.0,34.4,36.7,60.4,73.0,114.8,141.3,173.8。
[α] 25=-3.1(c,1.0,CHCl)。
【0095】
得られた(S)-エチル6-アセトキシオクト-7-エノエートの分析結果は以下の通りである。なお、分析には、実施例1で得られた(S)-エチル6-アセトキシオクト-7-エノエート(エナンチオマー過剰率:98%ee)を使用した。
H NMR(400MHz,CDCl) δ 5.81-5.71(m,1H),5.26-5.18(m,2H),5.16(dt,J=10.4,1.2Hz,1H),4.12(q,2H),2.29(t,2H),2.05(s,3H),1.67-1.58(m,4H),1.42-1.30(m,2H),1.25(t,3H)。
13C NMR(101MHz,CDCl) δ 173.65,170.46,136.56,116.87,74.69,60.38,34.32,33.97,24.85,24.74,21.35,14.38。
[α] 25=-8.5(c,1.0,CHCl)。
【0096】
〔実施例6〕アセテートのアルコールへの変換
【化14】
【0097】
エチル6-アセトキシオクト-7-エノエート(9.3mg,0.0406mmol)の無水エタノール(0.5mL)溶液を、乾燥させた4mLバイアルに採取した後、室温、アルゴン下、20%ナトリウムエトキシドのエタノール溶液(14μL,0.0414mmol,1.01当量)を上記バイアルに添加した。その後、上記バイアル中の混合物を2時間攪拌して反応させたところ、出発原料が完全に消費された(TLCでモニタリングしたところ、反応後に1つのスポットが検出された)。その後、反応を飽和塩化アンモニウム水溶液(3.0mL)で停止させ、反応混合物を酢酸エチルで抽出した(3×10.0mL)。相分離の後、水相を捨て、有機相をブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過した。濾液を減圧乾燥した。残渣をフラッシュクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=8:2)で精製し、エチル6-ヒドロキシオクト-7-エノエートを得た(7.5mg,quant.)。