(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103968
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】シート状結晶性アルミノシリケート凝集体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/44 20060101AFI20230720BHJP
B01J 29/65 20060101ALI20230720BHJP
C01B 39/06 20060101ALI20230720BHJP
C01B 39/12 20060101ALI20230720BHJP
B01J 29/68 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
C01B39/44
B01J29/65 Z
C01B39/06
C01B39/12
B01J29/68 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022204000
(22)【出願日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2022004187
(32)【優先日】2022-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100180334
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 洋美
(72)【発明者】
【氏名】津野地 直
(72)【発明者】
【氏名】日吉 範人
(72)【発明者】
【氏名】池田 拓史
【テーマコード(参考)】
4G073
4G169
【Fターム(参考)】
4G073BA02
4G073BA04
4G073BA05
4G073BA20
4G073BA36
4G073BA56
4G073BA57
4G073BA58
4G073BA63
4G073BA65
4G073BA69
4G073BA75
4G073BA76
4G073BA81
4G073BA82
4G073BB03
4G073BB04
4G073BB07
4G073BB15
4G073BB24
4G073BB48
4G073BB54
4G073BB57
4G073BB66
4G073BC02
4G073BD18
4G073CZ15
4G073CZ50
4G073FC04
4G073FC13
4G073FC17
4G073FC19
4G073GA01
4G073GA03
4G073GA12
4G073GA14
4G073GA37
4G073GA40
4G073GB02
4G073GB05
4G073UA04
4G169AA02
4G169AA08
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BC17B
4G169BC22B
4G169BC50B
4G169BC66B
4G169BD01B
4G169BD03B
4G169BD06B
4G169BE01C
4G169BE17C
4G169BE33C
4G169CB25
4G169CC07
4G169DA06
4G169EC04Y
4G169EC27
4G169FB30
4G169FB57
4G169ZA13A
4G169ZA13B
4G169ZB03
4G169ZB08
4G169ZB09
4G169ZC04
4G169ZD05
4G169ZD09
(57)【要約】
【課題】より薄く且つ外表面積の大きいシート状結晶性アルミノシリケート凝集体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】シート状結晶性アルミノシリケート凝集体は、シート状結晶性アルミノシリケートの凝集体であり、シート状結晶性アルミノシリケートの平均シート厚が1.0以上2.0nm未満である。シート状結晶性アルミノシリケート凝集体の製造方法は、シリカ源、アルミナ源、構造規定剤、界面活性剤及び水を含む原料組成物を水熱合成によって結晶化する結晶化工程を含み、構造規定剤として水酸基又は酸素を内包するアンモニウムを用い、界面活性剤として臭化アルキルトリメチルアンモニウム及び臭化ジアルキルジメチルアンモニウムからなる群から選択される一種以上を用いる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状結晶性アルミノシリケートの凝集体であり、
前記シート状結晶性アルミノシリケートの平均シート厚が1.0以上2.0nm未満である、
ことを特徴とするシート状結晶性アルミノシリケート凝集体。
【請求項2】
前記シート状結晶性アルミノシリケートの平均シート厚が1.0以上1.5nm以下である、
請求項1に記載のシート状結晶性アルミノシリケート凝集体。
【請求項3】
前記シート状結晶性アルミノシリケートの平均シート厚が1.1以上1.5nm以下である、
請求項1に記載のシート状結晶性アルミノシリケート凝集体。
【請求項4】
前記シート状結晶性アルミノシリケートがFER型の骨格構造である、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシート状結晶性アルミノシリケート凝集体。
【請求項5】
シート状結晶性アルミノシリケート凝集体の製造方法であって、
シリカ源、アルミナ源、構造規定剤、界面活性剤及び水を含む原料組成物を水熱合成によって結晶化する結晶化工程を含み、
前記構造規定剤として水酸基又は酸素を内包するアンモニウムを用い、
前記界面活性剤として臭化アルキルトリメチルアンモニウム及び臭化ジアルキルジメチルアンモニウムからなる群から選択される一種以上を用い、
平均シート厚が1.0以上2.0nm未満である前記シート状結晶性アルミノシリケートを製造する、
ことを特徴とするシート状結晶性アルミノシリケート凝集体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状結晶性アルミノシリケート凝集体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子大の細孔を持つ無機酸化物であるゼオライトは、その骨格構造内に固体酸性、イオン交換特性を有するため、優れた工業触媒、吸着材として利用されてきた。しかしながらゼオライトの活性部位は分子大の細孔内に主に存在しており、より大きな物質を用いて応用することが困難である。
【0003】
このため、ゼオライトの粒子径を可能な限り小さくし、肥大化した外表面やその近傍に存在する細孔の相対量の増大によって、細孔の中へ拡散しないまたは拡散が困難な物質を反応、吸着させる試みがなされてきた。例えば、非特許文献1には、約2nmの厚みのゼオライトナノシートが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ryong Ryoo et al., Stable single-unit-cell nanosheets of zeolite MFI as active and long-lived catalysts, Nature 461, 246-249 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は、より薄く且つ外表面積の大きいシート状結晶性アルミノシリケート凝集体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点に係るシート状結晶性アルミノシリケート凝集体は、
シート状結晶性アルミノシリケートの凝集体であり、
前記シート状結晶性アルミノシリケートの平均シート厚が1.0以上2.0nm未満である、
ことを特徴とする。
【0007】
また、前記シート状結晶性アルミノシリケートの平均シート厚が1.0以上1.5nm以下であってもよい。
【0008】
また、前記シート状結晶性アルミノシリケートの平均シート厚が1.1以上1.5nm以下であってもよい。
【0009】
また、前記シート状結晶性アルミノシリケートがFER型の骨格構造であってもよい。
【0010】
本発明の第2の観点に係るシート状結晶性アルミノシリケート凝集体の製造方法は、
シート状結晶性アルミノシリケート凝集体の製造方法であって、
シリカ源、アルミナ源、構造規定剤、界面活性剤及び水を含む原料組成物を水熱合成によって結晶化する結晶化工程を含み、
前記構造規定剤として水酸基又は酸素を内包するアンモニウムを用い、
前記界面活性剤として臭化アルキルトリメチルアンモニウム及び臭化ジアルキルジメチルアンモニウムからなる群から選択される一種以上を用い、
平均シート厚が1.0以上2.0nm未満である前記シート状結晶性アルミノシリケートを製造する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より薄く且つ外表面積の大きいシート状結晶性アルミノシリケート凝集体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1のXRDスペクトルを示す図である。
【
図3】実施例1、比較例1、比較例2の細孔径分布を示すグラフである。
【
図4】
図4(A)、(B)は実施例1のTEM像を示す図である。
【
図5】実施例1、比較例1、比較例2の
27Al NMRスペクトルを示すグラフである。
【
図6】実施例1a、比較例2aのTiPBzの転化率を示すグラフである。
【
図7】NS-FER K
+(s)、NS-FER Na
+(s)、NS-FER Na
+(l)の
27Al MAS NMRスペクトルを示すグラフである。
【
図8】ジベンジルエーテルの収率を示すグラフである。
【
図9】NS-FER H
+_HNO
3、NS-FER H
+_NH
4NO
3の
27Al MAS NMRスペクトルを示すグラフである。
【
図10】NS-FER骨格内にホウ素を導入した生成物のXRDスペクトルを示すグラフである。
【
図11】NS-FER骨格内にホウ素を導入した生成物のSEM写真である。
【
図12】NS-FER骨格内に骨格内にガリウムを導入した生成物のXRDスペクトルを示すグラフである。
【
図13】NS-FER骨格内にガリウムを導入した生成物のSEM写真である。
【
図14】NS-FER骨格内に鉄を導入した生成物のXRDスペクトルを示すグラフである。
【
図15】NS-FER骨格内に鉄を導入した生成物のSEM写真である。
【
図16】NS-FER骨格内にチタン、すずを導入した生成物のXRDスペクトルを示すグラフである。
【
図17】NS-FER骨格内にチタン、すずを導入した生成物のSEM写真である。
【
図18】シリル化処理のスキームを示す模式図である。
【
図19】シリル化処理後のサンプルのTG/DTA曲線を示すグラフである。
【
図20】Silylated NS-FERの
29Si MAS NMRスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(シート状結晶性アルミノシリケート凝集体)
シート状結晶性アルミノシリケート凝集体は、シート状結晶性アルミノシリケートが凝集している凝集体である。結晶性アルミノシリケートは、アルミニウム(Al)とケイ素(Si)とが酸素(O)を介したネットワークの繰返しからなる骨格構造を有するアルミノシリケートであり、この骨格構造に起因する複数の細孔が形成された多孔質である。
【0014】
シート状結晶性アルミノシリケートでは、後述するように結晶成長方向がシート状に(面内方向に)促進され、積層方向(厚み方向)の結晶サイズが小さい構造をしている。シート状結晶性アルミノシリケートの平均厚さは1.0nm以上2.0nm未満である。平均厚さが小さいほど外表面積が大きくなるため、平均厚さは、1.0nm以上1.5nm以下でもよく、1.1nm以上1.5nm以下でもよい。
【0015】
また、シート状結晶性アルミノシリケートは、FER(フェリエライト)型の結晶構造であることが好ましい。FER構造とは、国際ゼオライト学会で定義されるIUPAC準拠の構造コードで規定される結晶構造を示す。
【0016】
上記のシート状結晶性アルミノシリケート凝集体は、厚みが小さいことから外表面積が大きく、かさ高い分子の反応触媒として好適に使用できる。
【0017】
(シート状結晶性アルミノシリケート凝集体の製造方法)
上述したシート状結晶性アルミノシリケート凝集体は、シリカ源、アルミナ源、構造規定剤、界面活性剤及び水を含む原料組成物を水熱合成によって結晶化する結晶化工程を含む製造方法により製造される。
【0018】
シリカ源としては、ケイ素(Si)を含む化合物を挙げることができ、フュームドシリカ、シリコンアルコキシド、コロイダルシリカ、シリカゾル、沈降法シリカ、非晶質アルミノシリケート、メソポーラスシリカ、結晶性のゼオライトなどが挙げられる。
【0019】
アルミナ源としては、アルミニウム(Al)を含む化合物を挙げることができ、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、金属アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、非晶質アルミノシリケート、結晶性のゼオライトなどが挙げられる。
【0020】
界面活性剤として、臭化アルキルトリメチルアンモニウム及び臭化ジアルキルジメチルアンモニウムからなる群から選択される一種以上を用いる。臭化アルキルトリメチルアンモニウムとして、臭化セチルトリメチルアンモニウム(以下、CTAB)、臭化ドデシルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、臭化テトラオクチルトリメチルアンモニウムが挙げられる。また、臭化ジアルキルジメチルアンモニウムとして、臭化ジラウリルジメチルアンモニウムが挙げられる。
【0021】
構造規定剤として、水酸基または酸素を内包するアンモニウムを用いる。水酸基を内包するアンモニウムとして、2-ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(以下、コリン水酸化物)、βメチルコリンヒドロキシド、ビス(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアンモニウムヒドロキシド、(2-ヒドロキシエチル)トリエチルアンモニウムヒドロキシド、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムヒドロキシドが挙げられる。また、酸素を内包するアンモニウムとして、グリシジルトリメチルアンモニウムヒドロキシドが挙げられる。
【0022】
原料組成物中、アルミナに対するシリカのモル比(Si/Al比)は、10~70であることが好ましく、15~60であることがより好ましい。また、シリカに対する水のモル比(H2O/Si比)は、1.4~50であることが好ましく、7~8であることがより好ましい。また、シリカに対する構造規定剤のモル比(構造規定剤/Si比)は、0.1~0.5であることが好ましい。また、シリカに対する界面活性剤のモル比(界面活性剤/Si比)は、0.01~0.2あることが好ましく、0.045~0.1であることがより好ましい。
【0023】
結晶化工程では、上述した各原料を含む原料組成物を水熱合成することにより、結晶化処理する。結晶化処理は、原料組成物を密閉容器に充填し、これを加熱することで行い得る。水熱合成の方法は、特に限定されないが、例えば、上述した混合物を反応容器に封入し、密閉状態で上述の温度条件で、攪拌して行うことが好ましい。
【0024】
水熱合成における合成温度は、130~170℃が好ましく、130~160℃がより好ましい。また、合成時間は、72時間(3日間)以上、好ましくは96時間(4日間)以上、より好ましくは168時間(7日間)以上である。
【0025】
本実施の形態に係る製造方法では、結晶化工程の後、洗浄工程、乾燥工程、焼成工程のいずれか一つ以上の工程を含んでもよい。
【0026】
洗浄工程では、結晶化後のシート状結晶性アルミノシリケート凝集体と液相とを固液分離し、シート状結晶性アルミノシリケート凝集体を洗浄する。固液分離は、濾過等、公知の方法で行えばよい。また、洗浄は、純水で洗浄すればよい。
【0027】
乾燥工程では、結晶化工程後、又は、洗浄工程後のシート状結晶性アルミノシリケート凝集体の水分を除去する。乾燥の条件は、シート状結晶性アルミノシリケート凝集体を50℃~80℃程度で2時間以上静置するなど、任意の条件で行い得る。
【0028】
焼成工程では、乾燥後のシート状結晶性アルミノシリケート凝集体を、例えば、空気雰囲気下で、400~600℃で4~12時間焼成を行う。焼成工程を行うことで、構造規定剤や界面活性剤を含む有機物が除去される。
【実施例0029】
(実施例1)
ゲル撹拌用の容器内でシリカ源、アルミナ源、コリン水酸化物水溶液、CTAB、水酸化ナトリウム、およびイオン交換水を混合した。
【0030】
撹拌したゲルを撹拌式オートクレーブに入れ、7日間、130℃、で水熱合成した。
【0031】
反応後、オートクレーブを冷却し、生成物にイオン交換水を加えて遠心分離(卓上遠心機,型式H-27F,コクサン製,回転条件12000r.p.m)した後、分離した固体を濾過洗浄し、イオン交換水でろ液が中性になるまで洗浄した。
【0032】
その後、70℃で一晩乾燥させた。これを空気雰囲気下、昇温速度1℃/min、到達温度550℃、保持時間10時間の条件で焼成することで生成物(以下、実施例1)を得た。
【0033】
なお、原料組成物の配合比(モル比)は、Si/Al=20、H2O/Si=7.1、CholineOH/Si=0.20、CTAB/Si=0.10である。
【0034】
また、CTABを用いずに合成した生成物(以下、比較例1)、一般的なFER型ゼオライト(以下、比較例2)を合成し、以下の特性の検証に供した。
【0035】
実施例1の結晶構造の同定について、X線回折装置(X-Ray Diffraction:XRD、Bruker製、D2 PHASER 2nd Gen(Cu Kα))を用い、照射電流10mA、加速電圧30kVの条件で行った。実施例1のXRDスペクトルを
図1に示す。実施例1の結晶構造はFER構造の結晶性アルミノシリケートであること、そして、アルミノシリケートの結晶成長は面方向に促進されるとともに、厚み方向への結晶成長が抑えられており、シート状に形成された結晶性アルミノシリケートであることを確認した。
【0036】
図2に実施例1のSEM像を示す。薄いシート状の一次粒子が凝集し不定形の数マイクロメートルの二次粒子を形成している。なお、この形態観察は、試料台にカーボンテープを貼り付け、そのカーボンテープに試料を付着させて真空下で3時間脱気後、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM/EDX、Hitachi製、S-4800)を用いて、加速電圧2kVの条件で行ったものである。
【0037】
窒素吸着測定により、実施例1、比較例1、比較例2の表面積を測定した。窒素吸着測定は、窒素自動ガス吸着装置(日本ベル製、BELSORP mini)を用い、試料(約0.05g)を400℃で10時間窒素雰囲気で処理した後、液体窒素温度(-196℃)にて測定した。
【0038】
また、BET法により実施例1、比較例1、比較例2の非表面積[SBET]、t-plot法により外表面積[Sext]を算出した。そして、含まれている結晶性アルミノシリケートの平均シート厚[nm]を外表面積から算出した。シート厚は、1枚のシートを幅500×500nmの平板形態と仮定し、以下の算出式から厚み(平均シート厚[nm])を求めた。また密度はFER型構造のユニットセルと実施例1の組成を元に算出した。
・外表面積[Sext]=(シート幅×シート幅×2+平均シート厚×シート幅×4)÷((シート幅×シート幅×平均シート厚)×(密度))
【0039】
その結果を表1に示す。実施例1では、比較例1、比較例2に比べ、外表面積が非常に大きく、そして、平均シート厚が非常に小さいことがわかる。
【0040】
【0041】
図3にAr吸着により求めた、生成物の細孔径分布を示している。比較例2では、0.5nm付近にミクロ孔が集中して分布しており、均一な結晶内ミクロ孔を有しているが、実施例1および比較例1では、4~5nmにわたってシート間の拡張に由来するメソ孔が観察されている。また、ミクロ孔は実施例1での割合が少なく、界面活性剤によってシート間が拡張されていることがわかる。Ar吸着測定は、自動ガス吸着装置(日本ベル製、BELSORP max)を用い、試料(約0.05g)を400℃で10時間真空処理した後、液体Ar温度(-186℃)にて測定した。
【0042】
図4に実施例1のTEM観察による高分解能像を示している。
図4(A)からは網目状に集合したシートが観察されており、その拡大像(
図4(B))からはその網目構造を2層または1層のシートが湾曲部を伴って、形成している様子が確認できる。TEM観察には、原子分解能分析電子顕微鏡(日本電子製、JEM-ARM200F)を用い、樹脂に包埋した試料をマイクロトームによってせん断した後、その断面を観察した。
【0043】
図5に実施例1、比較例1、比較例2の
27Al NMRによるスペクトルを示している。いずれのサンプルにおいても、ゼオライト骨格内に存在する四配位Alに帰属できるピークが55ppmに表れており、骨格外のAlに由来する0ppmのピーク強度と比較してもそのピーク強度が高いことから、ほぼすべてのAlがゼオライトの骨格内に存在していることが分かる。NMR測定は、固体NMR分光装置(アジレント・テクノロジー製、Varian 600)を用いて行った。
【0044】
実施例1に関しては、焼成体(実施例1a)を用い以下の触媒反応実験を行った。また、比較例2についても、周知の手法でプロトン型のサンプル(以下、比較例2a)を得て、用いた。
【0045】
(1,3,5-トリイソプロピルベンゼンのクラッキング反応)
1,3,5-トリイソプロピルベンゼンのクラッキング反応はオートインジェクター(型式 AOC-20i,島津製作所製)を付随させたGC-FID(型式GC-2014,島津製作所製)に触媒加熱用の電気炉を備えた、バルス式の固定床反応装置を用いて行った。
【0046】
反応に先立って、プロトン型のサンプル(実施例1a、比較例2a)をSiO2(粒子径63μm,高純度化学研究所製,純度99.9%)で10倍(重量倍率)に希釈し、混合したものを触媒として用いた。
【0047】
この触媒粉末を石英製ガラス反応管に石英ウールで挟み込む形で充填し、アルゴン流通下400℃で1時間前処理した。その後、反応基質である1,3,5-トリイソプロピルベンゼン0.1μLをオートインジェクターで注入し、300-400℃の温度範囲で反応を行った。
【0048】
転化率および得られた生成物の選択率は、触媒を封入していない条件で各生成化合物をGC-FIDで解析し得られたピーク面積と触媒を封入した際のピーク面積を比較することで行った。
【0049】
その結果を
図6に示す。実施例1aでは、比較例2aに対し、1,3,5-トリイソプロピルベンゼンの高い転化率を示した。
【0050】
(実施例2-14、比較例3)
原料組成物の配合比、水熱合成の合成時間及び合成温度を変えて、実施例1と同様にして種々のシート状結晶性アルミノシリケート凝集体(実施例2-14、比較例3)を合成し、非表面積[SBET]、外表面積[Sext]、含まれている結晶性アルミノシリケートの平均シート厚[nm]を算出した。原料組成物の配合比、合成条件について表2に、また、算出した非表面積、外表面積、平均シート厚について表3にそれぞれまとめた。実施例2-14は、いずれも平均シート厚が2nm未満の結晶性アルミノシリケート凝集体であった。
【0051】
【0052】
【0053】
以下では、上述した比較例3の製造において、70℃で一晩乾燥させたものをp-NS-FERと記し、焼成後のものをNS-FERと記す。
【0054】
<プロトン化の検討>
p-NS-FERを用いて、プロトン化を行った。まず、p-NS-FERについて、K+による固相イオン交換、Na+による固相イオン交換、及び、Na+による液相イオン交換を行った後、プロトン化を行った。
【0055】
(K+による固相イオン交換)
K+による固相イオン交換を以下のようにして行った。p-NS-FER0.1gと0.5mol/kg塩化カリウム水溶液0.21gを角型焼成皿に入れポリテトラフルオロエチレン棒で混合後、室温で6時間放置した。水が蒸発した混合物を空気雰囲気下、昇温速度0.5℃/min、到達温度500℃、保持時間5時間の条件で焼成した。焼成後、余分な塩を除去するために60℃のイオン交換水50mlで遠心分離して洗浄した。洗浄後のサンプルを70℃で一晩乾燥させた後、空気雰囲気下、昇温速度1℃/minで到達温度150℃まで昇温して3時間保持し、次いで昇温速度1℃/minで到達温度550℃まで昇温して6時間保持の条件で焼成した。この焼成後のサンプルをNS-FER K+(s)とした。
【0056】
(Na+による固相イオン交換)
Na+による固相イオン交換は、塩化カリウム水溶液を硝酸ナトリウム水溶液(0.5mol/kg、0.21g)に代える以外、上記のK+による固相イオン交換法と同様にして行った。得られたこのサンプルをNS-FER Na+(s)とした。
【0057】
(Na+による液相イオン交換)
Na+による液相イオン交換を以下のようにして行った。合成直後のp-NS-FER0.1gと0.1M硝酸ナトリウム水溶液10mlを磁気撹拌子とともに100mlナス型フラスコに入れ、マグネティックスターラーで撹拌することでサンプルを分散させた。混合溶液をメタルバスによって、温度80℃、撹拌速度300rpmの条件で2時間撹拌した。その後、混合溶液中のゼオライトを遠心分離によって分離し、得られた固体を新しい0.1M硝酸ナトリウム水溶液(10ml)に分散させた。
この撹拌と遠心分離の手順を3回繰り返して最終的に得られた固体を70℃で一晩乾燥しNa+型のp-NS-FERを得た。このサンプルを空気雰囲気下、昇温速度1℃/min、到達温度550℃、保持時間10時間の条件で焼成した。この焼成後のサンプルをNS-FER Na+(l)とした。
【0058】
上記の固相および液相でイオン交換して焼成した各サンプルについて、骨格損傷の有無を調査するために
27Al MAS NMR測定を行った。得られたスペクトルを
図7に示す。比較として合成直後のp-NS-FER及びNS-FERのスペクトルもあわせて示す。
【0059】
NS-FER Na+(l)はNS-FERと比較して、0ppm付近の骨格外六配位Al由来のピーク強度が減少している。したがって、焼成前の液相Na+イオン交換により焼成時の骨格損傷が一定の割合抑制されている。
【0060】
また、固相イオン交換を行ったNS-FER K+(s)およびNS-FER Na+(s)は0ppm付近のピークが観察されなかった。よって、固相イオン交換を行うことでp-NS-FERの骨格損傷を完全に抑制しながらテンプレートを除去できている。
【0061】
(プロトン交換)
この固相イオン交換したサンプルはブレンステッド酸点となる骨格内Alがすべて保護されているためベンジルアルコールの脱水縮合反応において優れた活性を示すことが期待される。そこでこの固相イオン交換後のサンプルをプロトン交換して触媒活性を調査した。NS-FER K+(s)は塩化カリウムを用いており微量に残存したClによる影響が考慮されたため、以下では、NS-FER Na+(s)を用いた。
【0062】
NS-FER Na+(s)のプロトン交換は、硝酸によって直接H+型に変換する方法と硝酸アンモニウムによってNH4
+型に変換したのちに焼成してH+型を得る方法の2種類で行った。
【0063】
硝酸によるプロトン交換は以下の手順で行った。
NS-FER Na+(s)0.1gと0.01M硝酸水溶液12ml(H+/Na+=1)を磁気撹拌子とともに100mlナス型フラスコに入れ、マグネティックスターラーで撹拌することでサンプルを分散させた。混合溶液をメタルバスによって、室温、撹拌速度300rpmの条件で2時間撹拌した。その後、混合溶液中のゼオライトを遠心分離によって分離し、得られた固体を新しい0.01M硝酸水溶液12mlに分散させた。この撹拌と遠心分離の手順を3回繰り返し、3回目の攪拌後のサンプルに0.01M硝酸水溶液12mlを加えながら吸引ろ過してそのまま一晩吸引し続けることによって室温で乾燥させた。得られたH+型触媒をNS-FER H+_HNO3とした。
【0064】
硝酸アンモニウムによるプロトン交換は以下の手順で行った。
NS-FER Na+(s)0.1gと1.5M硝酸アンモニウム水溶液20mlを磁気撹拌子とともに100mlナス型フラスコに入れ、マグネティックスターラーで撹拌することでサンプルを分散させた。混合溶液をメタルバスによって、温度60℃、撹拌速度300rpmの条件で2時間撹拌した。その後、混合溶液中のゼオライトを遠心分離によって分離し、得られた固体を新しい1.5M硝酸アンモニウム水溶液20mlに分散させた。この撹拌と遠心分離の手順を3回繰り返して最終的に得られた固体を70℃で一晩乾燥しNH4
+型のサンプルを得た。このサンプルを空気雰囲気下、昇温速度3.75℃/min、到達温度450℃、保持時間6時間の条件で焼成することによりH+型へと変換した。このH+型触媒をNS-FER H+_NH4NO3とした。
【0065】
(ベンジルアルコールの脱水縮合反応への利用)
上記のH+型触媒25mgを入れた試験管にベンジルアルコール(2ml)を加え、十分に分散させ、110℃のオイルバス中で加熱することで、ベンジルアルコールの脱水縮合反応を行った。
【0066】
NS-FER H
+_HNO
3およびNS-FER H
+_NH
4NO
3を触媒として用いたベンジルアルコールの脱水縮合反応におけるジベンジルエーテル(BE)収率を
図8に示す。比較としてp-NS-FERを550℃での焼成と硝酸アンモニウム処理を行う一般的なプロトン交換法でプロトン型としたNS-FER、及び、p-NS-FERを硝酸による鋳型抽出と450℃での焼成を行うRefined処理によってプロトン型としたRefined NS-FERの結果もあわせて示す。
【0067】
NS-FER H+_HNO3およびNS-FER H+_NH4NO3はRefined NS-FERよりもBE収率がわずかに向上し、NS-FER H+_HNO3が最も高い30.19%のBE収率を示した。
【0068】
これらのサンプルのAlの化学状態を調査するために
27Al MAS NMR測定を行った。得られたスペクトルを
図9に示す。比較としてプロトン交換前のNS-FER Na
+(s)、および
図8と同様にNS-FERとRefined NS-FERのスペクトルもあわせて示す。
【0069】
NS-FER H+_HNO3およびNS-FER H+_NH4NO3のスペクトルには0ppm付近の骨格外六配位Al由来のピークが出現し、プロトン交換処理によって骨格損傷が進行していることが明らかとなった。またNS-FER H+_HNO3はNS-FER H+_NH4NO3よりも0ppmのピークの割合が小さかった。低濃度の硝酸水溶液によるプロトン交換は硝酸アンモニウムによるプロトン交換に必要な焼成を経由しないため、骨格損傷が抑制されたと考えられる。また、NS-FER H+_HNO3をRefined NS-FERと比較すると0ppm付近のピーク強度はわずかに増加していた。骨格損傷の割合が増加したにもかかわらずNS-FER H+_HNO3のBE収率がRefined NS-FERより向上していたのは、Refined NS-FERとはテンプレートの抽出法や酸によるプロトン交換の条件が異なるため脱水縮合反応においてより高活性な酸性質に変化したためではないかと考えられる。
【0070】
<NS-FER骨格内へのテロ原子の導入の検討>
NS-FER骨格内にSi及びAl以外のヘテロ原子の導入を試みた。ヘテロ原子にはB、Ga、Fe、Ti、およびSnを選択した。ヘテロ原子の導入により、細孔内にヘテロ原子に由来する触媒能や、ヘテロ原子の電荷に基づくイオン交換能を発現させ、触媒活性点の異なる種々の用途への利用が可能になる。例えば、ホウ素やガリウムを導入することで酸強度の向上、また、鉄やチタンを導入することにより酸化還元能の発現、また、スズを導入することでルイス酸点の発現が期待できる。
【0071】
合成法は実施例1と同じ手順で行い、原料のシリカ源を添加する前のタイミングで各ヘテロ原子を含有する原料を添加した。
【0072】
用いた各ヘテロ原子を含有する原料を以下に示す。
・ホウ酸(H3BO3,富士フイルム和光純薬株式会社製,純度99.5%)
・酸化ガリウム(Ga2O3,添川理化学株式会社製,純度99.999%)
・硝酸ガリウム(III),含水(Ga(NO3)3・xH2O,x=7-9(x=8とした),株式会社高純度化学研究所製,純度99.999%)
・硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO3)3・9H2O,関東化学株式会社製,純度99.9%)
・トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)(C15H21FeO6,東京化成工業株式会社製,純度98.0%)
・30%硫酸チタン(IV)溶液(Ti(SO4)2,富士フイルム和光純薬株式会社製)
・酸化チタン(IV),アナターゼ型(TiO2,富士フイルム和光純薬株式会社製)
・オルトチタン酸テトライソプロピル(C12H28O4Ti,東京化成工業株式会社製)
・酸化すず(IV)(SnO2,富士フイルム和光純薬株式会社製,純度98%)
【0073】
<ホウ素の導入>
合成条件と得られた生成物を表4に、生成物のXRDスペクトルを
図10に、SEM像を
図11にそれぞれ示す。比較としてp-NS-FERのデータもあわせて示す。
【0074】
【0075】
ホウ素源はホウ酸とし、Si/(Al+B)=17に固定してまずホウ素とアルミニウムの量を変化させて合成を行った(Sample no.19-21)。Sample no.19,20ではp-NS-FERとよく類似したXRDスペクトルが得られ、不純物のピークは観察されなかったためp-NS-FER相が単相で得られていたと判断した。
【0076】
SEM像からSample no.19,20はp-NS-FERとよく似た結晶形態を有していたもののp-NS-FERにみられたシート間の豊富な空隙が減少していた。アルミニウムを全く添加しなかったSample no.21では、層状ケイ酸塩のHUS-3由来の回折ピークのみが得られp-NS-FERは形成されなかった。そこでSi/Al比およびSi/B比を34に固定しNaOH/SiO2比を0.30から0.25と0.35に変化させて合成を行った(Sample no.22,23)。NaOH/SiO2=0.25のSample no.22ではピーク強度比がp-NS-FERから変化したXRDスペクトルが得られ、シートの凝集の仕方がp-NS-FERとは大きく異なったサンプルが得られた。NaOH/SiO2=0.35のSample no.23ではp-NS-FERとよく類似したXRDスペクトルのみが得られ、シート間に豊富な空隙が存在するp-NS-FER特有の結晶形態を示した。このSample no.23のホウ素量を調査するためにICP測定を行ったところ、Si/Al=10.09、Si/B=422.13となりホウ素が骨格中に取り込まれていた。
【0077】
<ガリウムの導入>
合成条件と得られた生成物を表5に、生成物のXRDスペクトルを
図12に、SEM像を
図13にそれぞれ示す。比較としてp-NS-FERのデータもあわせて示す。
【0078】
【0079】
ガリウム源を酸化ガリウムとし、Si/(Al+Ga)=17に固定してホウ素とアルミニウムの量を変化させて合成を行った(Sample no.24-26)。ガリウム量が少ないSample no.24ではp-NS-FERと類似したXRDスペクトルのみが得られp-NS-FER相が単相で形成されていることが示唆された。ガリウム量を増加させたSample no.25,26は、p-NS-FERの回折ピークは観察されず原料の酸化ガリウムや酸化アルミニウム由来のXRDスペクトルが得られた。
【0080】
次にGa源を硝酸ガリウムに変え、同じくSi/(Al+Ga)=17に固定してホウ素とアルミニウムの量を変化させて合成を行った(Sample no.27-29)。ガリウム量が少ないSample no. 27ではピーク強度の低いp-NS-FER由来の回折パターンと原料である水酸化アルミニウム由来の回折パターンが得られた。SEM像からはp-NS-FERの球状二次粒子の中にキュービック状の水酸化アルミニウム結晶が観察された。ガリウム量を増加させたSample no.28ではアモルファス由来のハローパターンと水酸化アルミニウム由来の回折パターンが得られ、p-NS-FER相は形成されていなかった。アルミニウムを全く添加しなかったSample no.29ではアモルファス由来のハローパターンのみが得られた。p-NS-FER相が得られたSample no.24についてICP測定を行ったところ、Si/Al=11.50、Si/Ga=36.71となりガリウムが骨格内に取り込まれていた。
【0081】
<鉄の導入>
合成条件と得られた生成物を表6に、生成物のXRDスペクトルを
図14に、SEM像を
図15にそれぞれ示す。比較としてp-NS-FERのデータもあわせて示す。
【0082】
【0083】
Si/(Al+Fe)=17、Si/Al=22.67、Ai/Fe=68.00に固定し、鉄源を硝酸鉄(III)九水和物とトリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)に変化させて合成を行った(Sample no.30,31)。Sample no.30,31ではどちらもp-NS-FERと類似したXRDスペクトルのみが得られ、結晶形態はシートがつぶれたような部分も存在していたもののp-NS-FERとよく似た球状粒子のみが観察されたことからp-NS-FER相が単相で得られていることが示唆された。この二つのサンプルについて比較するとXRDスペクトルや結晶形態、収率などはおおむね類似していた。しかし、Sample no.31はトリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)を原料として使用しており、HeTMA以外に有機物ができるだけ含まれないp-NS-FER合成系に近い条件のほうが適していると考えてSample no.30の硝酸鉄(III)九水和物を鉄源として固定して他の合成条件を変化させた。
【0084】
鉄量を増加させたSample no.32ではSample no.31と比較してXRDスペクトルのピーク強度が低下し、SEM像からはシートが薄片化したような結晶が観察されp-NS-FERのような球状の二次粒子形態は得られていなかった。
【0085】
アルミニウムを全く添加しなかったSample no.33ではHUS-3由来の回折パターンが主に観察され、p-NS-FER由来の回折ピークは強度が大きく減少していた。SEM像からは薄片化したシート状の結晶とHUS-3と思われる厚い層状結晶が観察された。
【0086】
そこで鉄とアルミニウムの量をSample no.32の条件に固定し、NaOH/SiO2比を0.25と0.42に変化させて合成を行った(Sample no.34,35)。NaOH/SiO2=0.25としたSample no.34ではp-NS-FERのピーク強度が減少し一部のピークが消失していた。SEM像からは薄片化したシート状結晶が観察された。NaOH/SiO2=0.42としたSample no.35ではXRDスペクトルにピークはほとんど存在せずSEM像からメソポーラスシリカのような結晶が観察されたため、この条件ではゼオライトは形成されなかった。XRDスペクトルおよびSEM像でp-NS-FERとよく似た結果が得られたSample no.30,31についてICP測定を行ったところ、どちらのサンプルも原料のSi/Fe比は50付近であり、骨格への導入が確認された。
【0087】
<チタン及びすずの導入>
合成条件と得られた生成物を表7に、生成物のXRDスペクトルを
図16に、SEM像を
図17にそれぞれ示す。比較としてp-NS-FERのデータもあわせて示す。
【0088】
【0089】
Si/(Al+Ti)=17、Si/Al=22.67、Ai/Ti=68.00に固定し、チタン源を30%硫酸チタン(IV)溶液と酸化チタン(IV)に変化させて合成を行った(Sample no.36,37)。Sample no.36ではp-NS-FERの回折パターンのほかに原料である水酸化アルミニウム由来のピークも存在し、SEM像からは薄片化したシート状の結晶が多く観察され球状の二次粒子形態は得られていなかった。Sample no.37ではp-NS-FER由来の回折パターンのほかに原料である酸化チタン由来のピークが存在していた。SEM像からはp-NS-FERのようなシート結晶が凝集した球状粒子が観察された。
【0090】
これらのサンプルではp-NS-FER相が単相では得られなかったためチタン源をオルトチタン酸テトライソプロピルに変えてチタン量を変化させて合成を試みた(Sample no.38,39)。Sample no.38,39はいずれのサンプルもp-NS-FERの回折パターンとともに2θ=6°付近の帰属不明なピークが観察された。以上よりチタン源を添加した合成系ではp-NS-FER相は単相では得られなかった。
【0091】
すず源を酸化すず(IV)として、Si/(Al+Sn)=17に固定してすずとアルミニウムの量を変化させて合成を行った(Sample no.40,41)。いずれのサンプルにおいてもp-NS-FER由来の回折パターンとともに原料である酸化すず(IV)のピークも観察され、すず源が溶け残って生成物に存在しておりp-NS-FER相が単相で得られていなかった。
【0092】
<シリル化の検討>
シリル化処理を試みた。シリル化とは、
図18に示すように、ゼオライト中のシラノール基(SiOH)とシリル化剤(SiOR)の反応によってシロキサン結合(SiOSi)を形成させることである。シリル化により、結晶外表面の末端シラノール基が多いナノサイズゼオライトの骨格安定化や、吸着性能の向上が期待できる。
【0093】
シリル化は以下の手順で行った。Refined NS-FER0.1gを100mlナス型フラスコ内で0.1M塩酸または超脱水アセトニトリル10mlに分散させ、メトキシトリメチルシラン(MTMS,東京化成工業株式会社製,純度98%)またはエトキシトリメチルシラン(ETMS,東京化成工業株式会社製,純度98%)を所定量添加した。シリル化剤の添加量はSi(silane)[mol]/zeolite[g]=0.00155を基準に決定した。塩酸は6M塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)とイオン交換水から調製した。フラスコ内に撹拌子を入れて栓をし、60℃のオイルバスで10時間または24時間撹拌した。室温まで冷却後、固体を吸引ろ過によってろ紙上に回収した。そこに吸引しながら超脱水アセトニトリル20mlを加えてろ過洗浄し、次いでイオン交換水50mlでろ過洗浄した。洗浄後の固体をろ紙ごと70℃の乾燥機で乾燥させてシリル化処理したサンプル(Silylated sample)を得た。Refined NS-FERはp-NS-FERを硝酸水溶液で処理後に450℃で焼成したサンプルを使用した。
【0094】
検討したシリル化条件を表8に、処理後のサンプルのTG/DTA曲線を
図19にそれぞれ示す。比較としてRefined NS-FERのデータもあわせて示す。
【0095】
【0096】
まず、Sample no.42ではシリル化剤MTMSをSi(silane)[mol]/zeolite[g]が0.0155となるように、Refined NS-FER0.1gに対して0.16g添加した。分散媒は塩酸を使用し処理時間は10時間で行った。TG/DTA曲線からSample no.42はRefined NS-FERと同様に、200℃以下のサンプル中の水の蒸発に起因する吸熱ピークを伴う重量減少のみが観察され、シリル化剤由来の重量減少は観察されなかった。このことからSample no.42の条件ではシリル化は進行していないことが示唆された。
【0097】
Sample no.43,44では、シリル化をより進行させるためにSi(silane)[mol]/zeolite[g]を0.775となるようにシリル化剤を添加し、分散媒は疎水的なシリル化剤との親和性を考慮してアセトニトリルに変更し処理時間は10時間から24時間に長くして行った。Sample no.43のTG/DTA曲線には200℃付近に鋭い発熱ピークを伴う重量減少と250℃から500℃付近に発熱ピークを伴う重量減少が観察された。また、Sample no.44のTG/DTA曲線にも200℃から500℃にかけてRefined NS-FERには存在しない発熱ピークを伴う重量減少が観察された。これらの重量減少はサンプル中のシリル化剤に含まれるメチル基やシリル化後に生成したエタノールやメタノールの燃焼に起因していると考えられる。このことからSample no.43,44はシリル化が進行していることが示された。
【0098】
Sample no.44のSilylated NS-FERについてまずSiの化学状態を調査するために
29Si MAS NMR測定を行った。得られたスペクトルを
図20に示す。比較としてp-NS-FERを焼成したNS-FERのスペクトルもあわせて示す。シリル化処理後のSample no.44はNS-FERに存在する-100から-110ppm付近のシラノール基由来のピーク強度が減少していた。また、Sample no.44には14ppm付近のトリメチルシリル基中のSi由来のピークが観察された。これらの結果よりSample no.44はシリル化剤であるMTMSとシラノール基とのシリル化が進行していることが示唆された。