(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023107761
(43)【公開日】2023-08-03
(54)【発明の名称】水分解光触媒、水素及び/又は酸素の製造方法、並びに水分解装置
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20230727BHJP
B01J 23/89 20060101ALI20230727BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20230727BHJP
C01B 13/02 20060101ALI20230727BHJP
C01B 3/50 20060101ALI20230727BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J23/89 M
C01B3/04 A
C01B13/02 B
C01B3/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009016
(22)【出願日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2022008484
(32)【優先日】2022-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】513056835
【氏名又は名称】人工光合成化学プロセス技術研究組合
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】勝呂 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】岸本 史直
(72)【発明者】
【氏名】高鍋 和広
(72)【発明者】
【氏名】高田 剛
(72)【発明者】
【氏名】堂免 一成
(72)【発明者】
【氏名】仮屋 伸子
(72)【発明者】
【氏名】福井 剛史
【テーマコード(参考)】
4G042
4G140
4G169
【Fターム(参考)】
4G042BA07
4G042BA08
4G042BB04
4G140FA02
4G140FB03
4G140FE01
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4G169AA03
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4G169EC27
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4G169EC29
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4G169FC08
4G169HA20
4G169HB06
4G169HC22
4G169HC28
4G169HC29
4G169HD03
4G169HD04
4G169HE09
(57)【要約】
【課題】水分解効率が改善された気相反応用の水分解光触媒を提供する。
【解決手段】光触媒と助触媒とを含む水分解光触媒であって、前記水分解用触媒の表面の少なくとも一部が金属酸化物で被覆されており、X線光電子分光分析(XPS)により測定される、前記金属酸化物中の金属元素に対する前記水分解光触媒中の金属元素の原子比が、0.7以上15.0以下であり、気相反応に用いられる水分解光触媒。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒と助触媒とを含む水分解光触媒であって、
前記水分解光触媒は、表面の少なくとも一部が金属酸化物で被覆されており、
X線光電子分光分析(XPS)により測定される、前記金属酸化物中の金属元素に対する前記水分解光触媒中の金属元素の原子比が、0.7以上15.0以下であり、
気相反応に用いられる、水分解光触媒。
【請求項2】
前記金属酸化物の被覆率が、50%以上である、請求項1に記載の水分解光触媒。
【請求項3】
前記金属酸化物の形状が、被膜状であり、
前記金属酸化物の膜厚が、0.1nm以上10.0nm以下である、請求項1に記載の水分解光触媒。
【請求項4】
前記水分解光触媒の標準状態(273.15K、100kPa、相対湿度80%)における吸着水分量が、前記水分解光触媒1.0重量部当たり0.001重量部以上1.50重量部以下である、請求項1に記載の水分解光触媒。
【請求項5】
前記水分解光触媒の総重量に対する前記金属酸化物中の金属元素の重量の比率が、0.001重量%以上10.0重量%以下である、請求項1に記載の水分解光触媒。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の水分解光触媒の存在下で、相対湿度60%以上の気体に光を照射する水分解工程を含む、水素及び/又は酸素の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の水分解光触媒を含む反応管と、
前記反応管に相対湿度60%以上の気体を供給する供給部と、
水分解により生成した気体に含まれる水分を低減させる水蒸気トラップ部と、
前記水蒸気トラップ部により水分が低減された前記気体に含まれる水素と酸素とを分離する分離部とを有する、水分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分解光触媒、水素及び/又は酸素の製造方法、並びに水分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光を利用して水を分解したり、さらに分解物である水素から高エネルギー物質を製造したりする人工光合成をおこなうため、各種光触媒が提案されている。
【0003】
近年では、光により水を分解するための光触媒と、該光触媒の効率を高めるための助触媒とを組み合わせた水分解光触媒が開発されている。かかる水分解光触媒を用いることにより、光エネルギーを高効率で水分解に利用することができ、その結果、水素の製造効率を高めることが可能となる。かかる水分解光触媒の具体例としては、例えば、光触媒であるSrTiO3にAlをドープし、助触媒としてクロム酸化物で被覆した金属ロジウムと酸化コバルトを組み合わせたもの;光触媒半導体上に担持された助触媒を酸化物で被覆することにより製造されたコア-シェル型光触媒(特許文献1参照);等が知られている。
【0004】
さらに、光触媒を用いた水分解反応は、通常、水中に光触媒を設置して液相で行われるところ、水蒸気と光触媒とを接触させることにより気相で水分解反応を行う技術も開発されている(特許文献2参照)。そして、このように気相で水分解反応を行うことで、液相反応における下記1)~6)のような欠点を軽減又は回避できるというメリットがあることが知られている(非特許文献1参照)。
1)特に高活性での水分解反応において液相中に生成した酸水素の気泡により光散乱が生じ、光触媒に照射される光の強さ及び量が減る。
2)液相として存在する一定量の水が紫外域の光を吸収することにより、光触媒に照射される光の強さ及び量が減る。
3)液相水中に溶解している不純物が光触媒を被毒させ、光触媒活性が低下する。
4)特に、集中光照射システムにて液相の水を用いる場合、気化を要因とする圧力上昇によりリアクターが破損し、反応物、生成物等がリークする虞があるため、反応温度を低温度で制御する必要があるところ、光触媒反応は温度と共に反応速度が上昇する反応であるため、低温度(例えば60度以下)では律速となる。
5)助触媒が溶出する。
6)光触媒を固定化剤等とモジュール化した場合に、液相の水の凍結により反応系の体積が膨張し、モジュールに破損が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-071128号公報
【特許文献2】国際公開第2004/085306号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry 401 (2020) 112757
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
気相で水分解を行う場合、光触媒に接触する水の絶対量が減るため、光触媒活性の経時低下の要因の1つとして考えられている助触媒の溶出を防止できるなどの効果も期待できる。しかしながら、既往の報告においては、気相で水分解を行う場合、同じ光エネルギーで分解できる水は液相で水分解を行う場合よりも少なく、水分解効率が十分でないという問題もある。
非特許文献1においても、光触媒に担持された助触媒が酸化物で被覆された水分解光触媒について、気相での水分解反応が評価されているが、その水分解効率は液相反応よりも低いものであった。
そのため、水分解光触媒を用いた水分解装置を実用化するにあたり、十分な水分解効率を示すことが求められている。
【0008】
本発明の課題は、水分解効率が改善された気相反応用の水分解光触媒を提供することである。
また、本発明の他の課題は、当該水分解光触媒を用いた水素及び/又は酸素の製造方法、並びに当該水分解光触媒を備えた水分解装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、光触媒と助触媒とを含む水分解光触媒において、表面の少なくとも一部を金属酸化物で被覆し、該金属酸化物中の金属元素に対する水分解光触媒中の金属元素の原子比を特定範囲内とすることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下のものを含む。
【0010】
〔1〕
光触媒と助触媒とを含む水分解光触媒であって、
前記水分解光触媒は、表面の少なくとも一部が金属酸化物で被覆されており、
X線光電子分光分析(XPS)により測定される、前記金属酸化物中の金属元素に対する前記水分解光触媒中の金属元素の原子比が、0.7以上15.0以下であり、
気相反応に用いられる、水分解光触媒。
〔2〕
前記金属酸化物の被覆率が、50%以上である、〔1〕に記載の水分解光触媒。
〔3〕
前記金属酸化物の形状が、被膜状であり、
前記金属酸化物の膜厚が、0.1nm以上10.0nm以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の水分解光触媒。
〔4〕
前記水分解光触媒の標準状態(273.15K、100kPa、相対湿度80%)における吸着水分量が、前記水分解光触媒1.0重量部当たり0.001重量部以上1.50重量部以下である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の水分解光触媒。
〔5〕
前記水分解光触媒の総重量に対する前記金属酸化物中の金属元素の重量の比率が、0.001重量%以上10.0重量%以下である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の水分解光触媒。
〔6〕
〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の水分解光触媒の存在下で、相対湿度60%以上の気体に光を照射する水分解工程を含む、水素及び/又は酸素の製造方法。
〔7〕
〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の水分解光触媒を含む反応管と、
前記反応管に相対湿度60%以上の気体を供給する供給部と、
水分解により生成した気体に含まれる水分を低減させる水蒸気トラップ部と、
前記水蒸気トラップ部により水分が低減された前記気体に含まれる水素と酸素とを分離する分離部とを有する、水分解装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水分解効率が改善された気相反応用の水分解光触媒を提供することができる。
また、本発明によれば、当該水分解光触媒を用いた水素及び/又は酸素の製造方法、並びに当該水分解光触媒を備えた水分解装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1で得た水分解光触媒のエネルギー分散型X線分析結果である(図面代用写真)。
【
図2】実施例1で得た水分解光触媒の透過電子顕微鏡像である(図面代用写真)。
【
図3】実施例1で得た水分解光触媒の水蒸気吸着等温線を示すグラフである。
【
図4】実施例2で得た水分解光触媒の水蒸気吸着等温線を示すグラフである。
【
図5】比較例2で得た水分解光触媒の水蒸気吸着等温線を示すグラフである。
【
図6】比較例4で得た水分解光触媒の水蒸気吸着等温線を示すグラフである。
【
図7】実施例1及び2で得た水分解光触媒の活性評価の結果を示すグラフである。
【
図8】比較例2~4で得た水分解光触媒の活性評価の結果を示すグラフである。
【
図9】実施例1で得た水分解光触媒の、水の相対圧力及び雰囲気温度を変化させた場合の活性の変化を示すグラフである。
【
図10】実施例1で得た水分解光触媒の耐久性評価の結果を示すグラフである。
【
図11】金属酸化物の被覆率を測定するための方法の一例を説明する図である。(a)は水分解光触媒粒子の透過電子顕微鏡(STEM)像であり、(b)は(a)のS面におけるEDX-STEM強度を用いたTa元素分布であり、(c)は(a)のT面におけるEDX-STEM強度を用いたTa元素分布である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
なお、本明細書において、数値範囲の下限値及び上限値を分けて記載する場合、当該数値範囲は、それらのうち任意の下限値と任意の上限値とを組み合わせたものとすることができる。
【0014】
1.水分解光触媒
本発明の第1の実施形態は、光触媒と助触媒とを含み、気相反応に用いられる水分解光触媒である。本実施形態に係る水分解光触媒は、表面の少なくとも一部が金属酸化物で被覆されており、X線光電子分光分析(XPS)により測定される、前記金属酸化物中の金属元素に対する前記水分解光触媒中の金属元素の原子比が、0.7以上15.0以下である。
【0015】
上述したように、光触媒と助触媒とを含む水分解光触媒は、気相での水分解に用いた場合、液相で水分解を行う場合よりも水分解効率が低いという問題点を有する。本発明者らは、かかる問題点の原因が、助触媒が水に溶解したり、溶解した助触媒が光触媒の表面以外の領域に析出したりすることが原因であることを見出した。助触媒は、通常光触媒より小さく、光触媒の表面上に存在しており、比表面積が大きい。そのため、液相中では、助触媒の水への溶解を回避することは難しい。また、水分解装置中の液相の温度を中長期的に一定に保つことは現実的でないため、溶解した助触媒が光触媒の表面以外の領域に析出することを回避することも難しい。
【0016】
光触媒と助触媒とを含む水分解光触媒を気相での水分解に用いれば、液相反応のように水分解光触媒を液相の水の中に浸漬する必要がなく、水分解光触媒と気相の水(すなわち、水蒸気)とが接することにより水分解反応が進行するため、助触媒の溶解による影響を軽減することが可能である。しかしながら、気相反応では、液相反応と比較して、水と水分解光触媒との接触機会が低減するため、水分解効率が低下し、実用性の点で問題が残る。
【0017】
本実施形態に係る気相反応用の水分解光触媒は、表面の少なくとも一部が金属酸化物で被覆されていること、及び金属酸化物中の金属元素に対する水分解光触媒中の金属元素を特定の範囲内とすることにより、上記問題を解決したものである。このような水分解光触媒を気相での水分解に用いると、水分解光触媒の表面近傍に存在する水蒸気が凝縮して液滴に変化し、水分解反応が進行する。このとき、液滴は水分解光触媒表面上に形成されるため、助触媒は水分解光触媒上にとどまり、液相反応の場合のように助触媒が流出したり、水分解光触媒の存しないところで析出したりすることが抑制される。そのため、光触媒活性の低下を抑制することができ、その結果、光エネルギー変換効率の低下も抑制することができる。また、本実施形態に係る水分解光触媒には、十分な量の液滴が吸着し得るため、水と水分解光触媒との接触機会も担保され、従来の気相での水分解反応と比較して、高い水分解効率を実現することもできる。
以下、本実施形態に係る水分解光触媒の特徴をより詳細に説明する。
【0018】
1-1.光触媒
本実施形態に係る水分解光触媒は、光触媒と助触媒とを含む。本明細書において、光触媒とは、バンドギャップ以上のエネルギーを吸収することによって価電子帯の電子を伝導帯に励起し価電子帯に正孔を生成する材料である。光触媒としては、例えばTi、V、Nb、及びTaからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む酸化物、酸窒化物、窒化物、(オキシ)カルコゲナイド等を採用することができる。光触媒は1種単独で使用してもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで併用してもよい。
【0019】
より具体的には、光触媒としては、TiO2、CaTiO3、SrTiO3、Sr3Ti2O7、Sr4Ti3O7、K2La2Ti3O10、Rb2La2Ti3O10、Cs2La2Ti3O10、CsLaTi2NbO10、La2TiO5、La2Ti3O9、La2Ti2O7、La2Ti2O7:Ba、KaLaZr0.3Ti0.7O4、La4CaTi5O7、KTiNbO5、Na2Ti6O13、BaTi4O9、Gd2Ti2O7、Y2Ti2O7、(Na2Ti3O7、K2Ti2O5、K2Ti4O9、Cs2Ti2O5、H+-Cs2Ti2O5(H+-CsはCsがH+でイオン交換されていることを示す。以下同様)、Cs2Ti5O11、Cs2Ti6O13、H+-CsTiNbO5、H+-CsTi2NbO7、SiO2-pillared K2Ti4O9、SiO2-pillared K2Ti2.7Mn0.3O7、BaTiO3、BaTi4O9、AgLi1/3Ti2/3O2等のチタン含有酸化物;
LaTiO2N等のチタン含有酸窒化物;
La5Ti2CuS5O7、La5Ti2AgS5O7、Sm2Ti2O5S2、Y2Ti2O5S2、Gd2Ti2O5S2等のチタン含有(オキシ)カルコゲナイド;
BiVO4、Ag3VO4等のバナジウム含有酸化物;
K4Nb6O17、Rb4Nb6O17、Ca2Nb2O7、Sr2Nb2O7、Ba5Nb4O15、NaCa2Nb3O10、ZnNb2O6、Cs2Nb4O11、La3NbO7、H+-KLaNb2O7、H+-RbLaNb2O7、H+-CsLaNb2O7、H+-KCa2Nb3O10、SiO2-pillared KCa2Nb3O10(Chem.Mater.1996,8,2534.)、H+-RbCa2Nb3O10、H+-CsCa2Nb3O10、H+-KSr2Nb3O10、H+-KCa2NaNb4O13)、PbBi2Nb2O9等のニオブ含有酸化物;
CaNbO2N、BaNbO2N、SrNbO2N、LaNbON2、SnNb2O6等のニオブ含有酸窒化物;
Ta2O5、K2PrTa5O15、K3Ta3Si2O13、K3Ta3B2O12、LiTaO3、NaTaO3、KTaO3、AgTaO3、KTaO3:Zr、NaTaO3:La、NaTaO3:Sr、Na2Ta2O6、K2Ta2O6(pyrochlore)、CaTa2O6、SrTa2O6、BaTa2O6、NiTa2O6、Rb4Ta6O17、H2La2/3Ta2O7、K2Sr1.5Ta3O10、LiCa2Ta3O10、KBa2Ta3O10、Sr5Ta4O15、Ba5Ta4O15、H1.8Sr0.81Bi0.19Ta2O7、Mg-Ta oxide(Chem.Mater.2004 16, 4304-4310)、LaTaO4、La3TaO7等のタンタル含有酸化物;
Ta3N5等のタンタル含有窒化物;
CaTaO2N、SrTaO2N、BaTaO2N、LaTaO2N、Y2Ta2O5N2、TaON等のタンタル含有酸窒化物;
GaN:ZnO等の化合物;
これらの化合物にAl、Cr、Ni、Ru、Rh、Ta、Ir、Pt等のドーパントをドープしたもの;等が挙げられる。
なお、これらの光触媒は、固相法、溶液法等の公知の合成方法によって容易に合成可能である。
【0020】
これらのうち、太陽光を利用した水分解反応をより効率的に生じさせる観点からは、可視光応答型の光触媒、例えばY2Ti2O5S2、Gd2Ti2O5S2などの酸硫化物;TaON、LaTiO2N、BaTaO2N、SrNbO2N、Ta3N5等の金属(酸)窒化物;等を用いることが好ましい。また、アルミニウムをドープしたチタン酸ストロンチウム(SrTiO3:Al)のような紫外線応答型の光触媒を用いることも好ましい。
【0021】
光触媒の形態(形状)については、上記説明した助触媒を担持して光触媒として機能し得るような形態であれば特に限定されず、光触媒の設置形態等に応じて粒子状(粉末状)、塊状、板状等の形状から適宜選択することができる。これらのうち、光触媒の形状は、粒子状であることが好ましい。光触媒が粒子形状である場合、その粒子径は、好ましくは50nm以上500μm以下である。なお、本明細書において「粒子径」とは、定方向接線径(フェレ径)の平均値(平均粒子径)を意味し、XRD、TEM、SEM法等の公知の手段によって測定することができる。
【0022】
1-2.助触媒
本実施形態において、助触媒は、光触媒活性を向上するため、光触媒に接するように存在しており、光触媒の表面に担持されていることが好ましい。本明細書において、助触媒とは、光触媒との界面のバンド構造に影響を与え、電荷をトラップすることにより電荷分離を促進するとともに、表面での酸化還元反応を促進して水の分解反応の過電圧を低くする役割を果たすものである。
【0023】
助触媒は、光触媒の種類に応じて公知の助触媒から適宜選択して用いることができる。公知の助触媒としては、具体的には、イリジウム、イリジウム酸化物、イリジウム水酸化物、コバルト、コバルト酸化物、コバルト水酸化物等の酸素発生助触媒;ロジウム、白金、イリジウム、ルテニウム、金、ニッケル等の水素発生助触媒;等が挙げられ、酸素発生助触媒及び水素発生助触媒を併用することが好ましい。酸素発生助触媒及び水素発生助触媒は、それぞれ、1種単独で用いてもよく、2種以上を任意の比率及び組み合わせで併用してもよい。
【0024】
光触媒と組み合わせる助触媒の総量は、光触媒活性を向上できる限り特に限定されず、光触媒を基準(100重量%)として、通常0.01重量%以上であり、0.1重量%以上であってよく、また、通常5重量%以下であり、3重量%以下又は1重量%以下であってもよい。なお、ここでいう「総量」とは、助触媒中の金属元素の合計量をいう。
【0025】
1-3.金属酸化物
本実施形態に係る水分解光触媒は、表面の少なくとも一部が金属酸化物(ただし、光触媒及び助触媒に該当するものを除く。)で被覆されている。なお、本明細書において、金属酸化物には、ケイ素酸化物等の半金属の酸化物も含むものとする。助触媒が金属酸化物である場合、助触媒と水分解光触媒の表面を被覆する金属酸化物とは、以下のように区別することができる。すなわち、助触媒としての効果(光触媒との界面のバンド構造に影響を与え、電荷をトラップすることにより電荷分離を促進するとともに、表面での酸化還元反応を促進して水の分解反応の過電圧を低くする役割を果たすもの)が最も大きいものを助触媒とみなし、それ以外を金属酸化物とみなすことができる。
金属酸化物としては、Ti、Ta等の金属の酸化物が挙げられる。
【0026】
金属酸化物を光触媒と助触媒とを組み合わせたものに付着させる方法としては、光電析法(光電着法)、含侵法(蒸発乾固法)などを用いることができる。
【0027】
光電析法では、まず対象金属の塩を過酸化水素水に溶解し、超音波を照射しながらアルカリ水溶液と混合することで、対象金属を含有する溶液を調製する。次に、この溶液を助触媒担持した光触媒を含む懸濁液に滴下し、その後、光照射により金属種を還元することで、光触媒表面にこの金属種を付着させることができる。
過酸化水素水は対象金属の塩の溶解度を向上させるために使用されるものである。過酸化水素水に代えて、塩酸、硝酸、アンモニア水等を用いることもできる。
また、アルカリ水溶液は、対象金属の塩を加水分解させるためのものである。アルカリ水溶液としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等を好適に用いることができる。アルカリ水溶液に代えて、塩酸、硝酸、硫酸等の酸溶液を用いることもできる。
【0028】
光電析法において、光照射に用いる光源は、出力が100mW/cm2以上であることが好ましく、500mW/cm2以上であることがより好ましい。光源の出力の上限は、特に規定されないが、通常5000mW/cm2以下、好ましくは3000mW/cm2以下である。
光電析法における光照射の時間は、好ましくは1時間以上、より好ましくは10時間以上である。光照射時間の上限は、特に規定されないが、通常480時間以下、好ましくは400時間以下である。特に、光源として太陽光を使用する場合、日照時間及び日照の強さにもよるが、光照射時間は通常1日以上、好ましくは2日以上、より好ましくは5日以上であり、また、好ましくは1か月以下、より好ましくは3週間以下である。
【0029】
含侵法は、金属酸化物を含む溶液を担体に染み込ませ、乾燥させることで該溶液中の溶媒を除去し、一方で溶質である金属酸化物を担体上に残す方法である。乾燥温度は好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上である。乾燥温度の上限は、特に規定されないが、通常300℃以下、好ましくは250℃以下である。
【0030】
本実施形態において、水分解光触媒の総重量に対する金属酸化物中の金属元素の重量の比率は、特に限定されないが、好ましくは0.0005重量%以上、より好ましくは0.00075重量%以上、さらに好ましくは0.001重量%以上、また、好ましくは50.0重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下である。上記比率が上記範囲内であれば、助触媒が担持された光触媒粒子の表面が金属酸化物で広く被覆されていると判断することができる。この場合、光触媒に担持された酸素発生助触媒と水素生成状触媒とを吸着水により導通させることができるため、気相での水分解効率を向上する。
【0031】
水分解光触媒の総重量に対する金属酸化物中の金属元素の重量の比率は、下記により測定される。まず、水分解光触媒の総重量は、助触媒の担持及び金属酸化物の被覆をする前の粉末を秤量計にて測量し求める。金属酸化物中の金属元素の重量については、はじめに金属酸化物の原料(アルコキシド、塩等)の重量を測定又は換算により求め、物質量を求める。次に、求めた物質量と金属元素の原子量の積を算出することで、金属元素の重量を求める。そして、求めた金属元素の重量と上記水分解光触媒の重量から比率を算出する。
一方、既に製造されたものであれば、ICP発光分光分析(ICP-OES)などで測定することにより、算出することができる。
【0032】
X線光電子分光分析(XPS)により測定される、金属酸化物中の金属元素に対する水分解光触媒中の金属元素の原子比は、通常0.7以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは2.0以上、また、通常15.0以下、好ましくは12.0以下、より好ましくは11.0以下である。当該原子比が上記範囲内であれば、助触媒が担持された光触媒粒子の表面が金属酸化物で広く被覆されていると判断することができる。
【0033】
当該原子比は、水分解光触媒のX線光電子分光分析(XPS)により表面元素組成(at%)を測定し、最もモル数の大きい元素を基準(同じ場合にはいずれでもよい)として算出される値である。XPSは、例えば下記条件で測定される。
【0034】
装置:島津製作所社製「kratos ultra2」
線源:単色化AlKα
出力:15kV-225W(15mA)
測定範囲:300μm×700μm
取り出し角:90度
【0035】
本実施形態に係る水分解光触媒における金属酸化物の被覆率は、本発明の効果を奏する限り特に限定されず、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。金属酸化物が存在することにより、水分解光触媒への水の吸着量が増加し、酸素発生助触媒と水素生成状触媒とを吸着水により導通させることができる。
そのため、金属酸化物の被覆率を上記下限以上とすることで、気相での水分解効率を向上することができる。また、金属酸化物の被覆率の上限は、特に限定されず、通常100%以下であり、90%以下又は80%以下であってもよい。
【0036】
水分解光触媒の表面における金属酸化物の被覆率は、透過型電子顕微鏡分析より測定される。具体的には、まず、水分解光触媒の試料に集束イオンビーム加工(FIB加工)を施す。次に、透過型電子顕微鏡(例えば、Thermo Fisher Scientific社製「Talos 200kV-FE-(S)TEM with super X XDS」)を用い、水分解光触媒全体を把握できるTEM像を撮影する。そして、撮影された一粒子について2視野以上の画像にて金属酸化物の状態を評価し、各画像での平均値を水分解光触媒における金属酸化物の被覆率として算出する。
より具体的には、まず、目的元素のスペクトル強度、画像処理などによって水分解光触媒を被覆している金属酸化物を特定し、その画像上の金属酸化物の最大長さに対する撮像された粒子の辺長さとの割合を被覆率とする。そして、2枚画像での被覆率の平均を水分解光触媒全体における金属酸化物の被覆率として算出する。金属酸化物を特定し、その状態を評価する方法は、TEM像のみを用いる方法に限定されず、ADF-STEM又はEDX-STEMを用いる下記の方法を用いてもよい。
【0037】
金属酸化物の構成元素が光触媒及び助触媒のうち何れかにも含まれており、且つ金属酸化物の電子密度が光触媒及び助触媒のうち何れかの電子密度と異なる場合には、水分解光触媒の表面における金属酸化物の被覆率は、電子密度の高低との相関性を有する信号強度を出力する環状検出器を用いて取得した走査透過型電子顕微鏡像を用いて、測定することができる。
この場合、光触媒表面に沿って連続した2面の結晶面方位に対して直行した断面を有する水分解光触媒粒子についての走査透過型電子顕微鏡像、及び環状検出器が出力する強度(以下、ADF-STEM強度と呼ぶ)を取得する。その2面の直上の金属酸化物のADF-STEM強度と光触媒表面のそれとの間に10%以上の差があれば、光触媒表面に沿ったADF-STEM強度の連続性を用いて、金属酸化物の被覆率を算出する。
【0038】
あるいは、金属酸化物の構成元素が光触媒及び助触媒のうち何れかにも含まれており、且つ金属酸化物の組成割合が光触媒及び助触媒のうち何れかの組成割合と異なる場合には、水分解光触媒の表面における金属酸化物の被覆率は、元素分布評価を用いて測定することができる。
この場合、光触媒表面に沿って連続した2面の結晶面方位に対して直行した断面を有する水分解光触媒粒子についての走査透過型電子顕微鏡像、及びEDX検出器が出力する強度(以下、EDX-STEM強度と呼ぶ)を取得する。その2面の直上の金属酸化物のEDX-STEM強度と光触媒表面のそれとの間に30%以上の差があれば、光触媒表面に沿ったEDX-STEM強度の連続性を用いて、金属酸化物の被覆率を算出する。
【0039】
元素分布評価を用いて金属酸化物の被覆率を測定する一例を、
図11を参照して説明する。
図11において、(a)は水分解光触媒粒子のSTEM像であり、(b)は(a)のS面におけるEDX-STEM強度を用いたTa元素分布であり、(c)は(a)のT面におけるEDX-STEM強度を用いたTa元素分布である。
図11に示す一例では、(b)及び(c)において、S面及びT面の長さ全体に対する、Ta元素が存在している部分の長さの比率を金属酸化物の被覆率として算出する。
【0040】
金属酸化物の被覆率の算出方法として上述したADF-STEM及びEDX-STEMのうち何れが用いられるかは、助触媒及び金属酸化物それぞれに含まれる元素に応じて、適宜に選択され得る。助触媒及び金属酸化物に同じ元素を含む場合、例えば助触媒にも金属酸化物にもTiが含まれる場合にはADF-STEMを用いることが好ましく、助触媒及び金属酸化物に同じ元素が含まれない場合にはEDX-STEMを用いることが好ましい。
【0041】
金属酸化物の形状は、被膜状であってもよく、粒子状であってもよいが、好ましくは被膜状である。
【0042】
金属酸化物の形状が被膜状である場合、その膜厚は、特に限定されないが、好ましくは0.1nm以上、より好ましくは1.0nm以上、さらに好ましくは1.5nm以上、また、好ましくは10.0nm以下、より好ましくは6.0nm以下、さらに好ましくは4.0nm以下である。金属酸化物被膜の厚さを上記範囲内とすることにより、光触媒の光吸収を阻害することなく水分子を吸着し表面での水分解反応を促進することができる。
金属酸化物被膜の厚さは、透過型電子顕微鏡分析より測定される。被覆率測定と同様にして測定サンプルを加工し、撮像し、評価することにより厚みを測定する。
【0043】
金属酸化物の形状が粒子状である場合、その平均粒径の好適な範囲は、金属酸化物の形状が被膜状である場合の膜厚と同様である。
金属酸化物粒子の平均粒径(フェレ径)は、次のように測定される。まず、視野中の粒子が十分測定できる倍率にて走査電子顕微鏡(SEM)像を撮影する。次いで、SEM像から10個の金属酸化物粒子を無作為に選択し、金属酸化物粒子の定方向接線径を計測する。そして、計測された定方向接線径の平均を、金属酸化物粒子の平均粒径(フェレ径)とする。
【0044】
1-4.吸着水分量
本実施形態に係る水分解光触媒の、標準状態(273.15K、100kPa、相対湿度80%)における吸着水分量は、水分解光触媒1.0重量部当たり好ましくは0.001重量部以上、より好ましくは0.01重量部以上、さらに好ましくは0.02重量部以上、特に好ましくは0.03重量部以上、また、好ましくは1.50重量部以下、より好ましくは1.20重量部以下、さらに好ましくは1.00重量部以下であり、0.50重量部以下又は0.10重量部以下であってもよい。吸着水分量が上記下限以上であれば、気相反応において、凝集して液滴となった水が水分解光触媒表面上に十分な量で吸着する蓋然性が高く、水分解効率の向上が見込まれる。また、吸着水分量が上記上限以下であれば、助触媒の流出を十分抑制され、光触媒活性の経時的な低下を抑制することができる。
【0045】
標準状態における吸着水分量は、後述する実施例の方法により測定される。具体的には、水分解光触媒を60℃の真空条件(100Pa以下)で16時間以上処理した後、Micromeritics社製「3Flex」のようなガス吸着量測定装置により測定される。
【0046】
2.水素及び/又は酸素の製造方法
本発明の第2の実施形態は、本発明の第1の実施形態に係る水分解光触媒の存在下で、相対湿度60%以上の気体に光を照射する水分解工程を含む、水素及び/又は酸素の製造方法である。
【0047】
水分解工程においては、上記水分解光触媒と水蒸気を含む気体とを接触させながら光を照射し、水分解反応を進行させることにより、水素及び/又は酸素が生成する。水分解光触媒と水蒸気を含む気体との接触方法は、特に限定されず、水分解光触媒を配置した回分式反応器内に水蒸気を含む気体を供給する方法であってもよく、水分解光触媒を充填した反応管に連続的に水蒸気を含む気体を供給する方法であってもよいが、反応効率の点で、好ましくは後者である。
【0048】
水分解反応の反応温度は、水分解効率向上の観点から、通常20℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上、また、通常100℃以下、より好ましくは80℃以下、さらに好ましくは70℃以下である。
水蒸気を含む気体は、十分な水分解効率を達成する観点から、上記反応温度における相対湿度が通常60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上の気体である。水蒸気を含む気体の上記反応温度における相対湿度の上限は、特に限定されず、通常100%以下であり、95%以下又は90%以下であってもよい。
反応圧力は、特に限定されず、例えば2MPaG以下としてもよい。
また、水の相対圧力は、特に限定されないが、好ましくは0.5以上、また、通常1.0以下である。
【0049】
水分解工程において照射する光は、水分解光触媒の種類に応じて適宜選択することができ、例えば650nm以下の波長を有する可視光又は紫外光であってよい。照射光の光源としては、太陽;キセノンランプ、メタルハライドランプ等の太陽光近似光を照射可能なランプ;水銀ランプ;LED;等が挙げられる。
また、光の照度も適宜調整すればよく、例えば0.5mW/cm2以上100mW/cm2以下とすることができる。
【0050】
水分解工程における反応時間は、特に限定されないが、本発明の第1の実施形態に係る水分解光触媒は、光触媒活性の経時的な低下が抑制されており、長期にわたって安定的に水分解反応を促進させることができるため、長期間、例えば数日間又は数箇月間とすることも可能である。
【0051】
本実施形態に係る製造方法は、水分解工程以外にも、水分解工程で生成した気体に含まれる水分を低減する工程、水分解により生成した気体に含まれる水素と酸素とを分離する等を含んでいてもよい。各工程は、例えば後述する水分解装置により行うことができる。
【0052】
3.水分解装置
本発明の第3の実施形態は、本発明の第1の実施形態に係る水分解光触媒を含む反応管と、前記反応管に相対湿度60%以上の気体を供給する供給部と、水分解により生成した気体に含まれる水分を低減させる水蒸気トラップ部と、前記水蒸気トラップ部により水分が低減された前記気体に含まれる水素と酸素とを分離する分離部とを有する水分解装置である。
【0053】
水分解装置は、恒温加熱装置等の温度制御装置;相対湿度及び温度を測定するセンサー;等をさらに有していることが好ましい。水分解装置が温度制御装置を有する場合、前記反応管及び前記供給部は、温度を均一に保つため、温度制御装置の内部に配置されていることが好ましい。また、前記センサーの配置位置としては、前記反応管と前記供給部の中間が好ましい。
【実施例0054】
以下に、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0055】
〔合成例:SrTiO3:Alの調製〕
酸化チタンストロンチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)、塩化ストロンチウム(関東化学株式会社製)、及び酸化アルミニウム(メルク製)を10:0.02:1の物質量比で秤量し、メノウ製の乳鉢を用いて均一に混合した。得られた混合体を酸化アルミニウム製のるつぼに封入し、1150℃で10時間加熱した後、室温まで冷却した。超音波洗浄機を用いて得られた粉末を超純水中に均一に分散した後、濾過操作を行うことで、アルミニウムをドープしたチタン酸ストロンチウム(SrTiO3:Al)を白色固体として得た。
【0056】
〔合成例2:ロジウムとコバルト酸化物が共担持されたSrTiO3:Alの調製〕
アルミニウムをドープしたチタン酸ストロンチウム(SrTiO3:Al)(100mg)を、塩化ロジウム水溶液(0.013mmol/L,75.1mL)に懸濁した。得られた懸濁液を、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、波長370nmのLED光源(朝日分光株式会社;CL-1501,730mW/cm2)を用いて10分間光照射した。その後、懸濁液に硝酸コバルト水溶液(27.3mmol/L,0.031mL)を加えて、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、波長370nmのLED光源(朝日分光株式会社;CL-1501,730mW/cm2)を用いて10分間光照射することで、ロジウムとコバルト酸化物が共担持されたSrTiO3:Alを含む白色の懸濁液を得た。
【0057】
〔実施例1〕
本実施例では、紫外光照射により、ロジウムとコバルト酸化物が共担持されたSrTiO3:Alをチタン酸化物で被覆し、水蒸気吸着特性が向上した水分解光触媒を調製した。以下に調製方法を示す。
【0058】
オルトチタン酸テトライソプロピル(富士フイルム和光純薬株式会社製;11.1μL)と過酸化水素水(富士フイルム和光純薬株式会社製;30vol%,200μL)とを超音波洗浄機を用いて混合し、混合液を得た。この混合液に水酸化ナトリウム水溶液(メルク製;1mol/L,74.6μL)を加え、超音波洗浄機を用いて混合することで、白色透明な溶液を得た。この溶液を、ロジウムとコバルト酸化物が共担持されたSrTiO3:Alを含む白色の懸濁液に滴下し、波長370nmのLED光源(朝日分光株式会社製;CL-1501,730mW/cm2)を用いて12時間光照射した。得られた白色懸濁液を濾過操作により分離し、エタノール(メルク製)を用いて3回洗浄することで、水分解光触媒(チタン酸化物で被覆された、RhとCoOxが共担持されたSrTiO3:Al)を白色粉末として得た。
【0059】
エネルギー分散型X線分析法装置(EDX;Thermo Fisher Scientific (日本FEI)社製「Talos 200kV-FE-(S)TEM with super X XDS」)を用い、得られた水分解光触媒粉末の元素分布評価を行った。結果を
図1に示す。
【0060】
〔実施例2〕
本実施例では、紫外光照射により、ロジウムとコバルト酸化物が共担持されたSrTiO3:Alをタンタル酸化物で被覆し、水蒸気吸着特性が向上した水分解光触媒を調製した。以下に調製方法を示す。
【0061】
塩化タンタル(東京化成工業株式会社製;5mg)と過酸化水素水(30vol%,500μL)とを混合し、混合液を得た。この混合液に水酸化ナトリウム水溶液(1mol/L,113μL)を加え、超音波洗浄機を用いて混合することで、白色透明な溶液を得た。この溶液を、ロジウムとコバルト酸化物が共担持されたSrTiO3:Alを含む白色の懸濁液に滴下し、波長370nmのLED光源(朝日分光株式会社製;CL-1501,730mW/cm2)を用いて12時間光照射した。得られた白色懸濁液を濾過操作により分離し、エタノール(メルク製)を用いて3回洗浄することで、水分解光触媒(タンタル酸化物で被覆された、RhとCoOxが共担持されたSrTiO3:Al)を白色粉末として得た。
【0062】
〔比較例1〕
合成例2で得たロジウムとコバルト酸化物が共担持されたSrTiO3:Alを比較例1の水分解光触媒として用いた。
【0063】
〔比較例2〕
本比較例では、紫外光照射により、ロジウムとコバルト酸化物が共担持されたSrTiO3:Alをクロム酸化物で被覆し、水分解光触媒を調製した。以下に調製方法を示す。
【0064】
ロジウムとコバルト酸化物が共担持されたSrTiO3:Alの懸濁液に、クロム酸カリウム水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製;0.01mol/L,50μL)を滴下し、波長370nmのLED光源(日本分光;CL-1501,730mW/cm2)を用いて5分間光照射を行った。得られた懸濁液を濾過操作により分離し、超純水を用いて3回洗浄することで、水分解光触媒(クロム酸化物で被覆されたRhとCoOxが共担持されたSrTiO3:Al)を白色粉末として得た。
【0065】
〔比較例3〕
本比較例では、ロジウムとコバルト酸化物が共担持されたSrTiO3:Alと、二酸化チタン粉末との物理混合体を水分解光触媒として調製した。以下に調製方法を示す。
【0066】
二酸化チタン(富士フイルム和光純薬株式会社製;アナターゼ型,10mg)を、ロジウムとコバルト酸化物が共担持されたSrTiO3:Al(90mg)とともにメノウ製の乳鉢を用いて均一に混合し、水分解光触媒を白色粉末として得た。
【0067】
〔比較例4〕
本比較例では、蒸発乾固法により、ロジウムとコバルト酸化物が共担持されたSrTiO3:Alをケイ素酸化物で被覆し、水分解光触媒を調製した。以下に調製方法を示す。
【0068】
ロジウムとコバルト酸化物が共担持されたSrTiO3:Al(20mg)を、蒸発皿の上でオルトケイ酸テトラエチル(東京化成工業株式会社製;184μL)と混合し、ガラス棒で混合しながら60℃で加熱した。溶媒を十分に蒸発させることで、水分解光触媒(ケイ素酸化物で被覆されたRhとCoOxが共担持されたSrTiO3:Al)を白色粉末として得た。
【0069】
〔水分解光触媒の金属酸化物中の金属元素の重量比率の評価〕
実施例1、実施例2、比較例2、比較例4で調製した水分解光触媒の総重量に対する金属酸化物中の金属元素の重量の比率を求めた。以下に評価方法を示す。
まず、水分解光触媒の総重量は、助触媒の担持及び金属酸化物の被覆をする前の粉末を秤量計にて測量することで求めた。金属酸化物中の金属元素の重量については、はじめに金属酸化物膜の原料(アルコキシド、塩等)の重量を測定又は換算により求め、物質量を求めた。続いて、求めた物質量と金属元素の原子量の積を算出することで、金属元素の重量を求めた。そして、求めた金属元素の重量と上記水分解光触媒の重量から水分解光触媒の金属酸化物中の金属元素の重量比率を算出した。結果を表1に示す。
【0070】
〔水分解光触媒表面の金属原子比の評価〕
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、及び比較例4で調製した水分解光触媒のX線光電子分光分析(XPS)を行い、表面元素組成(at%)を測定した。XPSの測定条件は、下記のとおりである。表面元素組成中、最もモル数の大きい元素であるストロンチウムを基準とし、基準に対する他の金属元素の比を算出した。結果を表1に示す。
【0071】
XPS測定条件
装置:島津製作所社製「kratos ultra2」
線源:単色化AlKα
出力:15kV-225W(15mA)
測定範囲:300μm×700μm
取り出し角:90度
【0072】
【0073】
表1に示すように、実施例1及び実施例2で調製した水分解光触媒は、金属酸化物中の金属元素に対する水分解光触媒中の金属元素の原子比が、0.7以上15.0以下であった。また、比較例2及び4で調製した水分解光触媒は、当該原子比が、0.7未満であった。比較例1で調製した水分解光触媒は、その調製方法から、金属酸化物で被覆されていないと考えることができる。
【0074】
〔水分解光触媒表面における金属酸化物の被覆率の測定〕
実施例1、実施例2、及び比較例2で調製した水分解光触媒表面における金属酸化物の被覆率を測定した。以下に測定方法を示す。
【0075】
まず、水分解光触媒の試料に集束イオンビーム加工(FIB加工)を施した。次に、透過型電子顕微鏡(Thermo Fisher Scientific社製「Talos 200kV-FE-(S)TEM with super X XDS」)を用い、水分解光触媒の粒子全体を把握できるTEM像を撮影した。実施例1で調製した水分解光触媒のTEM像を
図2に示す。撮影された一粒子について2視野以上の画像にて金属酸化物の状態を評価し、各画像での平均値を水分解光触媒における金属酸化物の被覆率として算出した。結果を表2に示す。なお、金属酸化物の被覆率を、EDX-STEMを用いる方法でも測定したところ、表2に示す結果と同様の結果が得られた。
【0076】
【0077】
〔水分解光触媒の金属酸化物被膜の膜厚の測定〕
実施例1及び実施例2で調製した水分解光触媒について、水分解光触媒表面における金属酸化物の被覆率の測定にて撮影したTEM像から、金属酸化物被膜の膜厚を計測した。その結果、実施例1では、膜厚約1.5nmのTi酸化物の薄い膜が水分解光触媒の表面に形成されていることがわかった。また、実施例2では、膜厚約2.0nmのTa酸化物被膜が水分解光触媒の表面に形成されていることがわかった。
【0078】
〔水分解光触媒の水吸着特性の評価〕
実施例1、実施例2、比較例2、及び比較例4で調製した水分解光触媒の標準状態での吸着水分量を測定した。
まず、水分解光触媒を60℃の真空条件(100Pa以下)で16時間以上処理し、測定粉体試料とした。次いで、ガス吸着量測定装置(Micromeritics社製「3-Flex」)を用い、測定温度24℃で、この測定粉体試料の水蒸気吸着等温線を作成した。実施例1、実施例2、比較例2、及び比較例4で得た水分解光触媒の水蒸気吸着等温線を、それぞれ、
図3~6に示す。図中、p/p0=0.8(相対湿度80%)のときの吸着水分量が、標準状態での吸着水分量である。
【0079】
〔水分解光触媒の活性評価〕
実施例1、実施例2、及び比較例1~4で得た水分解光触媒粉末の紫外光照射下での光触媒活性の評価を行った。以下に評価方法を示す。
【0080】
水分解光触媒粉末(5mg)を超純水(40μL)に懸濁させた。得られた懸濁液を、すり加工を施したホウケイ酸ガラス板(1cm
2×1cm
2)に滴下し、60℃のホットプレートを用いて10分間乾燥することで、水分解光触媒粉末をガラス板に固定した。水分解光触媒が固定されたガラス板を超純水中に浸漬又は水蒸気雰囲気下(温度25℃,相対湿度100%)に設置し、波長370nmのLED光源(日本分光株式会社製;CL-1501,5mW/cm
2)の光照射下での水素生成量及び酸素生成量を、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製;GC-8A)を用いて計測することで、水分解光触媒の活性評価を行った。定常状態の水素発生量の比較結果を
図7、
図8、及び表3に示す。
また、水の相対圧力及び雰囲気温度を変化させた以外は上記と同様にして、実施例1で得た水分解光触媒の活性評価を行った。結果を
図9に示す。
【0081】
【0082】
図7及び表3より、実施例1及び2で得た水分解光触媒は、超純水中及び水蒸気雰囲気下のいずれにおいても、高い光触媒活性を示すことがわかった。一方、
図8及び表3より、比較例2~4で得た水分解光触媒は、水蒸気雰囲気下で高い光触媒活性を示さないことがわかった。また、比較例1及び比較例4で得た水分解光触媒は、超純水中においても光触媒活性が低いことが示された。
【0083】
さらに、
図9より、水の相対圧力が高くなるほど光触媒活性が高く、雰囲気温度50℃付近で光触媒活性が最も高まることが確認された。
【0084】
〔疑似太陽光による水分解光触媒の耐久性評価〕
実施例1で得た水分解光触媒の疑似太陽光(AM1.5G)照射下での光触媒活性の耐久性評価を行った。以下に評価方法を示す。
【0085】
水分解光触媒の活性評価と同様の手順で、水分解光触媒をガラス板に固定した。水分解光触媒が固定されたガラス板を水蒸気雰囲気下(温度25℃,相対湿度100%)に設置し、疑似太陽光(朝日分光製;HAL-320)の照射下での水素生成量及び酸素生成量をガスクロマトグラフィー(島津製作所製;GC-8A)を用いて計測することで、光触媒活性の評価を行った。なお、疑似太陽光照射開始から45~47時間の間、光照射の一時停止を行った。水素発生量及び酸素生成量の経時変化を
図10に示す。
【0086】
図10より、実施例1で得た水分解光触媒は、水蒸気雰囲気下では、試験開始から約40時間までは光触媒活性は低下することなくほぼ一定であり、試験開始から約50時間経過後は光触媒活性が緩やかに低下するものの、試験開始から100時間後も高い光触媒活性を維持できることがわかった。この結果から、実施例1で得た水分解光触媒は、高い光エネルギー変換効率を長期にわたって維持できることが確認された。
また、
図10より、光照射の一時停止を行うことによって水分解反応を即座に停止できることがわかった。また、光照射の一時停止後に光照射を再開すると、水吸着量が回復していることから、水分解速度が初期状態に戻ることがわかった。