(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023132033
(43)【公開日】2023-09-22
(54)【発明の名称】カギケノリの培養方法およびカギケノリの培養システム
(51)【国際特許分類】
A01H 13/00 20060101AFI20230914BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230914BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20230914BHJP
【FI】
A01H13/00
C12M1/00 D
C12M3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022037124
(22)【出願日】2022-03-10
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】李 悠
(72)【発明者】
【氏名】馬場 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】川又 勇来
(72)【発明者】
【氏名】平野 潤也
(72)【発明者】
【氏名】石井 一英
【テーマコード(参考)】
2B030
4B029
【Fターム(参考)】
2B030AA07
2B030AB03
4B029AA02
4B029BB20
4B029CC01
(57)【要約】
【課題】メタン発酵消化液を用いてカギケノリを培養する、カギケノリの培養方法およびカギケノリの培養システムを提供する。
【解決手段】カギケノリの培養方法は、メタン発酵消化液から抽出して得られた栄養塩類を含有する培養液中でカギケノリを培養する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン発酵消化液から抽出して得られた栄養塩類を含有する培養液中でカギケノリを培養する、カギケノリの培養方法。
【請求項2】
前記栄養塩類は、窒素成分とリン成分とカリウム成分とを含む、請求項1に記載のカギケノリの培養方法。
【請求項3】
前記窒素成分はアンモニア性窒素である、請求項2 に記載のカギケノリの培養方法。
【請求項4】
前記リン成分はリン酸態リンである、請求項2に記載のカギケノリの培養方法。
【請求項5】
前記カリウム成分はカリウムイオンである、請求項2に記載のカギケノリの培養方法。
【請求項6】
前記栄養塩類を含有する前記培養液中の窒素成分濃度が0.01mg/L以上4.50mg/L以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のカギケノリの培養方法。
【請求項7】
前記栄養塩類を含有する前記培養液中のリン成分濃度が0.001mg/L以上0.200mg/L以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のカギケノリの培養方法。
【請求項8】
前記栄養塩類を含有する前記培養液中のカリウム成分濃度が400.0mg/L以上410.0mg/L以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載のカギケノリの培養方法。
【請求項9】
前記培養液中に含まれる懸濁粒子の粒径は0.45μm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載のカギケノリの培養方法。
【請求項10】
メタン発酵消化液から抽出して得られた栄養塩類を含有する培養液中でカギケノリを培養する培養槽を備える、カギケノリの培養システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カギケノリの培養方法およびカギケノリの培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
家畜ふん尿などのバイオマスをメタン発酵させて得られるバイオガスには、主にメタンや二酸化炭素が含まれている。このように、バイオガスは、メタンを多く含んでいることから、発電やボイラなどの燃料ガスとして利用されている。
【0003】
また、バイオマスをメタン発酵すると、バイオガスの生成と共に、発酵残渣(副生物)として多量のメタン発酵消化液が生成される。一般的に、メタン発酵消化液は、排水処理をして下水道や河川などに放流される場合や、液体肥料(以下、液肥ともいう)として農地に散布される場合が多い。例えば、特許文献1には、メタン発酵で生成されるメタン発酵消化液を培養土の配合成分として利用することが記載されている。
【0004】
しかしながら、メタン発酵消化液を排水処理する場合、凝集剤などの薬剤を多く使用するため、処理費用が高い。また、メタン発酵消化液の排水処理自体は、価値を生み出さない処理である。そのため、メタン発酵消化液を排水処理すると、メタン発酵消化液に含まれる有用成分の循環や資源活用ができない。
【0005】
また、メタン発酵消化液を液肥として利用する場合、液肥の大部分は水分であるため、輸送コストや散布コストが高い。また、メタン発酵設備の近隣に十分な農地面積が確保されていないと、メタン発酵消化液が使い切れないことから、利用場所の制限がある。また、液肥の散布には、特殊な車両が必要である。また、季節や天候によっては、液肥を散布できないことがある。
【0006】
このように、バイオマスをメタン発酵したときの発酵残渣であるメタン発酵消化液を処理することについて、上記のような課題があり、改善する余地は多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示の目的は、メタン発酵消化液を用いてカギケノリを培養する、カギケノリの培養方法およびカギケノリの培養システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1] メタン発酵消化液から抽出して得られた栄養塩類を含有する培養液中でカギケノリを培養する、カギケノリの培養方法。
[2] 前記栄養塩類は、窒素成分とリン成分とカリウム成分とを含む、上記[1]に記載のカギケノリの培養方法。
[3] 前記窒素成分はアンモニア性窒素である、 上記[2]に記載のカギケノリの培養方法。
[4] 前記リン成分はリン酸態リンである、上記[2]に記載のカギケノリの培養方法。
[5] 前記カリウム成分はカリウムイオンである、上記[2]に記載のカギケノリの培養方法。
[6] 前記栄養塩類を含有する前記培養液中の窒素成分濃度が0.01mg/L以上4.50mg/L以下である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載のカギケノリの培養方法。
[7] 前記栄養塩類を含有する前記培養液中のリン成分濃度が0.001mg/L以上0.200mg/L以下である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載のカギケノリの培養方法。
[8] 前記栄養塩類を含有する前記培養液中のカリウム成分濃度が400.0mg/L以上410.0mg/L以下である、上記[1]~[7]のいずれか1つに記載のカギケノリの培養方法。
[9] 前記培養液中に含まれる懸濁粒子の粒径は0.45μm以下である、上記[1]~[8]のいずれか1つに記載のカギケノリの培養方法。
[10] メタン発酵消化液から抽出して得られた栄養塩類を含有する培養液中でカギケノリを培養する培養槽を備える、カギケノリの培養システム。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、メタン発酵消化液を用いてカギケノリを培養する、カギケノリの培養方法およびカギケノリの培養システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
本発明者らは、バイオマスをメタン発酵したときに、発酵残渣であるメタン発酵消化液が大量に生成されること、およびメタン発酵消化液の処理方法が不十分であることに着目した。そして、メタン発酵消化液を用いて有用な資源を作ることを検討した。本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、原料にメタン発酵消化液を用いてカギケノリを培養することによって、メタン発酵消化液を有効に処理し、かつ有用な資源であるカギケノリを製造できることを見出し、かかる知見に基づき本開示を完成させるに至った。
【0013】
まず、実施形態のカギケノリの培養方法について説明する。
【0014】
実施形態のカギケノリの培養方法は、メタン発酵消化液から抽出して得られた栄養塩類を含有する培養液中でカギケノリを培養する。
【0015】
メタン発酵消化液は、家畜排泄物、食品残渣、木質廃材などのバイオマスをメタン発酵することによって、バイオガスと共に生成される。例えば、バイオマスのメタン発酵では、バイオマスを嫌気性細菌で分解して、バイオガスおよびメタン発酵消化液が生成される。メタン発酵消化液には栄養塩類が含まれており、少なくとも窒素成分とリン成分とカリウム成分とが含まれる。このように、実施形態のカギケノリの培養方法では、メタン発酵消化液を原料として用いる。
【0016】
カギケノリの培養方法では、培養液中でカギケノリを培養する。培養液としては、天然海水、人工海水、淡水、蒸留水、または精製水等を用いることができ、天然海水、人工海水が好ましい。培養液には、メタン発酵消化液から抽出して得られた栄養塩類が含まれている。栄養塩類には、少なくとも窒素成分とリン成分とカリウム成分とが含まれる。
【0017】
メタン発酵消化液から栄養塩類を得る抽出方法は、栄養塩類を含有する培養液中でカギケノリを培養できれば、特に限定されるものではない。
【0018】
メタン発酵消化液から栄養塩類を得る抽出方法について、孔径0.45μm以下の複数の孔を有する膜を用いてメタン発酵消化液から栄養塩類を抽出する方法が好適である。膜の孔径が0.45μmよりも大きいと、栄養塩類と共に、メタン発酵消化液中の粒径が0.45μmを超える懸濁粒子も膜を透過して培養液中に移動する。懸濁粒子としては、粒子状の有機性物質、プランクトンおよびその他微生物、浮遊物質などが挙げられる。この懸濁粒子がカギケノリに被覆、堆積するとともに、培養液の光透過率を低下させる濁度成分として働くことで、カギケノリの成長が阻害されることがある。また、撹拌装置、温度制御装置、pH調節装置、濁度測定装置、光制御装置、各種気体濃度測定装置などの測定装置を適宜設置してもよい。この抽出方法は、メタン発酵消化液に含まれる懸濁粒子の除去などの前処理が不要であるため、低コストで簡便にメタン発酵消化液から栄養塩類を得ることができる。
【0019】
メタン発酵消化液から抽出して得られた栄養塩類を含む培養液中で、栄養塩類を栄養源として、カギケノリが培養される。カギケノリの育成状況、培養液の温度などの培養環境に応じて、培養液中の栄養塩類濃度を適宜調整してもよい。また、撹拌装置、温度制御装置、pH調節装置、濁度測定装置、光制御装置、各種気体濃度測定装置などの測定装置を用いて、カギケノリを培養する培養液の状況を測定してもよい。
【0020】
また、カギケノリを良好に培養できる観点から、栄養塩類に含まれる窒素成分はアンモニア性窒素であることが好ましい。
【0021】
栄養塩類を含有する培養液中の窒素成分濃度は、0.01mg/L以上であることが好ましい。また、栄養塩類を含有する培養液中の窒素成分濃度は、4.50mg/L以下であることが好ましく、0.90mg/L以下であることがより好ましい。栄養塩類を含有する培養液中の窒素成分濃度が上記範囲内であると、カギケノリを良好に培養できる。特に、上記の窒素成分濃度がアンモニア性窒素濃度であると、カギケノリをさらに良好に培養できる。
【0022】
また、カギケノリを良好に培養できる観点から、栄養塩類に含まれるリン成分はリン酸態リンであることが好ましい。
【0023】
栄養塩類を含有する培養液中のリン成分濃度は、0.001mg/L以上であることが好ましい。また、栄養塩類を含有する培養液中のリン成分濃度は、0.200mg/L以下であることが好ましく、0.040mg/L以下であることがより好ましい。栄養塩類を含有する培養液中のリン成分濃度が上記範囲内であると、カギケノリを良好に培養できる。特に、上記のリン成分濃度がリン酸態リン濃度であると、カギケノリをさらに良好に培養できる。
【0024】
また、カギケノリを良好に培養できる観点から、栄養塩類に含まれるカリウム成分はカリウムイオンであることが好ましい。
【0025】
栄養塩類を含有する培養液中のカリウム成分濃度は、400.0mg/L以上であることが好ましい。また、栄養塩類を含有する培養液中のカリウム成分濃度は、410.0mg/L以下であることが好ましく、401.2mg/L以下であることがより好ましい。栄養塩類を含有する培養液中のカリウム成分濃度が上記範囲内であると、カギケノリを良好に培養できる。特に、上記のカリウム成分濃度がカリウムイオン濃度であると、カギケノリをさらに良好に培養できる。
【0026】
また、培養液中に含まれる懸濁粒子の粒径は0.45μm以下であることが好ましい。培養液中に含まれる懸濁粒子の粒径が上記範囲内であると、カギケノリを良好に培養できる。
【0027】
次に、実施形態のカギケノリの培養システムについて説明する。
【0028】
実施形態のカギケノリの培養システムは、メタン発酵消化液から抽出して得られた栄養塩類を含有する培養液中でカギケノリを培養する培養槽を備える。カギケノリの培養システムでは、このような培養槽でカギケノリを培養する。
【0029】
実施形態のカギケノリの培養システムは、培養槽内で、上記実施形態のカギケノリの培養方法を実施する。そのため、上記カギケノリの培養方法で記載した培養条件、例えば培養液中の栄養塩類の濃度、栄養塩類の含有成分などは、カギケノリの培養システムの培養条件と同じである。
【0030】
実施形態のカギケノリの培養方法およびカギケノリの培養システムで培養されたカギケノリは、飼料や食材などに用いられる。カギケノリを用いて飼育された牛は、温室効果ガスの1つであるメタンを多量に含むゲップを抑制できる。そのため、培養したカギケノリを飼料として牛に与えることで、温室効果ガスの排出量を削減できる。
【0031】
このように、実施形態のカギケノリの培養方法およびカギケノリの培養システムでは、バイオマスのメタン発酵時に生じたメタン発酵消化液から栄養塩類を抽出し、栄養塩類を含む培養液中でカギケノリを培養する。そのため、栄養塩類を介して、メタン発酵消化液をカギケノリの栄養源として資源活用できる。また、培養して得られたカギケノリを牛の飼料とすることで、メタンを多量に含む牛のゲップを抑制できるため、温室効果ガスの排出量を抑制できる。また、カギケノリは、周辺に農地がない場合でも培養槽を設置することで培養が可能であることから、メタン発酵消化液を液肥として処理する場合に比べて、利用場所は制限されない。そのため、周辺環境に影響を受けない有用なメタン発酵消化液の利活用システムを構築できる。
【0032】
以上説明した実施形態によれば、バイオマスをメタン発酵して得られるメタン発酵消化液を原料に用いて、有用な資源であるカギケノリを良好に培養できる。
【0033】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本開示の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0034】
次に、実施例および比較例について説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1~3)
孔径0.45μmの複数の孔を有する膜を用いて、メタン発酵消化液に含まれる0.45μmを超える粒径を有する懸濁粒子を透過させずに、メタン発酵消化液から栄養塩類を蒸留水中に抽出することで、抽出液を得た。得られた抽出液を人工海水(インスタントオーシャン、ナプコ・リミテッド製)中に、表1に示す窒素成分(アンモニア性窒素)濃度、リン成分(リン酸態リン)濃度、カリウム成分(カリウムイオン)濃度となるよう添加することで、培養液を調製した。培養液に含まれる複数の懸濁粒子の粒径は0.45μm以下であった。調製した培養液中、大気雰囲気下で、カギケノリを培養した。
【0036】
(比較例1)
抽出液を添加しないこと以外は、実施例1と同様にしてカギケノリを培養した。すなわち、比較例1では、人工海水中でカギケノリを培養した。なお、カリウム成分(カリウムイオン)濃度は測定できたものの、窒素成分(アンモニア性窒素)濃度およびリン成分(リン酸態リン)濃度は、検出限界以下であった。
【0037】
(比較例2~6)
抽出液に代えて表2に示す窒素成分(アンモニア性窒素)濃度、リン成分(リン酸態リン)濃度、カリウム成分(カリウムイオン)濃度となるようメタン発酵消化液(メタン発酵消化液の原液)を人工海水に添加したこと以外は、実施例1と同様にして、カギケノリを培養した。培養液には、0.45μmを超える粒径を有する懸濁粒子も含まれていた。
【0038】
[評価]
上記実施例および比較例について、下記の評価を行った。結果を表1~2に示す。
【0039】
[1] カギケノリの成長
下記式を用いて、得られたカギケノリの成長率を算出し、以下のランク付けをした。×を不合格とした。
【0040】
成長率(%)=(成長が観察されたサンプル数)×100/(全サンプル数)
【0041】
◎:成長率が80%以上であった。
○:成長率が20%以上80%未満であった。
△:成長率が5%以上20%未満であった。
×:成長率が5%未満であった。
【0042】
[2] メタン発酵消化液の利用の有無
メタン発酵消化液の利用の有無について、以下のランク付けをした。
【0043】
○:原材料にメタン発酵消化液を用いた。
×:原材料にメタン発酵消化液を用いなかった。
【0044】
[3] 懸濁粒子の除去
0.45μmを超える粒径を有する懸濁粒子の除去について、以下のランク付けをした。
【0045】
○:栄養塩類を抽出する膜によって、粒径が0.45μmを超える懸濁粒子を除去した。
×:粒径が0.45μmを超える懸濁粒子を除去しなかった。
【0046】
【0047】
【0048】
表1に示すように、実施例1~3では、メタン発酵消化液から抽出して得られた栄養塩類を含有する培養液中でカギケノリを培養したため、カギケノリは良好に成長した。また、発酵残渣であるメタン発酵消化液を利用することができた。
【0049】
一方、表2に示すように、比較例1では、人工海水中でカギケノリを培養できたものの、メタン発酵消化液を利用することができなかった。また、比較例2~6では、メタン発酵消化液原液を添加物として用いたため、培養液に含まれる粒径が0.45μmを超える懸濁粒子の存在によりカギケノリの成長が阻害され、カギケノリの成長は不良であった。