(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023013403
(43)【公開日】2023-01-26
(54)【発明の名称】紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20230119BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20230119BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20230119BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20230119BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20230119BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20230119BHJP
【FI】
C30B29/38 D
H01L21/20
H01L21/265 Q
H01L21/02 B
H01L21/205
H01L33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021117554
(22)【出願日】2021-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】土屋 慶太郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】永田 和寿
【テーマコード(参考)】
4G077
5F045
5F152
5F241
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB02
4G077AB08
4G077BE11
4G077DB08
4G077EB01
4G077HA02
5F045AA04
5F045AB17
5F045AC01
5F045AC08
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5F045AC19
5F045AD15
5F045AE23
5F045AF05
5F045AF09
5F045CA10
5F045DA52
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5F045HA03
5F045HA16
5F152LL05
5F152LN18
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5F152MM10
5F152MM18
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5F241AA03
5F241AA40
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5F241CA40
5F241CA65
5F241CA73
5F241CB36
5F241FF16
(57)【要約】
【課題】安価で光取り出し効率の良い高品質のAlN等のIII族窒化物のエピタキシャル層を有する紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハとその製造方法を提供する。
【解決手段】紫外光に透明で耐熱性のある第一支持基板と、該第一支持基板上に、貼り合わせにより接合されたAl
xGa
1-xN(0.5<x≦1)単結晶の種結晶層と、該種結晶層上に、Al
yGa
1-yN(0.5<y≦1)を主成分とする第一導電型クラッド層と、AlGaN系活性層と、Al
zGa
1-zN(0.5<z≦1)を主成分とする第二導電型クラッド層とが順に積層成長されたエピタキシャル層を有する紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光に透明で耐熱性のある第一支持基板と、
該第一支持基板上に、貼り合わせにより接合されたAlxGa1-xN(0.5<x≦1)単結晶の種結晶層と、
該種結晶層上に、AlyGa1-yN(0.5<y≦1)を主成分とする第一導電型クラッド層と、AlGaN系活性層と、AlzGa1-zN(0.5<z≦1)を主成分とする第二導電型クラッド層とが順に積層成長されたエピタキシャル層を有することを特徴とする紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハ。
【請求項2】
前記第一支持基板の主成分が、合成石英またはサファイヤであることを特徴とする請求項1に記載の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハ。
【請求項3】
前記AlGaN系活性層がMQW構造で形成されており、Al、Ga、N以外の構成元素としてInが存在し、該Inの割合が1%未満であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハ。
【請求項4】
前記AlGaN系活性層が、25℃、0.2A/mm2の電流注入時に発光するスペクトルのピーク波長λpが235nmより短波長であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハ。
【請求項5】
前記種結晶層のバンドギャップが、前記AlGaN系活性層のバンドギャップよりも大きいものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハ。
【請求項6】
前記種結晶層は、エピタキシャル成長面がC面であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハ。
【請求項7】
紫外光に透明で耐熱性のある第一支持基板上に、AlxGa1-xN(0.5<X≦1)単結晶より剥離転写して種結晶層を貼り合わせて貼り合わせ基板を作製する工程と、
該貼り合わせ基板上に、AlyGa1-yN(0.5<y≦1)を主成分とする第一導電型クラッド層と、AlGaN系活性層と、AlzGa1-zN(0.5<z≦1)を主成分とする第二導電型クラッド層とを順にエピタキシャル成長させたエピタキシャル層を形成する工程を含む紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項8】
前記第一支持基板を、合成石英またはサファイヤが主成分のものとすることを特徴とする請求項7に記載の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項9】
前記AlGaN系活性層をMQW構造で形成し、Al、Ga、N以外の構成元素としてInを含め、該Inの割合を1%未満とすることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項10】
前記AlGaN系活性層を、25℃、0.2A/mm2の電流注入時に発光するスペクトルのピーク波長λpが235nmより短波長のものとすることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項11】
前記種結晶層を、バンドギャップが前記AlGaN系活性層のバンドギャップよりも大きいものとすることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか一項に記載の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項12】
前記種結晶層のエピタキシャル成長面をC面とすることを特徴とする請求項7から請求項11のいずれか一項に記載の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物系半導体材料を活用した深紫外線発光ダイオードは殺菌用光源として水銀レス、長寿命、コンパクト化、軽量化、省エネ等の観点から、近年、市場拡大が期待されている。
【0003】
しかしながらこれらの深紫外線発光ダイオード用エピタキシャル基板は、サファイア基板やAlN基板を下地基板としてハイドライド気相成長(HVPE)法でAlN層を成長させている(特許文献1)。格子定数の異なるサファイヤやSiCといった材料基板上にAlN層が形成されている場合、格子ミスマッチによる欠陥が発生し、内部量子効率を落としエネルギー変換効率が低下する傾向にある。
また、250nmより短波長の場合、その影響がさらに著しくなる。
【0004】
また、格子定数の比較的近いGaN単結晶自立基板はそのバンドギャップから光吸収基板となり外部量子効率を低下させる。AlN単結晶自立基板は非常に高品質なエピタキシャル用の基板として有望であるが製造が難しく、非常に高価な材料である。その為、高出力、高効率の殺菌用の深紫外線発光ダイオードの普及に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
安価で高品質な深紫外線発光ダイオードを作製するため、AlNセラミックスからなる基板を用いて深紫外線発光ダイオードを作製することが考えられる。
しかしながら、AlNセラミックス基板が不透明なため、基板側から光を取り出すことが困難であった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、安価で光取り出し効率の良い高品質のAlN等のIII族窒化物のエピタキシャル層を有する紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハとその製造方法を提供することを目的とする
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、紫外光に透明で耐熱性のある第一支持基板と、
該第一支持基板上に、貼り合わせにより接合されたAlxGa1-xN(0.5<x≦1)単結晶の種結晶層と、
該種結晶層上に、AlyGa1-yN(0.5<y≦1)を主成分とする第一導電型クラッド層と、AlGaN系活性層と、AlzGa1-zN(0.5<z≦1)を主成分とする第二導電型クラッド層とが順に積層成長されたエピタキシャル層を有することを特徴とする紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハを提供する。
【0009】
このような紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハであれば、基板側から光を取り出すことができるため、光取り出し効率が向上した高品質のものとすることができる。
また、種結晶層が貼り合わせにより接合されたものであるので、例えば、貼り合わせで分離した高価な窒化物半導体単結晶の種基板を再生して使用することができ、工程全体の材料コストを著しく低下させることができる。その結果、本発明のエピタキシャルウェーハも安価なものとなる。
【0010】
また、前記第一支持基板の主成分が、合成石英またはサファイヤであるものとすることができる。
【0011】
従来品の第一支持基板の材質として用いられているセラミックスは、粉末の原料を成型、焼結して作製するため、表面に空隙が発生しやすいので、平坦化する工程(CVDと研磨)で空隙を埋めて研磨しているが、完全になくすことは難しい。セラミックスの空隙部分が陥没して種結晶層の結晶性が失われるので、欠陥となって歩留まりが低下することが懸念されている。しかしながら、上記のような材質であれば、比較的安価であるし、より確実に、紫外光に対して透明で、表面粗さが少なく、高熱で変形、破損、蒸発しないウェーハとすることができる。すなわち、第一支持基板がセラミックス基板であって欠陥が発生しやすい従来品に比べて、より一層、安価で結晶性が改善された高品質な紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハとなる。
【0012】
また、前記AlGaN系活性層がMQW構造で形成されており、Al、Ga、N以外の構成元素としてInが存在し、該Inの割合が1%未満であるものとすることができる。
【0013】
このようなMQW構造で形成されていることで再結合が促進され、内部量子効率が向上する。
【0014】
また、前記AlGaN系活性層が、25℃、0.2A/mm2の電流注入時に発光するスペクトルのピーク波長λpが235nmより短波長であるものとすることができる。
【0015】
このようなピーク波長を有するものであれば、特に殺菌用光源として有用な紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハとなる。
【0016】
また、前記種結晶層のバンドギャップが、前記AlGaN系活性層のバンドギャップよりも大きいものとすることができる。
【0017】
このようなものであれば、より確実に、光が基板側の種結晶層に吸収されないようにすることができる。
【0018】
また、前記種結晶層は、エピタキシャル成長面がC面であるものとすることができる。
【0019】
このようなエピタキシャル成長面であれば、結晶成長が容易で、かつ、品質の良い薄膜となる。
【0020】
また本発明は、紫外光に透明で耐熱性のある第一支持基板上に、AlxGa1-xN(0.5<X≦1)単結晶より剥離転写して種結晶層を貼り合わせて貼り合わせ基板を作製する工程と、
該貼り合わせ基板上に、AlyGa1-yN(0.5<y≦1)を主成分とする第一導電型クラッド層と、AlGaN系活性層と、AlzGa1-zN(0.5<z≦1)を主成分とする第二導電型クラッド層とを順にエピタキシャル成長させたエピタキシャル層を形成する工程を含む紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハの製造方法を提供する。
【0021】
このような製造方法であれば、基板側から光を取り出すことができ、光取り出し効率が向上した高品質で、かつ、安価な紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハを製造することができる。
【0022】
また、前記第一支持基板を、合成石英またはサファイヤが主成分のものとすることができる。
【0023】
このようにすれば、比較的安価であるし、より確実に、紫外光に対して透明で、表面粗さが少なく、高熱で変形、破損、蒸発しないウェーハとすることができ、より一層、安価で結晶性が改善された高品質な紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハを得ることができる。
【0024】
また、前記AlGaN系活性層をMQW構造で形成し、Al、Ga、N以外の構成元素としてInを含め、該Inの割合を1%未満とすることができる。
【0025】
このようなMQW構造を形成することにより再結合が促進され、内部量子効率が向上する。
【0026】
また、前記AlGaN系活性層を、25℃、0.2A/mm2の電流注入時に発光するスペクトルのピーク波長λpが235nmより短波長のものとすることができる。
【0027】
このようなピーク波長を有するものとすれば、特に殺菌用光源として有用な紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハを製造することができる。
【0028】
また、前記種結晶層を、バンドギャップが前記AlGaN系活性層のバンドギャップよりも大きいものとすることができる。
【0029】
このようにすれば、より確実に、光が基板側の種結晶層に吸収されないようにすることができる。
【0030】
また、前記種結晶層のエピタキシャル成長面をC面とすることができる。
【0031】
このようにすれば、結晶成長が容易で、かつ、品質の良い薄膜を得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハ及びその製造方法であれば、安価で光取り出し効率の高い高品質な紫外線発光ダイオードのエピタキシャルウェーハを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハの一例を示す概略図である。
【
図2】紫外線発光素子層の一例を示す概略図である。
【
図3】本発明の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハの製造方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明について図面を参照して実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上述のように、紫外線領域(特には深紫外線領域(UVC:200~290nm))の発光ダイオード用に好適な、安価で高品質なエピタキシャルウェーハが求められていた。
発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、紫外光に透明で耐熱性のある第一支持基板と、該第一支持基板上に、貼り合わせにより接合されたAlxGa1-xN(0.5<x≦1)単結晶の種結晶層と、該種結晶層上に、AlyGa1-yN(0.5<y≦1)を主成分とする第一導電型クラッド層と、AlGaN系活性層と、AlzGa1-zN(0.5<z≦1)を主成分とする第二導電型クラッド層とが順に積層成長されたエピタキシャル層を有するエピタキシャルウェーハにより、安価で光取り出し効率の良い高品質なエピタキシャルウェーハを提供することができることを見出し、この発明を完成させた。
【0035】
以下、図面を参照して説明する。
図1に示す本発明の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハ100は、貼り合わせによって作製された基板(貼り合わせ基板1)と、窒化物半導体からなる紫外線発光素子層2を有する。
貼り合せ基板1は、第一支持基板3と接着層4と種結晶層5とを有しており、第一支持基板3上に、種結晶(種結晶層5)を貼り合わせて接合されたものである。ここでは、第一支持基板3と種結晶層5とが接着層4により接合されて作製されたものである。
【0036】
第一支持基板3は、紫外光に透明であり、耐熱性を有していれば材質等は特に限定されない。例えば、少なくとも波長230nmにおける光透過率が70%以上であり、また、1000℃を超える高温での処理において、溶融、剥離、破損しない耐熱性を有している基板を用いることができる。より具体的な例を挙げると、合成石英やサファイヤを主成分とする基板を用いることができる。特には合成石英基板やサファイヤ基板とすることができる。これらは従来品のセラミックス製のものと比べて安価であるし、表面粗さが小さく、そのため、貼り合わせで接合された種結晶層5の結晶性が損なわれてしまうのを防ぐことができる。その結果、種結晶層5、さらには紫外線発光素子層2をより高品質なものとすることができ、優れた紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハとなる。
【0037】
AlxGa1-xN(0.5<x≦1)単結晶からなる種結晶層5は、下記の方法に限定されないが、例えば、AlxGa1-xN(0.5<x≦1)単結晶自立基板またはAlxGa1-xN(0.5<x≦1)エピタキシャル基板を用意し(種基板)、該基板にイオン注入を行い、脆弱層を形成し、第一支持基板3と貼り合わせた後に脆弱層で剥離転写することによって、第一支持基板3上に作製することができる。
種結晶層5がこのような貼り合わせによるものであるため、貼り合わせ元の上記の自立基板等(すなわち、種結晶層5の剥離で分離された種基板)を、表面研磨してイオン注入面とすることによって、更に別の本発明の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハを作製する際の種結晶層のために繰り返し利用することができる。このように、比較的高価なAlxGa1-xN(0.5<x≦1)単結晶の基板を繰り返し有効に使うことができるため、全体としてコストを抑制することができ、その結果、種結晶層5、さらには本発明の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハ100は安価なものとなる。
【0038】
さらには、種結晶層5のバンドギャップが、後述するAlGaN系活性層のバンドギャップよりも大きいものであることが好ましい。種結晶層5での光の吸収を防止し、より確実に、より効率良く光を取り出すことができるためである。また、種結晶層5は、エピタキシャル成長面がC面であるのが好ましい。このようなものであれば、結晶成長がより容易で高品質の薄膜(紫外線発光素子層2)が得られる。
【0039】
なお、接着層4は第一支持基板3と種結晶層5とを接合するものであり、例えばSiO2などの紫外光に対して透明な層とすることができる。
あるいは、貼り合わせ基板1がこのような接着層4で接合されたものではなく、種結晶層5となるAlGaN単結晶の表面をプラズマやアルゴンイオンエッチングによって、活性化してアモルファス層を形成し、加圧、加熱する方法で第一支持基板3と貼り合わせて接合されたものとすることもできる。
【0040】
貼り合わせ基板1上には、紫外線発光素子層2が気相成長されている。紫外線発光素子層2の一例の概略を
図2に示す。以下に、紫外線発光素子層の構成について詳細に記述する。
貼り合わせ基板1上にホモエピタキシャル層6がエピタキシャル成長されている。ホモエピタキシャル層は、結晶品質を向上させるために導入され、厚さ100nm~500nmの範囲で設計することができる。ホモエピタキシャル層は、デバイスの設計により省略することもできる。
【0041】
第一導電型クラッド層7(AlyGa1-yN(0.5<y≦1)が主成分)はAlGaN系活性層8へ電子を供給するために形成されているものであり、特に膜厚は限定されないが、例えば2.5μmとすることができる。
AlGaN系活性層8は、量子井戸構造を有しており、障壁層9と井戸層10が交互に積層されている(MQW構造)。なお、例えば、Al、Ga、N以外の構成元素としてInが存在し、該Inの割合が1%未満であるものとすることができる。このようなものであれば、内部量子効率が向上され、より効率良く発光させることができるので好ましい。また、AlGaN系活性層8は、25℃、0.2A/mm2の電流注入時に発光するスペクトルのピーク波長λpが235nmより短波長であるものとすることができ、このようなものであれば特には深紫外線領域の光をより確実に得ることができ、殺菌用光源として有用である。特に膜厚は限定されないが、例えば障壁層6nm、井戸層1.5nmで3層積層とすることができる。
第二導電型クラッド層11(AlzGa1-zN(0.5<z≦1)が主成分)は、AlGaN系活性層8へ正孔を供給するために形成されているものである。特に膜厚は限定されないが、例えば30nmとすることができる。
これらの層が順にエピタキシャル成長により積層されている。
【0042】
また、電極との接触抵抗を低減するため、p型AlGaNコンタクト層12が形成されている。特に膜厚は限定されないが、例えば60nmとすることができる。本件の場合、第二導電型クラッド層11の導電型に合わせてP/Nを逆転した層配置でもよい。
【0043】
以下に、本発明の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハの製造方法について説明する。大きく分けて、貼り合わせ基板1の製造工程と、その貼り合わせ基板1上への紫外線発光素子層2の製造工程とからなる。
図3に本発明の紫外線発光素子用エピタキシャルウェーハ100の製造方法の一例を示す。
まず、貼り合わせ基板1の製造工程について説明する。
Al
xGa
1-xN(0.5<x≦1)単結晶の種基板13(例えばAlN基板)を用意して一つの面(イオン注入面)からイオン注入を行う(工程A)。このとき注入するイオンは、例えば、水素イオンや希ガスイオンなどとすることができる。これにより、種基板13内に、剥離位置となる脆弱層(ダメージ層)14を形成する(工程B)。
次に、種基板13のイオン注入面を、別途用意した第一支持基板3(例えば合成石英基板)上に形成した接着層4(例えばSiO
2層)と接合して接合基板15とする(工程C)。
【0044】
そして、接合基板15における種基板13の脆弱層14で、種基板13を分離する(工程D)。このようにすることによって、第一支持基板3の上の接着層4の上にAlxGa1-xN(0.5<x≦1)単結晶膜が種結晶層5として薄膜転写され、第一支持基板3、接着層4、種結晶層5が積層された貼り合わせ基板1となる。なお、必要に応じて表面を例えば研磨等することができる(工程E)。
一方、分離された種基板13の残部は、再びこの表面を研磨してイオン注入面とすることによって、更に別の貼り合わせ基板を作製する際の種結晶層のために繰り返し利用することができる。
【0045】
次に、
図2、3を参照して、紫外線発光素子層2(特に深紫外線領域の発光ダイオード用に好適なエピタキシャル層)の製造工程を示す(工程F)。
[1]反応炉への導入
貼り合わせ基板1をMOVPE装置の反応炉内に導入する。貼り合わせ基板1を反応炉に導入する前に、薬品によりクリーニングを行う。貼り合わせ基板1を反応炉内に導入後、窒素などの高純度不活性ガスで炉内を満たして、炉内のガスを排気する。
【0046】
[2]貼り合わせ基板表面を炉内でクリーニングする工程
貼り合わせ基板1を反応炉内で加熱して、基板の表面をクリーニングする。クリーニングを行う温度は、貼り合わせ基板表面の温度で1000℃から1200℃の間で決めることができるが、特に1050℃でクリーニングを行うことで清浄な表面を得ることができる。
クリーニングは、炉内の圧力が減圧された後に実施し、炉内圧力は200mbarから30mbarの間で決めることができる。炉内には、水素、窒素、アンモニアなどからなる混合カスを供給した状態で、例えば10分間程度クリーニングを行う。これらの条件は一例であり、特に限定されるものではない。
【0047】
[3]ホモエピタキシャル層を成長する工程
この工程では、規定の炉内圧力および基板温度において、原料であるAl,Ga,N源となるガスを導入することによって、貼り合わせ基板1上に、AlxGa1-xN(0.5<x≦1)をエピタキシャル成長させる(ホモエピタキシャル層6)。
この工程では、例えば炉内圧力は50mbar、基板温度1120℃で成長を行うことができる。Al源としてはトリメチルアルミニウム(TMAl),Ga源としてはトリメチルガリウム(TMGa),N源としてはアンモニア(NH3)を用いることができる。また、所望のAl組成の混晶を得るために、原料ガスの材料効率を考慮して、薄膜中に取り込まれるAl/Ga比が設定している比率になるように、原料のTMAl,TMGaの流量を設定する。この工程では、TMAlの流量を標準状態で例えば0.24L/min(240sccm),NH3の流量は例えば2.0L/min(2000sccm)でAlNの成長を行うことができる。TMAl,TMGa,NH3のキャリアガスは例えば水素を使用することができる。これらの条件は一例であり、特に限定されるものではない。
【0048】
[4]第一導電型クラッド層を成長する工程
この工程は、ホモエピタキシャル層6の上に第一導電型クラッド層7を成長する工程である。
この工程では、反応炉内を規定の炉内圧力、基板温度に保持した後、原料のTMAl,TMGa,NH3,およびn型導電性にするための不純物ガスを、炉内に供給して第一導電型クラッド層7を成長する。第一導電型クラッド層7は、主成分がAlyGa1-yN(0.5<y≦1)で表される組成で自由に作製することができるが、一例としてAl0.95Ga0.05Nとすることができる。組成を変えて複数層形成してもよい。
この工程の炉内圧力は例えば75mbar,基板温度は1100℃とすることができる。所望のAl組成の混晶を得るために、原料ガスの材料効率を考慮して、薄膜中に取り込まれるAl/Ga比が設定している比率になるように、原料のTMAl,TMGaの流量を設定する。これらの値は、一例であり特に限定されるものではない。
n型導電性にするための不純物ガスは、モノシラン(SiH4)を用いることができる。原料ガスを輸送するためのキャリアガスは、水素を用いることができる。なお、不純物ガスとして、テトラエチルシランを用いてもよい。
【0049】
[5]AlGaN系活性層を成長する工程
この工程は、第一導電型クラッド層7の上にAlGaN系活性層8を成長する工程である。この工程では、反応炉内を規定の炉内圧力、基板温度に保持した後、原料のTMAl,TMGa,NH3を炉内に供給してAlGaN系活性層8を成長する。AlGaN系活性層8は、一例として障壁層9:Al0.75Ga0.25N,井戸層10:Al0.6Ga0.4Nとすることができる。また、この工程の炉内圧力は例えば75mbar,基板温度は1100℃とすることができる。各層で所望のAl組成の混晶を得るために、原料ガスの材料効率を考慮して、薄膜中に取り込まれるAl/Ga比が設定している比率になるように、原料のTMAl,TMGaの流量を設定する。これらの値は、一例であり特に限定されるものではない。
【0050】
[6]第二導電型クラッド層を成長する工程
この工程は、AlGaN系活性層8の上に第二導電型クラッド層11を成長する工程である。この工程では、反応炉内を規定の炉内圧力、基板温度に保持した後、原料のTMAl,TMGa,NH3,およびp型導電性にするための不純物原料を、炉内に供給して第二導電型クラッド層11を成長する。第二導電型クラッド層11は、AlzGa1-zN(0.5<z≦1)で表される組成で自由に作製することができるが、一例としてAl0.95Ga0.05Nとすることができる。組成を変えて複数層形成してもよい。
この工程の炉内圧力は例えば75mbar,基板温度は1100℃とすることができる。所望のAl組成の混晶を得るために、原料ガスの材料効率を考慮して、薄膜中に取り込まれるAl/Ga比が設定している比率になるように、原料のTMAl,TMGaの流量を設定する。これらの値は、一例であり特に限定されるものではない。
p型導電性にするための不純物原料は、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いることができる。また、原料ガスを輸送するためのキャリアガスは、水素を用いることができる。
【0051】
[7]p型AlGaNコンタクト層を成長する工程
この工程は、第二導電型クラッド層11の上にp型AlGaNコンタクト層12を成長する工程である。この工程では、反応炉内を規定の炉内圧力、基板温度に保持した後、原料のTMAl,TMGa,NH3,およびp型導電性にするための不純物原料を、炉内に供給してp型AlGaNコンタクト層12を成長する。この工程の炉内圧力は例えば75mbar,基板温度は1100℃とすることができる。これらの値は、一例であり特に限定されるものではない。
p型導電性にするための不純物原料は、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いることができる。また、原料ガスを輸送するためのキャリアガスは、水素を用いることができる。
【0052】
[8]活性化アニール工程
この工程では、加熱炉内で所定の温度、時間でウェーハをアニールすることで、第二導電型クラッド層11、p型AlGaNコンタクト層12のp型不純物を活性化させる。加熱炉内での活性化は、例えば750℃で10分とすることができる。
【0053】
本発明の製造方法で、紫外線領域(特には深紫外線領域)の発光ダイオード用エピタキシャルウェーハ100を作製することで、簡便なエピタキシャル層で、ボイドによる欠陥が少ない基板を得ることができるので、エピタキシャル工程の生産性を向上させることができる。
また、種結晶層の剥離転写をした後のAlN単結晶基板やAlGaN単結晶基板を回収して、再研磨することにより、高価な化合物半導体単結晶基板を種基板として再利用して種結晶層を新たに剥離転写できるので、紫外線領域の発光ダイオード用エピタキシャル基板を安価に製造することができる。
【実施例0054】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
図1、2に示すような深紫外線発光ダイオード用エピタキシャルウェーハを、
図3のような本発明の製造方法により製造した。すなわち、貼り合わせ基板の製造工程A-Eと、紫外線発光素子層の製造工程F(前述した工程[1]-[8])により製造した。
サファイヤ基板上に、SiO
2からなる接着層(平坦化層)を2μm成長し、平坦化のため表面にCMP加工を行った。その後、上記のサファイヤ基板にAlN単結晶からなる種結晶(種基板)を常温接合で貼り合わせて剥離転写した基板(貼り合わせ基板)を準備した。
貼り合わせ基板上に、MOVPE法でAl
0.95Ga
0.05Nを100nm成長し、その上にn型Al
0.95Ga
0.05Nを2.5μm成長した。その上に、3層の障壁層:Al
0.75Ga
0.25N、井戸層:Al
0.6Ga
0.4Nからなる量子井戸構造を形成した。その後、p型Al
0.95Ga
0.05N層とp型GaNコンタクト層を形成した。
【0055】
実施例で作製したエピタキシャル基板では、後述する比較例1と比較して欠陥が著しく減少し、欠陥密度が0.32個/cm2まで減少した。比較例1ではセラミックス基板の除去工程が必要であるが、実施例では、基板側より紫外光を取り出すことができるので、光取り出し効率が良いし、より安価に製造することができた。また、比較例2と比較して、貫通転位密度が少なく、発光効率の良いデバイスができた。
【0056】
(比較例1)
AlNのセラミックスで作製された基板上に、SiO2からなる平坦化層を2μm成長し、Al0.95Ga0.05N単結晶からなる種結晶を貼り合わせて剥離転写した基板(貼り合わせ基板)を準備した。
貼り合わせ基板上に、MOVPE法でAl0.95Ga0.05Nを100nm成長し、その上にn型Al0.95Ga0.05Nを2.5μm成長した。その上に、3層の障壁層:Al0.75Ga0.25N,井戸層:Al0.6Ga0.4Nからなる量子井戸構造を形成した。その後、p型Al0.95Ga0.05N層とp型GaNコンタクト層を形成した。
【0057】
比較例1で作製したエピタキシャル基板では、セラミックスの凹凸により、エピタキシャル基板に欠陥が発生し、欠陥密度が12.2個/cm2発生していた。また、セラミックス基板は深紫外光を透過しないため、LEDを作製した時に、実施例と比較して光取り出し効率が悪化した。
より具体的には、実施例が8%、比較例1は4%以下で多くは3%程度であった。
【0058】
(比較例2)
以下のようにして、サファイヤ基板を用いた深紫外線領域の発光ダイオード用エピタキシャル基板を製造した。
[1]反応炉への導入
サファイヤ基板をMOVPE装置の反応炉内に導入した。サファイヤ基板を反応炉に導入する前に、薬品によりクリーニングを行った。サファイヤ基板を反応炉内に導入後、窒素などの高純度不活性ガスで炉内を満たして、炉内のガスを排気した。
【0059】
[2]サファイヤ基板を炉内でクリーニングする工程
サファイヤ基板を反応炉内で加熱して、基板の表面のクリーニングを行った。クリーニングは1030℃の温度で行った。また、炉内圧力は150mbarとした。炉内には、水素あるいは窒素を供給した状態で10分間クリーニングを行った。
【0060】
[3]バッファー層を成長する工程
この工程では、規定の炉内圧力および基板温度において、原料であるAl,Ga,N源となるガスを導入することによって、サファイヤ基板上に、エピタキシャル層の結晶性を改善するためのバッファー層を成長する。基板上の核形成層と成長条件を調整し、低速で成長する低速成長層と高速成長層を繰り返すことにより転位を低減する層を形成した。紫外LEDとして好適な基板を得るために、バッファー層を3μm成長した。
【0061】
[4]第一導電型クラッド層を成長する工程~[8]活性化アニール工程は、実施例と同じ条件で、深紫外線領域の発光ダイオード用エピタキシャル基板を作製した。
【0062】
実施例と比較例1、2で作製された深紫外線発光ダイオード用エピタキシャル基板のXRDロッキングカーブ測定を行った結果を表1に示す。
特に実施例と比較例2の結果を比較してみたところ、実施例の深紫外線発光ダイオード用エピタキシャル基板のAlN(0002)のXRDロッキングカーブのFWHMが43arcsecであるのに対して、比較例2のFWHMは541arcsecであり、実施例は比較例2に比べて結晶性の良いエピタキシャルウェーハを得ることができた。
このように、本発明のように貼り合わせにより形成した種結晶層の上でエピタキシャル成長することによって、より結晶性の高い高品質なエピタキシャルウェーハを得られる。
【0063】
【0064】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。