(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023136768
(43)【公開日】2023-09-29
(54)【発明の名称】膜分離活性汚泥法よる汚濁水の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20230922BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20230922BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20230922BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20230922BHJP
C07K 7/02 20060101ALI20230922BHJP
C02F 3/12 20230101ALI20230922BHJP
【FI】
C02F1/44 C
C12N15/113 Z ZNA
C07K7/08
C07K7/06
C07K7/02
C02F3/12 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022042643
(22)【出願日】2022-03-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】中島 信孝
(72)【発明者】
【氏名】石谷 孔司
(72)【発明者】
【氏名】山岸 正博
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 祐子
(72)【発明者】
【氏名】川端 潤
【テーマコード(参考)】
4D006
4D028
4H045
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006KA33
4D006KD30
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA04
4D006MA21
4D006MC02
4D006MC03
4D006MC11
4D006MC22
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC33
4D006MC37
4D006MC62
4D006PA01
4D006PB08
4D006PB24
4D006PC62
4D028AC06
4D028BC17
4D028BD17
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA54
4H045CA11
4H045EA65
4H045FA10
(57)【要約】
【課題】膜分離活性汚泥法におけるファウリングを抑制するための技術の提供。
【解決手段】活性汚泥と固液分離膜とを用いる膜分離活性汚泥法よる汚濁水の処理方法であって、ファウラント形成に関与する遺伝子に対するアンチセンスオリゴ核酸と細胞膜透過ペプチドとの複合体の存在下で、被処理水と固液分離膜とが接触する工程を含む、方法を提供する。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥と固液分離膜とを用いる膜分離活性汚泥法よる汚濁水の処理方法であって、
ファウラント形成に関与する遺伝子に対するアンチセンスオリゴ核酸と細胞膜透過ペプチドとの複合体の存在下で、被処理水と固液分離膜とが接触する工程を含む、
方法。
【請求項2】
前記遺伝子が、エノイル(アシル担体)還元酵素(fabI)遺伝子、リポ多糖輸送システム遺伝子、フラジェリン(fliC)遺伝子及びアシルホモセリンラクトン受容体様タンパク質(sdiA)遺伝子から選択されるいずれか1以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞膜透過ペプチドが、RFF、TAT、022、023、KFF、RQI、GIG、RXB及びrXBから選択されるいずれか1以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記遺伝子が、リポ多糖輸送システム遺伝子(lptB遺伝子及びlptD遺伝子)、fliC遺伝子及びsdiA遺伝子から選択されるいずれか1以上である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記遺伝子が、fabI遺伝子及びリポ多糖輸送システム遺伝子(lptB遺伝子)のいずれか1以上である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞膜透過ペプチドが、RFF、RQI、RXB及びrXBから選択されるいずれか1以上である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記アンチセンスオリゴ核酸の塩基配列が、配列番号1-8のいずれかである、請求項1-6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記複合体が、前記被処理水中に添加されているか、前記固液分離膜に担持されている、請求項1-7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
活性汚泥と固液分離膜とを用いる膜分離活性汚泥法による汚濁水の処理方法において、前記固液分離膜の膜性能の維持又は向上のために用いられる組成物であって、
ファウラント形成に関与する遺伝子に対するアンチセンスオリゴ核酸と細胞膜透過ペプチドとの複合体を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離活性汚泥法よる汚濁水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離活性汚泥法(MBR)は、活性汚泥を用いて各種の汚濁水を浄化する技術である(特許文献1参照)。活性汚泥は、細菌類、菌類及び原生動物などから構成される好気性微生物の集団であり、汚濁水中の有機物や無機物を分解する能力を有する。膜分離活性汚泥法では、活性汚泥により浄化された被処理水を微細な孔を有する膜により濾過して固体、微細物質、微生物及びウイルス等の汚濁物質と水とを分離する。
【0003】
膜分離活性汚泥法等の膜を用いた固液分離では、水中の物質が膜表面や膜孔内に付着して目詰まりを起こす「ファウリング」が問題となる。ファウリングが生じると、膜の性能が低下したり、膜が完全に使用不能になったりする。ファウリングを起こしている物質を「ファウラント」と称する。ファウラントには、微生物が分泌した有機物や、微生物そのものが含まれる。
【0004】
多様な微生物種がファウリングを引き起こしていることが知られている。Pseudoxanthomonas属細菌は、ガンマプロテオバクテリアの一種で、ファウリングへの関与が示唆されている。また、大腸菌が有する鞭毛や、大腸菌が産生するリポ多糖(LPS)がファウリングへ関与することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、膜分離活性汚泥法におけるファウリングを抑制するための技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題解決のため、本開示は、以下の[1]-[17]を提供する。
[1] 活性汚泥と固液分離膜とを用いる膜分離活性汚泥法よる汚濁水の処理方法であって、
ファウラント形成に関与する遺伝子に対するアンチセンスオリゴ核酸と細胞膜透過ペプチドとの複合体の存在下で、被処理水と固液分離膜とが接触する工程を含む、
方法。
[2] 前記遺伝子が、エノイル(アシル担体)還元酵素(fabI)遺伝子、リポ多糖輸送システム遺伝子、フラジェリン(fliC)遺伝子及びアシルホモセリンラクトン受容体様タンパク質(sdiA)遺伝子から選択されるからいずれか1以上である、[1]の方法。
[3] 前記細胞膜透過ペプチドが、RFF、TAT、022、023、KFF、RQI、GIG、RXB及びrXBから選択されるいずれか1以上である、[1]又は[2]の方法。
[4] 前記遺伝子が、リポ多糖輸送システム遺伝子(lptB遺伝子及びlptD遺伝子)、fliC遺伝子及びsdiA遺伝子から選択されるいずれか1以上である、[3]の方法。
[5] 前記遺伝子が、fabI遺伝子及びリポ多糖輸送システム遺伝子(lptB遺伝子)のいずれか1以上である、[3]の方法。
[6] 前記細胞膜透過ペプチドが、RFF、RQI、RXB及びrXBから選択されるいずれか1以上である、[5]の方法。
[7] 前記アンチセンスオリゴ核酸の塩基配列が、配列番号1-8のいずれかである、[1]-[6]のいずれかの方法。
[8] 前記複合体が、前記被処理水中に添加されているか、前記固液分離膜に担持されている、[1]-[7]のいずれかの方法。
【0008】
[9] 活性汚泥と固液分離膜とを用いる膜分離活性汚泥法による汚濁水の処理方法において、前記固液分離膜の膜性能の維持又は向上のために用いられる組成物であって、
ファウラント形成に関与する遺伝子に対するアンチセンスオリゴ核酸と細胞膜透過ペプチドとの複合体を含む、組成物。
[10] 前記遺伝子が、エノイル(アシル担体)還元酵素(fabI)遺伝子、リポ多糖輸送システム遺伝子、フラジェリン(fliC)遺伝子及びアシルホモセリンラクトン受容体様タンパク質(sdiA)遺伝子から選択されるからいずれか1以上である、[9]の組成物。
[11] 前記細胞膜透過ペプチドが、RFF、TAT、022、023、KFF、RQI、GIG、RXB及びrXBから選択されるいずれか1以上である、[9]又は[10]の組成物。
[12] 前記遺伝子が、リポ多糖輸送システム遺伝子(lptB遺伝子及びlptD遺伝子)、fliC遺伝子及びsdiA遺伝子から選択されるいずれか1以上である、[11]の組成物。
[13] 前記遺伝子が、fabI遺伝子及びリポ多糖輸送システム遺伝子(lptB遺伝子)のいずれか1以上である、[11]の組成物。
[14] 前記細胞膜透過ペプチドが、RFF、RQI、RXB及びrXBから選択されるいずれか1以上である、[13]の組成物。
[15] 前記アンチセンスオリゴ核酸の塩基配列が、配列番号1-8のいずれかである、[9]-[14]のいずれかの組成物。
[16] 前記複合体が、被処理水中に添加されるか、前記固液分離膜に担持される、[9]-[15]のいずれかの組成物。
【0009】
[17] ファウラント形成に関与する遺伝子に対するアンチセンスオリゴ核酸と細胞膜透過ペプチドとの複合体とを用いたバイオフィルムの形成抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示により、膜分離活性汚泥法におけるファウリングを抑制するための技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】Pseudoxanthomona mexicana(P. mexicana)の微分干渉(DIC)像及び蛍光像である(実施例3)。蛍光像は、細胞膜透過ペプチド(CPP)を結合していないフルオセレインによる染色像であり、Fluorはフルオセレインの蛍光である。DNAは、Cellstain Hoechst 33258の蛍光である。
【
図2】P. mexicanaの微分干渉(DIC)像及び蛍光像である(実施例3)。蛍光像は、RFF(5-FAM-RFFRFFRFFR-CONH
2)での染色像であり、Fluorは、5-FAMの蛍光像である。
【
図3】P. mexicanaの微分干渉(DIC)像及び蛍光像である(実施例3)。蛍光像は、TAT(5-FAM-GRKKRRQRRRPQ-CONH
2)での染色像であり、Fluorは5-FAMの蛍光である。
【
図4】P. mexicanaの微分干渉(DIC)像及び蛍光像である(実施例3)。蛍光像は、022(5-FAM-LLIILRRRIRKQAHAH-CONH
2)での染色像であり、Fluorは5-FAMの蛍光である。
【
図5】P. mexicanaの微分干渉(DIC)像及び蛍光像である(実施例3)。蛍光像は、023(5-FAM-RKKRRQRRRPPQC-CONH
2)での染色像であり、Fluorは5-FAMの蛍光である。
【
図6】P. mexicanaの微分干渉(DIC)像及び蛍光像である(実施例3)。蛍光像は、KFF(FITC_Ahx-KFFKFFKFFK-CONH
2)での染色像であり、FluorはFITCの蛍光である。
【
図7】P. mexicanaの微分干渉(DIC)像及び蛍光像である(実施例3)。蛍光像は、RQI(FITC_Ahx-RQIKIWFQNRRMKWKK-CONH
2)での染色像であり、FluorはFITCの蛍光である。
【
図8】P. mexicanaの微分干渉(DIC)像及び蛍光像である(実施例3)。蛍光像は、GIG(FITC_Ahx-GIGKWLHSAKKFGKAFVGEIMNS-CONH
2)での染色像であり、FluorはFITCの蛍光である。
【
図9】P. mexicanaの微分干渉(DIC)像及び蛍光像である(実施例3)。蛍光像は、RXB(FITC_Ahx-RXRRXRRXRRXRXB-CONH
2)での染色像であり、FluorはFITCの蛍光である。
【
図10】P. mexicanaの微分干渉(DIC)像及び蛍光像である(実施例3)。蛍光像は、rXB(FITC_Ahx-rXRrXRrXRrXRXB-CONH
2)での染色像であり、FluorはFITCの蛍光である。
【
図11】fabI遺伝子及びleuB遺伝子に対するCPP-Oligoで処置したP. mexicanaの生育曲線を示す(実施例4)。図中、横軸はCPP-Oligo添加後の培養時間を示し、縦軸は濁度を示す。
【
図12】lptB遺伝子に対するCPP-Oligoで処置したP. mexicanaの生育曲線を示す。(実施例5)。図中、横軸はCPP-Oligo添加後の培養時間を示し、縦軸は濁度を示す。
【
図13】lptB遺伝子に対するCPP-Oligoで処置したP. mexicanaの細胞膜LPSのSDS-PAGE像である(実施例5)。
【
図14】fliC遺伝子に対するCPP-Oligoにより処置した大腸菌のfliCタンパク質の発現量をイムノブロッティングにより評価した結果を示す(実施例6)。
【
図15】lptB遺伝子及びlptD遺伝子に対するCPP-PNA処置した大腸菌の細胞膜LPSのSDS-PAGE像である(実施例8)。
【
図16】fliC遺伝子、lptB遺伝子及びlptD遺伝子に対するCPP-Oligoで処置した大腸菌培養液をろ過した膜についてそのろ過性を評価した結果を示す(実施例9)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本開示の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本開示の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
本開示に係る汚濁水の処理方法は、活性汚泥と固液分離膜とを用いる膜分離活性汚泥法であって、ファウラント形成に関与する遺伝子に対するアンチセンスオリゴ核酸(antisense oligonucleotide)と細胞膜透過ペプチド(Cell Penetrating Peptide)との複合体の存在下で、被処理水と固液分離膜とが接触する工程を含む。
以下、細胞膜透過ペプチドを「CPP」と、アンチセンスオリゴ核酸とCPPとの複合体を「CPP-Oligo」とも記載する。
【0014】
本開示に係る汚濁水の処理方法によれば、CPP-Oligoのアンチセンス機能によって微生物が有するファウラント形成に関与する遺伝子の転写あるいは翻訳を抑制することで、固液分離膜へのファウラント形成を抑制してファウリングによる膜性能の低下を改善できる。
したがって、本開示は、活性汚泥と固液分離膜とを用いる膜分離活性汚泥法による汚濁水の処理方法において、固液分離膜の膜性能の維持又は向上のために用いられる組成物であって、ファウラント形成に関与する遺伝子に対するアンチセンスオリゴ核酸と細胞膜透過ペプチドとの複合体を含む、組成物をも提供するものである。
【0015】
[微生物]
アンチセンスオリゴ核酸は、ファウリングに関与する微生物の遺伝子に対して設計される。
ファウリングに関与する微生物は、特に限定されないが、大腸菌、Pseudoxanthomonas属細菌、Mycobacterium属細菌、Flavobacterium属細菌、Corynebacterium属細菌、Bacillus属細菌、Arthrobacter属細菌、Acinetobacter属細菌、Cytophaga属細菌、Moraxella属細菌、Micrococcus属細菌、Serratia属細菌、Lactobacillus属細菌、Aeromonas属細菌が公知であり("A Comprehensive Review on Membrane Fouling: Mathematical Modelling, Prediction, Diagnosis, and Mitigation", Water, 2021, 13(9), 1327)、本開示においてもこれらが含まれ得る。
大腸菌の他、上述の属に属する特定された種あるいは未特定の種がファウリングに関与していると推定されているが、特にPseudoxanthomonas属細菌としてファウリングに関与している可能性がある種を挙げれば、P. mexicana、P. arseniciresistens、P. beigongshangi、P. broegbernensis、P. byssovorax、P. composti、P. daejeonensis、P. dokdonensis、P. gei、P. ginsengisoli、P. helianthi、P. humi、P. icgebensis、P. indica、P. japonensis、P. jiangsuensis、P. kalamensis、P. kaohsiungensis、P. koreensis、P. mexicana、P. putridarboris、P. sacheonensis、P. sangjuensis、P. spadix、P. suwonensis、P. taiwanensis、P. winnipegensis、P. wuyuanensis、及びP. yeongjuensisが例示される。
【0016】
[ターゲット遺伝子]
アンチセンスオリゴ核酸がターゲットとする遺伝子は、ファウラント形成に関与する遺伝子であればよく特に限定されないが、例えば、リポ多糖(lipopolysaccharide: LPS)の産生・輸送に機能する遺伝子、鞭毛の形成・維持に機能する遺伝子、クオラムセンシングに機能する遺伝子、あるいは微生物の生存に必須な遺伝子などであってよい。
【0017】
リポ多糖(lipopolysaccharide)の産生・輸送に機能する遺伝子としては、例えば以下が挙げられる("Lipopolysaccharide: Biosynthetic pathway and structure modification", Progress in Lipid Research, 2010, Vol.49, Issue 2, p.97-107)。
特に、大腸菌ではlipopolysaccharide transport system ATP binding protein(lptB)遺伝子及びlipopolysaccharide assembly protein (lptD)遺伝子が挙げられ、Pseudoxanthomona属細菌ではLipopolysaccharide export system ATP binding protein(lptB)遺伝子が挙げられる。本開示では、これらの3遺伝子をまとめて「リポ多糖輸送システム遺伝子」と称する。
【0018】
【0019】
鞭毛の形成・維持に機能する遺伝子としては、例えば以下が挙げられる。
特に、大腸菌ではフラジェリン(fliC)遺伝子が挙げられる。
【0020】
【0021】
クオラムセンシングに機能する遺伝子としては、例えば以下が挙げられる("Quorum sensing: How bacteria can coordinate activity and synchronize their response to external signals?", Protein Sci., 2012, 21(10), 1403-1417.)。
特に、大腸菌ではAcyl homoserine lactone receptor(sdiA)遺伝子が挙げられる。
【0022】
【0023】
微生物の生存に必須な遺伝子としては、例えばエノイル(アシル担体)還元酵素I(enoyl-[acyl-carrier-protein] reductase I: fabI)遺伝子が挙げられるが、この他にも文献("DEG: a database of essential genes", Nucleic Acids Res., 2004, 32(Database issue))を参照し、多数の遺伝子のなかから適宜選択できる。
特に、Pseudoxanthomona属細菌ではenoyl-[acyl-carrier-protein] reductase I(fabI)遺伝子が挙げられる。
【0024】
ファウリングに関与する微生物として特に大腸菌を目的とする場合、ターゲット遺伝子は、特にlptB遺伝子、lptD遺伝子、fliC遺伝子及びsdiA遺伝子のいずれか1以上とされ得る。
また、ファウリングに関与する微生物として特にPseudoxanthomonas属細菌を目的とする場合、ターゲット遺伝子は、特にfabI遺伝子及びlptB遺伝子のいずれか1以上とされ得る。
【0025】
[アンチセンスオリゴ核酸]
これらの遺伝子に対するアンチセンスオリゴ核酸は、従来公知の手法によって設計、調製することができる。
アンチセンスオリゴ核酸の塩基配列は、ターゲット遺伝子のmRNAにハイブリダイズすることが可能であり、これによって当該mRNAのサイレンシング(転写あるいは翻訳の阻害)を引き起こし得るように設計される。サイレンシングには、内在性のRNaseによるmRNAの分解を誘導する作用も含まれるものとする。
アンチセンスオリゴ核酸の塩基配列は、好ましくは翻訳開始コドン(ATG)あるいはその近傍にハイブリダイズするように設計される。
アンチセンスオリゴ核酸の塩基配列は、非特異的なサイレンシングを抑制するため、ゲノム配列中に出現する回数が少ないアンチセンス配列、あるいは、ゲノム配列中の全遺伝子のATGスタートコドン周辺に出現しないアンチセンス配列を選択することが好ましい。
【0026】
アンチセンスオリゴ核酸を構成する核酸は、天然型(DNA、RNA)であっても、非天然型であっても、これらが混合されていてもよい。
非天然型核酸としては、特に限定されないが、例えば、2'-OMe-RNA、phosphorothioate化核酸、locked nucleic acid(LNA)、phosphorodiamidate morpholino核酸(PMO)、ペプチド核酸(PNA)などが挙げられる。
【0027】
アンチセンスオリゴ核酸の長さは、特に限定されないが、例えば9-20mer、好ましくは10-15mer、より好ましくは10-11merである。
【0028】
以下にターゲット遺伝子とアンチセンスオリゴ核酸の核酸配列との好適な組み合わせを例示する。
【0029】
【0030】
[CPP]
CPPは、上述した微生物に対して細胞膜透過性を発揮し得るものであればよく特に限定されないが、以下のものが公知である。これらのCPPから微生物種に応じて適当なものを選択して用いることができる。022は「両親媒性ペプチド」、RQIは「PENETRATIN 1」、GIGは「マガイニン2」とも称される(特表2016-515381号参照)。
【0031】
【0032】
上記のCPPはいずれも、大腸菌に対して細胞膜透過性を示すことが知られている(Nucleic Acids Research, vol.35, 2007, 5182-5191、Nucleic Acids Research, vol. 49, 2021, 4705-4724)。ファウリングに関与する微生物として特にPseudoxanthomonas属細菌を目的とする場合には、CPPは、特にRFF、RQI、RXB、rXBのいずれか1以上が好適に用いられ得る。
【0033】
[CPP-Oligo]
アンチセンスオリゴ核酸とCPPは、リンカーにより結合されていてよい。
リンカーは、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール鎖、炭素鎖(末端にアミンやチオールが付加されても良い)、リジンやシステインなどのアミノ酸などであってよい。
【0034】
好適なCPP-Oligoの例は、表6に示したCPPと、lptB遺伝子、lptD遺伝子、fliC遺伝子及びsdiA遺伝子のいずれかに対するアンチセンスオリゴ核酸(それぞれ配列番号3-4,5-6,7,8)との複合体である。これらのCPPとアンチセンスオリゴ核酸との組み合わせは、ファウリングに関与する微生物として特に大腸菌を目的とする場合に好適となる。
好適なCPP-Oligoの他の例は、RFF、RQI、RXB及びrXBのいずれかのCPPと、fabI遺伝子及びlptB遺伝子のいずれかに対するアンチセンスオリゴ核酸(それぞれ配列番号1,2)との複合体である。これらのCPPとアンチセンスオリゴ核酸との組み合わせは、ファウリングに関与する微生物として特にPseudoxanthomonas属細菌を目的とする場合に好適となる。
【0035】
CPP-Oligoは、被処理水中に添加されてもよく、固液分離膜に担持されていてもよい。また、処理中にターゲット遺伝子の発現変動などをモニタリングして、ファウリングの発生が予測された場合に予防的にCPP-Oligoを添加することも効果的である。
被処理水中への添加される又は固液分離膜に担持されるCPP-Oligoの量は、本開示の効果が奏される限りにおいて特に限定されない。
【0036】
固液分離膜は、膜分離活性汚泥法に従来用いられているものが広く含まれ、例えば、精密濾過膜(MF膜)及び限外濾過膜(UF膜)などであってよい。
分離膜の形状も、中空糸膜、平膜、管状膜、袋状膜などであってよい。
分離膜の材質は、有機材料(セルロース、ポリオレフィン、ポリスルフォン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリ4フッ化エチレン等)、金属(ステンレス等)、無機材料(セラミック等)などであってよい。材質は、廃水の性状に応じて適宜選択する。
分離膜の孔径は、処理の目的に応じて適宜選択すればよい。孔径は、例えば、0.001~3μmであり、好ましくは0.04~1.0μmである。
【0037】
[膜のファウリング抑制]
ファウリングの抑制効果は、例えば、活性汚泥を構成する微生物をCPP-Oligoの存在下及び非存在下で培養して得た培養液を固液分離膜に適用し、ろ過量を比較することによって評価することができる。CPP-Oligoの存在下で培養して得た培養液のろ過量が、非存在下で培養して得た培養液のろ過量よりも増加する場合、ファウリングの抑制効果を認めることができる。
【0038】
本開示に係る汚濁水の処理方法によれば、CPP-Oligoのアンチセンス機能によって微生物が有するファウラント形成に関与する遺伝子の転写あるいは翻訳を抑制することで、固液分離膜へのファウラント形成を抑制してファウリングによる膜性能の低下を改善できる。
本開示に係る汚濁水の処理方法では、CPP-Oligoによってファウラント形成に関与する微生物の遺伝子を特異性高く制御することができるため、活性汚泥中の好気性微生物の集団の構成への影響が少なく、活性汚泥の有機物及び無機物の分解能力を損なうことがない。
また、CPP-Oligoは、微生物の細胞内に取り込まれても複製されることがないため、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(通称カルタヘナ法)」の規制を受けることがなく、安全性あるいはパブリックアクセプタンスの観点でも好ましい。
【実施例0039】
[実施例1:Pseudoxanthomona mexicanaの培養とゲノム解析]
(1)Pseudoxanthomona mexicanaの培養
Pseudoxanthomona mexicana(P. mexicana)NBRC101034株の培養は、LB(10 g/L Difco Bacto Tryptone、5 g/L Difco Yeast Extract、5 g/L 塩化ナトリウム)または1/3LB(3.3 g/L Difco Bacto Tryptone、1.7 g/L Difco Yeast Extract、1.7 g/L 塩化ナトリウム)を用いて行った。培養温度は、以下に特に断りがない限り、30℃とした。
【0040】
(2)ゲノムDNAの精製
P. mexicana NBRC101034株細胞を500 μLのSETバッファー(75 mM 塩化ナトリウム、25 mM EDTA (pH8.0)、20 mM Tris-HCl (pH7.5))に懸濁した試料に5 μLのリゾチーム溶液(100 g/L)を加え、37℃で30分インキュベートした。試料に14 μLのプロテアーゼK溶液(20 g/L)と60 μLの硫酸ドデシルナトリウム溶液(100 g/L)を加え、55℃で2時間インキュベートした。試料に200 μLの塩化ナトリウム溶液(5 M)と500 μLのPhenol/Chloroform/Isoamyl alcohol (25:24:1)溶液(株式会社ニッポンジーン社製)を加え、20分間室温で回転撹拌した。試料を遠心分離し、700 μLの上清を回収した。上清からエタノール沈殿によって得たゲノムDNAを自然乾燥し、50 μLの水に溶解した。以上の操作を並行して6回行い、得られたゲノムDNAを1つにまとめた。
【0041】
(3)ゲノム解析及びアノテーション解析
イルミナ社のNovaSeq 6000を用いたショートリードによる配列解読を、タカラバイオ株式会社に作業委託して行った。概要を以下に示す。
精製したゲノムDNAを、アコースティックソルビライザーCovaris(コバリス社)を用いて物理的に数百bpに断片化した。断片化したDNAの両末端を平滑化・リン酸化処理した後、Agencourt AMPure XP(ベックマン・コ―ルター社)によるDNAのサイズ選別を行った。サイズ選別されたDNAに対して3′-dA突出末端処理を行い、index付きアダプターを連結することで、シーケンスライブラリーとした。ライブラリー作製は、TruSeq DNA PCR-Free Library Prep Kit(イルミナ社)およびIDT for Illumina - TruSeq DNA UD Indexes(イルミナ社)を用いて行った。
シーケンス解析は、解析長150及びシーケンス解析手法ペアエンドの条件で、NovaSeq 6000 S4 Reagent Kit、NovaSeq Xp 4-Lane Kit、NovaSeq Control Software v1.6.0、Real Time Analysis (RTA) v3.4.4、及びbcl2fastq2 v2.20の試薬及びプログラムを用いて行った。得られたリード数は、フォワード及びリバース共に36,634,517であった。クオリティの低いリードを除いて、フォワード及びリバース共に35,715,312をアセンブリ作業に用いた。
【0042】
Oxford Nanopore Technologies社のGridIONを用いたロングリードによる配列解読を、株式会社生物技研に作業委託して行った。概要を以下に示す。
Native Barcoding Expansion (Oxford Nanopore Technologies社)を用いて、ゲノムDNAにバーコードを付加した。バーコードが付加されたゲノムDNAからLigation Sequence Kit (Oxford Nanopore Technologies社)を用いてライブラリー調製を行った。Qubit 3.0 Fluorometer (Thermo Fisher社)とdsDNA HS Assay Kit (Thermo Fisher社)を用いて、調製されたライブラリーの濃度を測定した。
シーケンス解析は、GridION、R9.4.1フローセル(Oxford Nanopore Technologies社)、Guppy v.4.0.11 + f1071ceを用いて行った。得られたリード数は、73,607であった。
【0043】
NovaSeq6000から得られたショートリードとGridIONから得られたロングリードをもとにソフトウェアUnicycler v0.4.8を用いてゲノムアセンブリを行った。得られたアセンブリゲノムの本数は1、配列長は3,983,759、ゲノムのGC含量は67.4%であった。アセンブリゲノムの精度評価はBUSCO v.3.0.2を使って行った。得られたアセンブリゲノムには、プロテオバクテリア門におけるコア遺伝子の97.7%が存在していた。
アノテーション解析は、DDBJ Fast Annotation and Submission Tool v.1.4.0を用いて行った。得られたアセンブリゲノムのうち、67.4%がコード領域であり、合計3830箇所にアノテーション情報が付与された。そのうち、CDSは3771箇所、rRNAは6箇所、tRNAは52箇所、tmRNAは1箇所であった。
【0044】
[実施例2:P. mexicanaでの細胞膜透過ペプチドの評価1]
9種類の細胞膜透過ペプチド(CPP)と蛍光化合物との共有結合体(以下「蛍光ペプチド」と称する)を合成し、P. mexicanaの細胞との親和性を評価した。蛍光ペプチドは10%のジメチルスルホキシド(DMSO)溶液で1 mMになるよう溶解した。
RFF: 5-FAM-RFFRFFRFFR-CONH2
TAT: 5-FAM-GRKKRRQRRRPQ-CONH2
022: 5-FAM-LLIILRRRIRKQAHAH-CONH2
023: 5-FAM-RKKRRQRRRPPQC-CONH2
(以上4種ユーロフィン社による合成)
KFF: FITC_Ahx-KFFKFFKFFK-CONH2
RQI: FITC_Ahx-RQIKIWFQNRRMKWKK-CONH2
GIG: FITC_Ahx-GIGKWLHSAKKFGKAFVGEIMNS-CONH2
RXB: FITC_Ahx-RXRRXRRXRRXRXB-CONH2
rXB: FITC_Ahx-rXRrXRrXRrXRXB-CONH2
(以上5種バイオロジカ社による合成)
5-FAM:5-カルボキシフルオレセイン
FITC:フルオレセイン-5-イソチオシアネート
Ahx:FITCとペプチドのリンカーとしての6-アミノヘキサン酸
X:6-アミノヘキサン酸残基
B:ベータアラニン残基
r:D-アルギニン残基
【0045】
1 mL LBを入れた15 mL容量のプラスチック遠沈管にP. mexicana NBRC101034株を植菌した。36-48時間振盪培養した後、150 μLの培地を分取し、1/3LBを6 mL入れた50 mL容量のバッフル付き三角フラスコに継代した。3-4時間振盪培養し、OD600(Optical density at 600 nm)が0.5の培養液を得た。
培養液300 μLを1.5 mLマイクロチューブに分取し、蛍光ペプチド溶液6 μLを添加した。また、ペプチドを結合していないフルオレセインを用いて同様の操作を実施し、陰性対照とした。混合液を室温で20分静置した後、遠心分離を行って細胞を沈殿させた。細胞沈殿物をPBS(-)水溶液(和光純薬工業社)300 μLに懸濁し、遠心分離を行って細胞を沈殿させた。この操作をさらに1回繰り返し、得られた細胞沈殿物をPBS(-)水溶液150 μLに懸濁して試料とした。
【0046】
試料80 μLを96ウェルマイクロタイタープレートのウェル(黒色96穴プレート、Costar社製、product no.3915)に入れ、ウェルの蛍光強度をプレートリーダーSPARK 10m(Tecan社製)で測定した(excitation 485 nm、emission 535 nm、gain 40、number of flashes 30、Z-position 20,000 mm)。この測定値をAとする。
蛍光ペプチドごとに1分子あたりの蛍光強度が異なるため、測定値の補正が必要である。各蛍光ペプチド溶液1.6 μLにPBS(-)水溶液を80 μL混合し、上記同様に蛍光強度を測定した。この測定値をBとする。
さらに、細胞数あたりの蛍光強度を算出するために、試料50 μLとPBS(-)水溶液を150 μL混合したものを調製し、透明96ウェルマイクロタイタープレートのウェルに入れ、600 nmでの濁度を測定した。この測定値をCとする。
1細胞あたりに結合した蛍光ペプチドの量を、値A/B/Cとして算出した。
【0047】
結果を表6に示す。表は3回の測定の平均値と標準誤差を示す。
【0048】
【0049】
RQI、RFF及びKFFで細胞との高い親和性が確認された。陰性対照のフルオセレインでは、細胞への結合はほとんど見られなかった。
【0050】
[実施例3:P. mexicanaでのCPP配列の評価2]
蛍光ペプチドのP. mexicanaの細胞内への取り込みを評価した。
実施例2と同様にして得た細胞沈殿物を4%パラホルムアルデヒド・りん酸緩衝液(和光純薬工業社)200 μLで懸濁した。4℃で一晩静置し、細胞の固定を行った。細胞を洗浄し、PBS(-)水溶液20 μLに懸濁した。懸濁液にCellstain Hoechst 33258溶液(1 mg/ml H2O)(和光純薬工業社)を0.2 μL混合し、室温で10分間静置して細胞内のDNAを染色した。細胞を洗浄し、PBS(-)水溶液20 μLに懸濁した。懸濁液10 μLを分取し、スライドガラスに滴下し、蛍光顕微鏡にて写真撮影を行った。DNA像は、励起波長375/28および蛍光波長460/60で撮影した。フルオレセイン像(Fluor)は励起波長480/30、蛍光波長535/45で撮影した。また、微分干渉(DIC)像も撮影した。また、CPPを結合していないフルオレセインを用いて同様の操作を行って陰性対照とした。
【0051】
結果を
図1-10に示す。
ペプチドの結合していないフルオセレイン(陰性対照)では、細胞に緑色蛍光はほとんど見られなかった(
図1)。
RFF(
図2)、RQI(
図7)、RXB(
図9)、rXB(
図10)では、細胞に強い緑色蛍光が観察され、蛍光ペプチドが細胞内へ取り込まれていることが確認できた。
023(
図5)は、強い緑色蛍光が観察されているが、細胞の辺縁部が強く染色されていたことから、蛍光ペプチドが細胞膜に結合したままでP. mexicanaの細胞内には侵入していない可能性が考えられた。
【0052】
[実施例4:fabI遺伝子に対するCPP-OligoによるP. mexicanaの増殖阻害]
fabI遺伝子に対する細胞膜透過ペプチド‐アンチセンスオリゴ複合体(CPP-Oligo)を用いてP. mexicanaの増殖阻害試験を行った。
P. mexicana NBRC101034株のfabI遺伝子は、実施例1のゲノム解析と遺伝子アノテーションの結果から、765塩基対からなり、単一コピーであることがわかった。fabI遺伝子に対して、gtcagttctccの塩基配列(配列番号1)からなる11 merのアンチセンスオリゴを設計した。当該配列は、fabI遺伝子mRNAのATG開始コドン周辺に結合し、かつ全ゲノム配列中にたった一度しか現れないアンチセンス配列として設計した。
陰性対照実験として、P. mexicana NBRC101034株のleuB(3-isopropylmalate dehydrogenase)遺伝子に対するアンチセンスオリゴ(agcgtgcatgg、配列番号18)も同様に設計した。設計したアンチセンスオリゴを用いてCPPとの複合体(CPP-Oligo)を合成した(受託合成はバイオロジカ社)。CPP-Oligoは滅菌したイオン交換水に200 μMの濃度で溶解した。
RFF-leuB:RFFRFFRFFR-O_linker-agcgtgcatgg
RFF-fabI:RFFRFFRFFR-O_linker-gtcagttctcc
RQI-leuB:RQIKIWFQNRRMKWKK-O_linker-agcgtgcatgg
RQI-fabI:RQIKIWFQNRRMKWKK-O_linker-gtcagttctcc
RXB-leuB:RXRRXRRXRRXRXB-O_linker-agcgtgcatgg
RXB-fabI:RXRRXRRXRRXRXB-O_linker-gtcagttctcc
「O_linker」は、ポリエチレングリコール鎖からなるCPPとPNAのリンカーである。
【0053】
1 mL LBを入れた15 mL容量のプラスチック遠沈管にP. mexicana NBRC101034株を植菌した。36時間前後振盪培養した後、1/3LBで105希釈した培養液140 μLを、透明96ウェルマイクロタイタープレートのウェルに入れた。ウェルにCPP-Oligoを終濃度3 μMあるいは同5 μMになるように添加した。プレートをMultiskan Sky Microplate Spectrophotometer(Thermo Fisher Scientific)に導入し、5分毎に20秒間の自動振盪操作を実施しながら、600 nmでの濁度を1時間おきに測定することにより生育速度を評価した。
【0054】
結果を
図11に示す。図中、横軸はCPP-Oligo添加後の培養時間を示し、縦軸は濁度を示す。
陰性対照のleuB遺伝子に対するCPP-Oligoに比して、fabI遺伝子に対するCPP-Oligoでは、濃度依存的に増殖阻害が引き起こされた。また、増殖阻害効果は、RQI-Oligo、RXB- Oligo、RFF- Oligoの順で強かった。
【0055】
[実施例5:lptB遺伝子に対するCPP-OligoによるP. mexicanaの増殖・LPS産生阻害]
lptB遺伝子に対するCPP-Oligoを用いてP. mexicanaの増殖・LPS産生阻害試験を行った。
P. mexicana NBRC101034株のlptB遺伝子は、実施例1のゲノム解析と遺伝子アノテーションの結果から、単一コピーで、720塩基対からなることがわかった。lptB遺伝子に対して、catcagttcttの塩基配列(配列番号2)からなる11 merのアンチセンスオリゴを設計した。当該配列は、lptB遺伝子mRNAのATG開始コドン周辺に結合し、かつ全ゲノム配列中に5回のみ現れるアンチセンス配列として設計した。陰性対照として、catcagttcttの塩基配列(配列番号2)をスクランブル化(scr)した配列(tagctttacct配列番号19)を有するアンチセンスオリゴも設計した。設計したアンチセンスオリゴを用いてCPPとの複合体(CPP-Oligo)を合成した(受託合成はバイオロジカ社)。
023-lptB:RKKRRQRRRPPQC-O_linker-catcagttctt
023-lptBscr:RKKRRQRRRPPQC-O_inker-tagctttacct
RQI-lptB:RQIKIWFQNRRMKWKK-O_linker-catcagttctt
RQI-lptBscr:RQIKIWFQNRRMKWKK-O_linker-tagctttacct
【0056】
(1)増殖阻害試験
実施例4と同様にして、CPP-Oligoを添加した時の生育速度を評価した。
結果を
図12に示す。
RQI-lptBで、濃度依存的に増殖阻害が引き起こされた。一方、023-lptBでは、増殖阻害はわずかであった。
【0057】
(2)LPS産生阻害試験
1 mL LBを入れた15 mL容量のプラスチック遠沈管にP. mexicana NBRC101034株を植菌した。36時間前後振盪培養した後、1/3LBで105希釈した培養液700 μLに RQI-lptBを終濃度3 μMあるいは5 μM添加してOD600が0.5程度になるまで培養した。陰性対照では、CPP-Oligoの代わりに滅菌したイオン交換水を添加した。培養液を遠心分離し、細胞沈殿物を回収した。細胞沈殿物をPBS(-)水溶液50 μLに懸濁し、OD600が2.0になるように調整した。懸濁液35 μLを1.5 mL容量のマイクロチューブに入れ、60℃、30分加温した。9,400×g、30秒で遠心分離し、上清25 μLを試料として得た。
試料に3×SDSサンプルバッファー(188 mM Tris-HCl (pH 6.8), 6% SDS, 30% glycerol, 0.006% bromophenol blue (BPB), 150 mM dithiothreitol)12.5 μLを添加し、96℃で10分加温した後、徐々に室温まで冷却した。試料にProteinase K溶液(和光純薬工業社製、162-22751、5 mL、500 U/mL)を1 μL添加し、60℃、1時間加温した。試料を遠心分離し、上清10 μLを採取してSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供した。泳動後ゲルを銀染色した。
【0058】
結果を
図13に示す。
RQI-lptB(レーン2)では、陰性対照(レーン1,3)に比してLPSのバンドパターンが変化し、細胞膜LPSの組成変化が認められた。
【0059】
[実施例6:CPP-Oligoによる大腸菌fliC遺伝子の発現抑制]
fliC遺伝子に対するCPP-Oligoを用いて大腸菌でのmRNA及びタンパク質の発現抑制試験を行った。大腸菌K-12株系統MG1655株を用いて、CPP-Oligo添加後のfliC遺伝子のmRNAの発現量定量(リアルタイムRT-PCR)とタンパク質の発現量評価(イムノブロッティング)を行った。
fliC遺伝子に対するCPP-Oligo(KFF-fliC)と、陰性対照のCPP-Oligo(KFF-NC)を合成した(受託合成はバイオロジカ社)。CPP-Oligoは滅菌したイオン交換水によって200 μMの濃度で溶解した。
KFF-fliC:KFFKFFKFFK-O linker-catgattcgt(配列番号7)
KFF-NC:KFFKFFKFFK-O linker-aacggtacgtag(配列番号20)
【0060】
(1)mRNAの発現量定量
大腸菌の培養は、以下特に断りがない限り、37℃で行った。1 mL LBを入れた15 mL容量のプラスチック遠沈管に大腸菌MG1655株を植菌した。18時間前後振盪培養した後、1/3LBで105希釈した培養液195 μLを、15 mL容量のプラスチック遠沈管に継代した。CPP-Oligoを終濃度5 μMになるように添加し、OD600が0.2から0.3になるまで培養した。また、陰性対照として、CPP-Oligoの代わりに水を添加して培養した。
培養液を、RNAprotect Bacteria Reagent(Qiagen社)で処理し、生じた細胞沈殿物を一晩マイナス80℃にて保存した。細胞沈殿物から市販のキットを用いてRNAを抽出・精製した。リアルタイムRT-PCR定量は、Agilent-Stratagene社製Mx3000PとTakara社製のOne Step SYBR PrimeScript RT-PCR Kit II (Perfect Real Time)を用いて行った。定量に用いたプライマーの配列を以下に示す。
プライマーsSN8013:ttggccttgatggttttagc(配列番号21)
プライマーsSN8014:agtggctgcttccgtagaaa(配列番号22)
【0061】
mRNAの発現量定量の結果を表7に示す。表中の値は、「陰性対照(水)」の発現量を1とした相対値である。CPP-OligoによりfliC遺伝子のmRNA発現が抑制された。
【0062】
【0063】
(2)タンパク質の発現量評価
1.5 mL容量のプラスチックチューブに培養液を150 μLずつ分注した。遠心分離により細胞を回収し、20 μLの滅菌水で懸濁して試料とした。試料に3×SDSサンプルバッファーを10 μL添加し、96℃で2分加熱した後、室温に戻した。試料10 μLをSDS-PAGEに供した。泳動後のイムノブロッティングには、一次抗体としてAbcam社製Anti-Flagellin 抗体(ab93713)を、二次抗体としてPromega社製anti-Rabbit IgG HRP conjugate(W4018)を用いた。
【0064】
結果を
図14に示す。
CPP-OligoによりfliC遺伝子のタンパク質発現が顕著に抑制された。
【0065】
[実施例7:CPP-Oligoによる大腸菌のsdiA遺伝子の発現抑制とバイオフィルム形成抑制]
sdiA遺伝子に対するCPP-Oligoを処置した大腸菌でのsdiA遺伝子mRNAの発現とバイオフィルム形成を評価した。
sdiA遺伝子に対するCPP-Oligo(KFF-sdiA)と、陰性対照のCPP-Oligo(KFF-NCP)を合成した(受託合成はバイオロジカ社)。CPP-Oligoは滅菌したイオン交換水によって200 μMの濃度で溶解した。
KFF-NCP:KFFKFFKFFK-O linker-atactaacag(配列番号23)
KFF-sdiA: KFFKFFKFFK-O linker-ccttacctg(配列番号8)
)
【0066】
(1)mRNA発現抑制試験
実施例6と同様にしてmRNAの発現量定量を行った。定量に用いたプライマーの配列を以下に示す。
プライマーsSN8129:gaccgcagaagaggtctacca(配列番号24)
プライマーsSN8130:cgcctcagggtaattggtgta(配列番号25)
【0067】
mRNAの発現量定量の結果を表8に示す。表中の値は、「陰性対照(水)」の発現量を1とした相対値である。CPP-OligoによりsdiA遺伝子のmRNA発現が抑制された。
【0068】
【0069】
(2)バイオフィルム形成抑制試験
1 mL LBを入れた15 mL容量のプラスチック遠沈管に大腸菌AJW678(E. coli Genetic Resources at Yale CGSC)株を植菌した。約18時間振盪培養した後、LBG(LBに0.5%グルコースを添加した培地)で105希釈した培養液197.5 μLを、透明96ウェルマイクロタイタープレートのウェルに入れた。ウェルに、CPP-Oligoを終濃度1.0または2.5 μMになるように添加し、28℃で30時間静置培養した。また、陰性対照として、CPP-Oligoの代わりに水を添加して培養した。
培養液150 μLを新しいプレートのウェルに移し、600 nmでの濁度を測定した。
培養に用いたプレートのウェルから残った培養液をすべてピペットによって取り除いた後、滅菌水200 μLでウェルを2回洗浄した。洗浄後のプレートを60℃で30分間静置し、乾燥させた。
ウェルに0.1%クリスタルバイオレット溶液を300 μL入れ、室温で15分静置することで、ウェル表面に固着したバイオフィルムを染色した。染色後のクリスタルバイオレット溶液を取り除いた後、滅菌水でウェルを2回洗浄した。ウェルに70%エタノールを300 μL入れ、室温で5分静置することで、クリスタルバイオレットの溶出を行った。溶出液200 μLを分取し、クリスタルバイオレットの比色定量(吸光度550 nm)を行った。
【0070】
結果を表9に示す。表中の値は、クリスタルバイオレット量を600 nmでの濁度で除した値である。
【0071】
【0072】
大腸菌よるバイオフィルムの生成がCPP-Oligoにより濃度依存的に抑制された。
【0073】
[実施例8:lptB遺伝子及びlptD遺伝子に対するCPP-Oligoによる大腸菌のLPS産生阻害〕
lptB遺伝子及びlptD遺伝子に対するCPP-Oligoを用いて大腸菌のLPS産生阻害試験を行った。
lptB遺伝子及びlptD遺伝子に対するCPP-Oligoを以下のとおり合成した(受託合成はバイオロジカ社)。
KFF-lptB1:KFFKFFKFFK-O linker-cagttcttgcc(配列番号3)
KFF-lptB2:KFFKFFKFFK-O linker-ttcttgccctg(配列番号4)
KFF-lptD:KFFKFFKFFK-O linker-gcacgcgtta(配列番号5)
【0074】
1 mL LBを入れた15 mL容量のプラスチック遠沈管に大腸菌MG1655株を植菌した。18時間前後振盪培養した後、1/3LBで105希釈した培養液672.5 μLを、15 mL容量のプラスチック遠沈管に継代し、CPP-Oligoを終濃度5 μM添加してOD600が0.5程度になるまで培養した。陰性対照として、CPP-Oligoの代わりに滅菌したイオン交換水を添加したもの、及び実施例7に記載のKFF-NCPを5 μM添加したものも培養した。
培養液を用いて、実施例5と同様にしてSDS-PAGEを行った。
【0075】
結果を
図15に示す。
CPP-Oligo(レーン3-5)では、陰性対照(レーン1,2)に比してLPSのバンドパターンが変化し、細胞膜LPSの組成変化が認められた。
【0076】
[実施例9:CPP-Oligoによる膜ろ過性の改善]
CPP-Oligo添加による膜ろ過性の改善効果を評価した。
CPP-Oligoには、上述のKFF-fliC、KFF-lptB1、KFF-lptB2及びKFF-lptDに加えて、以下のKFF-lptD2を用いた(受託合成はバイオロジカ社)。
KFF-lptD2:KFFKFFKFFK-O linker-cgcgttactg(配列番号6)
【0077】
2 mLのLB培地を入れた50 mL容量のチューブに大腸菌MG1655株を植菌した。CPP-Oligoをそれぞれ終濃度3 μMとなるように添加して、30℃で8時間振盪培養した。2本のチューブの培養液を1本のチューブに合わせて、OD600が1.5となるようにLB培地で調整した。遠心分離を行って培養上清を回収した。
回収した培養上清2.0 mLを精密ろ過カラムチューブ(ウルトラフリーMC・0.45μm PVDF膜、メルクミリポア)に0.5 mLずつ4回にわけて移し、4℃、1,100 rpm (100×g)で2分間遠心して培養上清をろ過した。
精製水500 μLをカラムチューブに添加して、4℃、300 rpmで2分間遠心分離し、直ちにチューブ内に残ったろ液の重量を測定してろ過量を算出した。
【0078】
結果を
図16に示す。
CPP-Oligoを添加しなかった場合(control)に比してCPP-Oligoを添加した場合にはろ過量が増加しており、膜ろ過性の改善効果が確認された。