(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140941
(43)【公開日】2023-10-05
(54)【発明の名称】SEUクロスセクション推定装置及びSEUクロスセクション推定方法並びにSEUクロスセクション推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/308 20060101AFI20230928BHJP
H05H 3/06 20060101ALN20230928BHJP
H05H 6/00 20060101ALN20230928BHJP
G01R 31/3181 20060101ALN20230928BHJP
【FI】
G01R31/308
H05H3/06
H05H6/00
G01R31/3181
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022047024
(22)【出願日】2022-03-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】岩下 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】奥川 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】広島 芳春
(72)【発明者】
【氏名】鬼柳 善明
(72)【発明者】
【氏名】古坂 道弘
(72)【発明者】
【氏名】加美山 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博隆
【テーマコード(参考)】
2G085
2G132
【Fターム(参考)】
2G085BA17
2G085DA03
2G085EA01
2G085EA06
2G132AA02
2G132AA08
2G132AB18
2G132AD00
2G132AL09
(57)【要約】
【課題】簡易な方法でSEUクロスセクションが未知である半導体デバイスのSEUクロスセクションを推定する。
【解決手段】SEUクロスセクションが既知である複数の基準デバイスに、材質が異なる複数のターゲットに粒子放射線をそれぞれ照射して発生する各中性子を照射したときの、各ターゲットごとのソフトエラー発生率を記憶する記憶部15と、測定対象デバイスに、各中性子を照射したときのソフトエラー発生率を演算する演算部12と、測定対象デバイス4のソフトエラー発生率と、基準デバイスのソフトエラー発生率との類似度を判定する判定部16と、測定対象デバイス4との類似度が最も高いと判定された基準デバイスのSEUクロスセクションに基づいて、測定対象デバイス4のSEUクロスセクションを推定する推定部17とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEUクロスセクションが既知である複数の基準デバイスに、材質が異なる複数のターゲットに粒子放射線をそれぞれ照射して発生する各中性子を照射したときの、各ターゲットごとのソフトエラー発生率を記憶する記憶部と、
測定対象デバイスに、前記各中性子を照射したときのソフトエラー発生率を演算する演算部と、
前記測定対象デバイスのソフトエラー発生率と、前記基準デバイスのソフトエラー発生率との類似度を判定する判定部と、
前記測定対象デバイスとの類似度が最も高いと判定された基準デバイスのSEUクロスセクションに基づいて、前記測定対象デバイスのSEUクロスセクションを推定する推定部と、
を備えたSEUクロスセクション推定装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記判定部で最も類似度が高いと判定された基準デバイスのソフトエラー発生率と、前記測定対象デバイスのソフトエラー発生率との比率を算出し、
前記類似度が最も高いと判定された基準デバイスのSEUクロスセクション、及び前記比率に基づいて、前記測定対象デバイスのSEUクロスセクションを推定する
請求項1に記載のSEUクロスセクション推定装置。
【請求項3】
各々の前記ターゲットの材質は、ベリリウム(Be)、タンタル(Ta)、鉛(Pb)、タングステン(W)、のうちのいずれかである
請求項1または2に記載のSEUクロスセクション推定装置。
【請求項4】
前記複数のターゲットは、第1のターゲットと第2のターゲットを含み、前記第1のターゲット及び第2のターゲットは、第1の材質の部材と第2の材質の部材との積層構造をなし、前記第1のターゲットの第2の材質の部材と、前記第2のターゲットの第2の材質の部材は板厚が異なり、
前記記憶部は、前記第1のターゲット及び第2のターゲットに前記粒子放射線を照射して発生する中性子を、各々の前記基準デバイスに照射したときの、各ターゲットごとのソフトエラー発生率を記憶する
請求項1または2に記載のSEUクロスセクション推定装置。
【請求項5】
前記第1の材質の部材はベリリウム(Be)であり、第2の材質の部材はアルミニウム(Al)である
請求項4に記載のSEUクロスセクション推定装置。
【請求項6】
前記各ターゲットは、前記粒子放射線が照射された際に、それぞれ異なる中性子スペクトルを発生する
請求項1~5のいずれか1項に記載のSEUクロスセクション推定装置。
【請求項7】
SEUクロスセクションが既知である複数の基準デバイスに、材質が異なる複数のターゲットに粒子放射線をそれぞれ照射して発生する各中性子を照射したときの、各ターゲットごとのソフトエラー発生率を記憶するステップと、
測定対象デバイスに、前記各中性子を照射したときのソフトエラー発生率を演算するステップと、
前記測定対象デバイスのソフトエラー発生率と、前記基準デバイスのソフトエラー発生率との類似度を判定するステップと、
前記測定対象デバイスとの類似度が最も高いと判定された基準デバイスのSEUクロスセクションに基づいて、前記測定対象デバイスのSEUクロスセクションを推定するステップと、
を備えたSEUクロスセクション推定方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のSEUクロスセクション推定装置としてコンピュータを機能させるSEUクロスセクション推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SEUクロスセクション推定装置及びSEUクロスセクション推定方法並びにSEUクロスセクション推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙から降り注ぐ宇宙線が大気圏にある酸素、或いは窒素に衝突すると、中性子線が発生し、地球に降り注ぐ。一方、多くの電子機器で使用されているLSI等の回路に中性子線が入射すると、核反応により生成された電荷によってLSIに保存されたデータのビットが反転するソフトエラーが発生する。
【0003】
ソフトエラーは、SEU(Single Event Upset)と呼ばれており、単一の粒子放射線(中性子、陽子、重粒子など)がメモリなどの半導体デバイスに入射し、核反応により生成された電荷によって半導体デバイスに保存されたデータ(ビット)が反転する事象である。また、粒子放射線がSEUを発生させる割合をSEUクロスセクションと称している。
【0004】
半導体にフルエンスφ[n/cm2]の粒子放射線を照射したときのSEUの数をNとすると、SEUクロスセクションは、下記(1)式で示される。
【0005】
(SEUクロスセクション)=N/φ …(1)
SEUクロスセクションを測定する方法として、例えば非特許文献1、2、特許文献1に開示されている飛行時間法が知られている。飛行時間法は、一定距離の飛行に要する時間を計測することで粒子放射線の速度を算出し、粒子エネルギーに換算する方法である。
【0006】
加速器及び原子炉を用いてパルス中性子を生成し、一定距離に検出器を設置し、パルス中性子の生成時間と中性子が検出された時刻の差、即ち飛行時間を測定することにより、その中性子のエネルギーを特定することが可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】https://group.ntt/jp/newsrelease/2020/11/25/201125a.html
【非特許文献2】Hidenori Iwashita et al. “Energy-Resolved Soft-Error Rate Measurements for 1-800 MeV Neutronsby the Time-of-Flight Technique at LANSCE ”IEEE TRANSACTIONS ON NUCLEAR SCIENCE,VOL. 67, NO. 11, NOVEMBER2020.
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2021/002469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、MeVオーダーの高エネルギーの中性子を測定するためには、大規模施設が必要となり、世界的にも測定できる施設が限られている。このような大規模施設を利用してSEUクロスセクションを測定することは難しい。また、測定対象となるデバイスがFPGA(Field Programmable Gate Array)である場合には、高速検出回路を組み込んで飛行時間法により中性子の速度を測定できるものの、SRAMなどの高速検出回路を組み込むことが難しいデバイスについては、高速にソフトエラーを検出することができない。例えば、メモリ全体をスキャンするためには、数ミリ秒~数十ミリ秒といった長時間を要してしまうという問題がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、簡易な方法でSEUクロスセクションが未知である半導体デバイスのSEUクロスセクションを推定することが可能なSEUクロスセクション推定装置及びSEUクロスセクション推定方法並びにSEUクロスセクション推定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様のSEUクロスセクション推定装置は、SEUクロスセクションが既知である複数の基準デバイスに、材質が異なる複数のターゲットに粒子放射線をそれぞれ照射して発生する各中性子を照射したときの、各ターゲットごとのソフトエラー発生率を記憶する記憶部と、測定対象デバイスに、前記各中性子を照射したときのソフトエラー発生率を演算する演算部と、前記測定対象デバイスのソフトエラー発生率と、前記基準デバイスのソフトエラー発生率との類似度を判定する判定部と、前記測定対象デバイスとの類似度が最も高いと判定された基準デバイスのSEUクロスセクションに基づいて、前記測定対象デバイスのSEUクロスセクションを推定する推定部とを備える。
【0012】
本発明の一態様のSEUクロスセクション推定方法は、SEUクロスセクションが既知である複数の基準デバイスに、材質が異なる複数のターゲットに粒子放射線をそれぞれ照射して発生する各中性子を照射したときの、各ターゲットごとのソフトエラー発生率を記憶するステップと、測定対象デバイスに、前記各中性子を照射したときのソフトエラー発生率を演算するステップと、前記測定対象デバイスのソフトエラー発生率と、前記基準デバイスのソフトエラー発生率との類似度を判定するステップと、前記測定対象デバイスとの類似度が最も高いと判定された基準デバイスのSEUクロスセクションに基づいて、前記測定対象デバイスのSEUクロスセクションを推定するステップとを備える。
【0013】
本発明の一態様は、上記SEUクロスセクション推定装置としてコンピュータを機能させるためのSEUクロスセクション推定プログラムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡易な方法でSEUクロスセクションが未知である半導体デバイスのSEUクロスセクションを推定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態に係るSEUクロスセクション推定装置、及びその周辺機器の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、ターゲットに陽子を照射して中性子を発生させる様子を示す説明図である。
【
図3】
図3は、材質が異なる複数のターゲットに陽子を放射したときに発生する中性子エネルギーと中性子数との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、複数の既存デバイスに中性子を照射したときの、中性子エネルギーとSEUクロスセクションとの関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、複数の材質のターゲットを用いて発生させた中性子を、各基準デバイス、及び測定対象デバイスに照射したときの、ソフトエラー発生率を示すグラフである。
【
図6】
図6は、第1実施形態に係るSEUクロスセクション推定装置による処理手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第1の材料と第2の材料からなる積層構造のターゲットに陽子を照射して中性子を発生させる様子を示す説明図である。
【
図8】
図8は、第2の材料の厚さが異なる複数のターゲットに陽子を放射したときに発生する中性子エネルギーと中性子数との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、第2の材料の厚さが異なる複数のターゲットを用いて発生させた中性子を、各基準デバイス及び測定対象デバイスに照射したときの、ソフトエラー発生率を示すグラフである。
【
図10】
図10は、本実施形態のハードウェア構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1実施形態の説明]
以下、実施形態に係るSEUクロスセクション推定装置について、図面を参照して説明する。
図1は、実施形態に係るソフトエラー推定装置(以下、「推定装置1」と略す)、及びその周辺機器である加速器2、ターゲット3、測定対象デバイス4の構成を示すブロック図である。
【0017】
加速器2は、陽子、重粒子などの粒子放射線を加速して出力する。本実施形態では、粒子放射線として陽子を用いる例について説明する。
【0018】
ターゲット3は、
図2に示すように加速器2から出力される陽子が照射されると、中性子を出力する。ターゲット3は、ベリリウム(Be)、鉛(Pb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)などの材質からなり、加速器2の出力側の適所に設置されている。ターゲット3の材質を変更することにより、ターゲット3から放射される中性子フルエンス(単位面積当たりの中性子の放射量)、及び中性子スペクトルが変化する。
【0019】
中性子スペクトルは、中性子エネルギーと中性子数との関係を示すデータである。各材質のターゲット3における中性子フルエンス、及び中性子スペクトルは既知のデータである。なお、本実施形態では、ターゲット3の材質として、ベリリウム(Be)、鉛(Pb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)を用いる例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の材質のターゲット3を用いてもよい。
【0020】
図3は、ターゲット3から放射される中性子スペクトルを示すグラフであり、横軸は中性子エネルギー[MeV]、縦軸は中性子数を示している。
図3に示す曲線p1、p2、p3、p4はそれぞれ、ターゲット3の材質をタンタル(Ta)、ベリリウム(Be)、タングステン(W)、鉛(Pb)としたときの、ターゲット3から放射される中性子スペクトルを示している。中性子フルエンス、及び中性子スペクトルのデータは、推定装置1に出力される。
【0021】
測定対象デバイス4は、SEUクロスセクションを推定する対象となる半導体デバイスである。即ち、測定対象デバイス4のSEUクロスセクションは未知である。測定対象デバイス4は、FPGA、SRAM(Static Random AccessMemory)などの半導体が実装された基板である。ターゲット3から出力される中性子が測定対象デバイス4に照射されると、測定対象デバイス4においてソフトエラーが発生する。測定対象デバイス4にて発生したソフトエラーの情報は、推定装置1に出力される。
【0022】
推定装置1(SEUクロスセクション推定装置)は、入力部11と、演算部12と、演算データ保存部13と、既存データ保存部14と、記憶部15と、判定部16と、推定部17と、出力部18を備えている。
【0023】
入力部11は、加速器2からターゲット3に陽子が照射された際に、ターゲット3から照射される中性子フルエンスの情報を取得する。入力部11は、測定対象デバイス4に中性子が照射された際に発生するソフトエラーの発生情報を取得する。入力部11は、ターゲット3の材質が種々の材質に変更された際に、各材質のターゲット3ごとに中性子フルエンスの情報、及び測定対象デバイス4にて発生したソフトエラーの情報を取得する。
【0024】
具体的に入力部11は、ターゲット3をベリリウム(Be)、鉛(Pb)、タンタル(Ta)、及びタングステン(W)とした際の、中性子フルエンスの情報、及びソフトエラーの情報を取得する。入力部11は、取得した情報を演算部12に出力する。
【0025】
演算部12は、測定対象デバイス4にて発生したソフトエラーの情報に基づいて、各ターゲットごと(即ち、中性子スペクトルごと)のソフトエラー発生率を演算する。具体的には、ターゲット3をベリリウム(Be)、鉛(Pb)、タンタル(Ta)、及びタングステン(W)としたときの、測定対象デバイス4にて発生したソフトエラーの情報に基づいて、各ターゲット3ごとのソフトエラー発生率を演算する。演算部12は、例えば後述する
図5の符号P1~P4に示す如くのソフトエラー発生率を算出する。即ち、演算部12は、SEUクロスセクションの測定対象となる測定対象デバイス4に、各々のターゲット3に粒子放射線を照射して発生する中性子を照射したときのソフトエラー発生率を演算する。
【0026】
演算データ保存部13は、演算部12で演算されたソフトエラー発生率を保存する。
【0027】
既存データ保存部14は、複数のFPGAのSEUクロスセクションのデータを保存する。各FPGAのSEUクロスセクションは、周知技術である飛行時間法、単色法などを用いて予め測定された既知のデータである。以下では、SEUクロスセクションが既知であるFPGAなどの半導体デバイスを「基準デバイス」という。本実施形態では、「FPGA28nm」、「FPGA40nm」、「FPGA55nm」を基準デバイスとした例について説明する。既存データ保存部14は、「FPGA28nm」、「FPGA40nm」、「FPGA55nm」のそれぞれについてのSEUクロスセクションのデータを保存する。
【0028】
なお、「28nm」、「40nm」、「55nm」とは、FPGAの基板に形成される線幅を示している。例えば「FPGA28nm」は、線幅が28nmとされたパターンが形成されたFPGAである。本実施形態では、基準デバイスとしてFPGAを用いる例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その他の半導体デバイスを用いてもよい。
【0029】
図4は、各基準デバイスのSEUクロスセクションを示すグラフであり、横軸は中性子エネルギー[MeV]、縦軸はSEUクロスセクション[cm2/Mbit]を示している。
図4に示す曲線p11はFPGA28nm、曲線p12はFPGA40nm、曲線p13はFPGA55nmのSEUクロスセクションを示している。
【0030】
記憶部15は、各基準デバイスごとの、各種のターゲット3を用いて発生した中性子によるソフトエラー発生率を記憶する。即ち、異なる中性子スペクトルごとのソフトエラー発生率を記憶する。
図3に示したように、複数の材質のターゲット3を用いたときの、中性子エネルギーと中性子数との関係を示すグラフと、
図4に示した複数の基準デバイス(FPGA)のSEUクロスセクションのデータに基づいて、各基準デバイスごとの、各種のターゲット3を用いて発生した中性子によるソフトエラー発生率が求められる。
【0031】
具体的には
図5に示すように、横軸をターゲット3(Be、Pb、Ta、W)とし、縦軸をソフトエラー発生率としたデータが求められ、このデータが記憶部15に記憶される。
図5では、FPGA28nmのソフトエラー発生率で規格化した各基準デバイスのソフトエラー発生率を示している。
図5に示す曲線p21はFPGA28nm、曲線p22はFPGA40nm、曲線p23はFPGA55nmのソフトエラー発生率を示している。即ち、記憶部15は、SEUクロスセクションが既知である複数の基準デバイスに、材質が異なる複数のターゲット3に粒子放射線を照射して発生する中性子を照射したときの、各ターゲット3ごとのソフトエラー発生率を記憶する。
【0032】
判定部16は、演算データ保存部13に記憶されている測定対象デバイス4のソフトエラー発生率と、記憶部15に記憶されている基準デバイスのソフトエラー発生率とを比較し、測定対象デバイス4のソフトエラー発生率がどの基準デバイスのソフトエラー発生率に類似しているかを判定する。即ち、判定部16は、測定対象デバイス4のソフトエラー発生率と、基準デバイスのソフトエラー発生率との類似度を判定する。
【0033】
例えば、各種の材質のターゲット3を用いて測定対象デバイス4に中性子を照射したときの、測定対象デバイス4に発生するソフトエラー発生率が、
図5に示す符号P1、P2、P3、P4であったものとする。この場合には、測定対象デバイス4のソフトエラー発生率と、曲線p23に示すFPGA55nmのソフトエラー発生率との類似度が高いものと判定する。具体的な判定方法の一例として、最小二乗法を用いた判定法がある。各ソフトエラー発生率をaP1,aP2,aP3,aP4とし、モデル曲線のp23, p22, p11のそれぞれの残差の二乗和が最小となる係数aを探索し、最も残差の二乗和が少なくなったモデル曲線が類似の曲線と判定する。
【0034】
推定部17は、判定部16にて類似度の高い基準デバイスが特定された際に、この基準デバイスのソフトエラー発生率と、測定対象デバイス4のソフトエラー発生率との関係性を認識する。例えば、
図5に示すように測定対象デバイス4のソフトエラー発生率が、FPGA55nmのソフトエラー発生率と類似しており、更に、FPGA55nmに対してソフトエラー発生率が20%程度低いものと認識する。
【0035】
推定部17は、測定対象デバイス4のSEUクロスセクションは、曲線p23に示すFPGA55nmのSEUクロスセクションに対して20%程度低いものと推定する。推定部17は、測定対象デバイス4のSEUクロスセクションは、
図4の曲線p13に示されるFPGA55nmのSEUクロスセクションに対して、20%程度低いデータとなるものと推定する。
【0036】
即ち推定部17は、判定部16で類似度が高いと判定された基準デバイスのソフトエラー発生率と、測定対象デバイス4のソフトエラー発生率との比率を算出し、類似度が高いと判定された基準デバイスのSEUクロスセクション、及び比率に基づいて、測定対象デバイス4のSEUクロスセクションを推定する。
【0037】
出力部18は、推定部17で推定されたデータを外部に出力する。
【0038】
次に、第1実施形態に示した推定装置1におけるSEUクロスセクションの推定処理の手順について、
図6に示すフローチャートを参照して説明する。
【0039】
初めに、
図6に示すステップS11において既存データ保存部14は、SEUクロスセクションが既知である複数の基準デバイスの、中性子エネルギーとSEUクロスセクションとの関係を示すデータを取得して保存する。具体的には、
図4に示したFPGA28nm、FPGA40nm、FPGA55nmのSEUクロスセクションのデータを保存する。基準デバイスのクロスセクションは、例えば大規模施設を利用し、例えば飛行時間法により求められる。
【0040】
ステップS12において入力部11は、複数のターゲット3に陽子を照射して発生する中性子を測定対象デバイス4に照射したときの、ソフトエラー発生率を取得する。具体的には、
図5に示した点P1~P4のデータを取得する。
【0041】
ステップS13において判定部16は、測定対象デバイス4に対してソフトエラー発生率の類似度が高い基準デバイスを特定する。具体的には、
図5に示した点P1~P4のデータは、曲線p23と類似して変化しているので、類似度の高い基準デバイスが、FPGA55nmであるものと特定する。
【0042】
ステップS14において推定部17は、測定対象デバイス4のソフトエラー発生率とステップS13の処理で特定した基準デバイスのソフトエラー発生率との関係性を認識する。具体的には、
図5に示した点P1~P4のデータが、FPGA55nmのグラフに対して20%程度低いことを認識する。更に、FPGA55nmのSEUクロスセクションに基づいて測定対象デバイス4のSEUクロスセクションを推定する。
【0043】
具体的には、測定対象デバイス4のSEUクロスセクションは、
図4に示した曲線p13(FPGA55nmのSEUクロスセクション)よりも20%程度低いグラフになるものと推定する。この推定結果は、出力部18から出力される。その後、本処理を終了する。ユーザは、この推定結果に基づき、測定対象デバイス4のSEUクロスセクションを認識することができる。
【0044】
このように、本実施形態に係る推定装置1(SEUクロスセクション推定装置)は、SEUクロスセクションが既知である複数の基準デバイスに、材質が異なる複数のターゲット3に粒子放射線をそれぞれ照射して発生する各中性子を照射したときの、各ターゲット3ごとのソフトエラー発生率を記憶する記憶部15と、測定対象デバイス4に、各中性子を照射したときのソフトエラー発生率を演算する演算部12と、測定対象デバイス4のソフトエラー発生率と、基準デバイスのソフトエラー発生率との類似度を判定する判定部16と、測定対象デバイス4との類似度が最も高いと判定された基準デバイスのSEUクロスセクションに基づいて、測定対象デバイス4のSEUクロスセクションを推定する推定部15と、を備える。
【0045】
本実施形態に係る推定装置1を用いることにより、基準デバイスのSEUクロスセクションを用いて、SEUクロスセクションが未知である半導体デバイス(測定対象デバイス4)のSEUクロスセクションを推定できる。このため、大規模施設を利用することなく極めて簡易な方法で測定対象デバイス4のSEUクロスセクションを推定することが可能となる。
【0046】
また、ターゲット3として、ベリリウム(Be)、鉛(Pb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)を用いており、それぞれの材質のターゲット3に陽子を照射することにより、それぞれ異なる中性子スペクトルを発生させることができ、SEUクロスセクションを高精度に推定することが可能になる。
【0047】
また、判定部16で類似度が高いと判定された基準デバイスのソフトエラー発生率と、測定対象デバイス4のソフトエラー発生率との比率を算出する。例えば、
図5に示した例では、測定対象デバイス4のソフトエラー発生率(P1~P4)は、FPGA55nmのソフトエラー発生率(曲線p23)よりも、20%程度低い数値であるものと判断する。推定部17は、この比率に基づいて、測定対象デバイス4のSEUクロスセクションを推定するので、SEUクロスセクションの推定精度を高めることができる。
【0048】
また、測定対象となるデバイスが、SRAMなどの高速検出回路を組み込むことが難しいデバイスであってもSEUクロスセクションを容易に推定することが可能になる。
【0049】
[第2実施形態の説明]
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態に係る推定装置1は、前述した第1実施形態と同様の構成を有している。第2実施形態では、測定対象デバイス4に照射するための中性子を発生させるターゲット3の構造が第1実施形態と相違する。
【0050】
また、第2実施形態では、記憶部15に、後述する
図9に示すようにアルミニウム(第2の材料32)の厚さとソフトエラー発生率との関係を示すグラフが記憶されている点で第1実施形態と相違する。以下、第2実施形態について詳細に説明する。
【0051】
図7は、第2実施形態に係る推定装置1でSEUクロスセクションを推定する際に使用するターゲット30の構成を示す説明図である。
図7に示すように、第2実施形態に係る推定装置1では、第1の材料31に第2の材料32を積層した二層構造のターゲット30を使用する。
【0052】
一例として、厚さが一定(例えば、3mm)とされた第1の材料31に、厚さが可変とされた第2の材料32を積層して形成したターゲット30を使用する。第1の材料31は例えばベリリウム(Be)であり、第2の材料は例えばアルミニウム(Al)である。アルミニウムの厚さを変更した複数のターゲット30を用いることにより、ターゲット30から出力される中性子スペクトルを変更して測定対象デバイス4に照射する。
【0053】
前述した第1実施形態では、材質が異なる複数のターゲット3を使用したのに対して、第2実施形態では第2の材料32の厚さが異なる複数のターゲット30を使用して中性子を発生させている。即ち、複数のターゲット30は、第1のターゲットと第2のターゲットを含み、第1のターゲット及び第2のターゲットは、第1の材質の部材(第1の材料31)と第2の材質の部材(第2の材料32)との積層構造をなし、第1のターゲットの第2の材質の部材と、第2のターゲットの第2の材質の部材は板厚が異なっている。記憶部15は、第1のターゲット及び第2のターゲットに陽子(粒子放射線)を照射して発生する中性子を、各々の基準デバイスに照射したときの、各ターゲット30ごとのソフトエラー発生率を記憶する。
【0054】
図8は、アルミニウムの厚さを0.0~1.5mmの範囲で変化させたときの、中性子スペクトルを示すグラフである。
図8に示す曲線q1、q2、q3、q4、q5はそれぞれ、第2の材料32として使用するアルミニウムの厚さを0.0mm、0.2mm、0.5、1.0mm、1.5mmとしたときの中性子スペクトルを示すグラフである。
【0055】
記憶部15には、
図9に示すように各基準デバイスごとの、アルミニウムの厚さとソフトエラー発生率との関係を示すグラフが記憶されている。
図9に示すグラフは、FPGA28nmのソフトエラー発生率で規格化したデータを示している。
図9に示す曲線q21はFPGA28nm、曲線q22はFPGA40nm、曲線q23はFPGA55nmについてのソフトエラー発生率を示している。
【0056】
図9に示す点Q1、Q2、Q3、Q4は、アルミニウムの厚さが異なる複数のターゲット30を用いて測定対象デバイス4に中性子を照射したときの、測定対象デバイス4に発生するソフトエラー発生率を示している。
【0057】
即ち第2実施形態では、記憶部15は、板厚が固定された第1の材質の部材に、種々の板厚を有する第2の材質の部材を積層した複数のターゲット30に粒子放射線を照射して発生する中性子を、各々の基準デバイスに照射したときの、各ターゲット30ごとのソフトエラー発生率を記憶している。
【0058】
図9から理解されるように点Q1~Q4は、曲線q22と類似している。従って、判定部16は、測定対象デバイス4のソフトエラー発生率は基準デバイスであるFPGA40nmとの類似度が高いものと判定する。
【0059】
また、点Q1~Q4は、曲線q22に対してソフトエラー発生率が20%程度高くなっている。推定部17は測定対象デバイス4のSEUクロスセクションは、FPGA40nmのSEUクロスセクションに対して、20%だけ高い数値になるものと推定する。具体的には、
図4に示した曲線p12に対して、20%だけ高い数値となるものと推定する。
【0060】
このように第2実施形態では、第1の材料31(第1の材質の部材)と第2の材料32(第2の材質の部材)の積層構造とし、且つ第2の材料32の厚さを変更したターゲット30を使用して中性子を発生させ、第2の材料32の厚さが異なる各ターゲット30を用いて検出されたソフトエラー発生率に基づいて、測定対象デバイス4のSEUクロスセクションを推定している。
【0061】
従って、第2実施形態に係る推定装置1では、前述した第1実施形態と同様に、基準デバイスのSEUクロスセクションを用いて、SEUクロスセクションが未知である半導体デバイス(測定対象デバイス4)のSEUクロスセクションを推定できる。このため、大規模施設を使用することなく測定対象デバイス4のSEUクロスセクションを推定できる。
【0062】
第2実施形態に係る推定装置1では、第2の材料32の厚さを適宜変更した複数種類のターゲット30を用いて中性子を発生させる。このため、多くの材質のターゲットを用意する必要がなく、SEUクロスセクションの推定をより簡素化することができる。
【0063】
上記説明した実施形態に係るSEUクロスセクション推定装置(推定装置1)には、
図10に示すように例えば、CPU(Central Processing Unit、プロセッサ)901と、メモリ902と、ストレージ903(HDD:HardDisk Drive、SSD:SolidState Drive)と、通信装置904と、入力装置905と、出力装置906とを備える汎用的なコンピュータシステムを用いることができる。メモリ902およびストレージ903は、記憶装置である。このコンピュータシステムにおいて、CPU901がメモリ902上にロードされた所定のプログラムを実行することにより、推定装置1の各機能が実現される。
【0064】
なお、推定装置1は、1つのコンピュータで実装されてもよく、あるいは複数のコンピュータで実装されても良い。また、推定装置1は、コンピュータに実装される仮想マシンであっても良い。
【0065】
なお、推定装置1用のプログラムは、HDD、SSD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、CD (Compact Disc)、DVD (Digital Versatile Disc)などのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶することも、ネットワークを介して配信することもできる。
【0066】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 推定装置(SEUクロスセクション推定装置)
2 加速器
3、30 ターゲット
4 測定対象デバイス
11 入力部
12 演算部
13 演算データ保存部
14 既存データ保存部
15 記憶部
16 判定部
17 推定部
18 出力部
31 第1の材料(第1の材質の部材)
32 第2の材料(第2の材質の部材)