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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147730
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】遺伝子組換え体の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6888 20180101AFI20231005BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20231005BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20231005BHJP
   C12N 15/29 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
C12Q1/6888 Z ZNA
C12Q1/6851 Z
C12N15/11 Z
C12N15/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055412
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】真野 潤一
(72)【発明者】
【氏名】井川 豪志
(72)【発明者】
【氏名】野間 聡
(72)【発明者】
【氏名】菊池 洋介
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ09
4B063QQ13
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】遺伝子組換え体の検出方法を提供する。
【解決手段】遺伝子組換え体の検出方法であって、少なくとも1種の遺伝子組換え体を含む可能性のある試料に含まれる核酸配列の少なくとも一部を、遺伝子組換え体に由来する組換え遺伝子を特異的に増幅するプライマーと、遺伝子組換え体に対応する生物種が共通に有する内在性遺伝子を特異的に増幅し、かつ内在性遺伝子の増幅産物の増幅長が組換え遺伝子の増幅産物の増幅長に対して123%以上となるよう構成されたプライマーと、を使用して、PCRにより増幅することと、PCRの結果に基づいて、試料中の遺伝子組換え体の存在比が基準値より低いか判定することと、を含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子組換え体の検出方法であって、
少なくとも1種の遺伝子組換え体を含む可能性のある試料に含まれる核酸配列の少なくとも一部を、前記遺伝子組換え体に由来する組換え遺伝子を特異的に増幅するプライマーと、前記遺伝子組換え体に対応する生物種が共通に有する内在性遺伝子を特異的に増幅し、かつ前記内在性遺伝子の増幅産物の増幅長が前記組換え遺伝子の増幅産物の増幅長に対して123%以上となるよう構成されたプライマーと、を使用して、PCRにより増幅することと、
前記PCRの結果に基づいて、前記試料中の前記遺伝子組換え体の存在比が基準値より低いか判定することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記試料中の前記核酸配列の少なくとも一部が分解されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が加工されている、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記PCRの結果に基づいて、前記試料中の前記遺伝子組換え体の存在比を決定することをさらに含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記試料中の前記核酸配列の少なくとも一部が分解されており、前記核酸配列が分解される前の前記試料における前記遺伝子組換え体の存在比が、前記決定された前記遺伝子組換え体の存在比より低いと判定することをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記試料が加工されており、加工される前の前記試料における前記遺伝子組換え体の存在比が、加工された前記試料における前記決定された遺伝子組換え体の存在比より低いと判定することをさらに含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記PCRの結果に基づいて決定される前記試料中に存在する前記組換え遺伝子の量と、前記PCRの結果に基づいて決定される前記試料中に存在する前記内在性遺伝子の量と、に基づいて、前記試料中の前記遺伝子組換え体の存在比を決定する、請求項4から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
下記(1)式に基づいて、前記遺伝子組換え体の存在比を決定する、請求項4から7のいずれか1項に記載の方法。
C=(NG/NE)×(1/R)×100 (1)
(1)式において、Cは前記遺伝子組換え体の存在比(%)、NGは前記試料中の前記組換え遺伝子の量、NEは前記試料中の前記内在性遺伝子の量、Rは内標比を表す。
【請求項9】
前記内標比が、下記(2)式で与えられる、請求項8に記載の方法。
R=NG100/NE100 (2)
(2)式において、NG100は100%の前記遺伝子組換え体中の組換え遺伝子の量、NE100は100%の前記遺伝子組換え体中の内在性遺伝子の量を表す。
【請求項10】
前記内標比が、下記(3)式で与えられる、請求項8に記載の方法。
R=NGx/NEx×100/x (3)
(3)式において、NGxは遺伝子組換え体x%の認証標準物質中の組換え遺伝子の量、NExは遺伝子組換え体x%の認証標準物質中の内在性遺伝子の量を表す。
【請求項11】
前記組換え遺伝子の増幅産物が閾値に達した時のサイクル数と、前記内在性遺伝子の増幅産物が閾値に達した時のサイクル数と、に基づいて、前記試料中の前記遺伝子組換え体の存在比が基準値より低いか判定する、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記組換え遺伝子の増幅産物が閾値に達した時のサイクル数と、前記内在性遺伝子の増幅産物が閾値に達した時のサイクル数と、の差に基づいて、前記試料中の前記遺伝子組換え体の存在比が基準値より低いか判定する、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記内在性遺伝子の増幅産物の増幅長が前記組換え遺伝子の増幅産物の増幅長に対して125%以上である、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記組換え遺伝子の増幅産物の増幅長が40bp以上1000bp以下である、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記PCRが定量PCRである、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記PCRがリアルタイムPCRである、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記PCRがマルチプレックスPCRである、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記生物種が植物である、請求項1から17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
遺伝子組換え体の検出キットであって、
遺伝子組換え体に由来する組換え遺伝子を特異的に増幅するPCRプライマーと、
前記遺伝子組換え体に対応する生物種が共通に有する内在性遺伝子を特異的に増幅し、かつ前記内在性遺伝子の増幅産物の増幅長が前記組換え遺伝子の増幅産物の増幅長に対して123%以上となるよう構成されたPCRプライマーと、
を備える、キット。
【請求項20】
前記内在性遺伝子の増幅産物の増幅長が前記組換え遺伝子の増幅産物の増幅長に対して125%以上である、請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記組換え遺伝子の増幅産物の増幅長が40bp以上1000bp以下である、請求項19又は20に記載のキット。
【請求項22】
前記PCRが定量PCRである、請求項19から21のいずれか1項に記載のキット。
【請求項23】
前記PCRがリアルタイムPCRである、請求項19から21のいずれか1項に記載のキット。
【請求項24】
前記PCRがマルチプレックスPCRである、請求項19から21のいずれか1項に記載のキット。
【請求項25】
前記生物種が植物である、請求項19から24のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子技術に関し、遺伝子組換え体の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品等の試料に含まれる遺伝子組換え体の定量には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が広く用いられている(例えば、特許文献1から7及び非特許文献1から4参照。)。一方、試料が加工されるに従って、熱、pH変化、及び物理的な力等によって、試料に含まれるデオキシリボ核酸(DNA)が分解し、断片化することが知られている。また、DNAが断片化すると、PCRによる遺伝子組換え体の定量値に誤差が生じることも確認されている。
【0003】
例えば、遺伝子組換え体を5%含むダイズ原料を、豆腐、豆乳、及び煮豆に加工すると、加工方法や加工量に応じて、PCRで定量された加工品における遺伝子組換え体の存在比が、実際の5%より高くなったり、低くなったりすることが報告されている(例えば、非特許文献5及び特許文献8参照。)。したがって、PCRで定量された加工品における遺伝子組換え体の存在比が基準値より高くても、加工品の原材料は実際には基準値以上の遺伝子組換え体を含んでいない可能性がある。また、PCRで定量された加工品における遺伝子組換え体の存在比が基準値より低くても、加工品の原材料は実際には基準値以上の遺伝子組換え体を含んでいる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4291568号公報
【特許文献2】特許第4317450号公報
【特許文献3】特許第4925607号公報
【特許文献4】特許第5229864号公報
【特許文献5】特表2002-536024号公報
【特許文献6】特開2013-063082号公報
【特許文献7】特開2017-143803号公報
【特許文献8】特開2021-40592号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Takeshi Ogasawara et al., "Fragmentation of DNAs of Processed Foods Made from Genetically Modified Soybeans," Jpn, J. Food Chem., 2003, 10, 155-160
【非特許文献2】食品表示基準Q&A別添「遺伝子組換え食品に関する事項」、消費者庁、平成27年3月30日改正
【非特許文献3】食品表示基準別添「安全性審査済みの遺伝子組換え食品の検査方法」、消費者庁、2019年3月28日改正
【非特許文献4】第113回日本食品衛生学会学術講演会 講演要旨 73頁
【非特許文献5】Tomoaki Yoshimura et al., "Comparative Studies of the Quantification of Genetically Modified Organisms in Foods Processed from Maize and Soy Using Trial Producing," J. Agric. Chem., 2005, 53, 2060-2069
【非特許文献6】知っていますか? 遺伝子組換え表示制度、消費者庁
【非特許文献7】食品表示基準別添「安全性審査済みの遺伝子組換え食品の検査方法」(消費者庁)2021年9月15日改正
【非特許文献8】遺伝子組換え食品と検査状況、衛研ニュースNo.200、令和2年9月発行、神奈川県衛生研究所
【非特許文献9】第1回遺伝子組換え表示制度に関する検討会、平成29年4月26日、資料4、遺伝子組換え表示制度に係る分別生産流通管理等の実態調査の概要、消費者庁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
日本においては、遺伝子組換え食品に関して遺伝子組換え表示制度がある(例えば、非特許文献6、7参照。)。遺伝子組換え表示制度は、食品表示基準に定められている。食品表示基準は改正され、改正後の食品表示基準は2023年4月1日に施行される。改正前の食品表示基準では、分別生産流通管理をして、意図せざる混入を5%以下に抑えている大豆及びとうもろこし並びにそれらを原材料とする加工食品については、「遺伝子組換えでないものを分別」、「遺伝子組換えでない」等の表示が可能である。
【0007】
改正後の食品表示基準では、分別生産流通管理をして、遺伝子組換えの混入がないと認められる大豆及びとうもろこし並びにそれらを原材料とする加工食品に対して、「遺伝子組換えでない」、「非遺伝子組換え」等の表示が可能となる。分別生産流通管理をして、意図せざる混入を5%以下に抑えている大豆及びとうもろこし並びにそれらを原材料とする加工食品については、適切に分別生産流通管理された旨の表示が可能となる。
【0008】
分別生産流通管理の下で生産された穀物に含まれている遺伝子組換え体の混入は基準値を大幅に下回っている場合が大半を占めている(非特許文献8、9)。試料における遺伝子組換え体の存在比を正確に定量できなくとも、試料における遺伝子組換え体が基準値以下であることを証明する方法が望まれている。そこで、本発明は、試料における遺伝子組換え体が基準値以下であることを証明する、遺伝子組換え体の検出方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様によれば、遺伝子組換え体の検出方法であって、少なくとも1種の遺伝子組換え体を含む可能性のある試料に含まれる核酸配列の少なくとも一部を、遺伝子組換え体に由来する組換え遺伝子を特異的に増幅するプライマーと、遺伝子組換え体に対応する生物種が共通に有する内在性遺伝子を特異的に増幅し、かつ内在性遺伝子の増幅産物の増幅長が組換え遺伝子の増幅産物の増幅長に対して123%以上となるよう構成されたプライマーと、を使用して、PCRにより増幅することと、PCRの結果に基づいて、試料中の遺伝子組換え体の存在比が基準値より低いか判定することと、を含む、方法が提供される。
【0010】
上記の方法において、遺伝子組換え体の存在比が基準値よりも低い場合、試料が遺伝子組換え体を含まないと判定してもよい。
【0011】
上記の方法において、試料中の核酸配列の少なくとも一部が分解されていてもよい。
【0012】
上記の方法において、試料が加工されていてもよい。
【0013】
上記の方法において、PCRの結果に基づいて、試料中の遺伝子組換え体の存在比を決定することをさらに含んでいてもよい。
【0014】
上記の方法において、試料中の核酸配列の少なくとも一部が分解されており、上記の方法が、核酸配列が分解される前の試料における遺伝子組換え体の存在比が、決定された遺伝子組換え体の存在比より低いと判定することをさらに含んでいてもよい。
【0015】
上記の方法において、試料が加工されており、上記の方法が、加工される前の試料における遺伝子組換え体の存在比が、加工された試料における決定された遺伝子組換え体の存在比より低いと判定することをさらに含んでいてもよい。
【0016】
上記の方法において、PCRの結果に基づいて決定される試料中に存在する組換え遺伝子の量と、PCRの結果に基づいて決定される試料中に存在する内在性遺伝子の量と、に基づいて、試料中の遺伝子組換え体の存在比を決定してもよい。
【0017】
上記の方法において、下記(1)式に基づいて、遺伝子組換え体の存在比を決定してもよい。
C=(NG/NE)×(1/R)×100 (1)
(1)式において、Cは遺伝子組換え体の存在比(%)、NGは試料中の組換え遺伝子の量、NEは試料中の内在性遺伝子の量、Rは内標比を表す。
【0018】
上記の方法において、内標比が、下記(2)式で与えられてもよい。
R=NG100/NE100 (2)
(2)式において、NG100は100%の遺伝子組換え体中の組換え遺伝子の量、NE100は100%の遺伝子組換え体中の内在性遺伝子の量を表す。
【0019】
上記の方法において、内標比が、下記(3)式で与えられてもよい。
R=NGx/NEx×100/x (3)
(3)式において、NGxは遺伝子組換え体x%の認証標準物質中の組換え遺伝子の量、NExは遺伝子組換え体x%の認証標準物質中の内在性遺伝子の量を表す。
【0020】
上記の方法において、組換え遺伝子の増幅産物が閾値に達した時のサイクル数と、内在性遺伝子の増幅産物が閾値に達した時のサイクル数と、に基づいて、試料中の遺伝子組換え体の存在比が基準値より低いか判定してもよい。
【0021】
上記の方法において、組換え遺伝子の増幅産物が閾値に達した時のサイクル数と、内在性遺伝子の増幅産物が閾値に達した時のサイクル数と、の差に基づいて、試料中の遺伝子組換え体の存在比が基準値より低いか判定してもよい。
【0022】
上記の方法において、内在性遺伝子の増幅産物の増幅長が組換え遺伝子の増幅産物の増幅長に対して125%以上であってもよい。
【0023】
上記の方法において、組換え遺伝子の増幅産物の増幅長が40bp以上1000bp以下であってもよい。
【0024】
上記の方法において、PCRが定量PCRであってもよい。
【0025】
上記の方法において、PCRがリアルタイムPCRであってもよい。
【0026】
上記の方法において、PCRがマルチプレックスPCRであってもよい。
【0027】
上記の方法において、生物種が植物であってもよい。
【0028】
また、本発明の態様によれば、遺伝子組換え体の検出キットであって、遺伝子組換え体に由来する組換え遺伝子を特異的に増幅するPCRプライマーと、遺伝子組換え体に対応する生物種が共通に有する内在性遺伝子を特異的に増幅し、かつ内在性遺伝子の増幅産物の増幅長が組換え遺伝子の増幅産物の増幅長に対して123%以上となるよう構成されたPCRプライマーと、を備える、キットが提供される。
【0029】
上記のキットが、試料中の遺伝子組換え体の検出キットであってもよい。
【0030】
上記のキットにおいて、試料中の核酸配列の少なくとも一部が分解されていてもよい。
【0031】
上記のキットにおいて、試料が加工されていてもよい。
【0032】
上記のキットにおいて、内在性遺伝子の増幅産物の増幅長が組換え遺伝子の増幅産物の増幅長に対して125%以上であってもよい。
【0033】
上記のキットにおいて、組換え遺伝子の増幅産物の増幅長が40bp以上1000bp以下であってもよい。
【0034】
上記のキットにおいて、PCRが定量PCRであってもよい。
【0035】
上記のキットにおいて、PCRがリアルタイムPCRであってもよい。
【0036】
上記のキットにおいて、PCRがマルチプレックスPCRであってもよい。
【0037】
上記のキットにおいて、生物種が植物であってもよい。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、試料における遺伝子組換え体が基準値以下であることを証明する、遺伝子組換え体の検出方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】実施形態に係る試料中の核酸配列の分子数と増幅産物のコピー数との関係を模式的に示す図である。
図2】実施形態に係るΔCqと遺伝子組換え体の存在比の関係を模式的に示す図である。
図3】実施形態に係るΔCqと遺伝子組換え体の存在比の関係を模式的に示す図である。
図4】実施形態に係る未加工品のΔCqと加工品のΔCqの関係を模式的に示す図である。
図5】実施形態に係る未加工品のΔCqと加工品のΔCqの関係を模式的に示す図である。
図6】実施形態に係る未加工品のΔCqと加工品のΔCqの関係を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に本発明の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態が本発明を限定するものであると理解するべきではない。本開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかになるはずである。本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を包含するということを理解すべきである。
【0041】
実施形態に係る遺伝子組換え体の検出方法は、少なくとも1種の遺伝子組換え体を含む可能性のある試料に含まれる核酸配列の少なくとも一部を、遺伝子組換え体に由来する組換え遺伝子を特異的に増幅するプライマーと、遺伝子組換え体に対応する生物種が共通に有する内在性遺伝子を特異的に増幅し、かつ内在性遺伝子の増幅産物の増幅長が組換え遺伝子の増幅産物の増幅長に対して123%以上となるよう構成されたプライマーと、を使用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅することと、PCRの結果に基づいて、試料中の遺伝子組換え体の存在比が基準値より低いことを証明することと、を含む。
【0042】
試料は、例えば植物原料を含む。植物の例としては、ダイズ、コムギ、オオムギ、及びトウモロコシ等が挙げられる。試料は、遺伝子組換え体からなる原料と、当該遺伝子組換え体と同じ種である非遺伝子組換え体からなる原料と、を含み得る。内在性遺伝子(内在性DNA配列)とは、種が同じであれば、遺伝子組換え体、非遺伝子組換え体を問わずに普遍的に存在する遺伝子(DNA配列)である。遺伝子組換え体と、当該遺伝子組換え体と同じ種である非遺伝子組換え体は、共に同じ内在性遺伝子を有する。例えば、遺伝子組換えダイズと、非遺伝子組換えダイズは、共に同じ内在性遺伝子を有する。遺伝子組換え体が有する組換え遺伝子(組換えDNA配列)を、非遺伝子組換え体は有しない。
【0043】
試料は加工されていてもよく、試料に含まれるDNA等の核酸配列の少なくとも一部が分解により断片化されていてもよい。分解とは、加熱による分解、酵素による分解、酸による分解、アルカリによる分解、物理的な力による分解、及び菌等の微生物による発酵等による分解等を含む。試料に含まれる核酸配列は、PCRを実施する前に、試料から抽出される。
【0044】
プライマーはPCRプライマーである。PCRは、リアルタイムPCR等の定量PCRであってもよいし、マルチプレックスPCRであってもよい。PCRの結果から試料中の遺伝子組換え体の存在比が基準値より低いか否かを判定することが可能であれば、PCRの種類は限定されない。本開示において、増幅長とは、PCRによる増幅産物の配列長を指す。組換え遺伝子を特異的に増幅するプライマーの設計部位としては、例えば、非遺伝子組換え体のゲノムが有しない導入遺伝子、導入遺伝子を挟むプロモーター及びターミネーター、これら配列の境界領域、非遺伝子組換え体ゲノムとこれら配列との境界領域が挙げられる。プロモーターは導入遺伝子を発現させるために必要な領域のことであり、ターミネーターは導入遺伝子の発現を終了させるために必要な領域である。
【0045】
内在性遺伝子の増幅産物の増幅長は、組換え遺伝子の増幅産物の増幅長に対して、123%以上、125%以上、127%以上、129%以上、131%以上、133%以上、あるいは134%以上である。また、内在性遺伝子の増幅産物の増幅長は、組換え遺伝子の増幅産物の増幅長に対して、2500%以下、1000%以下、あるいは500%以下である。
【0046】
組換え遺伝子の増幅産物の増幅長は、例えば、40bp以上、50bp以上、60bp以上、70bp以上、80bp以上、90bp以上、あるいは100bp以上である。また、組換え遺伝子の増幅産物の増幅長は、例えば、1000bp以下、400bp以下、200bp以下、190bp以下、180bp以下、170bp以下、160bp以下、あるいは150bp以下である。
【0047】
PCRがリアルタイムPCR等の定量PCRである場合、PCRの結果に基づいて決定される試料中に存在する組換え遺伝子の量と、PCRの結果に基づいて決定される試料中に存在する内在性遺伝子の量と、に基づいて、試料中の遺伝子組換え体の存在比を決定する。
【0048】
例えば、試料中の遺伝子組換え体の存在比は、下記(4)式に基づいて算出される。
C=(NG/NE)×(1/R)×100 (4)
(4)式において、Cは試料中の遺伝子組換え体の存在比(%)、NGは定量PCRで決定される試料中の組換え遺伝子の量、NEは定量PCRで決定される試料中の内在性遺伝子の量、Rは内標比を表す。
【0049】
内標比とは、純度100%の遺伝子組換え体中の内在性遺伝子の量に対する純度100%の遺伝子組換え体中の組換え遺伝子の量の比であり、下記(5)式で与えられる。
R=NG100/NE100 (5)
(5)式において、Rは内標比、NG100は100%の遺伝子組換え体中の組換え遺伝子の量、NE100は100%の遺伝子組換え体中の内在性遺伝子の量を表す。
また、内標比は、遺伝子組換え体の存在比が明らかな認証標準物質などを用いることでも定めることができる。この場合、内標比Rは下記(6)式で与えられる。
R=NGx/NEx×100/x(6)
(6)式において、Rは内標比、NGxは遺伝子組換え体x%の認証標準物質中の組換え遺伝子の量、NExは遺伝子組換え体x%の認証標準物質中の内在性遺伝子の量を表す。
【0050】
内標比は、組換え体系統のそれぞれにおいて固有であり、一定の値を示すと考えられている。したがって、内標比としては、予め取得された値や、公開されている値を用いてもよい。ただし、内標比は、定量PCRを実施する機種の違いによって変化する場合があるので、試料を分析する定量PCR装置と同じ定量PCR装置で決定された内標比の値を用いることが好ましい。
【0051】
ここで、図1(a)に示すように、試料が未加工であり、試料中の核酸配列が分解されていない場合は、鋳型核酸配列のコピー数は、増幅産物の増幅長にかかわらず、試料中の鋳型核酸配列の分子数に理論的には対応する。これに対し、図1(b)に示すように、試料が加工されており、試料中の核酸配列が分解されている場合は、鋳型核酸配列のコピー数は少なくなる傾向にある。さらに、増幅産物の増幅長が長いほど、鋳型核酸配列のコピー数はより減少する傾向にある。
【0052】
本実施形態においては、内在性遺伝子の増幅産物の増幅長が、組換え遺伝子の増幅産物の増幅長に対して123%以上と長くなるよう設定される。そのため、試料を加工し試料中の核酸配列が分解したことによる内在性遺伝子の鋳型核酸配列のコピー数の減少の程度は、試料を加工し試料中の核酸配列が分解したことによる組換え遺伝子の鋳型核酸配列のコピー数の減少の程度よりも大きくなる。
【0053】
試料中の遺伝子の量は、PCRによる鋳型核酸配列のコピー数に基づいて決定される。したがって、加工される前の試料中の内在性遺伝子の実際の量に対する、定量PCRにより決定される加工され分解した試料中の内在性遺伝子の量の減少度は、加工される前の試料中の組換え遺伝子の実際の量に対する、定量PCRにより決定される加工され分解した試料中の組換え遺伝子の量の減少度よりも大きくなる。
【0054】
そのため、上記(4)式におけるNGの減少度より、NEの減少度の方が大きいことから、本実施形態に係る方法によって決定される試料中の遺伝子組換え体の存在比は、加工される前の試料中の遺伝子組換え体の実際の存在比よりも高くなる。したがって、本実施形態に係る方法によって決定される試料中の遺伝子組換え体の存在比が基準値よりも低い場合は、試料に含まれる核酸配列の分解の程度にかかわらず、加工される前の試料中の遺伝子組換え体の存在比も基準値より必ず低いと判断することが可能である。よって、本実施形態に係る方法によって決定される試料中の遺伝子組換え体の存在比が基準値よりも低い場合は、加工される前の試料中に基準値よりも必ず低い存在比で遺伝子組換え体が存在していたと判断することが可能である。
【0055】
なお、基準値は、政府機関、自治体機関、食品メーカー、流通業者、及び消費者団体等が任意に設定した値であってもよい。日本においては、分別生産流通管理を実施しても意図せずに混入してくる遺伝子組換え食品の混入許容値は、ダイズ及びトウモロコシについては5%となっているが、基準値はこれに限定されない。
【0056】
上述したように、PCRはマルチプレックスPCRであってもよい。マルチプレックスPCRにおいては、複数セットのプライマー対とプローブをPCR液に添加することにより、内在性遺伝子と組換え遺伝子を同時に検出することが可能である。つまり、マルチプレックスPCRを用いて、試料中の組換え遺伝子の増幅産物が閾値に達した時のサイクル数(CqGA)と、試料中の内在性遺伝子の増幅産物が閾値に達した時のサイクル数(CqEA)と、に基づいて、試料中の遺伝子組換え体の存在比が基準値より低いか判定することができる。CqGA及びCqEAは、例えば、増幅産物の量を反映するプローブの蛍光強度が閾値に達した時のサイクル数として検出される。
【0057】
下記(7)式で与えられるCqGAとCqEAの差ΔCqAは、試料中の遺伝子組換え体の存在比の対数値と負の相関があることが知られている。
ΔCqA=CqGA-CqEA (7)
したがって、図2に例示するように、試料中の遺伝子組換え体の存在比が高いほどΔCqAは小さくなり、試料中の遺伝子組換え体の存在比が低いほどΔCqAは大きくなる。
【0058】
ここで、図3及び下記(8)式に示すように、検査対象の試料のΔCqAが、基準値と同じ存在比で遺伝子組換え体を含む標準試料のΔCqSよりも大きい場合、検査対象の試料中の遺伝子組換え体の存在比は、基準値以下と判定することが可能である。
ΔΔCq=ΔCqA-ΔCqS≧0 (8)
また、下記(9)式に示すように、検査対象の試料のΔCqAが、基準値と同じ存在比で遺伝子組換え体を含む標準試料のΔCqSよりも小さい場合、検査対象の試料中の遺伝子組換え体の存在比は、基準値より高いと判定することが可能である。
ΔΔCq=ΔCqA-ΔCqS<0 (9)
【0059】
本発明者らの知見によれば、試料を加工することにより試料に含まれる核酸配列が分解されると、図4に例示するように、CqGAとCqEAは大きくなる傾向にある。また、増幅長が長いほうがCqGAとCqEAが大きくなる程度が大きく、増幅長が短いほうがCqGAとCqEAが大きくなる程度が小さくなる。本実施形態では、内在性遺伝子の増幅産物の増幅長が、組換え遺伝子の増幅産物の増幅長に対して123%以上と長くなるよう設定する。図5に例示するように内在性遺伝子の増幅産物の増幅長が、組換え遺伝子の増幅産物の増幅長に対して短い場合と比較して、図6に例示するように内在性遺伝子の増幅産物の増幅長が、組換え遺伝子の増幅産物の増幅長に対して長いと、増幅長が短い組換え遺伝子のCqGAの方が大きくなる程度が小さく、増幅長が長い内在性遺伝子のCqEAの方が大きくなる程度が大きくなる。そのため、加工品のΔCqAは、未加工品のΔCqAより小さくなる。
【0060】
未加工品に対し、分解された試料のCqGAが大きくなる程度と、分解された試料のCqEAが大きくなる程度と、が等しければ、ΔCqAは変化しない。これに対し、本実施形態に係る方法では、分解された試料のCqGAが大きくなる程度より、分解された試料のCqEAが大きくなる程度が大きいため、未加工品に対し、加工され核酸配列が分解された試料のΔCqAは小さくなる。そのため、未加工品のΔCqAよりも小さいにもかかわらず、加工され核酸配列が分解された試料のΔCqAが標準試料のΔCqSより大きく、(8)式に示すように、検査対象の試料中の遺伝子組換え体の存在比が基準値以下と判定した場合、試料に含まれる核酸配列の分解の程度にかかわらず、加工される前の試料中の遺伝子組換え体の存在比も基準値より必ず低いと判断することが可能である。
【0061】
(実施例)
以下に本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されないことはもちろんである。
【0062】
(実施例1)
定量PCRの一つであるリアルタイムPCRを用いて、モデル加工品の遺伝子組換え体の存在比(GM含量)を測定した。
【0063】
(試料)
遺伝子組換えトウモロコシ系統標準物質(10%MON810認証標準物質、カタログナンバー:ERMBF413GK-1G、シグマアルドリッチ)を用意した。この遺伝子組換えトウモロコシ系統標準物質を130℃にて0分間、30分間、60分間、及び120分間のそれぞれで乾熱滅菌処理を行い、モデル加工品を作製した。DNeasy Plant Maxi Kit(キアゲン)を用いて、作製したモデル加工品から、PCRの鋳型となるDNAを抽出した。
【0064】
(リアルタイムPCR)
リアルタイムPCR反応液は、プライマー終濃度0.5μmol/L、プローブ終濃度0.2μmol/Lとなるように調製した。鋳型DNAは反応液あたり25ngとなるように調製した。TaqMan Universal PCR Master Mix(Thermo Fisher Scientific)を12.5μL用い、反応系の液量が25μLとなるよう蒸留水で液量を調製した。
【0065】
トウモロコシ内在性遺伝子として、SSIIb遺伝子配列を増幅対象とした。SSIIb遺伝子配列を増幅するプライマー対として、表1に示すように、配列番号1、2に記載のプライマー対「SSIIb-3」(114bp)、配列番号3、4に記載のプライマー対「SSIIb-3long1」(120bp)、配列番号5、6に記載のプライマー対「SSIIb-3long2」(130bp)、配列番号7、8に記載のプライマー対「SSIIb-3long3」(139bp)、及び配列番号9、10に記載のプライマー対「SSIIb-3long4」(151bp)を用意した。また、SSIIb遺伝子配列を増幅するプライマー対の間を認識する、下記の配列を有するプローブを用意した。下記の配列は配列番号11に対応する。
5'-FAM-AGCAAAGTCAGAGCGCTGCAATGCA-TAMRA-3'
【0066】
組換え遺伝子として、P35S遺伝子配列及びMON810遺伝子配列を増幅対象とした。P35S遺伝子配列を増幅するプライマー対として、表2に示すように、配列番号12、13に記載のプライマー対「P35S-1」(101bp)を用意し、MON810遺伝子配列を増幅するプライマー対として配列番号14、15に記載のプライマー対「MON810-2」(113p)を用意した。
【0067】
また、P35S遺伝子配列を増幅するプライマー対の間を認識する、下記の配列を有するプローブを用意した。下記の配列は配列番号16に対応する。
5'-FAM-CCCACTATCCTTCGCAAGACCCTTCCT-TAMRA-3’
【0068】
また、MON810遺伝子配列を増幅するプライマー対の間を認識する、下記の配列を有するプローブを用意した。下記の配列は配列番号17に対応する。
5'-FAM-AGATACCAAGCGGCCATGGACAACAA-TAMRA-3’
【0069】
【表1】
【表2】
【0070】
モデル加工品のGM含量を測定するためにプライマー対セットを用意した。具体的には、表3に示すように、「P35S-1/SSIIb-3」セット、「P35S-1/SSIIb-3long1」セット、「P35S-1/SSIIb-3long2」セット、「P35S-1/SSIIb-3long3」セット、及び「P35S-1/SSIIb-3long4」セットを用意した。また、表4に示すように、「MON810-2/SSIIb-3」セット、「MON810-2/SSIIb-3long1」セット、「MON810-2/SSIIb-3long2」セット、「MON810-2/SSIIb-3long3」セット、及び「MON810-2/SSIIblong4」セットを用意した。
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
以降の分析は、食品表示基準別添「安全性審査済みの遺伝子組換え食品の検査方法」(消費者庁2021年9月15日改正)に従って行い、各モデル加工品における内在性遺伝子SSIIbのコピー数、組換え遺伝子P35Sのコピー数、及び組換え遺伝子MON810のコピー数を算出した。
【0074】
(結果)
モデル加工品のコピー数は、表5及び表6に示すとおりであった。
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
サンプルのGM含量(%)は、下記(10)式を用いて算出した。
C=(NG/NE)×(1/R)×100 (10)
(10)式において、CはGM含量(%)、NGはモデル加工品から抽出したDNA中の組換え遺伝子のコピー数、NEはモデル加工品から抽出したDNA中の内在性遺伝子のコピー数、Rは内標比を表す。
【0078】
P35Sの内標比としては、10%MON810認証標準物質において「P35S-1」で増幅されたコピー数を「SSIIb-3」で増幅されたコピー数で除した値に10を乗じた0.41を使用した。MON810の内標比としては、「MON810-2」で増幅されたコピー数を「SSIIb-3」で増幅されたコピー数で除した値に10を乗じた0.45を使用した。
【0079】
上記(10)式を用いて算出された、各モデル加工品のGM含量(%)を表7及び表8に示す。
【0080】
【表7】
【0081】
【表8】
P35S/SSIIbプライマーセットを用いた場合、比較例1(SSIIb/P35S増幅長比1.13)と比較例2(SSIIb/P35S増幅長比1.19)のモデル加工品のGM含量は、未処理(0分)の場合より、乾熱処理をした場合に低くなることがあった。一方、検証例1(SSIIb/P35S増幅長比1.29)、検証例2(SSIIb/P35S増幅長比1.38)、及び検証例3(SSIIb/P35S増幅長比1.50)のモデル加工品のGM含量は、未処理(0分)の場合と比較して、乾熱処理をした場合は常に高くなり、かつ乾熱処理時間に応じて段階的に高くなった。
【0082】
MON810/SSIIbプライマーセットを用いた場合、比較例3(SSIIb/MON810増幅長比1.01)、比較例4(SSIIb/MON810増幅長比1.06)、及び比較例5(SSIIb/MON810増幅長比1.15)のモデル加工品のGM含量は、未処理(0分)の場合より、乾熱処理をした場合に低くなることがあった。一方、検証例4(SSIIb/MON810増幅長比1.23)及び検証例5(SSIIb/MON810増幅長比1.34)のモデル加工品のGM含量は、未処理(0分)の場合と比較して、乾熱処理をした場合は常に高くなり、かつ乾熱処理時間に応じて段階的に高くなった。
【0083】
これらの結果から、遺伝子組換え体DNA配列(本実施例ではP35S又はMON810)の増幅産物の増幅長に対し、内在性遺伝子配列(本実施例ではSSIIb)の増幅産物の増幅長が所定の割合より長くなるように設定されたプライマー対セットを用いてGM含量を測定すると、加工された試料のGM含量は加工される前の試料のGM含量と比較して常に高く、かつ加工度合いが高くなるにつれて段階的に高くなることが示された。
【0084】
したがって、加工により必ずGM含量が過大評価される方法を用いて測定された加工された試料のGM含量が基準値(例えば5%)より低ければ、加工前の試料ないしは加工された試料の原材料のGM含量は、必ず基準値(例えば5%)より低いと判定できることが示された。
【0085】
(実施例2)
マルチプレックスPCRを用いて、モデル加工品のGM含量を測定した。
【0086】
(試料)
実施例1と同じモデル加工品を作製し、PCRの鋳型となるDNAを抽出した。
【0087】
(マルチプレックスPCR)
モデル加工品のGM含量を測定するために実施例1と同じプライマー対セットを用意した。分析は、食品表示基準別添「安全性審査済みの遺伝子組換え食品の検査方法」(消費者庁2021年9月15日改正)に従って行った。蛍光強度の閾値を0.2、Base LineをStartでは3にEndでは15に設定し、各モデル加工品における内在性遺伝子SSIIbのCq値、及び組換え遺伝子P35S及び組換え遺伝子MON810のCq値を算出した。
【0088】
(結果)
モデル加工品の各Cq値は、表9に示すとおりであった。
【0089】
【表9】
【0090】
モデル加工品のΔCq値(=Cq(P35S)-Cq(SSIIb)又はCq(MON810)-Cq(SSIIb))は、表10及び表11に示すとおりであった。
【0091】
【表10】
【0092】
【表11】
【0093】
P35S/SSIIbプライマーセットを用いた場合、比較例6(SSIIb/P35S増幅長比1.13)及び比較例7(SSIIb/P35S増幅長比1.19)のモデル加工品のΔCq値は、未処理(0分)のΔCq値と比較して常に小さくならず、かつ乾熱処理時間に応じた減少も見られなかった。一方、検証例6(SSIIb/P35S増幅長比1.29)、検証例7(SSIIb/P35S増幅長比1.38)、及び検証例8(SSIIb/P35S増幅長比1.50)のモデル加工品のΔCq値は、未処理(0分)のΔCq値と比較して乾熱処理により常に小さくなり、かつ乾熱処理時間に応じて段階的に減少した。
【0094】
MON810/SSIIbプライマーセットを用いた場合、比較例8(SSIIb/MON810増幅長比1.01)、比較例9(SSIIb/MON810増幅長比1.06)、及び比較例10(SSIIb/MON810増幅長比1.15)のモデル加工品のΔCq値は、未処理(0分)のΔCq値と比較して常に小さくならず、かつ乾熱処理時間に応じた減少も見られなかった。一方、検証例9(SSIIb/MON810増幅長比1.23)、及び検証例10(SSIIb/MON810増幅長比1.34)のモデル加工品のΔCq値は、未処理(0分)のΔCq値と比較して乾熱処理により常に小さくなり、かつ乾熱処理に応じて段階的に減少した。
【0095】
これらの結果から、遺伝子組換え体DNA配列(本実施例ではP35S又はMON810)の増幅産物の増幅長に対し、内在性遺伝子配列(本実施例ではSSIIb)の増幅産物の増幅長が所定の割合より長くなるよう設定したプライマー対セットを用いると、加工された試料のΔCq値は、加工される前の試料のΔCq値と比較して常に小さくなり、かつ加工度合いが高くなるにつれて段階的に減少することが示された。
【0096】
したがって、加工によりΔCq値が必ず小さくなる方法を用いて測定された加工された試料のΔCqA値が標準試料(例えばGM含量5%)のΔCqS値より大きければ、加工前の試料ないしは加工された試料の原材料のGM含量は、必ず基準値(例えば5%)より低いと判定できることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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