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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156098
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】FAU型ゼオライトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/24 20060101AFI20231017BHJP
【FI】
C01B39/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065760
(22)【出願日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【弁理士】
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 真人
(72)【発明者】
【氏名】石川 智也
(72)【発明者】
【氏名】楢木 祐介
(72)【発明者】
【氏名】大久保 達也
(72)【発明者】
【氏名】脇原 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 庸治
(72)【発明者】
【氏名】佐田 侑樹
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA04
4G073BA63
4G073BA69
4G073BB50
4G073BD21
4G073CZ05
4G073FA30
4G073FB11
4G073FB24
4G073FB36
4G073FC03
4G073FC04
4G073FC19
4G073FC25
4G073FC27
4G073FD01
4G073FD12
4G073FD23
4G073FF06
4G073GA01
4G073GA03
4G073GA12
4G073GA14
4G073GB02
(57)【要約】
【課題】
FAU型ゼオライトの超安定化処理を必須とせず、なおかつ、比較的安価な出発物質から工業的に適用し得る時間でハイシリカ組成を有するFAU型ゼオライトを結晶化する製造方法を提供する。
【解決手段】
シリカ源、アルミナ源、ナトリウムを含む一種以上のアルカリ源、テトラアルキルアンモニウムカチオン及び水を含み、かつ、種結晶として偶数員環のみで構成されるゼオライトを含む組成物を熟成処理して結晶化前駆体を得る工程、及び、該結晶化前駆体を結晶化する工程、を有するFAU型ゼオライトの製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ源、アルミナ源、ナトリウムを含む一種以上のアルカリ源、テトラアルキルアンモニウムカチオン及び水を含み、かつ、種結晶として偶数員環のみで構成されるゼオライトを含む組成物を熟成処理して結晶化前駆体を得る工程、及び、該結晶化前駆体を結晶化する工程、を有するFAU型ゼオライトの製造方法。
【請求項2】
前記種結晶がFAU型ゼオライト、EMT型ゼオライト、CHA型ゼオライト、AEI型ゼオライト、LEV型ゼオライト、AFX型ゼオライト、ERI型ゼオライト、OFF型ゼオライト、LTL型ゼオライト、GME型ゼオライト及びKFI型ゼオライトの群から選ばれる1種以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記テトラアルキルアンモニウムが、テトラプロピルアンモニウム、エチルトリプロピルアンモニウム、ジエチルジプロピルアンモニウム、トリエチルプロピルアンモニウム及びテトラエチルアンモニウムの群から選ばれる1種以上である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熟成処理の時間が30時間以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記結晶化を160℃以上で行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハイシリカ組成を有するFAU型ゼオライトの簡便な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイシリカ組成を有するFAU型ゼオライトは、FAU型ゼオライトの骨格からアルミニウムを除去する処理、いわゆる超安定化処理、により製造されていた。超安定化処理はFAU型ゼオライトを出発物質とするためコストが高く、得られるハイシリカ組成を有するFAU型ゼオライトは非常に高価であった。
【0003】
これに対し、超安定化処理以外のハイシリカ組成を有するFAU型ゼオライトの製造方法として、ハイシリカ組成を有するFAU型ゼオライトを直接結晶化する方法が検討されている。このような方法として、例えば、過酸化水素を使用したラジカル反応による製造方法(非特許文献1)や、複数種の有機構造指向剤を含む原料を出発物質として使用した製造方法(非特許文献2)が知られている。これらの製造方法は、超安定化処理を不要とする一方、過酸化水素の使用に伴う特殊な製造設備や、有機構造指向剤の使用量の増加によるコスト増加を伴うため、製造方法としては高コストになっていた。
【0004】
このような高コストな製造方法に対し、比較的安価な出発物質からハイシリカ組成を有するFAU型ゼオライト製造する方法が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/211281号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Adv.Mater.,32(2020)2000272
【非特許文献2】Angew.Chem.Int.Ed.,60(2021)24189
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の製造方法は、FAU型ゼオライトの結晶化に非常に時間を要する。更に、結晶化の時間の短縮には、出発物質として高価な水酸化セシウム(CsOH)の使用が必要であった。
【0008】
本開示では、FAU型ゼオライトの超安定化処理を必須とせず、なおかつ、比較的安価な出発物質から工業的に適用し得る時間でハイシリカ組成を有するFAU型ゼオライトを結晶化する製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示では、ゼオライトを出発物質として必須としないハイシリカ組成を有するFAU型ゼオライトの結晶化について検討した。その結果、特定の有機構造指向剤を使用し、かつ、結晶化前に一定の処理を施すことで、高価な出発原料を使用しなくても、ハイシリカ組成を有するFAU型ゼオライトが結晶化しやすくなることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は特許請求の範囲の通りであり、また、本開示の要旨は以下の通りである。
[1] シリカ源、アルミナ源、ナトリウムを含む一種以上のアルカリ源、テトラアルキルアンモニウムカチオン及び水を含み、かつ、種結晶として偶数員環のみで構成されるゼオライトを含む組成物を熟成処理して結晶化前駆体を得る工程、及び、該結晶化前駆体を結晶化する工程、を有するFAU型ゼオライトの製造方法。
[2] 前記種結晶がFAU型ゼオライト、EMT型ゼオライト、CHA型ゼオライト、AEI型ゼオライト、LEV型ゼオライト、AFX型ゼオライト、ERI型ゼオライト、OFF型ゼオライト、LTL型ゼオライト、GME型ゼオライト及びKFI型ゼオライトの群から選ばれる1種以上である上記[1]に記載の製造方法。
[3] 前記テトラアルキルアンモニウムが、テトラプロピルアンモニウム、エチルトリプロピルアンモニウム、ジエチルジプロピルアンモニウム、トリエチルプロピルアンモニウム及びテトラエチルアンモニウムの群から選ばれる1種以上である上記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 前記熟成処理の時間が30時間以下である、上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載の製造方法。
[5] 前記結晶化を160℃以上で行う、上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示により、FAU型ゼオライトの超安定化処理を必須とせず、なおかつ、比較的安価な出発物質から工業的に適用し得る時間でハイシリカ組成を有するFAU型ゼオライトを結晶化する製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1のXRDパターン
図2】実施例1のSEM観察図(図中スケールは1μm)
図3】実施例1の27Al-MAS-NMRスペクトル
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示について、その実施態様の一例を示して説明する。なお、本実施形態における用語は以下の通りである。
【0014】
「アルミノシリケート」は、アルミニウム(Al)とケイ素(Si)とが酸素(O)を介したネットワークの繰返しからなる構造を有する複合酸化物である。アルミノシリケートのうち、その粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンにおいて、結晶性のXRDピークを有するものが「結晶性アルミノシリケート」であり、結晶性のXRDピークを有さないものが「非晶質アルミノシリケート」である。
【0015】
本実施形態におけるXRDパターンはCuKα線を線源として測定され、測定条件として、以下の条件が挙げられる。
線源 : CuKα線(λ=1.5406Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン速度 : 毎分20.0°
測定範囲 : 2θ=3.0°~50.0°
【0016】
結晶性のXRDピークは、一般的な解析ソフト(例えば、IGOR Pro 8、WaveMetrics社製や、SmartLab StudioII、リガク社製)を使用したXRDパターンの解析においてピークトップの2θが特定され検出されるピークである。特に限定されるものではないが、XRDピークの半値幅(半値全幅)としては、2θ=0.50°以下を例示できる。
【0017】
「ゼオライト」とは、骨格原子(以下、「T原子」ともいう。)が酸素(O)を介した規則的構造を有する化合物であり、T原子が金属原子からなる化合物である。ゼオライトには、T原子として、2種類以上の金属原子が含有されていてもよい。なお、金属原子とは、金属元素からなる原子と半金属元素からなる原子の両方を含む。
【0018】
「ゼオライト類似物質」とは、T原子が酸素を介した規則的構造を有する化合物であり、T原子として少なくとも金属以外の原子(以下、「非金属原子」ともいう。)を含む化合物である。一例としては、ゼオライト類似物質は、T原子として、金属原子及び非金属原子が含有される。具体的なゼオライト類似物質として、アルミノフォスフェート(AlPO)やシリコアルミノフォスフェート(SAPO)など、T原子としてリン(P)を含む複合リン化合物が例示できる。
【0019】
ゼオライトやゼオライト類似物質における「規則的構造(以下、「ゼオライト構造」ともいう。)」とは、国際ゼオライト学会(International ZeoliteAssociation)のStructure Commissionが定めている構造コード(以下、単に「構造コード」ともいう。)で特定される骨格構造である。例えば、FAU構造は構造コード「FAU」として、特定される骨格構造である。Collection of simulated XRD powder patterns for zeolites,Fifth revised edition,(2007)に記載された各構造のXRDパターン(以下、「参照パターン」ともいう。)との対比によって、ゼオライト構造は同定できる。ゼオライト構造に関し、骨格構造、結晶構造又は結晶相はそれぞれ同義で使用される。
【0020】
本実施形態において、「FAU型ゼオライト」など、「~型ゼオライト」は、当該構造コードのゼオライト構造を有するゼオライトを意味し、好ましくは当該構造コードのゼオライト構造を有する結晶性アルミノシリケートを意味する。
【0021】
以下、本開示の製造方法について、実施形態の一例を示して説明する。
【0022】
本実施形態のFAU型ゼオライトの製造方法は、シリカ源、アルミナ源、ナトリウムを含む一種以上のアルカリ源、テトラアルキルアンモニウムカチオン及び水を含み、なおかつ、種結晶として偶数員環のみで構成されるゼオライトを含む組成物(以下、「原料組成物」ともいう。)を熟成処理して結晶化前駆体を得る工程(以下、「熟成工程」ともいう。)、及び、該結晶化前駆体を結晶化する工程(以下、「結晶化工程」ともいう。)、を有するFAU型ゼオライトの製造方法、である。
【0023】
アルミナ源は、結晶性アルミノシリケート以外のアルミニウム(Al)を含む化合物であり、アルミニウムイソプロポキシド、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、擬ベーマイト、アルミナゾル及びアルミノシリケートゲルの群から選ばれる1以上が例示でき、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、擬ベーマイト、アルミナゾル及びアルミノシリケートゲルの群から選ばれる1以上であることが好ましい。
【0024】
シリカ源は、結晶性アルミノシリケート以外のケイ素(Si)を含む化合物であり、シリカゾル、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、沈降法シリカ、ケイ酸ナトリウム、無定形ケイ酸及びアルミノシリケートゲルの群から選ばれる1以上が例示できる。
【0025】
テトラアルキルアンモニウムカチオンは有機構造指向剤(以下、「SDA」ともいう。)として含まれる。原料組成物がSDAとしてテトラアルキルアンモニウムカチオン(以下、「TAA」ともいう。)を含むことで、高価なSDAを必須とすることなく、また、2種以上のSDAを使用しなくても、非晶質原料からハイシリカ組成を有するFAU型ゼオライトを結晶化することができる。
【0026】
テトラアルキルアンモニウムカチオン(以下、「TAA」ともいう。)は、テトラプロピルアンモニウムカチオン、エチルトリプロピルアンモニウムカチオン、ジエチルジプロピルアンモニウムカチオン、トリエチルプロピルアンモニウムカチオン、及び、テトラエチルアンモニウムカチオンの群から選ばれる1以上出ればよく、テトラプロピルアンモニウムカチオン及びテトラエチルアンモニウムカチオンから選ばれる1以上であることが好ましい。
【0027】
原料組成物は、TAA以外であってFAU構造を指向するSDAを含んでいてもよい。しかしながら、安価な製造方法とする観点から、原料組成物に含有されるSDAはTAAのみであることが好ましい。
【0028】
テトラアルキルアンモニウムカチオンは塩として原料組成物に含まれていてもよく、例えば、テトラアルキルアンモニウムの水酸化物、塩化物、臭化物及びヨウ化物の群から選ばれる1以上、更にはテトラアルキルアンモニウム水酸化物が挙げられる。
【0029】
アルカリ源は、アルカリ金属元素を含む化合物であり、少なくともナトリウムを含む。アルカリ源に含まれるアルカリ金属元素としては、ナトリウムの他に、カリウム、セシウム及びルビジウムの群から選ばれる1以上が例示できるが、ナトリウム以外のアルカリ金属元素を含有する場合、製造コストの観点から、ナトリウム以外のアルカリ金属元素はカリウムであることが好ましい。アルカリ源は、アルカリ金属元素を含む水酸化物、炭酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物及び硫酸塩の群から選ばれる1以上、更にはアルカリ金属元素を含む水酸化物が挙げられる。具体的なアルカリ源として、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム及び硫酸カリウムを挙げることができ、これらの化合物の中から少なくともナトリウム化合物を含む1種以上の化合物を選択して用いることができる。アルカリ源としてナトリウム化合物以外のアルカリ化合物を含有する場合、ナトリウム化合物以外のアルカリ化合物は水酸化カリウムであることが好ましい。なお、本実施形態において、シリカ源等の他の出発物質がアルカリ金属を含む場合、これらの出発物質もアルカリ源とみなせばよい。
【0030】
原料組成物に含有される水は、蒸留水、脱イオン水や純水であればよい。また、水和物、構造水、溶媒など、他の出発物質に含まれる水も、原料組成物に含有される水とみなせばよい。
【0031】
原料組成物は、種結晶として偶数員環のみで構成されるゼオライトを含む。「偶数員環」とはゼオライト骨格においてT原子と酸素原子から構成される環構造であって、該環構造を構成する酸素原子の数が偶数であるものである。
【0032】
種結晶は、偶数員環のみで構成されるゼオライトであればよく、例えば、8員環、10員環、及び12員環からなる群から選択される1種以上の偶数員環のみで構成されるゼオライトや、8員環及び12員環からなる群から選択される1種以上の偶数員環のみで構成されるゼオライトを用いることができる。具体的な種結晶としては、FAU型ゼオライト、EMT型ゼオライト、CHA型ゼオライト、AEI型ゼオライト、LEV型ゼオライト、AFX型ゼオライト、ERI型ゼオライト、OFF型ゼオライト、LTL型ゼオライト、GME型ゼオライト及びKFI型ゼオライトの群から選ばれる1つ以上のゼオライト、更にはFAU型ゼオライト、EMT型ゼオライト、CHA型ゼオライト及びERI型ゼオライトの群から選ばれる1以上のゼオライト、また更にはFAU型ゼオライトであることが更に好ましい。
【0033】
好ましい原料組成物(種結晶は含まない)の組成として以下のモル組成を挙げることができる。以下の組成における各比率はモル(mol)比であり、SiOはシリカ(mol)、Alはアルミナ(mol)、HOは水(mol)、Mはアルカリ金属元素(mol)、OHは原料組成物中の水酸化物イオンの総量(mol)である。
SiO/Al比 =10以上又は20以上、かつ、
60以下又は50以下
TAA/SiO比 =0.05以上又は0.10以上、かつ、
0.60以下又は0.50以下
M/SiO比 =0.01以上又は0.10以上、かつ、
0.50以下又は0.30以下
O/SiO比 =5以上又は8以上、かつ
30以下又は20以下
OH/SiO比 =0.1以上又は0.2以上、かつ
1.0以下又は0.8以下
【0034】
種結晶は、原料組成物中のアルミナ源及びシリカ源に比べて十分に少ない量であればよく、原料組成物(種結晶は含まない)のSi及びAlをそれぞれSiO及びAlに換算した場合の合計質量に対して、種結晶中のSi及びAlをそれぞれSiO及びAlに換算した合計質量(以下、「種晶含有量」ともいう。)として、例えば、5質量%以下、4.5質量%以下であればよい。種晶含有量がこれを満たすことにより、種結晶がアルミナ源及びシリカ源の機能に影響せず、種結晶としての効果が得られる。原料組成物の種晶含有量は、例えば、0質量%超又は0.1質量%以上であればよい。
【0035】
原料組成物は結晶化後の排水処理を必要とする元素を実質的に含有していないことが好ましい。このような元素としては、フッ素(F)やリン(P)を挙げることができる。原料組成物は、例えば、フッ素及びリンが、それぞれ、検出限界以下(例えば、0質量ppm以上100質量ppm以下、更には0質量ppm以上10質量ppm以下)であればよい。
【0036】
熟成工程では、原料組成物を熟成処理する。これにより、結晶性アルミノシリケート以外のアルミナ源及びシリカ源、TAA、水、並びに、上述の種結晶の共存下での原料組成物の熟成処理により、FAU構造の構成単位(Building unit)の生成が促進される、結晶化前駆体が得られる。
【0037】
熟成処理の温度は、原料組成物が凍結及び沸騰しない温度であればよく、0℃以上100℃以下、更には0℃以上60℃以下、また更には室温(20±10℃)であることが好ましい。熟成処理の雰囲気は、例えば、大気圧下の大気雰囲気であればよい。
【0038】
熟成処理は、原料組成物を静置状態又は撹拌状態で行うことができる。原料組成物中の各出発物質が短時間で均一になりやすいため、熟成処理は原料組成物を撹拌状態で行うことが好ましい。
【0039】
熟成処理の時間は、熟成工程に供する原料組成物の量により適宜調整すればよいが、例えば、30時間以下、更には24時間以下であることが好ましい。また、熟成処理の時間は、例えば、6時間以上又は12時間以上であればよい。
【0040】
結晶化工程では、結晶化前駆体を結晶化する。結晶化方法は任意であるが、好ましい結晶化方法として、原料組成物を水熱処理することが挙げられる。水熱処理は、結晶化前駆体を密閉耐圧容器に入れ、これを加熱すればよい。結晶化条件は以下の条件が例示できる。
結晶化温度 :160℃以上又は180℃以上、かつ
210℃以下又は190℃以下
結晶化圧力 :自生圧
【0041】
結晶化時間は結晶化工程に供する結晶化前駆体の量や、結晶化温度に応じ適宜変更すればよく、結晶化温度が高いほど結晶化時間は短くなる傾向がある。結晶化時間として、例えば、0.5時間以上、1時間以上又は2時間以上であり、また、50時間以下又は40時間以下であることが挙げられる。工業的な製造方法としてより適用しやすくなるため、結晶化時間は24時間以下、12時間以下又は5時間以下が挙げられる。
【0042】
結晶化において、結晶化前駆体は静置状態又は攪拌状態のいずれであってもよいが、FAU型ゼオライトの組成が均一になりやすいため、結晶化前駆体を撹拌状態で結晶化することが好ましい。
【0043】
本実施形態のFAU型ゼオライトの製造方法は、結晶化工程の後、洗浄工程、乾燥工程、SDA除去工程、イオン交換工程及び熱処理工程の群から選ばれる1以上を含んでいてもよい。
【0044】
洗浄工程は、FAU型ゼオライトを洗浄する。不純物が除去できれば洗浄方法は任意であるが、FAU型ゼオライトを十分量の純水と接触させることが例示できる。
【0045】
乾燥工程は、FAU型ゼオライトから水分を除去する。吸着水等が除去されれば乾燥方法は任意であるが、FAU型ゼオライトを、大気中、70℃以上、150℃以下で2時間以上処理することが例示できる。
【0046】
SDA除去工程は、FAU型ゼオライトに残存するSDAを除去する。SDA除去方法として、大気中、400℃以上700℃以下で、1時間以上2時間以下で処理することが挙げられる。
【0047】
イオン交換工程は、FAU型ゼオライトを任意のカチオンタイプとする工程であり、FAU型ゼオライトのイオン交換サイトのカチオンが任意のカチオンと交換できる方法により、これを行えばよい。例えば、FAU型ゼオライトのカチオンタイプをアンモニウム型(以下、「NH 型」とする。)にする場合、アンモニウムイオンを含有する水溶液とFAU型ゼオライトと接触させることが挙げられる。また、NH 型としたFAU型ゼオライトを、熱処理し、カチオンタイプをプロトン型(以下、「H型」とする。)としてもよい。該熱処理の条件として、大気中、500℃、1~2時間が例示できる。
【0048】
本実施形態の製造方法により得られるFAU型ゼオライト(以下、「本FAU型ゼオライト」ともいう。)は、FAU構造を有する結晶性アルミノシリケートであり、特にハイシリカ組成を有するFAU型ゼオライトであり、更にはゼオライトUSYと同等のアルミナに対するシリカのモル比(SiO/Al比)を有するFAU型ゼオライトである。
【0049】
本実施形態において、「ハイシリカ組成」とは、従来の結晶化により得られるゼオライトYのSiO/Al比と比べ、高いSiO/Al比を有する組成であり、SiO/Al比が7.0以上、8.0以上又は9.0以上であることが挙げられる。ハイシリカ組成の上限はないが、例えば、14.0以下又は12.0以下であればよい。
【0050】
本FAU型ゼオライトの好ましいSiO/Al比として、9.0以上12.0以下、さらには9.5以上11.5以下であることが挙げられる。
【0051】
本FAU型ゼオライトは、T原子以外のアルミニウムが少ないことが好ましく、以下の条件の27Al-MAS-NMRで測定されるT原子以外のアルミニウムに相当するピーク(以下、「骨格外Alピーク」ともいう。)を有さないことが好ましい。
【0052】
27Al-MAS-NMRスペクトルは一般的なマジック角回転核磁気共鳴装置(例えば、JNM-ECZ400R、日本電子製、400MHzや、JNM-ECA 500、日本電子製、130.33MHz)を使用した以下の条件で測定できる。
測定試料の回転数 :10kHz
パルス長 :3.2マイクロ秒
緩和時間 :1.2秒
【0053】
上記の27Al-MAS-NMRにおいて、骨格外Alピークは0±3ppmに確認されるピークである。
【0054】
本FAU型ゼオライトの平均粒子径は0.1μm以上又は0.5μm以上であり、また、1.5μm以下又は1.0μm以下であることが挙げられる。平均粒子径は、SEM観察図において粒子の全形(輪郭)が観察できる50±20個の任意の粒子について、それぞれ、粒子径を求め、その平均値からもとめればよい。各粒子の粒子径はその最長径を測定すればよい。
【0055】
本FAU型ゼオライトのBET比表面積は300m/g以上600m/g以下であること、更には400m/g以上600m/g以下であることが挙げられる。
【0056】
本FAU型ゼオライトの以下の条件により測定されるミクロ孔容積は0mL/g以上1.0mL/g以下であること、更には0.1mL/g以上0.5mL/g以下であることが挙げられる。
【0057】
以上説明した本実施形態の製造方法によれば、FAU型ゼオライトの超安定化処理を必須としない、ハイシリカ組成を有するFAU型ゼオライトの製造方法を提供することができる。また、本実施形態の製造方法は、FAU型ゼオライトに超安定化処理を施す製造方法とは異なり、主な出発原料をFAU型ゼオライトとするものではないことから、製造コストを抑えることもできる。さらに、本実施形態のFAU型ゼオライトの製造方法では、有機構造指向剤としてテトラアルキルアンモニウムカチオンを使用し、かつ、結晶化前に熟成処理を施しているため、FAU型ゼオライトが結晶化しやすくなり、工業的に適用し得る時間でハイシリカ組成を有するFAU型ゼオライトを製造することができる。
【実施例0058】
以下、実施例により本開示を詳細に説明する。しかしながら、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0059】
(XRD測定)
一般的なX線回折装置(商品名:Ultima-IV、リガク社製)を使用し、生成物のXRD測定を行った。測定条件は以下のとおりである。
線源 : CuKα線(λ=1.5406Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン条件 : 毎分20.0°
計測時間 : 2.5分
測定範囲 : 2θ=3.0°~50.0°
【0060】
得られたXRDパターンを、測定装置付随の解析プログラム(商品名:IGOR Pro 8、WaveMetrics社製)を使用し、ベースラインの補正、及び、補正後の各XRDピークの検出及び強度解析を行った。補正後のXRDパターンと参照パターンを比較し、その結晶構造を同定した。
【0061】
(組成分析)
組成分析はICP発光分光分析装置(装置名:ICPE-9820、島津製作所社製)を使用して行った。試料はフッ化水素酸水溶液に溶解させ得られた溶液を分析した。得られた分析結果から、生成物のSiO/Al比などを求めた。
【0062】
(SEM観察)
一般的な走査電子顕微鏡(装置名:JSM-IT800、日本電子社製)を使用し、加速電圧5kVで生成物のSEM観察を行った。
【0063】
27Al-MAS-NMR)
一般的なマジック角回転核磁気共鳴装置(装置名:JNM-ECZ400R、日本電子製、400MHz)を使用し、ゼオライト試料を10kHzで回転させながらパルス長3.2マイクロ秒、緩和時間1.2秒でスペクトルの測定を行ない、27Al-MAS-NMRスペクトルを得、アルミニウムの状態を確認した。
【0064】
(BET比表面積及びミクロ孔容積)
BET比表面積は、JIS8830:2013(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に準じた測定方法によって測定した。当該測定では、吸着ガスとして窒素を使用し、測定温度は-196℃とした。得られた吸着等温線から、BET比表面積およびミクロ孔容積は、BET法(多点吸着法)およびt-プロット法によりそれぞれ算出した。
【0065】
実施例1(FAU型ゼオライトの製造)
ヒュームドシリカ(CAB-O-SIL M5)、水酸化アルミニウム、40質量%TPAOH(テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド)、水酸化ナトリウム及び純水を混合し、以下のモル組成を有する組成物を得た。以下のモル組成におけるTPAは、テトラプロピルアンモニウムカチオンを表す。
SiO/Al =40.0
Na/SiO =0.21
O/SiO =10.7
TPA/SiO =0.42
OH/SiO =0.63
【0066】
種結晶としてFAU型ゼオライト(HSZ-350HUA、東ソー社製)を、種晶含有量が4.1質量%となるように、得られた組成物に混合し、原料組成物を得た。その後、20℃±5℃、大気圧下、大気雰囲気、24時間、原料組成物を1500rpmの攪拌状態で熟成処理して結晶化前駆体を得た。結晶化前駆体をオートクレーブに密閉し、当該オートクレーブを40rpm回転下で、自生圧、180℃、4時間処理して結晶化物を得た。本実施例において、熟成処理及び結晶化に要した合計時間は28時間であった。
【0067】
得られた結晶化物を濾過、洗浄し、大気中80℃で一晩乾燥させ、本実施例のゼオライトを得た。本実施例のゼオライトはSiO/Al比が11.6のFAU型ゼオライト(結晶性アルミノシリケート)であり、平均粒子径が0.7μm、ミクロ細孔容積が0.31ml/g、及び、BET比表面積が587m/gであった。また、本実施例のゼオライトは、27Al-MAS-NMRで測定される骨格外Alピークを有していないことが確認された。
【0068】
本実施例のゼオライトのXRDパターン、SEM観察図及び27Al-MAS-NMRスペクトルを、それぞれ、図1乃至3に示す。
図1
図2
図3