(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156774
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】抵抗変化型デバイス
(51)【国際特許分類】
H10B 63/00 20230101AFI20231018BHJP
H10N 70/00 20230101ALI20231018BHJP
H10N 99/00 20230101ALI20231018BHJP
【FI】
H01L27/105 448
H01L45/00 Z
H01L49/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066328
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100112911
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】片山 司
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 哲也
【テーマコード(参考)】
5F083
【Fターム(参考)】
5F083FZ10
5F083GA01
5F083GA21
5F083JA36
5F083JA38
5F083JA39
5F083JA42
5F083JA43
5F083JA44
5F083JA45
5F083JA60
5F083PR22
(57)【要約】
【課題】抵抗値の切替えによる結晶構造の劣化がなく、かつ切替え速度の速い抵抗変化型デバイスを提供する。
【解決手段】
抵抗変化型デバイスが、第1面と第2面を有し、酸フッ化物からなる絶縁膜と、絶縁膜の第1面に設けられた第1電極と、絶縁膜の第2面に設けられた第2電極とを含み、第1電極と第2電極との間に印加した電圧により絶縁膜の抵抗値を切り替える。絶縁膜は、AFeO
2Fで表される酸フッ化物(Aはバリウムおよびストロンチウムからなる群から選ばれる1つまたはそれ以上の元素)、またはAFeO
2FとRFeO
3(Rは希土類元素)の固溶体からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と第2面を有し、酸フッ化物からなる絶縁膜と、
前記絶縁膜の第1面に設けられた第1電極と、
前記絶縁膜の第2面に設けられた第2電極と、を含み、
前記第1電極と前記第2電極との間に印加した電圧により前記絶縁膜の抵抗値を切り替えることを特徴とする抵抗変化型デバイス。
【請求項2】
前記絶縁膜は、AFeO2Fで表される酸フッ化物(Aはバリウムおよびストロンチウムからなる群から選ばれる1つまたはそれ以上の元素)、またはAFeO2FとRFeO3(Rは希土類元素)の固溶体からなることを特徴とする請求項1に記載の抵抗変化型デバイス。
【請求項3】
前記絶縁膜は、cis-構造の酸フッ化物からなることを特徴とする請求項1または2に記載の抵抗変化型デバイス。
【請求項4】
前記第1電極は、ニオブ置換チタン酸ストロンチウムまたはニオブ置換ルテニウム酸ストロンチウムからなることを特徴とする請求項1または2に記載の抵抗変化型デバイス。
【請求項5】
前記第2電極は、白金、アルミニウム、および金からなる群から選択される1またはそれ以上の金属からなることを特徴とする請求項1または2に記載の抵抗変化型デバイス。
【請求項6】
前記第1電極と前記第2電極は、異なる材料から形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の抵抗変化型デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抵抗変化型デバイスに関し、特に酸フッ化物材料を用いた絶縁膜に用いた抵抗変化型メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
抵抗変化型メモリ(Resistive Random Access Memory:ReRAM)は、金属酸化物や有機絶縁物からなる絶縁膜中のイオンを、電圧を印加することにより動かして電気抵抗を変化させ、抵抗値の違いによってデータを記憶する。従来は、銅、銀、酸素等のイオン種を電圧で移動させ、絶縁膜の抵抗を変化させていた(例えば非特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】T. Hasegawa et al., "Atomic Switch: Atom/Ion Movement Controlled Devices for Beyond Von-Neumann Computers" Adv. Mater. 2012, 24, 252-267
【非特許文献2】S. Lee et al., "Internal resistor of multi-functional tunnel barrier for selectivity and switching uniformity in resistive random access memory" Nanoscale Research Letters 2014, 9:364
【非特許文献3】J. Tian et al., "Nanoscale Topotactic Phase Transformation in SrFeOx Epitaxial Thin Films for High-Density Resistive Switching Memory" Adv. Mater. 2019, 1903679
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、金属酸化物や有機絶縁物からなる絶縁膜中で銅や銀などの金属イオンを移動させた場合、金属イオンの移動経路に金属フィラメント(通電経路)が形成される。この結果、銅や銀の移動により金属酸化物や有機絶縁物の構造を変化させ、繰り返し抵抗変化を行った場合、金属酸化物や有機絶縁物の劣化の原因となっていた。
【0005】
一方、金属酸化物や有機絶縁物中で酸素サイトの酸素イオンを移動させた場合、共有結合性の強い酸素イオンの拡散速度は銅や銀の金属イオンに比べて遅く、抵抗値の切替え速度が遅くなるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、抵抗を変化させた場合に、金属酸化物や有機絶縁物の結晶構造の変化に伴うような構造の劣化がなく、かつ抵抗値の切替え速度の速い抵抗変化型デバイスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで発明者らは、酸フッ化物を絶縁膜に用いることにより、絶縁膜の抵抗変化による構造劣化が防止でき、かつ抵抗値の切替え速度の速い抵抗変化型デバイスが得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明の一つの態様は、
第1面と第2面を有し、酸フッ化物からなる絶縁膜と、
絶縁膜の第1面に設けられた第1電極と、
絶縁膜の第2面に設けられた第2電極と、を含み、
第1電極と第2電極との間に印加した電圧により絶縁膜の抵抗値を切り替えることを特徴とする抵抗変化型デバイスである。
【0009】
絶縁膜は、AFeO2Fで表される酸フッ化物(Aはバリウムおよびストロンチウムからなる群から選ばれる1つまたはそれ以上の元素)、またはAFeO2FとRFeO3(Rは希土類元素)の固溶体からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、酸フッ化物を絶縁膜に用いることにより、スイッチング速度が高くかつ信頼性の高い抵抗変化型デバイスの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態にかかる抵抗変化型メモリの断面図である。
【
図2】抵抗変化型メモリの電極間に電圧を印加した場合の電流・電圧特性である。
【
図3】BaFeO
2Fを絶縁膜に用いた場合の、印加電圧のサイクルと、低抵抗状態(LRS)および高抵抗状態(HRS)の電流との関係である。
【
図4】高抵抗状態(HRS)/低抵抗状態(LRS)の切替えサイクル(切替え回数)と、それぞれの状態での電流値の関係である。
【
図5】高抵抗状態(HRS)/低抵抗状態(LRS)の抵抗変化のメカニズムを説明する抵抗変化型メモリの概略図である。
【
図6】SrTiO
3(100)基板上に成長したSrFeO
2F絶縁膜の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【
図7】(a)SrFeO
2F絶縁膜の拡大TEM写真、(b)SrTiO
3(100)基板の拡大TEM写真である。
【
図8】ペロブスカイト構造のSrFeO
2Fをc軸方向に見た場合の構造図である。
【
図9】SrFeO
2F中のFeイオンおよびSrTiO
3中のTiイオンのイオン変位および数密度である。
【
図10】SrFeO
2F結晶の全エネルギーと変位長格子定数との比との関係である。
【
図11】cis-構造のSrFeO
2FにおけるFe-Xの結合長さとFe-X-Feの間の結合角度との関係である。
【
図12】ペロブスカイト構造のSrFeO
2Fの構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)デバイス構造
図1は、全体が100で表される、本発明の実施の形態にかかる抵抗変化型メモリの断面図を示す。抵抗変化型メモリ100は、第1電極10と第2電極20との間に酸フッ化物からなる絶縁膜30が挟まれた構造を有する。
【0013】
第1電極10は、例えば白金(Pt)から形成されるが、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、金(Au)等の他の電極材料であっても良い。第1電極10の膜厚は、例えば100nmである。
【0014】
第2電極20は、例えばニオブ置換チタン酸ストロンチウム(Nb:STO)の基板から形成されるが、ニオブ置換ルテニウム酸ストロンチウム(Nb:SRO)等の基板であっても良い。基板の厚さは例えば0.5mmである。第1電極10と第2電極20は一般には異なる材料から形成される。
【0015】
絶縁膜30は、化学式:AFeO2Fで表される酸フッ化物(Aはバリウム(Ba)およびストロンチウム(Sr)からなる群から選ばれる1つまたはそれ以上の元素)や、AFeO2FとRFeO3(Rは希土類元素)の固溶体等からなる。絶縁膜30の膜厚は100nm以下で、例えば5~50nmが好ましい。
【0016】
(2)製造方法
抵抗変化型メモリ100の製造方法について説明する。製造方法は以下の工程1~4を含む。
【0017】
工程1:第2電極20となる基板、例えばニオブ置換チタン酸ストロンチウム基板を準備する。ニオブ置換チタン酸ストロンチウム(Nb:STO)基板は商業的に入手可能である。
【0018】
工程2:ニオブ置換チタン酸ストロンチウム基板20の上に、例えばパルスレーザ堆積(PLD)法を用いて、SrFeO2の単結晶薄膜を形成する。基板温度は、例えば200℃で、単結晶薄膜の膜厚は、例えば50nmである。
【0019】
工程3:大気圧中で、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素源を例えば200℃に加熱し、トポタクティック反応を用いてSrFeO2の単結晶薄膜中にフッ素元素を導入してSrFeO2Fからなる絶縁膜30を形成する。
【0020】
工程4:蒸着法を用いて、例えば白金(Pt)からなる第1電極10を、絶縁膜30の上に形成する。
【0021】
以上の工程で、抵抗変化型メモリ100が完成する。ここでは、絶縁膜30の材料にSrFeO2Fを用いる場合について説明したが、BaFeO2Fの場合も同様に作製することができる。
【0022】
(3)デバイス特性
<電流・電圧特性>
図2は、抵抗変化型メモリ100の電極10、20の間に電圧を印加した場合の電流・電圧特性(電流ループ)を示す。
図2において、横軸が印加電圧、縦軸が電極間に流れる電流である。(a)は絶縁膜の材料にSrFeO
2Fを用いた場合で、(b)は絶縁膜の材料にBaFeO
2Fを用いた場合である。
【0023】
電圧は、第1電極(Pt)10を第2電極(Nb:STO)20に対して正に印加した場合を正電圧、負に印加した場合を負電圧とする。電圧の印加は10サイクル、即ち、(a)SrFeO2Fの場合、0V→+4V→0V→-4V→0V、(b)BaFeO2Fの場合、0V→+3V→0V→-3V→0Vのサイクルを10回行う。測定温度は室温である。
【0024】
図2から、(a)絶縁膜がSrFeO
2Fの場合、(b)絶縁膜がBaFeO
2Fの場合の双方において、室温で明確なヒステリシスが観察されている。即ち、正電圧を印加すると電流が流れやすい低抵抗状態(LRS)になり、負電圧を印加すると電流が流れにくい高抵抗状態(HRS)に切り替わることがわかる。
【0025】
絶縁膜が、(a)SrFeO2Fの場合、(b)BaFeO2Fの場合の双方において、10サイクルの連続ループで再現性良く抵抗変化が起きている。特に(b)BaFeO2Fの場合(b)に抵抗変化の再現性が良好である。
【0026】
<スイッチング信頼性>
抵抗変化は、絶縁膜が(a)SrFeO2Fの場合、(b)BaFeO2Fの場合、ともに104~105倍程度の大きさの抵抗変化を示し、特に(b)BaFeO2Fの場合、最大で約106倍程度(電圧が約-0.5V)の大きさの抵抗変化を示す。
【0027】
図3は、絶縁膜が(b)BaFeO
2Fの場合の、印加電圧のサイクルと、低抵抗状態(LRS)および高抵抗状態(HRS)の電流との関係を示す。横軸が印加電圧のサイクル、縦軸が電流値である。
図3から分かるように、高抵抗状態(HRS)の電流は約10
-11A、低抵抗状態(LRS)の電流は、ややバラツキはあるものの約10
-6Aとなり、10,000回を超えるサイクルで、低抵抗状態(LRS)/高抵抗状態(HRS)のオン/オフ比は約10
4倍程度で安定している。
【0028】
金属酸化物や有機絶縁物を絶縁膜に用いた抵抗変化型メモリでは、金属イオンの移動により抵抗値が切り替わるが、金属イオンの移動経路に金属フィラメント(通電経路)が形成され劣化の原因となっていた。これに対して、抵抗変化型メモリ100では、アニオン空孔を介してFイオンが移動するため、金属フィラメントは形成による構造劣化はなく、信頼性の高い抵抗変化型メモリが得られる。
【0029】
<スイッチング速度>
図4は、高抵抗状態(HRS)/低抵抗状態(LRS)の切替えサイクル(切替え回数)と、それぞれの状態での電流値の関係を示す。横軸は切替えサイクル、縦軸は、上側が印加電圧、下側が電流値である。絶縁膜の材料は、膜厚5nmのBaFeO
2Fである。
【0030】
正と負のパルス電圧(電圧:+15Vと-15V、時間:1マイクロ秒)を交互に印加することにより、電流が高抵抗状態(HRS)と低抵抗状態(LRS)とに切り替わっている。高抵抗状態(HRS)の電流は約5×10-5A、低抵抗状態(LRS)の電流は約5×-3で安定している。
【0031】
このように、1マイクロ秒程度の短い時間の電圧印加で高抵抗状態(HRS)/低抵抗状態(LRS)の切替えが可能であり、メモリの状態の切替え速度(スイッチング速度)の速い抵抗変化型メモリが得られることがわかる。
【0032】
<抵抗変化のメカニズム>
図5は、高抵抗状態(HRS)/低抵抗状態(LRS)の抵抗変化のメカニズムを説明する抵抗変化型メモリの概略図であり、絶縁膜AFeO
2F(A=Sr、Ba)の結晶構造の変化を示す。上図は、Nb:STO基板に対してPt基板が負になるように印加した場合(HRS)、下図は、Nb:STO基板に対してPt基板が正になるように印加した場合(LRS)を示す。
【0033】
図5において、縦ハッチングの四角はFイオンが足りている状態(AFe
3+O
4F
2)、即ち高抵抗状態(HRS)を示し、横ハッチングの四角はFイオンが不足している状態(AFe
2+/3+O
4F
2-δ)、即ち低抵抗状態(LRS)を示す。
【0034】
図5に示すように、電極間に電圧を印加することにより、絶縁膜AFeO
2F(A=Sr、Ba)中をFイオンが移動する。即ち、アニオン空孔を介してFイオンが移動する。この結果、Fイオンの不足する低抵抗構造(縦ハッチング)がPt電極近傍に集まった場合(Pt電極が負)は、電極間に電流が流れにくい高抵抗状態(HRS)となり、一方、低抵抗構造(縦ハッチング)が電極間に拡がって分布した場合(Pt電極が正)は、電極間に電流が流れやすい低抵抗状態(LRS)となると考えられる。
【0035】
特に、電気陰性度が大きいFイオンはイオン移動度が大きく、高抵抗状態と低抵抗状態の切り替えが速くなり、高いスイッチング速度が実現できると考えられる。
【0036】
<オン/オフ比>
酸フッ化物材料を絶縁膜に用いた抵抗変化型メモリでは、
図3に示すように、10
4倍程度の高いオン/オフ比が得られるが、これは特に、高抵抗状態(HRS)における高い絶縁性に起因すると考えられる。
【0037】
図6は、SrTiO
3(100)基板上に成長したSrFeO
2F絶縁膜の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真であり、
図7は、(a)SrFeO
2F絶縁膜の拡大TEM写真、(b)SrTiO
3(100)基板の拡大TEM写真である。(a)SrFeO
2F絶縁膜および(b)SrTiO
3(100)基板は、ともに不純物相の無いペロブスカイト構造を示す。
【0038】
図7(b)のSrTiO
3(100)基板では、ペロブスカイト構造の、立方晶の頂点の位置にSrイオン、体心位置にTiイオンが、そして面心位置にOイオンが配置された構造となる。これに対して、(a)SrFeO
2F絶縁膜では、ペロブスカイト構造の、立方晶の頂点の位置にSrイオン、体心位置にFeイオンが配置され、面心位置にはFイオンまたはOイオンのいずれかがランダムに配置された構造となる。面心位置が、FイオンまたはOイオンとなることで、Feイオンは体心位置からずれることとなる。
【0039】
図8は、ペロブスカイト構造のSrFeO
2Fを、c軸方向に見た場合の構造であり、横方向をX軸、縦方向をY軸とする。
図8に示すように、例えばSrTiO
3では、c軸上にある体心位置(0、0)にTiイオンが位置するが、SrFeO
2Fでは、Feイオンは体心位置(0、0)から(Δx、Δy)に変位している。
【0040】
図9は、
図7、8のTEM写真から測定した、SrFeO
2F中のFeおよびSrTiO
3中のTiのイオン変位および数密度を示す。即ち、左の2つの図は、c軸上の体心位置(0、0)からの変位分布を表す2次元ヒストグラムであり、横軸(|Δx/a|)、縦軸(|Δy/c|)は変位数を表す。ここで、Δx、Δyは体心位置(0、0)即ちc軸からのずれ量、aは面内格子定数、cは面外格子定数である。一方、右の2つの図は、SrFeO
2F中のFeおよびSrTiO
3中のTiの数密度(N/Δr’)とΔr’との関係を表す図であり、縦軸が数密度(N/Δr’)、横軸がΔr’である。ここで、Nは観測点数であり、Δr’は以下の式:
で表される。
【0041】
図9の左図からわかるように、SrTiO
3では、Tiイオンは体心位置(0、0)近傍に多く分布するのに対して、SrFeO
2F中のFeイオンは体心位置(0、0)からずれて分布している。
【0042】
このことは、右図の数密度を表すヒストグラムからも明らかであり、SrTiO3中のTiイオンの分布は体心位置(0、0)近傍でピークとなるのに対して、SrFeO2F中のFeイオンの分布のピークは体心位置(0、0)からずれて、Δr’が約0.04の位置にピークが表れている。
【0043】
このように、SrFeO2Fでは、ペロブスカイト結晶構造の面心位置に、FイオンまたはOイオンのいずれかがランダムに配置され、これにより、Feイオンは体心位置(0、)即ちc軸からずれて配置されることとなる。
【0044】
図10は、密度汎関数理論(Density Functional Theory:DFT)に基づく第1原理計算により、SrFeO
2FにおけるFeイオンの変位の原因を調べるものであり、横軸は全エネルギー量、縦軸は変位長と格子定数との比Δrを示す。
図10において、「cis-」で示される一群のプロットは、ペロブスカイト構造の隣り合う面心位置にFeイオンが配置された場合(プロットの下の図において黒丸がF)であり、「trans-」で示される一群のプロットは、ペロブスカイト構造の対向する面心位置にFeイオンが配置された場合(プロットの上の図において黒丸がF)である。
【0045】
図10において、全エネルギーが低いほど結晶構造は安定であり、Feイオンは、「trans-」の配置より「cis-」の配置の方が安定していることが分かる。また、「cis-」の場合の変位長と格子定数との比Δrは約0.05~0.09となり、「cis-」の場合には、全てのSrFeO
2FにおいてFeイオンの変位が発生していると考えられる。なお、Δrが約0.05~0.09となることは、TEM測定から得られた
図9のヒストグラムのPeakが0.04になることと対応する。
【0046】
図11は、「cis-」構造のSrFeO
2FにおけるFeとX(XはF、O)との間の距離とFe-X-Feの間の結合角度との関係であり、横軸はFe-Xの結合長さ、縦軸はFe-X-Feの間の角度θを示す。
【0047】
図12のSrFeO
2Fのペロブスカイト構造に示すように、Fe-Xの結合長さは破線で表されたFe-OまたはFe-Fの間の距離であり、変位時の結合角度は、Fe-X-Feの間の角度θである。
【0048】
図11から分かるように、「cis-」構造のSrFeO
2Fにおいて、Fe-Oの結合長さは約1.8~2.0Å、Fe-Fの結合長さは約2.1~2.3Åであり、Fe-Fの結合長がFe-Oの結合長より長いことが分かる。
【0049】
また、Fe-X-Feの結合角度θは、XがO、Fの双方において約150~170°となり、Fe-X-Feが一直線に配置されるθ=180°から大きく湾曲していることがわかる。
【0050】
このようにSrFeO2Fペロブスカイト構造では、より安定な「cis-」の位置にFが配置される。この状態で、Fe-Fの結合距離はFe-Oと結合距離より長く、Fe-O-Feの結合角度θは直線の180°から湾曲する。この結果、ボンド歪みが生じ、これが高抵抗状態(HRS)で、SrFeO2Fが高い抵抗値を示す原因であると考えられる。
【0051】
以上で述べたように、絶縁膜に、SrFeO2FやBaFeO2Fのような酸フッ化物材料を用いた場合、アニオン空孔を介してFイオンが移動するため、絶縁膜の構造劣化はなく、信頼性の高い抵抗変化型メモリが得られる。また、Fイオンは電気陰性度が大きいため高抵抗状態と低抵抗状態の切り替えが速くなり、高いスイッチング速度が実現できる。さらに酸フッ化物材料はcis-構造のペロブスカイト構造となるため、高抵抗状態で高い抵抗値が得られ、オン/オフ比を大きくできる。
【0052】
なお、本発明の実施の形態では抵抗変化型メモリを例に説明したが、この実施の形態は、高速演算素子等のメモリ以外のデバイスにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明にかかる抵抗変化型デバイスは、メモリ素子や高速演算素子等に適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 第1電極
20 第2電極
30 絶縁膜
100 抵抗変化型メモリ