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特開2023-156995ポリマー、ポリマーの製造方法及びドロプレット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156995
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】ポリマー、ポリマーの製造方法及びドロプレット
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/02 20060101AFI20231018BHJP
【FI】
C08B37/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060032
(22)【出願日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2022066542
(32)【優先日】2022-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(チーム型研究(CREST))「界面機能化のための合成分子開発」委託研究、令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(チーム型研究(CREST))「長鎖DNA合成と自律型人工細胞創出の為の人工細胞リアクタシステム」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村岡 貴博
(72)【発明者】
【氏名】内田 紀之
(72)【発明者】
【氏名】野地 博行
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090AA04
4C090AA05
4C090BA12
4C090BB52
4C090BB65
4C090BB69
4C090BB94
4C090BD02
4C090CA38
4C090DA22
4C090DA40
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、ドロプレットを安定化することが可能なポリマー、該ポリマー
の製造方法、該ポリマーを含む液-液相分離により形成されたドロプレット、ドロプレッ
トの製造方法を提供することである。
【解決手段】本実施形態に係るポリマーは、デキストランに、少なくとも2つの下記R
で表される基(Rにおいて、nは2~5000であり、Rは炭素数1~20の二価
の基であり、Rは炭素数1~5の炭化水素基又は水素原子である。)が導入されたポリ
マーである。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デキストランに、少なくとも2つの下記Rで表される基が導入されたポリマー。
【化1】
(Rにおいて、nは2~5000であり、
は炭素数1~20の二価の基であり、
は炭素数1~5の炭化水素基又は水素原子である。)
【請求項2】
デキストランが有する水酸基の少なくとも2つが、Rで表される基で置換された、請
求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
デキストランが有する水酸基の5%以下が、Rで表される基で置換された、請求項1
に記載のポリマー。
【請求項4】
が下記群(A)から選択される二価の基である、請求項1に記載のポリマー。
【化2】
(群(A)において、R10は下記群(B)から選択される二価の基である。)
【化3】
【請求項5】
請求項1に記載のポリマーの製造方法であり、
デキストランと、下記一般式(1)で表されるポリエチレングリコールとを反応させる
、ポリマーの製造方法。
【化4】
(一般式(1)において、nは2~5000であり、
は炭素数1~20の二価の基であり、
は炭素数1~5の炭化水素基又は水素原子である。)
【請求項6】
デキストランと、ポリエチレングリコールとの重量比(デキストラン:ポリエチレング
リコール)が、1:0.01~1:100である、請求項5に記載のポリマーの製造方法
【請求項7】
請求項1に記載のポリマーを含む、液-液相分離により形成されたドロプレット。
【請求項8】
溶媒に請求項1に記載のポリマーを分散させる工程(I)を含む、ドロプレットの製造
方法。
【請求項9】
前記工程(I)が、多糖類及びポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種
の存在下で行われる、請求項8に記載のドロプレットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリマー、ポリマーの製造方法及びドロプレットに関する。
【背景技術】
【0002】
液-液相分離とは、水中に存在する高分子が集合し、その濃度によって、二相に分かれる現象であり、高分子を多く含む相が、水中に漂う液滴状になることが知られている。この液滴は一般にドロプレットと呼ばれる。この液-液相分離、及び液-液相分離により形成されたドロプレットは、細胞の生命活動において、重要な役割を担っていることが近年判明し、液-液相分離、及び液-液相分離により形成されたドロプレットは、薬学、医学、生物学等の分野で、多くの研究が行われている。
【0003】
非特許文献1には、ポリエチレングリコール(PEG)とデキストラン(DEX)とを用いることにより、水性二相系においてドロプレットを形成できることが報告されている。
【0004】
非特許文献2には、液-液相分離を安定化させる方法として、ポリ[ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート](PEGMA)ブロック、ポリ(n-ブチルメタクリレート)(BuMA)ブロック及びポリ[2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート](DMAEMA)ブロックを有するトリブロックコポリマーを用いる方法が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Y. Chao et al., “Emerging aqueous two-phase systems: from fundamentals of interfaces to biomedical applications”, Chem. Soc. Rev. 2020, 49, pp.114-142
【非特許文献2】D. M. A. Buzza et al., “Water-in-Water Emulsions Based on Incompatible Polymers and Stabilized by Triblock Copolymers-Templated Polymersomes”, Langmuir 2013, 29, pp.14804-14814
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に開示されたドロプレットは、短時間でドロプレットが互いに融合し、マクロ相分離を起こすものであった。また、非特許文献2に開示されたトリブロックコポリマーは、疎水性ブロックを有しているため、液-液相分離を形成している相の界面間の物質の輸送が制限される恐れがあった。
【0007】
そこで、本開示の目的は、ドロプレットを安定化することが可能なポリマー、該ポリマーの製造方法、該ポリマーを含む液-液相分離により形成されたドロプレット、及び該ドロプレットの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、特定のポリマーを用いることにより、ドロプレットを安定化することが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
本実施形態の態様例は、以下の通りに記載される。
【0010】
[1] デキストランに、少なくとも2つの下記Rで表される基が導入されたポリマー。
【化1】
(Rにおいて、nは2~5000であり、
は炭素数1~20の二価の基であり、
は炭素数1~5の炭化水素基又は水素原子である。)
[2] デキストランが有する水酸基の少なくとも2つが、Rで表される基で置換された、[1]に記載のポリマー。
[3] デキストランが有する水酸基の5%以下が、Rで表される基で置換された、[1]又は[2]に記載のポリマー。
[4] Rが下記群(A)から選択される二価の基である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリマー。
【化2】
(群(A)において、R10は下記群(B)から選択される二価の基である。)
【化3】
[5] [1]~[4]のいずれかに記載のポリマーの製造方法であり、
デキストランと、下記一般式(1)で表されるポリエチレングリコールとを反応させる、ポリマーの製造方法。
【化4】
(一般式(1)において、nは2~5000であり、
は炭素数1~20の二価の基であり、
は炭素数1~5の炭化水素基又は水素原子である。)
[6] デキストランと、ポリエチレングリコールとの重量比(デキストラン:ポリエチレングリコール)が、1:0.01~1:100である、[5]に記載のポリマーの製造方法。
[7] [1]~[4]のいずれかに記載のポリマーを含む、液-液相分離により形成されたドロプレット。
[8] 溶媒に[1]~[4]のいずれかに記載のポリマーを分散させる工程(I)を含む、ドロプレットの製造方法。
[9] 前記工程(I)が、多糖類及びポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種の存在下で行われる、[8]に記載のドロプレットの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、ドロプレットを安定化することが可能な新規ポリマー、及びその製造方法が提供される。また、本開示により、前記ポリマーを含む液-液相分離により形成されたドロプレット、及びその製造方法についても提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例6における、DEX550k-(PEG20k)2.2を濃度0.3~10wt%で水中に分散させた際のDLS法による粒径の解析結果を示す。
図2】実施例7における、DEX40k-(PEG20k)2.2を濃度0.3~10wt%で水中に分散させた際のDLS法による粒径の解析結果を示す。
図3】実施例8における、DEX550k-(PEG4k)8を濃度0.3~10wt%で水中に分散させた際のDLS法による粒径の解析結果を示す。
図4】実施例9における、DEX40k-(PEG4k)7を濃度0.3~10wt%で水中に分散させた際のDLS法による粒径の解析結果を示す。
図5】実施例11及び比較例1における、位相差顕微鏡観察の結果を示す。
図6】実施例12~14及び比較例2における、攪拌後の相分離の観察結果を示す。
図7】実施例15における、観察の結果を示す。
図8】実施例16における、位相差顕微鏡観察の結果を示す。
図9】実施例17における、位相差顕微鏡観察の結果を示す。
図10】比較例3~5、実施例18における電気泳動の展開結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
<ポリマー>
本実施形態に係るポリマーは、デキストランに、少なくとも2つの下記Rで表される基が導入されたポリマーである。本実施形態に係るポリマーを用いて、液-液相分離により形成されたドロプレットは、従来のドロプレットと比べて安定性に優れることを本発明者らは見出した。従来から液-液相分離によりドロプレットを形成する際にはデキストラン等の多糖類と、ポリエチレングリコールとが用いられてきたが、本実施形態に係るポリマーを用いることにより、安定性に優れるドロプレットを形成することができる。その理由は明らかではないが、本実施形態のポリマーは、デキストランに由来する構造と、ポリエチレングリコールに由来する構造とを有しているため、分子自体で相分離を形成し、界面を生じ、界面の安定性を向上させるためであると、本発明者らは推定した。また、本実施形態に係るポリマーは親水性のポリマーであるため、ドロプレットを形成した際に、界面間の物質の輸送が制限されないため好ましい。
【0014】
【化5】
(Rにおいて、nは2~5000であり、
は炭素数1~20の二価の基であり、
は炭素数1~5の炭化水素基又は水素原子である。)
【0015】
デキストランは、グルコースを構成単糖とする多糖であり、主にグルコースがα-1,6-グリコシド結合した構造から形成される。デキストランは、グルコースがα-1,6-グリコシド結合した構造以外の構造を、少量有していてもよく、デキストランが有していてもよい他の構造としては、グルコースがα-1,4-グリコシド結合及びα-1,6-グリコシド結合した構造、グルコースがα-1,3-グリコシド結合及びα-1,6-グリコシド結合した構造、グルコースがα-1,2-グリコシド結合及びα-1,6-グリコシド結合した構造等が挙げられる。デキストランとしては例えば、市販品を用いることができ特に制限はない。デキストランの相対分子量(Mr)は、通常1,000~10,000,000、好ましくは2,000~5,000,000、より好ましくは3,000~3,000,000、さらに好ましくは5,000~1,000,000である。
【0016】
本実施形態に係るポリマーは、デキストランに、少なくとも2つのRで表される基が導入されたポリマーである。本実施形態に係るポリマーを変性デキストランとも記す。
【0017】
変性デキストランは通常、少なくとも下記一般式(2)で表される構造を有する。
【0018】
【化6】
(一般式(2)において、nは20~6000であり、
~Rはそれぞれ独立にOH基又はRで表される基である。)
【0019】
前記一般式(2)で表される構造は、R~Rの全てがOH基である場合、グルコースがα-1,6-グリコシド結合した構造である。
【0020】
は20~6000であり、30~5000であることが好ましく、40~4000であることがより好ましく、50~3000であることが特に好ましい。nが前記範囲であることが、より安定なドロプレットを形成する観点から好ましい。
【0021】
変性デキストランは、好ましくはデキストランが有する水酸基の少なくとも2つが、Rで表される基で置換されたポリマーである。すなわち、Rで表される基は、好ましくはデキストランの水酸基に対する置換基である。また、変性デキストランは、デキストランが有する水酸基の好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、更に好ましくは3%以下が、Rで表される基で置換されたポリマーである。Rで表される基の数が前記範囲であることが、より安定なドロプレットを形成する観点から好ましい。本実施形態に係るポリマー中にRは複数存在するが、各Rは同様の基であってもよく、異なる基であってもよい。各Rが同様の基であると、合成が容易である。
【0022】
において、波線はデキストラン骨格との結合部位を意味し、好ましくはデキストランを構成するテトラヒドロピラン環との結合部位を意味する。
【0023】
は2~5000であり、5~4000であることが好ましく、10~3000であることがより好ましく、20~2000であることが更に好ましく、50~1000であることが特に好ましい。nが前記範囲であることが、より安定なドロプレットを形成する観点から好ましい。
【0024】
は炭素数1~20の二価の基であり、炭素数1~15の二価の基であることが特に好ましい。Rとしては具体的には、下記群(A)から選択される二価の基であることが好ましい。
【0025】
【化7】
(群(A)において、R10は下記群(B)から選択される二価の基である。)
【0026】
【化8】
【0027】
群(A)から選択される二価の基において、左側の波線は、Rにおける波線と同義であり、デキストラン骨格との結合部位を意味し、好ましくはデキストランを構成するテトラヒドロピラン環との結合部位を意味する。群(A)から選択される二価の基において、右側の波線は、Rにおけるエチレングリコール単位に結合する酸素原子との結合部位を意味する。また、群(B)から選択される二価の基において、左右の波線は、R10と隣接する原子との結合部位を意味する。
【0028】
本実施形態に係るポリマー中に、Rは複数存在するが、各Rは同様の基であってもよく、異なる基であってもよい。各Rが同様の基であると、合成が容易である。
【0029】
は炭素数1~5の炭化水素基又は水素原子である。炭素数1~5の炭化水素基としては炭素数1~5のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基がより好ましく、メチル基、エチル基が特に好ましい。Rがメチル基であることが特に好ましい態様の一つである。本実施形態に係るポリマー中に、Rは複数存在するが、各Rは同様の基であってもよく、異なる基であってもよい。各Rが同様の基であると、合成が容易である。
【0030】
<ポリマーの製造方法>
本実施形態に係るポリマーの製造方法は、前述のポリマーの項で記載したポリマーを製造する方法であり、デキストランと、下記一般式(1)で表されるポリエチレングリコールとを反応させる。デキストランと、ポリエチレングリコールとを反応させる際の条件としては特に制限はなく、デキストランとポリエチレングリコールとが、エステル結合を形成する条件で反応させる方法、デキストランとポリエチレングリコールとが、エーテル結合を形成する条件で反応させる方法等が挙げられる。これらの反応を行う際の反応条件は、有機化学の分野で公知の方法を採用することができる。反応条件の例としては、例えば実施例に記載の方法が挙げられる。
【0031】
【化9】
(一般式(1)において、nは2~5000であり、
は炭素数1~20の二価の基であり、
は炭素数1~5の炭化水素基又は水素原子である。)
【0032】
なお、一般式(1)におけるn、R、Rは、前述のRにおけるn、R、Rと同義である。
【0033】
ポリマーの製造方法で使用する、デキストランと、ポリエチレングリコールとの重量比(デキストラン:ポリエチレングリコール)は、1:0.01~1:100であることが好ましく、1:0.1~1:10であることがより好ましく、1:0.5~1:2であることが特に好ましい。
【0034】
デキストランとしては、特に制限はなく、市販のデキストランを使用しても、適宜製造してもよい。デキストランは主たる構造として、グルコースがα-1,6-グリコシド結合した構造を有している。デキストランは他の構造を有していてもよく、例えばグルコースがα-1,4-グリコシド結合及びα-1,6-グリコシド結合した構造、グルコースがα-1,3-グリコシド結合及びα-1,6-グリコシド結合した構造、グルコースがα-1,2-グリコシド結合及びα-1,6-グリコシド結合した構造等を有していてもよい。
【0035】
一般式(1)で表されるポリエチレングリコールは、片方の末端がRであり、他方の末端がOH基であるポリエチレングリコールから得ることができる。例えば、ポリエチレングリコールのOH基と、H-Rに相当する構造を有する化合物中の、COOH基やOH基とを反応させることにより、一般式(1)で表されるポリエチレングリコールを得ることができる。一般式(1)で表されるポリエチレングリコールは、R及びRの種類に応じて有機化学の分野で公知の方法を採用することにより得ることができる。反応条件の例としては、例えば実施例に記載の方法が挙げられる。
【0036】
<ドロプレット>
本実施形態に係るドロプレットは、前述のポリマーの項で記載したポリマーを含む、液-液相分離により形成されたドロプレットである。本実施形態に係るドロプレットは、従来のドロプレットと比べて安定性に優れるためドロプレットを用いた種々の研究に有用である。また、ドロプレットの界面が親水性のポリマーによって形成されるため、界面間の物質の輸送が制限されず、生体(例えば、生細胞)に近い状態で研究を行うことができるため、有用性が極めて高い。
【0037】
本実施形態に係るドロプレットは液-液相分離により形成されているため、ドロプレットの内側及び外側が液体である。液-液相分離は、水性二相系における相分離であることが好ましい。液体が水又は水溶液である場合、水としては特に制限はないが、通常は、水道水、蒸留水、イオン交換水、超純水、逆浸透水等を使用することができ、蒸留水、イオン交換水等の精製された水が好ましい。また、液体としては、生理食塩水、緩衝液等の水溶液、血清、組織液等の生体由来水溶液を用いることもできる。本実施形態に係るドロプレットとしては、前述のポリマーの項で記載したポリマー、多糖類、及びポリエチレングリコールを含む態様、前述のポリマーの項で記載したポリマーを含み、多糖類及びポリエチレングリコールを含まない態様、前述のポリマーの項で記載したポリマー、及び多糖類を含み、ポリエチレングリコールを含まない態様、前述のポリマーの項で記載したポリマー、及びポリエチレングリコールを含み、多糖類を含まない態様が挙げられる。前記多糖類及びポリエチレングリコールは、ドロプレットの形成に寄与する成分である。本実施形態に係るドロプレットとしては、前述のポリマーの項で記載したポリマーを含み、多糖類及びポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種を含むことが好ましい態様であり、前述のポリマーの項で記載したポリマー、多糖類及びポリエチレングリコールを含むことが特に好ましい態様である。
【0038】
多糖類としては、デキストラン、フィコール、ヘパリン等が挙げられる。多糖類としては、デキストラン、フィコールが好ましく、デキストランがより好ましい。多糖類の分子量としては特に制限はなく、例えばMwが5,000~1,000,000のものを用いることができる。多糖類としては、特に制限はなく、市販品を用いてもよく、適宜製造してもよい。
【0039】
ポリエチレングリコールとしては、特に制限はないが、例えばMwが200~100,000のものを用いることができる。ポリエチレングリコールとしては、特に制限はなく、市販品を用いてもよく、適宜製造してもよい。
【0040】
ドロプレットが存在する系においては、ポリマー、多糖類、ポリエチレングリコール、及び水以外の成分(その他の成分)が存在してもよい。その他の成分としては、例えば、酵素、核酸(DNA、RNA)、ヌクレオチド、アミノ酸、たんぱく質、無機塩、有機塩、糖、リン脂質が挙げられる。ドロプレットは、ドロプレットが存在しない系と比べてその他の成分を安定的に保持することが可能である。ポリマーがドロプレットを形成する条件下で、その他の成分を共存させると、例えば攪拌に伴う剪断力に対するその他の成分の安定性を向上させることができる。
【0041】
ドロプレットが存在する系においては、系全体を100質量%とした時に、水の量は特に制限はないが、通常は30~99.9質量%であり、好ましくは70~95質量%である。
【0042】
<ドロプレットの製造方法>
本実施形態に係るドロプレットの製造方法は、溶媒に前述のポリマーの項で記載したポリマーを分散させる工程(I)を含む。前記工程(I)は、多糖類及びポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種の存在下で行われることが好ましい。
【0043】
工程(I)を実施する方法としては、特に制限はなく、例えば水溶液等の溶媒にポリマーを加え、適宜混合等を行い、ポリマーを分散させる方法、多糖類を含む水溶液と、ポリエチレングリコールを含む水溶液とをそれぞれ調製し、両者を同一の容器に入れた後、ポリマーを加え、適宜混合等を行い、ポリマーを分散させる方法、水溶液等の溶媒にポリマー、並びに多糖類及びポリエチレングリコールから選択される少なくとも1種を加え、適宜混合等を行い、ポリマーを分散させる方法、多糖類及びポリマーを含む水溶液と、ポリエチレングリコールを含む水溶液とをそれぞれ調製し、両者を同一の容器に入れ、適宜混合等を行い、ポリマーを分散させる方法、並びに多糖類を含む水溶液と、ポリエチレングリコール及びポリマーを含む水溶液とをそれぞれ調製し、両者を同一の容器に入れ、適宜混合等を行い、ポリマーを分散させる方法が挙げられる。工程(I)でポリマーを分散させると、その後液-液相分離によりドロプレットが形成される。
【0044】
混合を行う方法としては、ミキサー等を用いて攪拌する方法、超音波を照射し混合する方法、片方の液体が存在する空間に、別の液体を流すことにより混合する方法等が挙げられる。
【実施例0045】
以下、実施例を挙げて本実施形態を説明するが、本開示はこれらの例によって限定されるものではない。
【0046】
[合成例1]
下記スキームで生成物2を合成した。
【0047】
【化10】
【0048】
ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(mPEG、Mw:20,000)と、無水コハク酸とをそれぞれ18時間、減圧下で乾燥した。次に2口ナスフラスコにmPEG(4.90g,0.245mmol)を入れ、トルエン共沸を行なった。その後2口ナスフラスコを窒素置換し、dry塩化メチレン(DCM)(15ml)を加えた。溶解後、無水コハク酸(1.27g,12.7mmol)とdry THF(4ml)とを加えた。40℃まで加熱し無水コハク酸を溶解させた後、トリエチルアミン(TEA)(1.75ml)を加え、室温で18時間撹拌した。その後、飽和塩化アンモニウム水(20ml)を加え、減圧下で塩化メチレンとTHFを除去後、透析(MWCO:1000Da)によって生成物2(3.57g,0.178mmol,73%)を白色固体として得た。
【0049】
生成物2:
H NMR(400MHz,CDCl,25℃):δ=3.63(s,2000H),3.37(s,3H),2.68-2.61(m,4H)
13C NMR(400MHz,CDCl,25℃):δ=77.35,77.03,76.71,70.57
【0050】
[実施例1]
下記スキームでDEX550k-(PEG20k)2.2を合成した。
【0051】
【化11】
【0052】
生成物2と、デキストラン(DEX)(Mr:450,000-650,000)と、EDC・HCl(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)と、DMAP(4-ジメチルアミノピリジン)とをそれぞれ18時間、減圧下で乾燥した。次に2口ナスフラスコに生成物2(0.266g,0.0133mmol)を入れ、トルエン共沸を行なった。別の2口ナスフラスコにデキストラン(3.68g,0.00668mmol)を入れ、トルエン共沸を行なった。その後2つの2口ナスフラスコをそれぞれ窒素置換した。デキストランに対してdry ジメチルスルホキシド(DMSO)(30ml)を加え80℃で加熱し溶解させデキストランDMSO溶液を得た。生成物2に対してdry 塩化メチレン(5ml)を加え溶解後、デキストランDMSO溶液に加えた。その後EDC・HCl(0.205g,1.07mmol)、DMAP(0.500g,4.09mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。その後、飽和塩化アンモニウム水(20ml)を加え、減圧下で塩化メチレンを除去後、透析(MWCO:50kDa)によって生成物DEX550k-(PEG20k)2.2(2.37g,0.00399mmol,60%)を白色固体として得た。なお、DEX(Mr:450,000-650,000)由来の構造を分子量の範囲の中央値である550kに基づきDEX550kと記した。
【0053】
DEX550k-(PEG20k)2.2は、下記式(2-1)で表される構造を有しており、一分子当たり、平均2.2個の下記式(3-1)で表される基を有していた。
【0054】
【化12】
(式(2-1)において、R~Rはそれぞれ独立にOH基又は式(3-1)で表される基である。)
【0055】
【化13】
【0056】
生成物DEX550k-(PEG20k)2.2:
H NMR(400MHz,DMSO-d,25℃):δ=4.94(br,1H),4.88(br,1H),4.68(br,1H),4.52(br,1H),3.75(br,1H),3.63(br,1H),3.51(s,2.4H)
13C NMR(500MHz,DMSO-d,25℃):δ=98.24,73.33,71.86,70.40,70.12,69.82,66.08
【0057】
[実施例2]
下記スキームでDEX40k-(PEG20k)2.2を合成した。
【0058】
【化14】
【0059】
生成物2と、デキストラン(Mw:40,000)と、EDC・HClと、DMAPとをそれぞれ18時間、減圧下で乾燥した。次に2口ナスフラスコに生成物2(0.503g,0.0252mmol)を入れ、トルエン共沸を行なった。別の2口ナスフラスコにデキストラン(0.496g,0.0124mmol)を入れ、トルエン共沸を行なった。その後2つの2口ナスフラスコをそれぞれ窒素置換した。デキストランに対してdry DMSO(30ml)を加え80℃で加熱し溶解させデキストランDMSO溶液を得た。生成物2に対してdry 塩化メチレン(2ml)を加え溶解後、デキストランDMSO溶液に加えた。その後EDC・HCl(0.205g,1.07mmol)、DMAP(0.500g,4.09mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。その後、飽和塩化アンモニウム水(20ml)を加え、減圧下で塩化メチレンを除去後、透析(MWCO:25kDa)によってDEX40k-(PEG20k)2.2(0.734g,0.00874mmol,70%)を白色固体として得た。
【0060】
DEX40k-(PEG20k)2.2は、下記式(2-2)で表される構造を有しており、一分子当たり、平均2.2個の下記式(3-1)で表される基を有していた。
【0061】
【化15】
(式(2-2)において、R~Rはそれぞれ独立にOH基又は式(3-1)で表される基である。)
【0062】
【化16】
【0063】
生成物DEX40k-(PEG20k)2.2:
H NMR(400MHz,DMSO-d,25℃):δ=4.97(br,1H),4.90(br,1H),4.68(br,1H),4.52(d,J=7.0Hz,1H),3.76(br,1H),3.63(br,1H),3.51(s,27.5H)
13C NMR(500MHz,DMSO-d,25℃):δ=98.24,73.32,71.86,70.38,70.11,69.81,66.08
【0064】
[合成例2]
下記スキームで生成物4を合成した。
【0065】
【化17】
【0066】
ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(mPEG、Mw:4,000)と、無水コハク酸とをそれぞれ18時間、減圧下で乾燥した。次に2口ナスフラスコにmPEG(5.00g,1.25mmol)を入れ、トルエン共沸を行なった。その後2口ナスフラスコを窒素置換し、dry塩化メチレン(10ml)を加えた。溶解後、無水コハク酸(4.60g,45.6mmol)とdry THF(35ml)を加えた。溶解後、トリエチルアミン(8.00ml)を加え、室温で18時間撹拌した。その後、飽和塩化アンモニウム水(20ml)を加え、減圧下で塩化メチレンとTHFを除去後、透析(MWCO:1000Da)によって生成物4(2.34g,0.571mmol,46%)を白色固体として得た。
【0067】
生成物4:
H NMR(400MHz,CDCl,25℃):δ=3.63(s,400H),3.31(s,3H),2.58-2.55(m,4H).
13C NMR(400MHz,CDCl,25℃):δ=77.35,77.04,76.73,70.57
【0068】
[実施例3]
下記スキームでDEX550k-(PEG4k)8を合成した。
【0069】
【化18】
【0070】
生成物4と、デキストラン(Mr:450,000-650,000)と、EDC・HClと、DMAPとをそれぞれ18時間、減圧下で乾燥した。次に2口ナスフラスコに生成物4(0.0754g,18.9mmol)を入れ、トルエン共沸を行なった。別の2口ナスフラスコにデキストラン(1.02g,0.00185mmol)を入れ、トルエン共沸を行なった。その後2つの2口ナスフラスコをそれぞれ窒素置換した。デキストランに対してdry DMSO(30ml)を加え80℃で加熱し溶解させデキストランDMSO溶液を得た。生成物4に対してdry 塩化メチレン(2ml)を加え溶解後、デキストランDMSO溶液に加えた。その後EDC・HCl(0.205g,1.07mmol)、DMAP(0.570g,4.66mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。その後、飽和塩化アンモニウム水(20ml)を加え、減圧下で塩化メチレンを除去後、透析(MWCO:15kDa)によって生成物DEX550k-(PEG4k)8(0.493g,0.000847mmol,46%)を白色固体として得た。
【0071】
DEX550k-(PEG4k)8は、下記式(2-3)で表される構造を有しており、一分子当たり、平均8個の下記式(3-2)で表される基を有していた。
【0072】
【化19】
(式(2-3)において、R~Rはそれぞれ独立にOH基又は式(3-2)で表される基である。)
【0073】
【化20】
【0074】
生成物DEX550k-(PEG4k)8:
H NMR(400MHz,DMSO-d,25℃):δ=4.94(br,1H),4.88(br,1H),4.68(br,1H),4.52(br,1H),3.75(br,1H),3.63(br,1H),3.51(s,2H)
13C NMR(500MHz,DMSO-d,25℃):δ=98.25,73.34,71.87,70.40,70.12,69.83,66.08
【0075】
[実施例4]
下記スキームでDEX40k-(PEG4k)7を合成した。
【0076】
【化21】
【0077】
生成物4と、デキストラン(Mw:40,000)と、EDC・HClと、DMAPとをそれぞれ18時間、減圧下で乾燥した。次に2口ナスフラスコに生成物4(0.505g,0.126mmol)を入れ、トルエン共沸を行なった。別の2口ナスフラスコにデキストラン(0.506g,0.0127mmol)を入れ、トルエン共沸を行なった。その後2つの2口ナスフラスコをそれぞれ窒素置換した。デキストランに対してdry DMSO(30ml)を加え80℃で加熱し溶解させデキストランDMSO溶液を得た。生成物4に対してdry 塩化メチレン(6ml)を加え溶解後、デキストランDMSO溶液に加えた。その後EDC・HCl(0.205g,1.07mmol)、DMAP(0.570g,4.66mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。その後、飽和塩化アンモニウム水(20ml)を加え、減圧下で塩化メチレンを除去後、透析(MWCO:25kDa)によってDEX40k-(PEG4k)7(0.384g,0.00565mmol,45%)を白色固体として得た。
【0078】
DEX40k-(PEG4k)7は、下記式(2-4)で表される構造を有しており、一分子当たり、平均7個の下記式(3-2)で表される基を有していた。
【0079】
【化22】
(式(2-4)において、R~Rはそれぞれ独立にOH基又は式(3-2)で表される基である。)
【0080】
【化23】
【0081】
生成物DEX40k-(PEG4k)7:
H NMR(400MHz,DMSO-d,25℃):δ=4.97(br,1H),4.90(br,1H),4.68(br,1H),4.52(d,J=7.0Hz,1H),3.76(br,1H),3.63(br,1H),3.51(s,30H)
13C NMR(500MHz,DMSO-d,25℃):δ=98.23,73.31,71.86,70.38,70.11,69.80,66.07
【0082】
[合成例3]
生成物5を以下の方法で合成した。
【0083】
【化24】
【0084】
ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(mPEG、Mw:4,000)と、アゾベンゼン-4,4’-ジカルボン酸(Mw:270.24)と、EDC・HClと、DMAPとをそれぞれ24時間、減圧下で乾燥した。次に、2口ナスフラスコにmPEG(1.22g,0.304mmol)を入れ、トルエン共沸を行った。別の2口フラスコにアゾベンゼン-4,4’-ジカルボン酸(0.787g,2.913mmol)を入れ、トルエン共沸を行った。その後、2つの2口ナスフラスコをそれぞれ窒素置換した。mPEGに対してdry DMF(7ml)を加え50℃まで加熱し溶解させ、mPEG溶液を得た。アゾベンゼン-4,4’-ジカルボン酸に対してdry DMF(79ml)を加え、さらにdry DMSO(16ml)を加えて80℃まで加熱し溶解させ、アゾベンゼン-4,4’-ジカルボン酸溶液を得た。アゾベンゼン-4,4’-ジカルボン酸溶液にmPEG溶液を加えた後、90℃に加熱してEDC・HCl(1.33g,22.8mmol)、DMAP(1.71g,46.2mmol)を加えた。反応液を室温で22時間撹拌した後、80℃まで加熱し減圧下でDMFを留去した。その後、室温で飽和塩化アンモニウム水(40ml)を加えた後、透析(MWCO:1kDa)によって生成物5(Azo-(PEG4k)とも記す)(0.286g,0.0672mmol,22.1%)を黄色固体として得た。
【0085】
生成物5:
H NMR(400MHz,DMSO-d,25℃):δ=6.0-7.5(br,8H)、3.5(s,400H).
【0086】
[実施例5]
DEX40k-Azo-(PEG4k)4を合成した
生成物5(Mw:4,270)と、デキストラン(Mw:40,000)と、EDC・HClと、DMAPとをそれぞれ20時間、減圧下で乾燥した。次に2口ナスフラスコに生成物5(0.225g,0.0526mmol)を入れ、トルエン共沸を行った。別の2口ナスフラスコにデキストラン(0.146g,0.00365mmol)を入れ、トルエン共沸を行なった。その後2つの2口ナスフラスコをそれぞれ窒素置換した。生成物5に対してdry THF(2.2ml)を加え溶解させ、生成物5溶液を得た。デキストランに対してdry DMF(3.2ml)を加え、さらにdry DMSO(5.2ml)を加えて60℃まで加熱し溶解させ、デキストラン溶液を得た。デキストラン溶液に生成物5溶液を加えた後、EDC・HCl(74.0g,0.386mmol)、DMAP(69.1g,0.566mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。その後、飽和塩化アンモニウム水(20ml)を加えた後、透析(MWCO:50kDa)によって生成物DEX40k-Azo-(PEG4k)4(0.0998g,0.00226mmol,33.1%)を黄白色固体として得た。
【0087】
DEX40k-Azo-(PEG4k)4は、下記式(2-5)で表される構造を有しており、一分子当たり、平均4個の下記式(3-3)で表される基を有していた。
【0088】
【化25】
(式(2-5)において、R~Rはそれぞれ独立にOH基又は式(3-3)で表される基である。)
【0089】
【化26】
【0090】
生成物DEX40k-Azo-(PEG4k)4:
H NMR(400MHz,DMSO-d,25℃):δ=4.929(br,1H),4.858(br,1H),4.665(br,1H),4.487(d,J=5.95Hz,1H),3.731(br,1H),3.625(br,1H),3.495(s,34H)
【0091】
なお、上記式(3-1)、(3-2)、(3-3)において、波線は、Rにおける波線と同義である。
【0092】
[実施例6]
(DEX550k-(PEG20k)2.2の動的光散乱(DLS)法による解析)
DEX550k-(PEG20k)2.2を濃度0.3~10wt%で水中に分散させた際のDLS法による粒径の解析結果を図1に示す。
図1よりDEX550k-(PEG20k)2.2の濃度を増加させた場合でも、粒径の変化は少なく、DEX550k-(PEG20k)2.2がナノメートルサイズで水中に分散していることが分かった。
【0093】
[実施例7]
(DEX40k-(PEG20k)2.2のDLS法による解析)
DEX40k-(PEG20k)2.2を濃度0.3~10wt%で水中に分散させた際のDLS法による粒径の解析結果を図2に示す。
図2よりDEX40k-(PEG20k)2.2は、濃度が1.3wt%以下ではナノメートルサイズで水中に分散し、濃度が2.5wt%以上では粒径が大きくなり、DEX40k-(PEG20k)2.2が水中で凝集することが分かった。DLS法による粒径の解析結果より、濃度が2.5wt%以上ではマイクロスケールのドロプレットが形成されていることが示唆された。
【0094】
[実施例8]
(DEX550k-(PEG4k)8の動的光散乱(DLS)法による解析)
DEX550k-(PEG4k)8を濃度0.3~10wt%で水中に分散させた際のDLS法による粒径の解析結果を図3に示す。
図3よりDEX550k-(PEG4k)8の濃度を増加させた場合でも、粒径の変化は少なく、DEX550k-(PEG4k)8がナノメートルサイズで水中に分散していることが分かった。
【0095】
[実施例9]
(DEX40k-(PEG4k)7のDLS法による解析)
DEX40k-(PEG4k)7を濃度0.3~10wt%で水中に分散させた際のDLS法による粒径の解析結果を図4に示す。
図4よりDEX40k-(PEG4k)7は、濃度に依存して粒径が徐々に大きくなり、5wt%以上では水中で凝集することが分かった。DLS法による粒径の解析結果より、濃度が5wt%以上ではマイクロスケールのドロプレットが形成されていることが示唆された。
【0096】
[実施例10]
(DEX550k-(PEG4k)8によるドロプレットの形成)
エッペンドルフチューブ中のデキストラン(Mw:550,000)(DEX550kとも記す)及びポリエチレングリコール(Mw:35,000)(PEG35kとも記す)を含む水溶液(DEX550kリッチな下相と、PEG35kがリッチな上相を有する水性二相系水溶液)に、DEX550k-(PEG4k)8を加え、ボルテックスミキサーにより15分間攪拌した。
【0097】
攪拌後、液-液相分離により、内部にDEX550kがリッチなドロプレットが観察された。
なお、DEX550kが1wt%、PEG35kが3wt%、DEX550k-(PEG4k)8が2wt%、及び残部が水となるように、各原料を使用した。
【0098】
[実施例11]
(DEX40k-(PEG4k)7によるドロプレットの形成)
エッペンドルフチューブ中のDEX550k及びPEG35kを含む水溶液に、DEX40k-(PEG4k)7を加え、ボルテックスミキサーにより15分間攪拌した。
【0099】
攪拌後、液-液相分離によるドロプレットが観察された。ドロプレットを位相差顕微鏡により観察したところ、攪拌終了後、600分後であっても、5分後に観察されたドロプレットと比べ同程度のサイズが維持されたドロプレットを観察することができた。位相差顕微鏡観察の結果を図5に示す。
なお、DEX550kが4wt%、PEG35kが4wt%、DEX40k-(PEG4k)7が2wt%、及び残部が水となるように、各原料を使用した。また、攪拌及び顕微鏡観察を行う際の温度(水温)は25℃とした。
【0100】
[比較例1]
(PEX-PEG連結分子を用いないドロプレットの形成)
エッペンドルフチューブ中のDEX550k及びPEG35kを含む水溶液を、ボルテックスミキサーにより15分間攪拌した。
【0101】
攪拌後、液-液相分離によるドロプレットが観察された。ドロプレットを位相差顕微鏡により観察したところ、攪拌終了後、5分後には、粒径の大きなドロプレット(図5中の矢印で示すドロプレット)の形成が観察された。位相差顕微鏡観察の結果を図5に示す。 なお、DEX550kが5wt%、PEG35kが5wt%、及び残部が水となるように、各原料を使用した。また、攪拌及び位相差顕微鏡観察を行う際の温度(水温)は25℃とした。
【0102】
[実施例12]
(DEX550k-(PEG20k)2.2による液-液相分離の安定化)
サンプルビンに、DEX550k(1wt%)、PEG35k(1wt%)、DEX550k-(PEG20k)2.2(8wt%)及び水(残部)を加え、ボルテックスミキサーにより3分間攪拌した。
【0103】
攪拌後、液-液相分離によるドロプレットが観察され、90分後も相分離が完了していなかった。攪拌後の相分離の観察結果を図6に示す。図6においてサンプルビンの左に記した一重線はPEG相(PEG35kリッチ相)を意味し、二重線はDEX相(DEX550kリッチ相)を意味する。また、攪拌及び観察を行う際の温度(水温)は25℃とした。
【0104】
[比較例2]
サンプルビンに、DEX550k(5wt%)、PEG35k(5wt%)及び水(残部)を加え、ボルテックスミキサーにより3分間攪拌した。
【0105】
攪拌後、1分程度で、上相と下相との二相への相分離が観察された。攪拌後の相分離の観察結果を図6に示す。図6においてサンプルビンの左に記した一重線はPEG相(PEG35kリッチ相)を意味し、二重線はDEX相(DEX550kリッチ相)を意味する。また、攪拌及び観察を行う際の温度(水温)は25℃とした。
【0106】
[実施例13]
(DEX40k-(PEG20k)2.2による液-液相分離の安定化)
サンプルビンに、DEX550k(1wt%)、PEG35k(1wt%)、DEX40k-(PEG20k)2.2(8wt%)及び水(残部)を加え、ボルテックスミキサーにより3分間攪拌した。
【0107】
攪拌後、液-液相分離によるドロプレットが観察され、160分後も相分離が完了していなかった。攪拌後の相分離の観察結果を図6に示す。図6においてサンプルビンの左に記した一重線はPEG相(PEG35kリッチ相)を意味し、二重線はDEX相(DEX550kリッチ相)を意味する。また、攪拌及び観察を行う際の温度(水温)は25℃とした。
【0108】
[実施例14]
(DEX40k-(PEG4k)7による液-液相分離の安定化)
サンプルビンに、DEX550k(1wt%)、PEG35k(1wt%)、DEX40k-(PEG4k)7(8wt%)及び水(残部)を加え、ボルテックスミキサーにより3分間攪拌した。
【0109】
攪拌後、液-液相分離によるドロプレットが観察され、160分後も相分離が完了していなかった。攪拌後の相分離の観察結果を図6に示す。図6においてサンプルビンの左に記した一重線はPEG相(PEG35kリッチ相)を意味し、二重線はDEX相(DEX550kリッチ相)を意味する。また、攪拌及び観察を行う際の温度(水温)は25℃とした。
【0110】
[実施例15]
(DEX40k-Azo-(PEG4k)4によるドロプレットの形成)
エッペンドルフチューブ中のDEX550k及びPEG35kを含む水溶液に、DEX40k-Azo-(PEG4k)4を加え、ボルテックスミキサーにより15分間攪拌した。
【0111】
攪拌後、液-液相分離によるドロプレットが観察された。ドロプレットにより薄黄濁した状態が、攪拌終了後、30分後も維持されていた。観察の結果を図7に示す。
なお、DEX550kが6wt%、PEG35kが6wt%、DEX40k-Azo-(PEG4k)4が3wt%、及び残部が水となるように、各原料を使用した。また、攪拌及び観察を行う際の温度(水温)は25℃とした。
【0112】
[実施例16]
(DEX550k-(PEG20k)2.2によるドロプレットの形成)
エッペンドルフチューブ中のDEX550kを含む水溶液に、DEX550k-(PEG20k)2.2を加え、ボルテックスミキサーにより15分間攪拌した。
【0113】
攪拌後、液-液相分離によるドロプレットが観察された。ドロプレットを位相差顕微鏡により観察したところ、攪拌終了後、72時間後であっても、ドロプレットを観察することができた。位相差顕微鏡観察の結果を図8に示す。
なお、DEX550kが1wt%、DEX550k-(PEG20k)2.2が9wt%、及び残部が水となるように、各原料を使用した。また、攪拌及び位相差顕微鏡観察を行う際の温度(水温)は25℃とした。
【0114】
[実施例17]
(DEX40k-Azo-(PEG4k)4によるドロプレットの形成)
エッペンドルフチューブ中のPEG35kを含む水溶液に、DEX40k-Azo-(PEG4k)4を加え、ボルテックスミキサーにより15分間攪拌した。
【0115】
攪拌後、液-液相分離によるドロプレットが観察された。ドロプレットを位相差顕微鏡により観察したところ、ドロプレットを観察することができた。位相差顕微鏡観察の結果を図9に示す。
なお、PEG35kが1wt%、DEX40k-Azo-(PEG4k)4が9wt%、及び残部が水、又はPEG35kが9wt%、DEX40k-Azo-(PEG4k)4が1wt%、及び残部が水となるように、各原料を使用した。また、攪拌及び位相差顕微鏡観察を行う際の温度(水温)は25℃とした。
【0116】
[比較例3]
未処理のDNA(サーモン由来、48.5bp、0.01mg/mL)水溶液(以下の比較例及び実施例において、単にDNA水溶液とも記す。)を、下記条件で電気泳動により展開した。展開結果を図10にAとして示す。展開結果のイメージを取得し、画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いて解析した。
ゲル作成条件:0.5wt%アガロースS(ニッポンジーン製)
電気泳動条件:25V、150min、TBE
ゲル染色条件:SYBR-Gold、30min
TBE:Tris/Borate/EDTAバッファー(購入元ニッポンジーン)
SYBR-Gold(ThermoFisher製)
【0117】
[比較例4]
DNA水溶液を、10分間ボルテックスミキサーにより攪拌した後、比較例3と同様の条件で電気泳動により展開した。展開結果を図10にBとして示す。展開結果のイメージを取得し、画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いて解析した。解析の結果、比較例4(図10、B)は、比較例3(図10、A)と比べて、DNA断片が44%増加したことが示された。すなわち、ボルテックスミキサーを用いた攪拌により、DNAの断片化が起きたことが示された。
【0118】
[比較例5]
DNA水溶液にPEG35kを最終濃度で2.5wt%となるように加え、得られたPEG35k含有DNA水溶液を比較例3と同様の条件で電気泳動により展開した。展開結果を図10にC-1として示す。
【0119】
また、PEG35k含有DNA水溶液を、10分間ボルテックスミキサーにより攪拌した後、比較例3と同様の条件で電気泳動により展開した。展開結果を図10にC-2として示す。
【0120】
展開結果のイメージを取得し、画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いて解析した。解析の結果、比較例5(図10、C-2)は、比較例3(図10、A)と比べて、DNA断片が31%増加し、比較例4(図10、B)と比べて、DNA断片が13%減少したことが示された。すなわち、PEG35kの添加は、ボルテックスミキサーを用いた攪拌による、DNAの断片化に対する弱い保護効果を有していることが示された。
【0121】
[実施例18]
DNA水溶液にPEG35kを最終濃度で2.5wt%、及びDEX40k-(PEG4k)7を最終濃度で2.5wt%となるように加え、得られたPEG35k及びDEX40k-(PEG4k)7含有DNA水溶液を比較例3と同様の条件で電気泳動により展開した。展開結果を図10にD-1として示す。
【0122】
また、PEG35k及びDEX40k-(PEG4k)7含有DNA水溶液を、10分間ボルテックスミキサーにより攪拌した後、比較例3と同様の条件で電気泳動により展開した。展開結果を図10にD-2として示す。
【0123】
展開結果のイメージを取得し、画像処理ソフトウェア(ImageJ)を用いて解析した。解析の結果、実施例18(図10、D-2)は、比較例3(図10、A)と比べて、DNA断片が12%増加し、比較例4(図10、B)と比べて、DNA断片が32%減少したことが示された。すなわち、PEG35k及びDEX40k-(PEG4k)7の添加は、ボルテックスミキサーを用いた攪拌による、DNAの断片化に対する強い保護効果を有していることが示された。
【0124】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。また、本願において、記号「~」を用いて表される数値範囲は、記号「~」の前後に記載される数値のそれぞれを下限値及び上限値として含む。
【0125】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【0126】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10