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特開2023-157037モードフィールド径測定装置及びモードフィールド径測定方法
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  • 特開-モードフィールド径測定装置及びモードフィールド径測定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157037
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】モードフィールド径測定装置及びモードフィールド径測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 11/02 20060101AFI20231019BHJP
   G02B 6/00 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
G01M11/02 N
G02B6/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066672
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤志
(72)【発明者】
【氏名】古敷谷 優介
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正治
(57)【要約】
【課題】任意の導波モードのモードフィールド径を正確に測定することができるモードフィールド径測定装置及びモードフィールド径測定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るモードフィールド径測定装置は、モードフィールド径測定装置100は、可変開口(VA:Variable aperture)14を利用したVA法で、数モードファイバ(被試験光ファイバ)10の各導波モードのモードフィールド径を測定する装置であって、前記数モードファイバの各導波モードのモードフィールド径を測定する前に、基本モード又はモードフィールド中心の光強度が最大である導波モードを利用して前記数モードファイバとの調心を行う調心器を備えることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変開口(VA:Variable aperture)を利用したVA法で、数モードファイバの各導波モードのモードフィールド径を測定するモードフィールド径測定装置であって、
前記数モードファイバの各導波モードのモードフィールド径を測定する前に、基本モード又はモードフィールド中心の光強度が最大である導波モードを利用して前記数モードファイバとの調心を行う調心器を備えることを特徴とするモードフィールド径測定装置。
【請求項2】
前記調心器は、前記数モードファイバとの相対位置を変化させ、受光器が受光する前記数モードファイバからの光の光強度が最大となる前記相対位置を前記モードフィールド径の測定位置とすることを特徴とする請求項1に記載のモードフィールド径測定装置。
【請求項3】
前記調心器は、前記調心を行うとき、前記可変開口の開口数を最小にすることを特徴とする請求項1又は2に記載のモードフィールド径測定装置。
【請求項4】
可変開口(VA:Variable aperture)を利用したVA法で、数モードファイバの各導波モードのモードフィールド径を測定するモードフィールド径測定方法であって、
前記数モードファイバの各導波モードのモードフィールド径を測定する前に、基本モード又はモードフィールド中心の光強度が最大である導波モードを利用して前記数モードファイバと測定装置との調心を行うことを特徴とするモードフィールド径測定方法。
【請求項5】
前記調心を行うとき、前記数モードファイバと前記測定装置との相対位置を変化させ、前記測定装置が受光する前記数モードファイバからの光の光強度が最大となる前記相対位置を前記モードフィールド径の測定位置とすることを特徴とする請求項4に記載のモードフィールド径測定方法。
【請求項6】
前記調心を行うとき、前記可変開口の開口数を最小にすることを特徴とする請求項4又は5に記載のモードフィールド径測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバのモードフィールド径を測定するモードフィールド径測定装置及びその測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数モードファイバは、将来の大容量光通信を実現するための媒体として有望な光ファイバの一つである。数モードファイバでは、複数の導波モードを伝送チャネルとして用いるため、各導波モードの伝送特性を把握することが重要となる。光ファイバの伝送特性は導波モードの電界分布に密接に関係している。モードフィールド径は、基本モード(LP01モード)の電界の拡がりを表すパラメータであり、これにより基本モードの接続損失、波長分散、後方散乱光捕獲率等を推定可能であるため、従来の単一モードファイバの伝送特性を把握する上で重要なパラメータの一つとなっている。また、高次モードの接続損失、波長分散、後方散乱光捕獲率等も同様に、電界拡がり(モードフィールド径)から推定可能であるため、数モードファイバにおいてもモードフィールド径は重要なパラメータである。
【0003】
単一モードファイバにおけるモードフィールド径の測定方法として、可変開口法(VA法)が知られている。VA法は、可変開口を介して被試験光ファイバからの出力光強度を測定する方法である。非特許文献1は、VA法により数モードファイバにおける各モードのモードフィールド径を測定する方法を開示している。
【0004】
一方、VA法には、測定対象のモードフィールド中心と可変開口の中心との間にずれが生じると、測定精度が劣化し正しくモードフィールド径を得ることができなくなるという課題がある。この課題に対し、非特許文献2は、測定対象のモードフィールド中心と可変開口の中心を一致させるために、「測定前に透過光強度が最大となるように測定対象の光ファイバと可変開口の位置を調心する」という手順を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中村他,“VA法のマルチコアファイバのMFD測定への適用性,” 信学技報, vol.120, no.369, pp.72-75, 2021.
【非特許文献2】IEC 60793-1-45, “Optical fibres - Part 1-45: Measurement methods and test procedures - Mode field diameter,” 2017.
【非特許文献3】A. Nakamura et al., “Mode field diameter definitions for few-mode fibers based on spot size of higher-order Gaussian mode,” IEEE Photonics Journal, vol. 12, no. 2, 7200609, 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1は、本発明の課題を説明する図である。
基本モードの光強度Lidは、モードフィールド中心(≒コア中心)が最大となる(図1(A)を参照。)。このため、小さな開口部を透過する光強度が最大となるように調心すれば、モードフィールド中心と可変開口14の中心が一致する。つまり、基本モードのモードフィールド径を測定する場合は非特許文献2が開示する方法が有効であった。
【0007】
しかし、高次モードの光強度Lidは、必ずしもモードフィールド中心が最大ではない(図1(B)のLP11モードの例を参照。)。このため、小さな開口部を透過する光強度が最大となるように調心しても、モードフィールド中心と可変開口14の中心とは一致しない。つまり、高次モードのモードフィールド径を測定する場合は非特許文献2が開示する方法が有効ではなかった。このように、従来技術には、導波モードによってはモードフィールド径を正確に測定することが困難という課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、前記課題を解決するために、本発明は、任意の導波モードのモードフィールド径を正確に測定することができるモードフィールド径測定装置及びモードフィールド径測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るモードフィールド径測定装置は、基本モード、またはモードフィールド中心の光強度が最大となる導波モードを入射した際の透過光強度が最大となるように測定対象の光ファイバと可変開口との位置を調心したのちに、任意の導波モードのモードフィールド径を測定することとした。
【0010】
具体的には、本発明に係るモードフィールド径測定装置は、可変開口(VA:Variable aperture)を利用したVA法で、数モードファイバの各導波モードのモードフィールド径を測定するモードフィールド径測定装置であって、前記数モードファイバの各導波モードのモードフィールド径を測定する前に、基本モード又はモードフィールド中心の光強度が最大である導波モードを利用して前記数モードファイバとの調心を行う調心器を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るモードフィールド径測定方法は、可変開口(VA:Variable aperture)を利用したVA法で、数モードファイバの各導波モードのモードフィールド径を測定するモードフィールド径測定方法であって、前記数モードファイバの各導波モードのモードフィールド径を測定する前に、基本モード又はモードフィールド中心の光強度が最大である導波モードを利用して前記数モードファイバと測定装置との調心を行うことを特徴とする。
【0012】
ここで、前記調心器は、前記数モードファイバとの相対位置を変化させ、受光器が受光する前記数モードファイバからの光の光強度が最大となる前記相対位置を前記モードフィールド径の測定位置とすることを特徴とする。
【0013】
なお、正確な位置合わせのため、前記調心器は、前記調心を行うとき、前記可変開口の開口数を最小にすることが好ましい。
【0014】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、任意の導波モードのモードフィールド径を正確に測定することができるモードフィールド径測定装置及びモードフィールド径測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の課題を説明する図である。
図2】本発明に係るモードフィールド径測定装置を説明する図である。
図3】本発明に係るモードフィールド径測定方法を説明する工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0018】
図2は、本実施形態のモードフィールド径測定装置100を説明する図である。モードフィールド径測定装置100は、可変開口(VA:Variable aperture)14を利用したVA法で、数モードファイバ(被試験光ファイバ)10の各導波モードのモードフィールド径を測定する装置である。モードフィールド径測定装置100は、
被試験光ファイバ10における測定対象のコアに試験光入力端10aから試験光を測定対象のモードで選択的に入射する試験光入射部100Aと、
可変開口14の開口部14aを通過する試験光出力端10bからの出力光の光強度を測定する光強度測定部100Bと、
試験光入射部100Aで試験光として入射したモードの方位角方向および半径方向のモード次数と、光強度測定部100Bが測定した光強度の開口角θに対する依存性と、を用いて試験光として入射したモードのモードフィールド径を算出するモードフィールド径算出部100Cと、
を備える。
【0019】
試験光入射部100Aは、光源11、及びモード励振器12を有する。光源11から出力される連続光は、モード励振器12で測定対象のモードに変換される。モード励振器12は、例えば、モード合分波器である。モード励振器12で測定対象のモードに変換された連続光は、被試験光ファイバ10の試験光入力端10aから測定対象のコアに入射される。
【0020】
光強度測定部100Bは、開口部14aを有する可変開口14、光学レンズ15、受光器16および制御部17を有する。被試験光ファイバ10の試験光出力端10bから出力された試験光は、可変開口14の開口部14aを通過後に光学レンズ15により集光され受光器16で光電変換される。このとき、開口部14aの開口角θは制御部17からの信号に従って変化させる。また、被試験光ファイバ10の中心軸と可変開口14の開口部14aの中心を合わせるために、被試験光ファイバ10における試験光出力端10bに調心器13を設置する。
【0021】
モードフィールド径算出部100Cは、A/D(アナログ/デジタル)変換器18と信号処理部19を有する。受光器16から出力される光強度に関する信号は、A/D(アナログ/デジタル)変換器18でデジタルデータに変換される。信号処理部19は、制御部17からの開口角θに関する信号と変換器18で変換したデジタルデータに基づいて可変開口14の開口部14aの開口角θに対する光強度を取得する。さらに、信号処理部19は、開口角θに対する光強度と、試験光として入射したモードの方位角方向および半径方向のモード次数と、を用いてモードフィールド径を算出する演算処理を行う。
【0022】
なお、被試験光ファイバ10が複数のコア有するマルチコアファイバ(MCF:Multi-Core Fiber)である場合には、本測定方法および測定装置により得られるモードフィールド径は、被試験光ファイバ10における試験光出力端10bと可変開口14間の距離zに依存するため、距離zは、所望の測定精度に応じて適切に設定する必要がある(非特許文献1を参照。)。
【0023】
図3は、モードフィールド径測定装置100が行うモードフィールド径測定方法を説明する工程図である。本モードフィールド径測定方法は、試験光生成手順S1、調心手順S2、試験光入射手順S3、光強度測定手順S4、及びモードフィールド径算出手順S5を行う。
【0024】
試験光生成手順S1では、光源11が所望の波長を有する試験光を生成する。
【0025】
調心手順S2では、測定対象のコア中心と可変開口14の中心とを一致させるため、調心器13が調心を行う。まず、モード励振器12が、前記試験光を基本モード、またはモードフィールド中心の光強度が最大となる導波モードに変換し、被試験光ファイバ10の試験光入力端10aから測定対象コアに入射する。調心器13は、被試験光ファイバ10の試験光出力端10bから出力される試験光が可変開口14の開口部14aを通過する光強度が最大となるように、被試験光ファイバ10の位置(試験光出力端10bの位置)を調心する。なお、「光強度が最大となる」とは次の意味である。被試験光ファイバ10と開口部14の位置関係を変化させたときに、光強度がどのように変化するかを取得し、その変化の極大値を光強度の最大とする。
【0026】
調心手順S2では、調心精度を上げるため、可変開口14で設定できる最小の開口数に設定する。例えば、開口数を0.02以下に設定することが望ましい。
【0027】
試験光入射手順S3では、モード励振器12が、前記試験光を測定対象の導波モードに変換し、被試験光ファイバ10の試験光入力端10aから測定対象コアに入射する。
【0028】
光強度測定手順S4では、受光器16が可変開口14の開口部14aを通過する被試験光ファイバ10から出力される試験光の光強度を測定する。ここでは、制御部17の指示に基づき、可変開口14が開口部14aの開口数を変化させ、受光器16がそのときの光強度を測定することにより、光強度の開口数依存性を得る。
【0029】
モードフィールド径算出手順S5では、信号処理部19が光強度の開口数依存性からモードフィールド径を算出する。具体的には、信号処理部19は、試験光入射手順S3で前記試験光として入射したモードの方位角方向および半径方向のモード次数と、光強度測定手順S4で測定した光強度の前記開口数依存性と、下記の式(1)と、を用いて前記試験光の導波モードにおけるモードフィールド径を算出する。
【数1】
ただし、MFDはモードフィールド径、νおよびμは試験光として入射したモードの方位角方向および半径方向のモード次数、θは被試験光ファイバ10の中心軸からの可変開口14の開口角、Pνμ(θ)は可変開口14の開口角がθの場合における光強度、θmaxは最大の開口角を表す。
【0030】
モードフィールド径測定装置100は、非測定光ファイバ(数モードファイバ)10の各導波モードのモードフィールド径を測定する前に、基本モード又はモードフィールド中心の光強度が最大である導波モードを利用して、可変開口14と非測定光ファイバ(数モードファイバ)10との調心を行う。このため、モードフィールド径測定装置100は、LP11モードのようにモードフィールド中心で光強度が最大とならない高次モードであっても、非測定光ファイバ10と可変開口14との光軸を合わせることができ、高次モードであってもVA法でモードフィールド径を精度よく測定することができる。
【0031】
[付録]
本章では、式(1)の導出を説明する。
【0032】
方位角方向および半径方向の次数がそれぞれνおよびμの直線偏光モード(LPνμモード)の遠視野における電界分布を以下の式で表す。
【数2】
ただし、θおよびφはそれぞれ、発散角および被試験光ファイバ10の断面における方位角を表す。Efνμ(θ,φ)は遠視野における電界分布、Ψνμ(φ)は方位角方向の変数、Fνμ(θ)は半径方向の電界分布を表す。なお、θは、後述する式(4)を使用することで、開口角と見なせる。
【0033】
このとき、開口角αの可変開口14を通過する光強度は次式で記述できる。
【数3】
ただし、kは真空中での波数を表す。
式(3)の両辺を開口角αで微分すると、以下の式が得られる。
【数4】
【0034】
式(2)よりFνμは発散角を引数に持つ関数なので、式(4)の右辺にあるFνμ(α)のαは、発散角を表す。一方で、式(4)の左辺にあるPνμ(α)のαは、開口角を表す。したがって、式(4)は、発散角αにおける半径方向の電界分布Fνμ(α)を、発散角αと角度の大きさが同じである開口角αの可変開口14を通過した光強度Pνμ(α)で表すことができることを意味する。
【0035】
一方、非特許文献3によると、LPνμモードのモードフィールド径は、遠視野における半径方向の電界分布を用いて、θを発散角として以下の式(5)で表すことができる。
【数5】
【0036】
式(5)に、αをθに置き換えた式(4)を適用することにより、モードフィールド径を算出する式は、以下の式のように書き直すことができる。
【数6】
ただし、θmaxは最大の開口角である。
式(6)では、θを発散角ではなく開口角として扱うことができ、可変開口14を用いて測定した光強度Pνμ(θ)からモードフィールド径を算出することができる。式(6)が式(1)に相当する。
【符号の説明】
【0037】
10:被試験光ファイバ(数モードファイバ)
10a:試験光入力端
10b:試験光出力端
11:光源
12:モード励振器
13:調心器
14:可変開口
14a:開口部
15:光学レンズ
16:受光器
17:制御部
18:A/D変換器
19:信号処理部
100:モードフィールド径測定装置
100A:試験光入射部
100B:光強度測定部
100C:モードフィールド径算出部
図1
図2
図3