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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157042
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】モード交換器及びモード交換方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/02 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
G02B6/02 481
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066683
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰志
(72)【発明者】
【氏名】寒河江 悠途
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 晋聖
【テーマコード(参考)】
2H250
【Fターム(参考)】
2H250AA04
2H250AC34
2H250AC62
2H250AC63
2H250AC64
2H250AC66
2H250AC72
2H250AC83
2H250AC94
2H250AC95
2H250AC96
2H250AE15
2H250AE75
2H250AH11
2H250AH46
(57)【要約】
【課題】大容量通信に適し、且つGDSの増加抑圧もできるモード変換器及びモード変換方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るモード変換器301は、所望のモード間の光パワーを交換するマルチコア光ファイバを備えており、前記マルチコア光ファイバは、スーパーモード導波領域となるコア間隔Λであること、及び前記所望のモード間に対応する捻じれ周期Λtwistが付与されていることを特徴とする。光伝送システムの伝送路50の途中(伝送路50-1と伝送路50-2との接続点)にモード変換器301が配置される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望のモード間の光パワーを交換するマルチコア光ファイバを備えるモード交換器であって、
前記マルチコア光ファイバは、
スーパーモード導波領域となるコア間隔であること、及び
前記所望のモード間に対応する捻じれ周期が付与されていること
を特徴とするモード交換器。
【請求項2】
前記捻じれ周期は、
Λtwist=λ/Δneff
で定められることを特徴とする請求項1に記載のモード交換器。
ただし、Λtwist(mm)は前記捻じれ周期、λ(mm)は伝搬する光の波長、Δneffは前記所望のモード間の実効屈折率差である。
【請求項3】
マルチコア光ファイバに光伝送路の光を通過させ、前記光伝送路における所望のモード間の光パワーを交換するモード交換方法であって、
前記マルチコア光ファイバは、
スーパーモード導波領域となるコア間隔であること、及び
前記所望のモード間に対応する捻じれ周期が付与されていること
を特徴とするモード交換方法。
【請求項4】
前記捻じれ周期は、
Λtwist=λ/Δneff
で定められることを特徴とする請求項3に記載のモード交換方法。
ただし、Λtwist(mm)は前記捻じれ周期、λ(mm)は伝搬する光の波長、Δneffは前記所望のモード間の実効屈折率差である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マルチコアあるいはマルチモード光ファイバを利用するモード多重伝送システムにおいて、伝搬するモード間の光パワーを交換する機能を有するモード交換器及びモード交換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信システムでは、光ファイバ中で発生する非線形効果やファイバヒューズが問題となり、伝送の大容量化が制限されている。これらの制限を緩和するためには、光ファイバに導波する光の密度を低減する必要があり、非特許文献1に示すように大コアファイバが検討されている。
【0003】
しかし、曲げ損失低減、単一モード動作領域の拡大、実効断面積の拡大は互いにトレードオフの関係にあり、所定の条件下における実効断面積の拡大量には限界があるという課題があった。そこで、伝送ファイバにマルチモードファイバを用い、伝搬する複数のモードを用いて並列伝送を行うモード多重伝送システムが、飛躍的な大容量化を実現する技術として検討されている(例えば、非特許文献2を参照。)。
【0004】
また、伝送路中で発生するモード間の結合を、受信端のMIMO信号処理で補償する光MIMO伝送が提案されている。また、モード間の群遅延差が大きいとMIMO信号処理の負荷が増大することから、低モード間群遅延差(DMD)ファイバの検討が行われている(詳細は非特許文献3,4を参照。)。
【0005】
一方で、マルチコア光ファイバ(MCF)であっても、MIMO技術を用いると受信端においてクロストークを補償することが可能であり、コア間距離を小さくし、クロストークが-26dB以上であっても信号処理によりパワーペナルティを1dB未満とすることができ、空間利用効率を向上させることができる。しかしながら、MIMO技術を適用する場合、伝送路中で発生する複数の信号光間の群遅延差(DMD)に起因する群遅延広がり(GDS)が大きいと、伝送路のインパルス応答幅が大きくなり、信号処理の増大を招く。
【0006】
各コアの構造が単一のモードを伝搬する構造であるシングルモードマルチコア光ファイバにおいては、非特許文献5に記載の通り、モード間でランダムな結合を誘起させるようコア構造及びコア間隔が調整された結合型シングルモードMCFが検討されている。
【0007】
一般に、同種コアシングルモードMCFであっても、製造誤差により各コアの構造がわずかに異なり、各コアを伝搬するモードの群速度が異なることから、DMDは同種コア構造で設計しても0にはならないが、モード間でランダムな結合を誘起することで、GDSが距離の平方根に比例して大きくなるようになり、主に長距離伝送(100km以上)の伝送においては、GDSを大幅に低減することが可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】T. Matsui, et al., “Applicability of Photonic Crystal Fiber With Uniform Air-Hole Structure to High-Speed and Wide-Band Transmission Over Conventional Telecommunication Bands,” J. Lightwave Technol. 27, 5410-5416, 2009.
【非特許文献2】N. Hanzawa et al., “Demonstration of mode-division multiplexing transmission over 10 km two-mode fiber with mode coupler,” OFC2011, paper OWA4 (2011)
【非特許文献3】R. Ryf et al., “Mode-division multiplexing over 96 km of few-mode fiber using coherent 6 × 6 MIMO processing,” J. Lightw. Technol., vol. 30, pp. 521-531 (2012).
【非特許文献4】T. Mori et al., “Few-mode fibers supporting more than two LP modes for mode-division-multiplexed transmission with MIMO DSP,” J. Lightw. Technol., vol. 32, pp. 2468-2479 (2014).
【非特許文献5】T. Sakamoto, T. Mori, M. Wada, T. Yamamoto, F. Yamamoto, and K. Nakajima, “Fiber Twisting- and Bending-Induced Adiabatic/Nonadiabatic Super-Mode Transition in Coupled Multicore Fiber,” J. Lightwave Technol. 34, 1228-1237 (2016).
【非特許文献6】T. Fujisawa et al., “Group delay spread analysis of coupled-multicore fibers: A comparison between weak and tight bending conditions,” Opt. Commun., vol. 393, no. 9, pp. 232-237, 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ただし、非特許文献5に記載の通り、コア間隔を小さくしすぎると伝搬モード間の実効屈折率差が大きくなり、ファイバ中でモード間の結合量が低下し、ランダムな結合が得られず、GDSが増加する。このように、マルチコア光ファイバには、ランダムな結合を得るための好ましいコア間隔の範囲が存在する。
一方、限られたファイバ断面積でより大容量の通信を行うためには、コアの配置密度を高く(すなわちコア間隔を小さく)することが望ましい。
【0010】
このように、コア密度の高く(コア間隔が小さい)大容量通信に適したマルチコア光ファイバには、コア間隔の観点からGDSの増加抑圧が困難という課題があった。そこで、本発明は、前記課題を解決するために、大容量通信に適し、且つGDSの増加抑圧もできるモード変換器及びモード変換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係るモード変換器は、狭いコア間隔のマルチコアファイバを備え、当該マルチコア光ファイバにモード間の実効屈折率差に応じた適切なねじれを付与することとした。
【0012】
具体的には、本発明に係るモード変換器は、所望のモード間の光パワーを交換するマルチコア光ファイバを備えるモード交換器であって、
前記マルチコア光ファイバは、
スーパーモード導波領域となるコア間隔であること、及び
前記所望のモード間に対応する捻じれ周期が付与されていること
を特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るモード変換方法は、マルチコア光ファイバに光伝送路の光を通過させ、前記光伝送路における所望のモード間の光パワーを交換するモード交換方法であって、
前記マルチコア光ファイバは、
スーパーモード導波領域となるコア間隔であること、及び
前記所望のモード間に対応する捻じれ周期が付与されていること
を特徴とする。
【0014】
コア間隔が狭く、モード間でランダムな結合が得られない結合型マルチコア光ファイバでも、適切な捻じれを付与することで、任意のモード間の光パワーが交換することが促進される。このため、大容量通信のためにコア間隔を狭くすることと、GDSの増加を抑圧することの相反する要求を満たすことができるマルチコア光ファイバが得られる。このマルチコア光ファイバを利用することで、大容量通信に適し、且つGDSの増加抑圧もできるモード変換器及びモード変換方法を提供することができる。
【0015】
例えば、前記捻じれ周期は、
Λtwist=λ/Δneff
で定められることを特徴とする。
ただし、Λtwist(mm)は前記捻じれ周期、λ(mm)は伝搬する光の波長、Δneffは前記所望のモード間の実効屈折率差である。
【0016】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、大容量通信に適し、且つGDSの増加抑圧もできるモード変換器及びモード変換方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】結合型マルチコアファイバの断面構造を説明する図である。
図2】3コア構造の結合型マルチコアファイバにおける群遅延広がり(GDS)の計算結果を説明する図である。
図3】コア間隔及びコア数とGDSとの関係を説明する図である。
図4】4コアのマルチコア光ファイバの実効屈折率とモード間の最大群遅延差の計算結果を説明する図である。
図5】4コアのマルチコア光ファイバにおける各モードの電界分布を説明する図である。
図6】本発明に係るモード変換器を配置した光伝送システムを説明する図である。
図7】本発明に係るモード変換器を配置した光伝送システムにおいて伝送路50が1kmであるときのGDSを計算した結果を説明する図である。
図8】曲げ半径R=1000mmで曲げられた光ファイバにおけるコア間隔Λとモード間のビート長Λbeatとの関係を説明する図である。
図9】4コア構造のマルチコア光ファイバにおける伝搬長に対する各モードの強度変化の計算結果を説明する図である。
図10】本発明に係るモード変換器のマルチモード光ファイバを設計する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0020】
図1は、結合型マルチコアファイバの断面構造を説明する図である。コア数が2,3,4,6の例を示しており、コア半径をa,コア間隔(隣接するコアの中心間隔)をΛとしている。図2は、コアを円環状に配置した3コア構造の結合型マルチコアファイバにおける群遅延広がり(GDS)の計算結果を説明する図である。
【0021】
ここで、コアの屈折率分布はステップ型とし、コア半径aは4.5μm、比屈折率差は0.35%とし、コア間隔Λを変化させたときのGDSを算出した。なお、GDSの算出には非特許文献6に記載の解析法及びパラメータを用いている。具体的には、光ファイバの曲げ半径を140mm、捻じれ速度を0.5πrad/m、捻じれ速度の標準偏差σγを0.1rad/mとし、波長は1550nmとしている。また、伝搬距離は1kmとしている。ところで、非特許文献6に記載の通り、マルチコアファイバの各コアの屈折率分布は理想的に同一と仮定するのは、光ファイバの製造に伴う誤差を考慮すると現実的でないため、本計算ではコア間の比屈折率差の偏差σΔを0.001%と設定している。
【0022】
図2のようにモード間の結合状態は主に3つに分類できる。コア間隔が大きな領域では、いわゆる非結合型のマルチコアファイバに分類される構造となり、GDSは各コアの構造偏差に起因するコア間スキューによってGDSが距離に比例して広がっていく。これを弱結合領域と定義し、各コアを独立した構造とみなした場合の各伝搬モードの群速度差に比例してGDSが広がる。
【0023】
一方で、コア間隔が25-30μmの領域においては、非特許文献5及び6で設計されているようなモード間でランダムな結合が生じ、GDSが距離の平方根に比例して増加する特性を示す。このような領域をランダム結合領域と定義し、GDS波形がガウス波形を示す。
【0024】
さらにコア間隔を低減すると、複数のコアにまたがって導波するスーパーモードと呼ばれるモードが伝搬し、コア間隔が小さくなるとそれらの実効屈折率差が大きくなり、スーパーモード間の結合が抑制されることから、数モードファイバと同じようにモード間の群遅延差に比例してGDSが増加する。これをスーパーモード導波領域と定義する。
【0025】
図2のように、コア間隔を狭くしていくと、コア間隔が25-30μmの範囲でGDSが最小値をとり、それ以上狭くしていくとGDSが増加する。
【0026】
上記で述べた傾向はコア数に限らず同様の傾向を示す。図3に、コア間隔を18μmまたは25μmとし、コア数を2から7まで変化させたときのGDSを計算したものである。計算条件は図2で述べたときと同じである。また、コアの配置は、円環状配置としている。
【0027】
図3より、何れのコア数においてもコア間隔が25μmのマルチコア光ファイバがコア間隔が18μmのマルチコア光ファイバよりGDSが小さくなっていることがわかる。この結果より、何れのコア数のマルチコア光ファイバであっても、コア間隔が25μmでGDSがガウス波形を示し、モード間でランダムな結合が得られるのに対し、コア間隔が18μm以下ではモード間の結合量の低下する、といえる。
【0028】
(実施形態1)
本実施形態は、コア間隔が小さく、モード間でランダムな結合が得られないスーパーモード導波領域の結合型マルチコアファイバ(例えばコア間隔が18μm以下)を伝送路として用いた光通信システムを開示する。そして、本光通信システムは、伝送路のマルチコア光ファイバ、あるいは伝送路途中に挿入したモード交換用のマルチコア光ファイバで任意のモード間のパワーを交換することを特徴とする。
【0029】
図4は、本実施形態で開示する円環状に配置された4コア構造のマルチコア光ファイバの実効屈折率(図4(A))、モード間の最大群遅延差の計算結果(図4(B))を説明する図である。ここで、コアの屈折率分布はステップ型とし、コア半径は4.5μm、比屈折率差は0.35%とした。計算時の波長は1550nmである。
【0030】
光ファイバ中を伝搬するモード数は、コアが4つなので4モードである。図4(A)より、コア間隔が狭くなるとモード間の実効屈折率差は大きくなることがわかる。これは、コア間隔が狭くなるとモード間の結合が弱まることを意味する。また、図4(B)より、コア間距離が狭くなるとモード間の群遅延特性(GDS)が大きくなることがわかる。例えば、コア間隔が18μmの場合、モード間のランダムな結合は得られず、GDSはモード間の群遅延差と同じ値である460psとなる。
【0031】
なお、図5は、伝搬するモードの電界分布の計算例を説明する図である。コア間距離が非結合マルチコアファイバ(一般的にコア間隔が35μm以上)に対して小さい結合型マルチコアファイバ(一般的にコア間隔25μm以下)では、伝搬するモードは複数のコアにまたがった電界分布を有する。
【0032】
図6は、本実施形態のモード変換器を配置した光伝送システムを説明する図である。本光伝送システムは、伝送路50の途中(伝送路50-1と伝送路50-2との接続点)に本実施形態のモード変換器301を配置する。モード変換器301は、所望のモード間の光パワーを交換するマルチコア光ファイバを備えており、前記マルチコア光ファイバは、スーパーモード導波領域となるコア間隔Λであること、及び前記所望のモード間に対応する捻じれ周期Λtwistが付与されていることを特徴とする。
【0033】
伝送路50は、例えば、結合型マルチコア光ファイバである。この場合、伝送路50の結合型マルチコア光ファイバとモード変換器301のマルチコア光ファイバとが同種とすること(1本の結合型マルチコア光ファイバの一部に捻じれを加えることで伝送路50の途中にモード変換器301を配置した構成を形成すること)ができる。また、伝送路50は、数モードファイバであってもよい。この場合、伝送路50の数モードファイバを伝搬するモードをモード交換器301のマルチ光コアファイバに入射するために、数モードファイバとマルチコア光ファイバの間に、モード合分波器及びマルチコア光ファイバ用のファンイン・ファンナウトを適宜配置する。
【0034】
図7は、図6の光伝送システムにおいて伝送路50が1kmであるときのGDS(捻じり区間Lが一定で捩じり速度(1回転する周期長)を変化させたときのGDS)を計算した結果を説明する図である。伝送路50は、結合型マルチコア光ファイバであり、伝送路50-1と伝送路50-2がともに500mである。なお、モード変換器301のマルチコア光ファイバは、円環上に配置された4コア構造(ここではコア間隔Λ=18μm)であり、ゆるやかに曲がりながら(ここでは曲げ半径R=1100mm)捻じられている。ここで、当該マルチコア光ファイバが1回転する周期長をΛtwist(mm)、当該マルチコア光ファイバの長さをL=67mmとする。計算結果より、特定(ここではΛtwist=45mm)の捻じれ周期においてGDSが低減されていることがわかる。
【0035】
GDSを低減できる捻じれ周期長Λtwistについては、モード間の実効屈折率差により決定される。図8は、曲げ半径R=1000mmで曲げられた光ファイバにおけるコア間隔Λとモード間のビート長Λbeatとの関係を説明する図である。波長λは1550nmである。ビート長Λbeatはモードの伝搬方向における平均的な実効屈折率をneffとしたとき次式で計算できる。
[式1]
Λbeat=λ/Δneff
λは伝搬する光の波長、Δneffはモード間の実効屈折率差である。
【0036】
計算した4コアファイバにおいては第二及び第三モードはほぼ同一の実効屈折率を有していることから、モード間の実効屈折率差Δneffの組み合わせとしては、第一と第二・三モード間(一点鎖線)、第二・三と第四モード間(破線)、第一と第四モード間(実線)がある。例えば、コア間隔Λ=18μmのとき、第一と第二・三モード、第二・三と第四モードの実効屈折率差に相当するビート長は、およそ40mmとなる。
【0037】
なお、ビート長とは、光ファイバ中でモード変換を行う長周期グレーティングなどで、モード変換を行うための条件として広く用いられている位相整合条件である。一般に、光ファイバグレーティングなどでは、コアの部分の屈折率を周期的に変調し(屈折率の高い部分と低い部分を光ファイバの長手方向に交互に繰り返し)、その周期を式1を満たすように設定することでモード交換が可能となる。
【0038】
つまり、図8で示すように、コア間隔に対応するビート長にあった捻じれ周期長Λtwistを付与することで、特定のファイバ長でモード間のパワーが交換され、GDSが低減できる。なお、捻じれ周期Λtwistとビート長の関係は
[式2]
Λtwist≒Λbeat=λ/Δneff
のように表されるが、Λbeatは伝搬方向に対して平均化された実効屈折率より求められる値であり、Λtwistとビート長は必ずしも一致しない。
【0039】
図9は、前述した4コア構造のマルチコア光ファイバにおける伝搬長に対する各モードの強度変化の計算結果を説明する図である。図より、第一モードはまず第二・三モードに変換され、次に第四モードに変換される。これらの変化は伝搬長に対して周期的であり、適切な光ファイバ長に設定することで、第一・四モードの光パワーの交換を実現している。つまり、図9のような結果から所望のモード同士の交換を発生させるファイバ長Lを見出すことができる。
【0040】
(実施形態2)
本実施形態では、モード変換器301が備えるマルチコア光ファイバの設計方法を説明する。図10は、当該設計方法を説明するフローチャートである。本設計方法は、
スーパーモード導波領域となるコア間隔であるマルチコア光ファイバを選定すること(ステップS01)、
モード交換しようとするモード間に対応する捻じれ周期を計算すること(ステップS02)、及び
モード交換しようとする各モードの伝搬長に対する強度変化から捻じり区間Lを見出すこと(ステップS03)
を行う。
【0041】
ここで、前記捻じれ周期は、
Λtwist=λ/Δneff
で定められることを特徴とする。
ただし、Λtwist(mm)は前記捻じれ周期、λ(mm)は伝搬する光の波長、Δneffは前記所望のモード間の実効屈折率差である。
【0042】
(他の実施形態)
(1)コア配列
実施形態1では、コアが円環状の配列されたマルチコア光ファイバを備えるモード変換器を説明した。しかし、当該マルチコア光ファイバのコア配列は円環状に限らない。格子状配列、六方最密配列など、任意のコア配列であっても、式1のようにビート長Λbeatを計算し、式2によってマルチコア光ファイバに与える捻じれ周期Λtwistを得ることができる。そして、図9のように伝搬長に対する各モードの強度変化の計算結果より、捻じれを与える長さLを取得する。
【0043】
(2)マルチコア光ファイバの曲げ半径
実施形態1では、モード変換器が備えるマルチコア光ファイバの曲げ半径を1000mmと1100mmの2つを例示した。しかし、当該マルチコア光ファイバの曲げ半径はその例に限らない。曲げ半径は30mm以上であればよい。曲げ半径が変化すると比屈折率差Δneffが変わり、式1に示すようにΛbeatが変化する(例えば、曲げ半径が小さくなるとΔneffが大きくなるためΛbeatが短くなる)。つまり、モード変換器内に備えるマルチコア光ファイバの曲げ半径に応じたΛbeatを計算し、式2によってマルチコア光ファイバに与える捻じれ周期Λtwistを得ることができる。そして、図9のように伝搬長に対する各モードの強度変化の計算結果より、捻じれを与える長さLを取得する。
【0044】
(3)光伝送システムに配置するモード変換器の数
図6では、モード変換器301を1つ備える光伝送システムを説明した。しかし、光伝送システムが備えるモード変換器301の数は複数であってもよい。図8の説明のように、全てのモードの交換(第一と第二・三モード、第二・三モードと第四モード、第一と第四モード間の交換)には、2種類の捻じれ(約20mmと約40mm)のマルチモード光ファイバが必要である。このため、光伝送システムにおいて、全てのモード交換を行う場合、20mm捻じれのマルチコア光ファイバを備えるモード交換器と40mm捻じれのマルチコア光ファイバを備えるモード交換器が必要であり、伝送路の間に2つのモード交換器を直列に配置する。つまり、交換したいモードに応じた数のモード交換器を光伝送システムに配置する。
【0045】
(効果)
本発明に係るモード変換器は、スーパーモード導波領域となるコア間隔のマルチコア光ファイバをビート長から得られる捻じれ周期で捻じり、光伝送路中に配置することで特定のモードから他の特定のモードへのモード結合を促進させることができる。
本発明に係るモード変換器によって、信号伝搬後の群遅延広がりが小さいため、受信端でモード間クロストークを補償するMIMO処理における計算負荷が小さくなるという効果を奏する。また、伝送路中で生じたモード間の損失差などの特性差を平均化することができ、受信端での信号品質が向上するという効果も奏する。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、マルチコアあるいはマルチモード光ファイバを用いたモード多重伝送システムの大容量・長距離通信を実現することができる。
【符号の説明】
【0047】
50、50-1、50-2:伝送路
301:モード変換器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10