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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023170674
(43)【公開日】2023-12-01
(54)【発明の名称】量子ドット発光素子及び表示装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/14 20060101AFI20231124BHJP
   H05B 33/28 20060101ALI20231124BHJP
   H05B 33/26 20060101ALI20231124BHJP
   H05B 33/22 20060101ALI20231124BHJP
【FI】
H05B33/14 Z
H05B33/28
H05B33/26 Z
H05B33/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022082582
(22)【出願日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】本村 玄一
(72)【発明者】
【氏名】都築 俊満
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 有希子
(72)【発明者】
【氏名】桑畑 進
(72)【発明者】
【氏名】上松 太郎
(72)【発明者】
【氏名】鳥本 司
(72)【発明者】
【氏名】亀山 達矢
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA06
3K107AA07
3K107BB01
3K107BB02
3K107BB03
3K107BB04
3K107BB06
3K107CC07
3K107DD22
3K107DD28
3K107DD55
3K107DD56
3K107DD57
3K107DD75
3K107DD84
(57)【要約】
【課題】低毒性な多元系量子ドット材料を用いて、周辺材料の影響による発光特性の低下を抑制しつつ、色純度の高い光を発することが可能な量子ドット発光素子を提供する。
【解決手段】陰極30と、電子注入層40と、発光層50と、陽極80と、をこの順に具え、前記発光層50が、第11族元素と、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなる量子ドットを含み、前記電子注入層40が、第13族元素の化合物で表面処理されていることを特徴とする、量子ドット発光素子10である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と、電子注入層と、発光層と、陽極と、をこの順に具え、
前記発光層が、第11族元素と、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなる量子ドットを含み、
前記電子注入層が、第13族元素の化合物で表面処理されていることを特徴とする、量子ドット発光素子。
【請求項2】
前記電子注入層が、亜鉛の酸化物を含み、且つガリウム化合物で表面処理されている、請求項1に記載の量子ドット発光素子。
【請求項3】
前記ガリウム化合物が、塩化ガリウムを含む、請求項2に記載の量子ドット発光素子。
【請求項4】
前記量子ドットが、コアと、該コアの周りを覆うシェルと、を具え、
前記シェルが、第13族元素と、第16族元素と、を含む、請求項1に記載の量子ドット発光素子。
【請求項5】
前記シェルが、ガリウムと、硫黄と、を含む、請求項4に記載の量子ドット発光素子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット発光素子及び表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表示装置に求められる重要な特性の一つとして、色再現性がある。特に、4K8Kスーパーハイビジョンの表色系は、自然界に実在するほぼ全ての物体色及び既存表色システムの色域を包含することを目指しており、4K8Kスーパーハイビジョンを表示する表示装置には、広い色域の色再現性が求められる。ここで、自発光型の表示装置の場合、青、緑、赤の各色の発光材料の色純度を高くする必要がある。
【0003】
近年、下記特許文献1や非特許文献1に開示されているように、半導体ナノ結晶からなる量子ドットを発光材料として用いた電界発光素子(量子ドット発光素子)が提案されている。量子ドットは、その組成及び結晶粒径を変えることにより発光色を制御することができ、粒径分布を均一にすることにより発光スペクトルの半値幅を小さくすることができる。この発光スペクトルの半値幅が小さい利点を生かして、量子ドットは、表示色域の広い表示装置用の発光材料として利用できる可能性がある。また、量子ドットを用いた電界発光素子の中には、半値幅30nm以下、外部量子効率で約20%を実現した例も存在する(非特許文献2)。
【0004】
しかしながら、半値幅が狭く且つ高効率発光が得られる量子ドットの材料は、毒性の高いカドミウムを含む化合物であるセレン化カドミウム(Cd-Se)や硫化カドミウム(Cd-S)等を主成分とする材料が用いられている。量子ドット発光素子を表示装置に応用する場合、環境や人体への影響を考慮して、毒性の低い材料を用いることが求められる。これに対して、カドミウムを含まない量子ドット材料(低毒性量子ドット材料)として、In-PやCu-In-Zn-Sを主成分として用いた材料が報告されている(非特許文献3、4、5)。また、第11族元素-第13族元素-第16族元素からなる多元系の量子ドットも知られている。
【0005】
上記非特許文献3、4、5に記載のような、低毒性量子ドット材料を用いた量子ドット発光素子の発光スペクトルの半値幅は、カドミウムを含む量子ドット材料を用いた量子ドット発光素子に比較して大きく、即ち、色純度が低いのが現状である。
特に、第11族元素-第13族元素-第16族元素からなる多元系の量子ドットから発せられる光は、粒子表面や内部の欠陥準位、或いは、ドナー・アクセプター対再結合に由来するものであるため、発光スペクトルがブロードとなり、色純度が低かった。
【0006】
これに対し、下記特許文献2に開示されているように、第11族元素-第13族元素-第16族元素からなるコアと、該コアの表面を覆い、第13族元素-第16族元素からなるシェルと、を具える半導体ナノ粒子が開発されており、該半導体ナノ粒子を用いることで、多元系量子ドット材料を用いた量子ドット発光素子の高色純度化が進んでいる。
【0007】
一方、上記の量子ドットを用いた電界発光素子の発光性能を高めるために、量子ドットを電荷の輸送や注入を行うための各種材料と適切に組み合わせて素子化することが検討されている。例えば、量子ドットへの電子注入性に優れた酸化亜鉛ナノ粒子を組み合わせた例(非特許文献6)、発光層に量子ドットと共に電子輸送性の材料を含ませた例(特許文献3)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4948747号公報
【特許文献2】特開2018-44142号公報
【特許文献3】特開2021-118161号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】シラサキら(Y.Shirasaki et.al),ネイチャー・フォトニクス(Nature Photonics),7,13(2013)
【非特許文献2】X.ダイら(X.Dai et al.),ネイチャー(Nature),515,96(2014)
【非特許文献3】J.リムら(J.Lim et al.),ケミストリー・オブ・マテリアルズ(Chemistry Of Materials),23,4459(2011)
【非特許文献4】J.リムら(J.Lim et al.),エーシーエス・ナノ(ACS NANO),7,9019(2013)
【非特許文献5】Z.リウら(Z.Liu et al.),オーガニック・エレクトロニクス(Organic Electronics),36,97(2016)
【非特許文献6】L.キアンら(L.Qian et al.),ネイチャー・フォトニクス(Nature Photonics),5,543(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、本発明者らが、上記のような多元系量子ドット材料を用いた量子ドット発光素子に関する検討を進めたところ、電界発光(EL)スペクトルにおいて、狭スペクトルな高色純度成分の他にブロードな欠陥発光が生じることが分かった。
【0011】
また、例えば、酸化亜鉛ナノ粒子を電子注入層として用いた場合、高い電子注入性を示す一方で、含まれる亜鉛成分の影響で多元系量子ドットの発光特性が低下することが分かった。
【0012】
また、特許文献3に開示されているように、EL素子の発光層に、かかる量子ドットと共に電子輸送性の材料を含ませることで、ELスペクトルに現れる欠陥発光を抑制できるが、EL素子条件によっては抑制しきれずに欠陥発光が残る場合がある。
【0013】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、低毒性な多元系量子ドット材料を用いて、周辺材料の影響による発光特性の低下を抑制しつつ、色純度の高い光を発することが可能な量子ドット発光素子を提供することを課題とする。
また、本発明は、かかる量子ドット発光素子を具え、低毒性としつつ、広色域表示が可能な表示装置を提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、第11族元素-第13族元素-第16族元素からなる多元系の量子ドットを用いた電界発光素子(EL素子)の電子注入層に対し、第13族元素の化合物による表面処理を行うことで、発光特性の低下とELスペクトルに現れる欠陥発光を抑制でき、高色純度な発光素子を作製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
上記課題を解決する本発明の量子ドット発光素子及び表示装置の要旨構成は、以下の通りである。
【0015】
[1] 陰極と、電子注入層と、発光層と、陽極と、をこの順に具え、
前記発光層が、第11族元素と、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなる量子ドットを含み、
前記電子注入層が、第13族元素の化合物で表面処理されていることを特徴とする、量子ドット発光素子。
[1]に記載の本発明の量子ドット発光素子は、電子注入層による発光特性の低下を抑制しつつ、色純度の高い光を発することが可能である。
【0016】
[2] 前記電子注入層が、亜鉛の酸化物を含み、且つガリウムを含む化合物で表面処理されている、[1]に記載の量子ドット発光素子。
[2]に記載の量子ドット発光素子においては、亜鉛の酸化物を含む電子注入層と、発光層中の量子ドットとの相互作用が更に抑制され、発光特性の低下を更に抑制しつつ、色純度の更に高い光を発することができる。
【0017】
[3] 前記ガリウム化合物が、塩化ガリウムを含む、[2]に記載の量子ドット発光素子。
[3]に記載の量子ドット発光素子においては、欠陥発光成分を抑制する効果がより大きくなる。
【0018】
[4] 前記量子ドットが、コアと、該コアの周りを覆うシェルと、を具え、
前記シェルが、第13族元素と、第16族元素と、を含む、[1]~[3]のいずれか一つに記載の量子ドット発光素子。
[4]に記載の量子ドット発光素子によれば、色純度の更に高い光を発することが可能となる。
【0019】
[5] 前記シェルが、ガリウムと、硫黄と、を含む、[4]に記載の量子ドット発光素子。
[5]に記載の量子ドット発光素子によれば、色純度の更に高い光を発することが可能である。
【0020】
[6] [1]~[5]のいずれか一つに記載の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする、表示装置。
[6]に記載の本発明の表示装置は、低毒性としつつ、広色域表示が可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、低毒性としつつ、発光特性の低下を抑制した、色純度の高いEL発光が可能な量子ドット発光素子を提供することができる。
また、本発明によれば、かかる量子ドット発光素子を具え、低毒性としつつ、広色域表示が可能な表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の量子ドット発光素子の構造の一例を示した概略図である。
図2】量子ドットの構造の一例を示した模式図である。
図3】実施例1及び比較例1の量子ドット発光素子に用いた量子ドットの分散液及び薄膜のPLスペクトルである。
図4】(a)実施例1の量子ドット発光素子のELスペクトル及び(b)比較例1の量子ドット発光素子のELスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の量子ドット発光素子及び表示装置を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0024】
<<量子ドット発光素子>>
本発明の量子ドット発光素子は、陰極と、電子注入層と、発光層と、陽極と、をこの順に具える。そして、本発明の量子ドット発光素子においては、前記発光層が、第11族元素と、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなる量子ドットを含み、前記電子注入層が、第13族元素の化合物で表面処理されていることを特徴とする。
【0025】
本発明の量子ドット発光素子に用いる量子ドットは、カドミウムを含むことを要しないため、従来のセレン化カドミウム(Cd-Se)や硫化カドミウム(Cd-S)等を含むCd系の量子ドットに比べて、低毒性とすることが可能である。
また、本発明の量子ドット発光素子においては、電子注入層が、陰極からの電子注入を容易にし、例えば、素子の発光開始電圧の低減に寄与する。そして、該電子注入層の表面を第13族元素の化合物で覆うことで、電子注入層の構成成分との接触による量子ドットの発光特性の低下とELスペクトルに現れる欠陥発光を抑制することができる。
従って、本発明の量子ドット発光素子は、低毒性とすることが可能な上、電子注入層による発光特性の低下を抑制しつつ、色純度の高い光を発することが可能である。
【0026】
次に、本発明の量子ドット発光素子の一態様を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の量子ドット発光素子の構造の一例を示した概略図である。図1に示す量子ドット発光素子10は、基板20上に、陰極30、電子注入層40、発光層50、正孔輸送層60、正孔注入層70及び陽極80を、この順に積層した構成を有する。なお、図1に示す量子ドット発光素子10は、下部に配置した陰極30側より電子を注入し、上部に配置した陽極80より正孔を注入する構成となっているが、本発明の量子ドット発光素子は、これに限定されるものではなく、上下を逆転した構造であってもよい。また、本発明の量子ドット発光素子においては、電子注入層40と、発光層50との間に、電子輸送層(図示せず)が更に存在していてもよい。
【0027】
<基板>
前記基板20は、当該基板20側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、透明な材料からなることが好ましい。かかる透明な材料としては、ガラス、石英、プラスチックフィルム等を例示することができる。ここで、プラスチックフィルムの材質としては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。
一方、上部電極側から光を取り出すトップエミッション型素子の場合には、基板20の材料は、必ずしも透明な材料である必要はない。基板20として、不透明基板を用いる場合、該不透明基板としては、例えば、着色したプラスチックフィルム基板、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板等が挙げられる。
また、基板20として、例えば、プラスチックフィルム等の可撓性基板を用い、その上に量子ドット発光素子を形成した場合には、画像表示部を容易に変形することのできるフレキシブル量子ドット発光素子とすることができる。
前記基板20の平均厚さは、特に限定されるものではないが、0.001~30mmが好ましく、0.01~1mmがより好ましい。
【0028】
<陰極>
前記陰極30は、基板20側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、透明で導電性の高い材料からなることが好ましい。この場合、陰極30としては、例えば、インジウム-錫-酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛-酸化物(IZO)等の導電性透明酸化物を用いることができる。
一方、上部電極側から光を取り出すトップエミッション型素子の場合には、陰極30の材料は、必ずしも透明な材料である必要はないため、陰極30として、金属電極を用いてもよい。ここで、陰極30の材料としては、仕事関数が比較的小さい金属が好ましい。仕事関数の小さい金属を用いることにより、陰極30から有機層への電子注入障壁を低くすることができ、電子を注入させ易くすることができる。陰極30に用いる金属としては、例えば、Al、Mg、Ca、Ba、Li、Na等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
前記陰極30の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmが好ましく、50~200nmが更に好ましい。
【0029】
<電子注入層>
前記電子注入層40は、陰極30からの電子注入を容易にするために形成する。該電子注入層40の材料としては、金属酸化物を用いることができ、亜鉛の酸化物を用いることが好ましい。ここで、該亜鉛の酸化物は、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とすることが好ましく、ZnOをベースに金属をドープした材料でもよい。亜鉛の酸化物中のZnOの含有率は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上が更に好ましく、100質量%であってもよい。また、ドープする金属としては、Mg、Al、Li、Ga等が挙げられる。ZnOをベースに金属をドープした材料としては、例えば、酸化マグネシウム亜鉛(Zn-Mg-O)等が挙げられる。
【0030】
電子注入層40の形成には、ナノ粒子を用いることが好ましい。該ナノ粒子の粒径は、1nm~100nmが好ましく、1nm~10nmが更に好ましい。好ましくは、酸化亜鉛ナノ粒子等の金属酸化物のナノ粒子をスピンコート法によって成膜した薄膜を、電子注入層40として用いることができる。
前記電子注入層40の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましい。
【0031】
前記電子注入層40は、第13族元素の化合物で表面処理されていることを特徴とする。電子注入層40に対し、第13族元素の化合物による表面処理を行うことで、電子注入層の構成成分(例えば、亜鉛成分等)と量子ドットとの接触を抑制することができる。表面処理は、電子注入層40の表面に加えて、電子注入層40の内部の材料(粒子)の表面に施してもよい。前記第13族元素としては、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)が挙げられ、これらの中でも、ガリウム(Ga)が好ましく、即ち、ガリウム化合物で表面処理を行うことが好ましい。第13族元素として、1種の元素のみが含まれてもよいが、2種以上の元素が含まれていてよい。
【0032】
前記電子注入層40は、亜鉛の酸化物を含み、且つガリウム化合物で表面処理されていることが好ましい。亜鉛の酸化物を含む電子注入層40をガリウム化合物で表面処理することで、ELスペクトルにおける欠陥発光成分を抑制する効果がより顕著になる。
【0033】
表面処理に用いるガリウム化合物としては、塩化ガリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ガリウム、ガリウムアセチルアセトナト、酸化ガリウム、硝酸ガリウム等が挙げられ、これらの中でも、塩化ガリウムが好ましい。表面処理に用いるガリウム化合物が、塩化ガリウムを含む場合、ELスペクトルにおける欠陥発光成分を抑制する効果がより大きくなる。
【0034】
表面処理は、例えば、第13族元素の化合物の溶液(好ましくは、ガリウム化合物の溶液)を、電子注入層40に塗布して行うことが好ましい。また、表面処理にガリウム化合物を用いる場合は、ガリウム化合物の溶解性、反応性の観点から、塩化ガリウムとジエチルジチオカルバミン酸ガリウムの混合物を有機溶媒に溶解させて用いることが好ましい。また、ELスペクトルにおける欠陥発光成分を抑制する観点からは、塩化ガリウムを有機溶媒に溶解させて用いることが好ましい。ここで、有機溶媒としては、クロロホルム等が挙げられる。
【0035】
電子注入層40の表面処理に用いる溶液(表面処理液)中の第13族元素の化合物の濃度は、ELスペクトルにおける欠陥発光成分を抑制する観点から、0.01mg/mL以上が好ましく、また、陰極30からの電子注入を容易にする観点から、10mg/mL以下が好ましい。また、表面処理に用いる溶液中の第13族元素の化合物の濃度は、0.01~3mg/mLが更に好ましく、0.01~0.5mg/mLがより一層好ましい。
また、電子注入層40における第13族元素の含有率は、ELスペクトルにおける欠陥発光成分を抑制する観点から、1原子%以上が好ましく、また、陰極30からの電子注入を容易にする観点からは、30原子%以下が好ましい。
【0036】
<電子輸送層>
上述の通り、電子注入層40と、発光層50との間には、電子輸送層が存在していてもよい。該電子輸送層は、陰極30から注入した電子を発光層50まで輸送するために用いる。該電子輸送層は、独立した層として形成される場合もあれば、発光層50と一体となって形成される場合もある。電子輸送層を構成する材料として、下記一般式(1):
【化1】
に示すような含窒素複素環を含む低分子材料あるいは高分子材料を用いると、陰極30から注入された電子が効率よく電子輸送層中を移動し、発光層50の量子ドットに電子が効率よく注入されるため、高効率の発光素子を得ることができる。
【0037】
上記一般式(1)において、円弧の部分は、C及びNと共に環構造を形成していることを示す。ここで、一般式(1)で示される含窒素複素環としては、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、トリアゾール環、フェナントロリン環等が挙げられる。
【0038】
前記電子輸送層を構成する材料として、例えば、ピリジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体等の含窒素複素環式化合物が挙げられる。ここで、ピリジン誘導体としては、トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)等が挙げられ、オキサジアゾール誘導体としては、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、1,3-ビス[5-(p-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル]ベンゼン等が挙げられ、トリアゾール誘導体としては、3-(4-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-5-(4-ビフェニリル)-1,2,4-トリアゾール、3-(4-tert-ブチルフェニル)-4-(4-エチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,2,4-トリアゾール等が挙げられ、フェナントロリン誘導体としては、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(Bphen)、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP)等が挙げられる。これらの中でも、電子輸送性の観点から、トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)が好ましい。
【0039】
<発光層>
前記発光層50は、量子ドットを含む。該発光層50では、陽極80から注入された正孔と陰極30から注入された電子とが再結合して、量子ドットが励起状態となり、基底状態に戻るときに放出されるエネルギーにより発光が得られる。
発光層50の発光色は、発光層50に含まれる量子ドットの結晶粒径や種類(材質)によって変化させることができる。ここで、量子ドットの結晶粒径は、所望の発光色に応じて選択でき、例えば、1~20nmが好ましく、2~10nmが更に好ましい。
【0040】
本発明の量子ドット発光素子に用いる量子ドットは、第11族元素と、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなる。該量子ドットは、カドミウムを含むことを要しないため、従来のセレン化カドミウム(Cd-Se)や硫化カドミウム(Cd-S)等を含むCd系の量子ドットに比べて、低毒性とすることが可能である。
【0041】
前記量子ドットは、コアと、該コアの周りを覆うシェルと、を具えることが好ましい。ここで、コアを構成する化合物半導体が、第11族元素と、第13族元素と、第16族元素と、を含み、シェルを構成する化合物半導体が、第13族元素と、第16族元素と、を含むことが更に好ましい。該量子ドットは、第11族元素-第13族元素-第16族元素からなる多元系の化合物半導体からなるコアの表面が、よりバンドギャップエネルギーが大きい第13族元素及び第16族元素を含む化合物半導体からなるシェルで覆われていることで、従来の多元系の量子ドットでは得られなかった、バンド端発光が得られることを可能にしている。かかる構成の量子ドットを発光層50に適用することで、低毒性としつつ、更に色純度の高い光を発することが可能となる。
前記バンド端発光は、欠陥発光とともに得られてもよいが、欠陥発光は少ない方が好ましい。欠陥発光は、一般に発光寿命が長く、またブロードなスペクトルを有し、バンド端発光よりも長波長側にそのピークを有する。従って、欠陥発光が少ないと、バンド端発光の影響が大きくなり、発光の色純度を向上させることができる。
【0042】
図2に、本発明の量子ドット発光素子に好適に用いることができる量子ドットの構造の一例を示す。図2に示す量子ドット1は、コア2と、コア2の周りを取り囲むシェル3と、シェル3の表面を覆う表面修飾剤(配位子)4と、を具える。該量子ドット1は、化学的安定性が高く、凝集が生じ難い。また、該量子ドット1は、溶液として調製し易く、スピンコート法等によって成膜し易いという利点がある。
【0043】
--量子ドットのコア--
前記量子ドットのコアは、第11族元素と、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなることが好ましい。
前記第11族元素としては、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)が挙げられ、これらの中でも、Agが好ましい。第11族元素として、1種の元素のみが含まれてもよいが、2種以上の元素が含まれていてよい。
前記第13族元素としては、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)が挙げられ、これらの中でも、インジウム(In)及びガリウム(Ga)が好ましい。第13族元素として、1種の元素のみが含まれてもよいが、2種以上の元素が含まれていてよい。
前記第16族元素としては、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)が挙げられ、これらの中でも、硫黄(S)が好ましい。第16族元素として、硫黄(S)を含むコアは、セレン(Se)やテルル(Te)を含むものと比較してバンドギャップが広くなるため、可視光領域の発光を与えやすいことから好ましい。第16族元素として、1種の元素のみが含まれてもよいが、2種以上の元素が含まれていてもよい。
第11族元素、第13族元素及び第16族元素の組み合わせは特に限定されない。第11族元素、第13族元素及び第16族元素の組み合わせ(第11族元素/第13族元素/第16族元素)は、好ましくは、Cu/In/S、Ag/In/S、Ag/In/Se、Ag/Ga/S及びAg/In/Ga/Sである。なお、コアを構成する化合物半導体において、各元素の比率は、化学量論的であってもよいし、化学量論的でなくてもよい。
【0044】
前記コアは、第11族元素、第13族元素及び第16族元素のみから実質的に成っていてもよい。ここで、「実質的に」という用語は、不純物の混入等に起因して不可避的に第11族元素、第13族元素及び第16族元素以外の元素が含まれることを考慮して使用している。
或いは、前記コアは、他の元素を含んでいてもよい。例えば、第13族元素の一部は他の金属元素により置換されていてもよい。他の金属元素は、+3価の金属イオンになるものであってよく、具体的には、Cr、Fe、Al、Y、Sc、La、V、Mn、Co、Ni、Ga、In、Rh、Ru、Mo、Nb、W、Bi、As及びSbから選択される1種又は複数種の元素であってもよい。その置換量は、第13族元素と置換元素とを合わせた原子の数を100%としたときに、10%以下であることが好ましい。
【0045】
前記コアは、例えば、10nm以下、特には、8nm以下の平均粒径を有してよい。コアの平均粒径が小さい方が、量子サイズ効果が得られ易くなり、バンド端発光が得られ易くなる。
【0046】
--量子ドットのシェル--
前記量子ドットのシェルは、第13族元素と、第16族元素と、を含むことが好ましく、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなることが更に好ましい。
前記第13族元素としては、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)が挙げられ、これらの中でも、インジウム(In)及びガリウム(Ga)が好ましく、ガリウム(Ga)が特に好ましい。
前記第16族元素としては、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、ポロニウム(Po)が挙げられ、これらの中でも、硫黄(S)が好ましい。
前記量子ドットのシェルは、ガリウムと、硫黄と、を含むことが特に好ましい。量子ドットのシェルがガリウム及び硫黄を含む場合、色純度の更に高い光を発することが可能となる。
シェルを構成する化合物半導体には、第13族元素が1種類だけ、または2種類以上含まれていてもよく、また、第16族元素が1種類だけ、または2種類以上含まれていてもよい。
【0047】
前記シェルは、コアを構成する化合物半導体よりも大きいバンドギャップエネルギーを有する化合物半導体であって、実質的に第13族元素及び第16族元素からなる化合物半導体であることが好ましい。具体的には、「実質的に」とは、シェルに含まれるすべての元素の原子数の合計を100%としたときに、第13族元素及び第16族元素以外の元素の割合が例えば5%以下であることを示す。
第11族元素-第13族元素-第16族元素の多元系の化合物半導体は、一般に、1.0eV~3.5eVのバンドギャップエネルギーを有する。従って、シェルは、コアを構成する化合物半導体のバンドギャップエネルギーに応じて、その組成等を選択して構成するとよい。具体的には、シェルは、例えば、2.0eV~5.0eVのバンドギャップエネルギーを有してよい。また、シェルのバンドギャップエネルギーは、コアのバンドギャップエネルギーよりも、例えば0.1eV~3.0eV程度、特には0.5eV~1.0eV程度大きいものであってよい。シェルのバンドギャップエネルギーとコアのバンドギャップエネルギーとの差が小さいと、コアからの発光において、バンド端発光以外の発光の割合が多くなり、バンド端発光の割合が小さくなることがある。
硫化インジウム及び硫化ガリウムは、第11族元素-第13族元素-第16族元素の多元系の化合物半導体、特には、Ag-In-S、Ag-In-Ga-S又はAg-In-Zn-Sがコアである場合に、シェルを構成する半導体として好ましく用いられる。特に、硫化ガリウムは、バンドギャップエネルギーがより大きいことから好ましく用いられる。硫化ガリウムを使用する場合には、硫化インジウムを使用する場合と比較して、より強いバンド端発光を得ることができる。なお、シェルを構成する化合物半導体において、各元素の比率は、化学量論的であってもよいし、化学量論的でなくてもよい。
【0048】
また、前記シェルは、その化合物半導体の晶系がコアの化合物半導体の晶系となじみのあるものであってよく、また、その格子定数が、コアの化合物半導体の格子定数と同じ又は近いものであってよい。晶系になじみがあり、格子定数が近い化合物半導体からなるシェルは、コアの周囲を良好に被覆することがある。あるいは、シェルは、アモルファス(非晶質)であってもよい。
【0049】
前記シェルの厚さは、0.1nm~50nmの範囲内、特には0.2nm~10nmの範囲内にあってよい。シェルの厚さが0.1nm以上の場合には、シェルがコアを被覆することによる効果が十分に得られ、バンド端発光が得られ易くなる。
【0050】
前記シェルは、その表面が任意の化合物で修飾されていてよい。シェルの表面がコアシェル構造の半導体ナノ粒子の露出表面である場合には、当該表面を修飾することによって、ナノ粒子を安定化させて半導体ナノ粒子の凝集または成長を防止することができ、並びに/或いは、半導体ナノ粒子の溶媒中での分散性を向上させることができる。
前記表面の修飾に用いる表面修飾剤としては、例えば、炭素数4~20の炭化水素基を有する含窒素化合物、含硫黄化合物、含酸素化合物等が挙げられる。炭素数4~20の炭化水素基としては、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等の飽和脂肪族炭化水素基;オレイル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の脂環式炭化水素基;フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、ナフチルメチル基等の芳香族炭化水素基、等が挙げられ、このうち飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。含窒素化合物としては、アミン類やアミド類が挙げられ、含硫黄化合物としては、チオール類が挙げられ、含酸素化合物としては脂肪酸類などが挙げられる。
含窒素化合物の表面修飾剤は、例えば、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン等のアルキルアミンや、オレイルアミン等のアルケニルアミンである。特に純度の高いものが入手し易い点と沸点が290℃を超える点から、n‐テトラデシルアミンが好ましい。
含硫黄化合物の表面修飾剤は、例えば、n-ブタンチオール、イソブタンチオール、n-ペンタンチオール、n-ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等である。
【0051】
合成された量子ドットは、通常は、未反応原料を始めとする不純物を含んでいる。発光層に余分な原料成分を含むと電荷輸送を阻害することから、精製処理を施して余分な原料成分を除去することが好ましい。このときの精製方法としては、沈殿・再分散を利用した方法が挙げられる。これは量子ドット分散液に量子ドットを分散させない溶媒(貧溶媒)を加えて、量子ドットを沈殿させて回収し、目的の溶媒に再分散させる方法である。極性の小さい有機溶媒に分散している量子ドットに対しては、一般的に貧溶媒として極性の大きいアルコール等の溶媒を加えて沈殿を得る。
【0052】
上述した量子ドットとしては、コアを構成する化合物半導体が、銀と、インジウム及び/又はガリウムと、硫黄と、を含み、シェルを構成する化合物半導体が、インジウム及び/又はガリウムと、硫黄と、を含む量子ドットが特に好ましい。この場合、コアと、シェルとの連続的な結晶成長を促進でき、色純度の更に高い光を発することができる。
【0053】
前記発光層50は、上述の量子ドットと共に、電子輸送材料を含んでもよい。該電子輸送材料は、陰極30側から発光層50に注入される電子の流れを妨げず、且つ、陽極80側から発光層50に注入される正孔を陰極30側へと通過させない作用(即ち、発光層50から流れ出る正孔電流をブロックする作用)を有するため、漏れ電流を抑制でき、また、発光層50内で、陰極30から注入された電子と、陽極80から注入された正孔と、を効率的に再結合させることができる。発光層50が電子輸送材料を含むことで、該電子輸送材料を介して量子ドットに電荷が注入され、結晶欠陥の発光への影響を抑えることができ、ELスペクトルに見られる欠陥発光を抑制できる。前記電子輸送材料は、例えば、前記量子ドットと混合され、発光層50において、量子ドットの隙間を埋める形で存在することが好ましい。該電子輸送材料は、量子ドットと混合して使用する場合は、量子ドットの分散液に溶解する材料であることが好ましい。
【0054】
前記電子輸送材料としては、有機溶媒への溶解性を有し、且つ電子輸送性を有する無機材料あるいは有機材料を好適に用いることができる。該電子輸送材料は、好ましくは電子輸送性の有機材料であり、電子輸送性の有機材料としては、例えば、ピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体、イミダゾール誘導体、トリアゾール誘導体等が挙げられる。また、該電子輸送材料としては、上記の「電子輸送層」の項で説明したような、含窒素複素環を含む低分子材料あるいは高分子材料が好ましく、上記一般式(1)に示すような含窒素複素環を含む低分子材料あるいは高分子材料が更に好ましい。発光層50に用いる好適な電子輸送材料として、具体的には、トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP)、1,3,5-トリス(N-フェニルベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼン(TPBI)、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(Bphen)、1,3,5-トリ(m-ピリド-3-イル-フェニル)ベンゼン(TmPyPB)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、量子ドット発光素子のELスペクトルに見られる欠陥発光を抑制する効果、及び素子特性の観点から、トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)が好ましい。
【0055】
また、前記電子輸送材料の添加量は、前記量子ドットに対して質量比で0.05~10の範囲が好ましく、0.5~3の範囲が更に好ましい。
【0056】
発光層50の成膜方法としては、特に限定されないが、量子ドットを有機溶媒や水に溶解させた溶液を調製し、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等によって成膜することができる。このとき、赤、緑、青に発光する材料を微細に塗分けすることで、カラー表示が可能な表示装置の画素とすることができる。
前記発光層50の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~50nmが更に好ましい。
【0057】
<正孔輸送層>
前記正孔輸送層60は、陽極80から注入した正孔を発光層50まで輸送するために用いる。正孔輸送層60を構成する材料としては、正孔輸送性の無機材料あるいは有機材料を用いることができる。正孔輸送層60を構成する材料は、好ましくは正孔輸送性の有機材料である。正孔輸送性の有機材料としては、低分子材料、高分子材料のいずれも用いることができる。正孔輸送層60を構成する材料としては、例えば、4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン(TCTA)、2,2’-ビス(N-カルバゾール)-9,9’-スピロビフルオレン(CFL)、4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)、4,4’,4”-トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD1)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD3)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、4,4’,4”-トリス(N-3-メチルフェニル-N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、正孔輸送性の観点から、4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン(TCTA)が好ましい。
前記正孔輸送層60の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmであることが好ましく、20~100nmが更に好ましい。
【0058】
<正孔注入層>
前記正孔注入層70は、陽極80からの正孔注入を容易にする目的で用いる。正孔注入層70の材料としては、無機材料、有機材料のいずれも用いることができる。無機材料としては、酸化モリブデン(MoO)、酸化バナジウム(V)、酸化ルテニウム(RuO)、酸化レニウム、酸化タングステン、酸化マンガン等が挙げられる。また、有機材料としては、低分子材料、高分子材料のいずれも用いることができるが、高分子材料の例としては、PEDOT:PSS等が挙げられる。なお、PEDOTは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を示し、PSSは、ポリ(スチレンスルホン酸)を示す。正孔注入層70には、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、正孔注入層70に用いる材料としては、正孔注入性の観点から、酸化モリブデンが好ましい。
前記正孔注入層70の平均厚さは、特に限定されるものではないが、1~500nmが好ましく、3~50nmが更に好ましい。
【0059】
<陽極>
前記陽極80は、前記基板20側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、金属の薄膜を用いることができる。ここで、陽極80の材料としては、仕事関数が比較的大きい金属が好ましい。仕事関数の大きい金属を用いることにより、陽極80から有機層への正孔注入障壁を低くすることができ、正孔を注入させ易くすることができる。陽極80に用いる金属材料としては、特に限定されないが、Al、Au、Pt、Ni、W、Cr、Mo、Fe、Co、Cu等が挙げられ、Alを用いることが好ましい。
前記基板20や下部の陰極30が透明でない場合には、上部電極となる陽極80は、透明電極とする。ここで、該透明電極の材料としては、特に限定されないが、例えば、インジウム-錫-酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛-酸化物(IZO)等の導電性透明酸化物を用いることができる。
前記陽極80の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmが好ましく、30~150nmが更に好ましい。
【0060】
上述した正孔輸送層60、正孔注入層70は、省略することも可能であり、また、それぞれの層が複数の役割を受け持つ構造となっていてもよい。例えば、一つの層で、正孔注入層と正孔輸送層を兼用したりすることも可能である。
【0061】
<各層の形成方法>
前記陰極30、電子注入層40、電子輸送層、発光層50、正孔輸送層60、正孔注入層70、陽極80の形成方法は、特に限定されるものではなく、真空蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等の方法を用いることができる。また、これらの方法を用いて、陰極30、電子注入層40、電子輸送層、発光層50、正孔輸送層60、正孔注入層70、陽極80の厚さを、目的に応じて適宜調整することができる。また、これらの方法は、各層の材料の特性に応じて選択するのが好ましく、層ごとに作製方法が異なっていてもよい。
【0062】
<用途>
本発明の量子ドット発光素子は、後述する表示装置を始め、照明機器、バックライト、電子写真、照明光源、露出光源、標識、看板、インテリア等にも利用できる。
【0063】
<<表示装置>>
本発明の表示装置は、上述の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする。本発明の表示装置は、上述した低毒性としつつ、色純度の高い光を発することが可能な量子ドット発光素子を具えるため、低毒性としつつ、広色域表示が可能である。本発明の表示装置は、上述した量子ドット発光素子の他に、表示装置に一般に用いられる他の部品を具えることができる。
【実施例0064】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
<量子ドット(AgInGaS/GaS)の合成>
本発明に従う、多元系コアシェル型量子ドット(AgInGaS/GaS)を以下の方法で合成した。なお、AgInGaS/GaSのxは0.8以上1.5以下の整数に限られない任意の数字である。
2口フラスコ内で酢酸銀(AgOAc)0.2mmol、酢酸インジウム(In(OAc))0.15mmol、トリスジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(Ga(DDTC))0.4mmolをオレイルアミン8mLと混合した。撹拌、脱気しながら加熱し、液温が80℃に達した時点でフラスコ内をアルゴンガスで置換し、液温150℃で30分間維持し、原料を反応させた。室温まで空冷し、遠心分離によって粗大粒子成分を除去した。橙色の上澄み溶液にメタノールを加え、AgInGaSコア粒子成分を遠心分離によって回収した。得られた粒子をクロロホルムに分散し、メタノールを加えて沈殿させる精製操作を2回実施した後、1mLのクロロホルムに分散し、AgInGaSコア粒子分散液を得た。
別の2口フラスコにガリウムアセチルアセトナト(Ga(acac))0.1mmol、1,3-ジメチルチオ尿素0.1mmol、Ga(DDTC)0.05mmolおよびオレイルアミン8mLを加え、さらに1ナノ粒子を1分子と考えた際に30nmolに相当するAgInGaSコア粒子を含むクロロホルム溶液を加えた。撹拌、脱気しながら加熱し、液温60℃で3分経過後にフラスコ内をアルゴンガスで置換し、230℃まで60℃/min、その後は2℃/minの速度で280℃まで加熱し、その温度を1分維持した。溶液を室温まで空冷した後、メタノールを加えてAgInGaS/GaSコア/シェル量子ドット成分を沈殿させ、遠心分離により回収した。
【0066】
<フォトルミネッセンス特性>
合成した量子ドット(AgInGaS/GaS)のクロロホルム分散液と、該分散液をスピンコート成膜した薄膜のフォトルミネッセンス(PL)特性を評価した。それぞれのPLスペクトルを図3に示す。分散液では、ピーク波長529nm、半値幅40nmのメインピークに、長波長の欠陥発光成分が観察された。薄膜では、ピーク波長534nm、半値幅41nmのメインピークに、分散液よりも大きい欠陥発光成分が観察された。
【0067】
<酸化亜鉛ナノ粒子の合成>
J.カクら(J.Kwak et al.),ナノ・レターズ(Nano Letters),12,2362-2366(2012)に開示されている方法に従って、酸化亜鉛ナノ粒子を合成した。具体的な方法を以下に示す。
6.7mmolの酢酸亜鉛を55mLのメタノールに溶解させ、0.12mol/Lの溶液を得た。8.6mmolの水酸化カリウムを25mLのメタノールに溶解させ、0.34mol/Lの溶液を得た。窒素雰囲気下で、酢酸亜鉛メタノール溶液を60℃に加熱し、撹拌しながら水酸化カリウムメタノール溶液を滴下し、2時間反応させると液は白濁状態となった。得られた白濁液から遠心分離により回収した酢酸亜鉛をメタノールで洗い、最終的に1-ブタノールに再分散させて、20mg/mLの酸化亜鉛ナノ粒子分散液を得た。なお、TEMで確認される酸化亜鉛ナノ粒子の粒径は、5nm~20nmである。
【0068】
<量子ドット発光素子の作製>
図1に示す構造の本発明に従う量子ドット発光素子を次のようにして作製した。
まず、ガラス基板20にITOからなる陰極30(厚さ:100nm)を形成し、これを複数のライン状にパターニングした。
次に、電子注入層40として、酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子をスピンコートにより成膜し(厚さ:30nm)、180℃で加熱処理した。続いて、電子注入層40の表面処理として、塩化ガリウムとトリスジエチルジチオカルバミン酸ガリウム(Ga(DDTC))を質量比1:1で混合したクロロホルム溶液(濃度1mg/mL)をスピンコートし、220℃で加熱処理した。
次に、下記式(2):
【化2】
で示される構造式を有する、含窒素複素環を含む電子輸送材料[トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)]と、量子ドット(AgInGaS/GaS)との混合クロロホルム溶液をスピンコートし、100℃で乾燥することにより、電子輸送材料と量子ドットとからなる発光層50を形成した(発光層の厚さは20nm程度)。この際、電子輸送材料の添加量を量子ドットに対する質量比で0.66に調整した。
次に、基板を真空蒸着装置に入れ、真空蒸着法により、正孔輸送層60として、下記式(3):
【化3】
で示される構造式を有する材料[4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン(TCTA)]を40nm、正孔注入層70として酸化モリブデン(MoO)を10nm、陽極80としてAlを70nm、順次成膜した。
なお、図1には示していないが、量子ドット発光素子は、窒素ガスで満たされたグローブボックス中で、封止用ガラスの周縁部に紫外線硬化樹脂を塗布した後、量子ドット発光素子を形成した前記基板の周縁部に貼り合せて、封止を行った。
【0069】
(比較例1)
実施例1で電子注入層40としてZnOナノ粒子を成膜した後、塩化ガリウムとGa(DDTC)による表面処理を実施せずに、発光層50を成膜したこと以外は、実施例1と同様にして、量子ドット発光素子を作製した。
【0070】
<量子ドット発光素子の特性評価>
上記の量子ドット発光素子のITO陰極30側に負、Al陽極80側に正となるように電圧を印加して、輝度に応じたELスペクトルを観測した。ELスペクトルを図4((a)実施例1、(b)比較例1)に示す。
【0071】
実施例1のELスペクトルは、薄膜のPLスペクトルと近い発光スペクトルが、輝度に応じて変化することなく観測された。
一方、比較例1のELスペクトルは、長波長側に見られる欠陥発光成分が大きく現れた。特に低輝度で欠陥発光が顕著であった。
【0072】
以上の実施例1と比較例1のELスペクトル特性及び薄膜のPLスペクトル特性を下記表1にまとめる。なお、EL特性は輝度に応じた変化幅を含めて示した。
【0073】
【表1】
【0074】
比較例1のELは、色純度が悪く、さらに、輝度に応じてピーク波長、半値幅、色度座標の変動が大きいのに対し、実施例1のELは、輝度に依存せずに薄膜PLとほぼ同じ発光を示している。
【0075】
上記の実施例の結果から、第11族元素と、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなる量子ドットを含む発光層を具える量子ドット発光素子において、陰極と発光層と間に、第13族元素の化合物で表面処理した電子注入層を配置することで、ELスペクトルに現れる欠陥発光を抑制できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の量子ドット発光素子は、高色純度な発光を必要とする様々なデバイス、製品に応用することが可能であり、表示装置、照明機器、バックライト、電子写真、照明光源、露出光源、標識、看板、インテリア等に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0077】
10:量子ドット発光素子
20:基板
30:陰極
40:電子注入層
50:発光層
60:正孔輸送層
70:正孔注入層
80:陽極
1:量子ドット
2:コア
3:シェル
4:表面修飾剤
図1
図2
図3
図4