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特開2023-179899ペロブスカイト型化合物及び光電変換素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179899
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】ペロブスカイト型化合物及び光電変換素子
(51)【国際特許分類】
   C01G 21/00 20060101AFI20231213BHJP
   H10K 30/50 20230101ALI20231213BHJP
【FI】
C01G21/00
H01L31/04 112Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092813
(22)【出願日】2022-06-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の新市場創造技術開発/フィルム型超軽量モジュール太陽電池の開発(重量制約のある屋根向け)(超軽量ペロブスカイト系太陽電池の研究開発)事業、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100187218
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 宏光
(72)【発明者】
【氏名】中村 元志
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 隆
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】別所 毅隆
(72)【発明者】
【氏名】野々村 一輝
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA11
5F151BA18
(57)【要約】
【課題】高い耐熱性を有するペロブスカイト型化合物を提供する。
【解決手段】ペロブスカイト型化合物は、A(Pb1-xSn)I3-yBrで表される組成式を有する。元素Aは、Li、Na、K、Rb及びCsからなる群から選択される1種または2種以上の元素である。当該組成式中のx及びyは、以下の(1)~(6)のいずれかの範囲に属する:
(1)0.0 ≦x<0.0125、かつ1.6≦y≦3.0
(2)0.0125≦x<0.1、 かつ1.1≦y≦3.0
(3)0.1 ≦x<0.3、 かつ0.8≦y≦3.0
(4)0.3 ≦x<0.5、 かつ0.8≦y≦3.0
(5)0.5 ≦x<0.7、 かつ0.8≦y≦2.8
(6)0.7 ≦x≦0.8、 かつ0.8≦y≦1.8。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A(Pb1-xSn)I3-yBrで表される組成式を有し、
元素Aは、Li、Na、K、Rb及びCsからなる群から選択される1種または2種以上の元素であり、
以下の(1)~(6)のいずれかの範囲に属する:
(1)0.0 ≦x<0.0125、かつ1.6≦y≦3.0
(2)0.0125≦x<0.1、 かつ1.1≦y≦3.0
(3)0.1 ≦x<0.3、 かつ0.8≦y≦3.0
(4)0.3 ≦x<0.5、 かつ0.8≦y≦3.0
(5)0.5 ≦x<0.7、 かつ0.8≦y≦2.8
(6)0.7 ≦x≦0.8、 かつ0.8≦y≦1.8
ペロブスカイト型化合物。
【請求項2】
以下の(1)~(5)のいずれかの範囲に属する:
(1)0.0 ≦x<0.0125、かつ2.0≦y≦3.0
(2)0.0125≦x<0.1、 かつ1.5≦y≦3.0
(3)0.1 ≦x<0.3、 かつ1.0≦y≦3.0
(4)0.3 ≦x<0.5、 かつ1.0≦y≦2.5
(5)0.5 ≦x≦0.7、 かつ1.0≦y≦1.5
請求項1に記載のペロブスカイト型化合物。
【請求項3】
価電子帯と伝導帯の間のバンドギャップが1.9eV以下である、請求項1又は2に記載のペロブスカイト型化合物。
【請求項4】
価電子帯と伝導帯の間のバンドギャップが1.5eV以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載のペロブスカイト型化合物。
【請求項5】
前記元素Aは、Csである、請求項1から4のいずれか1項に記載のペロブスカイト型化合物。
【請求項6】
「y≦5.0x+1.0」をさらに満たす、請求項5に記載のペロブスカイト型化合物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のペロブスカイト型化合物を含む光吸収層を有する、光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型化合物及び光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代型太陽電池の1つとして、ペロブスカイト構造を有する化合物(ペロブスカイト型化合物)を含む光電変換素子(例えばペロブスカイト太陽電池)が注目されている。ペロブスカイト太陽電池は、一例として、受光面側から順に、n型半導体からなる電子輸送層、ペロブスカイト層(光吸収層)、p型半導体からなるホール輸送層が並んだいわゆるn-i-p型の積層構造を有する。別の例として、ペロブスカイト太陽電池は、受光面側から順に、p型半導体からなるホール輸送層、ペロブスカイト層、n型半導体からなる電子輸送層が並んだいわゆるp-i-n型の積層構造を有する。
【0003】
ペロブスカイト層は、ペロブスカイト型の結晶構造を有する化合物を含んでいる。ペロブスカイト型の結晶構造を有する化合物は、一般式A-B-Xによって表現される。
【0004】
ペロブスカイト型化合物を構成する元素又は分子A,B,Xとして、多種多様な元素又は分子が適用可能であることが知られている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Liang, J., et al., J. Am. Chem. Soc. 139, 14009-14012 (2017)
【非特許文献2】Fang, Z., et al., Nano Energy 61, 389-396 (2019)
【非特許文献3】Wang, Z., et al., Adv. Sci. 2019, 6, 1801704
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、光電変換素子に適用されるペロブスカイト型化合物の多くは、耐熱性の観点で課題があることが知られている。特に、高温に晒され得る環境下、例えば人工衛星のような宇宙空間で使用される場合には、地上で使用されるよりも高い温度に耐えられるペロブスカイト型化合物が必要になる。
【0007】
このような観点から、高い耐熱性を有するペロブスカイト型化合物及び光電変換素子が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様に係るペロブスカイト型化合物は、A(Pb1-xSn)I3-yBrで表される組成式を有する。元素Aは、Li、Na、K、Rb及びCsからなる群から選択される1種または2種以上の元素である。当該組成式中のx及びyは、以下の(1)~(6)のいずれかの範囲に属する:
(1)0.0 ≦x<0.0125、かつ1.6≦y≦3.0
(2)0.0125≦x<0.1、 かつ1.1≦y≦3.0
(3)0.1 ≦x<0.3、 かつ0.4≦y≦3.0
(4)0.3 ≦x<0.5、 かつ0.4≦y≦3.0
(5)0.5 ≦x<0.7、 かつ0.4≦y≦2.8
(6)0.7 ≦x≦0.9、 かつ0.4≦y≦1.8。
【0009】
一態様に係る光電変換素子は、上記のペロブスカイト型化合物を含む光吸収層を有する。
【発明の効果】
【0010】
高い耐熱性を有するペロブスカイト層を含んだ光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一実施形態に係る光電変換素子の一例を示す厚さ方向断面図である。
図2図2は、一実施形態に係る光電変換素子の別の例を示す厚さ方向断面図である。
図3図3は、Cs(Pb1-xSn)I3-yBrで表される組成式を有するペロブスカイト型化合物のバンドギャップを示すダイアグラムである。
図4図4は、いくつかのペロブスカイト型化合物における吸光係数のTaucプロットである。
図5図5は、いくつかのペロブスカイト型化合物におけるX線回折実験の結果を示すグラフである。
図6図6は、いくつかのペロブスカイト型化合物における耐熱性の実験結果を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。以下の図面において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることがあることに留意すべきである。
【0013】
図1は、一実施形態に係る光電変換素子の一例を示す厚さ方向断面図である。図1に示す光電変換素子は、ペロブスカイト構造を有する化合物を含む光吸収層を備えたペロブスカイト型の太陽電池であってよい。図1に示す光電変換素子は、いわゆる単接合型の光電変換素子である。
【0014】
光電変換素子10は、基板11、第1導電層12、電子輸送層13、光吸収層14、ホール輸送層15、第2導電層16、及び第3導電層17を有していてよい。第1導電層12は、基板11上に設けられている。電子輸送層13は、第1導電層12上に設けられている。光吸収層14は、電子輸送層13上に設けられている。ホール輸送層15は、光吸収層14上に設けられている。第2導電層16は、ホール輸送層15上に設けられている。第3導電層17は、第2導電層16上に設けられている。
【0015】
基板11は、第1導電層12、電子輸送層13、光吸収層14、ホール輸送層15、第2導電層16、及び第3導電層17を積層するためのベースである。基板11は、ソーダライムガラスや無アルカリガラス等の透明ガラス基板、樹脂基板、金属基板、セラミック基板などから選択可能である。基板11は、透光性を有しない基板と、透光性を有する基板のいずれであってもよい。なお、基板11は、フレキシブル基板であってもよい。
【0016】
本明細書において「透光性を有する」とは、200nmから2000nmの波長を有する光のうちのいずれかの波長において10%以上の光が透過することを意味する。
【0017】
基板11が透光性を有する場合、光は、光電変換素子10に対して基板11側(図中下側)から入射してもよく、第3導電層17側(図中上側)から入射してもよい。一方、基板11が透光性を有さない場合、光は、光電変換素子10に対して第3導電層17側(図中上側)から入射する。
【0018】
第1導電層12、電子輸送層13、光吸収層14、ホール輸送層15、第2導電層16、及び第3導電層17の詳細については、後述する。
【0019】
図2は、一実施形態に係る光電変換素子の別の例を示す厚さ方向断面図である。図2に示す光電変換素子は、ペロブスカイト構造を有する化合物を含む光吸収層を備えたペロブスカイト型の太陽電池であってよい。図2に示す光電変換素子は、いわゆる多接合型の光電変換素子である。多接合型の光電変換素子は、互いに積層された複数の光電変換セルを有する。すなわち、多接合型の光電変換素子は、複数の光吸収層を有していてよい。
【0020】
図2では、光電変換素子10Aは、トップセルTCとボトムセルBCとが互いに積層された積層構造を有する。図2の構成では、光は、光電変換素子10Aに対してトップセルTC側(図中上側)から入射する。入射光のうち短波長側の光がトップセルTCで光電変換される。また、入射光のうちトップセルTCを透過した長波長側の光がボトムセルBCで光電変換される。
【0021】
トップセルTCは、図1で示したペロブスカイト型の光電変換素子と同じ構成を有していてよい。したがって、トップセルTCは、基板11、第1導電層12、電子輸送層13、光吸収層14、ホール輸送層15、第2導電層16、及び第3導電層17を有していてよい。第1導電層12は、基板11上に設けられている。電子輸送層13は、第1導電層12上に設けられている。光吸収層14は、電子輸送層13上に設けられている。ホール輸送層15は、光吸収層14上に設けられている。第2導電層16は、ホール輸送層15上に設けられている。第3導電層17は、第2導電層16上に設けられている。ここで、基板11は、透光性を有する基板である。
【0022】
ボトムセルBCは、基板20、第1電極層21、光電変換層(光吸収層)22、バッファ層23及び第2電極層24を有していてよい。第1電極層21は、基板20上に設けられていてよい。光電変換層22は、第1電極層21上に設けられていてよい。バッファ層23は、光電変換層22上に設けられていてよい。第2電極層24は、バッファ層23上に設けられていてよい。
【0023】
ボトムセルBCとしては、例えば、CZTS系光電変換素子、CIGS系光電変換素子、CdTe系光電変換素子、GaAs系光電変換素子などの化合物系光電変換素子や、シリコン系光電変換素子、有機系の光電変換素子等の公知の光電変換素子(例えば太陽電池)の構成を適用できる。そのため、ボトムセルBCの構成に関する説明はいずれも省略する。なお、ボトムセルBCのバッファ層23は省略されてもよい。
【0024】
図2に示す光電変換素子10Aは、2つの正極及び2つの負極を含む4つの端子を含む、いわゆる4端子型のタンデム構造を有する。この場合、光電変換素子10Aは、トップセルTCとボトムセルBCの間に中間層19を有していてよい。中間層19は、透明な絶縁層であってよい。
【0025】
図2に示す4端子型のタンデム構造の代わりに、光電変換素子は、2端子型のタンデム構造を有していてもよい。この場合、光電変換素子は、少なくとも図2に示す第2導電層16、第3導電層17及び第2電極層24を有していなくてよい。
【0026】
次に、前述した第1導電層12、電子輸送層13、光吸収層14、ホール輸送層15、第2導電層16及び第3導電層17について詳細に説明する。
【0027】
第1導電層12は、光電変換素子の陰極として作用する層であってよい。第1導電層12の材料としては、例えば、ヨウ化銅(CuI)、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化スズ(SnO2)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等の導電性透明材料、金属ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、金属リチウム、金属マグネシウム、金属アルミニウム、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-リチウム合金、アルミニウム-酸化アルミニウム(Al/Al23)混合物、アルミニウム-フッ化リチウム(Al/LiF)混合物等が挙げられる。上記の材料は、単独で用いられてもよく、2種以上の混合物として用いられてもよい。
【0028】
第1導電層12は、透光性を有することが好ましい。しかし、光が第3導電層17側から光電変換素子へ入射する場合、第1導電層12は、透光性を有していなくてもよい。
【0029】
第1導電層12は、例えば、蒸着法やスパッタ法等の製膜方法によって形成することができる。特に限定するものではないが、第1導電層12の厚さは、0.1μm以上であることが好ましい。これにより、第1導電層12において十分な導電性を維持することができる。また、特に限定するものではないが、第1導電層12の厚さは、5.0μm以下であることが好ましい。これにより、第1導電層12の光の透過率を比較的高く維持しやすくなる。
【0030】
電子輸送層13は、光吸収層14の光励起により生成した電子を第1導電層12に輸送する機能を担う。したがって、電子輸送層13は、光吸収層14で生成した電子が電子輸送層13に容易に移動でき、かつ電子輸送層13の電子が容易に第1導電層12に移動可能な特性を有する材料で形成されることが好ましい。
【0031】
電子輸送層13の材料としては、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化タングステン(WO2、WO3、W23等)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ニオブ(Nb25等)、酸化タンタル(Ta25等)、酸化イットリウム(Y23等)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3等)、酸化スズ(SnO)等の無機物材料や、フラーレン(C60、C70等)やその誘導体(PC60BM、PC70BM、ICBA、水素化C60、水酸化C60等)のような有機物材料が挙げられる。上記の材料は、単独で用いられてもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0032】
電子輸送層13は、単層構造であってもよいが、複数の層を含む積層構造であってもよい。図1及び図2では、電子輸送層13は、緻密な構造を有する緻密層13aと、多孔質の構造を有する多孔質層13bと、を有する。緻密層13aは第1導電層12と多孔質層13bの間に位置し、多孔質層13bは緻密層13aと光吸収層14の間に位置する。
【0033】
緻密層13aは、多孔質層13bよりも緻密な構造を有する。言い換えると、緻密層13aの空隙は、多孔質層13bの空隙よりも少ない。緻密層13aは、光吸収層14を形成する際に用いられる溶液等がほとんど浸潤しない層である。緻密層13aは、光起電力低下の原因となる第1導電層12と第2導電層16の接触を防止する機能と、第1導電層12とホール輸送層15の接触を防止する機能を担う。したがって、緻密層13aによって、光起電力の低下を抑制することができる。
【0034】
緻密層13aの厚さは、例えば、5nm~200nmの範囲であることが好ましく、10nm~100nmの範囲であることがさらに好ましい。
【0035】
一例として、電子輸送層13が酸化チタンである場合、緻密層13aは、以下の方法により形成することができる。まず、チタンキレート化合物を含む塗布液を調製し、スピンコート法、スクリーン印刷法、スプレーパイロリシス法、エアロゾルデポジション法等の製膜方法によって塗布液を第1導電層12上に塗布する。その後、焼成により酸化チタンを含む緻密層13aが形成される。また、焼成後に、酸化チタンを含む緻密層13aを4塩化チタンの水溶液に浸してもよい。これにより、緻密層13aの緻密性を増すことができる。酸化チタンを含む緻密層13aの形成に使用されるチタンキレート化合物は、アセト酢酸エステルキレート基を持つ化合物や、β-ジケトンキレート基を持つ化合物等であることが好ましい。
【0036】
一方、多孔質層13bは、緻密層13aと比べて空隙が大きく、光吸収層14を形成する際に用いられる溶液等が浸潤する層である。光吸収層14の材料は、多孔質層13bの空孔に充填されて保持され得る。したがって、多孔質層13bは、電子輸送層13と光吸収層14の接触面積を拡大し、光吸収層14での光励起で生成した電子を効率よく電子輸送層13に移動させる機能を担う。これにより、光吸収層14での光励起で生成した電子を多孔質層13bによって効率よく電荷分離することができ、電子および正孔の再結合を抑制できる。この結果、太陽電池の光電変換効率を向上させることができる。
【0037】
なお、多孔質層13bの厚さは、例えば、10nm~2000nmの範囲であることが好ましく、20nm~500nmの範囲であることがさらに好ましい。
【0038】
一例として、電子輸送層13を酸化チタンで形成する場合、多孔質層13bは、以下の方法で形成することができる。まず、例えば、酸化チタン粒子を含む塗布液を調製し、スピンコート法、スクリーン印刷法、スプレーパイロリシス法、エアロゾルデポジション法等の製膜方法によって塗布液を緻密層13a上に塗布する。その後、焼成により酸化チタンを含む多孔質層13bが形成される。特に制限されないが、多孔質層13bが酸化チタンにより形成される場合、アナターゼ型の酸化チタン粒子が用いられることが好ましい。
【0039】
ホール輸送層15は、光吸収層14と第2導電層16との間に位置する。ホール輸送層15は、光吸収層14で生じた正孔を捕捉し、正孔を陽極である第2導電層16に移動させる機能を担う。ホール輸送層15は、例えば2,2′,7,7′-tetrakis-(N,N-di-p-methoxyphenylamine)9,9′-spirobifluorene(Spiro-OMeTAD)又はpoly[bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine](PTAA)からなるマトリックス成分を含んでいてよく、または[2-(9Hcarbazol-9-yl) ethyl] phosphonic acid (2PACz)のような正孔を優先して捕捉する有機低分子の薄膜を含んでいてもよい。任意ではあるが、正孔と電子の再結合を抑制するために、金属酸化物又は有機薄膜からなるパッシベート層(不図示)が光吸収層14とホール輸送層15の間に設けられていてもよい。
【0040】
ホール輸送層15は、キャリア密度を増加させる添加剤を含んでいてよい。一例として、添加剤としては、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチル)イミド(LiTFSI)を適用することができる。
【0041】
ホール輸送層15の厚さは、1nm~500nmの範囲が好ましく、1nm以上130nm以下の範囲がさらに好ましい。
【0042】
ホール輸送層15は、非晶質層であってもよい。また、ホール輸送層15は、有機バインダ樹脂、可塑剤等を含んでもよい。
【0043】
ホール輸送層15は、例えば、以下の製法で形成することができる。まず、上記のマトリックス成分の化合物を有機溶媒に溶解させて塗布液を調製し、該塗布液を光吸収層14(あるいは上記のパッシベート層)の上に塗布する。その後、有機溶媒を除去することでホール輸送層15が形成される。ホール輸送層15の形成時に使用する有機溶媒は、光吸収層14の上に塗布するため、有機無機ハイブリッド化合物の結晶構造を乱さない溶剤であることが好ましい。当該溶剤としては、クロロベンゼン、トルエン、イソプロパノールなどが挙げられる。塗布液の塗布方法としては、特に限定されないが、スピンコート法、スクリーン印刷法、浸漬塗布法等が挙げられる。
【0044】
第2導電層16は、透光性を有する透明導電層であり、光電変換素子の陽極として作用する。第2導電層16は、ホール輸送層15の上に形成され、ホール輸送層15と接している。
【0045】
第2導電層16の材料としては、任意の導電性透明材料を用いることができる。第2導電層16の材料は、例えばインジウム、亜鉛、錫のいずれかを含む金属酸化物であることが好ましい。第2導電層16の材料としては、例えば、ヨウ化銅(CuI)、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化スズ(SnO2)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等の導電性透明材料や導電性透明ポリマー等が挙げられる。
【0046】
任意ではあるが、不図示のバッファ層が第2導電層16とホール輸送層15の間に形成されていてもよい。バッファ層は、例えば酸化モリブデン等によって形成されていてよい。
【0047】
第3導電層17は、第2導電層16に積層して形成される補助電極層である。第3導電層17は、陽極の電極全体としての電気抵抗を下げる機能を担う。第3導電層17は、透明電極であってもよく、金属グリッド等の集電極であってもよい。第3導電層17が透明電極である場合、その材料は第2導電層16の材料と同じでもよく、第2導電層16と異なる材料であってもよい。
【0048】
第3導電層17の材料としては、例えば、金、銀、銅、アルミ、ニッケル等の金属材料や、ヨウ化銅(CuI)、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化スズ(SnO2)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等の導電性透明材料、導電性透明ポリマー等が挙げられる。上記の材料は、単独で用いられてもよく、2種以上の混合物として用いられてもよい。
【0049】
第3導電層17は、例えば、蒸着や印刷等の方法によって陽極材料の膜を第2導電層16上に形成することで製造できる。また、蒸着マスク等を用いて第3導電層17をメッシュ形状やグリッド形状に形成してもよい。
【0050】
光吸収層14は、ペロブスカイト構造を有する化合物(ペロブスカイト型化合物)を含み、入射光の吸収によって電子と正孔を発生させる機能を担う。光吸収層14では、光吸収層を構成する物質における低いエネルギーの電子が入射光により光励起され、より高いエネルギーの電子と正孔とが発生する。光励起で発生した電子は電子輸送層13に移動し、光励起で発生した正孔はホール輸送層15に移動する。
【0051】
ペロブスカイト型化合物は、組成式A-B-Xによって表される。元素Aは、単位格子の各頂点に配置される。元素Bは、単位格子の各体心付近に配置される。元素Xは、単位格子の各面心付近に配置される。
【0052】
上記組成式における元素Aは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)からなる群から選択される1種又は2種以上の元素である。好ましくは、元素Aは、セシウムである。
【0053】
本実施形態において、上記組成式における元素Bは、鉛(Pb)もしくはスズ(Sn)、又はこれらの両方を含む。上記組成式における元素Xは、ヨウ素(I)、又はヨウ素(I)と臭素(Br)の両方である。したがって、本実施形態において、ペロブスカイト型化合物は、次の組成式:A(Pb1-xSn)I3-yBrを有する。
【0054】
組成式中のxは、0以上、1以下の正数である。組成式中のyは、0以上、3以下の正数である。x、yのより具体的な範囲については、後述する。本組成式を有するペロブスカイト型化合物は、有機分子を含まないため、高い耐熱性を有しやすくなる。
【0055】
上記のペロブスカイト型化合物は、ペロブスカイト前駆体溶液を塗布し、焼成することによって成膜することができる。ここで、ペロブスカイト前駆体溶液は、A-Pb-I溶液と、A-Pb-Br溶液と、A-Sn-I溶液と及びA-Sn-Br溶液を所望の量で混合した混合物であってよい。これらの溶液の混合比率を変えることによって、前述したペロブスカイト型化合物の組成式中のx、yの値を適宜設定することができる。なお、ペロブスカイト前駆体溶液の塗布方法としては、特に限定されないが、スピンコート法、スクリーン印刷法、浸漬塗布法等を適用することができる。
【0056】
本実施形態において、ペロブスカイト型化合物の耐熱性の観点から、組成式中のx、yは、以下の(1)~(5)のいずれかの範囲に属する。
(1)0.0 ≦x<0.0125、かつ1.6≦y≦3.0
(2)0.0125≦x<0.1、 かつ1.1≦y≦3.0
(3)0.1 ≦x<0.3、 かつ0.8≦y≦3.0
(4)0.3 ≦x<0.5、 かつ0.8≦y≦3.0
(5)0.5 ≦x<0.7、 かつ0.8≦y≦2.8
(6)0.7 ≦x≦0.8、 かつ0.8≦y≦1.8
【0057】
ペロブスカイト型化合物の耐熱性の観点から、組成式中のx、yのより好ましい範囲は以下のとおりである。「0.0≦x<0.0125」が満たされる範囲では、「1.8≦y≦3.0」が満たされることが好ましく、「2.0≦y≦3.0」が満たされることがより好ましい。
【0058】
「0.125≦x<0.1」が満たされる範囲では、「1.2≦y≦3.0」が満たされることが好ましく、「1.3≦y≦3.0」が満たされることがより好ましく、「1.4≦y≦3.0」が満たされることがいっそう好ましく、「1.5≦y≦3.0」が満たされることがよりいっそう好ましい。
【0059】
「0.1≦x<0.3」が満たされる範囲では、「0.9≦y≦3.0」が満たされることが好ましく、「1.0≦y≦3.0」が満たされることがより好ましい。
【0060】
「0.3≦x<0.5」が満たされる範囲では、yは、0.8以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましく、1.0以上であることがいっそう好ましい。また、「0.3≦x<0.5」が満たされる範囲では、yは、2.8以下であることが好ましく、2.7以下であることがより好ましく、2.6以下であることがいっそう好ましく、2.5以下であることがよりいっそう好ましい。
【0061】
「0.5≦x<0.7」が満たされる範囲では、yは、0.8以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましく、1.0以上であることがいっそう好ましい。また、「0.5≦x<0.7」が満たされる範囲では、yは、2.6以下であることが好ましく、2.4以下であることがより好ましく、2.2以下であることがいっそう好ましく、1.8以下であることがよりいっそう好ましい。さらに、「0.5≦x<0.7」が満たされる範囲では、yは、1.5以下であってもよい。
【0062】
「0.7≦x≦0.8」が満たされる範囲では、yは、0.8以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましく、1.0以上であることがいっそう好ましい。また、「0.7≦x≦0.8」が満たされる範囲では、yは、1.7以下であることが好ましく、1.6以下であることがより好ましく、1.5以下であることがいっそう好ましい。
【0063】
好ましい実施形態において、ペロブスカイト型化合物の耐熱性の観点から、組成式中のx、yは、以下の(1)~(5)のいずれかの範囲に属する。
(1)0.0 ≦x<0.0125、かつ2.0≦y≦3.0
(2)0.0125≦x<0.1、 かつ1.5≦y≦3.0
(3)0.1 ≦x<0.3、 かつ1.0≦y≦3.0
(4)0.3 ≦x<0.5、 かつ1.0≦y≦2.5
(5)0.5 ≦x≦0.7、 かつ1.0≦y≦1.5
【0064】
上記のx、yの範囲では、ペロブスカイト型化合物の耐熱性が高いと考えられる。具体的には、ペロブスカイト型化合物の加熱前と150℃での加熱後にX線回折実験を行ったところ、上記のx、yの範囲におけるペロブスカイト型化合物のX線回折パターンにおいて回折角(2θ)が13~16°に見られるペロブスカイト型化合物を示すピークは、加熱の前と後でほとんど変化しない。これは、上記のペロブスカイト型化合物が、150℃の高温に耐えられることを示唆している。
【0065】
好ましくは、150℃の窒素雰囲気下で500時間加熱した後のペロブスカイト型化合物の回折角2θが13~16°に見られるX線回折ピークの位置は、当該加熱前のペロブスカイト型化合物のX線回折ピークの位置から0.05°以内の範囲に位置する。この場合、ペロブスカイト型化合物の結晶構造が、150℃の高温条件下で長時間維持される。
【0066】
太陽光による電子とホールの対生成の効率の観点から、ペロブスカイト型化合物における価電子帯と伝導帯の間のバンドギャップ(Eg)は、所望の値よりも小さいことが望ましい。この観点から、バンドギャップは、好ましくは1.9eV以下であり、より好ましくは1.8eV以下である。
【0067】
同様に、光電変換における効率の観点から、ペロブスカイト型化合物における価電子帯と伝導帯の間のバンドギャップは、好ましくは1.5eV以上であり、より好ましくは1.6eV以上であり、よりいっそう好ましくは1.7eV以上である。上記のバンドギャップを有するペロブスカイト型化合物は、光電変換素子の光吸収層として好適に用いられる。
【0068】
特に、前述した多接合型の光電変換素子の場合、トップセルの光吸収層のバンドギャップは、好ましくは1.6eV~1.9eV、より好ましくは1.7eV~1.8eVである。この場合に、多接合型の光電変換素子全体の光電変換効率が極めて高くなることが知られている(非特許文献3参照)。したがって、本実施形態に係るペロブスカイト型化合物のバンドギャップは、好ましくは1.6eV~1.9eV、より好ましくは1.7eV~1.8eVである。
【0069】
図3は、Cs(Pb1-xSn)I3-yBrで表される組成式を有するペロブスカイト型化合物のバンドギャップを示すダイアグラムである。図3において、横軸は組成式中のxの値であり、縦軸は組成式中のyの値である。
【0070】
ダイアグラム中に引かれた各々のラインは、ペロブスカイト型化合物のエネルギーギャップ(Eg)がそれぞれ1.4eV、1.5eV、1.6eV、1.7eV、1.8eV、1.9eV、2.0eV、2.1eV又は2.2eVに相当する箇所を意味する。互いに隣接するライン同士の間の領域は、それぞれのラインによって示された2つのエネルギーギャップの値どうしの間の値のエネルギーギャップを有する領域に相当する。したがって、「Eg=1.7eV」と表示されたラインと、「Eg=1.8eV」と表示されたラインとの間の領域は、エネルギーギャップが1.7eV~1.8eVの範囲であることを意味する。
【0071】
図3に示すエネルギーギャップは、紫外可視分光法により測定された吸光係数αを用いて算出することができる。吸光係数αは、紫外可視分光法によって、例えばJISK0115:2020に準拠した方法により測定及び算出することができる。紫外可視分光法により実際に測定された吸光係数αは、光の振動数νに依存して変動し得る。
【0072】
エネルギーギャップ算出するために、測定された吸光係数αからTaucプロットを作成する。Taucプロットは、縦軸を(hνα)1/nとし、hνを横軸として、吸光係数αを示したものである(図4も参照)。図4では、いくつかのペロブスカイト型化合物について、紫外可視分光法によって測定された吸光係数αのTaucプロットが示されている。
【0073】
ここで、半導体のバンドギャップEgは、測定された吸光係数αから、次の関係式「(hνα)1/n=k(hν-Eg)」に基づいて算出される。ここで、「h」は、プランク定数である。「ν」は照射した光の振動数である。Cs(Pb1-xSn)I3-yBrにおける遷移は直接許容遷移であると考えられるため、「n=1/2」である。「k」は比例定数である。
【0074】
図4において、「(hνα)1/2」の値は、入射光のエネルギーhνの増加とともに少しずつ上昇するかほぼ増加せず維持され、バンドギャップの近傍で急激に上昇した上昇曲線を描く。この急激な上昇曲線の変曲点を通る接線と、該接線とTaucプロットのベースラインとの交点におけるエネルギーhνの値が、バンドギャップEgとなる。ここで、ベースラインは、公知の手法により決定できる。例えば、ベースラインは、バンドギャップの近傍での急激な上昇曲線よりも十分に低エネルギー側の複数の測定点から、最小二乗法により求めた近似直線によって定義されてもよい。
【0075】
このようにして、ペロブスカイト型化合物のバンドギャップを決定することができる。本明細書において、バンドギャップは、当該方法により算出されたものであってよい。
【0076】
図3を参照すると、Cs(Pb1-xSn)I3-yBrにおいて、エネルギーギャップが1.9eV以下である領域は、概ね「y≦5.0x+1.0」を満たす領域に相当する。したがって、前述した耐熱性の条件に加え、光電変換効率の観点で、Cs(Pb1-xSn)I3-yBrでは、「y≦5.0x+1.0」を満たすことがより好ましい。
【0077】
また、図3を参照すると、「2.5x+0.25≦y」であれば、エネルギーギャップが1.6eV以上であることがわかる。したがって、前述した耐熱性の条件に加え、光電変換効率の観点で、Cs(Pb1-xSn)I3-yBrでは、「2.5x+0.25≦y」を満たすことがより好ましい。
【0078】
[実験例]
次に、上記実施形態のペロブスカイト型化合物の耐熱性に関する実験結果について説明する。まず、実験例において、ペロブスカイト型化合物は、以下の手順で製造した。
【0079】
まず、0.4M(モーラー)の濃度のCsPbI溶液、同濃度のCsPbBr溶液、同濃度のCsSnI溶液、同濃度のCsSnBr溶液をそれぞれ調整した。溶媒は、ジメチルスルホキシド(DMSO)である。
【0080】
次に、製造すべきペロブスカイト型化合物を構成する元素の組成比に応じて、必要に応じて、CsPbI溶液、CsPbBr溶液、CsSnI溶液、CsSnBr溶液のいくつか、又はすべてを、所望の割合で混合した。これにより、所望のx、yの値を有するCs(Pb1-xSn)I3-yBr溶液が調整された。
【0081】
次に、予め洗浄されたガラス基板上に、窒素雰囲気の空間内で、Cs(Pb1-xSn)I3-yBr溶液をスピンコート法により塗布した。スピンコートは、最初の10秒間は0rpm、次の10秒間は500rpm、次の80秒間は2000rpmの条件で行われた。また、スピンコートの開始から80秒経過したときに、0.15mlのトルエンを貧溶媒として使用した。
【0082】
次に、ガラス基板上に塗布した溶液を焼結することによって、ペロブスカイト型化合物の薄膜を形成した。焼結は、300℃の温度で2分間行われた。以下の表1に示すように、組成式中のx、yの組み合わせを変えた多数のペロブスカイト型化合物の薄膜を製造した。
【0083】
次に、製造されたペロブスカイト型化合物の薄膜について、耐熱性に関する実験を行った。まず、(150℃での加熱前の)ペロブスカイト型化合物の薄膜に対して、X線回折実験を行い、ペロブスカイト型化合物のX線回折ピークの位置(2θ)を測定した。ここで、X線回折ピークの位置は、強度の極大値の位置によって規定される。
【0084】
次に、ペロブスカイト型化合物の薄膜をガラス基板ごとヒータの上に置き、窒素雰囲気下で150℃で500時間加熱した。それから、加熱後のペロブスカイト型化合物の薄膜に対して、X線回折実験を行い、ペロブスカイト型化合物のX線回折ピークの位置を測定した。
【0085】
図5は、いくつかのペロブスカイト型化合物におけるX線回折実験の結果を示すグラフである。図5において、加熱前のペロブスカイト型化合物におけるX線回折実験の結果が破線で示されている。図5において、加熱後のペロブスカイト型化合物におけるX線回折実験の結果が実線で示されている。図5に示すグラフから、いくつかの化合物において、加熱前の状態から回折角2θが13~16°に見られるペロブスカイト構造に由来するX線回折ピークが見られない事がわかる。これは、該当の組成(特定のx,yの値に相当)が非常に不安定であり、室温においてペロブスカイト構造を維持出来ていないためであると考えられる。また、いくつかのペロブスカイト型化合物において、回折角2θが13~16°に見られるペロブスカイト構造に由来するX線回折ピークの位置が、加熱前と加熱後において変動していることがわかる。これは、加熱により該当の組成のペロブスカイト化合物が分解ないし相分離したためと考えられる。言い換えると、加熱前に回折角2θが13~16°に見られるペロブスカイト構造に由来するX線回折ピークを有し、かつ加熱前と加熱後において、そのピーク位置がほとんど変動しない場合、150℃の耐熱性を有するペロブスカイト型化合物であると言える。
【0086】
以下の表1は、いくつかのペロブスカイト型化合物における耐熱性の実験結果を示すプロットである。以下の表1では、ペロブスカイト型化合物の組成(x、yの値)ごとに、耐熱性の評価が明示されている。ここで、耐熱性における「良」という評価は、前述のX線回折ピークにおいて加熱前にペロブスカイト構造が確認され、かつ加熱前と加熱後においてピーク位置のずれ(Δ2θ)が0.05°以下であることによって規定される。耐熱性における「不良」という評価は、前述のX線回折ピークにおいて加熱前にペロブスカイト構造が確認されない、又はX線回折ピークの加熱前と加熱後においてピーク位置のずれ(Δ2θ)が0.05°より大きい事によって規定される。
【0087】
(表1)
【0088】
図6は、いくつかのペロブスカイト型化合物における耐熱性の実験結果を示すプロットである。図6は、表1に示す実験結果をダイアグラムで示したものである。図6において、横軸は組成式中のxの値であり、縦軸は組成式中のyの値である。図6において、耐熱性における「良」という評価は、「〇」によって示されており、耐熱性における「不良」という評価は、「×」によって示されている。
【0089】
図6を参照すると、高い耐熱性を有する領域は、概ねxが中程度かつyが中程度の領域から、xが小さくyが大きい領域にわたって延びている。具体的には、xが小さい区間では、yは所望の値以上であり、かつ3以下であることが好ましい。xが中程度の区間では、yの値も中程度であることが好ましい。xが中程度よりも大きくなるほど、yが取り得る値の範囲は狭くなっている。
【0090】
より具体的には、Cs(Pb1-xSn)I3-yBrにおいて、組成式中のx、yは、以下の(1)~(5)のいずれかの範囲に属する場合、耐熱性の高いペロブスカイト型化合物が得られることが図6から推測される。
(1)0.0 ≦x<0.0125、かつ1.6≦y≦3.0
(2)0.0125≦x<0.1、 かつ1.1≦y≦3.0
(3)0.1 ≦x<0.3、 かつ0.8≦y≦3.0
(4)0.3 ≦x<0.5、 かつ0.8≦y≦3.0
(5)0.5 ≦x<0.7、 かつ0.8≦y≦2.8
(6)0.7 ≦x≦0.8、 かつ0.8≦y≦1.8
【0091】
好ましくは、x、yが以下の(1)~(5)のいずれかの範囲に属する場合、より確実に耐熱性の高いペロブスカイト型化合物が得られることが図6から理解できる。
(1)0.0 ≦x<0.0125、かつ2.0≦y≦3.0
(2)0.0125≦x<0.1、 かつ1.5≦y≦3.0
(3)0.1 ≦x<0.3、 かつ1.0≦y≦3.0
(4)0.3 ≦x<0.5、 かつ1.0≦y≦2.5
(5)0.5 ≦x≦0.7、 かつ1.0≦y≦1.5
【0092】
上記のx、yによって表される範囲は、150℃という高温において耐熱性を有するペロブスカイト型化合物になり得る。このような高温の耐性を有するペロブスカイト型化合物は、高温に晒され得る環境下、例えば人工衛星のような宇宙空間で使用される場合であっても、好適に利用できる。
【0093】
上記実施形態では、光電変換素子の一例としてペロブスカイト型の太陽電池の構成例について説明した。しかし、本発明の光電変換素子は、例えば、フォトダイオードや光センサなどに適用されるものであってもよい。
【0094】
上記実施形態では、1つの太陽電池セルである単接合セルの構成と、太陽電池セルを2層積層した多接合型太陽電池の構成を説明した。しかし、本発明の光電変換素子の構成は、太陽電池セルを3層以上積層した多接合型太陽電池にも同様に適用できる。この場合において、本発明の光電変換素子の構成は、トップセルに限定されることなくいずれのセルにも適用できる。
【0095】
上述したように、実施形態を通じて本発明の内容を開示したが、この開示の一部をなす論述及び図面は、本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替の実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなる。したがって、本発明の技術的範囲は、上述の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0096】
10,10A 光電変換素子
14 光吸収層

図1
図2
図3
図4
図5
図6