(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023036400
(43)【公開日】2023-03-14
(54)【発明の名称】マルチコア光ファイバ及び光伝送システム
(51)【国際特許分類】
G02B 6/02 20060101AFI20230307BHJP
G02B 6/036 20060101ALI20230307BHJP
H04J 14/04 20060101ALI20230307BHJP
【FI】
G02B6/02 461
G02B6/036
H04J14/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021143431
(22)【出願日】2021-09-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】寒河江 悠途
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰志
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 晋聖
【テーマコード(参考)】
2H250
5K102
【Fターム(参考)】
2H250AC61
2H250AC64
2H250AC83
2H250AC94
2H250AC95
2H250AC96
2H250AC97
2H250AD14
2H250AD32
2H250AD34
2H250AE25
2H250AE64
2H250AE74
5K102AA06
(57)【要約】
【課題】本開示は、製造性を考えた標準クラッド径のマルチコア光ファイバの設計を可能にすることを目的とする。
【解決手段】本開示は、二つ以上の光波モードが伝搬するコアを二つ以上有し、屈折率が前記コアより低く、すべての前記コアを包含するように配置されたクラッドを有し、屈折率が前記クラッド以上かつ前記コア未満であり、前記クラッドを囲むように同心軸上に配置された最外層を有し、前記コアにおいて伝搬される最高次の伝搬モードの前記コア間のクロストークが-39dB/km以下であることを特徴とするマルチコア光ファイバである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つ以上の光波モードが伝搬するコアを二つ以上有し、
屈折率が前記コアより低く、すべての前記コアを包含するように配置されたクラッドを有し、
屈折率が前記クラッド以上かつ前記コア未満であり、前記クラッドを囲むように同心軸上に配置された最外層を有し、
前記コアにおいて伝搬される最高次の伝搬モードの前記コア間のクロストークが-39dB/km以下であることを特徴とするマルチコア光ファイバ。
【請求項2】
前記コアは、波長1.53μm以上の波長において、LP01モードおよびLP11モードを伝搬し、LP21モードを遮断することを特徴とする請求項1に記載のマルチコア光ファイバ。
【請求項3】
前記最外層の直径が125μmであり、
前記コアのコア半径およびコア間距離をaおよびΛとすると、
a≦(Λ+1767)/324.2 かつ
956.5-307.9a+25.7a2≦Λ
≦-1336.2+467.9a-39.5a2
を満たすことを特徴とする請求項2に記載のマルチコア光ファイバ。
【請求項4】
前記コアのコア半径aが5.6μm以上であり、
前記コアの中心から前記最外層の外径までの距離をt、前記最外層の屈折率をΔ2とすると、
Δ2≧0.44+(a-5.6)0.63 かつ
t≧809.7-268.5a+23.1a2
であり、
前記コアのコア間距離Λが
Λ≧35.6×10-4(a-5.4)-4.2+35.3
であることを特徴とする請求項2に記載のマルチコア光ファイバ。
【請求項5】
前記コアのコア半径aが5.6μm以上であり、
前記最外層の直径が125μmであり、
前記クラッドに前記コアが4つ配置されており、
光の波長が1.55μmである場合の前記コアのLP01モードのモードフィールド径が9.5μm以上であり、
光の波長が1.625μmである場合の前記コアのLP11モードの漏洩損失が0.01dB/km以下であることを特徴とする
請求項2に記載のマルチコア光ファイバ。
【請求項6】
前記コア半径aが5.6μm以上であり、
前記最外層の直径が125μmであり、
前記クラッドに前記コアが4つ配置されており、
前記コア間距離Λ及び前記コア半径aが、
35.6×10-4(a-5.4)-4.2+35.3≦Λ
≦-1248.5+446.8a-38.6a2
を満たす請求項2に記載のマルチコア光ファイバ。
【請求項7】
4つ以上の送信機と、
前記送信機によって生成された信号光を2つ以上の光波モードに変換する2つ以上のモード合波器と、
前記合波器から出射される光を請求項1から6のいずれかに記載のマルチコア光ファイバの各コアへ結合する光結合部と、
前記マルチコア光ファイバの各コアから信号光を抽出する光抽出部と、
前記光抽出部から出射される信号光を二つ以上の光波モードに分離する2つ以上のモード分離器と、
前記モード分離器から出射される信号光を受信する4つ以上の受信機と、
を有することを特徴とする、
光伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、各コアで複数の光波モードの光を伝搬するマルチコア光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
将来の大容量光ネットワーク実現に向けて空間分割多重技術の研究が盛んに行われている。空間分割多重技術は1本の光ファイバに複数の空間チャネル(コア、光波モード)を収めることにより従来の光ファイバと比較して光ファイバ1本当たりの伝送容量の飛躍的な向上が期待されている。複数のコアを有するマルチコア光ファイバでは、製造性および既存設備との整合性の鑑定観点から、標準光ファイバと同等の直径125μmのクラッド(標準クラッド)に単一モードが伝搬可能な同種コアを配置する構造が注目されている(例えば、非特許文献1参照。)。更なる伝送容量拡大に向けて直径125μmのクラッドに、3つの光波モードが伝搬可能な同種コアを配置した数モードマルチコア光ファイバも実現されている。(例えば、非特許文献2参照。)
【0003】
マルチコア光ファイバ伝送システムでは良好な伝送特性を得るために、コア間で信号が干渉するコア間クロストーク(以下、XTと称する場合がある。)を抑制することが必要であり、コア間隔の縮小に伴ってXTは増大する。マルチコア光ファイバを用いた長距離伝送ではXTを-39dB/km以下とすることが求められており、非特許文献2では-50dB/km以下のXTが実現されている。数モードの伝搬を許容するマルチコア光ファイバでは、高次モードの漏洩を抑制するためにコア間隔を縮小する必要があるため、十分なXTの抑制が困難である。非特許文献2ではこの高次モードの漏洩とXTのトレードオフを緩和するためにコア間に空孔を配置しているが、製造コストが増加する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T. Matsui et al., “Design of 125 μm cladding multi-core fiber with full-band compatibility to conventional single-mode fiber,” 2015 European Conference on Optical Communication (ECOC), Valencia, Spain, 2015, pp. 1-3, doi: 10.1109/ECOC.2015.7341966.
【非特許文献2】S. Nozoe et al., “125 μm-cladding 2LP-mode and 4-core Multi-core Fibre with Air-hole Structure for Low Crosstalk in C+L Band,” 2017 European Conference on Optical Communication (ECOC), Gothenburg, 2017, pp. 1-3, doi: 10.1109/ECOC.2017.8346167.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、製造性を考えた標準クラッド径のマルチコア光ファイバの設計を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のマルチコア光ファイバは、
二つ以上の光波モードが伝搬するコアを二つ以上有し、
屈折率が前記コアより低く、すべてのコアを包含するように配置されたクラッドを有し、
屈折率が前記クラッド以上かつ前記コア未満であり、前記クラッドを囲むように同心軸上に配置された最外層を有し、
前記コアにおいて伝搬される最高次の伝搬モードの前記コア間のクロストークが-39dB/km以下であることを特徴とする。
【0007】
本開示の光伝送システムは、
4つ以上の送信機と、
前記送信機によって生成された信号光を2つ以上の光波モードに変換する2つ以上のモード合波器と、
前記合波器から出射される光を本開示のマルチコア光ファイバの各コアへ結合する光結合部と、
前記マルチコア光ファイバの各コアから信号光を抽出する光抽出部と、
前記光抽出部から出射される信号光を二つ以上の光波モードに分離する2つ以上のモード分離器と、
前記モード分離器から出射される信号光を受信する4つ以上の受信機と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、標準クラッド径のマルチコア光ファイバを高い製造性で実現する効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示のマルチコア光ファイバの断面の一例を示す。
【
図3】本開示の3モードマルチコア光ファイバを実現する最外層屈折率の一例を示す。
【
図4】本開示の3モードマルチコア光ファイバのクラッド厚の一例を示す。
【
図5】本開示の3モードマルチコア光ファイバのコア間距離の一例を示す。
【
図6】本開示の標準外径3モード4コアファイバの一例を示す。
【
図7】本開示の光ファイバを用いた光伝送システムの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0011】
図1に本開示の実施形態に係るマルチコア光ファイバの断面図を示す。本実施形態のマルチコア光ファイバは、二つ以上のコア11と、すべてのコア11の周方向を取り囲むクラッド12と、クラッド12を取り囲む最外層13と、を備える。クラッド12及び最外層13の断面形状は円形であり、これらは同心軸上に配置されている。クラッド12内に配置されるコア11の数は任意であるが、ここでは一例として4コアを配した構成で示す。
【0012】
本開示は空孔を用いずに非特許文献2と同等の特性を有する標準クラッド径の数モードマルチコア光ファイバを実現するものであり、非特許文献2との差分は下記3点である。
(i)高次モードの漏洩とXT増大のトレードオフを緩和するために、光の閉じ込め効果が高いコア11を用いる。
(ii)過剰な閉じ込め効果により伝搬する不要な高次モードを、クラッド12より屈折率の高い最外層13を付与することでカットオフする。
(iii)最外層13をコアごとに付与するのではなく、共通化することにより幾何学的な制約を緩和する。
以下、コア11が光波モードであるLP01モードおよびLP11モードを導波し、不要な高次モードがLP21モードである場合について、詳細に説明する。
【0013】
本実施形態のマルチコア光ファイバは、
図1に示すように、2つ以上の光波モードを伝搬する4つのコア11がクラッド12に配置され、クラッド12を取り囲むように同心軸上に最外層13が配置される。この時、クラッド12の屈折率はコア11より低く、最外層13の屈折率はクラッド12以上、かつコア11未満に設定される。
【0014】
ここで、コア半径をa、クラッド12に対するコア11の比屈折率差をΔ
1、クラッド12に対する最外層13の比屈折率差をΔ
2、コア間距離をΛ、コア11の中心から最外層13の内径までの距離をs、コア11の中心から最外層13の外径までの距離(クラッド厚)をtとする。なお、
図1ではコア数が4で正方格子上に配置した時を示したが、2つ以上の任意のコア数および円環上配置や六方最密配置でもよい。
【0015】
図2に本開示に係るマルチコア光ファイバの一例として、Δ
2=0%とし、最外層13の直径が標準クラッドと同等の直径125μmであるとき、光波モードであるLP01モードおよびLP11モードを導波するコアを4つ配置する構成の光学特性について、aおよびΛ依存性を示す。ここで、Δ
1により波長1.55μmでLP01モードのモードフィールド径(以下、MFDと略記することがある。)は標準的な単一モードを伝搬するマルチコア光ファイバと同等の9.5μmとしている。
【0016】
図中の直線L21はLP21モードを波長1.53μmで遮断する構造の境界線、破線L22はLP11モード間のXTが-39dB/km以下となる構造の境界線、および一点鎖線L23はLP11モードの漏洩損失が0.01dB/kmとなる構造の境界線をそれぞれ示している。それぞれの境界線で囲まれる灰色の領域を満たすaおよびΛ依存性を用いることで、最外層13の直径が125μmであるときに波長1.55μmで十分な低XT性と低損失性を有する3つの光波モードを伝搬するマルチコア光ファイバを実現可能である。
【0017】
各境界線は次式で表すことができる。
L21:Λ=-1767+324.2a
L22:Λ=956.5-307.9a+25.7a2
L23:Λ=-1336.2+467.9a-39.5a2
【0018】
以上より灰色の領域はΔ1=0%のとき
a≦(Λ+1767)/324.2 かつ
956.5-307.9a+25.7a2≦Λ≦-1336.2+467.9a-39.5a2
で表すことができる。
【0019】
なお、
図2ではΔ
2=0%の例を示したが、本開示はこれに限定されない。例えば、Δ
2>0%とすることにより
図2におけるカットオフ波長の条件を緩和し、a≧5.6μmの領域に設計領域が拡大する。
【0020】
図3に本実施形態に係るマルチコア光ファイバのΔ
2のコア半径依存性を示す。ここでは一例として光波モードであるLP01モードおよびLP11モードを導波するマルチコア光ファイバについて示し、各コア半径でΔ
1によりLP01モードの波長1.55μmにおけるMFDを9.5μmとしている。図中の曲線L3はLP21モードを波長1.53μmで遮断することを可能にするΔ
2を示す。曲線L3よりΔ
2が大きい灰色の領域において、a≧5.6μmの領域で3モードマルチコア光ファイバが実現する。本境界線は次式で表すことができる。
Δ
2=0.44+(a-5.6)
0.63
【0021】
図4に本実施形態に係るマルチコア光ファイバのクラッド厚tを示す。ここでは一例として3モード伝搬を可能とするマルチコア光ファイバについて示すこととし、Δ
1およびΔ
2によって波長1.55μmにおけるLP01モードのMFDを9.5μmおよびLP21モードのカットオフ波長を1.53μmとしている。図中の実線はLP11モードの漏洩損失が波長1.625μmにおいて0.01dB/km以下となる構造の境界線L4を示しており、境界線L4よりtが大きい領域で低損失性が実現される。本境界線L4は次式で表すことができる。
t=809.7-268.5a+23.1a
2
【0022】
図5に本実施形態に係るマルチコア光ファイバのコア間距離を示す。ここでは一例として3つの光波モードの伝搬を可能とするマルチコア光ファイバについて示すこととし、Δ
1およびΔ
2によってLP01モードの波長1.55μmにおけるMFDを9.5μmおよびLP21モードのカットオフ波長を1.53μmとしている。図中の実線はXTが波長1.625μmにおいて-39dB/km以下となる構造の境界線L5を示しており、境界線L5よりΛが大きい灰色の領域で低XT性が実現される。本境界線L5は次式で表すことができる。
Λ=35.6×10
-4(a-5.4)
-4.2+35.3
【0023】
以上よりa≧5.6μmにおいて最外層13が
Δ2≧0.44+(a-5.6)0.63 かつ
t≧809.7-268.5a+23.1a2
であり、コア間距離が
Λ≧35.6×10-4(a-5.4)-4.2+35.3
である場合において、十分な低XT性と低損失性を両立する数モードマルチコア光ファイバを実現できる。
【0024】
図6に本開示に係るマルチコア光ファイバにとして、直径125μmの標準クラッドを有し、光波モードであるLP01モード及びLP11モードを伝搬可能とするコアを4つ包含するマルチコア光ファイバのΛとaを示す。クラッド12の直径が標準光ファイバと同等であることにより、製造性の劣化が少なく、既存設備との整合性が良いので好ましい。ここでは、Δ
1およびΔ
2によってLP01モードの波長1.55μmにおけるMFDを9.5μmおよびLP21モードのカットオフ波長を1.53μmとしている。
【0025】
実線L61はLP11モードの漏洩損失が波長1.625μmにて0.01dB/kmとなる構造を示し、実線L61よりΛが小さい領域で十分な低損失性を実現できる。破線L62はLP11のコア間XTが波長1.625μmにおいて-39dB/kmとなる構造を示し、破線L62よりΛが大きい領域で十分な低XT性を実現できる。実線L61及び破線L62は次式で表すことができる。
L61:Λ=-1248.5+446.8a-38.6a2
L62:Λ=35.6×10-4(a-5.4)-4.2+35.3
【0026】
以上より、a≧5.6μmにおいて
35.6×10
-4(a-5.4)
-4.2+35.3≦Λ
≦-1248.5+446.8a-38.6a
2
で示される
図6中の灰色の領域で十分な低損失性と低XT性を有する3モード4コアファイバを標準クラッド径で実現できる。
【0027】
図7に本開示に係るマルチコア光ファイバを用いた光伝送システムの構成図を示す。N個の送信機91によって生成される信号光をM個のモード合波器92に入力し、信号光を2つ以上の光波モードに多重する。ここでN≧4であり、M≧2である。信号光が多重された各光波モードは光結合部93で本開示のマルチコア光ファイバ94の各コアに結合する。光抽出部95で各コアを伝搬してきた信号光を抽出し、各モードはM個のモード分離器96によって信号光ごとに分波され、N個の受信機97で受信される。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本開示は情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
11:コア
12:クラッド
13:最外層
91:送信機
92:モード合波器
93:光結合部
94:マルチコア光ファイバ
95:光抽出部
96:モード分離器
97:受信機