(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044646
(43)【公開日】2023-03-30
(54)【発明の名称】ペイロードを支持する防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 9/04 20060101AFI20230323BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230323BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20230323BHJP
【FI】
F16F9/04
F16F15/02 M
F16F15/023 Z
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022136681
(22)【出願日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】21197474.6
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】504151804
【氏名又は名称】エーエスエムエル ネザーランズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【弁理士】
【氏名又は名称】下地 健一
(72)【発明者】
【氏名】ギャリップ トゥナ タークベイ
(72)【発明者】
【氏名】ベルト ファン リーロップ
(72)【発明者】
【氏名】アレックス ファン ランクヴェルト
(72)【発明者】
【氏名】エリック ロープシュトラ
(72)【発明者】
【氏名】アーメット ルヴァント アヴサール
【テーマコード(参考)】
3J048
3J069
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048AD05
3J048BE02
3J048DA01
3J048EA13
3J069AA04
3J069DD03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ガス区画の漏れを防止するよう最適化されると同時に支持部材の位置ずれが生じない防振装置を提供する。
【解決手段】防振装置(10)は、剛性のベース構造(28)で形成された加圧ガス区画(24)であり、ベース構造は、ガス区画を向いた内面(21)及び反対方向を向いた外面(22)を有する可撓性の膜(20)で覆われた開口(32)を有する加圧ガス区画(24)と、ペイロードを支持する支持部材(12)であり、膜の外面(22)と接触するよう配置された支持部材(12)と、膜の内面(21)に配置されたクランプ部材(62)とを備え、支持部材及びクランプ部材は、膜を支持部材に押し付ける少なくとも1つの磁気素子(64)を含むクランプシステム(66)を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペイロードを支持し且つ該ペイロードを防振する防振装置(10)であって、
剛性のベース構造(28)で形成された加圧ガス区画(24)であり、前記ベース構造は、前記ガス区画を向いた内面(21)及び反対方向を向いた外面(22)を有する可撓性の膜(20)で覆われた開口(32)を有する加圧ガス区画(24)と、
前記ペイロードを支持する支持部材(12)であり、前記膜の前記外面(22)と接触するよう配置された支持部材(12)と、
前記膜の前記内面(21)に配置されたクランプ部材(62)と
を備え、前記支持部材及び前記クランプ部材は、前記膜を前記支持部材に押し付ける少なくとも1つの磁気素子(64)を含むクランプシステム(66)を形成する防振装置。
【請求項2】
請求項1に記載の防振装置において、
前記磁気素子(64)は永久磁石として構成される防振装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の防振装置において、
前記磁気素子(64)は前記クランプ部材(62)に含まれる防振装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の防振装置において、
前記クランプ部材(62)はリング状である防振装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の防振装置において、
前記クランプシステム(66)の前記部材(12、62)のうち第1部材が、前記磁気素子(64)を含み、前記部材のうち第2部材が、前記磁気素子に対向して配置され且つ該磁気素子との間で磁気吸引を可能にするよう構成された磁気ターゲット(68)を含む防振装置。
【請求項6】
請求項5に記載の防振装置において、
前記クランプシステム(66)の前記第1部材(62)は、該第1部材のリム(72)に沿って配置された複数の磁気素子(64)を含む防振装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の防振装置において、
前記クランプシステム(66)の前記第1部材は前記クランプ部材(62)であり、前記クランプシステムの前記第2部材は前記支持部材(12)である防振装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の防振装置において、
前記クランプシステム(66)は、逆の磁気配向(67a、67b)で配置された少なくとも2つの磁気素子(64)を含む防振装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の防振装置において、
前記クランプシステム(66)は、交互の磁気配向(67a、67b)で配置された少なくとも4つの磁気素子(64)を含む防振装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の防振装置において、
前記支持部材(12)と前記クランプ部材(62)との間のクランプ力が500N以上である防振装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の防振装置において、
前記支持部材(12)と前記膜(62)との間の静摩擦係数が0.1以上である防振装置。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の防振装置において、
前記ガス区画(24)内の圧力は大気圧よりも2bar以上高い防振装置。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の防振装置において、
該防振装置は真空で動作するよう構成される防振装置。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の防振装置において、
絞り(76)を介して前記ガス区画(24)に接続されたダンピング室(74)をさらに備えた防振装置。
【請求項15】
請求項14に記載の防振装置において、
前記ダンピング室(74)は圧力供給ライン(50)に接続される防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年9月17日に出願された欧州特許出願第21197474.6号の優先権を主張する。本特許出願の全開示を参照により本願に援用する。
【0002】
本発明は、加圧ガス区画を備えた、ペイロードを支持し且つペイロードを防振する防振装置に関する。
【背景技術】
【0003】
非常に低振幅の全方向運動の形態の振動は、いかなる建造物にも自然に存在し、非常に高い音響周波数までのあらゆる周波数でさまざまなレベルで存在する。このような振動に関連する加速度は、多くのタイプの高感度機器の構造に応力を導入する。例えば、これらの振動は、マイクロリソグラフィ投影露光装置で用いられる光学素子の品質を測定する測定設備の高感度素子に導入され、それに伴い測定精度を低下させ得る。
【0004】
防振装置を用いて、ペイロードにより支持されたコンポーネントの移動が引き起こすペイロードの動きを抑制することもできる。例えば半導体産業では、ウェーハを担持する重く速い移動ステージがあるのが一般的であり、これは検査を行うためにウェーハ上の異なる場所で停止する。ステージの動きは、ペイロードをその防振装置上で移動させる。しかしながら、この動きが収まるまで測定を実行することはできない。したがって、防振装置ができる限り早く制動することが、このようなシステムのスループットに非常に重要である。
【0005】
特許文献1は、ダンピングオリフィスを介して接続された空気室の形態の2つのガス区画を備えた空気圧防振装置を開示している。第1空気室は、ペイロードを支持する支持部材として働く可動ピストンを収容する開口を含む。第1空気室の開口のリムとピストンとの間のギャップは、環状の可撓性ローリングダイヤフラム又は膜で覆われる。しかしながら、特に防振装置が真空環境で動作する場合に、このような環状の膜では膜とピストンとの間の接続が必ずしも完璧に密封されていない場合がある。
【0006】
この課題は、防振装置の開口全体を覆うように膜を構成し、膜の上にピストンを配置することにより解決され得る。しかしながら、このような構成では、防振装置の動作中及びガス区画の収縮膨張サイクル中に、ピストンは膜上の所望の中心位置から偏心位置へ移動しやすい。その結果生じるピストンの位置ずれは、防振装置の故障を引き起こし得るか、又は少なくとも防振装置の防振効率を低下させ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,918,862号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決し、特にガス区画の漏れを防止するよう最適化されると同時に支持部材の位置ずれが生じない、前述のタイプの防振装置を提供することである。支持部材の位置ずれからの保護は、防振装置の動作中及びガス区画の収縮膨張サイクル中の両方で確保されることが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記目的は、例えば、ペイロードを支持し且つペイロードを防振する防振装置であって、剛性のベース構造で形成された加圧ガス区画であり、ベース構造は、ガス区画を向いた内面及び反対方向を向いた外面を有する可撓性の膜で覆われた開口を有する加圧ガス区画と、ペイロードを支持する支持部材であり、膜の外面と接触するよう配置された支持部材と、膜の内面に配置されたクランプ部材とを備え、支持部材及びクランプ部材は、膜を支持部材に押し付ける少なくとも1つの磁気素子を含むクランプシステムを形成する、防振装置により達成することができる。
【0010】
ガス区画には、空気又は任意の他のガスが充填され得る。空気の場合、防振装置は、「空気マウント」又は「空気ばね」とも称し得る。支持部材は、膜の外面と接触する広域接触面を有することができ、広域接触面は、膜の外面の50%以上、特に80%以上を覆うことができる。
【0011】
支持部材は、ペイロードを支持するよう構成される。これは、直接行うことができる、すなわちペイロードが支持部材上に配置されるか、又は間接的に行うことができる、すなわち少なくとも別の要素又は部材を支持部材とペイロードとの間に配置することができる。支持部材は、板として構成され得る。これはピストンとも称し得る。
【0012】
本発明によれば、剛性のベース構造の開口は、可撓性の膜で覆われる。このように、引裂きが生じやすい膜と支持部材との間の接続が回避される。したがって、ガス区画の開口は、ガス漏れに対して非常によくシールされる。さらに、膜上での支持部材の移動により膜における支持部材の位置ずれが起こる可能性が、クランプシステムにより防止される。これは、クランプシステムが磁気力により膜を接触面に押し付けるよう構成されることによるものである。
【0013】
ボルト又は任意の他の機械的な固定部材を用いて、膜を貫通することによりクランプ部材を支持部材に固定するクランプシステムとは異なり、本発明によるクランプシステムは、膜に穴を開けずに膜をクランプすることを可能にする。膜が無傷のままなので、ガス漏れの可能性が回避される。
【0014】
一実施形態によれば、磁気素子は、永久磁石として、例えばネオジム磁石として構成される。例えば、NdFeB材料を用いて磁気素子が構成され得る。磁気素子の材料の代替例は、AlNiCo及びサマリウムコバルトを含む。
【0015】
さらに別の実施形態によれば、磁気素子はクランプ部材に含まれる。つまり、磁気素子はクランプ部材の一部であるか、又は磁気素子はクランプ部材を全体として形成する。換言すれば、クランプ部材は磁気素子を含む。
【0016】
さらに別の実施形態によれば、クランプ部材はリング状であり、リングは特に円形であり得る。
【0017】
さらに別の実施形態によれば、クランプシステムの部材のうち第1部材が、磁気素子を含み、部材のうち第2部材が、磁気素子に対向して配置され且つ磁気素子との間で磁気吸引を可能にするよう構成された磁石ターゲットを含む。つまり、磁石ターゲットは、磁化可能な材料、例えば鋼等の強磁性体製であり得る。代替として、磁気ターゲットは、N極が磁気素子のS極を向くか又はその逆であるようにそれ自体が配置された永久磁石であり得る。
【0018】
変形実施形態によれば、クランプシステムの第1部材は、第1部材のリムに沿って配置された複数の磁気素子、特に少なくとも4個、少なくとも10個、又は少なくとも20個の磁気素子を含む。
【0019】
さらに別の実施形態によれば、クランプシステムの第1部材はクランプ部材であり、クランプシステムの第2部材は支持部材である。つまり、クランプ部材は少なくとも1つの磁気素子を含み、支持部材は少なくとも1つの磁気ターゲットを含む。代替的な実施形態において、支持部材は少なくとも1つの磁気素子を含むことができ、クランプ部材は少なくとも1つの磁気ターゲットを含むことができる。さらに、支持部材及びクランプ部材の両方に、それぞれ少なくとも1つの磁気素子及び少なくとも1つの磁気ターゲットが設けられ得る。
【0020】
さらに別の実施形態によれば、クランプシステムは、逆の磁気配向で配置された少なくとも2つの磁気素子を含む。こうして、磁束を増加させることができる。
【0021】
さらに別の実施形態によれば、クランプシステムは、交互の磁気配向で配置された少なくとも4個の磁気素子を含む。
【0022】
さらに別の実施形態によれば、支持部材とクランプ部材との間のクランプ力は、500N以上、特に700N以上又は1000N以上である。
【0023】
さらに別の実施形態によれば、支持部材と膜との間の静摩擦係数は、0.1以上、特に0.2以上又は0.5以上である。膜は、弾性材料、例えばViton(登録商標)製であり、支持部材は、金属、例えばアルミニウム製であり得る。一実施形態によれば、膜は、Viton(登録商標)と膜の強度を高めるために相互に対して垂直な2軸に配置された繊維層とからなる。
【0024】
さらに別の実施形態によれば、ガス区画内の圧力は、大気圧よりも2bar以上、特に3bar以上又は4bar以上高い。
【0025】
さらに別の実施形態によれば、防振装置は、真空で、例えば高真空又は超高真空で動作するよう構成される。
【0026】
さらに別の実施形態によれば、防振装置は、絞りを介してガス区画に接続されたダンピング室をさらに含む。絞りは絞り弁を含み得る。
【0027】
さらに別の実施形態によれば、ダンピング室は、圧力供給ラインに接続される。防振装置は、特に「空気圧防振装置」と称することができる。
【0028】
上記の本発明による防振装置の実施形態、例示的な実施形態、及び変形実施形態等に関して述べる特徴及び本発明による実施形態の他の特徴を、図の説明及び特許請求の範囲において説明する。個々の特徴は、本発明の実施形態として別個に又は組み合わせて実施することができる。さらに、これらの特徴は、独立して保護可能であり且つ適切な場合は本願の係属中又は決定後にのみ保護が求められる有利な実施形態を表すことができる。
【0029】
本発明の上記及びさらに他の有利な特徴を、添付の概略図を参照して本発明による例示的な実施形態の以下の詳細な説明に示す
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】ペイロードを支持し且つ動作状態でガス区画が膨張してペイロードを防振する防振装置の第1実施形態の断面を示す。
【
図2】非動作状態でガス区画が収縮した
図1に示す防振装置を示す。
【
図3】
図1及び
図2に示す防振装置のクランプ部材の第1実施形態の上面図を示す。
【
図4】
図1及び
図2に示す防振装置のクランプ部材の第2実施形態の上面図を示す。
【
図5】ダンピング室を有する防振装置の第2実施形態の断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に記載する例示的な実施形態又は実施形態又は変形実施形態において、相互に機能的又は構造的に類似した要素にはできる限り同一又は同様の参照符号を付す。したがって、特定の例示的な実施形態の個々の要素の特徴を理解するためには、他の例示的な実施形態の説明又は本発明の概要を参照されたい。
【0032】
説明を容易にするために、直交xyz座標系が図示されており、当該座標系から図示のコンポーネントの各位置関係が明らかである。
図1において、y方向は図の平面に対して垂直に延び、x方向は右側に延び、z方向は上方に延びる。
【0033】
図1は、ペイロードを支持し且つペイロードを防振する空気圧防振装置の形態の本発明による防振装置10の第1実施形態の断面を示す。かかる防振装置10の少なくとも1つが、マイクロリソグラフィ投影露光装置の光学素子、特にEUVミラーの品質を測定するための測定設備に収容され得る。
【0034】
かかる測定設備は、干渉システムとして構成され得る。防振装置10は、かかる測定設備に被検光学素子を防振するよう配置され得るものであり、すなわち、防振装置を測定設備のハウジング又はベースフレームに載置することができ、マウントを含む光学素子をペイロードとして防振装置に載置することができる。測定設備内の光学測定経路全体を防振するために、測定設備の他の光学素子を防振装置10に載置することもできる。さらに、少なくとも1つの防振装置をマイクロリソグラフィ投影露光装置内に収容して、例えば投影対物レンズ又は別の光学系を防振することができる。このような振動は、特に投影露光装置で用いられるステージの移動により引き起こされて露光プロセス中にレチクル及びウェーハを移動させ得る。
【0035】
図1に示す防振装置10は、支持面14を有する支持部材12を備える。図示の実施形態において、支持部材12は、z方向に向いた軸16に対して回転対称である。円形の支持面14、
図1では支持部材12の上面は、上記ペイロードを支持する働きをする。ペイロードは、支持面14に載置されてその重量により生じた摩擦により所定位置に保持され得る。代替として、ペイロードは、ボルト又はねじ等のような固定要素を用いて支持面に固定され得る。
【0036】
支持部材12は、接触面18、
図1では支持部材12の下面をさらに含み、接触面18は、可撓性の膜20の外面22とも称する上面と接触する。膜は、弾性材料、例えばViton(登録商標)を用いて作られる。一実施形態によれば、膜は、Viton(登録商標)と膜の強度を高めるために相互に対して垂直な2軸に配置された繊維層とからなる。接触面18は、広い面積にわたって膜20の外面22と接触するので「広域接触面」とも称し、例えば、接触面18は膜20の外面22の50%以上又は80%以上を覆い得る。
【0037】
防振装置10は、加圧ガス区画24、圧力供給デバイス26、剛性のベース構造28、及びブラケット30をさらに備える。加圧ガス区画24には、加圧空気又は任意の他の加圧ガス若しくは混合ガスを充填することができる。ガス区画24は、ベース構造28及び膜20により形成される。
【0038】
図1に示すベース構造28は、軸16に対して回転対称な筒状物として構成される。ベース構造28を形成する筒状物は、ガス区画24のための空間を本質的に提供する第1中央円筒形カットアウト32を有する。円筒形カットアウト32は、軸16に対して回転対称である。ガス区画24は、ベース構造28の円形側壁32に囲まれる。ベース構造28を形成する筒状物は、第1円筒形カットアウト32よりも大きな半径を有する第2円筒形カットアウト34を有し、これも軸16に対して回転対称でありガス区画24の上に配置される。第1カットアウト32の側壁36は、水平ショルダ領域40により第2カットアウト34の側壁38と接続される。
【0039】
膜20は、
図1に示すように例えばボルト42又はねじによりショルダ領域40に取り付けられる。換言すれば、第1カットアウト32により形成されたベース構造28の開口は、膜20で覆われる。ここで、膜20は、ガス区画24を膨張収縮させることができるように緩く、すなわち緊張させずに取り付けられる。緩い取り付けは、
図1において側壁36付近の膜20の膨らみ部分44から明らかである。膜20の内面21は、ガス区画24に向いており、ガス区画24の屋根を形成する。
【0040】
側壁36により形成された円内のベース構造28の下部46は、ガス区画24の床を形成する。ベース構造28、
図1に示す実施形態では下部46は、ガス区画24に通じる開口48を有し、これに管の形態の圧力供給ライン50を介して圧力供給デバイス26が接続される。圧力供給デバイス26は、ガス区画34に過圧空気を、例えば2barを超える圧力、特に約4barの圧力を供給し、この環境は真空であり得る、すなわち事実上0barの圧力を有する。供給圧力を変えることにより、ガス区画24を膨張収縮させることができる。
【0041】
図1は、ガス区画24を所定のレベルまで膨張させた防振装置10の動作状態を示す。動作状態では、支持部材12が、ベース構造28とブラケット30との間に設けられた空間内で浮遊しているレベルまで持ち上げられる。図示の実施形態において、ブラケット30は、軸16周りにリング状であり、ボルト53によりベース構造28の上リング状部分52に取り付けられる。代替として、複数の点状支持ブラケットがリング状部分52の周りに配置され得る。
【0042】
上述のように、動作状態では、支持部材12がベース構造28とブラケット30との間に設けられた空間内で浮遊しており、すなわちこの状態では、支持部材12の突起54とベース構造28のリング状部分52との間にz方向のギャップ56がある。突起54も軸16周りにリング状である。さらに、支持部材12の突起54とブラケット30との間にz方向のギャップ58がある。追加として、支持部材12の突起54とブラケット30との間にz方向に対して垂直に延びるギャップ60がある。
図1に示す断面では、ギャップ60はx方向に延びる。ギャップ56、58、及び60の全てが、突起54のリング状に沿って均一であることが好ましい。
【0043】
図2は、デバイス26により供給された圧力を減らしてガス区画24をある程度収縮させた、防振装置10の収縮状態を示す。ガス区画24の収縮により、支持部材12がベース構造28の上リング状部分52に載るように下降する。つまり、収縮状態では、支持部材12の突起54と部分52との間のギャップ56がなくなる一方で、ギャップ58はそれに対応して大きくなる。
【0044】
防振装置10の動作中に、且つガス区画24の複数回の膨張収縮サイクルの実行時、すなわち
図1及び
図2に示す状態間の切り替え時にも、支持部材12がリング状のブラケット30内で中心にあることが重要である。防振装置10の動作中、膜20が僅かに上下移動してガス区画24を僅かに圧縮及び減圧することにより、振動が吸収される。これらの移動には、通常は支持部材12と膜20との間の水平剪断力が伴う。上記サイクル又はガス区画24の膨張収縮中に実行される支持部材12の上下移動にも、水平剪断力が伴う。
【0045】
水平剪断力が膜20に対する支持部材12の変位を引き起こすのを回避するために、本発明によれば、永久磁石の形態の少なくとも1つの磁気素子64及びハウジング構造65を含むクランプ部材62が、膜20を支持部材12の接触面18に押し付けてそれに伴い支持部材12及び膜20を摩擦により相互に固定するよう配置される。
【0046】
膜20に対する支持部材12の変位は、防振装置10内の支持部材12の位置ずれをもたらし、これは突起54をブラケット30及び/又はベース構造28の部分52と接触させることになる。このような位置ずれは、防振装置10の故障を引き起こし得る、すなわち防振装置10の制振機能の効率が低下し得るか又は制振機能が完全になくなり得る。
【0047】
クランプ部材62及び支持部材12は、共にクランプシステム66を形成する。
図3及び
図4は、クランプ部材62の異なる実施形態を上面図で示す。両方の実施形態において、クランプ部材62のハウジング構造65は、リングに沿って均一に配置された複数の矩形の磁気素子64を保持するリング状である。換言すれば、磁気素子64は、リング状のハウジング構造65のリム72に沿って配置される。磁気素子64の数は、
図3に示す実施形態では8個、
図4に示す実施形態では16個である。
図4に示す実施形態では、各磁気素子64のサイズ及びハウジング構造65のリング幅は対応して小さくなる。図示しないさらに別の実施形態では、リング状の1つの磁気素子64のみが設けられ得る。
【0048】
図1に示すように、支持部材12は、クランプ部材62の少なくとも1つの磁気素子64に対向して配置された少なくとも1つの磁石ターゲット68を任意に含む。磁石ターゲット68は、単品から作って
図3及び
図4に示す磁気素子64のリング状配置に対応するリングとして形成することができる。
【0049】
一実施形態によれば、クランプ部材62の磁気素子64と同数の磁気ターゲット68が支持部材12に含まれる。さらに、磁石ターゲット68のそれぞれが、支持部材12の接触面18側に各磁気素子64に対向して配置される。つまり、磁石ターゲット68及び磁気素子64は、それぞれ相互に位置合わせされ、膜20によってのみ分離される。磁石ターゲット68は、支持部材12の本体の凹部に配置されてボルト70により本体に取り付けられるので、本体の下面及び磁石ターゲット48は接触面18として働く平坦面を形成する。
【0050】
支持部材12の本体は、例えばアルミニウム製であり得る。別個の磁石ターゲット68が支持部材12に設けられない場合、支持部材12全体が強磁性体製であり、したがってそれ自体が磁石ターゲットとして働く。
【0051】
少なくとも1つの磁石ターゲット68は、磁化可能な材料、例えば鋼等の強磁性体製であり得る。代替として、磁石ターゲット68は、その磁気方向が磁気素子64の磁気方向と逆に向くようにそれ自体が配置された永久磁石であり得る。
【0052】
一実施形態によれば、
図3又は
図4に示す磁気素子64は、素子64毎に磁気配向67a及び67bを交互に変えるよう配置される。つまり、2つの隣接する磁気素子64それぞれが、逆の磁気配向で配置される。
図3及び
図4に点で示す磁気配向67aでは、磁気素子64の上側が磁石のN極である。バツ印で示す磁気配向67bでは、磁気素子64の上側が磁石のS極である。
【0053】
交互の配向により、支持部材12とクランプ部材62との間の有効磁気クランプ力が増大する。一実施形態によれば、各磁気素子64と各磁石ターゲット68との間の磁気力が約500Nである結果として、
図3に示す実施形態の支持部材12とクランプ部材62との間のクランプ力は4000N以上となり得る。支持部材12と膜20との間の静摩擦係数が約0.5であれば、得られる摩擦抵抗力は約2000Nとなる。
【0054】
図5は、本発明による防振装置10の別の実施形態の断面を示す。
図5に示す防振装置10が
図1に示す実施形態と異なる点は、ベース構造28が管の形態の接続ライン76を介してガス区画24に接続されたダンピング室74をさらに含むことだけである。接続ライン76は、ガス区画24とダンピング室74との間のガス流を制限するように小さな直径を有する。さらに、接続ライン76に絞り弁78が設けられ、これが接続ライン76による制限を必要に応じて変えることを可能にする。圧力供給ライン50は、
図1に示す実施形態の場合のようにガス区画24に直接ではなく、ダンピング室74に接続される。
【0055】
ダンピング室74を設けることで、大きな振幅の振動を補償する際にガス区画24からのガスがガス区画24とダンピング室74との間で流動することができ、これが防振装置10の防振特性を向上させる。
【0056】
上記の例示的な実施形態、実施形態、又は変形実施形態の説明は、例として示すと理解されたい。それにより行われる開示は、第1に当業者が本発明及びそれに関連する利点を理解できるようにし、第2に当業者の理解では自明でもある記載の構造及び方法の変更及び修正を包含する。したがって、添付の特許請求の範囲の記載に従って本発明の範囲内に入る限りの全てのそのような変更及び修正、並びに均等物は、特許請求の範囲の保護の対象となることが意図される。
【符号の説明】
【0057】
10 防振装置
12 支持部材
14 支持面
16 軸
18 接触面
20 膜
21 内面
22 外面
24 ガス区画
26 圧力供給デバイス
28 ベース構造
30 ブラケット
32 第1カットアウト
34 第2カットアウト
36 第1カットアウトの側壁
38 第2カットアウトの側壁
40 ショルダ領域
42 ボルト
44 膨らみ部分
46 下部
48 開口
50 圧力供給ライン
52 ベース構造の上リング状部分
53 ボルト
54 突起
56 ギャップ
58 ギャップ
60 ギャップ
62 クランプ部材
64 磁気素子
65 ハウジング構造
66 クランプシステム
67a 第1磁気配向
67b 第2磁気配向
68 磁石ターゲット
70 ボルト
72 リム
74 ダンピング室
76 接続ライン
78 絞り弁
【手続補正書】
【提出日】2022-10-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペイロードを支持し且つ該ペイロードを防振する防振装置(10)であって、
剛性のベース構造(28)で形成された加圧ガス区画(24)であり、前記ベース構造は、前記ガス区画を向いた内面(21)及び反対方向を向いた外面(22)を有する可撓性の膜(20)で覆われた開口(32)を有する加圧ガス区画(24)と、
前記ペイロードを支持する支持部材(12)であり、前記膜の前記外面(22)と接触するよう配置された支持部材(12)と、
前記膜の前記内面(21)に配置されたクランプ部材(62)と
を備え、前記支持部材及び前記クランプ部材は、前記膜を前記支持部材に押し付ける少なくとも1つの磁気素子(64)を含むクランプシステム(66)を形成する防振装置。
【請求項2】
請求項1に記載の防振装置において、
前記磁気素子(64)は永久磁石として構成される防振装置。
【請求項3】
請求項1に記載の防振装置において、
前記磁気素子(64)は前記クランプ部材(62)に含まれる防振装置。
【請求項4】
請求項1に記載の防振装置において、
前記クランプ部材(62)はリング状である防振装置。
【請求項5】
請求項1に記載の防振装置において、
前記クランプシステム(66)の前記部材(12、62)のうち第1部材が、前記磁気素子(64)を含み、前記部材のうち第2部材が、前記磁気素子に対向して配置され且つ該磁気素子との間で磁気吸引を可能にするよう構成された磁気ターゲット(68)を含む防振装置。
【請求項6】
請求項5に記載の防振装置において、
前記クランプシステム(66)の前記第1部材(62)は、該第1部材のリム(72)に沿って配置された複数の磁気素子(64)を含む防振装置。
【請求項7】
請求項5に記載の防振装置において、
前記クランプシステム(66)の前記第1部材は前記クランプ部材(62)であり、前記クランプシステムの前記第2部材は前記支持部材(12)である防振装置。
【請求項8】
請求項1に記載の防振装置において、
前記クランプシステム(66)は、逆の磁気配向(67a、67b)で配置された少なくとも2つの磁気素子(64)を含む防振装置。
【請求項9】
請求項1に記載の防振装置において、
前記クランプシステム(66)は、交互の磁気配向(67a、67b)で配置された少なくとも4つの磁気素子(64)を含む防振装置。
【請求項10】
請求項1に記載の防振装置において、
前記支持部材(12)と前記クランプ部材(62)との間のクランプ力が500N以上である防振装置。
【請求項11】
請求項1に記載の防振装置において、
前記支持部材(12)と前記膜(62)との間の静摩擦係数が0.1以上である防振装置。
【請求項12】
請求項1に記載の防振装置において、
前記ガス区画(24)内の圧力は大気圧よりも2bar以上高い防振装置。
【請求項13】
請求項1に記載の防振装置において、
該防振装置は真空で動作するよう構成される防振装置。
【請求項14】
請求項1に記載の防振装置において、
絞り(76)を介して前記ガス区画(24)に接続されたダンピング室(74)をさらに備えた防振装置。
【請求項15】
請求項14に記載の防振装置において、
前記ダンピング室(74)は圧力供給ライン(50)に接続される防振装置。
【外国語明細書】