IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧 ▶ 日清食品ホールディングス株式会社の特許一覧

特開2023-47559細胞培養用ゲル、細胞入り細胞培養用ゲルの製造方法、細胞の製造方法、該細胞の製造方法により製造された三次元筋組織及び培養肉
<>
  • 特開-細胞培養用ゲル、細胞入り細胞培養用ゲルの製造方法、細胞の製造方法、該細胞の製造方法により製造された三次元筋組織及び培養肉 図1
  • 特開-細胞培養用ゲル、細胞入り細胞培養用ゲルの製造方法、細胞の製造方法、該細胞の製造方法により製造された三次元筋組織及び培養肉 図2
  • 特開-細胞培養用ゲル、細胞入り細胞培養用ゲルの製造方法、細胞の製造方法、該細胞の製造方法により製造された三次元筋組織及び培養肉 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047559
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】細胞培養用ゲル、細胞入り細胞培養用ゲルの製造方法、細胞の製造方法、該細胞の製造方法により製造された三次元筋組織及び培養肉
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/00 20060101AFI20230330BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20230330BHJP
【FI】
C12N5/00
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156532
(22)【出願日】2021-09-27
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「3次元食肉培養技術の構築」、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
(72)【発明者】
【氏名】森本 雄矢
(72)【発明者】
【氏名】古橋 麻衣
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BB03
4B065BB04
4B065BC46
4B065CA41
(57)【要約】
【課題】 足場材として細胞外マトリックスを用いることなく、成牛血液の血漿を利用した細胞培養用ゲルを提供することを課題とする。また、成牛血液の血漿を利用した細胞培養用ゲルを細胞培養の足場材として用い、細胞を製造することを課題とする。
【解決手段】 本発明の細胞培養用ゲルは、成牛血液由来血漿と、凝固剤とを含む。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成牛血液由来血漿と、
凝固剤と
を含む、細胞培養用ゲル。
【請求項2】
前記成牛血液由来血漿が多血小板血漿である、請求項1記載の細胞培養用ゲル。
【請求項3】
前記凝固剤は、塩化カルシウムである、請求項1又は2記載の細胞培養用ゲル。
【請求項4】
さらに培地成分を含む、請求項1~3いずれか一項記載の細胞培養用ゲル。
【請求項5】
細胞入り細胞培養用ゲルの製造方法であって、
成牛血液由来血漿に細胞と凝固剤を添加して混合し、混合物を得るステップと、
前記混合物を加温するステップと、
を含む、細胞入り細胞培養用ゲルの製造方法。
【請求項6】
細胞入り細胞培養用ゲルの製造方法であって、
成牛血液由来血漿に凝固剤を添加して混合し、混合物を得るステップと、
前記混合物を加温するステップと、
前記加温した混合物に細胞を添加するステップと、
前記細胞を添加した混合物を、さらに加温してゲル化するステップと、
を含む、細胞入り細胞培養用ゲルの製造方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項記載の細胞培養用ゲルを用いて細胞培養するステップを含む、細胞の製造方法。
【請求項8】
請求項5又は6記載の細胞入り細胞培養ゲルの製造方法で製造された、細胞入り細胞培養用ゲルを用いて細胞培養するステップを含む、細胞の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8記載の細胞の製造方法により製造された、三次元筋組織。
【請求項10】
請求項7又は8記載の細胞の製造方法により製造された、培養肉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養用ゲル、細胞入り細胞培養用ゲルの製造方法、細胞の製造方法、三次元筋組織及び培養肉に関する。特に、成牛血液の血漿を利用した、細胞培養用ゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
世界的な人口増加、新興国での経済発展や食生活の多様化に伴って、世界的に食肉需要が加速している。しかしながら、家畜の生産には飼育コストもかかり、家畜生産量は無限ではないため、やがて食肉の供給が追いつかなくなることが予想されている。
そこで、食肉の安定的供給の解決策の1つとして、代替肉の開発研究がなされてきている。
【0003】
家畜から生産される食肉の代替肉と一口に言ってもいろいろな種類があり、肉もどき、植物肉、培養ミンチ肉、培養ステーキ肉等に分類される。このうち、培養ミンチ肉と培養ステーキ肉は培養肉と呼ばれるが、培養ミンチ肉がバラバラの筋細胞の集合体であり食肉の食感が劣るのに対し、培養ステーキ肉は筋組織の立体構造を再現したものであり食肉の食感を感じることが可能な代替肉である。
【0004】
ここで、筋組織の立体構造を再現するには、すなわち、三次元組織を生体外で構築するためには、三次元的に細胞を培養することが必要である。しかし、三次元的に細胞を培養するのに乗り越えるべき技術的課題も多く、たとえば、どのように三次元で細胞を融合させるか、血清や足場材等の培地はどのように構築するか、また、工業生産用途に適用可能な量とコストでそれらの材料を供給できるか等を検討しなければならない。
【0005】
ところで、三次元での細胞培養には、基本的には足場材に細胞を接着し増殖させることが求められる。従前より、足場材としては、細胞外マトリックス(ECM;Extracellular Matrix)を処理したもの、精製したもの、あるいは、細胞外マトリックスを模倣して材料構築されたもの等が用いられてきた(特許文献1等参照)。
【0006】
しかしながら、細胞外マトリックスは、生物において細胞の外に存在する不溶性物質であるため、細胞培養の足場材として細胞外マトリックスを用いるには、細胞と分離し、精製する必要があった。また、食用に適した細胞外マトリックスは知られておらず、三次元組織が培養肉であるケースには応用ができないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再表2019/208831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、足場材として細胞外マトリックスを用いることなく、成牛血液由来血漿を利用した細胞培養用ゲルを提供することを課題とする。また、成牛血液由来血漿を利用した細胞培養用ゲルを細胞培養の足場材として用い、細胞を製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記事情に鑑みて鋭意検討した結果、成牛血液由来血漿を利用した細胞培養用ゲルを見出した。また、該細胞培養用ゲルを用いることにより細胞培養し細胞を得る方法を見出した。
【0010】
すなわち、本発明の細胞培養用ゲルは、成牛血液由来血漿と、凝固剤とを含むことを特徴とする。
【0011】
前記成牛血液由来血漿が多血小板血漿であってもよい。
【0012】
細胞培養用前記凝固剤は、塩化カルシウムであってもよい。
【0013】
細胞培養用ゲルは、さらに培地成分を含んでもよい。
【0014】
本発明の細胞入り細胞培養用ゲルの製造方法は、成牛血液由来血漿に細胞と凝固剤を添加して混合し、混合物を得るステップと、前記混合物を加温するステップと、を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の細胞入り細胞培養用ゲルの製造方法はまた、成牛血液由来血漿に凝固剤を添加して混合し、混合物を得るステップと、前記混合物を加温するステップと、前記加温した混合物に細胞を添加するステップと、前記細胞を添加した混合物を、さらに加温してゲル化するステップと、を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の細胞の製造方法は、上記細胞培養用ゲルを用いて細胞培養するステップを含むことを特徴とする。
【0017】
本発明の細胞の製造方法はまた、上記細胞入り細胞培養ゲルの製造方法で製造された、細胞入り細胞培養用ゲルを用いて細胞培養するステップを含む。
【0018】
本発明の三次元筋組織は、上記細胞の製造方法により製造される。
【0019】
本発明の培養肉は、上記細胞の製造方法により製造される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の細胞培養用ゲルは成牛血液由来血漿を利用することで提供されるため、培養肉等の食用細胞培養時の足場材としても応用が可能となった。
また、該細胞培養用ゲルは、比較的流通量の多い成牛血液(抗凝固剤入り)や成牛血液由来血漿に、入手しやすい塩化カルシウム等の凝固剤を添加することで製造できる。このため、従来複雑であった足場材の作製プロセスがより簡単となり、かつ、足場材の精製プロセスも省略でき得られた足場材をそのまま次工程に利用できるため、工業生産での細胞培養にも利用しやすくなった。
さらに、成牛血液由来血漿を利用した足場材で筋細胞を培養することにより、より安全性の高い食用の培養肉が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】血漿、及び、多血小板血漿の回収の概要を示した図である。
図2】細胞培養用ゲルを用いて筋芽細胞の培養を行ったときの経時変化(2日目、6日目、10日目)を示した、写真である。
図3】細胞培養用ゲル内で培養された筋芽細胞に電気刺激を与えたときの、筋組織の収縮状態を示した、顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態について、以下に具体的に説明する。
【0023】
(細胞培養用ゲル)
本発明の細胞培養用ゲルは、成牛血液由来血漿と、凝固剤を含む。
本発明において、成牛とは、胎児ではない牛を指す。牛の年齢による名称や分類は専門分野により異なるものの、本発明の成牛は、雌牛から分娩された後の、幼い牛、若い牛、成熟した牛、老いた牛のいずれの年齢の範囲にあってもよい。なお、市場からの入手のしやすさや屠畜解体される量から、成熟した牛がより好ましい。
【0024】
成牛の血液は、食肉市場や卸売市場において屠畜解体される牛から検体として採取する方法や、その他の方法により得られる。
【0025】
成牛血液は、流通や保管時の凝固を防ぐため、抗凝固剤を添加してから配送されることが多い。抗凝固剤が添加された成牛血液は、遠心分離により、赤血球と、フィブリノゲンを含む血漿に分離される(図1参照)。ここで、成牛血液に抗凝固剤が添加されている場合は、赤血球も、凝固成分となるフィブリノゲンを含む血漿も、凝固・ゲル化しない。
【0026】
遠心分離により得られたフィブリノゲンを含む成牛血液由来血漿に、凝固剤を添加すると、血漿はゲル化する。ゲル化した血漿は細胞培養の足場材として、三次元や二次元での細胞培養に利用でき、特に三次元での細胞培養に好適である。本願明細書では、上記ゲル化した血漿を細胞培養用ゲルと定義する。
なお、細胞培養用ゲルは、血漿を含むため、細胞培養時の栄養分たる細胞培養成分の補給機能も期待される。
【0027】
また、上記フィブリノゲンを含む成牛血液由来血漿は、多血小板血漿(PRP血漿;Platelet-rich Plasma)であってもよい。多血小板血漿は、血漿を遠心分離して調製した、血小板に富む血漿濃縮物であり、血小板の他、可溶性タンパク質や成長因子が濃縮されている。
【0028】
多血小板血漿は、抗凝固剤が添加された成牛血液の遠心分離、二重遠心分離、選択的濾過等で回収することができる。具体的には赤血球を除いた血漿をさらに遠心分離して回収してもよいし、赤血球も含まれる血液では血漿層のうち赤血球との境界に濃縮した層を回収してもよい(図1参照)。
【0029】
多血小板血漿を用いた場合は、血漿全体を用いた場合に比べ、ゲル化が速やかに進む傾向にある。このため、多血小板血漿を用いた細胞培養用ゲルでは、細胞の沈殿が起こりにくく、細胞をより均一に分散させることができる。
【0030】
抗凝固剤は、血液の凝固を防ぐものであれば限定されないが、クエン酸ナトリウム、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、フッ化ナトリウム等の、血液の凝固に不可欠なカルシウムイオンと結合するものが例示される。
クエン酸ナトリウムの場合、成牛血液及び抗凝固剤全量に対し、2体積%~4体積%、好ましくは、3体積%前後となるように添加することがより望ましい。
【0031】
凝固剤は、抗凝固剤を含む成牛血液の血漿をゲル化できるものであれば限定されないが、塩化カルシウム、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)等が例示され、カルシウムイオンを含有するものがより好ましい。
【0032】
凝固剤が塩化カルシウムの場合、血漿及び凝固剤全量に対し、カルシウムイオン濃度として5mM~70mM、より好ましくは10mM~65mM、さらに好ましくは10mM~60mMとなるように添加することができる。
【0033】
DMEMには、L-アルギニン、L-シスチン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リシン、L-フェニルアラニン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン、塩化カルシウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、ナトリウム塩化物、リン酸二水素ナトリウム、D-グルコース、葉酸、ニコチンアミド、リボフラビン、ビタミンB12、コリン、イノシトール、パントテン酸、ピリドキサールリン酸、チアミン、鉄等が含まれる。
凝固剤がDMEMの場合、DMEMの量に対し、成牛血液由来血漿の量を、0.1体積%以上35体積%以下、好ましくは0.1体積%以上30体積%以下、より好ましくは0.2体積%以上30体積%以下となるように添加することができる。
【0034】
本発明の細胞培養用ゲルには、成牛血液由来血漿、凝固剤の他、さらに培地成分を含んでもよい。
【0035】
培地成分としては、DMEM(GIBCO等)や、EMEM(GIBCO)、MEM ALPHA(GIBCO)、RPMI-1640(Roswell Park Memorial Institute 1640培地;GIBCO)等が挙げられる。
さらに培地成分には、通常培地で使用する添加剤成分を適宜配合することができる。添加剤成分としては、抗生物質の他、ビタミン類、核酸、アミノ酸、無機塩、糖、ポリアミン、炭水化物、タンパク質、脂肪酸、脂質、pH調整剤、亜鉛、銅、セレン等が例示される。
【0036】
(細胞入り細胞培養用ゲルの製造方法)
本発明の細胞入り細胞培養用ゲルの製造方法は、成牛血液由来血漿に細胞と凝固剤を添加して混合し、得られた混合物を加温するものである。
本発明の細胞入り細胞培養用ゲルの製造方法はまた、成牛血液由来血漿に凝固剤を添加して混合し、得られた混合物を加温し、加温された混合物に細胞を添加し、さらに加温してゲル化するものである。
【0037】
上述した成牛血液由来血漿と凝固剤を含む細胞培養用ゲル内で細胞を培養するためには、細胞が沈殿等で不均一になる前にゲル化することが好ましい。本細胞入り細胞培養用ゲルの製造方法によれば、細胞培養用ゲル中に培養細胞を均一に分散させ、かつ、任意の形状にゲル化することが可能となる。
【0038】
培養する細胞は、成牛血液由来血漿及び凝固剤を含む細胞培養用ゲルを足場材として利用可能な細胞であれば、特に種類の限定はない。
筋芽細胞、腱線維芽細胞等の初代培養細胞、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞および多能性幹細胞から分化誘導した接着性細胞、C2C12、CHO、HEK293、HL-60、HeLa、MDCK、NIH3T3、PC12、S2、Vero等の株化細胞が例示される。
【0039】
このうち、筋芽細胞は、増殖して多核化すると、筋管(筋管細胞)又は筋繊維の形態である骨格筋芽細胞となるものである。筋芽細胞は、サル、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス等の哺乳類、ダチョウ、ニワトリ、カモ、スズメ等の鳥類、ヘビ、ワニ、トカゲ、カメ等の爬虫類、カエル、イモリ、サンショウウオ等の両生類、サケ、マグロ、サメ、タイ、コイ等の魚類等の脊椎動物に由来するものが例示される。なかでも、増殖して多核化した骨格筋芽細胞を食用とする可能性を検討する場合は、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ等の畜産のために飼育される哺乳類に由来する筋芽細胞がより望ましい。
【0040】
細胞培養に供する細胞の好適濃度は、成牛血液由来血漿及び凝固剤を含む細胞培養用ゲルの濃度や培地の組成等により変わるが、1×106個/mL~1×108個/mLの割合となるような濃度で配合することが望ましい。細胞の数が少ないと細胞の三次元構造を形成しづらくなり、一方で細胞の数が多いと細胞培養用ゲル内に細胞が入り切りにくくなる。
【0041】
加温の温度範囲は、好ましくは37℃程度である。また、加温時間は、ゲル化の進み具合で調整されるが、5分~60分程度が例示され、より好ましくは約10分程度である。
【0042】
(細胞の製造方法)
本発明の細胞の製造方法は、上記成牛血液由来血漿及び凝固剤を含む細胞培養用ゲル、もしくは、上記細胞入り細胞培養ゲルを用いて細胞を培養し、所望の増殖・分化細胞を得るものである。
【0043】
細胞の培養には、成牛血液由来血漿、凝固剤、細胞の他、細胞培養に通常用いられる他の成分が含まれていてもよい。
【0044】
他の成分として、血清が例示される。血清は、成牛血液の血清、ウマ血清、新生仔ウシ血清、ヤギ血清、ウサギ血清、ブタ血清、ニワトリ血清、ウシ胎児血清等が例示される。あるいは、培養条件によっては無血清であってもよい。なかでも、工業生産に適用可能な量を確保しやすいもの、食用となるものといった観点から、成牛血液の血清、ウマ血清、ブタ血清が好ましい。
【0045】
細胞の製造方法の一例として、上記成牛血液由来血漿及び上記凝固剤に細胞を混合し、任意の形状の型に流し込む等で整形し、加温してゲル化し、その後、該細胞を培養する。
細胞の製造方法の他の一例として、上記成牛血液由来血漿及び上記凝固剤を混合し、任意の形状の型に流し込む等で整形し、加温し、細胞を添加し、さらに加温してゲル化し、その後、該細胞を培養する。
細胞培養において、培養温度を37℃程度、二酸化炭素濃度を5%とする方法が例示されるが、これに限定されない。
【0046】
ゲル化の速度を向上させたい場合、細胞培養用ゲルの血漿として多血小板血漿を用いる他、血漿を予め37℃程度で加温した上で細胞や凝固剤を混合することが好ましい。
なお、ゲル化の速度は速すぎても遅すぎても好ましくない。ゲル化が速すぎる場合は、ゲルの型に流し込む前にゲル化し、所望の形状にすることが困難となる。ゲル化が遅すぎる場合は、細胞が沈殿して不均一な細胞入りゲルとなってしまう。
【0047】
三次元の細胞培養に細胞培養用ゲルを用いる場合、ゲルの形状(すなわち、ゲル化前の混合液を流し込む型の形状)は用途や目的により適宜選択される。円筒状、直方体状、薄板状、紐状、球体状、ステーキ肉の形状等の他、凹凸を有するもの、隙間や空間があるもの等が例示される。
【0048】
また、筋芽細胞や腱線維芽細胞を用いて三次元の細胞培養を行う方法としては、支持台上にゲルを上面視長方形の薄板状に流し込み、ゲルの長手方向の両端を複数のアンカーの隙間に流し込んで細胞培養する方法が例示される。ゲルの両端がアンカーで固定されることにより、筋組織の収縮力が長手方向の張力として作用することで、筋組織を長手方向に配向させることができる。
【実施例0049】
次に実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、下記実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0050】
(成牛血液由来血漿のゲル化評価試験1)
DMEM(GIBCO社製)100体積%に対し、抗凝固剤となるクエン酸ナトリウムが3.13%配合された成牛の血液(東京芝浦臓器株式会社製)由来の血漿を、配合量を変えて配合し、血漿のゲル化の有無を確認した。
評価結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1の結果より、成牛血液由来血漿のゲル化評価試験1で評価した範囲においては、DMEM100体積%に対し、クエン酸ナトリウム入り成牛血液由来血漿を0.2体積%~30体積%配合すると、成牛血液由来血漿のゲル化が見られることが分かった。
DMEMに含まれる塩化カルシウムや他の成分が血漿に配合され、クエン酸ナトリウムとカルシウムイオンとの平衡状態が変わることにより、血液凝固に不可欠なカルシウムイオンが血漿をゲル化させるものと推察される。
【0053】
以上より、DMEMはクエン酸ナトリウム入り成牛血液の血漿をゲル化させることができることが分かった。
【0054】
(成牛血液由来血漿のゲル化評価試験2)
抗凝固剤となるクエン酸ナトリウムが3.13%配合された成牛の血液(東京芝浦臓器株式会社製)由来の血漿に、塩化カルシウムの濃度を変えて配合し、血漿のゲル化の有無を確認した。
評価結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
表2の結果より、成牛血液由来血漿のゲル化評価試験2で評価した範囲においては、クエン酸ナトリウム入り成牛血液由来の血漿に、塩化カルシウムをCa濃度にて12mM、24mM、60mM配合すると、成牛血液由来の血漿のゲル化が見られることが分かった。特にCa濃度が24mMのときに、血漿のゲル化がより進むことが分かった。
塩化カルシウムが血漿に配合され、クエン酸ナトリウムとカルシウムイオンとの平衡状態が変わることにより、血液凝固に不可欠なカルシウムイオンが血漿をゲル化させるものと推察される。
【0057】
以上より、塩化カルシウムはクエン酸ナトリウム入り成牛血液由来の血漿をゲル化させることができることが分かった。
【0058】
(細胞培養試験)
抗凝固剤となるクエン酸ナトリウムが3.13%配合された成牛の血液(東京芝浦臓器株式会社製)を遠心分離し、血漿を回収した。
予め37℃程度に加温した血漿と、塩化カルシウム(Ca濃度で20mM)の混合液に、ラット筋芽細胞(1×108個/mL)を配合した。
ゲル化前の上記配合液を、三次元組織形成用ツールに流し込み、37℃で加温しゲル化させたのち、培地を加え細胞培養を行った。三次元組織形成用ツールで形成したゲル形状は、上面視長方形の薄板状であり、長手方向の両端が複数のアンカーで固定される。アンカーを除く内側のゲルの流し込みサイズは、0.4cm×0.5cmであった。培地成分として、10%成牛血液の血清を含むDMEMを配合した培地中で2日間培養後、さらに0.5%成牛血液の血清を含むDMEM、又は、2%ウマ血清を含むDMEMを配合した培地中で8日間、培養した。
2日目、6日目、10日目に、培養された細胞を顕微鏡にて観察した。また、細胞に電気刺激(頻度:1Hz、強さ:1.5V/mm、持続時間:20ms)を与え、収縮の様子を顕微鏡で観察した。
【0059】
細胞培養試験の結果を、図2及び図3に示す。
【0060】
図2より、成牛血液由来血漿及び凝固剤を含む細胞培養用ゲルを足場材とすると、三次元での細胞培養が可能であることが分かった。血清として成牛血液の血清を用いた場合も、ウマ血清を用いた場合も同様に立体構造を有する組織の形成が確認された。
【0061】
図3より、成牛血液の血漿及び凝固剤を含む細胞培養用ゲルを足場材として培養されて得られた三次元の筋組織は、電気刺激に対して収縮し、分化が進んでいることが確認された。
【0062】
以上より、成牛血液由来血漿及び凝固剤を含む細胞培養用ゲルは、細胞外マトリックスと同等に筋芽細胞を増殖し、分化させることができることが分かった。
図1
図2
図3