IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧 ▶ 公立大学法人大阪の特許一覧 ▶ 株式会社バイオマトリックス研究所の特許一覧

特開2023-53786B型肝炎ウイルスの感染予防抗体の開発
<>
  • 特開-B型肝炎ウイルスの感染予防抗体の開発 図1
  • 特開-B型肝炎ウイルスの感染予防抗体の開発 図2
  • 特開-B型肝炎ウイルスの感染予防抗体の開発 図3
  • 特開-B型肝炎ウイルスの感染予防抗体の開発 図4
  • 特開-B型肝炎ウイルスの感染予防抗体の開発 図5
  • 特開-B型肝炎ウイルスの感染予防抗体の開発 図6
  • 特開-B型肝炎ウイルスの感染予防抗体の開発 図7
  • 特開-B型肝炎ウイルスの感染予防抗体の開発 図8
  • 特開-B型肝炎ウイルスの感染予防抗体の開発 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053786
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】B型肝炎ウイルスの感染予防抗体の開発
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230406BHJP
   C07K 16/08 20060101ALI20230406BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230406BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/08 ZNA
A61K39/395 N
A61P31/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163028
(22)【出願日】2021-10-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「感染症実用化研究事業 肝炎等克服実用化研究事業 B型肝炎創薬実用化等研究事業」「B型肝炎ウイルスの感染複製増殖機構解明による創薬基盤形成に関する研究」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(71)【出願人】
【識別番号】503442709
【氏名又は名称】株式会社バイオマトリックス研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】岡本 徹
(72)【発明者】
【氏名】張 赫
(72)【発明者】
【氏名】松浦 善治
(72)【発明者】
【氏名】立花 太郎
(72)【発明者】
【氏名】伊原 寛一郎
(72)【発明者】
【氏名】梶田 忠宏
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA02
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】新規のHBs抗原結合抗体を提供すること。
【解決手段】
一つの局面において、本開示は、本明細書に記載されるCDR配列を有するHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を提供する。一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体はヒト化されている。一つの実施形態において、本開示のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を含む、B型肝炎ウイルス感染を処置または予防するための組成物が提供される。一つの実施形態において、本開示のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を含む、移植用臓器を処置するための組成物が提供される。本開示のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を含む検出剤も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列を含む重鎖可変領域アミノ酸配列を有する重鎖、および軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列を含む軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する軽鎖を含む、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片であって、
(1)
前記重鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号1~5のいずれかを含み、
前記重鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号6~10のいずれかを含み、
前記重鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号11~15のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号16~20のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号21~25のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号26~30のいずれかを含む、または
前記重鎖および軽鎖が、前記6つのCDRアミノ酸配列において合計1~6個のアミノ酸変異を含むアミノ酸配列を有する、あるいは
(2)
前記重鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号31~35のいずれかを含み、
前記重鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号36~40のいずれかを含み、
前記重鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号41~45のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号46~50のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号51~55のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号56~60のいずれかを含む、または
前記重鎖および軽鎖が、前記6つのCDRアミノ酸配列において合計1~6個のアミノ酸変異を含むアミノ酸配列を有する、
(3)
前記重鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号61~65のいずれかを含み、
前記重鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号66~70のいずれかを含み、
前記重鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号71~75のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号76~80のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号81~85のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号86~90のいずれかを含む、または
前記重鎖および軽鎖が、前記6つのCDRアミノ酸配列において合計1~6個のアミノ酸変異を含むアミノ酸配列を有する、
HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
前記重鎖CDR1~3および軽鎖CDR1~3アミノ酸配列がそれぞれ、
配列番号1、6、11、16、21および26、
配列番号2、7、12、17、22および27、
配列番号3、8、13、18、23および28、
配列番号4、9、14、19、24および29、
配列番号31、36、41、46、51および56、
配列番号32、37、42、47、52および57、
配列番号33、38、43、48、53および58、
配列番号34、39、44、49、54および59
配列番号61、66、71、76、81および86、
配列番号62、67、72、77、82および87、
配列番号63、68、73、78、83および88、または
配列番号64、69、74、79、84および89
であるか、または前記6つのCDRアミノ酸配列において合計1~6個のアミノ酸変異を含む、
請求項1に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記アミノ酸変異が、独立して、アミノ酸置換、アミノ酸欠失またはアミノ酸挿入である、請求項1または2に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
前記アミノ酸変異が、独立して、保存的アミノ酸置換である、請求項1または2に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
(1)配列番号91またはこれと少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号92またはこれと少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(2)配列番号93またはこれと少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号94またはこれと少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、または
(3)配列番号95またはこれと少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号96またはこれと少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
K141E変異HBs、G145R変異HBsおよびI152A変異HBsの少なくとも1つに結合する、請求項1~5のいずれか一項に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
B型肝炎ウイルスのジェノタイプA、B、CまたはDのHBsの少なくとも1つに結合する、請求項1~6のいずれか一項に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
バイオレイヤー干渉法でHBsとの親和性を測定した場合のKD値が10nM未満である、請求項1~7のいずれか一項に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
ヒト化されている、請求項1~8のいずれか一項に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を含む、B型肝炎ウイルス感染を処置または予防するための組成物。
【請求項11】
移植用臓器を処置するための、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を含む、B型肝炎ウイルス検出剤。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、B型肝炎ウイルスのHBs抗原に結合する抗体またはその抗原結合断片を提供する。特に、本開示は、これらの抗体またはその抗原結合断片を使用したB型肝炎ウイルスの抑制および検出を提供する。
【背景技術】
【0002】
B型肝炎ウイルスの感染は、B型肝炎およびその後の肝硬変、肝臓がんを引き起こすことが知られる。B型肝炎ウイルスは血液を介してヒトからヒトへ感染し得る。特許文献1に開示されるワクチンなど、B型肝炎の予防および治療のための薬剤が開発されている。
【0003】
肝移植など、B型肝炎ウイルスの感染を直接的に阻害する必要があるケースがあり、ヒト血漿由来のB型肝炎兔疫グロブリン(HBIG)製剤が一般に使用されている。
【0004】
既存のHBIGは、B型肝炎に対する抗体を保有しているヒトの血液から抗体を分離し、ウイルス不活化技術を用いて潜在的な汚染源を除去して製造される。しかし、原料である血漿の確保が難しく、HBIGの供給には問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2019/123252号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、B型肝炎ウイルスのHBs抗原に対する新規の抗体を開発した。作製した抗体には、HBs抗原に対して高い結合性を有する抗体、およびエスケープ変異を有するHBs抗原に対しても結合性を有する抗体が含まれていた。これに基づき、本開示は、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を提供し、またこれを使用したB型肝炎ウイルスの抑制および検出も提供する。
【0007】
したがって、本発明は以下を提供する。
(項目1)
重鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列を含む重鎖可変領域アミノ酸配列を有する重鎖、および軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列を含む軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する軽鎖を含む、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片であって、
(1)
前記重鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号1~5のいずれかを含み、
前記重鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号6~10のいずれかを含み、
前記重鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号11~15のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号16~20のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号21~25のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号26~30のいずれかを含む、または
前記重鎖および軽鎖が、前記6つのCDRアミノ酸配列において合計1~6個のアミノ酸変異を含むアミノ酸配列を有する、あるいは
(2)
前記重鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号31~35のいずれかを含み、
前記重鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号36~40のいずれかを含み、
前記重鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号41~45のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号46~50のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号51~55のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号56~60のいずれかを含む、または
前記重鎖および軽鎖が、前記6つのCDRアミノ酸配列において合計1~6個のアミノ酸変異を含むアミノ酸配列を有する、
(3)
前記重鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号61~65のいずれかを含み、
前記重鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号66~70のいずれかを含み、
前記重鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号71~75のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号76~80のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号81~85のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号86~90のいずれかを含む、または
前記重鎖および軽鎖が、前記6つのCDRアミノ酸配列において合計1~6個のアミノ酸変異を含むアミノ酸配列を有する、
HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
(項目2)
前記重鎖CDR1~3および軽鎖CDR1~3アミノ酸配列がそれぞれ、
配列番号1、6、11、16、21および26、
配列番号2、7、12、17、22および27、
配列番号3、8、13、18、23および28、
配列番号4、9、14、19、24および29、
配列番号31、36、41、46、51および56、
配列番号32、37、42、47、52および57、
配列番号33、38、43、48、53および58、
配列番号34、39、44、49、54および59
配列番号61、66、71、76、81および86、
配列番号62、67、72、77、82および87、
配列番号63、68、73、78、83および88、または
配列番号64、69、74、79、84および89
であるか、または前記6つのCDRアミノ酸配列において合計1~6個のアミノ酸変異を含む、
項目1に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
(項目3)
前記アミノ酸変異が、独立して、アミノ酸置換、アミノ酸欠失またはアミノ酸挿入である、項目1または2に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
(項目4)
前記アミノ酸変異が、独立して、保存的アミノ酸置換である、項目1または2に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
(項目5)
(1)配列番号91またはこれと少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号92またはこれと少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(2)配列番号93またはこれと少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号94またはこれと少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、または
(3)配列番号95またはこれと少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号96またはこれと少なくとも80%同一なアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
を有する、項目1~4のいずれか一項に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
(項目6)
K141E変異HBs、G145R変異HBsおよびI152A変異HBsの少なくとも1つに結合する、項目1~5のいずれか一項に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
(項目7)
B型肝炎ウイルスのジェノタイプA、B、CまたはDのHBsの少なくとも1つに結合する、項目1~6のいずれか一項に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
(項目8)
バイオレイヤー干渉法でHBsとの親和性を測定した場合のKD値が10nM未満である、項目1~7のいずれか一項に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
(項目9)
ヒト化されている、項目1~8のいずれか一項に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片。
(項目10)
項目1~9のいずれか一項に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を含む、B型肝炎ウイルス感染を処置または予防するための組成物。
(項目11)
移植用臓器を処置するための、項目10に記載の組成物。
(項目12)
項目1~9のいずれか一項に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を含む、B型肝炎ウイルス検出剤。
(項目13)
項目1~9のいずれか一項に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸。
【0008】
本発明において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0009】
本開示は、新規のHBs抗原結合抗体を提供する。この新規抗体は、B型肝炎ウイルスの抑制に有用であり、既存のHBIGを置き換え得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】HBV感染細胞を各モノクローナル抗体クローンまたはPreS1ペプチドで処置した場合のHBV RNA量の比較を示す。横軸は、各処理の条件を示す。NTCは薬剤添加なしである。縦軸は、薬剤添加なしの場合と比較した各薬剤処置の場合のHBV RNA量を示す。
図2】HBV感染細胞を種々の濃度の各モノクローナル抗体クローンまたはHBIGで処置した場合のHBV RNA量の変化を示す。各グラフは、それぞれ、異なるモノクローナル抗体クローンまたはHBIGの結果を示す。各グラフにおいて、横軸は添加した抗体濃度を(ng/mL)示し、縦軸は薬剤添加なしの場合と比較した各濃度における処置の場合のHBV RNA量を示す。各グラフにおいて計算したIC50の値も示す。
図3】Octetシステムを用いて種々の濃度の各モノクローナル抗体クローンとHBs抗原との結合性を試験した結果を示す。各グラフは、それぞれ、異なるモノクローナル抗体クローンの結果を示す。
図4】所望のHBV由来エンベロープを有するD型肝炎ウイルス(HDV)粒子を使用した抗体による感染性抑制試験の概略を示す。
図5】ジェノタイプA、B、CまたはDのHBVエンベロープを有するHDVの感染におけるモノクローナル抗体クローンHB351およびHB1170の効果を示す。横軸はそれぞれの処理条件を示し、縦軸は薬剤添加なしの場合と比較したHBV RNA量を示す。
図6】上は実施例5の実験の概略を示す。下は実施例5の実験の結果を示す。左のグラフにおいて、縦軸は血清中のHBV DNA量を示し、横軸は採血日を示す。右のグラフにおいて、縦軸は血清中のHBs抗原量を示し、横軸は採血日を示す。
図7】HBs抗原結合抗体により種々のアラニン置換HBs抗原の認識能を調べた画像である。左から順に、C147A、T148A、C149A、I150A、P151A、I142Aの変異を有するHBs抗原を示す。上から順に、HB351クローン、HB1170クローン、HBs抗原結合抗体ミックスを示す。
図8】エスケープ変異G145Rを含むHBs抗原のHBVエンベロープを有するHDVの感染における各クローンの効果を示す。横軸はそれぞれの処理条件を示し、縦軸は薬剤添加なしの場合と比較したHBV RNA量を示す。
図9】左欄は、Octetシステムを用いて種々の濃度の各ヒト化モノクローナル抗体クローンとHBs抗原との結合性を試験した結果を示す。右欄は、HBV感染細胞を種々の濃度の各ヒト化モノクローナル抗体クローンで処置した場合のHBV RNA量の変化を計算したIC50の値とともに示し、横軸は添加した抗体濃度を(ng/mL)示し、縦軸は薬剤添加なしの場合と比較した各濃度における処置の場合のHBV RNA量を示す。各グラフは、ヒト化HB351またはヒト化HB1170の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0012】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0013】
本明細書においてウイルスの「抑制」は、ウイルスの細胞への感染の低下、ウイルスの増殖速度の低下、ウイルスの減少および/またはウイルスの不活化をもたらすことを意味する。ウイルスの抑制は、細胞中または試料中のウイルスタンパク質または核酸の量の低減によって検出され得る。
【0014】
本明細書において、「B型肝炎ウイルス(HBV)」とは、ヘパドナウイルス科オルトヘパドナウイルス属に属するDNAウイルスを指す。HBVのジェノタイプとして、ジェノタイプA(Aa/1(Asian/African type)、Ae/2(European type)、Ac/3(Cameroon)を含む)、ジェノタイプB(Bj/1(Japanease type)、Ba/2(Asian type)、B3、B4、B5を含む)、ジェノタイプC(Ce/1(East Asian type)、Cs/2(South East type)、C3、C4を含む)、ジェノタイプD(D1、D2、D3、D4、D5を含む)、ジェノタイプE、ジェノタイプF(F1、F2、F3、F4を含む)、ジェノタイプG、ジェノタイプH、ジェノタイプJなどが知られる。
【0015】
本明細書において、「HBs」または「HBs抗原」とは、B型肝炎ウイルスの表面タンパク質全般を指す。B型肝炎ウイルスの表面タンパク質としては、PreS1領域+PreS2領域+HBs領域を有するLタンパク質、PreS2領域+HBs領域を有するMタンパク質およびHBs領域を有するSタンパク質が挙げられるが、特に断りがない限り、HBsはいずれのタンパク質も指し得る。例えば、UniProtのデータベースのエントリー名「A0A679DNY4_HBV」のジェノタイプAのHBVのLタンパク質のアミノ酸配列は以下である。226アミノ酸の下線部分はSタンパク質に相当し、太字部分(Sタンパク質226アミノ酸中の124~147位)は「a」決定基と呼ばれる。
【化1】
【0016】
本明細書において、HBs抗原結合抗体およびHBs結合性などの表現において、特に断りがない限り、HBsに属する任意の種類のタンパク質(変異体を含む)の任意の位置または領域(エピトープ)が結合の対象であり得る。
【0017】
本明細書において、特に断らない限り、ある分子(例えば、タンパク質、核酸)についての言及は、その分子の生物学的機能と同様の機能(同じ程度でなくてもよい)を発揮するその分子のバリアント(例えば、アミノ酸配列に修飾を有するバリアント)についての言及でもあることが理解される。例えば、ジェノタイプAのHBVのLタンパク質は、配列番号107で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質だけでなく、このタンパク質と標識分子(蛍光標識など)とのコンジュゲート、内因性のLタンパク質と置き換えてもA型のHBVが宿主において増殖することができるバリアントなどが含まれ得る。このようなバリアントには、元の分子の断片、同一サイズの元の分子のアミノ酸配列または核酸配列にわたり、または当該分野で公知のコンピュータ相同性プログラムによってアラインメントを行ってアラインされる元の分子の配列と比較した際、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%または99%同一である分子が含まれ得る。バリアントには、改変されたアミノ酸(例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化またはリン酸化による改変)を有する分子が含まれ得る。
【0018】
本明細書において「アミノ酸」とは、当該技術分野における通常の意味で使用され、カルボキシル基およびアミノ基を一つの分子内に有する化合物を指す。代表的には、アミノ酸は、αアミノ酸であるが、本明細書では、βアミノ酸およびγアミノ酸などのカルボキシル基とアミノ基との距離がより離れたアミノ酸であってもよい。さらに、本明細書において、特段示さなければ、アミン酸は、L体の光学異性体を示し、D体である場合には、最初にD(もしくは、d)を付す(例えば、D-Ala(もしくは、d-Ala))か、または小文字のアルファベット(例えば、a)で示す。以下にアミノ酸の代表的な例を示すが、その他のアミノ酸も本明細書において企図される。
【表1】
【0019】
本明細書において「対応する位置」のアミノ酸またはヌクレオチドとは、あるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定の位置のアミノ酸またはヌクレオチドと同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸またはヌクレオチドをいう。例えば、当業者は、元の分子とそのバリアントとの間でアライメントを行い、適当な閾値を設けて対応する位置を特定することができる。例えば、1つのアミノ酸の挿入は、挿入箇所より後ろのアミノ酸残基の対応する位置をそれぞれ1だけ増加させ得る。
【0020】
特定の位置にあるアミノ酸を表現するとき、特定の位置を表す数字とアミノ酸の1文字コードまたは3文字コードを併記した表現が適宜使用され得る。例えば、RIDPANGDTKYDPNFQG(配列番号6)におけるアラニンは、5位、5番目に存在し、配列番号6における5A、5Alaなどと表され得る。参照する配列番号が異なる場合、同じアミノ酸は異なる位置で表され得る。
【0021】
ポリペプチドのアミノ酸配列中のアミノ酸の改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。また、天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するアミノ酸の改変方法も採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系システム(Clover Direct(Protein Express))等が好適に用いられる。
【0022】
本明細書においてアミノ酸の「変異」または「改変」とは、アミノ酸の挿入、置換または欠失を指す。アミノ酸の1つの変異または改変は、1つのアミノ酸の挿入、1つのアミノ酸の置換、または1つのアミノ酸の欠失を指す。アミノ酸配列の末端へのアミノ酸付加もアミノ酸挿入に含まれる。
【0023】
本明細書において、アミノ酸の置換を表す表現として、特定の位置を表す数字の前後に置換前と置換後のアミノ酸の1文字コードまたは3文字コードを併記した表現が適宜使用され得る。例えば、RIDPANGDTKYDPNFQG(配列番号6)を参照して用いられるG6VまたはGly6Valという置換は、6位のグリシンのバリンへの置換を表す。
【0024】
本明細書において「保存的アミノ酸置換」とは、ペプチドにおけるアミノ酸を別の性質の類似したアミノ酸に置き換えることを指し、ペプチドの性質は保存的置換の前後で類似であることが予測され得る。具体的な保存的アミノ酸置換の例は、本明細書の別の箇所に提供される。
【0025】
本明細書において、「抗体」は、最も広い意味で使用され、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、および多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)を含む、種々の抗体構造を包含する。
【0026】
本明細書において、「ヒト化抗体」とは、ヒト以外の生物種において作製された抗体のCDR領域をヒトの抗体に組み込んだ構造を有する抗体を指す。また、「キメラ抗体」とは、ヒト以外の生物種において作製された抗体の可変領域をヒトの抗体に組み込んだ構造を有する抗体を指す。
【0027】
本明細書において、「抗原結合断片」は、目的の抗原に結合する能力を有する抗体の部分構造を指し、典型的には、抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域を少なくとも含む。抗原結合断片として、例えば、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、ダイアボディおよび単鎖可変領域フラグメント(scFv)が挙げられる。
【0028】
本明細書において、「可変領域」または「可変ドメイン」は、抗体の重鎖または軽鎖のドメインを指す。抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は、通常、それぞれ4つの保存されたフレームワーク領域(FR)および3つの相補性決定領域(CDR)を含む(例えば、Kindt et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., page 91 (2007)参照)。
【0029】
本明細書において、「相補性決定領域」または「CDR」は、抗体の可変ドメイン中の特に抗原結合性に寄与する領域を指す。通常、抗体は6つのCDRを含む:VHに3つ(H1、H2、H3)、およびVLに3つ(L1、L2、L3)。CDR配列の決定法は複数種類存在し、Kabatナンバリングシステム、IMGTナンバリングシステム、ParatomeナンバリングシステムおよびChothiaナンバリングシステムなどがある(例えば、Kabatら、1991、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、Md.(Kabatナンバリングシステム)、Kunik、Ashkenazi and Ofran、2012、「Paratome:an online tool for systematic identification of antigen-binding regions in antibodies based on sequence or structure‘ Nucl.Acids Res.、40:W521-W524(Paratomeナンバリングシステム)、Lefrancら、2003、Dev Comparat Immunol 27:55-77(IMGTナンバリングシステム)、Al-Lazikaniら、1997、J.Mol.Biol 273:927-948(Chothiaナンバリングシステム)を参照のこと)。
【0030】
「フレームワーク」または「FR」は、可変ドメイン中の相補性決定領域(CDR)以外の領域を指す。可変ドメインのFRは、通常4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3およびFR4からなる。CDRおよびFRの配列は、通常次の順序でVH(またはVL)に現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0031】
本明細書において、「定常領域」または「定常ドメイン」は、抗体の可変領域以外の部分を指す。例えば、IgG抗体は、ジスルフィド結合している2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖から構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、N末端からC末端に向かって、各重鎖は、可変領域(VH)、ならびにCH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメインを含む重鎖定常領域(CH)を有する。同様に、N末端からC末端に向かって、各軽鎖は、可変領域(VL)、および定常軽鎖(CL)ドメインを有する。天然型抗体の軽鎖には、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる2つのタイプの定常ドメインが知られる。
【0032】
本明細書において、「Fc領域」は、抗体の定常ドメインのCH3、CH2、およびヒンジ領域の少なくとも一部分を含む領域を指す。場合によっては、Fc領域には、いくつかの抗体クラスに存在するCH4ドメインが含まれ得る。Fc領域は、抗体の定常ドメインのヒンジ領域全体を含むことができる。Fc領域は、T細胞などにより認識され、エフェクター機能などに関連する。ヒトIgG1の場合、重鎖Fc領域はCys226から、またはPro230から、重鎖のカルボキシル末端まで延びる。ただし、Fc領域のC末端のリジン(Lys447)またはグリシン-リジン(Gly446-Lys447)は、存在していてもしなくてもよい(Fc領域中のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD 1991 に記載の、EUナンバリングシステム(EUインデックス)にしたがう)。
【0033】
抗体の「クラス」は、抗体の重鎖に含まれる定常ドメインのタイプにより分類される。抗体には5つの主要なクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMである。そして、このうちいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)に分けられ得る。例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2である。
【0034】
本明細書において、「抗原」とは、抗体が結合する標的分子またはその部分を指す。抗原中に存在する抗原決定基をエピトープと呼び、抗体は抗原のエピトープの部分に結合す。エピトープには、線状エピトープおよび立体エピトープが含まれる。タンパク質抗原における線状エピトープは、アミノ酸一次配列が抗体により認識されるエピトープである。タンパク質抗原における線状エピトープは、典型的には、少なくとも3つ、少なくとも5つ、例えば8~10個、6~20個のアミノ酸で構成される。タンパク質抗原における立体エピトープは、線状エピトープとは対照的に、アミノ酸の一次配列のみでは規定できないエピトープである。立体エピトープの認識に関して、抗体は、タンパク質の三次元構造を認識する。エピトープの立体構造を決定する方法には、例えばX線結晶学、二次元核磁気共鳴分光学、部位特異的なスピン標識および電磁常磁性共鳴分光学が含まれるが、これらには限定されない。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology (1996)、第66巻、Morris(編)を参照のこと。
【0035】
本明細書では、アミノ酸配列または塩基配列の同一性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST2.7.1(2017.10.19発行)を用いて行うことができる。本明細書における「同一性」の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。「同一性」は、2つもしくは複数間のアミノ酸または塩基配列において相同なアミノ酸または塩基数の割合を、上述したような公知の方法に従って算定される。具体的に説明すると、割合を算定する前には、比較するアミノ酸または塩基配列群のアミノ酸または塩基配列を整列させ、同一アミノ酸または塩基の割合を最大にするために必要である場合はアミノ酸または塩基配列の一部に間隙を導入する。整列のための方法、割合の算定方法、比較方法、およびそれらに関連するコンピュータプログラムは、当該分野で従来からよく知られている(例えば、上述したBLAST等)。BLASTでアミノ酸または塩基配列を比較するときのアルゴリズムには、Blastpをデフォルト設定で使用できる。
【0036】
本明細書において「医薬成分」とは、医薬を構成し得る任意の成分を意味し、例えば、有効成分(それ自体が薬効を示すもの)、添加成分(それ自体は、薬効を期待されていないが、医薬として含まれる場合一定の役割(例えば、賦形剤、滑沢剤、界面活性剤等)を果たすことが期待される成分)等を例示することができる。医薬成分は、単独の物質であってもよく、複数の物質や剤の組み合わせであってもよい。有効成分と添加成分との組み合わせ、アジュバントと有効成分との組み合わせなどの任意の組み合わせも含まれ得る。
【0037】
本明細書では、「有効成分」は、意図される薬効を発揮する成分をいい、単独または複数の成分が該当し得る。
【0038】
本明細書において「添加成分」とは、薬効を期待されていないが、医薬として含まれる場合一定の役割を果たす任意の成分をいい、例えば、薬学的に受容可能なキャリア、安定化剤、(補)助剤、溶解度改善剤、可溶化剤、希釈剤、賦形剤、緩衝剤、結合剤、希釈剤、香味料、潤滑剤を挙げることができる。
【0039】
本明細書において「薬剤」、「剤」または「因子」(いずれも英語ではagentに相当する)は、広義には、交換可能に使用され、意図する目的を達成することができる限りどのような物質または他の要素(例えば、光、放射能、熱、電気などのエネルギー)でもあってもよい。そのような物質としては、例えば、抗体、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸(例えば、cDNA、ゲノムDNAのようなDNA、mRNAのようなRNAを含む)、ポリサッカリド、オリゴサッカリド、脂質、有機低分子(例えば、ホルモン、リガンド、情報伝達物質、有機低分子、コンビナトリアルケミストリで合成された分子、医薬品として利用され得る低分子(例えば、低分子リガンドなど)など)、これらの複合分子およびこれらの混合物が挙げられるがそれらに限定されない。
【0040】
本明細書において「標識」とは、目的となる分子または物質を他から識別するための存在(例えば、物質、エネルギー、電磁波など)をいう。そのような標識方法としては、RI(ラジオアイソトープ)法、蛍光法、ビオチン法、化学発光法等を挙げることができる。標的タンパク質またはそれを捕捉する因子または手段を複数、蛍光法によって標識する場合には、蛍光発光極大波長が互いに異なる蛍光物質によって標識を行う。蛍光発光極大波長の差は、10nm以上であることが好ましい。機能に影響を与えない任意の標識が使用できるが、蛍光物質としては、AlexaTMFluorが挙げられる。AlexaTMFluorは、クマリン、ローダミン、フルオレセイン、シアニンなどを修飾して得られた水溶性の蛍光色素であり、広範囲の蛍光波長に対応したシリーズであり、他の該当波長の蛍光色素に比べ、非常に安定で、明るく、またpH感受性が低い。蛍光極大波長が10nm以上ある蛍光色素の組み合わせとしては、AlexaTM555とAlexaTM633の組み合わせ、AlexaTM488とAlexaTM555との組み合わせ等を挙げることができる。他の蛍光標識として、シアニン色素(例えば、CyDyeTMシリーズのCy3、Cy5等)、ローダミン6G試薬、N-アセトキシ-N2-アセチルアミノフルオレン(AAF)、AAIF(AAFのヨウ素誘導体)等が挙げられる。本開示では、このような標識を利用して、使用される検出手段に検出され得るように目的とする対象を改変することができる。そのような改変は、当該分野において公知であり、当業者は標識におよび目的とする対象に応じて適宜そのような方法を実施することができる。
【0041】
本明細書において「キット」とは、通常2つ以上の区画に分けて、提供されるべき部分(例えば、抗体、説明書など)が提供されるユニットをいう。安定性等のため、混合されて提供されるべきでなく、使用直前に混合して使用することが好ましいような組成物の提供を目的とするときに、このキットの形態は好ましい。そのようなキットは、好ましくは、提供される部分をどのように使用するか、あるいは、試薬をどのように処理すべきかを記載する指示書または説明書を備えていることが有利である。本明細書においてキットが試薬キットとして使用される場合、キットには、通常、抗体等の使い方などを記載した指示書などが含まれる。
【0042】
本明細書において「指示書」は、本開示を使用する方法を医師または他の使用者に対する説明を記載したものである。この指示書は、本開示の医薬などを投与することを指示する文言が記載されている。また、指示書には、投与形態を指示する文言が記載されていてもよい。この指示書は、本開示が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0043】
用語「約」は、示された値プラスまたはマイナス10%を指す。「約」が、温度について使用される場合、示された温度プラスまたはマイナス5℃を指し、「約」が、pHについて使用される場合、示されたpHプラスまたはマイナス0.5を指す。
【0044】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0045】
一つの局面において、本開示は、HBs抗原結合抗体を提供する。一つの局面において、本開示は、HBs抗原結合抗体を使用したHBVの抑制および検出を提供する。これを達成するための任意の手段が本開示の範囲であると企図される。例えば、明示的な記載がなくとも、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を使用する方法の記載は、同抗体または抗原結合断片を含む組成物、同抗体または抗原結合断片の使用および同方法に使用するための同抗体または抗原結合断片など、他の手段を反映した実施形態も同時に企図するものである。本明細書では、主に組成物の実施形態において本開示を説明するが、ある成分を含むある使用のための組成物についての記載は、同成分の同使用のための方法、および同成分の同使用など、他の手段を反映した実施形態も同時に企図するものである。
【0046】
(抗体の性能)
本発明は、HBs抗原に結合することができるHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を提供する。一つの実施形態において、本発明のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、ジェノタイプA(Aa/1(Asian/African type)、Ae/2(European type)、Ac/3(Cameroon)を含む)、ジェノタイプB(Bj/1(Japanease type)、Ba/2(Asian type)、B3、B4、B5を含む)、ジェノタイプC(Ce/1(East Asian type)、Cs/2(South East type)、C3、C4を含む)、ジェノタイプD(D1、D2、D3、D4、D5を含む)、ジェノタイプE、ジェノタイプF(F1、F2、F3、F4を含む)、ジェノタイプG、ジェノタイプH、およびジェノタイプJのうち1つまたは複数のHBVジェノタイプのHBs抗原に結合することができる。好ましい実施形態において、本発明のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、ジェノタイプA、B、CおよびDのHBVジェノタイプのHBs抗原に結合することができる。
【0047】
一つの実施形態において、本発明のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、(例えば、実施例の条件において)バイオレイヤー干渉法でHBsとの親和性を測定した場合に1000nM未満、300nM未満、100nM未満、75nM未満、50nM未満、30nM未満、または20nM未満、好ましくは10nM未満、5nM未満、3nM未満、または2nM未満、より好ましくは1nM未満、0.3nM未満、または0.1nM未満のKD値を示す。抗体医薬は1nM未満のKD値を示すものが多いが特定の基準値はない。ウイルスの中和抗体としておよそ1~50nMのKD値を示すものが市販されており、このレベルの親和性は十分に高いと考えられる。本発明のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、いずれかのHBs抗原に結合できれば有用であり得、特定のHBs抗原に対する選択性および特異性を有してもよいし、有さなくてもよい。本発明のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、表面プラズモン共鳴によって決定した場合に上記親和性を示してもよく、例えば、表面プラズモン共鳴による測定では、ビオチン化HBs抗原をストレプトアビジンビアコアセンサチップ(Biacoreなど)に捕捉し、異なる濃度の精製HBs抗原結合抗体を3分間注入した後、緩衝液で5分間洗浄し、洗浄相からオフ速度(kd)を決定し、注入相からオン速度(ka)を決定して、親和性(KD)を算出することができる。
【0048】
一つの実施形態において、本発明のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、変異を有するHBs抗原にも結合し得る。HBIGによる処置に耐性を示すHBs抗原のエスケープ変異体が知られているが、本明細書に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、このようなエスケープ変異体に対しても有効であり得るため、広範なHBVの感染を抑制できると期待される。一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、K141E、G145RまたはI152Aの変異を有するHBsに結合し得る。好ましい実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、K141EまたはG145Rの変異を有するHBsに結合し得る。一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、K141E、G145RまたはI152Aの変異を有するHBsに、10nM未満のKD値で結合し得る。好ましい実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、K141EまたはG145Rの変異を有するHBsに、10nM未満のKD値で結合し得る。
【0049】
一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、HBs抗原の立体エピトープを認識し得る。そのため、変性したHBs抗原および非変性HBs抗原に対する結合性が異なり、これらの区別が可能であり得る。一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片が認識するHBs抗原のエピトープは152位(配列番号107の326位に対応する)のイソロイシンを含み得る。
【0050】
(HBs抗原結合抗体)
一つの局面において、本開示は、特定のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を提供する。実施例に示されるように、モノクローナルHBs抗原結合抗体としてクローンHB351、HB1170、HB1215を作製した。これらクローンのCDR配列は以下の通りである。
【表2】
【表3】
【表4】
【0051】
本明細書において、抗体またはその部分(可変領域など)がCDRまたはCDRを指す配列番号のアミノ酸配列を含むと記載する場合、抗体またはその部分は、対応するCDR領域にそのCDRアミノ酸配列を有することを意味し、またCDR領域の範囲が規定される。例えば、重鎖可変領域が配列番号1のアミノ酸配列を含む場合、DTYMY(配列番号91における50~54位)以外の配列番号91のアミノ酸配列はCDR1領域ではないと判定される。一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、重鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列を含む重鎖可変領域アミノ酸配列を有する重鎖、および軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列を含む軽鎖可変領域アミノ酸配列を有する軽鎖を含み、6つのCDR配列は以下の(1)~(3)のいずれかで特定される:
(1)
重鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号1~5のいずれかを含み、
重鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号6~10のいずれかを含み、
重鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号11~15のいずれかを含み、
軽鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号16~20のいずれかを含み、
軽鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号21~25のいずれかを含み、
軽鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号26~30のいずれかを含む、
(2)
前記重鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号31~35のいずれかを含み、
前記重鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号36~40のいずれかを含み、
前記重鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号41~45のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号46~50のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号51~55のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号56~60のいずれかを含む、または
(3)
前記重鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号61~65のいずれかを含み、
前記重鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号66~70のいずれかを含み、
前記重鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号71~75のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR1アミノ酸配列が配列番号76~80のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR2アミノ酸配列が配列番号81~85のいずれかを含み、
前記軽鎖CDR3アミノ酸配列が配列番号86~90のいずれかを含む。
【0052】
一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片における重鎖CDR1~3および軽鎖CDR1~3アミノ酸配列は、それぞれ、
(1)
配列番号1、6、11、16、21および26(Kabatナンバリング)、
配列番号2、7、12、17、22および27(IMGTナンバリング)、
配列番号3、8、13、18、23および28(Paratomeナンバリング)、または
配列番号4、9、14、19、24および29(Chothiaナンバリング)、
(2)
配列番号31、36、41、46、51および56(Kabatナンバリング)、
配列番号32、37、42、47、52および57(IMGTナンバリング)、
配列番号33、38、43、48、53および58(Paratomeナンバリング)、または
配列番号34、39、44、49、54および59(Chothiaナンバリング)
(3)
配列番号61、66、71、76、81および86(Kabatナンバリング)、
配列番号62、67、72、77、82および87(IMGTナンバリング)、
配列番号63、68、73、78、83および88(Paratomeナンバリング)、または
配列番号64、69、74、79、84および89(Chothiaナンバリング)
の組合せで表される。
【0053】
一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片における重鎖CDR1~3アミノ酸配列は、それぞれ、
(1)
配列番号1、6および11、
配列番号2、7および12、
配列番号3、8および13、または
配列番号4、9および14、
(2)
配列番号31、36および41、
配列番号32、37および42、
配列番号33、38および43、または
配列番号34、39および44、
(3)
配列番号61、66および71、
配列番号62、67および72、
配列番号63、68および73、または
配列番号64、69および74
の組合せで表される。
【0054】
一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片における軽鎖CDR1~3アミノ酸配列は、それぞれ、
(1)
配列番号16、21および26、
配列番号17、22および27、
配列番号18、23および28、または
配列番号19、24および29、
(2)
配列番号46、51および56、
配列番号47、52および57、
配列番号48、53および58、または
配列番号49、54および59
(3)
配列番号76、81および86、
配列番号77、82および87、
配列番号78、83および88、または
配列番号79、84および89
の組合せで表される。
【0055】
一つの実施形態において、上記で特定される6つのCDRアミノ酸配列において合計1、2、3、4、5または6個のアミノ酸変異が含まれてもよい。一つの実施形態において、上記で特定される6つのCDRアミノ酸配列において合計1または2個のアミノ酸変異が含まれてもよい。一つの実施形態において、アミノ酸変異は、配列番号5、10、15、20、25および30、配列番号35、40、45、50、55および60、または配列番号65、70、75、80、85および90の共通CDR配列以外の位置に存在する。一つの実施形態において、アミノ酸変異は、配列番号1~4の群、配列番号6~9の群、配列番号11~14の群、配列番号16~19の群、配列番号21~24の群、配列番号26~29の群、配列番号31~34の群、配列番号36~39の群、配列番号41~44の群、配列番号46~49の群、配列番号51~54の群、配列番号56~59の群、配列番号61~64の群、配列番号66~69の群、配列番号71~74の群、配列番号76~79の群、配列番号81~84の群または配列番号86~89の群の各群の配列番号のうちいずれか1つの配列番号の配列中にのみ出現するアミノ酸において生じる。
【0056】
一つの実施形態において、CDRアミノ酸配列におけるアミノ酸変異は、独立して、アミノ酸置換、アミノ酸欠失またはアミノ酸挿入である。一つの実施形態において、CDRアミノ酸配列におけるアミノ酸変異は、独立して、保存的アミノ酸置換である。一つの実施形態において、保存的アミノ酸置換は、以下のアミノ酸の群におけるアミノ酸を同じ群内の別のアミノ酸で置き換えることである。
・群1:グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン
・群2:セリンおよびスレオニン
・群3:フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンおよびトリプトファン
・群4:リジン、ヒドロキシリジン、アルギニンおよびヒスチジン
・群5:システイン、メチオニン、メチオニンスルホキシドおよびホモシステイン
・群6:プロリンおよびヒドロキシプロリン
・群7:グルタミン酸およびアスパラギン酸
・群8:グルタミンおよびアスパラギン
【0057】
実施例で得られたクローンHB351、HB1170およびHB1215の重鎖・軽鎖可変領域の配列およびそのヒト化配列は以下の通りである。
【表5】
【表6】
【表7】
【0058】
一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、
(1)配列番号91もしくは97またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一なアミノ酸配列を有する重鎖可変領域
(2)配列番号93もしくは99またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一なアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、または
(3)配列番号95またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一なアミノ酸配列を有する重鎖可変領域
を含む。
【0059】
一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、
(1)配列番号92もしくは98またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一なアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(2)配列番号94もしくは100またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一なアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、または
(3)配列番号96またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一なアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
を含む。
【0060】
一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、
(1)配列番号91もしくは97またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一なアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号92もしくは98またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一なアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、
(2)配列番号93もしくは99またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一なアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号94もしくは100またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一なアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、または
(3)配列番号95またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一なアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、および配列番号96またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一なアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
を含む。
【0061】
一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、ヒト化抗体もしくはキメラ抗体またはその抗原結合断片である。一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)またはその抗原結合断片である。一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、単離されている。
【0062】
一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体は全長抗体である。一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体の抗原結合断片は、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、ダイアボディまたは単鎖可変領域フラグメント(scFv)である。一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)またはその抗原結合断片である。一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、単離されている。
【0063】
一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン、およびCH4ドメインのうちの1つまたは複数を含む。一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、CLドメインを含む。一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、Fc領域を含む。
【0064】
一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgMのいずれかに分類される構造を有してもよい。一つの実施形態において、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1またはIgA2のいずれかに分類される構造を有してもよい。本明細書に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、PEG化など任意の公知の抗体に対する修飾を含むことが企図される。
【0065】
一つの局面において、本開示は、HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸を提供する。核酸には、本明細書に記載の任意のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片がコードされ得る。HBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、1分子の核酸にコードされていてもよいし、複数個の分子の核酸に分割してコードされていてもよい。
【0066】
実施例において、クローンHB351、HB1170およびHB1215の可変領域の塩基配列は以下の通りに決定されている。
【表8-1】
【表8-2】
【0067】
一つの実施形態において、核酸は、
(1)配列番号101またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一な塩基配列、および/または配列番号102またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一な塩基配列、
(2)配列番号103またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一な塩基配列、および/または配列番号104またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一な塩基配列、または
(3)配列番号105またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一な塩基配列、および/または配列番号106またはこれと少なくとも80%、85%、90%、95%、98%、または99%同一な塩基配列を含む。
【0068】
当業者であれば、任意の系を使用して、本明細書に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を生産することができる。
【0069】
生産したHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、任意の精製方法により精製または単離できる。例えば、硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムを用いた塩析による分画法、PEG分画法、エタノール分画法、DEAEイオン交換クロマトグラフィー法、ゲル濾過法やプロテインA/Gアフィニティークロマトグラフィー法などのイムノグロブリン精製法が挙げられる。特に、モノクローナル抗体がマウスIgGである場合、プロテインA結合担体または抗マウスイムノグロブリン結合担体を用いたアフィニティークロマトグラフィー法により効率良く精製することが可能である。
【0070】
(用途・使用)
一つの局面において、本開示は、本明細書に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を使用したB型肝炎ウイルス感染の処置または予防あるいはB型肝炎ウイルスの検出を提供する。一つの実施形態において、本明細書に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を使用してB型肝炎ウイルス感染を処置または予防することができる。好適な実施形態として、本明細書に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、B型肝炎ウイルスの中和抗体としてB型肝炎ウイルスの感染性を低減することができる。B型肝炎ウイルスにすでに感染している対象に使用することもできるし、B型肝炎ウイルスへの新規感染を防ぐために使用することもできる。B型肝炎ウイルス感染に伴うD型肝炎ウイルス感染の処置または予防にも使用できる。一つの実施形態において、本明細書に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、移植用臓器(例えば、肝臓)を処置するために使用される。一つの実施形態において、本明細書に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、B型肝炎ウイルスに感染した対象またはB型肝炎ウイルス感染のリスクのある対象に投与される。
【0071】
本明細書に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、異なるエスケープ変異を有するHBs抗原に結合し得るため、異なる種類のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を同時に使用して広範なエスケープ変異体B型肝炎ウイルスを抑制することが有利であり得る。
【0072】
一つの実施形態において、本明細書に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を使用してB型肝炎ウイルスを検出することができる。本明細書に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片は、変異を有するHBs抗原に対して異なる結合性を示し得るため、これに基づくB型肝炎ウイルスの変異の判定に使用することもできる。
【0073】
(組成物)
一つの局面において、本開示は、本明細書に記載のHBs抗原結合抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を提供する。一つの実施形態において、B型肝炎ウイルス感染を処置または予防するための組成物が提供される。一つの実施形態において、B型肝炎ウイルスを検出するための組成物が提供される。
【0074】
(剤型等)
本明細書に記載される組成物は、種々の形態で提供され得る。組成物の形態としては、例えば、注射剤、カプセル剤、錠剤、顆粒剤等であってもよい。注射用の水溶液は、例えば、バイアル、またはステンレス容器で保存してもよい。また注射用の水溶液は、例えば生理食塩水、糖(例えばトレハロース)、NaCl、またはNaOH等を配合してもよい。
【0075】
一つの実施形態では、本開示の組成物は、薬学的に許容しうるキャリアもしくは賦形剤を含む。このようなキャリアは、無菌液体、例えば水および油であることも可能であり、石油、動物、植物または合成起源のものが含まれ、限定されるわけではないが、ピーナツ油、ダイズ油、ミネラルオイル、ゴマ油等が含まれる。医薬を経口投与する場合は、水が好ましいキャリアである。医薬組成物を静脈内投与する場合は、生理食塩水および水性デキストロースが好ましいキャリアである。好ましくは、生理食塩水溶液、並びに水性デキストロースおよびグリセロール溶液が、注射可能溶液の液体キャリアとして使用される。適切な賦形剤には、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等が含まれる。組成物は、望ましい場合、少量の湿潤剤または乳化剤、あるいはpH緩衝剤もまた含有することも可能である。これらの組成物は、溶液、懸濁物、エマルジョン、錠剤、ピル、カプセル、粉末、持続放出配合物等の形を取ることも可能である。伝統的な結合剤およびキャリア、例えばトリグリセリドを用いて、組成物を座薬として配合することも可能である。経口配合物は、医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリン・ナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的キャリアを含むことも可能である。適切なキャリアの例は、E.W.Martin, Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)に記載される。これらのほか、例えば、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含んでいてもよい。一つの実施形態では、本開示の任意の液体組成物のpHは、約3、約3.5、約4、約4.5、約5、約5.5、約6、約6.5、約7、約7.5、約8、約8.5、約9、約9.5、約10、約10.5、約11またはこれらの任意の2つの値の間の範囲であり得る。
【0076】
本開示の組成物の任意の成分は、薬学的に許容しうる塩として提供することができ、例えば、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来する遊離型のカルボキシル基とともに形成される塩、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどの遊離型のアミン基とともに形成される塩、並びにナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、および水酸化第二鉄とともに形成される塩であり得る。
【0077】
好ましい実施形態において、公知の方法に従って、ヒトへの投与に適応させた医薬組成物として、組成物を配合することができる。このような組成物は注射により投与することができる。代表的には、注射投与のための組成物は、無菌等張水性緩衝剤中の溶液である。必要な場合、組成物はまた、可溶化剤および注射部位での疼痛を和らげるリドカインなどの局所麻酔剤も含むことも可能である。一般的に、成分を別個に供給するか、または単位投薬型中で一緒に混合して供給し、例えば活性剤の量を示すアンプルまたはサシェなどの密封容器中、凍結乾燥粉末または水不含濃縮物として供給することができる。組成物を注入によって投与しようとする場合、無菌薬剤等級の水または生理食塩水を含有する注入ビンを用いて、分配することも可能である。組成物を注射によって投与しようとする場合、投与前に、成分を混合可能であるように、注射用の無菌水または生理食塩水のアンプルを提供することも可能である。
【0078】
本開示の組成物を被験体に適用する場合、被験体は特に限定されず、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、ブタ、サル、ヒトなど)、鳥類、爬虫類、両生類、節足動物、魚類などであり得る。
【0079】
本開示の組成物および/または有効成分の量は、処置または予防する障害または状態の性質によって変動しうるが、当業者は本明細書の記載に基づき標準的臨床技術によって決定可能である。場合によって、in vitroアッセイを使用して、最適投薬量範囲を同定するのを補助することも可能である。配合物に使用しようとする正確な用量はまた、投与経路、および疾患または障害の重大性によっても変動しうるため、担当医の判断および各患者の状況に従って、決定すべきである。本開示の組成物および/または有効成分の投与量は特に限定されないが、例えば、1回あたり0.00001、0.0001、0.001、1、5、10、15、100、または1000mg/kg体重であってもよく、それらいずれか2つの値の範囲内であってもよい。投与間隔は特に限定されないが、例えば、1、7、14、21、または28日あたりに1または2回投与してもよく、それらいずれか2つの値の範囲あたりに1または2回投与してもよい。投与量、投与間隔、投与方法は、患者の年齢や体重、症状、対象臓器等により、適宜選択してもよい。
【0080】
本明細書に記載の組成物の投与経路は、ウイルス感染の処置または予防に際して効果的なものを使用するのが好ましく、例えば、静脈内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、鼻内、硬膜外、または経口投与等であってもよい。一つの実施形態では、本開示の組成物、種々の送達(デリバリー)系をともに使用することができる。このような系には、例えばリポソーム、微小粒子、および微小カプセル中の被包:受容体が仲介するエンドサイトーシスの使用;レトロウイルスベクターまたは他のベクターの一部としての療法核酸の構築などがある。好適な経路いずれによって、例えば注入によって、ボーラス(bolus)注射によって、上皮または皮膚粘膜裏打ち(例えば口腔、直腸および腸粘膜など)を通じた吸収によって、医薬を投与することも可能であるし、必要に応じてエアロゾル化剤を用いて吸入器または噴霧器を使用しうるし、そして他の薬剤と一緒に投与することも可能である。投与は全身性または局所であることも可能である。
【0081】
本開示の組成物はキットとして提供することができる。一つの実施形態では、本開示は、本開示の組成物に添加され得る1以上の成分が充填された、1以上の容器を含む、薬剤パックまたはキットを提供する。場合によって、このような容器に付随して、医薬または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって規定された形で、政府機関による、ヒト投与のための製造、使用または販売の認可を示す情報を示すことも可能である。
【0082】
本開示の組成物の医薬等としての製剤化手順は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方、他の国の薬局方などに記載されている。従って、当業者は、本明細書の記載があれば、過度な実験を行うことなく、使用すべき量等の実施形態を決定することができる。
【0083】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0084】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0085】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0086】
試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma-Aldrich、和光純薬、ナカライ、R&D Systems、USCN Life Science INC等)の同等品でも代用可能である。
【0087】
(実施例1:HBs抗原結合抗体の作製)
HBs抗原結合抗体は、HBs抗原によりマウスを免疫し、そのマウスの細胞を用いてハイブリドーマを作製することにより取得した。
【0088】
CHO細胞で産生された精製リコンビナントタンパク質adr型HBs抗原(PROSPEC社製、配列番号108)をマウスに投与して初回免疫し、さらに追加免疫を行った。その後、脾細胞を分離し、これをPEG法によりマウス骨髄腫細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を作製した。プレート上でハイブリドーマ細胞を培養し、コロニーを出現させたところで、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングを行なった。
【0089】
具体的には、adr型HBs抗原の溶液をプレートの各ウェルに分注し、インキュベートしてadr型HBs抗原をプレートに固定した後、洗浄およびブロッキングを行った。この各ウェルに、ハイブリドーマ培養上清を添加し、インキュベートした後、洗浄した。その後、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗マウスIgポリクローナル抗体を各ウェルに添加し、反応させた後、洗浄し、OPD(o-フェニレンジアミン)基質液を用いて陽性を示すウェルを検出した。陽性を示すウェルのモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞のうちHBs抗原に対して反応性の強いハイブリドーマ細胞について限界希釈法によってクローニングを行い、単一クローンとした。
【0090】
クローニングにより単一クローンとして得られたハイブリドーマ細胞の産生するモノクローナル抗体のマウスイムノグロブリンサブクラスを決定した。マウスイムノグロブリンサブクラスの同定には、ハイブリドーマ細胞の培養上清を用い、各アイソタイピング用ポリクローナル抗体(抗マウスIgG1抗体、抗マウスIgG2a抗体、抗マウスIgG2b抗体、抗マウスIgG3抗体、抗マウスκ抗体及び抗マウスλ抗体:Bethyl Laboratory社)を用いて、通常のELISA法により同定した。
【0091】
得られた抗体について、広範なHBVに対して有効かどうかを確認するために。HBVのジェノタイプA、B、C、DのHBs抗原に対する各抗体の結合性を試験した。その結果、一部の抗体は特定のジェノタイプのHBs抗原だけに対して結合性を示したが、クローンHB351、HB1170、HB1215などは全てのジェノタイプのHBs抗原に対して結合性を示した。なお、ゲル電気泳動で展開したジェノタイプCの変性HBs抗原に対して各抗体を使用してウエスタンブロットで検出できるかどうかを試験したが、いずれの抗体を使用しても検出できなかった。このことから、取得した抗体はHBs抗原の立体エピトープを認識すると考えられる。
【0092】
(実施例2:モノクローナル抗体のHBV抑制能)
得られた各モノクローナル抗体について、HBVを抑制する能力を試験した。
【0093】
HBVと、25μg/mLのモノクローナル抗体または2.5μMのPreS1ペプチド(対照)とを含む培地中でHepG2-NTCP C4細胞を24時間インキュベートした。その後、培地を交換して10日間インキュベートした。これらの培養物に含まれるHBVのRNAの量をリアルタイムqPCRで評価した。
【0094】
結果を図1に示す。クローンHB351など取得したHBs抗原結合抗体は、HBVを抑制できる抗体を含むことが確認された。
【0095】
種々のモノクローナル抗体の添加量において同様の実験を行い、培養物に含まれるHBV RNA量を定量した。比較として、市販のHBIGについても同様に試験した。それぞれの濃度での結果をプロットしてHBV抑制曲線を作成し、IC50を計算した。
【0096】
結果を図2に示す。クローン351などng/mLレベルの濃度でHBVを抑制できることが見出された。これらのクローンは、HBIGと比較しても効率的にHBVを抑制できると考えられる。
【0097】
(実施例3:モノクローナル抗体のHBs抗原結合能)
クローンHB351、HB1170、HB1215などについて、Octetシステムを用いてHBs抗原との親和性を評価し、KD値を測定した。
【0098】
具体的には、HBs抗原(Prosec Tany Technology Ltd. HBS 875)をEz-Link(商標)NHS-PEG4-ビオチン(ThermoFisher Scientific)を用いてビオチン化し、これを、分子間相互作用解析装置であるOctet RED96e(Sartorius)を用いてストレプトアビジン(SA)バイオセンサー(Sartorius)上に10μg/mLの濃度で流して固定化を行った。その後、10μMから3倍づつ希釈したクローンHB351、HB1170、HB1215などの抗体と反応させ、Kon(会合速度定数)とKdis(解離速度定数)を算出し、平衡解離定数(KD)をKdis/Konとして算出した。
【0099】
結果を図3および以下の表に示す。いずれのモノクローナル抗体も高い親和性でビオチン化HBs抗原に結合することが確認された。算出したKD値は、それぞれ、約300pM(クローンHB351、HB1215)、約3nM(クローンHB1170)であった。
【表9】
【0100】
(実施例4:各ジェノタイプのHBVエンベロープタンパク質を有するウイルスの抑制)
モノクローナル抗体が異なるジェノタイプのHBVの感染を抑制できるかどうかを試験した。概要を図4に示す。
【0101】
所望のHBV由来エンベロープを有するD型肝炎ウイルス(HDV)粒子を作製する系を構築した。HDVは、HBVのサテライトウイルスとして知られ、ウイルス粒子表面はHBVのエンベロープ成分によって覆われ、ウイルス粒子内部にはデルタ抗原および遺伝子RNAを有する。HDVはHBVと同様にNTCPを介して宿主細胞内に侵入するため、本モデルは、HBVの感染ステップを評価できると考えられる。ジェノタイプA、B、CまたはDのラージHBs抗原をコードするプラスミドと、HDVゲノムをコードするプラスミドとをHuh7細胞にトランスフェクトすることによって、各ジェノタイプのHBVエンベロープによって覆われたHDV粒子を取得した。その後、これらのHDV粒子をHB351またはHB1170モノクローナル抗体(25μg/mL)と同時にHepG2-18C細胞に添加して、十日間インキュベートし、細胞内のHDV RNAの量を測定した。
【0102】
結果を図5に示す。HB351およびHB1170は両方ともジェノタイプA、B、CおよびDのHBVエンベロープを有するHDVの感染を抑制できることが見出された。
【0103】
(実施例5:HBV産生マウスモデルにおけるモノクローナル抗体処置)
次に、HBV産生マウスモデルにおいてHB351およびHB1170の効果を試験した。
【0104】
実験の概要を図6の上部に示す。HBVおよびHB351またはHB1170をマウスに投与し、1日毎に採血を行った。取得した血清中のHBs抗原およびHBV DNAを定量した。
【0105】
結果を図6の下部に示す。マウスにおいても、HB351およびHB1170がHBVを抑制できることが見出された。
【0106】
(実施例6:モノクローナル抗体の認識部位)
モノクローナル抗体がHBs抗原のどの部位を認識するか検討した。
【0107】
HBs抗原の147~152の位置(配列番号107の321~326位、配列番号108の147~152位に対応する)のアミノ酸をそれぞれアラニンに置換して抗体の結合性が維持されるか検討した。結果を図7に示す。HB351およびHB1170はいずれも、I152A変異を導入したHBsとの結合性が観察されなかった。152位のイソロイシンは、HB351およびHB1170のHBs認識において重要なアミノ酸残基であることが示唆された。152位のイソロイシンはほぼ全てのHBVにおいて保存されており、152位に変異が生じるとHBV粒子形成が阻害されることが見出されている。そのため、HB351およびHB1170は、HBVを網羅的に抑制できると予想される。なお、HB1215クローンはI152A変異を導入したHBsに対しても結合性を維持することが観察されている。
【0108】
(実施例7:HBIGエスケープ変異体に対する中和活性)
HBIGによる処置に耐性を示すHBs抗原のエスケープ変異体が知られている。これらのエスケープ変異体に対して作製したモノクローナル抗体が有効かどうか検討した。
【0109】
実施例4と同様のHDVを使用する系を用いて、エスケープ変異(K141E、G145R)を含むHBs抗原を発現するHBVのエンベロープを有するD型肝炎ウイルス(HDV)粒子を作製した。その後、実施例4と同様にこれらのHDV粒子をHB351、HB1170、HB1215などのモノクローナル抗体と同時に宿主細胞に添加して、インキュベートした後に、細胞内のHDV RNAの量を測定した。
【0110】
エスケープ変異G145Rについての結果を図8に示す。HB351はエスケープ変異G145Rを含むHBs抗原のHBVエンベロープを有するHDVの感染も良好に抑制できることが見出された。エスケープ変異K141Eについては、試験したクローンのうちHB1215だけが良好な感染抑制を示した。作製したクローンは、HBs抗原の各種エスケープ変異体に対しても有効であるため、広範なHBVの感染を抑制できると期待される。
【0111】
(実施例8:モノクローナル抗体のヒト化)
クローンHB351およびHB1170に基づきヒト化抗体を作製した。
【0112】
最初にこれらのクローンのコード塩基配列およびアミノ酸配列を決定した。以下に決定したそれぞれの配列を示す。
【表10】
【表11】
【表12】
【0113】
Kabat、IMGT、ParatomeおよびChothiaのナンバリングシステムに従いCDR配列を決定した。これら4つのナンバリングシステムのうち少なくとも1つにおいてCDRとして決定された配列(カバー配列)を抽出し、カバー配列を維持してヒト化を行った抗体を作製した。
【表13】
【表14】
【0114】
クローンHB351に基づくヒト化抗体において、重鎖可変領域のヒト化率は90.8%、軽鎖可変領域のヒト化率は85.5%であった。クローンHB1170に基づくヒト化抗体において、重鎖可変領域のヒト化率は90.2%、軽鎖可変領域のヒト化率は85.5%であった。
【0115】
これらのヒト化重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列に基づき、ヒト化抗体を作製した。GeneArt GeneOptimizerにてCHO細胞にコドン最適化し、ユーロフィンにて人工遺伝子を合成し、この人工遺伝子を定常領域をコードする抗体発現ベクターへシームレス挿入して核酸構築物を作製した。この核酸構築物を使用してヒト化抗体を生産し、目的のヒト化抗体が得られていることを確認した。
【0116】
(実施例9:ヒト化モノクローナル抗体の性能評価)
ヒト化したモノクローナル抗体HB351およびHB1170についてHBs抗原との親和性およびHBV抑制能を評価した。HBV抑制能は実施例2と同様に評価し、HBs抗原との親和性は実施例3と同様に評価した。
【0117】
結果を図9および以下の表に示す。ヒト化によりHBs抗原との親和性はわずかに低下したものの、いずれのヒト化抗体もHBs抗原に対する高い親和性を有するといえる。算出したKd値は、ヒト化HB351は約300pM、ヒト化HB1170は約3nMであった。また、ヒト化HB351およびヒト化HB1170はいずれも、ng/mLレベルの濃度でHBVを抑制できることが見出された。
【表15】
【0118】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本開示は、本開示は、新規のHBs抗原結合抗体を提供し、この新規抗体は、B型肝炎ウイルスの抑制に有用であり、既存のHBIGを置き換え得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2023053786000001.app