(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023054701
(43)【公開日】2023-04-14
(54)【発明の名称】円筒型光触媒セル
(51)【国際特許分類】
B01J 35/02 20060101AFI20230407BHJP
B01J 23/22 20060101ALI20230407BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J23/22 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163708
(22)【出願日】2021-10-04
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】吉田 恵太
(72)【発明者】
【氏名】七條 保治
(72)【発明者】
【氏名】三石 雄悟
(72)【発明者】
【氏名】佐山 和弘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 讓
(72)【発明者】
【氏名】森田 健太郎
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA15
4G169BA14A
4G169BA14B
4G169BA48A
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC17B
4G169BC25A
4G169BC25B
4G169BC54A
4G169BC54B
4G169CC40
4G169DA05
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EB18X
4G169EB18Y
4G169HA02
4G169HB06
4G169HC02
4G169HC29
4G169HF01
4G169HF02
(57)【要約】
【課題】例えばBiVO
4を人工光合成用等の光触媒として使用する場合において、その取り扱い性を改善することができると共に、高い光触媒活性を達成して光の変換効率を高めることが可能な円筒型光触媒セルを提供する。
【解決手段】内径Dが0.8cm以上である光透過性を有する円筒型の容器に複数のガラス粒子により形成された多孔性のガラス粒子担体及び光触媒が収容され、前記円筒型容器の側面から該円筒型容器の直径方向に光を照射したときに、照射光量に対する透過光量の比(透過光量/照射光量)が0.05%以上10%以下であることを特徴とする円筒型光触媒セルである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径Dが0.8cm以上である光透過性を有する円筒型の容器に複数のガラス粒子により形成された多孔性のガラス粒子担体及び光触媒が収容され、前記円筒型容器の側面から該円筒型容器の直径方向に光を照射したときに、照射光量に対する透過光量の比(透過光量/照射光量)が0.05%以上10%以下であることを特徴とする、円筒型光触媒セル。
【請求項2】
前記円筒型容器の内径D(cm)と、
前記円筒型容器に収容される、前記円筒型容器の長さ1cm当たりの前記多孔性のガラス粒子担体及び光触媒の総質量M(g)との比(D/M)が、
0.23以上1.32以下である、請求項1に記載の円筒型光触媒セル。
【請求項3】
前記ガラス粒子担体は、ガラス粒子同士が互いに焼結して一体化されたガラス粒子焼結体である、請求項1又は2に記載の円筒型光触媒セル。
【請求項4】
前記ガラス粒子担体は、複数のガラス粒子が前記円筒型容器内に収容されてガラス粒子同士が互いに隣接してなるガラス粒子集合体である、請求項1又は2に記載の円筒型光触媒セル。
【請求項5】
前記光触媒が前記ガラス粒子担体の表面に担持されてなる、請求項1又は2に記載の円筒型光触媒セル。
【請求項6】
前記ガラス粒子担体を形成するガラス粒子は、平均粒径が0.1~2mmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の円筒型光触媒セル。
【請求項7】
前記光触媒は、バナジン酸ビスマス半導体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の円筒型光触媒セル。
【請求項8】
前記光が太陽光である、請求項1~7のいずれか一項に記載の円筒型光触媒セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過光量を制御した円筒型光触媒セル及びこれを用いた光触媒反応方法に関するものであり、特に制限されるものではないが、水中で酸化還元体を光還元すると共に水の酸化反応を伴う光触媒反応を行うのに好適に利用される透過光量を制御した円筒型光触媒セル及びこれを用いた光触媒反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンなどの化合物は光照射することにより触媒作用を示すことが知られており、光触媒と呼ばれている。
触媒作用の一つは、光触媒表面にある有機物を酸化し、CO2やH2Oなどに分解する酸化分解作用である。この性質を利用し、環境中に存在する有害物質を酸化分解して無害な物質に変換することで、消臭、VOC除去、汚れ除去、抗菌・殺菌などの環境浄化を目指す商品開発が進められている。例えば、添加された光触媒により抗菌作用を有するタイル、エアフィルタに担持された光触媒により空気中の有害物を分解する空気清浄機などが挙げられる。
【0003】
また、触媒作用を利用した水分解技術が期待されている。この技術は、光エネルギー及び光触媒を利用し、水を分解して水素及び酸素を生成する技術であり、人工光合成技術として期待されている。具体的には、光触媒のバンドギャップ以上のエネルギーを照射することで、光触媒の価電子帯の電子が伝導帯に励起され、伝導帯に電子が生成すると共に、価電子帯に正孔が生成する。前記正孔により水が酸化されて酸素とプロトンが生成し〔「酸素生成系」という。下記反応式(1)〕、一方で、前記電子によりプロトンが還元されて水素が生成する〔「水素生成系」という。下記反応式(2)〕。
2H2O → O2 + 4H+ + 4e- ・・・(1)
4H+ + 4e- → 2H2 ・・・(2)
【0004】
水分解技術の多くは、1種類の光触媒上で酸素生成と水素生成を同時に進行させる機構(以下、「一段階機構」という。)によるものである。この一段階機構の場合、光触媒の条件として、光触媒の価電子帯が水の酸化電位(+1.23V)よりも正にあり、正孔が水を酸化して酸素を生成できるポテンシャルを有すること、及び、光触媒の伝導帯が水の還元電位(0V)よりも負にあり、励起電子が水を還元して水素を生成できるポテンシャルを有することが必須である。しかし、前記可視光応答性の光触媒の伝導体は水の還元電位よりも正にあるため、水を還元できない。一段階機構において、上記の必須条件を満たす光触媒は通常存在せず、水分解を困難なものとしている。
【0005】
前記一段階機構の可視光応答性の問題を改善するための方法の一つに、酸素生成と水素生成を2種類の光触媒に分割し、両者を酸化還元体で結んだ「Zスキーム」と呼ばれる二段階機構がある。Zスキームは、酸素生成系では正孔が水を酸化して酸素を生成すると同時に、酸化還元体の酸化体を還元して還元体を生成する。一方、水素生成系では励起電子が水を還元して水素を生成すると同時に、酸化還元体の還元体を酸化して酸化体を生成する。酸化還元体の酸化還元電位は、酸素生成系の伝導帯より正であること、及び、水素生成系の価電子帯より負であることが必須である。伝導帯が水の還元電位よりも正にある可視光応答性の光触媒は、価電子帯が水の酸化電位よりも正にあれば、酸素生成系に利用することが可能である。しかし、上記の必須条件を満たす2種類の光触媒は組み合わせを制限されるため、やはり水分解を困難なものとしている。
【0006】
二段階機構の別の形態に、光触媒/電解ハイブリッド型がある。水から水素を生成するには電気分解が容易であるが、大きな電圧を必要とする。光触媒/電解ハイブリッド型は、水素発生系を電気エネルギーで補うことで、必要最小電圧で水から水素を生成することが可能である。光触媒/電解ハイブリッド型は、光触媒電極と水素生成電極とが外部電源を介して電気的に直列接続している。酸素生成系である光触媒では、正孔が水を酸化して酸素と電子を生成し、外部電源により水の還元電位よりも負に達するように電圧を印加し、水素生成系である水素生成電極では、水を還元して水素を生成する。
【0007】
光触媒/電解ハイブリッド型の別の形態に、Fe3+/Fe2+を酸化還元体とし、一段階目ではFe3+水溶液中の光触媒に光照射し、正孔により水が酸化されて酸素とプロトンが生成し、電子によりFe3+が還元されてFe2+が生成し、二段階目ではFe2+水溶液を電解してFe3+と水素を生成する方法がある(特許文献1、2参照)。
【0008】
このうち、光触媒としては、酸化チタン(TiO2)、酸化タングステン(WO3)、酸化鉄(Fe2O3)、酸化スズ(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、硫化カドミウム(CdS)、酸化ジルコニウム(ZrO2)等があり、主に酸化チタンが実用化されている。
【0009】
一方で、Fe3+/Fe2+を酸化還元体とする水の分解では、その変換効率に係る主要な問題の一つとして、可視領域の光エネルギーの変換効率が小さい点がある。主たる光エネルギーである太陽光は、紫外領域の光エネルギーは約3%程度であり、可視光の利用が非常に重要である。そのため、可視光応答性の光触媒の開発が行われている。前記Fe3+/Fe2+を酸化還元体とした光触媒/電解ハイブリッド型に用いる光触媒として、可視光応答性が高く、酸素及びFe2+生成能が高いという理由から、バナジン酸ビスマス(BiVO4)が人工光合成用の光触媒として期待されている(例えば特許文献3参照)。
【0010】
BiVO4を産業上で利用する場合、粉末単体としてではなく固体の透明支持体に固定化させることが、取り扱いやすさの観点で望ましい。そこで、例えば、バナジウム塩とビスマス塩とを含む前駆体溶液中に基板を配置し、マイクロ波支援化学浴析出法により、前記基板上にバナジン酸ビスマス層を形成してなるバナジン酸ビスマス積層体が開示されている(特許文献4参照)。そして、この積層体は光電極への適用が期待されている。しかし、この方法ではFTO膜を有するガラス基板等、マイクロ波で加熱可能な基板に限定され、より透明性の高い支持体の適用は難しい。また、平板型の支持体であるため、光触媒の担持量も十分でない。なお、酸化チタンが被覆されたガラスフレーク等の薄片状物質表面に、突起状のバナジン酸ビスマス結晶を有する黄色顔料が知られている(特許文献5参照)。これは、ビスマスとバナジウムを含む酸溶液に薄片状物質を加えて懸濁液とし、次にアルカリ水溶液を加え熟成して得られる。しかし、これは顔料としての彩度を担保することが目的であり、光触媒能の向上や取り扱いやすさの点では何ら開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11-157801号公報
【特許文献2】特開2001-233602号公報
【特許文献3】特開2017-100057号公報
【特許文献4】国際公開WO2014/136783公報
【特許文献5】特開2004-155876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
つまり、BiVO4を始めとする、人工光合成用等の光触媒として使用する場合、取り扱い性と高い光触媒活性を両立させることが重要であるが、従来の技術では未だ不十分である。
そこで、本発明者は鋭意検討を重ねた結果、光触媒を複数のガラス粒子により形成される多孔性のガラス粒子担体に担持させることで光触媒複合体とし、これを円筒型の容器に収容して円筒型光触媒セルとして、光を照射したときに、照射光量に対する透過光量の比(透過光量/照射光量)を所定の範囲に制御することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、内径Dが0.8cm以上である光透過性を有する円筒型の容器に複数のガラス粒子により形成された多孔性のガラス粒子担体と光触媒とが収容され、前記円筒型容器の側面から該円筒型容器の直径方向に光を照射したときに、照射光量に対する透過光量の比(透過光量/照射光量)が0.05%以上10%以下であることを特徴とする円筒型光触媒セルである。なお、このような円筒型光触媒セルにおける光(光源)として、好適には太陽光が挙げられる。
【0014】
このガラス粒子担体について、好ましくは、ガラス粒子同士が互いに焼結して一体化されたガラス粒子焼結体であるか、又は、複数のガラス粒子が円筒型容器内に収容されてガラス粒子同士が互いに隣接してなるガラス粒子集合体であるのがよい。また、前記円筒型容器の内径D(cm)と、前記円筒型容器に収容される、前記円筒型容器の長さ1cm当たりの前記多孔性のガラス粒子担体及び光触媒の総質量M(g)との比(D/M)が、0.23以上1.32以下であるのがよい。
【0015】
また、ガラス粒子担体の比表面積が12~240cm2/gであるのが好ましい。
【0016】
また、ガラス粒子担体を形成するガラス粒子は、平均粒径が0.1~2mmであるのが好ましい。そして、光触媒がガラス粒子担体の表面に担持されてなるのが好ましく、また、光触媒は、バナジン酸ビスマス半導体であるのが好ましい。
【0017】
更には、光触媒が水と共に光触媒分散液として存在して、円筒型容器内において、該光触媒分散液中に前記ガラス粒子担体が浸漬して光触媒複合体を構成するのが好ましい。その際、光触媒の少なくとも一部は、多孔性のガラス粒子担体における空隙内に存在する。
【0018】
更にまた、本発明は、複数のガラス粒子により形成された多孔性のガラス粒子担体が、光触媒、並びに、酸化還元体及び水を含んだ光触媒反応液に浸漬した光触媒反応装置に対して光を照射することで、前記光触媒反応液中の酸化還元体を還元すると共に水の酸化反応を伴う光触媒反応を行うことを特徴とする光触媒反応方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の円筒型光触媒セルを利用することで、例えば、人工光合成用等の光触媒を使用する場合において、その取り扱い性を改善することができると共に、高い光触媒活性を達成することができる。そのため、太陽エネルギーによる光の変換効率を高めながら、光触媒反応を行うことが可能になる。
【0020】
なかでも、本発明の円筒型光触媒セルによれば、特に水中でのFe3+/Fe2+酸化還元体の光還元反応において、取扱い性に優れ、かつ高効率で酸素及びFe2+を得ることができる。また、このような光還元反応に限らず、二酸化炭素の還元や水分解による水素生成等の人工光合成技術にも好適に使用することができる。更には、空気浄化、水浄化、抗菌・殺菌、防汚・防曇等の技術にも適用でき、例えば、住宅外装、住宅内装、電気製品、車両、道路、農業、水処理、土壌処理、空気処理、医療等の産業分野での適用が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、実施例で円筒型光触媒セルの評価を行った実験装置の様子を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、
図1の実験装置における円筒型光触媒セルのX-X’断面図である。
【
図3】
図3は、
図1の実験装置で光を照射した光触媒複合体の単位面積当たりのFe
2+生成速度を求める様子を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0023】
本発明の円筒型光触媒セルは、複数のガラス粒子により形成された多孔性のガラス粒子担体と光触媒とが内径Dが0.8cm以上である光透過性を有する円筒型容器に収容されたものであり、光触媒が多孔性のガラス粒子担体と共に存在するものである。そして、本発明では、円筒型容器の側面から該円筒型容器の直径方向に光を照射したときに、照射光量に対する透過光量の比(透過光量/照射光量)が0.05%以上10%以下となるように制御する。照射光量に対する透過光量の比が0.05%未満であると、光がガラス多孔体担体深部まで透過しないという不都合があり、10%を超えると、透過光の分だけ光触媒活性が発揮されないという不都合がある。
【0024】
このうち、光触媒については、人工光合成用等の光触媒として適用できる公知の光触媒を使用することができる。例えば、TiO2(酸化チタン)、WO3(酸化タングステン)、BiVO4(バナジン酸ビスマス)が挙げられる。このうち、Fe3+/Fe2+を酸化還元体とした光触媒として、可視光応答性が高く、酸素及びFe2+生成能が高いという理由から、BiVO4が好ましい。
【0025】
また、ガラス粒子担体について、好ましくは、その比表面積が12~240cm2/gであるのがよい。比表面積のより好ましい下限値は16cm2/gであり、更に好ましくは20cm2/gである。一方、より好ましい上限値は120cm2/gであり、更に好ましくは80cm2/gである。この比表面積の測定法としては、後述するようなガラス粒子焼結体の場合やガラス粒子集合体の場合ともに、画像解析法により測定することができる。具体的には、例えば後述する条件でSEM画像を撮影して、その画像から得られた平均粒径をD、ガラス粒子の材質の密度をρとすると、ガラス粒子1個の体積VはV=(4/3)π(D/2)3と表され、ガラス粒子1個の表面積SはS=4π(D/2)2と表されることから、比表面積(単位質量における表面積)SmはSm=S/(ρV)となる。
【0026】
また、ガラス粒子担体を形成するガラス粒子について、ガラス粒子ひとつ一つの形状は特に制限されずに、例えば、球状、楕円状、柱状、角状、板状、針状等のものを挙げることができる。なかでも、ガラス粒子担体が多孔質形状を形成し易く、ガラス粒子担体中に数多くの孔を形成でき、しかも、外部から照射される光をその深部まで透過できるという観点から、好ましくは、個々のガラス粒子の形状が球状又は楕円状であるのがよい。
【0027】
更に、ガラス粒子の材質としては、ガラス粒子担体の表面に付着した光触媒に光を照射して光触媒反応を行うことを考慮して、光透過性を有するものであるのがよい。その際、好適な光源である太陽光を想定したときに、紫外光のみならず、可視光についても光透過性を有するものであるのがよいことから、少なくとも、400nm~800nmの波長の光に対して透過率が50%以上の材質であるのが好ましい。具体的には、例えば、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、無アルカリガラスなどの無機材料、もしくはアクリロニトリル・スチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン等の透光性を有する樹脂材料等からなるものを挙げることができるが、これらに限定されない。後述するように、ガラス粒子担体としてガラス粒子焼結体を用いる場合には、焼結体作製時の焼結温度を低くすることができるという理由から、好ましくはソーダ石灰ガラス、又はホウケイ酸ガラスであるのがよい。なお、透過率とは、ある波長において入射した光の強度と、光透過性を有する材質を透過した後の光の強度の比である。また、本発明においては、キセノンランプ、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ等の外部光源といった太陽光以外の光を利用して光触媒反応を行うようにしてもよい。
【0028】
更にまた、ガラス粒子の平均粒径については、円筒型光触媒セルを利用した光触媒反応での反応効率をより高める観点から、0.1~2mmであるのがよい。このうち、平均粒径のより好ましい下限は0.2mmであり、更に好ましくは0.3mmである。ガラス粒子の平均粒径が0.1mm未満であると、光がガラス多孔体担体深部まで透過せずに表面で散乱するという不都合がある。また、平均粒径の下限値が上記の範囲であれば、ガラス粒子担体内に適度なサイズの孔を形成し、かつ、適度な表面積を有することができ、ガラス粒子担体の表面(孔内を含む)に十分な量の光触媒を存在させることができる。更には、得られるガラス粒子担体の耐久性を担保することもできる。一方、平均粒径のより好ましい上限は1.5mmであり、更に好ましくは1.2mmである。ガラス粒子の平均粒径が2.0mmを超えると、ガラス多孔体担体の孔内に光触媒が凝集することで光触媒活性が発揮されないという不具合がある。
なお、この平均粒径は、ガラス粒子の形状が球状又は楕円状である場合は勿論、これら以外の形状の場合でも円相当径での値を言うものとする。また、以下の説明においても、ガラス粒子の形状が球状又は楕円状である場合を好適な例とするが、それ以外の形状についても円相当径をもとにした説明として解釈される。
【0029】
ガラス粒子の平均粒径は、例えば、ガラス粒子のSEM(走査型電子顕微鏡、倍率=50~200倍)画像から、任意の200点のガラス粒子画像を選択して、当該ガラス粒子の外接円を直径とみなして、その個数平均径(=各粒子の直径の合計÷200)を算出することで求めることができる。
【0030】
一方で、ガラス粒子担体については特に制限されるものではないが、好適には、ガラス粒子同士が互いに焼結して一体化されたガラス粒子焼結体であるか、又は、複数のガラス粒子が容器内に収容されてガラス粒子同士が互いに隣接したガラス粒子集合体であるのがよく、これらはいずれもその内部(すなわちガラス粒子間の隙間)に多数の孔が存在する多孔体となる。
【0031】
このうち、ガラス粒子焼結体を得る方法については特に制限されないが、好適には次のようにして作製することができる。
先ず、円筒管等のような型となるものとその下に敷く板材を用意する。これらは耐熱性を有するものであれば特に制限されず、例えば、アルミナ、ステンレス、チタン等を使用することができる。次に、型を板材に載置して、型内にガラス粒子を装入する。その際、できるだけガラス粒子が密に充填されるようにして、上面を水平にする。この状態でガラス粒子を焼結することで、ガラス粒子同士が融着して焼結される。また、焼結させる温度とその時間については、ガラス粒子が融着する条件であればよく、例えば、ソーダ石灰ガラスを用いた場合、その粒径に応じて、軟化点付近の600~750℃で5分~4時間程度焼結すればよい。焼成温度が高く、且つ焼結時間が長くなると、ガラス粒子の融着は強固になるが、空隙率は小さくなる傾向にある。
【0032】
一方のガラス粒子集合体については、複数のガラス粒子が容器内に収容されてなるものであり、容器内の限られた空間に複数のガラス粒子が充填され、ガラス粒子同士が互いに隣接して接触した状態で当該空間に存在することで形成されるガラス多孔体である。ここで用いられる容器については、後述するように、ガラス粒子の場合と同様に、外部から光を照射して光触媒反応を行うことを考慮して、光透過性を有するものであるのがよく、紫外光のみならず、可視光についても光透過性を有するものであるのがよいことから、少なくとも、400nm~800nmの波長の光に対して透過率が50%以上の材質であるのが好ましい。具体的には、ガラス粒子の場合と同様な材質のものを挙げることができる。
【0033】
また、ガラス粒子担体の空隙率については、光触媒反応での反応効率をより高める観点から、好ましくは30~60%であるのがよい。このうち、より好ましい下限値は40%であり、より好ましい上限値は50%である。また、ガラス粒子担体の表面に存在する光触媒への光照射を考慮すると、ガラス粒子担体の厚みは0.5~30mmであるのが好ましい。この範囲であれば、ガラス粒子担体を形成するガラス粒子間の隙間に存在する光触媒(BiVO4)に対して十分な光を照射することができて、光触媒反応に寄与することができる。また、ガラス粒子担体の強度担保の面でも好都合である。
【0034】
また、ガラス粒子担体の形状については、照射光を有効利用できれば、ガラス粒子焼結体及びガラス粒子集合体とも特に制限されない。例えば、円筒型容器の形状にあわせて円形(球状)にしたり、或いは、角形(立方体や直方体状)、三角錐等、任意の形状にすることができる。
【0035】
また、本発明における内径Dが0.8cm以上である円筒型の容器(円筒型容器)については、ガラス粒子の場合と同様に、外部から光を照射して光触媒反応を行うことを考慮して、光透過性を有するものであるのがよく、紫外光のみならず、可視光についても光透過性を有するものであるのがよいことから、少なくとも、400nm~800nmの波長の光に対して透過率が50%以上の材質であるのが好ましい。具体的には、ガラス粒子の場合と同様な材質のものを挙げることができる。また、本発明においては、照射光量に対する透過光量の比(透過光量/照射光量)を上記のように0.05%以上10%以下にするために、前記円筒型容器の内径D(cm)と、前記円筒型容器に収容される、前記円筒型容器の長さ1cm当たりの前記多孔性のガラス粒子担体及び光触媒の総質量M(g)との比(D/M)が、0.23以上1.32以下であるのがよい。例えば、円筒型の容器内径Dが0.8cm以上4.5cm以下である場合は、総質量M(g)は0.6g以上19.2g以下であるのが好ましい。ここで、「円筒型容器の長さ」とは、後述する
図3に示したように、ガラス管1に対して2aの方向の長さのことをいう。すなわち、円筒型容器の内径D(cm)と、円筒型容器の長さ方向における1cmの幅に収容される多孔性のガラス粒子担体及び光触媒の総質量M(g)との比(D/M)が0.23以上1.32以下となるようにするのが好ましい。これを目安にすれば、照射光量に対する透過光量の比(透過光量/照射光量)が所定の範囲となるように制御するのが容易になり、光がガラス粒子担体の深部まで透過するとともに、透過光に対する光触媒活性を十分に高めることができる。なお、円筒型容器は、横断面が楕円形をした楕円筒型のものであってもよく、この場合、楕円筒型の容器内径Dは楕円形の長径に相当する。なお、円筒型容器の内径Dが0.8cm未満の場合、光触媒反応に関与する光触媒の量が少ないため、光触媒活性が十分でない。
【0036】
次に、ガラス粒子担体の表面に光触媒を存在させて、円筒型光触媒セル内におけるガラス粒子担体と光触媒とからなる光触媒複合体を得る方法(以下「担持法」ともいう。)については、光触媒がガラス粒子担体の表面で光触媒反応が可能な状態で存在するようにできれば特に制限されないが、例えば、以下のような方法を例示することができる。以下、光触媒をバナジン酸ビスマス(BiVO4)半導体とした場合について例示する。
【0037】
すなわち、例えば、予め、BiVO4光触媒の粉末を合成しておき、その光触媒が水と共に光触媒分散液として存在して、該光触媒分散液中にガラス粒子担体を浸漬させて、ガラス粒子担体を形成するガラス粒子の表面やガラス粒子同士の隙間(つまり空隙)にBiVO4光触媒を付着乃至存在させる(担持させる)いわゆる「含浸法」や、円筒型光触媒セルを構成する円筒型容器、又は、ガラス粒子担体が別途収容された光透過性を有した容器に対して、BiVO4の合成に用いる原料溶液を入れて、その状態で容器ごと加熱するなどしてBiVO4の合成反応を行って、ガラス粒子の表面にBiVO4を析出させる(担持させる)いわゆる「溶液法」を示すことができる。また、予め合成したBiVO4光触媒の粉末を流動パラフィン、ポリエチレングリコール等と混合し、これを、円筒型光触媒セルを構成する円筒型容器、又は、ガラス粒子担体が別途収容された光透過性を有した容器に入れて、光触媒を固相又は液相でガラス粒子担体の空隙内に充填させて、充填後に有機溶媒で流動パラフィンやポリエチレングリコール等を除去することで、ガラス粒子担体とBiVO4光触媒とを固相又は液相でペースト化してガラス粒子の表面やガラス粒子同士の隙間内にBiVO4光触媒を存在させる(担持させる)いわゆる「充填法」を示すこともできる。
【0038】
なお、これらの方法におけるガラス粒子担体として、ガラス粒子焼結体であれば「含浸法」、「溶液法」、「充填法」のいずれにおいても好適に用いることができる。一方で、ガラス粒子集合体の場合には、「充填法」を除き、「含浸法」と「溶液法」において好適に用いられる。特に、ガラス粒子焼結体を用いる場合にはそれ自身で自立できるため、例えば自立膜を形成するなどして、光触媒反応を行う光触媒反応装置としての小型化や軽量化が可能になる。
【0039】
その際、ガラス粒子担体に担持させるBiVO4触媒の担持量について、好ましくは、ガラス粒子担体の質量に対して0.005~3質量%であるのがよい。この範囲であれば、BiVO4触媒同士が凝集することなく均一に担持され、後述するような光触媒反応での高い反応効率を示すことができる。
【0040】
ここで、BiVO4光触媒を得る方法については特に制限されずに、常法を用いて合成することができる。具体的には、例えば、Bi2O3とV2O5を水中で撹拌しながら濃硝酸を加えてBiVO4を析出させる、いわゆる「懸濁合成法」や、Bi(NO3)3・5H2OとNH4VO3をそれぞれ別々に硝酸に溶解し、Bi塩液及びV塩液として、それらを混合し加熱・撹拌してBiVO4を析出させる、いわゆる「溶液合成法」が挙げられる。
【0041】
このうち、「溶液合成法」によるBiVO4光触媒の合成方法について説明する。
BiVO4光触媒は、ビスマス化合物とバナジウム化合物を原料として用いる。ビスマス化合物としては特に制限されないが、硝酸ビスマス(Bi(NO3)3)、塩化ビスマス(BiCl3)、三酸化ビスマス(Bi2O3)などが挙げられ、なかでもBi(NO3)3が好ましい。また、バナジウム化合物についても特に制限されないが、五酸化バナジウム(V2O5)、メタバナジン酸ナトリウム(NaVO3)、メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3)などが挙げられ、なかでもNH4VO3が好ましい。
【0042】
上記ビスマス化合物とバナジウム化合物を溶媒中に含めるが、その際の濃度は共に15~40mmol/lが好ましく、20~35mmol/lがより好ましい。また、ビスマス化合物中のビスマスとバナジウム化合物中のバナジウムの物質量比はBi/V=1/1が好ましい。
【0043】
この溶媒としては、ビスマス化合物とバナジウム化合物が溶解するものであれば特に制限されないが、なかでも水が好ましく、水に酸を添加することがより好ましい。この酸は特に制限されないが、硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸、酢酸などが好ましく、なかでも硝酸がより好ましい。酸の濃度は0.25~0.8mol/lの範囲が好ましく、0.3~0.5mol/lがより好ましい。
【0044】
そして、ビスマス塩とバナジウム塩とを含む前駆体水溶液を、最高温度65~90℃で3~24時間反応させることが好ましい。より好ましくは、最高温度65℃の場合は24時間、最高温度90℃の場合は6時間である。
【0045】
得られたBiVO4に対して、Ga、Zn、Ni、Al、及びInからなる群のうち少なくとも1つの元素成分を添加してもよい。当該元素成分を添加する場合、これらの元素成分のイオンであるGa3+、Zn2+、Ni2+、Al3+、In3+の状態で溶解して混合させることが好ましい。このなかでもGa3+が好ましい。添加量はビスマス化合物又はバナジウム化合物の物質量に対して0.1~10mol%の範囲が好ましく、0.2~1.0mol%がより好ましい。
【0046】
上記の条件で作製したBiVO4はシーライト構造の単斜晶系からなる。BiVO4光触媒の平均粒径は特に限定しないが、0.5~10μmであることが好ましい。
【0047】
一方、「懸濁合成法」によるBiVO4光触媒の合成方法について説明する。
BiVO4光触媒は、ビスマス化合物とバナジウム化合物を原料として用いる。ビスマス化合物としては特に制限されないが、硝酸ビスマス(Bi(NO3)3)、塩化ビスマス(BiCl3)、三酸化ビスマス(Bi2O3)などが挙げられ、なかでもBi2O3が好ましい。また、バナジウム化合物についても特に制限されないが、五酸化バナジウム(V2O5)、メタバナジン酸ナトリウム(NaVO3)、メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3)などが挙げられ、なかでもV2O5が好ましい。
【0048】
上記ビスマス化合物とバナジウム化合物を溶媒中に含むが、濃度は共に0.1~0.4mol/lが好ましい。ビスマス化合物中のビスマスとバナジウム化合物中のバナジウムの物質量比はBi/V=1/1が好ましい。
【0049】
溶媒としては、ビスマス化合物とバナジウム化合物が溶解するものであれば特に限定しないが、水が好ましく、水に酸を添加することがより好ましい。酸は特に限定しないが、硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸、酢酸などが好ましく、硝酸がより好ましい。酸の濃度は0.5~2.0mol/lの範囲が好ましく、0.5~1.0mol/lがより好ましい。液温は60~90℃の範囲が好ましく、75~85℃がより好ましい。
【0050】
得られたBiVO4に対して、Ga、Zn、Ni、Al、及びInからなる群のうち少なくとも1つの元素成分を添加してもよい。当該元素成分を添加する場合、これらの元素成分のイオンであるGa3+、Zn2+、Ni2+、Al3+、In3+の状態で溶解して混合させることが好ましい。このなかでもGa3+が好ましい。添加量はビスマス化合物又はバナジウム化合物の物質量に対して0.1~10mol%の範囲が好ましく、0.2~1.0mol%がより好ましい。
【0051】
上記の条件で作製したBiVO4はシーライト構造の単斜晶系からなる。BiVO4光触媒の平均粒径は特に限定しないが、0.5~10μmであることが好ましい。
【0052】
本発明における円筒型光触媒セルについて、BiVO4光触媒が水と共に光触媒分散液として存在して、この光触媒分散液中にガラス粒子担体が浸漬する場合、この光触媒分散液に酸化還元体を含有させて、光を照射することで、その酸化還元体を還元すると共に水を酸化する(水の酸化反応を伴う)光触媒反応を行うことができる。すなわち、バナジン酸ビスマス半導体からなる光触媒並びに、酸化還元体及び水を含んだ光触媒反応液にガラス粒子担体を浸漬させて光触媒反応装置を構成し、外部光源や太陽光のような光を照射することで、上記のような光触媒反応を行うことができる。
【0053】
このような酸化還元体としては、Fe3+/Fe2+、VO2
+/VO2+、IO3
-/I-などが使用できるが、なかでもFe3+/Fe2+が好ましい。
【0054】
これらの酸化還元体を用いた光触媒反応について、例えば、Zスキームと称されるような二段階光励起型の光触媒反応を鉄イオン系の酸化還元体(Fe3+/Fe2+)を使用する例で説明すれば、下記式(3)のように示すことができる。すなわち、Fe3+をFe2+に還元すると共に水を酸化して酸素を生成する。その際、還元されたFe2+を含む水溶液は光触媒反応装置から取り出して、下記式(4)で示すような電解反応を別途行えば、水素を製造することができる。
光触媒反応:2H2O+4Fe3+→4Fe2++O2+4H+ ・・・(3)
電解反応 :4Fe2++4H+→4Fe3++2H2 ・・・(4)
この反応が生じる場合は、太陽エネルギー変換効率の大きさはFe3+をFe2+に還元する変換速度を以て表現することができ、例えば比色法などを用いて光還元反応を定量することができる。
【0055】
ガラス粒子担体の表面に付着した光触媒に光を照射して光触媒反応を行うことを考慮して、照射光を有効利用できることが望ましい。よって本発明は、前述したとおり、円筒型光触媒セルにおける円筒型容器の側面から該円筒型容器の直径方向に光を照射したときに、照射光量に対する透過光量の比(透過光量/照射光量)が0.05%以上10%以下の範囲が好ましく、0.1%以上5%以下の範囲がより好ましい。照射光量に対する透過光量の比が0.05%未満であると、光がガラス多孔体担体深部まで透過しないという不都合があり、10%を超えると、透過光の分だけ光触媒活性が発揮されないという不都合がある。
【実施例0056】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1~6)
<充填法によるBiVO4光触媒複合体の作製>
実施例1~6に係るBiVO4光触媒複合体を得るにあたり、先ずは、懸濁合成法を用いてBiVO4光触媒を作製した。具体的には次のとおりである。
Bi2O3 4.66g(10mmol)、V2O5 1.82g(10mmol)、Ga(NO3)3・nH2O 0.04g及び水48mlを撹拌しながら、濃硝酸(1.42g/ml、69質量%)2.64mlを入れた。これを80℃で24時間加熱撹拌した。室温まで冷却、ろ別し、BiVO4:Ga(6.48g、黄色粉末)を得た。
【0058】
上記で得たBiVO4光触媒(BiVO4:Ga)、下記表1に示した粒径のガラス粒子(材質:ソーダ石灰ガラス、密度:2.5g/cm3)、及び分散溶媒としての流動パラフィンを混練し、表1に示した内径Dを有し、かつ長さ3cmのフィルター付き円筒状のガラス管(材質:ホウケイ酸ガラス)に充填した。次いで、上記のガラス管からヘキサン洗浄にて流動パラフィンを除去することで、ガラス管内でガラス粒子同士を互いに隣接させたガラス粒子集合体を形成すると共に、そのガラス粒子集合体におけるガラス粒子の表面にBiVO4光触媒を担持させたBiVO4光触媒複合体を作製した。なお、ここでのBiVO4光触媒複合体が上記ガラス管(円筒型容器)内に収容されたものを円筒型光触媒セルと呼ぶ。
【0059】
上記のようにして、各条件が表1の値であるBiVO4光触媒複合体を作製したが、その際、BiVO4光触媒の担持量は、ガラス管の単位体積当たりの担持量に換算したときに、実施例1~6の間で同等になるようにした。また、各BiVO4光触媒複合体が収容されるガラス管は、いずれも上記と同様のフィルター付き円筒状のガラス管であり、その材質(ホウケイ酸ガラス)や長さ、ガラスの厚みは同じであるが、内径Dだけは表1に示したとおりにそれぞれ異なるものを使用して、実施例1~6に係る円筒型光触媒セルとした。
【0060】
(実施例7)
<溶液法によるBiVO4光触媒複合体の作製>
実施例7に係るBiVO4光触媒複合体を得るにあたり、先ずは、ガラス粒子担体として次のようにしてガラス粒子焼結体を作製した。
厚み50μmのチタン箔を帯状に切り、端同士をスポット溶接し、直径1.6cm、高さ6cmの型を作製した。この型をアルミナ板の上に置き、型の内側に厚み50μmのチタン箔の帯を巻いて、表1に記した粒径を有するガラス粒子(材質:ソーダ石灰ガラス)16gを装入した。ガラス粒子が充填されたこの型をアルミナ板と共に焼成炉に入れて焼結した。その際の焼結条件は725℃、1時間であり、725℃まで30分かけて昇温し、その後に725℃で1時間保持した。その後、型を外して、型内の帯を剥がし、直径1.6cm、長さ6cm、空隙率40~45%のガラス粒子焼結体(16g)を作製した。
【0061】
次いで、溶液合成法を用いてBiVO4光触媒を作製した。具体的には次のとおりである。
硝酸0.4mol/l×100mlを調製した。容器にBi(NO3)3・5H2O 1.5522g(3.2mmol)を秤量した。別の容器にNH4VO3 0.3743g(3.2mmol)を秤量した。調製した硝酸100mlを分配してそれぞれを撹拌溶解し、Bi塩液及びV塩液を得た。溶解したBi塩液にGa(NO3)3・nH2O 0.0064g添加した。V塩液をBi塩液に入れて混合した。このようにして、混合液を準備した。
【0062】
そして、先に記したように、個数平均径2.00mmのガラス粒子を使用して作製したガラス粒子焼結体を内径1.6cm、長さ6cmのキャップ付き円筒状のガラス管に配置し、上記で得られた混合液12mlをこの反応管内に入れて、65℃で24時間加熱してBiVO4:Gaを析出させた。その後、室温まで冷却し、ろ別、水洗、乾燥して、BiVO4光触媒複合体を作製した。その際、BiVO4光触媒の担持量は、ガラス管の単位体積当たりの担持量に換算したときに、実施例1~6の場合と同等になるようにした。そして、得られたBiVO4光触媒複合体を実施例1~6と同様に、表1に示した内径Dを有するフィルター付き円筒状のガラス管(材質:ホウケイ酸ガラス)に装入して実施例7に係る円筒型光触媒セルとした。
【0063】
ここで、ガラス粒子集合体を形成するガラス粒子の粒径を求めるにあたり、各実施例で使用したガラス粒子のSEM画像を撮影して(50~200倍)、任意の200点のガラス粒子画像を選択して、当該ガラス粒子の外接円を直径とみなして、各粒子の直径の合計÷200により、個数平均径として平均粒径Dを算出した。また、実施例1~7の各実施例におけるBiVO4光触媒複合体の比表面積については、ガラス粒子の材質の密度をρとして、ガラス粒子1個の体積VはV=(4/3)π(D/2)3と表され、ガラス粒子1個の表面積SはS=4π(D/2)2と表されることから、比表面積(単位質量における表面積)Sm=S/(ρV)から算出した。これらの結果は表1にまとめて示している。なお、表1における触媒の担持量は、上記のようにして得られた『BiVO4光触媒複合体の質量』から『BiVO4光触媒を担持する前のガラス粒子集合体の質量』を差し引くことで求めたものである。
【0064】
<円筒型光触媒セルの評価>
上記で得られた各円筒型光触媒セルについて、以下のような実験装置を準備して光触媒反応による評価を行った。
図1に示したように、先ず、コック付きのタンク4に20℃の水900mlを入れ、60%HClO
4水溶液150μlを添加し、pHを調整した。次に、0.25mol/lのFe(ClO
4)
3水溶液7.2mlを入れ、Fe
3+の濃度を2mmol/lとして、酸化還元体を含む水溶液(光触媒反応液)3を準備した。
【0065】
このようにして準備した光触媒反応液3を含むタンク4と各円筒状のガラス管1内に上記BiVO
4光触媒複合体2が収容されてなる円筒型光触媒セルの入口側と出口側をそれぞれチューブ5で接続し、ガラス管1の長さ方向を横にして、ガラス管1内の滞留時間が1分になるように光触媒反応液3を流通した。そして、BiVO
4光触媒複合体2が収容された部位において、ガラス管1の真上からガラス管1の直径方向1aに光6を照射して、光触媒反応を行った。その際、
図2に示したように、ガラス管1の円周の最上点と接する面を被照射面8aとし、この被照射面8aへ照射される光量を照射光量(i)とする。また、ソーラーシミュレータ(山下電装YSS-100A)を用いて光照射したときの照射光量を回折格子型分光放射計(英弘精機LS-100)で測定し、1SUN(100mW/cm
2)になるようガラス管1の位置を調整した。光照射を開始し、ガラス管の円周の最下点と接するように出口面8bに回折格子型分光放射計の受光部7を配置し、透過光量(ii)を測定した。その後、流出した水溶液を採取し、フェナントロリン法で発色し、510nmの吸光度を測定することで、Fe
2+を定量した。
【0066】
(比較例1~2)
実施例1~6と同様にしながら、各条件が表1の値であるBiVO4光触媒複合体を作製して、比較例1~2に係る円筒型光触媒セルを得た。BiVO4光触媒の担持量は、ガラス管の単位体積当たりの担持量に換算したときに、実施例1~7と同等になるようにした。
【0067】
【0068】
ここで、表1には、酸化還元体を含んだ水溶液である光触媒反応液3を円筒型光触媒セルに注入する前に測定した照射光量(i)に対する透過光量(ii)の比〔透過光量(i)/照射光量(ii)〕と、光触媒反応液3を円筒型光触媒セルに注入した後での上記比〔透過光量(i)/照射光量(ii)〕が示されている。また、表1における「複合体単位面積当たりFe
2+生成速度」は、実験装置で光を照射した光触媒複合体の単位面積当たりのFe
2+生成速度を表すものであり、詳しくは、
図3に示したように、上記実験装置におけるガラス管1に対して光6を照射する真上から見たときに、ガラス管1の内径1aとその際にガラス管1内に収容されたBiVO
4光触媒複合体2の長さ2aとを有する長方形1a×2aをBiVO
4光触媒複合体2での光照射面積とみなして、各円筒型光触媒セルでの光触媒反応によるFe
2+生成速度をこの光照射面積(1a×2a)で割って求めたものである。
【0069】
その結果、表1に示されるとおり、照射光量(i)に対する透過光量(ii)の比が本発明の範囲内である円筒型光触媒セルを用いた場合には、これを満たさない比較例の円筒型光触媒セルを用いた場合に比べて、BiVO4光触媒複合体の単位面積当たりのFe2+生成速度が優れることが分かる。これは、本発明における当該比の下限未満では、光触媒複合体の深部に行くにつれて光が届かなくなり、反対に、当該比の上限超では、結果的に光触媒複合体を光が素通りしてしまうと考えられるところ、実施例に係る円筒型光触媒セルによれば、照射された光を光触媒反応に十分活用することができたと言える。