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特開2023-55144漏血センサー用シート、漏血センサー用部材、漏血センサー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055144
(43)【公開日】2023-04-17
(54)【発明の名称】漏血センサー用シート、漏血センサー用部材、漏血センサー
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/00 20060101AFI20230410BHJP
   A61M 1/36 20060101ALI20230410BHJP
   G01N 27/02 20060101ALI20230410BHJP
   G01N 27/22 20060101ALI20230410BHJP
【FI】
C08L53/00
A61M1/36 145
G01N27/02 D
G01N27/22 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021164303
(22)【出願日】2021-10-05
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】横山 英明
(72)【発明者】
【氏名】藤田 梨恵
【テーマコード(参考)】
2G060
4C077
4J002
【Fターム(参考)】
2G060AA07
2G060AF06
2G060AF07
2G060AF10
2G060FA05
2G060JA06
2G060KA05
4C077AA05
4C077BB01
4C077EE01
4C077KK17
4J002BC03X
4J002BP03W
4J002GB01
(57)【要約】
【課題】汗等の血液以外の体液と血液とを区別して血液成分に感応でき、高感度で血液の漏出を検出できる漏血センサーが得られる漏血センサー用シート;前記漏血センサー用シートを備える漏血センサー用部材;および前記漏血センサー用部材を備える漏血センサーの提供。
【解決手段】アミノ基および/またはアンモニウム塩基を有するブロック共重合体を含むポリマー成分を含有する、漏血センサー用シート;前記漏血センサー用シートを備える漏血センサー用部材;および前記漏血センサー用部材を備える漏血センサー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基および/またはアンモニウム塩基を有するブロック共重合体を含むポリマー成分を含有する、漏血センサー用シート。
【請求項2】
下式(1)で算出されるXPS値が、1.0以上である、請求項1に記載の漏血センサー用シート。
XPS値=(IN1s/IC1s)×(N1sの原子感度係数/C1sの原子感度係数)×100 式(1)
式中、IN1sは、θ=45°の条件で測定したXPSデータにおけるN1s由来のピークの積分値であり、IC1sは、θ=45°の条件で測定したXPSデータにおけるC1s由来ピークの積分値であり、(N1sの原子感度係数/C1sの原子感度係数)は、(0.477/0.278)である。
【請求項3】
前記ポリマー成分100質量%のうち前記ブロック共重合体の割合が、1~50質量%である、請求項1または2に記載の漏血センサー用シート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の漏血センサー用シートを備える、漏血センサー用部材。
【請求項5】
請求項4に記載の漏血センサー用部材を備える、漏血センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏血センサー用シート、漏血センサー用部材、漏血センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
漏血センサーは、医療現場において血液の漏出を検出するために用いられる。典型的には血液透析において、抜針を原因とする血液の漏出の検出に用いられる。血液透析における抜針は、針の穿刺の状態によって自然に起きることもある。他にも、認知症患者による故意の抜針も起こりうる。
【0003】
血液透析における血液の漏出を検出するための漏血センサーとしては、乾燥時には絶縁性を示し、吸水時に導電性を示す導電性接着剤を用いて、電気抵抗値の変化を検知する漏血センサーが知られている(特許文献1)。
しかし、特許文献1に記載の漏血センサーは、血液成分の感応部材として水分に感応する導電性接着剤を用いるため、汗等の血液以外の体液と血液とを区別して、血液成分にのみ感応することが容易ではない。また、特許文献1に記載の漏血センサーは、汗が物理的に接触しにくくなるよう、肌と血液感応部材との間に物理的な障壁を設けている。そのため、漏血の位置によっては漏血の検出感度が低くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-166958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、汗等の血液以外の体液と血液とを区別して血液成分に感応でき、高感度で血液の漏出を検出できる漏血センサーが得られる漏血センサー用シート;前記漏血センサー用シートを備える漏血センサー用部材;および前記漏血センサー用部材を備える漏血センサーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、血液成分に感応するカチオン性重合体の使用によって血液に選択的に、しかも高感度で応答可能な漏血センサー用のシートを提供できることに想到した。特に、汗等の血液以外の体液と血液とを高感度で区別して血液成分に感応できるようにするために、シートの表面のゼータ電位を高くすることで、血液成分、具体的には赤血球の凝集反応を促進させ、負に帯電した赤血球に対する感応性を向上させ得ることに着目した。
具体的には、カチオン性重合体としてブロック共重合体を採用することで、カチオン性のアミノ基および/またはアンモニウム塩基を選択的にポリマー表面に配向させ、シートの表面のゼータ電位を高くすることができる。表面のゼータ電位を高くし、正電荷を増大させることにより、血液成分、具体的には赤血球の凝集反応を促進させることができる。結果、高感度で血液の漏出を選択的に検出できる漏血センサーを提供できる。
【0007】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] アミノ基および/またはアンモニウム塩基を有するブロック共重合体を含むポリマー成分を含有する、漏血センサー用シート。
[2] 下式(1)で算出されるXPS値が、1.0以上である、[1]の漏血センサー用シート。
XPS値=(IN1s/IC1s)×(N1sの原子感度係数/C1sの原子感度係数)×100 式(1)
式中、IN1sは、θ=45°の条件で測定したXPSデータにおけるN1s由来のピークの積分値であり、IC1sは、θ=45°の条件で測定したXPSデータにおけるC1s由来ピークの積分値であり、(N1sの原子感度係数/C1sの原子感度係数)は、(0.477/0.278)である。
[3] 前記ポリマー成分100質量%のうち前記ブロック共重合体の割合が、1~50質量%である、[1]または[2]の漏血センサー用シート。
[4] [1]~[3]のいずれかの漏血センサー用シートを備える、漏血センサー用部材。
[5] [4]の漏血センサー用部材を備える、漏血センサー。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、汗等の血液以外の体液と血液とを区別して血液成分に感応でき、高感度で血液の漏出を検出できる漏血センサーが得られる漏血センサー用シート;前記漏血センサー用シートを備える漏血センサー用部材;および前記漏血センサー用部材を備える漏血センサーが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書における以下の用語の意味は以下の通りである。
「(メタ)アクリル」、「(メタ)アクリレート」は、「アクリルおよび/またはメタクリル」、「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を意味する。例えば「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸および/またはメタクリル酸」を意味する。
「重量平均分子量」とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリスチレン換算またはポリエチレングリコール換算の重量平均分子量(Mw)を意味する。
「数平均分子量」とは、GPCによるポリスチレン換算またはポリエチレングリコール換算の数平均分子量(Mn)を意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0010】
<漏血センサー用シート>
本発明の漏血センサー用シートは、アミノ基および/またはアンモニウム塩基を有するブロック共重合体を含むポリマー成分を含有する。本発明の漏血センサー用シートは、発明の効果を損なわない範囲内であれば、ポリマー成分以外の他の成分をさらに含んでもよい。
【0011】
(ポリマー成分)
ポリマー成分は、漏血センサー用シートに含まれる構成成分のうちポリマーに該当するものの総称である。ここでポリマーとは、1種類または2種以上のモノマー(単量体)が重合する(結合して鎖状や網状になる)ことによって生成する化合物のことをいう。ポリマーとしては、例えば、炭素原子間に重合性の二重結合を有するモノマーが重合した付加重合体、2個以上の官能基を持つモノマーの間で水、アルコール等の簡単な分子の脱離を繰り返しながらモノマーが次々と結合して生成した縮合重合体、環状のモノマーの環が開いて繋がって生成した開環重合体、付加重合と縮合重合を繰り返し繋がって生成した付加縮合重合体がある。
漏血センサー用シートのポリマー成分は、アミノ基および/またはアンモニウム塩基を有するブロック共重合体を含む。また、ポリマー成分は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、アミノ基および/またはアンモニウム塩基を有するブロック共重合体以外のポリマーをさらに含んでもよい。
【0012】
本発明者は、漏血センサー用シートの表面のゼータ電位を高くし、正電荷を増大させるために、カチオン性基を有するブロック共重合体を使用することに想到した。ポリマー分子に複数の重合体セグメントを有するブロック共重合体によれば、カチオン性基を有する重合体セグメントをシート表面に偏在させ、カチオン性基を選択的にシート表面に配向させることができると考えられる。
特定の官能基を分子表面に配向させることができるブロック共重合体としては、例えば、特開2006-117713号公報、特開2008-101045号公報、特開2008-280421号公報に記載のものがある。しかし、これらのブロック共重合体は分子表面に配向する重合体セグメントがカチオン性ではないため、負に帯電した血液中の赤血球成分への感応性が低い。
対して、本発明の漏血センサー用シートにおいては、アミノ基および/またはアンモニウム塩基のカチオン性基を分子表面に配向させることができるブロック共重合体を使用する。このようなブロック共重合体を使用すると、カチオン性の重合体セグメントが分子表面に偏在する。結果、漏血センサー用シートの表面において、アミノ基および/またはアンモニウム塩基が選択的に配向し、シート表面の正のゼータ電位を高くすることができる。したがって、血液成分、具体的には赤血球の凝集反応を促進させることが期待される。
【0013】
漏血センサー用シートの表面のアミノ基および/またはアンモニウム塩基の選択的な配向は、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)によって間接的に測定できる。例えば、下式(1)で算出されるXPS値を測定することで、シート表面のアミノ基および/またはアンモニウム塩基の選択的な配向を評価できる。
【0014】
XPS値=(IN1s/IC1s)×(N1sの原子感度係数/C1sの原子感度係数)×100 式(1)
式中、IN1sは、θ=45°の条件で測定したXPSデータにおけるN1s由来のピークの積分値であり、IC1sは、θ=45°の条件で測定したXPSデータにおけるC1s由来ピークの積分値であり、(N1sの原子感度係数/C1sの原子感度係数)は、(0.477/0.278)である。また、(IN1s/IC1s)×(N1sの原子感度係数/C1sの原子感度係数)の値は、N/Cの原子比である。
【0015】
漏血センサー用シートのXPS値は、1.0以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、3.0以上がさらに好ましく、4.0以上がよりさらに好ましく、5.0以上がよりさらに好ましく、7.0以上がよりさらに好ましく、10.0以上がよりさらに好ましく、11.0以上が最も好ましい。XPS値が前記下限値以上であると、シートの表面におけるカチオン性基、すなわちアミノ基および/またはアンモニウム塩基の存在比が高く、ゼータ電位を高くしやすい。
XPS値の上限値は高いほどよく、特に限定されないが、例えば、20.0以下である。XPS値が前記上限値以下であると、ブロック共重合体を入手しやすい。
【0016】
ブロック共重合体のカチオン電荷量は、1meq/g以上が好ましく、2meq/g以上がより好ましく、3meq/g以上がさらに好ましい。カチオン電荷量の上限は、特に限定されない。例えば、ポリビニルアミン塩酸塩のカチオン電荷量がおよそ12meq/gであることを考慮し、また、ラジカル重合可能なモノマー構造を考慮すれば、カチオン電荷量の上限は、12meq/g程度であると考えられる。ここで、ポリビニルアミン塩酸塩とは、ビニルアミン単位のみからなる重合体であって、そのアミノ基のすべてが塩酸塩化されている重合体である。
ブロック共重合体のカチオン電荷量が前記下限値以上であれば、血液成分に対する感応性が良好となる。前記上限値以下であれば、ブロック共重合体を合成しやすい。
カチオン電荷量は、カチオン性基1つが含まれる重合体の重量に従って決定される。例えば、上述のポリビニルアミン塩酸塩の場合、ビニルアミン塩酸塩モノマー構造一つにカチオン性基一つが存在するため、1eq/81g=12meq/gとなる。
【0017】
アミノ基および/またはアンモニウム塩基を有するブロック共重合体の一例として、下記のブロック共重合体Aが挙げられる。
ブロック共重合体A:
アミノ基および/またはアンモニウム塩基を有する重合体セグメント(1)と;
アミノ基および/またはアンモニウム塩基を有さない重合体セグメント(2)と;
を有するブロック共重合体。
【0018】
重合体セグメント(1)は、アミノ基および/またはアンモニウム塩基を有するモノマー(1)が連続して重合したポリマー鎖である。モノマー(1)はアミノ基および/またはアンモニウム塩基を有するものであれば、特に限定されない。例えば、ブロック共重合体を合成しやすい点でアミノ基および/またはアンモニウム塩基を有する(メタ)アクリル系単量体が好ましい。
【0019】
アンモニウム塩基としては、pHの影響を受けにくいため、-NHRA1A2、-NA1A2A3がより好ましく、pHの影響によらず常に帯電しているため、-NA1A2A3、すなわち、4級アンモニウム塩基がさらに好ましい。4級アンモニウム塩基は、3級アンモニウム塩基を4級化することで形成してもよい。
ここで、RA1 A2、RA3は、それぞれ同一または異なったアルキル基またはアリール基を示す。RA1 A2、RA3としては、炭素数1~6の直鎖または分岐鎖のアルキル基、フェニル基が好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル、n-ブチル基がより好ましく、シート表面のゼータ電位の観点からn-プロピル基、n-ブチル基がさらに好ましく、n-ブチル基が特に好ましい。
【0020】
重合体セグメント(1)のアミノ基および/またはアンモニウム塩基のアンモニウム塩基は、アンモニウム塩基を含むモノマーを重合して導入してもよい。また、アミノ基を含有するモノマーを重合して得た重合体のアミノ基を酸で処理してアンモニウム塩基を導入してもよく、アミノ基を含有するモノマーを重合して得た重合体のアミノ基をアルキル化剤と反応させてアンモニウム塩基を導入してもよい。
【0021】
アンモニウム塩基のカウンターアニオンは、特に限定されない。例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、亜硫酸イオン、アルキル硫酸イオン、硫酸イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、酢酸イオンやギ酸イオン等のカルボン酸イオンが挙げられる。なかでも、4級アミンを4級化する際に用いる4級化剤の反応性の点からヨウ化物イオンが好ましい。
【0022】
モノマー(1)としては、例えば、
(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルオクチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルオクチルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルドデシルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルドデシルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルヘキサデシルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルヘキサデシルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルオクチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルオクチルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルドデシルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルドデシルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルヘキサデシルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルヘキサデシルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルオクチルアンモニムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルオクチルアンモニムブロマイド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルドデシルアンモニムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルドデシルアンモニムブロマイド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルヘキサデシルアンモニムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルヘキサデシルアンモニムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルスルフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルエチルアンモニウムエチルスルフェー卜、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムp-トルエンスルホネート、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムメチルスルフェート、(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチルエチルアンモニウムエチルスルフェー卜、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムp-トルエンスルホネート等の含4級アンモニウム塩基(メタ)アクリル酸エステル誘導体;
N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジ-t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート等のN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクレート;
N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド等の含3級アミノ基(メタ)アクリル酸エステル誘導体;
等が挙げられる。
【0023】
なかでも、重合制御性が高い点で(メタ)アクリロイルオキシエチル基が好ましい。また、アンモニウム塩基の窒素原子結合しているアルキル基の炭素数が多い方がカチオン性基を分子表面に配向させやすく、シート表面のゼータ電位を高くしやすい。
例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルオクチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルオクチルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルドデシルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルドデシルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルヘキサデシルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルヘキサデシルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルオクチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルオクチルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルドデシルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルドデシルアンモニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルヘキサデシルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジエチルヘキサデシルアンモニウムブロマイド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0024】
特に、溶解する溶媒種が多く、かつ、溶媒への溶解度が高いためカチオン性基をブロック共重合体の分子表面に配向させやすく、シート表面のゼータ電位を高くしやすい点では、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましい。上述の例示したモノマーのなかにおいては、溶媒への溶解度が高く、カチオン性基をブロック共重合体の分子表面に配向させやすく、シート表面のゼータ電位を高くする効果が最も高いため、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが最も好ましい。
【0025】
上述のように、重合体セグメント(1)のアミノ基および/またはアンモニウム塩基のアンモニウム塩基は、アミノ基を含有するモノマーを重合して得た重合体のアミノ基を酸で処理してアンモニウム塩基を導入してもよく、アミノ基を含有するモノマーを重合して得た重合体のアミノ基をアルキル化剤と反応させてアンモニウム塩基を導入してもよい。
酸処理に用いる酸としては塩酸、硫酸等の一般的な酸が挙げられる。
アルキル化剤としては、一般的なアルキル化剤であればよく特に限定されないが、R-X(Rは炭素数1~20のアルキル基であり、Xはハロゲン原子)がよく用いられる。Xのハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子がよく用いられる。なかでも反応性の点からヨウ素原子が好ましい。Rのアルキル基に関しては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル、n-ブチル基が好ましく、シート表面のゼータ電位の点からn-プロピル基、n-ブチル基がよりに好ましく、n-ブチル基がさらに好ましい。
【0026】
重合体セグメント(2)は、モノマー(1)以外のモノマー(2)が連続して重合したポリマー鎖である。
モノマー(2)としては、ブロック共重合体においてモノマー(1)のカチオン性基を分子表面に配向させることができるものであれば特に限定されない。
モノマー(2)としては、例えば、スチレン、ビニルナフタレン、α―メチルスチレン、t-ブチルスチレン、p-メチルスチレンo-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-t-ブトキシスチレン、m-t-ブトキシスチレン、p-t-ブトキシスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、4-ビニルビフェニル、1,1-ジフェニルエチレン、ビニルフェノール、安息香酸ビニル、ビニルナフタレン、ベンジルビニルエーテル等のスチレン系モノマー;
エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、i-プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、i-アミル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i-オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、i-デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、i-ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、i-ステアリル(メタ)アクリレート、ベへニル(メタ)アクリレートの(メタ)アクリレートエステル類;
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;
塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;
酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸エステル、イタコン酸エステル等のジカルボン酸エステル誘導体;
ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;
酢酸ビニル、酢酸イソプロペニル等のビニルエステル類等の直鎖状、分岐状構造の脂肪族炭化水素基を有するモノマー;
シクロプロピル(メタ)アクリレート、シクロブチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘプチル(、メタ)アクリレート、シクロオクチル(メタ)アクリレート、シクロノニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート等、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート等、アダマンチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートエステル類;
シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5-シクロオクタジエン、シクロペンタジエン、1,5,9-シクロドデカトリエン、1-クロロ-1,5-シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、5-ノルボルネン-2-カルボン酸メチル、5-ノルボルネン2,3-ジカルボン酸ジメチル等の環状オレフィン類等の環状の脂肪族炭化水素基を有するモノマー;
等が挙げられる。
【0027】
なかでもモノマー(1)との溶解性パラメーターの差異が大きいことからカチオン性基を分子表面に配向させやすく、シート表面のゼータ電位を高くしやすい点より、スチレン系モノマー、(メタ)アクリレートエステル類が好ましい。なかでもスチレン系モノマー、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i-オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、i-デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、i-ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、i-ステアリル(メタ)アクリレート、ベへニル(メタ)アクリレートが好ましく、スチレン系モノマーがより好ましく、スチレンが最も好ましい。
【0028】
ブロック共重合体Aにおいて、重合体セグメント(1)と重合体セグメント(2)は、それぞれ1種単独の重合体セグメントでもよく、2種以上の重合体セグメントでもよい。
ブロック共重合体Aとしては、カチオン性基を分子表面に配向させやすくシート表面のゼータ電位を高くしやすい点より、二元ブロック共重合体、三元ブロック共重合体が好ましく、二元ブロック共重合体がより好ましい。
【0029】
ブロック共重合体Aの重量平均分子量は、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、15,000以上が更に好ましい。また、上限としては1,000,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましく、300,000以下がさらに好ましい。これらの上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。
ブロック共重合体Aの重量平均分子量が前記下限値以上であれば、シート成形性が良好となり、またカチオン性基を分子表面に配向させやすくシート表面のゼータ電位をさらに高くすることができる。前記上限値以下であれば、シート成形プロセスがより簡易となる。
【0030】
ブロック共重合体Aの数平均分子量は、3,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上が更に好ましく、15,000以上が最も好ましい。また、上限としては1,000,000以下が好ましく、500,000以下がより好ましく、300,000以下がさらに好ましい。これらの上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。
ブロック共重合体Aの数平均分子量が前記下限値以上であれば、シート成形性が良好となり、またカチオン性基を分子表面に配向させやすくシート表面のゼータ電位をさらに高くすることができる。前記上限値以下であれば、シート成形プロセスがより簡易となる。
【0031】
ブロック共重合体の合成方法としては特に限定されない。ブロック共重合体は公知の方法で合成できる。例えばマクロモノマーを用いたラジカル重合、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合を含むリビングラジカル重合(可逆的不活性化ラジカル重合)、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合による合成方法が挙げられる。
【0032】
ポリマー成分は、アミノ基および/またはアンモニウム塩基を有するブロック共重合体以外のポリマー(以下「他のポリマー」と記す。)を含んでもよい。
他のポリマーとしては、種々のポリマーを用いることができる。例えば、ポリスチレン系重合体、粘着性を付与するポリマー、軟化剤等が挙げられる。なかでも、カチオン性基を分子表面に配向させやすくシート表面のゼータ電位を上げられる観点より、ポリスチレン系重合体が好ましい。
他のポリマーとしてのポリスチレン系重合体は特に限定されない。ポリスチレン単独重合体、スチレン誘導体と他のビニルモノマーとのランダム共重合体、ブロック共重合体として公知のものはいずれも使用できる。スチレン誘導体としては、スチレン、α―メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、1-ビニルナフタレン、3-エチル-1-ビフェニルナフタレン、p-N,N-ジメチルアミノスチレン等が挙げられる。これらのスチレン誘導体から選ばれる少なくとも1種のモノマーを単独重合または共重合させたポリマー、これらのモノマーと他のビニルモノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0033】
粘着性を付与するポリマーとしては、例えば、ロジン樹脂、テルペン樹脂、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族/芳香族混成石油樹脂、脂環族系石油樹脂が挙げられる。これらの粘着付与樹脂は、水素添加されていてもよい。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
ロジン樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、ロジン変性マレイン酸樹脂、重合ロジン、ロジンフェノール、ロジンエステル、水添ロジンが挙げられる。
【0035】
テルペン樹脂としては、例えば、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂が挙げられる。
テルペン樹脂は、α-ピネン、β-ピネン、およびジペンテン(リモネン)のいずれかを単独で重合、または混合物を共重合したものである。
テルペンフェノール樹脂は、テルペンとフェノールの共重合体であり、例えば、α-ピネンフェノール樹脂、ジペンテンフェノール樹脂、テルペンビスジェノール樹脂が挙げられる。
芳香族変性テルペン樹脂は、テルペンモノマーと芳香族モノマーを共重合したものである。
水添テルペン樹脂は、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂を水素添加したものである。
【0036】
脂肪族系石油樹脂としては、例えば、ピペリレン、イソプレン、2-メチルブテン-2、ジシクロペンタジエン等のC5石油樹脂を単独で重合、または混合物を共重合したものが挙げられる。
【0037】
芳香族系石油樹脂としては、例えば、クマロン樹脂、インデン樹脂、水添クマロン樹脂、水添インデン樹脂、フェノール樹脂、スチレン樹脂、水添スチレン樹脂、キシレン樹脂が挙げられる。
クマロン樹脂は、スチレン、ビニルトルエン、メチルスチレンのいずれかまたは混合物とクマロンとを共重合したものである。
インデン樹脂は、スチレン、ビニルトルエン、メチルスチレンのいずれかまたは混合物とインデンとを共重合したものである。
水添クマロン樹脂は、クマロン樹脂を水素添加したものである。
水添インデン樹脂は、インデン樹脂を水素添加したものである。
フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類を共重合したものである。
スチレン樹脂として、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、スチレン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
スチレン系熱可塑性エラストマーは、ポリスチレンブロックとゴム中間ブロックを有し、ゴム中間ブロックとしては、例えば、ポリブタジエン、エチレン/ブチレン共重合体、エチレン/プロピレン共重合体、ビニルモノマー/イソプレン共重合体が挙げられる。
水添スチレン樹脂は、スチレン樹脂を水素添加したものである。
キシレン樹脂は、m-キシレンとホルムアルデヒドを共重合したものである。
【0038】
脂肪族/芳香族混成石油樹脂は、前記の脂肪族系石油樹脂および芳香族系石油樹脂を混合したものである。
脂環族系石油樹脂としては、例えば、ジシクロペンタジエン樹脂、水添ジシクロペンタジエン樹脂が挙げられる。
ジシクロペンタジエン樹脂は、スチレン、ブタジエン、ペンタジエン、酢酸ビニル、無水マレイン酸、フェノールのいずれかまたは混合物とジシクロペンタジエンとを共重合したものである。水添ジシクロペンタジエン樹脂は、ジシクロペンジエン樹脂を水素添加したものである。
【0039】
粘着付与樹脂のうち、接着性の観点では、ロジン樹脂、テルペン樹脂、脂環式系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族系石油樹脂が好ましく、テルペン樹脂、脂環式系石油樹脂、脂肪族系石油樹脂がより好ましく、脂環式系石油樹脂、脂肪族系石油樹脂がさらに好ましい。
粘着付与樹脂のうち、透明性の観点では、脂環式系石油樹脂、テルペン樹脂、脂肪族系石油樹脂が好ましく、水添脂環式石油樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、脂肪族系石油樹脂がより好ましい。
【0040】
軟化剤としては、例えば、芳香族系、パラフィン系、ナフテン系等の石油系炭化水素;低分子量ポリブテン、ポリイソブチレン、低分子量ポリイソプレン、各種解重合ゴム(液状ゴム)、鉱油(プロセス油)、水素添加された液状ポリイソプレン等の液状ゴムおよびその誘導体;ペトロラクタム;石油系アスファルト類;が挙げられる。
接着性から、低分子量ポリブテンまたはポリイソブチレンを添加することが好ましい。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
ポリマー成分100質量%のうちブロック共重合体の割合は、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。また、上限としては50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。ポリマー成分の全量におけるブロック共重合体の割合が前記下限値以上であると、漏血センサー用シートの表面の正のゼータ電位を高くしやすい。また、血液成分の吸着量も充分に維持しやすい。
ポリマー成分の全量におけるブロック共重合体の割合が前記上限値以下であると、高価なブロック共重合体の使用量を低減でき、漏血センサー用シートを安価に提供しやすい。
【0042】
(他の成分)
漏血センサー用シートは、発明の効果を損なわない範囲内であれば、ポリマー成分以外の他の成分をさらに含んでもよい。
他の成分としては、例えば、腐食防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、着色剤、酸化防止剤、カビ剤、pH調整剤、難燃剤、結晶核剤、導電性粒子、無機粒子、有機粒子、粘度調整剤、滑剤、表面処理剤、レベリング剤、架橋剤、消泡剤が挙げられる。
【0043】
酸化防止剤としては、接着剤、樹脂材料、ゴム材料の分野において通常使用されるものであれば特に制限されない。例えば、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が挙げられる。なかでも、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が好ましく、フェノール系酸化防止剤がより好ましい。
【0044】
漏血センサー用シートにおけるポリマー成分以外の他の成分の含有量は、漏血センサー用シート100質量%に対して、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下がよりさらに好ましく、10質量%以下が特に好ましく、5質量%以下が最も好ましい。下限としては、特に限定されないが、例えば、0.1質量%以上であれば充分であると考えられる。
他の成分の含有量が前記範囲内であれば、血液に対する優れた感応性能を有しながら、他の成分の各機能を発現できる。
【0045】
漏血センサー用シートの厚みの下限としては、好ましくは5μm、より好ましくは10μm、さらに好ましくは30μmである。上限としては、好ましくは500μm、より好ましくは400μm、さらに好ましくは300μm、特に好ましくは100μmである。
血液成分感応部材の厚みが上記下限値以上であれば、シートの耐久性が良好となる傾向にある。上記上限値以下であれば漏血センサーの漏血検出部分が薄くなり、漏血センサーの使用が容易になる傾向にある。
【0046】
漏血センサー用シートは、例えば、ポリマー成分を含む溶液を基材に塗布し、次いで溶媒を乾燥して除去することで生産できる。
塗工方法としては、例えば、ブレードコーティング、キャストコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング等の種々のコーティング法が挙げられる。
基材の種類も特に限定されない。例えば、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、パルプ、ガラス、不織布等の種々の基材が挙げられる。これらのフィルムは、易接着処理を施したものであってもよい。
【0047】
ポリマー成分を含む溶液の溶媒は、特に限定されない。種々の溶媒を使用できる。例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカルボニル化合物;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、イソアミルアルコール、トリフルオロエタノール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類が挙げられる。
【0048】
(作用機序)
以上説明した本発明の漏血センサー用シートは、アミノ基および/またはアンモニウム塩基を有するブロック共重合体を含むポリマー成分を含有する。ブロック共重合体は、アミノ基および/またはアンモニウム塩基を有する重合体セグメントと、これらの官能基を有さない疎水性の重合体セグメントを有する。漏血センサー用シートにおいて、該ブロック共重合体を含有するポリマー成分はアミノ基および/またはアンモニウム塩基がシートの表面に選択的に配向するような表面自由エネルギー的に安定なモルフォロジーをとることで、シート表面の正のゼータ電位の値が高くなる。その結果、漏血センサー用シートが血液成分と接触したとき、血液、具体的には赤血球の凝集反応を促進させることができると考えられる。
したがって、本発明の漏血センサー用シートによれば、血液の凝集を検知することで汗等の血液以外の体液と血液とを区別して血液成分に感応でき、高感度で血液の漏出を検出できる漏血センサーが得られる。
【0049】
<漏血センサー用部材>
本発明の漏血センサー用部材は、上述した本発明の漏血センサー用シートを備える。本発明の漏血センサー用部材は、漏血センサーの生産に使用するための部品として利用され得る。
漏血センサー用部材の一例として、例えば、本発明の漏血センサー用シートと、皮膚への装着のための粘着部とを備えたものが挙げられる。装着部の形態は、皮膚に装着できるものであれば特に限定されない。他にも、本発明の漏血センサー用シートと、皮膚への装着のための粘着層とを備えた積層体が挙げられる。粘着層の成分は、皮膚に装着可能な成分であれば特に限定されない。
【0050】
また、漏血センサー用部材の一例として、電極等の導電体、電波や光の受信機および送信機を漏血センサー用シートおよび装着部と一体的にしたものが挙げられる。この場合、血液成分と感応したときの電気抵抗、インピーダンスの変化や電波、光のような電気信号の変化を検出するための検出部を設けることで漏血センサーとして使用できる。
【0051】
本発明の漏血センサー用部材は、本発明の漏血センサー用シートを備える。そのため、汗等の血液以外の体液と血液とを区別して血液成分に感応でき、高感度で血液の漏出を検出できる漏血センサーが得られる。
本発明の漏血センサー用部材に検知部、装着部等の種々の構成を付加することで高性能の漏血センサーを提供できる。
【0052】
<漏血センサー>
本発明の漏血センサーは、本発明の漏血センサー用部材を備え、漏血センサー用部材は本発明の漏血センサー用シートを備える。漏血センサー用シートが血液成分に感応して血液成分が凝集することで引き起こされる変化を検知することにより、血液の漏出を検出できる。
本発明の漏血センサーの一例は、本発明の漏血センサー用部材と検知部を備える。この場合、漏血センサー用シートが血液成分に感応して血液成分が凝集することで引き起こされる変化を検知部が検知することにより、血液の漏出を検出できる。検知部は、漏血センサー用シートの直流もしくは交流電流に対する抵抗値の変化;または漏血センサー用シートの光学物性値の変化を検知できるものであれば特に限定されない。
【0053】
本発明の漏血センサーは、本発明の漏血センサー用部材、漏血センサー用シートを備えるほかは、検知部を含めて種々の公知の態様を採用できる。
例えば、検知部が血液成分の凝集を漏血センサー用シートの直流抵抗または交流インピーダンスの電気信号の変化で捉える場合、抵抗値、インピーダンス値の変化を検知する電気抵抗式センサー、同様の電気信号を電気容量で捉える静電容量式センサー等が適用できる。
また、検知部が血液成分の凝集を漏血センサー用シートの光学物性値の変化で検知する場合、可視光線、赤外線(近赤外線、中間赤外線、熱赤外線)を用いたセンサーが適用できる。用いる光源としては、例えば、赤色LED(赤外LED、赤色LED);赤色レーザ;青色LED;緑色LED;白色LED;赤色、緑色、青色のLEDを組み合わせたR/G/B3光源;OLED;が適用できる。
【0054】
本発明の漏血センサーが備える漏血センサー用シートで用いられるブロック共重合体は血液と接触することにより血液成分に感応し、血液成分、具体的には赤血球を凝集させる。凝集した赤血球は漏血センサーの検知部により検知され、漏血センサーが血液の漏出を検出する。
凝集した赤血球の検知方法としては、例えば、直流または交流電流に対する抵抗値の変化を検知する方法、ヘモグロビンが青や緑の光を吸収し赤の光を反射する性質を利用した光学物性値の変化(透過率、反射率)を検知する方法、ヘモグロビンが関与する反応を用いて凝集した赤血球を検知する方法が挙げられる。
【0055】
本発明の漏血センサーによれば、汗等の血液以外の体液と血液とを区別して血液成分に感応でき、高感度で血液の漏出を検出できる。また、本発明の漏血センサー用部材から製造できるため、工業的な量産性にも優れる。
例えば、漏血センサー用部材が本発明の漏血センサー用シートと、皮膚への装着のための粘着部とを備えたものである場合、漏血センサー用部材に電極等の導電体、電波や光の受信機および送信機と;血液と感応したときの変化を検出するための検出部とをさらに付加することで漏血センサーとして使用できる。
また、漏血センサー用部材が電極等の導電体、電波や光の受信機および送信機を漏血センサー用シートおよび装着部と一体的にしたものである場合、血液と感応したときの変化を検出するための検出部をさらに付加することで漏血センサーとして使用できる。
【0056】
以下、ヘモグロビンが関与する反応や検知方法を例示する。ただし、ヘモグロビンが関与する反応や検知方法は、以下に限定されるものではなく、ヘモグロビンが関与する反応や検知方法であれば、いかなるものを利用してもよい。
【0057】
ルミノール反応:
ルミノールは、アルカリ性水溶液中でペルオキシダーゼ様活性を有する様々な物質(ヘモグロビン、ヘミン、銅、コバルト、鉄錯体、樹葉等)による触媒作用によって溶液中の過酸化水素と反応して青白い発光を生じる。この発光を光学的手法により検知することができる。
ロイコマラカイトグリーン反応:
無色のロイコマラカイトグリーンが血液中のヘムによって触媒される酸化還元反応により酸化され、青緑色のマラカイトグリーンに変換される。この色の変化を光学的手法により検知することができる。
イムノクロマトグラフィー法:
ヒトヘモグロビンは、赤色金コロイドに吸着された抗ヒトヘモグロビンマウスモノクローナル抗体と結合する。この抗原抗体反応物は、メンブラン上を移動し、メンブランに固定された抗ヒトヘモグロビンマウスモノクローナル抗体に捕捉されて赤いラインを形成する。これを光学的手法で検知することができる。
シアノ化法:
ヘモグロビンがシアン化カリウムに反応するとシアンメトヘモグロビンを生成する。これを光学的手法で比色定量することにより、ヘモグロビン濃度を測定し、検知することができる。
【実施例0058】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。
【0059】
<材料>
(ポリマー成分)
ブロック共重合体1:ポリ(スチレン)-b-ポリ(N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート)P42344-SDMAEMA(Mn×10 S-b-DMAEMA 7.0-b-8.3,Polymer Source.Inc.社の製品、数平均分子量15,300、重量平均分子量15,700、カチオン電荷量:3.1(meq/g))。
ポリスチレン:Polymer Source.Inc.社の製品、重量平均分子量380,000。
【0060】
基材:易接着処理を施したポリエステルフィルム(厚み50μm、東洋紡株式会社製「S4300」)。
【0061】
<実施例1>
重量平均分子量が380,000のポリスチレン(Polymer Source.Inc.製)118mgにCHCl(富士フイルム和光純薬株式会社製(試薬特級))2mLを添加してポリスチレン溶液を調製した。このポリスチレン溶液にブロック共重合体1を30mg添加し、2時間室温で撹拌しながら溶解した。その後、得られた溶液を基材に塗布した後に自然乾燥し、フィルム1を得た。フィルム1について、後述の方法にしたがってXPS値を測定した。
次いで、1mol/L塩酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.1gに蒸留水99.9gを添加した塩酸水溶液にフィルムを浸漬させ、室温で1日静置した。中和後のフィルムを取り出して蒸留水で十分洗浄した後、40℃で6時間真空乾燥を実施し、実施例1のシートを得た。実施例1のシートについて、後述の方法にしたがってゼータ電位、吸着ヘモグロビンを測定した。
【0062】
<実施例2>
フラスコにブロック共重合体1を150mg、アセトニトリル(富士フイルム和光純薬株式会社製(試薬特級))20mlを入れ、CI(東京化成工業株式会社製)3mlをさらに添加し、50℃に加温して24時間攪拌し、4級化反応を実施した。
その後、ヘキサン(富士フイルム和光純薬株式会社製、1級)により再沈殿を行い、さらにヘキサンで抽出を3回行って精製した後、室温で8時間真空乾燥を行い、ブロック共重合体1のアミノ基をC基で4級化したブロック共重合体2を得た。ブロック共重合体2のカチオン電荷量は、2.2(meq/g)であった。
このブロック共重合体2を使用した以外は実施例1と同様にしてフィルム2を作製し、フィルム2から実施例2のシートを得た。フィルム2について、後述の方法にしたがってXPS値を測定した。また、実施例2のシートについて、後述の方法にしたがってゼータ電位、吸着ヘモグロビンを測定した。
【0063】
<実施例3>
Iの代わりに、CI(東京化成工業株式会社製)を使用した以外は実施例2と同様にして、ブロック共重合体1の4級化反応、精製、乾燥を実施し、ブロック共重合体3を得た。ブロック共重合体3のカチオン電荷量は、2.1(meq/g)であった。
このブロック共重合体3を使用した以外は実施例1と同様にしてフィルム3を作製し、フィルム3から実施例3のシートを得た。フィルム3について、後述の方法にしたがってXPS値を測定した。また、実施例3のシートについて、後述の方法にしたがってゼータ電位、吸着ヘモグロビンを測定した。
【0064】
<比較例1>
ポリN-ビニルホルムアミドの部分加水分解物の塩酸塩(三菱ケミカル株式会社製「KP8040」、カチオン電荷量:5.8meq/g)の5%水溶液を基材上にアプリケーターを用いて塗布し、加熱乾燥して比較例1のシートを得た。比較例1のシートについて、後述の方法にしたがってゼータ電位、吸着ヘモグロビンを測定した。
【0065】
<測定方法>
各例において、X線光電子分光、ゼータ電位、吸着ヘモグロビン濃度を測定した。測定方法は以下の通りである。
【0066】
(X線光電子分光:XPS値)
使用装置は、イメージングX線光電子分析装置(KRATOS ULTRA2, SHIMADZU)を使用した。X線源にはアルミニウムを用いて、θ=45°、Emission current:5mA、Resolution:80eVの条件で、電子銃で中和して測定を行った。シート表面に偏析しているアンモニウム塩基を定量比較するため、N1s由来のピークの積分値IN1sとC1s由来ピークの積分値IC1sを算出し、XPS値を下式(1)で算出した。
XPS値=(IN1s/IC1s)×(N1sの原子感度係数/C1sの原子感度係数)×100 式(1)
式中、(N1sの原子感度係数/C1sの原子感度係数)は、(0.477/0.278)を代入した。
【0067】
(ゼータ電位)
ゼータ電位・粒径・分子量測定システム ELSZ-2000ZS(大塚電子製)ゼータ電位平板用セルユニットを用い、25℃におけるシート表面ゼータ電位の測定を行った。
ポリスチレンモニター粒子分散液としては、ポリスチレンモニター粒子分散液(0.5wt%)(大塚電子株式会社製)を10mM NaCl水溶液で200倍希釈した分散液を使用した。
【0068】
(吸着ヘモグロビン)
各例のシートの吸着ヘモグロビンについて、以下の(1)脱繊維血の調製、(2)吸着赤血球溶血液の調製、(3)ヘモグロビン濃度の測定の記載にしたがって評価した。
【0069】
(1)脱繊維血の調製
日本白色種雄ウサギ[北山ラベス株式会社]3匹の耳介動脈から採血し、ガラスビーズを入れた三角フラスコに血液を静かに注入し,穏やかに振り混ぜ、脱繊維血を調製した。
3匹分の脱繊維血を混合し、多項目自動血球分析装置XT-1800i(シスメックス株式会社製)を用いて脱繊維血のヘモグロビン濃度を測定した。ヘモグロビン濃度が10g/dLになるよう生理食塩液で希釈し、吸着赤血球溶血液の調製に用いた。
【0070】
(2)吸着赤血球溶血液の調製
各例のシートを約0.5cm×2.5cm角に切断した。シートのポリマー塗布面に、ヘモグロビン濃度として10g/dLに調製したウサギの脱繊維血20μLを約0.5cm×2.0cm角の範囲に塗布し、脱繊維血を各例のシートに吸着させた。塗布後直ちに生理食塩液20mLを用い、80rpm、10秒間の条件で振とう洗浄を2回行った。洗浄後、注射用水1.5mLに浸漬して超音波処理を2分間行い、表面に吸着した赤血球を溶血させた。その後、860×g、室温、10分間の条件で遠心分離し、上清を1mL得た。この上清を吸着赤血球溶血液とした。また、各例のシートについて脱繊維血を塗布せずに同様の操作を実施して得られた上清をブランクとして用意した。
【0071】
(3)ヘモグロビン濃度の測定(シアンメトヘモグロビン法)
各例の吸着赤血球溶血液500μLにDrabkin試薬500μLを混合し、分光光度計を用いて540nmにおける吸光度を測定した。各例のブランクについても同様にして540nmにおける吸光度を測定した。また、ヘモグロビン標準液を用いて検量線を作成し、吸着ヘモグロビン濃度(mg/mL)を求めた。比較例1のシート4についてのヘモグロビン濃度を1として規格化した値を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
実施例1~3のシートは比較例1のシートと比較してゼータ電位が高くなった。また、XPS値の値からシートの表面におけるアンモニウム塩基の存在比が高いことを確認できる。そして、各実施例のシートでは、吸着ヘモグロビン量も充分に維持された。これらのことから、実施例1~3のシートを漏血センサーに適用することで、汗等の血液以外の体液と血液とを区別して血液成分に感応でき、高感度で血液の漏出を検出できると考えられる。