(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058263
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】無線管理方法、及び無線システム
(51)【国際特許分類】
H04W 16/14 20090101AFI20230418BHJP
H04W 24/02 20090101ALI20230418BHJP
H04W 84/12 20090101ALI20230418BHJP
【FI】
H04W16/14
H04W24/02
H04W84/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168173
(22)【出願日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 笑子
(72)【発明者】
【氏名】井上 保彦
(72)【発明者】
【氏名】淺井 裕介
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 泰司
(72)【発明者】
【氏名】森川 博之
(72)【発明者】
【氏名】成末 義哲
(72)【発明者】
【氏名】生形 貴
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA03
5K067BB27
5K067EE02
5K067JJ03
5K067JJ38
(57)【要約】
【課題】共通の周波数帯を使用する複数の無線装置の無線信号の共存によって周波数の有効利用を可能にした無線管理方法及び無線システムを提供する。
【解決手段】少なくとも無線装置の位置情報に基づいて無線装置の無線信号によって影響を受ける影響エリアを特定する。複数の周辺無線装置のうち影響エリアにおいて無線装置からの干渉を受ける被干渉端末の無線信号を監視し、その監視結果に基づいて被干渉端末との干渉が生じない非干渉帯域の有無を判定する。非干渉帯域が存在する場合、無線装置に非干渉帯域を使用させる。一方非干渉帯域が存在しない場合、監視結果に基づいて被干渉端末への影響が低い低影響帯域を特定し、無線装置に低影響帯域を使用させる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の周辺無線装置と共通の周波数帯を使用する無線装置を管理する無線管理方法であって、
少なくとも前記無線装置の位置情報に基づいて前記無線装置の無線信号によって影響を受ける影響エリアを特定することと、
前記複数の周辺無線装置のうち前記影響エリアにおいて前記無線装置からの干渉を受ける被干渉端末の無線信号を監視することと、
前記被干渉端末の無線信号を監視することで得られた監視結果に基づいて前記被干渉端末との干渉が生じない非干渉帯域が存在するか判定することと、
前記非干渉帯域が存在する場合、前記無線装置に前記非干渉帯域を使用させることと、
前記非干渉帯域が存在しない場合、前記監視結果に基づいて前記被干渉端末への影響が低い低影響帯域を特定し、前記無線装置に前記低影響帯域を使用させることと、を含む
ことを特徴とする無線管理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の無線管理方法において、
前記被干渉端末の無線信号を監視することは、前記影響エリア内に配置された複数の監視端末を用いて監視することを含み、
前記監視結果は、前記複数の監視端末で取得された周辺の無線通信環境情報を含む
ことを特徴とする無線管理方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の無線管理方法において、
前記影響エリアを特定することは、前記無線装置の前記位置情報と、前記無線装置の送信電力、アンテナ特性、及び伝搬モデルとに基づいて前記影響エリアを特定することを含む
ことを特徴とする無線管理方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の無線管理方法において、
前記低影響帯域を特定することは、前記被干渉端末の無線信号を復調して再送率を計算し、前記無線装置による前記低影響帯域を用いた無線通信の前後での前記再送率の変化に基づいて前記低影響帯域を更新することを含む
ことを特徴とする無線管理方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の無線管理方法において、
前記低影響帯域での前記被干渉端末への影響を抑制するように、前記監視結果に基づいて前記無線装置の無線信号の中心周波数、送信電力、送信頻度、及び送信波形の少なくとも1つを制御すること、をさらに含む
ことを特徴とする無線管理方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の無線管理方法において、
前記低影響帯域を特定することは、前記被干渉端末のうち優先的な保護が求められる保護端末の使用帯域を前記低影響帯域から除外することを含む
ことを特徴とする無線管理方法。
【請求項7】
請求項6に記載の無線管理方法において、
前記被干渉端末の無線信号を監視することは、前記保護端末から定期的に送信される保護を求める無線信号を受信することを含む
ことを特徴とする無線管理方法。
【請求項8】
複数の周辺無線装置と共通の周波数帯を使用する無線装置を管理する無線システムであって、
少なくとも1つの制御プログラムを記憶した少なくとも1つのメモリと、
前記少なくとも1つのメモリと結合された少なくとも1つのプロセッサと、を備え、
前記少なくとも1つの制御プログラムは、前記少なくとも1つのプロセッサに、
少なくとも前記無線装置の位置情報に基づいて前記無線装置の無線信号によって影響を受ける影響エリアを特定することと、
前記複数の周辺無線装置のうち前記影響エリアにおいて前記無線装置からの干渉を受ける被干渉端末の無線信号を監視することと、
前記被干渉端末の無線信号を監視することで得られた監視結果に基づいて前記被干渉端末との干渉が生じない非干渉帯域が存在するか判定することと、
前記非干渉帯域が存在する場合、前記無線装置に前記非干渉帯域を使用させることと、
前記非干渉帯域が存在しない場合、前記監視結果に基づいて前記被干渉端末への影響が低い低影響帯域を特定し、前記無線装置に前記低影響帯域を使用させることと、を実行させるように構成された
ことを特徴とする無線システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無線管理方法、及び無線システムに関し、特に、複数の周辺無線装置と共通の周波数帯を使用する無線装置を管理する無線管理方法、及び無線システムに関する。
【背景技術】
【0002】
基地局および端末により構成される無線システムが知られている。無線システムの代表的な例として、公衆用途の無線LAN(Local area network)が挙げられる。公衆用途の無線LANでは、例えば、基地局から公衆のコンピュータ端末或いはスマートフォン端末に対してデータを送信するユースケースが想定される。これに対し、近年、産業用途の無線LANが登場している。産業用途の無線LANでは、例えば、IoT(Internet of things)端末で測定されたデータを基地局に送信するユースケースが想定される。
【0003】
IoT向けに使用されている1GHz以下の周波数帯(S1G(Sub 1 GHz)帯)では複数の無線システムが混在している。WPT(Wireless Power Transfer)を含む920MHz帯のパッシブタグシステムはその1つである。パッシブタグシステムはキャリアセンスを実施することなく信号の送信を開始することが可能である。これは現在のところ免許局であり、周波数帯も分けられているが、将来的にはさらにユースケースを広げることが目指されている。例えば、屋外でのセンサ利用や点検・見守りなどのセンサ利用への応用が検討されている。しかし、そのためには人体回避や他の無線通信との共存が不可欠となる。また、デジタルMCAの跡地となる周波数帯(845~660MHz及び928~940MHz)では、空中線出力1Wのパッシブタグシステムと他のLPWA(Low Power Wide Area-network)との共存が検討されている。
【0004】
周波数帯が共通する複数の無線システムのより広いユースケースでの共存を実現する場合、キャリアセンスなどの基本的な共存方法は必須である。しかし、周波数の有効利用のためにはより効率的な共存方法が必要になる。特に、EIRP(Equivalent Isotropically Radiated Power)が大きいパッシブタグシステムは干渉範囲が広いため、互いに影響を及ぼさない方法で利用される手法が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ARIB STD-T108 1.3版, 「920MHz帯テレメータ用、テレコントロール用およびデータ伝送用無線設備 標準規格」, 2019年4月12日
【非特許文献2】IEEE Std 802.11ah TM-2016 (IEEE Standard for Information technology - Telecommunications and information exchange between systems Local and metropolitan area networks - Specific requirements, Part 11: Wireless LAN Medium Access Control (MAC) and Physical Layer (PHY) Specifications, Amendment 2: Sub 1 GHz License Exempt Operation, IEEE Computer Society, 7 December 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上記事情に着目してなされたもので、共通の周波数を使用する複数の無線装置の無線信号の共存によって周波数の有効利用を可能にした技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、上記目的を達成するための無線管理方法を提供する。本開示の無線管理方法は、複数の周辺無線装置と共通の周波数帯を使用する無線装置を管理する方法である。本開示の無線管理方法は少なくとも以下のステップを含む。
【0008】
本開示の無線管理方法が含む第1のステップは、少なくとも無線装置の位置情報に基づいて無線装置の無線信号によって影響を受ける影響エリアを特定することである。第2のステップは、複数の周辺無線装置のうち影響エリアにおいて無線装置からの干渉を受ける被干渉端末の無線信号を監視することである。第3のステップは、被干渉端末の無線信号を監視することで得られた監視結果に基づいて前記被干渉端末との干渉が生じない非干渉帯域が存在するか判定することである。第4のステップは、非干渉帯域が存在する場合、無線装置に非干渉帯域を使用させることである。そして、第5のステップは、非干渉帯域が存在しない場合、被干渉端末の無線信号を監視することで得られた監視結果に基づいて被干渉端末への影響が低い低影響帯域を特定し、無線装置に低影響帯域を使用させることである。
【0009】
本開示は、上記目的を達成するための無線システムを提供する。本開示の無線システムは、複数の周辺無線装置と共通の周波数帯を使用する無線装置を管理するシステムである。本開示の無線システムは、少なくとも1つの制御プログラムを記憶した少なくとも1つのメモリと、上記少なくとも1つのメモリと結合された少なくとも1つのプロセッサとを備える。上記少なくとも1つの制御プログラムは、上記少なくとも1つのプロセッサに、少なくとも以下の処理を実行させるように構成されている。
【0010】
上記少なくとも1つの制御プログラムが上記少なくとも1つのプロセッサに実行させる第1の処理は、少なくとも無線装置の位置情報に基づいて無線装置の無線信号によって影響を受ける影響エリアを特定することである。第2の処理は、複数の周辺無線装置のうち影響エリアにおいて無線装置からの干渉を受ける被干渉端末の無線信号を監視することである。第3の処理は、被干渉端末の無線信号を監視することで得られた監視結果に基づいて被干渉端末との干渉が生じない非干渉帯域が存在するか判定することである。第4の処理は、非干渉帯域が存在する場合、無線装置に非干渉帯域を使用させることである。そして、第5の処理は、非干渉帯域が存在しない場合、被干渉端末の無線信号を監視することで得られた監視結果に基づいて被干渉端末への影響が低い低影響帯域を特定し、無線装置に低影響帯域を使用させることである。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る無線管理方法、及び無線システムによれば、共通の周波数帯を使用する複数の無線装置の無線信号の共存によって周波数の有効利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の実施形態に係る無線システムの構成の例を示す図である。
【
図2】
図1に示す無線システムを構成する送信端末の構成の例を示す図である。
【
図3】
図1に示す無線システムを構成する監視端末の構成の例を示す図である。
【
図4】
図1に示す無線システムを構成する制御端末の構成の例を示す図である。
【
図5】本開示の実施形態に係る無線管理方法の手順を示すフローチャートである。
【
図6】無線環境情報の取得対象となる監視端末の判定方法について説明する図である。
【
図7】低影響帯域の選択のためのチャネルの数値評価の計算手順を示すフローチャートである。
【
図8】無線LANのOFDM信号への影響を最小限にとどめるCW信号の配置について説明する図である。
【
図9】本開示の実施形態に係る無線システムの構成の第1変形例を示す図である。
【
図10】
図9に示す無線システムを構成する制御プログラムを含む送信端末の構成の例を示す図である。
【
図11】本開示の実施形態に係る無線システムの構成の第2変形例を示す図である。
【
図12】本開示の実施形態に係る無線システムの構成の第2変形例を示す図である。
【
図13】
図12に示す無線システムを構成する監視機能及び制御プログラムを含む送信端末の構成の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本開示の無線管理方法及び無線システムの実施形態について説明する。
【0014】
1.本開示の実施形態に係る無線システム
図1は、本開示の実施形態に係る無線システムの構成の例を示す。
図1に示す無線システム10は無線信号を送受信する送信端末20と受信端末60とを備える。送信端末20と受信端末60とは無線装置を構成する。本実施形態に係る無線装置は無線信号で情報を通知する機能及び無線信号によって給電する機能の両方またはいずれか一方を備えている装置である。送信端末20はパッシブ端末でもよいし、11ahのようなアクティブ端末でもよい。
【0015】
無線システム10は少なくとも1つの制御装置30と複数の監視端末40とを備える。制御装置30及び監視端末40は送信端末20とともにネットワーク50に接続されている。ネットワーク50は有線でもよいし無線でもよい。
【0016】
複数の監視端末40のそれぞれは周辺に存在する外部通信装置70の無線通信を監視し、その監視結果から監視端末40の周辺の無線通信環境情報を収集する。外部通信装置70は送信端末20と共通の周波数帯を使用して無線通信を行う周辺無線装置である。ある外部通信装置70がある監視端末40の監視の対象となるかどうかは、両者の位置関係や外部通信装置70の通信状況に依存する。監視端末40は収集した無線通信環境情報をネットワーク50経由で制御装置30に送信する。
【0017】
制御装置30は監視端末40から送信された無線通信環境情報に基づいて送信端末20に対する制御情報を作成する。ただし、必ずしも全ての監視端末40からの無線通信環境情報が制御情報に反映されるわけではない。制御装置30は、複数の監視端末40の中から送信端末20との間で後述の関係を有する監視端末40を選択する。そして、選択した監視端末40から取得した無線通信環境情報に基づき当該送信端末20に通知する制御情報を作成する。
【0018】
制御装置30は作成した制御情報をネットワーク50経由で送信端末20に通知する。ただし、制御装置30から送信端末20への制御情報の通知に用いられるネットワークは、監視端末40と制御装置30とが接続されているネットワークと同じでもよいし異なってもよい。送信端末20は制御装置30から通知された制御情報に従って無線信号を送信する。
【0019】
図2は送信端末20の構成の例を示す図である。送信端末20はプロセッサを含む制御回路201、有線通信を行うための有線通信モジュール202、無線通信を行うための無線通信モジュール203、自己位置を推定するためのGPS204、及び制御回路201の動作を監視するためのタイマ205を備えている。送信端末20は有線通信モジュール202又は無線通信モジュール203を用いて制御装置30と通信し、GPS情報や設定情報を制御装置30に送信するとともに、制御情報を制御装置30から受信する。また、送信端末20は無線通信モジュール203を用いて受信端末60と無線通信する。
【0020】
図3は監視端末40の構成の例を示す図である。監視端末40はプロセッサを含む制御回路401、有線通信を行うための有線通信モジュール402、無線通信を行うための無線通信モジュール403、自己位置を推定するためのGPS404、及び制御回路401の動作を監視するためのタイマ405を備えている。監視端末40は無線通信モジュール403を用いて周辺に存在する外部通信装置70の無線信号を監視し、監視結果から得られた無線通信環境情報を有線通信モジュール202又は無線通信モジュール203を用いて制御装置30に送信する。
【0021】
図4は制御装置30の構成の例を示す図である。制御装置30はプロセッサを含む制御回路301、有線通信を行うための有線通信モジュール302、無線通信を行うための無線通信モジュール303、メモリ305、及び記憶媒体306aを含むドライブ306を備えている。さらに、制御装置30はユーザが設定情報を入力することができるユーザインタフェース304と、制御回路301の動作を監視するためのタイマ307とを備えている。
【0022】
メモリ305は制御プログラム305aと管理情報305bとを記憶する。制御プログラム305aは本開示の実施形態に係る無線管理方法を実施するためのプログラムである。管理情報305bは制御プログラム305aの実行時に使用される情報である。記憶媒体306aは監視端末30から送信される無線通信環境情報と、送信端末20から送信されるGPS情報及び設定情報とを含む種々の情報を記憶する。また、記憶媒体306aは制御プログラム305aの記憶にも用いられる。なお、制御プログラム305aはネットワークを介して提供されてもよい。
【0023】
2.本開示の実施形態に係る無線管理方法
本開示の実施形態に係る無線管理方法は、制御装置30において制御回路301により制御プログラム305aが実行されることによって実施される。制御装置30が複数の送信端末20を制御する場合、制御プログラム305aは送信端末20ごとに実行される。また、無線環境は外部通信装置70を含む無線装置の動静や伝搬環境およびトラヒック負荷に依存して時々刻々と変化する。このことを考慮して制御プログラム305aは一定時間ごとに実行されてその度に制御内容が更新される。一定時間後に再度情報を収集して制御値を検討することでフィードバック制御が可能となる。また、機械学習で制御する場合は制御ステップを増やしていくことによって、より精度の高い制御が実現可能となる。
【0024】
図5は、本実施形態に係る無線管理方法の手順を示すフローチャートである。このフローチャートは制御プログラム305aの制御フローを表してもいる。ゆえに、各ステップの処理の主体は制御プログラム305a或いは制御プログラム305aに従って動作する制御装置30である。以下、フローチャートに沿って本実施形態に係る無線管理方法の手順を説明する。
【0025】
まず、ステップS1では、送信端末20が無線信号を送信した場合に影響する範囲を確認するため、GPS情報や設定情報など位置を特定できる情報元から送信端末20の位置情報を取得する。
【0026】
次に、ステップS2では、送信端末20による無線信号の送信によって影響を受ける影響エリアを特定する。影響エリアの特定には、送信端末20の位置情報に加え、送信端末20の送信電力及び送信電力密度、送信端末20のアンテナの指向性特性、アンテナが向けられている方角、伝搬モデルなどの情報を用いる。影響エリアにおいて送信端末20からの干渉を受ける外部通信装置70を被干渉端末と呼ぶ。より詳しくは、影響エリア内の監視端末40により観測される外部通信装置70のうち、閾値以上の電力強度で観測される外部通信装置70を被干渉端末と判定する。なお、判定は電力強度ではなく単位周波数帯毎の電力密度でもよい。
【0027】
ステップS2では、送信端末20からの距離や干渉電力(被干渉端末から観測されると推測できる干渉電力)に応じて影響エリアに区分を設けてもよい。影響エリアの区分は、後に送信端末20が無線信号を送信する帯域を選択する際に利用することができる。詳しくは、被干渉端末の位置情報から確認できる干渉源からの距離が遠いと判定される場合や干渉電力が小さいと判定される場合、帯域を優先的に選択する判断材料となる。
【0028】
ステップS3では、影響エリアが特定されたことを受けて、影響エリア内に配置されている監視端末40からその周辺の無線通信環境情報を取得する。ここで、無線通信環境情報の取得対象となる監視端末40の判定方法について
図6を用いて説明する。
図6には送信端末20とその影響エリアAA、及び送信端末20の周囲に配置された複数の監視端末40A~40Hが描かれている。影響エリアAAは送信端末20の送信電力とアンテナパターン及び無線環境の伝搬モデルから導出され、それらのパラメータによって広さや形状が変化する。例えば、送信端末20の送信電力を制御して小さくすると影響エリアAAも小さくなる。
【0029】
影響エリアAAの広がる方向は送信端末20のアンテナパターンに依存する。
図6に示す例では、影響エリアAAは紙面の右方向に広がり、監視端末40C~40Fは影響エリアAAに含まれている。このため、監視端末40C~40Fは情報の取得対象となる。送信端末20から遠く離れた監視端末40G,40Hは影響エリアAA外であるため、これらは情報の取得対象とならない。監視端末40A,40Bは送信端末20の近くに位置しているが、影響エリアAAの広がりのパターンより影響エリアAAの外と判定されるため、これらも情報の取得対象とならない。
【0030】
再び
図5に戻ってステップS3の説明を続ける。監視端末40が影響エリア内かどうかの判定には監視端末40の位置情報を用いる。監視端末40には送信端末20と同様にGPS404が具備されているので、GPS404で取得された位置情報を制御装置30に送信する。GPSの具備が難しい端末の場合、例えば、記憶媒体やメモリの管理情報に登録した位置の設定情報から監視端末40の位置情報を取得してもよい。
【0031】
ステップS3で監視端末40から取得される無線通信環境情報は監視端末40から観測される周辺の外部通信装置70が使用する周波数帯や受信電力である。外部通信装置70が無線信号の復調が可能な特定の無線装置、例えば、無線LAN端末の場合、使用されている帯域や干渉電力に加え無線LANセルを識別するSSID(Service Set Identifier)を取得する。さらに、外部通信装置70が無線LAN端末の場合、ACK(ACKnowledgement)及びNACK(Negative-ACKnowledgement)情報、過去一定時間内の無線LANの送信頻度及びトラヒック情報、主に利用されているMCS(Modulation and Coding Scheme)、再送フレームの割合などの情報を取得する。なお、再送フレームの割合は無線LANのデータフレーム内に存在するRetryビットが1となっている割合と定義される。
【0032】
次に、ステップS4では、ステップS3で取得された使用帯域、干渉電力、及びSSIDから、送信端末20が無線信号を送信することで周辺の外部通信装置70、すなわち、被干渉端末に影響が及ぶと推察される周波数帯域と影響が及ばないと推察される周波数帯域とを判定する。以下、被干渉端末に影響が及ぶと推察される周波数帯域を干渉帯域と呼び、被干渉端末に影響が及ばないと推察される周波数帯を非干渉帯域と呼ぶ。干渉帯域か非干渉帯域かどうかは、監視している無線信号の周波数帯の規則や標準に応じて単位周波数帯毎に判定する。ステップS4では、送信端末20が利用する予定の周波数幅が連続して確保できる周波数帯域が非干渉帯域の中に存在するかを判定する。
【0033】
ステップS4で非干渉帯域が存在すると判定された場合、無線管理方法の手順はステップS5に進み、ステップS5で終了する。ステップS5では、非干渉帯域の中で送信端末20が利用する周波数帯域を選択する。つまり、非干渉帯域が存在する場合は送信端末20に非干渉帯域を用いて無線信号を送信する。
【0034】
ステップS4で非干渉帯域が存在しないと判定された場合、送信端末20が利用する周波数帯域を干渉帯域から選択する必要が生じる。この場合、無線管理方法の手順はステップS6に進む。ステップS6では、保護端末が送信端末20の影響エリアに存在しているか確認する。保護端末とは外部通信装置70のうち無線通信の優先的な保護が求められる端末であり、制御プログラム305aの管理情報305bで登録されている。保護端末の位置情報は保護端末に具備されたGPSで取得してもよいし、記憶媒体やメモリの管理情報に登録した位置の設定情報から取得してもよい。または、監視端末40から取得されたSSIDを基に保護端末の位置を判定してもよい。
【0035】
なお、保護装置としての保護を求める外部通信装置70はその存在を監視端末40に把握してもらう必要がある。このため、保護を求める外部通信装置70は、通信データがない場合でも定期的な無線信号の送信を実施する。送信端末20と同様に外部通信装置70が制御装置30に接続されているならば、制御プログラム305aから外部通信装置70に対して通知が行われ、その通知を受けて保護を求める外部通信装置70は定期的な無線信号の送信を実施する。
【0036】
例えば、保護を求める外部通信装置70が無線LANのAP(Access Point)であれば、APは一般的に100m秒に一度の頻度でビーコンフレームを送信しているため、これを活用することができる。ただし、この送信頻度では不足の場合や、保護を求める外部通信装置70がAPではない無線LAN端末の場合、ダミーの無線信号を送信する必要がある。例えば、CTS-to-self(clear to send to self)などの自端末向けの信号を送信してもよいし、一定時間ごとにAPに対してデータフレームを送信してもよい。
【0037】
ステップS6で保護端末が影響エリア内に存在しないと判定された場合、無線管理方法の手順はステップS8に進む。一方、ステップS6で保護端末が影響エリア内に存在すると判定された場合、無線管理方法の手順はステップS7を経てステップS8に進む。ステップS7では、保護端末の使用帯域を選択可能な周波数帯域から削除する。ただし、その削除の結果、選択可能な周波数帯域がなくなってしまう場合、保護端末の使用帯域を選択可能な周波数帯として残しておく。
【0038】
ステップS8では、ステップS3で得られた情報に基づき送信端末20が無線信号を送信した際の影響を数値で評価する。そして、その数値評価の結果、影響が小さいと考えられる低影響帯域を送信端末20に無線信号を送信させる周波数帯域として選択する。または、ステップS3で得られた情報を入力として機械学習を行い、機械学習の結果から低影響帯域と判定される周波数帯域を選択する。
【0039】
数値評価に基づいて低影響帯域を選択する1つの具体的な方法は
図7に示される。
図7は、低影響帯域の選択のためのチャネルの数値評価の計算手順を示すフローチャートである。このフローチャートによれば、まず、ステップS81において、送信端末20と被干渉端末との距離d3を計算する。監視端末40と送信端末20との距離d1と、監視端末40と被干渉端末との距離d2とを用いて、距離d3は式“d3=|d1-d2|”で計算することができる。なお、距離d1はGPS情報或いは推定情報から計算することができる。距離d2はRSSI(Received Signal Strength Indicator)と被干渉端末の想定送信電力と伝搬モデルとから計算することができる。
【0040】
次に、ステップS82では、送信端末20と被干渉端末との距離d3、送信電力、アンテナ特性から、送信端末20の無線信号が被干渉端末のキャリアセンスで検出される受信強度となるかどうか判定する。ステップS82の判定結果が肯定の場合、数値評価の計算手順はステップS83に進み、ステップS82の判定結果が否定の場合、数値評価の計算手順はステップS84に進む。
【0041】
ステップS83では、トラヒック量の予測値又は設定値に基づき送信端末20からの無線信号で被干渉端末の信号の送信ができなくなる確率Rを概算する。一方、ステップS84では、送信端末20と被干渉端末とから同時に送信した場合の送信端末20と被干渉端末の受信電力比を概算する。そして、受信電力比に基づいてパケットエラーレートを算出し、パケットエラーレートからスループット低下率R’を概算する。
【0042】
最後に、ステップS85では、ステップS83で概算された確率R又はステップS84で概算されたスループット低下率R’をチャネルの評価値として設定する。確率Rもスループット低下率R’も被干渉端末の劣化割合を示す数値であるため、チャネルの数値評価の結果、評価値が最も小さいチャネルが低影響帯域として選択されることになる。被干渉端末が複数存在する場合は、評価値の合算による総合評価によってチャネルの数値評価を行えばよい。
【0043】
再び
図5に戻って次にステップS9を説明する。ステップS9では、ステップS8で選択された周波数帯域を使用する際の干渉対策を決定する。干渉対策としては、送信端末20の無線信号が被干渉端末と干渉したとしても影響が少なくなるように、選択した周波数帯域の中で電波法令や標準から外れない範囲で中心周波数を選択する方法がある。或いは、送信電力を小さくする方法や、送信する頻度を送信端末が設定できる範囲で小さくする方法もまた干渉対策としては有効である。ステップS9では、決定された干渉対策を施しながら送信端末20による無線信号の送信を開始する。
【0044】
被干渉端末が無線LAN端末である場合の干渉対策の具体例について
図8を用いて説明する。無線LANはOFDM信号を使用しているため複数のサブチャネルが存在している。その一方で、送信端末20の無線信号がWPT信号のような復調もない連続波(CW:Continuous Wave)である場合、そのスペクトルはOFDM信号やサブチャネルに対して非常に狭くなる。また、OFDM信号の中心周波数付近は局部発信機のDC成分に相当し、D/A、A/D変換のオフセットを考慮してサブキャリアが配置されていないヌルサブキャリアとなっている。よって、送信端末20のCW信号をヌルサブキャリア内やガードバンド内に配置することで無線LANへの影響を最小限に止めることができる。なお、OFDM信号の信号強度を制御しようとするとOFDM信号はPAPRのひずみからPERが悪化してしまう。また、CW信号の信号強度を制御しようとするとCW信号は波形が広がってしまう。このことからも、送信電力の制御だけに頼らずに中心周波数や送信波形を併せて制御することが好ましい。
【0045】
3.その他の実施形態
上記実施形態は、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々に変形して実施することができる。すなわち、上記実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲などの数に言及されている場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る技術が限定されるものではない。また、上記実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る技術に必ずしも必須のものではない。
【0046】
例えば、上記実施形態に係る無線システムの構成は以下のように変形することができる。
図9は、上記実施形態に係る無線システムの構成の第1変形例を示す図である。
図9に示す第1変形例の無線システム11では、送信端末21が制御プログラムを含んでいる。つまり、送信端末21は
図1における送信端末20に制御装置30の機能を組み込んだものに相当する。
【0047】
図10は、
図9に示す送信端末21の構成の例を示す図である。送信端末21はプロセッサを含む制御回路211、有線通信モジュール212、無線通信モジュール213、ユーザインタフェース214、GPS215、及びタイマ216を備えている。さらに、送信端末21はメモリ217と記憶媒体218aを含むドライブ218とを備えている。
【0048】
メモリ217は制御プログラム217aと管理情報217bとを記憶する。制御プログラム217aは上記実施形態に係る無線管理方法を実施するためのプログラムである。管理情報217bは制御プログラム217aの実行時に使用される情報である。記憶媒体218aは監視端末30から送信される無線通信環境情報を含む種々の情報を記憶する。また、記憶媒体218aは制御プログラム217aの記憶にも用いられる。なお、制御プログラム217aはネットワークを介して提供されてもよい。
【0049】
図11は、上記実施形態に係る無線システムの構成の第2変形例を示す図である。
図11に示す第2変形例の無線システム12では、送信端末22が監視機能を含んでいる。つまり、送信端末22は
図1における送信端末20に監視端末40の機能を組み込んだものに相当する。監視機能付きの送信端末22は周辺の無線通信環境情報を収集し、ネットワーク50を通じて制御装置30に送信する。制御装置30は収集された無線通信環境情報に基づき作成した制御情報を送信端末22に通知する。
【0050】
図12は、上記実施形態に係る無線システムの構成の第3変形例を示す図である。
図12に示す第3変形例の無線システム12では、送信端末23が監視機能と制御プログラムとを含んでいる。つまり、送信端末23は
図1における送信端末20に監視端末40の機能と制御装置30の機能とを組み込んだものに相当する。
図12に示す構成によれば、送信端末23は他のネットワークと接続されずに単独で周辺の無線通信環境情報を収集し、収集した情報に基づいて送信端末23自身で無線信号の送信を制御することができる。
【0051】
図13は、
図12に示す送信端末23の構成の例を示す図である。送信端末23はプロセッサを含む制御回路231、有線通信モジュール232、無線通信モジュール233、ユーザインタフェース234、GPS235、及びタイマ236を備えている。さらに、送信端末23はメモリ237と記憶媒体238aを含むドライブ238とを備えている。送信端末23は無線通信モジュール233を用いて周辺に存在する外部通信装置70の無線信号を監視し、監視結果から得られた周辺の無線通信環境情報を記憶媒体238aに記憶する。
【0052】
メモリ237は制御プログラム237aと管理情報237bとを記憶する。制御プログラム237aは上記実施形態に係る無線管理方法を実施するためのプログラムである。管理情報237bは制御プログラム237aの実行時に使用される情報である。記憶媒体238aは周辺の無線通信環境情報を含む種々の情報の記憶の他、制御プログラム237aの記憶にも用いられる。なお、制御プログラム237aはネットワークを介して提供されてもよい。
【0053】
上記実施形態に係る無線管理方法は変形して実施することができる。例えば、
図5に示す無線管理方法の手順を繰り返し実行する場合、既に送信された無線信号の影響を踏まえてステップS9の干渉対策を変更してもよい。
【0054】
例えば、被干渉端末の通信を監視端末40が復調できる場合、各データフレームに対して所定時間後に送信されるはずのACKの数またはNACKの数を測定し、データフレームの数と比較して再送率を特定する。そして、監視端末40が観測している期間中に既に送信端末20が無線信号を送信している場合、送信端末20の無線信号の送信によって被干渉端末の再送率が悪化しているか否かを判定する。再送率が悪化しているか否かは送信端末20による無線信号の送信の前後で数値を比較することで判定することができる。その他、事前に被干渉端末のデータとして保持している再送率との比較で判定することもできる。
【0055】
再送率が悪化していると判定された場合でも、ステップS8で同じ周波数帯域が選択されることはあり得る。その場合、ステップS9では、干渉が許容範囲に収まるまで、又は設定できる最小電力値まで送信電力を低下させるなどの対策を実行する。或いは、公平性を考慮した電力計算や影響が十分に小さいと判定される電力計算を実施することによって干渉を抑えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10,11,12,13 無線システム
20 送信端末
21 送信端末(制御プログラムを含む送信端末)
22 送信端末(監視機能を含む送信端末)
23 送信端末(監視機能及び制御プログラムを含む送信端末)
30 制御装置
40 監視端末
50 ネットワーク
60 受信端末
70 外部通信装置