(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066113
(43)【公開日】2023-05-15
(54)【発明の名称】光電変換素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20230508BHJP
H05B 33/14 20060101ALI20230508BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20230508BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20230508BHJP
【FI】
H01L31/04 112Z
H01L31/04 152G
H01L31/04 152J
H01L31/04 168
H05B33/14 Z
H05B33/22 D
H05B33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176630
(22)【出願日】2021-10-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】中村 栄一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 豊
(72)【発明者】
【氏名】林 昊升
(72)【発明者】
【氏名】尚 睿
(72)【発明者】
【氏名】道場 貴大
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 済
【テーマコード(参考)】
3K107
5F151
【Fターム(参考)】
3K107AA06
3K107AA08
3K107CC02
3K107CC03
3K107DD55
3K107DD56
3K107DD57
3K107FF14
3K107FF18
5F151AA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】薄膜太陽電池の光電変換効率や量子ドットLED発光輝度を向上させる。
【解決手段】上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、一対の電極間に位置し、ペロブスカイト型半導体材料を含有する活性層と、活性層と一対の電極の少なくとも一方との間に位置し、下記式(I)で表される、重量平均分子量(Mw)が10,000以上200,000以下の高分子化合物を含有する層とを有する薄膜太陽電池。
(Xは置換基を有していてもよい、1又は2以上の芳香環を有する2価の基。R
1およびR
2、R
3およびR
4は水素原子又は1価の有機基。R
1およびR
2、R
3およびR
4はそれぞれ置換基を介して結合していてもよい。nは整数。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、ペロブスカイト型半導体材料を含有する活性層と、前記活性層と前記一対の電極の少なくとも一方との間に位置し、下記式(I)で表される、重量平均分子量(Mw)が10,000以上200,000以下の高分子化合物を含有する層とを有する薄膜太陽電池。
【化1】
(前記式(I)中、Xは置換基を有していてもよい、1又は2以上の芳香環を有する2価の基であり、R
1、R
2、R
3、R
4はそれぞれ独立して水素原子又は1価の有機基を表し、R
1およびR
2、R
3およびR
4はそれぞれ置換基を介して結合していてもよい。nは整数を表す。)
【請求項2】
前記式(I)におけるR2およびR3が共に、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基である、請求項1に記載の薄膜太陽電池。
【請求項3】
前記ペロブスカイト型半導体材料が、三次元ペロブスカイト材料及びペロブスカイト量子ドット材料の少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の薄膜太陽電池。
【請求項4】
前記式(I)で表される高分子化合物を含有する層は、正孔輸送層である、請求項1から3のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池。
【請求項5】
前記式(I)で表される高分子化合物を含有する層のパラジウムの含有量が100ppm以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池を有する太陽電池モジュール。
【請求項7】
上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、ペロブスカイト型半導体材料を含有する発光層と、前記発光層と前記一対の電極の少なくとも一方との間に位置し、下記式(I)で表される、重量平均分子量(Mw)が10,000以上200,000以下の高分子化合物を含有する層とを有する量子ドットLED発光素子。
【化2】
(前記式(I)中、Xは置換基を有していてもよい、1又は2以上の芳香環を有する2価の基であり、R
1、R
2、R
3、R
4はそれぞれ独立して水素原子又は1価の有機基を表し、R
1およびR
2、R
3およびR
4はそれぞれ置換基を介して結合していてもよい。nは整数を表す。)
【請求項8】
前記式(I)におけるR2およびR3が共に、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基である、請求項7に記載の量子ドットLED発光素子。
【請求項9】
前記式(I)で表される高分子化合物を含有する層のパラジウムの含有量が100ppm以下である、請求項7または請求項8に記載の量子ドットLED発光素子。
【請求項10】
前記ペロブスカイト型半導体材料が、三次元ペロブスカイト材料及びペロブスカイト量子ドット材料の少なくとも1種である、請求項7から9のいずれか1項に記載の量子ドットLED発光素子。
【請求項11】
前記式(I)で表される高分子化合物を含有する層は、正孔輸送層である、請求項7から10のいずれか1項に記載の量子ドットLED発光素子。
【請求項12】
請求項7から11のいずれか1項に記載の量子ドットLED発光素子を有するLEDディスプレイ。
【請求項13】
前記式(I)で表される高分子化合物を、原料モノマーを鉄触媒の存在下に重合することにより製造する工程を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の薄膜太陽電池又は請求項7から11のいずれか1項に記載の量子ドットLED発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜太陽電池または量子ドット発光素子及びその製造方法と、この薄膜太陽電池または量子ドット発光素子を用いた太陽電池モジュールおよびLEDディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
有機無機ハイブリット半導体材料を用いた薄膜太陽電池または量子ドット発光素子が、高効率性を有することから、注目を浴びている。例えば、非特許文献1には、ペロブスカイト半導体化合物を活性層材料として用いた太陽電池が開示されている。また、非特許文献2には、ペロブスカイト量子ドットを活性層材料として用いたLEDが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Energy Environ. Sci.,2015,8,1602-1608.
【非特許文献2】Chem. Mater.,2018,30,17,6099-6107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1,2の薄膜太陽電池または量子ドット発光素子で、活性層と電極との間の正孔輸送層に用いられている正孔輸送材料は、PTAAあるいはpoly-TPDであり、これらの6員環芳香族系高分子は電子供与性が低いことにより、移動度の向上、HOMO準位のチューニング、およびパラジウムを用いたカップリング反応により移動度改善は難しかった。さらに、これらの共役高分子は、パラジウム触媒を用いたカップリング反応で製造されるため、高分子化後の反応性が落ちることにより、高分子の末端に、スズ、臭素、ヨウ素などが部分的に残留し、更には用いたパラジウム触媒が高分子中に取り込まれることから、これが素子の性能を下げる要因となっていた。
【0005】
本発明は、ペロブスカイト型半導体材料を用いた薄膜太陽電池または量子ドットLED発光素子における薄膜太陽電池の電変換効率や量子ドットLED発光輝度といった素子性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ペロブスカイト型半導体材料を用いた薄膜太陽電池または量子ドットLED発光素子において、チオフェン環を骨格に有する特定の共役高分子が、パラジウム触媒を用いることなく製造することができ、この共役高分子を正孔輸送層に用いることにより、薄膜太陽電池の光電変換効率や量子ドットLED発光輝度を向上させることができることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
すなわち、本発明の要旨は、以下に存する。
【0007】
[1] 上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、ペロブスカイト型半導体材料を含有する活性層と、前記活性層と前記一対の電極の少なくとも一方との間に位置し、下記式(I)で表される、重量平均分子量(Mw)が10,000以上200,000以下の高分子化合物を含有する層とを有する薄膜太陽電池。
【0008】
【0009】
(前記式(I)中、Xは置換基を有していてもよい、1又は2以上の芳香環を有する2価の基であり、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素原子又は1価の有機基を表し、R1およびR2、R3およびR4はそれぞれ置換基を介して結合していてもよい。nは整数を表す。)
【0010】
[2] 前記式(I)におけるR2およびR3が共に、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基である、[1]に記載の薄膜太陽電池。
【0011】
[3] 前記ペロブスカイト型半導体材料が、三次元ペロブスカイト材料及びペロブスカイト量子ドット材料の少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の薄膜太陽電池。
【0012】
[4] 前記式(I)で表される高分子化合物を含有する層は、正孔輸送層である、[1]から[3]のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
【0013】
[5] 前記式(I)で表される高分子化合物を含有する層のパラジウムの含有量が100ppm以下である、[1]から[4]のいずれかに記載の薄膜太陽電池。
【0014】
[6] [1]から[5]のいずれかに記載の薄膜太陽電池を有する太陽電池モジュール。
【0015】
[7] 上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、ペロブスカイト型半導体材料を含有する発光層と、前記発光層と前記一対の電極の少なくとも一方との間に位置し、下記式(I)で表される、重量平均分子量(Mw)が10,000以上200,000以下の高分子化合物を含有する層とを有する量子ドットLED発光素子。
【0016】
【0017】
(前記式(I)中、Xは置換基を有していてもよい、1又は2以上の芳香環を有する2価の基であり、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素原子又は1価の有機基を表し、R1およびR2、R3およびR4はそれぞれ置換基を介して結合していてもよい。nは整数を表す。)
【0018】
[8] 前記式(I)におけるR2およびR3が共に、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基である、[7]に記載の量子ドットLED発光素子。
【0019】
[9] 前記式(I)で表される高分子化合物を含有する層のパラジウムの含有量が100ppm以下である、[7]または[8]に記載の量子ドットLED発光素子。
【0020】
[10] 前記ペロブスカイト型半導体材料が、三次元ペロブスカイト材料及びペロブスカイト量子ドット材料の少なくとも1種である、[7]から[9]のいずれかに記載の量子ドットLED発光素子。
【0021】
[11] 前記式(I)で表される高分子化合物を含有する層は、正孔輸送層である、[7]から[10]のいずれかに記載の量子ドットLED発光素子。
【0022】
[12] [7]から[11]のいずれかに記載の量子ドットLED発光素子を有するLEDディスプレイ。
【0023】
[13] 前記式(I)で表される高分子化合物を、原料モノマーを鉄触媒の存在下に重合することにより製造する工程を含む、[1]から[5]のいずれかに記載の薄膜太陽電池又は[7]から[11]のいずれかに記載の量子ドットLED発光素子の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ペロブスカイト型半導体材料を用いた薄膜太陽電池あるいは量子ドットLED発光素子において、特定の共役高分子を用いることで、薄膜太陽電池の光電変換効率、量子ドットLED発光輝度といった素子性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】一実施形態としての基板上に形成された薄膜太陽電池素子を模式的に表す断面図である。
【
図2】一実施形態としての量子ドットLED素子を模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容 に限定はされない。
【0027】
[薄膜太陽電池]
本発明の薄膜太陽電池は、上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、ペロブスカイト型半導体材料を含有する活性層と、前記活性層と前記一対の電極の少なくとも一方との間に位置し、下記式(I)で表される、重量平均分子量(Mw)が10,000以上200,000以下の高分子化合物(以下、「共役高分子(I)」又は「本発明の共役高分子(I)」と称す場合がある。)を含有する層とを有することを特徴とする。
【0028】
【0029】
(前記式(I)中、Xは置換基を有していてもよい、1又は2以上の芳香環を有する2価の基であり、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素原子又は1価の有機基を表し、R1およびR2、R3およびR4はそれぞれ置換基を介して結合していてもよい。nは整数を表す。)
【0030】
[量子ドットLED発光素子]
本発明の量子ドットLED発光素子は、上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、ペロブスカイト型半導体材料を含有する発光層と、前記発光層と前記一対の電極の少なくとも一方との間に位置し、上述の式(I)で表される、重量平均分子量(Mw)が10,000以上200,000以下の高分子化合物を含有する層とを有することを特徴とする。
【0031】
<メカニズム>
ペロブスカイト型半導体材料を用いた薄膜太陽電池あるいは量子ドットLED発光素子の正孔輸送層を、本発明の共役高分子(I)で形成することにより、薄膜太陽電池の光電変換効率や量子ドットLED発光輝度を向上させることができる。
これは、本発明の共役高分子(I)が、パラジウム触媒を用いない方法で合成することができるため、パラジウム等の不純物の混入の問題がなく、正孔の移動度阻害が抑えられること、および、チオフェン骨格が導入されたことにより正孔移動度を向上させることができ半導体の機能向上に寄与することが考えられる。
本発明の式(I)で表される、重量平均分子量(Mw)が10,000以上200,000以下の高分子化合物は、パラジウム触媒を用いずに製造することにより、原料中の不純物以外は原理的にパラジウムを含まない。この目安としては、本発明の式(I)で表される、重量平均分子量(Mw)が10,000以上200,000以下の高分子化合物を含有する層のパラジウム含有量として好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下として、従来品との差異を確認することができる。パラジウムの量は、通常のICP分析により、容易に確認できる。
【0032】
<共役高分子(I)>
まず、下記式(I)で表される本発明の共役高分子(I)について説明する。
本発明の共役高分子(I)は、前述の通り正孔輸送半導体として機能する。
【0033】
【0034】
(前記式(I)中、Xは置換基を有していてもよい、1又は2以上の芳香環を有する2価の基であり、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素原子又は1価の有機基を表し、R1およびR2、R3およびR4はそれぞれ置換基を介して結合していてもよい。nは整数を表す。)
【0035】
(X)
式(I)中、Xは置換基を有していてもよい、1又は2以上の芳香族環を有する2価の基であり、該芳香族環は炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、窒素原子、リン原子、酸素原子、硫黄原子、セレン原子などを含有する芳香族複素環であってもよく、芳香族炭化水素環であってもよく、また、単環でも縮合環であってもよく、これらが直接結合や炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、窒素原子、リン原子、酸素原子、硫黄原子、セレン原子等の後述の連結基を介して連結した連結環であってもよい。これらの単環、縮合環、連結環は、直接結合、または炭素原子、ケイ素原子、ゲルマニウム原子、窒素原子、リン原子、酸素原子、硫黄原子、セレン原子等の後述の連結基を介して式(I)におけるチオフェン環と結合する。
【0036】
Xの芳香環としては、例えばベンゼン環、シクロヘキサジエン、1,4-ジヒドロペンタレン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フェナレン、テトラセン、クリセン、トリフェニレン、ピレン、ペンタセン、ベンゾ[a]ピレン、アヌレン、アズレン、シクロペンタジエニルアニオン、シクロヘプタトリエチルカチオン、トロポン、メタロセン、アセプレイアジレン等の炭素数6~20の芳香族炭化水素環、ピロール、フラン、チオフェン、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、イソオキサゾール、イソティアゾール、ピラゾール、1,3,4-チアジアゾール、1,2,3-チアゾール、1,2,3-オキサジアゾール、1,2,4-トリアゾール、イソインドール、イソベンゾフラン、イソベンゾチオフェン、シロール、ゲルモール、カルバゾール、3H-インドール、ベンゾフラン、ベンゾ[b]チオフェン、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール、1,2,3-ベンゾトリアゾール、1,2,3-ベンゾチアジアゾール、1,2,3-ベンゾオキサジアゾール、などからなる5員環の芳香族複素環;ピリジン、ピリミジン、ピラジン、プリン、4H-キノリジン、イソキノリン、キノリン、アクリジン、フェノチアジン、フェノオキサジン、フラタジン、キナゾリン、シンノリン、1,3,5-トリアジン、1,2,4-トリアジン、フェナジン、キノキサリン、フルオレン、5H-ジベンゾシロール,5H-ジベンゾゲルモールなどの6員環の芳香族複素環等の炭素数2~20の芳香族複素環が挙げられるが、電子供与性を付与しやすい観点から芳香族炭化水素環が好ましく、特にベンゼン環を含むことが好ましい。
【0037】
Xの芳香環は、上記の芳香環の2以上、例えば3~7個が縮合した縮合環であってもよく、また、上記の芳香環やその縮合環が直接結合で式(I)におけるチオフェン環と結合する。
【0038】
X中の芳香環の数には特に制限はないが、溶解性向上の観点からXの芳香環の数は3~6であることが好ましく、Xの芳香環が置換基を有する場合は、その置換基に含まれる芳香環も含めて3~10であることが好ましい。これは共役高分子(I)の平面性をより適切に制御できるためと考えられる。
【0039】
Xの芳香環が有していてもよい置換基としては、以下の置換基群Zから選ばれるものが挙げられる。
【0040】
(置換基群Z)
ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、アミノ基、アシル基、アミノアシル基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロアリールスルホニル基、イミド基、シリル基。
【0041】
置換基群Zの具体的な置換基例は以下のとおりである。
メチル基、エチル基などの炭素数1~15程度のアルキル基;
エチニル基、プロピレニル基などの炭素数2~10程度のアルケニル基;
アセチレニル基など炭素数2~10程度のアルキニル基;
フェニル基、ナフチル基などの炭素数6~20程度のアリール基;
チエニル基、フリル基、ピリジル基などの炭素数3~20程度のヘテロアリール基;
メトキシ基,エトキシ基、プロポキシ基などの炭素数1~10程度のアルコキシ基;
フェノキシ基、ナフトキシ基などの炭素数6~10程度のアリールオキシ基;
ピリジルオキシ基、チエニルオキシ基などのなどの炭素数3~10程度のヘテロアリールオキシ基;
メチルチオ基、エチルチオ基などの炭素数1~10程度のアルキルチオ基;
フェニルチオ基、ナフチルチオ基などの炭素数6~10程度のアリールチオ基;
ピリジルチオ基、チエニルチオ基などのなどの炭素数3~10程度のヘテロアリールチオ基;
ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などの炭素数1~15程度の置換基を有していてもよいアミノ基;
アセチル基、ピバロイル基などの炭素数2~10程度のアシル基;
アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基などの炭素数2~10程度のアシルアミノ基;
3-メチルウレイド基などの炭素数2~10程度のウレイド基;
メタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基などの炭素数1~10程度のスルホンアミド基;
ジメチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基などの炭素数1~10程度のカルバモイル基;
エチルスルファモイル基などの炭素数1~10程度のスルファモイル基;
ジメチルスルファモイルアミノ基などの炭素数1~10程度のスルファモイルアミノ基;
メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの炭素数2~10程度のアルコキシカルボニル基;
フェノキシカルボニル基、ナフトキシカルボニル基などの炭素数7~12程度のアリールオキシカルボニル基;
ピリジルオキシカルボニル基などの炭素数6~12程度のヘテロアリールオキシカルボニル基;
メタンスルホニル基、エタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基などの炭素数1~10程度のアルキルスルホニル基;
ベンゼンスルホニル基、モノフルオロベンゼンスルホニル基などの炭素数6~12程度のアリールスルホニル基;
チエニルスルホニル基などの炭素数3~12程度のヘテロアリールスルホニル基;
フタルイミド基などの炭素数4~12程度のイミド基;又は、
アルキル基及びアリール基からなる群より選ばれる置換基で3置換されているシリル基:
【0042】
Xとしては、より具体的には、以下のような基が挙げられる。以下の例示において、破線で示す部分は、式(I)におけるチオフィン環との結合手を示す。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
(R1、R2、R3、R4)
R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素原子又は1価の有機基を表す。1価の有機基としては、前述の置換基群Zに挙げたもの或いはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0048】
これらのうち、R1、R4としては、それぞれ独立して水素原子、アルキル基,アルコキシ基が好ましく、より好ましくは水素原子、アルキル基であり、より高い重量平均分子量となるように高分子量化を行うためには、立体障害の観点から、特に好ましくは水素原子である。
【0049】
また、R2、R3としては、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい、アルキル基等の脂肪族炭化水素基、アルコキシ基、アルキルチオ基であり、特に好ましくは、溶解性の観点から、置換基を有さないアルキル基又はアルコキシ基である。
【0050】
該脂肪族炭化水素基としては、飽和であっても不飽和であってもよく、例えばアルキル基、アルケニル基、アルカジエル基、アルキニル基などが挙げられるが、溶解性の観点からアルキル基であることが好ましい。
【0051】
また、該脂肪族炭化水素基は直鎖であってもよく、分岐を有していてもよいが、立体障害軽減と芳香環の平面性の維持の観点から、直鎖脂肪族炭化水素基又は一級分岐鎖脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
【0052】
該脂肪族炭化水素基の炭素数は、溶解性の観点から4以上であることが好ましく、熱分解温度を下げすぎない観点から12以下であることが好ましい。この炭素数は、正孔の輸送のしやすさ/正孔の取り出しのし易さの面から、特に6~10であることが好ましい。
【0053】
(R1およびR2、R3およびR4が置換基を介して結合している場合)
R1およびR2、R3およびR4は、それぞれ置換基を介して結合していてもよい。この場合、その構造としては、例えば以下のものが挙げられる。以下において、式(I)中のチオフィン環の2位の結合手は点線で記載している。
【0054】
【0055】
(n)
式(I)中のnは整数であり、後述の重量平均分子量Mwを満たす数であればよい。
【0056】
(分子量)
本発明の共役高分子(I)の重量平均分子量(Mw)は、通常1.0×104(10,000)以上であり、好ましくは2.0×104以上、より好ましくは3.0×104以上、さらに好ましくは4.0×104以上である。一方、通常2.0×105(200,000)以下であり、好ましくは1.5×105以下、より好ましくは1.2×105以下、さらに好ましくは8.0×104以下である。
共役高分子(I)のMwは有機溶媒への溶解性および塗布性の観点から、薄膜太陽電池あるいは量子ドットLED発光素子の材料に用いた際に安定した均一膜を形成する点で上記範囲であることが好ましい。
【0057】
本発明の共役高分子(I)の数平均分子量(Mn)は、通常8.0×103以上、好ましくは1.0×104以上、より好ましくは2.0×104以上、さらに好ましくは3.0×104以上である。一方、好ましくは1.5×105以下、より好ましくは8.0×104以下、さらに好ましくは5.0×104以下である。
共役高分子(I)のMnは、有機溶媒への溶解性および塗布性の観点から、薄膜太陽電池あるいは量子ドットLED発光素子の材料に用いた際に安定した均一膜を形成する点でこの範囲であることが好ましい。
【0058】
本発明の共役高分子(I)の分子量分布(PDI、(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)))は、通常1.0以上、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは1.7以上である。一方、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.7以下であり、特に好ましくは2.5以下である。
共役高分子(I)の分子長が揃っていて、かつ、適度の溶解性を得ることができるという観点から、分子量分布がこの範囲にあることが好ましい。
【0059】
本発明において、共役高分子(I)の重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により求めるものとする。具体的には、カラムとして、Shim-pac GPC-803、GPC-804(島津製作所製、内径8.0mm、長さ30cm)をそれぞれ1本ずつ直列に繋げて用い、ポンプとしてLC-10AT、オーブンとしてCTO-10A、検出器として示差屈折率検出器(島津製作所製:RID-10A)、及びUV-vis検出器(島津製作所製:SPD-10A)を用いることにより測定できる。測定対象の共役高分子(I)はクロロホルムに溶解させ、得られた溶液5μLをカラムに注入する。移動相としてクロロホルムを用い、1.0mL/minの流速で測定を行なう。解析にはLC-Solution(島津製作所)を用いる。
【0060】
(溶解度)
本発明の共役高分子(I)の溶解度は、特に限定は無いが、好ましくは25℃におけるクロロベンゼンに対する溶解度が通常0.1質量%以上、好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上であり、一方、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。溶解性が高いことは、均一な膜を製膜することができるため好ましい。
【0061】
<共役高分子(I)の合成方法>
次に、本発明の共役高分子(I)の合成方法について説明する。
【0062】
本発明の共役高分子(I)は、下記式(II)で表される原料モノマー(以下、「原料モノマー(II)」と称す場合がある。)を用い、鉄触媒の存在下に重合(CH結合カップリング反応)を行うことで合成することができる。
【0063】
【0064】
(前記式(II)中、Yは置換基を有していてもよい、1又は2以上の芳香環を有する2価の基であり、R11、R12、R13、R14はそれぞれ独立して水素原子又は1価の有機基を表し、R11およびR12、R13およびR14はそれぞれ置換基を介して結合していてもよい。)
【0065】
式(II)中のYは、前記式(I)中のXと同義であり、好ましいものも同様である。また、R11、R12、R13、R14は、それぞれ、前記式(I)中のR1、R2、R3、R4と同義であり、好ましいものも同様である。
【0066】
なお、式(II)中のチオフェン環としては、単環であってもよく、縮合環であってもよいが、式(II)に示される通り、チオフェン環のα位に水素原子を有し、α位同士が選択的にカップリング反応を行って重合することができる。
【0067】
本発明の共役高分子(I)の合成方法に用いる鉄触媒としては、三価の鉄塩化合物と、2座リン配位子を形成するための三価のリン化合物とからなる鉄錯体触媒が好ましい。また、反応には、求核性の弱いアルキルアルミニウムを添加剤として用いることが好ましい。また、反応を促進するため、チオフェン環の酸化電位より低い酸化剤を用いて反応を行うことが好ましい。
【0068】
(三価の鉄塩化合物)
三価の鉄塩化合物としては、反応中共存させる三価のリン化合物と活性錯体を形成できるものであれば特に限定されず、好ましくは混合しただけで、反応中共存させる三価のリン化合物と活性錯体を形成できるものである。
【0069】
例えば、臭化鉄(III)、塩化鉄(III)、塩化鉄(III)六水和物、アセチルアセトン鉄(III)、硝酸鉄(III)九水和物、シュウ酸鉄(III)六水和物、過塩素酸鉄(III)水和物、リン酸鉄(III)水和物、イソプロポキシ鉄(III)、硫酸鉄(II)七水和物、シュウ酸鉄(III)水和物、トリス(2,4-ペンタンジオナト)鉄(III)、トリフルオロメタンスルホン酸鉄(II)、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)鉄(III)などが挙げられる。
これらのうち好ましい鉄塩化合物は、基質依存性が少ないことから、ハロゲン化鉄である。
【0070】
反応における鉄塩化合物の使用量は、原料モノマー(II)1mоlに対し通常3mmоl以上であり、好ましくは5mmоl以上であり、また撹拌効率の観点から,通常15mmоl以下であり、好ましくは10mmоl以下である。
【0071】
(三価のリン化合物)
三価のリン化合物は、上記鉄塩化合物との間で活性錯体を形成できるものであれば特段限定されないが、分子内に3つのリン原子を有する配位子であることが好ましく、下記式(III)で表されるものがより好ましい。
【0072】
【0073】
(前記式(III)中、R5、R6、R7は、それぞれ独立に置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基を表す。)
【0074】
上記R5、R6、R7の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、2-メチルプロピル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、シクロヘキシルメチル基、ネオペンチル基、2-エチルブチル基、イソプロピル基、2-ブチル基、シクロヘキシル基、3-ペンチル基、tert-ブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、2-エチルヘキシル基、2-ブチルオクチル基等の直鎖状、分岐鎖状のアルキル基;2-プロペニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、2,4-ペンタジエニル基等のアルケニル基;エチニル基等のアルキニル基が挙げられる。橋かけ環状脂肪族炭化水素として、例えば、有機化合物命名の手引き(化学同人刊,1990年)15頁~16頁に記載のものが挙げられる。
【0075】
上記R5、R6、R7の芳香族炭化水素基としては、例えば、有機化合物命名の手引き(化学同人刊、1990年)7頁~14頁及び20頁~22頁に記載の芳香族炭化水素基が挙げられ、ヘテロ環芳香族炭化水素としては、例えば、有機化合物命名の手引き(化学同人刊、1990年)27頁~39頁に記載のヘテロ環芳香族炭化水素基が挙げられる。橋かけ芳香族炭化水素として、例えば、有機化合物命名の手引き(化学同人刊、1990年)17頁に記載のものが挙げられる。
【0076】
上記脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基が有してもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロアリールチオ基、アミノ基、アシル基、アミノアシル基、ウレイド基、スルホンアミド基、カルバモイル基、スルファモイル基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロアリールオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ヘテロアリールスルホニル基、イミド基及びシリル基などが挙げられる。
【0077】
R5、R6、R7は、具体的にはメチル基、エチル基などの炭素数1~15程度のアルキル基;エチニル基、プロピレニル基などの炭素数2~10程度のアルケニル基;アセチレニル基など炭素数2~10程度のアルキニル基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数6~20程度の芳香族炭化水素基;チエニル基、フリル基、ピリジル基などの炭素数3~20程度の芳香族ヘテロ環炭化水素基;が挙げられる。
【0078】
これらのうち好ましくは、R5は、ヘテロ原子を含む芳香族炭化水素基およびアルキニル基が好ましく、縮合環からなる芳香族ヘテロ環炭化水素基;ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、インドリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、単環芳香族又は分岐鎖アルキル基を有するアルキニル基;フェニルエチニル基、メシチルエチニル基、t-ブチルエチニル基、1-アマダンチルエチニル基などが特に好ましい。
【0079】
R6、R7は、単環からなる芳香族炭化水素基が好ましい。具体的には、フェニル基、o-トリル基が好ましい。
【0080】
三価のリン化合物の分子量は特に限定されないが、通常500以上、好ましくは600以上であり、また通常1200以下、好ましくは1100以下である。
【0081】
三価のリン化合物としては、以下の化合物が例示される。以下において、「Ph」はフェニル基を、「Me」はメチル基を、「Bu」はブチル基をそれぞれ表す。
【0082】
【0083】
【0084】
反応における三価のリン化合物の使用量は、前記鉄塩化合物1mоlに対し通常1.2当量以上であり、好ましくは1.5当量以上である。三価のリン化合物は鉄塩化合物に対し過剰量加えてもよいが、精製の効率性、反応溶液の撹拌効率の面から、通常2.0当量以下であり、好ましくは1.7当量以下である。
【0085】
(トリアルキルアルミニウム)
本発明の共役高分子(I)の合成には、添加剤としてトリアルキルアルミニウムの存在下にカップリング反応を行うことが好ましい。
用いるトリアルキルアルミニウムとしては、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ-n-オクチルアルミニウム、トリ-n-ブチルアルミニウムなどが挙げられ、特に好ましくは、反応後の精製が容易なトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムである。
【0086】
カップリング反応において用いるトリアルキルアルミニウムの量は適宜設定されるが、原料モノマー(II)に対して、通常3.0当量以上であり、5.0当量以上であることが好ましく、また、後処理を簡易にするためには、通常10.0当量以下であり、7.0当量以下であることが好ましい。
【0087】
(反応溶媒)
本発明の共役高分子(I)の合成は、少なくとも2種類以上の混合溶媒(主溶媒と補助溶媒からなる反応溶媒)中で行うことが好ましい。
【0088】
主溶媒としては、少なくとも一種類の-O-を有する溶媒及び/又は-C(=O)を有する溶媒から選ばれることが好ましい。これらの溶媒は、高分子量化を進めることから好ましい。具体的にはテトラヒドロフラン(THF)、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)、ジオキサンの群より選ばれるエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンの群より選ばれるケトン系溶媒;が挙げられる。これらのうち、特に、リン化合物との相互作用の観点からTHFが好ましく、高沸点の観点からはMTBEが好ましい。
【0089】
補助溶媒としては、具体的には、トルエン、クロロベンゼン、キシレン、ODCB(o-ジクロロベンゼン)などの芳香族系溶媒;ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒;DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)、DMA(N,N-ジメチルアセトアミド)などのアミド系溶媒などから選択できる。これらのうち、特に、溶解性の観点から、芳香族系溶媒が好ましい。これらの溶媒は単独でも2種以上を混合してもよく、例えば、基質等の溶解度が低い溶媒を用いる場合には、ハロゲン系溶媒やアミド系溶媒を組み合わせると反応収率が向上する。
主溶媒と補助溶媒の使用割合は、溶解性の観点から、主溶媒と補助溶媒の容量比で主溶媒:補助溶媒=9:1から1:1の範囲であることが好ましい。
【0090】
また、反応溶媒は反応基質の1ミリモルに対して1~5mL、反応効率を落とさないために、特に2~3mLの割合で用いることが好ましい。
【0091】
(酸化剤)
本発明の共役高分子(I)を合成するためのカップリング反応は、炭素-水素結合活性化を経る酸化的カップリング反応であることから、反応を加速するため、酸化剤を共存させることが好ましい。
【0092】
酸化剤としては、二価の-C(=O)-C(=O)-を有するジケトン化合物が好ましく、具体的には、2,3-ブタンジオン、ピルビン酸、オキサミド、オキサミン酸、2,3-ペンタンジオン、2-オキソ酪酸、ピルビン酸メチル、1,2-シクロヘキサンジオン、3-メチル-1,2-シクロペンタンジオン、パラバン酸、3,4-ヘキサンジオン、2-オキソ酪酸メチル、ピルビン酸エチル、2-オキソ吉草酸、オキサミン酸エチル、N,N-ジメチルオキサミン酸、シュウ酸ジメチル、3,4-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオン、2,3-ヘプタンジオン、5-メチル-2,3-ヘキサンジオン、4-メチル-2-オキソ吉草酸、3-メチル-2-オキソ吉草酸、3,3-ジメチル-2-オキソ酪酸、2-オキソ吉草酸メチル、オキサル酢酸、1-エチル-2,3-ジオキソピペラジン、オキサミン酸ブチル、2-オキソグルタル酸、シュウ酸ジエチル、1,2-インダンジオン、イサチン、1-フェニル-1,2-プロパンジオン、ベンゾイルギ酸、トリフルオロピルビン酸メチル、2,4-ジオキソ吉草酸エチル、1,2-ナフトキノン、1-メチルイサチン、ベンゾイルギ酸メチル、フェニルピルビン酸、2,3-ボルナンジオン、トリキノイル水和物、トリフルオロピルビン酸エチル、メソシュウ酸ジエチル、2-オキソグルタル酸ジメチル、ジメチルオキサロイルグリシン、N,N’-ジメトキシ-N,N’-ジメチルオキサミド、ベンゾイルギ酸エチル、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸、オキサル酢酸ジエチル、フリル、1,1’-オキサリルジイミダゾール、メチルオキサル酢酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、9,10-フェナントレンキノン、1,10-フェナントロリン-5,6-ジオン、ベンジル、3,5-ジ-tert-ブチル-1,2-ベンゾキノン、クロロオキサル酢酸ジエチル、1,3-ジフェニルプロパントリオン、シュウ酸ジフェニル、o-クロラニル、1,4-ビスベンジル、シュウ酸ビス(2,4-ジニトロフェニル)、シュウ酸ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)などから選ばれる。
【0093】
これらの酸化剤のうち、適した酸化電位を有する観点からシュウ酸ジアルキルであることが好ましい。
【0094】
カップリング反応において用いる酸化剤の量は適宜設定されるが、通常原料モノマー(II)に対して1.0当量以上であり、2.0当量以上であることが好ましく、また通常10.0当量以下であり、5.0当量以下であることが好ましい。
【0095】
(反応条件)
本発明の共役高分子(I)を合成する際の反応温度は、通常-5℃以上、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、特に好ましくは25℃以上であり、反応温度の上限は、反応の進行速度に応じて用いる溶媒の還流温度までの範囲で任意に設定可能である。反応が遅いときは、超音波、オートクレーブ、マイクロ波を併用することも好ましい。
反応時間は、通常30分以上36時間以下であるが、用いる溶媒の種類や、その他の反応条件にも依存するので、任意に設定すればよい。
反応の進行度合いは、分析GPCやHPLCを用いて確認することができる。
【0096】
(共役高分子(I)の回収)
反応終了後は、公知の単離・精製方法を用いて、目的とする共役高分子(I)を得ることができる。反応後、鉄塩化合物を除去するために、希塩酸水溶液で抽出することが好ましい。
【0097】
<ペロブスカイト太陽電池素子>
次に、上述の本発明の共役高分子(I)を用いた本発明の太陽電池素子及び太陽電池は活性層にペロブスカイトを用いている。このペロブスカイト太陽電池素子の構造について説明する。
【0098】
なお「太陽電池素子」は基板を含まない上下電極間の構造を言い、「太陽電池」は太陽電池素子そのものであってもよいが、基板などを含んでもよく、また素子を複数有していてもよい太陽電池全体を意味する。
本発明のペロブスカイト太陽電池素子は、上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、ペロブスカイト型半導体材料を含有する活性層と、前記活性層と前記一対の電極の少なくとも一方との間に位置し、前記本発明の共役高分子(I)を含有する層とを有する。
この共役高分子(I)を含有する層は、正孔輸送層であることが好ましい。
【0099】
図1は、本発明に係るペロブスカイト太陽電池素子が基板上に形成された一実施形態を模式的に表す断面図である。
図1に示される基板上に形成されたペロブスカイト太陽電池素子100は、一般的な薄膜太陽電池に用いられるペロブスカイト太陽電池素子の一例であるが、本発明に係る光電変換は、
図1に示されるものに限られない。また、本発明のペロブスカイト太陽電池素子は、素子構成が順構成であっても、逆構成であってもよい。
図1に示す基板上に形成されたペロブスカイト太陽電池素子100においては、下部電極101、活性層103、及び上部電極107がこの順に配置されている。また、基板上に形成されたペロブスカイト太陽電池素子100において、下部電極101と活性層103との間に存在する層102、又は、上部電極107と活性層103との間に存在する層105は、本発明の共役高分子(I)を正孔輸送材料として含有する層である。本発明のペロブスカイト太陽電池素子は、
図1に示すように、基材108、絶縁体層、及び仕事関数チューニング層などの層をさらに有した太陽電池としてよい。以下においては、層102、層105を「バッファ層」と呼称する。
【0100】
(ペロブスカイト活性層)
活性層103は光電変換が行われる層である。基板上に形成されたペロブスカイト太陽電池素子100が光を受けると、光が活性層103に吸収されてキャリアが発生し、発生したキャリアは下部電極101及び上部電極107から取り出される。
【0101】
本実施形態において、活性層103はペロブスカイト型半導体材料を含有する。
ペロブスカイト型半導体材料とは、ペロブスカイト構造を有する半導体化合物のことを指す。ペロブスカイト半導体化合物としては、特段の制限はないが、例えば、Galasso et al. Structure and Properties of Inorganic Solids, Chapter7-Perovskite type and related structuresで挙げられているものから選ぶことができる。例えば、ペロブスカイト半導体化合物としては、一般式AMZ3で表されるAMZ3型のもの又は一般式A2MZ4で表されるA2MZ4型のものが挙げられる。ここで、Mは2価のカチオンを、Aは1価のカチオンを、Zは1価のアニオンを指す。
【0102】
1価のカチオンAに特段の制限はないが、上記Galassoの著書に記載されているものを用いることができる。より具体的な例としては、周期表第1族及び第13族~第16族元素を含むカチオンが挙げられる。これらの中でも、セシウムイオン、ルビジウムイオン、置換基を有していてもよいアンモニウムイオン又は置換基を有していてもよいホスホニウムイオンが好ましい。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの例としては、1級アンモニウムイオン又は2級アンモニウムイオンが挙げられる。置換基にも特段の制限はない。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの具体例としては、アルキル
アンモニウムイオン又はアリールアンモニウムイオンが挙げられる。特に、立体障害を避けるために、3次元の結晶構造となるモノアルキルアンモニウムイオンが好ましく、安定性向上の観点からは、一つ以上のフッ素基を置換したアルキルアンモニウムイオンを用いることが好ましい。また、カチオンAとして2種類以上のカチオンの組み合わせを用いることもできる。
【0103】
1価のカチオンAの具体例としては、メチルアンモニウムイオン、モノフッ化メチルアンモニウムイオン、ジフッ化メチルアンモニウムイオン、トリフッ化メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、イソプロピルアンモニウムイオン、n-プロピルアンモニウムイオン、イソブチルアンモニウムイオン、n-ブチルアンモニウムイオン、t-ブチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、フェニルアンモニウムイオン、ベンジルアンモニウムイオン、フェネチルアンモニウムイオン、グアニジウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、アセトアミジニウムイオン又はイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0104】
2価のカチオンMにも特段の制限はないが、2価の金属カチオン又は半金属カチオンであることが好ましい。具体的な例としては周期表第14族元素のカチオンが挙げられ、より具体的な例としては、鉛カチオン(Pb2+)、スズカチオン(Sn2+)、ゲルマニウムカチオン(Ge2+)が挙げられる。また、カチオンMとして2種類以上のカチオンの組み合わせを用いることもできる。なお、安定な光電変換素子を得る観点からは、鉛カチオン又は鉛カチオンを含む2種以上のカチオンを用いることが特に好ましい。
【0105】
1価のアニオンZの例としては、ハロゲン化物イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ホウ酸イオン、アセチルアセトナートイオン、炭酸イオン、クエン酸イオン、硫黄イオン、テルルイオン、チオシアン酸イオン、チタン酸イオン、ジルコン酸イオン、2,4-ペンタンジオナトイオン又はケイフッ素イオン等が挙げられる。バンドギャップを調整するためには、Zは1種類のアニオンであってもよいし、2種類以上のアニオンの組み合わせであってもよい。なかでも、Zとしてはハロゲン化物イオン、又はハロゲン化物イオンとその他のアニオンとの組み合わせを用いることが好ましい。ハロゲン化物イオンZの例としては、塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオン等が挙げられる。半導体のバンドギャップを広げすぎない観点から、ヨウ化物イオンを用いることが好ましい。
【0106】
ペロブスカイト半導体化合物の好ましい例としては、有機-無機ペロブスカイト半導体化合物が挙げられ、特にハライド系有機-無機ペロブスカイト半導体化合物が挙げられる。ペロブスカイト半導体化合物の具体例としては、CH3NH3PbI3、CH3NH3PbBr3、CH3NH3PbCl3、CH3NH3SnI3、CH3NH3SnBr3、CH3NH3SnCl3、CH3NH3PbI(3-x)Clx、CH3NH3PbI(3-x)Brx、CH3NH3PbBr(3-x)Clx、CH3NH3Pb(1-y)SnyI3、CH3NH3Pb(1-y)SnyBr3、CH3NH3Pb(1-y)SnyCl3、CH3NH3Pb(1-y)SnyI(3-x)Clx、CH3NH3Pb(1-y)SnyI(3-x)Brx、及びCH3NH3Pb(1-y)SnyBr(3-x)Clx、並びに、上記の化合物においてCH3NH3の代わりにCFH2NH3、CF2HNH3、又はCF3NH3を用いたもの、等が挙げられる。なお、xは0以上3以下、yは0以上1以下の任意の値を示す。
【0107】
活性層103は、2種類以上のペロブスカイト半導体化合物を含有していてもよい。例えば、A、M及びZのうちの少なくとも1つが異なる2種類以上のペロブスカイト半導体化合物が活性層103に含まれていてもよい。また活性層103は、異なる材料を含み又は異なる成分を有する複数の層で形成される積層構造を有していてもよい。
【0108】
活性層103に含まれるペロブスカイト型半導体材料の量は、良好な半導体特性が得られるように、好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。上限に特に制限はない。
また、活性層103には、ペロブスカイト型半導体材料に加えて添加剤が含まれていてもよい。添加剤の例としては、ハロゲン化物、酸化物、又は硫化物、硫酸塩、硝酸塩若しくはアンモニウム塩等の無機塩のような、無機化合物、又は有機酸、多価アルコールなどの有機化合物が挙げられる。
【0109】
活性層103の厚さに特段の制限はない。より多くの光を吸収できる点で、活性層103の厚さは、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは100nm以上、特に好ましくは120nm以上である。一方で、直列抵抗が下がる点、又は電荷の取出し効率を高める点で、活性層103の厚さは、好ましくは1500nm以下、より好ましくは1000nm以下、さらに好ましくは800nm以下である。
【0110】
活性層103の形成方法は特に限定されず、任意の方法を用いることができる。具体例としては、塗布法及び蒸着法(又は共蒸着法)が挙げられる。簡易に活性層103を形成できる点で、塗布法を用いることは好ましい。例えば、ペロブスカイト型半導体材料又はその前駆体を含有する塗布液を塗布し、必要に応じて加熱乾燥することにより活性層103を形成する方法が挙げられる。また、このような塗布液を塗布した後で、ペロブスカイト型半導体材料の溶解性が低い溶媒をさらに塗布することにより、ペロブスカイト型半導体材料を析出させることもできる。
【0111】
ペロブスカイト型半導体材料の前駆体とは、塗布液を塗布した後にペロブスカイト型半導体材料へと変換可能な材料のことを指す。具体的な例として、加熱することによりペロブスカイト型半導体材料へと変換可能なペロブスカイト型半導体材料前駆体を用いることができる。例えば、一般式AZで表される化合物と、一般式MZ2で表される化合物と、溶媒と、を混合して加熱撹拌することにより、塗布液を作製することができる。この塗布液を塗布して加熱乾燥を行うことにより、前記一般式AMZ3で表されるペロブスカイト半導体化合物を含有する活性層103を作製することができる。溶媒としては、ペロブスカイト型半導体材料及び添加剤が溶解するのであれば特に限定されず、例えばN,N-ジメチルホルムアミドのような有機溶媒が挙げられる。
【0112】
塗布液の塗布方法としては任意の方法を用いることができるが、例えば、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等が挙げられる。
【0113】
(電極)
電極は、活性層103における光吸収により生じた正孔及び電子を捕集する機能を有する。本発明の一実施形態に係る基板上に形成された薄膜太陽電池素子100は一対の電極を有し、一対の電極のうち一方を上部電極と呼び、他方を下部電極と呼ぶ。薄膜太陽電池素子100が基材を有するか又は基材上に設けられている場合、基材により近い電極を下部電極と、基材からより遠い電極を上部電極と、それぞれ呼ぶことができる。また、透明電極を下部電極と、下部電極よりも透明性が低い電極を上部電極と、それぞれ呼ぶこともできる。
図1に示す基板上に形成された薄膜太陽電池素子100は、下部電極101及び上部電極107を有している。正孔を受け取る電極をアノード(正極)、電子を受け取る電極をカソード(負極)と表記することもある。
【0114】
一対の電極としては、正孔の捕集に適したアノードと、電子の捕集に適したカソードとを用いることができる。この場合、基板上に形成された薄膜太陽電池素子100は、下部電極101がアノードであり上部電極107がカソードである順型構成を有していてもよいし、下部電極101がカソードであり上部電極107がアノードである逆型構成を有していてもよい。
【0115】
一対の電極は、いずれか一方が透光性であればよく、両方が透光性であっても構わない。透光性があるとは、太陽光が40%以上透過することを指す。また、透明電極の太陽光線透過率は70%以上であることが、より多くの光が透明電極を透過して活性層103に到達するために好ましい。光の透過率は、分光光度計(例えば、日立ハイテク社製U-4100)で測定できる。
【0116】
下部電極101及び上部電極107、又はアノード及びカソードの構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の部材及びその製造方法を使用することができる。
【0117】
(バッファ層)
バッファ層は、活性層103と一対の電極101,107の少なくとも一方との間に位置する層である。バッファ層は、例えば、活性層103から下部電極101又は上部電極107へのキャリア移動効率を向上させるために用いることができる。
【0118】
本発明の一実施形態において、バッファ層は本発明の共役高分子(I)を含有する。バッファ層が共役高分子(I)を含有して形成されることにより、前述の通りペロブスカイト型半導体材料を用いた光電変換効率を向上させることができる。
【0119】
上述のように、基板上に形成された薄膜太陽電池素子100は、下部電極101と活性層103との間にバッファ層102を有することができ、又は、上部電極107と活性層103との間にバッファ
層105を有することができる。また、基板上に形成された薄膜太陽電池素子100は、バッファ層102とバッファ層105との双方を有することもできる。ここで、下部電極101と活性層103との間に設けられるバッファ層102と、上部電極107と活性層103との間に設けられるバッファ層105とは、異なる材料で構成されていることが好ましい。すなわち、一方のバッファ層が共役高分子(I)を含有する層である一方、他方のバッファ層は共役高分子(I)以外の化合物で構成される層であってもよい。なお、上述の通り、共役高分子(I)を含有する層は、下部電極101と活性層103との間に位置していてもよいし、活性層103と上部電極107との間に位置していてもよい。
【0120】
アノードと活性層との間に設けられたバッファ層は正孔輸送層と呼ばれることがあり、カソードと活性層との間に設けられたバッファ層は電子輸送層と呼ばれることがある。一実施形態において、正孔輸送層は共役高分子(I)を含有する層である。
【0121】
共役高分子(I)以外の化合物で構成されるバッファ層に関しては、材料に特に限定はない。例えば、正孔取り出し層については、活性層からアノードへの正孔輸送効率を向上させることが可能な任意の材料からなる層をさらに用いることができる。具体的には、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の無機化合物、有機化合物、又は本発明に係る有機無機ペロブスカイト化合物が挙げられる。例えば、無機化合物としては、酸化銅、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化鉄、酸化モリブデン、酸化バナジウム又は酸化タングステン等の金属酸化物が挙げられる。また、有機化合物としては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミン又はポリアニリン等にドーパントがドーピングされた導電性ポリマー、スルホニル基を置換基に有するポリチオフェン誘導体、アリールアミン等の導電性有機化合物、ナフィオン、又はリチウムドーピングされたspiro-OMeTADなどが挙げられる。
【0122】
同様に、電子取り出し層についても、活性層からカソードへの電子輸送効率を向上させることが可能な任意の材料からなる層をさらに用いることができる。具体的には、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の無機化合物、有機化合物、又は本発明に係る有機無機ペロブスカイト化合物が挙げられる。例えば、無機化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウム等のアルカリ金属の塩、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム又は酸化インジウム等の金属酸化物が挙げられる。有機化合物としては、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントレン(Bphen)、(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)、ホウ素化合物、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、フラーレン化合物、又はホスフィンオキシド化合物若しくはホスフィンスルフィド化合物等の周期表第16族元素と二重結合を有するホスフィン化合物が挙げられる。
【0123】
バッファ層の膜厚に特に限定はないが、好ましくは0.5nm以上、さらに好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上である、一方、好ましくは1μm以下、さらに好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下、特に好ましくは100nm以下である。バッファ層の膜厚が上記の範囲内にあることで、キャリアの移動効率が向上しやすくなり、光電変換効率が向上しうる。
【0124】
バッファ層の形成方法に制限はなく、バッファ層に用いる材料の特性に合わせて形成方法を選択することができる。例えば、バッファ層に用いる材料と溶媒を含有する塗布液を作製し、スピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法を用いることにより、バッファ層を形成することができる。この場合、クロロベンゼン、トルエンなどの芳香族溶媒、クロロホルムなどの塩素系溶媒が均一の膜を形成させるのに好ましい。また、低分子の場合は、真空蒸着法等の乾式成膜法により、バッファ層を形成することもできる。
【0125】
(基材)
基板上に形成された薄膜太陽電池素子100は、通常は支持体となる基材108を有する。ただし、本発明に係る薄膜太陽電池素子は基材108を有さなくてもよい。基材108の材料は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されず、例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の材料を使用することができる。
【0126】
(その他の層)
基板上に形成された薄膜太陽電池素子100は、その他の層を有していてもよい。例えば、基板上に形成された薄膜太陽電池素子100は、電極の仕事関数を調整する仕事関数チューニング層を、下部電極101とバッファ層102との間、又は上部電極107とバッファ層105との間に有していてもよい。また、基板上に形成された薄膜太陽電池素子100は、下部電極101と活性層103との間、又は上部電極107と活性層103との間に、水分等が活性層103に到達することを抑制する薄い絶縁体層を有していてもよい。ただし、一実施形態において、共役高分子(I)は堅牢な分子骨格を有しキャリア輸送性能が高いため、活性層103と下部電極101との間に共役高分子(I)を含有するバッファ層が存在する場合、基板上に形成された薄膜太陽電池素子100は活性層103と下部電極101との間に仕事関数チューニング層又は絶縁体層を有さなくてもよいし、基板上に形成された薄膜太陽電池素子100は活性層103と下部電極101との間にバッファ層以外の層を有さなくてもよい。また、活性層103と上部電極107との間に共役高分子(I)を含有するバッファ層が存在する場合にも、基板上に形成された薄膜太陽電池素子100は活性層103と上部電極107との間に仕事関数チューニング層又は絶縁体層を有さなくてもよいし、基板上に形成された薄膜太陽電池素子100は活性層103と上部電極107との間にバッファ層以外の層を有さなくてもよい。
【0127】
次に本発明に係るLED発光素子デバイスについて、その一例を
図2を用いて説明する。本発明に係るLED発光素子デバイスは、活性層に量子ドット構造を用いるため、量子ドットLED発光素子デバイスと呼ぶことがある。
図2は、本発明に係る量子ドットLED発光素子デバイス構造の一実施形態を模式的に表す断面図である。
【0128】
図2に示される量子ドットLED発光素子200は、一般的なLEDデバイスに用いられる素子の一例であるが、本発明に係る量子ドットLED発光素子は、
図2に示されるものに限られない。また、本発明の量子ドットLED発光素子は,先に述べた薄膜太陽電池素子と同様に、素子構成が順構成であっても、逆構成であってもよい。
【0129】
図2に示す量子ドットLED発光素子200においては、下部電極201、発光層203、及び上部電極207がこの順に配置されている。また、量子ドットLED発光素子200において、下部電極201と発光層203との間に存在する層202、又は、上部電極207と発光層203との間に存在する層205は、本発明の共役高分子(I)を正孔輸送材料として含有する層である。本発明の量子ドットLED発光素子は、
図2に示すように、基材208、絶縁体層、及び仕事関数チューニング層などの層をさらに有していてもよい。以下においては、層202、層205を「バッファ層」と呼称する。
【0130】
(量子ドット発光層)
発光層203は正孔と電子が注入され、量子ドットの発光が行われる層である。量子ドットLED発光素子200に印加電圧を加えると、正孔が陽極、正孔輸送層を経由し、電子が、陰極、電子輸送層を経由し、発光層203に注入し、量子ドットを発光させるものである。
【0131】
本実施形態において、発光層203はペロブスカイト型量子ドット半導体材料を含有する。発光層203はLED発光が行われる層である。
発光層として量子ドット構造を使用する場合には、特開2020-170710号公報に記載のものを使用することができる。
【0132】
「量子ドット」という用語は、限定するわけではないが、発光半導体量子ドットを含み得る。一般に、量子ドットは、コア及び任意選択でキャップを含む。「コア」は、ナノメートルサイズの半導体である。IIA-VIA族半導体、IIIA-VA族半導体又はIVA-VIA族半導体の任意のコアが、本開示との関連において使用され得るが、コアは、キャップと組み合わせたときに発光量子ドットが生じるようになっている。IIA-VIA族半導体は、少なくとも1種の周期表のIIA族の元素及び少なくとも1種のVIA族の元素等を含有する、化合物である。コアは、2種以上の元素を含み得る。一実施形態において、コアは、直径が約1nm~約250nm、約1nm~100nm、約1nm~50nm又は約1nm~10nmであり得るIIA-VIA族半導体又はIIIA-VA半導体である。別の実施形態において、コアは、IIA-VIA族半導体であってもよく、直径が約2nm~約10nmであり得る。例えば、コアは,無機系CdS、CdSe、CdTe、ZnSe、ZnS、PbS、PbSe、ペロブスカイト型CsPbCl3、CsPbCl3-xBrx(xは、0~3である)、CsPbBr3、CsPbI3、CsPbBr3-xIx(xは、0~3である)又は合金であってもよい。
【0133】
量子ドットによって放出される波長(例えば、色)は、ナノクリスタルのサイズ及び材料等の量子ドットの物理的特性に応じて選択することができる。量子ドットは、約300ナノメートル(nm)~2000nmまでの光(例えば、紫外光、近赤外光及び赤外光)を放出することが公知である。量子ドットの色は、限定されるわけではないが、赤色、青色、緑色及びこれらの組合せを含む。色又は蛍光発光波長は、継続的に調整することができる。量子ドットによって放出された光の波長帯は、コア及びキャップを構成する材料に依存して、コアのサイズ又はコア及びキャップのサイズによって決定される。発光波長帯は、QDの組成及びサイズを変更すること並びに/又は同心シェルの形態でコアの周囲を取り囲むように1個又は複数のキャップを付加することによって、調整することもできる。
【0134】
ペロブスカイト型半導体材料としては、ペロブスカイト構造を有する量子ドット半導体化合物のことを指す。ペロブスカイト型量子ドットとしては、特段の制限はないが、例えば、Zhouら編Perovskite Quantum Dots: Synthesis, Properties and Applications(2021年,Springer刊)に記載の方法で、調製をすることができる。また、Quantum Solutions社製の量子ドットを分散溶液にして使用することができる。さらに、特開2020-170710号公報に記載のペロブスカイト量子ドット材料を好適に使用できる。
【0135】
発光層203に含まれるペロブスカイト型量子ドットは、良好な発光特性が得られるように、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの炭化水素溶媒1mLに対し、好ましくは1mg以上であり、より好ましくは2mg以上であり、更に好ましくは4mg以上である。また,量子ドットの溶媒への分散限界の観点から、好ましくは,10mg以下、より好ましくは8mg以下である。
【0136】
発光層203の厚さは、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上、さらに好ましくは20nm以上、特に好ましくは25nm以上である。一方で、量子ドット層の膜の均一性を保つために、好ましくは50nm以下、より好ましくは45nm以下、さらに好ましくは40nm以下である。
【0137】
発光層203の形成方法は特に限定されず、任意の方法を用いることができるが、簡易に発光層203を形成できる点で、塗布法を用いることは好ましい。以下に限定されないが、例えば、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、リパースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等が挙げられる。
【0138】
(電極)
本発明の一実施形態に係る量子ドットLED発光素子200は一対の電極を有し、一対の電極のうち一方を上部電極と呼び、他方を下部電極と呼ぶ。量子ドットLED発光素子200が基材を有するか又は基材上に設けられている場合、基材により近い電極を下部電極と、基材からより遠い電極を上部電極と、それぞれ呼ぶことができる。また、透明電極を下部電極と、下部電極よりも透明性が低い電極を上部電極と、それぞれ呼ぶこともできる。
図2に示す量子ドットLED発光素子200は、下部電極201及び上部電極207を有している。正孔を受け入れる電極を陽極、電子を受け入れる電極を陰極と表記する。
【0139】
量子ドットLED発光素子200は、下部電極201が陽極であり上部電極207が陰極であってもよいし、下部電極201が陰極であり上部電極207が陽極であっても良い。
下部電極201は透明電極であり、450nm以上の可視光において、平均透過率が80%以上である材料からなる電極を採用することができる。そのような材料である限り、透明電極を形成する材料は特に限定されないが、その具体例としては、スズをドープしたインジウム酸化物(ITO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)、亜鉛をドープしたインジウム酸化物(IZO)、タングステンをドープしたインジウム酸化物(IWO)、亜鉛とアルミニウムとの酸化物(AZO)、酸化インジウム(In2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)、酸化スズ(SnO2)等が挙げられる。
上部電極207の金属電極を構成する材料としては特に限定されず、金、白金、銀、アルミニウム、ニッケル、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム、クロム、銅、コバルト等の金属又はその合金が挙げられる。
【0140】
金属電極の膜厚は、特に限定されず、透明性を優先する場合には通常10nm程度であればよく、10nm未満であってもよい。一方、透明性よりも耐久性等を優先する場合は40nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。
【0141】
(バッファ層)
バッファ層は、発光層203と一対の電極201、207の少なくとも一方との間に位置する層である。バッファ層は、例えば、発光層203から下部電極201又は上部電極207からのキャリア移動効率を向上させるために用いることができる。
【0142】
本発明の一実施形態において、バッファ層は本発明の共役高分子(I)を含有する。バッファ層が共役高分子(I)を含有して形成されることにより、前述の通りペロブスカイト型量子ドットを用いた量子ドットLED発光素子の輝度を向上させることができる。
【0143】
上述のように、量子ドットLED発光素子200は、下部電極201と発光層203との間にバッファ層202を有することができ、又は、上部電極207と発光層203との間にバッファ層205を有することができる。また、量子ドットLED発光素子200は、バッファ層202とバッファ層205との双方を有することもできる。ここで、下部電極201と発光層203との間に設けられるバッファ層202と、上部電極207と活性層203との間に設けられるバッファ層205とは、異なる材料で構成されるのが好ましい。すなわち、一方のバッファ層が共役高分子(I)を含有する層である一方、他方のバッファ層は共役高分子(I)以外の化合物で構成される層である。なお、上述の通り、共役高分子(I)を含有する層は、下部電極101と活性層103との間に位置していてもよいし、活性層103と上部電極107との間に位置していてもよい。
【0144】
陽極と発光層との間に設けられたバッファ層は正孔輸送層と呼ばれることがあり、陰極と発光層との間に設けられたバッファ層は電子輸送層と呼ばれることがある。一実施形態において、正孔輸送層は共役高分子(I)を含有する層である。
【0145】
共役高分子(I)以外の化合物で構成されるバッファ層に関しては、材料に特に限定はない。例えば、共役高分子(I)からなる層から発光層への正孔輸送をさらに上げることが可能な任意の材料からなる層をさらに加えることができる。具体的には、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の無機化合物、又は有機化合物など、が挙げられる。例えば、無機化合物としては、酸化銅、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化鉄、酸化モリブデン、酸化バナジウム又は酸化タングステン等の金属酸化物が挙げられる。また、有機化合物としては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミン又はポリアニリン等にドーパントがドーピングされた導電性ポリマー、スルホニル基を置換基に有するポリチオフェン誘導体、アリールアミン等の導電性有機化合物、ナフィオン、又はリチウムドーピングされたspiro-OMeTADなどが挙げられる。
【0146】
同様に、電子輸送層についても、陰極から,発光層への電子輸送効率を向上させることが可能な任意の材料からなる層をさらに用いることができる。具体的には、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の無機化合物、又は有機化合物などが挙げられる。例えば、無機化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウム等のアルカリ金属の塩、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム又は酸化インジウム等の金属酸化物が挙げられる。有機化合物としては、以下に限定されないが、例えば、Liq、TPBi、PBD、BCP、Bphen、BAlq、BPy-OXD、BP-OXO-Bpy、DBzA、TAZ、NTAZ、NBphen、Bpy-FOXD、OXD-7、3TPYMB、HNBphen、POPy3、BP4mPy、TmPyPB、BTB、BmPyPhB、Bepq2、DPPS、PY1、TpPyPB、TmPPPvTz、B3PYMPM、PFNBr、TPyQB、B4PYMPM、BPy-TP2、BIPO、Libpp、B4PYPPM、Tm3PyP26PyB、B3PYPPM、B4PYPPyPM、TP3PO、FPQ-Br、NaQ、DBimiBphen、TPM-TAZ、PFN-I、PFN-PF-I、B2PYMPM、LiF、MoO3、PBD、BCP、Bphen、SPPO1、TAZ、OXD-7、3TPYMB、BP4mPy、TmPyPB、TPyQB、TSPO1、PFN-DOF、PFNBr,フラーレン化合物等が挙げられる。
SAM層としては、2PACz、MeO-2PACz、Me-4PACz等が挙げられる。
【0147】
バッファ層の膜厚に特に限定はないが、好ましくは0.5nm以上、より好ましくは1nm以上、さらに好ましくは5nm以上である、一方、好ましくは1μm以下、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは100nm以下、特に好ましくは50nm以下である。バッファ層の膜厚が上記の範囲内にあることで、キャリアの移動効率が向上しやすくなり、発光効率が向上しうる。
【0148】
バッファ層の形成方法に制限はなく、バッファ層に用いる材料の特性に合わせて形成方法を選択することができる。例えば、バッファ層に用いる材料と溶媒を含有する塗布液を作製し、スピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法を用いることにより、バッファ層を形成することができる。この場合、クロロベンゼン、トルエンなどの芳香族溶媒、クロロホルムなどの塩素系溶媒が均一の膜を形成させるのに好ましい。また、低分子の場合は、空蒸着法等の乾式成膜法により、バッファ層を形成することもできる。
【0149】
(基材)
量子ドットLED発光素子200は、その他の層を有していてもよい。例えば、量子ドットLED発光素子200は、電極の仕事関数を調整する仕事関数チューニング層を、下部電極201とバッファ層202との間、又は上部電極207とバッファ層205との間に有していてもよい。また、量子ドットLED発光換素子200は、下部電極201と発光層203との間、又は上部電極207と活性層203との間に、水分等が発光層203に到達することを抑制する薄い絶縁体層を有していてもよい。ただし、一実施形態において、共役高分子(I)は堅牢な分子骨格を有しキャリア輸送性能が高いため、発光層203と下部電極201との間に共役高分子(I)を含有するバッファ層が存在する場合、量子ドットLED発光素子200は発光層203と下部電極201との間に仕事関数チューニング層又は絶縁体層を有さなくてもよいし、量子ドットLED発光素子200は発光層203と下部電極201との間にバッファ層以外の層を有さなくてもよい。また、発光層203と上部電極207との間に共役高分子(I)を含有するバッファ層が存在する場合にも、量子ドットLED発光素子200は発光層203と上部電極207との間に仕事関数チューニング層又は絶縁体層を有さなくてもよいし、量子ドットLED発光素子200は発光層203と上部電極207との間にバッファ層以外の層を有さなくてもよい。
【0150】
<薄膜太陽電池素子又は量子ドットLED発光素子の作製方法>
上述の方法に従って、薄膜太陽電池素子又は量子ドットLED発光素子を構成する各層を形成することにより、薄膜太陽電池素子又は量子ドットLED発光素子を作製することができる。薄膜太陽電池素子又は量子ドットLED発光素子を構成する各層の形成方法に特段の制限はなく、シートツゥーシート(万葉)方式、又はロールツゥーロール方式で形成することができる。
【0151】
なお、ロールツゥーロール方式とは、ロール状に巻かれたフレキシブルな基材を繰り出して、間欠的、或いは連続的に搬送しながら、巻き取りロールにより巻き取られるまでの間に加工を行う方式である。ロールツゥーロール方式によれば、kmオーダの長尺基板を一括処理することが可能であるため、ロールツゥーロール方式はシートツゥーシート方式に比べて量産化に適している。一方、ロールツゥーロール方式で各層を成膜しようとすると、その構造上、成膜面とロールとが接触することにより膜に傷がついたり、部分的に剥がれてしまったりする場合がある。
【0152】
ロールツゥーロール方式に用いることのできるロールの大きさは、ロールツゥーロール方式の製造装置で扱える限り特に限定されないが、外径の上限は、好ましくは5m以下、さらに好ましくは3m以下、より好ましくは1m以下である。一方、下限は好ましくは10cm以上、さらに好ましくは20cm以上、より好ましくは30cm以上である。ロール芯の外径の上限は、好ましくは4m以下、さらに好ましくは3m以下、より好ましくは
0.5m以下である。一方、下限は好ましくは1cm以上、さらに好ましくは3cm以上、より好ましくは5cm以上、さらに好ましくは10cm以上、特に好ましくは20cm以上である。これらの径が上記上限以下であることはロールの取り扱い性が高い点で好ましく、下限以上であることは各工程で成膜される層が曲げ応力により破壊される可能性が低くなる点で好ましい。ロールの幅の下限は、好ましくは5cm以上、さらに好ましくは10cm以上、より好ましくは20cm以上である。一方、上限は、好ましくは5m以下、さらに好ましくは3m以下、より好ましくは2m以下である。幅が上限以下であることはロールの取り扱い性が高い点で好ましく、下限以上であることは薄膜太陽電池素子又は量子ドットLED発光素子の大きさの自由度が高くなるため好ましい。
【0153】
また、上部電極107または207を積層した後に、薄膜太陽電池素子又は量子ドットLED発光素子を好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上、一方、好ましくは300℃以下、より好ましくは280℃以下、さらに好ましくは250℃以下の温度範囲において、加熱することが好ましい(この工程をアニーリング処理工程と称する場合がある)。アニーリング処理工程を50℃以上の温度で行うことは、薄膜太陽電池素子又は量子ドットLED発光素子の各層間の密着性、例えばバッファ層102または202と下部電極101または201、バッファ層102または202と活性層103または発光層203等の層間の密着性が向上する効果が得られるため、好ましい。各層間の密着性が向上することにより、光電変換素子の熱安定性や耐久性等が向上しうる。アニーリング処理工程の温度を300℃以下にすることは、薄膜太陽電池素子又は量子ドットLED発光素子に含まれる有機化合物が熱分解する可能性が低くなるため、好ましい。アニーリング処理工程においては、上記の温度範囲内において異なる温度を用いた段階的な加熱を行ってもよい。
【0154】
加熱時間としては、熱分解を抑えながら密着性を向上させるために、好ましくは1分以上、さらに好ましくは3分以上、一方、好ましくは180分以下、さらに好ましくは60分以下である。アニーリング処理工程は、太陽電池性能のパラメータである開放電圧、短絡電流及びフィルファクターが一定の値になったところで終了させることが好ましい。また、アニーリング処理工程は、構成材料の熱酸化を防ぐ上でも、常圧下、かつ不活性ガス雰囲気中で実施することが好ましい。加熱方法としては、ホットプレート等の熱源に光電変換素子を載せてもよいし、オーブン等の加熱雰囲気中に光電変換素子を入れてもよい。また、加熱はバッチ式で行っても連続方式で行ってもよい。
【0155】
<薄膜太陽電池>
薄膜太陽電池素子100の光電変換特性は次のようにして求めることができる。薄膜太陽電池素子にソーラシュミレーターでAM1.5G条件の光を照射強度100mW/cm2で照射して、電流-電圧特性を測定する。得られた電流-電圧曲線から、光電変換効率(PCE)、短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(FF)、直列抵抗、シャント抵抗といった光電変換特性を求めることができる。
【0156】
薄膜太陽電池素子の光電変換効率は、特段の制限はないが、好ましくは10%以上、さらに好ましくは13%以上、より好ましくは15%以上である。一方、上限に特段の制限はなく、高ければ高いほどよい。また、薄膜太陽電池素子のフィルファクターは、特段の制限はないが、好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.6以上、より好ましくは0.65以上である。一方、上限に特段の制限はなく、高ければ高いほどよい。
【実施例0157】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0158】
[製造例1]
((Benzofuran-2-ylphosphanediyl)bis(2、1-phenylene))bis(diphenylphosphane)(TP1):
【0159】
【0160】
n-BuLi(1.53mol/L、1.96mL、3.00mmol)をベンゾフラン(3.00mmol)のTHF(6.0mL)溶液に、-78℃で滴下した。1時間撹拌後、((phenoxyphosphanediyl)bis(2、1-phenylene))bis(diphenylphosphane)のTHF溶液(0.132mol/L、15mL、2.0mmol)を滴下した後、反応溶液を室温で12時間撹拌した。この反応溶液に水を加えクエンチした後、塩化メチレンで抽出した。得られた有機層を、飽和食塩水で洗い、硫酸ナトリウムで乾燥した。塩化メチレンを減圧下除去し、粗生成物を得た。これを塩化メチレン/メタノールの混合溶液で再結晶し、90%収率で目的物(TP1)を得た。
【0161】
1HNMR(500MHz、CDCl3):δ7.36-7.33(m、2H)、7.23-7.06(m、30H)、6.44-6.43(m、1H).
31PNMR(202MHz、CDCl3):δ-14.7(AB2m、J=154Hz、2P)、-37.6(AB2m、J=154Hz、1P).
【0162】
【0163】
オーブンで乾燥させたシュレンク管に、N,N-bis(4-(3-hexylthiophen-2-yl)phenyl)-2,4,6-trimethylaniline(0.20mmol)と、製造例1で得られたTP1(20mg、0.030mmol)を加え、3回アルゴン置換を繰りかえした。FeCl3・6H2OのTHF溶液(0.067mol/L、0.30mL、0.020mmol)を加え、続けて、AlMe3のトルエン溶液(2.0mol/L、0.30mL、0.60mmol)を室温下で加えた。さらに、diethyloxalate(54μL、0.40mmol)を加え、凍結脱気を3回繰り返した後、70℃で、24時間撹拌した。反応溶液に、THF2mLで希釈し、HClのジオキサン溶液(4mol/L、0.50mL)を加え、室温で1時間撹拌した。反応溶液をクロロホルム(10mL)で希釈し、水を加え。抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、フロリジルで濾過した。減圧下濃縮し、GPC(溶出溶媒:クロロホルム)で精製を行い、目的物(以下、「共役高分子(IA)」と称す。)を93%の収率で得た。
共役高分子(IA)の分子量の測定結果は以下の通りである。
Mn:16,000
Mw:32,300
Mw/Mn:2.01
【0164】
【0165】
N,N-bis(4-(3-hexylthiophen-2-yl)phenyl)-2、4、6-trimethylanilineの代わりに、N,N-bis(4-(3-hexylthiophen-2-yl)phenyl)-4-n-butylanilineを用いた以外は合成1と同様にして、目的物(以下、「共役高分子(IB)」と称す。)を91%収率で得た。
共役高分子(IB)の分子量の測定結果は以下の通りである。
Mn:15,200
Mw:33,200
Mw/Mn:2.18
これらはいずれも鉄触媒で合成したため、パラジウムは実質的に含まれず、塗布しこの高分子化合物を含有する層を形成した場合、実質的にパラジウムを含まない。市販のPTAAやPoly-TPDを用いた場合には、通常パラジウム触媒を使用して製造されているため、パラジウムを完全に除去することができず、100ppmを超える値になっている。
【0166】
以下の構造をもつ比較化合物は、Ossila社製PTAAおよびpoly-TPDを用いた。
【0167】
【0168】
[実施例1]
(活性層塗布液の調製)
モル比が、1:1となるようにヨウ化鉛(II)(1.01g)及びヨウ化メチルアンモニウム(CH3NH3I、350mg)をバイアルに量りとり、N,N-ジメチルホルムアミド(2mL)を加えた。得られた混合液を70℃で1時間加熱撹拌した。その後、得られた溶液をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルター(孔径0.2 μm)で濾過し、ペロブスカイト活性層塗布液を作製した。
【0169】
(薄膜太陽電池素子の作製)
パターニングされた酸化インジウムスズ(ITO)透明導電膜を備えるガラス基板(ジオマテック社製)を、洗浄剤(横浜油脂工業社製、セミクリーンM-LO、15mL)を用いて、超音波洗浄し、続けて超純水を用いた超音波洗浄、窒素ブローにより乾燥、及びUV-オゾン処理を行った。次に、酸化スズナノ水溶液を、室温で、上記ガラス基板上に4000rpmの速度でスピンコートすることにより、厚さ約30nmの電子取り出し層を形成した。得られた基板を120℃で20分間加熱した。次に、電子取り出し層が形成された基板をグローブボックスに移し、窒素雰囲気下100℃で10分間加熱処理した。冷却後、調製したペロブスカイト活性層塗布液(160μL)を4000rpmの速度で基板上にスピンコートし、約8秒後にクロロベンゼン(320μL)をさらに添加するAnti-solvent法によりペロブスカイトカイト活性層を作成した。さらに、ホットプレート上で100℃、10分間加熱して、厚さ約350nmの活性層を形成した。
【0170】
続いて、活性層上に、合成例1で得られた共役高分子(IA)8mgを1mLのクロロベンゼンに溶解させ、3000rpmの速度でスピンコートし約20nmの膜を形成し正孔取り出し層を形成した。
【0171】
次に、正孔取り出し層上に、抵抗加熱型真空蒸着法によりパターニングマスクを用いて厚さ約100nmの銀膜を蒸着させ、電極を形成した。
以上のようにして、ペロブスカイト太陽電池素子を作製した。
【0172】
[実施例2]
実施例1において、合成例1で得られた共役高分子(IA)のかわりに、合成例2で得られた共役高分子(IB)を用いた以外は実施例1と同様にしてペロブスカイト太陽電池素子を作製した。
【0173】
(量子ドット発光素子の作製)
[実施例3]
パターニングされた酸化インジウムスズ(ITO)透明導電膜を備えるガラス基板(ジオマテック社製)を、洗浄剤(横浜油脂工業社製、セミクリーンM-LO、15mL)を用いて、超音波洗浄し、続けて超純水を用いた超音波洗浄、窒素ブローにより乾燥、及びUV-オゾン処理を行った。次に、PEDOT:PSS AI4083を、上記ガラス基板上に4000rpmの速度でスピンコートすることにより、厚さ約40nmの層を形成した。
さらにこの層の上に、合成例2で得られた共役高分子(IB)8mgを1mLのクロロベンゼンに溶解させ、3000rpmの速度でスピンコートし約20nmの膜を形成し正孔輸送層を形成した。
【0174】
Quantum Solutions社製510nmペロブスカイトナノ量子ドット4mgを1mLのヘプタンに分散させ、得られた溶液をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルター(孔径0.2μm)で濾過し、活性層塗布液を作製した。
これを2000rpmの速度で正孔輸送層上にスピンコートし、活性層を作成した。さらに、ホットプレート上で110℃、5分間加熱して、厚さ約30nmの活性層を形成した。
続いて、活性層上に、Lumtec社製のTPBiを抵抗加熱型真空蒸着法によりパターニングマスクを用いて厚さ約30nm蒸着させ電子輸送層を形成した。
次に、電子輸送層上に、抵抗加熱型真空蒸着法によりパターニングマスクを用いて厚さ約100nmの銀膜を蒸着させ、電極を形成した。
以上のようにして、量子ドット発光素子を作製した。
【0175】
[実施例4]
実施例3において、合成例2で得られた共役高分子(IB)のかわりに、合成例1で得られた共役高分子(IA)を用いた以外は、実施例3と同様にして量子ドット発光素子を作製した。
【0176】
[比較例1]
実施例1において、合成例1で得られた共役高分子(IA)のかわりに、Ossila社製のPTAAを用いた以外は実施例1と同様にしてペロブスカイト太陽電池素子を作製した。
【0177】
[比較例2]
実施例3において、合成例2で得られた共役高分子(IB)のかわりに、Ossila社製のPoly-TPDを用いた以外は実施例3と同様にして量子ドット発光素子を作製した。
【0178】
[ペロブスカイト太陽電池素子の評価]
実施例1,2及び比較例1で得られたペロブスカイト太陽電池素子に1mm角のメタルマスクを付け、IT O電極と銀電極との間における電流-電圧特性を測定した。測定にはソースメーター(ケイスレー社製,2400型)を用い、照射光源としてはエアマス(AM)1.5G、放射照度100mW/cm2のソーラシミュレータを用いた。この測定結果から、開放電圧Voc(V)、短絡電流密度Jsc(mA/cm2)、形状因子FF、及び光電変換効率PCE(%)を算出した。ペロブスカイト太陽電池素子を作製した直後の測定結果に基づいて算出されたこれらの値を表1に示す。
【0179】
【0180】
[量子ドット発光素子の評価]
実施例3,4及び比較例2で得られた量子ドット発光素子についてI-V分光輝度特性を測定した。測定には、ソースメーター(ケイスレー社製,2400型)を用い、輝度は、コニカミノルタ社製分光放射輝度計CS-2000により最高輝度(cd/m2)測定した。
印加電圧は、それぞれ下記表2に示す通りとした。
本測定における最大輝度を表2に示す。
【0181】
【0182】
以上の結果から、本発明の共役高分子(I)を用いた本発明の薄膜太陽電池あるいは量子ドットLED発光素子は、素子性能に優れ、特に、高い光電変換効率と高い輝度を得ることができることが分かる。