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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069557
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】セラミックシートおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/447 20060101AFI20230511BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20230511BHJP
   B28B 11/00 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C04B35/447
C04B35/622
B28B11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181495
(22)【出願日】2021-11-05
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100209679
【弁理士】
【氏名又は名称】廣 昇
(72)【発明者】
【氏名】村上 康之
(72)【発明者】
【氏名】白井 孝
【テーマコード(参考)】
4G055
【Fターム(参考)】
4G055AA08
4G055AC09
4G055BA22
4G055BB05
(57)【要約】
【課題】触媒性能に優れたセラミックシートを提供する。
【解決手段】樹脂とアパタイト構造を有する無機化合物とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、前記一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記一次シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、二次シートを得るスライス工程と、前記二次シートを焼成する焼成工程と、を含むセラミックシートの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂とアパタイト構造を有する無機化合物とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、
前記一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記一次シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、
前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、二次シートを得るスライス工程と、
前記二次シートを焼成する焼成工程と、を含むセラミックシートの製造方法。
【請求項2】
前記焼成工程に先立って、300℃以上600℃以下の雰囲気で10分間以上前記二次シートを加熱して脱脂する脱脂工程を実施し、
前記焼成工程を、1000℃以上の雰囲気で実施する、請求項1に記載のセラミックシートの製造方法。
【請求項3】
前記アパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布において、粒子径が0.1μm以上0.5μm以下である粒子の割合が1.5%以上である、請求項1または2に記載のセラミックシートの製造方法。
【請求項4】
前記アパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布において、粒子径が0.5μm超15μm以下である粒子の割合が98.5%以下である、請求項1~3のいずれかに記載のセラミックシートの製造方法。
【請求項5】
前記アパタイト構造を有する無機化合物の体積平均粒子径が0.1μm以上20μm以下である、請求項1~4のいずれかに記載のセラミックシートの製造方法。
【請求項6】
前記一次シート中における前記アパタイト構造を有する無機化合物の体積分率が、前記樹脂および前記アパタイト構造を有する無機化合物の合計体積を基準として、50体積%以上75体積%以下である、請求項1~5のいずれかに記載のセラミックシートの製造方法。
【請求項7】
前記アパタイト構造を有する無機化合物が水酸アパタイトを含有する、請求項1~6のいずれかに記載のセラミックシートの製造方法。
【請求項8】
アパタイト構造を有する無機化合物を含むセラミックシートであって、
下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たす、セラミックシート。
(1)前記セラミックシートの表面のX線回折における(300)面の回折強度に対する(002)面の回折強度の比I(002)/I(300)が0.15以上である。
(2)前記セラミックシートのラマンスペクトルが、955cm-1以上975cm-1以下の範囲にピークを有する。
【請求項9】
前記アパタイト構造を有する無機化合物を含有する条片が並列接合されてなる、請求項8に記載のセラミックシート。
【請求項10】
空隙率が0.5%以上3.5%以下である、請求項8または9に記載のセラミックシート。
【請求項11】
前記アパタイト構造を有する無機化合物が水酸アパタイトを含有する、請求項8~10のいずれかに記載のセラミックシート。
【請求項12】
下記(3)を更に満たす、請求項8~11のいずれかに記載のセラミックシート。
(3)前記セラミックシートのラマンスペクトルが、940cm-1以上955cm-1未満の範囲にピークを有しない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックシートおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックシートは、従来から幅広い用途に使用されてきた。セラミックシートは、その構造を制御することで、様々な属性を向上させうることが知られている。例えば、特許文献1では、水酸アパタイト粉末、分散剤、水、架橋剤、重合性樹脂、重合開始剤等を含む泡沫状スラリーを調製した後、乾燥および焼成することで、触媒性能を有する多孔体をセラミックシートとして製造することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6192090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術の方法により製造されるセラミックシートは、触媒性能に改善の余地があった。
そこで、本発明は、触媒性能に優れたセラミックシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、樹脂とアパタイト構造を有する無機化合物とを含む組成物をシート状に成形して得た一次シートを、厚み方向に複数枚積層して積層体を得て、かかる積層体をスライスして二次シートとし、かかる二次シートを焼成することにより、優れた触媒性能を発揮し得るセラミックシートが得られることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のセラミックシートの製造方法は、樹脂とアパタイト構造を有する無機化合物とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、前記一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、前記一次シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、前記積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、二次シートを得るスライス工程と、前記二次シートを焼成する焼成工程とを含むことを特徴とする。本発明のセラミックシートの製造方法によれば、触媒性能を発揮し得るセラミックシートを効率的に提供することができる。
【0007】
ここで、本発明のセラミックシートの製造方法は、前記焼成工程に先立って、300℃以上600℃以下の雰囲気で10分間以上前記二次シートを加熱して脱脂する脱脂工程を実施し、前記焼成工程を、1000℃以上の雰囲気で実施することが好ましい。焼成工程に先立って上記所定の脱脂工程を実施すると共に、焼成工程時の雰囲気の温度を上記所定値以上に調整すれば、条片同士が良好に接着されて、高品質なセラミックシートを製造することができる。
なお、脱脂工程および焼成工程における上記温度は、1atmにおける温度である。
【0008】
また、本発明のセラミックシートの製造方法は、前記アパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布において、粒子径が0.1μm以上0.5μm以下である粒子の割合が1.5%以上であることが好ましい。アパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布において、粒子径が0.1μm以上0.5μm以下である粒子の割合が上記所定値以上であれば、条片同士が良好に接着されて、高品質であり、且つ、触媒性能に更に優れたセラミックシートを製造することができる。
【0009】
さらに、本発明のセラミックシートの製造方法は、前記アパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布において、粒子径が0.5μm超15μm以下である粒子の割合が98.5%以下であることが好ましい。アパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布において、粒子径が0.5μm超15μm以下である粒子の割合が上記所定値以下であれば、条片同士が良好に接着されて、高品質であり、且つ、触媒性能に更に優れたセラミックシートを製造することができる。
【0010】
また、本発明のセラミックシートの製造方法は、前記アパタイト構造を有する無機化合物の体積平均粒子径が0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。アパタイト構造を有する無機化合物の体積平均粒子径が上記所定の範囲内であれば、条片同士が良好に接着されて、高品質であり、且つ、触媒性能に更に優れたセラミックシートを製造することができる。
なお、アパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布および体積平均粒子径は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0011】
また、本発明のセラミックシートの製造方法は、前記一次シート中における前記アパタイト構造を有する無機化合物の体積分率が、前記樹脂および前記アパタイト構造を有する無機化合物の合計体積を基準として、50体積%以上75体積%以下であることが好ましい。一次シート中における前記アパタイト構造を有する無機化合物の体積分率が上記所定の範囲内であれば、条片同士の接着性を十分に高く確保しつつ、触媒性能に更に優れたセラミックシートを製造することができる。
【0012】
さらに、本発明のセラミックシートの製造方法は、前記アパタイト構造を有する無機化合物が水酸アパタイトを含有することが好ましい。アパタイト構造を有する無機化合物として水酸アパタイトを用いれば、触媒性能に更に優れたセラミックシートを製造することができる。
【0013】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のセラミックシートは、アパタイト構造を有する無機化合物を含むセラミックシートであって、下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たすことを特徴とする。
(1)前記セラミックシートの表面のX線回折における(300)面の回折強度に対する(002)面の回折強度の比I(002)/I(300)が0.15以上である。
(2)前記セラミックシートのラマンスペクトルが、955cm-1以上975cm-1以下の範囲にピークを有する。
このように、アパタイト構造を有する無機化合物を含むセラミックシートが、X線回折およびラマンスペクトルの少なくとも一方について上記所定の条件を満たせば、優れた触媒性能を発揮することができる。
なお、セラミックシートの表面のX線回折における(300)面の回折強度に対する(002)面の回折強度の比I(002)/I(300)、および、セラミックシートのラマンスペクトルは、本明細書の実施例に記載の方法に用いて測定することができる。
【0014】
ここで、本発明のセラミックシートは、例えば、前記アパタイト構造を有する無機化合物を含有する条片が並列接合されてなる。
【0015】
また、本発明のセラミックシートは、空隙率が0.5%以上3.5%以下であることが好ましい。セラミックシートの空隙率が上記所定の範囲内であれば、セラミックシートの触媒性能を更に向上させることができる。
なお、セラミックシートの空隙率は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0016】
さらに、本発明のセラミックシートは、前記アパタイト構造を有する無機化合物が水酸アパタイトを含有することが好ましい。アパタイト構造を有する無機化合物として水酸アパタイトを用いれば、セラミックシートの触媒性能を更に向上させることができる。
【0017】
また、本発明のセラミックシートは、下記(3)を更に満たすことが好ましい。
(3)前記セラミックシートのラマンスペクトルが、940cm-1以上955cm-1未満の範囲にピークを有しない。
セラミックシートのラマンスペクトルが上記所定の範囲にピークを有しなければ、セラミックシートの触媒性能を更に向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、触媒性能に優れたセラミックシートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
(セラミックシート)
本発明のセラミックシートは、アパタイト構造を有する無機化合物を含むセラミックシートであり、X線回折およびラマンスペクトルの少なくとも一方について所定の条件を満たす。具体的には、本発明のセラミックシートは、下記(1)および(2)の少なくとも一方を満たすことを特徴とする。
(1)セラミックシートの表面のX線回折における(300)面の回折強度に対する(002)面の回折強度の比I(002)/I(300)が0.15以上である。
(2)セラミックシートのラマンスペクトルが、955cm-1以上975cm-1以下の範囲にピークを有する。
このように、アパタイト構造を有する無機化合物を含むセラミックシートは、(1)表面のX線回折における回折強度の比I(002)/I(300)が所定値以上であること、および、(2)ラマンスペクトルが、所定の範囲にピークを有すること、の少なくとも一方の条件を満たすことにより、優れた触媒性能を発揮することができる。
【0021】
ここで、本発明のセラミックシートは、上記(1)および(2)の少なくとも一方を満たしていればよいが、上記(1)および(2)の双方を満たしていることが好ましい。本発明のセラミックシートは、上記(1)および(2)の双方を満たしていれば、更に優れた触媒性能を発揮することができる。
【0022】
そして、本発明のセラミックシートが少なくとも上記(1)を満たしている場合、セラミックシートの表面のX線回折における(300)面の回折強度に対する(002)面の回折強度の比I(002)/I(300)は、0.15以上であることが必要であり、0.2以上であることが好ましく、0.23以上であることがより好ましく、0.26以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが一層好ましく、0.33以上であることがより一層好ましく、0.36以上であることが特に好ましい。セラミックシートの表面のX線回折における回折強度の比I(002)/I(300)が上記下限以上であると、アパタイト構造を有する無機化合物のC軸がシート表面に配向することから、セラミックシートは優れた触媒性能を発揮することができる。
なお、セラミックシートの表面のX線回折における(300)面の回折強度に対する(002)面の回折強度の比I(002)/I(300)の上限は、特に限定されないが、例えば、0.6以下である。
なお、セラミックシートの表面のX線回折における(300)面の回折強度に対する(002)面の回折強度の比I(002)/I(300)は、後述するセラミックシートの製造方法における各工程(特に、積層工程およびスライス工程)の実施の有無、使用する樹脂およびアパタイト構造を有する無機化合物の各々の体積分率、並びに、アパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布および体積平均粒子径などによって制御することができるが、特に回折強度の比I(002)/I(300)を上述した所定の範囲内に調整する観点から、積層工程およびスライス工程を行うことで焼成前の二次シート中のアパタイト構造を有する無機化合物の配向方向を垂直方向(即ち、二次シートの厚み方向)に揃えることがより効果的である。
【0023】
また、本発明のセラミックシートが少なくとも上記(2)を満たしている場合、セラミックシート中のアパタイト構造を有する無機化合物のC軸がシート表面に配向することから、セラミックシートは優れた触媒性能を発揮することができる。
【0024】
また、本発明のセラミックシートは、上記(1)および(2)の少なくとも一方に加えて、下記(3)を満たすことが好ましい。
(3)セラミックシートのラマンスペクトルが、940cm-1以上955cm-1未満の範囲にピークを有しない。
このように、セラミックシートのラマンスペクトルが940cm-1以上955cm-1未満の範囲にピークを有していなければ、セラミックシート中においてアパタイト構造を有する無機化合物の結晶構造が良好に維持されているためと推察され、セラミックシートの触媒性能を更に向上させることができる。一方、セラミックシートのラマンスペクトルが940cm-1以上955cm-1未満の範囲にピークを有する場合、アパタイト構造を含む無機化合物の異性体が生成し得るため、セラミックシートの触媒性能が低下する。
【0025】
<アパタイト構造を有する無機化合物>
本発明のセラミックシートに含まれるアパタイト構造を有する無機化合物は、六方晶系に分類される結晶構造を有するリン酸塩鉱物であり、燐灰石と称することもある。
アパタイト構造を有する無機化合物としては、特に限定されないが、例えば、式(I):Ca(PO4y2x-3y〔式(I)中、xおよびyは、x>0、y>0、2x-3y>0を満たし、Mは、F、Cl等のハロゲン原子または水酸基(OH)を示す。〕で示される無機化合物を用いることができる。
アパタイト構造を有する無機化合物におけるCaとPとのモル比(Ca/P、即ち、上記式(I)中におけるxとyとの比x/y)は1.50以上2.50以下であることが好ましい。なお、CaとPとのモル比が2.50以下であれば、アパタイト構造を有する無機化合物が結晶構造を良好に維持できるため、セラミックシートの触媒性能を十分に高く確保することができる。
なお、アパタイト構造を有する無機化合物の比重は、特に限定されないが、例えば、3.1以上3.2以下である。
【0026】
そして、製造されるセラミックシートの触媒性能を更に向上させる観点から、アパタイト構造を有する無機化合物としては、上記式(I)中のMが水酸基(OH)である無機化合物、即ち、水酸アパタイトを用いることが好ましい。水酸アパタイト(「ヒドロキシアパタイト」、「HAP」等と称することもある。)は、一般式で、例えば、Ca10-z(PO46-z(HPO4z(OH)2、Ca10(PO46(OH)2、Ca5(PO43(OH)等でも示され得るが、製造方法の条件等の違いによって、CaとPとのモル比(Ca/P、即ち、上記式(I)中におけるxとyとの比x/y)が1.55以上2.5以下の範囲で異なる水酸アパタイトが生成し得ることが知られている。
【0027】
<空隙率>
なお、本発明のセラミックシートの空隙率は、0.5%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましく、1.5%以上であることが更に好ましく、2%以上であることが一層好ましく、3.5%以下であることが好ましく、3.0%以下であることがより好ましく、2.8%以下であることが更に好ましく、2.6%以下であることが一層好ましく、2.4%以下であることがより一層好ましい。セラミックシートの空隙率が上記下限以上であれば、セラミックシートにおける条片同士の接着性を十分に高く確保し、条片同士の剥離を抑制しつつ、セラミックシートの触媒性能を更に向上させることができる。一方、セラミックシートの空隙率が上記上限以下であれば、セラミックシートの触媒性能を十分に高く確保しつつ、セラミックシートにおける条片同士の接着性を向上させて、条片同士の剥離を更に抑制することができる。
セラミックシートの空隙率は、後述するセラミックシートの製造方法において用いる樹脂およびアパタイト構造を有する無機化合物の各々の体積分率、並びに、アパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布および体積平均粒子径、製造時の混錬の強さなどによって制御することができる。中でも、無機化合物の体積分率が与える影響が特に大きい。
【0028】
(セラミックシートの製造方法)
上述した特徴を有する本発明のセラミックシートは、本発明のセラミックシートの製造方法に従って効率的に製造することができる。本発明のセラミックシートの製造方法は、樹脂とアパタイト構造を有する無機化合物とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、一次シートを得る一次シート成形工程と、一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、一次シートを折畳または捲回して、積層体を得る積層体形成工程と、積層体を積層方向に対して45°以下の角度でスライスして、二次シートを得るスライス工程と、二次シートを焼成する焼成工程と、を含むことを特徴とする。さらに、本発明の製造方法は、焼成工程に先立って、300℃以上600℃以下の雰囲気で10分間以上二次シートを加熱して脱脂する脱脂工程を含むことが好ましい。以下、各工程について説明する。
【0029】
<一次シート成形工程>
一次シート成形工程では、樹脂とアパタイト構造を有する無機化合物とを含む組成物を加圧してシート状に成形し、一次シートを得る。
【0030】
[組成物]
ここで、組成物は、樹脂と、アパタイト構造を有する無機化合物と、任意の他の成分とを混合して調製することができる。
【0031】
-アパタイト構造を有する無機化合物-
組成物の調製に用いるアパタイト構造を有する無機化合物としては、本発明のセラミックシートに含まれ得る、上述したアパタイト構造を有する無機化合物を用いることができる。
上記組成物の調製に用いるアパタイト構造を有する無機化合物は、特に限定されないが、粒子状であることが好ましい。
そして、粒子状のアパタイト構造を有する無機化合物を用いる場合、粒子状のアパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布および体積平均粒子径などを後述する所望の範囲内に調整するため、組成物の調製に先立って、アパタイト構造を有する無機化合物に対して分散処理を行い、得られたアパタイト構造を有する無機化合物の分散体を組成物の調製に用いてもよい。
【0032】
ここで、組成物の調製に用いる(即ち、組成物中の)アパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布において、粒子径が0.1μm以上0.5μm以下である粒子の割合は、1.5%以上であることが好ましく、4%以上であることがより好ましく、8%以上であることが更に好ましく、12%以上であることが一層好ましく、16%以上であることがより一層好ましく、50%以下であることが好ましく、45%以下であることがより好ましく、40%以下であることが更に好ましく、35%以下であることが一層好ましく、30%以下であることがより一層好ましい。組成物中のアパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布において、粒子径が0.1μm以上0.5μm以下である粒子の割合が上記下限以上であれば、製造されるセラミックシートの触媒性能を更に向上させると共に、当該セラミックシートの条片同士を良好に接着させることができる。一方、組成物中のアパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布において、粒子径が0.1μm以上0.5μm以下である粒子の割合が上記上限以下であれば、製造されるセラミックシートの触媒性能を更に向上させることができる。
【0033】
また、組成物の調製に用いる(即ち、組成物中の)アパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布において、粒子径が0.5μm超15μm以下である粒子の割合は、50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましく、65%以上であることが一層好ましく、75%以上であることがより一層好ましく、98.5%以下であることが好ましく、96%以下であることがより好ましく、92%以下であることが更に好ましく、88%以下であることが一層好ましく、84%以下であることがより一層好ましい。組成物中のアパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布において、粒子径が0.5μm超15μm以下である粒子の割合が上記下限以上であれば、製造されるセラミックシートの触媒性能を更に向上させることができる。一方、組成物中のアパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布において、粒子径が0.5μm超15μm以下である粒子の割合が上記上限以下であれば、製造されるセラミックシートの触媒性能を更に向上させると共に、当該セラミックシートの条片同士を良好に接着させることができる。
【0034】
さらに、組成物の調製に用いる(即ち、組成物中の)アパタイト構造を有する無機化合物の体積平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましく、0.4μm以上であることが更に好ましく、0.6μm以上であることが一層好ましく、0.8μm以上であることがより一層好ましく、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることが更に好ましく、3μm以下であることが一層好ましく、1.5μm以下であることがより一層好ましい。一方、組成物中のアパタイト構造を有する無機化合物の体積平均粒子径が上記下限以上であれば、製造されるセラミックシートの触媒性能を更に向上させることができる。組成物中のアパタイト構造を有する無機化合物の体積平均粒子径が上記上限以下であれば、製造されるセラミックシートの触媒性能を更に向上させると共に、当該セラミックシートの条片同士を良好に接着させることができる。
【0035】
なお、組成物中のアパタイト構造を有する無機化合物の粒度分布および体積平均粒子径は、上述した分散処理の条件等によって制御することができる。
【0036】
-樹脂-
樹脂としては、特に限定されることなく、各種の樹脂を用いることができる。そのような樹脂としては、例えば、直鎖状、または分岐鎖状の高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなどのポリエチレン系結晶性樹脂、直鎖状、または分岐鎖状の高密度ポリプロピレン、低密度ポリプロピレンなどのポリプロピレン系結晶性樹脂、および、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリメチルブテン、ポリメチルヘキセン、ポリビニルナフタレン、ポリキシレン等からなる群で示されるポリオレフィン系結晶性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート、芳香族ポリエステル等からなる群で示されるポリエステル系結晶性樹脂、ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12、ポリアミドイミド等からなる群で示されるポリアミド系結晶性樹脂、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等からなる群で示されるフッ素系結晶性樹脂や、その他として、ロジン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、シンジオタクチックポリスチレン、ポリオキシメチレン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、セルロース、アセタール樹脂、塩素化ポリエーテル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、液晶ポリマー(芳香族多環縮合系ポリマー)等の結晶性樹脂;並びに、アクリロニトリルブタジエンゴム(「ニトリルゴム」、「NBR」等と称することもある。)、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体、シリコンゴム、フッ素ゴムなどのエラストマーが挙げられる。中でも、アクリロニトリルブタジエンゴムが好ましい。
【0037】
-他の成分-
なお、一次シート成形工程で用いる組成物は、任意で、上述した樹脂およびアパタイト構造を有する無機化合物以外の成分を更に含んでいてもよい。
【0038】
-組成物の調製-
なお、上述した成分の混合は、特に制限されることなく、ニーダー;ヘンシェルミキサー、ホバートミキサー、ハイスピードミキサー等のミキサー;二軸混練機;ロール;などの既知の混合装置を用いて行うことができる。また、混合は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒に予め樹脂を溶解または分散させて樹脂溶液として、アパタイト構造を有する無機化合物および任意の他の成分と混合してもよい。そして、混合時間は、例えば、5分以上60分以下とすることができる。また、混合温度は、例えば、5℃以上160℃以下とすることができる。
【0039】
[組成物の成形]
そして、上述のようにして調製した組成物は、任意に脱泡および解砕した後に、加圧してシート状に成形することができる。このように組成物を加圧成形したシート状のものを、一次シートとすることができる。なお、混合時に溶媒を用いている場合には、溶媒を除去してからシート状に成形することが好ましく、例えば、真空脱泡を用いて脱泡を行えば、脱泡時に溶媒の除去も同時に行うことができる。
【0040】
ここで、組成物は、圧力が負荷される成形方法であれば、特に制限されることなく、プレス成形、圧延成形または押し出し成形などの既知の成形方法を用いてシート状に成形することができる。
【0041】
[一次シート]
そして、組成物を加圧してシート状に成形してなる一次シートでは、アパタイト構造を有する無機化合物が主として面内方向に整列すると推察される。
【0042】
一次シートの厚みは、2.5mm以下であることが好ましく、2.0mm以下であることがより好ましく、1.5mm以下であることがさらに好ましい。一次シートの厚みが上記上限値以下であれば、後続する焼成工程における収縮によりシートにひびが入る、或いはシートが割れることを良好に抑制することができ、効率的にセラミックシートを形成することが可能となる。なお、一次シートの厚みの下限値は特に限定されないが、例えば、0.1mm以上でありうる。
【0043】
一次シート中のアパタイト構造を有する無機化合物の体積分率は、樹脂およびアパタイト構造を有する無機化合物の合計体積を100体積%として、50体積%以上であることが好ましく、53体積%以上であることがより好ましく、57体積%以上であることが更に好ましく、75体積%以下であることが好ましく、70体積%以下であることがより好ましく、65体積%以下であることが更に好ましい。一次シート中のアパタイト構造を有する無機化合物の体積分率が上記下限以上であれば、製造されるセラミックシートの触媒性能を更に向上させると共に、当該セラミックシートの条片同士を良好に接着させることができる。一方、一次シート中のアパタイト構造を有する無機化合物の体積分率が上記上限以下であれば、製造されるセラミックシートの触媒性能を更に向上させると共に、当該セラミックシートの条片同士の接着性を十分に高く確保することができる。
【0044】
一次シート中の樹脂の体積分率は、樹脂およびアパタイト構造を有する無機化合物の合計体積を100体積%として、25体積%以上であることが好ましく、30体積%以上であることがより好ましく、35体積%以上であることが更に好ましく、50体積%以下であることが好ましく、47体積%以下であることがより好ましく、43体積%以下であることが更に好ましい。一次シート中の樹脂の体積分率が上記下限以上であれば、製造されるセラミックシートの触媒性能を更に向上させると共に、当該セラミックシートの条片同士の接着性を十分に高く確保することができる。一方、一次シート中の樹脂の体積分率が上記上限以下であれば、製造されるセラミックシートの触媒性能を更に向上させると共に、当該セラミックシートの条片同士を良好に接着させることができる。
【0045】
<積層体形成工程>
積層体形成工程では、一次シートを厚み方向に複数枚積層して、或いは、一次シートを折畳または捲回して、積層体を得る。ここで、一次シートの折畳による積層体の形成は、特に制限されることなく、折畳機を用いて一次シートを一定幅で折り畳むことにより行うことができる。また、一次シートの捲回による積層体の形成は、特に制限されることなく、一次シートの短手方向または長手方向に平行な軸の回りに一次シートを捲き回すことにより行うことができる。また、一次シートの積層による積層体の形成は、特に制限されることなく、積層装置を用いて行うことができる。例えば、シート積層装置(日機装社製、製品名「ハイスタッカー」)を用いれば、層間に空気が入り込むことを抑えることができるため、良好な積層体を効率的に得ることができる。
【0046】
なお、積層工程では、得られた積層体を、加熱しながら、積層方向に加圧(二次加圧)することが好ましい。積層体を加熱しながら積層方向に加圧する二次加圧を行うことにより、積層された一次シート相互間の融着を促進することができる。
【0047】
ここで、積層体を積層方向に加圧する際の圧力は、0.05MPa以上0.50MPa以下とすることができる。また、積層体の加熱温度は、特に限定されないが、50℃以上170℃以下であることが好ましい。さらに、積層体の加熱時間は、例えば、10秒間以上30分間以下とすることができる。
【0048】
なお、一次シートを積層、折畳または捲回して得られる積層体では、アパタイト構造を有する無機化合物が積層方向に略直交する方向に配向していると推察される。例えば、アパタイト構造を有する無機化合物が粒子状である場合、当該アパタイト構造を有する無機化合物の粒子の長軸の方向は、積層方向に略直交していると推察される。
【0049】
<(iii)スライス工程>
スライス工程では、上記の工程にて得られた積層体を、積層方向に対して45°以下の角度でスライスし、二次シートを得る。ここで、積層体をスライスする方法としては、特に限定されることなく、例えば、マルチブレード法、レーザー加工法、ウォータージェット法、ナイフ加工法等が挙げられる。中でも、二次シートの厚みを均一にし易い点で、ナイフ加工法が好ましい。また、積層体をスライスする際の切断具としては、特に限定されることなく、スリットを有する平滑な盤面と、このスリット部より突出した刃部とを有するスライス部材(例えば、鋭利な刃を備えたカンナやスライサー)を用いることができる。
【0050】
なお、得られるセラミックシートの触媒性能を更に高める観点からは、積層体をスライスする角度は、積層方向に対して30°以下であることが好ましく、積層方向に対して15°以下であることがより好ましく、積層方向に対して略0°である(即ち、積層方向に沿う方向である)ことが好ましい。
【0051】
そして、このようにして得られた二次シートでは、厚み方向にアパタイト構造を有する無機化合物が良好に配向していると推察される。
【0052】
<脱脂工程>
任意で実施されうる脱脂工程では、二次シートを加熱して脱脂する。脱脂工程における雰囲気の温度の下限は、300℃以上であることが好ましく、350℃以上であることがより好ましく、400℃以上であることが更に好ましい。また、脱脂工程における雰囲気の温度の上限は、後述する焼成工程の雰囲気の温度より低い必要があり、600℃以下であることが好ましく、550℃以下であることがより好ましく、500℃以下であることが更に好ましい。脱脂工程における雰囲気の温度が上記下限以上であれば、二次シート中に含まれる樹脂を残すことなく脱脂工程を行うことができ、条片同士が良好に接着されて、高品質なセラミックシートを製造することができる。一方、脱脂工程における雰囲気の温度が上記上限以下であれば、二次シート中に含まれる樹脂を炭化することなく脱脂工程を行うことができ、条片同士が良好に接着されて、高品質なセラミックシートを製造することができる。
また、脱脂工程の加熱時間は、10分間以上が好ましく、1時間以上であることが好ましく、24時間(1日間)以上であることが好ましく、36時間(1.5日間)以上であることがより好ましく、48時間(2日間)以上であることが更に好ましく、240時間(10日間)以下であることが好ましく、120時間(5日間)以下であることがより好ましい。脱脂工程における加熱時間が上記下限以上であれば、二次シート中に含まれる樹脂を残すことなく脱脂工程を行うことができ、条片同士が良好に接着されて、高品質なセラミックシートを製造することができる。一方、脱脂工程における加熱時間が上記上限以下であれば、二次シート中に含まれる樹脂を炭化することなく脱脂工程を行うことができ、条片同士が良好に接着されて、高品質なセラミックシートを製造することができる。
【0053】
ここで、脱脂工程は不活性ガス(例えば、窒素ガスおよびアルゴンガスなど)の雰囲気下で、常圧(1atm)にて実施することが好ましい。
【0054】
<焼成工程>
焼成工程では、二次シートを焼成する。焼成工程における雰囲気は、600℃以上であることが好ましく、800℃以上であることがより好ましく、1000℃以上であることが更に好ましく、1100℃以上であることが一層好ましく、2000℃以下であることが好ましく、1800℃以下であることがより好ましく、1500℃以下であることが更に好ましく、1300℃以下であることが一層好ましく1250℃以下であることがより一層好ましい。焼成工程における雰囲気の温度が上記下限以上であれば、より緻密にアパタイト構造を有する無機化合物を焼結することができ、条片同士が良好に接着されて、高品質なセラミックシートを製造することができる。一方、焼成工程における雰囲気の温度が上記上限以下であれば、アパタイト構造を有する無機化合物の結晶構造が変化して好ましくない異性体等が生成することを抑制して、製造されるセラミックシートの触媒性能を十分に高く確保することができる。
また、焼成工程における焼成時間は、12時間(0.5日間)以上であることが好ましく、24時間(1日間)以上であることがより好ましく、48時間(2日間)以下であることが好ましく、36時間以下(1.5日間)であることがより好ましい。焼成時間が上記下限以上であれば、より緻密にアパタイト構造を有する無機化合物を焼結することができ、条片同士が良好に接着されて、高品質なセラミックシートを製造することができる。一方、焼成時間が上記上限以下であれば、アパタイト構造を有する無機化合物の結晶構造を良好に維持して、製造されるセラミックシートの触媒性能を十分に高く確保することができる。
【0055】
ここで、焼成工程は、脱脂工程と同様に、不活性ガス(例えば、窒素ガスおよびアルゴンガスなど)の雰囲気下で、常圧(1atm)にて実施することが好ましい。
【0056】
以上のような工程を含む本発明の製造方法によれば、本発明のセラミックシート、すなわち、アパタイト構造を有する無機化合物を含むセラミックシートであって、X線回折およびラマンスペクトルの少なくとも一方について上述した所定の条件を満たす、セラミックシートを効率的に製造することができる。
【0057】
上述した通り、本発明のセラミックシートの製造方法は焼成工程を含むため、本発明のセラミックシートの製造方法により製造されるセラミックシートは、アパタイト構造を有する無機化合物の焼結体からなる。したがって、本発明のセラミックシートの製造方法に用いたアパタイト構造を有する無機化合物、即ち、上述した組成物に含まれるアパタイト構造を有する無機化合物と、本発明のセラミックシートの製造方法により製造されたセラミックシートに含まれるアパタイト構造を有する無機化合物、即ち、アパタイト構造を有する無機化合物の焼結体とでは、形状等が異なり得る。例えば、本発明のセラミックシートの製造方法において、粒子状のアパタイト構造を有する無機化合物を用いた場合であっても、製造されるセラミックシートに含まれるアパタイト構造を有する無機化合物(アパタイト構造を有する無機化合物の焼結体)は粒子状以外の形状であり得る。
【0058】
また、上述した本発明のセラミックシートの製造方法を用いて製造されたセラミックシートは、アパタイト構造を有する無機化合物を含む条片が並列に接合してなる。例えば、本発明のセラミックシートの製造方法を用いて製造されたセラミックシートは、アパタイト構造を有する無機化合物の焼結体からなる複数の帯状の条片からなり、当該複数の帯状の条片が幅方向(即ち、長辺同士で)接合している。
【0059】
なお、本発明のセラミックシートの製造されるセラミックシートは、本発明の所望の効果が得られる範囲内で、アパタイト構造を有する無機化合物以外の成分(その他の成分)を少量含んでいてもよい。
例えば、本発明のセラミックシートの製造方法により製造された本発明のセラミックシートには、その他の成分として、アパタイト構造を有する無機化合物の結晶構造が変化して生成する異性体や、製造時に用いた樹脂等に由来する成分などが少量含まれ得る。
【実施例0060】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0061】
各実施例および各比較例において、各種の属性および評価は、それぞれ以下の方法に従って測定または評価した。
【0062】
<粒度分布および体積平均粒子径D50>
アパタイト構造を有する無機化合物として、分散処理をしていないハイドロキシアパタイト1g、または、各製造例で調製したハイドロキシアパタイト分散体1gを、溶媒としての水中に入れ、均一に分散させることで懸濁液を得た。次に、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製、型式「LA960」)を用いて、当該懸濁液に含まれるハイドロキシアパタイトの粒子径を測定した。そして、得られた粒子径を横軸とし、体積換算した粒子の頻度を縦軸とした粒度分布曲線を作成した。
得られた粒度分布曲線に基づいて、ハイドロキシアパタイトの粒度分布における粒子径が0.1μm以上0.5μm以下(以下、「第一領域」と称することがある。)である粒子の割合、および、0.5μm超15.0μm以下(以下、「第二領域」と称することがある。)である粒子の割合をそれぞれ算出した。
また、得られた粒度分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径(D50)を求め、ハイドロキシアパタイトの体積平均粒子径の値とした。
【0063】
<空隙率>
得られたセラミックシートに関して、自動比重計(東洋精機社製、製品名「DENSIMETER-H」)を用いて比重を測定した。得られた比重の実測値を用いて、セラミックシートの空隙率を下記式により算出した。
空隙率=1-{(比重の実測値)÷(理論比重)}[%]
なお、上記式中、理論比重としては、ハイドロキシアパタイトの比重の値(=3.2)を用いた。
【0064】
<X線回折>
セラミックシートの表面のX線回折は、PANalytical製「X’ Pert PRO MPD」を用いて行った。得られたピークの中から、(002)面に相当する2Θ=25.88度のピーク高さ(回折強度)、および、(300)面に相当する2Θ=32.90度のピーク高さ(回折強度)を用いて、(300)面の回折強度に対する(002)面の回折強度の比I(002)/I(300)の値を算出した。
【0065】
<ラマンピーク>
顕微レーザラマン分光光度計(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製Nicolet Almega XR)を使用し、セラミックシートを計測した。そして、得られたラマンスペクトルについて、940cm-1以上955cm-1未満の範囲内で観察されるピークの有無、および、955cm-1以上975cm-1以下の範囲内で観察されるピークの有無を確認した。
【0066】
<条片の分離>
得られたセラミックシートを目視にて確認し、下記の基準に従って、条片の分離を評価した。なお、セラミックシートの製造方法における焼成工程の際、二次シートの焼成収縮が大きい場合、条片同士が剥離する不具合が生じる。セラミックシートにおける条片同士の剥離が少ないほど、セラミックシートは高品質である。
A:条片が剥がれることなく、セラミックシートが一枚のシートとして維持されている。
B:条片の剥離が1~2か所で生じ、セラミックシートが2~3枚のパーツに分離している。
C:条片の剥離が3か所以上あり、セラミックシートが4枚以上のパーツに分離している。
【0067】
<触媒性能>
得られたセラミックシートを用いて、黒鉛の導入されたゴムシートを一定条件で焼成し、焼成後における有機物の含有割合が少ないほど効果的に有機物の除去が進み、当該セラミックシートが触媒として良好に機能していると判断した。具体的には、下記の方法に従って、セラミックシートの触媒性能を評価した。
常温常圧下で液体のニトリルゴム(NBR)(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol 1312」)210部と、常温常圧下で固体のニトリルゴム(NBR)(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol 3350」)90部と、粒子状炭素材料としての鱗片状黒鉛(日本黒鉛工業株式会社製、商品名「UP20α」、体積平均粒子径:20μm、アスペクト比=10)820部(使用した樹脂300体積部に対して364体積部に相当する量)とを加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。得られた混錬物を等速ロールにて厚さ1mmに延伸したゴムシートを作製し、それを直径2cmの円形に打ち抜いたものを試験体とした。
得られた試験体を各実施例で作製したセラミックシートにて上下から挟み、窒素雰囲気下300℃にて4時間焼成し、焼成サンプルを得た。
得られた焼成サンプルに対して、酸素雰囲気下、30~1000℃の温度範囲において、10℃/分の昇温速度により熱重量測定(TGA測定)を行った。始点から600℃における重量の減少割合〔=(始点から600℃までの重量の減少量/測定開始時の焼成サンプルの重量)×100〕[%]を、焼成サンプル中の有機物の含有割合とし、下記の基準に従って評価した。この有機物の含有割合が少ないほど、セラミックシートは触媒性能が高いことを意味する。
A:樹脂由来成分が20%未満である
B:樹脂由来成分が20%以上25%未満である
C:樹脂由来成分が25%以上30%未満である
D:樹脂由来成分が30%以上である
【0068】
(製造例1)
500gの蒸留水と500gのハイドロキシアパタイト(HAP、太平化学産業株式会社製、製品名「HAP-200」、体積平均粒子径D50:8μm、第一領域の粒子の割合=1.5%、第二領域の粒子の割合=98.5%、CaとPとのモル比(Ca/P)=1.57、比重:3.2)とをガラス容器に入れ、そこに1000gのガラスビーズ(粒子径=1.0mm)を入れたものを作製した。その後、ガラス容器ごとビーズ分散機(浅田鉄工株式会社製、製品名「ペイントシェイカー」、振動数=643rpm)にて3分間分散処理を行った。
得られたスラリーを濾過し、蒸留水を留去したものをハイドロキシアパタイト分散体(1)とした。得られたハイドロキシアパタイト分散体(1)の体積平均粒子径D50は2μm、第一領域の粒子の割合は6.3%、第二領域の粒子の割合は93.7%であった。
【0069】
(製造例2)
製造例1における分散時間を3分間から5分間に変更したこと以外は、製造例1と同様の操作を行い、ハイドロキシアパタイト分散体(2)を得た。得られたハイドロキシアパタイト分散体(2)の体積平均粒子径D50は1μm、第一領域の粒子の割合は20.7%、第二領域の粒子の割合は79.3%であった。
【0070】
(実施例1)
<一次シート成形工程>
<<組成物の調製>>
樹脂としての、常温常圧下で液体のニトリルゴム(NBR)(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol 1312」)70部および常温常圧下で固体のニトリルゴム(NBR)(日本ゼオン株式会社製、商品名「Nipol 3350」)30部と、セラミック材料としての、分散処理をしていないハイドロキシアパタイト(HAP、太平化学産業株式会社製、製品名「HAP-200」、体積平均粒子径D50:8μm、第一領域の粒子の割合=1.5%、第二領域の粒子の割合=98.5%)390部とを加圧ニーダー(日本スピンドル製)を用いて、温度150℃にて20分間撹拌混合した。
【0071】
<<一次シートの成形>>
次いで、得られた組成物50gを、サンドブラスト処理を施した厚み50μmのPETフィルム(保護フィルム)で挟み、ロール間隙1000μm、ロール温度50℃、ロール線圧50kg/cm、ロール速度1m/分の条件にて圧延成形(一次加圧)し、厚み1mmの一次シートを得た。
【0072】
<積層体形成工程>
続いて、上記で得られた一次シートを縦150mm×横150mm×厚み0.8mmに裁断し、一次シートの厚み方向に188枚積層し、更に、温度120℃、圧力0.1MPaで3分間、積層方向にプレス(二次加圧)することにより、高さ約150mmの積層体を得た。
【0073】
<スライス工程>
その後、二次加圧された積層体の積層側面を0.3MPaの圧力で押し付けながら、木工用スライサー(丸仲鐵工所社製、商品名「超仕上げかんな盤スーパーメカS」)を用いて、積層方向に対して0度の角度で(換言すれば、積層された一次シートの主面の法線方向に)スライスすることにより、縦150mm×横150mm×厚み0.30mmの2次シートを得た。
【0074】
<脱脂工程~焼成工程>
その後、得られた二次シートを常圧の窒素雰囲気下にて400℃で3日間加熱して、脱脂工程を行い、樹脂成分を燃焼させ(脱脂工程)、続いて、同雰囲気下で温度を10℃/分で1150℃まで昇温して1日間焼成を行った(焼成工程)。
得られたセラミックシートを用いて、各種の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
(実施例2)
実施例1の一次シート成形工程において、組成物の調製の際のハイドロキシアパタイトの添加量を390部から480部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、セラミックシートを製造し、各種の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例3)
実施例2の一次シート成形工程において、組成物の調製の際に、分散処理をしていないハイドロキシアパタイト480部に代えて、製造例1で調製したハイドロキシアパタイト分散体(1)480部を添加したこと以外は、実施例2と同様にして、セラミックシートを製造し、各種の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例4)
実施例2の一次シート成形工程において、組成物の調製の際に、分散処理をしていないハイドロキシアパタイト480部に代えて、製造例2で調製したハイドロキシアパタイト分散体(2)480部を添加したこと以外は、実施例2と同様にして、セラミックシートを製造し、各種の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例5)
実施例2の焼成工程において、焼成温度を1150℃から1350℃に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、セラミックシートを製造し、各種の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例6)
実施例2のスライス工程で得られた二次シートに対して、脱脂工程を行わずに焼成工程を行ったこと以外は、実施例2と同様にして、セラミックシートを製造し、各種の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
(比較例1)
実施例1の一次シート成形工程で得られた一次シートに対して、積層体形成工程およびスライス工程を行わず、そのまま脱脂工程および焼成工程を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、セラミックシートを製造し、各種の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
表1より、樹脂とアパタイト構造を有する無機化合物とを含む組成物を用いて一次シートを得る工程(一次シート成形工程)、一次シートを積層等して積層体を形成する工程(積層体形成工程)、積層体をスライスして二次シートを得る工程(スライス工程)、および、二次シートを焼成する工程(焼成工程)を経て製造された実施例1~6のセラミックシートは、X線回折およびラマンスペクトルの少なくとも一方について所定の条件を満たすので、優れた触媒性能を発揮することができることが分かる。
一方、積層体形成工程およびスライス工程を経ずに製造された比較例1のセラミックシートは、X線回折およびラマンスペクトルのいずれについても所定の条件を満たさず、触媒性能に劣ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、触媒性能に優れたセラミックシートを提供することができる。